説明

変速指示装置

【課題】運転者に煩わしさを感じさせることを低減することができる変速指示装置を提供する。
【解決手段】EFI−ECUは、車両の走行状態を取得し(ステップS11)、燃費を向上するための目標変速段を算出する(ステップS12)。また、EFI−ECU13は、現在の変速段を取得する(ステップS13)。次に、EFI−ECU13は、現在の変速段と目標変速段とが異なっている場合には、変速要求が発生していると判断(ステップS14でYES)する。そして、EFI−ECU13は、AI制御の実行中であり(ステップS15でYES)、ステップS12において算出した目標変速段が、AI制御において禁止されている制限変速段であると判断した場合には(ステップS17でYES)、変速指示を非提示とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速指示装置に関し、より詳しくは手動変速が可能な変速機を搭載した車両の変速指示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、手動による変速を可能とする変速機を搭載した車両は、変速機に形成される変速段を運転者によりシフトするためのシフトレバーを備えており、運転者によるシフトレバーの操作に応じて変速されるようになっている。
【0003】
このような変速機を搭載した車両においては、変速段の選択や変速操作のタイミングにおいて個人差があるため、車両の走行状態に対して最適とされる変速段とは異なる変速段で走行している可能性がある。例えば、運転者が、最適とされる変速段よりも低い変速段で車両を走行させた場合には、エンジン回転数が不必要に上昇し、燃費の悪化に繋がることとなる。
【0004】
このような問題を解決するために、現在の変速段がエンジン負荷や車速などから求まる最適変速段と異なる場合には、最適変速段にシフトするよう運転者に指示する変速指示制御を実行する変速指示装置(Gear Shift Indicator、以下GSIという)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に記載のGSIは、車両の走行状態に応じて最適な変速段を算出する制御部と、コンビネーションメータ内に設置される表示部とを備えている。表示部は、運転者にシフトアップを指示するためのシフトアップランプおよびシフトダウンを指示するためのシフトダウンランプを有している。また、制御部は、自動変速機において変速段を設定する際に参照する公知の変速マップと同様の変速マップを有しており、エンジン負荷および車速に基づいて変速マップから求まる最適変速段と、現在の変速段とが異なっている場合に、最適変速段に変速するようシフトアップランプまたはシフトダウンランプを表示部に点灯させるようになっている。
【0006】
一方、自動変速機を備えた車両において、車両の走行状態に応じて所定の変速段への変速を制限することにより変速制御を最適化し、ドライバビリティの向上および運転操作の負担を軽減するAI(Artificial Intelligence)制御を実行する変速制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この特許文献2に記載された変速制御装置は、車両走行環境や運転操作などに基づいて変速制御を行う制御手段を備えており、例えば、コーナー走行時にアクセルが急閉操作された場合には、シフトアップを禁止して現在の変速段をホールドするようになっている。これにより、コーナー走行時に適切なエンジンブレーキが得られるとともに、再加速時にシフトダウンが発生しないため、短時間にアップダウン変速が行われる所謂ビジーシフトを回避できる。したがって、変速段が安定し、コーナー走行時の運転操作が容易になる。また、制御手段は、スロットル開度および車速などに基づいて、車両が登り坂あるいは下り坂を走行しているか否かを判定し、登り坂を走行していると判定した場合には常に適切な駆動力が得られるように不要なシフトアップを抑制する一方、下り坂を走行していると判定した場合には適切なブレーキ力が動力源により得られるよう自動的にシフトダウンするようになっている。
【0008】
これにより、特許文献2に開示された変速制御装置は、自動変速機を備えた車両において、車両の走行状態に応じた変速段の制限により変速制御を最適化するAI制御を実行することにより、運転者の望まない変速を防止し、運転操作の負担を軽減するようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−156420号公報
【特許文献2】特開2007−309475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この特許文献1に記載された従来のGSIは、手動変速時に変速指示制御を実行するようになっていた。これに対し、特許文献2に記載された変速制御装置は、一般に、車速が所定値以下である場合など特定の走行状況下を除いては手動変速時にAI制御を停止するようになっていた。したがって、従来の変速指示制御は、AI制御と同時に実行されることが想定されていないという問題があった。
【0011】
そのため、AI制御が手動変速時にも実行されるようになった場合には、変速指示制御とAI制御とが同時に実行されるので、AI制御の実行により所定の変速段への変速が制限されているにもかかわらず、GSIが当該変速段への変速を指示する可能性があり、運転者に煩わしさを感じさせる可能性があった。
【0012】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、手動により変速が可能な変速機を備えた車両において、運転者に煩わしさを感じさせることを低減することができる変速指示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る変速指示装置は、上記目的達成のため、手動変速が可能な変速機が搭載された車両に用いられ、運転者に変速指示を促す変速指示装置において、前記車両の走行状態に基づいて目標変速段を設定する目標変速段設定手段と、現在の変速段と前記目標変速段とが異なる場合に変速指示を提示する提示手段と、前記車両の走行状態に基づいて所定の変速段への移行を制限する制限手段と、を備え、前記提示手段は、前記目標変速段が前記制限手段により制限された変速段である場合には、変速指示の提示を制限することを特徴とする。
【0014】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、制限されている変速段への変速指示が提示手段により行われることを防止できるので、提示手段による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0015】
好ましくは、前記提示手段は、前記目標変速段および前記目標変速段を上限変速段とする変速レンジのうちいずれか一方を提示することを特徴とする。
【0016】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、手動変速により変速段がシフトされる場合および変速レンジがシフトされる場合のいずれの場合においても、制限手段により制限されている変速段あるいは当該変速段を上限変速段とする変速レンジへの変速指示が提示手段により行われることを防止できるので、提示手段による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0017】
好ましくは、前記提示手段は、前記目標変速段が前記制限手段により制限された変速段である場合には、変速指示を非提示とすることを特徴とする。
【0018】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、制限されている変速段への変速指示を非提示とすることができるので、提示手段による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0019】
好ましくは、前記提示手段は、前記目標変速段が前記制限手段により制限された変速段である場合には、所定時間の経過後に変速指示を提示することを特徴とする。
【0020】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、制限されている変速段への変速指示が提示手段により行われる頻度を低減できるので、提示手段による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0021】
好ましくは、前記目標変速段設定手段は、現在の変速段よりも燃費が低減される変速段を目標変速段として設定することを特徴とする。
【0022】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、燃費が向上される変速段への変速を運転者に促すことにより、車両の燃費を向上できるとともに、制限されている変速段への変速指示が提示手段により行われることを防止できるので、運転者に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0023】
好ましくは、前記制限手段は、前記車両が走行している路面の傾斜の度合いに基づいて制限される変速段を設定することを特徴とする。
【0024】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、例えば、山道など路面が傾斜している道路を車両が走行する際に、制限手段により変速段を制限することにより、アクセルペダルの開放と踏み込みのたびに変速段がシフトするビジーシフトを防止できる。また、このような走行状態においても、変速指示装置は、制限されている変速段への変速指示が提示手段により行われることを防止できるので、提示手段による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0025】
好ましくは、前記制限手段は、前記変速機に供給される作動油の油温に基づいて制限される変速段を設定することを特徴とする。
【0026】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、作動油の油温が高温になっている場合には、制限手段が低変速段への変速を制限するので、変速機を保護することができる。また、このような走行状態においても、変速指示装置は、制限されている変速段への変速指示が提示手段により行われることを防止できるので、提示手段による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0027】
好ましくは、前記車両は、前記車両の現在地および少なくとも前記現在地の前方の道路情報を表す信号を出力するナビゲーション装置を備え、前記制限手段は、前記ナビゲーション装置から入力した信号に基づいて制限される変速段を設定することを特徴とする。
【0028】
この構成により、本発明に係る変速指示装置は、ナビゲーション装置から入力される信号に基づいて変速段を制限し、車両の走行を最適化できるとともに、このような走行状態においても、制限されている変速段への変速指示が提示手段により行われることを防止できるので、提示手段による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、手動により変速が可能な変速機を備えた車両において、運転者に煩わしさを感じさせることを低減できる変速指示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る変速指示装置を搭載した車両を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の構成を示す骨子図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る自動変速機の作動表である。
【図4】シフトレバーの操作位置を説明するためのゲートパターンを示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る変速指示制御を示すフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る変速指示制御の別の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態に係る変速指示装置について、図1ないし図6を参照して説明する。まず、構成について説明する。
【0032】
なお、本実施の形態においては、自動変速機を搭載したFR(Front engine Rear drive)車両に本発明に係る変速指示装置を適用した場合について説明する。
【0033】
図1、2に示すように、車両1は、エンジン2と、エンジン2により出力された回転トルクを増大させるトルクコンバータ3と、トルクコンバータ3の出力軸の回転速度を変速して出力する変速機構4と、を備えており、変速機構4から出力される回転トルクは、図示しないディファレンシャルギアを介して駆動輪に伝達されるようになっている。
【0034】
エンジン2は、ガソリンあるいは軽油などの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関により構成されている。また、トルクコンバータ3および変速機構4は、自動変速機5を構成している。
【0035】
トルクコンバータ3は、エンジン2と変速機構4との間に配置されており、エンジン2に連結されたポンプ翼車41と、変速機構4の入力軸42に連結されたタービン翼車43と、一方向クラッチ44によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車45とを有している。ポンプ翼車41とタービン翼車43とは、流体を介して動力を伝達するようになっている。
【0036】
さらに、トルクコンバータ3は、ポンプ翼車41とタービン翼車43との間を直結するためのロックアップクラッチ46を備えており、車両1の高速走行時において、作動油によりポンプ翼車41とタービン翼車43とを機械的に直結することにより、エンジン2から変速機構4への動力の伝達効率を上げるようになっている。ここで、トルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ46を所定の滑り率でスリップさせるフレックスロックアップを実行するようにしてもよい。
【0037】
また、ポンプ翼車41には、変速機構4を変速制御するための油圧や、各部に潤滑油を供給するための油圧を発生する機械式のオイルポンプ47が設けられている。
【0038】
変速機構4は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置48と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置49および第3遊星歯車装置50と、を備えている。第1遊星歯車装置48のサンギヤS1は、クラッチC3を介して入力軸42に連結可能であるとともに、一方向クラッチF2およびブレーキB3を介してハウジング51に連結可能となっている。また、入力軸42の回転方向と逆方向への回転が阻止されるようになっている。
【0039】
第1遊星歯車装置48のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジング51に連結可能となっている。また、キャリアCA1は、ブレーキB1と並列に設けられた一方向クラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止されるようになっている。
【0040】
第1遊星歯車装置48のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置49のリングギヤR2と連結されており、ブレーキB2を介してハウジング51に連結可能となっている。第2遊星歯車装置49のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置50のサンギヤS3と連結されており、クラッチC4を介して入力軸42に連結可能となっている。また、サンギヤS2は、一方向クラッチF4およびクラッチC1を介して入力軸42に連結可能となっており、逆方向への回転が阻止されるようになっている。
【0041】
第2遊星歯車装置49のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置50のリングギヤR3と連結されており、クラッチC2を介して入力軸42に連結可能であるとともに、ブレーキB4を介してハウジング51に連結可能となっている。また、キャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられた一方向クラッチF3により、逆方向への回転が阻止されるようになっている。また、第3遊星歯車装置50のキャリアCA3は、出力軸52に連結されている。
【0042】
クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置により構成されている。また、クラッチCおよびブレーキBは、後述する油圧制御回路6のトランスミッションソレノイドS1〜S4、およびリニアソレノイドSLT、SLUの励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブの作動状態によって切換えられる油圧回路に応じて、係合状態および解放状態のいずれか一方の状態をとるようになっている。したがって、変速機構4は、図3に示すように、これらのクラッチCおよびブレーキBの係合状態および解放状態の組み合わせに応じた変速段をとるようになっている。本実施の形態に係る変速機構4は、1速〜6速により構成される6つの前進変速段および1つの後進変速段のうちいずれかの変速段をとるようになっている。
【0043】
車両1は、さらに、トルクコンバータ3によるトルクの増大比および変速機構4の変速段を油圧により制御するための油圧制御回路6を備えている。油圧制御回路6は、トランスミッションソレノイドS1〜S4、リニアソレノイドSLT、SLUおよび作動油の油温を測定するためのAT油温センサ32を有している。
【0044】
車両1は、さらに、エンジン2の回転数を測定するためのエンジン回転数センサ21と、エンジン2の吸入空気量を測定する吸入空気量センサ22と、エンジン2に吸入される空気の温度を測定する吸入空気温度センサ23と、スロットル弁31の開度を測定するためのスロットルセンサ24と、変速機構4の入力軸42の回転数を検出するための入力軸回転数センサ25と、変速機構4の出力軸52の回転数を検出するための出力軸回転数センサ26と、ブレーキペダルに対する踏力を測定するブレーキセンサ27と、を備えている。車両1は、さらにシフトレバー28と、シフトレバー28のポジションを検出する操作位置センサ29と、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ30と、操舵角センサ33と、を備えている。
【0045】
エンジン回転数センサ21は、図示しないクランクシャフトの回転に基づいて、エンジン2の回転数を計測し、エンジン回転数を表す信号を後述するEFI−ECU(Electronic Fuel Injection - Electronic Control Unit)13に出力するようになっている。
【0046】
スロットルセンサ24は、スロットル弁31のスロットル開度に応じた出力電圧が得られるホール素子により構成されており、スロットル開度を表す信号を後述するEFI−ECU13に出力するようになっている。入力軸回転数センサ25は、変速機構4の入力軸回転数を表す信号を後述するEFI−ECU13に出力するようになっている。
【0047】
出力軸回転数センサ26は、変速機構4の出力軸回転数を表す信号を後述するEFI−ECU13に出力するようになっている。操作位置センサ29は、運転者により操作されたシフトレバー28の操作位置を検出するようになっている。
【0048】
ブレーキセンサ27は、ブレーキペダルに対する運転者の操作踏力に応じたマスターシリンダ圧の変化あるいは操作ストロークを測定するようになっており、測定された踏力に応じたブレーキ踏力信号をEFI−ECU13に出力するようになっている。
【0049】
アクセル開度センサ30は、ホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されており、車両1に搭載されたアクセルペダルが運転者により操作されると、アクセルペダルの位置、すなわちアクセル開度を表す信号を、EFI−ECU13に出力するようになっている。
【0050】
操舵角センサ33は、ステアリングホイールに連結された操舵軸の操舵トルクを検出するようになっており、操舵トルクに応じた信号をEFI−ECU13に出力するようになっている。EFI−ECU13は、操舵角センサ33から入力された信号に基づいて、ステアリングホイールの左方向または右方向への操舵量を算出するようになっている。
【0051】
車両1は、さらに、後述する変速指示制御において変速要求が発生した場合に、運転者に対しシフトアップあるいはシフトダウンを指示する表示部35を備えている。表示部35は、シフトアップを指示する場合に点灯するシフトアップランプ36と、シフトダウンを指示する場合に点灯するシフトダウンランプ37を有している。シフトアップランプ36およびシフトダウンランプ37は、LEDにより構成されている。
【0052】
車両1は、さらに、エンジン2における燃料噴射および自動変速機5における変速を制御するための電子制御装置11を備えている。電子制御装置11は、上記の各センサから入力された車速およびスロットル開度などのデータ、ROMに記憶され変速線図を表す変速マップおよび変速制御を実行するためのプログラムなどに基づいて、エンジン2や自動変速機5などを制御するようになっている。
【0053】
電子制御装置11は、エンジン2を制御するEFI−ECU13と、自動変速機5を制御するECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)−ECU14とを備えている。なお、電子制御装置11は、車両1のブレーキを制御するブレーキECUなど図示しない複数のECUをさらに備えるようにしてもよい。
【0054】
本発明の変速指示装置を構成するEFI−ECU13は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力インターフェースを有しており、アクセルペダルの操作量に応じてエンジン2が制御されるよう、エンジン2に対してエンジン制御信号を出力するようになっている。
【0055】
また、EFI−ECU13は、エンジン回転数センサ21、吸入空気量センサ22、吸入空気温度センサ23、スロットルセンサ24、入力軸回転数センサ25、出力軸回転数センサ26、ブレーキセンサ27、操作位置センサ29およびAT油温センサ32と接続されており、これらのセンサからエンジン回転数、吸入空気量、吸入空気温度、スロットル開度、入力軸回転数、出力軸回転数、ブレーキ踏力、シフトレバー28の操作位置およびAT油温を表す信号をそれぞれ入力するようになっている。そして、EFI−ECU13は、これらのセンサから入力された情報や、ROMに記憶された変速線図を表す変速マップに基づいて、ECT−ECU14に対し変速を指示する信号を送信したり、後述するAI制御および変速指示制御を実行するようになっている。
【0056】
EFI−ECU13は、車両1の走行状態に応じて変速段を選択する自動変速モードと、手動操作に応じて変速段を選択する手動変速モードとを有するようになっている。ここで、車両1の走行状態とは、車両1の速度、スロットル開度、入力軸回転数およびAT油温などの状態を意味する。
【0057】
ECT−ECU14は、図示しないCPU、RAM、ROMおよび入出力インターフェースを有しており、EFI−ECU13からシフトすべき変速段を表す信号を取得したり、スロットルセンサ24、出力軸回転数センサ26、入力軸回転数センサ25、ブレーキセンサ27、操作位置センサ29およびAT油温センサ32からスロットル開度、出力軸回転数、入力軸回転数、ブレーキ踏力、シフトレバー28の操作位置および作動油温を表す信号をそれぞれ入力するようになっている。ECT−ECU14は、これらの入力した信号に基づいて、自動変速機5のトルクコンバータ3や変速段が制御されるよう油圧制御回路6を制御するようになっている。また、ECT−ECU14は、EFI−ECU13により実行されるAI制御の制御情報に基づいて変速段を制御するようになっている。また、ROMには、変速制御を実行するためのプログラムなどが記憶されている。
【0058】
シフトレバー28は、図4に示すように、車両1の後方から前方に向かって、ドライブレンジに対応するDポジション、中立レンジに対応するNポジション、後進レンジに対応するRポジション、駐車レンジに対応するPポジションを取るようになっており、ゲートパターンに従ってポジションがシフトされるようになっている。
【0059】
シフトレバー28は、さらに、手動変速モードにおいて自動変速機5の変速レンジをシフトするためのマニュアルポジションを表すSポジション、シフトアップを指示するためのプラスポジション(+ポジション)およびシフトダウンを指示するためのマイナスポジション(−ポジション)を取るようになっている。
【0060】
SポジションはDポジションの横に位置しており、シフトレバー28は、運転者によりDポジションから横に移動されると、図示しないばねにより、Sポジションに保持されるようになっている。
【0061】
EFI−ECU13は、シフトレバー28が+ポジションや−ポジションに移動されることにより、現在の変速レンジから一つ上あるいは一つ下の変速レンジにそれぞれ移行するシーケンシャルシフトを実現するようになっている。
【0062】
また、EFI−ECU13は、シフトレバー28が+ポジションあるいは−ポジションに移動されることによりシフトアップあるいはシフトダウンが指示されると、それぞれ変速レンジのアップあるいはダウンを行うレンジホールドを実行するようになっている。このレンジホールドにおいて、EFI−ECU13は、シフトレバー28により指示された変速レンジに対応する値を上限変速段とし、1速を下限変速段とする複数の変速段から、車速、スロットル開度および変速マップに基づいて最適な変速段を選択するようになっている。例えば、手動変速モードにおいて6レンジが指示されている場合には、EFI−ECU13は、変速段を1速から6速の間で選択し、4レンジが指示されている場合には、EFI−ECU13は、変速段を1速から4速の間で選択するようになっている。
【0063】
なお、EFI−ECU13は、レンジホールドに代えて、シフトレバー28が+ポジションあるいは−ポジションに移動されることにより、現在の変速段を一つ上あるいは一つ下の変速段にそれぞれ移行するギヤ段ホールドを実行してもよい。
【0064】
なお、以下の説明においては、EFI−ECU13が、レンジホールドを実行するとともに、AI制御により所定の変速段を制限する場合を例に説明するが、これに限定されず、AI制御により所定の変速レンジを制限するようにしてもよい。この場合、EFI−ECU13は、制限された変速段を含む変速レンジを制限された変速レンジとして設定するようにする。例えば、制限された変速段が5速および6速であるならば、制限される変速レンジは5レンジおよび6レンジとなる。
【0065】
また、手動変速モードにおいて、EFI−ECU13は、コンビネーションメータ内のシフトレンジインジケータに、シフトレバー28により指示された変速レンジの値を表示させるようになっている。
【0066】
EFI−ECU13は、シフトレバー28がDポジションに位置していることを操作位置センサ29から取得した場合には、自動変速モードに移行し、車速、スロットル開度および変速マップに基づき、油圧制御回路6を介して自動変速機5の変速段をシフトするようになっている。また、EFI−ECU13は、シフトレバー28がSポジションに位置していることを操作位置センサ29から取得した場合には、手動変速モードに移行するとともに、運転者により指示された変速レンジに応じて自動変速機5の変速段をシフトするようになっている。
【0067】
EFI−ECU13は、通常走行時に使用する通常走行用変速マップ、車両1の高負荷時に使用する高負荷状態用変速マップ、パワー走行時および雪道走行時に使用する変速マップなど、複数の変速マップをROMに記憶するようになっている。
【0068】
また、EFI−ECU13は、車両1の走行状態に応じて変速段を制限することにより、登坂路あるいは降坂路におけるドライバビリティの向上、エンジン2や自動変速機5の保護、暖機運転の促進などを実行するAI制御を実行するようになっている。
【0069】
このAI制御において、EFI−ECU13は、車両1が登坂路あるいは降坂路を走行していると判断した場合には、所定の変速段への変速を禁止するようになっている。
【0070】
具体的には、EFI−ECU13は、スロットルセンサ24および出力軸回転数センサ26より入力される信号に基づいて、車両1の走行状態および車両1が走行する路面の勾配状態を判断すると、予めROMに記憶されているシフトアップマップおよびシフトダウンマップを参照するようになっている。このシフトアップマップおよびシフトダウンマップは、車速および路面の勾配状態と、シフトアップおよびシフトダウンが禁止される変速段とをそれぞれ対応付けたものである。EFI−ECU13は、操作位置センサ29から入力される信号に基づき、シフトレバー28がDポジションにあると判断した場合には、変速機構4に形成される変速段がシフトアップマップおよびシフトダウンマップにより禁止されていない変速段となるようECT−ECU14を介して油圧制御回路6を制御するようになっている。また、EFI−ECU13は、シフトレバー28がSポジションにあると判断した場合には、シフトアップマップおよびシフトダウンマップにより禁止されている変速段を含まない変速レンジへのシフトアップあるいはシフトダウンのみを許可するようになっている。
【0071】
また、EFI−ECU13は、AI制御の実行中において、AT油温センサ32から入力される信号に基づいて、AT油温が予め定められた閾値を超えていると判断した場合には、低変速段へのシフトを制限したり、シフトアップおよびシフトダウンを通常時よりも低速側で実行するようになっている。この閾値は、作動油が高温になることに起因した油圧応答性や冷却性の低下を防止可能とする温度に設定されている。
【0072】
また、車両1は、ナビゲーション装置38を備えている。ナビゲーション装置38は、複数のGPS衛星から送信された信号をGPSアンテナ39を介して受信し車両1の現在地を特定すると、予め記憶している道路情報のうち車両1の前方の道路情報と車両1の現在地情報とをEFI−ECU13に送信するようになっている。EFI−ECU13は、AI制御の実行中において、これらの道路情報および現在地情報に基づいて、車両1前方の道路の曲率を算出し、この曲率が所定値より大きい場合には、上限変速段を制限したり、変速機構4に形成される変速段が高変速段から低変速段にシフトするようECT−ECU14に信号を送信するようになっている。
【0073】
また、EFI−ECU13は、AI制御の実行中において、操舵角センサ33あるいは車両1の横方向の加速度を検出する加速度センサに基づいて、車両1が旋回していると判断した場合には、旋回の度合いに応じて上限変速段を制限したり、変速機構4に形成される変速段が高変速段から低変速段にシフトするようECT−ECU14に信号を送信するようになっている。
【0074】
したがって、本実施の形態に係るEFI−ECU13は、本発明に係る制限手段を構成する。
【0075】
なお、EFI−ECU13は、シフトレバー28がDポジションにある場合のみならず、Sポジションに位置する場合にもAI制御を実行するようになっている。したがって、シフトレバー28が運転者により+ポジションや−ポジションに移動され、EFI−ECU13にシフト指示を表す信号が入力された場合に、EFI−ECU13は、シフト指示により移行すべき変速段または変速レンジがAI制御により制限されている場合には、運転者によるシフト指示を無効とし、現在の変速段または変速レンジを維持するようになっている。また、本発明において、所定の変速段あるいは所定の変速レンジへの移行を制限するとは、当該変速段あるいは変速レンジへのシフトを禁止することのみならず、所定時間の経過後など予め定められた条件が成立した場合に当該変速段あるいは変速レンジへのシフトを許可することも意味する。
【0076】
さらに、EFI−ECU13は、燃費を向上するために、車両1の走行状態に基づき、現在の変速段からシフトアップあるいはシフトダウンをするよう運転者に指示する変速指示制御を実行するようになっている。
【0077】
具体的には、EFI−ECU13は、出力軸回転数センサ26およびスロットルセンサ24から出力軸回転数およびスロットル開度を表す信号を取得すると、ROMに記憶されている変速マップを参照し、燃費を向上可能とする目標変速段を算出する。そして、EFI−ECU13は、現在の変速段と目標変速段とが異なっている場合には、運転者に対し変速指示を提示するようになっている。
【0078】
また、EFI−ECU13は、スロットルセンサ24から入力される信号がスロットル弁31の全閉状態を表しており、かつ、エンジン回転数センサ21から入力される信号が、エンジン回転数が復帰回転数以上であることを表している場合には、燃料噴射を停止する公知のフューエルカット制御を実行するようになっている。そして、EFI−ECU13は、変速指示制御において、フューエルカット制御が実行中であるか否かを参照するようになっており、フューエルカット制御の実行中においては、エンジン回転数が復帰回転数まで低下する時間を遅延させフューエルカット制御の実行時間を長引かせるために、運転者にシフトダウンを指示しエンジン回転数を上昇させるようになっている。
【0079】
EFI−ECU13は、フューエルカット制御の実行時間を長引かせるためのフューエルカット継続マップをROMに記憶している。このフューエルカット継続マップは、フューエルカット制御実行中の車両1の減速時において、エンジン回転数が復帰回転数以上に維持されるようシフトダウンを実行すべき車速と、シフトダウンにより変速機構4に形成される変速段とを対応付けたものである。復帰回転数は、EFI−ECU13がフューエルカット制御を終了しエンジン2への燃料供給を再開した際に、エンジンストールを発生させないためのエンジン回転数の下限値として定義されている。したがって、シフトダウンを実行すべき車速は、この復帰回転数を変速機構4のギヤ比やファイナルギヤのギヤ比などに基づいて車速に変換することにより定義される。
【0080】
EFI−ECU13は、出力軸回転数センサ26から入力された信号に基づき車速を算出し、この車速がフューエルカット継続マップに記載された車速まで低下したと判断した場合に、自動変速モードにおいては、ECT−ECU14を介して変速を実行するようになっており、手動変速モードにおいては、シフトダウンすべき変速段を目標変速段として設定するようになっている。
【0081】
したがって、本実施の形態に係るEFI−ECU13は、車両の走行状態に基づいて目標変速段を設定する目標変速段設定手段を構成する。
【0082】
そして、EFI−ECU13は、上記のように変速要求が発生した場合には、表示部35を制御して、シフトアップランプ36あるいはシフトダウンランプ37を点灯させ、運転者に対し変速指示を提示するようになっている。
【0083】
したがって、本実施の形態に係るEFI−ECU13は、現在の変速段と目標変速段とが異なる場合に変速指示を提示する提示手段を構成する。
【0084】
なお、EFI−ECU13は、表示部35による変速指示に代えて、音声信号など運転者が認識し得る方法によりシフトアップ指示あるいはシフトダウン指示を行うようにしてもよい。
【0085】
また、EFI−ECU13は、変速指示制御において算出された目標変速段が、AI制御において制限されている変速段であるならば、表示部35における変速指示を制限するようになっている。
【0086】
具体的には、EFI−ECU13は、変速指示制御の実行中において、AI制御の実行中であるか否かを判断し、AI制御の実行中であると判断した場合には、AI制御により制限されている変速段を表す情報を参照するようになっている。そして、EFI−ECU13は、変速指示制御において算出された目標変速段が、AI制御により制限されている変速段に含まれているならば、変速要求の発生にかかわらず表示部35における変速指示を非提示とするようになっている。
【0087】
次に、変速指示制御の動作について図5を参照して説明する。なお、以下に説明する処理は、予めEFI−ECU13のROMに記憶されているプログラムによって実現され、シフトレバー28がSポジションにあることを条件にCPUにより所定の時間間隔で実行される。
【0088】
図5に示すように、まず、EFI−ECU13は、車両1の走行状態を取得する(ステップS11)。本実施の形態においては、EFI−ECU13は、走行状態として出力軸回転数センサ26およびスロットルセンサ24から出力軸回転数およびスロットル開度を表す信号を取得するとともに、出力軸回転数センサ26から入力された信号に基づき車両1の車速を算出する。また、EFI−ECU13は、フューエルカット制御の実行中であるか否かを参照する。
【0089】
次に、EFI−ECU13は、ステップS11において取得した走行状態に基づいて、燃費を向上するための目標変速段を算出する(ステップS12)。具体的には、EFI−ECU13は、フューエルカット制御の実行中でない場合には、ROMに記憶されており、燃費を向上させるための目標変速段を表す変速マップを参照し、ステップS11において取得したスロットル開度および算出した車速から目標変速段を算出する。一方、EFI−ECU13は、フューエルカット制御の実行中であるならば、上述したフューエルカット継続マップを参照し、出力軸回転数センサ26から入力された信号に基づき算出される車速が、シフトダウンをすべき車速に低下しているならば、シフトダウンすべき変速段を目標変速段として設定する。
【0090】
次に、EFI−ECU13は、現在の変速段を取得する(ステップS13)。具体的には、EFI−ECU13は、入力軸回転数センサ25および出力軸回転数センサ26から変速機構4の入力軸回転数および出力軸回転数を表す信号をそれぞれ取得する。そして、これらの比と変速段とを対応付けたマップを参照し、変速機構4に形成されている現在の変速段を算出する。
【0091】
次に、EFI−ECU13は、変速要求が発生しているか否かを判断する(ステップS14)。具体的には、EFI−ECU13は、ステップS12において算出した目標変速段と、ステップS13において算出した現在の変速段とが異なっているか否かを判断する。そして、EFI−ECU13は、現在の変速段と目標変速段とが異なっている場合には、変速要求が発生していると判断し(ステップS14でYES)、ステップS15に移行する。一方、現在の変速段と目標変速段とが等しい場合には、変速要求が発生していないと判断し(ステップS14でNO)、RETURNに移行する。
【0092】
次に、EFI−ECU13は、AI制御の実行中であるか否かを判断する(ステップS15)。EFI−ECU13は、AI制御の実行中においては、AI制御の実行中を表すフラグを立てるようになっており、EFI−ECU13は、このフラグを参照することによりAI制御の実行中であるか否かを判断するようになっている。
【0093】
EFI−ECU13は、AI制御の実行中でないと判断した場合には(ステップS15でNO)、表示部35を制御して、シフトアップランプ36あるいはシフトダウンランプ37を点灯させることにより変速指示を提示する(ステップS16)。
【0094】
一方、EFI−ECU13は、AI制御の実行中であると判断した場合には(ステップS15でYES)、ステップS12において算出した目標変速段が、AI制御において禁止されている制限変速段であるか否かを判断する(ステップS17)。
【0095】
EFI−ECU13は、目標変速段がAI制御において禁止されている制限変速段でないと判断した場合には(ステップS17でNO)、ステップS16に移行し、上述のように変速指示を提示する。
【0096】
一方、EFI−ECU13は、目標変速段がAI制御において形成が禁止されている制限変速段であると判断した場合には(ステップS17でYES)、ステップS18に移行し、シフトアップランプ36およびシフトダウンランプ37を点灯させず、変速指示を非提示とする。
【0097】
以上のように、本実施の形態に係るEFI−ECU13は、制限されている変速段への変速指示が行われることを防止できるので、変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0098】
また、EFI−ECU13は、手動変速により変速段がシフトされる場合および変速レンジがシフトされる場合のいずれの場合においても、制限されている変速段あるいは当該変速段を上限変速段とする変速レンジへの変速指示が表示部35により行われることを防止できるので、表示部35による変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0099】
また、EFI−ECU13は、燃費が向上される変速段への変速を運転者に促すことにより、車両1の燃費を向上できるとともに、制限されている変速段への変速指示が行われることを防止できるので、運転者に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0100】
また、EFI−ECU13は、例えば、山道など路面が傾斜している道路を車両1が走行する際に、変速段を制限することにより、アクセルペダルの開放と踏み込みのたびに変速段がシフトするビジーシフトを防止できる。また、このような走行状態においてもEFI−ECU13は、制限されている変速段への変速指示が行われることを防止できるので、変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0101】
また、EFI−ECU13は、作動油の油温が高温になっている場合には、低変速段への変速を制限するので、自動変速機5を保護することができる。また、このような走行状態においても、EFI−ECU13は、制限されている変速段への変速指示が行われることを防止できるので、変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0102】
また、EFI−ECU13は、ナビゲーション装置38から入力される信号に基づいて変速段を制限し、車両1の走行を最適化できるとともに、このような走行状態においても、制限されている変速段への変速指示が行われることを防止できるので、変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0103】
なお、以上においては、低燃費を実現するための目標変速段がAI制御において形成が禁止されている制限変速段である場合には、EFI−ECU13は変速指示を非提示とする場合について説明した。しかしながら、低燃費を実現するための目標変速段がAI制御において形成が禁止されている制限変速段である場合において、EFI−ECU13は、所定時間の経過後に変速指示を提示させるようにしてもよい。
【0104】
以下、EFI−ECU13が所定時間の経過後に変速指示を提示させる場合における変速指示制御の動作について、図6を参照して説明する。
【0105】
なお、以下に説明する処理は、予めEFI−ECU13のROMに記憶されているプログラムによって実現され、シフトレバー28がSポジションにあることを条件にCPUにより所定の時間間隔で実行される。
【0106】
まず、EFI−ECU13は、上述したステップS11ないしステップS13と同様の方法で、走行状態を取得し(ステップS21)、この取得した走行状態に基づいて低燃費を実現する目標変速段を算出する(ステップS22)とともに、現在の変速段を取得する(ステップS23)。
【0107】
次に、EFI−ECU13は、上述したステップS14と同様の方法で、変速要求が発生しているか否かを判断する(ステップS24)。
【0108】
そして、EFI−ECU13は、変速要求が発生していないと判断した場合には(ステップS24でNO)、ステップS25に移行し、タイマによる計時を0とする。このとき、EFI−ECU13は、変速要求が発生していないため、変速指示を非提示とする(ステップS26)。
【0109】
一方、EFI−ECU13は、ステップS24において、変速指示が発生していると判断した場合には、上述したステップS15と同様の方法で、AI制御の実行中であるか否かを判断する(ステップS27)。
【0110】
EFI−ECU13は、AI制御の実行中でないと判断した場合には(ステップS27でNO)、ステップS28に移行し、タイマによる計時を0とする。このとき、EFI−ECU13は、ステップS22において算出した目標変速段にシフトアップあるいはシフトダウンするよう、変速指示を提示する(ステップS29)。
【0111】
一方、EFI−ECU13は、AI制御の実行中であると判断した場合には、ステップS22において算出した目標変速段が、AI制御において禁止されている制限変速段であるか否かを判断する(ステップS30)。
【0112】
EFI−ECU13は、目標変速段がAI制御において禁止されている制限変速段でないと判断した場合には(ステップS30でNO)、ステップS28に移行し、上述のように変速指示を提示する。
【0113】
一方、EFI−ECU13は、目標変速段がAI制御において形成が禁止されている制限変速段であると判断した場合には(ステップS30でYES)、ステップS31に移行し、タイマによる計時を実行する(ステップS31)。
【0114】
次に、EFI−ECU13は、タイマによる計時が所定時間Tth以上となったか否かを判断する(ステップS32)。
【0115】
EFI−ECU13は、タイマによる計時が所定時間Tth以上となったと判断した場合には(ステップS32でYES)、ステップS29に移行し、ステップS22において算出した目標変速段にシフトアップあるいはシフトダウンするよう、変速指示を提示する(ステップS29)。
【0116】
一方、EFI−ECU13は、タイマによる計時が所定時間が所定時間Tth以上になっていないと判断した場合には(ステップS32でNO)、シフトアップランプ36およびシフトダウンランプ37を点灯させず、変速指示を非提示とする(ステップS33)。
【0117】
以上のように、本実施の形態に係るEFI−ECU13は、制限されている変速段への変速指示が行われる頻度を低減できるので、変速指示に対し運転者が煩わしさを感じることを防止できる。
【0118】
なお、以上の説明においては、本発明に係る変速指示装置が6速の自動変速機5を搭載したFR車両に適用される場合について説明した。
【0119】
しかしながら、本発明に係る変速指示装置は、6速以外の変速段を有する自動変速機を搭載した車両や、FF(Front engine Front drive)車両に適用されるようにしてもよい。また、本実施の形態における自動変速機5の構成は単なる一例にすぎず、自動変速機がこの他の構成を有していてもよい。
【0120】
さらに、遊星歯車装置を備えた自動変速機のみならず、運転者の手動操作に応じて自動的に変速を行う機械式の自動変速機に適用されるようにしてもよい。このような機械式の自動変速機の例としては、常時噛合い式のギヤトレーンからなる変速機によって構成され、クラッチの断続動作を手動ではなく電動機等を用いて自動的に実行するとともに、変速段の変速操作を手動ではなくシフトレバーの操作に応じた電動機等の作動により自動的に行う、シーケンシャル・マニュアル・トランスミッション(Sequential Manual Transmission)がある。
【0121】
また、以上の説明においては、電子制御装置11がEFI−ECU13およびECT−ECU14を備え、EFI−ECU13が変速指示制御およびAI制御を実行する場合について説明した。しかしながら、変速指示制御およびAI制御は、車両1が搭載するいずれのECUにより実行されてもよく、互いに異なるECUによりそれぞれ実行されるようにしてもよい。また、複数のECUが互いに協働して変速指示制御あるいはAI制御を実行するようにしてもよい。
【0122】
また、以上の説明においては、EFI−ECU13は、目標変速段と現在の変速段とが異なる場合に変速要求が発生していると判断する場合について説明した。しかしながら、EFI−ECU13は、レンジホールドの実行時に、目標変速段と現在の変速段とが等しい場合であっても、運転者によって選択されている変速レンジの上限変速段が目標変速段と異なっているならば変速要求が発生していると判断するようにしてもよい。また、EFI−ECU13は、レンジホールドおよびギヤ段ホールドのいずれの場合においても上述した変速指示制御を実行するようにしてもよい。
【0123】
以上説明したように、運転者が感じる煩わしさを低減することができるという効果を奏するものであり、手動により変速が可能な変速機を備えた車両の変速指示装置に有用である。
【符号の説明】
【0124】
1 車両
2 エンジン
3 トルクコンバータ
4 変速機構
5 自動変速機
6 油圧制御回路
11 電子制御装置
13 EFI−ECU
14 ECT−ECU
21 エンジン回転数センサ
22 吸入空気量センサ
23 吸入空気温度センサ
24 スロットルセンサ
25 入力軸回転数センサ
26 出力軸回転数センサ
27 ブレーキセンサ
28 シフトレバー
29 操作位置センサ
30 アクセル開度センサ
31 スロットル弁
32 AT油温センサ
33 操舵角センサ
35 表示部
36 シフトアップランプ
37 シフトダウンランプ
38 ナビゲーション装置
39 GPSアンテナ
41 ポンプ翼車
42 入力軸
43 タービン翼車
44 一方向クラッチ
45 ステータ翼車
46 ロックアップクラッチ
47 オイルポンプ
52 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動変速が可能な変速機が搭載された車両に用いられ、運転者に変速指示を促す変速指示装置において、
前記車両の走行状態に基づいて目標変速段を設定する目標変速段設定手段と、
現在の変速段と前記目標変速段とが異なる場合に変速指示を提示する提示手段と、
前記車両の走行状態に基づいて所定の変速段への移行を制限する制限手段と、を備え、
前記提示手段は、前記目標変速段が前記制限手段により制限された変速段である場合には、変速指示の提示を制限することを特徴とする変速指示装置。
【請求項2】
前記提示手段は、前記目標変速段および前記目標変速段を上限変速段とする変速レンジのうちいずれか一方を提示することを特徴とする請求項1に記載の変速指示装置。
【請求項3】
前記提示手段は、前記目標変速段が前記制限手段により制限された変速段である場合には、変速指示を非提示とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変速指示装置。
【請求項4】
前記提示手段は、前記目標変速段が前記制限手段により制限された変速段である場合には、所定時間の経過後に変速指示を提示することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変速指示装置。
【請求項5】
前記目標変速段設定手段は、現在の変速段よりも燃費が低減される変速段を目標変速段として設定することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載の変速指示装置。
【請求項6】
前記制限手段は、前記車両が走行している路面の傾斜の度合いに基づいて制限される変速段を設定することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1の請求項に記載の変速指示装置。
【請求項7】
前記制限手段は、前記変速機に供給される作動油の油温に基づいて制限される変速段を設定することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1の請求項に記載の変速指示装置。
【請求項8】
前記車両は、前記車両の現在地および少なくとも前記現在地の前方の道路情報を表す信号を出力するナビゲーション装置を備え、
前記制限手段は、前記ナビゲーション装置から入力した信号に基づいて制限される変速段を設定することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1の請求項に記載の変速指示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−179590(P2011−179590A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44479(P2010−44479)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】