説明

変速機の油圧供給装置

【課題】専用のデバイスを必要とすることなく、ライン圧を制御するソレノイド弁がフェールしたときも車両の走行を保証すると共に、ライン圧の制御マージンと消費電流の増加を抑制する変速機の油圧供給装置を提供する。
【解決手段】油圧ポンプの吐出圧をライン圧に調圧する調圧弁80dの調圧ポート80d1に信号圧を供給する第1油圧制御弁(第6リニアソレノイドバルブ)80x)と調圧弁とを接続する油路80αと、ライン圧を調圧してロックアップクラッチ12dに供給する第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wに接続される油路80βとを接続する接続部80γに配置される選択機構80δを備え、選択機構80δは、第1、第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側を選択して調圧弁の調圧ポートに作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は変速機の油圧供給装置に関し、より具体的には専用のデバイスを必要とせずにライン圧のフェール時も走行を保証するようにした変速機の油圧供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速機の油圧供給装置においてライン圧の制御系を構成する制御回路やソレノイドの断線などによってソレノイド弁がフェール(故障)した場合、CVTの可変プーリに所定の最大圧を供給して車両の走行を保証するように構成されており、その例としては下記の特許文献1記載の技術を挙げることができる。
【0003】
特許文献1記載の技術にあっては、エンジン回転数が高いときに上記したフェールが発生すると、ベルトの側圧が過大となって油温を過度に上昇させることから、エンジン回転数を抑制してそのような不都合を回避するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−309332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術のようにライン圧を制御するソレノイド弁がフェールしたときに所定の最大圧を供給するには、例えばソレノイド弁をN/O(ノーマル・オープン)型のリニアソレノイドバルブとしてフェール時には開放されて所定の最大圧を供給できるように構成することになるが、供給すべきライン圧の最大値が増加すると、電流に対するライン圧のゲインが増加するため、同一電流に対する油圧バラツキも増加して制御マージンが大きくなる。
【0006】
また、最大ライン圧が高いと、クルーズで多用される低ライン圧領域で消費電流が増加する。他方、ライン圧を制御するソレノイド弁のフェールに備えて専用のデバイスを設けると、構成が複雑となる。
【0007】
この発明の目的は上記した課題を解決し、専用のデバイスを必要とすることなく、ライン圧を制御するソレノイド弁がフェールしたときも車両の走行を保証すると共に、ライン圧の制御マージンと消費電流の増加を抑制するようにした変速機の油圧供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して車両に搭載された原動機の駆動軸に接続される入力軸と車輪に接続される出力軸を備え、前記入力軸から入力される前記原動機の出力を変速して前記出力軸から前記車輪に伝達する変速機の油圧供給装置において、前記原動機で駆動されて油圧源から作動油を汲み上げて吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される吐出圧をライン圧に調圧する調圧弁と、前記調圧弁の調圧ポートに信号圧を供給する第1油圧制御弁と、前記ライン圧を調圧して前記ロックアップクラッチに供給する第2油圧制御弁と、前記第1油圧制御弁と前記調圧弁の調圧ポートを接続する油路と前記第2油圧制御弁の出力ポートに接続される油路とを接続する接続部と、前記接続部に配置される選択機構とを備えると共に、前記選択機構は、前記第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側を選択して前記調圧弁の調圧ポートに作用させる如く構成した。
【0009】
請求項2に係る変速機の油圧供給装置にあっては、前記第2油圧制御弁の出力ポートに接続される油路は、切換弁を介して前記接続部と前記ロックアップクラッチを接続する油路に接続される如く構成した。
【0010】
請求項3に係る変速機の油圧供給装置にあっては、前記切換弁の作動ポートに接続される少なくとも1個の電磁弁を備えると共に、前記電磁弁は励磁されるとき、前記選択機構を介して第2油圧制御弁の出力圧を前記調圧弁の調圧ポートに作用させ、よって前記変速機で所定の変速段あるいは変速段群を確立させる如く構成した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る変速機の油圧供給装置にあっては、原動機で駆動される油圧ポンプから吐出される吐出圧をライン圧に調圧する調圧弁と、調圧弁の調圧ポートに信号圧を供給する第1油圧制御弁と、第1油圧制御弁と調圧弁の調圧ポートを接続する油路と第2油圧制御弁の出力ポートに接続される油路とを接続する接続部と、接続部に配置される選択機構とを備えると共に、選択機構は、第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側を選択して調圧弁の調圧ポートに作用させる如く構成したので、専用のデバイスを必要とすることなく、ライン圧を制御するソレノイド弁がフェールしたときも走行を保証できると共に、ライン圧の制御マージンと消費電流の増加を抑制することができる。
【0012】
即ち、第1油圧制御弁と調圧弁の調圧ポートを接続する油路と第2油圧制御弁の出力ポートに接続される油路とを接続する接続部に、第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側を選択して調圧弁の調圧ポートに作用させる選択機構を配置するようにしたので、油圧ポンプの吐出圧をライン圧に調圧する調圧弁の調圧ポートに信号圧を供給する第1油圧制御弁(ライン圧を制御する制御弁)がフェールしたときも、第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側が選択されて調圧弁の調圧ポートに作用させることで、ライン圧を確保して車両の走行を保証できると共に、例えば第2油圧制御弁の出力圧を第1油圧制御弁のそれよりも高圧に設定しておくことで、ライン圧の制御マージンと消費電流の増加を抑制することができる。また、ライン圧を調圧してロックアップクラッチに供給する第2油圧制御弁を流用することから、専用のデバイスを必要とすることがないため、構成が複雑となることがない。
【0013】
請求項2に係る変速機の油圧供給装置にあっては、第2油圧制御弁の出力ポートに接続される油路は、切換弁を介して接続部とロックアップクラッチを接続する油路に接続される如く構成したので、上記した効果に加え、切換弁を切り換えて第1油圧制御弁の出力圧<第2油圧制御弁の出力圧となるように構成することで、所定の変速段(例えば後進変速段)の確立に他の変速段に比して高圧のライン圧が必要な場合、第2油圧制御弁でライン圧を高圧にしてその変速段を確実に確立することができる。
【0014】
請求項3に係る変速機の油圧供給装置にあっては、切換弁の作動ポートに接続される少なくとも1個の電磁弁を備え、それが励磁されるとき、選択機構を介して第2油圧制御弁の出力圧を調圧弁の調圧ポートに作用させ、よって変速機で所定の変速段を確立させる如く構成したので、上記した効果に加え、簡易な構成で後進変速段などの所定の変速段あるいは偶数段のみなどの変速段群を確実に確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施例に係る変速機の油圧供給装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す油圧供給装置の構成を詳細に示す油圧回路図である。
【図3】図2の部分拡大油圧回路図である。
【図4】図1に示す自動変速機の動作モードを示す表である。
【図5】図2に示す油圧制御弁の通電電流に対する出力の特性を示す説明図である。
【図6】同様に図2に示す油圧制御弁の通電電流に対する出力の特性などを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る変速機の油圧供給装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0017】
図1はこの発明の実施例に係る変速機の油圧供給装置を全体的に示す概略図、図2は図1に示す油圧供給装置の構成を詳細に示す油圧回路図、図3は図2の部分拡大油圧回路図、図4は図1に示す変速機の動作モードを示す表である。
【0018】
以下説明すると、符号Tは変速機を示す。変速機Tは車両(図示せず)に搭載される、前進8速で後進1速の変速段を有するツインクラッチ型の自動変速機からなると共に、D,P,R,Nのレンジを有する。
【0019】
変速機Tは、エンジン(原動機)10のクランクシャフトに接続される駆動軸10aにトルクコンバータ12を介して接続される偶数段入力軸14を備えると共に、偶数段入力軸14と平行して奇数段入力軸16を備える。エンジン10は例えばガソリンを燃料とする火花点火式の内燃機関からなる。
【0020】
トルクコンバータ12はエンジン10の駆動軸10aに直結されるドライブプレート12aに固定されるポンプインペラ12bと、偶数段入力軸14に固定されるタービンランナ12cと、ロックアップクラッチ12dを有し、よってエンジン10の駆動力(回転)はトルクコンバータ12を介して偶数段入力軸14に伝達される。
【0021】
偶数段入力軸14と奇数段入力軸16と平行にアイドル軸18が設けられる。偶数段入力軸14はギヤ14a,18aを介してアイドル軸18に接続されると共に、奇数段入力軸16はギヤ16a、ギヤ18aを介してアイドル軸18と接続され、よって偶数段入力軸14と奇数段入力軸16とアイドル軸18はエンジン10の回転につれて回転する。
【0022】
また、第1副入力軸20と第2副入力軸22とが奇数段入力軸16と偶数段入力軸14の外周にそれぞれ同軸かつ相対回転自在に配置される。
【0023】
奇数段入力軸16と第1副入力軸20は第1クラッチ24を介して接続されると共に、偶数段入力軸14と第2副入力軸22も第2クラッチ26を介してされる。第1、第2クラッチ24,26は共に油圧作動の湿式多板クラッチからなる。
【0024】
偶数段入力軸14と奇数段入力軸16の間には、偶数段入力軸14と奇数段入力軸16と平行に出力軸28が配置される。偶数段入力軸14と奇数段入力軸16とアイドル軸18と出力軸28はベアリング30で回転自在に支承される。
【0025】
奇数段側の第1副入力軸20には1速ドライブギヤ32と、3速ドライブギヤ34と、5速ドライブギヤ36と7速ドライブギヤ38が固定されると共に、偶数段側の第2副入力軸22には2速ドライブギヤ40と4速ドライブギヤ42と6速ドライブギヤ44と8速ドライブギヤ46が固定される。
【0026】
出力軸28には1速ドライブギヤ32と2速ドライブギヤ40に噛合する1速−2速ドリブンギヤ48と、3速ドライブギヤ34と4速ドライブギヤ42に噛合する3速―4速ドリブンギヤ50と、5速ドライブギヤ36と6速ドライブギヤ44と噛合する5速―6速ドリブンギヤ52と、7速ドライブギヤ38と8速ドライブギヤ46と噛合する7速―8速ドリブンギヤ54が固定される。
【0027】
アイドル軸18には、出力軸28に固定される1速−2速ドリブンギヤ48と噛合するRVS(後進)アイドルギヤ56が回転自在に支持される。アイドル軸18とRVSアイドルギヤ56はRVSクラッチ58を介して接続される。
【0028】
RVSクラッチ58は、第1、第2クラッチ24,26と同様、油圧作動の湿式多板クラッチからなるが、第1、第2クラッチ24,26に比して小径で摩擦材枚数も少なく構成される。図4の動作モード表においてCLUTCH欄に第1、第2クラッチ24,26を「CL1」「CL2」と、RVSクラッチ50を「RVS」と示す。
【0029】
奇数段入力軸16には1速ドライブギヤ32と3速ドライブギヤ34を選択的に第1副入力軸20に固定する1−3速シンクロ機構60と、5速ドライブギヤ36と7速ドライブギヤ38を選択的に第1副入力軸20に固定する5−7速シンクロ機構62が配置される。
【0030】
偶数段入力軸14には2速ドライブギヤ40と4速ドライブギヤ42を選択的に第2副入力軸22に固定する2−4速シンクロ機構64と、6速ドライブギヤ44と8速ドライブギヤ46を選択的に第2副入力軸22に固定する6−8速シンクロ機構66が配置される。
【0031】
エンジン10の駆動力は、第1クラッチ24あるいは第2クラッチ26が係合されるとき、奇数段入力軸16から第1副入力軸20あるいは偶数段入力軸14から第2副入力軸22に伝達され、さらに上記したドライブギヤとドリブンギヤを介して出力軸28に伝達される。
【0032】
尚、後進時には、エンジン10の駆動力は、偶数段入力軸14、ギヤ14a、ギヤ18a、RVSクラッチ58、アイドル軸18、RVSアイドルギヤ56、1速―2速ドリブンギヤ48を介して出力軸28に伝達される。
【0033】
出力軸28はギヤ70を介してディファレンシャル機構72に接続され、ディファレンシャル機構72はドライブシャフト74を介して車輪76に接続される。
【0034】
シンクロ機構60,62,64,66は全て油圧を供給されて動作する。これらシンクロ機構と第1、第2クラッチ24,26とRVSクラッチ58に油圧を供給するため、油圧供給装置80が設けられる。
【0035】
図2を参照して油圧供給装置80を説明する。
【0036】
油圧供給装置80において、リザーバ80aからストレーナ80bを介して油圧ポンプ(送油ポンプ)80cによって汲み上げられた作動油ATFの吐出圧(油圧)は、レギュレータバルブ(調圧弁)80dによってライン圧に調圧(減圧)される。
【0037】
図示は省略するが、油圧ポンプ80cはギヤを介してトルクコンバータ12のポンプインペラ12bに連結され、よって油圧ポンプ80cはエンジン10に駆動されて動作するように構成される。
【0038】
調圧されたライン圧は油路80eから第1、第2、第3、第4リニアソレノイドバルブ(油圧制御弁(電磁制御弁))80f,80g,80h,80iの入力ポートに送られる。図4の動作モード表のCLUTCH,SERVO欄に第1、第2、第3、第4リニアソレノイドバルブ80f,80g,80h,80iを「A」「B」「C」「D」で示す。
【0039】
第1、第2、第3、第4リニアソレノイドバルブ80f,80g,80h,80iは通電量に比例してスプールを移動させて出力ポートからの出力圧をリニアに変更する特性を備えると共に、通電されるとスプールが開放位置に移動するN/C(ノーマル・クローズ)型として構成される。
【0040】
第1リニアソレノイドバルブ80fの出力ポートは第1クラッチシフトバルブ80jを介して前記した奇数段入力軸16の第1クラッチ24に接続されると共に、第2リニアソレノイドバルブ80gの出力ポートは第2クラッチシフトバルブ80kを介して偶数段入力軸14の第2クラッチ26のピストン室に接続される。
【0041】
第1あるいは第2クラッチ24,26は油圧を供給されて係合(オン)されるとき、第1あるいは第2副入力軸20,22を奇数段入力軸16あるいは偶数段入力軸14に固定する一方、油圧を排出されて開放(オフ)されるとき、第1あるいは第2副入力軸20,22と奇数段入力軸16あるいは偶数段入力軸14の接続を遮断する。
【0042】
第3リニアソレノイドバルブ80hの出力ポートは第1クラッチシフトバルブ80jと第1、第2サーボシフトバルブ80n,80oを介して前記した6−8速シンクロ機構62と1−3速シンクロ機構64のピストン室62a,62b,64a,64bに接続される。
【0043】
第4リニアソレノイドバルブ80iの出力ポートは第2クラッチシフトバルブ80kと第1、第3サーボシフトバルブ80n,80pを介して前記した5−7速シンクロ機構66と2−4速シンクロ機構60のピストン室64a,64b,60a,60bに接続される。
【0044】
シンクロ機構において上記したピストン室60a,60b,62a,62b,64a,64b,66a,66bは図において左右に対向して配置されると共に、それぞれ共用のシリンダによって連結される。それらシリンダはシフトフォーク60c,62c,64c,66cにそれぞれ接続される。
【0045】
シフトフォーク60c,62c,64c,66c上にはニュートラル位置と左右の係合位置に対応する位置にディテント(図示せず)が設けられ、ニュートラル位置と左右の係合位置にあるときはディテントで保持されて油圧供給が不要となるように構成される。
【0046】
シンクロ機構60,62,64,66は第1、第2副入力軸20,22に軸方向に移動自在にスプライン結合されたスリーブドグクラッチ60d,62d,64d,66dを備える。
【0047】
スリーブドグクラッチ60d,62d,64d,66dは、中央位置(ニュートラル位置)から軸方向に移動するとき、対応するドライブギヤ32,34,36,38,40,42,44,46のドグクラッチにシンクロナイザリングなどを介して係合してドライブギヤ32などを第1、第2副入力軸20,22に結合する。
【0048】
レギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1から排出される作動油の排出量を制御することにより調圧された油路80qのライン圧は、第1、第2、第3、第4、第5ソレノイドバルブ(油圧制御弁(電磁弁))80r,80s,80t,80u,80vの入力ポートに送られる。
【0049】
これら5個のソレノイドバルブは通電(励磁)によってスプールが開放位置に移動するN/C型のオン・オフソレノイドバルブである。図4の動作モード表のSH−SOL欄に、第1、第2、第3、第4、第5ソレノイドバルブ80r,80s,80t,80u,80vを「A」「B」「C」「D」「E」で示す。
【0050】
第1ソレノイドバルブ80rの出力ポートは第1クラッチシフトバルブ80jの作動ポート80j1に接続されてスプール80j2をスプリングの付勢力に抗して図で右方に付勢すると共に、第2ソレノイドバルブ80sの出力ポートは第2クラッチシフトバルブ80kの作動ポート80k1に接続されてスプール80k2をスプリングの付勢力に抗して図で右方に付勢する。
【0051】
第3ソレノイドバルブ80tの出力ポートは第1サーボシフトバルブ80nの作動ポート80n1に接続されてスプール80n2をスプリングの付勢力に抗して図で右方に付勢する。
【0052】
第4ソレノイドバルブ80uの出力ポートは第2サーボシフトバルブ80oの作動ポート80o1に接続されてスプール80o2を同様に右方に付勢すると共に、第5ソレノイドバルブ80vの出力ポートは第3サーボシフトバルブ80pの作動ポート80p1に接続されてスプール80p2を同様に右方に付勢する。
【0053】
さらに、油圧供給装置80には、第5リニアソレノイドバルブ(第2油圧制御弁(電磁制御弁))80wと、第6リニアソレノイドバルブ(第1油圧制御弁(電磁制御弁))80xと、LCシフトバルブ(切換弁)80yが設けられる。
【0054】
第5リニアソレノイドバルブ80wは通電(励磁)によってスプールが閉鎖位置に移動するN/C型に構成される一方、第6リニアソレノイドバルブ80xは通電によってスプールが開放位置に移動するN/O型に構成される。
【0055】
図4の動作モード表のLC欄に第5リニアソレノイドバルブ80wを「E」で示すと共に、PL欄に第6リニアソレノイドバルブ80xを「F」で示す。図4において「LC」はトルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dへの供給圧を、「PL」はライン圧を意味する。
【0056】
図2の説明に戻ると、第5リニアソレノイドバルブ80wの入力ポート80w1は前記したライン圧に接続されると共に、第1出力ポート80w2はLCシフトバルブ80yの入力ポート80y1に接続され、その入力ポート80y1から出力ポート80y2を介してトルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dの入力側に接続される。
【0057】
トルクコンバータ12の内圧は、第5リニアソレノイドバルブ80wのフィードバックポートに接続される。ロックアップクラッチ12dの係合・開放はLCシフトバルブ80yで制御されると共に、ロックアップクラッチ12dの係合度(係合圧)は第5リニアソレノイドバルブ80wの出力圧によって調整される。
【0058】
前記した第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの出力ポートは第1、第2クラッチシフトバルブ80j,80kに加え、LCシフトバルブ80yの作動ポート80y3,80y4に接続されてスプール80y5をスプリングの付勢力に抗して図で左方に付勢することができる。
【0059】
従って、第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sが消磁されるとき、LCシフトバルブ80yのスプール80y5は図示の位置にあって入力ポート80y1と出力ポートy2とは接続される。
【0060】
その結果、第5リニアソレノイドバルブ80wから出力されるLC用制御圧は入力ポート80y1から出力ポート80y2を介してトルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dに供給され、ロックアップクラッチ12dを係合させる。
【0061】
一方、第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの少なくともいずれかが励磁されるとき、LCシフトバルブ80yのスプール80y5は図で左方に移動させられ、図3に示す如く、入力ポート80y1と出力ポート80y6が連通される結果、トルクコンバータ12、より具体的にはロックアップクラッチ12dのピストン室への油圧の供給は停止されると共に、出力ポート80y2はドレンポートに接続されるので、ロックアップクラッチ12dのピストン室の作動油はドレンポートを介して排出される。
【0062】
第6リニアソレノイドバルブ80xの入力ポート80x1は前記したライン圧に接続されると共に、出力ポート80x2は一方ではLCシフトバルブ80yの第2入力ポート80y7に接続され、入力ポート80y7から出力ポート80y8を介して潤滑系(あるいは後述する接続部)に接続される。
【0063】
第6リニアソレノイドバルブ80xの出力ポート80x2は、図3に良く示す如く、他方では油路80αを介してレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1に接続され、よって第6リニアソレノイドバルブ80xを介して供給されるライン圧は調圧ポート80d1を介してそのプール80d2の一端側に油圧(信号圧)を供給する。
【0064】
従って、レギュレータバルブ80dは、第6リニアソレノイドバルブ80xで一旦調圧されて送られてくる信号圧に応じて移動させられるスプール80d2の位置に応じて油圧ポンプ80cの吐出圧を調圧(減圧)してライン圧を再度調圧するように構成される。
【0065】
ここで、第6リニアソレノイドバルブ80xの出力ポート80x2とレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1を接続する油路80αと、第5リニアソレノイドバルブ80wの第2出力ポート80w2にLCシフトバルブ80yを介して接続される油路80βとは、接続部80γを介して接続されると共に、接続部80γには選択機構80δが配置される。
【0066】
図3に示す如く、選択機構80δは油路80α,80βに比して大径の油室の内部に移動自在に収容される、油路80α,80βよりも大径なボール弁80δ1を備える。
【0067】
ボール弁80δ1は、第5リニアソレノイドバルブ80wと第6リニアソレノイドバルブ80xの出力圧のうちの高圧側を選択してレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1に作用させるように構成される。
【0068】
即ち、選択機構80δにおいて油室80には油路80αと油路80βが対向して接続されると共に、ボール弁80δ1は油室内を移動自在に収容されることから、油路80αと油路80βを介して供給される第5、第6リニアソレノイドバルブ80w,80xのうちの高圧側で押圧されて(対向する)低圧側を閉塞するように移動し、よって第5、第6リニアソレノイドバルブ80w,80xの出力圧のうちの高圧側を選択してレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1に作用させるように構成される。
【0069】
このように、前記した第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの出力ポートは第1、第2クラッチシフトバルブ80j,80kに加え、LCシフトバルブ80yの作動ポート80y3,80y4を介してスプール80y5の一端に接続されてスプール80y5をスプリングの付勢力に抗して図で左方に付勢する。
【0070】
トルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dへの油圧の供給に関して前記した如く、第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sのいずれもが消磁されるとき、LCシフトバルブ80yのスプール80y5は図示の位置にあって入力ポート80y1と出力ポート80y2とは接続されることから、第5リニアソレノイドバルブ80wを介して供給されるライン圧は入力ポート80y1から出力ポート80y2を介してトルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dに供給される。
【0071】
一方、第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの少なくともいずれか(あるいは双方)が励磁されるとき、LCシフトバルブ80yのスプール80y5は図3で左方に移動させられて入力ポート80y1は出力ポート80y6に接続され、図3に示す如く、第5リニアソレノイドバルブ80wを介して供給されるライン圧は、出力ポート80y6から油路80βを介して接続点80γに送られる。
【0072】
図1の説明に戻ると、変速機Tはシフトコントローラ84を備える。シフトコントローラ84はマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニット(ECU)として構成される。また、エンジン10の動作を制御するために同様にマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニットから構成されるエンジンコントローラ86が設けられる。
【0073】
シフトコントローラ84はエンジンコントローラ86と通信自在に構成され、エンジンコントローラ86からエンジン回転数、スロットル開度、AP開度などの情報を取得する。
【0074】
さらに、偶数段入力軸14の付近には第1の回転数センサ90が配置され、変速機Tの入力回転数NMを示す信号を出力すると共に、第1、第2副入力軸20,22と出力軸28にはそれぞれ第2、第3、第4の回転数センサ92,94,96が配置され、それらの回転数を示す信号を出力する。ドライブシャフト74の付近には第5の回転数センサ100が配置され、車速Vを示す信号を出力する。
【0075】
また油圧供給装置80の第1、第2クラッチ24,26に接続される油路には第1、第2の圧力センサ102,104が配置され、第1、第2クラッチ24,26に供給される作動油ATFの圧力(油圧)を示す信号を出力する。
【0076】
また、車両の運転席に配置されたレンジセレクタ(図示せず)の付近にはレンジセレクタポジションセンサ106が配置され、D,P,R,Nのうちの運転者に操作(選択)されたレンジを示す信号を出力する。
【0077】
これらセンサの出力は全てシフトコントローラ84に入力される。シフトコントローラ84は、それらセンサの出力とエンジンコントローラ86と通信して得られる情報に基づき、図4に示す動作モード表に従って第1リニアソレノイドバルブ80fなどを励磁・消磁して変速機Tの動作を制御する。
【0078】
図4の動作モード表に示す如く、この実施例において変速機Tは図示のようなA,B,C,Dの4つの動作モードを有する。それらは以下の通りである。
【0079】
モードA:Dレンジでの通常走行
モードB:Dレンジでの奇数段のみでの走行
モードC:Dレンジでの偶数段のみでの走行
モードD:Rレンジでの走行とP,Nレンジでの停車
【0080】
上記でモードB,Cは第1クラッチ24,26などにフェール(異常)が生じたときのフェールセーフモードである。
【0081】
図4において縦軸の動作モード(MODE)A,B,C,Dの1から8までの数字は1速から8速までの前進変速段を示す。また横軸の「SH−SOL」欄のA,B,C,D,Eは前記したように第1、第2、第3、第4、第5ソレノイドバルブ80r,80s,80t,80u,80vを示し、○を付されるときは励磁、×を付されるときは消磁されて対応する変速段が確立されることを示す。
【0082】
同様に横軸の「CLUTCH」、「SERVO」、「LC」、「PL」欄のA,B,C,D,E,Fは前記したように第1、第2、第3、第4、第5、第6リニアソレノイドバルブ80f、80g,80h,80i,80w,80xを示す。A,B,C,D,E,Fのいずれか記入されるときは励磁されることを意味する。
【0083】
尚、第5、第6リニアソレノイドバルブ80w,80xはLC欄とPL欄で「E」「F」と示されると共に、「PL」欄において「ForE」とあるのは第6リニアソレノイドバルブ80x(F)と第5リニアソレノイドバルブ80w(E)のうちの高圧側の出力を意味する。
【0084】
また、後進変速段はモードAではRVSクラッチ58に油圧を供給して係合させれば確立されることから記載を省略した。尚、モードB,C,Dでは×を付されたときは確立されず、記入されたB(第2リニアソレノイド80g)などを励磁すれば確立されることを示す。
【0085】
図4から明らかな如く、この実施例において特徴的なことは先ず、簡易な構成でトルクコンバータ12でのロックアップクラッチ12dを開放可能にすると共に、変速機Tの動作を上記した4つのモードの間で変更可能に構成したことである。
【0086】
モードの変更を先に説明すると、第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sが共に消磁されるとモードA、第1ソレノイドバルブ80rが消磁、第2ソレノイドバルブ80sが励磁されるとモードB、その逆にされるとモードC、第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sが共に励磁されるとモードDとなるように構成される。
【0087】
モードAでは第1、第2クラッチ24,26とロックアップクラッチ12dが全て係合可能、モードBではそのうちの第1クラッチ24のみが係合可能、モードCではそのうちの第2クラッチ26のみが係合可能、モードDではその全てが係合不可能とされる。
【0088】
シフトコントローラ84は、レンジセレクタポジションセンサ106の出力に基づき、第1、第2クラッチ24,26などにフェールが生じていないときは第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sを励磁・消磁してモードAあるいはDにすると共に、フェールが生じているときは図4の表示に従ってモードC,Dに制御する。
【0089】
モードAにおいては、1−3速シンクロ機構64を図1,2で右動させて1速ドライブギヤ32を第1副入力軸20に結合して第1クラッチ24を係合させると、1速変速段が確立される。
【0090】
また2−4速シンクロ機構60を図1,2で右動させて2速ドライブギヤ40を第2副入力軸22に結合して第2クラッチ26を係合させると、2速変速段が確立され、以下同様の処理を繰り返すことで1速から8速の間でシフトアップ/ダウンされる。
【0091】
このとき、現在の変速段を確立しながら、次の変速段に対応するシンクロ機構に油圧を供給して動作させる、いわゆる「プリシフト」を行わせることで駆動力の途切れのない、応答性に優れた変速が可能となる。
【0092】
この実施例においてはこのように第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの励磁・消磁によって4つのモードの間で変更可能(4つのモードのいずれかが選択可能)に構成したので、この種の油圧供給装置に通例使用される、レンジセレクタの動作に応じて油路を切り換えるマニュアルバルブが不要となり、簡易な構成で動作モードを変更・選択することができると共に、フェール時にあってもモードB,Cのいずれかの走行を可能として必要最小限の走行を確保することができる。
【0093】
次いで、簡易な構成でトルクコンバータ12でのロックアップクラッチ12dを開放可能にした点を説明すると、この実施例にあっては、そのためにライン圧を調圧してトルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dに供給する第5リニアソレノイドバルブ80wの第1出力ポート80w2にLCシフトバルブ80yを接続すると共に、LCシフトバルブ80yの作動ポート80y3,80y4に動作モード変更可能な第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの少なくともいずれか、より具体的にはその双方を接続するように構成した。
【0094】
即ち、他のデバイスと兼用させることで部品点数の増加を抑制すると共に、上記した構成でLCシフトバルブ80yの出力ポート80y2をドレンポートに接続するのみで、フェール時にトルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dへの油圧供給を迅速に停止してロックアップクラッチ12dを開放し、よってエンジン10のストールを確実に回避できるように構成した。
【0095】
この実施例においてさらに特徴的なことは、図3を参照して先に説明したように、第6リニアソレノイドバルブ80xの出力ポート80x2とレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1を接続する油路80αと、第5リニアソレノイドバルブ80wの第1の出力ポート80w2にLCシフトバルブ80yを介して接続される油路80βとを接続部80γを介して接続すると共に、接続部80γに選択機構80δを配置し、よって接続部80γにおいて高圧側を選択してレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1に作用させるように構成したことである。
【0096】
これについて図5以降を参照して説明する。
【0097】
図5はこの実施例におけるバルブ通電電流に対する出力の特性を示す説明図である。
【0098】
先に述べた如く、特許文献1記載の技術のようにライン圧を制御するソレノイド弁がフェールしたときに所定の最大圧を供給するには、例えばソレノイド弁をN/O型のリニアソレノイドバルブとしてフェール時には開放されて所定の最大圧を供給できるように構成することになるが、ライン圧を制御するソレノイド弁には個体差によるバラツキが存在するため、供給される電流値にバラツキ保証分が常に加算される。ここで、供給すべきライン圧の最大値が増加すると、電流値に対するライン圧のゲインが増加し、油圧バラツキも増加することから、電流値のバラツキ保証分も大きくせざるを得ない。
【0099】
図5(a)において実線は第6リニアソレノイドバルブ80xの出力圧(最大圧)を、破線はそれを増加させたと仮定したときの特性を示す。図示の如く、出力圧を増加させると、バルブ通電電流に対する出力のゲインが増加する結果、同じ電流値(指令値)の有する電流値バラツキに対する油圧バラツキが大きくなり、制御精度が低下する。
【0100】
また、同図(b)に示す如く、第6リニアソレノイドバルブ80xの出力圧を増加させると、車両がクルーズ走行するときに多用される低ライン圧領域で消費電流が増加してしまう。
【0101】
その点に鑑み、この実施例においては専用のデバイスを必要とすることなく、ライン圧を制御する第6リニアソレノイドバルブ80xがフェールしたときも車両の走行を保証すると共に、ライン圧の制御マージンと消費電流の増加の抑制するようにした。
【0102】
図6(a)は第5、第6リニアソレノイドバルブ80w,80xの通電特性に対する出力圧の特性を示す説明図である。
【0103】
第5リニアソレノイドバルブ80wはトルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dに係合圧を出力する必要があるため、ライン圧制御用の第6リニアソレノイドバルブ80xの最大出力圧より高く設定される。
【0104】
尚、フェール時、第6リニアソレノイドバルブ80xは必要な油圧を出力する必要があるためにN/O型で構成される一方、第5リニアソレノイドバルブ80wは油圧を出力させないためにN/C型で構成される。
【0105】
そこで、この実施例にあっては、同図(b)に示す如く、第5リニアソレノイドバルブ80wと第6リニアソレノイドバルブ80xの出力圧のうちの高圧側を選択して出力するように構成した。
【0106】
即ち、通常領域であればLCシフトバルブ80yの入力ポート80y1と出力ポート80y2が連通しているため、第5リニアソレノイドバルブ80wの出力圧は選択機構80δには供給されないが、LCシフトバルブ80yの作動ポート80y3,80y4の少なくともいずれかに油圧が供給されて出力ポート80y2と出力ポート80y6が連通させられる場合、選択機構80δに第5、第6リニアソレノイドバルブ80w,80xの出力圧が送られ、そのうちの高圧側が選択機構80δから出力されるように構成した。
【0107】
そのため、上記した如く、第6リニアソレノイドバルブ80xとレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1を接続する油路80αと第5リニアソレノイドバルブ80wの出力ポート80w2に接続される油路80βを接続する接続部80γに選択機構80δ(ボール弁80δ1)を配置するように構成した。
【0108】
また、第5リニアソレノイドバルブ80wをLCシフトバルブ80yに接続し、LCシフトバルブ80yの作動ポート80y3,80y4に第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの出力ポートを接続すると共に、LCシフトバルブ80yの第2出力ポート80y6を接続部80γに接続し、よって接続部80γにおいて第5、第6リニアソレノイドバルブ80w,80xのうちの高圧側を選択してレギュレータバルブ80dの調圧ポート80d1に作用させるように構成した。
【0109】
ここで第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの一方あるいは双方から油圧を供給されないとき、LCシフトバルブ80yのスプール80y5は図示の位置にあり、LCシフトバルブ80yの出力ポート80y6から油路80βを介して接続部80γの選択機構80δの油室80δ1に供給される油圧は零である。
【0110】
その結果、選択機構80δの油室においてボール弁80δ1は図示の位置にあり、第6リニアソレノイドバルブ80xからの出力圧が選択されてレギュレータバルブ80dに供給される。
【0111】
他方、第1、第2ソレノイドバルブ80r,80sの少なくともいずれかから油圧を供給されるとき、LCシフトバルブ80yのスプール80y5は移動し、図3に示す如く、入力ポート80y1と出力ポート80y6が連通される一方、出力ポート80y2はドレンポートに接続される結果、第5リニアソレノイドバルブ80wの出力圧と第6リニアソレノイドバルブ80xの出力圧のうちの高圧側が選択されてレギュレータバルブ80dに供給される。
【0112】
これにより、専用のデバイスを必要とすることなく、ライン圧を制御する第6リニアソレノイドバルブ80xがフェールしたときも走行を保証することができる。
【0113】
また、一般的に後進走行時はロックアップクラッチ12dが解放されるため、第5リニアソレノイドバルブ80wをロックアップクラッチ12dの係合のために使用する必要がないことから、後進走行などの限られた領域でライン圧を高圧にしたい場合、第5リニアソレノイドバルブ80wを使用するようにしたので、後進変速段を確実に確立できると共に、バラツキ保証分を小さく抑えることが可能となり、消費電流の増加を抑制することができる。
【0114】
即ち、RVSクラッチ58は第1、第2クラッチ24,26に比して小径で摩擦材枚数も少ないため、第1、第2クラッチ24,26に比して高圧なライン圧が必要となるが、かく構成することで後進変速段を確実に確立することができる。
【0115】
上記した如く、この実施例にあっては、ロックアップクラッチ12dを有するトルクコンバータ12を介して車両に搭載された原動機(エンジン)10の駆動軸10aに接続される入力軸(偶数段入力軸14、奇数段入力軸16、アイドル軸18、第1、第2副入力軸20,22)と車輪76に接続される出力軸28を備え、前記入力軸から入力される前記原動機の出力を変速して前記出力軸から前記車輪に伝達する変速機Tの油圧供給装置80において、前記原動機で駆動されて油圧源(リザーバ)80aから作動油(ATF)を汲み上げて吐出する油圧ポンプ80cと、前記油圧ポンプから吐出される吐出圧をライン圧に調圧する調圧弁(レギュレータバルブ)80dと、前記調圧弁の調圧ポート80d1に信号圧を供給する第1油圧制御弁(第6リニアソレノイドバルブ)80xと、前記ライン圧を調圧して前記ロックアップクラッチ12dに供給する第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wと、前記第1油圧制御弁(第6リニアソレノイドバルブ)80xと前記調圧弁(レギュレータバルブ)80dの調圧ポートを接続する油路80αと前記第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wの出力ポート80w2に接続される油路80βとを接続する接続部80γと、前記接続部に配置される選択機構80δとを備えると共に、前記選択機構は、前記第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側を選択して前記調圧弁の調圧ポートに作用させる如く構成したので、専用のデバイスを必要とすることなく、ライン圧を制御するソレノイド弁がフェールしたときも走行を保証できると共に、ライン圧の制御マージンと消費電流の増加を抑制することができる。
【0116】
即ち、第1油圧制御弁(第6リニアソレノイドバルブ)80xと調圧弁(レギュレータバルブ)80dの調圧ポートを接続する油路80αと第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wの出力ポートに接続される油路80βとを接続する接続部80γに、第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側を選択して調圧弁の調圧ポートに作用させる選択機構80δを配置するようにしたので、油圧ポンプ80cの吐出圧をライン圧に調圧する調圧弁の調圧ポートに信号圧を供給する第1油圧制御弁(ライン圧を制御する制御弁)がフェールしたときも、第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側が選択されて調圧弁の調圧ポートに作用させることで、ライン圧を確保して車両の走行を保証できると共に、例えば第2油圧制御弁の出力圧を第1油圧制御弁のそれよりも高圧に設定しておくことで、ライン圧の制御マージンと消費電流の増加を抑制することができる。また、ライン圧を調圧してロックアップクラッチ12dに供給する第2油圧制御弁を流用することから、専用のデバイスを必要とすることがないため、構成が複雑となることがない。
【0117】
また、前記第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wの出力ポート80w2に接続される油路は、切換弁(LCシフトバルブ)80yを介して前記接続部80γと前記ロックアップクラッチ12dを接続する油路に接続される如く構成したので、上記した効果に加え、切換弁(LCシフトバルブ)80yを切り換えて第1油圧制御弁(第6リニアソレノイドバルブ)80xの出力圧<第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wの出力圧となるように構成することで、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ12dを係合する必要がない後進(RVS)走行時には、LC(ロックアップクラッチ)制御用の第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wでライン圧を高圧にして後進走行段を確実に確立することができる。
【0118】
また、前記切換弁(LCシフトバルブ)80yの作動ポート80y3,80y4に接続される少なくとも1個の電磁弁(第1、第2ソレノイドバルブ)80r,80sを備えると共に、前記電磁弁は励磁されるとき、前記選択機構80γを介して第2油圧制御弁(第5リニアソレノイドバルブ)80wの出力圧を前記調圧弁の調圧ポートに作用させ、よって前記変速機Tで所定の変速段あるいは変速段群を確立させる如く構成したので、上記した効果に加え、簡易な構成で後進変速段などの所定の変速段あるいは偶数段のみなどの変速段群を確実に確立することができる。
【0119】
尚、上記において、ツインクラッチ型の自動変速機を説明したが、ツインクラッチ型の自動変速機は例示した構成に止まらず、どのような構成であっても良い。
【0120】
また、選択機構としてボール弁を例示したが、それに限られるものでなく、2つの油圧を選択できるものであれば、どのような構成であっても良い。
【0121】
また、原動機としてエンジン(内燃機関)を例示したが、それに限られるものではなく、エンジンと電動機とのハイブリッドであっても良く、電動機であっても良い。
【符号の説明】
【0122】
T 変速機(自動変速機)、10 エンジン(原動機)、12 トルクコンバータ、12d ロックアップクラッチ、14 偶数段入力軸、16 奇数段入力軸、18 アイドル軸、20 第1副入力軸、22 第2副入力軸、24 第1クラッチ、26 第2クラッチ、28 出力軸、32,34,36,38,40,42,44,46 ドライブギヤ(変速段ギヤ)、48,50,52,54 ドリブンギヤ、56 RVSアイドルギヤ(変速段ギヤ)、58 RVSクラッチ、60,62,64,66 シンクロ機構(ギヤ選択機構)、76 車輪、80 油圧供給装置、80c 油圧ポンプ、80d レギュレータバルブ(調圧弁)、80f,80g,80h,80i 第1から第4リニアソレノイドバルブ、80j 第1クラッチシフトバルブ(第1切換弁)、80k 第2クラッチシフトバルブ(第2切換弁)、80n,80o,80p 第1から第3サーボシフトバルブ、80r 第1ソレノイドバルブ(第1電磁弁)、80s 第2ソレノイドバルブ(第2電磁弁)、80t,80u,80v 第3から第5ソレノイドバルブ、80w 第5リニアソレノイドバルブ(第2油圧制御弁)、80x 第6リニアソレノイドバルブ(第1油圧制御弁)、80y LCシフトバルブ(切換弁)、80γ 接続部、80δ 選択機構、80δ1 ボール弁、84 シフトコントローラ、86 エンジンコントローラ、106 レンジセレクタポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して車両に搭載された原動機の駆動軸に接続される入力軸と車輪に接続される出力軸を備え、前記入力軸から入力される前記原動機の出力を変速して前記出力軸から前記車輪に伝達する変速機の油圧供給装置において、前記原動機で駆動されて油圧源から作動油を汲み上げて吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される吐出圧をライン圧に調圧する調圧弁と、前記調圧弁の調圧ポートに信号圧を供給する第1油圧制御弁と、前記ライン圧を調圧して前記ロックアップクラッチに供給する第2油圧制御弁と、前記第1油圧制御弁と前記調圧弁の調圧ポートを接続する油路と前記第2油圧制御弁の出力ポートに接続される油路とを接続する接続部と、前記接続部に配置される選択機構とを備えると共に、前記選択機構は、前記第1油圧制御弁と第2油圧制御弁の出力圧のうちの高圧側を選択して前記調圧弁の調圧ポートに作用させることを特徴とする変速機の油圧供給装置。
【請求項2】
前記第2油圧制御弁の出力ポートに接続される油路は、切換弁を介して前記接続部と前記ロックアップクラッチを接続する油路に接続されることを特徴とする請求項1記載の変速機の油圧供給装置。
【請求項3】
前記切換弁の作動ポートに接続される少なくとも1個の電磁弁を備えると共に、前記電磁弁は励磁されるとき、前記選択機構を介して第2油圧制御弁の出力圧を前記調圧弁の調圧ポートに作用させ、よって前記変速機で所定の変速段あるいは変速段群を確立させることを特徴とする請求項2記載の変速機の油圧供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−247050(P2012−247050A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121636(P2011−121636)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】