説明

多周波発振器

【課題】発振周波数の安定性及び周波数の過渡応答性において従来よりも優れた多周波発振器を提供する。
【解決手段】水晶振動子を少なくとも備え、変調信号発生器5から入力された変調信号によって水晶振動子の発振周波数を調整する基準信号発生器12と、位相比較器6、ループフィルタ7及び電圧制御発振器8を少なくとも備え、基準信号発生器11の出力と電圧制御発振器8の出力とを位相比較器6で位相比較するPLL11とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の周波数の信号を発振する多周波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
多周波CW方式の距離センサは、複数の周波数の信号(送信信号)を対象物に照射し、当該送信信号の反射信号を検出することにより対象物の移動速度を計測する装置である。このような多周波CW方式の距離センサは、対象物の移動に基づく反射信号のドップラシフト(周波数偏移)を検出することにより対象物の移動速度を計測するものであり、送信信号として連続波信号(CW信号)を用いる。
【0003】
このような多周波CW方式の距離センサでは、電圧制御発振器(VCO)にステップ信号を変調信号として入力することによりステップ電圧に応じた複数の周波数信号を発生さる多周波発振器、あるいはPLLのループフィルタの出力にステップ信号(変調信号)を加算することによりステップ電圧に応じた複数の周波数信号を発生さる多周波発振器が採用されている。例えば、下記特許文献1には、このような多周波CW方式の距離センサの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−258709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記2つの方式の多周波発振器のうち、前者は発振周波数がオープンループ(開ループ)で制御される方式なので、前者には発振周波数の安定性が悪いという問題がある。また、後者は発振周波数がクローズドループ(閉ループ)で制御される方式なので、ループフィルタの時定数やループゲインにも依るが、発振周波数の安定性に優れているものの発振周波数の切換時点における過渡的な周波数応答が悪いために、周波数が安定している時間幅が狭くなるという問題がある。したがって、このような多周波発振器を用いた多周波CW方式の距離センサは、送信信号の周波数品質に起因する距離計測誤差が発生する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、発振周波数の安定性及び周波数の過渡応答性に優れた多周波発振器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、多周波発振器に係る第1の解決手段として、水晶振動子を少なくとも備え、変調信号発生器から入力された変調信号によって水晶振動子の発振周波数を調整する基準信号発生器と、位相比較器、ループフィルタ及び電圧制御発振器を少なくとも備え、基準信号発生器の出力と電圧制御発振器の出力とを位相比較器で位相比較するPLLとを具備する、という手段を採用する。
【0008】
多周波発振器に係る第2の解決手段として、上記第1の手段において、電圧制御発振器と位相比較器との間に分周期を備える
、という手段を採用する。
【0009】
また、本発明では、多周波送信器に係る解決手段として、上記第1または第2の解決手段に係る多周波発振器と、電圧制御発振器の出力に接続された送信アンテナとを具備する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、変調信号発生器から入力された変調信号によって水晶振動子の発振周波数を調整する基準信号発生器を備え、当該基準信号発生器の出力と電圧制御発振器の出力とをPLLループを構成する位相比較器で位相比較するので、発振周波数の安定性及び周波数の過渡応答性において従来よりも優れた多周波発振器を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る多周波送信器Aの機能構成を示す回路図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る多周波送信器Aの性能を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る多周波送信器Aは、図1に示すように、水晶振動子発振用IC1、3つのコンデンサ2〜4、変調信号発生器5、位相比較器6、ループフィルタ7、VCO8(電圧制御発振器:Voltage Controled Oscilator)、分周器9及び送信アンテナ10から構成されている。このような多周波送信器Aは、多周波CW方式の距離センサの一部(送信部)を構成するものである。
【0013】
また、上記各構成要素のうち、位相比較器6、ループフィルタ7、VCO8及び分周器9はPLL(Phase Lock Loop)11を構成している。また、水晶振動子発振用IC1、3つのコンデンサ2〜4及び変調信号発生器5は、このようなPLL11に対して基準信号を提供する基準信号発生器12を構成している。
【0014】
水晶振動子発振用IC1は、水晶振動子と増幅器とからなる発振専用ICであり、外付け部品としての3つのコンデンサ2〜4と共に発振回路を構成する。周知のように、水晶振動子を用いた発振回路は、圧電体やLC共振回路を用いた発振回路に比べて極めて高いQの発振特性を有する。すなわち、水晶振動子発振用IC1と3つのコンデンサ2〜4とからなる発振回路は、周波数純度が極めて高い信号を上記基準信号として位相比較器6に出力する。
【0015】
3つのコンデンサ2〜4は、上記水晶振動子と共に発振条件を満足させるための静電容量を水晶振動子発振用IC1に提供する2端子の外付け部品である。上記水晶振動子発振用IC1は、3つのコンデンサ2〜4が接続されることにより所定の発振条件を満たし、自励発振可能な状態となる。このような3つのコンデンサ2〜4のうち、コンデンサ2及びコンデンサ3は、図示するように水晶振動子発振用IC1の所定の接続端子とグランド(接地)との間に直列接続された状態で挿入されている。なお、コンデンサ3は、図示するように静電容量が調整可能な可変コンデンサである。
【0016】
すなわち、コンデンサ2の一端は水晶振動子発振用IC1の接続端子に接続され、コンデンサ2の他端はコンデンサ3の一端に接続され、コンデンサ3の他端はグランド(接地)に接続されている。また、残りのコンデンサ4は、上記接続端子とは異なる水晶振動子発振用IC1の接続端子とグランド(接地)との間に挿入されている。すなわち、コンデンサ4の一端は水晶振動子発振用IC1の接続端子に接続され、コンデンサ4の他端はグランド(接地)に接続されている。
【0017】
変調信号発生器5は、所定周期かつ電圧のステップ信号を水晶振動子発振用IC1に対する変調信号として生成・出力するものであり、図示するように出力端が上記コンデンサ2とコンデンサ3との接続点に接続されている。この変調信号発生器5が出力する変調信号は、上記水晶振動子発振用IC1の出力周波数をステップ状に変動させるためものである。すなわち、水晶振動子発振用IC1は、コンデンサ2を介して変調信号が入力されると、当該変調信号のステップ電圧に応じて出力周波数を変化させる。
【0018】
位相比較器6は、分周器9から入力される分周信号を比較信号として上記基準信号と位相比較し、両者の位相誤差に応じた誤差信号をループフィルタ7に出力する。ループフィルタ7は、抵抗(R)とコンデンサ(C)とから構成されたローパスフィルタ(低域通過フィルタ)である。すなわち、ループフィルタ7は、抵抗の抵抗値とコンデンサの静電容量とによって規定される時定数に基づいて、上記誤差信号に含まれる高周波成分を除去し、直流成分をも含む低周波成分のみを電圧制御信号としてVCO8に出力する。
【0019】
VCO8は、電圧制御信号によって発振周波数が規定される発振回路である。すなわち、VCO8は、上記比較信号と基準信号との位相誤差に応じた周波数の発振信号を分周器9及び送信アンテナ10に出力する。分周器9は、上記発振信号を所定の分周比Nで分周することにより低周波化する。この分周器9は、このような低周波化された信号、つまり発振信号の周波数を分周比Nで除算した周波数の信号を上記比較信号として位相比較器6に出力する。なお、この分周器9は、PLL11の必須構成要素ではなく、必要に応じて削除してもよい。
【0020】
送信アンテナ10は、上記VCO8から入力された発振信号を電波として外部に放射するものである。例えば、多周波CW方式の距離センサでは、マイクロ波帯の送信波を移動体に放射し、その反射波を受信することによって移動体の速度を計測するが、送信アンテナ10は、上記マイクロ波帯の送信波を移動体に放射するパッチアンテナ(マイクロストリップアンテナ)である。
【0021】
次に、このように構成された多周波送信器Aの動作について、図2をも参照して詳しく説明する。
【0022】
図2(a)は、変調信号発生器5が出力する変調信号の波形を示している。この図に示すように、変調信号は、一定周期でロー電圧とハイ電圧とがステップ状に繰り返すステップ信号である。図2(b)は、このような変調信号が入力されることで水晶振動子発振用IC1から出力される基準信号の周波数変化を示している。この図に示すように、基準信号は、上記変調信号のロー電圧の期間Tでは周波数faとなり、ハイ電圧の期間Tでは周波数faとは異なる周波数fbにステップ状に変化する信号である。すなわち、基準信号は、変調信号の波形に対して周波数が極めて応答性良く変化する信号である。
【0023】
このような基準信号がPLL11内の位相比較器6に入力されると、位相比較器6から出力される誤差信号がループフィルタ7を介してVCO8に入力さることに起因してVCO8の発振周波数が調整されるので、比較信号として位相比較器6に入力される分周信号は、周波数が基準信号の周波数に引き込まれ(周波数ロック)、さらに位相も基準信号の位相に同期する(位相ロック)。
【0024】
上記周波数ロック及び位相ロックが成立した状態において、比較信号(分周信号)の周波数は基準信号の周波数と等しくなるので、VCO8の発振周波数つまり発振信号の周波数は、基準信号の周波数のN倍つまり基準信号の周波数に分周器9の分周比Nを乗算した周波数となる。図2(c)の実線は、上記発振信号(送信信号)の周波数変化を示しているが、当該周波数変化は、基準信号の周波数変化つまり変調信号の電圧変化に極めて忠実な変化である。
【0025】
これに対して、図2(c)に二点鎖線で示す周波数変化は、PLLのループフィルタの出力にステップ状の変調信号を加算する従来の多周波送信器の周波数変化を示している。すんわち、従来の周波数変化は、PLLのループフィルタの出力にステップ状の変調信号を加算するもの、つまりPLL内に変調信号を加えるものなので、PLLにおけるループフィルタの時定数及びループゲイン等の影響によって、変調信号の電圧変化に対して応答性が悪い。
【0026】
本多周波送信器Aによれば、基準信号の周波数を変調信号によってステップ状に変化させるので、基準信号は、PLL11を構成するループフィルタ7の時定数及びPLL11のループゲイン等に影響されることなく高速に周波数変化するので、従来よりも周波数の過渡応答性に優れている。また、基準信号は、水晶振動子発振用IC1で生成されるのでQ値が極めて高い信号なので、本多周波送信器Aによれば、発振信号(送信信号)の周波数安定性が高い。
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、水晶振動子発振用IC1で生成される基準信号を変調信号でステップ状に周波数変化させるが、上述したように水晶振動子発振用IC1で生成される基準信号のQ値は極めて高いので、基準信号の周波数変化幅は自ずと小さなものである。すなわち、発振信号(送信信号)の周波数変化幅も自ずと小さなものとなる。したがって、発振信号(送信信号)の周波数変化幅を比較的大きくとるためには、水晶振動子の中でも比較的Q値の小さなものを選定する必要がある。
【0028】
(2)上記実施形態では、3つのコンデンサ2〜4を外付け部品として使用するタイプの水晶振動子発振用IC1を用いたが、本発明はこれに限定されない。より少ない外付けコンデンサを使用するタイプの水晶振動子発振用ICを採用してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…水晶振動子発振用IC、2〜4…コンデンサ、5…変調信号発生器、6…位相比較器、7…ループフィルタ、8…VCO(電圧制御発振器:Voltage Controled Oscilator)、9…分周器、10…送信アンテナ、11…PLL、12…基準信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子を少なくとも備え、変調信号発生器から入力された変調信号によって水晶振動子の発振周波数を調整する基準信号発生器と、
位相比較器、ループフィルタ及び電圧制御発振器を少なくとも備え、基準信号発生器の出力と電圧制御発振器の出力とを位相比較器で位相比較するPLLと
を具備することを特徴とする多周波発振器。
【請求項2】
電圧制御発振器と位相比較器との間に分周期を備えることを特徴とする請求項1記載の多周波発振器。
【請求項3】
請求項1または2記載の多周波発振器と、
電圧制御発振器の出力に接続された送信アンテナと
を具備することを特徴とするの多周波送信器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−195833(P2012−195833A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59347(P2011−59347)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000232357)横河電子機器株式会社 (109)
【Fターム(参考)】