説明

多孔質成形体の製造方法

【課題】質感や風合いに優れ、気孔率が大きく、十分な強度を備えた多孔質成形体を、低コストで製造することができる多孔質成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質自然石を破砕した粒状体100重量部に、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン10〜50重量部と架橋剤1〜20重量部とを混合し、この混練物を加圧成形して得られた成形体を、ガラスやセラミック、紙などのマイクロ波透過性の容器内に収納して外部からマイクロ波を照射し、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン中の水分を蒸発させて短時間で硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通水性・給水性に優れた多孔質成形体の製造方法に関するものであり、特に吸水性のある植木鉢や水槽用水浄化材などとして用いるに適した、多孔質自然石を原料とする多孔質成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植木鉢などとして使用されている多孔質成形体は、陶土やセラミック原料などを高温で焼成したものが一般的であるが、気孔率は比較的小さいものが多く、通水性・給水性に優れるとは言い難い。また近年、透水性舗装材としてセラミック粒子をガラス質のバインダーによって結合した多孔質成形体も製造されている。これは大きな気孔率を持つが、高温焼成を行うために焼成品特有の外観を呈し、インテリアの一部としての植木蜂として用いるには不適当な面がある。
【0003】
そこで本発明者は、多孔質自然石を原料として質感や風合いに優れ、かつ気孔率の大きい多孔質成形体の製造を試みたが、ゼオライト系やモルデナイト系の多孔質自然石は高温で焼成すると外観が変化し、また焼き締まりによって気孔率が減少するため、目的とする自然石の外観を残した多孔質成形体を得ることはできなかった。
【0004】
なお、自然石の破砕物をセメント等と混練して成形したものは、人造石として古くから知られている(非特許文献1)。しかしこれはセメントをバインダーとして多量に含有するため、仮に多孔質自然石を原料としても大きな気孔率を持たせることは難しいうえ、水と接触するとアルカリ成分が溶出するおそれがあった。
【0005】
更にセメントの代わりに熱硬化性のポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を用いた人造石も知られているが、強度と大きな気孔率を両立させることは困難であった。しかも何れも製造に時間がかかり、製造コストが嵩むという問題があった。
【非特許文献1】建築材料ハンドブック、227〜228頁、岸谷孝一編、1991年、技報堂出版株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、多孔質自然石を原料として質感や風合いに優れ、かつ気孔率が大きく、しかも水と接触した場合にも形状を保持するに十分な強度を備えた多孔質成形体を、低コストで製造することができる多孔質成形体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、多孔質自然石を破砕した粒状体に、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンと架橋剤とを混合した混練物を加圧成形し、得られた成形体をマイクロ波透過性の容器内に収納して外部からマイクロ波を照射し、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン中の水分を蒸発させて硬化させることを特徴とするものである。
【0008】
なお、多孔質自然石の粒状体100重量部に対し、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンを10〜50重量部、架橋剤を1〜20重量部の比率で混合して混練物を得ることが好ましい。また、混練物中に、3〜50重量部の白セメントを外配添加することも可能である。マイクロ波透過性の容器の材質としては、ガラス、陶磁器、紙の何れかとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多孔質自然石を破砕した粒状体に、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンと架橋剤とを混合した混練物を加圧成形し、得られた成形体をマイクロ波透過性の容器内に収納してマイクロ波を照射し硬化させる。このマイクロ波の照射により、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン中の水分はごく短時間で蒸発するとともに、樹脂及び架橋剤の硬化が促進され、多孔質自然石の粒状体を1〜3分前後の短時間で強固に結合することができる。容器内でマイクロ波を照射し硬化させることにより、硬化段階における形崩れのおそれがない。
【0010】
このようにして得られた多孔質成形体は多孔質自然石の質感や風合いを残し、しかも粒状体間に十分な空隙を残しているうえ、粒状体自体も多孔質であるため、大きな気孔率・通水性・給水性を有する。従って室内装飾用の吸水性植木鉢や水槽用水浄化材などとして用いるに適したものとなる。また、粒状体間は硬化した樹脂により強固に結合されているため、水中に浸漬した場合にも十分な強度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1に示すように、本発明では先ず多孔質自然石を破砕した粒状体と、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンと、架橋剤とを混合した混練物を造る。多孔質自然石としては前記したゼオライト系のものやモルデナイト系のもの(モルデナイト系凝灰岩など)のほか、各種の自然石を用いることができる。これらは使用目的に応じて適度の粒径に破砕されるが、植木蜂や水槽用水浄化材として使用する場合には、0.5〜5mm程度の粒径とするのが適当である。
【0012】
酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンとしては、市販の酢酸ビニル共重合樹脂のエマルジョンを用いることができる。例えばユニオン化学工業株式会社から「UNIKENSOL S−88」の商品名で市販されている高濃度(有効成分50%)、低粘性(30℃で200〜300CPS)のものを用いることができる。
【0013】
また架橋剤は熱処理によって硬化架橋反応を生じ、高分子の鎖の間に結合を形成することによって、耐久性、耐水性の三次元網状構造体を構成するためのものである。例えばブロック化イソシアネートを成分とするエマルジョンタイプのものを使用することができる。酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンとして上記した「UNIKENSOL S−88」を使用した場合、架橋剤としては同じユニオン化学工業株式会社から「UNIKA FIXER UG−906」の商品名で市販されているエマルジョンを用いることができる。架橋剤はこれに限定されないことは言うまでもない。
【0014】
これらの配合比は、多孔質自然石の粒状体100重量部に対し、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンを10〜50重量部、架橋剤を1〜20重量部とすることが好ましい。これらの範囲よりも少ない場合には粒状体相互間の結合力が低下して強度が不足し、逆にこれらの範囲よりも多い場合には粒状体相互間の空隙が減少して十分な強度を得ることができにくいためである。
【0015】
なお、上記のほかにさらに3〜50重量部の白セメントを外配添加することもできる。白セメントは結合力を高める効果を持つが、多量に加えると粒状体相互間の空隙を閉塞したり、アルカリを溶出させるおそれがあるため、多孔質自然石の粒状体100重量部に対して最大でも50重量部とする。
【0016】
これらの混練物は型を用いて加圧成形し、所望の形状とする。この成形工程は陶磁器やセラミックの成形において周知の工程である。図2に示すように、得られた成形体1をマイクロ波透過性の容器2内に収納し、マグネトロン発振器3を備えたマイクロ波加熱装置4を用いて外部からマイクロ波を照射する。マイクロ波としては、電子レンジ等に一般的に用いられている2450MHzの電磁波を用いればよい。容器2としてはガラス、陶磁器、紙の何れかを用いることが好ましく、マイクロ波を透過しない金属容器は不適当である。
【0017】
この結果、マイクロ波が水の分子を振動させて成形体1を内部から誘電加熱し、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン中の水分及び架橋剤のエマルジョン中の水分を急速に蒸発させる。また成形体1の内部温度は図3のグラフに示すようにマイクロ波の照射開始後、1分程度の短時間で100℃に達し、架橋剤による硬化が促進される。このようにして、多孔質自然石の粒状体は1〜3分前後の短時間で強固に結合され、気孔率及び強度の大きい多孔質成形体を得ることができる。本発明では硬化工程に時間を要しないので、製造コストを引き下げることができる。
【0018】
なお、硬化前の成形体1は変形可能なものであるが、本発明では成形体1を容器2内に収納して硬化させるので、変形することがない。また、多孔質自然石の粒状体に対する酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン及び架橋剤の混合比を前記のように設定すれば、粒状体の相互間に十分な空隙を残したままで粒状体を結合することができ、透水性、通気性のある多孔質成形体を製造することができる。
【0019】
この多孔質成形体は従来品のように高温で焼成されたものではないため、自然石の持つ質感や風合いを備えたものである。また大きな気孔率を持つので、吸水性のある植木鉢や水槽用水浄化材などとして用いるに適したものとなる。
【実施例1】
【0020】
モルデナイト系凝灰岩を平均粒径1mmに破砕した粒状体100重量部と、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン(UNIKENSOL S−88)30重量部と、架橋剤エマルジョン(UNIKA FIXER UG−906)10重量部とをよく混練し、これを金型でプレス成形することによって、外径50mm、内径30mm、高さ50mmの円筒とした。これをガラス製の容器に入れて750Wのマイクロ波を2分間照射したところ、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン中の水分は蒸発するとともに架橋剤による樹脂の硬化が促進され、透水性、通気性のある多孔質成形体が得られた。
【0021】
この多孔質成形体は熱帯魚などの水槽に浸漬してもアルカリ成分等が溶出するおそれはなく、水中で崩壊するおそれもない。しかも空隙の内部に藍藻類が生息し、光合成による酸素を発生させることができるので、水槽用水浄化材として使用できるうえ、小型の魚がその内部に出入りすることができ、自然石の風合いを呈するので観賞用としても優れたものである。なお、汚れが激しくなった後は金槌で砕くことにより自然石の状態に戻るので、廃棄に困ることもない。
【実施例2】
【0022】
ゼオライト系の自然石を平均粒径2mmに破砕した粒状体100重量部と、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン20重量部と、架橋剤エマルジョン5重量部と、白セメント30重量部とをよく混練し、これを金型でプレス成形することによって、外径100mm、内径90mm、高さ80mmの植木鉢状の有底円筒とした。これをガラス製の容器に入れて1600Wのマイクロ波を1分間照射したところ、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン中の水分は蒸発するとともに架橋剤による樹脂の硬化が促進され、透水性、通気性のある多孔質成形体が得られた。
【0023】
この多孔質成形体は観葉植物の植木鉢として使用されるもので、底部に敷いた皿に水を入れておけば植木鉢自体が吸水能力を有するため、水遣りの必要はない。しかも従来の植木鉢には見られない自然石に特有の風合いを呈するため、インテリアとして好適なものである。この植木鉢も金槌で砕くことにより自然石の状態に戻すことができ、環境を汚染することがない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の工程説明図である。
【図2】マイクロ波照射による硬化工程の説明図である。
【図3】マイクロ波照射時間と、成形体の内部温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 成形体
2 マイクロ波透過性の容器
3 マグネトロン発振器
4 マイクロ波加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質自然石を破砕した粒状体に、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンと架橋剤とを混合した混練物を加圧成形し、得られた成形体をマイクロ波透過性の容器内に収納して外部からマイクロ波を照射し、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョン中の水分を蒸発させて硬化させることを特徴とする多孔質成形体の製造方法。
【請求項2】
多孔質自然石の粒状体100重量部に対し、酢酸ビニル系水性樹脂エマルジョンを10〜50重量部、架橋剤を1〜20重量部の比率で混合して混練物を得ることを特徴とする請求項1記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項3】
混練物中に、3〜50重量部の白セメントが外配添加されることを特徴とする請求項2記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項4】
マイクロ波透過性の容器の材質が、ガラス、陶磁器、紙の何れかであることを特徴とする請求項1記載の多孔質成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−70186(P2007−70186A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260767(P2005−260767)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(503101231)竹澤商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】