説明

多層配線基板の製造方法および多層配線基板

【課題】歩留まりが高く、かつ信頼性に優れる多層配線基板の製造方法およびこの製造方法によって製造れた信頼性の高い多層配線基板を提供すること。
【解決手段】 導体パターン前駆体層110が形成された複数の成形体200を積層してなる積層体400を得る第1工程と、該第1工程で得られた積層体400を焼成する第2工程とを有する多層配線基板の製造方法であって、第1工程では、各成形体200を、第1の基板100上に導体パターン前駆体層110を形成した後、第1の基板100の導体パターン前駆体層110が形成された面上に第1の基板100よりも厚さの薄い第2の基板120を積層することにより得、得られた複数の成形体200を積層することにより積層体400を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線基板の製造方法および多層配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、導体パターンが形成された複数の基板を積層してなる多層セラミック回路基板が知られている。このような多層セラミック回路基板は、例えば、下記のようにして製造することができる。
まず、セラミックグリーンシートを用意し、その一方の面に導電性のインク(例えば銀などの金属粒子を分散媒に分散させてなる液状材料)を、インクジェット法などによって塗布し、これにより導体パターン前駆体層が形成された成形体を得る。同様にして、複数の成形体を用意した後、それらを順に積層して積層体を形成する。そして、得られた積層体を焼成することにより、複数の導体パターンが重なり合った多層セラミック回路基板が得られる。
【0003】
しかしながら、このような製造方法では、成形体を重ね合わせる際には、導体パターン前駆体は硬化していない(すなわち、比較的柔らかい)ため、一対のセラミックグリーンシートに挟まれることによって、導体パターン前駆体層が変形し、例えば、配線の幅が広がったり、それにより、隣り合う配線に相当する部位が接触してしまったりする。また、断線が生じることもある。
そのため、製造される多層セラミック回路基板の歩留まりが低下したり、製造された多層セラミック回路基板の電気的特性が低下したりする問題ある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−84387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、歩留まりが高く、かつ信頼性に優れる多層配線基板の製造方法およびこの製造方法によって製造れた信頼性の高い多層配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の多層配線基板の製造方法は、導体パターン前駆体層が形成された複数の成形体を積層してなる積層体を得る第1工程と、該第1工程で得られた前記積層体を焼成する第2工程とを有する多層配線基板の製造方法であって、
前記第1工程では、各前記成形体を、第1の基板上に前記導体パターン前駆体層を形成した後、前記第1の基板の前記導体パターン前駆体層が形成された面上に前記第1の基板よりも厚さの薄い第2の基板を積層することにより得、得られた複数の前記成形体を積層することにより前記積層体を得ることを特徴とする。
これにより、歩留まりが高く、かつ信頼性に優れる多層配線基板の製造方法を提供することができる。
【0007】
本発明の多層配線基板の製造方法では、前記第1工程において、前記第2の基板を前記第1の基板に積層する際、前記第1の基板および前記第2の基板の少なくとも一方を他方に向けて押圧することが好ましい。
これにより、第1の基板よりも剛性が低い第2の基板が、導体パターン前駆体層の形状に対応して変形し、導体パターン前駆体層の変形を効果的に抑制することができる。
【0008】
本発明の多層配線基板の製造方法では、前記第1工程において、減圧下で前記第2の基板を前記第1の基板に積層することが好ましい。
これにより、第1の基板と第2の基板との間に空気が残存するのを抑制することができ、信頼性の高い多層配線基板を製造することができる。
本発明の多層配線基板の製造方法では、前記第1工程において、前記第2の基板を前記第1の基板に積層する際、前記第2の基板は、前記導体パターン前駆体層によって形成される前記第1の基板上の凸部に対応して変形することが好ましい。
これにより、導体パターン前駆体層の変形を効果的に抑制することができる。
【0009】
本発明の多層配線基板の製造方法では、前記各成形体の前記導体パターン前駆体層は、他の前記成形体と積層される前後で平面視形状が変化しないことが好ましい。
これにより、導体パターン前駆体層の変形を効果的に抑制することができる。
本発明の多層配線基板の製造方法では、前記第2の基板の平均厚さは、前記導体パターン前駆体層の厚さ以下であることが好ましい。
これにより、第2の基板の剛性を充分に低くすることができ、より確実に、導体パターン前駆体層の変形を抑制しつつ、第2の基板を導体パターン前駆体層に対応して変形させることができる。
【0010】
本発明の多層配線基板の製造方法では、前記第1の基板および前記第2の基板は、同じ材料で構成されていることが好ましい。
これにより、多層配線基板の製造の容易化を図ることができる。
本発明の多層配線基板の製造方法では、前記導体パターン前駆体層は、インクジェット法により形成されることが好ましい。
これにより、より細密な導体パターン前駆体層を形成することができる。
本発明の多層配線基板は、本発明の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、歩留まりが高く、かつ信頼性に優れる多層配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の多層配線基板の断面図である。
【図2】図1に示す多層配線基板の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】図1に示す多層配線基板の製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の多層配線基板の製造方法および多層配線基板の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の多層配線基板の断面図、図2および図3は、図1に示す多層配線基板の製造方法を説明するための断面図である。
【0013】
《多層配線基板》
まず、本発明の多層配線基板の一例について説明する。
図1に示すように、多層配線基板(多層セラミックス回路基板)30は、複数の配線基板31の積層体として構成されている。また、各、配線基板31は、第1の基板311と、第1の基板311よりも厚さの薄い第2の基板312と、これら第1、第2の基板311、312の間に形成された導体パターン(回路)313とを有している。各配線基板31の第1、第2の基板311、312には、必要に応じて導体ポスト314が形成されており、上下に位置する導体パターン313との導通が図られている。
このような多層配線基板は、例えば、携帯電話やPDA等の移動通話機器の高周波モジュール、インターポーザー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、加速度センサー、弾性表面波素子、アンテナや櫛歯電極等の異形電極、その他各種計測装置等の電子部品等に適用することができる。
【0014】
《液状材料》
次いで、多層配線基板30の導体パターン313を形成するための導体パターン形成用インク(以下、単に「インク」とも言う)の一例について説明する。下記に説明するインクは、インクジェット法で用いられるのに適した、すなわち液滴吐出ヘッドから吐出するのに適したインクである。
インクとしては、例えば、銀粒子(金属粒子)を水系分散媒(分散媒)に分散してなる分散液を好適に用いることができる。このような構成とすることにより、導体パターンを形成するのに適した液状材料となる。
【0015】
〔水系分散媒〕
本明細書において、「水系分散媒」とは、水および/または水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)で構成されたもののことを指す。このように、水系分散媒は、水および/または水との相溶性に優れる液体で構成されたものであるが、主として水で構成されたものであるのが好ましく、特に、水の含有率が70wt%以上のものであるのが好ましく、90wt%以上のものであるのがより好ましい。これにより、上述した効果がより顕著に発揮される。
【0016】
水系分散媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、インク中における水系分散媒の含有量は、20wt%以上80wt%以下であることが好ましく、25wt%以上70wt%以下であることがより好ましい。これにより、インクの粘度を好適なものとしつつ、分散媒の揮発による粘度の変化を少ないものとすることができる。
【0017】
〔銀粒子〕
次に、銀粒子(金属粒子)について説明する。
銀粒子は、形成される導体パターンの主成分であり、導体パターンに導電性を付与する成分である。このような銀粒子は、インク中において分散している。
銀粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、10nm以上30nm以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより高くすることができるとともに、微細な導体パターンを容易に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指す。
【0018】
また、インク中において、銀粒子の平均粒子間距離は、1.7nm以上380nm以下であるのが好ましく、1.75nm以上300nm以下であるのがより好ましい。これにより、インクの粘度がより適度となり、吐出安定性が特に向上する。
また、インク中に含まれる銀粒子(分散剤が表面に吸着していない銀粒子の含有量は、0.5wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上45wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターンの断線をより効果的に防止することができ、より信頼性の高い導体パターンを形成することができる。
また、銀粒子は、その表面に分散剤が付着した銀コロイド粒子として、水系分散媒中に分散していることが好ましい。これにより、銀粒子の水系分散媒への分散性が特に優れたものとなり、インクの吐出安定性が特に向上する。
【0019】
分散剤としては、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの分散剤は、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。
【0020】
このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターンにおいて銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生し難くなる。このような分散剤としては、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
インク中における銀コロイド粒子の含有量は、1wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上50wt%以下であるのがより好ましい。
また、銀コロイド粒子の熱重量分析における500℃までの加熱減量は、1wt%以上25wt%以下が好ましい。
【0021】
〔有機バインダー〕
また、インクは、有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーは、インクを用いて形成された導体パターン前駆体において、銀粒子の凝集を防止するものである。また、有機バインダーは、基板Sに対するインクの密着性を向上させる機能を有している。
【0022】
有機バインダーとしては、特には限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール#200(重量平均分子量200)、ポリエチレングリコール#300(重量平均分子量300)、ポリエチレングリコール#400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール#600(重量平均分子量600)、ポリエチレングリコール#1000(重量平均分子量1000)、ポリエチレングリコール#1500(重量平均分子量1500)、ポリエチレングリコール#1540(重量平均分子量1540)、ポリエチレングリコール#2000(重量平均分子量2000)等のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール#200(重量平均分子量:200)、ポリビニルアルコール#300(重量平均分子量:300)、ポリビニルアルコール#400(平均分子量:400)、ポリビニルアルコール#600(重量平均分子量:600)、ポリビニルアルコール#1000(重量平均分子量:1000)、ポリビニルアルコール#1500(重量平均分子量:1500)、ポリビニルアルコール#1540(重量平均分子量:1540)、ポリビニルアルコール#2000(重量平均分子量:2000)等のポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル等のポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリグリセリンエステルとしては、例えば、ポリグリセリンのモノステアレート、トリステアレート、テトラステアレート、モノオレエート、ペンタオレエート、モノラウレート、モノカプリレート、ポリシノレート、セスキステアレート、デカオレエート、セスキオレエート等が挙げられる。
【0023】
〔乾燥抑制剤〕
また、インクは、乾燥抑制剤を含んでいてもよい。乾燥抑制剤は、インク中の水系分散媒の不本意な揮発を防止するものである。その結果、インクジェット装置のノズル付近において水系分散媒が揮発することを防止でき、インクの粘度の上昇、乾燥が抑えられる。このような乾燥抑制剤としては、下記式(I)で示される化合物、アルカノールアミン、糖アルコール等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
【化1】

(ただし、R、R’は、それぞれ、Hまたはアルキル基である。)
【0025】
〔表面張力調整剤〕
また、インクは、表面張力調整剤を含んでいてもよい。表面張力調整剤は、インクと第1の基板100との接触角を所定の角度に調整する機能を有している。表面張力調整剤としては、各種界面活性剤を用いることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、少ない添加量で、インクと第1の基板100との接触角を所定の範囲に調整することができる観点からアセチレングリコール系化合物を含むことが好ましい。
【0026】
アセチレングリコール系化合物としては、例えば、サーフィノール104シリーズ(104E、104H、104PG−50、104PA等)、サーフィノール400シリーズ(420、465、485等)、オルフィンシリーズ(EXP4036、EXP4001、E1010等)(「サーフィノール」および「オルフィン」は、日信化学工業株式会社の商品名)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
〔その他の成分〕
なお、インクの構成成分は、上記成分に限定されず、上記以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、チオ尿素等が挙げられる。
また、インクの粘度は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性が向上するとともに、第1の基板100に供給されたインクの不本意な濡れ広がりをより確実に防止することができる。
以上、インクの一例を説明した。
【0028】
《多層配線基板の製造方法》
次いで、上述した多層配線基板30の製造方法(本発明の製造方法)の一例について説明する。
多層配線基板30の製造方法は、導体パターン前駆体層が形成された複数の成形体を積層してなる積層体を得る第1工程と、第1工程で得られた積層体を焼成することにより複数の導体パターン層が形成された多層配線基板を得る第2工程とを有している。以下、第1工程および第2工程について順次説明する。なお、図2および図3では、説明の便宜上、第1、第2の基板100、120に必要に応じて形成されるコンタクト(導体ポスト)の図示を省略する。
【0029】
(第1工程)
第1の基板上に導体パターン前駆体層を形成した後、第1の基板の導体パターン前駆体層が形成された面上に第1の基板よりも厚さの薄い第2の基板を積層することにより成形体を得る。
具体的には、まず、図2(a)に示すように、第1の基板(セラミックグリーンシート)100を用意する。
【0030】
第1の基板100は、例えば、次のように製造することができる。まず、原料粉体として、平均粒径が1〜2μm程度のアルミナ(Al)や酸化チタン(TiO)等からなるセラミックス粉末と、平均粒径が1〜2μm程度のホウ珪酸ガラス等からなるガラス粉末とを用意し、これらを適宜な混合比、例えば1:1の重量比で混合する。次に、得られた混合粉末に適宜なバインダー(結合剤)や可塑剤、有機溶剤(分散剤)等を加え、混合・撹拌することにより、スラリーを得る。ここで、バインダーとしては、ポリビニルブチラールが好適に用いられるが、これは水に不溶であり、かつ、いわゆる油系の有機溶媒に溶解しあるいは膨潤し易いものである。次に、得られたスラリーをドクターブレード、リバースコーター等を用いてPETフィルム上にシート状に形成し、製品の製造条件に応じて数μm〜数百μm厚のシートに成形し、その後、ロールに巻き取る。
【0031】
続いて、製品の用途に合わせて切断し、さらに所定寸法のシートに裁断する。次に、必要に応じて、所定の位置に、COレーザー、YAGレーザー、機械式パンチ等によって孔開けを行うことでスルーホールを形成する。そして、このスルーホールに、金属粒子が分散した厚膜導電ペーストを充填することにより、コンタクト(導体ポスト)となるべき部位を形成する。このようにして第1の基板100が得られる。なお、厚膜導電ペーストとしては、前記導体パターン形成用インクを用いることができる。
【0032】
次いで、図2(b)に示すように、第1の基板100の上面(PETフィルムと反対側の面)にインクを所望のパターンで供給し(付着させ)、第1の基板100上に導体パターン前駆体層110を形成する。第1の基板100へインクを供給する方法としては、特に限定されず、スクリーン印刷法、インクジェット法(液滴吐出法)等を用いることができるが、インクジェット法を用いることが好ましい。これにより、細密で精度の良い導体パターン前駆体層110を形成することができる。
【0033】
ここで、インクジェット法で用いられるインクは、一般にスクリーン印刷法で用いられるインクよりも粘度が低いため、前述した従来の問題がより顕著に発生するが、本発明の製造方法によれば、インクジェット法で用いられるインクであっても、後述するように配線の拡幅化等を抑制でき、信頼性に優れる多層配線基板30をより確実に製造することができる。
【0034】
第1の基板100の厚さ(平均厚さ)としては、特に限定されないが、20μm以上、300μm以下程度であるのが好ましく、30μm以上、200μm以下であるのがより好ましい。これにより、第1の基板100の機械的強度が充分なものとなり、後述するように、第1の基板100上に第2の基板120を積層して押し当てた際に、第1の基板100の変形をより確実に抑制することができる。
【0035】
次いで、第1の基板100の上面に形成された導体パターン前駆体層110を乾燥させる。例えば、ラバーヒーター等の加熱手段によって第1の基板100を加熱しながらインクを第1の基板100上に供給することにより、第1の基板100へインクを供給しつつ、第1の基板100上のインクを乾燥させることができる。これにより、作業の効率化を図るとともに、インクが第1の基板100に着弾した後速やかにインクの乾燥を促すことができるため、第1の基板100上でのインクの濡れ広がりを抑制することができる。
ここで、乾燥後の導体パターン前駆体層110の厚さは、特に限定されないが、5μm以上、50μm以下程度である。
【0036】
次いで、図2(c)に示すように、第2の基板120を用意する。第2の基板120は、第1の基板100と同様にして製造することができる。このように、第1の基板100と第2の基板120を同様の構成とする(同じ構成材料で構成する)ことにより、多層配線基板30の製造がより容易となる。また、後述するように、第2の基板120の厚さを第1の基板100よりも薄くすると言う比較的簡単な設計によって、第2の基板120を第1の基板100よりも剛性の低い変形し易いものとすることができ、この点からも、多層配線基板30の製造がより容易となる。
【0037】
第2の基板120の厚さ(平均厚さ)は、第1の基板100の厚さ(平均厚さ)よりも薄い。前述したように、第1、第2の基板100、120は、同じ構成材料にて構成されているため、厚さの薄い第2の基板120の方が、第1の基板100よりも剛性が低く、その厚さ方向に変形し易い(撓み易い)。
第2の基板120の厚さ(平均厚さ)としては、第1の基板100よりも薄ければ特に限定されないが、10μm以上、150μm以下程度であるのが好ましく、10μm以上、100μm以下であるのがより好ましい。これにより、第2の基板120の破損を抑制しつつ、第1の基板100に対して、第2の基板120をその厚さ方向により撓み易い基板とすることができる。
【0038】
また、第2の基板120の厚さは、導体パターン前駆体層110の厚さよりも薄いことが好ましい。これにより、第2の基板120の第2の基板120を充分に変形し易いものとすることができるため、後述するように、導体パターン前駆体層110の変形を抑制しつつ、第2の基板120をより容易に導体パターン前駆体層110に対応して変形させることができる。
【0039】
次いで、図2(d)に示すように、第1の基板100の上面(すなわち、導体パターン前駆体層110が形成されている面)に第2の基板120のPETフィルムと反対側の面を重ねるとともにこれらを押圧し、第2の基板120と第1の基板100とを接合(圧着)する。この際、剛性が充分に低い第2の基板120が、導体パターン前駆体層110によって第1の基板100の上面に形成された凸部に対応して変形(湾曲)する。一方、第1の基板100は、第2の基板120に対して充分に高い剛性を有しているため、実質的に変形しない。
【0040】
このように、第2の基板120が前記凸部に対応して変形することにより、導体パターン前駆体層110が潰れることによる導体パターン前駆体層110の変形が抑制される。すなわち、導体パターン前駆体層110の厚さが薄くなったり、それに伴う配線の拡幅化(形状)を抑えたりすることができるため、隣り合う配線同士が接触してしまったり、断線が生じてしまったりするのを防止することができ、信頼性に優れる多層配線基板30を製造することができる。また、その歩留まりを向上させることもできる。
ここで、第1の基板100と第2の基板120との接合は、減圧下、より好ましくは真空下で行われる。これにより、第1の基板100と第2の基板120との間に空気が残存するのを防止することができ、例えば、導体パターンの劣化等を効果的に防止でき、より信頼性の高い多層配線基板30を製造することができる。
以上のようにして、第1の基板100と、第2の基板120と、これらの間に形成された導体パターン前駆体層110とを有する成形体200が得られる。
そして、上述したのと同様にして、成形体200を必要枚数(例えば10枚から20枚程度)作成する。
【0041】
次いで、図3(a)、(b)に示すように、PETフィルムを剥がした複数の成形体200を順に積層して、両側から押圧することにより、複数の成形体200を接合(圧着)し、積層体400を得る。このとき、積層する成形体200については、上下に重ねられる成形体200間で、それぞれの導体パターン前駆体層110が必要に応じてコンタクトを介して接続するように配置する。その後、成形体200を構成するバインダーのガラス転移点以上に加熱しつつ、各成形体200を圧着する。これにより、積層体400を得る。
ここで、複数の成形体200を積層する際に、所定の成形体200の第1の基板100により、その下側に位置する成形体200の第2の基板120が押圧され、第2の基板120が変形する。
【0042】
しかしながら、各成形体200では、導体パターン前駆体層110が第1の基板100と第2の基板120との間に密に(実質的に隙間なく)形成されているため、第2の基板120が押圧されることによって導体パターン前駆体層110に当該層を潰そうとする方向の圧力が作用しても、導体パターン前駆体層110が押し広げられることがない。すなわち、各成形体200の導体パターン前駆体層110は、他の成形体200と積層される前後でその平面視形状が実質的に変化しない。その結果、導体パターン前駆体層110の配線部等の幅や厚さ(形状)の変化を抑えることができ、隣り合う配線同士が接触してしまったり、断線が生じてしまったりするのを防止することができ、信頼性に優れる多層配線基板を製造することができる。
このような成形体200同士の接合は、減圧下、より好ましくは真空下で行うのが好ましい。これにより、上下に重ねられる成形体200間に空気が残存するのを防止することができ、より信頼性の高い多層配線基板を製造することができる。
【0043】
(第2工程)
第1工程で得られた積層体400を、例えば、ベルト炉などによって加熱処理する。これにより、各成形体200は、焼結されることで配線基板31となり、また、導体パターン前駆体層110は、配線(配線パターン)や端子(電極パターン)からなる導体パターン313となる。
【0044】
ここで、積層体400の加熱温度としては、成形体200中に含まれるガラスの軟化点以上とするのが好ましく、具体的には、600℃以上、900℃以下とするのが好ましい。また、加熱条件としては、適宜な速度で温度を上昇させ、かつ下降させるようにし、さらに、最大加熱温度、すなわち前記の600℃以上900℃以下の温度では、その温度に応じて適宜な時間保持するようにする。
【0045】
このように、ガラスの軟化点以上の温度、すなわち前記温度範囲にまで加熱温度を上げることにより、得られるセラミックス基板のガラス成分を軟化させることができる。したがって、その後常温にまで冷却し、ガラス成分を硬化させることにより、積層基板を構成する各セラミックス基板と回路(導体パターン)との間がより強固に固着するようになる。
また、このような温度範囲で加熱することにより、得られるセラミックス基板は、900°以下の温度で焼結されて形成された、低温焼結セラミックス(LTCC)となる。
ここで、第1の基板100上に配されたインク中の金属は、加熱処理によって互いに融着し、連続することによって導電性を示すようになる。
【0046】
このような加熱処理によって、回路は、セラミックス基板中のコンタクトに直接接続させられ、導通させられて形成されたものとなる。ここで、この回路が単にセラミックス基板上に載っているだけでは、セラミックス基板に対する機械的な接続強度が確保されず、したがって衝撃等によって破損してしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態では、前述したように第1、第2の基板100、120中のガラスを一旦軟化させ、その後硬化させることにより、回路を第1、第2の基板100、120に対し強固に固着させている。したがって、形成された回路は、機械的にも高い強度を有するものとなる。
【0047】
以上、本発明の多層配線基板の製造方法および多層配線基板を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
100‥‥第1の基板 110‥‥導体パターン前駆体層 120‥‥第2の基板 200‥‥成形体 30‥‥多層配線基板(多層セラミックス回路基板) 31‥‥配線基板 311‥‥第1の基板 312‥‥第2の基板 313‥‥導体パターン(回路) 314‥‥導体ポスト 400‥‥積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体パターン前駆体層が形成された複数の成形体を積層してなる積層体を得る第1工程と、該第1工程で得られた前記積層体を焼成する第2工程とを有する多層配線基板の製造方法であって、
前記第1工程では、各前記成形体を、第1の基板上に前記導体パターン前駆体層を形成した後、前記第1の基板の前記導体パターン前駆体層が形成された面上に前記第1の基板よりも厚さの薄い第2の基板を積層することにより得、得られた複数の前記成形体を積層することにより前記積層体を得ることを特徴とする多層配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記第2の基板を前記第1の基板に積層する際、前記第1の基板および前記第2の基板の少なくとも一方を他方に向けて押圧する請求項1に記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、減圧下で前記第2の基板を前記第1の基板に積層する請求項1または2に記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程において、前記第2の基板を前記第1の基板に積層する際、前記第2の基板は、前記導体パターン前駆体層によって形成される前記第1の基板上の凸部に対応して変形する請求項1ないし3のいずれかに記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項5】
前記各成形体の前記導体パターン前駆体層は、他の前記成形体と積層される前後で平面視形状が変化しない請求項1ないし4のいずれかに記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項6】
前記第2の基板の平均厚さは、前記導体パターン前駆体層の厚さ以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1の基板および前記第2の基板は、同じ材料で構成されている請求項1ないし6のいずれかに記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項8】
前記導体パターン前駆体層は、インクジェット法により形成される請求項1ないし7のいずれかに記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする多層配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−138389(P2012−138389A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287699(P2010−287699)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】