説明

多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置

【課題】 気筒別点火時期制御を実行できる多気筒内燃機関において、気筒間空燃比ばらつき異常の検出精度を向上し、誤検出を防止する。
【課題手段】 多気筒内燃機関の回転変動に基づいて気筒間空燃比ばらつき異常を検出する異常検出処理(S103〜S105及びS107)と、多気筒内燃機関の回転変動を抑制するように点火時期を制御する点火時期制御と、を実行する装置において、異常検出処理を実行しているときに点火時期制御の実行を抑制する。点火時期制御の実行に伴う回転変動の減少が抑制されるので、気筒間空燃比ばらつき異常の検出精度を向上し、誤検出を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の気筒間空燃比のばらつき異常を検出するための装置に係り、特に、多気筒内燃機関において気筒間の空燃比が比較的大きくばらついていることを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒を利用した排気浄化システムを備える内燃機関では、排気中有害成分の触媒による浄化を高効率で行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設け、これによって検出された空燃比を所定の目標空燃比に一致させるようフィードバック制御を実施している。
【0003】
一方、多気筒内燃機関においては、通常全気筒に対し同一の制御量を用いて空燃比制御を行うため、空燃比制御を実行したとしても実際の空燃比が気筒間でばらつくことがある。このときばらつきの程度が小さければ、空燃比フィードバック制御で吸収可能であり、また触媒でも排気中有害成分を浄化処理可能なので、排気エミッションに影響を与えず、特に問題とならない。
【0004】
しかし、例えば一部の気筒の燃料噴射系が故障するなどして、気筒間の空燃比が大きくばらつくと、排気エミッションを悪化させてしまい、問題となる。このような排気エミッションを悪化させる程の大きな空燃比ばらつきは異常として検出するのが望ましい。特に自動車用内燃機関の場合、排気エミッションの悪化した車両の走行を未然に防止するため、気筒間空燃比ばらつき異常を車載状態(オンボード)で検出することが要請されており、最近ではこれを法規制化する動きもある。
【0005】
このような空燃比の気筒間ばらつきは、トルクの脈動を生じさせるため、気筒間ばらつきを内燃機関の回転変動に基づいて検出することができる。特許文献1が開示する制御装置では、気筒間のばらつきを回転変動により求め、気筒間のばらつきに応じて点火時期を補正することで、運転快適性を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−52620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、空燃比の気筒間ばらつきを回転変動に基づいて精度よく検出するには、検出の際の回転変動は大きいことが望ましい。他方、大きな回転変動はドライバビリティに悪影響を与えるので、これを抑制するために、気筒別に点火時期を進角させる方法がある(気筒別点火時期制御)。しかし、気筒別点火時期制御を実行すると回転変動が小さくなり、空燃比の気筒間ばらつきを精度よく検出することが困難になる。すなわち、気筒間ばらつきの検出と気筒別点火時期制御とは、回転変動の大きさにおいて背反する関係にあるということができ、前者の実行の結果として後者の精度が悪くなるという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、以上の事情に鑑みて創案され、その目的は、気筒別点火時期制御を実行できる多気筒内燃機関において、気筒間空燃比ばらつき異常の検出精度を向上し、誤検出を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様は、
多気筒内燃機関の回転変動に基づいて気筒間空燃比ばらつき異常を検出する異常検出手段と、
前記多気筒内燃機関の回転変動を抑制するように点火時期を制御する点火時期制御手段と、
を備えた多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置において、
前記異常検出手段を実行しているときに前記点火時期制御手段の実行を抑制する抑制手段を更に備えたことを特徴とする多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置である。
【0010】
この態様では、抑制手段が、異常検出手段を実行しているときに点火時期制御手段の実行を抑制するので、点火時期制御手段の実行に起因する回転変動の減少が、異常検出手段の実行中には抑制される。したがって、気筒別点火時期制御の実行に伴う回転変動の減少が抑制されるので、気筒間空燃比ばらつき異常の検出精度を向上し、誤検出を防止することができる。
【0011】
本発明の装置は好適には、
蒸発燃料を吸気系にパージするパージ手段と、
前記吸気系のパージ濃度を検出するパージ濃度検出手段と、
を更に備え、
前記抑制手段は、前記パージ濃度が所定値以上の場合には、前記異常検出手段の実行前に、前記点火時期制御手段の実行の制限を解除する。
【0012】
蒸発燃料を吸気系にパージするパージ手段を有する内燃機関においては、パージが高濃度であることに起因して燃焼が不安定となりうるため、大きな回転変動があった場合に、これが空燃比の気筒間ばらつきによるものか、パージが高濃度であることに起因するものかが区別できない。したがって、このような内燃機関においては、「パージ濃度が所定値よりも薄いこと」を空燃比の気筒間ばらつき異常の検出を実行するための前提条件とする必要があった。しかしながら、このような構成では、例えばパージ濃度が濃い状態が継続すると、その間にはばらつき異常の検出が行われず、空燃比の気筒間ばらつき異常が存在する状態が長期間許容されてしまう。この点、本発明の当該態様では、前記抑制手段が、パージ濃度が所定値以上の場合に、前記異常検出手段の実行前に、前記点火時期制御手段の実行の制限を解除するので、点火時期制御手段の実行によって得られる回転変動の抑制によりドライバビリティを改善することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、点火時期制御手段の実行に起因する回転変動の減少を抑制して検出精度を向上し、誤検出を防止することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】触媒前センサおよび触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図3】空燃比センサ出力の変動を示すグラフである。
【図4】第1実施形態における混合制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】第2実施形態における混合制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】第3実施形態における混合制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第5実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図8】第5実施形態における混合制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る内燃機関の概略図である。図示されるように、内燃機関(エンジン)1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストンを往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態の内燃機関1は自動車に搭載された多気筒内燃機関であり、より具体的には並列4気筒の火花点火式内燃機関即ちガソリンエンジンである。但し本発明が適用可能な内燃機関はこのようなものに限られず、多気筒内燃機関であれば気筒数、形式等は特に限定されない。
【0017】
図示しないが、内燃機関1のシリンダヘッドには吸気ポートを開閉する吸気弁と、排気ポートを開閉する排気弁とが気筒ごとに配設されており、各吸気弁および各排気弁はカムシャフトによって開閉させられる。シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気を点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
【0018】
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管4を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量(単位時間当たりの吸入空気の量すなわち吸気流量)を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式のスロットルバルブ10とが組み込まれている。吸気ポート、枝管4、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
【0019】
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁の開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストンで圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
【0020】
一方、各気筒の排気ポートは排気マニフォールド14に接続される。排気マニフォールド14は、その上流部をなす気筒毎の枝管14aと、その下流部をなす排気集合部14bとからなる。排気集合部14bの下流側には排気管6が接続されている。排気ポート、排気マニフォールド14及び排気管6により排気通路が形成される。そしてこの排気通路のうち、排気マニフォールド14の排気集合部14bから下流側の部分は、各気筒の排気ガスが集合する集合部を形成する。
【0021】
排気管6の上流側と下流側にはそれぞれ三元触媒からなる触媒、すなわち上流触媒11と下流触媒19が直列に取り付けられている。上流触媒11の上流側及び下流側にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための第1及び第2の空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設置されている。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18は、上流触媒11の直前及び直後の位置に設置され、排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。このように排気通路の集合部14bには単一の触媒前センサ17が設置されている。
【0022】
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)22に電気的に接続されている。ECU22は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU22には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ16、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサ23、車輪の回転速度を検出する車速センサ24、その他の各種センサが、図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU22は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。なおスロットル開度は通常アクセル開度に応じた開度に制御される。
【0023】
触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2に触媒前センサ17の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ17は、検出した排気空燃比(触媒前空燃比A/Ff)に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキ(理論空燃比、例えばA/F=14.6)であるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)である。
【0024】
他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、ストイキを境に出力値が急変する特性を持つ。図2に触媒後センサ18の出力特性を示す。図示するように、排気空燃比(触媒後空燃比A/Fr)がストイキであるときの出力電圧、すなわちストイキ相当値はVrefr(例えば0.45V)である。触媒後センサ18の出力電圧は所定の範囲(例えば0〜1(V))内で変化する。排気空燃比がストイキよりリーンのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより低くなり、排気空燃比がストイキよりリッチのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより高くなる。
【0025】
上流触媒11及び下流触媒19は、それぞれに流入する排気ガスの空燃比A/Fがストイキ近傍のときに排気中の有害成分であるNOx、HCおよびCOを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。
【0026】
上流触媒11に流入する排気ガスの空燃比がストイキ近傍に制御されるように、空燃比制御(ストイキ制御)がECU22により実行される。この空燃比制御は、触媒前センサ17によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるような主空燃比制御(主空燃比フィードバック制御)と、触媒後センサ18によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるような補助空燃比制御(補助空燃比フィードバック制御)とからなる。
【0027】
[気筒間空燃比ばらつき異常検出]
さて、例えば全気筒のうちの一部の気筒のインジェクタ12が故障し、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生したとする。例えば#1気筒が他の#2、#3及び#4気筒よりも燃料噴射量が多くなり、その空燃比が大きくリッチ側にずれる場合等である。このときでも前述の主空燃比フィードバック制御により比較的大きな補正量を与えれば、触媒前センサ17に供給されるトータルガスの空燃比をストイキに制御できる場合がある。しかし、気筒別に見ると、#1気筒がストイキより大きくリッチ、#2、#3及び#4気筒がストイキよりリーンであり、全体のバランスとしてストイキとなっているに過ぎず、エミッション上好ましくないことは明らかである。そこで本実施形態の装置は、かかる気筒間空燃比ばらつき異常を、回転変動に基づいて検出するように構成されている。
【0028】
図3に示すように、触媒前センサ17によって検出される排気空燃比A/Fは、1エンジンサイクル(=720°CA)を1周期として周期的に変動する傾向にある(例えば曲線a)。そして気筒間空燃比ばらつきが発生すると、1エンジンサイクル内での変動が大きくなる(例えば曲線b)。
【0029】
ここでばらつき値Dev(#i)は、気筒間空燃比のばらつき度合いを表すパラメータである。例えば、クランク角センサ16の出力信号に基づいて、クランク角30°CA回転するのに要した時間T30が、各気筒(#i=1,2,3,4)の燃焼行程に対応する期間について算出され、その最大値T30max(#i)と最小値T30min(#i)との差分値ΔTT30(#i)に次の数式1によるなまし処理を施して、回転変動値ΔT30を得る。
ΔT30(#i)=ΔT30(#i)old+k×{ΔTT30(#i)−ΔT30(#i)old}
ここでΔT30(#i)oldは前回の回転変動である。
【0030】
このようにして得られた回転変動値ΔT30(#i)と、その全気筒の平均値ΔT30aveとの差分値が、平均値ΔT30aveに対してなす割合が、次の数式2によりばらつき値Dev(#i)として算出される。
Dev(#i)={ΔT30(#i)−ΔT30ave}/ΔT30ave
【0031】
ばらつき値Dev(#i)が大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する燃料噴射量ズレが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。そこで当該ばらつき値Dev(#i)が所定の異常判定値以上であればばらつき異常ありと判定され、当該ばらつき値Dev(#i)が異常判定値より小さければばらつき異常なし、即ち正常と判定される。
【0032】
[混合制御ルーチン]
ところで、上述したとおり、空燃比の気筒間ばらつきを回転変動に基づいて精度よく検出するには、検出の際の回転変動は大きいことが望ましい。他方、大きな回転変動はドライバビリティに悪影響を与えるので、これを抑制するために、気筒別に点火時期を進角させる方法がある(気筒別点火時期制御)。しかし、気筒別点火時期制御を実行すると回転変動が小さくなり、空燃比の気筒間ばらつきを精度よく検出することが困難になる。すなわち、気筒間ばらつきの検出と気筒別点火時期制御とは、回転変動の大きさにおいて背反する関係にあるということができる。このような現象を考慮して、本実施形態では次の混合制御ルーチンにより、異常検出手段を実行しているときに、点火時期制御手段の実行を抑制することにより、点火時期制御手段の実行に起因する回転変動の減少を、異常検出手段の実行中に抑制するものである。
【0033】
図4を用いて、混合制御ルーチンについて説明する。このルーチンは例えばECU22により前記サンプル周期τ毎に繰り返し実行される。
【0034】
まずステップS101では、異常検出を行うのに適した所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件は、次の各条件の全てが成立したときに成立する。
(1)エンジンの暖機が終了している。例えば水温センサ23で検出された水温が所定値以上であるとき暖機終了とされる。
(2)車速が0である。例えば車速センサ24の検出値に基づいて判定される。
(3)エンジンがアイドリング中である。例えばクランク角センサ16の検出値に基づいて判定される。
(4)ばらつき検出が終了していない、あるいは前回のばらつき検出終了から一定期間が経過もしくは一定走行距離を走行していない。
【0035】
前提条件が成立している場合には、ステップS102において、気筒別点火時期制御の制限がセットされる。この制限は、例えばECU22内の所定の制限フラグのセットにより行われる。当該制限フラグは別途の気筒別点火時期制御ルーチンにおいて参照され、当該制限フラグがセットされているときには、気筒別点火時期制御は実行されない。
【0036】
続いて、回転変動に基づく気筒間空燃比ばらつき異常が検出される(S103〜S105及びS107)。まず、クランク角センサ16の検出値に基づいて、上述の手順によりばらつき値Dev(#i)が算出され(S103)、算出したばらつき値が異常判定値と比較(S104)される。ばらつき値Dev(#i)が所定の異常判定値以上であれば、ばらつき異常ありと判定され(S105)、当該ばらつき値Dev(#i)が異常判定値より小さければ、ばらつき異常なし、即ち正常と判定されて(S107)本ルーチンが終了される。なお、異常ありの判定と同時に、あるいは異常ありの判定が2トリップ(すなわち、エンジン始動から停止までの1トリップを2回連続で)続けて出された場合に、異常の事実をユーザに知らせるべくチェックランプ等の警告装置を起動させ、且つ所定のダイアグノーシスメモリに異常情報を、整備作業者による呼び出しが可能な態様で記憶させるのが好ましい。
【0037】
他方、ステップS101において、前提条件が成立していない場合には、ステップS106において、気筒別点火時期制御の制限がリセットされて、本ルーチンが終了される。その結果、別途の気筒別点火時期制御ルーチンにおいて、気筒別点火時期制御が制限されることなく実行される。すなわち、例えば上記ステップS103と同様の処理により、クランク角センサ16の検出値に基づいてばらつき値Dev(#i)が算出され、このばらつき値Dev(#i)の大きさに応じて、ばらつき値Dev(#i)がゼロになるように、所定のマップ又は関数により定められる量だけ当該気筒の点火時期が進角又は遅角される。
【0038】
以上の処理の結果、本実施形態では、異常検出処理(S103〜S105及びS107)を実行しているときに点火時期制御の実行を抑制するので、点火時期制御の実行に起因する回転変動の減少が、異常検出手段の実行中には抑制される。したがって本実施形態では、気筒間空燃比ばらつき異常の検出精度を向上し、誤検出を防止することができる。
【0039】
また本実施形態では、ステップS101において「(4)ばらつき検出が終了していない」ことを、気筒別点火時期制御を制限(S102)するための前提条件の一つとして採用したので、点火時期制御制限の解除(S106)がばらつき検出(S103〜S105及びS107)が終了した場合に限って行われることが保証され、これにより、振動レベルが良(小さい)から悪(大きい)へと遷移する事態が防止される。したがって、振動レベルの当該遷移による商品性悪化を抑制することができる。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の装置は、ばらつき検出の前提条件が成立した場合に、気筒別点火時期制御を一部制限するものである。すなわち、上述した第1実施形態では、ばらつき検出の前提条件(S101)が成立した場合に、気筒別点火時期制御を制限すなわち完全に休止するものであるが、ばらつき検出が十分可能なのであれば、気筒別点火時期制御によって回転変動が抑制されても支障はない。このため第2実施形態では、ばらつき検出の前提条件が成立した場合に、気筒別点火時期制御を一部制限しつつ一部許容することによって、エミッション悪化の抑制と商品性向上との両立を図るものである。第2実施形態の機械的構成は上記第1実施形態と同様であるため、その詳細の説明は省略する。
【0041】
図5に従って、第2実施形態で実行される混合制御ルーチンについて説明する。まずステップS201では、異常検出を行うのに適した所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件は上記第1実施形態のステップS101で用いられた(1)〜(4)と同様である。
【0042】
前提条件が成立している場合には、ステップS202において、気筒別点火時期制御の一部制限がセットされる。この一部制限は、例えばECU22内の所定の一部制限フラグのセットにより行われる。当該一部制限フラグは、別途の気筒別点火時期制御ルーチンにおいて参照され、当該一部制限フラグがセットされているときには、気筒別点火時期制御は完全には実行されないが、その一部を制限した形で実行される。具体的には、例えば通常の完全な気筒別点火時期制御においてベース点火時期に対して10°CAまでの進角が許容される場合に、一部を制限された気筒別点火時期制御では、進角量が2.5°CA以下に制限される。なお、このように進角量または遅角量に上限を設ける形式のほか、進角量に0よりも大きく1よりも小さい係数を乗ずる形式であっても良い。
【0043】
ステップS203からS207までの処理は、上記第1実施形態におけるステップS103からS107までの処理と同様である。
【0044】
以上の処理の結果、本実施形態では、ばらつき検出の前提条件が成立した場合に、気筒別点火時期制御を一部制限しつつ一部許容することによって、エミッション悪化の抑制と商品性向上とを両立させることができる。
【0045】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態の装置は、ばらつき異常検出の前提条件が成立した場合に、気筒別点火時期制御を徐々に制限するものである。すなわち、上述した第1実施形態では、ばらつき異常検出の前提条件(S101)が成立した場合に、気筒別点火時期制御を直ちに制限すなわちその時点から完全に休止するものであるが、この構成では気筒別点火時期制御の制限の開始に伴って、振動レベルが良(小さい)から悪(大きい)へと急激に遷移し、商品性を損なうおそれがある。このため第3実施形態では、ばらつき異常検出の前提条件が成立した場合に、気筒別点火時期制御を徐々に制限する(すなわち、制御量を徐々に減少させる)ことによって、振動レベルの急激な悪化を抑制し、商品性の低下を抑制するものである。第3実施形態の機械的構成は上記第1実施形態と同様であるため、その詳細の説明は省略する。
【0046】
図6に従って、第3実施形態で実行される混合制御ルーチンについて説明する。まずステップS301では、異常検出を行うのに適した所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件は上記第1実施形態のステップS101で用いられた(1)〜(4)と同様である。
【0047】
前提条件が成立している場合には、ステップS302において、気筒別点火時期制御の制限が完了しているかが判断される。ここでいう「制限が完了」とは、気筒別点火時期制御の制限が完全に行われていることをいう。初期段階では制限は行われていないのでここでは否定される。
【0048】
次にステップS305において、気筒別点火時期制御の制限幅が増大される。ここでいう制限幅とは、気筒別点火時期制御の制限量(値もしくは割合)であり、初期段階ではゼロであるのに対し、例えば通常の完全な気筒別点火時期制御においてベース点火時期に対して10°CAまでの進角が許容される場合に、1秒あたり許容進角量が1°CA減少される。なお、このように所定の進角量を複数回に亘って減少させる形式のほか、進角量に0よりも大きく1よりも小さい係数を乗ずるステップを所定時間おきに複数回に亘って繰り返し、所定値を下回った時点で完了と判断する形式であっても良い。また、制限幅の増大又は制御量の減少は直線的でなくてもよい。
【0049】
ステップS301,S302及びS305が繰り返された結果、気筒別点火時期制御の制限が完了、すなわち気筒別点火時期制御が完全に休止されると、ステップS302で肯定され、次に、気筒間空燃比ばらつき異常検出のための回転変動の検出が終了しているかが判断される。そして、初期段階ではここで否定されて、回転変動の検出が行われる(S306)。回転変動の検出はそれが完了するまで繰返し実行され、完了すると別途の処理ルーチン(例えば、上記第1実施形態におけるステップS103〜S105及びS107と同様のもの)により、ばらつき異常判定が行われる。
【0050】
回転変動の検出が終了すると、ステップS303で否定され、次に、気筒別点火時期制御制限の解除が完了するまでの間(S304)、気筒別点火時期制御の制限幅が徐々に減少(S307)される。これは、いわば上記ステップS302及びS305と逆の処理であり、気筒別点火時期制御の制限量(値もしくは割合)が100%から0%に徐々に減少させられる。その結果、例えば通常の完全な気筒別点火時期制御においてベース点火時期に対して10°CAまでの進角が許容される場合に、1秒あたり許容進角量が1°CA増加される。なお、制限幅の減少又は制御量の増加は直線的でなくてもよい。
【0051】
以上の処理の結果、本実施形態では、ばらつき異常検出の前提条件が成立した場合に、気筒別点火時期制御が徐々に制限される。したがって、振動レベルの急激な悪化を抑制し、商品性の低下を抑制することができる。また、ばらつき異常検出のための回転変動の検出が終了したことを条件に、気筒別点火時期制御の制限を徐々に解除するので、回転変動の解消が徐々に行われユーザの違和感を抑制できる。
【0052】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態の装置は、気筒別点火時期制御による補正量(制御量)が小さいことを、ばらつき異常検出の前提条件の一つとして追加したものである。
【0053】
気筒別点火時期制御は、回転変動値に対するフィードバック制御に相当するため、制御量を急激に変化させることは難しく、通常は徐々にその制御量が増大してゆく。一方、ばらつき異常検出が必要な状況では、回転変動が大きく出ているため、これを抑制すべく気筒別点火時期制御も比較的大きな制御量が必要になるが、制御量が増大するまでの間には、制御量の小さい期間が存在する。そこで本実施形態では、気筒別点火時期制御による補正量(制御量)が小さいことを、ばらつき異常検出の前提条件の一つとして追加することにより、気筒別点火時期制御を制限することなく、ばらつき異常検出の検出精度を確保するものである。第4実施形態の機械的構成は上記第1実施形態と同様であるため、その詳細の説明は省略する。
【0054】
第4実施形態で実行される混合制御ルーチンは、以下のとおりである。まず、ばらつき異常検出を行うのに適した所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件は、上記第1実施形態のステップS101で用いられた(1)〜(4)に加え、(5)気筒別点火時期制御による補正量(制御量)が所定値以下であることを含む。そして、このような前提条件が成立している場合に、気筒間空燃比ばらつき異常検出が、例えば上記第1実施形態におけるステップS103〜S105及びS107と同様の処理により実行され、前提条件が成立していない場合にはばらつき異常検出は実行されない。
【0055】
以上の処理の結果、本実施形態では、気筒別点火時期制御による補正量(制御量)が小さいことを、ばらつき異常検出の前提条件の一つとして追加した。したがって、気筒別点火時期制御を制限することなく、ばらつき異常検出の検出精度を確保することができる。
【0056】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。第5実施形態の装置は、蒸発燃料を吸気系にパージするパージ手段と、吸気系のパージ濃度を検出するパージ濃度検出手段と、を更に備えた構成において、パージ濃度が所定値以上の場合には、ばらつき異常検出の実行前に、気筒別点火時期制御の実行の制限を解除するものである。
【0057】
燃料タンクから蒸発する蒸発燃料を吸気系にパージするパージ手段を有する内燃機関においては、パージが高濃度であることに起因して燃焼が不安定となりうるため、大きな回転変動があった場合に、これが空燃比の気筒間ばらつきによるものか、パージが高濃度であることに起因するものかが区別できない。したがって、このような内燃機関においては、「パージ濃度が所定値よりも薄いこと」を空燃比の気筒間ばらつき異常の検出を実行するための前提条件とする必要があった。しかしながら、このような構成では、例えばパージ濃度が濃い状態が継続すると、その間にはばらつき異常の検出が行われず、空燃比の気筒間ばらつき異常が存在する状態が長期間許容されてしまう。そこで本実施形態では、パージ濃度が所定値以上の場合には、ばらつき異常検出の実行前に、気筒別点火時期制御の実行の制限を解除することにより、気筒別点火時期制御の実行によって得られる回転変動の抑制によってドライバビリティを改善するものである。
【0058】
第5実施形態の装置は、蒸発燃料を吸気系にパージするパージ手段を備えている。図7に示されるように、燃料タンク20にはベーパ通路26が接続されており、ベーパ通路26は、蒸発燃料を一時的に吸着するチャコールキャニスタ21を介して、エアクリーナ9に通じている。ベーパ通路26には、その開度を制御するための電気式のパージ流量制御弁28が設置されている。ベーパ通路26には更に、燃料タンク20の内圧を検出するためのタンク内圧センサ28が設けられ、燃料タンク20とチャコールキャニスタ21との間には、燃料タンク20内の圧力が所定値以上になったときに開くタンク内圧制御弁29、及びその開閉状態を検出するためのスイッチ30が設置されている。パージ流量制御弁28はECU22の出力ポートに、またタンク内圧センサ28及びスイッチ30はECU22の入力ポートに、それぞれ所定のA/DまたはD/Aコンバータを介して接続されている。第5実施形態の残余の機械的構成は上記第1実施形態と同様であるため、その詳細の説明は省略する。
【0059】
図8に従って、第5実施形態で実行される混合制御ルーチンについて説明する。まずステップS501では、ばらつき異常検出が終了しているかが判断される。初期段階ではばらつき異常検出は終了していないので、ここでは否定される。次に、ステップS502において、パージ濃度が予め定められた基準値P1以上であるかが判断される。この基準値P1は、パージ濃度がそれ以上の場合に、パージが高濃度であることに起因して回転変動が生じ得て空燃比の気筒間ばらつき異常検出に適切でなくなるような値である。パージ濃度は、例えば触媒前センサ17、触媒後センサ18、タンク内圧センサ28、スイッチ30及びエアフローメータ5の検出値及びパージ流量制御弁28の動作状態に基づいて推定することができる。
【0060】
パージ濃度が基準値P1未満の場合には、次に、パージ濃度が予め定められた基準値P2未満かが判断される(S504)。基準値P2は基準値P1よりも小さい値であって、ばらつき異常の検出条件となる濃度値P3よりもやや高い値に設定される。否定の場合には処理がリターンされる。
【0061】
パージ濃度が予め定められた基準値P2未満である場合には、次にパージ濃度が予め定められた基準値P3未満であるかが判断される(S505)。この基準値P3は、ばらつき異常の検出条件となる濃度値である。肯定の場合にはばらつき異常検出が、例えば上記第1実施形態におけるステップS103〜S105及びS107と同様の処理により実行される(S508)。
【0062】
否定の場合には、次に、気筒別点火時期制御の制限が完了しているかが判断される(S506)。ここでいう「制限が完了」とは、上述した第3実施形態におけるステップS302と同様に、気筒別点火時期制御の制限が完全に行われていることをいう。初期段階では制限は行われていないのでここでは否定される。
【0063】
次にステップS507において、気筒別点火時期制御の制限幅が増大される。ここでいう制限幅とは、上述した第3実施形態におけるステップS305と同様に、気筒別点火時期制御の制限量(値もしくは割合)であり、初期段階ではゼロであるのに対し、例えば通常の完全な気筒別点火時期制御においてベース点火時期に対して10°CAまでの進角が許容される場合に、1秒あたり許容進角量が1°CA減少される。なお、このように所定の進角量を複数回に亘って減少させる形式のほか、進角量に0よりも大きく1よりも小さい係数を乗ずるステップを所定時間おきに複数回に亘って繰り返し、所定値を下回った時点で完了と判断する形式であっても良い。また、制限幅の増大又は制御量の減少は直線的でなくてもよい。ステップS501,S502,S504〜S507の処理が繰り返された結果、気筒別点火時期制御の制限が完了、すなわち気筒別点火時期制御が完全に休止されると、ステップS507で肯定されて処理がリターンされる。
【0064】
そして、ステップS502において、パージ濃度が基準値P1以上の場合には、気筒別点火時期制御の制限が解除される(S503)。したがって、この場合には、ばらつき異常検出は実行されず、且つ気筒別点火時期制御が実行され、後者によって得られる回転変動の抑制によってドライバビリティが改善される。
【0065】
以上の処理の結果、本実施形態では、パージ濃度が所定値以上の場合に(S502)、ばらつき異常検出の実行前に、気筒別点火時期制御の実行の制限を解除(S503)することにより、気筒別点火時期制御の実行によって得られる回転変動の抑制によってドライバビリティを改善することができる。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば前記各実施形態では、ばらつき異常検出において、ばらつき異常ありの場合(S105)に警告と情報の記憶を行う構成としたが、ばらつき異常ありの場合には、例えばばらつき値Dev(#i)に応じて所定のマップにより定められる量だけ燃料噴射量を増量または減量することにより、ばらつき異常を解消するようにフィードバック制御を行ってもよい。
【0067】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 内燃機関
3 燃焼室
5 エアフローメータ
6 排気管
11 触媒
12 インジェクタ
14 排気マニフォールド
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
22 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関の回転変動に基づいて気筒間空燃比ばらつき異常を検出する異常検出手段と、
前記多気筒内燃機関の回転変動を抑制するように点火時期を制御する点火時期制御手段と、
を備えた多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置において、
前記異常検出手段を実行しているときに前記点火時期制御手段の実行を抑制する抑制手段を更に備えたことを特徴とする多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置であって、
蒸発燃料を吸気系にパージするパージ手段と、
前記吸気系のパージ濃度を検出するパージ濃度検出手段と、
を更に備え、
前記抑制手段は、前記パージ濃度が所定値以上の場合に、前記異常検出手段の実行前に、前記点火時期制御手段の実行の制限を解除することを特徴とする多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154300(P2012−154300A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16675(P2011−16675)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】