説明

多糖体、その製造方法及びその用途

【課題】微生物由来の新規な構造及び物性を有する多糖体、該多糖体の製造方法、及び該多糖体を含有する医薬、化粧品及び皮膚外用剤の提供。
【解決手段】海洋性微生物の一種ハロモナス属細菌を培養し、その培養物より分離精製して得られ、D−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種を本質的に構成糖とし、ゲルろ過クロマトグラフィーにて測定した重量平均分子量が150万〜850万である多糖体、及び該多糖体を含有する保湿剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤、抗血液凝固剤、化粧品および皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になる多糖体、その製造方法及びその用途に関する。本発明の多糖体は、化粧品、医薬品及び食品の添加剤などとして利用できる。
【背景技術】
【0002】
微生物が生産する多糖類は、多様な構造と多彩な機能を有していることから、食品、医薬品及び化粧品などの幅広い分野で利用しようという試みがなされている。多糖類を生産する微生物は数多く知られている。例えば、特開平5−276972号公報(特許文献1)においてストレプトコッカス属微生物、特開平7−330805号公報(特許文献2)においてアグロバクテリウム属微生物、特開平10−237105号公報(特許文献3)においてエンテロバクター属微生物、特開2003−12701号公報(特許文献4)においてキャンディダ属微生物が知られている。
【0003】
海洋性細菌の一種であるハロモナス(Halomonas)属細菌は、菌体外多糖を生産することが知られている。例えば、ジャーナル・オブ・インダストリアル・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology), 2000年,第24巻,p.374−378(非特許文献1)では、ハロモナス属細菌が、2.8g/L、1.5g/L、1.7g/Lの生産性で、1%溶液(w/v)の粘度が23.48Pa・s、10.98Pa・s、6.18Pa・sである多糖を生産することが知られている。また、エクストリーモファイル(Extremophiles),2003年,第7巻,p.319−326(非特許文献2)では、ハロモナス・マウラ・ストレインS−30(Halomonas maura strain S-30)が、3.8g/Lの生産性で、0.5%溶液(w/v)の粘度が70mPa・sであり、構成糖がD−ガラクトース:D−マンノース:D−グルコース:D−グルクロン酸の4種からなり、構成糖のモル比がD−ガラクトース:D−マンノース:D−グルコース:D−グルクロン酸=14:34.8:29.3:21.9であり、分子量が470万であり、硫黄含量が6.5重量%である多糖体を生産することが知られている。
しかし、これらの報告事例は物理的な特徴の記載が中心であり、生産された多糖の産業上の利用価値についての記載は乏しく、特に化粧品や医薬品素材としての機能や効果については未知である。
【0004】
ところで、乳酸菌の一種が生産するヒアルロン酸は優れた保湿効果を有することから、代表的な化粧品用の高機能素材として認知され、その需要を増してきた。さらに、ヒアルロン酸の他にも、例えば、特開平8−53501号公報(特許文献5)では、ヒアルロン酸にアセチル基を導入して保湿力を高めた修飾ヒアルロン酸や、特開2000−178196号公報(特許文献6)では、硫酸基を導入してヒアルロニダーゼ阻害能を付与させた硫酸化ヒアルロン酸及び硫酸化デキストランなどが化粧品開発に使用されている多糖として知られている。
【0005】
化粧品分野において、微生物発酵により生産される化粧品素材は、原料の安定供給や原料トレサビリティーの点で好都合である。近年、生活習慣の多様化が進むに連れ、化粧品は生活の質向上や改善の手段の一つとして利用されるようになり、そのため化粧品素材の開発においても、より一層の高機能化が求められている。特に、機能性化粧品の開発において、一つの素材で多機能の効果を有する素材の開発は製剤設計の簡略化のためにも都合がよい。
【特許文献1】特開平5−276972号公報
【特許文献2】特開平7−330805号公報
【特許文献3】特開平10−237105号公報
【特許文献4】特開2003−12701号公報
【特許文献5】特開平8−53501号公報
【特許文献6】特開2000−178196号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・インダストリアル・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology), 2000年,第24巻,p.374−378
【非特許文献2】エクストリーモファイル(Extremophiles),2003年,第7巻,p.319−326
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景のもと、新規な構造及び物性を有する多糖体を発掘し、産業上有用な新規素材として開発していくこと、特に微生物由来で多機能の効果を有する多糖体の探索が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、海洋性微生物の一種であるハロモナス属細菌が、D−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種を構成糖とする新規な多糖体を生産することを知見した。さらに、この多糖体が、保湿効果、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用及び抗血液凝固作用などの化粧品、医薬品及び食品分野において有用な効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に示す多糖体、その製造方法及びその用途を提供するものである。
[1]構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になり、ゲルろ過クロマトグラフィーにて測定した重量平均分子量が150万〜850万であることを特徴とする多糖体。
[2]構成糖のモル比がD−ガラクトース:D−グルクロン酸:D−マンノース=10〜45:10〜40:30〜65である、[1]記載の多糖体。
[3]構成糖の一部が硫酸化されており、その硫黄含量が多糖体の乾燥重量に対し2〜12重量%である、[1]または[2]記載の多糖体。
[4]構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になり、ゲルろ過クロマトグラフィーにて測定した分子量が500万〜800万であり、構成糖のモル比がD−ガラクトース:D−グルクロン酸:D−マンノース=19〜35:19〜30:40〜55であり、構成糖の一部が硫酸化されており、その硫黄含量が多糖体の乾燥重量に対し3〜10重量%であることを特徴とする多糖体。
[5]ハロモナス属細菌を培養することによって得られる、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の多糖体。
[6]ハロモナス属細菌がハロモナス・マウラ(Halomonas maura)である、[5]記載の多糖体。
[7]ハロモナス・マウラ(Halomonas maura)がハロモナス・マウラATCC700995株またはその変異株である、[6]記載の多糖体。
【0009】
[8]ハロモナス属細菌を培養し、その培養物より多糖体を分離精製することを特徴とする、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の多糖体の製造方法。
[9]ハロモナス属細菌がハロモナス・マウラ(Halomonas maura)である、[8]記載の製造方法。
[10]ハロモナス・マウラ(Halomonas maura)がハロモナス・マウラATCC700995株またはその変異株である、[9]記載の製造方法。
【0010】
[11][1]〜[7]のいずれか1項に記載の多糖体を含む保湿剤。
[12][1]〜[7]のいずれか1項に記載の多糖体を含むヒアルロニダーゼ活性阻害剤。
[13][1]〜[7]のいずれか1項に記載の多糖体を含む抗血液凝固剤。
[14][1]〜[7]のいずれか1項に記載の多糖体を含む化粧品。
[15][1]〜[7]のいずれか1項に記載の多糖体を含む皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になる新規な多糖体及びその製造方法を提供することができる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の多糖体は、保湿効果、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用及び抗血液凝固作用の少なくとも1以上の機能を有していることから、化粧品または医薬品の素材として好適に用いることができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の多糖体は、高粘調であり、天然物由来であることから、ゲル化剤・ゼリー化剤などの食品添加剤として用いることもできる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の多糖体は、微生物発酵により生産されるものであるので、原料の安定供給や原料トレサビリティーの点で好都合である。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の化粧品または皮膚外用剤は、本発明の多糖体を含むものであるので、肌荒れの防止または改善、保湿など種々の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の多糖体、その製造方法及びその用途等について詳細に説明する。
【0013】
本発明の多糖体は、構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になり、ゲルろ過クロマトグラフィーにて測定した重量平均分子量150万〜850万を有している。ここで、「構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になる」とは、本発明の多糖体が、D−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種の単糖がグリコシド結合で結合してなる複合多糖であって、D−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノース以外の構成糖を実質的に含まないことを意味する。ここで、「D−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノース以外の構成糖を実質的に含まない」とは、本発明の多糖体を構成する全構成糖のうち、モル比にして、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種であることを意味する。
【0014】
本発明の多糖体において、D−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの構成糖のモル比は特に制限されるものではないが、D−ガラクトース:D−グルクロン酸:D−マンノース=10〜45:10〜40:30〜65であることが好ましく、15〜40:15〜35:35〜60であることがより好ましく、19〜35:19〜30:40〜55であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明において、多糖体の構成糖の定性定量分析には、高速液体クロマトグラフィーを用いることができる。高速液体クロマトグラフィーは、常法に従って行えばよく、装置や測定条件等は通常当分野で用いられているものを用いることができる。測定条件は特に制限されるものではないが、例えば、本発明の多糖体を4Mのトリフルオロ酢酸(TFA)を使用し、100℃、3時間の条件下で酸加水分解を行った後、4−アミノ安息香酸エチルで標識を施したものを検体とし、同条件下で4−アミノ安息香酸エチル標識した12種類の単糖を標品として、分析することができる。カラムは、Waters社製のXterra(登録商標)RP18カラムを使用し、0.2Mホウ酸ナトリウム:アセトニトリル=95:5の混合液を移動相として用いることができる。
【0016】
本発明の多糖体のゲルろ過クロマトグラフィーにて測定した分子量は150万〜850万である。該分子量は、300万〜850万であることが好ましく、500万〜800万であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明において、多糖体の分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー法を用いて測定する。ゲルろ過クロマトグラフィー法による測定は常法に従って行えばよく、特に制限されるものではないが、例えば、東ソー株式会社製の「TSK−GEL(登録商標)GMPWXL」を使用し、0.2MNaCl/0.2Mリン酸緩衝液(pH6.8)を移動相とし、分子量既知のプルラン(昭和電工株式会社製)、デキストランT2000(アマシャム バイオサイエンス株式会社製)を標準サンプルとして作成した分子量−保持時間標準曲線を使用して分子量を測定することができる。
ゲルろ過クロマトグラフィー法による分子量の測定については、例えば、特開平7−309902号公報、特開平5−39306号公報、エクストリーモファイル(Extremophiles),2003年,第7巻,p.319−326などを参照することができる。
【0018】
本発明の多糖体は、その構成糖の一部が硫酸化されていてもよい。本発明の多糖体の硫黄含量は、多糖体の乾燥重量に対し、2〜12重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることがより好ましく、4〜8重量%であることがさらに好ましい。
なお、硫黄含量はICP発光分光法を用いて測定することができる。ICP発光分光法による測定は常法に従って行えばよく、特に制限されるものではないが、例えば、分析化学ハンドブック,1992年,p.226−236を参照し、前処理として硝酸及び過塩素酸による湿式分解を行い、Thermo Jarrell Ash社製のIRIS/APを用いて測定することができる。
【0019】
本発明の多糖体の粘度は、特に制限されるものではないが、本発明の多糖体の0.05%水溶液(w/v)の粘度が30〜80Pa・sであることが好ましく、40〜70Pa・sであることがより好ましく、50〜60Pa・sであることがさらに好ましい。
本発明の多糖体の粘度は、特に制限されるものではないが、例えばB型粘度計を用いて測定することができる。例えば、25℃に調整したスリープに本発明の多糖体の水溶液(濃度0.05%(w/v))を30mL充填し、5分間静置する。その後、適当な回転数(例えば、6rpm)で20秒間測定を行うことにより粘度を測定することができる。
【0020】
次に、本発明の多糖体の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、ハロモナス(Halomonas)属に属し、本発明の多糖体を生産しうる微生物を培養し、その培養物から得られた多糖体を分離精製することを含む。
【0021】
本発明の製造方法に用いられる好ましい微生物としては、ハロモナス・マウラ(Halomonas maura)が挙げられる。中でも、ハロモナス・マウラATCC700995株またはその変異株であることが好ましい。ここで「変異株」とは、種々の変異処理を繰り返すことにより、本発明の多糖体の生産能が天然のハロモナス・マウラATCC700995株よりも増強した菌株をいう。このような変異株は、紫外線、X線等の放射線、エチルメタンスルホン酸、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の化学的突然変異誘発物質などを用いた公知の突然変異誘発手段により発生させることができる。
【0022】
本発明の製造方法において、前記微生物を培養するための培地としては、ハロモナス(Halomonas)属に属する微生物が生育でき、本発明の多糖体を生産する炭素源、窒素源、無機塩類及び微量栄養源を適量含有するものであれば特に制限されない。合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。
炭素源としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、グリセロールなどの糖質類、ヘミセルロース、でん粉、コーンスターチ等の天然高分子等が利用できる。中でも、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、グリセロールなどの糖質類が好ましく用いられる。窒素源としては、硝酸塩、アンモニウム塩などの化合物;ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、ペプチド、アミノ酸、肉エキス、コーングルーテンミール、綿実油、脱脂大豆などの天然物が利用できる。無機塩類としては、例えば、ナトリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、硫酸塩などが利用できる。微量栄養源としては、酵母エキス、各種ビタミン類などが利用できる。
【0023】
培地中の炭素源の含有量は、通常1〜5重量%が適当であり、2〜4重量%が好ましい。窒素源の含有量は、通常は0.1〜3重量%が適当であり、0.5〜1重量%が好ましい。無機塩類の含有量は、通常は1〜5重量%が適当であり、2〜4重量%が好ましい。微量栄養源の含有量は、通常は0.05〜1重量%が適当であり、0.1〜0.5重量%が好ましい。
【0024】
培地の状態は、固体でも液体でもよい。液体培地を使用する場合には、静置培養でもよいが、振とう培養、通気攪拌培養の方がより高収量で多糖体を得ることができるので好ましい。
【0025】
培養時のpHは、微生物が生育できて本発明の多糖体を生産しうるpHであれば特に制限されないが、通常はpH5〜7.5が適当であり、pH5.5〜7.2が好ましい。培養温度は、特に制限されないが、通常は20〜25℃が適当であり、21〜23℃が好ましい。培養期間は、本発明の多糖体の生産量が最大に達する期間が選ばれる。通常は1〜5日が適当であり、2〜4日が好ましい。
【0026】
上記の培養方法で得られた培養物から本発明の多糖体を採取する方法は、特に制限されるものではなく、当分野において一般に公知の方法を用いることができる。例えば、遠心分離やろ過などを用いて、培養物から菌体を除去した後、得られた培養液に2〜3倍量のメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等の有機溶媒を加えて沈殿を生じさせる。この沈殿物を遠心分離やろ過などを用いて採取し、水または1〜10%(w/v)塩化ナトリウム溶液に溶解させた後、アルコール等の有機溶媒を加えて沈殿を生じさせる。この操作を何回か繰り返すことによって、本発明の多糖体を得ることができる。あるいは、水または1〜10%(w/v)塩化ナトリウム溶液に溶解させた後、透析を行い、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの方法により、本発明の多糖体を得ることができる。あるいはまた、培養物にSDS、Tween、Tritonなどの界面活性剤を添加してあらかじめ菌体表面から多糖体を遊離させた後に、上記の方法により培養液を回収し、本発明の多糖体を得ることも好ましい。
【0027】
上記採取方法の他に、限外ろ過を用いて、上記の培養液から本発明の多糖体以外の成分を除去し、得られた濃縮液を上述した乾燥工程に供する方法を採用しても良い。さらに、必要に応じて通常の多糖体の精製法に従って精製することにより、高純度精製品を得ることもできる。精製法としては、イオン交換、ゲルろ過等の各種のカラムクロマトグラフィー、4級アンモニウム塩による沈殿、塩析などを採用することができる。
【0028】
本発明の多糖体は、上記のようにして培養物から採取することができる。得られた多糖体はそのまま用いることもできるが、高粘調であるため、例えば皮膚外用剤などの製剤設計のために低分子化させて用いることもできる。低分子化の方法としては、温度による加水分解、酸による加水分解、酵素による加水分解などが挙げられる。これらの加水分解法は、多糖類の低分子化に通常用いられる公知の方法を用いることができる。これらの中でも、酸による硫酸基の脱離、残留酵素の除去処理の観点から、温度による加水分解が好ましく、特に100℃で2時間程度の熱処理が好ましい。
【0029】
本発明の多糖体は、上記のような方法で得られた多糖体をも包含するものである。
【0030】
このようにして得られる本発明の多糖体は、保湿効果、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、抗血液凝固作用などの効果を奏することができる。このため、本発明の多糖体は、保湿剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、抗血液凝固剤などの有効成分として用いることができる。以下、本発明の多糖体の用途について述べる。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の多糖体は保湿効果を有しており、ヒアルロン酸と同等の保湿効果を奏することもできる。このため、本発明の多糖体は、化粧品や皮膚外用剤などの医薬品に配合される保湿剤として有用である。
【0032】
本発明の保湿剤は、本発明の多糖体をそのまま、あるいは、ロウ類、ラノリン、界面活性剤、セタノール等の公知の医薬用または化粧用担体を用いて常法により製剤化すればよい。本発明の保湿剤における本発明の多糖体の含有量は特に制限されないが、0.01〜5重量%が好ましく、0.03〜2重量%がより好ましく、0.05〜1重量%がさらに好ましく、0.1〜0.5重量%が特に好ましい。
【0033】
本発明の保湿剤は、医薬品として、注射剤、座剤、外用剤等の非経口剤として使用できる。前記医薬用担体としては、これらの剤形に応じた通常用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、本発明の保湿剤を軟膏、クリーム剤、液剤、貼付剤等の皮膚外用剤として用いることにより、皮膚の乾燥、かさつきなどの肌荒れを防止または改善することができる。本発明の保湿剤を、薬剤として用いる場合、本発明の多糖体の投与量は、多糖体の分子量や、製剤設計、患者の年齢、症状等に応じて適宜決定すればよい。
【0034】
本発明の保湿剤はまた、化粧品素材として、化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料;ファンデーション、口紅、アイシャドー等のメーキャップ化粧料;日焼け止め化粧料(サンスクリーン剤);ボディー化粧料;芳香化粧料;メーク落とし、ボディーシャンプーなどの皮膚洗浄料;ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、シャンプー、リンス、育毛料等の毛髪化粧料など、種々の形態の化粧品に配合することができる。前記化粧用担体は、これらの形態に応じた通常用いられているものを特に制限なく使用することができる。
【0035】
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の多糖体はヒアルロニダーゼ活性阻害効果を有している。このため、本発明の多糖体は、細胞外マトリックス成分の一つであるヒアルロン酸の分解を抑制し、皮膚の乾燥やかさつきなどの荒れた皮膚を改善するヒアルロニダーゼ活性阻害剤の有効成分として使用することができる。本発明のヒアルロニダーゼ阻害活性剤における本発明の多糖体の含有量は特に制限されないが、0.001〜0.5重量%が好ましく、0.003〜0.2重量%がより好ましく、0.005〜0.1重量%がさらに好ましく、0.01〜0.05重量%が特に好ましい。
【0036】
本発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤の調製方法は、特に制限されるものではなく、保湿剤と同様の方法で製剤化することができる。本発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤は、前記保湿剤と同様、医薬品あるいは化粧品素材として用いることができる。例えば、本発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤を化粧品に配合することによって、皮膚のはりや弾力を保持して皺やかさつきを防ぐ効果を付与することができる。また、本発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤を、皮膚外用剤に配合し、肌荒れの防止または改善に使用することができる。
【0037】
なお、本発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤を変形性関節症や慢性関節リウマチの治療や疼痛の緩和のために利用する場合には、注射剤として使用することができる。なお、本発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤を、薬剤として用いる場合、本発明の多糖体の投与量は、多糖体の分子量や、製剤設計、患者の年齢、症状等に応じて適宜決定すればよい。
【0038】
さらに、本発明の好ましい態様によれば、本発明の多糖体は、抗血液凝固活性(APTT活性)を有している。このため、本発明の多糖体は、抗血液凝固剤の有効成分として用いることができる。本発明の抗血液凝固剤における本発明の多糖体の含有量は特に制限されないが、0.0005〜0.5重量%が好ましく、0.001〜0.2重量%がより好ましく、0.003〜0.1重量%がさらに好ましく、0.005〜0.05重量%が特に好ましい。
【0039】
本発明の抗血液凝固剤の調製は、ヘパリンおよびLMWヘパリンに対し通常用いられている方法に準じて行うことができる。例えば注射剤とするため水に溶解し、必要に応じて、医薬用防腐剤などの補助剤を添加することもできる。他の投与方法として、スプレー吸入による肺内投与、軟膏剤やクリームによる経皮投与、あるいは坐薬による粘膜投与も可能である。
【0040】
本発明の抗血液凝固剤は、心筋梗塞、脳梗塞または静脈血栓の予防および治療に用いることができる。本発明の抗血液凝固剤の投与方法は、病態に応じて適宜決定すればよい。例えば、注射による皮下投与や静脈投与、錠剤化しての経口投与、坐薬としての腸管投与、軟膏剤や湿布剤による経皮投与やスプレー吸入による肺内投与など、薬剤を適切な形態としてその形態に応じた投与方法を選択するのであればいかなる投与方法、薬剤形態を採用してもよい。本発明の抗血液凝固剤を用いる場合、本発明の多糖体の投与量は、多糖体の分子量や、製剤設計、患者の年齢、症状等に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
このように、本発明の多糖体は、種々の機能を有していることから、化粧品、医薬品及び食品の添加剤として有用である。本発明においては、本発明の多糖体を含む化粧品、皮膚外用剤及び食品をも提供するものである。以下、具体的に述べる。
【0042】
まず、本発明の化粧品について説明する。本発明の化粧品は、本発明の多糖体を含むものであれば特に制限されない。本発明の化粧品は、本発明の多糖体を含むものであるので、保湿効果を有し、皮膚の乾燥、かさつきなどの肌荒れを防止または改善することができる。また、皮膚中のヒアルロン酸の分解を阻止し、間接的に保湿・美肌効果を奏することもできる。
【0043】
本発明の化粧品としては、本発明の多糖体の他に、例えば植物油等の油脂類、ラノリンやミツロウ等のロウ類、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、エステル類、種々の界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、植物・動物抽出成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、防腐・殺菌剤等、通常の化粧品原料として使用されているものを適宜配合して製造することができる。また、抗炎症性の化粧品原料、例えば、甘草抽出成分(特にグリチルレチン酸)、塩酸ジフェンヒドラミン、アズレン、dl−α−トコフェロール及びその誘導体、ビタミンB2及びB6などと共に用いることにより、更にその効果を高めることもできる。
【0044】
本発明の化粧品の形態は特に制限されず、化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料;ファンデーション、口紅、アイシャドー等のメーキャップ化粧料;日焼け止め化粧料;ボディー化粧料;芳香化粧料;メーク落とし、ボディーシャンプーなどの皮膚洗浄料;ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、シャンプー、リンス、育毛料等の毛髪化粧料などが挙げられる。
【0045】
本発明の化粧品において、本発明の多糖体の配合量は形態によって適宜選択すればよいが、本発明の化粧品の全重量に対し、乾燥重量にして0.01〜2重量%であることが好ましく、0.02〜1重量%であることがより好ましく、0.05〜0.5重量%であることがさらに好ましい。その他の添加剤の配合量は、各種形態の化粧品に通常用いられる範囲であれば特に制限されない。
【0046】
各種形態の化粧品は、公知の方法に準じて製造すればよい。これらの化粧品の組成は、例えば、特許第3020353号公報、特開平8−40868号公報などを参照することができる。
【0047】
次に本発明の皮膚外用剤について説明する。本発明の皮膚外用剤は、本発明の多糖体を含むものであれば特に制限されない。本発明の皮膚外用剤は、保湿効果を奏することができ、皮膚の乾燥、かさつきなどの肌荒れを防止または改善することができる。また、皮膚中のヒアルロン酸の分解を阻止して、間接的に保湿・美肌効果を奏することもできる。
【0048】
本発明の皮膚外用剤の剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、ジェル、ミスト、スプレー、ムース、ロールオン、スティック等、いかなる剤型であってもよい。不織布等のシートに含浸あるいは塗布した製剤などとすることも可能である。
また、本発明の皮膚外用剤の製品形態も任意であり、例えば、軟膏、クリーム剤、液剤、貼付剤等が挙げられる。
【0049】
本発明の皮膚外用剤において、本発明の多糖体の配合量は、剤型や製品形態に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、皮膚外用剤の全重量に対し、乾燥重量にして0.01〜2重量%であることが好ましく、0.02〜1重量%であることがより好ましく、0.05〜0.5重量%であることがさらに好ましい。
【0050】
例えば、本発明の皮膚外用剤としては、本発明の多糖体の他に、例えば植物油等の油脂類、ラノリンやミツロウ等のロウ類、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、エステル類、種々の界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、植物・動物抽出成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、防腐・殺菌剤等、通常の皮膚外用剤の原料として使用されているものを適宜配合して製造することができる。また、抗炎症性の皮膚外用剤原料、例えば、甘草抽出成分(特にグリチルレチン酸)、塩酸ジフェンヒドラミン、アズレン、dl−α−トコフェロール及びその誘導体、ビタミンB2及びB6などと共に用いることにより、更にその効果を高めることもできる。
【0051】
また、本発明の多糖体は、天然物由来であるため、食品に添加することもできる。例えば、本発明の多糖体は高粘調であることから、本発明の多糖体をゲル化剤・ゼリー化剤等の食品添加物として使用することもできる。例えば、本発明の多糖体の使用量は、特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
多糖体の製造
500mLの坂口フラスコに次の組成の培地を50mL入れ、121℃で20分間滅菌した後、平板培養していたハロモナス・マウラ(Halomonas maura)ATCC700995を1白金耳分植菌し、振とう数毎分150ストローク、22℃で1日間前培養を行った。

<培地組成(pH7.0)>
スクロース 3重量%
ペプトン 0.5重量%
酵母エキス 0.1重量%
(酵母エキス(Yeast Extract, Bacto)(Difco Laboratories社製))
人工海水 3.6重量%
(ダイゴ人工海水SP(日本製薬株式会社製))
純水 残量
【0054】
次に、3Lのジャーファーメンターに、前記組成の培地1.5Lを入れ、121℃で20分間滅菌した。これに、前記で得られた培養液15mLを接種して添加し、培養温度22℃、通気量1.0vvm、攪拌数400rpmにて48時間培養した。
【0055】
得られた培養物から遠心分離により菌体を除去した。得られた培養上清に2〜3倍量のエタノールを添加して沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を遠心分離により回収した。この沈殿物を10%(w/v)の塩化ナトリウム水溶液に溶解させて、再度2〜3倍量のエタノールを添加し、沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を遠心分離により回収した。この操作(溶解、沈殿、回収)を数回繰り返した後、白色沈殿物を得た。得られた白色沈殿物を純水に溶解させて、透析により塩などを除去した後、凍結乾燥して白色の精製した多糖体を得た。
【0056】
上記のようにして多糖体の製造を3回行った(実施例1−1、1−2及び1−3)。得られた多糖体の性状、紫外線吸収スペクトル及び赤外線吸収スペクトルは以下のとおりであった。
(1)性状:白色粉末
(2)紫外線吸収スペクトル:島津製作所製「UVmini−1240」を用いて測定した。代表例として実施例1−3の測定結果を図1に示す。図1に示されるように、280nmおよび260nmに吸収が認められないことから、たんぱく質、核酸は含まれていないことが確認できた。また、実施例1−1および1−2においても同様にたんぱく質、核酸が含まれていないことが確認できた。
(3)赤外線吸収スペクトル:日本分光株式会社製「FT/IR−660plus」を用いて測定した。代表例として実施例1−3の測定結果を図2に示す。図2に示されるように、3400cm-1付近に炭水化物由来の水酸基の吸収が、2950cm-1付近には炭水化物由来のCH、CH2の吸収が、1730cm-1及び1620cm-1付近にウロン酸特有の吸収が、更に1240cm-1及び800〜850cm-1付近に硫酸基特有の吸収がそれぞれ認められた。また、実施例1−1および1−2においても同様のスペクトルが検出された。
【0057】
さらに、得られた多糖体について液体クロマトグラフィー分析、分子量測定、硫黄含量測定を行った。
【0058】
(4)液体クロマトグラフィー分析
実施例1で得られた多糖体に対し、液体クロマトグラフィー分析を行った。カラムは、「Xterra RP18」(Waters社製)を使用し、移動相は0.2Mホウ酸ナトリウム:アセトニトリル=95:5(v/v)の混合液を使用した。検体及び標品は以下のようにして作製した。
【0059】
実施例1で得られた多糖体を、4Mのトリフルオロ酢酸(TFA)に溶解し、100℃、3時間の条件下で酸加水分解を行った。空冷後、減圧乾固した後、充分に酸を除くため2−プロパノールを添加して再度、減圧乾固した。これにピリジン:メタノール=5:95(v/v)(40μl)と無水酢酸(10μl)を添加し、30分間放置してN−アセチル化を行い、減圧乾固した。
次に、減圧乾固した多糖体の酸加水分解物に、純水(10μl)とABEE標識化試薬(生化学工業製)(40μl)とを加え、80℃、1時間で保温し、4−アミノ安息香酸エチル(ABEE)で標識した。さらに、これに純水(200μl)とクロロホルム(200μl)とを加えて、遠心後、上清を検体とした。
【0060】
同条件下で4−アミノ安息香酸エチル(ABEE)標識した12種類の単糖(グルクロン酸、ガラクトース、マンノース、グルコース、アラビオース、リボース、N−アセチルマンノサミン、キシリトール、N−アセチルグルコサミン、フコース、ラムノース、N−アセチルガラクトサミン)を標品とした。実施例1−1〜1−3で得られたHPLCチャートをそれぞれ図3〜5に示した。
【0061】
各々予め作製した検量線と各構成糖のピーク面積から求めた結果、各構成糖のモル比は表1のとおりであった。
【表1】

【0062】
(5)分子量測定
得られた多糖体の分子量(重量平均分子量)を、東ソー株式会社製の「TSK−GEL(登録商標)GMPWXL」を使用し、0.2MNaCl/0.2Mリン酸緩衝液(pH6.8)を移動相とし、分子量既知のプルラン(昭和電工株式会社製)、デキストランT2000(アマシャム バイオサイエンス株式会社製)を標準サンプルとして作成した分子量−保持時間標準曲線を使用して測定した。流速は0.5mL/分とし、サンプル濃度は0.1%(w/v)とした。その結果、多糖体の分子量は表2のとおりであった。なお、測定は3回行い、その平均値を多糖体の分子量とした。
【表2】

【0063】
(6)硫黄含量
実施例1−3で得られた多糖体に対し、ICP発光分光法を用いて多糖体の硫黄含量を測定した。測定は、前処理として硝酸及び過塩素酸による湿式分解を行い、Thermo Jarrell Ash社製のIRIS/APを用いて行った。その結果、実施例1−3で得られた多糖体の硫黄含量は、多糖体の乾燥重量に対し、6.6重量%であることが認められた。
【実施例2】
【0064】
多糖体の粘度および保湿効果の評価
実施例1−3で得られた多糖体を純水に溶解し、多糖体の濃度が0.05%(w/v)の水溶液を調製した。B型粘度計を使用し、回転数6rpmの条件で各水溶液の25℃での粘度を測定した。また、比較のため、ヒアルロン酸(チッソ社製:Lot No,065910、分子量112万)についても粘度を測定した。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に示されたとおり、本発明の多糖体は、ヒアルロン酸に比べて高粘調であるが、十分に実用的な粘性を有していることが示された。
【0067】
次に、実施例1−3で得られた多糖体を3%(w/v)グリセロールに溶解し、濃度0.3%(w/v)の水溶液を調製した。コントロールには精製水を用い、陽性対照としてヒアルロン酸(チッソ社製:Lot No,065910、分子量112万)0.3%水溶液を用いた。
被験者には室温22℃、湿度40%の部屋にて20分間安静にしてもらった後、前腕部内側に各水溶液を塗布(2×2cm)した。3分後、コットンで水溶液を軽くふき取り、この時点を開始時として、経時的に15分後まで、皮膚の伝導度(コンダクタンス)を測定し、皮膚水分量を評価した。測定には、皮表角層水分量測定装置「SKICON−200」(アイ・ビイ・エス株式会社製)を使用した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
表4に示されたとおり、本発明の多糖体は、ヒアルロン酸と同等の保湿効果を奏することが認められた。
【0070】
次に、表5に示した組成の化粧水100gに実施例1−3で得られた多糖体0.3gを添加したものと、無添加のものとを用い、5名の女性に対してモニタリングを行い、伸びとしっとり感について次の5段階(5:非常に優れている、4:優れている、3:良い、2:あまり良くない、1:悪い)で評価してもらった。その結果、伸びについては、5が1名、4が3名、3が1名、しっとり感については、5が2名、4が2名、3が1名であり、無添加の化粧水と比べて、実施例1で得られた多糖体を添加したものは伸びもよく、しっとり感があるという多数の意見が得られた。この結果から、本発明の多糖体を添加した化粧水の保湿性の高さが示された。
【0071】
【表5】

【実施例3】
【0072】
多糖体のヒアルロニダーゼ阻害活性(50%阻害濃度)の測定
特開平10−265399号公報で開示されている「モルガン−エルソン法」に従って、ヒアルロニダーゼ阻害率の測定を行った。以下、測定方法について順を追って説明する。
【0073】
(1)溶液組成
本測定では、下記の溶液A〜F及び実施例1−3で得られた多糖体Gを用いた。
A:ウシ睾丸由来のヒアルロニダーゼ(シグマ社製)2.83mgを0.05M酢酸緩衝剤(pH4.0)1mLに溶解した溶液
B:0.05M酢酸緩衝剤(pH4.0)に溶解した0.3M塩化ナトリウム溶液
C:ヒアルロン酸(チッソ社製:Lot No,065910、分子量112万)1.83mgを0.1M酢酸緩衝剤(pH4.0)1mLに溶解した溶液
D:0.4M水酸化ナトリウム水溶液
E:0.8Mホウ酸ナトリウム溶液(Na247
F:p−ジメチルアミノベンズアルデヒド1gに、10N塩酸1.25mLおよび酢酸98.75mLを添加して溶解した溶液
G:実施例1−3で得られた多糖体
【0074】
(2)手順
まず、溶液A(0.025mL)を、予備溶液B(0.2mL)と混合して、37℃で20分間保温した。これに、溶液G(0.1mL)を添加して、37℃で20分間保温した。さらに溶液C(0.2mL)を加えて、37℃で20分間保温した。その後、溶液D(0.1mL)および溶液E(0.1mL)を添加して3分間煮沸し、冷却後さらに溶液F(3.0mL)を添加した。その後、さらに37℃で20分間保温して585nmにおける吸光度を測定した。阻害率の算出は次式で行った。
【0075】
【数1】

[式中、Aはヒアルロニダーゼも多糖体も含まない吸光度であり、Bは多糖体とヒアルロニダーゼをともに含む場合の吸光度であり、Cは多糖体を含まないがヒアルロニダーゼを含む場合の吸光度である。]
【0076】
実施例1−3で得られた多糖体について、種々の試料濃度における阻害率から50%阻害を示す濃度(IC50)を算出し、表6に示した。この数値が低いほど、ヒアルロニダーゼ阻害活性が高いことを示す。なお、比較対照としてヘパリノイドの結果も示した。
【0077】
【表6】

【0078】
表6の結果から、本発明の多糖体が、ヘパリノイドよりも高いヒアルロニダーゼ阻害活性を有していることが示された。
【実施例4】
【0079】
抗血液凝固活性(50%阻害濃度)の測定
次に、本発明の実施例1−3で得られた多糖体について抗血液凝固活性(50%阻害濃度)を測定した。測定はAPTT試薬(第一化学薬品株式会社製)(0.1mL)を37℃で1分間保温し、正常血漿(コスモ・バイオ株式会社製)(0.1mL)を混和後37℃で2分間保温した後、0.02M塩化カルシウム液(0.1mL)を加えた後のフィブリン析出時間(秒)を計測することで行った。血漿には本発明の多糖体を添加濃度0.005、0.05mg/mLで添加した。コントロールとしては精製水を用いた。結果を表7に示す。
【0080】
【表7】

【0081】
表7に示したとおり、APTT時間を測定したところ、未添加のサンプルが52秒であったのに対し、実施例1−3で得られた多糖体を0.05mg/mLの濃度で添加したサンプルでは90秒に延長していた。このことから、本発明の多糖体が抗血液凝固活性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の多糖体は保湿効果、ヒアルロニダーゼ阻害活性及び抗血液凝固作用(APTT活性)など種々の機能を有していることから、化粧品や皮膚外用剤などをはじめとして様々な分野で利用可能である。また、天然物由来であり、高粘調であることから、食品添加剤などとしても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例1−3で得られた多糖体の紫外線吸収スペクトルを示したグラフである。
【図2】実施例1−3で得られた多糖体の赤外線吸収スペクトルを示したグラフである。
【図3】実施例1−1で得られた多糖体の構成単糖を示すHPLC分析で得られたチャートである。
【図4】実施例1−2で得られた多糖体の構成単糖を示すHPLC分析で得られたチャートである。
【図5】実施例1−3で得られた多糖体の構成単糖を示すHPLC分析で得られたチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になり、ゲルろ過クロマトグラフィーにて測定した重量平均分子量が150万〜850万であることを特徴とする多糖体。
【請求項2】
構成糖のモル比がD−ガラクトース:D−グルクロン酸:D−マンノース=10〜45:10〜40:30〜65である、請求項1記載の多糖体。
【請求項3】
構成糖の一部が硫酸化されており、その硫黄含量が多糖体の乾燥重量に対し2〜12重量%である、請求項1または2記載の多糖体。
【請求項4】
構成糖がD−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−マンノースの3種から本質的になり、ゲルろ過クロマトグラフィーにて測定した分子量が500万〜800万であり、構成糖のモル比がD−ガラクトース:D−グルクロン酸:D−マンノース=19〜35:19〜30:40〜55であり、構成糖の一部が硫酸化されており、その硫黄含量が多糖体の乾燥重量に対し3〜10重量%であることを特徴とする多糖体。
【請求項5】
ハロモナス属細菌を培養することによって得られる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多糖体。
【請求項6】
ハロモナス属細菌がハロモナス・マウラ(Halomonas maura)である、請求項5記載の多糖体。
【請求項7】
ハロモナス・マウラ(Halomonas maura)がハロモナス・マウラATCC700995株またはその変異株である、請求項6記載の多糖体。
【請求項8】
ハロモナス属細菌を培養し、その培養物より多糖体を分離精製することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多糖体の製造方法。
【請求項9】
ハロモナス属細菌がハロモナス・マウラ(Halomonas maura)である、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
ハロモナス・マウラ(Halomonas maura)がハロモナス・マウラATCC700995株またはその変異株である、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の多糖体を含む保湿剤。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の多糖体を含むヒアルロニダーゼ活性阻害剤。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の多糖体を含む抗血液凝固剤。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の多糖体を含む化粧品。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の多糖体を含む皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−13240(P2009−13240A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174792(P2007−174792)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】