説明

学習および記憶を改善するための化合物

本発明は、治療上有効量の式(I)または式(II)または式(III):(R1)x-Ser-Ile-Tyr-Arg-Arg-Gly-Ala-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-Leu-(R2)yで示される化合物を投与することにより被験者の学習および記憶を改善するための方法を提供する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年8月10日出願の米国特許出願第60/837,030号および2007年5月11日出願の米国特許出願第60/917,476号(参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられるものとする)に基づく優先権を主張する。
【0002】
連邦政府委託研究開発の下でなされた発明の権利に関する陳述
該当なし
コンパクトディスクで提出された「配列リスト」、表、またはコンピュータープログラムリストの添付物の参照
該当なし
【背景技術】
【0003】
ヒトの記憶は、ポリジーン認知形質である。遺伝率の推定値が約50%であることから、天然に存在する遺伝的変異性は、この基本的脳機能に重要な影響を及ぼすことが示唆される。最近の候補遺伝子関連性研究により、ヒトの記憶能力に有意な影響を及ぼすいくつか遺伝的変異が同定されている。しかしながら、こうした研究の奏効性は既存の情報に依存するので、未確認の遺伝子および分子経路を同定できる可能性は制限される。
【0004】
最近、高密度の遺伝子型解析プラットフォームの開発が進んで、エピソード記憶能力および長期記憶能力に関与する遺伝子のいくつかの同定が可能になった(Papassotiropoulos et al. Science 2006, 314, 475)。しかしながら、エピソード記憶または長期記憶の衰えに苦しむ被験者に利用可能な治療法は、依然として存在しない。驚くべきことに、本発明は、このおよび他の必要性、たとえば、学習および記憶の改善の必要性を満たす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明は、被験者の学習および記憶を改善する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式I:
【化1】

【0006】
〔式中、R1は、不在であるかまたは水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R2は、水素、ヒドロキシ、およびハロゲンよりなる群から選択されるメンバーであり、R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R4は、0〜3個のR5基{ここで、各R5は、独立して、水素、C1〜6アルキル、ベンジル、およびフェニルよりなる群から選択されるメンバーである}で置換された、5〜8個の環員と2個のN環ヘテロ原子とを有するN結合型ヘテロ環式環系である〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む。
【0007】
他の態様では、本発明は、被験者の神経可塑性を改善する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式I:
【化2】

【0008】
〔式中、R1は、不在であるかまたは水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R2は、水素、ヒドロキシ、およびハロゲンよりなる群から選択されるメンバーであり、R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R4は、0〜3個のR5基{ここで、各R5は、独立して、水素、C1〜6アルキル、ベンジル、およびフェニルよりなる群から選択されるメンバーである}で置換された、5〜8個の環員と2個のN環ヘテロ原子とを有するN結合型ヘテロ環式環系である〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む。
【0009】
他の態様では、本発明は、被験者のアルツハイマー病を治療する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式I:
【化3】

【0010】
〔式中、R1は、不在であるかまたは水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R2は、水素、ヒドロキシ、およびハロゲンよりなる群から選択されるメンバーであり、R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R4は、0〜3個のR5基{ここで、各R5は、独立して、水素、C1〜6アルキル、ベンジル、およびフェニルよりなる群から選択されるメンバーである}で置換された、5〜8個の環員と2個のN環ヘテロ原子とを有するN結合型ヘテロ環式環系である〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、R4は、7員ヘテロ環式環系である。他の実施形態では、化合物は、式Ia
【化4】

【0012】
で示される。
【0013】
他の実施形態では、化合物は、
【化5】

【0014】
である。
【0015】
さらに他の実施形態では、化合物は、
【化6】

【0016】
である。
【0017】
他の実施形態では、化合物はHCl塩である。いくつかの実施形態では、化合物は、
【化7】

【0018】
である。
【0019】
さらなる実施形態では、化合物は水和物である。他の実施形態では、化合物は、
【化8】

【0020】
〔式中、mは1または2であり、かつnは1/2〜3である〕
である。
【0021】
一実施形態では、式Iで示される化合物は、酸化窒素増強剤と共に投与される。他の実施形態では、酸化窒素エンハンサーは、PDE5阻害剤、酸化窒素ドナー分子、またはHMG Co Aレダクターゼよりなる群から選択される。他の実施形態では、酸化窒素エンハンサーは、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ニトロプルシドナトリウム、ニトログリセリン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、およびロスバスタチンよりなる群から選択される。他の実施形態では、式Iで示される化合物および酸化窒素増強剤は、同一の組成物に組み込まれて併用投与される。他の実施形態では、式Iで示される化合物および酸化窒素増強剤は、異なる組成物に組み込まれて併用投与される。他の実施形態では、式Iで示される化合物および酸化窒素増強剤は、同時に投与される。他の実施形態では、式Iで示される化合物および酸化窒素増強剤は、異なる時点で投与される。
【0022】
他の態様では、本発明は、被験者の学習および記憶を改善する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式II:
【化9】

【0023】
〔式中、R1は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、各R2は、水素、C1〜6アルキル、ヒドロキシ、および-O-C1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、各波線は、それが結合されている二重結合がシスまたはトランスであることを表す〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む。
【0024】
他の態様では、本発明は、被験者の神経可塑性を改善する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式II:
【化10】

【0025】
〔式中、R1は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、各R2は、水素、C1〜6アルキル、ヒドロキシ、および-O-C1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、各波線は、それが結合されている二重結合がシスまたはトランスであることを表す〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む。
【0026】
他の態様では、本発明は、被験者のアルツハイマー病を治療する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式II:
【化11】

【0027】
〔式中、R1は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、各R2は、水素、C1〜6アルキル、ヒドロキシ、および-O-C1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、各波線は、それが結合されている二重結合がシスまたはトランスであることを表す〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、化合物は、式IIa:
【化12】

【0029】
で示される。
【0030】
他の実施形態では、化合物は、
【化13】

【0031】
である。
【0032】
他の態様では、本発明は、被験者の学習および記憶を改善する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-C-B-Tyr-Arg-Arg-A-A-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-B-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体(conservatively modified variations)を投与することを含む。ただし、上記式中、R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつxおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【0033】
他の態様では、本発明は、被験者の神経可塑性を改善する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-C-B-Tyr-Arg-Arg-A-A-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-B-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体を投与することを含む。ただし、上記式中、R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつxおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【0034】
他の態様では、本発明は、被験者のアルツハイマー病を治療する方法を提供する。この方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-C-B-Tyr-Arg-Arg-A-A-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-B-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体を投与することを含む。ただし、上記式中、R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつxおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明に係る方法は、その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-Ser-Ile-Tyr-Arg-Arg-Gly-Ala-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-Leu-(R2)y
で示される化合物を投与することを含む。ただし、上記式中、R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつxおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【0036】
他の実施形態では、本発明は、その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-Ser-Ile-Tyr-Arg-Arg-Gly-Ala-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-Leu-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体を投与することを含む方法を提供する。ただし、上記式中、xおよびyはゼロである。
【0037】
他の態様では、本発明は、被験者においてアルツハイマー病を発症する危険性の増大を同定する方法を提供する。この方法は、被験者から生物学的サンプルを取得する工程と、サンプルに由来する核酸中のSNP rs17070145のC対立遺伝子の存在または不在を同定する工程と、を含み、C対立遺伝子の1つ以上のコピーの存在が、C対立遺伝子の欠失した被験者と比較してアルツハイマー病を発症する危険性の増大の指標となる。
【0038】
一実施形態では、サンプルは血液である。他の実施形態では、核酸はDNAである。他の実施形態では、C対立遺伝子の存在または不在は、PCRを用いて同定される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、ファスジル、ヒドロキシファスジル、Y-27632、およびH-1152Pについて阻害剤の薬動学的挙動をまとめた表を示している。
【図2】図2は、ヒトにおけるファスジルおよびラットにおけるヒドロキシファスジルについて用量比較データをまとめた表を示している。経口ファスジルは、典型的には1回40〜80mgの用量で1日3回患者に投与される。平均体重を55kgと仮定すると、これは、1回あたり0.7〜1.4mgまたは1日あたり2.1〜4.2mgの用量に等しい。
【図3】図3は、ヒドロキシファスジルの投与後における作業記憶が正しくない場合をまとめた表を示している。学習指数は、次式: 学習指数=(誤り回数初期−誤り回数後期)/誤り回数初期により計算される。
【図4】図4は、ヒドロキシファスジルの投与後における作業記憶が正しい場合をまとめた表を示している。値は、学習指数を求める上式を用いて計算されたものである。
【図5】図5は、ヒドロキシファスジルの投与により作業記憶が改善されることを示している。
【図6】図6は、ヒドロキシファスジルで治療された動物の海馬における「記憶分子」転写産物の変化を明らかにした発現プロファイルを示している。組織源は全海馬である。
【図7】図7は、フェンレチニドが作業記憶を改善することを示している。1グループあたり6匹のラットであった。
【図8】図8は、ヒトおよびラットにおけるフェンレチニドについて用量比較データをまとめた表を示している。
【図9】図9は、KIBRA相互作用経路を示している。
【図10】図10は、KIBRA関連経路に由来するKIBRA由来標的およびアクチベーター化合物またはその類似体(セラミド類似体)を示している。
【図11A】図11Aは、モーリス水迷路で測定したときにファスジルが参照記憶能力を改善することを示している。若齢および老齢の媒体グループが示されている。スコアは、モーリス水迷路中の隠れた台の位置を突き止めるべく泳いだ距離がインチ単位で表されている。データは、1日合計5回行った実験全体にわたりまとめて、平均±S.D.として表されている。
【図11B】図11Bは、モーリス水迷路で測定したときにファスジルが参照記憶能力を改善することを示している。若齢および老齢の媒体グループが示されている。スコアは、モーリス水迷路中の隠れた台の位置を突き止めるべく泳いだ距離がインチ単位で表されている。データは、4日の検査日全体の実験にわたりまとめて、平均±S.D.として表されている。
【図12】図12は、ファスジルが記憶能力を改善することを示している。
【図13】図13は、KIBRAとアルツハイマー病との関連を示すとともに、最も有意な関連を示すハプロタイプブロックがSNP rs1707014を含有することを示している。
【図14】図14は、マウス海馬で発現を示す遺伝的標的のin situハイブリダイゼーションを示している。
【図15】図15は、脳活性化の有意な増大を有するT対立遺伝子非保有者をT対立遺伝子保有者と比較して示す記憶想起中の内側側頭葉の機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)マップを示している。
【図16】図16は、ヒドロキシファスジルの投与により作業記憶が改善されることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
本発明は、記憶および学習を強化するための新しい方法を提供する。記憶および学習の効果的な強化は、KIBRAおよびKIBRA相互作用経路(上流および下流;図9参照)をモジュレートする薬剤を投与することにより達成される。そのような薬剤はとしては、ファスジル、ヒドロキシファスジル、フェンレチニド、PKZ-ζペプチド偽基質、ジメチルスフィンゴシン、CVS-3989、D4476、AG1024、648450、K252a、SB203580、C3トランスフェラーゼ、553502、LY333531、ルボキシスタウリン、Go-6976、および図10に列挙された他の化合物が挙げられる。これらの化合物の変異体および誘導体もまた、本明細書に記載される。
【0041】
本明細書中に提示されたデータから、KIBRA遺伝子、特定的には、SNP rs17070145に関連する対立遺伝子は、アルツハイマー病を発症する危険性の増大の指標となることもまた示される。このSNPのC対立遺伝子の少なくとも1つのコピーを有する被験者は、C対立遺伝子の欠失した被験者と比較して、MCIおよびアルツハイマー病を発症する危険性の増大を示す。したがって、本発明は、アルツハイマー病を発症する危険性の増大の指標となる診断検査を提供する。C対立遺伝子を有する患者は、疾患状態に関してより厳密に監視することが可能であり、かつ疾患のない状態を延長したりまたは疾患を完全に回避したりするために予防的な生活習慣変化および治療(投薬を包含する)に専念することが可能である。この対立遺伝子の同定はまた、除外診断とみなされることの多いアルツハイマー病の実際の診断に有用である。さらに、本明細書に記載の化合物は、アルツハイマー病の症状である記憶喪失を治療するために使用しうるのみならず、アルツハイマー病の原因を治療したり疾患の発症の遅延またはその進行の防止を行ったりするためにも使用しうる(機序も遺伝的関連も提供されていないWO 2005/117896と比較されたい;Clin Neurophamacol 19:428 (1996)も参照されたい)。理論に固守するものではないが、KIBRA遺伝子経路は、神経原繊維変化の発生に関連すると考えられる。
【0042】
おそらく、記憶に関連する2つの最も研究されたタンパク質は、PKCおよびサイクリックAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)である。PKCファミリーメンバーは、いくつかの主要脳領域におけるそれらの過剰発現、いくつかの種にわたる記憶過程へのそれらの関与、空間学習障害に相関するヒトにおけるそれらの加齢性活性変化、ならびに最後にPKC阻害が学習および記憶を障害するという証拠に基づいて、記憶の役割を担うといわれている(Micheau, J. & Riedel, G. Cell Mol Life Sci 55, 534-48 (1999); Pascale, A., et al. Mol Neurobiol 16, 49-62 (1998); Sun, M.K. & Alkon, D.L. Curr Drug Targets CNS Neurol Disord 4, 541-52 (2005); Birnbaum, S.G. et al. Science 306, 882-4 (2004); Etcheberrigaray, R. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 101, 11141-6 (2004); Ruiz-Canada, C. et al. Neuron 42, 567-80 (2004))。記憶関連遺伝子としてのCREBに関する裏付けとしては、ウミウシやアメフラシにおける長期促通および齧歯動物における長期増強のその明確な役割、マウスにおいてCREB機能の誘導破壊が記憶を妨げるという実証例、ならびに記憶エンハンサーとしてCREB活性を変化させる化合物の探索が挙げられる(Josselyn, S.A. & Nguyen, P.V. Curr Drug Targets CNS Neurol Disord 4, 481-97 (2005); Carlezon, W.A., et al. Trends Neurosci 28, 436-45 (2005); Cooke, S.F. & Bliss, T.V. Curr Opin Investig Drugs 6, 25-34 (2005); Josselyn, S.A., Kida, S. & Silva, AJ. Neurobiol Learn Mem 82, 159-63 (2004); Martin, K.C. Neurobiol Learn Mem 78, 489-97 (2002); Lonze, B.E. & Ginty, D.D. Neuron 35, 605-23 (2002); Si, K., Lindquist, S. & Kandel, E.R Cell 115, 879-91 (2003); Chen, A. et al. Neuron 39, 655-69 (2003))。このほかに、記憶における他のタンパク質、たとえば、HTR2A、BDNF、およびPKAの役割を裏付ける遺伝的証拠が増加しつつある(Alonso, M. et al. Learn Mem 12, 504-10 (2005); Bramham, CR. & Messaoudi, E. Prog Neurobiol 76, 99-125 (2005); Papassotiropoulos, A. et al. Neuroreport 16, 839-42 (2005); de Quervain, DJ. et al. Nat Neurosci 6, 1141-2 (2003); Reynolds, C.A., et al. Neurobiol Aging 27, 150-4 (2006); Arnsten, A.F., et al. Trends MoI Med 11, 121-8 (2005); Quevedo, J. et al. Behav Brain Res 154, 339-43 (2004))。
【0043】
KIBRAは、シナプス可塑性の推定モジュレーターであるデンドリンのヒトアイソフォームに対する結合性パートナーとして酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより最近同定された(Kremerskothen, J. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 300, 862 (2003))。海馬で発現されたトランケート形は、最初の223個のaaを欠失しており、C2様ドメインとグルタミン酸リッチのストレッチとプロテインキナーゼC(PKC)ζ相互作用ドメイン とを含有する(de Quervain, D.J. et al., Nat. Neurosci. 6, 1141 (2003))。PKC-ζは、記憶の形成と長期増強の固定とに関与する(Bookheimer, S. Y. et al., N. Engl. J. Med. 343, 450 (2000); Milner, B. Clin. Neurosurg. 19, 421 (1972))。KIBRAのC2様ドメインは、シナプス小胞エキソサイトーシスで主要なCa2+センサーとして機能すると考えられるシナプトタグミンのC2ドメインに類似している(Freedman, M.L. et al., Nat. Genet. 36, 388 (2004); Schacter, D.L. & Tulving E. Memory systems (MIT Press, Cambridge, 1994))。本明細書に記載の記憶関連KIBRAハプロタイプブロックおよびSNPは、C2様ドメインおよびPKC-ζ相互作用ドメインの両方を含有するトランケートKIBRA内に位置する。以上を合わせて考えると、本研究で独立した実験から得られた証拠に基づいて、ヒトの正常な記憶能力におけるKIBRAの役割が示唆される。
【0044】
脳で高い発現を有し、Ca2+をモジュレートし、PKC基質であり、かつシナプスタンパク質であるKIBRAのほかに、記憶における標的としてのRhoA/ROCKならびに記憶、学習、および認知を強化するモジュレーターとしてのファスジルの同定を可能にしたいくつかの他の遺伝的知見が存在する。CLSTN2は、脳で高い発現を有し、Ca2+をレギュレートし、かつシナプスタンパク質である。CAMTA1は、脳で高い発現を有し、Ca2+をモジュレートし、かつ転写因子である。SEMA5Aは、発生中の脳で高い発現を有し、かつ軸索誘導に関与する。TNRは、脳で高い発現を有し、ECM中に含まれ、かつシナプス維持を支援する。最後に、NELL2は、同様に脳で高い発現を有し、ニューロン成長を支援し、かつマウスモデル(KO)でLTPの増大を示すがHPF媒介学習の障害を示す。そのほかに、遺伝的標的の全部をin situでハイブリダイズすることにより、マウス海馬における発現が示される(図14)。
【0045】
ファスジル標的は、この経路中でKIBRAタンパク質から1工程だけ離れておりかつKIBRAの上流の経路機能をモジュレートする可能性があるものとしてうまく同定された(図9)。ファスジルの化合物および医薬製剤については、たとえば、米国特許第4,678,783号、同第5,942,505号、および同第6,699,508号(参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられるものとする)に記載されている。
【0046】
正常な記憶機能さらにはアルツハイマー型認知低下(およびおそらく他の健忘障害)におけるRhoA/ROCK経路の重要性を軽視することはできない。多くの重篤な障害は、主要な臨床的特徴として記憶喪失を含み、こうした障害の場合、RhoA/ROCK経路は、それらの全般的重症度、進行、または病理に関与しうる。記憶喪失発症前の最小限の期間延長でさえも、こうした障害を患う患者には有益であろう。
【0047】
本発明に係る治療的適用および診断的適用が奏効すると思われる病理状態または神経病理状態としては、たとえば、次のものが挙げられる:
中枢運動系の疾患、たとえば、基底核を侵す変性病態(ハンチントン病、ウィルソン病、線条体黒質変性、皮質基底核変性)、トゥレット症候群、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、進行性球麻痺、家族性痙性対麻痺、脊髄筋萎縮、ALSおよびその異型疾患、歯状核赤核萎縮、オリーブ橋小脳萎縮、傍腫瘍性小脳変性、ならびにドーパミン中毒;
感覚ニューロンを侵す疾患、たとえば、フリードライヒ運動失調症、糖尿病、末梢性ニューロパシー、網膜ニューロン変性;
辺縁・皮質系の疾患、たとえば、脳アミロイドーシス、ピック萎縮、レット症候群;
複数のニューロン系および/または脳幹を侵す神経変性病理状態、たとえば、アルツハイマー病、AIDS関連認知症、リー病、瀰漫性レビー小体病、癲癇、多系統萎縮、ギラン・バレー症候群、リポフスチン症のようなリソソーム蓄積障害、ダウン症候群の遅発変性期、アルパース病、CNS変性の結果として眩暈;
発達遅滞および学習障害に関連する病理状態、さらにはダウン症候群および酸化ストレス起因性ニューロン死;
加齢および慢性的なアルコール乱用または薬物乱用により生じる病理状態、たとえば、青斑核、小脳、コリン作動性前脳基底部のアルコール中毒ニューロン変性を伴うもの、認知障害および運動障害を引き起こす小脳ニューロンおよび皮質ニューロンの加齢変性を伴うもの、ならびに運動障害を引き起こす基底核ニューロンの慢性アンフェタミン乱用変性を伴うものなど;
発作、局所虚血、血管不全、低酸素性虚血性脳症、高血糖、低血糖、閉鎖性頭部外傷、または直接的外傷のような局所外傷により生じる病理学的変化;
治療薬および治療の副作用として生じる病状(たとえば、抗痙攣用量のグルタミン酸受容体のNMDAのアンタゴニスト、化学療法、抗生物質に応答した帯状皮質ニューロンおよび内嗅皮質ニューロンの変性);
学習障害、たとえば、ADD、ADHD、読字障害、書字障害、計算障害、統合運動障害、および情報処理障害。
【0048】
I. 定義
記憶系は、次の4つの主要タイプ:エピソード、意味、作業、および手続きに大別することが可能である(Hwang, D.Y. & Golby, A.J. Epilepsy Behav (2005); Yancey, S.W. & Phelps, E.A. J Clin Exp Neuropsychol 23, 32-48 (2001))。エピソード記憶とは、特定の場所および時刻で経験したことに関する自伝的情報の記録および想起を行う系を意味する。意味記憶系は、場所および時刻に関連しない一般的な事実的知見(たとえば、アリゾナ州の首都)を記憶する。手続き記憶は、情報の一時的な維持および使用を包含し、一方、作業記憶は、自動的に典型的には無意識に働く学習技能の作用である。エピソード記憶、意味記憶、および作業記憶は、本質的に明示的(絶対的)かつ陳述的(説明的)であり、一方、手続き記憶は、明示的または黙示的でありうるが、常に非陳述的である(Tulving, E. Oxford University Press, New York, 1983); Budson, A.E., Price, B.H. Encyclopedia of Life Sciences (Macmillan, Nature Publishing Group, London, 2001); Budson, A.E. & Price, B.H. N Engl J Med 352, 692-9 (2005); Hwang, D.Y. & Golby, A. JEpilepsy Behav 8, 115-26 (2006))。Tsien, The Memory Code, Scientific American, June 17, 2007も参照されたい。
【0049】
記憶および/または学習を障害する通常の加齢状態および疾患状態としては、たとえば、神経変性障害、頭部および脳の外傷、遺伝障害、感染性疾患、炎症性疾患、医薬障害、薬物障害、およびアルコール障害、癌、代謝障害、精神遅滞、ならびに学習障害および記憶障害、たとえば、加齢性記憶喪失および加齢性記憶障害(AAMI)、アルツハイマー病、タウオパシー、PTSD(外傷後ストレス症候群)、軽度認識障害、ALS、ハンチントン舞踏病、健忘症、B1欠乏症、統合失調症、鬱病および双極性障害、発作、水頭症、クモ膜下出血、血管不全、脳腫瘍、癲癇、パーキンソン病、脳微小血管症(Meyer, R.C., et al. Ann N Y Acad Sci 854, 307-17 (1998); Barrett, A.M. Postgrad Med 117, 47-53 (2005); Petersen, R.C. J Intern Med 256, 183-94 (2004); Calkins, M.E., et al. Am J Psychiatry 162, 1963-6 (2005))、疼痛薬物療法、化学療法(「ケモブレイン」)、酸素欠乏、たとえば、人工心肺、麻酔、または溺水により生じるもの、認知症(血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、意味性認知症、原発性進行性失語症、ピック型認知症)、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性、橋本脳症、ADD、ADHD、読字障害および他の学習障害、ダウン症候群、脆弱X症候群、ターナー症候群、および胎児性アルコール症候群が挙げられるが、これらに限定されるものではない。疾患のほかに、進行性記憶喪失は、加齢過程の通常の副次的結果である。
【0050】
MCI(「軽度認識障害」)という用語は、正常な認知機能と臨床推定ADの発症との間の移行領域を指すべく使用される(Winblad, B. et al. J Intern Med 256, 240-6 (2004))。MCIを定義すべくさまざまな基準が利用されてきたが、それらは、本質的に次の2つの主要概念を有する:(1)MCIは、なんらかの形態の測定可能な認知障害を有する非認知症患者を指し、(2)これらの患者は、臨床的認知症に進行する危険性の高い臨床症候群を呈する。
【0051】
「学習および/または記憶を改善する」という表現は、学習および記憶の指標となる少なくとも1種のパラメーターの改良または強化を意味する。改善または強化は、少なくとも10%のパラメーター変化、場合により、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%のパラメーター変化などである。学習および記憶の改善は、当技術分野で公知の任意の方法により測定可能である。たとえば、学習および記憶を改善する本明細書に記載の化合物は、モーリス水迷路を用いてスクリーニング可能である(たとえば、材料および方法の節を参照されたい)。また、Gozes et al, Proc. Natl. Acad. Sd. USA 93:427-432 (1996)も参照されたい。記憶および学習はまた、本明細書に記載の方法または当業者に周知の他の方法、たとえば、ラント(Randt)記憶検査、ウェクスラー(Wechler)記憶スケール、数字順唱範囲検査、またはカリフォルニア言語学習検査のいずれかを用いてスクリーニング可能である。
【0052】
「空間学習」という用語は、各自の環境に関する学習を意味し、どんな対象がどこにあるかに関する知識を必要とする。それはまた、環境中の複数の刺激間の関係に関する学習およびその関係に関する情報の利用に関連する。動物における空間学習は、報酬の位置を動物に学習させ、その位置を思い出すために空間的刺激を利用させることにより検査可能である。たとえば、空間学習は、ラジアルアーム迷路(すなわち、どのアームが食べ物を有するかを学習する)、モーリス水迷路(すなわち、どこに台があるかを学習する)を用いて検査可能である。これらの課題を遂行するために、動物は、検査室からの刺激(対象の位置、臭気など)を利用する。ヒトにおいても、空間学習を検査することが可能である。たとえば、被験者に絵を描くように頼み、次に、絵を取り去る。次に、被験者に記憶に基づいて同一の絵を描くように頼む。被験者により描かれた後の絵は、被験者の空間学習度を反映する。
【0053】
神経可塑性とは、新しい経験に基づいて神経路を再組織化する一生涯にわたる脳の能力のことである。我々が学習した時、我々は、指示または経験を介して新しい知識および技能を獲得する。事実または技能を学習または記憶するために、新しい知識に対応する脳の継続的機能変化が存在しなければならない。こうした機能変化としては、神経突起成長、シナプス可塑性、および神経保護、たとえば、ニューロン、グリア、および血管細胞の変化などが挙げられる。たとえば、Kandel, E.R., Schwartz, J.H., and Jessell, T.M. (2001). Principles of Neural Science. (4th ed.), New York: McGraw-Hillを参照されたい。
【0054】
学習障害というのは、聞く能力、話す能力、読む能力、書く能力、推理能力、または数学的能力の取得および使用が著しく困難であることにより顕在化する障害の混成グループを意味する一般用語である。学習障害としては、ADD、ADHD、読字障害、書字障害、計算障害、統合運動障害、および情報処理障害が挙げられる。
【0055】
「酸化窒素増強剤」としては、PDE5阻害剤、たとえば、シルデナフィル(バイアグラ(VIAGRA)(登録商標)、たとえば、US 5,250,534; 6,469,012を参照されたい)、タダラフィル(シアリス(CIALIS)(登録商標)、たとえば、US 5,859,006; 6,140,329; 6,821,975; 6,943,166; 7,182,958を参照されたい);およびバルデナフィル(レビトラ(LEVITRA)(登録商標)、たとえば、US 6,362,178を参照されたい);酸化窒素ドナー分子、たとえば、ニトロプルシドナトリウム(たとえば、US 6,358,536を参照されたい)、アミルニトレート(たとえば、US 5,869,539を参照されたい)、およびニトログリセリン(たとえば、US 6,538,033を参照されたい);ならびにHMG Co Aレダクターゼ阻害剤であるスタチン類、たとえば、アトルバスタチン(カデュエット(CADVET)(登録商標)、たとえば、US 4,572,909; 4,681,893; 5,273,995; 5,686,104; 5,969,156; 6,126,971; 6,455,574を参照されたい)、シンバスタチン(ゾコール(ZOCOS)(登録商標)、バイトリン(VYTORIN)(登録商標)(エゼチミブ(Ezetimbe)およびシンバスタチン)、たとえば、US 5,846,966; 7,229,982; RE37721を参照されたい)、ロバスタチン(アルトプレブ(ALTOPREV)(登録商標)、たとえば、US 5,916,595; 6,080,778; 6,485,748を参照されたい)、フルバスタチン(レスコール(LESCOL)(登録商標)、たとえば、US 5,354,772; 5,356,896を参照されたい)、プラバスタチン(プラバコール(PRAVACHOL)(登録商標)たとえば、US 5,030,447; 5,180,589; 5,622,985を参照されたい)、メバスタチン(たとえば、US 4,866,090を参照されたい)、ピタバスタチン(たとえば、US 7,208,623を参照されたい)、およびロスバスタチン(クレストール(CRESTOR)(登録商標)たとえば、6,316,460; RE373314を参照されたい)が挙げられる。ファスジルは、酸化窒素シンターゼメッセンジャーRNAを安定化させることが知られており(スタチン類と同様)、ファスジルおよびその変異体を酸化窒素増強剤と組み合わせて使用すると、認知促進作用がさらに増大される。
【0056】
本明細書中で用いられる場合、「投与」とは、被験者への経口投与、坐剤としての投与、局所接触投与、非経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病変内投与、経口投与、鼻腔内投与、もしくは皮下投与、髄腔内投与、または徐放デバイスたとえばミニ浸透圧ポンプの埋植を意味する。
【0057】
本明細書中で用いられる場合、「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成のアミノ酸さらには天然に存在するアミノ酸に類似した形で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を意味する。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によりコードされたアミノ酸さらには後で修飾されたアミノ酸、たとえば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンのことである。
【0058】
「アミノ酸類似体」とは、天然に存在するアミノ酸と同一の基本化学構造、すなわち、水素に結合された炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基を有する化合物、たとえば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを意味する。そのような類似体は、修飾型R基(たとえばノルロイシン)または修飾型ペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同一の基本化学構造を保持する。
【0059】
「非天然アミノ酸」とは、遺伝暗号によりコードされておらずかつ天然に存在するアミノ酸と同一の基本構造を有しうるものであるが、必ずしも有していなくてもよい。非天然アミノ酸としては、アゼチジンカルボン酸、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸(3-aminoisbutyric acid)、2-アミノピメリン酸、第三級ブチルグリシン、2,4-ジアミノイソ酪酸、デスモシン、2,2'-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモプロリン、ヒドロキシリシン、アロ-ヒドロキシリシン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルアラニン、N-メチルグリシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルペンチルグリシン、N-メチルバリン、ナフトアラニン(naphthalanine)、ノルバリン、オルニチン、ペンチルグリシン、ピペコリン酸、およびチオプロリンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
「アミノ酸模倣体」とは、アミノ酸の一般化学構造とは異なるが天然に存在するアミノ酸に類似した形で機能する構造を有する化学化合物を意味する。
【0061】
アミノ酸は、本明細書中では、一般に知られる三文字記号またはIUPAC-IUB生化学命名委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)により推奨される一文字記号のいずれかにより参照されうる。ヌクレオチドも同様に、その一般に受け入れられている一文字コードにより参照されうる。
【0062】
「保存的修飾変異体(conservatively modified variants)」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方にあてはまる。特定の核酸配列と対比して、「保存的修飾変異体」とは、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味するか、または核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を意味する。遺伝暗号の縮重が原因で、多数の機能的に同一の核酸が任意の所与のタンパク質をコードする。たとえば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、コドンによりアラニンが指定されたすべての位置で、コードされたポリペプチドを変化させることなくコドンを記載の対応するコドンのいずれかに変更することが可能である。そのような核酸変異は、「サイレント変異」であり、保存的修飾変異の1種である。また、ポリペプチドをコードする本明細書に記載の核酸配列はすべて、核酸のあらゆる可能なサイレント変異を記述する。当業者であればわかるであろうが、核酸中の各コドン(通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるAUGおよび通常はトリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)は、機能的に同一の分子を生成するように修飾可能である。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、各記載の配列中では黙示的である。
【0063】
アミノ酸配列に関して、当業者であればわかるであろうが、コードされた配列中の単一のアミノ酸または低パーセントのアミノ酸の変更、付加、または欠失の行われた、核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列、またはタンパク質配列に対するそれぞれの置換体、欠失体、または付加体は、改変の結果としてアミノ酸が化学的に類似のアミノ酸(すなわち、疎水性、親水性、正荷電、中性、負荷電のもの)で置換されるのであれば、「保存的修飾変異体」である。例示される疎水性アミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、およびトリプトファンが挙げられる。例示される芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンが挙げられる。例示される脂肪族アミノ酸としては、セリンおよびトレオニンが挙げられる。例示される塩基性アミノ酸としては、リシン、アルギニン、およびヒスチジンが挙げられる。カルボキシレート側鎖を有する例示されるアミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。カルボキサミド側鎖を有する例示されるアミノ酸としては、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられる。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野で周知である。そのような保存的修飾変異体は、本発明に係る多形変異体、種間相同体、および対立遺伝子に追加されるものであり、それらを除外するものではない。
【0064】
次の8つのグループは、それぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含有する:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)
(たとえば、Creighton, Proteins (1984)を参照されたい)。
【0065】
アミノ酸は、本明細書中では、その一般に知られる三文字記号またはIUPAC-IUB生化学命名委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)により推奨される一文字記号のいずれかにより参照されうる。ヌクレオチドも同様に、その一般に受け入れられている一文字コードにより参照されうる。
【0066】
本明細書中で用いられる場合、「アルキル」という用語は、指定の炭素原子数を有する直線状もしくは分岐状の飽和脂肪族基を意味する。たとえば、C1〜C6アルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、iso-プロピル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
本明細書中で用いられる場合、「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を意味する。
【0068】
本明細書中で用いられる場合、「ヘテロ環」という用語は、5〜8個の環員と2個の窒素ヘテロ原子とを有する環系を意味する。たとえば、本発明に有用なヘテロ環としては、ピラゾリジン、イミダゾリジン、ピペラジン、およびホモピペラジンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に係るヘテロ環は、N結合型であり、これは、環ヘテロ原子のうちの1つを介して結合されることを意味する。
【0069】
本明細書中で用いられる場合、「水和物」という用語は、少なくとも1個の水分子に複合体化された化合物を意味する。本発明に係る化合物は、1〜10個の水分子と複合体化可能である。
【0070】
本発明に係る特定の化合物は、非溶媒和形さらには水和形をはじめとする溶媒和形で存在可能である。一般的には、溶媒和形は、非溶媒和形と等価であり、本発明の範囲内に包含されるものとする。本発明に係る特定の化合物は、複数の結晶形またはアモルファス形で存在しうる。一般的には、物理的形態はすべて、本発明の対象となりうる用途で等価であり、本発明の範囲内であるものとする。
【0071】
本明細書中で用いられる場合、「プロドラッグ」という用語は、被験者に投与されたときに、所望の薬剤の生成を引き起こすin vivo過程を介して修飾または変換を受ける化合物を意味する。したがって、プロドラッグは、投与されてから薬剤に変換され、次に、薬剤は、所望の機能を発揮する。プロドラッグは、当業者に公知の技術により調製可能である。
【0072】
本明細書中で用いられる場合、「塩」という用語は、本発明に係る方法で使用される化合物の酸塩または塩基塩を意味する。製薬上許容される塩の例示的な例は、鉱酸(塩酸、臭化水素酸、リン酸など)の塩、有機酸(酢酸、プロピオン酸、グルタミン酸、クエン酸など)の塩、第四級アンモニウム(メチルヨージド、エチルヨージドなど)の塩である。当然のことながら、製薬上許容される塩は非毒性である。好適な製薬上許容される塩に関するこのほかの情報は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985(参照により本明細書に組み入れられるものとする)に見いだしうる。
【0073】
本発明に係る酸性化合物の製薬上許容される塩は、塩基を用いて形成される塩、すなわち、陽イオン塩、例としては、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、たとえば、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの塩、さらにはアンモニウム塩、たとえば、アンモニウム、トリメチル-アンモニウム、ジエチルアンモニウム、およびトリス-(ヒドロキシメチル)-メチル-アンモニウムの塩である。
【0074】
同様に、酸付加塩、例としては、鉱酸、有機カルボン酸、および有機スルホン酸の塩、たとえば、塩酸、メタンスルホン酸、マレイン酸の塩もまた、ピリジルのような塩基性基が構造の一部を構成するのであれば、利用可能である。
【0075】
化合物の中性形は、塩を塩基または酸と接触させてから従来の方法で親化合物を単離することにより再生可能である。化合物の親形は、極性溶媒中への溶解性のような特定の物理的性質が種々の塩形と異なるが、その点を除けば、塩は、本発明の目的では化合物の親形と等価である。
【0076】
本明細書中で用いられる場合、「被験者」という用語は、哺乳動物などの動物、例としては、霊長動物(たとえばヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなど(ただし、これらに限定されるものではない)を意味する。特定の実施形態では、被験者はヒトである。
【0077】
本明細書中で用いられる場合、「治療上有効な量」あるいは「治療上有効な量または用量」あるいは「治療上十分な量または用量」あるいは「有効もしくは十分な量または用量」という用語は、投与の目的となる治療効果を生じる用量を意味する。正確な用量は、治療の目的に依存し、公知の技術を用いて当業者により確認可能であろう(たとえば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 1992); Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999); Pickar, Dosage Calculations (1999); and Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, 2003, Gennaro, Ed., Lippincott, Williams & Wilkinsを参照されたい)。感作細胞では、治療上有効な用量は、多くの場合、非感作細胞に対する従来の治療上有効な用量よりも少なくしうる。
【0078】
II. 記憶および学習を改善するための方法
本発明は、式I、式II、もしくは式IIIで示される化合物またはそれらの組合せあるいは図10に示される他の化合物を投与することにより記憶および学習を改善する方法を提供する。以下の例に示されるように、本発明に係る化合物は、記憶および学習を強化する。たとえば、ヒドロキシファスジル(hydroxyfausidil)の投与を受けた老齢ラットは、若齢ラットに匹敵するレベルの能力を発揮する。さらに、Papassotiropoulos et ah, Science 314:475-314 (2006)に記載されるように、KIBRA遺伝子は、エピソード記憶に関連する。SNP rs7070145は、KIBRAの第9イントロンの共通のT→C置換体である(寄託番号NM_015238)。T対立遺伝子の保有者は、エピソード記憶能力に関する言語遅延再生検査で24%良好な自由再生能力(5分間)および19%良好な自由再生能力(24時間)を有することが示された。化合物は、たとえば、経口的、非経口的、または経鼻的に投与可能である。長期投与に供する場合、より少ない用量を使用することが可能である。疾患状態の治療または学習および記憶の改善のために、化合物を他の薬剤と組み合わせて使用することが可能である。
【0079】
III. 記憶および学習を改善および強化するための化合物
本発明に係る方法に有用な化合物は、式I:
【化14】

【0080】
で示される化合物を包含する。式IのR1は、不在であるかまたは水素もしくはC1〜6アルキルである。R2は、水素、ヒドロキシ、またはハロゲンである。R3は、水素またはC1〜6アルキルである。R4は、0〜3個のR5基{ここで、各R5は、水素、C1〜6アルキル、ベンジル、またはフェニルである}で置換された、5〜8個の環員と2個のN環ヘテロ原子とを有するN結合型ヘテロ環式環系である。式Iで示される化合物はまた、塩形、水和物形、もしくは溶媒和形またはそれらの組合せでありうる。
【0081】
式Iで示される化合物ならびにその塩および水和物は、既存の手段(米国特許第4,678,783号および同第5,942,505号ならびに欧州特許第187,371号を参照されたい)を用いて調製可能である。
【0082】
いくつかの実施形態では、R4は、7員ヘテロ環式環系である。他の実施形態では、化合物は、式Ia:
【化15】

【0083】
を有する。
【0084】
他の実施形態では、式Iで示される化合物は、
【化16】

【0085】
である。
【0086】
さらに他の実施形態では、式Iで示される化合物は、
【化17】

【0087】
である。
【0088】
他の実施形態では、化合物はHCl塩である。いくつかの実施形態では、式Iで示される化合物は、
【化18】

【0089】
である。
【0090】
さらなる実施形態では、化合物は水和物である。他の実施形態では、式Iで示される化合物は、
【化19】

【0091】
〔式中、mは1または2であり、かつnは1/2〜3である〕
である。
【0092】
本発明に係る方法に有用な化合物は、式II:
【化20】

【0093】
で示される化合物を包含する。式中、R1は、水素またはC1〜6アルキルである。各R2は、水素、C1〜6アルキル、ヒドロキシ、または-O-C1〜6アルキルである。R3は、水素またはC1〜6アルキルである。各波線は、それが結合されている二重結合がシスまたはトランスであることを表す。式IIで示される化合物はまた、塩形、水和物形、もしくは溶媒和形またはそれらの組合せでありうる。
【0094】
いくつかの実施形態では、化合物は、式IIa:
【化21】

【0095】
で示される。
【0096】
他の実施形態では、式IIで示される化合物は、
【化22】

【0097】
である。
【0098】
本発明に係る方法に有用な追加の化合物は、レチナミド類およびレチナミド類似体を包含する。
【0099】
本発明に係る方法に有用な化合物は、式III:
(R1)x-C-B-Tyr-Arg-Arg-A-A-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-B-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体をも包含する。R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸またはアミノ酸類似体である}を含むアミノ酸配列である。R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸またはアミノ酸類似体である}を含むアミノ酸配列である。Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつxおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【0100】
いくつかの実施形態では、式IIIで示される化合物は、
(R1)x-Ser-Ile-Tyr-Arg-Arg-Gly-Ala-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-Leu-(R2)y
およびその保存的修飾変異体である。R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸またはアミノ酸類似体である}を含むアミノ酸配列である。R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸またはアミノ酸類似体である}を含むアミノ酸配列である。Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつxおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【0101】
他の実施形態では、式IIIで示される化合物は、
(R1)x-Ser-Ile-Tyr-Arg-Arg-Gly-Ala-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-Leu-(R2)y
およびその保存的修飾変異体である。ただし、上記式中、xおよびyはゼロである。
【0102】
IV. 記憶および学習を改善するための製剤
本発明に係る化合物は、当業者に公知の多種多様な方法で製剤化可能である。製薬上許容される担体は、部分的には、投与される特定の組成物により、さらには組成物の投与に使用される特定の方法により、決定される。したがって、本発明に係る医薬組成物の多種多様な好適な製剤が存在する(たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th ed., 2003, supraを参照されたい)。有効な製剤としては、経口・経鼻製剤、非経口投与に供される製剤、および長期放出用として製剤化された組成物が挙げられる。
【0103】
経口投与に好適な製剤は、(a)液体溶液剤、たとえば、水、生理食塩水、またはPEG400のような希釈剤中に懸濁された有効量の本発明に係る化合物;(b)カプセル剤、サシェ剤、デポ剤、または錠剤(いずれも、液剤、固形剤、顆粒剤、またはゼラチン剤として所定量の活性成分を含有する);(c)適切な液体中のサスペンジョン剤;(d)好適なエマルジョン剤;および(e)貼付剤;よりなりうる。医薬製剤は、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、微結晶性セルロース、ゼラチン、コロイド二酸化ケイ素、タルク、マグネシウムステアレート、ステアリン酸、ならびに他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、保湿剤、保存剤、風味剤、色素、崩壊剤、および製薬上適合しうる担体のうちの1つ以上を含みうる。ゼラチン+グリセリンまたはスクロース+アカシアのような不活性基剤中に活性成分を含むパステル剤、活性成分に加えて当技術分野で公知の担体を含有するエマルジョン剤、ゲル剤などと同様に、ロゼンジ製剤は、スクロースなどのフレーバー中に活性成分を含みうる。
【0104】
医薬製剤は、好ましくはユニット投与製剤の形態である。そのような製剤の場合、製剤は、適正量の活性成分を含有するユニット用量になるように細分される。ユニット投与製剤は、パッケージ化された製剤でありうる。このパッケージは、個別量の製剤、たとえば、分包された錠剤、カプセル剤、およびバイアル中またはアンプル中の粉末剤を収容する。また、ユニット投与製剤は、カプセル剤、錠剤、カシェ剤、またはロゼンジ剤自体でありうるか、またはこれらのうちのいずれが適切な数だけパッケージ化されものでありうる。組成物は、所望により、他の適合する治療剤をも含有しうる。好ましい医薬製剤は、持続放出製剤の形態で本発明に係る化合物を送達することが可能である。
【0105】
本発明に有用な医薬製剤は、長期放出製剤をも包含する。いくつかの実施形態では、本発明に有用な長期放出製剤は、米国特許第6,699,508号に記載のものであり、米国特許第7,125,567号に従って調製可能である(両特許は参照により本明細書に組み入れられるものとする)。
【0106】
医薬製剤は、典型的には、哺乳動物たとえばヒトおよび非ヒト哺乳動物に送達される。本方法を用いて治療される非ヒト哺乳動物としては、飼い馴らされた動物(すなわち、イヌ科動物、ネコ科動物、ネズミ科動物、齧歯目動物、およびウサギ目動物)ならびに農業用の動物(ウシ科動物、ウマ科動物、ヒツジ科動物、ブタ類動物)が挙げられる。
【0107】
本発明に係る方法を実施する場合、医薬組成物は、単独でまたは他の治療剤もしくは診断剤と組み合わせて使用可能である。
【0108】
V. 記憶および学習を改善するための投与
本発明に係る化合物は、必要に応じた頻度で、たとえば、毎時間、毎日、毎週、または毎月、投与可能である。本発明に係る医薬療法で利用される化合物は、1日約0.0001mg/kg〜約1000mg/kgの初回投与量で投与される。約0.01mg/kg〜約500mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約200mg/kgまたは約1mg/kg〜約100mg/kgまたは約10mg/kg〜約50mg/kgの一日用量範囲が使用可能である。しかしながら、投与量は、患者の必要性、治療される病態の重症度、および利用される化合物に応じて変更可能である。たとえば、投与量は、特定の患者で診断された疾患のタイプおよび病期を考慮して経験的に決定可能である。患者に投与される用量は、本発明との関連では、長期間にわたり患者において有益な治療応答を引き起こすのに十分でなければならない。用量の程度はまた、特定の患者における特定の化合物の投与に伴うなんらかの有害な副作用の存在、性質、および度合いにより決定されるであろう。特定の状況に対する適正投与量の決定は、診療医の技能の範囲内にある。一般的には、治療は、化合物の最適用量未満のより少ない投与量で開始される。その後、投与量は、状況に応じて最大の効果が到達されるまで少量ずつ増大される。便宜上、全一日投与量は、所望により分割されて日中少しずつ投与されうる。用量は、治療医による決定に従って、毎日または1日おきに投与可能である。用量はまた、より長期間(数週間、数ヶ月間、または数年間)にわたり定期的または連続的に、たとえば、真皮下のカプセル剤、サシェ剤、もしくはデポ剤を用いることにより、または貼付剤を介して、投与可能である。
【0109】
医薬組成物は、さまざまな方法で、たとえば、局所的、非経口的、静脈内、真皮内、皮下、筋肉内、経結腸的、経直腸的、または腹腔内に、患者に投与可能である。好ましくは、医薬組成物は、非経口的、局所的、静脈内、筋肉内、皮下、経口的、または経鼻的(たとえば吸入を介して)に投与される。
【0110】
本発明に係る方法を実施する場合、医薬組成物は、単独でまたは他の治療剤もしくは診断剤と組み合わせて使用可能である。本発明に係る組合せプロトコルで使用される追加の薬剤は、個別に投与可能であるか、または組合せプロトコルで使用される1種以上の薬剤を混合物などとして併用投与することが可能である。1種以上の薬剤を個別に投与する場合、各薬剤の投与のタイミングおよびスケジュールは異なりうる。他の治療剤または診断剤は、個別に本発明に係る化合物と同時にまたは異なる時点で投与可能である。
【0111】
VI. 予測方法および診断方法
本発明は、KIBRA SNP rs17070145のC対立遺伝子の存在または不在を検出することによりアルツハイマー病を予測および/または診断する方法を提供する。本明細書中で用いられる場合、「診断」という用語は、MCIまたはアルツハイマー病の診断の顕著な援助を意味する。
【0112】
患者サンプル中のマーカーを検出するアッセイたとえばRT-PCRにおいて、プローブ、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチドアレイ、およびプライマーのような核酸結合分子を使用することが可能である。一実施形態では、当技術分野で公知の標準的方法に従ってRT-PCRが使用される。他の実施形態では、PCRアッセイ、たとえばアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社から入手可能なタックマン(Taqman)(登録商標)アッセイなどを利用して、核酸およびその変異体を検出することが可能である。他の実施形態では、qPCRおよび核酸マイクロアレイを用いて、核酸を検出することが可能である。所定のバイオマーカーに結合する試薬は、当業者に公知の方法に従って調製可能であるかまたは市販品として購入可能である。
【0113】
核酸の分析は、サザン分析、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、またはマーカーコード配列の一部分に相補的な核酸配列へのハイブリダイゼーションに基づく任意の他の方法(たとえばスロットブロットハイブリダイゼーション)(これもまた本発明の範囲内にある)のような常用的技術を用いて達成可能である。適用可能なPCR増幅技術については、たとえば、Ausubel et al and Innis et al, supraに記載されている。一般的核酸ハイブリダイゼーション法については、Anderson, "Nucleic Acid Hybridization," BIOS Scientific Publishers, 1999に記載されている。マイクロアレイ中に配置されたmRNA配列またはcDNA配列から複数の核酸配列(たとえば、ゲノムDNA、mRNA、またはcDNA)の増幅またはハイブリダイゼーションを行うことが可能である。マイクロアレイ法については、Hardiman, "Microarrays Methods and Applications: Nuts & Bolts," DNA Press, 2003; and Baldi et al, "DNA Microarrays and Gene Expression: From Experiments to Data Analysis and Modeling," Cambridge University Press, 2002に概説されている。
【0114】
核酸マーカーおよびその変異体の分析は、当技術分野で公知の技術、たとえば、マイクロアレイ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく分析、配列分析、および電気泳動分析(ただし、これらに限定されるものではない)を用いて行うことが可能である。PCRに基づく分析の例としては、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社から入手可能なタックマン(Taqman)(登録商標)対立遺伝子識別アッセイが挙げられるが、これに限定されるものではない。配列分析の例としては、マクサム・ギルバート(Maxam-Gilbert)配列決定法、サンガー(Sanger)配列決定法、キャピラリーアレイDNA配列決定法、熱サイクル配列決定法(Sears et al, Biotechniques, 13:626-633 (1992))、固相配列決定法(Zimmerman et al, Methods Mol Cell Biol., 3:39-42 (1992))、質量分析を用いた配列決定法、たとえばマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS; Fu et al, Nat. Biotechnol, 16:381-384 (1998))、およびハイブリダイゼーションによる配列決定法(Chee et al, Science, 274:610-614 (1996); Drmanac et al, Science, 260:1649-1652 (1993); Drmanac et al, Nat. Biotechnol, 16:54-58 (1998))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。電気泳動分析の例としては、スラブゲル電気泳動法、たとえばアガロースゲル電気泳動法またはポリアクリルアミドゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、および変性勾配ゲル電気泳動法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。核酸変異体を検出する他の方法としては、たとえば、サード・ウェイブ・テクノロジーズ社(Third Wave Technologies, Inc.)製のインベーダー(INVADER)(登録商標)アッセイ、制限断片長多型(RFLP)分析、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、ヘテロ二本鎖移動度アッセイ、一本鎖コンフォメーション多型(SSCP)分析、単一ヌクレオチドプライマー伸長法(SNUPE)、およびパイロシークエンシング法が挙げられる。
【0115】
当業者に公知のいくつかのイムノアッセイのいずれかを用いて患者サンプル中の本発明に係るマーカー(rs17070145 KIBRA SNPのC変異体またはT変異体によりコードされるポリペプチド変異体)の発現レベルを検出するためのアッセイにおいて、抗体試薬を使用することが可能である。イムノアッセイ技術およびプロトコルについては、Price and Newman, "Principles and Practice of Immunoassay," 2nd Edition, Grove's Dictionaries, 1997; and Gosling, "Immunoassays: A Practical Approach," Oxford University Press, 2000に概説されている。競合イムノアッセイおよび非競合イムノアッセイをはじめとするさまざまなイムノアッセイ技術を使用することが可能である。たとえば、Self et al, Curr. Opin. Biotechnol, 7:60-65 (1996)を参照されたい。イムノアッセイという用語は、酵素イムノアッセイ(EIA)、たとえば、酵素増幅イムノアッセイ技術(EMIT)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、IgM抗体捕獲ELISA(MAC ELISA)、および微粒子酵素イムノアッセイ(MEIA);キャピラリー電気泳動イムノアッセイ(CEIA);ラジオイムノアッセイ(RIA);イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA);蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA);ならびに化学発光アッセイ(CL)をはじめとする技術を包含するが、これらに限定されるものではない。所望により、そのようなイムノアッセイを自動化することが可能である。イムノアッセイをレーザー誘起蛍光と組み合わせて使用することも可能である。たとえば、Schmalzing et al, Electrophoresis, 18:2184-93 (1997); Bao, J. Chromatogr. B. Biomed. Sci, 699:463-80 (1997)を参照されたい。リポソームイムノアッセイ、たとえば、フローインジェクションリポソームイムノアッセイおよびリポソームイムノセンサーもまた、本発明で使用するのに好適である。たとえば、Rongen et ah, J. Immunol. Methods, 204:105-133 (1997)を参照されたい。そのほかに、タンパク質/抗体複合体の形成の結果として光散乱が増大され、これがマーカー濃度の関数としてピークレート信号に変換されるネフェロメトリーアッセイも、本発明に係る方法で使用するのに好適である。ネフェロメトリーアッセイは、ベックマン・コールター(Beckman Coulter)社(Brea, CA; Kit #449430)から市販品として入手可能であり、ベーリング・ネフェロメーター・アナライザー(Behring Nephelometer Analyzer)(Fink et al., J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 27:261-276 (1989))を用いて実施可能である。
【0116】
核酸への抗体の特異的免疫学的結合は、直接的もしくは間接的に検出可能である。直接標識としては、抗体に結合された、蛍光タグまたは発光タグ、金属、色素、放射性核種などが挙げられる。ヨウ素125(125I)で標識された抗体を使用することが可能である。核酸に特異的な化学発光抗体を用いる化学発光アッセイは、タンパク質レベルの高感度非放射性検出に好適である。蛍光色素で標識された抗体もまた、好適である。蛍光色素の例としては、DAPI、フルオレセイン、ヘキスト33258(Hoechst 33258)、R-フィコシアニン、B-フィコエリトリン、R-フィコエリトリン、ローダミン、テキサス・レッド(Texas red)、およびリサミンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。間接標識としては、当技術分野で周知の種々の酵素、たとえば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼなどが挙げられる。ホースラディッシュペルオキシダーゼ検出システムは、たとえば、450nmで検出可能な可溶性生成物を過酸化水素の存在下で生成する色素原性物質テトラメチルベンジジン(TMB)と併用可能である。アルカリホスファターゼ検出システムは、たとえば、405nmで容易に検出可能な可溶性生成物を生成する色素原性物質p-ニトロフェニルホスフェートと併用可能である。同様に、β-ガラクトシダーゼ検出システムは、410nmで検出可能な可溶性生成物を生成する色素原性物質o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(ONPG)と併用可能である。ウレアーゼ検出システムは、ウレア-ブロモクレゾールパープル(Sigma Immunochemicals; St. Louis, MO)のような基質と併用可能である。
【0117】
直接標識または間接標識からのシグナルは、たとえば、色素原性物質からの色を検出する分光光度計;放射線を検出する放射線カウンター、たとえば、125Iを検出するガンマカウンター;または特定の波長の光の存在下の蛍光を検出する蛍光光度計を用いて分析可能である。酵素結合抗体を検出するために、製造業者の使用説明書に従ってEMAXマイクロプレート・リーダー(EMAX Microplate Reader)(Molecular Devices; Menlo Park, CA)のような分光光度計を用いて、定量分析を行うことが可能である。所望により、本発明に係るアッセイを自動化したりまたはロボット操作で行ったりすることが可能であり、複数のサンプルからのシグナルを同時に検出することが可能である。
【0118】
抗体は、さまざまな固体担体、たとえば、磁性粒子もしくはクロマトグラフィーマトリックス粒子、アッセイプレート(たとえばマイクロタイターウェル)の表面、固体基材材料の部片、または膜(たとえば、プラスチック、ナイロン、ペーパー)などに固定可能である。アッセイストリップは、固体担体上に抗体または複数の抗体をアレイ状にコーティングすることにより調製可能である。次に、このストリップを被験サンプル中に浸漬し、そして洗浄工程および検出工程に通してすばやく処理することにより、着色スポットのような測定可能なシグナルを発生させることが可能である。
【0119】
検出可能部分を本明細書に記載のアッセイで使用することが可能である。所要の感度、抗体とのコンジュゲーションの容易性、安定性の要件、ならびに利用可能な計測設備および廃棄処理設備に応じて標識を選択することにより、多種多様な検出可能部分を使用することが可能である。好適な検出可能部分としては、放射性核種、蛍光染料(たとえば、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、オレゴン・グリーン(Oregon Green)、ローダミン、テキサス・レッド(Texas red)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(tetrarhodimine isothiocynate)(TRITC)、Cy3、Cy5など)、蛍光マーカー(たとえば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、フィコエリトリンなど)、腫瘍関連プロテアーゼにより活性化される自己消光型蛍光性化合物、酵素(たとえば、ルシフェラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、ナノ粒子、ビオチン、ジゴキシゲニンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
有用な物理フォーマットは、複数の異なるマーカーを検出するための複数の個別のアドレス可能位置を有する表面を包含する。そのようなフォーマットは、マイクロアレイおよび特定のキャピラリーデバイスを包含する。たとえば、Ng et al, J. Cell Mol. Med., 6:329-340 (2002); U.S. Pat. No. 6,019,944を参照されたい。これらの実施形態では、各個別表面位置は、各位置に1つ以上の検出用マーカーを固定するために抗体を含みうる。表面は、他の選択肢として、表面の個別位置に固定された1つ以上の個別粒子(たとえば、マイクロ粒子またはナノ粒子)を含みうる。この場合、マイクロ粒子は、1つ以上の検出用マーカーを固定するために抗体を含む。
【0121】
分析は、さまざまな物理フォーマットで実施可能である。たとえば、多数の被験サンプルの処理を容易にするために、マイクロタイタープレートまたは自動化を利用することが可能である。他の選択肢として、時宜を得た診断または予後診断を容易にするために、単一のサンプルフォーマットを開発することが可能である。
【0122】
他の選択肢として、本発明に係る抗体または核酸プローブを顕微鏡スライド上に固定された患者の生検試料の切片に適用することが可能である。得られた抗体染色またはin situハイブリダイゼーションパターンは、当技術分野で公知のさまざまな光学顕微鏡法または蛍光顕微鏡法のいずれか1つを用いて視覚化可能である。
【0123】
他のフォーマットでは、本発明に係る種々のマーカーはまた、in vivoイメージング、たとえば、本発明に係るバイオマーカーの核酸またはコードタンパク質を検出する標識化試薬のイメージングなどのための試薬を提供する。in vivoイメージングの目的では、癌バイオマーカーによりコードされるタンパク質の存在を検出する試薬たとえば抗体は、蛍光マーカーのような適切なマーカーを用いて標識可能である。
【0124】
VII. 組成物、キット、および統合システム
本発明は、本発明に係るポリペプチドに特異的な抗体またはポリヌクレオチドに特異的な核酸を用いて本明細書に記載のアッセイを実施するための組成物、キット、および統合システムを提供する。
【0125】
本発明に係る診断アッセイを行うためのキットは、典型的には、本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドに特異的に結合する抗体または核酸配列を含むプローブと、プローブの存在を検出するための標識と、を含む。キットは、いくつかの抗体または本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、たとえば、本発明に係るバイオマーカーによりコードされるタンパク質を認識する抗体のカクテルを含みうる。
【0126】
VI. 実施例
実施例1: ヒドロキシファスジルで処置することによる記憶の改善
検査前の4〜5日間にわたり皮下に毎日送達される0.75mg/kgおよび0.375mg/kgの二回用量を老齢ラット(18ヵ月齢)に投与することにより、ヒドロキシファスジルをin vivoで検査した。検査期間中、ヒドロキシファスジルを各検査日の朝に投与した。2つの対照グループを使用し、一方を未処置とし、他方を媒体(生理食塩水)で処置した。対照グループはいずれも、4ヵ月齢の9匹のメンバーを含む。
【0127】
次に、水回避ラジアルアーム迷路検査を用いてラットを検査した。ラジアルアーム迷路は、絶食を必要としない泳ぎに基づく検査である。迷路は、8つのラジアルアームよりなり、アームのうちの4つは、沈められた台を有する。ラットを出発アームに配置した。このアームは、検査全体を通して一定に保たれ、台を収容していない。台の位置を突き止めるために、ラットに180秒間を与えた。ラットが台の位置を突き止めた場合、ラットを台の上に15秒間置き、次に、取り出した。ラットが台を見つけた場合、次の実験の開始前にその台を取り除いた。各ラットを1日4回の実験に付し、1つの台につき1回の実験とし、実験の間隔を30秒間とした。各ラットを12日間にわたり検査した。初日を訓練で構成し、2〜7日目を「初期」とみなし、8〜12日目を「後期」とみなした。
【0128】
また、モーリス水迷路を用いてラットを検査した。モーリス水迷路は、単一の台を有する円形の水浴よりなる。浴は、4つの四分円および種々の円環に分割される。ラットを水浴中に配置して、ラットが台に到達するのに必要な時間および距離を測定した。ラットにより使用される解決戦略にも注目した。ディジタル追跡システムを用いてラットの移動を追跡した。各ラットは、1日4回の実験を受け、迷路への進入は、各実験ごとに四分円が異なっていた。モーリス水迷路は、5日の検査日を含み、最初の4日間は検査に関係し、5日目はプローブ実験に関係した。
【0129】
検査後、ラットを死滅させ、脳を解剖した。
【0130】
図3〜4は、ヒドロキシファスジルの投与により改善された学習スコア(作業記憶の直交尺度)を示しており、より高用量のヒドロキシファスジルでは、より小用量のときよりも学習に関して大きい改善が達成される。しかしながら、より低用量は、長期投与に有用でありうる。図3〜5はまた、ヒドロキシファスジルの投与により改善された記憶を示しており、より高用量のヒドロキシファスジルでは、より小用量のヒドロキシファスジルのときよりも記憶に関して大きい改善が達成される。しかしながら、より低用量は、長期投与に有用でありうる。
【0131】
27匹の18ヵ月齢の雄ラットを用いて追加の効力検査を行った。これらのラットを利用して、3つの処置グループ:生理食塩水媒体(「老齢 媒体」)、1日0.1875mgの用量の生理食塩水中ヒドロキシファスジル(「老齢 低用量」)、および1日0.3750mgの用量のヒドロキシファスジル(「老齢 高用量」)にランダムに分けた。割り当てられた基質の毎日の注射を行動検査の4日前に開始し、毎日の継続検査の約1時間前に注射を行って検査期間中継続した。1日4回の実験で連続12日間にわたり動物を検査した。水ラジアルアーム迷路の後、モーリス水迷路を用いて空間参照記憶を評価した。この検査は、1日4回の実験で4日間よりなり、最終日に追加のプローブ実験を有していた。図16のデータから、ヒドロキシファスジルの投与による記憶の改善が実証される。
【0132】
実施例2: フェンレチニドで処置することによる記憶の改善
ヒドロキシファスジルに関連して以上に記載したプロトコルを用いて、1mg/kg〜2mg/kgのフェンレチニドでラットを処置した。ラットを以上に記載したラジアルアーム迷路およびモーリス水迷路に付した。
【0133】
図7から、フェンレチニドで処置することにより、対照のときによりもラットによりなされた正しくない場合の誤りの回数が低減されたことが示される。そのほかに、図7から、より高用量のフェンレチニドで処置することにより、より低用量のフェンレチニドのときよりも記憶が改善されたことが実証される。
【0134】
実施例3: ファスジルで処置することによる記憶の改善
10mg/kg/日(FAS低用量+プライミング)または3mg/kg/日(FAS低用量)で老齢動物を14日間前処置した。14日後、すべて動物に3mg/kg/日を投与した。媒体は、通常生理食塩水(0.9%)であった。ラットを以上に記載したラジアルアーム迷路およびモーリス水迷路に付した。
【0135】
図11A〜Bは、検査を受けた日数の増加(図11A)および実験回数の増加(図11B)に伴って参照記憶能力が改善されることを示している。
【0136】
また、3mg/kg/日(n=8)または30mg/kg/日(n=8)の用量で老齢(18ヵ月齢)ラットに毎日皮下注射することにより、ファスジルを送達した。対照は、媒体(通常生理食塩水)が毎日注射された老齢および弱齢(4ヵ月齢)の両ラットを含んでいた。ファスジルに関して低用量は、0.750mg/kg/日のヒドロキシファスジルで効力を示した以前の研究に基づくものであり、高用量は、一般に使用される治療用量として文献に報告されている用量に基づくものであった。
【0137】
実施例4:ファスジルで処置することによる記憶の改善II
この実施例は、ファスジルによる処置後の記憶の改善の追加の証拠を提供する。
【0138】
この実験は、低減された前処置段階、より困難な内容の作業記憶実験(ここでは8つのアームのうちの7つのアームに台を取り付けた)、および長期間型のモーリス迷路(7日間+「プローブ」実験)を含んでいた。3mg/kg/日(n=8)または10mg/kg/日(n=8)の用量で老齢(18ヵ月齢)ラットに毎日皮下注射することにより、ファスジルを送達した。対照は、媒体(通常生理食塩水)が毎日注射された老齢および弱齢(4ヵ月齢)の両ラットを含んでいた。ファスジルに関して低用量は、効力を示した実施例3の証拠に基づくものであり、高用量は、一般に使用される低治療用量として文献に報告されている用量に基づくものであった。この実験では1日の処置段階であった。薬剤送達の7日後、10mg/kg/日の動物は、以前の研究の場合と同様に外傷を示し始めたので、低用量に変更した。作業記憶能力の有意な改善は、とくに、作業記憶「負荷」に関して最も過酷な実験である水回避ラジアルアーム迷路の後続実験6および7で観測された。図12参照。
【0139】
実施例5: 正常なエピソード記憶能力に関連するKIBRA SNPとアルツハイマー病に対する遺伝的危険因子との相関
この実施例は、正常なエピソード記憶能力に関連するKIBRA SNPがアルツハイマー病の発症に対する遺伝的危険因子でもあるという証拠を提供する。
【0140】
アルツハイマー病患者(n=595)または対応する健常対照供与者(n=320)の死後確認(すなわち、アミロイド斑および神経原繊維変化に関して陽性)ならびに死亡時臨床認知症のコホートで、KIBRA遺伝子座全体にわたる26種の単一ヌクレオチド多型のサンプルを検査した。この分析で同定された最も有意なハプロタイプは、エピソード記憶能力に関係するKIBRA SNPであるSNP rs17070145を含んでいた。アルツハイマー病に関連する対立遺伝子は、より劣る記憶能力に関連する対立遺伝子であるC対立遺伝子であった。この初期知見に基づいて、米国、ノルウェー、オランダ、およびドイツからの死前診断患者(n=1,373)および対応する対照(n=785)の大きいコホートで、rs17070145を検査した。有意性に関するコクラン・マンテル・ヘンツェル(Cochran-Mantel-Haenszel)検定では、rs17070145のC対立遺伝子に対してp=0.0013が得られた。この多数収集された遺伝子型解析データから、正常なエピソード記憶能力に関連する同一のKIBRA SNPおよびハプロタイプはまた、アルツハイマー病に対する遺伝的危険因子でもあることが示唆される。
【0141】
実施例6: KIBRAおよびPKC-ζの転写レギュレーション
この実施例は、軽度認識障害(MCI)、アルツハイマー病を有する患者および対応する認知的に正常な対照の脳領域におけるKIBRAおよびその実証されたキナーゼPKC-ζの転写レギュレーションについての説明を提供する。
【0142】
記憶およびAD進行の両方に関与することが知られている2つの脳領域、すなわち、海馬および中側頭回(MTG)を検査した。MCIとの関連ではかつ海馬内では、PKC-ζメッセージは1/5未満に減少し(p=7.6E-05)、一方、KIBRAメッセージは有意に変化しなかった。AD患者の海馬では、PKC-ζは1/2.67にダウンレギュレートされ(p=2.2E-06)、加えてKIBRAメッセージは3倍に増大された(p=2.7E-05)。MCI患者の中側頭回内では、KIBRA(1/1.61倍、p=2.3E-04)およびPKC-ζ(1/2.52倍、p=4.7E-04)のメッセージはいずれも減少した。AD患者のMTGでは、PKC-ζメッセージは同様に有意に1/3未満に減少し(p=1.0E-04)、一方、KIBRAは2.69倍に増大した(p=3.3E-04)。このデータは以下の表にさらに示されておりこれらのp値はすべて多重検定比較のために補正されていることに留意されたい。
【表1】

【0143】
実施例7: 記憶経路の妥当性検証
この実施例は、記憶経路の妥当性検証を提供する。
【0144】
スイスから351名の若年成人(中央値年齢:22歳、範囲:18〜48歳)を募集した。本研究のような非近交集団での遺伝的関連研究は、偽陽性を生じる傾向がある。なぜなら、試験サンプル内の非ランダム遺伝的異質性(集団構造)が遺伝子マーカーと表現型との間の見掛け上の相関をもたらす可能性があるからである(Freedman, M.L. et al., Nat. Genet. 36, 388 (2004))。構造化関連解析(Pritchard, J.K. & Rosenberg, N.A. Am. J. Hum. Genet. 65, 220 (1999))を行った。この集団における対立遺伝子頻度多様性は中程度でありかつ参加者の遺伝的背景は1つの正規分布クラスター(P=0.6)を形成することが判明した。10名の被験者は外れ値(クラスター割付け確率25%未満)として同定されたので、遺伝的関連研究から除外した。
【0145】
意味的に関連性のない30語の名詞を含む単語リストの学習の5分後の想起の成功度を定量する言語記憶課題での能力に応じて、残りの集団(n=341)を4つのグループに層別化した。これらの各四分集団の遺伝子型を502,627個のSNPで解析した。低機能のSNPを廃棄し、シングルポイントおよびスライディングウィンドウ(マルチポイント)の両方の統計学的手法を用いて、能力に関連するSNPを高い統計学的信頼度で選択した。両方の解析戦略で2個のSNP:rs17070145およびrs6439886が有意であった。両SNPは、ヒト脳で発現される遺伝子内に位置する。すなわち、rs17070145は、ニューロンタンパク質をコードするKIBRA(NM_015238)の第9イントロン内の共通のT→C置換体であり、rs6439886は、CLSTN2(シナプスタンパク質カルシンテニン2をコードする)(NM_022131)の第1イントロン内の共通のT→C置換体である。
【0146】
元のスイス人コホート(n=341)の個別遺伝子型解析を行うことにより、全ゲノムアレイに基づくスキャン結果の妥当性を検証し、KIBRA SNPおよびCLSTN2 SNPの両方が示差的ヒト記憶能力に有意に関連することを実証した(たとえば、rs17070145*T対立遺伝子の保有者は、非保有者よりも単語提示の5分後の自由再生能力が24%良好(P=0.000004)でありかつ単語提示の24時間後の自由再生能力が19%良好(P=0.0008)であったことを参照されたい)。SNP rs6439886では、効果の程度は小さいが同様の結果が得られた(表1参照、Papassotiropoulos et al, Science 314:475-478 (2006)も参照されたい; PCT/US07/61112も参照されたい)。5分間遅延および24時間遅延の自由再生はいずれも、エピソードの海馬依存性記憶を反映する(Squire, L.R. & Alvarez, P. Curr. Opin. Neurobiol. 5, 169 (1995))。いずれのSNPも直後再生検査では能力に関連していなかったことから、遅延エピソード記憶の対立遺伝子依存性差は、動機付け、注意集中、または作業記憶のような交絡因子に及ぼす対立遺伝子の影響により生じることはないことが示唆される。
【0147】
米国からの256名の認知的に正常な老齢参加者(中央値年齢:55歳、範囲:20〜81歳)の第2の独立した集団で、両方のSNPをさらに評価した。KIBRA SNPは、同一の効果方向を有してエピソード記憶との有意な関連を示した。すなわち、T対立遺伝子保有者は、レイ聴覚言語学習検査(Rey Auditory Verbal Learning Test)(AVLT)(Rosenberg, S.J. et al. J. Clin. Psychol. 40, 785 (1984))およびブシュケ選択的想起検査(Buschke's Selective Reminding Test)(SRT)(Owen, E.H., et al. Neuroscience 80, 1087-99 (1997))(表2、Papassotiropoulos et al., Science 314:475-478 (2006)も参照されたい; PCT/US07/61112も参照されたい)の2つの異なるエピソード記憶検査で、非保有者よりも有意に良好な記憶スコアを有していた。ウィスコンシンカードソーティング検査(Wisconsin Card Sorting Test)および一定ペース聴覚逐次注意課題(Paced Auditory Serial Attention Task)の結果の対立遺伝子依存性差は存在しなかったことから、この集団では、rs17070145は、遂行機能、注意集中、作業記憶のいずれにも関連していないことが示唆される。SNP rs6439886は、この老齢集団では、エピソード記憶との有意な関連を示さなかった。この特定のSNPに関して第1のサンプルでの偽陽性の可能性に加えて、第2の集団での有意性の欠如もまた、集団間の民族性および平均年齢の差に関連する可能性がある。
【表2】

【表3】

【0148】
KIBRA SNP rs17070145とエピソード記憶との観測された関連が近傍遺伝子の遺伝的変異による連鎖不平衡(LD)に基づくものではないことを確認するために、19種の追加のSNPを用いて、KIBRAとフランキング遺伝子RARSおよびODZ2とを保有するゲノム領域の精密なマッピングを行った。3種のハプロタイプブロックがKIBRA内に観測された(図13)。SNP rs17070145および対応するハプロタイプブロック(ブロック2)は、最も高い有意水準(それぞれP=0.000004およびP=0.00001)を呈し、40回の比較に対するボンフェローニ(Bonferroni)補正を行った後も有意性を保持した(20個のSNPを加法モデルおよび優性モデルの両方で分析、それぞれP=0.00016およびP=0.0004)。したがって、観測された相関は、隣接遺伝子によるLDとは関係しない。
【0149】
実施例8: fMRIを用いた記憶関連脳機能に関するKIBRA遺伝子型の研究
機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)を用いてKIBRA遺伝子型と記憶関連脳機能との関係を調べた。局所ニューロン活性のマーカーであるデオキシヘモグロビンレベルの領域別変化をfMRIで測定する。スイス人集団からの30名の被験者(rs17070145*T対立遺伝子の保有者15名に対して非保有者15名)にfMRIを行った。性別(各グループ中、男性5名および女性10名)、学歴(P=0.7)、年齢(P=0.8)、および5-HT2aレセプター遺伝子のHis452Tyr遺伝子型(P=0.4)に関して、対立遺伝子のグループを一致させた。なぜなら、これらの変数は、記憶に影響を及ぼすことが示されているからである(Degonda, N. et al., Neuron 46, 505 (2005))。脳活性化に関して遺伝子型に無関係な能力効果を回避し、しかも脳活性化パターンの遺伝子型依存性差を捕えるために、5分間遅延再生能力(P=1.0)に関してグループを一致させた。したがって、同一レベルの記憶能力を達成するために、T対立遺伝子の非保有者は、記憶関連脳領域でより多くの活性化を必要とすることが予想された(Henke, K. et al.Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 96, 5884 (1999))。さらに、KIBRAは、海馬の機能に依存するヒトエピソード記憶に関連するので(Squire, L.R. & Alvarez, P. Curr. Opin. Neurobiol. 5, 169 (1995); Buther, K. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 317, 703 (2004))、かつKIBRAは、海馬で発現されるので、KIBRA遺伝子型は、ヒト海馬でのエピソード記憶関連情報処理に影響を及ぼす可能性があると推測された。ニューロイメージング研究により、海馬は、連想エピソード記憶課題により活性化されることが見いだされているので(Drier, E.A. et al., Nat. Neurosci. 5, 316 (2002); Sacktor, T.C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 90, 8342 (1993))、顔-職業連想課題における海馬活性化に及ぼすKIBRA遺伝子型の影響を検査した(Drier, E.A. et al., Nat. Neurosci. 5, 316 (2002))。
【0150】
一致させたことから予想されるとおり、fMRI想起能力の対立遺伝子依存性差は存在しなかった(P=0.5)。記憶想起中、T対立遺伝子の非保有者は、T対立遺伝子の保有者と比較して内側側頭葉で脳活性化の有意な増大を示した(右海馬の座標位置[26, -12, -14]で極大、t=4.76、P<0.001、モントリオール神経学研究所(Montreal Neurological Institute)に従った座標)(図15)。T対立遺伝子の非保有者はまた、前頭皮質(右内側前頭回(ブロードマン領野8/9)の座標位置[30, 42, 42]で極大、t=4.24、P<0.001、左内側前頭回(ブロードマン領野6)の[-24, 10, 56]で極大、t=4.38、P<0.001)および頭頂皮質(右下頭頂小葉(ブロードマン領野40)の座標位置[50, -24, 30]で極大、t=3.97、P<0.001)での活性化増大を示した。このエピソード記憶課題では、T対立遺伝子の非保有者のさらなる脳活性化の増大は存在しなかった。さらに、作業記憶課題では、T対立遺伝子の非保有者は、T対立遺伝子の保有者と比較して脳活性化の増大をなんら示さなかったことから、非保有者における以上で報告された活性化は、エピソード記憶想起に特異的であったことが示唆される。
【0151】
以上で報告した脳領域はすべて、エピソード記憶想起に重要な回路網に属し(Ubach, J. Et al. EMBO J. 17, 3921 (1998))、この回路網は、本研究でも、内側側頭葉(右海馬の座標位置[32, -8, -24]で極大、t=4.27、P<0.001)を含めて、記憶想起中に活性化された。したがって、こうした知見から、T対立遺伝子の非保有者は、T対立遺伝子の保有者と同一レベルの想起能力を達成するために、これらの記憶想起関連脳領域でより多くの活性化を必要とすることが示唆される。T対立遺伝子の非保有者と比較して、T対立遺伝子のグループでは、より大きな課題関連皮質活性化は存在しなかった。符号化中の脳活性化の対立遺伝子依存性差は見いだされなかったので、遺伝子型は、記憶形成のこの初期段階では、エピソード記憶に影響を及ぼさなかったことが示唆される。追加の作業記憶課題では、これらの領域で脳活性化の対立遺伝子依存性差は見られなかったことから、非保有者における以上で報告された活性化は、エピソード記憶想起に特異的であったことが示唆される。自動化ボクセルベースアルゴリズム(SPM2)(Cabeza, R. & Nyberg, L. J. Cogn Neurosci. 12, 1 (2000))および手動体積測定では、海馬もしくは海馬傍回の体積または白質および灰白質の体積の対立遺伝子依存性差は実証されなかったことから、機能的イメージングの結果は、形態学的差により偏りを生じなかったことが示唆される。さらに、記憶測定値と脳体積のいずれもとの間にも有意な相関は存在しなかった。
【0152】
SNPに基づく分析のほかに、記憶関連KIBRAハプロタイプに基づくfMRI分析により、記憶想起中の海馬活性化に及ぼす同様の遺伝的影響が実証された(座標位置[24, -10, -14]で極大、t=5.24、P<0.001)。CAMTA1リスク対立遺伝子の保有者で、同一のfMRI活性化が見られた。
【0153】
以上の本発明は、明確に理解することを目的として図や例を挙げてある程度詳細に説明されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内でいくらかの変更および修正を行いうることはわかるであろう。そのほかに、本明細書中に提供された各参考文献は、あたかも各参考文献が参照により個別的に組み入れられたのと同程度まで参照によりその全体が組み入れられるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の記憶および学習を改善するための方法であって、
その必要のある患者に治療上有効量の式I:
【化1】

〔式中、
R1は、不在であるかまたは水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、
R2は、水素、ヒドロキシ、およびハロゲンよりなる群から選択されるメンバーであり、
R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、
R4は、0〜3個のR5基{ここで、各R5は、独立して、水素、C1〜6アルキル、ベンジル、およびフェニルよりなる群から選択されるメンバーである}で置換された、5〜8個の環員と2個のN環ヘテロ原子とを有するN結合型ヘテロ環式環系である〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む、上記方法。
【請求項2】
R4が7員ヘテロ環式環系である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が、式Ia:
【化2】

で示される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が、
【化3】

である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、
【化4】

である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物がHCl塩である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、
【化5】

である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が、
【化6】

である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が水和物である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、
【化7】

〔式中、
mは1または2であり、かつ
nは1/2〜3である〕
である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式Iで示される前記化合物が酸化窒素増強剤と共に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化窒素エンハンサーが、PDE5阻害剤、酸化窒素ドナー分子、またはHMG Co Aレダクターゼよりなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化窒素エンハンサーが、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ニトロプルシドナトリウム、ニトログリセリン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、およびロスバスタチンよりなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
式Iで示される前記化合物と前記酸化窒素増強剤とが、同一の組成物に組み込まれて併用投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
式Iで示される前記化合物と前記酸化窒素増強剤とが、異なる組成物に組み込まれて併用投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
式Iで示される前記化合物と前記酸化窒素増強剤とが、同時に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
式Iで示される前記化合物と前記酸化窒素増強剤とが、異なる時点で投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
被験者の記憶および学習を改善するための方法であって、
その必要のある患者に治療上有効量の式II:
【化8】

〔式中、
R1は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、
各R2は、水素、C1〜6アルキル、ヒドロキシ、および-O-C1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、
R3は、水素およびC1〜6アルキルよりなる群から選択されるメンバーであり、
各波線は、それが結合されている二重結合がシスまたはトランスであることを表す〕
で示される化合物ならびにそのプロドラッグ、塩、水和物、および溶媒和物を投与することを含む、上記方法。
【請求項19】
前記化合物が、式IIa:
【化9】

で示される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物が、
【化10】

である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
記憶および学習を改善するための方法であって、
その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-C-B-Tyr-Arg-Arg-A-A-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-B-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体を投与すること
を含む、上記方法。ただし、上記式中、
R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、
R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつ
xおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【請求項22】
その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-Ser-Ile-Tyr-Arg-Arg-Gly-Ala-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-Leu-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体を投与すること
を含む、請求項21に記載の方法。ただし、上記式中、
R1は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、
R2は、1〜約40個のアミノ酸{ここで、各アミノ酸は、独立して、天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸類似体よりなる群から選択される}を含むアミノ酸配列であり、Aは、グリシンまたはアラニンを表し、Bは、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、またはバリンを表し、Cは、セリンまたはトレオニンを表し、かつ
xおよびyは、独立して選択されてゼロまたは1に等しい。
【請求項23】
その必要のある患者に治療上有効量の式III:
(R1)x-Ser-Ile-Tyr-Arg-Arg-Gly-Ala-Arg-Arg-Trp-Arg-Lys-Leu-(R2)y
で示される化合物およびその保存的修飾変異体を投与すること
を含む、請求項21に記載の方法。ただし、上記式中、
xおよびyは、ゼロである。
【請求項24】
被験者においてアルツハイマー病を発症する危険性の増大を同定する方法であって、被験者から生物学的サンプルを取得する工程と、該サンプルに由来する核酸中のSNP rs17070145のC対立遺伝子の存在または不在を同定する工程と、を含み、該C対立遺伝子の1つ以上のコピーの存在が、該C対立遺伝子の欠失した被験者と比較してアルツハイマー病を発症する危険性の増大の指標となる、上記方法。
【請求項25】
前記サンプルが血液である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記核酸がDNAである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記対立遺伝子がPCRを用いて同定される、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−501479(P2010−501479A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524014(P2009−524014)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/075728
【国際公開番号】WO2008/019395
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(508225071)トランスレーショナル ジェノミクス リサーチ インスティテュート (2)
【出願人】(508226263)ユニバーシティー オブ チューリッヒ (2)
【Fターム(参考)】