説明

安全なNMDA受容体拮抗薬を同定する方法

ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発pH下における化合物の効力差、または効力増強評価を含む、患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防に有用な化合物の同定プロセスを提供する。効力増強の評価は、新規実験の追加に伴い効力増強の95%信頼区間が15%より大きく変化しなくなるまで、生理pH下および疾患誘発pH下の化合物のIC50(「効力増強」)を測定することを含み得、前記測定は少なくとも5回反復される。該プロセスは患部組織内pHを低下させるヒト疾患の治療または予防のための安全なNMDA受容体拮抗薬の選択のために使用し得る。このような疾患としては、神経障害性疼痛、虚血、パーキンソン病、てんかんおよび外傷性脳傷害が挙げられるが、これらに限定されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2007年11月6日に出願された「Methods of Identifying Safe NMDAR Antagonists」という名称の米国仮出願第60/985,922号、および同時に2007年11月6日に出願された「Methods of Identifying Safe NMDAR Antagonists to Treat Neuropathic Pain」という名称の米国仮出願第60/985,924号の優先権を主張し、かかる出願の開示がその全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、pH低下事象の前、最中または後の組織損傷の最小限化または予防手段として使用される安全且つ有効なpH依存性N−メチル−D−アスパラギン酸受容体拮抗薬の改良された選択方法の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
神経細胞またはニューロンは、環境からの信号を中枢神経系(CNS)、異なるCNS領域間へ伝達し、CNSから他の臓器(すなわち、末梢)へ戻す。この信号伝達には神経伝達物質と称される小分子が主に介在する。概して、神経伝達物質は興奮性または抑制性のいずれかに分類し得る。信号を受信する(すなわち、シナプス後)ニューロンの活性(例えば、発火頻度)は興奮性神経伝達物質によって上昇し、抑制性神経伝達物質によって低下する。ニューロンは、神経伝達物質によって伝えられる信号の認識力、統合力、および通過力の点で異なる。例えば、幾つかのニューロンは持続的にある頻度で発火し、それゆえ、環境の変化に反応して興奮または抑制のいずれかをなし得る。他のニューロンは通常、外界からの刺激のないときは静止している。したがって、それらの活性の改善はいずれも興奮という形で生じなければならない。結果として、ニューロンの興奮は脳機能の制御において基本的な役割を担う。正常な脳機能を司る非常に多くの分子のなかで、グルタメート(グルタミン酸とも称する)は最も重要な1つである。該機能に関する研究によって脳がどのように機能するかに関する理解が著しく深まってきている。重要なシグナリング分子としてのグルタメートの役割が認識されてきたのは、わずかここ20年以内のことである。
【0004】
グルタメートはアミノ酸である。グルタメートは、他のアミノ酸のように、脳全体に比較的高濃度で存在する。その結果、研究者らは当初、グルタメートは主にニューロンの信号伝達とは無関係な多くの細胞反応の中間代謝物であると考えており、それゆえ、ニューロン内にそれが存在することを、神経伝達物質として潜在的役割を担う証拠だと解釈しなかった。脳内におけるグルタメートの興奮機能を示す兆候は1950年代に初めて明らかになったが、これらの所見は当初放棄されていた。なぜならグルタメートのニューロンへの適用は、事実上、調べた全脳領域において興奮性反応を誘発したためであり、これはこの興奮が特異的反応ではなかったことを示唆するからである。後になってようやく、科学者らは、観察されたグルタメート作用がCNS全体に存在する興奮性受容体の活性化に寄与し得たため、実際、それが有効であることを認識した。1970年代および1980年代には、研究者らはグルタメート特異的受容体、すなわち、具体的には他のニューロンから分泌されたグルタメートと結合し、それによってシナプス後ニューロンの興奮に至る事象を開始するニューロン表面上のタンパク質を同定した。これらのグルタメート受容体の同定によって、グルタメートの興奮性神経伝達物質としての重要性が強調された。
【0005】
過去10年間において、グルタミン酸シナプスに関する我々の知識は、主にグルタメートの受容体および輸送体試験に分子生物学的技術を適用することによって大いに進展してきている。現在では、内因性陽イオン透過性チャネルを内蔵するイオンチャネル内蔵型受容体には、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)およびカイネート受容体の3ファミリーあることが知られている。また、膜イオンチャネルならびにジアシルグリセロールおよびcAMPなどのセカンドメッセンジャーに作用するGタンパク質サブユニット経路でニューロンおよびグリア細胞の興奮性を改善する代謝調節型、Gタンパク質共役グルタメート受容体(mGluR)の3群もある。加えて、脳内には2つのグリア細胞上のグルタメート輸送体および3つのニューロン輸送体もある。
【0006】
グルタメートは正常な脳機能のために必須である。グルタメートは認知、運動機能、シナプス可塑性、学習および記憶の制御において中心的役割を担っている。高濃度の内因性グルタメートは、NMDA、AMPAまたはmGluR1受容体を過活性化して脳損傷の一因となり得る。過剰なグルタメートまたは興奮毒性に関連した脳損傷の例が、てんかん重積状態、脳虚血および外傷性脳傷害後にみられる。興奮毒性(例えば、グルタメート受容体の過活性化により生じる毒性)はパーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症およびハンチントン舞踏病のような疾患における慢性神経変性の一因にもなる。脳虚血および外傷性脳傷害の動物モデルにおいて、NMDAおよびAMPA受容体拮抗薬は急性脳損傷および遅発性行動欠陥を予防する。グルタミン酸伝達作用薬に反応する可能性がある他の臨床的疾患としては、てんかん、健忘、不安、痛覚過敏および精神病が挙げられる(Meldrum BS. J Nutr. 2000 Apr;130(4S Suppl):1007S−15S)。
【0007】
NMDA受容体拮抗薬
グルタメート開口型イオンチャネルのNMDAサブタイプは、中枢神経系ニューロン間の興奮性シナプス伝達を媒介する(Dingledine et al. (1999), Pharmacological Reviews 51:7−6 1)。NMDA受容体は、NR1、NR2(A、B、C、およびD)、およびNR3(AおよびB)サブユニットから構成され、これらは天然型NMDA受容体の機能的特性を決定する。NR1サブユニット単独の発現では機能的受容体を産生せず、機能的チャネルを形成する上では1つ以上のNR2サブユニットの共発現を要する。NMDA受容体が機能するには、グルタメートの他に共アゴニストであるグリシンとの結合を要する。グリシン結合部位はNR1サブユニット上に見られ、一方グルタメート結合部位はNR2サブユニット上に見られる。NR3サブユニットもグリシンと結合する。NR2Bサブユニットには、NMDA受容体機能を調節する調節分子であるスペルミン様ポリアミンとの結合部位も存在する。静止膜電位では、NMDA受容体は概して不活性である。これはマグネシウムイオンが電位依存的にチャネルポアを遮断し、そこからのイオン流出を防御しているためである。脱分極によってチャネル遮断は解除され、活性化したNMDA受容体がシナプス後膜全体へイオン電流を運ぶのを可能にする。NMDA受容体は、他のイオン同様、カルシウムイオンに対して透過性を示す。NMDA受容体は多数の内因性および外因性化合物によって調節されている。同様に、ナトリウム、カリウムおよびカルシウムイオンはNMDA受容体チャネルを通過するだけでなくNMDA受容体の活性調節も行う。亜鉛は非競合的、高親和性且つ電位非依存的方法で、NR2A含有受容体を通るNMDA電流を遮断する。また、ポリアミンはNMDA受容体を直接には活性化しないが、代わりにグルタメートを介した反応の増強または抑制作用があることも示されている。
【0008】
脳卒中および脳外傷の動物モデルにて、患部のニューロンから放出されるグルタメートはNMDA受容体を過剰に刺激し、続いてニューロン死を惹起し得ることが確認されている。したがって、NMDA受容体を遮断する化合物は、脳卒中または頭部傷害の治療候補とみなされてきている。最近、動物研究において、NMDA受容体が脳卒中、脳および脊髄外傷、ならびに脳虚血に関わる関連疾患の神経保護標的として検証されてきている。NMDA受容体遮断薬は、脳卒中および外傷性脳傷害の実験モデルにおける損傷脳組織容積を制限する上で有効である(Choi, D. (1998), Mount Sinai J Med 65:133−138; Dirnagle et al. (1999) Tr. Neurosci. 22:391−397; Obrenovitch, T.P. and Urenjak, J. (1997) J Neurotrauma 14:677)。
【0009】
脳卒中の早期臨床試験において、多数のNMDA受容体拮抗薬が試験されてきている。脳卒中は米国において主な死因の第3位であり、成人身体障害の最も一般的な原因である。虚血性脳卒中は、大脳血管が閉塞して脳の一部への血流が遮られたときに生じる。現在唯一承認されている脳卒中療法の組織プラスミノゲン活性剤(「TPA」)は、血管内血栓の溶解を促す血栓溶解剤である。神経保護薬は血栓溶解療法と同じくらい関心を呼んできているが(http://www.emedicine.com/neuro/topic488.htm, Lutsep & Clark “Neuroprotective Agents in Stroke”, April 30, 2004)、まだヒト療法用に承認されていない。
【0010】
急性脳卒中を阻止するために最も一般的に研究されている神経保護薬はN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体である。NMDAチャネル遮断薬であり鎮咳剤の構造類似体であるデキストロルファンは、ヒトの脳卒中患者において研究された最初のNMDA拮抗薬の1つであった。残念ながら、デキストロルファンは低血圧のみならず幻覚および激越を惹起し、使用を制限された(Albers et al. Stroke (1995) 26:254−258)。競合的NMDA拮抗薬であるセルフォテルは、プラセボ治療コホート群よりも治療群患者において高死亡率の傾向を示したため、治験は中止された。別のNMDA受容体拮抗薬である塩酸アプチガネル(セレスタト)の治験は、便益/リスク比に関する懸念のために終了した。これらの有害作用を避ける試みで、受容体のグリシン部位で機能する間接的なNMDA受容体拮抗薬が開発された。これらの薬剤はグリシン結合を阻害し、続いてグルタメートによる受容体活性化を阻害する。初期の臨床的研究では、これらのグリシン部位NMDA拮抗薬では向精神薬の副作用頻度が低いことが示唆されている。患者1367名を対象とした大規模な、GV150526剤の有効性試験が2000年に完了した。当該薬剤は安全且つ忍容性良好と報告されたが、任意の3ヶ月間の評価項目に改善は観察されなかった(http://www.emedicine.com/neuro/topic488.htm, Lutsep & Clark “Neuroprotective Agents in Stroke”, April 30, 2004)。
【0011】
てんかんは、グルタメート受容体拮抗薬の潜在的な治療標的であると長い間考えられてきている。実際、一般的な抗けいれん薬であるバルプロエートは、治療的濃度で、AMPA受容体を部分的に遮断することにより抗けいれん薬として作用する可能性がある。NMDA受容体拮抗薬は多くの実験てんかんモデルにおいて抗けいれん薬として知られている(Bradford (1995) Progress in Neurobiology 47:477−511; McNamara, J.O. (2001) Drugs effective in the therapy of the epilepsies. In Goodman & Gliman’s: The pharmacological basis of therapeutics [Eds. J.G. Hardman and L.E. Limbird] McGraw Hill, New York)。
【0012】
NMDA受容体拮抗薬は慢性疼痛治療において有益である可能性がある。末梢または中枢神経傷害起因性などの慢性疼痛は、オピオイドを使用しても、非常に治療困難であることがしばしば証明されてきている。ケタミンおよびアマンタジンを使用した慢性疼痛治療は有益であることが証明されてきており、ケタミンおよびアマンタジンの鎮痛作用にはNMDA受容体の遮断が介在していると考えられている。幾つかの症例報告によって、アマンタジンまたはケタミンの全身投与は実質上、外傷誘導性神経障害性疼痛の強度を低減することが示されている。小規模二重盲検無作為化臨床治験により、アマンタジンは癌患者の神経障害性疼痛を有意に軽減し得て(Pud et al. (1998), Pain 75:349−354)、ケタミンは末梢神経傷害患者(Felsby et al. (1996), Pain 64:283−291)、末梢血管障害(Perrson et al. (1998), Acta Anaesthesiol Scand 42:750−758)、または腎臓提供者(Stubhaug et al. (1997), Acta Anaesthesiol Scand 41:1124−1132)の疼痛を軽減し得ることが実証された。針刺激を反復することにより起こる「ワインドアップ疼痛」も劇的に軽減した。これらの所見により、侵害受容誘発性の中枢感作はNMDA受容体拮抗薬投与によって予防し得ることが示唆される。
【0013】
NMDA受容体拮抗薬はパーキンソン病治療にも有益であり得る(Blandini and Greenamyre (1998), Fundam Clin Pharmacol 12:4−12)。抗パーキンソン病薬であるアマンタジンは、NMDA受容体チャネル遮断薬である(Blanpied et al. (1997), J Neurophys 77:309−323)。アマンタジンは有効性が限られているために単独で使用されることは稀である。しかし、小規模臨床試験では、L−ドーパを使用したアドオン療法としてのアマンタジンの価値が示されている。アマンタジンは、L−ドーパ自体の抗パーキンソン作用を低減せずに、これらの患者のジスキネジー重症度を60%減少させた(Verhagen Metman et al. (1998), Neurology 50:1323−1326)。同様に、別のNMDA受容体拮抗薬であるCP−101,606は、サルのモデルにおいてL−ドーパによるパーキンソン症状の緩和を増強した(Steece−Collier et al., (2000) Exper. Neurol., 163:239−243)。
【0014】
NMDA受容体拮抗薬はさらに脳腫瘍治療においても有益である可能性がある。急速に増殖する脳神経膠腫は、ニューロン死が増殖する腫瘍のための空間を作るようにグルタメートを分泌してNMDA受容体を過活性化することによって隣接ニューロンを破壊し得て、腫瘍増殖を刺激する細胞成分を放出する可能性がある。複数の研究にて、NMDA受容体拮抗薬は幾つかのインビトロ(in vitro)モデルのみならずインビボ(in vivo)モデルの腫瘍増殖率を減少し得ることが示されている。(Takano, T., et al. (2001), Nature Medicine 7:1010−1015; Rothstein, J.D. and Bren, H. (2001) Nature Medicine 7:994−995; Rzeski, W., et al. (2001), Proc. Nat’l Acad. Sci 98:6372)。
【0015】
NMDA受容体拮抗薬は多数の非常に困難な疾患の治療に有用な可能性がある一方、副作用のために現在まで用量が制限され、したがってこれらの病状のためのNMDA受容体拮抗薬の臨床的使用はかなり妨げられてきている。最初の3種のNMDA受容体拮抗薬(チャネル遮断薬、グルタメートまたはグリシンアゴニスト部位の競合的遮断薬、および非競合的アロステリック拮抗薬)は精神病症状および心血管系作用などの中毒性副作用のために臨床的有用性は証明されていない。特に、心血管系副作用(低血圧および高血圧)は多数の小規模ヒト研究において最も顕著であり、そのために用量を制限されてきている。加えて、記憶および注意に対する好ましからぬ作用もNMDA拮抗薬投与によって生じ得る。さらに、例えばケタミンなどのNMDA受容体拮抗薬はヒトの統合失調症性の回想における精神病状態も引き起こし得る(Krystal et al. (1994), Arch Gen Psychiatry 51:199−214)。加えて、運動失調、認知障害、運動障害、激越、錯乱、めまいおよび低体温は全てNMDA拮抗薬投与によって生じてきている。したがって、グルタメート拮抗薬が多くの重篤疾患を治療する計り知れない可能性にもかかわらず、副作用の重症度のため、忍容性良好なNMDA受容体拮抗薬を開発し得るという希望を大勢が放棄してきている(Hoyte L. et al (2004) “The Rise and Fall of NMDA Antagonists for Ischemic Stroke Current Molecular Medicine” 4(2): 131−136; Muir, K.W. and Lees, K.R. (1995) Stroke 26:503−513; Herrling, P.L., ed. (1997) “Excitatory amino acid clinical results with antagonists” Academic Press; Parsons et al. (1998) Drug News Perspective II: 523 569)。
【0016】
pH感受性NMDA受容体
1980年代後半には、NMDA受容体の新規特性が発見され、より最近では新クラスのNMDA拮抗薬の開発に利用された。NMDA受容体サブタイプの最も一般的な2つは、通常、生理pH下において陽子により約50%抑制されているという独特な特性を有している(Traynelis, S.F. and Cull−Candy, S.G. (1990) Nature 345:347)。陽子によるNMDA受容体の抑制は、NR1サブユニット内の代替的エクソンスプライシングのみならず、NR2BサブユニットおよびNR2Aサブユニットによっても制御されている(Traynelis et al. (1998), J Neurosci 18:6163−6175)。
【0017】
哺乳類の脳内細胞外pHは高度に動的であり、グルタメート受容体機能などの多数の生化学的プロセスおよびタンパク質機能に影響する。NMDA受容体のpH感受性は少なくとも2つの理由によって注目が高まってきている。1つ目は、pH7.4下の陽子抑制IC50値によって、生理pH下において受容体は持続性抑制下に置かれることである。2つ目は、シナプス伝達、グルタメート受容体活性化、グルタメート受容体取り込み中、ならびに虚血および発作中のCNS内pH変化が広く立証されていることである(Siesjo, BK (1985), Progr Brain Res 63:121−154; Chesler, M (1990), Prog Neurobiol 34:401−427; Chesler and Kaila (1992), Trends Neurosci 15:396−402; Amato et al. (1994), J Neurophysiol 72:1686−1696)。これら後者の病的状態に関連した酸性化はNMDA受容体を抑制し得て、それらの神経毒性(Kaku et al. (1993), Science 260:1516−1518; Munir and McGonigle (1995), J Neurosci 15:7847−7860; Vornov et al. (1996), J Neurochem 67:2379−2389; Gray et al. (1997), J Neurosurg Anesthesiol 9:180−187; but see O’Donnell and Bickler (1994), Stroke 25:171−177; reviewed by Tombaugh and Sapolsky (1993), J Neurochem 61:793−803)および発作の持続(Balestrino and Somjen (1988), J Physiol (Lond) 396:247−266; Velisek et al. (1994), Exp Brain Res 101:44−52)への寄与を最小限に抑える負のフィードバックを提供する。またこのようなフィードバック抑制は、グルタメートが間質腔から除去される前、NMDA受容体活性化の虚血性細胞死への寄与をpH勾配が回復した時点まで遅らせる可能性がある。グルタメート取り込みのpH感受性はこの後者の可能性と一致し(Billups and Attwell (1996), Nature (Lond) 379:171−173)、NMDA受容体拮抗薬による、例えば、脳卒中などの発作後治療の機会を促進する可能性がある(Tombaugh and Sapolsky (1993), J Neurochem 61:793−803)。
【0018】
ある疾患は劇的なpH降下をもたらす。例えば、脳卒中において、一過性虚血は梗塞中心領域のpHを6.4〜6.5まで降下させ、中心部を囲む領域内pHを穏やかに低下させる。中心部を囲み外側へ広がる周縁領域は、著しいニューロン損失を被る。この領域内のpHは約6.9まで低下する。誘発されたpH降下は過剰なグルタメートの存在下で進行し、低血糖状況下で緩和される(例えば、Mutch & Hansen (1984) J Cereb Blood Flow Metab 4: 17−27; Smith et al. (1986) J Cereb Blood Flow Metab 6: 574−583; Nedergaard et al. (1991) Am J Physiol 260(Pt3): R581−588; Katsura et al (1992a) Euro J Neursci 4: 166−176; and Katsura & Siesjo (1998)”Acid base metabolism in ischemia” in pH and Brain function (Eds Kaila & Ransom) Wiley−Liss, New Yorkを参照)。
【0019】
虚血に加えて、NMDA拮抗薬による治療の影響を受けやすい正常条件下および異常条件下でpHが変化する、さらなる様々な状況例がある。概して、組織細胞外pHは代謝産物の能動的および受動的運動のみならず陽子調整のため、通常、脳脊髄液より酸性である。細胞外pHにおいて動的な活性依存性の多面的な酸およびアルカリの変化が起こることは20年近く知られてきている。これらの変化は広範囲の標本および脳領域において説明されてきている。それらは、代謝性変化、乳酸分泌、陰イオンチャネルを通過する重炭酸塩流出、Na/HおよびCa2+/H交換、ならびに酸性化小胞からの陽子放出など複数の分子機序に関わる。それらは細胞外緩衝系依存性で、哺乳類の脳内で重炭酸塩に大いに依存している。それゆえに、観察されるpH変化度はしばしばCNS組織の重炭酸塩−COの迅速な相互転換能によって決定される。したがって、これを行う酵素(炭酸脱水酵素)は達成可能なpH変化度の設定に役立つ。
【0020】
神経障害性疼痛は脊髄内pH変化に関連する。例えば、仔ラットから単離した脊髄内pHは単回電気刺激後に0.05単位アルカリ化し、10Hz刺激後に0.1単位変化する。刺激停止後は酸性化し、この酸性化は高齢動物において大きい(Jendelova & Sykova (1991) Glia 4: 56−63)。加えて、カエル後根のインビボ(in vivo)の30〜40Hz刺激は、下肢後角において0.25pH単位降下の最大上限に達する一過性細胞外酸性化を惹起した。細胞外pH変化は刺激の強度および周波数と共に増加した(Chvatal et al. (1988) Physiol Bohemoslov 37: 203−212)。さらに、成ラット脊髄の高周波数(10〜100Hz)のインビボ(in vivo)神経刺激は、細胞外pHのアルカリ−酸−アルカリ三相変化を惹起した(Sykova et al. (1992) Can J Physiol Pharmacol 70: Suppl S301−309)。加えて、ラット後肢への急性侵害刺激(つまみ、圧力、熱)の適用は下肢後角のインビボ(in vivo)(浅層III〜VII層)における0.01〜0.05pH単位の一過性酸性化を惹起することが示されている。末梢の化学的または熱的傷害によって、0.05〜0.1pH単位の間質性pH降下が2時間持続した。高周波数の神経刺激はアルカリ側へのpH変化を惹起し、続いて酸性化(0.2pH単位)が優勢となった(Sykova & Svoboda (1990) Brain Res 512: 181−189)。したがって、疼痛繊維の発火増加は、脊髄後角内pH降下(酸性化)を誘発し得る。この酸性化は、該領域内のpH依存性遮断薬の効力増強を引き起こすことができ、これにより慢性神経傷害または慢性疼痛症候群の治療に有用となり得る。
【0021】
パーキンソン病において視床下核ニューロンは過活性化し、これは局所的な低pHをもたらす可能性がある。このような低pHは該領域におけるpH感受性拮抗薬の効力を増強するだろう。脳領域において、酸性化を惹起する活性を伴うニューロン活性と細胞外pHとの間には相関関係がある。脳切片の高周波数刺激により、最初に酸性化、続いてアルカリ化、続いて緩徐に酸性化する(例えば、Chesler (1990)Prog Neurobiol 34: 401−427, Chesler & Kaila (1992)Tr Neurosci 15: 396−402, and Kaila & Chesler (1998) “Activity evoked changes in extracellular pH” in pH and Brain function (eds Kaila and Ransom). Wiley−Liss, New Yorkを参照)。
【0022】
酸性化は発作中にも生じる。NMDA拮抗薬は抗けいれん薬であり、それゆえてんかんは、pH感受性NMDA拮抗薬が、該発作の境界である脊髄および側頭部外では非活性のままでありながら抗けいれん薬として有効に作用し得る標的を代表する。広範囲の標本における電気刺激発作は細胞外pH変化を引き起こすことが示されている。例えば、ネコの歯状回またはラットの海馬CA1もしくは歯状において電気的または化学的に引き起こされた発作中に最大0.2〜0.36のpH降下が起こり得る。低酸素性状況下で、0.5に近づくより大きなpH降下が起こり得る。これはよく認められた所見であり、多数の標本において再現されている(Siesjo et al (1985) J Cereb Blood Flow Metab 5: 47−57; Balestrino & Somjen (1988) J Physiol 396: 247−266; and Xiong & Stringer (2000) J Neurophysiol 83: 3519−3524)。
【0023】
加えて、他の種類の脳傷害は酸性化をもたらし得る。「拡延性抑圧」という用語は、脳組織内の多くの外傷性発作後に生じる電気的非活性の低速波という意味で使用している。拡延性抑圧は脳震盪または片頭痛中に起こり得る。拡延性抑圧と共に酸性pH変化が生じる。全身性アルカローシスは、例えば、過呼吸による全体の二酸化炭素含有量の低下(低炭酸症)と共に起こり得る。全身性アシドーシスは呼吸窮迫またはガス交換もしくは肺機能を害する条件下の血中二酸化炭素増加(高炭酸ガス血症)と共に起こり得る。糖尿病性ケトアシドーシスおよび乳酸アシドーシスは糖尿病の最も重篤な急性合併症の3つを代表し、脳を酸性化させ得る。さらに、分娩中の胎児性窒息は分娩の終わりに1000分娩あたり25例起こる。それは虚血と類似しているが同一ではない低酸素症および脳損傷を伴う。
【0024】
1995年までは、治療学を発展させるためにNMDA受容体の陽子感受性特性を受容体の小分子調節の標的として利用し得るかは不明であった。Traynelis et al. (1995 Science 268:873)が、小分子スペルミンが陽子抑制を緩和してNMDA受容体機能を調節し得ることを初めて報告した。ポリアミンであるスペルミンは陽子センサーのpKaを酸性値に変化させ、生理pH下の持続性抑制度を低下させ、それは機能増強として現れる(Traynelis et al. (1995), Science 268:873−876; Kumamoto, E (1996), Magnes Res 9(4):317−327)。
【0025】
1998年には、フェニルエタノールアミンNMDA拮抗薬の作用機序が陽子センサーを含むことが究明された。イフェンプロジルおよびCP−101,606は陽子受容体の感受性を増大させ、その結果、陽子抑制を増大させる。NMDA受容体の陽子ブロックのためにpKaをよりアルカリ側へ変化させることにより、イフェンプロジル結合は生理pH下において受容体のより大きな画分のプロトン化を引き起こし、それにより抑制した。加えて、イフェンプロジルは高pH(7.5)下より低pH(6.5)下でより強力であることが、ラット大脳皮質の初代培養におけるNMDA誘発興奮毒性モデルのインビトロ(in vitro)試験によって発見された。当該著者らは、生理pH下では非活性であるが虚血中に生じる低pH下では活性を示す状況依存性遮断薬を脳卒中治療に使用するために作製し得ると推測した(Mott et al. 1998 Nature Neuroscience 1:659)。
【0026】
イフェンプロジルは局所脳虚血の動物モデルにおいて神経を保護する(Gotti et al. (1988), J Pharmacol Exp Ther 247:1211−1221; Dogan et al. (1997), J Neurosurg 87(6):921−926)。イフェンプロジルは中大脳動脈閉塞後の哺乳類において神経保護的であることが示されている。Doganらはラット梗塞容積の22%縮小を報告し、一方Gottiらは最高用量群のネコ梗塞容積の42%縮小を報告した。Gottiらは、イフェンプロジル誘導体であるSL82.0715によって最高用量群のネコおよびラットの梗塞容積が36〜48%縮小したことも報告した。残念ながら、イフェンプロジルならびにエリプロジルおよびハロペリドールなど幾つかのその類似物(Lynch and Gallagher (1996), J Pharmacol Exp Ther 279:154−161; Brimecombe et al. (1998), J Pharmacol Exp Ther 286(2):627−634)は、NMDA受容体に加えて、あるセロトニン受容体およびカルシウムチャネルを遮断するため、それらの臨床的実用性が制限される(Fletcher et al. (1995), Br J Pharmacol 116(7):2791−2800; McCool and Lovinger (1995), Neuropharmacology 34:621−629; Barann et al. (1998), Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 358:145−152)。加えて、イフェンプロジル類似体であるエリプロジルは、IKr抑制によって心臓再分極を長期化し(Lengyel et al. (2004) Br J Pharmacol. Aug 9 [Epub ahead of print])、イフェンプロジルおよびある類似体はカルシウムチャネルも抑制し得る(Biton et al. (1994), Eur J Pharmacol 257:297−301; Biton et al. (1995), Eur J Pharmacol 294:91−100; Bath et al (1996), Eur J Pharmacol 299:103−112)。CP101,606(Menniti et al. (1997), Eur J Pharmacol 331:117−126)、Ro 25−6981(Fischer et al. (1997), J Pharmacol Exp Ther 283:1285−1292)およびRo 8−4304(Kew et al. (1998), Br J Pharmacol 123:463−472)など、イフェンプロジルの幾つかのより選択的な誘導体が臨床的開発のために考察されている。
【0027】
これらのアロステリックモジュレータに加えて、他のNMDA拮抗薬は局所虚血の動物モデルにおいて神経保護作用を惹起することが示されている(Gill et al (1994) Cerebrovascular and Brain Metabolism Reviews 6: 225−256)。これらのNMDA拮抗薬は3つの機能的クラス:グルタメート結合部位の競合的遮断薬、グリシン結合部位の競合的遮断薬、およびチャネル遮断薬に分類されるが、これらは中毒性副作用を惹起するかまたはヒトの限定的な有効性を示す。
【0028】
(i)グルタメート部位の競合的NMDA拮抗薬、例えば、セルフォテル、−CPPene(SDZ EAA 494)およびAR−R15896AR(ARL 15896AR)などは、激越、幻覚、錯乱および昏迷(Davis et al. (2000), Stroke 31(2):347−354; Diener et al. (2002), J Neurol 249(5):561−568);妄想症および譫妄(Grotta et al. (1995), J Intern Med 237:89−94);精神異常様症状(Loscher et al. (1998), Neurosci Lett 240(1):33−36);治療比率不良(Dawson et al. (2001), Brain Res 892(2):344−350);アンフェタミン様定型行動(Potschka et al. (1999), Eur J Pharmacol 374(2):175−187)などの中毒性副作用を引き起こす。
【0029】
(ii)グリシン部位拮抗薬、例えばHA−966、L−701,324、d−サイクロセリン、CGP−40116、およびACEA 1021などは、著しい記憶障害および運動障害などの中毒性副作用を引き起こす(Wlaz, P (1998), Brain Res Bull 46(6):535−540)。
【0030】
(iii)MK−801およびケタミンなどのNMDA受容体チャネル遮断薬は、例えば精神病様(Hoffman, DC (1992), J Neural Transm Gen Sect 89:1−10);認知障害(decrements in free recall, recognition memory, and attention; Malhotra et al (1996), Neuropsychopharmacology 14:301−307);統合失調様症状(Krystal et al (1994), Arch Gen Psychiatry 51:199−214; Lahti et al. (2001), Neuropsychopharmacology 25:455−467)などの中毒性副作用を惹起し得る。
【0031】
エモリー大学のWO02/072542は、卵母細胞アッセイを用いてインビトロ(in vitro)で試験したてんかんの実験モデルにおいてpH感受性を示すpH依存性NMDA受容体拮抗薬の1クラスを記載している。しかし、アフリカツメガエル卵母細胞を使用したインビトロ(in vitro)データでは選択した化合物の測定したIC50にかなりの差があったため、最適なまたはリード化合物の正確な選択が制限された。また、アッセイは細胞に基づくスクリーンに限定していたため、pH依存性拮抗薬による実質的な効果を観察する上でインビボ(in vivo)において虚血性患部組織内pH降下が十分に大きいかどうかの評価力に欠けていた。さらに、虚血は特に中心部および末梢の損傷を伴うインビボ(in vivo)組織基盤の疾患であるため、pH降下が梗塞中心部から放射状に減少することを考えると、pH依存NMDA拮抗薬が中心部からどのくらい離れていても有効であるかどうか不明であった。最後に、NMDA受容体拮抗薬が精神病および他の意識変調副作用を誘発することが既知であることを考えると、pH感受性NMDA受容体拮抗薬の苦痛緩和効果を観察し、NMDA受容体関連副作用を避ける上で、虚血性pH降下により引き起こされた神経保護活性の増大が十分であるかどうか不明であった。
【0032】
エモリー大学のWO06/023957には虚血性傷害治療に有用な化合物の同定プロセスが以下によって記載されている:(i)NR1/NR2A NMDA受容体および/またはNR1/NR2B NMDA受容体を発現する細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下における化合物の効力増強実験を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく変化しなくなるまで反復して、該効力増強を評価し;(ii)一過性局所虚血の動物モデルにおいて、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく変化しなくなるまで反復して化合物を試験し、梗塞容積に及ぼす化合物の作用を測定し;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、工程(ii)により梗塞容積の少なくとも30%縮小を示す化合物を選択する工程。
【0033】
要約すると、ヒトにおいて忍容し得る適切なNMDA受容体拮抗薬を選択する上で、薬剤はグルタメート神経伝達の正常機能に有意に影響してはならないが、病的状態下でグルタメート系を有効的に遮断し、その結果、中毒性副作用を避ける。インビトロ(in vitro)で低pH下のNMDA受容体に対してより高い親和性を示すpH依存性選択的NMDA拮抗薬が、市販薬を提供するのに十分な反応をインビボ(in vivo)でも示すか否かは予測困難でいる。pH依存性NMDA受容体拮抗薬が開発されてきている一方、これらの薬剤の適切な特性はヒト臨床的使用のための薬剤選択の成功的パラメーターを正確に確立する上でまだ確定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】国際公開第02/072542号
【特許文献2】国際公開第06/023957号
【非特許文献】
【0035】
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【非特許文献76】Hoffman, DC (1992), J Neural Transm Gen Sect 89:1−10
【非特許文献77】decrements in free recall, recognition memory, and attention
【非特許文献78】Malhotra et al (1996), Neuropsychopharmacology 14:301−307
【非特許文献79】Krystal et al (1994), Arch Gen Psychiatry 51:199−214
【非特許文献80】Lahti et al. (2001), Neuropsychopharmacology 25:455−467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
したがって本発明は、ヒトにおけるpH低下事象の前、最中または後の組織損傷の最小限化または予防のために使用されるpH依存性N−メチル−D−アスパラギン酸受容体拮抗薬の改良された選択方法の提供を目的とする。
【0037】
本発明は、神経障害性疼痛または虚血性傷害の治療または予防に有用な活性化合物の同定方法の提供を特定の目的とする。
【0038】
本発明のさらなる態様は、病原性pH低下事象の治療または予防に有用な化合物、組成物および方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0039】
(発明の要旨)
優れたヒト臨床的性能のための、患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防のために改良されたNMDA受容体拮抗薬の改良された同定プロセスを記載する。具体的には、該プロセスは化合物のpH効力増強、すなわちインビトロ(in vitro)における生理pH下と病原性pH下との化合物のNMDA受容体活性化抑制作用の有効性差を評価するために、ヒトNMDA受容体発現細胞を使用する。このプロセスは、従来技術よりも改良された安全且つ有効なプロファイルを有する化合物の同定方法である。
【0040】
本発明者らは驚くべきことに、ヒトNMDA受容体発現細胞内で評価されたpH効力増強は、他の哺乳類由来のNMDA受容体発現細胞使用と比較すると、有効且つ安全なNMDA受容体拮抗薬の改良された選択方法を提供することを見出した。具体的には、ラットNMDA受容体などの非ヒトNMDA受容体から得られたpH効力増強は、ヒトNMDA受容体から得られたpH効力増強の信頼性ある予測因子ではない。NMDA受容体拮抗薬の安全性は、生理pH下の化合物の有効性欠如によって生じる。したがって、理想的な化合物は、生理pH下の有効性は非常に低いが、低pHを伴う病的状態下では非常に有効な化合物である。
【0041】
本明細書で提供されるプロセスは、患部組織内pHを低下させるヒト疾患の治療または予防のための安全なNMDA受容体拮抗薬の選択に使用し得る。このような疾患は神経障害性疼痛、虚血、パーキンソン病、てんかんおよび外傷性脳傷害を含むが、これらに限定されない。
【0042】
一実施形態では、患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防に有用な化合物の同定プロセスであって、ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発pH下における化合物の効力差(例えば、生理pH下IC50/疾患誘発低pH下IC50)を評価することを含むプロセスを提供する。効力増強の評価は、効力増強の95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで、生理pH下および疾患誘発pH下の化合物のIC50(「効力増強」)を測定することであって、少なくとも5回反復される測定を含み得る。
【0043】
ある実施形態では、該プロセスは、少なくとも5の細胞内効力増強を有する化合物の同定もさらに含む。ある実施形態では、これら細胞内の化合物の効力増強は非ヒトNMDA受容体発現細胞内で試験した同化合物の効力増強より少なくとも2大きく、または少なくとも3大きく、または少なくとも4大きく、または少なくとも5大きく、または少なくとも6大きく、または少なくとも7大きく、または少なくとも8大きく、または少なくとも9大きく、または少なくとも10大きい。特定の実施形態では、化合物の効力増強は、非ヒトNMDA受容体発現細胞内で試験した同化合物の効力増強よりも100未満または50未満大きい。特定の実施形態では、非ヒトNMDA受容体はラットNMDA受容体である。
【0044】
非限定的な一実施形態では、患部組織は、脳組織、虚血による損傷組織、疼痛、特に神経障害性疼痛の患部組織、および外傷性脳傷害の患部組織から選択する。
【0045】
1つの下位実施形態では、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく、8%より大きく、5%より大きく、4%より大きく、3%より大きく、または2%より大きく変化しない。
【0046】
別の下位実施形態では、効力増強実験を5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回反復する。
【0047】
本発明の別の態様では、患部組織内の疼痛障害の治療または予防に有用な化合物の同定プロセスであって、(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発pH下のヒトNMDA受容体を抑制する化合物の効力を評価する工程と;(ii)化合物のインビボ(in vivo)試験を行い、疼痛閾値に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程とを含むプロセス。
【0048】
ある実施形態では、効力増強は、生理pH下および疾患誘発pH下における化合物のIC50(「効力増強」)を、効力増強の95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで測定することであって、少なくとも5回反復される測定によって測定し得る。ある実施形態では、効力増強を少なくとも12回測定する。他のある実施形態では、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しなくなるまで疼痛閾値を測定する。特定の実施形態では、疼痛閾値を少なくとも12回測定する。
【0049】
1つの下位実施形態では、工程(i)により得られた効力増強の95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく、10%より大きく、8%より大きく、5%より大きく、4%より大きく、3%より大きく、または2%より大きく変化しない。
【0050】
別の下位実施形態では、工程(i)の効力増強実験を5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回反復する。
【0051】
疼痛閾値は疼痛の動物モデル、特に神経障害性疼痛の動物モデルにおいて測定し得る。1つの下位実施形態では、工程(ii)により得られた疼痛閾値の95%信頼区間が、新規実験の追加に伴い15%より大きく、10%より大きく、8%より大きく、5%より大きく、4%より大きく、3%より大きく、または2%より大きく変化しない。特定の下位実施形態では、工程(ii)により得られた95%信頼区間が5%より大きく変化しない。
【0052】
上記の実施形態の任意の1つの下位実施形態では、疾患は患部組織内pHを低下させる。ある実施形態では、患部組織内pHを低下させる疾患は疼痛障害であり、特に神経障害性疼痛であり得る。
【0053】
一実施形態では、神経障害性疼痛の治療または予防に有用である化合物の同定プロセスであって、(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下における化合物の効力増強を、少なくとも5回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで反復することにより評価する工程と;(ii)神経障害性疼痛の動物モデルによる化合物を試験し、実験を少なくとも12回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しなくなるまで反復することにより疼痛閾値の上昇に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程とを含むプロセス。
【0054】
さらなる実施形態では、化合物は工程(i)による効力増強の少なくとも6、7、8、9、10、15または20、且つ工程(ii)による疼痛閾値の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍上昇を示す。
【0055】
さらに本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することにより、pH降下に関連した虚血性または興奮毒性カスケード進行を緩和する方法を提供する。加えて、本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することにより、pH降下に関連した梗塞容積を縮小させる方法を提供する。さらに、本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することにより、pH降下に関連した細胞死を低減する方法を提供する。さらになお、本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することによりpH降下に関連した虚血事象に関連する行動欠陥を低減する方法を提供する。
【0056】
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、虚血性傷害患者の治療方法または虚血性傷害に関連するニューロン毒性の予防もしくは治療方法を提供する。加えて、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、パーキンソン病、慢性神経損傷、慢性疼痛症候群(糖尿病性ニューロパチー、虚血、一過性または持続性血管閉塞後の虚血、発作、「拡延性抑圧」、低炭酸症、高炭酸ガス血症、糖尿病性ケトアシドーシス、胎児性窒息、バイパス術後認知障害、くも膜下出血後の血管痙攣、脊髄傷害、外傷性脳傷害、てんかん重積状態、てんかん、低酸素症、周生期低酸素症、脳震盪、片頭痛、低炭酸症、過呼吸、乳酸アシドーシス、分娩中の胎児性窒息、脳神経膠腫、および/または網膜症を含むが、これらに限定されない)を含むが、これらに限定されない疾患または神経疾患の治療方法を提供する。さらに、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物は、例えば、遺伝的素因などの虚血事象素因患者、または血管痙攣を示す患者、または心臓バイパス術既往患者における疾患または神経疾患に対する予防または保護のために予防的に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】一過性または持続性局所虚血事象後のC57Bl/6系マウスにおける選択したNMDA受容体拮抗薬および対照処理群のpH6.9対7.6下のインビトロ(in vitro)効力増強と組織梗塞容積縮小との比較を示すグラフである。薬剤は脳室内投与(ICV;0.5mMの1μL;黒四角)または腹腔内注入(IP、黒丸;NP93−4、30mg/kg;NP93−5、10〜30mg/kg;NP93−40、10〜30mg/kg;NP93−8、30mg/kg;NP93−31、3mg/kg)した。エラーバーはSEMである。薬剤処理群動物の梗塞容積を直接測定し、賦形剤注入対照群マウスの梗塞容積%として表した。白丸は、CNS1102(CN、アプチガネルまたはCerestat, Dawson et al., 2001)、デキストロメトルファン(DM, Steinberg et al., 1995)、デキストロルファン(DX; Steinberg et al., 1995)、レボメトルファン(LM; Steinberg et al., 1995)、(S)ケタミン(KT; Proescholdt et al., 2001)、メマンチン(MM; Culmsee et al. 2004)、イフェンプロジル(IF, Dawson et al. 2001)、CP101,606(CP; Yang et al. 2003)、AP7(Swan and Meldrum, 1990)、セルフォテル(CGS19755, Dawson et al., 2001)、(R)HA966(HA; Dawson et al., 2001)、レマセミド(RE, Dawson et al., 2001)、ハロペリドール(O’Neill et al., 1998)、7−Cl−キヌレン酸(CK, Wood et al., 1992)およびMK801の立体異性体(+MKまたは−MK; Dravid et al.)を該文献の記載通りに投与したことによる梗塞容積縮小を示す。梗塞縮小%は、ケタミンおよび7−Cl−キヌレン酸を除く全化合物の梗塞容積比から算出し、このためにニューロン密度の低下%を測定した。イフェンプロジルおよびCP101,606のpH上昇は文献により決定した(Mott et al., 1998)。pH6.9対7.6下におけるNR1/NR2B含有NMDA受容体抑制の、2件の実験において評価した(下表3を参照)、競合的拮抗薬を除く他の全化合物の効力増強を本明細書に記載されるように算出した。灰色斜線部の範囲内の薬剤は、インビボ(in vivo)で安全性および有効性において優れた薬剤である。
【図2】pH6.9対7.6下の選択した化合物のインビトロ(in vitro)効力増強と、脳室内投与(ICV;黒四角)による試験薬適用時の組織梗塞容積保護の比較を示すグラフである。灰色斜線部は、同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。
【図3】pH6.9対7.6下の選択した化合物のインビトロ(in vitro)効力増強と、腹腔内注入(IP、黒丸)による試験薬適用時の組織梗塞容積保護の比較を示す図である。灰色斜線部は、同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。
【図4】選択した化合物のpH6.9対7.6下のインビトロ(in vitro)効力増強と組織梗塞容積の比較を示す図である。灰色斜線部は同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。右パネルはNR1/NR2Aの比較を示し、左パネルはNR1/NR2Bの比較を示す。
【図5】1時間馴化後2時間の、コンピュータによって計算した軽光線遮断として定量化した、ラットの自発運動活性に対する化合物93−31および(+)MK−801の効果を例証する図である。自発運動活性指標は試験中の光線遮断総計値を1000で割ったものである。
【図6】傷害肢が神経障害性疼痛の動物モデルにおいて実質的な異痛症を示すことを例証する図である。賦形剤群の動物は試験期間を通して有意な機械的異痛症を示した。賦形剤処理動物の傷害肢および正常肢における平均±SEM(n=10)フォン・フレイ閾値を示す。両肢間には全時点で有意差があった(Mann−Whitney検定)。
【図7】化合物93−31(腹腔内投与)が正常肢に効果がないことを示す図である。賦形剤、ガバペンチンまたは30および100mg/kgの用量の化合物93−31腹腔内投与処理動物の正常肢における平均±SEM(n=10〜12)フォン・フレイ閾値を示す。
【図8】化合物93−97(腹腔内投与)は正常肢に効果がないことを示す図である。NeurOp93−97は正常肢のフォン・フレイ閾値に変化を与えなかった。賦形剤、ガバペンチンまたは30および100mg/kgの用量の化合物93−97腹腔内投与処理動物の正常肢における平均±SEM(n=10〜12)フォン・フレイ閾値を示す。
【図9】化合物93−31(100mg/kg)の腹腔内投与はラットの脊髄神経結紮(SNL)モデルの機械的異痛症を緩和したことを例証する図である。化合物93−31(100mg/kg腹腔内投与)処理は、投与後30および60分に観察可能な無痛覚を惹起した。実験した任意の時点で30mg/kgの化合物93−31、ならびに30および100mg/kgの93−97に鎮痛作用はなかった。本研究の賦形剤群の統計分析にて、ベースラインのフォン・フレイ閾値と、60、120および240分後のフォン・フレイ閾値との間に有意差はなかったことが示された(Friedman二元配置分散分析)。
【図10】化合物93−31(100mg/kg)の腹腔内投与はSNLラットの機械的異痛症を緩和したことを示す図である。試験化合物93−31(100mg/kg)の腹腔内投与により、機械的異痛症が軽減した。賦形剤、ガバペンチン(基準化合物)または30および100mg/kgの用量の化合物93−31の腹腔内投与処理動物の傷害肢における平均±SEM(n=10〜12)フォン・フレイ閾値を示す。事後検定(Dunn検定)は、30および60分後、化合物93−31(100mg/kg)と賦形剤群とのペアワイズ比較で有意差を示した(p<0.01)。ガバペンチンの60、120および240分後の効果も有意であった(それぞれp<0.001、p<0.01およびp<0.01)。
【図11】齧歯類の脊髄神経結紮モデルにおけるpH6.9対7.6下のインビトロ(in vitro)効力増強と疼痛閾値上昇倍率との比較を示す図である。本明細書に記載されているように各化合物の効力増強を決定した。化合物93−31の投与後に疼痛閾値を測定した。疼痛閾値はIF(イフェンプロジル、De Vry et al., Eur J Pharmacol 491:137−148, 2004)、K(ケタミン、Chaplan et al. JPET 280:829−838 1997)、CP(CP101,606、Boyce et al. Neduropharmacol 38:611−623, 1999)、MK(MK801、Chaplan et al. JPET 280:829−838 1997)、D(デキストロルファン、Chaplan et al. JPET 280:829−838 1997)、DM(デキストロメトルファン、Chaplan et al. JPET 280:829−838 1997)、およびM(メマンチン、Chaplan et al. JPET 280:829−838 1997)で既に報告されている。灰色斜線部は同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
(詳細な記述)
優れたヒト臨床的性能のための患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防のため、安全且つ有効なNMDA受容体拮抗薬の改良された選択プロセスを提供する。これは、ヒトNMDA受容体発現細胞を使用してインビトロ(in vitro)での化合物のpH効力増強を評価することにより完成するに至った。本発明者らは、驚くべきことに、本明細書に記載されるプロセスのため、ヒトNMDA受容体発現細胞内で評価されたpH効力増強は安全なNMDA受容体拮抗薬の改良された選択方法であり、他の哺乳類NMDA受容体発現細胞内では同等の結果をもたらさないことを見出した。本明細書で提供されるプロセスは、患部組織内pHを低下させるヒト疾患の治療または予防のための、安全なNMDA受容体拮抗薬の選択に使用することができ、特定の実施形態では、神経障害性疼痛、虚血、パーキンソン病、てんかんおよび外傷性脳傷害などの疾患に有用である。
【0059】
一実施形態では、ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発pH下における化合物の効力差(例えば、生理pH下のIC50/疾患誘発低pH下のIC50)を評価することを含む、患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防に有用な化合物の同定プロセスを提供する。効力増強評価は、効力増強の95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで、生理pH下および疾患誘発pH下の化合物のIC50(「効力増強」)を測定することを含み得、該測定は少なくとも5回反復される。
【0060】
1つの下位実施形態では、95%信頼区間は新規実験の追加に伴い10%より大きく、8%より大きく、5%より大きく、4%より大きく、3%より大きく、または2%より大きく変化しない。
【0061】
別の下位実施形態では、効力増強実験を5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回反復する。
【0062】
本発明の別の態様では、患部組織内の疼痛障害の治療または予防に有用な化合物の同定プロセスであって、(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発pH下における化合物のヒトNMDA受容体抑制の効力を評価する工程と;(ii)インビボ(in vivo)で化合物を試験し、疼痛閾値に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程とを含むプロセス。
【0063】
本発明の別の態様では、患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防に有用な化合物の同定プロセスであって、(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下における化合物の効力増強を、少なくとも5回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで効力増強実験を反復することにより評価する工程と;(ii)神経障害性疼痛の動物モデルにおいて化合物を試験し、実験を少なくとも5回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで反復することにより疼痛閾値の上昇に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程とを含むプロセス。
【0064】
1つの下位実施形態では、工程(i)により得られた95%信頼区間は新規実験の追加に伴い15%より大きく、10%より大きく、8%より大きく、5%より大きく、4%より大きく、3%より大きく、または2%より大きく変化しない。
【0065】
別の下位実施形態では、工程(i)の効力増強実験を5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回反復する。
【0066】
1つの下位実施形態では、工程(ii)により得られた95%信頼区間は新規実験の追加に伴い15%より大きく、10%より大きく、8%より大きく、5%より大きく、4%より大きく、3%より大きく、または2%より大きく変化しない。特定の下位実施形態では、工程(ii)により得られた95%信頼区間は5%より大きく変化しない。
【0067】
別の下位実施形態では、工程(ii)の効力増強実験を5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回、少なくとも11回、少なくとも12回、少なくとも13回、少なくとも14回、少なくとも15回、少なくとも16回、少なくとも17回、少なくとも18回、少なくとも19回、または少なくとも20回反復する。特定の下位実施形態では、工程(ii)の効力増強実験を少なくとも12回反復する。
【0068】
上記の実施形態の任意の1つの下位実施形態では、患部組織内pHを低下させる疾患は神経障害性疼痛である。
【0069】
一実施形態では、神経障害性疼痛の治療または予防に有用な化合物の同定プロセスであって、(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下における化合物の効力増強を、少なくとも5回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで効力増強実験を反復することにより評価する工程と;(ii)神経障害性疼痛の動物モデルにおいて化合物を試験し、少なくとも12回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しなくなるまで実験を反復することにより、疼痛閾値の上昇に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程とを含むプロセス。
【0070】
上記の実施形態の任意の1つの下位実施形態では、細胞はヒトNMDA受容体のNR1サブユニットおよび少なくとも1つのNR2サブユニットを発現し得る。さらなる実施形態では、NR2サブユニットはNR2Bサブユニットであり得る。別の実施形態では、NR2サブユニットはNR2Aサブユニットであり得る。
【0071】
1つの下位実施形態では、生理pHは約7.6である。本発明の別の態様では、本明細書に記載されるプロセスによって同定した化合物は、病的状態のために通常より低いpHを有する脳組織内の活性を増強している。脳卒中発現中の虚血性組織または他の疾患によって惹起された酸性環境は、本明細書に記載される神経保護薬を活性化するスイッチとして利用される。このような具合で、非患部組織部位では薬剤活性がより低いため、当該組織内の副作用は最小限に抑えられる。局所pHを変更し得る病状としては、脳卒中に起因する低酸素症、外傷性脳傷害、心臓手術中に生じる可能性がある全虚血、呼吸停止後に生じる可能性がある低酸素症、子癇前症、脊髄外傷、てんかん、てんかん重積状態、神経障害性疼痛、炎症疼痛、慢性疼痛、血管性痴呆または神経膠腫腫瘍などが挙げられる。
【0072】
一実施形態では、化合物のIC50値は0.01〜10μM、0.01〜9μM、0.01〜8μM、0.01〜7μM、0.01〜6μM、0.01〜5μM、0.01〜4μM、0.01〜3μM、0.01〜2μM、0.01〜1μM、0.05〜7μM、0.05〜6μM、0.05〜5μM、0.05〜4μM、0.05〜3μM、0.05〜2μM、0.05〜1μM、0.05〜0.5μM、0.1〜7μM、0.1〜6μM、0.1〜5μM、0.1〜4μM、0.1〜3μM、0.1〜2μM、0.1〜1μM、0.1〜0.5μM、0.1〜0.4μM、0.1〜0.3μM、または0.1〜0.2μMである。
【0073】
特定の実施形態では、生理pH下IC50対疾患pH下IC50の比較時、化合物は少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも15、または少なくとも20の効力増強(すなわち、(生理pH下IC50/疾患pH下IC50))を示す。
【0074】
一実施形態では、化合物はpH約6〜約9下にて10μM未満のIC50値を有する。一実施形態では、化合物はpH約6.9下にて10μM未満のIC50値を有する。別の実施形態では、化合物はpH約7.6下にて10μM未満のIC50値を有する。一実施形態では、化合物は生理pH下にて10μM未満のIC50値を有する。一実施形態では、化合物は疾患pH下にて10μM未満のIC50値を有する。
【0075】
一実施形態では、pH6.9下の化合物のIC50値は0.01〜10μM、0.01〜9μM、0.01〜8μM、0.01〜7μM、0.01〜6μM、0.01〜5μM、0.01〜4μM、0.01〜3μM、0.01〜2μM、0.01〜1μM、0.05〜7μM、0.05〜6μM、0.05〜5μM、0.05〜4μM、0.05〜3μM、0.05〜2μM、0.05〜1μM、0.05〜0.5μM、0.1〜7μM、0.1〜6μM、0.1〜5μM、0.1〜4μM、0.1〜3μM、0.1〜2μM、0.1〜1μM、0.1〜0.5μM、0.1〜0.4μM、0.1〜0.3μM、または0.1〜0.2μMであり、pH7.6下における化合物のIC50値のpH6.9下における化合物のIC50値に対する比は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、または100より大きい。
【0076】
一実施形態では、pH6.9下の化合物のIC50値は0.01〜10μM、0.01〜9μM、0.01〜8μM、0.01〜7μM、0.01〜6μM、0.01〜5μM、0.01〜4μM、0.01〜3μM、0.01〜2μM、0.01〜1μM、0.05〜7μM、0.05〜6μM、0.05〜5μM、0.05〜4μM、0.05〜3μM、0.05〜2μM、0.05〜1μM、0.05〜0.5μM、0.1〜7μM、0.1〜6μM、0.1〜5μM、0.1〜4μM、0.1〜3μM、0.1〜2μM、0.1〜1μM、0.1〜0.5μM、0.1〜0.4μM、0.1〜0.3μM、または0.1〜0.2μMであり、pH7.6下の化合物のIC50値のpH6.9下の化合物のIC50値に対する比は1〜100、2〜100、3〜100、4〜100、5〜100、6〜100、7〜100、8〜100、9〜100、10〜100、15〜100、20〜100、25〜100、30〜100、40〜100、50〜100、60〜100、70〜100、80〜100、または90〜100である。
【0077】
他の実施形態では、pH約7.6下の化合物のIC50値は0.01〜10μM、0.01〜9μM、0.01〜8μM、0.01〜7μM、0.01〜6μM、0.01〜5μM、0.01〜4μM、0.01〜3μM、0.01〜2μM、0.01〜1μM、0.05〜7μM、0.05〜6μM、0.05〜5μM、0.05〜4μM、0.05〜3μM、0.05〜2μM、0.05〜1μM、0.05〜0.5μM、0.1〜7μM、0.1〜6μM、0.1〜5μM、0.1〜4μM、0.1〜3μM、0.1〜2μM、0.1〜1μM、0.1〜0.5μM、0.1〜0.4μM、0.1〜0.3μM、または0.1〜0.2μMである。これらのある実施形態では、pH7.6下の化合物のIC50値のpH6.9下の化合物のIC50値に対する比は1〜100、2〜100、3〜100、4〜100、5〜100、6〜100、7〜100、8〜100、9〜100、10〜100、15〜100、20〜100、25〜100、30〜100、40〜100、50〜100、60〜100、70〜100、80〜100、または90〜100を示す。他のある実施形態では、化合物の比は10未満、または5未満、または4、3、2もしくは1を示す。
【0078】
別の実施形態では、ヒトNMDA受容体発現細胞内で、少なくとも5回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで効力増強実験を反復することにより試験したとき、化合物の効力増強を生理pH対「疾患誘発低pH」下における効力を比較することにより評価する実験(例えば、生理pH下IC50/「疾患誘発低pH」下IC50)で決定して、少なくとも5の効力増強を示す化合物の選択方法を提供する。別の好ましい実施形態では、少なくとも15回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで実験を反復することにより決定して、神経障害性疼痛の動物モデルにおいて測定したとき、疼痛閾値の少なくとも2倍上昇を示す化合物の選択方法を提供するまたは化合物を選択する。別の特定の実施形態では、「疾患誘発低pH」は脳卒中などの虚血性障害と関連し得る。
【0079】
一実施形態では、本明細書に記載されるプロセスおよび方法によって選択した化合物は、選択的NR1/NR2AヒトNMDA受容体および/またはNR1/NR2BヒトNMDA受容体拮抗薬である。一実施形態では、化合物はNMDA受容体チャネル遮断薬ではない。
【0080】
さらなる一実施形態では、化合物は実質的な中毒性副作用、例えば、運動障害、認知障害および心臓毒性などを示さない。付加的にまたは代替的に、化合物は少なくとも2:1以上の治療係数を有する。さらなる付加的または代替的な実施形態では、化合物は、NMDA受容体結合に対して他の任意のグルタメート受容体の少なくとも10倍選択性を示す。一実施形態では、効力増強の決定に卵母細胞を使用する。別の実施形態では、例えばマウスなどの齧歯類における一過性局所虚血の動物モデルとして、中大脳動脈閉塞モデルを使用する。
【0081】
さらなる実施形態では、化合物は工程(i)による少なくとも6、7、8、9、10、15または20の効力増強、且つ工程(ii)による疼痛閾値の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍上昇を示す。
【0082】
本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することにより、pH降下に関連した虚血性または興奮毒性カスケード進行の緩和方法をさらに提供する。加えて、本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することにより、pH降下に関連した梗塞容積の縮小方法を提供する。さらに、本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することにより、pH降下に関連した細胞死の低減方法を提供する。さらになお、本明細書に記載されるプロセスまたは方法によって選択した化合物を投与することによる、pH降下に関連した虚血事象に関連する行動欠陥の減少方法を提供する。
【0083】
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、虚血性傷害患者の治療または虚血性障害に関連するニューロン毒性の予防もしくは治療方法を提供する。加えて、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより:パーキンソン病、慢性神経傷害、慢性疼痛症候群(糖尿病性ニューロパチー、虚血、一過性または持続性血管閉塞後の虚血、発作、「拡延性抑圧」、低炭酸症、高炭酸ガス血症、糖尿病性ケトアシドーシス、胎児性窒息、バイパス術後の認知障害、くも膜下出血後の血管痙攣、脊髄傷害、外傷性脳傷害、てんかん重積状態、てんかん、低酸素症、周生期低酸素症、脳震盪、片頭痛、低炭酸症、過呼吸、乳酸アシドーシス、分娩中の胎児性窒息、脳神経膠腫、および/または網膜症を含むが、これらに限定されない)を含むが、これらに限定されない疾患または神経疾患の治療方法を提供する。さらに、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物は、例えば、遺伝的素因などの虚血事象素因患者、または血管痙攣を示す患者、または心臓バイパス術既往患者における疾患もしくは神経疾患に対する予防もしくは保護のために予防的に使用し得る。
【0084】
効力増強の評価
「卵母細胞」という用語は、卵形成の最終生成物である成熟動物卵子、さらに卵原細胞である前駆体型(それぞれ第一卵母細胞および第二卵母細胞)を意味する。
【0085】
「トランスフェクション」とは宿主細胞へのDNA導入を示す。細胞は自然状態ではDNAを取り込まない。したがって、様々な技術的「コツ」を利用して遺伝子導入を促進する。例えば、CaPO方法、脂質ベース方法および電気穿孔法など、非常に多くの導入方法が当業者に既知である(J. Sambrook, E. Fritsch, T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Laboratory Press, 1989)。
【0086】
細胞内NMDA受容体の発現
本発明の主な態様では、化合物の効力増強は、少なくとも1つのヒトNMDA受容体を発現する細胞内で決定される。一実施形態では、該細胞はヒトNMDA受容体を内因的に発現し得る。NMDA受容体を内因的に発現し得る細胞は、幹細胞、P19細胞、神経上皮細胞、神経内皮細胞、ドーパミン黒質ニューロン、星状細胞、大細胞神経内分泌細胞、神経核ニューロン、小脳ニューロン、脳幹細胞、間脳ニューロン、中脳ニューロン、後脳ニューロン、脊髄運動ニューロン、脊髄介在ニューロン、後角ニューロン、皮層ニューロン、小脳顆粒細胞、海馬ニューロン、隔膜ニューロン、尾状細胞、被殻細胞、線条体細胞、嗅球細胞、視床細胞、CA1錐体細胞、基底核細胞、ラット視覚野の層IVニューロン、体性感覚皮質ニューロン、卵母細胞、胎盤細胞、および膵細胞を含むが、これらに限定されない。
【0087】
別の実施形態では、ヒトNMDA受容体を発現するように細胞を遺伝的に改変し得る。特定の一実施形態では、ヒトNMDA受容体を発現するように、卵母細胞を遺伝的に改変し得る。アフリカツメガエル卵母細胞(これに限定されないが、Xenopus laevis、Xenopus tropicalis、Xenopus muelleri、Xenopus wittei、Xenopus gilli、およびXenopus borealisを含む)などのカエル卵母細胞を含むが、これに限定されない、当業者に既知の任意の適切な卵母細胞を使用し得る。一実施形態では、当業者に既知の任意の技術によって動物の卵巣から卵母細胞を単離し得る。
【0088】
他の実施形態では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK腎細胞、細菌性細胞、大腸菌細胞、酵母細胞、ニューロン細胞、心細胞、肺細胞、胃細胞、脾細胞、膵細胞、腎細胞、肝細胞、腸細胞、皮膚細胞、髪細胞、視床下部細胞、下垂体細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、角化細胞、造血性細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、(BおよびT)リンパ球、マクロファージ、単核白血球、単核細胞、心筋細胞、他の筋細胞、卵丘細胞、表皮細胞、内皮細胞、ランゲルハンス島細胞、血液細胞、血液前駆体細胞、骨細胞、骨前駆細胞、ニューロン幹細胞、始原幹細胞、肝細胞、角化細胞、臍帯静脈内皮細胞、大動脈内皮細胞、微小血管内皮細胞、線維芽、肝星細胞、大動脈平滑筋細胞、心筋細胞、ニューロン、クッパー細胞、平滑筋細胞、シュワン細胞、および上皮細胞、赤血球、血小板、好中球、リンパ球、単核白血球、好酸球、好塩基球、含脂肪細胞、軟骨細胞、膵島細胞、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、耳下腺細胞、腫瘍細胞、グリア細胞、星状細胞、赤血液細胞、白血液細胞、マクロファージ、上皮細胞、体細胞、下垂体細胞、副腎細胞、髪細胞、気泡細胞、腎細胞、網膜細胞、桿体細胞、錐体細胞、心細胞、ペースメーカー細胞、脾細胞、抗原提示細胞、記憶細胞、T細胞、B細胞、形質細胞、筋細胞、卵巣細胞、子宮細胞、前立腺細胞、膣上皮細胞、精子細胞、精巣細胞、生殖細胞、卵細胞、ライディッヒ細胞、傍尿細管細胞、セルトリ細胞、ルテイン細胞、頚部細胞、子宮内膜細胞、乳細胞、卵胞細胞、粘液細胞、繊毛細胞、非角化上皮細胞、角化上皮細胞、肺細胞、杯細胞、円柱上皮細胞、扁平上皮細胞、胎芽幹細胞、骨細胞、骨芽細胞、および破骨細胞を含むが、これらに限定されない任意の適切な種類の細胞(初代培養細胞株を含む)を、ヒトNMDA受容体を発現するように遺伝的に改変し得る。
【0089】
別の実施形態では、選択したヒトNMDA受容体サブユニットを発現するように細胞を遺伝的に改変し得る。NMDA受容体は、天然型NMDA受容体の機能的特性を決定するNR1、NR2(A、B、C、およびD)、およびNR3(AおよびB)サブユニットから構成される。NMDA受容体はNR2および/またはNR3サブユニットを伴うNR1から構成されるヘテロメリックタンパク質である。細胞の遺伝的改変にはヒト由来NMDA受容体サブユニットのいずれかをコードするDNAを使用し得る。表1はヒトNMDA受容体サブユニットのGenEMBL寄託番号を示す。
【0090】
【表1】

【0091】
例えばmRNAはcDNAテンプレートから合成し、次いで細胞内に注入し得る。あるいは、細胞内挿入前に受容体サブユニットをコードするcDNAをコンストラクトまたはベクター内に挿入し得る。DNAコンストラクトまたはベクターが宿主細胞内に入るのを可能にするために使用し得る技術としては、リン酸カルシウム/DNA共沈、DNAの核内マイクロインジェクション法、電気穿孔法、インタクトな細胞を使用した細菌性原形質融合、トランスフェクション、または当業者に既知の他の任意の技術などが挙げられる。DNAは直線状または環状、弛緩型または超らせんDNAであり得る。哺乳類細胞の各種トランスフェクション技術については、例えば、Keown et al., Methods in Enzymology Vol. 185, pp. 527−537 (1990)を参照のこと。
【0092】
コンストラクトまたはベクターは当分野において既知の方法により調製し得る。コンストラクトは、コンストラクトをクローニングおよび分析し得る各段階で、細菌性ベクター(例えば大腸菌により認識し得る複製開始点などの原核複製系を含む)を使用して調製し得る。選択可能なマーカーも使用し得る。コンストラクト含有ベクターの完成後は、細菌性配列の削除、線形化、相同配列の短い欠失導入などによりさらに操作し得る。最終操作後、コンストラクトを細胞内に導入し得る。
【0093】
本発明はさらに、上記のように1つ以上の配列を含む組み換えコンストラクトを含む。コンストラクトは、プラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターの形をとり得て、その中に本発明の配列を前向きまたは逆向きで挿入し得る。コンストラクトとしては、例えば、配列と操作可能に連結されたプロモーターを含む調整配列も含み得る。多数の適切なベクターおよびプロモーターが当業者に既知であり、市販されている。例として以下のベクターが提供される:pBs、pQE−9(Qiagen)、Phagescript、PsiX174、pBlueScript SK、pBsKS、pBSSK、pGEM、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(Stratagene);pTrc99A、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Pharmacia)、真核:pCiNeo、pWLneo、pSv2cat、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene)pSVK3、pBPv、pMSG、pSVL(Pharmiacia)。また、宿主内で複製可能且つ生存可能である限り、他の任意のプラスミドおよびベクターを使用し得る。当分野において既知であり市販されているベクター(およびその変異体または誘導体)は、本発明の方法における使用のための組み換え部位を1つ以上含むように加工して本発明に使用し得る。このようなベクターは、例えば、Vector Laboratories社、Invitrogen、Promega、Novagen、NEB、Clontech、Boehringer Mannheim、Pharmacia、EpiCenter、OriGenes Technologies社、Stratagene、PerkinElmer、Pharmingen、およびResearch Geneticsなどから入手可能である。他の関心あるベクターとしては、pFastBac、pFastBacHT、pFastBacDUAL、pSFV、およびpTet−Splice(Invitrogen)、pEUK−C1、pPUR、pMAM、pMAMneo、pBI101、pBI121、pDR2、pCMVEBNA、およびpYACneo(Clontech)、pSVK3、pSVL、pMSG、pCH110、およびpKK232−8(Pharmacia社)、p3’SS、pXT1、pSG5、pPbac、pMbac、pMC1neo、およびpOG44(Stratagene社)、ならびにpYES2、pAC360、pBlueBacHis A、B、およびC、pVL1392、pBlueBacIII、pCDM8、pcDNA1、pZeoSV、pcDNA3 pREP4、pCEP4、およびpEBVHis(Invitrogen社)などの真核発現ベクターおよびその変異体または誘導体が挙げられる。
【0094】
本発明における使用に適切な追加ベクターとしては、pUC18、pUC19、pBlueScript、pSPORT、コスミド、ファージミド、YAC(酵母人工染色体)、BAC(細菌性人工染色体)、P1(大腸菌ファージ)、pQE70、pQE60、pQE9(quagan)、pBベクター、PhageScriptベクター、BlueScriptベクター、pNH8A、pNH16A、pNH18A、pNH46A(Stratagene)、pcDNA3(Invitrogen)、pGEX、pTrsfus、pTrc99A、pET−5、pET−9、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Pharmacia)、pSPORT1、pSPORT2、pCMVSPORT2.0およびpSV−SPORT1(Invitrogen)およびその変異体または誘導体などが挙げられる。レンチウイルスベクターなどのウイルスベクターも使用し得る(例えば、WO03/059923; Tiscornia et al. PNAS 100:1844−1848 (2003)を参照)。関心ある追加ベクターとしては、pTrxFus、pThioHis、pLEX、pTrcHis、pTrcHis2、pRSET、pBlueBacHis2、pcDNA3.1/His、pcDNA3.1(−)/Myc−His、pSecTag、pEBVHis、pPIC9K、pPIC3.5K、pAO815、pPICZ、pPICZA、pPICZB、pPICZC、pGAPZA、pGAPZB、pGAPZC、pBlueBac4.5、pBlueBacHis2、pMelBac、pSinRep5、pSinHis、pIND、pIND(SP1)、pVgRXR、pcDNA2.1、pYES2、pZErO1.1、pZErO−2.1、pCR−Blunt、pSE280、pSE380、pSE420、pVL1392、pVL1393、pCDM8、pcDNA1.1、pcDNA1.1/Amp、pcDNA3.1、pcDNA3.1/Zeo、pSe、SV2、pRc/CMV2、pRc/RSV、pREP4、pREP7、pREP8、pREP9、pREP10、pCEP4、pEBVHis、pCR3.1、pCR2.1、pCR3.1−Uni、およびpCRBac(Invitrogen社製);λ ExCell、λ gt11、pTrc99A、pKK223−3、pGEX−1λ T、pGEX−2T、pGEX−2TK、pGEX−4T−1、pGEX−4T−2、pGEX−4T−3、pGEX−3X、pGEX−5X−1、pGEX−5X−2、pGEX−5X−3、pEZZ18、pRIT2T、pMC1871、pSVK3、pSVL、pMSG、pCH110、pKK232−8、pSL1180、pNEO、およびpUC4K(Pharmacia社製);pSCREEN−1b(+)、pT7Blue(R)、pT7Blue−2、pCITE−4abc(+)、pOCUS−2、pTAg、pET−32 LIC、pET−30LIC、pBAC−2cp LIC、pBACgus−2cp LIC、pT7Blue−2 LIC、pT7Blue−2、λ SCREEN−1、λ BlueSTAR、pET−3abcd、pET−7abc、pET9abcd、pET11abcd、pET12abc、pET−14b、pET−15b、pET−16b、pET−17b−pET−17xb、pET−19b、pET−20b(+)、pET−21abcd(+)、pET−22b(+)、pET−23abcd(+)、pET−24abcd(+)、pET−25b(+)、pET−26b(+)、pET−27b(+)、pET−28abc(+)、pET−29abc(+)、pET−30abc(+)、pET−31b(+)、pET−32abc(+)、pET−33b(+)、pBAC−1、pBACgus−1、pBAC4x−1、pBACgus4x−1、pBAC−3cp、pBACgus−2cp、pBACsurf−1、plg、Signal plg、pYX、Selecta Vecta−Neo、Selecta Vecta−Hyg、およびSelecta Vecta−Gpt(Novagen社製);pLexA、pB42AD、pGBT9、pAS2−1、pGAD424、pACT2、pGAD GL、pGAD GH、pGAD10、pGilda、pEZM3、pEGFP、pEGFP−1、pEGFP−N、pEGFP−C、pEBFP、pGFPuv、pGFP、p6xHis−GFP、pSEAP2−Basic、pSEAP2−Contral、pSEAP2−Promoter、pSEAP2−Enhancer、pβgal−Basic、pβgal−Control、pβgal−Promoter、pβgal−Enhancer、pCMV、pTet−Off、pTet−On、pTK−Hyg、pRetro−Off、pRetro−On、pIRES1neo、pIRES1hyg、pLXSN、pLNCX、pLAPSN、pMAMneo、pMAMneo−CAT、pMAMneo−LUC、pPUR、pSV2neo、pYEX4T−1/2/3、pYEX−S1、pBacPAK−His、pBacPAK8/9、pAcUW31、BacPAK6、pTriplEx、λgt10、λgt11、pWE15、およびλTriplEx(Clontech社製);Lambda ZAP II、pBK−CMV、pBK−RSV、pBlueScript II K+/−、pBlueScript II SK+/−、pAD−GAL4、pBD−GAL4 Cam、pSurfscript、Lambda FIX II、Lambda DASH、Lambda EMBL3、Lambda EMBL4、SuperCos、pCR−Scrigt Amp、pCR−Script Cam、pCR−Script Direct、pBS+/−、pBC KS+/−、pBC SK+/−、Phagescript、pCAL−n−EK、pCAL−n、pCAL−c、pCAL−kc、pET−3abcd、pET−11abcd、pSPUTK、pESP−1、pCMVLacI、pOPRSVI/MCS、pOPI3 CAT、pXT1、pSG5、pPbac、pMbac、pMC1neo、pMC1neo Poly A、pOG44、pOG45、pFRTβGAL、pNEOβGAL、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pRS413、pRS414、pRS415、およびpRS416(Stratagene社製)などである。
【0095】
追加ベクターとしては、例えば、pPC86、pDBLeu、pDBTrp、pPC97、p2.5、pGAD1−3、pGAD10、pACt、pACT2、pGADGL、pGADGH、pAS2−1、pGAD424、pGBT8、pGBT9、pGAD−GAL4、pLexA、pBD−GAL4、pHISi、pHISi−1、placZi、pB42AD、pDG202、pJK202、pJG4−5、pNLexA、pYESTrpおよびその変異体または誘導体などが挙げられる。
【0096】
ヒトNMDA受容体サブユニットを含む細胞の選択を可能とするために、選択可能なマーカーもベクター内へ挿入し得る。適切な選択可能なマーカーは、tk遺伝子(チミジンキナーゼ)またはHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン)上での増殖能力を付与するhprt遺伝子(ヒポキサンチンホスホリボシル転移酵素)などの、ある培地基質上で増殖能力を付与する遺伝子;MAX培地(ミコフェノール酸、アデニン、およびキサンチン)上での増殖を可能とする細菌性gpt遺伝子(グアニン/キサンチンホスホリボシル転移酵素)を含むが、これらに限定されない。例えば、Song, K−Y., et al. Proc. Nat’l Acad. Sci. U.S.A. 84:6820−6824 (1987); Sambrook, J., et al., Molecular Cloning−A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989), Chapter 16を参照のこと。選択可能なマーカーの他の例としては:抗生剤などの化合物耐性を付与する遺伝子、選択した基質上での増殖能力を付与する遺伝子、発光または蛍光など(緑色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)など)の検出可能な信号を生じさせるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。このような多種多様マーカーは既知で入手可能であり、例えば抗生剤耐性遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子(neo)(Southern, P., and P. Berg, J. Mol. Appl. Genet. 1:327−341 (1982));およびハイグロマイシン耐性遺伝子(hyg)(Nucleic Acids Research 11:6895−6911 (1983), and Te Riele, H., et al., Nature 348:649−651 (1990))などが挙げられる。他の選択可能なマーカー遺伝子としては:アセトヒドロキシ酸シンターゼ(AHAS)、アルカリホスファターゼ(AP)、βガラクトシダーゼ(LacZ)、βグルクロニダーゼ(GUS)、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ルシフェラーゼ(Luc)、ノパリンシンターゼ、オクトピンシンターゼ(OCS)、およびその誘導体が挙げられる。アンピシリン、ブレオマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、リンコマイシン、メトトレキサート、ホスフィノトリシン、ピューロマイシン、およびテトラサイクリン耐性を付与する複数の選択可能なマーカーが入手可能である。
【0097】
抗生剤耐性遺伝子および負の選択的要因の組込み方法は当業者に馴染み深いものだろう(例えば、WO99/15650;米国特許第6,080,576号;米国特許第6.136,566号; Niwa, et al., J. Biochem. 113:343−349 (1993); and Yoshida, et al., Transgenic Research, 4:277−287 (1995)を参照)。
【0098】
ヒトNMDA受容体を発現させるために問題なく形質転換された細胞は、機能分析または分子分析によって確認し得る。一実施形態では、ヒトNMDA受容体サブユニットcRNAを挿入した細胞(卵母細胞など)を、機能的ヒトNMDA受容体の存在について電気生理的記録を介して試験し得る。別の実施形態では、ヒトNMDA受容体サブユニット遺伝子(単数または複数)をコードするDNAおよび1つの選択可能なマーカー遺伝子を挿入した細胞を、次いで適切に組み込まれた細胞を同定するために適切に選択した培地内で増殖させ得る。次いで所望の表現型を示す細胞を、制限分析、電気泳動、サザン解析、ポリメラーゼ連鎖反応、または当分野において既知の別の技術によってさらに分析し得る。標的遺伝子部位への適切な挿入を示す断片を同定することにより、標的遺伝子を不活性化、そうでなければ改変するために相同的組換えした細胞を同定し得る。
【0099】
効力増強実験
本発明のさらなる態様では、ヒトNMDA受容体発現細胞は次いで、本明細書に記載される方法およびプロセスにより記載される化合物など、特定の化合物の効力増強決定に使用し得る。
【0100】
ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下における化合物の作用を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで効力増強実験を反復することによって試験することにより、化合物の効力増強を決定し得る。好ましい一実施形態では、ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下において、少なくとも5回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで効力増強実験を反復することにより化合物の効力増強を評価する実験で決定するとき、少なくとも5の効力増強を示す化合物の選択方法を提供し、該化合物を選択する。
【0101】
「疾患誘発低pH」は本明細書に記載される任意の障害または疾患に関連するpH降下と定義する。該「疾患誘発低pH」は約6.4〜約7.1であり得、概して約6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、または7.1であり得る。脳組織内生理pHは約7.2〜約7.8であり、概して約7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、または7.8である。一実施形態では、「疾患誘発低pH」は脳卒中などの虚血性障害と関連し得る。
【0102】
一実施形態では、疾患誘発低pHは約6.9である。別の実施形態では、疾患誘発低pHは約6.7〜約7.1である。
【0103】
一実施形態では、生理pHは約7.6である。別の実施形態では、生理pHは約7.4〜約7.8である。
【0104】
「効力増強」実験では、生理pH(pH7.6など)下および虚血性または神経障害性疼痛pH(pH6.9など)下にて、NMDAチャネル機能の最大値の半数を抑制する化合物濃度(IC50値)が決定される。化合物のIC50値の決定には当分野において既知の任意の方法を用い得る。IC50値はIC50の平均変化を決定するため比率および平均として表し得る。一実施形態では、化合物のIC50値の決定に2電極膜電位固定記録を使用し得る。電圧電極が電流電極よりも低濃度の塩化カリウムを含むようにガラスマイクロ電極に塩化カリウムを充填し得る。細胞はチャンバー内に置き、生理溶液によって還流させ得る。外部pHは虚血性もしくは神経障害性疼痛pH(pH6.9など)または生理pH(pH7.6など)のいずれかに適合させ得る。次いでグルタメートおよびグリシンの最大有効濃度、続いてグルタメート/グリシン+多種濃度の試験化合物の逐次的方法での適用によって用量反応曲線を獲得し得る。拮抗薬の適用による抑制レベルは最初のグルタメート反応%として表し得る。これらの値は細胞、例えば一匹のカエルの複数卵母細胞で平均し得る。各拮抗薬濃度の平均反応%は、ロジスティック式(100−min)/(1+([濃度]/IC50nH)+min(式中、minは飽和拮抗薬の残差反応%、IC50は達成可能な抑制の半数を引き起こす拮抗薬濃度、およびnHは抑制曲線の勾配を示すスロープファクターである)にて適合し得る。minは0以上に制約され得る。例えば、既知のチャネル遮断薬実験においては、minは0に設定し得る。次いで生理pH下および虚血性pH下にて得られたIC50値はIC50の平均変化を決定するため比率および平均として表し得る。さらなる実施形態では、生理pH対疾患誘発低pH下にて、化合物は少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23より大きい効力増強を示し得る。
【0105】
効力増強実験は95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。別の実施形態では、効力増強実験は95%信頼区間が新規実験の追加に伴い約14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%または2%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。さらなる一実施形態では、効力増強実験は96%、97%、98%または99%信頼区間が新規実験の追加に伴い約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%または2%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。
【0106】
動物モデル
本発明の一態様では、患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防に有用である化学化合物の同定プロセスであって、(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下における化合物の効力増強を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで反復することにより評価する工程と;(ii)神経障害性疼痛の動物モデルにおいて化合物を試験し、実験を95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しなくなるまで反復することにより、疼痛閾値の上昇に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程とを含むプロセスを提供する。一実施形態では、候補薬剤はヒト使用のための優れた薬剤であるために、インビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)基準の両方を満たすかまたはそれらより優れていなければならない。
【0107】
好ましい一実施形態では、効力増強実験を少なくとも15回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで反復することにより決定して、神経障害性疼痛の動物モデルで測定したとき、疼痛閾値の少なくとも2倍上昇を示す化合物の選択方法を提供し、または化合物を選択した。
【0108】
神経障害性疼痛の動物モデル
本発明の一態様では、本明細書に記載される化合物は、疼痛、特に神経障害性疼痛および関連疾患の治療または予防に有用となり得る。
【0109】
本発明の一態様では、哺乳類、特にヒトにおける神経障害性疼痛の治療に有用な化学化合物の同定プロセスであって、(i)細胞内の生理pH対「疾患誘発pH」下の化合物の効力増強(例えば、生理pH下IC50/「疾患誘発低pH」下IC50)を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しないように効力増強実験を少なくとも5回反復することにより評価する工程と;(ii)神経障害性疼痛の動物モデルにおいて化合物を試験し、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しないように実験を少なくとも12回反復することにより疼痛閾値の上昇に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、且つ工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇を示す化合物を選択する工程とを含むプロセスを提供する。
【0110】
ある実施形態では、候補薬剤はヒト使用のための優れた薬剤であるために、インビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)基準の両方を満たすかまたはそれらより優れていなければならない。一実施形態では、効力増強をヒト由来グルタメート受容体発現細胞内で決定し得る。別の実施形態では、効力増強を、少なくとも1つのヒト由来NMDA、AMPA、および/またはカイネート受容体を発現する細胞内で決定し得る。一実施形態では、該細胞はNMDA受容体のNR1サブユニットおよび少なくとも1つのNR2サブユニットを発現し得る。さらなる実施形態では、NR2サブユニットはNR2Bサブユニットであり得る。別の実施形態では、NR2サブユニットはNR2Aサブユニットであり得る。
【0111】
本発明の別のより一般的な態様では、NMDA受容体拮抗薬を活性化させる形でpHを低下させる障害を治療する化合物の選択プロセスであって、(i)生理pH対「疾患誘発低pH」下の化合物の効力増強(例えば、生理pH下IC50/「疾患誘発低pH」下IC50)の評価において、化合物の効力増強が、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しないように効力増強実験を少なくとも5回反復することにより細胞内で試験される実験で決定されたとき、少なくとも5の効力増強を示し、(ii)神経障害性疼痛の動物モデルで化合物を試験し、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しないように実験を少なくとも12回反復することにより、疼痛閾値の上昇に及ぼす化合物の作用を測定し;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、且つ工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇を示す化合物を選択する工程を含むプロセスを提供する。一実施形態では、効力増強をグルタメート受容体発現細胞内で決定し得る。別の実施形態では、効力増強をNMDA、AMPA、および/またはカイネート受容体を発現する細胞内で決定し得る。一実施形態では、該細胞はNMDA受容体のNR1サブユニットおよび少なくとも1つのNR2サブユニットを発現し得る。さらなる実施形態では、NR2サブユニットはNR2Bサブユニットであり得る。別の実施形態では、NR2サブユニットはNR2Aサブユニットであり得る。
【0112】
一実施形態では、神経障害性疼痛の動物モデルは、慢性狭窄損傷モデル、坐骨神経部分結紮モデル、脊髄神経結紮モデルまたは当業者に既知の他の任意のモデルを含むが、これらに限定されない群から選択し得る。特定の一実施形態では、脊髄神経結紮モデルをインビボ(in vivo)動物モデルとして使用する。
【0113】
「疼痛閾値」とは疼痛感覚を発現前に要する刺激量の測定値である。慢性神経障害性疼痛の動物モデルでは、動物が傷害および慢性疼痛状態を誘発する対象である。次いで有害刺激を適用し得て、動物が有害刺激に対して反応せず有害刺激に忍容し得る時間を算出し得る。例えば、無傷の動物は、冷表面から肢を引き込める前20分間冷表面に曝露し得るが、傷害後、例えば下記の神経障害性疼痛モデルで説明されているように、動物はわずか1分後に肢を引き込める可能性がある。有害刺激の例は、熱、冷却、フォン・フレイ刺激などの機械的刺激、化学的刺激などを含むが、これらに限定されない。
【0114】
一実施形態では、神経障害性疼痛の動物モデルとして慢性狭窄傷害モデル(CCI、またはBennettモデル)を使用し得る(例えば、Bennett, Gary J. et al. Pain, 1988, 33, 87−107を参照)。このモデルでは、動物、例えばラットの坐骨神経をヒトの神経障害性疼痛患者により報告された症状を誘発することが見出された方法で意図的に傷害し得る。具体的には、中大腿部、膝窩神経三叉分岐近位の坐骨神経を露出し得る。該局所で、約7mmの神経軌道の付着組織を開放して、周囲を4回、約1mm間隔でゆるく結紮し得る。各動物では、各動物がそれ自体の対照として機能し得るように、結紮しない対側で同一の切開をし得る。結紮側で、罹患後肢皮膚は明白に痛覚過敏および異痛症となり(すなわち、通常は有痛性反応を誘発しない刺激により疼痛を発現する)、おそらく自発痛の原因にもなる。痛覚過敏を試験するため、熱などの有害刺激は、ガラス製床下からの後肢足底を対象として、後肢引き込み潜時(疼痛閾値マーカー)を測定し得る。神経傷害側での反応は、異常な強度および持続時間、例えば30秒を超える肢挙上の傾向があり、持続した舐性行動を伴い得る。正常反応では動物はほとんど肢を上げず、1、2秒足らずの持続となる。冷却異痛症試験のため、動物を(例えば、温度4℃に)冷却した金属床上に置き得る。結紮していない肢は床に20分接触した後でも疼痛を発現しない。結紮ラットでは神経傷害肢の引き込みを測定し得て(例えば5倍より大きく上昇し得る)、持続時間を測定し得る(例えば2倍より長く延長し得る)。このようなモデルを用いて、薬剤を投与せず、およびまた本明細書に記載される化合物を投与後に疼痛閾値を算出し得る。
【0115】
別の実施形態では、神経障害性疼痛閾値を試験するために坐骨神経部分結紮モデル(Seltzerモデル)を使用し得る(Seltzer, A. et al. Pain, 1990, 43, 205−218を参照)。このモデルでは、ラットなどの動物における大腿部の坐骨神経の半分を一側的に結紮し得る。術後数時間以内および以後数ヶ月間、動物は同側後肢の保護行動を発現してしばしば該肢を舐めて自発痛の可能性を示唆し得る。足底面は無害刺激と有害刺激に対して均一に過敏性であり得る。動物における有害刺激の一般的な測定は本発明の化合物への曝露時および非曝露時に行い得る。有害刺激はフォン・フレイ・ヘア刺激、COレーザー熱パルスおよび針刺激を包含し得る。足底側で反復したフォン・フレイ・ヘア刺激に対する反応では、足引き込み閾値の急速な低下が起こり得る。術側のこのような一連の刺激後、軽い接触への回避反応が発現し、これは接触異痛症を示唆する。COレーザー熱パルスに対する足引き込み閾値も顕著に低下した。閾値を超す有害な熱パルスは反応を一側的に過剰化させ、これは熱の痛覚過敏を示唆する。針刺激もこのような過剰反応(機械的痛覚過敏)を惹起し得る。このようなモデルを用いて、薬剤を使用せず、および本明細書に記載される化合物の投与後に疼痛閾値を算出し得る。
【0116】
別の実施形態では、脊髄神経結紮モデル(Chungモデル)を神経障害性疼痛の測定に使用し得る(Kim, S.H. and Chung, J.M. Neurosci. Lett. 1991, 134, 131−134; Kim, S.H. and Chung, J.M. Pain, 1992, 50, 355−363を参照)。このモデルでは、L(またはL+L)脊髄神経をきつく結紮し、次いで切断する。該手術手順は患肢の有害な熱および機械的異痛症に対し長時間持続性の痛覚過敏を惹起する。罹患後肢の機械的感受性を測定し得る。それは、後肢にフォン・フレイ・フィラメントで適用した無害の機械的刺激に対する足引き込みの発生頻度増加によって示されるように、手術後当日から有意に上昇し得る。加えて、患肢の自発痛の存在を示す行動もみられる。このような測定結果は本発明の化合物投与時および非投与時に決定し得て、疼痛閾値を算出し得る。
【0117】
神経障害性疼痛の動物モデルにおいて化合物を試験し、疼痛閾値に及ぼす化合物の作用を測定後、疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に至る化合物を選択し得る。他の実施形態では、化合物は疼痛閾値の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20または30倍上昇を示し得る。さらなる実施形態では、実験を少なくとも15回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。神経障害性疼痛の実験を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。別の実施形態では、神経障害性疼痛の実験を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%または2%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。さらなる実施形態では、神経障害性疼痛の実験を、新規実験の追加に伴い96%、97%、98%または99%信頼区間が約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%または2%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。
【0118】
他の神経障害性疼痛の動物モデルは、神経部分傷害モデル(Decosterd & Woolf. Pain. 2000 Aug;87(2):149−58を参照)、真性外傷のない坐骨神経の局所的炎症に誘発された坐骨炎症ニューロパチー(SIN)、および/または化学治療薬ビンクリスチン注入後の末梢神経疼痛モデル(Aley et al Neurosci 1996;73:259−65)を含むが、これらに限定されない。追加モデルは当業者に既知である。Zimmerman M. Eur J Pharmacol 2001;429:23−37; Shir et al Neurosci Lett 1990;115:62−7. Wall et al Pain 1979;7:103−11; DeLeo et al Pain 1994;56:9−16; Courteix et al Pain 1994;57:153−60; Aley et al; Slart et al Pain 1997; 69:119−25; Hargreaves et al Pain 1988;32:77−88も参照のこと。
【0119】
インビボ(In vivo)系一過性局所虚血モデル
本発明の一態様では、ヒトの虚血性傷害治療に有用である化学化合物の同定プロセスであって、(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対「疾患誘発低pH」下の化合物の効力増強(例えば、生理pH下IC50/「疾患誘発低pH」下IC50)を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しないように効力増強実験を少なくとも5回反復することにより評価する工程と、(ii)一過性局所虚血の動物モデルにおいて化合物を試験し、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しないように実験を少なくとも12回反復することにより、梗塞容積に及ぼす化合物の作用を測定する工程と;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、且つ工程(ii)により少なくとも30%の梗塞容積減少を示す化合物を選択する工程と、によるプロセスを提供する。本発明により、候補薬剤はインビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)両方でヒト使用のための優れた薬剤であるための基準を満たすかまたはそれらより優れていなければならない。一実施形態では、細胞はNMDA受容体のNR1サブユニットおよび少なくとも1つのNR2サブユニットを発現し得る。さらなる一実施形態では、NR2サブユニットはNR2Bサブユニットであり得る。別の実施形態では、NR2サブユニットはNR2Aサブユニットであり得る。
【0120】
本発明の別のより一般的な態様では、ヒトNMDA受容体拮抗薬を活性化させる形でpHを低下させる障害を治療する化合物の選択プロセスであって、(i)化合物の効力増強実験を、細胞内の生理pH対「疾患誘発低pH」下で、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しないように少なくとも5回効力増強実験を反復することにより試験して評価する実験で決定したとき、少なくとも5の効力増強を示し、および(ii)局所虚血の動物モデルにおいて、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しないように実験を少なくとも12回反復することにより決定するように測定したとき梗塞容積の少なくとも30%縮小を示す化合物を選択するプロセスを提供する。一実施形態では、該細胞はNMDA受容体のNR1サブユニットおよび少なくとも1つのNR2サブユニットを発現し得る。さらなる実施形態では、NR2サブユニットはNR2Bサブユニットであり得る。別の実施形態では、NR2サブユニットはNR2Aサブユニットであり得る。
【0121】
好ましい一実施形態では、局所虚血の動物モデルにおいて、少なくとも15回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく変化しなくなるまで実験を反復することにより決定するように測定したとき、梗塞容積の少なくとも30%縮小を示す化合物の選択方法を提供するまたは化合物を選択する。別の特定の実施形態では、「疾患誘発低pH」は脳卒中などの虚血性障害と関連し得る。別の実施形態では、中大脳動脈閉塞モデルを動物、例えば齧歯類(マウスなど)の一過性局所虚血モデルとして使用し得る。
【0122】
局所虚血性脳卒中は患部への血液供給中断によって引き起こされた脳損傷であり得る。局所虚血性脳卒中は概して、副動脈または細動脈に対立する「主要な大脳動脈」(例えば中大脳動脈、前大脳動脈、後大脳動脈、内頚動脈、椎骨動脈または脳底動脈)の任意の1つ以上の閉塞によって引き起こされる。動脈閉塞は単独の塞栓または血栓であり得る。それゆえに、本明細書で定義される局所虚血性脳卒中は(Bowes et al., Neurology 45:815−819 (1995)に記載されるような)複数の血液凝固物粒子が副動脈または細動脈を閉塞させる大脳塞栓症脳卒中モデルとは区別される。
【0123】
局所虚血は、齧歯類、マウス、ラット、ウサギおよびスナネズミを含むが、これらに限定されない任意の哺乳類において誘発され得る(Renolleau S, Stroke. 1998 Jul;29(7):1454−60; Gotti, B. et al., Brain Res, 1990, 522, 290−307も参照のこと)。例えば、虚血性脳卒中研究のための実験モデルとしてスナネズミが汎用されてきている。理由は、脳血流が2本の総頚動脈のみにより制御されているためである。このスナネズミにおける独特な特徴は、スナネズミが不完全なウィリス動脈輪を有しているために生じる(Chandler et al., J. Pharmacol. Methods 14:137−146, 1985; Finkelstein et al., Restor. Neurol. Neurosci. 1:387−394, 1990; Levine and Sohn, Arch. Pathol. 87:315−317, 1969; Kahn, Neurology 22:510−515, 1972)。
【0124】
試験化合物は動脈閉塞の前または後で被験動物に投与し得る。一実施形態では、試験化合物は腹腔内投与し得る。一実施形態では、試験化合物は脳室内投与し得る。試験化合物は、動脈閉塞前、例えば、虚血事象の約10、20、30、40、50または60分前に投与し得る。あるいは、試験化合物は、動脈閉塞後、例えば、虚血事象から約10、20、30、40、50、60、90、もしくは120分後または約4、6、8もしくは10時間後または約1、2、3、4、5、6、7もしくは8日間後、すなわち再潅流後に投与し得る。
【0125】
化合物が虚血性領域内細胞を保護し得ることの実証は、中大脳動脈(MCA)を実験的に閉塞した動物モデル、すなわち中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルで試験し得る。この動物モデルはヒトの被験者において生じる可能性があるインビボ(in vivo)虚血事象を模倣するために、当分野において周知である。MCAの実験的閉塞は通常、基底核および前頭骨、頭骨頭頂部、および側頭皮層領域に関与する広範な片側性虚血領域を引き起こす(Menzies et al. Neurosurgery 31, 100−106 (1992))。虚血性病変はMCAによる還流部位の小さな中心部から始まり、経時的に増大する。梗塞中心部を囲むこの周縁部は中心部から閉塞中の側副血行による還流が持続する外部組織への病変進行に起因すると考えられる。動物から脳切片を摘出時、虚血事象の中心部を囲む周縁部に対する治療薬の作用を調べてもよい。MCAは基底核および内包のみならず前頭骨、頭骨頭頂部、および側頭葉の皮質面に血液を供給する。脳切片は最大虚血効果が生じる領域周囲で摘出し得る。MCAOはマウス、ラット、ウサギおよびスナネズミを含むが、これらに限定されない任意の哺乳類で誘発し得る(Renolleau S, Stroke. 1998 Jul;29(7):1454−60; Gotti, B. et al., Brain Res, 1990, 522, 290−307も参照のこと)。MCAモデルでは虚血事象(すなわち、左中大脳動脈閉塞)後にニューロン細胞死の間接的測定が可能である。一実施形態では、中大脳動脈の一過性局所脳虚血を化合物の試験に使用し得る。
【0126】
一過性局所脳虚血は管腔内中大脳動脈(MCA)閉塞によって誘発し得る。閉塞は、例えば縫合糸(モノフィラメント縫合糸など)による動脈を遮断する任意の手段によって達成し得る。動物に麻酔後、局所脳血流内の相対変化をモニタリングするため、プローブを頭蓋骨に装着し得る。このような変化はレーザードップラー血流計(Perimed)によってモニタリングし得る。例えば、マウスでは、プローブはブレグマに対して2mm後部および4〜6mm側方上に装着し得る。次いでMCAを評価するために切開を行い、MCA閉塞のために物質を挿入し得る。例えば、血流停止をモニタリングするまで外頚動脈断端から内頚動脈に縫合を導入し得る。MCA閉塞の一定期間後、例えば約30分、45分または60分後に、遮断物質を取り出して血流を回復し得る。
【0127】
別の実施形態では、化合物が虚血領域内細胞を保護し得ることを実証するため、両側頸動脈閉塞モデルを使用し得る。動物に麻酔し得て、腹側頚部で切開し得て、総頚動脈を単離し得て、一定期間、例えば5、10、15、20、30、45または60分完全に閉塞し得る。動脈を任意の方法、例えば微細動脈瘤クリップなどのクリップを用いて閉塞し得る。次いで閉塞を中止し得て、切開を縫合し得る。特定の一実施形態では、スナネズミにて両側頸動脈閉塞を実行し得る。
【0128】
術後、次いで動物は回復可能となり得る。動物が一定期間、例えば、約12、24、36、48または72時間生存後、動物を屠殺し得て、脳を取り出し、例えば約1、2、3、4、5または10mmの切片にし得る。次いで、適切な染料、例えば2%2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)のPBS溶液などを使用し、37℃で約20分間脳切片を染色して梗塞容積を同定し得る。次いで各切片の梗塞面積を測定し、切片の厚さを乗じて該切片の梗塞容積を入手し得る。反対側半球切片容積の同側半球切片容積に対する比にも、相当する梗塞切片容積を乗じて、浮腫を補正し得る。全切片において梗塞面積×切片の厚さを合計し、梗塞容積を決定し得る。
【0129】
一過性局所虚血の動物モデルにおいて化合物を試験し、梗塞容積に及ぼす化合物の作用を測定後、梗塞容積の少なくとも30%縮小に至る化合物を選択し得る。追加実施形態では、梗塞容積の少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、65、70、75、80、85、90、95、97、99または100%縮小に至る化合物を選択し得る。さらなる実施形態では、生理pH対虚血性pH(すなわち、生理pH/虚血性pH)下における化合物の効力増強が図1に例証されるように(独立してこれらの数値の任意の組み合わせを含み、各組み合わせが具体的に開示されたとみなす)、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、40または50を示し得て、梗塞容積の少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、65、70、75、80、85、90、95、97、99または100%縮小を示し得る。本発明のある実施形態では、効力増強および梗塞容積実験において平均値、すなわち全観察結果の合計を観察結果数で割った値を算出し得て、図1に例証されるように、生理pH対虚血性pH(すなわち、生理pH/虚血性pH)下において化合物が少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または23の平均効力増強、および梗塞容積の少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、65、70、75、80または80%縮小を示し得る。
【0130】
梗塞容積実験は、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。別の実施形態では、梗塞容積実験を95%信頼区間が新規実験の追加に伴い約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%または2%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。さらなる一実施形態では、梗塞容積実験を新規実験の追加に伴い96%、97%、98%または99%信頼区間が約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%または2%より大きく変化しなくなるまで反復し得る。
【0131】
他の一過性局所虚血の動物モデルはミクロスフィアまたは凝固血液の動脈内注入、ラットの4血管閉塞、スナネズミの2血管閉塞、または光化学的に誘発されて溶解した血栓形成などを含むが、これらに限定されない。このようなモデルは当業者に既知である。
【0132】
化合物
本発明の一態様では、本明細書で提供されるプロセスにより同定した化合物は、ヒトNMDA受容体結合に対して本明細書に記載される他の任意のグルタメート受容体の少なくとも10倍選択的であり得る。さらに付加的または代替的実施形態では、化合物は少なくとも2:1以上の治療係数を有し得る。
【0133】
他の実施形態では、化合物はヒトNMDA受容体結合に対して、例えば、以下のグルタメート受容体:AMPA GluR1(GenEMBL寄託番号X57497、X17184、I57354)、AMPA GluR2(GenEMBL寄託番号X57498、M85035、A46056)、AMPA GluR3(GenEMBL寄託番号M85036、X82068)、AMPA GluR4(GenEMBL寄託番号M36421、U16129)、カイネートGluR5(GenEMBL寄託番号X66118、M83560、U16125)、カイネートGluR6(GenEMBL寄託番号D10054、Z11715、U16126)、カイネートGluR7(GenEMBL寄託番号M83552、U16127)、カイネートKA−1(GenEMBL寄託番号X59996、S67803a)、カイネートKA−2(GenEMBL寄託番号D10011、Z11581、S40369)、オーファンd1GRID1(GenEMBL寄託番号D10171、Z17238)、オーファンd2GRID2(GenEMBL寄託番号D13266、Z17239)、および/または代謝調節型のグルタメート受容体(mGluRs)、例えば第1群mGluR(mGluR1およびmGluR5を含む)、第2群mGluR(mGluR2およびmGluR3を含む)、および第3群mGluR(mGluR4、mGluR6、mGluR7、およびmGluR8を含む)などを含むが、これらに限定されない他の任意のグルタメート受容体の少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、78、85、90、95、100、125、150、175、200、300、400、500、または1000倍選択的であり得る。NMDA受容体は、NMDA NR1(染色体(ヒト)9q34.3、マウスのGenEMBL寄託番号:D10028、ラットのGenEMBL寄託番号:X63255、ヒトのGenEMBL寄託番号:X58633)、NMDA NR2A(染色体(ヒト):16p13.2、マウスのGenEMBL寄託番号:D10217、ラットのGenEMBL寄託番号:D13211、ヒトのGenEMBL寄託番号:U09002);NMDA NR2B(染色体(ヒト):12p12 マウスのGenEMBL寄託番号:D10651、ラットのGenEMBL寄託番号:M91562、ヒトのGenEMBL寄託番号:U28861a);NMDA NR2C(染色体(ヒト)17q24−q25、マウスのGenEMBL寄託番号:D10694、ラットのGenEMBL寄託番号:D13212);NMDA NR2D(染色体(ヒト)19q13.1qter、マウスのGenEMBL寄託番号:D12822、ラットのGenEMBL寄託番号:D13214、ヒトのGenEMBL寄託番号:U77783);NMDA NR3A(ラットのGenEMBL寄託番号:L34938および/またはNMDA NR3B)を含むが、これらに限定されない任意のサブユニットから構成され得る。あるいは、化合物はヒトNMDA受容体に対して上記に挙げた別のグルタメート受容体より選択的ではない、または少なくとも2、3、4、5、6、7、8、または9倍選択的である。
【0134】
付加的にまたは代替的に、化合物は、NMDA受容体結合に対し別の受容体タイプの少なくとも10倍選択的であり得る。他の実施形態では、化合物はNMDA受容体結合に対し別の受容体タイプ、例えば、以下:D1、D2、D3、D4およびD5ドーパミン受容体などのドーパミン受容体;muオピオイド受容体など(mu1およびmu2を含む)のオピオイド受容体;デルタ1およびデルタ2などのデルタオピオイド受容体、ならびにカッパ1およびカッパ2などのカッパオピオイド受容体;ムスカリン性およびニコチン性受容体などのコリン作動性受容体;エピネフリン受容体およびエピネフリン受容体などのアドレナリン性受容体、GABA−AおよびGABA−B受容体などのGABA受容体、または下表2に挙げたペプチド受容体を含むが、これらに限定されないペプチド受容体、を含むが、これらに限定されない受容体の少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、78、85、90、95、100、125、150、175、200、300、400、500、または1000倍選択的であり得る。あるいは、化合物はヒトNMDA受容体に対して上記に挙げた受容体より選択的ではないまたは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、または9倍選択的である。
【0135】
【表2】


【0136】
別の実施形態では、化合物はヒトNMDA受容体結合に対してセロトニン受容体の少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、78、85、90、95、100、125、150、175、200、300、400、500、または1000倍選択的であり得る。あるいは、化合物はヒトNMDA受容体に対してセロトニン受容体より選択的ではないまたは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、または9倍選択的である。セロトニン(Seratonin)受容体は、5HT1A、5HT1B、5HT1D、5HT1E、および5HT1Fなどの5HT;5HT2A、5HT2B、および5HT2Cなどの5HT;5HT;5HT;5HT5aおよび5HT5Bなどの5HT;5HTならびに5HTを含むが、これらに限定されない。別の実施形態では、化合物はH1、H2、H3およびH4ヒスタミン受容体を含むヒスタミン受容体の少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、78、85、90、95、100、125、150、175、200、300、400、500、または1000倍ヒトNMDA受容体結合に対して選択的であり得る。あるいは、化合物はヒトNMDA受容体に対してH1、H2、H3およびH4ヒスタミン受容体を含むヒスタミン受容体より選択的ではないまたは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、または9倍選択的である。別の実施形態では、化合物はヒトNMDA受容体結合に対してカルシウムチャネルの少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、78、85、90、95、100、125、150、175、200、300、400、500、または1000倍選択的であり得る。
【0137】
特定の受容体に対する薬剤の親和性を決定するための化合物スクリーニングは薬剤発見プロセスにおいて重要な1つである。受容体選択性の決定プロセスは、当業者に既知の任意の方法によって実行し得る。スクリーニングは、大きな化合物ライブラリーの第1スクリーニング方法、または様々な受容体タイプもしくはサブタイプに対する化合物の結合親和性を順位付けする第2スクリーニングとして使用し得る。一実施形態では、この分析は、例えばMillipore社製Multiscreen(商標登録)HTSフィルタープレートなどのフィルタープレートスクリーニング系のような高処理系で実行し得る。
【0138】
一実施形態では、特定の受容体に対する受容体選択性を決定するために、放射性リガンド結合アッセイを使用し得る。特定の一実施形態では、特定の受容体に対する試験化合物の結合定数(K)を決定するために、飽和結合アッセイを使用し得る。飽和結合アッセイは当分野において既知の任意の方法により実行し得る。概して、飽和結合アッセイは特定の受容体を発現する細胞膜を得ることによって実行し得る。例えば、ヒトNMDA受容体(例えば、NR1/NR2AまたはNR1/NR2BヒトNMDA受容体)を発現させるためにCHO細胞などの細胞をトランスフェクトし得る。あるいは、ヒトNMDA受容体(例えば、NR1/NR2BまたはNR1/NR2AヒトNMDA受容体)を内因的に発現させるために細胞を使用し得る。一実施形態では、細胞全体の結合アッセイを実行し得る。あるいは、例えば、細胞を溶解させ、次いで溶解物の膜画分を得るために遠心分離を用いて、膜を細胞から単離し得る(例えば、Laboratory method for isolation of cell membranes, A. Hubbard and Z. Cohn The Journal of Cell Biology (1975) and Rogers et al., 1991, J.Neuroscience: 2713−2724を参照)。次いで細胞全体または細胞膜を放射能標識リガンド、すなわち試験化合物、例えば3H標識リガンドを段階希釈したものとともにインキュベーションし得る。インキュベーションを一定期間、例えば、少なくとも1、2または3時間実行後、膜を多数回、例えば、5、10、15または20回洗浄し得る。次いでシンチレーション流体を添加し、細胞または細胞もしくは膜の放射能活性を実行し得る。過剰な非標識競合的リガンドを用いた別の実験において非特異的結合も決定し得る。特異的結合は全活性から非特定活性を差し引いて算出し得る。次いで結合定数(Kd)を、非線形回帰およびスキャッチャード解析、例えばプリズムデータソフトウェア(www.Graphpad.com)を用いて遊離リガンド濃度による特異的結合適合により決定し得る。加えて、結合部位数[最大結合量(Bmax)]も非線形回帰およびスキャッチャード解析、例えばプリズムデータソフトウェアを用いて算出し得る。
【0139】
別の実施形態では、相対的親和性の値(IC50)を決定するために置換放射性リガンド結合アッセイを実行し得る。上記のように、特定の受容体を発現する細胞全体または単離した細胞膜を使用し得る。抑制は、一定の放射性リガンド濃度および段階希釈した非標識競合的リガンドを、非標識リガンドを用いない対照結合実験(%対照)と比較して決定し得る。相対的親和性の値(IC50)は非線形回帰、例えば、プリズムデータソフトウェアにより結合抑制値に適合させて決定し得る。
【0140】
患部組織内pHを低下させる疾患の治療における優れたヒト臨床的性能のため、以下の化合物が選択されている。新規パラメーターを満たす他の化合物は、概して本明細書に記載されたガイダンスに従い選択し得る。
【0141】
一実施形態では、本明細書に記載されるプロセスおよび方法によって選択した化合物は以下:
【0142】
【化1】

ならびにその製薬上許容可能な塩、エナンチオマー、エナンチオマー混合物、および混合物からなる群から選択される。
【0143】
立体化学
化合物の三次元構造が治療的使用のための化合物の活性および/または適合性において役割を担う可能性があることが理解されている。本明細書に記載される基準を用いて、化合物のエナンチオマーの両方を選択してもよい、または片方を選択し、もう片方を選択しなくともよいことが、本明細書にて実験的に観察されている。ある状況において、両エナンチオマーは提供された基準を用いて選択してよいと推定される。
【0144】
別の実施形態では、本明細書に記載されるプロセスおよび方法によって選択した化合物は、例えばFR 115427、NPS 1506、フェンシクリジン(PCP)、レマセミド、TCP、またはEAA−090などが挙げられるが、これらに限定されないNMDA受容体チャネル遮断薬ではない。別の実施形態では、本明細書に記載されるプロセスおよび方法によって選択した化合物は、例えばCGP 40116、D−CPPene、GPI3000(NPC 17742)、MDL 100,453、またはセルフォテル(CGS 19755)などが挙げられるが、これらに限定されないNMDA受容体グルタメート部位拮抗薬ではない。別の実施形態では、本明細書に記載されるプロセスおよび方法によって選択した化合物は、例えば7−Cl−キヌレネート、HA966、MRZ 2/576、ZD9379、ガベスチネル(GV150526)、およびリコスチネル(ACEA 1021、5−ニトロ−6,7−ジクロロ−1,4−ジヒドロ−2,3−キノキサリンジオン)などが挙げられるが、これらに限定されないNMDA受容体グリシン部位拮抗薬ではない。
【0145】
別の実施形態では、本明細書に記載されるプロセスおよび方法によって選択した化合物はPCT公開番号WO02/072542に記載されていない。
【0146】
副作用
本明細書に記載される方法およびプロセスの追加態様では、化合物は実質的な中毒性副作用を示さない。他の非ヒト種ではなくヒトNMDA受容体を使用し、化合物がインビボ(in vivo)環境に入る前に中毒性副作用を最小限に抑えることを可能にするインビトロ(in vitro)アッセイを用いてインビボ(in vivo)、特にヒト患者における化合物の有効性および効力増強を有効に評価し得る。
【0147】
中毒性副作用は、激越、幻覚、錯乱、昏迷、妄想症、譫妄、精神異常様症状、ロータロッドの成績低下、アンフェタミン様定型行動、常同症、精神病記憶障害、運動障害、抗不安様作用、血圧上昇、血圧低下、脈拍増加、脈拍低下、血液異常、心電図(ECG)異常、心臓毒性、心臓の動悸、運動刺激、精神運動性能、気分変調、短期記憶障害、長期記憶障害、興奮、鎮静、錐体外路系の副作用、心室性頻拍症、心臓の再分極時間の延長、運動失調、認知障害および/または統合失調様症状を含むが、これらに限定されない。
【0148】
さらに、別の実施形態では、本明細書に記載されるプロセスおよび方法によって選択または同定した化合物は、他のクラスのNMDA受容体拮抗薬に関連する実質的な副作用を有さない。一実施形態では、このような化合物は、セルフォテル、−CPPene(SDZ EAA 494)およびAR−R15896AR(ARL 15896AR)などのグルタメート部位NMDA拮抗薬に関連した、激越、幻覚、錯乱および昏迷(Davis et al. (2000), Stroke 31(2):347−354; Diener et al. (2002), J Neurol 249(5):561−568);妄想症および譫妄(Grotta et al. (1995), J Intern Med 237:89−94);精神異常様症状(Loscher et al. (1998), Neurosci Lett 240(1):33−36);不良な治療比率(Dawson et al. (2001), Brain Res 892(2):344−350);アンフェタミン様定型行動、(Potschka et al. (1999), Eur J Pharmacol 374(2):175−187)を含む副作用を実質上、示さない。別の実施形態では、このような化合物は、例えばHA−966、L−701,324、d−サイクロセリン、CGP−40116、およびACEA1021などグリシン部位NMDA拮抗薬に関連する、有意な記憶障害および運動障害(Wlaz, P (1998), Brain Res Bull 46(6):535−540)を含む副作用を示さない。さらなる実施形態では、このような化合物はMK−801およびケタミンなどのNMDA受容体チャネル遮断薬の、精神病様作用(Hoffman, DC (1992), J Neural Transm Gen Sect 89:1−10);認知障害(自由再生、再認記憶、および注意力の低下);Malhotra et al (1996), Neuropsychopharmacology 14:301−307);統合失調様症状(Krystal et al (1994), Arch Gen Psychiatry 51:199−214; Lahti et al. (2001), Neuropsychopharmacology 25:455−467)、ならびに過活動および常同症増加(Ford et al (1989) Physiology and behavior 46:755−758)を含む副作用を示さない。
【0149】
さらに付加的または代替的な実施形態では、化合物は少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも7:1、少なくとも8:1、少なくとも9:1、少なくとも10:1、少なくとも15:1、少なくとも20:1、少なくとも25:1、少なくとも30:1、少なくとも40:1、少なくとも50:1、少なくとも75:1、少なくとも100:1または少なくとも1000:1以上の治療係数を有する。治療係数は、毒性または致死作用の惹起に要する用量の、非有害反応または治療反応の惹起に要する用量に対する比率として定義し得る。それは中央有効用量(特定の方法で集団の50%が薬剤に反応する用量)と中央中毒用量(群の50%が薬剤の有害作用を示す用量)との関係であり得る。治療係数が高いほど薬剤はより安全とみなされる。それは単純に、有益な効果を惹起するよりも中毒性反応を惹起する用量の方がはるかに高いことを示唆する。
【0150】
化合物の副作用プロファイルは当業者に既知の任意の方法によって決定し得る。一実施形態では、運動障害を、例えば自発運動活性および/またはロータロッド性能測定などによって測定し得る。ロータロッド実験は、動物が加速ロッド上にとどまり得る持続時間の測定を含む。別の実施形態では、記憶障害を、例えば、受動回避パラダイム;スターンバーグ記憶走査および短期記憶の対の言葉、または視覚長期記憶の自由再生遅延などを用いて評価し得る。さらなる一実施形態では、抗不安様作用を、例えば、高架式十字迷路試験で測定し得る。他の実施形態では、副作用を試験するために、心臓機能のモニタリング、血圧および/または体温の測定、および/または心電図を実行し得る。他の実施形態では、精神運動機能および興奮を、例えば重大なフリッカー融合閾値、選択反応時間、および/または体の揺れの分析によって測定し得る。他の実施形態では、情動を、例えば、自己評価を用いて評価し得る。さらなる実施形態では、統合失調症性を、例えば、PANSS、BPRS、およびCGIを用いて評価し得て、副作用はHASおよびS/A尺度によって評価した。
【0151】
疾患
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、患者組織内pH差を生じさせるまたは患者組織内pH差に関連する障害の治療または予防方法を提供する。本明細書に記載される方法によって、pHを低下させる任意の疾患、状態または障害を治療し得る。
【0152】
さらに本明細書に記載される特性を示す化合物の有効量を投与することにより、pH降下に関連する虚血性、低酸素性または興奮毒性カスケード進行の緩和方法を提供する。加えて、本明細書に記載される特性を示す化合物を投与することにより、pH降下に関連する梗塞容積の縮小方法を提供する。さらに、本明細書に記載される特性を示す化合物を投与することにより、pH降下に関連する細胞死の低減方法を提供する。さらになお、本明細書に記載される特性を示す化合物を投与することにより、pH降下に関連する虚血事象に関連する行動欠陥の低減方法を提供する。
【0153】
一実施形態では、本明細書に記載される方法もしくはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、虚血性傷害もしくは低酸素症の患者の治療方法、または虚血性傷害もしくは低酸素症に関連する神経毒性の予防もしくは治療方法を提供する。特定の一実施形態では、虚血性傷害は脳卒中であり得る。他の実施形態では、虚血性傷害は、外傷性脳傷害、バイパス術後の認知障害、頚動脈血管形成後の認知障害;および/または低体温循環停止後の新生児虚血の1つから選択し得るが、これらに限定されない。
【0154】
別の特定の実施形態では、虚血性傷害はくも膜下出血後の血管痙攣であり得る。くも膜下出血とは、脳被膜であるくも膜の下で血液が集まる異常疾患を指す。くも膜下腔と称されるこの領域は、通常、脳脊髄液を含む。くも膜下腔内の血液貯留およびそれによる血管痙攣は脳卒中、発作、および他の合併症を導き得る。本明細書に記載される方法および化合物をくも膜下出血発現患者の治療に使用し得る。一実施形態では、例えば、くも膜下出血に起因し得る脳卒中および/または虚血などを含む、くも膜下出血の中毒性作用を抑えるために、本明細書に記載される方法および化合物を使用し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載される方法および化合物を外傷性くも膜下出血患者の治療に使用し得る。一実施形態では、外傷性くも膜下出血は頭部傷害に起因し得る。別の実施形態では、患者は自発性くも膜下出血を有し得る。
【0155】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、神経障害性疼痛または関連疾患患者の治療方法を提供する。ある実施形態では、神経障害性疼痛または関連疾患は、末梢糖尿病性ニューロパチー、ヘルペス後神経痛、複合性局所疼痛症候群、末梢ニューロパチー、化学療法誘発性神経障害性疼痛、癌神経障害性疼痛、神経性腰痛、HIV神経障害性疼痛、三叉神経痛、および/または中枢脳卒中後疼痛を含むが、これらに限定されない群から選択し得る。
【0156】
神経障害性疼痛は、しばしば末梢神経系または中枢神経系病理学的プロセスによる進行性有害事象を有さないとき、異所的に生じた信号と関連し得る。この機能障害は異痛症、痛覚過敏、間欠的異常感覚、および自発性、灼熱、電撃痛、刺傷、発作性もしくは電気感覚、感覚異常、ヒペルパチーおよび/または異常感覚などの普遍的な症状と関連し得て、これらも本明細書に記載される化合物および方法によって治療し得る。
【0157】
さらに、外傷、虚血;感染症または進行性代謝性もしくは中毒性疾患、真性糖尿病、糖尿病性ニューロパチー、アミロイドーシス、(原発性および家族性)アミロイド多発ニューロパチー、モノクローナルタンパク質を伴うニューロパチー、血管炎性ニューロパチー、HIV感染症、帯状疱疹および/またはヘルペス後神経痛を含むが、これらに限定されない感染症または内分泌疾患;ギラン・バレー症候群関連ニューロパチー;ファブリー病関連ニューロパチー;解剖学的異常に起因するエントラップメント;三叉神経および他のCNS神経痛;悪性腫瘍;炎症性脱髄性疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群を含むが、これらに限定されない炎症疾患または自己免疫疾患;および特発性遠位小径線維ニューロパチーを含むが、これに限定されない潜源性病因、を含むが、これらに限定されない末梢神経系または中枢神経系病理学的事象に起因する神経障害性疼痛を治療するため、本明細書に記載される化合物および方法を使用し得る。本明細書に記載される方法および組成物によって治療し得る神経障害性疼痛の他の病因は、毒素または薬剤(ヒ素、タリウム、アルコール、ビンクリスチン、シスプラチンおよびジデオキシヌクレオシドなど)への曝露、食事異常または吸収異常、免疫グロブリン血症、遺伝的異常および切断術(乳腺切除術など)を含むが、これらに限定されない。また神経障害性疼痛は神経根障害および手根管症候群などの神経原線維の圧迫にも起因し得る。
【0158】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、脳腫瘍患者の治療方法を提供する。さらなる実施形態では、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することによる神経変性疾患患者の治療方法を提供する。一実施形態では、神経変性疾患はパーキンソン病であり得る。別の実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病、ハンチントン病および/または筋萎縮性側索硬化症であり得る。
【0159】
さらに、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物は、本明細書に記載されるような疾患または神経疾患に対する予防または保護のために予防的に使用し得る。一実施形態では、本明細書に記載される方法および化合物によって、遺伝的素因などの虚血事象素因患者を予防的に治療し得る。別の実施形態では、本明細書に記載される方法および化合物によって、血管痙攣を示す患者を予防的に治療し得る。さらなる実施形態では、本明細書に記載される方法および化合物によってバイパス術既往患者を予防的に治療し得る。
【0160】
加えて、本明細書に記載される方法またはプロセスによって選択した化合物を投与することにより、糖尿病性ニューロパチー、虚血、一過性もしくは持続性血管閉塞後の虚血、発作、拡延性抑圧、下肢静止不能症候群、低炭酸症、高炭酸ガス血症、糖尿病性ケトアシドーシス、胎児性窒息、脊髄傷害、外傷性脳傷害、てんかん重積状態、てんかん、低酸素症、周生期低酸素症、脳震盪、片頭痛、低炭酸症、過呼吸、乳酸アシドーシス、分娩中の胎児性窒息、脳神経膠腫、および/または網膜症を含むが、これらに限定されない慢性神経傷害、慢性疼痛症候群、を含むが、これらに限定されない疾患または神経疾患の治療方法を提供する。
【0161】
投与/製剤
本明細書に記載される任意の障害を有する哺乳類、特にヒトを含む宿主は、有効量の本明細書に記載される化合物、またはその製薬上許容可能なプロドラッグ、エステル、および/もしくは塩、任意で製薬上許容可能な担体または希釈剤との組み合わせを宿主に投与することにより治療し得る。活性化合物は任意の適切な経路、例えば、経口、非経口、静注、皮内、筋肉内、皮下、舌下、経皮、気管、咽喉頭、鼻内、局所(クリームもしくは軟膏など)、直腸内、関節内、大槽内、髄腔内、膣内、腹腔内、眼内、吸入、頬側もしくは経口用もしくは鼻腔用スプレーによって投与し得る。
【0162】
本発明の化合物は、無機酸または有機酸から誘導される製薬上許容可能な塩の形で使用し得る。「製薬上許容可能な塩」とは、堅実な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、炎症、アレルギー反応などがなく、ヒトおよび下等動物の組織との接触における使用に適切で、妥当な便益/リスク比に相応する塩を意味する。製薬上許容可能な塩は当分野において周知である。製薬上許容可能な塩は、例えば、P. H. Stahl, et al. “Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use” (Wiley VCH, Zurich, Switzerland: 2002)に詳細に記載されている。塩は、本発明の化合物の最終単離および精製中にインシチュ(in situ)で、または適切な有機酸との遊離塩基機能反応によって別に調製し得る。代表的な酸付加塩としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イソチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタメート、重炭酸塩、p−トルエンスルホン酸塩およびウンデカン酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。また、塩基性窒素含有基は、メチル、エチル、プロピルおよびブチルの塩化物、臭化物、ヨウ化物などの低級ハロゲン化アルキル;ジメチル、ジエチル、ジブチルおよびジアミルの硫酸塩のようなジアルキル硫酸塩;デシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルの塩化物、臭化物、ヨウ化物などの長鎖ハロゲン化物;ベンジルおよびフェネチルの臭化物のようなハロゲン化アリールアルキルなどの試薬を使用して第四級化し得る。それによって水溶性、油溶性または分散性の生成物が得られる。製薬上許容可能な酸付加塩を形成するのに使用し得る酸の例としては、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、およびリン酸などの無機酸、ならびにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸が挙げられる。
【0163】
塩基付加塩は、カルボン酸含有部分を、製薬上許容可能な金属陽イオンの水酸化物、炭酸塩、または重炭酸塩などの適切な塩基と、またはアンモニアまたは有機第一級、第二級もしくは第三級アミンと反応させることによって、本発明の化合物の最終単離および精製中にインシチュ(in situ)で調製し得る。製薬上許容可能な塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属に基づく陽イオン、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミンを含む無毒の第四級アンモニアおよびアミン陽イオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。塩基付加塩の形成に有用である他の代表的な有機アミンとしては、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジンなどが挙げられる。
【0164】
製薬上許容可能な塩は、当分野で周知の標準手順、例えば、アミンなどの十分に塩基性の化合物を、生理上許容可能な陰イオンを付与する適切な酸と反応させることによって得てもよい。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムまたはリチウム)またはアルカリ土類金属(例えばカルシウムまたはマグネシウム)塩も作成し得る。
【0165】
製剤は単位剤形で都合よく提供してよく、薬学分野において周知である任意の方法によって調製してよい。全ての方法に、化合物またはその製薬上許容可能な塩もしくは溶媒和物を、1つ以上の補助化合物を構成する担体と会合させる工程が含まれる。概して、製剤は、活性化合物を液性担体または微細に分割した固体担体または両方と均一および密接に会合させ、次いで、必要に応じて、所望の製剤に生成物を成形することにより調製する。
【0166】
化合物または製薬上許容可能なエステル、塩、溶媒和物またはプロドラッグは、所望の作用を妨げない他の活性物質と、または所望の作用を補助する物質と混合し得る。非経口、皮内、皮下、または局所適用用に使用する溶液または懸濁液としては、例えば、以下の成分:注射用蒸留水、生理的食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの浸透圧調整剤などを包含し得る。非経口用製剤としては、アンプル内、使い捨て注射器またはガラス製もしくはプラスチック製の複数投与用バイアル内に封入し得て静注投与され、好ましい担体は生理的食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0167】
本発明の非経口注入用の製薬学的組成物は、製薬上許容可能な水性または非水溶性滅菌溶液、分散液、懸濁液またはエマルション、および滅菌注射溶液または分散液に再構成するための滅菌粉末を含む。適切な水性および非水溶性担体、希釈剤、溶媒または賦形剤の例としては、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、など)、適切なその混合物、植物油(オリーブ油など)およびオレイン酸エチルなど注入可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティング使用によって、分散剤の場合は要求される粒径の維持によって、および界面活性剤を用いて維持してよい。
【0168】
これらの組成物は防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などのアジュバントも含んでよい。微生物の作用の防止は、例えば、パラべン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、などの各種抗菌剤および抗真菌剤によって確実にしてよい。例えば、砂糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことも好ましい可能性がある。注入可能な製薬学的剤形の長期間の吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの遅延型吸収剤を用いて行ってよい。
【0169】
幾つかの例では、薬剤の効果を長期化させるために、皮下または筋肉内注入による薬剤吸収の減速化がしばしば望ましい。これは、水溶性の低い結晶または無定形物質の液性懸濁液を用いて達成してもよい。次いで薬剤吸収率は薬剤溶解率によって決定され、結晶サイズおよび結晶形によって順に決定される可能性がある。あるいは、非経口投与された薬剤形態の遅発性吸収は油媒体内薬剤の溶解または懸濁によって達成される。
【0170】
活性化合物に加えて懸濁液は、例えばエトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタンおよびソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、トラガカント、およびその混合物などの懸濁剤を包含してもよい。
【0171】
不活性希釈剤の他に、製剤組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味剤、香味料、および香料剤などのアジュバントも包含し得る。
【0172】
活性化合物は、適切であれば1つ以上の賦形剤を含む、マイクロまたはナノカプセル形であってもよい。
【0173】
注射可能なデポー製剤は、ポリラクチド−ポリグリコライドなどの生分解性高分子内に薬剤のマイクロカプセル化基質を形成することによって作製する。薬剤放出速度は、薬剤のポリマーに対する比率および使用される特定ポリマーの性質によって制御し得る。他の生分解性高分子の例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)などが挙げられる。注射可能なデポー製剤は、体組織と適合性があるリポソームまたはマイクロエマルション内の薬剤を封入しても調製される。
【0174】
注入可能な製剤は、例えば、細菌保持フィルターを介したろ過によって、または使用直前の滅菌水もしくは他の注入可能な滅菌媒質に溶解または分散し得る滅菌固体組成物の形で滅菌剤を組み込むことにより、滅菌し得る。注入可能な調製、例えば、滅菌注入可能な水性または油性懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いた既知の技術によって配合してよい。滅菌注入可能な調製は、1,3−ブタンジオール溶液などの非毒性、非経口上許容可能な希釈剤または溶媒内の滅菌注射剤、懸濁液またはエマルションでもよい。使用してもよい許容可能な賦形剤および溶媒は、水、米国薬局方(USP)のリンゲル溶液および等張食塩液である。加えて、滅菌、不揮発性油は溶媒または懸濁媒質として従来使用されている。この目的のため、合成モノまたはジグリセリドなど任意の無菌不揮発性油を使用し得る。加えて、注入物質の調製においてオレイン酸などの脂肪酸が使用される。
【0175】
非経口(皮下、皮内、筋肉内、静注および関節内など)投与用製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および意図するレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含んでもよい水性および非水性滅菌注射溶液;ならびに懸濁剤および増粘剤を含んでもよい水性および非水性滅菌懸濁液などが挙げられる。製剤は、単位用量または複数回用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れて提供してよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用蒸留水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存してもよい。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に記述した種類の滅菌粉末剤、顆粒剤および錠剤から調製してもよい。
【0176】
本発明の他の製剤方法は、本明細書に記載される化合物を、水溶解度を高めるポリマーに抱合させることを含む。適切なポリマーの例としては、ポリエチレングリコール、ポリ−(d−グルタミン酸)、ポリ−(1−グルタミン酸)、ポリ−(1−グルタミン酸)、ポリ−(d−アスパラギン酸)、ポリ−(1−アスパラギン酸)、ポリ−(1−アスパラギン酸)およびその共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。約5,000〜約100,000の分子量を有するポリグルタミン酸が好ましく、約20,000〜80,000の分子量がより好ましく、約30,000〜60,000の分子量が最も好ましい。参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,977,163号に基本的に記載された通りのプロトコルを使用することにより、ポリマーを発明エポチロンの1つ以上のヒドロキシル基へエステル結合を介して抱合する。本発明の21−ヒドロキシ誘導体の場合、好ましい抱合部位としては炭素−21のヒドロキシル基が挙げられる。他の抱合部位としては炭素3のヒドロキシル基および/または炭素7のヒドロキシル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0177】
さらに別の配合方法では、本発明の化合物をモノクローナル抗体と抱合させ得る。この戦略によって、本発明の化合物が特異的な標的を標的とすることが可能となる。抱合抗体の設計および使用のための一般的なプロトコルは“Monoclonal Antibody−Based Therapy of Cancer” (by Michael L. Grossbard, ed. (1998))に記載されている。
【0178】
本発明の化合物は、例えば、経口、非経口、静注、皮内、筋肉内、皮下、舌下、経皮、気管内、咽喉頭内、鼻内、クリームもしくは軟膏などの局所、直腸内、関節内、大槽内、髄腔内、膣内、腹腔内、眼内、吸入、頬側用、または経口用もしくは鼻腔用スプレーなどの任意の適切な投与経路によって投与される。しかし、投与経路は、糖尿病性血管疾患または眼炎症の状況および重症度によって様々でよい。宿主または患者に化合物を正確な量投与するのは担当医の責務となる。しかし、用量は、患者の年齢および性別、治療される正確な障害およびその重症度など多数の要因によって決定される。
【0179】
単一剤形を作製するために担体物質と組み合わされていてよい活性化合物は、治療される被験および特定の投与形態によって変わる。例えば、静注用製剤は約1mg/mL〜約25mg/mLの範囲、好ましくは約5mg/mL〜15mg/mL、より好ましくは約10mg/mLの量の発明化合物を含み得る。本発明の組成物によれば、用量範囲は、約0.001mg/kg/日〜約2500mg/kg/日が典型的である。好ましくは、用量範囲は約0.1mg/kg/日〜約1000mg/kg/日である。より好ましくは、用量範囲は約0.1mg/kg/日〜約500mg/kg/日(1mg/kg、2mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、100mg/kg、200mg/kg、300mg/kg、400mg/kg、500mg/kg/日、およびこの範囲内の任意の2値間の値を含む)である。ヒトに対する用量範囲は概して約0.005mg〜100g/日である。あるいは、本発明による用量範囲は本発明の化合物の血清値が約0.01μM〜約100μM、好ましくは約0.1μM〜約100μMとなるような用量範囲である。本発明による適切な血清値は、約0.01μM、約0.1μM、約0.5μM、約1μM、約5μM、約10μM、約15μM、約20μM、約25μM、約30μM、約35μM、約40μM、約45μM、約50μM、約55μM、約60μM、約65μM、約70μM、約75μM、約80μM、約85μM、約90μM、約95μMおよび約100μM、およびこれらの任意の2値の範囲内の任意の血清値(例えば、約10μM〜約60μM)を含むが、これらに限定されない。不連続単位で提供される錠剤または他の剤形の調製は、このような用量範囲、またはこれらの範囲間の範囲において有効な量の1つ以上の本発明化合物を都合よく含有してよい。
【0180】
本発明の化合物および製剤は、当分野において標準、既知である任意の剤形;固体製剤、半固体製剤、または液体製剤によっても、これら各剤形の下位範疇によっても投与し得る。
【0181】
経口投与用固体剤形としては、カプセル剤、カプレット剤、錠剤、丸剤、粉末剤、トローチ剤、および顆粒剤などが挙げられる。このような固体剤形では、活性化合物を、少なくとも1つの不活性で製薬上許容可能なクエン酸ナトリウムもしくはリン酸ジカルシウムなどの賦形剤もしくは担体、ならびに/または、a)澱粉、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびサリチル酸などの充填剤または増量剤;b)カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、およびアカシアなどの結合剤;c)グリセロールなどの保湿剤;d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカ澱粉、アルギン酸、あるケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤;e)パラフィンなどの溶液緩染剤;f)第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤;g)セチルアルコールおよびグリセロールモノステアレートなどの湿潤剤;h)カオリンおよびベントナイトクレイなどの吸収剤;およびi)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなどの滑剤、ならびにこれらの混合物と混合する。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合は、剤形はまた緩衝剤を含んでもよい。
【0182】
類似の種類の固体組成物を、高分子量ポリエチレングリコールのみならずラクトースまたは乳糖などの賦形剤を使用して、ゼラチンを充てんした軟質および硬質カプセル剤において充填剤として使用してもよい。
【0183】
錠剤、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティングおよび薬剤配合分野において周知である他のコーティングなどのコーティングおよび殻を用いて調製し得る。それらは任意で不透明剤を含んでもよく、活性化合物(1種または多種)のみ、または優先的には、腸管内のある部分で遅発型放出する組成物ともなり得る。使用し得る包埋組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。
【0184】
錠剤は圧縮または鋳造によって、任意で1つ以上の補助化合物とともに作製してもよい。圧縮錠剤は、粉末または顆粒などの自由流動形の活性化合物を、任意で結合剤、滑剤、不活性の希釈剤、滑沢剤、界面活性剤または分散剤と混合して適切な機械で圧縮することにより調製してもよい。湿製錠は、不活性の液性希釈剤によって湿らせた粉状の化合物の混合物を適切な機械で鋳造することにより作製してもよい。錠剤は任意でコーティングしてもよくまたは割線を入れてよく、本明細書の活性化合物を徐放または制御放出するように配合してもよい。
【0185】
直腸内または膣内投与用組成物は、好ましくは、常温では固体だが体温では液体であり、したがって直腸内または膣腔内で溶解し活性化合物を放出するカカオ脂、ポリエチレングリコールもしくは坐剤ワックスなどの、適切な非刺激性の賦形剤または担体と本発明の化合物を混合することにより調製し得る坐剤である。
【0186】
半液体剤形としては、固体としては軟らかすぎる構造だが液体としては粘度が高すぎる剤形などが挙げられる。これらとしては、本発明の活性化合物を含むクリーム、泥膏、軟膏、ジェル、ローション、および他の半固体エマルションなどが挙げられる。
【0187】
経口投与用液体剤形としては、製薬上許容可能なエマルション、マイクロエマルション、溶液、懸濁液、シロップ剤およびエリキシル剤が挙げられる。活性化合物に加えて、液体剤形は、当分野で一般的に使用されている不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿の実、ラッカセイ、コーン、胚芽、オリーブ、ヒマシ、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステルなどの可溶化剤ならびに乳化剤、ならびにこれらの混合物を含有してもよい。
【0188】
本発明の化合物を含む製剤は、経皮パッチなどの適用によって経皮投与してもよい。パッチは、皮膚への物質送達率を制御するために、ポリアクリルアミド、ポリシロキサン、または両方などの基質および適切なポリマー製の半透過性膜から作製し得る。他の適切な経皮パッチ製剤および構造は、Satas, D., et al, “Handbook of Pressure Sensitive Adhesive Technology, 2nd Ed.”, Van Nostrand Reinhold, 1989: Chapter 25, pp. 627−642に加えて、米国特許第5,296,222号および第5,271,940号に記載されている。
【0189】
粉末およびスプレーは、本発明の化合物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物などの賦形剤を含有し得る。スプレーは、クロロフルオロヒドロカーボンなどの慣習的な噴射剤を更に含有し得る。このような賦形剤は、例えば、“Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd Ed.”, A.H. Kibbe, Ed. (American Pharmaceutical Association and Pharmaceutical Press, Washington, DC, 2000)に記載されており、その全体の内容は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0190】
一実施形態では、本発明の活性化合物は、体内からの即時排出または即時放出から化合物を保護する担体(インプラントおよびマイクロカプセル内送達系を含む制御放出製剤など)とともに調製する。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用し得る。このような製剤の調製方法は当業者に明白となるであろう。
【0191】
以下の実施例は例証することを意図しており、限定する意図はない。
【0192】
(実施例)
【実施例1】
【0193】
NMDA受容体対他のグルタメート受容体に対する化合物93−4の選択性
化合物93−4系は、AMPA受容体およびカイネート受容体サブユニットと共に注入時にアフリカツメガエル卵母細胞に作用しないことから、NMDA受容体選択的であることが示された。グルタメートまたはドウモイ酸に誘発される電流記録は、2電極膜電位固定記録、およびアゴニスト(AMPA受容体に対するグルタメート、カイネート受容体に対するドウモイ酸)と併用投与した3μMの化合物93−4を使用して実施した。アゴニスト誘発性反応の減少はみられず、このことから化合物93−4はAMPAおよびカイネート受容体を抑制しないことが示唆された。加えて、受容体がNR1/NR2Bサブユニットから構成されるが、NR1/NR2AまたはNR1/NR2D受容体は含まないとき、3μMの化合物93−4はNMDA受容体介在性電流の抑制に有効であった。
【実施例2】
【0194】
ラットの自発運動活性に対する化合物93系の効果
100〜150gのSprague−Dawley系ラットに、自発運動活性を軽光線遮断として定量化するため、光モニターを備えた活動箱(activity box)内で1時間馴化後、各種用量の93−4、93−5、93−8、93−31、93−40、93−41を腹腔内注入した。自発運動活性は注入後2時間モニタリングした。陽性対照としてMK801の両立体異性体を使用した。(+)MK801は自発運動活性に対する定型化された二相性作用を示し、自発運動活性は最初に増加し、続いて減少(これは運動失調を反映する)した。データは、自発運動活性を誘発する上で賦形剤投与対照動物と比較し(−)MK801は(+)MK801より少なくとも10倍効力が弱かったことを示す。加えて、3〜300mg/kgの93−4、3〜300mg/kgの93−5、30〜300mg/kgの93−8、3〜300mg/kgの93−31(図5)、30mg/kgの93−40、および30〜300mg/kgの93−41は自発運動活性に有意な作用を及ぼさなかった。神経保護的であることが知られている化合物93系の投与は自発運動活性に作用しない。
【実施例3】
【0195】
アフリカツメガエル卵母細胞におけるpH依存効力変化の決定
アフリカツメガエル卵母細胞におけるNMDA受容体の発現。製造業者の仕様書(Ambion)により、cRNAはNMDA受容体サブユニット(NR1−1a、NR2B、NR2A)の直線化cDNAテンプレートから合成した。使用したcDNAはGenbank番号U08261およびU11418(NR1−1a)、AF001423およびCD13211(NR2A)、U11419(NR2B)と同一である。簡単に述べると、cDNAを、コード領域の下流で適切な制限酵素によって直線化し、精製し、RNAポリメラーゼおよび適切な濃度のリボヌクレオチドとともにインキュベーションした。標準方法を用いてインビトロ(in vitro)で転写されたcRNAを精製した。合成cRNAの質をゲル電気泳動によって評価し、量を分光法およびゲル電気泳動によって推測した。3−アミノ−安息香酸エチルエステル(1g/L)麻酔下にて、大きく、栄養十分且つ健康的なXenopus laevisの卵巣からステージVおよびVIの卵母細胞を摘出した。卵母細胞クラスターは、292U/mLワージントン(Freehold、NJ)タイプIVコラゲナーゼまたは1.3mg/mLコラゲナーゼ(Life Technologies, Gaithersburg, MD; 17018−029)とともに2時間、115mM NaCl、2.5mM KCl、10mM HEPESから構成されるpH7.5のCa2+を含まない溶液内で、濾胞細胞層を除去するためにゆっくりと攪拌しながらインキュベーションした。次いで、卵母細胞を、1.8mM CaClを添加した同じ溶液で広く洗浄し、88mM NaCl、1mM KCl、24mM NaHCO、10mM HEPES、0.82mM MgSO、0.33mM Ca(NO、および0.91mM CaClから構成され、100μg/mLゲンタマイシン、40μg/mLストレプトマイシン、および50μg/mLペニシリンを添加したバース溶液内で維持した。容積50nLの5ng NR1サブユニットおよび10ng NR2サブユニット単離後24時間以内に、卵母細胞を手動で濾胞除去および注入し、18℃で3〜7日間バース溶液内でインキュベーションした。注入用ガラスピペットは先端サイズが10〜20μmの範囲であり、鉱油で裏込めされた。
【0196】
試験のためのpH依存性NMDA受容体拮抗薬の調製。NMDA受容体拮抗薬を通常、20mMの100%DMSO溶液として作製し、−20℃で保存した。このストック溶液(1/10 体積/体積)を、2mM、0.2mM、および0.02mM(全て100%DMSO内)に段階的に希釈した。これらのストック溶液を90mM NaCl、3mM KCl、5mM HEPES、0.5mM BaCl、10μM EDTA、100μMグルタメート、50μMグリシンから構成される希釈標準溶液内で適切な濃度範囲に段階的に希釈した(適切なNaOHまたはHClでpHを6.9または7.6のいずれかに調整)。試験した薬剤濃度は0.01、0.03μM(0.02mMストックを適切な容積に希釈)、0.1、0.3μM(0.2mMストックを適切な容積に希釈)、1、3μM(2mMストックを適切な容積に希釈)、および/または10、30、100μM(20mMストックを適切な容積に希釈)であった。
【0197】
アフリカツメガエル卵母細胞の膜電位固定記録。注入後2〜7日に2電極膜電位固定記録を行った。卵母細胞を、2つの卵母細胞を還流させるY型構造に分離する単独還流ラインを有する、デュアルトラックプレキシグラス記録チャンバー内に置いた。二重記録には製造業者に推奨されたように準備された、2つのWarner OC725Bの2電極膜電位固定用増幅器を使用し、室温で行った。ガラスマイクロ電極(1〜10メガオーム)に300mM KCl(電圧電極)または3M KCl(電流電極)を充てんした。湯浴用クランプを記録チャンバーの各面内に置かれた塩化銀ワイヤーに連結した(これらは両方とも0mV参照電位と仮定した)。卵母細胞は90mM NaCl、1mM KCl、10mM HEPES、および0.5mM BaClから構成されるpH7.3溶液で還流させ、−40mVで保持した。グルタメート(100μM)+グリシン(50μM)の対照適用の最終濃度には、それぞれ100および30mMストック溶液から適当量を添加することにより到達した。加えて、Zn2+などの混入二価イオンをキレートするために、1:1000希釈した10mM EDTAを添加することにより10μM最終EDTAを得た。外部pHを6.9または7.6のいずれかに調整した。用量反応曲線は、最大グルタメートおよびグリシン、続いてグルタメート/グリシン+各種濃度の拮抗薬を逐次適用する方法によって得た。このようにして4〜6濃度からなる用量反応曲線を得た。記録の前後に、−40mVにおけるベースライン漏洩電流を測定し、漏洩電流の任意の変化を直線的に補正して完全な記録をとった。グルタメートがpH7.6下にて100nAより低いまたはpH6.9下にて50nAより低い反応を誘発した卵母細胞は含まなかった。拮抗薬を適用することによる抑制レベルを最初のグルタメート反応%で表し、単独カエル由来の複数卵母細胞において平均化した。各実験は、単独カエル由来の卵母細胞3〜10個の各pH下の記録からなった。拮抗薬の各4〜8濃度の平均反応%は、ロジスティック式(100−min)/(1+([濃度]/IC50nH)+min(minは飽和拮抗薬の残差反応%、IC50は達成可能抑制の半分を引き起こす拮抗薬濃度、nHは抑制曲線の勾配を示すスロープファクターである)に適合した。Minは0以上に制約された。既知のチャネル遮断薬の実験では、minを0に設定した。pH7.6および6.9下にて得たIC50値は比率として表され、IC50の平均変化を決定するため平均化された。
【実施例4】
【0198】
インビボ(In vivo)系一過性局所虚血モデルにおける神経保護の決定
一過性局所虚血。 一過性局所脳虚血をモノフィラメント縫合糸による管腔内中大脳動脈(MCA)閉塞によって誘発した。簡単に述べると、雄C57BL/6系マウス(3〜5月齢、ジャクソン研究所)に98%O内2%イソフルレン麻酔した。直腸温度を恒温毛布で37℃(36.5〜37.5℃の範囲)に制御した。局所脳血流の相対変化をレーザードップラー血流計(Perimed)でモニタリングした。これを実施するために、プローブをブレグマに対して頭蓋骨2mm後部および4〜6mm側方上に直接装着した。(縫合糸挿入の10.5〜11mm部位の)血流停止をモニタリングするまで、丸型先端フレームの11mmの5−0 DermalonまたはLook(SP185)非吸収性黒色ナイロン製縫合糸を外頚動脈断端から左内頚動脈内に導入した。MCA閉塞30分後、縫合糸を抜去し血流を回復させた。生存24時間後、脳を摘出し、2mm切片に切断した。2%2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)のPBS溶液で、37℃で、20分間、病変を同定した。NIH IMAGE(Scion Corporation, Beta 4.0.2 release)を用いて各切片の梗塞面積を測定し、切片の厚さを乗じて切片の梗塞容積を得た。対側の未損傷皮質内で70%または75%として決定された強度に基づく画像分割に、NIH IMAGEの密度切片オプションを使用した。この標準を全動物において全分析で維持し、この強度の対象のみを面積測定のために強調表示した。TTC染色において閾値低下をデジタル処理で同定することにより同定した病変領域を手動で輪郭化した。対側半球切片容積の同側半球切片容積に対する比に、相当する梗塞切片容積を乗じて浮腫を補正した。全切片の梗塞面積×断片厚を合計することにより、梗塞容積を決定した。各測定に少なくとも12匹の動物を用いた。幾つかの実験では、染色減少領域を手描きの円で囲むことによって損傷領域を直接測定した。2つの手順によって同一結果を得た。
【0199】
pH依存性NMDA受容体拮抗薬の腹腔内投与。MCA閉塞術の30分前に、C57Bl/6系マウスに93−4、93−5、93−8、93−31、93−40を腹腔内(IP)注入した。0.5mLのDMSOに化合物30mgを添加し、続いてボルテックス撹拌を行いながら0.5mLの0.9%生理的食塩水を添加して、30mg/mLストック溶液を50%DMSO内で調製した。
【0200】
IP注入溶液の希釈標準溶液は0.9%生理的食塩水(50%体積/体積DMSO)内にて3mg/mLであり、0.2mLストック溶液を新規チューブに移し、ボルテックス撹拌を行いながら0.9mLのDMSOおよび0.9mLの0.9%生理的食塩水を添加することにより調製した。マウスに、最終用量3〜30mg/kgを投与したが、注入容積は、該動物の体重および所望の用量によって変化する。
【0201】
pH依存性NMDA受容体拮抗薬の脳室内投与。別の実験セットでは、マウスに少量のNMDA拮抗薬(93−5、93−97、93−31、93−41、93−43)または適切な賦形剤を術前に脳室内(ICV)注入した。最初に、全薬剤のために、100%DMSO内の20mMストック溶液を調製した。このストック溶液5μLを新規のチューブに移し、ボルテックス撹拌を行いながら45μLのDMSOを薬剤93−41、93−43に添加した。その後150μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、0.9%NaCl、pH7.4、シグマ1000−3)を添加して、0.5mM薬剤の25%(体積/体積)DMSO溶液を得た。他の全薬剤のため、20mMのDMSOストック溶液5μLを新規チューブに移し、ボルテックス撹拌を行いながら15μLのDMSOを添加した。この溶液に180μLのPBSを添加し、0.5mM薬剤の10%体積/体積DMSO希釈標準溶液を得た。賦形剤については、DMSOを20mM薬剤のDMSO溶液に置換した。MCA閉塞術30分前、雄C57BL/6系マウス(3〜5月齢、ジャクソン研究所)の右脳室内(ブレグマに対して2mm後部および1mm側方上、3mm針挿入部)に全てICV注入した。MCA閉塞術の24時間後にマウスを屠殺し、上記のように病変を同定し、分析した。くも膜下出血を有するマウスは、頭蓋底における〜1mmより大きい血餅の出現によって同定し、除外した。
【0202】
結果
化合物93−97、93−43、93−5、93−41、および93−31
図2はpH6.9対7.6下における化合物93−97、93−43、93−5、93−41、および93−31剤のICV投与後におけるインビトロ(in vitro)効力増強と組織梗塞容積との比較を例証する。データは賦形剤注入対照について決定した梗塞容積%および上記のように測定した効力増強を示す。灰色斜線部は同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。境界範囲内の薬剤は灰色範囲内に平均(エラーバーではない)を有するものである。
【0203】
各化合物において、一過性局所虚血事象後のC57Bl/6系マウスにて梗塞容積を上記のように測定した。化合物93−97、93−43、93−5、93−41および93−31を上記のように脳室内投与した(ICV;黒丸)。エラーバーは平均値の標準誤差(SEM)である。pH6.9対7.6下のNR1/NR2B受容体発現卵母細胞における化合物93−5、93−31、93−41、93−43、および93−97の効力増強を本明細書に記載されるように算出した。
【0204】
化合物93−4、93−5、93−8、93−31、93−40、(−)MK801および(+)MK801
図3はpH6.9対7.6下における化合物93−4、93−5、93−8、93−31、93−40のインビトロ(in vitro)効力増強と組織梗塞容積との比較を例証する。データは、賦形剤投与対照動物の実際の梗塞容積%として表される実際の梗塞容積%を示し、効力増強は上記のように算出した。灰色斜線部は同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。境界範囲内の薬剤は灰色範囲内に平均(エラーバーではない)を有する。
【0205】
各化合物について、一過性局所虚血事象後のC57Bl/6系マウスにおける梗塞容積を上記のように測定した。薬剤は上記のように腹腔内注入(IP)によって適用した。エラーバーはSEMである。対の対照と比較したIP投与による梗塞容積縮小%から梗塞容積を推測した。これは独立した一実験において薬剤に誘発された対照梗塞%として表される梗塞容積と、ICV実験のための平均対照梗塞容積(mm)との積として算出し、これを直線で示す(破線は平均対照梗塞±SEMを示す)。NR1/NR2B受容体発現卵母細胞において、pH6.9対7.6下の化合物93−4、93−5、93−8、93−31、および93−40、(+)MK801および(−)MK801の効力増強を本明細書に記載されるように算出した。
【0206】
付加的化合物
図4はNR1/NR2AおよびNR1/NR2BにおけるpH6.9対7.6下における既知の化合物のインビトロ(in vitro)効力増強と対照組織の梗塞容積%との比較を示す。灰色斜線部は同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。境界範囲内の薬剤は灰色範囲内に平均(エラーバーではない)を有する。
【0207】
白丸は、文献に記載された様々な齧歯類またはウサギの虚血モデルにおけるCNS1102(CN、アプチガネルまたはCerestat、Dawson et al., 2001)、デキストロメトルファン(DM、Steinberg et al., 1995)、デキストロルファン(DX;Steinberg et al., 1995)、レボメトルファン(LM;Steinberg et al., 1995)、(S)ケタミン(KT;Proescholdt et al., 2001)、メマンチン(MM;Culmsee et al. 2004)、イフェンプロジル(IF、Dawson et al. 2001)、CP101,606(CP;Yang et al. 2003)、AP7(Swan and Meldrum, 1990)、セルフォテル(CGS19755、Dawson et al., 2001)、(R)HA966(HA;Dawson et al., 2001)、レマセミド(RE、Dawson et al., 2001)、ハロペリドール(O’Neill et al., 1998)、7−Cl−キヌレン酸(CK、Wood et al., 1992)およびMK801の立体異性体(+MKまたは−MK;Dravid et al.,調整内)投与による梗塞容積減少を示す(下記参照)。梗塞縮小%は、ケタミンおよび7−Cl−キヌレン酸を除く全化合物について、薬剤による梗塞容積低下%の対照による梗塞容積低下%に対する比から算出し、このために薬剤によるニューロン密度低下%を測定した。
【0208】
NR1/NR2AまたはNR1/NR2B受容体のいずれかを発現する卵母細胞におけるpH6.9対7.6下の全化合物の効力増強を上記のように算出した(実験数の概要については表3および4を参照)。イフェンプロジル(IF)、CP101,606(CP)のpH上昇は文献により決定した(Mott et al., 1998)。
【0209】
梗塞容積を調べたマウス数を表3に示す。NR1−1a/NR2B受容体上の効力増強測定のため、使用したカエル数、ならびにpH6.9下およびpH7.6下、単一濃度で試験した卵母細胞の最大数を表3に示す。各pH下IC50決定のため、各薬剤を複数濃度にて試験した。NR1−1a/NR2A受容体上の効力増強測定のため、使用したカエル数、ならびにpH6.9およびpH7.6下で、単一濃度で試験した卵母細胞の最大数を表4に示す。
【0210】
【表3】

【0211】
【表4】

【0212】
図1は図2、3および4を総合したものである。それは24種の試験化合物中20種の化合物(83%)が本発明の範囲(斜線部で示す)外であることを例証し、80%を超える試験化合物がインビボ(in vivo)処置において同定した優れた標準を満たさなかったことを示唆している。灰色斜線部は同定した優れた薬剤性能基準境界を画定する領域を示す。境界範囲内の薬剤は灰色範囲内に平均(エラーバーではない)を有するものである。化合物93−4、93−5、93−41、93−31の平均はNR1/NR2Bの斜線部の範囲内である。(−)MK801およびケタミンの平均はNR1/NR2Aの斜線部の範囲内である(図4)。
【0213】
特に、図1では、記号で示す化合物において、一過性局所虚血事象後のC57Bl/6系マウスの梗塞容積を上記のように測定した。薬剤は上記のように脳室内投与(ICV;四角)または腹腔内注入(IP;丸)によって適用した。エラーバーはSEMである。梗塞容積を、対の対照群と比較したIP投与における対照梗塞容積%として直接測定した。対照は直線で示す(破線は平均対照梗塞±SEMを示す)。白丸は文献に記載された様々な齧歯類またはウサギの虚血モデルにおけるCNS1102(CN、アプチガネルまたはCerestat、Dawson et al., 2001)、デキストロメトルファン(DM、Steinberg et al., 1995)、デキストロルファン(DX;Steinberg et al., 1995)、レボメトルファン(LM;Steinberg et al., 1995)、(S)ケタミン(KT;Proescholdt et al., 2001)、メマンチン(MM;Culmsee et al. 2004)、イフェンプロジル(IF、Dawson et al. 2001)、CP101,606(CP;Yang et al. 2003)、AP7(Swan and Meldrum, 1990)、セルフォテル(CGS19755、Dawson et al., 2001)、(R)HA966(HA;Dawson et al., 2001)、レマセミド(RE、Dawson et al., 2001)、ハロペリドール(O’Neill et al., 1998)、7−Cl−キヌレン酸(CK、Wood et al., 1992)およびMK801の立体異性体(+MKまたは−MK;Dravid et al., 調製)投与による梗塞容積減少を示す(下記参照)。ケタミンおよび7−Cl−キヌレン酸を除く全化合物について、薬剤による梗塞容積の対照による梗塞容積に対する比から縮小%を算出し、このために薬剤によるニューロン密度の低下%を測定した。
【0214】
また、図1において、pH6.9対7.6下の化合物93−4、93−5、93−8、93−31、93−40、93−43、93−97、(+)MK801、(−)MK801、および他の全化合物の効力増強を、表1および2に報告する観察結果数を使用して上記のように算出した。イフェンプロジル(IF)、CP101,606(CP)のpH上昇は文献(Mott et al., 1998)により決定した。
【実施例5】
【0215】
インビボ(in vivo)神経障害性疼痛モデルにおける評価
方法
動物:体重が手術日100±10gおよび試験日250±10gであった雄Sprague−Dawley系ラット(Hsd:Sprague−Dawley(登録商標)(商標)SD(登録商標)(商標)、Harlan、Indianapoli、Indiana、U.S.A.)を3匹/ケージ飼育した。動物は自由な摂食および摂水下に置き、明暗周期各12時間スケジュールで維持した。動物集団は21℃および湿度60%で維持した。全ての実験は、国際疼痛学会ガイドラインにより実施し、ミネソタ大学の動物実験委員会により承認された。
【0216】
薬剤および投与溶液:薬剤は蒸留水に1%体積/体積DMSOおよび66%体積/体積PEG400に溶解した。化合物は腹腔内投与した。
【0217】
慢性神経障害性疼痛の誘発:慢性神経障害性疼痛の誘発には脊髄神経結紮(SNL)モデル(Kim and Chung 1992 Pain 50:355−63.)を使用した。動物にイソフルレン麻酔し、左L5横突起を摘出し、L5およびL6脊髄神経を6−0絹縫合糸できつく結紮した。次いで創傷を内部の縫合糸および外部のホチキスで閉鎖した。術後10日に創傷クリップを除去した。
【0218】
機械的異痛症の試験:ベースラインおよび治療後の無害な機械的感受性値を、アップダウン法(Chaplan, Bach et al. 1994 J Neurosci Methods 53: 55−63)によって各種硬度(0.4、0.7、1.2、2.0、3.6、5.5、8.5、および15g)の8Semmes−Weinsteinフィラメント(Stoelting, Wood Dale, IL, USA)を使用し評価した。動物を孔あき金属板上に置き、試験前の最低30分間、環境に馴化させた。各治療群の各動物における平均値および平均値の標準誤差(SEM)を決定した。この刺激は通常、有痛性とはみなされないため、本試験における傷害誘発性の有意な反応増加は測定された機械的異痛症と解釈する。
【0219】
実験設計:薬剤投与前30分および24時間にベースラインのフォン・フレイをそれぞれ測定した。30、60、120および240分に追加のフォン・フレイを測定した。試験スケジュールを以下に要約する。実験群は、賦形剤群(蒸留水に溶解した1%DMSO+66%PEG400、腹腔内、4mL/kg、n=10)、化合物93−31試験群30mg/kg(腹腔内、4mL/kg、n=10)、化合物93−31試験群100mg/kg(腹腔内、4mL/kg、n=10)、化合物93−97試験群30mg/kg(腹腔内、4mL/kg、n=10)、化合物93−97試験群100mg/kg(腹腔内、4mL/kg、n=10)、ガバペンチン100mg/kg(腹腔内、4mL/kg、n=12)(合計ラット:62匹)であった。
【0220】
【表5】

【0221】
盲検手順:薬剤溶液は行動試験を実施しなかった別の実験者が投与した。
【0222】
データ分析:統計解析はPrism(商標)4.01(GraphPad、San Diego, CA, USA)を用いて行った。傷害肢の機械的異痛症は賦形剤群の対側肢および同側肢における観察値を比較して決定した。賦形剤群の傷害肢の経時的な安定性値をFriedman二元配置の順位共分散分析を用いて試験した。Kruskal−Walli一元配置順位共分散分析、続いてDunnの事後検定を実施することにより各時点の薬剤効果を分析した。
【0223】
結果
フォン・フレイ試験
機械的異痛症試験(フォン・フレイ)はSNL術後14日に開始した。試験は、ベースライン(薬剤投与前30分)および単一薬剤投与から30、60、120および240分後に、傷害肢(同側)および正常肢(対側)の両方に対して実施した。
【0224】
ベースライン時、全動物が傷害肢に機械的異痛症を示した(表2)。損傷度は群間で同程度であり、本試験期間を通じ、傷害肢のフォン・フレイ閾値は、賦形剤処理群の正常肢にて観察されたフォン・フレイ閾値と有意に異なった(図6)。図6は試験期間を通じて有意な機械的異痛症を示した賦形剤群の動物を示す。賦形剤処理動物の傷害肢および正常肢のフォン・フレイ閾値の平均±SEM(n=10)を示す。両肢間の差は全時点で有意であった(Mann−Whitney検定)。化合物93−31および93−97は正常肢で測定されたフォン・フレイ閾値に対し効果を及ぼさなかった(図7および8)。図7は化合物93−31は正常肢のフォン・フレイ閾値を変化させなかったことを示す。賦形剤、ガバペンチンまたは30および100mg/kgの用量の腹腔内投与された化合物93−31で処理した動物の正常肢の平均±SEM(n=10〜12)フォン・フレイ閾値を示す。図8は化合物93−97は正常肢のフォン・フレイ閾値を変化させなかったことを示す。賦形剤、ガバペンチンまたは30および100mg/kgの用量の腹腔内投与された化合物93−97で処理した動物の正常肢の平均±SEM(n=10〜12)フォン・フレイ閾値を示す。
【0225】
【表6】

【0226】
【表7】

【0227】
化合物93−31(100mg/kg腹腔内投与)処理は、投与30および60分後、観察可能な無痛覚を惹起した(図9)。図9は化合物93−31(100mg/kg)の腹腔内投与により機械的異痛症が緩和されたことを例証する。賦形剤、ガバペンチン(基準化合物)または30および100mg/kgの用量の腹腔内投与された化合物93−31で処理した動物の傷害肢の平均±SEM(n=10〜12)フォン・フレイ閾値を示す。事後検定(Dunn検定)では、30および60分後、化合物93−31(100mg/kg)群と賦形剤群の間に有意なペアワイズ差が示された(p<0.01)。60、120および240分後のガバペンチン効果も有意であった(それぞれp<0.001、p<0.01およびp<0.01)。化合物93−31(30mg/kg)、および試験された任意の時点での化合物93−97(30および100mg/kg)に鎮痛作用はなかった。本試験の賦形剤群の統計分析により、ベースラインならびに30、60、120および240分時点のフォン・フレイ閾値間に有意差はなかったことが示された(Friedman二元配置分散分析)。
【0228】
加えて、腹腔内投与した化合物93−97はSNLラットの機械的異痛症を緩和しなかった。図10はフォン・フレイ閾値に対し作用を示さなかった化合物93−97(30および100mg/kg)の腹腔内投与を示す。賦形剤、ガバペンチン(基準化合物)または腹腔内投与された化合物93−97(30および100mg/kg)で処理した動物の傷害肢の平均±SEM(n=10〜12)フォン・フレイ閾値を示す。60、120および240分後のガバペンチン効果も有意であった(それぞれp<0.001、p<0.01およびp<0.01)。
【0229】
幾つかの副作用が本試験の試験動物群で観察された(動物8/62匹)。観察された副作用はよじり運動および伸張運動であった(観察結果8件)。これらの副作用は腹腔内薬剤投与直後から数分間(〜5分)に最も一般的に認められた。伸張運動/よじり運動は賦形剤腹腔内投与した動物(3/10匹)を含む全試験群でみられ、薬剤の用量依存性は認められなかった。これらの副作用の重症度は中等度であり、本試験の試験動物の除外に至るほど評価項目測定を妨げなかった。表1は本試験で観察された副作用を要約する。幾つかの副作用は評価項目測定中に観察された。最も一般的なものは幾つかの内臓疼痛または過敏症の徴候である可能性がある伸張運動/よじり運動であった。これは賦形剤群および薬剤腹腔内投与群にみられた。それは動物サブセットの賦形剤の腹腔内投与に関連するように思われた。これは比較的稀で、短時間(<5分)に思われ、評価項目測定を妨げるほどの強度ではなかった。
【0230】
【表8】

【0231】
化合物93−31は100mg/kg腹腔内投与時に神経障害性疼痛のSNLモデルにおける機械的異痛症を緩和するように思われた。化合物93−97は本試験の試験用量(30および100mg/kg)ではSNLラットの機械的異痛症を緩和できなかった。基準化合物ガバペンチン(100mg/kg)よりも、化合物93−31(100mg/kg)の作用開始時点は早く(30分)、作用時間は短かった(60分)と思われた。100mg/kgの用量の化合物93−31で処理した動物で観察されたピーク閾値は正常肢でみられたピーク閾値の約半分であった。高用量の化合物93−31によって完全な可逆性が達成し得る可能性があると推測され、これはED50が約100mg/kgであることを示唆する。
【実施例6】
【0232】
選択した化合物のpH依存
一連のn−アルカリ誘導体のpH依存を試験した。
【0233】
【化2】

【0234】
【表9】

【実施例7】
【0235】
アフリカツメガエル卵母細胞アッセイにおけるNMDA−NR2B含有受容体の拮抗作用についてのIC50決定におけるヒト対ラット受容体cDNA
ラットNMDA受容体およびヒトNMDA受容体を使用した上記実施例の神経障害性疼痛のSNLモデルにおけるインビトロ(in vitro)スクリーニングおよび試験方法によって、幾つかの化合物のpH6.9および7.6下の効力を評価し、効力増強を比較した。pH6.9下の受容体遮断IC50をpH7.6下の受容体遮断IC50で割った値と定義した拮抗作用におけるpH依存性効力増強を決定した。全化合物において、ラット受容体から得られたpH依存性効力増強はヒト受容体に対して得られたpH依存性効力増強を予測しない。
【0236】
【表10】


【0237】
上記の発明は明確に理解されるためにある程度詳細に説明してきたが、本開示の解釈によって本発明の真の範囲から逸脱することなく形態および詳細におけるその様々な変更をなし得ることは当業者に理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発pH下における化合物の効力差評価を含む、患部組織内pHを低下させる疾患の治療または予防に有用である化合物の同定プロセス。
【請求項2】
効力差が、生理pH下および疾患誘発pH下において、新規実験の追加に伴い効力増強の95%信頼区間が15%より大きく変化しなくなるまで化合物のIC50を測定することにより評価され、ならびに前記測定が少なくとも5回反復される、請求項1のプロセス。
【請求項3】
効力差が、生理pH下における効力と比較した疾患誘発pH下における効力上昇である、請求項1のプロセス。
【請求項4】
効力差が、生理pH下と比較した疾患誘発pH下の効力増強である、請求項1のプロセス。
【請求項5】
患部組織内pHを低下させる疾患が、神経障害性疼痛、虚血、パーキンソン病、てんかんおよび外傷性脳傷害からなる群から選択される、請求項1のプロセス。
【請求項6】
プロセスがさらに、ヒトNMDA受容体発現細胞内で少なくとも5の効力増強を有する化合物の同定を含む、請求項4のプロセス。
【請求項7】
プロセスがさらに、ヒトNMDA受容体発現細胞内における化合物の効力増強が、非ヒトNMDA受容体発現細胞内で試験したときの同化合物の効力増強より少なくとも2大きい化合物の同定を含む、請求項4のプロセス。
【請求項8】
非ヒトNMDA受容体がラットNMDA受容体である、請求項7のプロセス。
【請求項9】
患部組織が、脳組織、虚血により損傷した組織、疼痛の患部組織、神経障害性疼痛の患部組織、および外傷性脳傷害の患部組織からなる群から選択される、請求項1のプロセス。
【請求項10】
95%信頼区間が新規実験の追加に伴い10%より大きく変化しない、請求項1のプロセス。
【請求項11】
95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しない、請求項1のプロセス。
【請求項12】
効力差の実験が5回反復される、請求項1のプロセス。
【請求項13】
(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発pH下における化合物のヒトNMDA受容体抑制効力増強を評価する工程;(ii)化合物をインビボ(in vivo)で試験し、疼痛閾値に及ぼす化合物の作用を測定する工程;および(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、ならびに工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程を含む、患部組織内で疼痛障害の治療または予防に有用な化合物を同定するプロセス。
【請求項14】
効力増強が、生理pH下および疾患誘発pH下において、化合物のIC50を、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで測定することにより測定され、ならびに前記測定が少なくとも5回反復される、請求項13のプロセス。
【請求項15】
効力増強が少なくとも12回測定される、請求項14のプロセス。
【請求項16】
疼痛閾値が、95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しなくなるまで測定される、請求項13のプロセス。
【請求項17】
疼痛閾値が少なくとも12回測定される、請求項16のプロセス。
【請求項18】
工程(i)により得られた効力増強の95%信頼区間が15%より大きく変化しない、請求項13のプロセス。
【請求項19】
工程(i)により得られた効力増強の95%信頼区間が5%より大きく変化しない、請求項13のプロセス。
【請求項20】
工程(i)の効力増強実験を少なくとも5回反復する、請求項13のプロセス。
【請求項21】
工程(ii)が、神経障害性疼痛の動物モデルにおいて化合物を試験することを含む、請求項13のプロセス。
【請求項22】
工程(ii)により得られた疼痛閾値の95%信頼区間が15%より大きく変化しない、請求項13のプロセス。
【請求項23】
工程(ii)により得られた疼痛閾値の95%信頼区間が5%より大きく変化しない、請求項13のプロセス。
【請求項24】
疼痛障害が患部組織内pHを低下させる、請求項13のプロセス。
【請求項25】
患部組織内pHを低下させる疼痛障害が神経障害性疼痛である、請求項13のプロセス。
【請求項26】
(i)ヒトNMDA受容体発現細胞内の生理pH対疾患誘発低pH下において、効力増強実験を少なくとも5回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い15%より大きく変化しなくなるまで反復することにより、化合物の効力増強を評価する工程;(ii)神経障害性疼痛の動物モデルおいて化合物を試験し、実験を少なくとも12回且つ95%信頼区間が新規実験の追加に伴い5%より大きく変化しなくなるまで反復することにより、疼痛閾値の上昇に及ぼす化合物の作用を測定する工程;(iii)工程(i)により少なくとも5の効力増強を有し、ならびに工程(ii)により疼痛閾値の少なくとも2倍上昇に関連する化合物を選択する工程を含む、神経障害性疼痛の治療または予防に有用な化合物の同定プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−503013(P2011−503013A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532343(P2010−532343)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/082660
【国際公開番号】WO2009/061935
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(501178433)エモリー・ユニバーシテイ (18)
【Fターム(参考)】