説明

密閉型圧縮機

【課題】電動機廻りの構成によっては、電動機の固定子および回転子部分で冷媒ガスの流れの拘束や誘導能力が低下する密閉型圧縮機があり、このような圧縮機においては、冷媒ガスとオイルの気液分離効果が低下して冷凍サイクルへのオイル吐出量が増加していた。
【解決手段】回転子3bに回転子上部室33と回転子下部室35を連通させるような回転子通路36を設けるとともに、回転子3aの上部に先端部が下向きの板で形成される冷媒ガスガイド83を備えた冷媒ガスガイドカップ82を設けたものである。この構成にすることによって、電動機3の回転子3b上部の冷媒ガス27の回転子通路36への誘導を改善し、回転子内での気液分離効果を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機、冷凍機等に使用される密閉型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下に従来の密閉型圧縮機の冷媒ガスの流れとオイル分離の方式(例えば、特許文献1)について図面を参照しながら説明する。
【0003】
図2は特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機(ここでは空調用スクロール圧縮機)の縦断面図を示すものである。密閉容器1内に圧縮機構2、この圧縮機構2の下方に設けた圧縮機構2を駆動するための電動機3と、この電動機3の回転力を圧縮機構2に伝達するためのクランク軸4とを備え、密閉容器1内の下部に設けたオイル溜め20のオイル6をクランク軸4を通じてクランク軸4の軸受部66や圧縮機構2の摺動部に供給する給油機構7とを備えている。
【0004】
これによって、オイル6は給油機構7によって重力に逆らって軸受部66や圧縮機構2の摺動部に強制給油されて、円滑な動作を確保しながら、圧縮機構2で圧縮した冷媒ガスを密閉容器1内の電動機3の部分を通して電動機3を冷却した後、密閉容器1外に吐出するようにしており、軸受部66や圧縮機構2の摺動部に供給した後のオイルが供給圧や重力によって下方に移動しオイル溜20に自然回収されるようにすることができる。
【0005】
しかし、冷媒ガスは常時オイルと接触してこれを随伴させ、密閉容器から冷凍サイクルに供給される際にオイルを持ち込んでしまい、冷凍サイクル中での配管圧力損失や凝縮器や蒸発器などの熱交換器での熱交換効率の低下をもたらす問題がある。
【0006】
この問題を解消するのに従来、圧縮機構から密閉容器内に吐出した冷媒ガスが電動機を通ってこの電動機を冷却しながら密閉容器外に吐出されるまでの冷媒ガスの通路を、オイルの衝突分離や遠心分離が繰り返し生じるように設計して、密閉容器外に吐出される冷媒ガスにオイルが随伴しないように工夫したり、圧縮機構2から吐出される冷媒ガスが、圧縮機構上部の容器内吐出室31、この容器内吐出室31から圧縮機構2の下部に連通させる圧縮機構連通路32、この圧縮機構連通路32から回転子上部室33まで続くように通路カバーで囲われた連通路34、回転子上部室33と回転子下部室35を順次経て電動機の下に至り、さらに固定子3aの下部と上部とを連通させるように固定子3aまたは固定子3aと密閉容器1との間に設けられた固定子通路37を通って連通路34外まわりの固定子上部室38に抜けた後、密閉容器1の固定子上部室38の位置以上の部分に設けられた外部吐出孔39を通って密閉容器1外に吐出されるようにする容器内冷媒ガス通路経路を設けるなどしている。
【特許文献1】特開2001−280252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術においては圧縮機構部からの連絡路、電動機の回転子および固定子を用いてガスを効果的に拘束してガスとオイルの気液分離を行う設計思想であった。
【0008】
しかしながら、電動機周りの寸法によってはガスの拘束が必ずしも十分に行なえないことがあった。例えば、固定子と回転子の間のギャップ寸法が大きくなる場合はその程度が大きくなるにつれて、冷媒ガスは回転子上部空間よりも、流体抵抗がより小さいモータギャップを通りやすくなるため、結果的に回転子内部での冷媒ガスとオイルの気液分離効果が低下してしまうことがあった。また、固定子上部のコイルエンドと冷媒ガスを回転子上部へ誘導するための連通路カバーのスキマが組立てバラツキ等で大きくなったりすると、その隙間からの冷媒ガスの短絡によって、回転子上部の冷媒ガスの拘束および誘導能力が低下することによって、同様に気液分離効果が低下してしまう問題があった。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、電動機の回転子上部の冷媒ガスの回転子内連通路への誘導を改善することによって、気液分離効果を高め、圧縮機外へのオイルの持ち出し(オイル吐出量)を抑制できる密閉型圧縮機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、回転子に回転子上部室と回転子下部室を連通させるような回転子通路を設けるとともに、回転子の上部に先端部が下向きの板で形成される冷媒ガスガイドを備えた冷媒ガスガイドカップを設けたものである。
【0011】
上記構成にすることによって、電動機の回転子上部の冷媒ガスの回転子内連通路への誘導を改善し、気液分離効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の密閉型圧縮機は、回転子に回転子上部室と回転子下部室を連通させるような回転子通路を設けるとともに、回転子の上部に先端部が下向きの板で形成される冷媒ガスガイドを備えた冷媒ガスガイドカップを設ける構成にすることによって、電動機の回転子上部の冷媒ガスの回転子内連通路への誘導を改善し、気液分離効果を高めることができる。そして、圧縮機外へのオイルの持ち出し(オイル吐出量)を抑制できる密閉型圧縮機を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の密閉型圧縮機は、回転子に回転子上部室と回転子下部室を連通させるような回転子通路を設けるとともに、回転子の上部に先端部が下向きの板で形成される冷媒ガスガイドを備えた冷媒ガスガイドカップを設ける構成にすることによって、電動機の回転子上部の冷媒ガスの回転子内連通路への誘導を改善し、気液分離効果を高めることができる。そして、圧縮機外へのオイルの持ち出し(オイル吐出量)を抑制できる密閉型圧縮機を実現することができる。
【0014】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における密閉型圧縮機(スクロール式密閉圧縮機)の縦断面図である。
【0016】
図1に示すように、密閉容器1内に溶接や焼き嵌めなどして固定したクランク軸4の主軸受部材11と、この主軸受部材11上にボルト止めした固定スクロール12との間に、固定スクロール12と噛み合う旋回スクロール13を挟み込んでスクロール式の圧縮機構2を構成し、旋回スクロール13と主軸受部材11との間に旋回スクロール13の自転を防止して円軌道運動するように案内するオルダムリングなどによる自転規制機構14を設けて、クランク軸4の上端にある主軸部4aにて旋回スクロール13を偏心駆動することにより旋回スクロール13を円軌道運動させ、これにより固定スクロール12と旋回スクロール13との間に形成している圧縮室15が外周側から中央部に移動しながら小さくなるのを利用して、密閉容器1外に通じた吸入パイプ16および固定スクロール12の外周部の吸入口17から冷媒ガスを吸入して圧縮していき所定圧力以上になった冷媒ガスは固定スクロール12の中央部の吐出口18からリード弁19を押し開いて密閉容器1内に吐出させることを繰り返す。
【0017】
クランク軸4の下端は密閉容器1の下端部のオイル溜め20に達して、密閉容器1内に溶接や焼き嵌めして固定された副軸受部材21により軸受され、安定に回転することができる。
【0018】
電動機3は主軸受部材11と副軸受部材21との間に位置して、密閉容器1に溶接や焼き嵌めなどして固定された固定子3aと、クランク軸4の途中の外まわりに一体に結合された回転子3bとで構成され、回転子3bの上下端面の外周部分にはピン22により止め付けられたバランスウエイト23、24が設けられ、これにより回転子3bおよびクランク軸4が安定して回転し、旋回スクロール13を安定して旋回軌道運動させることができる。
【0019】
給油機構7はクランク軸4の下端で駆動されるポンプ25によってオイル溜め20内のオイル6をクランク軸4を通縦しているオイル供給穴26を通じて圧縮機構2の各部の軸受部66や圧縮機構2の各摺動部に供給する。供給後のオイル6は供給圧や重力によって逃げ場を求めるようにして軸受部66を通じ主軸受部材11の下に流出して滴下し、最終的にオイル溜め20に回収される。
【0020】
しかしながら実際には、圧縮機構2から吐出される破線矢印で示す冷媒ガス27には圧縮機構2内で接触したオイル6を随伴させていたり、主軸受部材11の下に滴下してくる供給後のオイル6を飛散させて随伴させたりしていて、従来これを十分に分離できず密閉容器1外に吐出する冷媒ガスとともにオイルも吐出されてしまう問題があり、それを防止するために以下のような構成をとっている。
【0021】
圧縮機構2から吐出される冷媒ガス27が、圧縮機構2の上部の容器内吐出室31、この容器内吐出室31と圧縮機構2の下部を連通させる圧縮機構連通路32、この圧縮機構連通路32から回転子上部室33に続く連絡路34、回転子上部室33と回転子下部室35を連通させるように回転子3bに設けた回転子通路36、固定子3aと回転子3bとの電動機ギャップ80、回転子下部室35、を順次経て電動機3の下に至り、さらに固定子3aの下部と上部とを連通させるように固定子3aまたは固定子3aと密閉容器1との間に設けられた固定子通路37を通って前記連絡路34の外まわりの固定子上部室38に抜けた後、密閉容器1の固定子上部室38の位置以上の部分に設けられた外部吐出口39を通って密閉容器1外に吐出されるようにする容器内ガス通路Aを設けてある。このような容器内ガス通路Aの容器内吐出室31と、圧縮機構連通路32とは、圧縮機構2およびその軸受部66の外回りに位置して、圧縮機構2から吐出される冷媒ガス27を一括して圧縮機構2の下部の連絡路34に吐出させる。続いて連絡路34は吐出されてきた冷媒ガス27を回転子上部室33、固定子上部室71に導く。
【0022】
上記の様に誘導された冷媒ガス27の一部は、回転子3bおよびバランスウエイト23の回転による影響で緩く旋回する状態で回転子通路36内に進入させて下方に通りぬけるが、バランスウエイト23を内蔵した冷媒ガスガイドカップ82の上部に先端部が下向きの板で形成される冷媒ガイド83を設置して、冷媒ガス27の回転子通路36への流路抵抗を低減することによる冷媒ガス27の誘導効率を高めつつ、逆流に対して下向きの板の部分が抵抗として機能するようにしている。
【0023】
この回転子通路36に誘導された冷媒ガス27は、オイル6を分離する分離板61に強く衝突して、随伴しているオイル6を効果的に分離し、またオイル6のミストを液滴化しかつ成長させて、分離板61と回転子3bの下端との間の空間の円周上の少なくとも一部が側方へ開口していることにより遠心分離作用が働き、オイル6の分離効果を高めている。また、残りの冷媒ガス27は、冷媒ガスガイドカップ82外壁と通路カバー51内壁の狭い空間から電動機ギャップ80を経て回転子下部空間35に流れるものと、固定子巻線75間を経て固定子上部室38へ半径方向に流れるものが生じ、それらは冷媒ガス27に含まれるオイル6の分離効率が落ちることが懸念されるが、前者は電動機ギャップ80の流路抵抗が、後者は巻線間の流路抵抗がそれぞれ、回転子通路36の通路抵抗より格段に大きくなるために、それらを流れる冷媒ガス量は回転子通路36に流れる冷媒ガス27に比べ極めて小さな量になる。
【0024】
以上のようにしてオイル6を分離された冷媒ガス27は、固定子通路37を通って軸受部66まわりにある連絡路34のさらに外まわりの固定子上部室38に達して、圧縮機構2に設けられた圧縮機構上昇通路43を経て、密閉容器1の固定子上部室38の位置以上の部分にある外部吐出口39から密閉容器1外に吐出でき、冷凍サイクル中での配管圧力損失や凝縮器、蒸発器などの熱交換器での熱交換効率の低下を防止することができる。しかも、既述のように圧縮機構2から吐出された冷媒ガス27は回転子通路36および固定子通路37を通るので、電動機3を効率よく冷却することができる。また、外部吐出口39は密閉容器1の固定子上部室38に設けられてもよいが、外部吐出口39を図示するように密閉容器1の圧縮機構2の上の圧縮機構上部室42に設け、この圧縮機構上部室42と固定子上部室38とを連通させるように圧縮機構2または圧縮機構2と密閉容器1との間に圧縮機構上昇連通路43を設けていることにより、冷媒ガス27が固定子上部室38から圧縮機構上昇連通路43に入る際に圧縮機構2部との間での衝突により、冷媒ガス27中になお残存しているオイル6をさらに分離することができるので、オイル6の分離効果をさらに高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、電動機回転子上部冷媒ガスの回転子内連通路への誘導を改善し、気液分離効果を高めることができ、圧縮機外へのオイル持ち出し(オイル吐出量)を抑制することが可能となるので、空気調和装置や冷蔵庫等の冷凍機器の他ヒートポンプ式給湯装置や乾燥機等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を示す密閉型圧縮機の縦断面図
【図2】従来の密閉型圧縮機の縦断面図
【符号の説明】
【0027】
1 密閉容器
2 圧縮機構
3 電動機
3a 固定子
3b 回転子
4 クランク軸
6 オイル
7 給油機構
17 吸入口
18 吐出口
20 オイル溜め
23 バランスウエイト
24 バランスウエイト
27 冷媒ガス
31 容器内吐出室
32 圧縮機構連通路
33 回転子上部室
34 連絡路
35 回転子下部室
36 回転子通路
37 固定子通路
38 固定子上部室
39 外部吐出口
42 圧縮機構上部室
43 圧縮機構上昇通路
51 通路カバー
61 分離板
71 固定子上部室
75 巻き線
80 電動機ギャップ
82 冷媒ガスガイドカップ
83 冷媒ガスガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に圧縮機構と、この圧縮機構の下方に設けた圧縮機構を駆動するための電動機と、この電動機の回転力を圧縮機構部に伝達するためのクランク軸と、密閉容器内の下部に設けたオイル溜めのオイルをクランク軸を通じてクランク軸の軸受部や圧縮機構部摺動部に供給する給油機構とを備え、圧縮機構から吐出される冷媒ガスが、圧縮機構上部の容器内吐出室、この容器内吐出室と圧縮機構下部を連通させる圧縮機構連通路、この圧縮機構連通路から回転子上部室まで続く通路カバーで囲われた連通路、電動機の上部と下部とを連通する通路、回転子下部室を順次経て電動機下に至り、さらに固定子の下部と上部とを連通させるように固定子または固定子と密閉容器との間に設けられた固定子通路を通って前記連通路外回りの固定子上部室、圧縮機構または圧縮機構と密閉容器との間に設けられた圧縮機構上昇通路を経て、密閉容器の固定子上部室の位置以上の部分に設けられた外部吐出孔を通って密閉容器外に吐出されるようにする容器内冷媒ガス通路を設けた密閉型圧縮機において、回転子に回転子上部室と回転子下部室を連通させるような回転子通路を設けるとともに、回転子の上部に先端部が下向きの板で形成される冷媒ガスガイドを備えた冷媒ガスガイドカップを設けた密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−226208(P2006−226208A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41983(P2005−41983)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】