説明

対向ピストン式エンジンとオイルタンクの構造

【課題】植物油を燃料の一部に直接利用する。
【解決手段】先ずエンジンの潤滑油として植物油をエンジン内に散布し、その潤滑後に高温となった潤滑オイルを再びオイルタンクに回収させることでタンク内に溜まった潤滑オイルを加熱する、それで植物油の課題だった潤滑時に機械損失を悪化させる高い粘度を低下させる上にエンジン内の高温と振動を利用し潤滑オイルの気化を促すことから燃焼可能な蒸気となった植物油は、その潤滑を行なうクランク室内に充満した新気と混合し、それで燃料の一部を担う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向ピストン式エンジンのエンジン内で潤滑する潤滑オイルの気化を促す潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にクランク室圧縮方式を採用した2サイクルエンジンは、先ずシリンダ内の下死点から上死点側に上昇行程を行なうピストン裏側のクランク室内で生じた負圧を利用し新気をクランク室に流入させる、次に反転し下降を開始するピストンがクランク室内の容積を減ずることでクランク室内に充満した新気を圧縮しながら同時にピストン表側のシリンダ内は、前サイクルで流入した新気を燃焼させて生じた高温高圧の燃焼ガスがピストンを押し下げる膨張行程が進行し、それはシリンダ内を下降するピストンが最初に開口する排気ポートから燃焼済みガスがシリンダ外に排出して終了する反面、その後もシリンダ内に燃焼済みガスが残留し続けることから尚も下降するピストンが次に圧縮された新気が充満した前記クランク室内と連通した掃気ポートを開口し、それでシリンダ内に流入した新気が一方でシリンダ内に残留した燃焼済みガスを押して排気ポートから排出させる、その掃気作用を利用した2サイクルエンジンは、同排気量の4サイクルエンジンに比べ小型軽量の上に高出力の利点がある。
【特許文献1】昭55−51919号公報
【特許文献2】特開平7−224627号公報
【非特許文献1】和歌山利宏著「図説バイクのメカニズム」グランプリ出版、1992年、P85〜107
【非特許文献2】富塚清著「二サイクル期間」養賢堂、1985年、P223〜232
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが前記シリンダ内における掃気作用は不完全であり、特に掃気ポートからシリンダ内に流入した未燃焼の燃料と潤滑オイルを含む新気の一部が排気ポートから燃焼済みガスと一緒に排出され易い構造上の欠点は、それら未燃焼の燃料と潤滑オイルを含む排気ガスが大気汚染の要因と指摘される上に無駄な燃料の排出によって熱効率が悪化する課題があった。
【0004】
そこで近年普及したシリンダ内に直接燃料を噴射する装置を利用し、それがシリンダ内で上昇行程を行なうピストンがシリンダ内に開口した排気ポートを閉口し開始される圧縮行程のタイミングにおいて、その燃焼に必要な燃料を直接シリンダ内に供給した結果、それまでの排気ポートから排気ガスと一緒に吹き抜ける新気に未燃焼の燃料が含まれないことから大気汚染物質の削減と同時に燃料が節約可能となった。
【0005】
しかし前記シリンダ内に直接燃料を噴射する装置は高価であり、しかもシリンダ内の燃焼で発生した有害物質は削減困難、そこで例えば排気ガスに含まれる有害物質の浄化手段として酸化触媒の開発が進む一方で、その浄化に高温を必要とする酸化触媒は、前記の如く排気ガスに混入した未燃焼の新気が排気ガス温度を下げ、その排気ガスに含まれる有害物質を浄化困難なエンジンの作動領域が拡大する結果、それが年々強化される排出ガス規制に対応できない状況を予期させる上に排気の障害となる触媒構造は、また新気が充満したクランク室で潤滑に必要な潤滑オイルが気化および霧状に飛散し易いことから結果的に排気ガスに含まれる微量の潤滑オイルが触媒の通過時に付着し易く、それが徐々に蓄積し酸化触媒の浄化機能を悪化させる上に増加する排気抵抗が出力低下の要因となる。
【0006】
ところでシリンダ両端よりシリンダ内に対向配置された2つのピストンがほぼ対向した往復動を行なう対向ピストン方式を採用した2サイクルエンジンは、その片方のピストンが開閉する掃気ポートから流入する新気でシリンダ内に残留する燃焼済みガスを他方のピストンで開閉する排気ポート方向へ押し出すユニフロー掃気方式を採用し、それでシリンダ内へ流入した新気が反対側にある排気ポートから吹き抜け難い特徴は、一般的に最も酸化触媒が機能しない始動時から低負荷の運転域など新気の流量が少ない状況下で顕著に吹き抜け難い傾向を示すことから酸化触媒の課題解決に効果的な反面、2つの新気が充満したクランク室の潤滑に必要な潤滑オイルの消費量が増加する課題があった。
【0007】
しかし前記の如く潤滑オイルの消費量が増加する課題は、その潤滑オイルに植物油を採用した場合、それが潤滑オイルとして機能する以外にも気化後は、代替化石燃料として有望な燃料となる。
【0008】
なお一般的に植物油は、通常の鉱物オイルと同等の油膜形成力を有する一方で2サイクルエンジンの潤滑オイルに利用する場合、その高い粘度が機械損失を悪化させる上に停止後のエンジン内部に残留する植物油は、そこで酸化し易いことから次回のエンジン始動に不具合を生じる可能性があり、しかも前記の如く未燃焼の新気が排気ポートから多量に排出される通常の2サイクルエンジンでは、その新気に含まれた潤滑オイルが排気通路内で蓄積し排気通路の障害となる上に排気管から外部に排出された場合、それが白煙となって周辺地域に汚い、滑る、異臭がするなどの環境問題を生じることから排気通路に潤滑オイルの除去装置が必要となり、その設備の追加と運用にコスト増加を招く結果、その使用も敬遠され、それ以外にクランク室圧縮方式の2サイクルエンジンは、エアクリーナーで捕捉しなかった空気中の微細な埃がエンジン内部に蓄積し易く、それがピストンやクランク軸などの摩耗を促す課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
それら前記の問題点を鑑み本発明は、最初に植物油の加熱をエンジン内の潤滑で行ないながら同時に植物油の気化を促し燃料の一部に使用、且つエンジン内部の洗浄などの煩雑なメンテナンスを低減するオイルタンクの組み合わせ構造を提供することにあり、この技術的課題の達成のために本発明の請求項1の手段によれば、シリンダ両端からシリンダ内に対向配置された2つのピストンの一方が行なう往復動でシリンダ内に開口した掃気ポートを開閉し、もう一方のピストンが行なう往復動でシリンダ内に開口した排気ポートを開閉する対向ピストン方式を特徴とする2サイクルエンジンにおいて、そのクランク室圧縮方式を採用したクランク室内に散布された潤滑オイルが溜まるエンジン下部とオイルタンクを連通するオイル通路を設け、さらに該オイルタンクと負圧が発生するクランク室内および2つのクランク室を連通する新気通路に一方弁およびバルブを介して連通する連通路を設けたこと特徴とする。
【0010】
さらに本発明の請求項2の手段によれば、前記オイルタンク内に配置された撹拌機からの撹拌翼および濾過装置が回動および旋回流を発生させる方向へオイルタンク内の潤滑オイルが循環およびエンジン潤滑後のオイル通路から回収された潤滑オイルを流入させることを特徴とする。
【0011】
また本発明の請求項3の手段によれば、前記オイルタンクから濾過器で分離された濾過前の潤滑オイルが溜まる空間にエンジン潤滑後のオイル通路から回収された潤滑オイルを流入させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1の手段によれば、エンジンの潤滑後に高温となった潤滑オイルを再びオイルタンク内に回収し、該オイルタンク内に溜まった常温の植物油を徐々に加熱することから課題だった高い粘度を低下させる上に潤滑を行なうクランク室内で気化を促す、その一方でオイルタンク内は、そこに回収された潤滑オイルに含まれる気泡や気化した潤滑オイルなど充満した気体の除去が必要であり、そこで負圧が発生する2つのクランク室内および2つのクランク室を連通する新気通路で吸引させることからエンジンの吸気通路で吸引する従来方式に比べ故障の要因となる吸気通路内に潤滑オイルが付着せず、しかもクランク室に充満する新気のオイルタンク内への流入を常に一方弁およびバルブで阻止する結果、それが特にエンジン作動中のオイルタンク内に充満した潤滑オイルの蒸気が液化し減圧されるエンジン停止後のオイルタンク内は、そこに溜まった潤滑オイルの酸化防止に有効。
【0013】
また本発明の請求項2の手段によれば、前記オイルタンク内に配置された撹拌機からの撹拌翼および濾過装置が回動および旋回流を発生させる方向へオイルタンク内の潤滑オイルが循環およびエンジン潤滑後のオイル通路から回収された潤滑オイルを流入させて該オイルタンク内に溜まった潤滑オイルの撹拌と同時に濾過を促す。
【0014】
さらに本発明の請求項3の手段によれば、前記オイルタンクから濾過器で分離された濾過前の潤滑オイルが溜まる空間にエンジン潤滑後のオイル通路から回収された高温の潤滑オイルを流入させて再び濾過を行なう以外に、そこに補給された常温の植物油を高温の潤滑オイルが撹拌しながら加熱し、その粘度を低下させて濾過器による濾過を促す。
【0015】
即ち直接燃料への用途を制限した常温で粘度が高い植物油の課題を本発明では、先ず未燃焼の新気が充満したクランク室内の潤滑に利用し、それが同時にクランク室の高温と振動で潤滑オイルの気化を促すことから燃焼可能な蒸気となった植物油は、そこに充満した新気と混合し燃料の一部を補う、この植物油の利用方法は、それまで代替軽油として植物油を利用する場合に必要だった燃料の製造プラントや特殊な添加剤が不要であり、さらに従来の2サイクルエンジンのクランク室内に微細な金属紛や炭化物が蓄積し性能低下と故障の要因となる課題もエンジン内に散布された潤滑オイルがクランク室内を常に洗浄し、それを再びオイルタンクに回収する潤滑方法で解決した。
【0016】
なお本発明では、その潤滑オイルとして植物油を利用する以外に廃植物油および植物油や既存の潤滑オイルを混入した灯油からA重油などの液体燃料が利用可能であり、また対向ピストン式エンジンのシリンダ内で往復動を行なう2つのピストンが最も接近し出現する燃焼室は、そこに着火性能を向上させる手段として複数の点火プラグ17を配置する以外にも燃料および水を直接シリンダ内に噴射するインジェクタ18の配置も容易なことから本発明は、圧縮着火方式を特徴とするディーゼルエンジン方式に適用可能。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の一実施例を示す概略構成図であり、図に示すようにクランク室圧縮方式を採用した対向ピストン式エンジン1は、シリンダ3の両端より向き合った一方のピストン4aの往復動でシリンダ内に開口した排気ポート5aを開閉し、さらに他方のピストン4bの往復動でシリンダ内に開口した掃気ポート5bを開閉させる、なお2つのクランク室6a,6bは、新気通路(不図示)で連通し、また2つのクランク軸8a,8bは、歯車およびチェーン、ベルト(不図示)などで連動し回転する。
【0018】
最初にオイルタンク2から油ポンプ7aで加圧された潤滑オイルは、それをエンジン内の油孔9からクランク軸8a,8bの軸受部とクランク室6aに散布される、特にクランク室6aから散布された潤滑オイルは、最も高温となるピストン4aをピストン裏側から冷却しながらピストン4aの高熱と往復動によって気化および霧状に飛散し易い結果、そこに充満する新気と混合し燃焼可能な燃料の一部となる反面、エンジン内に散布された大部分の潤滑オイルは、その潤滑後にエンジン内部に残留する微細な金属粉や炭化物を洗浄しながらクランク室下部へ溜まり、それを吸引する油ポンプ7bで加圧した後にオイルタンク2内へ流入させる。
【0019】
その前記オイルタンク2は、図2の断面図で示すように濾過器10aで主タンク11bの上部に一次タンク11aが仕切られ、該一次タンク11a側面に開口した出口12から回転流を発生させる方向にエンジン潤滑後のオイル通路から回収された高温の潤滑オイルを流入させて再び濾過を行なう以外にも蓋16から常温の植物油が供給された場合、それを攪拌しながら加熱し粘度を低下させる役割を担う結果、それが特に常温で粘度が高い植物油を利用する場合に面倒だった濾過器の濾過スピードを向上させる上に循環する高温の潤滑オイルを熱源にオイルタンク内に溜まった潤滑オイルを加熱し、その機械損失が悪化する高い粘度を低下させる上に未燃焼の新気が充満したクランク室内の高温と振動を利用し潤滑オイルの気化を促す。
【0020】
ところがエンジン作動中におけるオイルタンク2内は、そこに回収された潤滑オイルに含まれる気泡や気化した潤滑オイルなどの気体が充満する、そこでクランク室6a、6bの負圧発生時に連通路21からクランク室6bに設けた一方弁29bが該オイルタンク内で充満する気体をクランク室3b内へ通す反面、そのエンジン作動停止後の該オイルタンク内は、そこに充満した潤滑オイルの蒸気が液化を開始することから負圧となる、しかしクランク室内3bに充満した新気を一方弁29bが連通路21を遮断し、それで減圧状態を維持する結果、潤滑オイルの酸化防止に有効となる。
【0021】
ところで濾過器10aは、その入口に設けたフィルターエレメント13を目詰りさせる植物油に含まれた固形物をフィルターエレメント中央の窪みに流して堆積させる、また一次タンク11aは、出口12から潤滑オイルが流入し加圧される一方で、主タンク11bに溜まった潤滑オイルは、油管20aからタンク外に排出し減圧されることから一次タンク11a内と主タンク11b内で生じる圧力差が濾過を促す。
【0022】
その前記オイルタンク2の内部に図5で示す一次タンク11aおよびメインタンク11bにセンサー26を設け、その油温と油面の高さ情報を基に油ポンプ7Cの作動およびエンジン内に散布する潤滑オイルの流量を調整する。
【0023】
その他、図2に示す一次タンク11a内を蓋16で開口した場合、そこに充満する高温の潤滑オイルの蒸気が噴出し危険な為、それを一方弁15で噴出を防止する。
【実施例1】
【0024】
次に図3で示すオイルタンクは、その内部上下に開口したオイル管27からポンプ7bでオイルタンク内に溜まった潤滑オイルの旋回流を発生させる方向に循環させながら潤滑オイルの濾過を行なう上にオイルタンク内部に電動モーター24aで濾過器10bおよび撹拌翼25aを回動させて、さらに潤滑オイルを撹拌しながら同時に濾過器10bの入口に付着した固形物を落下させる。
【実施例2】
【0025】
さらに図4で示すオイルタンクは、その内部上下に開口したオイル管27からポンプ7cでオイルタンク内に溜まった潤滑オイルを旋回流を発生させる方向に循環させながら潤滑オイルの濾過を行なう上に電動モーター24bで撹拌翼25bを回動させて、さらに潤滑オイルを撹拌する。
【0026】
その他、オイルタンク2の内壁およびオイル通路19、オイル管20a、20b、27に加熱ヒーターを装備した場合、粘度が高い植物油が冬期の低温で流動しない可能性があり、そこでエンジンを始動した場合のエンジン内に潤滑オイルが供給されず故障の要因となる問題の改善に効果的となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】同実施形態におけるオイルタンク構造の断面図である。
【図3】オイルタンク構造が違う一実施例を示す断面図である。
【図4】さらにオイルタンク構造が違う一実施例を示す断面図である。
【図5】潤滑オイルの投入タンクを別設したオイルタンク構造の一実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
7d 油ポンプ
10c 濾過器
28 濾過器
29a 一方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ両端からシリンダ内に対向配置された2つのピストンの一方が行なう往復動でシリンダ内に開口した掃気ポートを開閉し、もう一方のピストンが行なう往復動でシリンダ内に開口した排気ポートを開閉する対向ピストン方式を特徴とする2サイクルエンジンにおいて、そのクランク室圧縮方式を採用したクランク室内に散布された潤滑オイルが溜まるエンジン下部とオイルタンクを連通するオイル通路を設け、さらに該オイルタンクと負圧が発生するクランク室内および2つのクランク室を連通する新気通路に一方弁およびバルブを介して連通する連通路を設けたこと特徴とする対向ピストン式エンジンとオイルタンクの構造。
【請求項2】
前記オイルタンク内に配置された撹拌機からの撹拌翼および濾過装置が回動および旋回流を発生させる方向へオイルタンク内の潤滑オイルが循環およびエンジン潤滑後のオイル通路から回収された潤滑オイルを流入させることを特徴とする請求項1に記載の対向ピストン式エンジンとオイルタンクの構造。
【請求項3】
前記オイルタンクから濾過器で分離された濾過前の潤滑オイルが溜まる空間にエンジン潤滑後のオイル通路から回収された潤滑オイルを流入させることを特徴とする請求項1および請求項2に記載の対向ピストン式エンジンとオイルタンクの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−70822(P2006−70822A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255915(P2004−255915)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(596083799)
【Fターム(参考)】