説明

対物距離計測方法及び装置

本発明に係る方法は、計測対象物(20)までの距離(d)を計測する方法であり、発光器(12)からビーム光(18)を出射するステップと、計測対象物(20)で反射されたビーム光(24)を受光器(14)に入射するステップと、その出射(18)から入射(24)までのビーム光伝搬時間から距離(d)を求めるステップと、ビーム光(18)の出射に際し方形波変調信号(66,74)に従いそのビーム光(18)を振幅変調するステップと、を有する。使用する方形波変調信号(66,74)は、それぞれ複数個の方形パルス(68,68’)からなる複数個の方形パルス群(76,76’)を含む信号(66,74)である特に、本方法では、それら方形パルス群(76,76’)間の時間間隔(PA)を変動させると共に、それらの方形パルス群(76,76’)内の方形パルス(68,68’)の個数を変動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光器からビーム光を出射するステップと、計測対象物により反射されたビーム光を受光器に入射するステップと、その出射から入射までにかかるビーム光伝搬時間から計測対象物までの距離を求めるステップと、ビーム光の出射に際しそのビーム光を方形波変調信号に従い振幅変調するステップと、を有し、使用する方形波変調信号が、それぞれ複数個の方形パルスからなる複数個の方形パルス群を含む信号である対物距離計測方法に関する。
【0002】
本発明は、更に、ビーム光を出射する発光器と、計測対象物により反射されたビーム光が入射される受光器と、その出射から入射までにかかるビーム光伝搬時間に基づき計測対象物までの距離を求める評価ユニットと、ビーム光の出射に際し方形波変調信号に従いそのビーム光を振幅変調する手段と、を備え、使用する方形波変調信号が、それぞれ複数個の方形パルスからなる複数個の方形パルス群を含む信号である対物距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0003】
この種の方法及び装置は下記特許文献1の記載等で知られている。
【0004】
そのなかでも本発明との関連が深いのはレーザスキャナである。レーザスキャナは周囲の空間に存する物体(計測対象物)を三次元的に計測できるよう構成された装置である。例えば下記特許文献2に例示されているスキャナでは、計測ヘッドによるビーム光の出射から計測対象物による反射を経てそのビーム光が再び入射してくるまでにかかるビーム光伝搬時間に基づき、計測ヘッド・計測対象物間の距離を求めるようにしている(本願でいう反射とは出射したビーム光の全反射、拡散反射、散乱反射等のことである)。更に、このスキャナでは、垂直軸周りで枢動可能な計測ヘッド上に枢動器を設け、その枢動器でビーム光出射方向を水平軸周りで枢動させている。計測ヘッドの方位軸周り枢動範囲は360°、枢動器稼働によるビーム光出射方向の仰角方向(立面内)枢動範囲は約270°に亘っているので、その周辺にある計測対象物であれば、概ねその方向によらず計測を行うことができる。その主な用途としては、建物内外、トンネル等の計測や、船体等の大型物体の計測がある。
【0005】
出射から入射に至るビーム光伝搬時間は様々な手法で求めることができる。原理的には、それらはパルス伝搬時間法によるものと連続波(CW)法によるものとに大別される。パルス伝搬時間法とは、その持続時間が短いパルス状のビーム光を各回計測毎に1個ずつ出射し、そのパルスが反射を経て受光器に入射してくるまでの時間を計測する、という手法である。これに対し、CW法とは、ビーム光を(ほぼ)連続的に出射し、その出射ビーム光と入射ビーム光との間の変調信号位相差から伝搬時間を求める、という手法である。CW法では、出射ビーム光の振幅変調に使用した変調信号の位相と、入射ビーム光に重畳している変調信号の位相との差から、その伝搬時間を求めるのが普通である。このとき、変調周波数を高くすれば距離を正確に求めることができるが、変調周波数が高いと距離高確度域が狭くなってしまう。これは、出入射ビーム光間変調信号位相差が360°の位相サイクルで繰り返されるからである。
【0006】
そのため、この欄の冒頭で言及した特許文献1では、方形波変調信号に従い所定周期に亘りビーム光を振幅変調した後暫時ビーム光出射を停止する形態のCW法型距離計測装置を提案している。方形波変調信号による変調を高周波の第1変調信号による変調と見れば、それに続くビーム光出射停止は、より低周波の第2変調信号による変調ともいえる。即ち、この装置では、高周波の第1変調信号による振幅変調及び低周波の第2変調信号による振幅変調を実行しているといえる。距離高確度域の広さは使用する変調周波数で左右されるので、この装置の場合は一種類の変調周波数しか使用しない場合に比べ広くなる。
【0007】
ただ、特許文献1に記載の手法には、下記特許文献3で指摘されている通り、低周波の第2変調信号で振幅変調される期間がある分、時間軸に沿った出射光強度平均値が低くなる、という難点がある。出射光強度の時間平均値が低くなれば信号対雑音比も低くなるので、光反射率が低い物体についての計測をもはや行うことができなくなる。この難点を回避するため、特許文献3では、高周波の第1変調信号で出射ビーム光を変調する動作と低周波の第2変調信号で出射ビーム光を変調する動作とを交互に実行すること、即ちどの周期でも常に二種類のうち一種類の変調周波数だけで出射ビーム光を変調するようにすることを提案している。しかしながら、この手法にも、計測対象物1個当たり計測回数が二回になるので計測時間が嵩む、という難点がある。特に、レーザスキャナのように、ビーム光出射方向の枢動速度があまり高くない装値の場合、計測時間が嵩むのは問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許第4027990号明細書(C1)
【特許文献2】独国特許出願公開第10361870号明細書(A1)
【特許文献3】独国特許出願公開第4303804号明細書(A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
こうした従来技術に鑑み、本発明は、入射光パワーの利用効率ひいては信号対雑音比が高まるよう、また高い計測精度及び広い距離高確度域が得られるよう、技術分野の欄で言及したタイプの方法及び装置を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するため、本発明の一実施形態では、技術分野の欄で言及したタイプの方法及び装置において、方形パルス群間の時間間隔を変動させると共に、それらの方形パルス群内の方形パルスの個数を変動させる。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態の方法及び装置では、背景技術の欄で言及した特許文献1の記載に倣い方形波信号を使用して出射ビーム光を変調し、CW法型の伝搬時間計測原理に従い出入射ビーム光間変調信号位相差から伝搬時間を導出する。従来から出射ビーム光の振幅変調に常用されている正弦波信号ではなく方形波信号を使用するのは、同等の信号振幅(パルスピーク値)及び周波数を有する正弦波信号に比べ、その振幅値が最大値に留まる時間が長い方形波信号の方が、変調信号としては優れているためである。即ち、方形波信号を変調信号として使用した方が、入射ビーム光パワーが立ち上がりエッジであまり“無駄”にならないため、同等の正弦波信号を用いた場合よりも高い信号対雑音比が得られるからである。従って、変調信号として方形波信号を使用することで、入射ビーム光パワーがかなり効率的に活用されることとなる。
【0012】
ただ、特許文献1記載の手法では、方形波信号による出射ビーム光の変調及びその出射の暫時停止を行うに留まっている。これに対し、本実施形態の手法では、方形パルス群間の時間間隔及び方形パルスの個数が変動するよう変調信号自体を変調する。例えば、0,1二値が継起するディジタル的な二値方形波信号を変調信号として使用し、個々の方形パルスをそのマークスペース比及びパルスクラスタリングが変動するよう発生させる。これに代え、非二値(例えば四値)の方形波信号及びそのパルスピークを、変調信号及びその方形パルスとして使用してもよい。いずれにせよ、本実施形態によれば、その変調信号の周波数変調に使用される再帰的な周期パターン等に従い、方形パルスを変調信号中で精細配置することができる。
【0013】
この点との関連では、方形波信号といっても厳密な方形波にはなり得ないことに留意すべきである。厳密な方形波にならないのは、実際の回路では帯域幅制限やオーバシュートを避けることができず、理想的な方形波からの乖離が常に生じるからである。但し、一般論としていえば、本実施形態の方法及び装置での光利用効率は、使用する変調信号の波形が理想的な方形波に近いと高い値になる。
【0014】
従って、本実施形態の方法及び装置で出射ビーム光の振幅変調に使用される変調信号は、その波形に起因する複数通りの周波数成分を含む信号となる。即ち、方形波信号であればどのような信号でも含有しているフーリエ周波数成分(整数倍周波数成分)の上に、方形波の基本周波数よりも低周波の周波数成分が複数通り重畳した信号となる。本実施形態では、このような複合的変調信号に従い発光器を連続駆動し、変調信号中の諸周波数成分を(ほぼ)同時に調べるようにしているので、距離計測一回当たり一回の計測動作で計測を完遂させられるほか、そのうちの高周波成分で距離計測が高精度化され、更にパルス群間/内変動による低周波成分で距離高確度域が拡張される。
【0015】
そして、本実施形態の変調信号では、正弦波の組合せで発生させた同等振幅の信号に比べ入射ビーム光パワーがかなり効率的に活用されるので、上掲の目的が全面的に達成されることとなる。
【0016】
なお、本実施形態では、好ましくは、方形パルス群間時間間隔を周期的に変動させる。例えば、周期的な繰返しパターンに従い方形パルス群間時間間隔を伸縮させる。この構成では、方形パルス群間時間間隔を周期的に変動させることで、方形波信号の基本周波数より低周波の成分を含む変調信号を好適に発生させ、その変調信号を使用し距離高確度域を拡げることができる。更に、この構成では、方形パルス群間に“休み”が入るため、同じ平均発光パワーでも高めのピーク値で発光器を駆動することができ、信号対雑音比が更に高くなる。
【0017】
本実施形態では、好ましくは、個別の方形パルス群に含まれる方形パルスの個数を周期的に変動させる。この構成では、上掲の複合的変調信号中に更に“低い”周波数成分が発生するため、その距離高確度域が更に拡がる。特に、上の段落で述べた構成とこの構成を組み合わせ、方形パルス群間時間間隔及び個別方形パルス群内方形パルス個数を同一周期内で共に周期変動させた構成では、個別方形パルス群内方形パルス個数を減らすことで方形パルス群間時間間隔を拡げることができるので、その実施が容易であり、またその入射ビーム光パワー利用効率が非常に高くなる。
【0018】
本実施形態では、好ましくは、ある周波数の第1方形波信号と、その周波数がその第1方形波信号より低い第2方形波信号と、の加算で上掲の変調信号を発生させる。第1方形波信号の周波数(第1変調周波数)は第2方形波信号の周波数(第2変調周波数)の5倍以上にするのが望ましい。この構成では、その変調信号を発生させる手段、ひいては本実施形態の装置自体を、非常に簡便且つ低コストに実現することができる。更に、第1方形波信号と第2方形波信号を加算することで、それら方形波信号中の不要な“二次周波数成分”を抑えることができる。原理上は乗算でもよいが加算の方が効果的であり、入射ビーム光パワーを可使用/被使用周波数により多く集中させることができる。
【0019】
本実施形態では、好ましくは、その周波数(第3変調周波数)が第1変調周波数より低く且つ第2変調周波数とも異なる第3方形波信号を、第1方形波信号及び第2方形波信号に更に加算する。特に、第2変調周波数と第3変調周波数を互いにほぼ同じ値か十分に近い値にすること、即ち第2,第3変調周波数間周波数差が第2,第1変調周波数間周波数差又は第3,第1変調周波数間周波数差に比べかなり小さくなるようにすることが望ましい。例えば、第1変調周波数を約125MHz、第2変調周波数を約15MHz、第3変調周波数を約13MHzにする。
【0020】
このように第3方形波信号を加算する構成には、第3変調周波数も距離計測処理に利用できて距離高確度域が更に拡がる、という利点がある。特に、上掲の数値例のように第2変調周波数と第3変調周波数を比較的近い値にすると、第2,第3変調周波数間周波数差に相当する周波数のビート成分が発生する。この成分の周波数は変調信号中の他の諸成分の周波数に比べ非常に低いので、この構成では距離高確度域がかなり大きく拡がる。そのビート成分をわざわざ分離する必要がないこともあり、この構成では、本実施形態の装置で使用する回路部品の選択及び調整がかなり簡単になる。
【0021】
本実施形態では、好ましくは、第2,第3方形波信号間でパルス振幅を実質的に等しくする。この構成では、信号処理が簡便になり入射ビーム光利用効率も高まる。特に、第2変調周波数と第3変調周波数を十分近い周波数にすれば、ビート成分も信号処理の対象にすることができる。
【0022】
本実施形態では、好ましくは、第1方形波信号のパルス振幅を第2方形波信号のパルス振幅より大きくする。特に望ましいのは、第2,第3方形波信号間でパルス振幅を等しくし、第1方形波信号のパルス振幅を第2及び第3方形波信号のパルス振幅に対しほぼ2の冪乗倍にすることである。この構成の利点は、その複合的変調信号における方形パルス群間時間間隔が拡がることである。方形パルス群間時間間隔が拡がると出射ビーム光の平均パワーが下がるので、その分発光器の駆動に使用されるパルスのピークパワーを高めることができる。方形パルス群間時間間隔が拡がっているので発光器の破損を避けつつパルスのピークパワーを高めうる。これもまた、入射ビーム光から得られる信号における信号対雑音比の向上につながる。
【0023】
本実施形態では、好ましくは、変調信号に含まれる方形パルス同士を実質的に同じ振幅にする。例えば、上掲の複合的変調信号を、ディジタル技術の分野での通例に倣い0,1二値が継起する二値信号にしてもよいし、n通り(n>2)のパルス振幅値を採りうるn値方形波信号にしてもよい。特に、二値の複合的変調信号ならば、ディジタル回路を使用し非常に簡便且つ効率的に生成することができる。生成される変調信号やその生成に使用される種々の方形波信号は、この場合は0,1二値の系列でディジタル表記することができる。更に、どのパルスでも出射ビーム光が最大振幅になるので、この構成でも入射ビーム光パワーを効率的に利用することができる。
【0024】
本実施形態では、好ましくは、ディジタル回路を使用し上掲の方形波変調信号たる二値方形波信号を発生させる。上述の通り、この構成では本実施形態の方法及び装置を非常に簡便且つ省費用で実現することができる。これに加え、この構成では、複合的変調信号を非常に柔軟に変動させ、様々な環境、計測タスク等に適合させることができる。
【0025】
本実施形態では、代わりに、その周波数が互いに異なる複数種類の正弦波信号をそれぞれ増幅及び振幅制限して上掲の方形波変調信号を発生させることもできる。この構成では、方形波変調信号をアナログ回路技術で発生させるので、正弦波で駆動可能な回路部品を使用し本実施形態の装置を非常に簡便且つ省費用で実現することができる。特に、この構成では、従来技術に係る回路思想中に、本実施形態の方法を非常に容易に盛り込むことができる。
【0026】
本実施形態では、好ましくは、発光器から出射されるビーム光上の変調信号位相角を計測し、そのビーム光と入射してくるビーム光との間の変調信号位相差に基づきそれらのビーム光の伝搬時間を求める。この構成では、それ自体発明的なことに、出射ビーム光上の変調信号位相角を度量衡学的に求めてその値を基準に伝搬時間を導出することができる。即ち、出射ビーム光における変調信号位相角の瞬時値を用い伝搬時間を導出することができる。特に、発光器をレーザダイオードで構成し、そのレーザダイオードに流れる制御電流の位相角を計測するようにすれば、出射ビーム光上の変調信号における実際の瞬時位相角を、制御電流位相角の計測という簡便な手法で高精度に求めることができる。この構成では、発光器付近で位相ドリフトを除去することで、更に高精度に距離を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好適な実施形態に係るレーザスキャナを示す図である。
【図2】図1に示したレーザスキャナで使用される変調信号群の例を簡略に示す図である。
【図3】変調信号の好適例を示す図である。
【図4】図3に示した変調信号の周波数スペクトラムを示す図である。
【図5】他の実施形態に係る変調信号発生回路を示す図である。
【図6】更に他の実施形態に係る変調信号発生回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に関し別紙図面を参照してより詳細に説明する。なお、上述した諸事項や後述する諸事項は、それ自体で使用することも、本願記載の如く組み合わせて使用することも、或いはそれ以外の組合せ方で使用することもできる。本発明の技術的範囲はそれらを包含するものである。
【0029】
図1に、本発明の好適な実施形態に係る装置10の全体構成を示す。この装置10はレーザスキャナとして構成されているが、出射ビーム光及び入射ビーム光を利用し計測対象物までの距離を測る仕組みであればよいので、本発明の仕組み及び方法は他の装置にも適用することができる。また、本発明は、300〜1000nmの波長域に属する狭義の光に限らず、原理上はより長波長の電磁波でも実施することができる。狭義の光に類する形態で伝搬するものであればよい。従って、本願でいうところの“ビーム光”はそれらの波長域の電磁波等も包含している。
【0030】
このレーザスキャナ10では、発光器12及び受光器14が評価兼制御ユニット16に接続されている。その発光器12内には例えば波長=約790nmで発振するレーザダイオード13がある(図5及び図6参照)。発光器12は、そのダイオード13で発生するレーザビーム18を出射し、計測対象物20上の計測対象点をそのビーム光18で照らすように構成されている。この例の場合、その出射ビーム光18は方形波変調信号に従い振幅変調されている。これについては図2〜図6を参照しより詳細に後述する。
【0031】
出射ビーム光18は計測対象物20に届くようミラー22で方向転換されている。また、対象物20によるビーム光18の反射で生じた入射ビーム光24も、受光器14に届くようミラー22で方向転換されている。評価兼制御ユニット16は、出射(18)から入射(24)に至るビーム光の伝搬時間に基づき、対象物20上の計測対象点までの距離dを導出する。その際には、ビーム光18,24間に生じている変調信号位相差を求める。
【0032】
そのミラー22は図示の通りシリンダ26の先端面上にあり、そのシリンダ26はシャフト28を介しロータリドライブ(枢動器)30に連結されている。従って、枢動器30を稼働させるとこのミラー22は軸32周りで枢動する。ミラー22の枢動角はエンコーダ34で随時検知される。このエンコーダ34の出力信号もまた評価兼制御ユニット16に送られているが、ここでは簡明化のためその点の図示を省略している。
【0033】
その枢動軸32は図示の通り水平軸であり、ミラー22はその軸32に対し約45°の傾斜をなしている。ミラー22で方向転換された出射ビーム光18は垂直面(立面)沿いに進むので、ミラー22を軸32周りで枢動させると、空間領域36内がその垂直面沿いに走査されることとなる。即ち、ビーム光18による垂直走査ファン(扇)が発生する。
【0034】
更に、このレーザスキャナ20は、共通の基板42上に配された2個のハウジングパーツ38,40内にほぼ収まっている。例えば、図中左側のパーツ38には発光器12、受光器14及び評価兼制御ユニット16が、また右側のパーツ40にはエンコーダ34付の枢動器30及びミラー22付のシリンダ26が、それぞれ収まっている。シリンダ26はパーツ40から突き出ていて、その先端のミラー22はパーツ38とパーツ40の間、ほぼ中間点に位置している。
【0035】
その基板42を支えている枢動器44は、高さ調整が可能な脚46上に着座している。その脚46には、その高さ設定を再現できるよう目盛り48が付されている。枢動器44の枢動角は図中のエンコーダ50で検知されており、そのエンコーダ50の出力信号もまた評価兼制御ユニット16に送られている(図示せず)。
【0036】
枢動器44はレーザスキャナ10を垂直軸52周りで枢動させる部材であり、その軸52は前掲の枢動軸32と交差している。両者の交点はミラー22のほぼ中央に位置しており、この例では全距離計測値dの基準となる座標系原点として使用されている。従って、この枢動器44を稼働させ、方位軸周りで垂直走査ファンを360°に亘り枢動させることで、スキャナ10の周辺にある実質的に全ての点をその出射ビーム光18で照明することができる。但し、基板42によって底方向に影ができるため、底方向についてだけはスキャナ10の視角が制限されている。
【0037】
更に、評価兼制御ユニット16は図示の通りマイクロプロセッサ54及びFPGA(field programmable gate array)56で構成されている。FPGA56は、発光器12内のレーザダイオードを駆動するため二値の方形波変調信号を発生させている。マイクロプロセッサ54は、ディジタル化された受信データを受光器14から読み込み、レーザスキャナ10・計測対象物20間の距離dをそれらのデータに基づき求めている。マイクロプロセッサ54及びFPGA56は、例えば、伝搬時間導出用にマイクロプロセッサ54が出射ビーム光18の位相情報を受信する、といった相互通信を行っている。
【0038】
図2に、変調に使用される三種類の信号60,62,64の時間軸沿い理想波形を示す。これらの信号60,62,64は、順に、その基本周波数が例えば125MHz,13MHz,15MHzの方形波信号である。図中の信号66はこれら三種類の方形波信号60,62,64を加算して得られる和信号であり、第1方形波信号60の基本周波数と同じ周波数で複数の方形パルス68,70が継起する方形波信号になっている。この和信号66でパルス68,70間にレベル差(パルス振幅差)があるのは、第2方形波信号62及び第3方形波信号64が加算対象になっているためである。同じ理由で、この和信号66には、第1方形波信号60の基本周波数と同じ周波数の成分に加え、更に別の周波数の成分が含まれている。第1の別周波数成分は、第2方形波信号62,第3方形波信号64間の基本周波数差に相当する周波数の成分である。この成分はある周期パターンを呈しており、レベル(パルス振幅)が高く図中のしきい値72を上回っている方のパルス68は、その周期パターンに従い発生している。第2の別周波数成分は、それら二種類の方形波信号62,64間の基本周波数平均値に相当する周波数の成分である。上掲の数値例でいえば、第1の別周波数は15MHz−13MHz=約2MHz、第2の別周波数は(15MHz+13MHz)/2=約14MHzとなる。こうした和信号66は、出射ビーム光18の振幅変調用の変調信号として適している。それは、距離dの正確な導出に適する高精細な位相差値が125MHzの高周波成分から得られる一方、距離高確度域の拡張に寄与する粗い位相差値が2MHzの低周波成分から得られるためである。いうまでもなく、本装置10では、これらの周波数成分及び位相差値を評価兼制御ユニット16で然るべく処理することで、サイクル毎に計測を精密実行することができる。
【0039】
また、図示例では第1方形波信号60が第2方形波信号62及び第3方形波信号64に比し2倍のパルス振幅を有している。そのため、和信号66は、方形パルス68,70それぞれのレベルを含め四通りのレベルを採りうる四値信号になっている。原理的には、この四値の和信号66も出射ビーム光用変調信号として使用することができる。
【0040】
しかし、本実施形態で変調信号として使用しているのは四値の和信号66ではなくて二値の信号74である。この信号74は和信号66から生成される信号であり、方形パルス68のうち図中のしきい値72を上回るレベルの部分だけを、方形パルス68’として取り出したものである。言い換えれば、和信号66のうちレベルが低い部分を“捨てて”パルス68の“突き出た”ピーク部分だけを取り出し使用している。一見して判る通り、方形パルス68’相互の時間間隔PAは周期的に変動しており、方形パルス68’の個数もその群76毎に変動している。このように、本実施形態で変調信号として使用するのは、第1方形波信号60の基本周波数(上掲の数値例では125MHz)に等しい基本周波数を有する二値の方形波信号74である。しかも、その方形波変調信号74は、第2方形波信号62・第3方形波信号64間の周波数差により生じるビート周波数によって周波数変調されている。
【0041】
図3に、ディジタル回路による演算で発生させた変調信号74(図2)相当の変調信号を示す。図4に、その変調信号の周波数スペクトラムを示す。図示の通り、この信号は、高レベルピークで表される基本周波数(125MHz)成分80に加え、それとは別のピークで表される周波数成分82も含んでいる。後者は方形波を組成する成分であり、通例通り基本周波数の奇数倍に相当する周波数、即ち375MHz、625MHz、875MHz等々の周波数を有している。
【0042】
この変調信号74は、更に別のピークに係る周波数成分84,86を含んでいる。これは、加算された方形波信号のうち第2方形波信号62及び第3方形波信号64によってもたらされた成分であり、本実施形態では、第1方形波信号60によってもたらされる基本周波数成分と共に、出射(18)から入射(24)に至るビーム光伝搬時間ひいては距離dの導出に使用されている。更に、当該ビーム光伝搬時間の導出には、基本周波数に対し奇数倍の周波数を有する成分82や、その周辺に存する一群の周波数成分88をも、利用することが可能である。但し、本実施形態では、それら奇数倍周波数成分82やその周辺の成分88の使用を避け、基本周波数成分80やその周辺の成分84,86で賄うようにしている。そのため、図示しないが、受光器14のそばに適当な入射フィルタを設けて高周波の成分82,88を抑圧している。自明な通り、高周波成分をも距離計測に利用したい場合は、そうした入射フィルタを省略乃至変形することとなろう。
【0043】
本実施形態では、こうした変調信号74をディジタル回路を使用し二値の方形波変調信号として発生させている。使用するのは、方形波信号60,62,64を与える計算手順、数値表等が格納されているFPGA56である。FPGA56は、そうした計算手順、数値表等を使用し二値のパルス列を発生させ、そのパルス列を変調信号74として発光器12に供給している。
【0044】
図5に、これとは別の実施形態として、発光器12向けの変調信号をアナログ的に発生させる実施形態を示す。図示の通り、発光器12はレーザダイオード13及びトランジスタ90で構成されており、ダイオード13に対してはトランジスタ90を介し制御電流Iが供給されている。従って、トランジスタ90に流れる電流Iを変化させることで、ダイオード13に発するレーザ光を振幅変調することができる。また、その電流Iの位相角を求めることで、出射ビーム光の変調に使用される変調信号の位相角を知ることができる。そのため、本実施形態では、電流Iの位相角を位相検波器91で計測し、基準位相としてマイクロプロセッサ54に通知している。出射ビーム光の一部を信号スプリッタで分岐させ、分岐させた部分を光感受性のモニタダイオードで計測することで、出射ビーム光における変調信号位相角を求めるようにしてもよい。位相情報伝送にはFPGA56の通信チャネルを使用することができる。
【0045】
また、本実施形態では、図示の通りトランジスタ90のベースに和信号が供給されている。これは図2中の和信号66に対応する信号であり、加算器91を使用し第1方形波信号60、第2方形波信号62及び第3方形波信号64を加算することで生成されている。その方形波信号60,62,64は、対応する正弦波信号92,94,96を対応する増幅器98で増幅し、それをリミッタ100で“頭切り”することで生成されている。正弦波信号92,94,96にこのような処理を施すことで、図2中に示した理想的な波形に近い方形波信号60,62,64が得られる。
【0046】
図6に更に他の実施形態を示す。前掲のものと同様の部材には同様の符号を付してある。本実施形態では、和信号による駆動でトランジスタ90が飽和状態になるよう、正弦波信号92,94,96が増幅器98で高利得増幅されている。即ち、トランジスタ90自体をリミッタとして機能させることで、正弦波信号92,94,96から方形波変調信号を発生させている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光器(12)からビーム光(18)を出射するステップと、計測対象物(20)で反射されたビーム光(24)を受光器(14)に入射するステップと、その出射(18)から入射(24)までのビーム光伝搬時間から計測対象物(20)までの距離(d)を求めるステップと、ビーム光(18)の出射に際しそのビーム光(18)を方形波変調信号(66,74)に従い振幅変調するステップと、を有し、使用する方形波変調信号(66,74)が、それぞれ複数個の方形パルス(68,68’)からなる複数個の方形パルス群(76,76’)を含む信号である対物距離計測方法であって、
それら方形パルス群(76,76’)間の時間間隔(PA)を変動させると共に、それらの方形パルス群(76,76’)内の方形パルス(68,68’)の個数を変動させることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項2】
請求項1記載の対物距離計測方法であって、上記時間間隔(PA)を周期的に変動させることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の対物距離計測方法であって、上記方形パルス群(76)毎の方形パルス(68,68’)の個数を周期的に変動させることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の対物距離計測方法であって、ある周波数の第1方形波信号(60)と、その周波数がその第1方形波信号(60)より低い第2方形波信号(62)と、の加算で上記方形波変調信号(66,74)を発生させることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項5】
請求項4記載の対物距離計測方法であって、その周波数が第1方形波信号(60)より低く且つ第2方形波信号(62)とも異なる第3方形波信号(60)を、第1方形波信号(60)及び第2方形波信号(62)に更に加算することを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項6】
請求項5記載の対物距離計測方法であって、第2方形波信号(62)のパルス振幅と第3方形波信号(64)のパルス振幅とが実質的に等しいことを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項記載の対物距離計測方法であって、第1方形波信号(60)のパルス振幅が第2方形波信号(62)のパルス振幅よりも大きいことを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項記載の対物距離計測方法であって、上記方形波変調信号(74)に含まれる方形パルス(68’)同士が実質的に同じ振幅であることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項記載の対物距離計測方法であって、ディジタル回路(56)にて上記方形波変調信号(74)たる二値方形波信号を発生させることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項記載の対物距離計測方法であって、その周波数が互いに異なる複数種類の正弦波信号(92,94,96,92’,94’,96’)をそれぞれ増幅及び振幅制限して上記方形波変調信号を発生させることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項記載の対物距離計測方法であって、発光器(12)から出射されるビーム光(18)上の変調信号(66,74)の位相角を計測し、そのビーム光(18)と入射してくるビーム光(24)との間の変調信号位相差に基づき上記ビーム光(18,24)の伝搬時間を求めることを特徴とする対物距離計測方法。
【請求項12】
ビーム光(18)を出射する発光器(12)と、計測対象物(20)で反射されたビーム光(24)が入射される受光器(14)と、その出射(18)から入射(24)までのビーム光伝搬時間に基づき計測対象物(20)までの距離(d)を求める評価ユニット(16)と、ビーム光(18)の出射に際し方形波変調信号(66,74)に従いそのビーム光(18)を振幅変調する手段と、を備え、使用する方形波変調信号(66,74)が、それぞれ複数個の方形パルス(68,68’)からなる複数個の方形パルス群(76,76’)を含む信号である対物距離計測装置であって、
それら方形パルス群(76,76’)間の時間間隔(PA)を変動させると共に、それらの方形パルス群(76,76’)内の方形パルス(68,68’)の個数を変動させることを特徴とする対物距離計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−522216(P2011−522216A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544678(P2010−544678)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050887
【国際公開番号】WO2009/095383
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(598064510)ファロ テクノロジーズ インコーポレーテッド (60)
【Fターム(参考)】