説明

射出成形機の機械式安全装置

【課題】鋸状の歯車を有するラチェット車を駆動部の回転体に固定し、安全扉が開状態のときには可動盤の前進を機構的に抑制することが可能な射出成形機の機械式安全装置を提供すること。
【解決手段】射出成形機のボールねじ、電動モータの出力軸、または該電動モータの出力軸に連動する被駆動軸に固定された歯面を有するラチェット車11と、ラチェット車11の歯面に噛み合うラチェット爪14と、ラチェット車11の歯面は、ラチェット爪14と噛み合ったとき可動盤が閉鎖する方向の回転のみを抑制する形状をなし、ラチェット爪14の位置を射出成形機の安全扉の開閉動作に連動して移動させるワイヤロープ26と、安全扉が開いた時にラチェット爪14はラチェット車11の歯面に噛み合う位置に移動して該ラチェットを保持させ、安全扉が閉じた時にラチェット爪14が前記ラチェット車の歯面に噛み合わない位置する射出成形機の機械式安全装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形機の機械式安全装置に関し、特に、安全扉が開いたときに可動盤が閉鎖する方向の移動を抑制する機械式安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機などの型締装置では、固定プラテンに対して進退自在に設けられた可動プラテンの側部に、安全扉を横方向に開閉自在に備え、安全扉を閉じた状態で可動プラテンと固定プラテンの対向面に取り付けた金型の開閉を行えるようにしている。そして、安全扉が開いた状態で金型の型閉動作が起きないように、射出成形機への安全装置の装着が日本では産機工安全通則により義務付けられている。
【0003】
図5には安全装置の第1の例が示されており、この安全装置は、鋸歯状の溝を有するロッド52を可動プラテン51に固定し、鉤状のラッチ55を固定プラテン53もしくはリアプラテン54に設置し、安全扉(図示せず)が開くとラッチ55が動作して可動プラテン51の前進を停止させるものである。
【0004】
図6には安全装置の第2の例が示されており、この安全装置は、座体(図示せず)に取付けられたボールねじ56と、可動プラテン57に取付けられたボールねじナット58と、ボールねじ56に固定されたラチェット車59を有し、ラチェット爪60によるストッパでボールねじ56の回転を抑制するものである(特許文献1を参照)。
【0005】
図7には安全装置の第3の例が示されており、この安全装置は、ストッパ61が従動プーリ62とボールねじ63の回転を抑制し、型閉じおよび型開き動作を完全に禁止してしまうものである(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−166079号公報
【特許文献2】特開2008−105185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
射出成形機に備えられる可動プラテン51,57の推力はトグル機構によって増幅されているため、背景技術で説明した安全装置では可動プラテン51,57を駆動するモータ(図示せず)の駆動力に対して、安全装置のラッチやラチェット爪であるストッパが受ける力が大きくなる。そのため、安全性を確保する観点から、ストッパの部品が大きくなってしまうという問題がある。また、ロッド52を用いる場合では、ロッド52およびそのカバー(図示せず)が作業性や射出成形機の外観を損なうという問題がある。また、安全装置のためのボールねじ56を用いる場合では、高価なボールねじを用いることになりコストアップにつながり、問題がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、鋸状の歯車を有するラチェット車を駆動部の回転体に固定し、安全扉が開状態のときには可動盤の前進を機構的に抑制することが可能な射出成形機の機械式安全装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、ボールねじ、該ボールねじを回転駆動する電動モータ、および該ボールねじの回転により開閉駆動を行う可動盤とを備えた射出成形機において、
前記ボールねじ、前記電動モータの出力軸、または該電動モータの出力軸に連動する被駆動軸に固定された歯面を有するラチェット車と、該ラチェット車の歯面に噛み合うラチェット爪と、該ラチェット爪の位置を前記射出成形機の安全扉の開閉動作に連動して移動させるラチェット爪移動手段と、を備え、前記ラチェット車の歯面は、前記ラチェット爪と噛み合ったとき前記可動盤が閉鎖する方向の回転のみを抑制する形状をなし、該ラチェット爪移動手段は、前記ラチェット爪を前記安全扉が閉じた時に前記ラチェット車の歯面に噛み合わない位置に移動させ、該ラチェット爪移動手段は、前記ラチェット爪を前記安全扉が開いた時に前記ラチェット車の歯面に噛み合う位置に移動させ、前記可動盤が閉鎖する方向の該ラチェット車の回転のみを抑制するようにしたことを特徴とする射出成形機の機械式安全装置である。
請求項2に係る発明は、前記ラチェット爪は、締結面と被締結体との間に緩衝材を挟み、該ラチェット爪が前記ラチェット車の歯面と噛み合っているときに生じる衝撃力を分散させることを特徴とする射出成形機の機械式安全装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、鋸状の歯車を有するラチェット車を駆動部の回転体に固定し、安全扉が開状態のときには可動盤の前進を機構的に抑制することが可能な射出成形機の機械式安全装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明である射出成形機の機械式安全装置を備えた射出成形機の要部概略図である。
【図2】図1を矢印Aの方向から見た図である。
【図3】図2の一点鎖線Bの部分を拡大した図である。
【図4】ラチェット爪の動作が上下動である本発明の実施形態を説明する図である。
【図5】従来技術のロッドとラッチとを備えた安全装置の例である。
【図6】従来技術のボールねじにラチェット車を取付けた構成の安全装置の例である。
【図7】従来技術のストッパと従動プーリとを備えた安全装置の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。図1は本発明である射出成形機の機械式安全装置を備えた射出成形機の要部概略図である。また、図2は図1を矢印Aの方向から見た図である。
【0013】
リアプラテン15にはモータ12が取付けられている。安全扉16は、固定プラテン24に対して進退自在に設けられた可動プラテン22の側部に設けられている。安全扉16は横方向に開閉自在であって、安全扉16が固定プラテン24側に移動すると安全扉16が閉じ、可動プラテン22側へ移動すると安全扉が開く。安全扉16である扉の固定プラテン24側の先端部には、突起23が設けられている。また、ラチェット爪14はリアプラテン15(図2参照)に取付けられている。
【0014】
モータ12は可動プラテン22を前後進させるためにトグル機構21のリンクを伸張させたり縮めたりする駆動手段である。固定プラテン24に固定側金型(図示せず)、可動プラテン22に可動側金型(図示せず)が取付けられる。安全扉16を閉じた状態で、可動プラテン22と固定プラテン24に取付けた金型(図示せず)の開閉を行える。安全扉16が閉じる方向に移動すると、安全扉に設けられた突起23はカム25を押し、カム25は反時計回りに回動する。また、安全扉16が開く方向に移動すると、突起23はカム25を押さなくなり、カム25は時計回りに回動する。なお、時計回りは図面上でみて右回転、反時計回りは図面でみて左回転を意味する。
【0015】
カム25はワイヤロープ26に接続されている。ラチェット爪14はばね32の力によってラチェット車11に押付けられており、機械式安全装置はワイヤロープ26の摺動抵抗や回転中のモータに当って弾かれる力などに対して常に作動する。ラチェット爪14は、取付位置によらず、安全扉16が開いている間は常にラチェット車11と噛み合った状態となる。
このため、ワイヤロープ26が劣化して切断した場合には、ラチェット爪14によってラチェット車11の回転が抑制されることから、安全性が高い。ワイヤロープ26の一端にはカム25が接続され、他端にはラチェット爪14が接続されている。図2に示されるように、ラチェット車11は型開閉駆動用のモータ12の軸にキー13によって固定されている。モータ12の回転軸にラチェット車11が取付けられている。ラチェット車11は鋸歯状の切り込み(歯面)を全周に設けた円板状物体である。
【0016】
安全扉16が開いたとき、ラチェット爪14がラチェット車11の鋸状の切り込みに下りた状態(噛み合った状態)になることで、モータ12の軸と駆動プーリ17と、ベルト18と、従動プーリ19と、ボールねじ20の回転を止め、トグル機構21の運動と可動プラテン22の前進を停止させる。このとき軸は反対方向には回転可能であるため、可動プラテン22の後退動作は抑制されない。軸が反対方向に回転可能であることは図3を用いて後述して説明する。
【0017】
安全扉16が閉じたとき、扉の先端部に設けられた突起23が、固定プラテン24に取付けられたカム25を反時計回りに回転させる。このカムの反時計回りの回転によってワイヤロープ26を巻き上げることで、ラチェット爪14をラチェット車11の鋸状の切り込から離すように持ち上げる。このときモータ12は回転方向によらず自由に回転することができる。従って、可動プラテン22の進退方向の移動は妨げられない。この実施形態ではモータ12の駆動力を増幅する前のモータ12の軸に取付けられたラチェット車11により、より少ないトルクでモータ12の回転を抑制することができる。
【0018】
ここで、図2の矢印Bで示される一点鎖線の部分の拡大した図である図3を用いて、ラチェット車11の回転を抑制する機構を説明する。ブロック27はリアプラテン15に、第2ボルト31を軸として回転自在に軸支されている。ブロック27には、ワイヤロープ26の一端部が接続されており、ラチェット爪14を取付けるための貫通孔が設けられている。ワイヤロープ26によってブロック27が時計回りの方向に回転させられると、ブロック27に取付けられたラチェット爪14はラチェット車11の鋸歯状の切り込みから切り離される。また、ワイヤロープ26によってブロック27が反時計回りの方向に回転させられると、ブロックに取付けられたラチェット爪14はラチェット車11の鋸歯状の切り込みと噛み合う。第2ボルト31で軸支されたブロック27は、ラチェット爪14の重心の位置から反時計方向に回転させる力が作用することから、ワイヤロープ26を伸ばせばラチェット爪14の自重によって、ラチェット車11の鋸歯状の切り込みとラチェット爪14とは自然に噛み合う。
【0019】
図1について説明したように、安全扉16が閉じた状態ではワイヤロープ26が巻き上げられ、ラチェット爪14とラチェット車11の鋸歯状の切り込みとが切り離された状態となり、可動プラテン22の前後進は抑制されない。一方、安全扉16が開いた状態ではワイヤロープ26は巻き戻され、ラチェット爪14とラチェット車11の鋸歯状の切り込みとが噛み合った状態となる。図3のラチェット車11の矢印方向の回転(反時計回りの回転)は、ラチェット爪14がラチェット車11の鋸歯状の切り込みと噛み合っている状態の時には抑制される。ただし、この状態においても、ラチェット車11の鋸歯状の切り込みの形状から、矢印方向と逆方向の回転(時計回りの回転)は許容される。この時計回りの回転を可動プラテン22の型開き方向に対応させておけば、安全装置が作動時においても型開き動作を可能とする。
【0020】
ラチェット爪14はブロック27に設けられた貫通孔に挿入され、ベルスプリング28と座金29を挟んで第1ボルト30に支持されている。ラチェット爪14は軸方向に移動自在に第1ボルト30の貫通孔に支持され、第2ボルト31を中心に回転してラチェット車11の回転を停止させたときに発生する衝撃力を、ベルスプリング28が吸収し、モータ12などの破損を防止することができる。
【0021】
また、ラチェット爪14のラチェット車11の鋸歯状の切り込みとの噛み合いと切り離しを、図4に示されるようにブロック27の上下方向の動作としてもよい。この場合には、ブロック27に上下方向に伸びる2つの長孔34を設け、第3ボルト33を2個用いてブロック27が揺動しないようにされている。この実施形態においても、ラチェット爪14はブロック27に設けられた貫通孔に、ラチェット爪14の軸方向に移動可能に支持されている。そして、図3の実施形態と同様にベルスプリング28によってラチェット車11を停止させた時に発生する衝撃量を吸収するようにしている。
【0022】
なお、図2ではラチェット車11をモータ12の軸つまり駆動力の軸に固定しているが、軸に付属する回転体、もしくは従動側のプーリやボールねじなどの回転体に固定してもよい。モータが直結されている場合には締結部のカップリング部に固定してもよい。
【符号の説明】
【0023】
11 ラチェット車
12 モータ
13 キー
14 ラチェット爪
15 リアプラテン
16 安全扉
17 駆動プーリ
18 ベルト
19 従動プーリ
20 ボールねじ
21 トグル機構
22 可動プラテン
23 突起
24 固定プラテン
25 カム
26 ワイヤロープ
27 ブロック
28 ベルスプリング
29 座金
30 第1ボルト
31 第2ボルト
32 ばね
33 第3ボルト
34 長孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ、該ボールねじを回転駆動する電動モータ、および該ボールねじの回転により開閉駆動を行う可動盤とを備えた射出成形機において、
前記ボールねじ、前記電動モータの出力軸、または該電動モータの出力軸に連動する被駆動軸に固定された歯面を有するラチェット車と、
該ラチェット車の歯面に噛み合うラチェット爪と、
該ラチェット爪の位置を前記射出成形機の安全扉の開閉動作に連動して移動させるラチェット爪移動手段と、を備え、
前記ラチェット車の歯面は、前記ラチェット爪と噛み合ったとき前記可動盤が閉鎖する方向の回転のみを抑制する形状をなし、
該ラチェット爪移動手段は、前記ラチェット爪を前記安全扉が閉じた時に前記ラチェット車の歯面に噛み合わない位置に移動させ、
該ラチェット爪移動手段は、前記ラチェット爪を前記安全扉が開いた時に前記ラチェット車の歯面に噛み合う位置に移動させ、前記可動盤が閉鎖する方向の該ラチェット車の回転のみを抑制するようにしたことを特徴とする射出成形機の機械式安全装置。
【請求項2】
前記ラチェット爪は、締結面と被締結体との間に緩衝材を挟み、該ラチェット爪が前記ラチェット車の歯面と噛み合っているときに生じる衝撃力を分散させることを特徴とする射出成形機の機械式安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−228341(P2010−228341A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79626(P2009−79626)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】