説明

射出成形機

【課題】 金型内の樹脂に、超高速振動による大きな振動エネルギーを付与可能とすること。
【解決手段】 金型内に溶融樹脂を射出充填する射出成形機において、金型の少なくとも一部、例えば中子金型に振動を与えるための駆動源にリニアモータを用いて、樹脂の一面全体に接触する中子金型によって、金型のキャビティ内の樹脂全体に振動エネルギーを付与するように構成するとともに、前記リニアモータは、巻線が巻回された固定子と、該固定子に対して直線移動する可動子とからなり、前記固定子は、磁極歯同士が対向する複数の対向部を有すると共に、複数の対向部は、隣り合う対向部の磁極歯が互い違い構造をとり、前記対向部を構成する磁極歯の間に、永久磁石を有する直線状の前記可動子が配置されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内に溶融樹脂を射出充填して成形品を得る射出成形機に係り、特に、金型のキャビティ内の樹脂に振動エネルギーを与えるようにした射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インラインスクリュー式の射出成形機においては、保圧時にスクリューを磁歪体で高周波振動させつつ、スクリューで樹脂に保圧力を与えるようにし、また、プリプラ式の射出成形機においては、保圧時に射出プランジャを磁歪体で高周波振動をさせつつ、射出プランジャで樹脂に保圧力を与えるようにして、このような高周波振動を加えながら保圧を行うことで、保圧時にキャビティの隅々まで圧力を伝搬させるようにして、ヒケの発生を防止するようにした技術が知られている(特許文献1参照)。この引用文献1に記載の技術では、金型のスプルなどに詰まった樹脂を介してキャビティ内の樹脂に振動を印加するようにしているので、キャビティ内の樹脂への振動の伝達経路が長い上に、振動の発生源が磁歪体であるので振幅量が微量で、かつ、キャビティ内の樹脂の一面全体に金型により直接振動を加えるものではないので、樹脂に付与される振動エネルギーの量は少ないものとなる。したがって、振動エネルギーによりキャビティ内の樹脂の固化速度を遅らせることはできず、また、このように振動エネルギーにより樹脂の固化速度を遅らせるという技術思想は、引用文献1には当然見られない。
【0003】
また、成形品の型内ゲートカットを行った周辺や穴部の周辺にウェルドラインが発生することを防止するために、キャビティ内の樹脂を局部的に加圧するための加圧ピンを、リターンスプリングに抗して間欠的に前進させる、つまり、加圧ピンを振動させることにより、キャビティ内の樹脂に振動を与えるようにした技術も知られている(特許文献2)。この引用文献2に記載の技術では、加圧ピンの前進駆動源として油圧シリンダを用いて、加圧ピンをリターンスプリングに抗して間欠的に前進させることで、振動の挙動を得ているので、高速振動には限界があり、超高速振動によって大きな振動エネルギーを樹脂に付与することはできない。つまり、引用文献2に記載の技術でも、振動エネルギーによりキャビティ内の樹脂の固化速度を遅らせることはできず、また、このように振動エネルギーにより樹脂の固化速度を遅らせるという技術思想は、引用文献2にも当然見られない。
【0004】
振動エネルギーにより樹脂の固化速度を遅らせるためには、キャビティ内の樹脂の一面全体に、例えば中子金型により直接、超高速の振動を加えて、大きな振動エネルギーを樹脂に与えることで、樹脂の固化速度を遅らせるように制御することが考えられる。しかし、クリーンであるということで近時主流になりつつある電動式の射出成形機では、上記の中子金型を振動させるのに、回転型サーボモータと該サーボモータの回転を直線運動に変換するボールネジ機構とを用いるのが、一般的な手法であると考えられる。ところが、回転型のサーボモータモータを用いた構成をとると、回転伝達系の回転イナーシャの影響があるため、加減速の能力は、どうしても略4G程度が限界値となり、このため、振動の高速化には一定の限界があり、十分な振動エネルギーを樹脂に与えることはできない。
【0005】
なお、金型内の樹脂に振動を与える駆動源ではないが、上記の加減速の能力を上げるために、リニアモータを射出充填の駆動源とする射出成形機も知られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平11−58470号公報
【特許文献2】特開平5−228969号公報
【特許文献3】特開2004−050632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、キャビティ内の樹脂の一面全体に、例えば中子金型によって直接振動を付与するメカニズムに、上記したように回転型サーボモータと該サーボモータの回転を直線運動に変換するボールネジ機構とを用いると、樹脂の固化速度を遅らせるほどに十分な振動エネルギーを樹脂に付与することは到底できない。
【0007】
なお、特許文献3に示された技術では、スクリュの直線運動の駆動源としてリニアモータを用いているので、回転型のサーボモータモータを用いた場合のように回転イナーシャの影響がなく、6〜8G程度の加速や減速が達成できる。しかし、特許文献3で用いているリニアモータは、一般的なリニア誘導モータであるため、このような一般的なリニア誘導モータを、中子金型に振動を与える駆動源としてたとえ用いたとしても、加減速の能力を数10G程度とすることはできず、したがって、このような超高速の加減速の能力による超高速振動の振動エネルギーを樹脂に与えることで、樹脂の固化速度を制御することは困難である。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、金型内の樹脂に超高速振動による大きな振動エネルギーを付与可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記した目的を達成するため、金型内に溶融樹脂を射出充填する射出成形機において、金型の少なくとも一部、例えば中子金型に振動を与えるための駆動源にリニアモータを用いて、例えば樹脂の一面全体に接触する中子金型によって、金型のキャビティ内の樹脂全体に振動エネルギーを付与するように構成するとともに、前記リニアモータは、巻線が巻回された固定子と、該固定子に対して直線移動する可動子とからなり、前記固定子は、磁極歯同士が対向する複数の対向部を有すると共に、複数の対向部は、隣り合う対向部の磁極歯が互い違い構造をとり、前記対向部を構成する磁極歯の間に、永久磁石を有する直線状の前記可動子が配置されたものとされる。
【発明の効果】
【0010】
上記したような構成をとるリニアモータは、トンネルアクチュエータとも称され、固定子(電機子)と可動子の間に発生する磁気吸引力を相殺できる構造をとることによって、固定子と可動子の間の磁気吸引力をほとんど零として、十分な推力を得ることができ、可動子を軽量化することで、40G以上の加減速を実現できる。よって、このトンネルアクチュエータ型のリニアモータによって、金型の例えば比較的に軽量の中子金型を振動駆動することにより、過渡応答性にすこぶる優れた超急速の加速/減速による超急速の微小往復動(振動)を中子金型に与えることができて、これにより、キャビティ内の樹脂の一面全体から、樹脂全体の隅々まで大きな振動エネルギーを与えることができ、キャビティ内に先に充填されて冷却・固化が進行する部分の樹脂の固化速度を遅らせることが可能となる。したがって、キャビティ内の樹脂全体、すなわち成形品全体を、できるだけ均一な速度で固化させることが可能となるので、成形品に歪みなどが生じることがなくなり、また、全体の樹脂密度も均一なものとなり、良品成形に大いに貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る射出成形機の要部構成を示す図である。なお、本発明は、インラインスクリュー式の射出成形機、あるいはプリプラ式の射出成形機のいずれにも適用可能であり、本実施形態の射出成形機は、インラインスクリュー式の射出成形機またはプリプラ式の射出成形機である。
【0012】
図1において、1は固定ダイプレート、2は、固定ダイプレート1に搭載された固定側金型、3は、タイバー4に沿って前後進可能な可動ダイプレート、5は、可動ダイプレート3に搭載された可動側金型、5aは、可動ダイプレート3に固定された可動側主金型、5bは、可動側主金型5aに所定量だけ前後進可能であるように、かつ抜け落ちぬように保持された可動側中子金型、6は、型締め時に固定側金型2と可動側金型5で形づくられるキャビティ、7は、その固定子側7aを可動側主金型5aに固定・保持され、その可動子側7bを可動側中子金型5bに固定された、振動付与用のトンネルアクチュエータ型のリニアモータ(図示の都合上、このリニアモータの構成は模式化して描いてある)、8は、リニアモータ7をフィードバック制御で駆動するサーボドライバ、9は、あらかじめ設定された振動制御条件などにしたがって、サーボドライバ8に指令値を与えるシステムコントローラである。
【0013】
図2は、本実施形態で用いるトンネルアクチュエータ型のリニアモータの構成例の概略を示す図である。図2中で、21、22は固定子(電機子)であり、各固定子21、22において、23は磁極、23aは磁極23の上部磁極歯、23bは磁極23の下部磁極歯、24は磁極、24aは磁極24の上部磁極歯、24bは磁極24の下部磁極歯、25は鉄心、26は鉄心25の長手方向に巻回された巻線である。また、図2中で、27は、N極とS極が長手方向に沿って交番的に配置された永久磁石をもつ可動子である。
【0014】
図2にトンネルアクチュエータ型のリニアモータでは、磁極23の上部磁極歯23aと磁極24の下部磁極歯24bが、所定ギャップGをもって対向して対向部を形成し、磁極23の下部磁極歯23bと磁極24の上部磁極歯24aが、同じく所定ギャップGをもって対向して対向部を形成して、隣接する対向部同士で磁極歯が互い違い構造をとるようになっている。そして、各対向部を構成する磁極歯の間に、可動子27が配置された構造となっている。
【0015】
このような構成をとるトンネルアクチュエータ型のリニアモータでは、隣り合う磁極歯中心間の極ピッチPを所定値に設定して、固定子21をA相で駆動(励磁)するときは固定子22をB相で駆動(励磁)し、固定子21をB相で駆動するときは固定子22をA相で駆動して、固定子21と22とでA相、B相の駆動を、順次交番的に切り換えることで、可動子27は所定方向の推力を与えられて直線移動する。
【0016】
ここで、隣り合う前記した対向部においては、図3に示すように、吸引力が働く方向が互いに逆向きとなるので、全体として見れば吸引力を略零に相殺できるようになっており、これによって十分な推力を得ることができる構成となっていることと、可動子27を軽量化できることとが相俟って、40G以上の加減速を実現できるようになっている。
【0017】
なお、このようなトンネルアクチュエータ型のリニアモータの構成については、特許文献4などにおいて公知であるので、これ以上の詳細説明については割愛する。
【特許文献4】特許第3395155号公報
【0018】
次に、本実施形態の射出成形機の動作を説明する。図1に示した本実施形態では、型締め後の射出前の状態では、可動側中子金型5bは後退限位置にあり、この状態で、キャビティ6内に、図示せぬ射出メカニズムにより溶融樹脂10が射出される。この射出動作の途上(射出完了の略手前)または射出完了の直後に、システムコントローラ9からの指令で、サーボアンプ8によってリニアモータ7を超急速に加速した後超高速に減速させて、可動側中子金型5bを微小量K1だけ超急速に前進させ、次に、リニアモータ7を超急速に反転方向に加速した後超高速に減速させて、可動側中子金型5bを微少量K1だけ超急速に後退させ、次に、リニアモータ7を超急速に反転方向に加速した後超高速に減速させて、可動側中子金型5bを微少量K1だけ超急速に前進させ、次に、リニアモータ7を超急速に反転方向に加速した後超高速に減速させて、可動側中子金型5bを微少量K1だけ超急速に後退させる、という制御を繰り返すことで、リニアモータ7によって可動側中子金型5bを超高速に振動駆動する。これにより、キャビティ6内の樹脂10の一面全体に接する可動側中子金型5bが超高速で振動するので、キャビティ6内の樹脂10の一面全体から、超高速振動による大きな振動エネルギーが樹脂全体に与えられ、この大きな振動エネルギーによって、キャビティ6内に先に充填されて冷却・固化が進行する部分の樹脂の固化速度を遅らせることが可能となる。なお、樹脂の固化速度を遅らせることで樹脂の固化速度を制御するには、可動側中子金型5bの振動開始タイミングを、射出動作の途上とすることが望ましい。
【0019】
上記の可動側中子金型5bの振動駆動を所定期間だけ行った後は、可動側中子金型5bは、キャビティ6の形状が成形品の形状と一致する位置に停止・維持され、上記したような樹脂の固化速度の制御の結果、キャビティ6内の樹脂10全体、すなわち成形品全体を、できるだけ均一な速度で固化させることが可能となる。したがって、成形品に歪みなどが生じることがなくなり、また、全体の樹脂密度も均一なものとなり、良品成形に大いに貢献できることとなる。
【0020】
なお、上述した実施形態では、トンネルアクチュエータ型のリニアモータ7を可動側金型5に搭載した例を示したが、リニアモータ7は可動ダイプレート3に搭載する構成としてもよい。この場合には、リニアモータ7の固定子側7aを可動ダイプレート3に固定・保持させ、可動子側7bは、可動ダイプレート3に設けた直動ガイド部材により直線移動可能に保持して、可動側中子金型5bと可動子側7bとを、例えば連結ピンで一体に結合するように構成する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る射出成形機の要部構成を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態で用いるトンネルアクチュエータ型のリニアモータの構成例の概略を示す説明図である。
【図3】図2のトンネルアクチュエータ型のリニアモータにおける吸引力相殺を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 固定ダイプレート
2 固定側金型
3 可動ダイプレート
4 タイバー
5 可動側金型
5a 可動側主金型
5b 可動側中子金型
6 キャビティ
7 トンネルアクチュエータ型のリニアモータ
7a 固定子側
7b 可動子側
8 サーボドライバ
9 システムコントローラ
10 樹脂
21、22 固定子(電機子)
23 磁極
23a 上部磁極歯
23b 下部磁極歯
24 磁極
24a 上部磁極歯
24b 下部磁極歯
25 鉄心
26 巻線
27 可動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填する射出成形機において、
金型の少なくとも一部に振動を与えるための駆動源にリニアモータを用いて、キャビティ内の樹脂に接触する金型によって、キャビティ内の樹脂に振動エネルギーを付与するように構成するとともに、
前記リニアモータは、巻線が巻回された固定子と、該固定子に対して直線移動する可動子とからなり、前記固定子は、磁極歯同士が対向する複数の対向部を有すると共に、複数の対向部は、隣り合う対向部の磁極歯が互い違い構造をとり、前記対向部を構成する磁極歯の間に、永久磁石を有する直線状の前記可動子が配置されたものであることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形機において、
キャビティ内の樹脂に高速振動による振動エネルギーを与えて、樹脂の固化速度を制御することを特徴とする射出成形機。
【請求項3】
請求項1に記載の射出成形機において、
主金型に所定量だけ前後動可能に保持された中子金型を、前記リニアモータによって駆動することを特徴とする射出成形機。
【請求項4】
請求項3に記載の射出成形機において、
前記中子金型の高速振動の加減速時の加速度、減速度を8G以上とすることを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−1093(P2006−1093A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178526(P2004−178526)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】