説明

射出成形用金型およびその射出成形用金型を用いたシール一体型膜電極接合体の製造方法、射出成形装置

【課題】膜電極接合体の外周にシール部を形成するための射出成形工程において、膜電極接合体の電極に担持された触媒の劣化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】射出成形装置100は、燃料電池用の膜電極接合体20の外周にシール部30を射出成形する。射出成形装置100は、シール部30を成形するためのキャビティ231を形成する外周成形部210と、触媒を担持する電極22を固定的に保持するための中央電極保持部215とを有する金型と、外周成形部210を加熱する加熱部350とを備える。射出成形装置100は、中央電極保持部215が外周成形部210より低温となるように、中央電極保持部215と、外周成形部210とが分離した別部材として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる膜電極接合体には、燃料電池の外部への反応ガスの漏洩を抑制するためのシール部が、膜電極接合体の発電領域の外周に、射出成形によって設けられたものが知られている(特許文献1等)。
【0003】
ところで、膜電極接合体の電極には、通常、燃料電池反応を促進するための触媒(例えば白金(Pt)等)が担持されている。一般に、触媒は、高温(例えば150℃〜160℃程度)において劣化してしまう可能性がある。従って、上記の射出成形の工程において、膜電極接合体が金型内に配置され、加熱された場合には、触媒が劣化してしまう可能性があった。しかし、これまでこうした問題に対して十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−123883号公報
【特許文献2】特開2008−262893号公報
【特許文献3】特開2008−14786号公報
【特許文献4】特開2008−280058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、膜電極接合体の外周にシール部を形成するための射出成形工程において、膜電極接合体の電極に担持された触媒の劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池用の膜電極接合体の外周にシール部を射出成形するために用いられる射出成形用金型であって、前記膜電極接合体の外周において、前記シール部を成形するためのキャビティを形成する外周成形部と、前記膜電極接合体の触媒を担持する電極を固定的に保持するための電極保持部とを備え、前記電極保持部が前記外周成形部より低温となるように、前記電極保持部と、前記外周成形部とが別部材で構成されている、射出成形用金型。
この射出成形用金型によれば、電極保持部が外周成形部より低温となるため、電極に担持された触媒の劣化を抑制しつつ、射出成形することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の射出成形用金型であって、さらに、前記電極保持部部と、前記外周成形部との間には、クリアランスが設けられている、射出成形用金型。
この射出成形用金型によれば、電極保持部と外周成形部との間のクリアランスが断熱層として機能するため、外周成形部から電極保持部への熱の移動を抑制でき、電極保持部が外周成形部より低温である状態を維持できる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2記載の射出成形用金型であって、前記電極保持部には、冷媒のための冷媒流路が設けられている、射出成形用金型。
この射出成形用金型によれば、射出成形時に電極保持部の冷媒流路に冷媒を供給することにより、電極保持部を外周成形部より低温にすることができる。従って、電極に担持された触媒の劣化を抑制しつつ、射出成形することができる。
【0010】
[適用例4]
膜電極接合体の外周にシール部が射出成形されたシール一体型膜電極接合体の製造方法であって、
(a)適用例2記載の射出成形用金型内に前記膜電極接合体を配置する工程と、
(b)前記クリアランスによって形成される内部空間を真空引きしつつ、前記シール部を射出成形する工程と、を備える、製造方法。
この製造方法によれば、射出成形時に、外周成形部と電極保持部との間のクリアランスによって形成される空間を真空断熱層として機能させることができる。従って、外周成形部から電極保持部への熱の移動を抑制でき、電極に担持された触媒の劣化を抑制しつつ、射出成形することができる。
【0011】
[適用例5]
膜電極接合体の外周にシール部が射出成形されたシール一体型膜電極接合体の製造方法であって、
(a)適用例3記載の射出成形用金型に前記膜電極接合体を配置する工程と、
(b)前記冷媒流路に前記冷媒を供給しつつ、前記シール部を射出成形する工程と、
を備える、製造方法。
この製造方法によれば、射出成形時に、冷媒によって電極保持部を冷却することができる。従って、電極に担持された触媒の劣化を抑制しつつ、射出成形することができる。
【0012】
[適用例6]
燃料電池用の膜電極接合体の外周にシール部を射出成形するための射出成形装置であって、前記膜電極接合体の外周において、前記シール部を成形するためのキャビティを形成する外周成形部と、前記膜電極接合体の触媒を担持する電極を固定的に保持するための電極保持部とを有する射出成形用金型と、前記外周成形部を加熱する加熱部とを備え、前記電極保持部が前記外周成形部より低温となるように、前記電極保持部と、前記外周成形部とが別部材で構成されている、射出成形装置。
この射出成形装置によれば、射出成形用金型において、電極保持部が外周成形部より低温となるため、電極に担持された触媒の劣化を抑制しつつ、膜電極接合体に対して射出成形することができる。
【0013】
[適用例7]
適用例6に記載の射出成形装置であって、前記電極保持部と前記外周成形部との間には、クリアランスが設けられており、前記射出成形装置は、さらに、前記シール部を射出成形するときに、前記クリアランスによって形成される空間を真空引きする真空ポンプ部を備える、射出成形装置。
この射出成形装置によれば、射出成形実行時に、外周成形部と電極保持部との間のクリアランスによって形成される空間を真空断熱層として機能させることができる。従って、外周成形部から電極保持部への熱の移動を抑制でき、電極に担持された触媒の劣化を抑制しつつ、射出成形することができる。
【0014】
[適用例8]
適用例6または適用例7に記載の射出成形装置であって、前記電極保持部には、冷媒のための冷媒流路が形成されており、前記射出成形装置は、さらに、前記シール部を射出成形するときに、前記冷媒流路に前記冷媒を供給する冷媒供給部を備える、射出成形装置。
この射出成形装置によれば、射出成形実行時に、冷媒によって電極保持部を冷却することができる。従って、電極に担持された触媒の劣化を抑制しつつ、射出成形することができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、射出成形に用いられる金型、その金型を用いた射出成形の方法、その金型を備え、その方法を実行する射出成形装置、当該射出成形装置の制御方法および制御装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シール一体型膜電極接合体の構成を示す概略図。
【図2】第1実施例の射出成形装置における射出成形工程を説明するための概略図。
【図3】第1実施例の射出成形装置における金型の上型の構成を示す概略図。
【図4】第1実施例の射出成形装置の射出成形時における温度分布を説明するための模式図。
【図5】射出成形工程後の第1実施例の射出成形装置を示す概略図。
【図6】射出成形工程における金型内の熱の移動を説明するための模式図。
【図7】熱の移動量計算のための模式図。
【図8】第2実施例における射出成形装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施例:
図1(A),(B)は本発明の一実施例としての射出成形装置(後述)によって製造されるシール一体型膜電極接合体の構成を示す概略図である。図1(A)は、シール一体型膜電極接合体を電極面に垂直な方向に沿って見たときの正面図であり、図1(B)は、図1(A)に示すB−B切断におけるシール一体型膜電極接合体の概略断面図である。このシール一体型膜電極接合体10は、2枚の導電性の板状部材であるセパレータ52(図1(B)において破線で図示)によって狭持されることにより、水素と酸素(反応ガス)の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池を構成する。
【0018】
シール一体型膜電極接合体10は、膜電極接合体20と、膜電極接合体20に一体的に成形されたシール部30とを備えている。膜電極接合体20は、電解質膜21の両面に電極22が設けられた発電体である。なお、電極22の外周端は、電解質膜21の外周端より内側に位置するように設けられている。
【0019】
電解質膜21は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜によって構成することができる。電極22は、カーボンペーパなどの導電性および通気性を有する多孔質部材によって構成することができる。なお、電極22の電解質膜21と接する面側には、燃料電池反応を促進するための触媒(例えば白金等)が担持されている。以後、電極22において触媒が担持された領域を「触媒担持領域23」と呼ぶ。
【0020】
ところで、固体高分子型燃料電池(以下、単に「燃料電池」と呼ぶ)を構成する際には、電極22とセパレータ52との間には、ガス流路部材55(図1(B)において破線で図示)が配置される。ガス流路部材55は、いわゆるエキスパンドメタルやパンチングメタルを含む導電性を有する多孔質部材によって構成される部材である。ガス流路部材55は、反応ガスを電極22全体に行き渡らせるための流路として機能するとともに、セパレータ52と電極22との間の導電パスとして機能する。
【0021】
シール部30は、膜電極接合体20の外周において、電解質膜21の外周端および電極22の外周端をそれぞれ被覆するように、射出成形によって設けられる。シール一体型膜電極接合体10が燃料電池を構成する際には、セパレータ52は、このシール部30を直接的に狭持する。シール部30としては、例えばシリコンゴムなどの熱硬化性樹脂によって構成することができる。
【0022】
シール部30には、燃料電池を構成したときに外部から供給される反応ガスや冷媒が流入するマニホールド41〜46が貫通孔として設けられている。具体的には、水素供給用マニホールド41および水素排出用マニホールド42が電極22を挟んで対角する位置に設けられている。また、同様に、酸素供給用マニホールド43および酸素排出用マニホールド44が電極22を挟んで対角する位置に設けられている。冷媒供給用マニホールド45および冷媒排出用マニホールド46は、電極22を挟んで対向する位置に設けられている。なお、マニホールド41〜46は、他の配置構成であっても良い。
【0023】
また、シール部30には、リップ32(突起部32)が形成されている。リップ32は、シール部30がセパレータ52に狭持されたときに押圧され、各マニホールド41〜46および電極22を囲むシールラインを形成する。
【0024】
ところで、セパレータ52の内部には、反応ガスのための各マニホールド41〜44と電極22とを接続するためのガス流路(図示せず)が設けられる。これによって、水素および酸素がそれぞれ、当該ガス流路を介して、各供給用マニホールド41,43からシールラインで囲まれた電極22を含む領域(発電領域)へと供給される。また、燃料電池反応に供されることのなかったガスを含む排ガスが、当該ガス流路を介して、発電領域から各排出用マニホールド42,44へと排出される。セパレータ52の内部には、さらに、冷媒のためのマニホールド45,56同士を接続する冷媒流路(図示せず)が設けられている。これによって、燃料電池の発電の際に、発電領域を冷却することが可能となる。
【0025】
図2は、膜電極接合体20の外周にシール部30を射出成形するための射出成形装置100の構成を示す概略図である。射出成形装置100は、金型である上型200および下型250と、冷媒供給部300と、真空ポンプ320と、加熱部350とを備える。上型200と下型250とは、射出成形の際に閉じられるが、このとき、予め準備された膜電極接合体20が、上型200と下型250とによって狭持される。なお、膜電極接合体20は、電解質膜21の外周端および電極22の外周端が、後述するキャビティ231内に突出するように、金型内に配置される。
【0026】
上型200と下型250とが閉じられたとき、上型200と下型250との間には、上型200および下型250の互いに対向する面のそれぞれに設けられた凹部によって、シール部30を型取ったキャビティ231が形成される。また、上型200と下型250との間には、シール部30の各マニホールド41〜46(図1)を形成するための領域に、キャビティ231に連通する、樹脂材料を流入させるための樹脂流路232が形成される。なお、下型250には、下型250のキャビティ231を形成するための面を上下方向に位置調整することが可能な駆動部が設けられるものとしても良い。
【0027】
図3は、図2に示すA−A切断における上型200の断面を示す概略断面図である。なお、図3には、上型200に設けられたキャビティ231を形成するための凹部が破線で図示されている。上型200は、外周成形部210と、中央電極保持部215とを有している。外周成形部210は、膜電極接合体20の外周においてキャビティ231を形成するための凹部を有するとともに、その中央部に、中央電極保持部215を配置するための中空部を有している。中央電極保持部215は、射出成形の際に、膜電極接合体20の電極22を押圧して膜電極接合体20を固定的に保持する。外周成形部210と中央電極保持部215との間には、クリアランスが設けられており、これによって、中央電極保持部215を囲む外周空間235が形成される。
【0028】
ここで、射出成形の際には、外周成形部210が、加熱部350(図2)によって加熱される。このとき、外周空間235は、外周成形部210と中央電極保持部215との間の熱の移動を抑制するための断熱層として機能する。なお、加熱部350は、例えば電熱線などによって構成され、外周成形部210の外部に設けられているものとしても良いし、外周成形部210の内部に設けられているものとしても良い。
【0029】
外周成形部210と中央電極保持部215の上方には、平板状の断熱材で構成された断熱板202と、上型冷却板201とが積層されている(図2)。断熱板202は、外周成形部210と、中央電極保持部215と、上型冷却板201との間の直接的な接触による伝熱を抑制する。上型冷却板201の内部には、上型冷却板201全体に渡って、冷媒供給部300と接続された冷媒流路301(一点鎖線で図示)が形成されている。これによって、上型冷却板201は、射出成形の際に、外周成形部210よりも低温に維持される。
【0030】
上型200には、さらに、断熱板202と、上型冷却板201と、外周成形部210とを貫通する樹脂流入口207が、シール部30の各マニホールド41〜46(図1)を形成するための領域に設けられている。射出成形の際には、加熱され溶融した樹脂材料が、射出装置(図示せず)から、樹脂流入口207へと射出され、樹脂流路232を介して、キャビティ231に流入する。上型冷却板201は、樹脂流入口207に流入した樹脂材料を、その入口側において一旦冷却することにより、樹脂材料がキャビティ231に到達する前に過度に昇温して硬化してしまうことを抑制する。
【0031】
ところで、中央電極保持部215の内部には、冷媒流路305が設けられている。冷媒流路305は、上型冷却板201に設けられた冷媒流路301と接続されており、冷媒供給部300から供給される冷媒が流入する。これによって、中央電極保持部215は、上型冷却板201と同様に冷却される。中央電極保持部215を冷却する理由は後述する。
【0032】
外周成形部210と中央電極保持部215との間に形成された外周空間235は、配管321を介して真空ポンプ320と接続されている。真空ポンプ320は、射出成形の際に、外周空間235を真空引きする。この真空引きによって、射出成形時における外周成形部210と中央電極保持部215との間の熱の移動が、さらに抑制される。
【0033】
なお、真空ポンプ320と外周空間235とを接続する配管321には分岐配管323が設けられており、分岐配管323には開閉バルブ324が設けられている。この開閉バルブ324は、真空ポンプ320によって真空引きが行われている時には閉じられる。一方、上型200と下型250とを開くときなど、真空状態を解消する場合には、開閉バルブ324は開かれ、外周空間235に空気が流入する。なお、図では、配管323を破線で図示することにより、配管321への空気の流入が遮断されていることを示している。
【0034】
図4は、射出成形装置100の出成形時における温度分布を説明するための模式図である。図4は、断熱板202以外の部位に付されたハッチングの種類が異なる点以外は、図2とほぼ同じである。図4では、射出成形時に比較的高温となる領域にクロスハッチングを付し、比較的低温となる領域に斜線ハッチングを付してある。
【0035】
この射出成形装置100では、射出成形時において、キャビティ231に流入した樹脂材料を硬化させるため、外周成形部210は、加熱部350によって高温(例えば150℃〜160℃程度)まで加熱される。一方、中央電極保持部215は、冷媒流路305の冷媒によって冷却されるとともに、外周空間235によって、外周成形部210からの熱の移動が抑制されているため、外周成形部210より低温(例えば130℃程度)に維持される。また、上型冷却板201も、冷媒流路301の冷媒によって冷却されるとともに、断熱板202により外周成形部210からの熱の移動が抑制されているため、中央電極保持部215と同様に、比較的低温に維持される。さらに、下型250も、図示せざる冷却部などによって比較的低温に維持される。
【0036】
ここで、一般に、膜電極接合体20の電極22に担持される触媒は、高温(例えば150℃〜160℃程度)において劣化してしまうことが知られている。しかし、本実施例の射出成形装置100によれば、電極22と直接接触する中央電極保持部215および下型250を、外周成形部210よりも低温に維持して射出成形を実行できる。従って、触媒が劣化する可能性がある高温にまでキャビティ231を加熱して射出成形を実行した場合であっても、電極22に担持された触媒の熱による劣化を抑制することができる。
【0037】
ところで、金型全体を、触媒の劣化が抑制される比較的低温(例えば130℃)に維持した場合であっても、樹脂材料を硬化させることは可能である。しかし、130℃の温度でキャビティ231を加熱する場合には、120秒程度の硬化時間を設けることが好ましいのに対し、150℃〜160℃の高温で加熱した場合には、約30秒程度の硬化時間でも良い。このように、本実施例の射出成形装置100によれば、外周成形部210を局所的に高温にできるため、膜電極接合体20の触媒の劣化を抑制しつつ、射出成形における樹脂の硬化時間を短縮することが可能である。
【0038】
図5は、射出成形後における射出成形装置100を示す概略図である。図5は、上型200と下型250とが開かれている点と、膜電極接合体20にシール部30が形成されている点以外は、図2とほぼ同じである。なお、図5では、加熱部350による外周成形部210の加熱が停止されていることを、加熱部350と外周成形部210との間の矢印を破線で図示することにより示している。
【0039】
樹脂材料の硬化が終了した後、真空ポンプ320を停止させて、開閉バルブ324を開き、外周空間235に空気を流入させる。そして、上型200と下型250とを開き、シール部30が形成された膜電極接合体20を取り出す。なお、このとき、シール部30の各マニホールド41〜46には、樹脂流路232の樹脂材料が硬化した余剰樹脂34が存在する。この余剰樹脂34を削除することにより、シール一体型膜電極接合体10が完成する。
【0040】
ここで、一般に、射出成形装置100では、射出成形工程が連続的に繰り返し実行される。即ち、射出成形後の膜電極接合体20が取り出された後、射出成形装置100の金型には、新たな膜電極接合体20が配置され、続けて次の射出成形工程が開始される。このとき、次の射出成形工程へと移行するまでの間の時間帯において、上型200では、外周成形部210の熱が中央電極保持部215へと移動し、中央電極保持部215が昇温してしまう可能性がある。
【0041】
図6(A)〜(C)は、射出成形装置100において射出成形工程が繰り返し実行された場合の、外周成形部210と、中央電極保持部215との間の熱の移動を説明するための模式図である。図6(A)〜(C)では、図4の上型200における外周成形部210および中央電極保持部215、外周空間235をそれぞれ、長方形によって模式的に図示してある。なお、外周成形部210および中央電極保持部215には、図4と同様なハッチングを付してある。一方、外周空間235は、真空状態であるときには無地とし、空気が流入している場合には網点を付してある。
【0042】
図6(A)は、n回目(nは自然数)の射出成形工程実行時の状態を示している。この時には、上述したように、外周空間235が真空断熱層として機能し、外周成形部210と、中央電極保持部215との間の熱の移動は抑制される。図6(B)は、n回目の射出成形実行後に、上型200と下型250とが開かれたときの状態を示している。この時には、外周空間235には空気が流入する。そのため、この空気を媒体として外周成形部210から中央電極保持部215へと熱が移動する。図6(C)は、n+1回目の射出成形実行時の状態を示している。この時には、図6(B)の状態のときに加熱された空気が、真空ポンプ320によって外周空間235から排出されて、外周空間235は再び真空状態となる。
【0043】
図7は、図6(B)の状態における外周成形部210から中央電極保持部215への熱の移動量の計算を説明するための模式図である。図7では、図6(B)の状態のときの外周成形部210と中央電極保持部215と外周空間235とをそれぞれ、略直方体として模式的に図示している。なお、図7では、外周成形部210と中央電極保持部215と外周空間235とにそれぞれ、図6(B)と同様なハッチングが付してある。また、図7では、便宜上、外周成形部210と中央電極保持部215と外周空間235とがそれぞれ分離しているかのように図示されている。
【0044】
ここで、外周成形部210の温度をT1とし、中央電極保持部215の温度をT2とする。また、外周成形部210および中央電極保持部215のそれぞれと、外周空間235との間の接触面積をSとし、外周成形部210と中央電極保持部215との間のクリアランスの距離をLとする。このとき、金型が開かれ、外周空間235に空気が存在する時間tの間に、この外周空間235の空気層を媒介にして、外周成形部210から中央電極保持部215へと移動する熱量Qは下記の式(1)によって求めることができる。
Q=k×S×t×(T2−T1)/L …(1)
なお、kは、空気の熱伝導率である。
【0045】
また、この熱量Qによる中央電極保持部215の昇温量ΔTは、下記の式(2)によって求めることができる。
ΔT=Q/m×c …(2)
なお、mは中央電極保持部215の重量であり、cは中央電極保持部215の比熱である。
【0046】
ここで、温度T1,T2をそれぞれ、160℃(−113.15K)、130℃(−143.15K)とし、面積Sを0.0083m2、クリアランスの距離Lを0.001m、時間tを60秒、空気の熱伝導率kを0.02W/m・Kとする。このとき、熱量Qは、上記(1)式より、Q=298.8Jとなる。また、このとき、中央電極保持部215の重量mを1200gとし、その比熱cを0.54J/g・Kとすると、上記(2)式より、中央電極保持部215の昇温量ΔTは、0.46Kとなる。即ち、射出成形工程が100回繰り返され、熱量Qの全てが中央電極保持部215に移動したとすると、射出成形工程が繰り返される間に、中央電極保持部215を46K昇温させることができる程度の熱量が移動することとなる。
【0047】
しかし、本実施例の射出成形装置100では、再び金型が閉じられたときに(図6(C))、その熱の一部が外周空間235の空気とともに排出される。そのため、それだけ、中央電極保持部215への熱の移動量が低減され、中央電極保持部215の昇温が抑制される。即ち、射出成形装置100において、射出成形工程が連続的に繰り返し実行されたときには、外周空間235の真空引きによって、外周空間235における空気の入れ替えがなされ、外周空間235を介した中央電極保持部215への熱の移動量が低減される。従って、射出成形工程において、中央電極保持部215を外周成形部210より低温に維持することが、より容易になる。
【0048】
このように、本実施例の射出成形装置100では、射出成形実行時に、外周成形部210より中央電極保持部215が低温となるように、外周成形部210と中央電極保持部215とが分離した別部材として構成されている。これによって、金型に配置された膜電極接合体20の触媒の熱による劣化を抑制しつつ、外周成形部210を局所的に高温化して射出成形を実行することが可能である。
【0049】
B.第2実施例:
図8は、本発明の第2実施例としての射出成形装置100Aの構成を示す概略図である。図8は、外周成形部210および中央電極保持部215に換えて、キャビティ形成板216と、電極保持断熱板218とが設けられている点と、真空ポンプ320や、配管321,323、開閉バルブ324が省略されている点以外は、図2とほぼ同じである。
【0050】
キャビティ形成板216は、上型200Aの断熱板202の下層に配置された板状部材であり、シール部30を形成するためのキャビティ231を形成するための凹部が形成されている。加熱部350は、射出成形の際に、このキャビティ形成板216を加熱する。電極保持断熱板218は、キャビティ形成板216の中央領域の下層に配置される断熱板であり、金型が閉じたときに、膜電極接合体20の電極22を押圧して固定的に保持する。電極保持断熱板218は、キャビティ形成板216から膜電極接合体20の電極22への熱の移動を抑制する。
【0051】
このように、第2実施例の射出成形装置100Aでは、キャビティ形成板216より電極保持断熱板218の方が低温となるように、キャビティ形成板216と電極保持断熱板218とが、熱伝達率の異なる別部材によって構成されている。これによって、電極22に担持された触媒の熱による劣化を抑制しつつ、シール部30を射出成形することができる。ただし、この射出成形装置100Aでは、射出成形工程を繰り返し連続的に実行した場合に、キャビティ形成板216から移動する熱量の蓄積により、徐々に電極保持断熱板218が高温となる可能性がある。従って、断熱層として機能する外周空間235を有するとともに、外周空間235の空気の入れ換えによって中央電極保持部215への熱の移動が抑制されている第1実施例の射出成形装置100の方が、より電極22の昇温を抑制できるため好ましい。
【0052】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
C1.変形例1:
上記第1実施例において、真空ポンプ320は省略されるものとしても良い。この場合であっても、外周空間235を、断熱層として機能させることができるため、中央電極保持部215への熱の移動を抑制できる。また、上記第1実施例において、外周空間235や中央電極保持部215の冷媒流路305が省略されるものとしても良い。この場合には、中央電極保持部215を外周成形部210より熱伝達率の低い別部材によって構成するものとしても良い。
【0054】
C2.変形例2:
上記実施例では、上型200において、電極22と直接的に接触して電極22を保持する部位(電極保持部)と、膜電極接合体20の外周においてキャビティ231を形成するための部位(外周成形部)とを別部材によって構成していた。しかし、下型250においても同様に、電極保持部と外周成形部とを別部材によって構成するものとしても良い。また、下型250において、電極保持部と外周成形部との間に外周空間235を設けるなど、上型200と同様な、電極保持部を比較的低温とするための機構が設けられるものとしても良い。
【符号の説明】
【0055】
10…シール一体型膜電極接合体
20…膜電極接合体
21…電解質膜
22…電極
23…触媒担持領域
30…シール部
32…リップ(突起部)
34…余剰樹脂
41〜46…マニホールド
52…セパレータ
55…ガス流路部材
100,100A…射出成形装置
200,200A…上型
201…上型冷却板
202…断熱板
207…樹脂流入口
210…外周成形部
215…中央電極保持部
216…キャビティ形成板
218…電極保持断熱板
231…キャビティ
232…樹脂流路
235…外周空間
250…下型
300…冷媒供給部
301…冷媒流路
305…冷媒流路
320…真空ポンプ
321…配管
323…分岐配管
324…開閉バルブ
350…加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の膜電極接合体の外周にシール部を射出成形するために用いられる射出成形用金型であって、
前記膜電極接合体の外周において、前記シール部を成形するためのキャビティを形成する外周成形部と、
前記膜電極接合体の触媒を担持する電極を固定的に保持するための電極保持部と、
を備え、
前記電極保持部が前記外周成形部より低温となるように、前記電極保持部と、前記外周成形部とが別部材で構成されている、射出成形用金型。
【請求項2】
請求項1記載の射出成形用金型であって、さらに、
前記電極保持部部と、前記外周成形部との間には、クリアランスが設けられている、射出成形用金型。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の射出成形用金型であって、
前記電極保持部には、冷媒のための冷媒流路が設けられている、射出成形用金型。
【請求項4】
膜電極接合体の外周にシール部が射出成形されたシール一体型膜電極接合体の製造方法であって、
(a)請求項2記載の射出成形用金型内に前記膜電極接合体を配置する工程と、
(b)前記クリアランスによって形成される内部空間を真空引きしつつ、前記シール部を射出成形する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項5】
膜電極接合体の外周にシール部が射出成形されたシール一体型膜電極接合体の製造方法であって、
(a)請求項3記載の射出成形用金型に前記膜電極接合体を配置する工程と、
(b)前記冷媒流路に前記冷媒を供給しつつ、前記シール部を射出成形する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項6】
燃料電池用の膜電極接合体の外周にシール部を射出成形するための射出成形装置であって、
前記膜電極接合体の外周において、前記シール部を成形するためのキャビティを形成する外周成形部と、前記膜電極接合体の触媒を担持する電極を固定的に保持するための電極保持部とを有する射出成形用金型と、
前記外周成形部を加熱する加熱部と、
を備え、
前記電極保持部が前記外周成形部より低温となるように、前記電極保持部と、前記外周成形部とが別部材で構成されている、射出成形装置。
【請求項7】
請求項6に記載の射出成形装置であって、
前記電極保持部と前記外周成形部との間には、クリアランスが設けられており、
前記射出成形装置は、さらに、前記シール部を射出成形するときに、前記クリアランスによって形成される空間を真空引きする真空ポンプ部を備える、射出成形装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の射出成形装置であって、
前記電極保持部には、冷媒のための冷媒流路が形成されており、
前記射出成形装置は、さらに、前記シール部を射出成形するときに、前記冷媒流路に前記冷媒を供給する冷媒供給部を備える、射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−269483(P2010−269483A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122061(P2009−122061)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】