説明

射出成形用金型とその成形品

【課題】低歪領域を有し、かつウエルドラインのない孔を有した成形品を提供する。
【解決手段】成形品の形状に孔形状がある場合、樹脂は孔を形成させるための金型形状にぶつかり流路が分岐する。分岐が終わって再度合流する際に、樹脂表面が固化し、完全に接合されず成形品にウエルドラインが生じる。成形品接触面4と近い部分に高温度冷却回路2を配置し、樹脂を射出するより前に高温度冷却回路2に樹脂のガラス転移点以上である温度のスチームを流す。樹脂を射出した直後にスチームを切り、高温度冷却回路2には何も流さず樹脂の充填を完了させる。樹脂は低温度冷却回路1の温度により固化され、固化終了後に金型を開き、成形品を取り出す。樹脂の流動時にウエルドライン消失領域6の金型入子3の表面温度を上昇させることで、流路分岐後に再度合流する樹脂表面の固化を遅らせて、樹脂を完全に接合できウエルドラインを消失させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品用の金型構造とその成形品に係り、より詳細には、カーナビゲーションシステムの液晶ディスプレイ部における透明カバーで孔形状を有する外観の射出成形品と、その製造用の射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、低歪な射出成形品を得るためには、金型キャビティ内の容積を成形品の体積以上に広げた状態で樹脂を流動させ、樹脂の流動とともに金型を閉め、金型キャビティ内の容積を成形品の体積と同等にして成形品を得る。これにより低圧状態で充填された成形品は通常の射出成形品よりも歪において良好な状態で得ることができる。しかし、このことは特許文献1に開示され公知である。
【0003】
また、孔を有する成形品の場合には孔を形成させるための金型形状が樹脂流動の妨げになり、樹脂の冷却と固化を促進するとともに、二手に分かれた樹脂が再度結合する際、孔の周辺にウエルドラインが発生してしまい、成形品の外観不良の原因となる。
【0004】
これに対して、孔形成部周辺の金型を樹脂のガラス転移点以上に加熱した後、樹脂を流動させ樹脂の固化が促進される前に孔を形成させる。そして、充填完了後に金型を急冷することにより樹脂を固化させる。これによりウエルドラインのない良好な外観を有した成形品を得ることができる。
【0005】
図11(a),(b)は特許文献1に記載された従来の金型構造を示すものである。図11(a)は金型の圧縮動作前の状態であり、可動コア51とキャビティ52により形成されたキャビティ内空間53の容積は、成形品の体積よりも大きい、樹脂は圧縮動作前に流動開始し、充填完了の前に突出ロッド54,突出プレート55,可動コアシリンダ56を介して可動コア51が型締め方向に動作する。これにより、図11(b)に示す金型の圧縮動作後の状態のように、金型のキャビティ内空間53の樹脂には圧縮力57とキャビティ内圧58がかかり、樹脂が成形品として転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−006216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の構成では、ウエルドラインのない孔あり成形品を得るため、加熱冷却成形工法を採用した際に、一般には樹脂射出前に金型部品の冷却回路に樹脂のガラス転移点以上の高温スチームを流し、金型を加熱した後、樹脂を流動させ、樹脂の充填完了後に、高温スチームを流した冷却回路と同一回路に冷却水を流し、急冷する。
【0008】
そのため、金型入子の樹脂接触面における成形サイクル中の金型温度差は100℃以上と高く、成形品がその急激な温度差の影響により、成形品固化、熱収縮が不均一になることから成形品内部の歪のばらつきが大きくなって、変形,反りの原因となる。また、特に透明樹脂成形品の光学部品においては、その内部歪のばらつきの影響により、複屈折や光弾性の増加、ばらつきとなって、光学特性上の課題を有する。
【0009】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するものであり、低歪領域を有し、かつウエルドラインのない孔あり成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明に係る射出成形用金型は、冷却媒体が流れる低温度冷却回路と高温度冷却回路それぞれを1組以上有する、すくなくとも1つの金型入子を備え、金型入子の低温度冷却回路が成形品となる樹脂材料のガラス転移点以下、高温度冷却回路が樹脂材料のガラス転移点以上となることを特徴とする。
【0011】
また、金型入子の低温度冷却回路と高温度冷却回路との間に、複数の孔よりなる空気断熱孔を有すること、または複数のザグリ形状よりなる空気断熱層を有すること、または低熱伝導材料を溶着して形成した断熱層を有すること、または金型入子の高温度冷却回路に流れる冷却媒体の接触表面積を高温度冷却回路の両端部近傍より中央部を大きくしたことを特徴とする。
【0012】
また、金型入子の低温度冷却回路を流れる冷却媒体の流動方向を樹脂材料の流動方向と同方向とし、高温度冷却回路を流れる冷却媒体の流動方向を樹脂材料の流動方向と逆方向としたこと、さらに、金型入子と成形品に孔を形成するための形状部品とが同一部品からなること、さらに、金型入子が形成するキャビティ空間内への樹脂材料の充填中に、キャビティ空間の型締め方向に可動し、樹脂材料の充填完了前に型締めを完了すること、さらに、金型入子からなる固定側金型および可動側金型により型締めしてキャビティ空間を形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の成形品は、前述の射出成形用金型を用いて樹脂材料を成形したことを特徴とする。
【0014】
この構成によって、低温度冷却回路の周辺では金型入子との樹脂接触面に成形サイクル中の樹脂と金型の温度差を小さくでき、急激な温度勾配による成形品固化や熱収縮の不均一がなくなり、成形品内に低歪領域を持たせることができ、また、成形品の孔形状部には高温度冷却回路を配置することにより、金型入子を加熱して樹脂を流動させ、ウエルドラインのない成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形品に孔形状を形成する場合に従来低歪成形の後工程に行う、孔形成用の機械加工工程を不必要にでき、このため後工程による加工歪が発生せず、加工キズをなくし、また成形時の使用樹脂材料を少なくできるとともに、成形品に孔を形成した特定部分、すなわちウエルドラインを消失させたい部分だけの金型加熱で済むため加熱時間を短縮することができ、樹脂の加熱待ち時間における成形機ノズル滞留時間の短縮により、成形機内部での樹脂劣化を軽減し、透明品の変色や成形品のスジ,ムラを防止して、成形品の外観品質を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1における(a)は金型入子の正面図、(b)は図1(a)のA−Aの断面図
【図2】本実施形態1における(a)は樹脂流動直後の金型圧縮前の状態、(b)は金型圧縮後の状態を示す金型構造の断面図
【図3】本実施形態1における(a)は金型入子の正面図、(b)は図3(a)の金型入子の左側面図、(c)は図3(a)の金型入子の下面図
【図4】本実施形態1における図3(c)に示す金型入子の(a)はB−Bの断面図、(b)はC−Cの断面図、(c)はD−Dの断面図
【図5】本発明の実施形態2における(a)は金型入子の正面図、(b)は図5(a)のE−Eの断面図、(c)は図5(a)のF−Fの断面図
【図6】本発明の実施形態3における(a)は金型入子の正面図、(b)は図6(a)の左側面図、(c)は図5(a)のG−Gの断面図
【図7】本発明の実施形態4における(a)は金型入子の正面図、(b)は図7(a)の左側面図、(c)は図7(a)のH−Hの断面図、(d)は図7(c)の小径水路断面拡大図
【図8】本発明の実施形態5における金型入子の樹脂の流動方向と冷却媒体の流動方向を示す図
【図9】本発明の実施形態6における金型入子を示す斜視図
【図10】本発明の実施形態7における金型構造を示す断面図
【図11】従来の金型構造であり(a)は圧縮動作前、(b)は圧縮動作後の状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1(a)は本発明の実施形態1における金型入子の正面図、(b)は図1(a)のA−Aの断面図である。図1(a),(b)は、低温度冷却回路1と高温度冷却回路2を有する金型入子3を図示している。図1(b)の成形品接触面4が樹脂成形品と接する部分であり、低温度冷却回路1近傍の低歪領域5と高温度冷却回路2近傍のウエルドライン消失領域6がある。
【0019】
図2(a)は樹脂流動直後の金型圧縮前の状態、(b)は金型圧縮後の状態を示す金型構造の断面図であり、ウエルドライン消失と低歪を両立した成形品を得るための金型構造である。
【0020】
例えば、ポリカーボネイト樹脂の成形時のプロセスとしては、図2(a)に示すように、低温度冷却回路1に120℃の加圧温水を通して、金型を約120℃で安定させ、固定側金型入子(第1金型)7と可動側金型入子(第2金型)8によって形成されたキャビティ空間9に溶融した樹脂10を射出し、流動させるが、成形機ノズル内で320℃まで過熱し、溶融した樹脂10は120℃の金型に触れた部分から固化層を形成しながら充填される。
【0021】
成形品12形状に孔形状(図示せず)がある場合には、樹脂10は孔を形成させるための金型形状にぶつかって、流路が分岐する。その分岐が終わり、再度合流する際に、樹脂表面の固化が促進しすぎると、その部分が完全に接合されず成形品12にウエルドラインとして出てしまうため、成形品接触面4と近い部分に高温度冷却回路2を配置し、樹脂10を射出するより前に高温度冷却回路2には樹脂10のガラス転移点以上である150℃以上のスチームを流す。その後、樹脂10を射出した直後に150℃のスチームを切り、高温度冷却回路2には何も流さず樹脂10の充填を完了させる。樹脂10は120℃の低温度冷却回路1により固化されるため、固化終了後金型を開き、取り出す。
【0022】
この方法により樹脂の流動時にウエルドラインを消失したい領域の金型表面温度を上昇させることができ、流路分岐後に再度合流する樹脂表面の固化を遅らせることができるため、樹脂10が完全に接合しウエルドラインを消失させることができる。
【0023】
また、通常の射出成形では金型のキャビティ空間9内の容積と成形品12の体積が同一であり、キャビティ空間9内の容積が狭い場合、金型表面に樹脂10が触れてできた固化層により樹脂流路が極端に狭くなってしまう。そのため、高速,高圧力で樹脂10を射出しなければならなくなり、樹脂10内部に発生する内部歪が増大し、成形品12内部に残留歪が残る。
【0024】
よって、図2(a)のように射出前にあらかじめ、金型のキャビティ空間9内の容積を成形品12の体積以上に広げた状態とする。ここに樹脂10の射出を開始し、充填が完了するよりも前に圧縮型締め力11で金型のキャビティ空間9内の容積を成形品12の体積と同等にする。これにより、成形品12を転写させて、120℃の低温度冷却回路1により成形品12を固化させる。この方法をとれば、射出開始時のキャビティ空間9内の容積が大きく樹脂流路の余裕があるため、低速・低圧力で成形することができる。そして、圧縮型締め力11によって最終的な転写に必要な力を樹脂10に加えることにより、内部歪が少なく・均一な成形品12を得ることができる。
【0025】
図3(a)は金型入子の正面図、(b)は図3(a)の左側面図、(c)は図3(a)の下面図である。なお、図3(c)の下面図の成形品接触面4が樹脂成形品と接する部分である。図3(a),(b),(c)は、低温度冷却回路1と高温度冷却回路2の温度区別をより明瞭にするために複数の孔による、空気断熱孔13を形成した金型入子3を示している。
【0026】
また、図4(a)は金型入子の図3(c)のB−Bの断面図、(b)は図3(c)のC−Cの断面図、(c)は図3(c)のD−Dの断面図を示している。なお、図4(a),(b),(c)の各断面図は図3(c)の成形品接触面4から近い順番にB−B断面、C−C断面、D−D断面となっている。
【0027】
図4(a)のB−B断面は高温度冷却回路2を図示し、図4(b)のC−C断面は空気断熱孔13を図示し、図4(c)のD−D断面は低温度冷却回路1と空気断熱孔13を図示している。
【0028】
このように高温度冷却回路2と低温度冷却回路1の間には空気断熱孔13が複数に形成されているため、高温度冷却回路2の金型加熱による低温度冷却回路1近傍への伝熱を軽減し、高温度冷却回路2の加熱効率を向上し、加熱時間を短縮することができる。また、低温度冷却回路1の温度上昇を防止することができ、成形品の内部歪への影響を少なくすることができる。
【0029】
(実施形態2)
図5(a)は本発明の実施形態2における金型入子の正面図、(b)は図5(a)のE−Eの断面図、(c)は図5(a)のF−Fの断面図である。図5(a),(b),(c)は、低温度冷却回路1と高温度冷却回路2の温度区別をより明瞭にするために複数のザグリ形状による、空気断熱層14を形成した金型入子3を示している。
【0030】
例えば、図5(b)のように高温度冷却回路2と低温度冷却回路1の間には空気断熱層14が複数形成されており、空気断熱層14は加工により金型入子3に形成するが、複数の孔を多数加工する場合と比較して、より効率的に体積除去することができる。よって、高温度冷却回路2と低温度冷却回路1の間の伝熱体積を減少させることができるため、顕著に高温度冷却回路2の金型加熱による低温度冷却回路1近傍への伝熱を軽減し、高温度冷却回路2の加熱効率を向上し、過熱時間を短縮することができる。また、低温度冷却回路1の温度上昇を防止することができ、成形品の内部歪への影響を少なくすることができる。
【0031】
(実施形態3)
図6(a)は本発明の実施形態3における金型入子の正面図、(b)は図6(a)の左側面図、(c)は図6(a)のG−Gの断面図である。図6(a),(b),(c)は、低温度冷却回路1と高温度冷却回路2の温度区別をより明瞭にするために低熱伝導材料15を溶着した断熱材料層16を形成した金型入子3を示している。
【0032】
断熱材料層16は金型入子3にあらかじめ低熱伝導材料15と同じ形状の穴を形成しておいて、その中に低熱伝導材料15を埋め込んだ後、金型入子3と低熱伝導材料15の境界部分を溶接して、固定する。この低熱伝導材料15の材質はステンレス鋼(SUS304)であり、その熱伝導率は16.3w/mKである。また、金型入子3の材質は冷間ダイス鋼(SKD11)であり、その熱伝導率は22.2w/mKであり、低熱伝導材料15の熱伝導率<金型入子3の熱伝導率となる。
【0033】
そのため、例えば図6(c)のように高温度冷却回路2と低温度冷却回路1の間に断熱材料層16が形成されており、その部分の熱伝導率が周囲、すなわち金型入子3の熱伝導率より低いため、高温度冷却回路2の金型加熱による低温度冷却回路1近傍への伝熱を軽減し、高温度冷却回路2の加熱効率を向上し、加熱時間を短縮することができる。また、低温度冷却回路1の温度上昇を防止することができ、成形品の内部歪への影響を少なくすることができる。
【0034】
(実施形態4)
図7(a)は本発明の実施形態4における金型入子の正面図、(b)は図7(a)の左側面図、(c)は図7(a)のH−Hの断面図、(d)は図7(c)の小径水路断面拡大図である。図7(a),(b),(c),(d)は高温度冷却回路2の加熱効率を向上させるため、ウエルドライン消失領域6の冷却回路を小径水路にした金型入子3を示している。
【0035】
ウエルドライン消失領域6近傍の高温度冷却回路2の一部を小径水路とし、「高温度冷却回路直径17>小径水路直径18」の関係にすることにより、例えば高温度冷却回路直径17=10mm、小径水路直径18=2mmとした場合、小径水路は13箇所配置でき、高温度冷却回路周長19=約31mm、小径水路周長20=約6mm×13箇所=約78mmと周長が約2.5倍となる。水路の断面周長が増加すると冷却媒体との接触表面積が増加するため、冷却媒体からの伝熱効率が向上する。
【0036】
また、水路直径が小さくなることから、小径水路部の冷却媒体流速が上がり、レイノルズ数が増加し、冷却媒体の流動状態が乱流になりやすくなる。よって、一般的に流体は層流よりも乱流の方が熱伝導率を向上するということからも冷却媒体からの伝熱効率の向上も期待できる。
【0037】
このように、ウエルドライン消失領域6の伝熱効率が向上することから、加熱時間を短縮することができ、加熱待ち時間の樹脂の成形機ノズル滞留時間を短縮できることから、成形機内部での樹脂劣化を軽減し、透明品の変色の防止、成形品のスジ、ムラの防止をすることができ、成形品の外観品質を向上することができる。
【0038】
(実施形態5)
本発明の実施形態5では、ウエルドラインを消失したい形状部が複数あるような特殊な場合について説明する。図8は本実施形態5の金型入子における、樹脂の流動方向と冷却回路の流動方向について示した図である。図8に示すように、成形品形成範囲21内、つまりキャビティ空間内に樹脂10を充填する際に、ゲート22から樹脂10を流動させるため、樹脂10は図8の矢印に示す流動方向23のように、ゲート22の上流方向から下流方向へと流動する。
【0039】
また、冷却回路内の冷却媒体流動方向について、低温度冷却回路1では樹脂流動方向23に沿った方向で冷却媒体を流している。なぜなら、金型入子3を流れる低温度冷却回路1が120℃であった場合、樹脂10の流動前の状態では、常温から120℃まで、金型入子3を加熱する必要があり、その際に低温度冷却回路1の冷却媒体は金型入子3に熱を奪われる。したがって、冷却回路の「IN側温度>OUT側温度」という関係になる。
【0040】
樹脂10のガラス転移点が150℃だとすると流動している樹脂10は、ウエルドライン消失領域6に達するまでの間に、固化を進めながら流動するため、ウエルドラインの発生を抑制しようとするのであれば、その固化を少しでも遅らせることが必要となり、樹脂流動の上流部分での冷却回路温度が高い方が望ましい。よって、低温度冷却回路1の冷却媒体の流動方向は樹脂流動に沿った方向の方が良い。
【0041】
次に、高温度冷却回路2では樹脂の流動方向に逆らった方向で冷却媒体を流している。なぜなら、流動している樹脂はウエルドライン消失領域6に達するまでに間に、固化を進めながら流動するため、ゲート22から下流部分に位置するウエルドラインを消失させることが最も困難であり、金型表面温度の上昇が必要である。前記のように冷却回路の「IN側温度>OUT側温度」という前提条件では、高温度冷却回路2のIN側の方の温度が高いので、そのIN側を樹脂流動の下流方向に配置すること、すなわち、樹脂の流動方向に逆らった方向で冷却媒体を流す。
【0042】
この方法により、樹脂の固化がより進んでしまっているウエルドライン消失領域6のゲート22の下流側の金型温度を最も高くできることから、ゲート22からの距離に左右されず、均一にウエルドラインを消失することができる。
【0043】
(実施形態6)
図9は本発明の実施形態6における金型入子を示した斜視図である。図9に示すように、低温度冷却回路1と高温度冷却回路2を有した金型入子3と成形品に孔を形成させるための凸形状部分24が同一部品となった金型構造である。
【0044】
一般的な金型構造では、成形品に孔を形成させるための丸い凸形状部分24を金型入子3と別の軸部品とし、金型加工上の利便性を重視するケースが多い。しかし、ウエルドラインの発生要因として凸形状部分24にぶつかった樹脂が二手に分かれ、二手に流動した樹脂がもう一度、合わさった部分がウエルドラインとなって、成形品に現れてしまう。
【0045】
この凸形状部分24が金型入子3と別部品であった場合、高温度冷却回路2による加熱効果が低下してしまうため、凸形状部分24の温度上昇をするために長時間高温度冷却回路2に冷却媒体を流す必要があり、長時間金型加熱を行わなければならない。長時間金型加熱を行うと、樹脂の成形機ノズル滞留時間が長くなることから、成形機内部での樹脂劣化を促進し、透明品の変色、成形品のスジ,ムラを起こす可能性が高くなる。また、金型入子3に長時間に渡り高温冷却媒体を流すので、低温度冷却回路1に影響を及ぼし、低温度冷却回路1の温度が上昇し、温度勾配が発生して樹脂の固化にばらつきを生じさせるため、低歪必要部分の歪の悪化が起こる。
【0046】
よって、図9のように低温度冷却回路1と高温度冷却回路2を有した金型入子3と、成形品に孔を形成させるための凸形状部分24は同一部品であることが望ましい。
【0047】
(実施形態7)
図10は本発明の実施形態7における金型構造を示す断面図である。図10に示すように、低温度冷却回路1と高温度冷却回路2を固定側金型入子7(第1金型)と可動側金型入子8(第2金型)の両方に有する金型構造である。
【0048】
固定側金型入子7と可動側金型入子8の両方でウエルドラインを消失させる成形品12近傍の位置に、高温度冷却回路2を有しているため、前述した実施形態1の通り、ウエルドラインの消失を成形品12の表裏両方で可能としている。
【0049】
通常、ウエルドラインは成形品12の表か裏の成形品使用時の可視側のみ消失させれば良いが、成形品12が透明品であった場合、可視範囲と反対面のウエルドラインを可視範囲側から認識してしまうため、成形品12が透明品であった場合には成形品12の表裏両方のウエルドラインを消失させる必要があり、その際に本技術が有効である。
【0050】
以上に説明した各実施形態においては、その一例を示しただけであり、本発明による金型を応用することによって多様な成形品の外観良化、および低歪状態での成形を可能にする。例えば、実施形態1で示した、金型構造では低歪による光学特性良化だけではなく、残留応力の低下による、成形後の収縮ばらつきの低減と、変形,反りの軽減による成形品精度の向上を望むことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る射出成形用金型とその成形品は、特に、低歪要求範囲を有した、透明光学部品に孔等の樹脂流動の妨げとなるような形状を形成させた外観成形品に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 低温度冷却回路
2 高温度冷却回路
3 金型入子
4 成形品接触面
5 低歪領域
6 ウエルドライン消失領域
7 固定側金型入子
8 可動側金型入子
9 キャビティ空間
10 樹脂
11 圧縮型締め力
12 成形品
13 空気断熱孔
14 空気断熱層
15 低熱伝導材料
16 断熱材料層
17 高温度冷却回路直径
18 小径水路直径
19 高温度冷却回路周長
20 小径水路周長
21 成形品形成範囲
22 ゲート
23 樹脂流動方向
24 凸形状部分
51 可動コア
52 キャビティ
53 キャビティ内空間
54 突出ロッド
55 突出プレート
56 可動コアシリンダ
57 圧縮力
58 キャビティ内圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却媒体が流れる低温度冷却回路と高温度冷却回路それぞれを1組以上有する、すくなくとも1つの金型入子を備え、
前記金型入子の前記低温度冷却回路が成形品となる樹脂材料のガラス転移点以下、前記高温度冷却回路が前記樹脂材料のガラス転移点以上となることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
前記金型入子の低温度冷却回路と高温度冷却回路との間に、複数の孔よりなる空気断熱孔を有することを特徴とする請求項1記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記金型入子の低温度冷却回路と高温度冷却回路との間に、複数のザグリ形状よりなる空気断熱層を有することを特徴とする請求項1記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記金型入子の低温度冷却回路と高温度冷却回路との間に、低熱伝導材料を溶着して形成した断熱層を有することを特徴とする請求項1記載の射出成形用金型。
【請求項5】
前記金型入子の高温度冷却回路に流れる冷却媒体の接触表面積を前記高温度冷却回路の両端部近傍より中央部を大きくしたことを特徴とする請求項1記載の射出成形用金型。
【請求項6】
前記金型入子の低温度冷却回路を流れる冷却媒体の流動方向を樹脂材料の流動方向と同方向とし、高温度冷却回路を流れる冷却媒体の流動方向を前記樹脂材料の流動方向と逆方向としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項7】
前記金型入子と成形品に孔を形成するための形状部品とが同一部品からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項8】
前記金型入子が形成するキャビティ空間内への樹脂材料の充填中に、前記キャビティ空間の型締め方向に可動し、前記樹脂材料の充填完了前に型締めを完了することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項9】
前記金型入子を固定側金型および可動側金型の両方に備え、型締めしてキャビティ空間を形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の射出成形用金型を用いて樹脂材料を成形したことを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−240613(P2011−240613A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115018(P2010−115018)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】