説明

射出成形用金型の温度制御装置

【課題】金型のキャビティ内に射出される樹脂の温度を出来る限り正確に所定温度にするとともに、ホットランナー部での滞留樹脂の過加熱を防止し、これにより、成形品の品質を出来る限り向上させる。
【解決手段】ヒータ制御部41が、ホットランナー部における樹脂がキャビティ内に射出されているときには、ホットランナー部の出口部における樹脂の温度(第1の樹脂温度検出センサ52による検出樹脂温度)に基づいてヒータ51をフィードバック制御する一方、ホットランナー部における樹脂がキャビティ内に射出されていないときには、ホットランナー部の出口部以外の部分における樹脂の温度(第2の樹脂温度検出センサ53による検出樹脂温度)に基づいてヒータ51をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットランナー部を有する射出成形用金型の該ホットランナー部における樹脂の温度を、所定温度に制御する、射出成形用金型の温度制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホットランナー部を有する射出成形用金型はよく知られており、そのホットランナー部における樹脂(溶融樹脂)の温度が所定温度に制御されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、ホットランナー部には、通常、該ホットランナー部における樹脂を加熱するヒータと、該樹脂の温度を検出するための樹脂温度検出センサとが設けられており、その樹脂温度検出センサにより検出される樹脂温度が所定温度になるように、上記ヒータが制御(フィードバック制御)される。上記所定温度は、金型のキャビティ内に射出された溶融樹脂が気化したり早期に(キャビティ全体に行き渡る前に)固化したりしないような温度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−210163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金型のキャビティ内に射出される樹脂の温度を出来る限り正確に所定温度に維持して、成形品の品質を向上させるためには、上記樹脂温度検出センサを、ホットランナー部においてキャビティに最も近い出口部に設けて、該出口部における樹脂温度が所定温度になるように上記ヒータを制御することが好ましい。
【0005】
しかし、樹脂温度検出センサをホットランナー部の出口部に設けた場合、ホットランナー部における樹脂が金型のキャビティ内に射出されていないときに、ホットランナー部における溶融樹脂を加熱し過ぎる可能性が高くなる。すなわち、ホットランナー部の出口部における樹脂の温度は、キャビティ内の溶融樹脂が固化したときや、型開きにより成形品を取り出したときに、ホットランナー部の出口部以外の部分における樹脂の温度よりも低くなる傾向にあり、この出口部における樹脂の温度に基づいてヒータの制御を行うと、ホットランナー部で溶融樹脂が滞留していることと相俟って、溶融樹脂を加熱し過ぎることになる。このような溶融樹脂の過加熱は、溶融樹脂が気化することになり、成形品の品質低下を招く。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金型のキャビティ内に射出される樹脂の温度を出来る限り正確に所定温度にするとともに、ホットランナー部での滞留樹脂の過加熱を防止し、これにより、成形品の品質を出来る限り向上させようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明では、ホットランナー部を有する射出成形用金型の該ホットランナー部における樹脂の温度を、所定温度に制御する、射出成形用金型の温度制御装置を対象として、上記ホットランナー部の出口部における樹脂の温度を検出するための第1の樹脂温度検出手段と、上記ホットランナー部の出口部以外の部分における樹脂の温度を検出するための第2の樹脂温度検出手段と、上記ホットランナー部における樹脂を加熱するヒータと、上記ヒータを制御するヒータ制御部とを備え、上記ヒータ制御部は、上記ホットランナー部における樹脂が上記金型のキャビティ内に射出されているときには、上記第1の樹脂温度検出手段により検出される樹脂温度が上記所定温度となるように上記ヒータに対する第1の制御量を算出して、該第1の制御量でもって該ヒータをフィードバック制御する一方、上記ホットランナー部における樹脂が上記キャビティ内に射出されていないときには、上記第2の樹脂温度検出手段により検出される樹脂温度が上記所定温度となるように上記ヒータに対する第2の制御量を算出して、該第2の制御量でもって該ヒータをフィードバック制御するよう構成されている、という構成とした。
【0008】
上記の構成により、ホットランナー部における樹脂が金型のキャビティ内に射出されているときには、ホットランナー部においてキャビティに最も近い出口部における樹脂の温度に基づいてヒータがフィードバック制御されるので、キャビティ内に射出される樹脂の温度が正確に所定温度に維持される。一方、ホットランナー部における樹脂が金型のキャビティ内に射出されていないときには、ホットランナー部の出口部以外の部分における樹脂の温度に基づいてヒータがフィードバック制御されるので、ヒータが、ホットランナー部の滞留樹脂を加熱し過ぎるようなことはなくなる。よって、成形品の品質を向上させることができる。
【0009】
上記射出成形用金型の温度制御装置において、上記第2の樹脂温度検出手段は、ホットランナー部の入口部と出口部との間である中間部における樹脂の温度を検出するよう構成され、上記ホットランナー部の入口部における樹脂の温度を検出するための第3の樹脂温度検出手段と、上記第1及び第2の制御量のうち少なくとも上記第1の制御量を補正する補正部とを更に備え、上記補正部は、上記第1の制御量に、少なくとも、上記第2の樹脂温度検出手段により検出された樹脂温度と上記所定温度との差に応じた補正量と、上記第3の樹脂温度検出手段により検出された樹脂温度と上記所定温度との差に応じた補正量と、を加算することで、上記第1の制御量を補正するよう構成されている、ことが好ましい。
【0010】
このことにより、特に、ホットランナー部における樹脂が金型のキャビティ内に射出されているときに、ホットランナー部に新たに入り込んできた樹脂の温度を、ヒータの制御に即座に反映させることができ、これにより、フィードバック制御の遅れを解消して、キャビティ内に射出される樹脂の温度をより一層正確にかつ早期に所定温度にすることが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の射出成形用金型の温度制御装置によると、ヒータ制御部が、ホットランナー部における樹脂が金型のキャビティ内に射出されているときには、ホットランナー部の出口部における樹脂の温度に基づいてヒータをフィードバック制御する一方、ホットランナー部における樹脂が金型のキャビティ内に射出されていないときには、ホットランナー部の出口部以外の部分における樹脂の温度に基づいてヒータをフィードバック制御するようにしたので、金型のキャビティ内に射出される樹脂の温度を正確に所定温度にすることができるとともに、ホットランナー部での滞留樹脂の過加熱を防止することができ、よって、成形品の品質を出来る限り向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る金型温度制御装置によりホットランナー部における樹脂の温度が制御される射出成形用金型と該金型が取り付けられる成形機本体とを有する射出成形機を概略的に示す側面図である。
【図2】金型のホットランナー部を示す断面図である。
【図3】金型温度制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】コントローラの制御動作の前半部を示すフローチャートである。
【図5】図4に続く制御動作の後半部を示すフローチャートである。
【図6】射出成形機運転終了処理の具体例を示すフローチャートである。
【図7】第2の樹脂温度検出センサの配設位置の変形例を示す図2相当図である。
【図8】実施形態2を示す図2相当図である。
【図9】実施形態2を示す図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る金型温度制御装置A(図3参照)によりホットランナー部21d(図2参照)における樹脂の温度が制御される射出成形用金型21と該金型21が取り付けられる成形機本体2とを有する射出成形機1の概略を示す。成形機本体2は、溶融樹脂を金型21のキャビティ21c内に射出する射出装置10と、型締装置20とを含む。
【0015】
上記射出装置10は、金型21における後述の固定型21aに接続される加熱シリンダ11を有し、この加熱シリンダ11には、該加熱シリンダ11内に供給する樹脂材料たるペレットを貯留するホッパ12が接続されている。ホッパ12から加熱シリンダ11内に供給されたペレットは、加熱シリンダ11内で、不図示のヒータにより溶融する。
【0016】
上記加熱シリンダ11内には、スクリュー13が前後方向に進退自在にかつ回転自在に設けられ、このスクリュー13の後端部(図1の右側端部)が、前後方向に移動可能に設けられた支持部材14によって支持されている。この支持部材14には、サーボモータ等の計量モータ15が取り付けられている。この計量モータ15の出力軸の回転がタイミングベルト16を介してスクリュー13に伝達されて、スクリュー13が回転する。
【0017】
また、射出装置10は、スクリュー13と平行に前後方向に延びるねじ軸17を更に有する。このねじ軸17の後端部は、タイミングベルト18を介して、射出モータ19の出力軸に連結されている。一方、ねじ軸17の前端部は、支持部材14に形成された不図示の雌ねじ部に螺合している。これにより、射出モータ19が駆動されると、射出モータ19の出力軸の回転がタイミングベルト18を介してねじ軸17に伝達され、ねじ軸17及び上記雌ねじ部によって、ねじ軸17の回転が支持部材14が前後方向の移動に変換され、この結果、スクリュー13が前後方向に移動することになる。
【0018】
上記金型21は、複数の分割型(本実施形態では、2分割型)からなる。すなわち、本実施形態では、金型21は、固定型21aと可動型21bとからなり、これら固定型21aと可動型21bとが、後述の如く型締装置20により型締めされた状態で、これらの互いの合わせ面間にキャビティ21cが形成される。そして、スクリュー13が計量モータ15によって回転しながら、射出モータ19によって前進することで、予め決められた量の溶融樹脂が上記キャビティ21c内に射出される。1回の溶融樹脂の射出を1ショットとして、通常は、複数のショットが繰り返し行われ、そのショットの時間間隔は、予め決められた一定時間に設定されている。
【0019】
上記型締装置20は、上記固定型21aが着脱自在に取り付けられた固定プラテン22と、上記可動型21bが着脱自在に取り付けられた可動プラテン21bとを有する。固定プラテン22と可動プラテン23とは、タイバー25によって互いに連結されている。可動プラテン23は、タイバー25に沿って摺動可能に構成されていて、固定プラテン22に対して接近したり離れたりする。
【0020】
また、型締装置20は、一端部が可動プラテン23に連結されかつ他端部がトグルサポート26に連結されたトグル機構27を更に有する。トグルサポート26の中央部には、ボールねじ軸29が回転自在に支持されている。このボールねじ軸29のトグル機構27側の端部(図1の右側端部)は、トグル機構27に設けられたクロスヘッド30に形成された雌ねじ部31に螺合している。一方、ボールねじ軸29のトグル機構27とは反対側の端部(図1の左側端部)は、タイミングベルト34を介して、型締モータ35の出力軸に連結されている。
【0021】
上記型締モータ35が駆動されると、型締モータ35の出力軸の回転がタイミングベルト34を介してボールねじ軸29に伝達され、ボールねじ軸29及び雌ねじ部31によって、ボールねじ軸29の回転がクロスヘッド30の直線移動に変換されて、トグル機構27が作動する。このトグル機構27の作動により、可動プラテン23がタイバー25に沿って移動して、型閉じ、型締め及び型開きが行われる。
【0022】
上記計量モータ15、射出モータ19及び型締モータ35の駆動は、後述のコントローラ40(詳しくは、後述の射出成形機制御回路部46)によって制御されて、射出成形機1(金型21)により製品が成形されることになる。
【0023】
図2に示すように、上記金型21(固定型21a)は、ホットランナー部21dを有しており、このホットランナー部21dから溶融樹脂がキャビティ21c内に射出される。ホットランナー部21dを構成する周壁部21eの外側には、ホットランナー部21dにおける樹脂(溶融樹脂)を加熱する円筒状のヒータ51が設けられている。
【0024】
上記周壁部21eには、第1の樹脂温度検出手段としての第1の樹脂温度検出センサ52と、第2の樹脂温度検出手段としての第2の樹脂温度検出センサ53とが設けられている。上記第1の樹脂温度検出センサ52は、ホットランナー部21dの出口部(ノズル部)における樹脂の温度を検出するためのものである。本実施形態では、第1の樹脂温度検出センサ52は、ホットランナー部21dの出口部における上記周壁部21eに設けられて、該出口部における周壁部21eの温度を検出することにより、ホットランナー部21dの出口部における樹脂の温度を間接的に検出する。
【0025】
上記第2の樹脂温度検出センサ53は、ホットランナー部21dの出口部以外の部分における樹脂の温度を検出するためのものである。本実施形態では、第2の樹脂温度検出センサ53は、ホットランナー部21dの入口部と出口部との間である中間部における上記周壁部21eに設けられて、該中間部における周壁部21eの温度を検出することにより、ホットランナー部21dの中間部における樹脂の温度を間接的に検出する。
【0026】
上記中間部としては、該中間部における樹脂の温度が、ホットランナー部21dの全樹脂の平均温度となるような部分(通常、ホットランナー部21dの長さ方向の中央ないしその近傍)が好ましい。尚、第2の樹脂温度検出センサ53が、ホットランナー部21dの入口部における樹脂の温度を検出するものであってもよく、この場合には、ホットランナー部21dの入口部における周壁部21eの温度を検出するようにすればよい。
【0027】
図3に示すように、金型温度制御装置Aは、上記金型21のホットランナー部21dの樹脂の温度(つまり上記ヒータ51)を制御するコントローラ40を備えている。このコントローラ40は、周知のマイクロコンピュータをベースとするものであって、プログラムを実行する中央算出処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラムおよびデータを格納するメモリと、種々の信号の入出力を行うための入出力(I/O)バスとを含む。
【0028】
上記ヒータ51は、コントローラ40のヒータ制御部41により制御されるようになっている。このヒータ制御部41には、上記第1の樹脂温度検出センサ52により検出された樹脂温度、及び、上記第2の樹脂温度検出センサ53により検出された樹脂温度のいずれか一方が、切換スイッチ48を介して入力され、該入力された、第1又は第2の樹脂温度検出センサ52,53による検出樹脂温度に基づいて、後述の如くヒータ51(詳しくは、ヒータ51への供給電力を調節する、例えば図示省略のインバータ等からなる電力調整部)を制御する。尚、上記切換スイッチ48の動作については、後に詳細に説明する。
【0029】
コントローラ40には、ヒータ制御部41の他に、更にカレンダタイマ45、射出成形機制御回路部46及び切換スイッチ48が設けられている。
【0030】
コントローラ40の上記メモリには、予め、射出成形機1を運転する曜日と、運転開始時刻と、運転停止時刻とが入力されて記憶されている。そして、カレンダタイマ45は、射出成形機1を運転する曜日の運転開始時刻になったときに、成形機停止信号の出力を停止して、成形機運転信号を射出成形機制御回路部46へ出力する。この成形機運転信号の出力は、同じ曜日の運転停止時刻になるまで継続し、運転停止時刻になったときに、成形機運転信号の出力を停止して、成形機停止信号を射出成形機制御回路部46へ出力する。この成形機停止信号の出力は、次の、射出成形機1を運転する曜日の運転開始時刻になるまで継続する。
【0031】
射出成形機制御回路部46は、カレンダタイマ45からの成形機運転信号を入力している間は、上記の如く、計量モータ15、射出モータ19及び型締モータ35の駆動を制御して、射出成形機1を運転し、成形機停止信号を入力している間は、射出成形機1の運転を停止する。また、射出成形機制御回路部46は、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているとき(つまり、射出モータ19によってスクリュー13を前進させているとき)には、射出運転信号を切換スイッチ48へ出力し、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないときには、切換スイッチ48への射出運転信号の出力が停止される。
【0032】
切換スイッチ48は、ヒータ制御部41と接続されたc端子を、a端子に接続するか又はb端子に接続するかを切り換える。切換スイッチ48のa端子には、第1の樹脂温度検出センサ52による検出樹脂温度が入力され、b端子には、第2の樹脂温度検出センサ53による検出樹脂温度が入力される。そして、切換スイッチ48は、上記射出成形機制御回路部46から射出運転信号を入力しているときには、c端子をa端子に接続した状態に切り換え、射出運転信号を入力していないときには、c端子をb端子に接続した状態に切り換える。これにより、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているときには、第1の樹脂温度検出センサ52による検出樹脂温度がヒータ制御部41に入力され、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないときには、第2の樹脂温度検出センサ53による検出樹脂温度がヒータ制御部41に入力されることになる。尚、切換スイッチ48は、ハードで構成したものに限らず、ソフトウエアで構成することも可能である。
【0033】
ヒータ制御部41は、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているとき(切換スイッチ48が射出成形機制御回路部46から射出運転信号を入力しているとき)には、第1の樹脂温度検出センサ52により検出される樹脂温度が、予めコントローラ40の上記メモリに入力して記憶しておいた所定温度となるようにヒータ51に対する第1の制御量を算出して、該第1の制御量でもって該ヒータ51をフィードバック制御する(本実施形態では、PID制御を行う)。上記所定温度は、キャビティ21c内に射出された溶融樹脂が気化したり早期に(キャビティ21c全体に行き渡る前に)固化したりしないような温度である。
【0034】
一方、ヒータ制御部41は、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないとき(切換スイッチ48が射出成形機制御回路部46から射出運転信号を入力していないとき)には、第2の樹脂温度検出センサ53により検出される樹脂温度が、上記所定温度となるようにヒータ51に対する第2の制御量を算出して、該第2の制御量でもって該ヒータ51をフィードバック制御する(本実施形態では、PID制御を行う)。ヒータ制御部41の制御自体は、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているときも、射出されていないときも同じであるが、切換スイッチ48により、ヒータ制御部41に入力される検出樹脂温度が変わることで、第1の制御量と第2の制御量とが異なることになる。
【0035】
ここで、コントローラ40の制御動作について、図4及び図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0036】
最初のステップS1で、作業者の操作により起動ボタンがONになったか否かを判定する。この起動ボタンがONになることで、コントローラ40の以下の処理動作が行われ、起動ボタンがONになるまでは、ステップS1の処理動作を繰り返す。
【0037】
起動ボタンがONになってステップS1の判定がYESになると、ステップS2に進んで、カレンダタイマ45が、射出成形機1を運転する曜日であるか否かを判定する。このステップS2の判定がNOであるときには、ステップS2の処理動作を繰り返し、ステップS2の判定がYESになると、ステップS3に進む。
【0038】
ステップS3では、カレンダタイマ45が、射出成形機1を運転する時刻(上記運転開始時刻と上記運転停止時刻との間の時刻)であるか否かを判定する。このステップS3の判定がNOであるときには、ステップS3の処理動作を繰り返し、ステップS3の判定がYESになると、ステップS4に進む。
【0039】
ステップS4では、カレンダタイマ45が成形機停止信号の出力を停止し、次のステップS5では、射出成形機制御回路部46が成形機停止信号の出力を停止する。
【0040】
次のステップS6では、カレンダタイマ45が成形機運転信号を出力し、次のステップS7では、射出成形機制御回路部46が成形機運転信号を出力し、次のステップS8では、射出成形機制御回路部46が射出成形機1の運転動作を開始する。
【0041】
次のステップS9では、射出成形機制御回路部46が、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているときであるか否か(樹脂の射出中であるか否か)を判定し、このステップS9の判定がNOであるときには、ステップS12に進む一方、ステップS9の判定がYESであるときには、ステップS10に進む。
【0042】
ステップS10では、射出成形機制御回路部46が、射出運転信号を切換スイッチ48へ出力し、次のステップS11で、ヒータ制御部41が、第1の樹脂温度検出センサ52による検出樹脂温度を入力し、しかる後、ステップS12に進む。
【0043】
ステップS12では、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないときであるか否か(樹脂の非射出中であるか否か)を判定し、このステップS12の判定がNOであるときには、ステップS15に進む一方、ステップS12の判定がYESであるときには、ステップS13に進む。
【0044】
ステップS13では、射出成形機制御回路部46が、切換スイッチ48への射出運転信号の出力を停止し、次のステップS14で、ヒータ制御部41が、第2の樹脂温度検出センサ53による検出樹脂温度を入力し、しかる後、ステップS15に進む。
【0045】
ステップS15では、ヒータ制御部41が、上記ステップS11又はS14で入力した検出樹脂温度と、上記メモリに記憶されている上位所定温度とに基づいて、上記第1又は第2の制御量を演算し、次のステップS16で、ヒータ制御部41が、その第1又は第2の制御量をヒータ51(電力調整部)へ出力する。
【0046】
次のステップS17では、作業者が操作して射出成形機1を強制的に停止させるための停止ボタンがONになったか否かを判定し、このステップS17の判定がNOであるときには、ステップS18に進む一方、ステップS17の判定がYESであるときには、ステップS20に進む。
【0047】
ステップS18では、カレンダタイマ45が、射出成形機1を運転する時刻(上記運転開始時刻と上記運転停止時刻との間の時刻)であるか否かを判定する。このステップS18の判定がYESであるときには、上記ステップS9に戻って、ステップS9〜S18の処理動作を繰り返す。一方、ステップS18の判定がNOであるときには、ステップS19に進んで、射出成形機運転終了処理を実行し、しかる後に、上記ステップS2に戻る。
【0048】
上記ステップS17の判定がYESであるときに進むステップS20においても、射出成形機運転終了処理を実行し、しかる後に、コントローラ40の制御動作を終了する。
【0049】
上記ステップS19及びS20における射出成形機運転終了処理の詳細を、図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
すなわち、ステップS41で、カレンダタイマ45が成形機運転信号の出力を停止し、次のステップS42では、射出成形機制御回路部46が成形機運転信号の出力を停止する。
【0051】
次のステップS43では、カレンダタイマ45が成形機停止信号を出力し、次のステップS44では、射出成形機制御回路部46が成形機停止信号を出力し、次のステップS45では、射出成形機制御回路部46が、切換スイッチ48への射出運転信号の出力を停止し、次のステップS46では、射出成形機制御回路部46が射出成形機1の運転動作を停止し、しかる後にリターンする。
【0052】
射出成形機1の運転を停止しているときも、ホットランナー部21dにおける樹脂は上記所定温度になるようにヒータ制御部41によりフィードバック制御される。その際、射出成形機制御回路部46が、切換スイッチ48への射出運転信号の出力を停止している(ステップS45)ので、ヒータ制御部41は、上記第2の制御量でもって該ヒータ51をフィードバック制御する。
【0053】
上記コントローラ40の制御動作により、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているときには、ホットランナー部21dにおいてキャビティ21cに最も近い出口部における樹脂の温度に基づいてヒータ51をフィードバック制御するので、キャビティ21c内に射出される樹脂の温度が正確に所定温度に維持される。一方、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないとき(射出成形機1の運転を停止しているときも含む)に、上記出口部における樹脂の温度に基づいてヒータ51をフィードバック制御するようにすると、ホットランナー部21dの出口部における樹脂の温度は、キャビティ21c内の溶融樹脂が固化したときや、型開きにより成形品を取り出したときに、ホットランナー部21dの出口部以外の部分における樹脂の温度よりも低くなる傾向にあるため、ホットランナー部21dの樹脂(ホットランナー部21dに滞留している溶融樹脂)を加熱し過ぎる可能性が高くなる。しかし、本実施形態では、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないときには、ホットランナー部21dの中間部における樹脂の温度に基づいてヒータ51をフィードバック制御するので、ホットランナー部21dの樹脂を加熱し過ぎるようなことはなくなる。よって、成形品の品質を向上させることができる。
【0054】
尚、上記実施形態1では、第2の樹脂温度検出センサ53を、ホットランナー部21dの中間部における上記周壁部21eに設けたが、周壁部21eに限らず、例えば図7に示すように、ヒータ51の径方向外側における金型21内の上記中間部(又はホットランナー部21dの入口部)に対応する部分であってもよい(後述の実施形態2においても同様)。この場合、第2の樹脂温度検出センサ53による樹脂温度の検出精度が、実施形態1の場合よりも劣ることになるが、上記の如く、第2の樹脂温度検出センサ53は、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているときに使用されるものではなく、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないときに、ホットランナー部での滞留樹脂の過加熱を防止できればよいので、大きな問題はない。
【0055】
また、キャビティ21c内に射出される樹脂温度をより正確に所定温度にする観点からは、第1の樹脂温度検出センサ52を、ホットランナー部21dの出口部における樹脂の温度を直接検出する構成にしてもよい。勿論、第2の樹脂温度検出センサ53も、このように構成してもよい。これらのことは、後述の実施形態2においても適用できる。
【0056】
(実施形態2)
図8及び図9は、本発明の実施形態2を示し、コントローラ40の構成を上記実施形態1とは異ならせるとともに、ホットランナー部21dに第3の樹脂温度検出センサ54を設けるようにしたものである。尚、図2及び図3と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0057】
本実施形態では、ホットランナー部21dの出口部における周壁部21eに第1の樹脂温度検出センサ52が設けられ、ホットランナー部21dの中間部における周壁部21eに第2の樹脂温度検出センサ53が設けられていることに加えて、ホットランナー部21dの入口部における周壁部21eに第3の樹脂温度検出センサ54が設けられている。
【0058】
第3の樹脂温度検出センサ54は、ホットランナー部21dの入口部における周壁部21eに設けられて、該入口部における周壁部21eの温度を検出することにより、ホットランナー部21dの入口部における樹脂の温度を間接的に検出する。尚、第3の樹脂温度検出センサ54を、ホットランナー部21dの入口部における樹脂の温度を直接検出する構成にしてもよい。
【0059】
コントローラ40のヒータ制御部41及び切換スイッチ48は、上記実施形態1と同様に動作する。すなわち、ヒータ制御部41は、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているとき(切換スイッチ48が射出成形機制御回路部46から射出運転信号を入力しているとき)には、第1の樹脂温度検出センサ52により検出される樹脂温度が、上記所定温度となるようにヒータ51に対する第1の制御量を算出する一方、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されていないとき(切換スイッチ48が射出成形機制御回路部46から射出運転信号を入力していないとき)には、第2の樹脂温度検出センサ53により検出される樹脂温度が、上記所定温度となるようにヒータ51に対する第2の制御量を算出する。
【0060】
本実施形態では、コントローラ40は、ヒータ制御部41により算出された上記第1及び第2の制御量を補正して、該補正後の第1及び第2の制御量をヒータ51(電力調整部)へ出力する補正部61を更に有する。
【0061】
具体的に、補正部61は、第1の樹脂温度検出センサ52による検出樹脂温度を入力して後述の如く補正量Aを演算する第1の演算部61aと、第2の樹脂温度検出センサ53による検出樹脂温度を入力して後述の如く補正量Bを演算する第2の演算部61bと、第3の樹脂温度検出センサ54による検出樹脂温度を入力して後述の如く補正量Cを演算する第3の演算部61cと、上記第1及び第2の制御量に、上記補正量Aと上記補正量Bと上記補正量Cとを加算する加算演算部61dとを有する。
【0062】
第1の演算部61aは、第1の樹脂温度検出センサ52による検出樹脂温度T1と上記所定温度Tとの差に応じた補正量Aを、
A=Ka・K1・(T−T1)
により演算する。
【0063】
第2の演算部61bは、第2の樹脂温度検出センサ53による検出樹脂温度T2と上記所定温度Tとの差に応じた補正量Bを、
B=Kb・K2・(T−T2)
により演算する。
【0064】
第3の演算部61cは、第3の樹脂温度検出センサ54による検出樹脂温度T3と上記所定温度Tとの差に応じた補正量Cを、
C=Kc・K3・(T−T3)
により演算する。
【0065】
K1,K2,K3は、それぞれの樹脂温度検出センサ52,53,54による検出樹脂温度T1,T2,T3からそれぞれ求めた加熱補正量を、上記第1及び第2の制御量の単位と同じにするための換算係数である。
【0066】
Ka,Kb,Kcは、予め上記メモリに入力して記憶しておいた重み付け係数であり、加算演算部61dは、第1及び第2の制御量に、補正量A,B,Cを重み付け加算することになる。本実施形態では、Kcの値が最も大きく、Kaの値が最も小さい。これは、特に、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているときに、ホットランナー部21dに新たに入り込んできた樹脂の温度を、ヒータ51の制御に即座に反映させるためである。尚、Kaの値を0にするか、又は、第1の演算部61aをなくして、第1及び第2の制御量に、上記補正量Bと上記補正量Cとを加算するようにしてもよい。また、第1の制御量のみを補正して、第2の制御量を補正しないようにしてもよい。
【0067】
本実施形態におけるコントローラ40の制御動作は、基本的に上記実施形態1と同様であり、図5のステップS16とS17との間に、補正部61が、ヒータ制御部41が出力した第1及び第2の制御量を補正する、という補正ステップが挿入される点が異なる。
【0068】
したがって、本実施形態2では、特に、ホットランナー部21dにおける樹脂がキャビティ21c内に射出されているときに、キャビティ21c内に射出される樹脂の温度をより一層正確に所定温度にすることが可能になる。すなわち、ホットランナー部21dの出口部における樹脂の温度に基づいてヒータ51をフィードバック制御する場合、フィードバック制御の遅れから、ホットランナー部21dに新たに入り込んでくる樹脂の加熱が遅れて早期に所定温度にすることが困難になる。しかし、本実施形態では、特に、ホットランナー部21dの入口部及び中間における樹脂の温度をヒータ51の制御に即座に反映させることができる。つまり、上記出口部における樹脂の温度に基づくヒータ51のフィードバック制御に加えて、上記入口部及び中間部(並びに上記出口部)における樹脂の温度に基づくフィードフォワード制御を行うことができ、よって、フィードバック制御の遅れを解消して、キャビティ21c内に射出される樹脂の温度をより一層正確にかつ早期に所定温度にすることが可能になる。
【0069】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0070】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、ホットランナー部を有する射出成形用金型の該ホットランナー部における樹脂の温度を、所定温度に制御する、射出成形用金型の温度制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0072】
A 金型温度制御装置
21 金型
21d ホットランナー部
41 ヒータ制御部
51 ヒータ
52 第1の樹脂温度検出センサ(第1の樹脂温度検出手段)
53 第2の樹脂温度検出センサ(第2の樹脂温度検出手段)
54 第3の樹脂温度検出センサ(第3の樹脂温度検出手段)
61 補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットランナー部を有する射出成形用金型の該ホットランナー部における樹脂の温度を、所定温度に制御する、射出成形用金型の温度制御装置であって、
上記ホットランナー部の出口部における樹脂の温度を検出するための第1の樹脂温度検出手段と、
上記ホットランナー部の出口部以外の部分における樹脂の温度を検出するための第2の樹脂温度検出手段と、
上記ホットランナー部における樹脂を加熱するヒータと、
上記ヒータを制御するヒータ制御部とを備え、
上記ヒータ制御部は、上記ホットランナー部における樹脂が上記金型のキャビティ内に射出されているときには、上記第1の樹脂温度検出手段により検出される樹脂温度が上記所定温度となるように上記ヒータに対する第1の制御量を算出して、該第1の制御量でもって該ヒータをフィードバック制御する一方、上記ホットランナー部における樹脂が上記キャビティ内に射出されていないときには、上記第2の樹脂温度検出手段により検出される樹脂温度が上記所定温度となるように上記ヒータに対する第2の制御量を算出して、該第2の制御量でもって該ヒータをフィードバック制御するよう構成されていることを特徴とする射出成形用金型の温度制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の射出成形用金型の温度制御装置において、
上記第2の樹脂温度検出手段は、ホットランナー部の入口部と出口部との間である中間部における樹脂の温度を検出するよう構成され、
上記ホットランナー部の入口部における樹脂の温度を検出するための第3の樹脂温度検出手段と、
上記第1及び第2の制御量のうち少なくとも上記第1の制御量を補正する補正部とを更に備え、
上記補正部は、上記第1の制御量に、少なくとも、上記第2の樹脂温度検出手段により検出された樹脂温度と上記所定温度との差に応じた補正量と、上記第3の樹脂温度検出手段により検出された樹脂温度と上記所定温度との差に応じた補正量と、を加算することで、上記第1の制御量を補正するよう構成されていることを特徴とする射出成形用金型の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−171128(P2012−171128A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33164(P2011−33164)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】