説明

導電性フィルムおよびその製造方法

【課題】
本発明は、導電性、透明性、耐摩耗性に優れ、かつCNTが塗膜(導電層)内に濃度傾斜構造を有する導電性フィルムを従来の製造コストよりも安価に提供することにある。
【解決手段】
本発明は、以下の構成を有する。すなわち、
(1)熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片側に、カーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)を含有する導電層が設けられた導電性フィルムであって、
該導電層の熱可塑性樹脂側とは反対側の表面から厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有量Wが2.5重量%以上20.0重量%未満を満たす導電性フィルム。
ただし、W(重量%)=100×W2/W1であり、W1は導電層全体に含まれるカーボンナノチューブの含有重量であり、W2は熱可塑性樹脂側とは反対側の導電層表面から該導電層の厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有重量である。
(2) (1)に記載の導電性フィルムの製造方法であって、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、カーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)と溶媒(E)を含有したカーボンナノチューブ塗液を塗布し、該塗布された熱可塑性樹脂フィルムを一軸または二軸延伸し、溶媒(E)の沸点より高い温度で熱処理を施し、熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させるとともに導電層を設ける導電性フィルムの製造方法、
である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下、CNTと略す。)を用いてなる導電性フィルムに関するものであり、更に詳しくは、CNT分散液を基板たる熱可塑性樹脂フィルム上に塗布することにより作製できる導電層を有する導電性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CNTを含有する材料を用いて、帯電防止性、導電性、熱伝導性および電磁波シールド性等の機能を有する材料の開発が盛んに行われている。例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル又はポリイミド等のポリマー、あるいはガラスやセラミックス材料等の無機材料などをマトリックスとして用いて、これらのマトリックス中にCNTを分散させることによって、帯電防止、導電性、熱伝導性および電磁波シールド性等の機能を有する複合材およびこの複合材を積層した積層体に関する検討が数多く行われている。
【0003】
CNTには、1つのグラフェン層からなる単層ナノチューブや複数のグラフェン層から構成される多層ナノチューブなどがあるが、アスペクト比が極めて大きく、極めて直径が小さいという構造上の特性を活かし、且つ透明性と導電性、その他の物性を発現させるためには極めて高いレベルで微分散、究極的には単分散させる必要がある。特に複合材を他の素材上へ積層する場合には、他の素材の光学特性などへの影響が及ばないように複合材内のCNTは必要最小限の量を高いレベルで微分散させる必要がある。
【0004】
またコーティングによってCNTの特性を活かすためには基板上に微分散されたCNTのネットワーク構造を形成させる必要がある。これによりCNTの使用量が極めて少ない場合でも高い透明性と導電性を発現させることが可能であると期待されている。
これまでもCNTを用いた導電層をフィルム上に塗布する等の方法で導電性フィルムを作製する方法が公知となっている。しかし、これらの公知技術、例えば、特許文献1では所望の導電性を付与させるために塗膜厚が極端に厚くなってしまい、導電性基板として加工性や透明性を無視したものになっている。また、特許文献2では導電層内のCNTの導電性を維持させるために、共役重合体系の導電性高分子をバインダー樹脂として用いているが、本来CNTが有している導電特性が活かされておらず、導電性フィルムとしては極めて抵抗値が高くなってしまっている。特許文献3では、CNTの導電特性を発揮させるため導電性フィルムの製造工程が複雑になってしまい、生産性や経済性に問題がある。さらに特許文献4では導電層内のCNT含有量を表面層から基材へと順次減少させた塗膜構造となっているが、CNT本来の導電特性が発揮されておらず、また製造工程数が大幅に増加してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−67209号公報
【特許文献2】特開2004−195678号公報
【特許文献3】特開2007−112133号公報
【特許文献4】特開2006−35774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
つまり、これまでの従来のコーティングによる積層では、バインダー樹脂がCNTの導電性を阻害したり、CNTが凝集を起こしCNT間の導電経路が確保できないなどCNTの本来の特性を発現させることが困難であった。加えて、製造工程の複雑化による生産性の低下などの課題があった。
【0007】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を改良し、導電性、透明性、耐摩耗性に優れ、導電性フィルムを従来の製造コストよりも安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。すなわち、
(1)熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片側に、カーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)を含有する導電層が設けられた導電性フィルムであって、
該導電層の熱可塑性樹脂側とは反対側の表面から厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有量Wが2.5重量%以上20.0重量%未満を満たす導電性フィルム。
ただし、W(重量%)=100×W2/W1であり、W1は導電層全体に含まれるカーボンナノチューブの含有重量であり、W2は熱可塑性樹脂側とは反対側の導電層表面から該導電層の厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有重量である。
【0009】
(2) (1)に記載の導電性フィルムの製造方法であって、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、カーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)と溶媒(E)を含有したカーボンナノチューブ塗液を塗布し、該塗布された熱可塑性樹脂フィルムを一軸または二軸延伸し、溶媒(E)の沸点より高い温度で熱処理を施し、熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させるとともに導電層を設ける導電性フィルムの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性フィルムは、導電性を向上させ、且つ樹脂やバインダー樹脂より耐摩耗性を付与させることができる。よって、導電性、透明性、耐摩耗性に優れることから、これらの特性が要求される種々の用途に好適に用いることができる。また、本発明のフィルムは、従来に較べより簡便な方法で得ることができるため、より安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の導電性フィルムの断面図の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の導電性フィルムについて詳細に説明する。
【0013】
本発明の導電性フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に導電層を有するフィルムであって、該導電層がカーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)、および適宜バインダー樹脂(C)を含有していることが必要である。
【0014】
(1)熱可塑性樹脂フィルム
本発明でいう熱可塑性樹脂フィルムとは、熱可塑性樹脂を用いてなり、熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称であって、特に限定されるものではない。熱可塑性樹脂の例として、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンフィルムなどのポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリレート樹脂やポリスチレン樹脂などのアクリル樹脂、ナイロン樹脂などのポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂はモノポリマーでも共重合ポリマーであってもよい。また、複数の樹脂を用いても良い。
これらの熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性樹脂フィルムの代表例として、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメタクリレートフィルムやポリスチレンフィルムなどのアクリル系フィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリウレタンフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを挙げることができる。
【0015】
これらのうち、機械的特性、寸法安定性、透明性などの点で、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルムなどが好ましく、更に、機械的強度、汎用性などの点でポリエステルフィルムが特に好ましい。
【0016】
そこで、以下、本発明において、熱可塑性樹脂フィルムとして特に好適に用いられるポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂について詳しく説明する。
【0017】
まず、ポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン−2,6−ナフタレート、エチレン−α,β−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4‘−ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主要構成成分とするものを好ましく用いることができる。これらの構成成分は1種のみを用いても、2種以上併用してもよいが、中でも品質、経済性などを総合的に判断すると、エチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。すなわち、本発明では、熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。また熱可塑性樹脂フィルムに熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。これらのポリエステルには、更に他のジカルボン酸成分やジオール成分が一部、好ましくは20モル%以下含まれていてもよい。
【0018】
上述したポリエステルの極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は、0.4〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲にあるのもが本発明を実施する上で好適である。
【0019】
上記ポリエステルを使用したポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、一般に、未延伸状態のポリエステルシート又はフィルムを長手方向および長手方向に直行する幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸され、その後、熱処理を施されて、結晶配向が完了されたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。熱可塑性樹脂フィルムが二軸配向していない場合には、導電性フィルムの熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が不十分であったり、平面性の悪いものとなるので好ましくない。
【0020】
また、熱可塑性樹脂フィルム中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0021】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10〜500μm、より好ましくは38〜250μm、最も好ましくは75〜150μmである。また、熱可塑性樹脂フィルムは、共押出しによる複合フィルムであってもよいし、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせたフィルムであっても良い。
【0022】
(2)導電層厚み方向におけるカーボンナノチューブ(A)の含有量の分布
本発明のフィルムは、上記熱可塑性フィルムの少なくとも片側にカーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)を含有する導電層が設けられていることが必要である。そして、該導電層の熱可塑性樹脂側とは反対側の表面から厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有量Wが2.5重量%以上20.0重量%未満である必要がある。ただし、W(重量%)=100×W2/W1であり、W1は導電層全体に含まれるカーボンナノチューブの含有重量であり、W2は熱可塑性樹脂側とは反対側の表面から厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有重量である。カーボンナノチューブの含有量Wは、10.0重量%以上18.0重量%未満であればより好ましい。カーボンナノチューブの含有量Wを上記数値範囲内とすることにより、導電層表面部に存在するカーボンナノチューブによっての導電層表面への導電性付与が可能となり、含有量Wが20.0重量%未満とすることで、カーボンナノチューブは樹脂(D)に固定され、また樹脂(D)の易滑性によって導電層表面に耐摩耗性を付与することができる。カーボンナノチューブの含有量Wを上記数値範囲内とするための具体的達成手段は、後述する。
【0023】
(3)カーボンナノチューブ(A)
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略す。)とは炭素原子だけで構成されたハニカム構造のグラフェンシートが円筒状に丸まったシームレス(継ぎ目のない)チューブの総称であり、実質的にグラフェンシートを1層に巻いたものを単層CNT、2層に巻いたものを2層CNT、3層以上の多層に巻いたものを多層CNTという。本発明に用いられるCNT(A)は、直線又は屈曲形の単層CNT、直線又は屈曲形の2層CNT、直線又は屈曲形の多層CNTのいずれか、又は、それらの組み合わせたものであることが好ましい。
【0024】
なお、ハニカム構造とは、主として六員環からなるネットワーク構造を指すが、CNTの構造上、チューブの屈曲部分や断面の閉塞部分に五員環や七員環などの六員環以外の環状構造を有していても良い。
【0025】
さらにこれらのCNTの中でも、導電性の点から、直線および/または屈曲形の2層CNTを用いるのが好ましく、より好ましくは直線の2層CNTを用いることである。2層CNTは、単層CNTと比較し、同等の優れた導電性を有しつつ、溶媒中への分散性や耐久性、製造コストの点で優れている。さらに外側の層を化学修飾して官能基を付与したり、親和性の高い溶媒を表面吸着させた場合には、外側の層は部分的に壊れたり、外側の層に由来する導電性が低減することがあり得るが、内側の層は変質されずに残るため、CNTとしての特性(特に導電性)を維持したまま溶媒や樹脂との親和性を付与することができる。また、2層CNTは、多層CNTと比較し、同等の分散性や製造コストである一方、圧倒的に高い導電性を有している。
【0026】
また、使用するCNTは直径が1nm以上であることが好ましい。また、CNTの直径は50nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下である。直径が50nmを超えるとCNTは3層以上の多層構造となり、導電経路が層間で発散してしまい導電性が低下することがあり、好ましくない。また、この場合、直径が50nm以下のCNTと同等の導電性を発現させようとすると多量のCNTが必要となり、導電性フィルムの透明性が極端に損なわれるばかりでなく、制限無く量を増やしても、十分な導電性を達成できない場合がある。さらには、CNTの直径が50nm以上であると、導電層の接着性や耐摩耗性を低下せしめることがある。単層CNTや2層CNTを用いる場合はその構造上、直径は20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であることが、導電性の観点から好ましい。直径が1nm未満のCNTは、製造することが困難である。
【0027】
使用するCNTのアスペクト比は100以上であることが好ましい。アスペクト比を100以上とすることにより、導電層の導電性を高めることができる。導電層の形成において、後述するインラインコーティング法を用いた場合、延伸工程にてCNTが適度にほぐれ、CNT間の導電経路が切れることなく、またCNT間に十分な隙間を確保したネットワークを形成させることができるためである。かかるネットワーク構造が形成されると、フィルムの透明度を高めつつ、良好な導電特性を発現させることができる。また、CNTのアスペクト比は5000以下であることが好ましい。アスペクト比を5000以下にすることにより、CNTを安定的に溶媒中へ分散させることが可能となる。したがって、本発明では、CNTは直径が50nm以下またはアスペクト比が100以上であることが好ましい。より好ましくは、直径が50nm以下かつアスペクト比が100以上である。さらに好ましくは、使用するCNTの直径が1nm以上、50nm以下かつアスペクト比が100以上、5000以下であり、特に好ましくは、使用するCNTの直径が1nm以上、10nm以下かつアスペクト比が100以上、5000以下である。CNTの直径やアスペクト比を上記範囲内とすることにより、CNTの導電性に優れ、分散剤などを用いることにより水などの溶媒への分散が可能となる。
【0028】
なお、アスペクト比とは、CNTの長さ(nm)をCNTの直径(nm)で除したもの(CNTの長さ(nm)/CNTの直径(nm))である。 かかる特性を有するCNTは、化学的蒸着堆積法、触媒気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法などの公知の製造方法により得られる。CNTを作製する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生成物として生成され、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存するので、これらの不純物を除去し精製するのが好ましい。不純物の除去には、硝酸、硫酸などの酸処理とともに超音波分散処理が有効であり、またフィルターによる分離を併用することは純度を向上させる上でさらに好ましい。
【0029】
本発明で用いられる該導電層中のCNT(A)の組成重量比率(導電層中の(A)および後述する(C)の含有量の合計を100重量部とする)は50.0重量部以上100.0重量部以下であることが好ましい。より好ましくは80.0重量部以上90.0重量部以下である。50.0重量部以上とすることにより、導電性フィルムの表面比抵抗値を5.0×10Ω/□以下にすることが容易となり、かつCNTの含有量Wを上記好適数値範囲内とすることができる。
【0030】
(4)樹脂(D)
本発明において、導電層に含有せしめられる樹脂(D)は特に限定されるものではないが、CNT塗液を塗布、乾燥する際に導電層最表層に濃度傾斜を起こしCNTの含有量Wを上記好適数値範囲内とするために樹脂(D)として濡れ張力が40mN/m以下の樹脂を用いることが好ましい。より好ましくは30mN/m以下である。樹脂(D)の濡れ張力を40mN/m以下とすることにより、CNTや後述するバインダー樹脂(C)との濡れ張力の差を20mN/m以上とすることができ、結果として、CNTの含有量Wを上記好適数値範囲内とすることができるためである。この樹脂(D)の効果を説明する。導電層の他成分と相対的に濡れ張力の低い樹脂(D)は、その濡れ張力差、すなわち表面自由エネルギー差から、熱可塑性樹脂側とは反対側の導電層表面から該導電層の厚み方向25%までの領域に偏在する挙動を示す。すると間接的に熱可塑性樹脂側から厚み方向75%以内の導電層領域へCNTが偏在しCNT同士の接触面積を増やし、導電性を向上させることができる。
【0031】
本発明では、樹脂(D)として、炭素数が12以上のアルキル鎖を有するアクリル系樹脂、フッ素樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる1以上の樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
炭素数が12以上のアルキル鎖を有するアクリル系樹脂(以下、「長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂」と略す。)としては、例えば炭素数12以上のアルキル基を側鎖に持つアクリル系モノマー(d1)からなるアクリル系樹脂や、炭素数12以上のアルキル基を側鎖に持つアクリル系モノマー(d1)と、該アクリル系モノマーと共重合可能なアクリル系モノマー(d2)との共重合アクリル系樹脂が挙げられる。
【0033】
共重合アクリル系樹脂を用いる場合、炭素数12以上のアルキル基を側鎖に持つアクリル系モノマー(d1)の共重合比率は、(共重合するために用いられる長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂中の(d1)および後述する(d2)の量の合計を100重量%とする)35重量%以上であることが好ましい。なお、該共重合量はより好ましくは35重量%以上85重量%以下、さらに好ましくは60重量%以上80重量%以下であり、濡れ張力の低減や共重合化などの点で好ましい。
【0034】
このような炭素数が12以上のアルキル鎖(以下、「長鎖アルキル基」と略す。)を側鎖に持つアクリル系モノマー(d1)としては、上記の要件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸テトラデシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸ヘプタデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ノナデシル、アクリル酸エイコシル、アクリル酸ヘンエイコシル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸トリコシル、アクリル酸テトラコシル、アクリル酸ペンタコシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸エイコシル、メタクリル酸ペンタコシルなどの長鎖アルキル基を有するアクリル系モノマーが用いられる。
【0035】
また、本発明の長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂の長鎖アルキル基の炭素数は12以上である必要がある。炭素数を12以上にすることで、導電層形成時に導電層の熱固化を容易に行うことができ、後述するバインダー樹脂(C)との濡れ張力の差を20mN/m以上とすることができる。長鎖アルキル基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが25以下であることが入手容易性の点から好ましい。炭素数が25を超えるものについては工業的に容易に入手することが困難であるためである。また、長鎖アルキル基の炭素数は、18以上22以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明で用いる長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂は、環境面の配慮から、水系の塗剤を用いることが好ましく、例えば、エマルション化するために、他の共重合可能なアクリル系モノマー(d2)としては、C=OやC=C結合を有する下記のアクリル系モノマーやビニル系モノマーを用いることができる。モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−ブトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトニル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、スチレン、イタコン酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエシルリン酸エステル、ビニルスルホン酸ソーダ、スチレンスルホン酸ソーダ、無水マレイン酸などを用いることができる。
【0037】
好ましい長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂(D)としては、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレートおよびベヘニルアクリレートからなる群から選ばれる1以上の炭素数12以上のアルキル基を側鎖に持つアクリル系モノマー(d1)と、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸およびメチルメタクリレートからなる群から選ばれる1以上の共重合可能なアクリル系モノマー(d2)を用いてなる共重合体が挙がられる。
【0038】
フッ素樹脂としては特に限定されないが、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルフルオロライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フルオロリン酸エステルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0039】
シリコーン樹脂としては特に限定されないが、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、ポリエチレンオキシド変性ポリシロキサン、ポリプロピレンオキシド変性ポリシロキサン、3−アミノプロピルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2―アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメトキシシランなどが挙げられる。
【0040】
また、本発明において、導電層中の樹脂(D)の含有量は、導電層中の(A)および(C)の合計重量100重量部に対して、8.0重量部以上30.0重量部以下であることが好ましく、より好ましくは10.0重量部以上20.0重量部以下である。樹脂(D)含有量を8.0重量部以上とすることにより、導電層表面から該導電層の厚み方向25%までの導電層領域への樹脂(D)の偏在性を容易に付与でき、CNTの含有量Wを上記好適数値範囲内とすることができる。また、30.0重量部以下とすることにより、CNT本来の導電性を阻害することなく、CNT同士の導電経路を確保でき、導電層の導電性をより高めることができる。
【0041】
(5)バインダー樹脂(C)
本発明では、バインダー樹脂(C)が導電層中に含有されていることが好ましい。フィルムに耐磨耗性を付与することができるためである。本発明に用いるバインダー樹脂(C)は、特に限定されるものではないが、濡れ張力が50mN/m以上の樹脂であることが好ましい。濡れ張力が50mN/m以上のバインダー樹脂(C)を用いると、樹脂(D)との濡れ張力の差より、導電層形成時に樹脂(D)を導電層表面から該導電層の厚み方向25%までの領域に偏在させることが可能となり、結果として、カーボンナノチューブの含有量Wを上記好適数値範囲内とすることができる。したがって本発明では、バインダー樹脂(C)の濡れ張力SCが、樹脂(D)の濡れ張力SDよりも20mN/m以上高いことが好ましい。
【0042】
バインダー樹脂(C)は熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線硬化性樹脂のいずれでもよい。例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等又は、前述の樹脂に添加剤を混合したものを用いるのが好ましい。特にポリエステル樹脂もしくはメラミン樹脂のいずれか、又はそれらを組み合わせたものであることが好ましい。ポリエステル樹脂もしくはメラミン樹脂のいずれか、又はそれらを組み合わせることで、CNTの分散性を損ねることなく、透明性や耐溶剤性、耐摩耗性を容易に付与できるためである。
【0043】
バインダー樹脂と混合される添加剤は例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、天然または石油ワックス等の有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、核剤などがその樹脂特性やCNTの分散性を悪化させない程度に添加されてもよい。バインダー樹脂の役割はCNTをフィルム上に固定し、且つ透明性やハードコート性など導電性フィルムの要求特性を付与させることであり、CNTの導電性を妨げない範囲で可能な限り導電層組成比(導電層中の(A)および(C)の含有量の合計を100重量部としたときのバインダー樹脂の重量部)を大きくすることが好ましい。導電層組成重量比が大きいとCNTの導電層からの脱落を容易に防止でき、また透明樹脂をバインダーに用いた場合には、導電性フィルムの透明性を容易に付与できるためである。
【0044】
本発明の導電層におけるバインダー樹脂(C)の含有量は、導電層中の(A)および(C)の含有量の合計を100重量部としたとき、0.0重量部以上50.0重量部以下であることが好ましく、より好ましくは10.0重量部以上20.0重量部以下である。含有量が50.0重量部以下にすることでCNTの導電層からの脱落を防止でき、また透明樹脂をバインダー樹脂として用いた場合には、導電性フィルムに高い透明性を付与することができる。一方、バインダー樹脂(C)を10重量部以上含有せしめることによって、CNTの含有量Wを上記好適数値範囲内とすることが容易にできる。
【0045】
(6)分散剤(B)
本発明では、導電層中にCNT(A)を均一に微分散させるために、CNT分散剤(B)を用いることが好ましい。CNT分散剤の種類は特に限定されるものではないが、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルピロリドン系重合体、水溶性セルロース、もしくは水溶性セルロース誘導体のいずれか、又はそれらを組み合わせたものからなることが後述するバインダー樹脂(C)との相溶化や導電層の耐摩耗性、耐溶剤性の点、およびCNTの分散の点から好ましい。
【0046】
ポリスチレンスルホン酸塩の代表的な例としては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カルシウムを挙げることができる。
【0047】
ポリビニルピロリドン系重合体の代表的な例としては、ポリビニルピロリドンを挙げることができる。
【0048】
水溶性セルロースの代表的な例としては、ヒドロキシセルロースやヒドロキシアルキルセルロースが挙げられる。ここでヒドロキシアルキルセルロールとはセルロースの骨格を構成するグルコピラーノースモノマーのヒドロキシ基がヒドロキシアルキル基に置換されたセルロースである(グルコピラーノースモノマーが複数のヒドロキシ基を有する場合は、少なくとも1つのヒドロキシ基がヒドロキシアルキル基に置換されていれば良い)。好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースを挙げることができる。
【0049】
また、水溶性セルロース誘導体の代表的な例としては、カルボキシセルロールの金属塩が挙げられる。ここでカルボキシセルロースとはセルロースの骨格を構成するグルコピラーノースモノマーのヒドロキシ基がカルボキシ基に置換されたセルロースである(グルコピラーノースモノマーが複数のヒドロキシ基を有する場合は、少なくとも1つのヒドロキシ基がカルボキシ基に置換されていれば良い)。ここで、カルボキシ基とは狭義のカルボキシ基だけでなく、カルボキシアルキル基をも含む概念である。カルボキシセルロールの金属塩をすることで、水溶性を飛躍的に高め、CNT分散能を高めることができる。また、カルボキシセルロールの金属塩の中でも、水溶性が良好である点からカルボキシアルキルセルロースの金属塩が好ましく、より好ましくは安価で幅広く工業的に使用されているカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムが挙げられる。特に好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウムである。
【0050】
また、上記のCNT分散剤は、2以上のCNT分散剤を組み合わせて用いても良い。なお、これらの物質を分散剤として好適に用いることができる理由の詳細は不明であるが、分散メカニズムについて発明者らは以下のように推定している。すなわち、上記の物質は分子構造が炭素からなる環状構造を有しているため、炭素からなる共役構造が延びた構造であるCNTと表面エネルギーなどの親和性および/または疎水相互作用が非常に高いことが推定される。また、CNT分散液の好適溶媒である水に容易に可溶であり、溶媒中でCNT近傍に均一に拡散するため、CNT同士の親和性による凝集を抑制するものと推定される。そのため、上記物質を用いることにより、安定かつ微分散されたCNT分散液を作製することができるものと推定している。
【0051】
本発明では、CNT分散剤として、少なくとも、水溶性セルロース、もしくは水溶性セルロース誘導体を用いることが好ましい。特に好ましくは、少なくとも、水溶性セルロース誘導体を用いることである。これらの物質を用いることで、CNTの分散性をより向上させることができ、かつ導電層の耐磨耗性を向上せしめることができる。
【0052】
また、本発明では、CNT分散剤(B)の重量比率(導電層中の(A)および(C)の含有量の合計を100重量部とする)は50.0重量部以上100.0重量部以下であることが好ましい。また(B)/(A)の重量比を0.5以上2.0以下とすることにより、CNTが凝集を起こすことなく安定にCNT分散液を作製でき、より強固な導電層を形成することができる。これにより、導電層の耐摩耗性を向上させることができる。
【0053】
(7)導電層
このように、本発明において、導電層はCNT(A)および樹脂(D)を含むことが必要であり、さらにバインダー樹脂(C)を含むことが好ましい。この場合、導電層中の(A)、(D)および(C)の含有量の合計は導電層全体に対して51.9重量%以上であることが好ましい。(A)、(D)および(C)の含有量の合計が導電層全体に対して51.9重量%以上とすることによって、本発明の効果を発揮させることができる。好ましくは、導電層中の(A)、(D)および(C)の含有量の合計を導電層全体に対して95重量%以上とすることであり、より好ましくは、導電層が(A)、(D)および(C)からなることである。
【0054】
一方、導電層全体に対して48.1重量%未満であれば、バインダー樹脂の特性やCNTの分散性を悪化させない程度に、他の成分が導電層に含まれていても良い。例えば、前述したようにCNTの分散性を向上させるためにCNT分散剤(B)を添加しても良いし、熱可塑性樹脂フィルムへのCNT塗液の濡れ性を上げるために任意の界面活性剤が含有されていても良いし、導電性フィルムの易滑性を付与させるために天然または石油ワックス等の有機系易滑剤、離型剤や粒子が含有されていても良い。
【0055】
(8)導電層の形成方法
本発明の導電層は、上述したCNT(A)、樹脂(D)、および適宜バインダー樹脂(C)、ならびに必要に応じて溶媒(E)を含有するCNT塗液を熱可塑性樹脂フィルム上へ塗布し、溶媒(E)を乾燥させることによって形成することができる。CNT塗液の具体的な作製方法は、後述する。
【0056】
本発明の導電層は、CNT塗液を塗布し、溶媒(E)を乾燥させ、導電層を固化させる過程において他成分と相対的に濡れ張力の低い樹脂(D)が熱可塑性樹脂側とは反対側の導電層表面から該導電層の厚み方向25%付近までに偏在してくる挙動を活用し、間接的に導電層内のCNT同士の接触面積を増やし、導電性を向上させている。この樹脂(D)の偏在は、濡れ張力の差による他成分との相分離挙動のみに起因するものではなく、導電層を乾燥させる熱も関係している可能性がある。
【0057】
溶媒(E)は水系溶媒(e)、有機溶媒(e’)を用いることができるが、好ましくは水系溶媒(e)である。水系溶媒を用いることで、乾燥工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一な導電層を形成できるだけでなく、環境負荷の点で優れているためである。
【0058】
ここで、水系溶媒(e)とは水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合させているものを指す。
【0059】
また有機溶媒(e’)とは、上記水系溶媒以外の溶媒を指し、実質的に水を含まない溶媒をいう。有機溶媒の種類は特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、ヘキサンなどの炭化水素類が挙げられる。
【0060】
CNT塗液のフィルムへの塗布方法はインラインコート法、オフコート法のどちらでも用いることができるが、好ましくはインラインコート法である。
【0061】
インラインコート法とは、熱可塑性樹脂フィルムの製造の工程内で塗布を行う方法である。具体的には、熱可塑性樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)熱可塑性樹脂フィルム(Aフィルム)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Bフィルム)、またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。
【0062】
本発明では、結晶配向が完了する前の上記Aフィルム、Bフィルム、またはCフィルムの何れかの熱可塑性樹脂フィルムに、CNT塗液を塗布し、その後、該熱可塑性樹脂フィルムを一軸又は二軸に延伸し、溶媒の沸点より高い温度で熱処理を施し熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させるとともに導電層を設ける方法を採用することが好ましい。かかる方法によれば、熱可塑性樹脂フィルムの製膜と、CNT塗液の塗布乾燥(すなわち、導電層の形成)を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがある。また、塗布後に延伸を行うために導電層の厚みをより薄くすることが容易である。さらに塗布後に施される熱処理温度を溶媒の沸点より高い温度とすることにより、効果的に樹脂(D)が熱可塑性樹脂側とは反対側の導電層表面から該導電層の厚み方向25%付近までに偏在することを助長し、またバインダー樹脂を固化・硬化させることができ、導電層の耐磨耗性や耐溶剤性を向上させることができる。さらに、熱可塑性樹脂フィルムの延伸工程により、CNT塗液中のCNTが適度にほぐされ、透明性と導電性に優れる導電性フィルムを得ることができる。
【0063】
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、CNT塗液を塗布し、その後、幅方向に延伸し、熱処理する方法が優れている。未延伸フィルムに塗布した後、二軸延伸する方法に比べ、延伸工程が1回少ないため、延伸によるCNT間の導電経路の切断が起こりづらく、導電性に優れた導電層を形成できるためである。
【0064】
一方、オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、熱処理を施し熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、またはAフィルムに、フィルムの製膜工程とは別工程でCNT塗液を塗布する方法である。
【0065】
本発明において導電層は、上述した種々の利点から、インラインコート法により設けられることが好ましい。
【0066】
よって、本発明において最良の導電層の形成方法は、溶媒(E)に水系溶媒(e)を用いたCNT塗液を、熱可塑性樹脂フィルム上にインラインコート法を用いて塗布し、乾燥することによって形成する方法である。またより好ましくは、一軸延伸後のBフィルムにCNT塗液をインラインコートする方法である。さらに上述したCNT(A)、樹脂(D)、および適宜バインダー樹脂(C)、ならびに必要に応じて溶媒(E)を含有するCNT塗液の固形分濃度は5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.25重量%以下である。固形分濃度が5%以下とすることにより、CNT塗液に良好な塗布性を付与でき、またCNT塗液中のCNTの凝集を抑制することができる。
【0067】
(9)CNT塗液の作製
溶媒(E)に水系溶媒(e)を用いた場合のCNT塗液の作製方法を以下説明するが、溶媒に有機溶剤を用いた場合のCNT塗液もこれと同様に作成することができる。
【0068】
CNT塗液の作製するためには、まず、溶媒にCNTを分散させたCNT分散液を作製することが好ましい。CNT分散液を作成する方法としては、
(I)溶媒である水、またはCNT分散剤を水に溶解させ、この中にCNTを添加して混合し撹拌しCNT分散液を作製する方法、
(II)CNTを水中で予め超音波分散などで予備分散させた後、必要に応じてCNT分散剤を添加し混合し、撹拌しCNT分散液を作製する方法、
(III)水にCNTと必要に応じてCNT分散剤を入れ、混合、撹拌してCNT分散液を作製する方法、
などがある。
【0069】
本発明ではいずれの方法を用いてもよく、単独で用いるか、あるいはいずれかの方法を組み合わせてもよい。また撹拌する方法は、マグネチックスターラーや撹拌羽根を用いたり、超音波照射、振動分散などを行うことができる。
【0070】
次いで、上記CNT分散液に樹脂(D)および適宜バインダー樹脂(C)を添加し、上記(I)〜(III)の方法などを用いて、混合、撹拌を行うことによって、CNT塗液を作製することが好ましい。またバインダー樹脂を添加する際、必要に応じて前述した各種添加剤を、樹脂(D)、およびバインダー樹脂(C)の特性やCNTの分散性を悪化させない程度に添加してもよい。
【0071】
(10)塗布方式
塗布方式は、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等の任意の方式を用いることができる。
【0072】
(11)導電性フィルム製造方法
次に、本発明の導電性フィルムの製造方法について、熱可塑性樹脂フィルムにポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)フィルムを用いた場合を例にして説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0073】
まず、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した本発明のCNT塗液を塗布する。この時、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、CNT塗液のPETフィルムへの濡れ性を向上させ、CNT塗液のはじきを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
【0074】
塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80〜130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)へ導き、導電層の溶媒である水を乾燥させる。乾燥後幅方向に1.1〜5.0倍延伸する。このインラインコーティングの延伸工程にてCNTをほぐした場合、CNT間の導電経路が切れることなく、またCNT間に十分な隙間を確保したネットワークを形成させることができる。引き続き160〜240℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導き1〜30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。
【0075】
この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3〜15%の弛緩処理を施してもよい。かくして得られたフィルムはCNTが導電層中に微分散された状態で固定化された透明且つ導電性の高い導電性フィルムとなる。
【0076】
導電層の厚みは2nm以上500nm以下が好ましい。導電層の厚みが2nm以上であると、導電性の高い導電性フィルムを作製することができ、また500nm以下であると透明性を維持できるためである。
【0077】
(12)導電性フィルムの物性
本発明の導電性フィルムは、その表面比抵抗値は5.0×10Ω/□以下であることが好ましい。表面比抵抗値が5.0×10Ω/□以下であると、CNTが良好に分散されていることを示しており、優れた導電性を有しつつ、透明性を容易に達成できる。下限は特に限定されるものではないが、導電層組成重量比からCNTの導電性が発揮できる領域として1.0×10Ω/□が限界値(下限)となる。
【0078】
導電性フィルムの表面比抵抗値を上記範囲とするための達成手段としては、例えば、CNTとして2層CNTを用いること、導電層中のCNT(A)の組成重量比率(導電層中の(A)および(C)の含有量の合計を100重量部とする)を50.0重量部以上とすることなどが挙げられる。
【0079】
さらに本発明の導電性フィルムは、耐摩耗性が後述する評価により良好であることが好ましい。耐摩耗性が良好であると、製造工程内たけでなく種々の用途に適用される場合、導電層の損傷を防ぐことができる。
【0080】
導電性フィルムの耐摩耗性の達成手段としては、例えば、CNTとして2層CNTを用いること、導電層中の樹脂(D)の重量比率(導電層中の(A)および(C)の含有量の合計を100重量部とする)を8.0重量部以上とすることなどが挙げられる。
【0081】
本発明の導電性フィルムは、その全光線透過率が70%以上であることが好ましい。全光線透過率が70%以上であると、CNTを用いた導電層を形成させる上で、CNTが良好に分散していることを示し、またCNT本来の電気的な特性を活かせば十分な導電性を得られるためである。さらに導電性フィルムの用途として、透明性が求められる用途にも好適に用いることができるためである。上限は特に限定されるものではないが、フィルム表面での光反射を考慮すると、全光線透過率92%が熱可塑性樹脂フィルム上へ導電層を形成させた場合の物理的な限界値(上限)となる。
【0082】
(測定方法)
(1)CNTの判別方法および直径とアスペクト比の確認方法
CNT種の判別方法は高分解能透過型電子顕微鏡((TEM)H−9000UHR(株式会社日立製作所製))にて100000〜1000000倍にてその形態を観察し、グラフェンシートが1層のチューブを単層CNT、2層のチューブを2層CNT、3層以上のチューブを多層CNTとした。
【0083】
また、チューブのいずれかの部分でチューブ平面方向に対して角度が30゜以上変化し炭素骨格が成長しているものを屈曲形CNTとした。そうでないものを直線形CNTとした。なお、CNTは、チューブの炭素骨格に五員環や七員環構造など六員環以外の構造も有すると、チューブ平面方向に対して角度が30゜以上変化して、炭素骨格が成長することがある(屈曲形CNTとなることがある)。また、チューブの炭素骨格が六員環のみのハニカム構造を有すると、炭素骨格が直線的成長し、直線形CNTとなる。
【0084】
さらに直径とアスペクト比は例えば500000倍にてCNTの形態を観察した際に複数視野から任意の100本を観察し、それぞれのCNTの直径とチューブ長を測定し、アスペクト比を算出した。次に100本の直径とアスペクト比の平均値を算出し、最終的な直径とアスペクト比とした。
【0085】
(2)導電層の厚み
導電層の厚みはCNT分散液の固形分濃度とコーターの公称wet塗布量からCNT分散液の比重を1.0g/cmとして計算により求めた。
【0086】
(3)表面比抵抗値
表面比抵抗の測定は、導電性フィルムを常態(23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下で、JIS-K-6911(1995年版)に基づいて、ハイスタ-UP(三菱化学株式会社製、型番:MCP-HT450)を用いて測定することができる。ただし、各実施例・比較例につき測定するサンプル(A4サイズ:21cm×30cm)は1つとし、当該サンプル上の異なる5地点についてそれぞれ1回ずつ測定を行い、得られた5点の平均を表面比抵抗値とした。なお、熱可塑性樹脂フィルムの片面のみに導電層が積層されている場合、導電層が積層されている面側を測定した。また、導電層が熱可塑性樹脂フィルムの両面に積層してある場合は、一方の面の5点測定の平均と、他方の面の5点測定の平均をそれぞれ求め、片面ごとの表面比抵抗知を求めた。
【0087】
(4)全光線透過率
全光線透過率は、常態(23℃、相対湿度65%)において、導電性フィルムを2時間放置した後、スガ試験機(株)製全自動直読ヘイズコンピューター「HGM-2DP」を用いて測定した。3回測定した平均値を導電性フィルムの全光線透過率とした。なお、フィルムの片面のみに導電層を積層している場合、導電層を積層した面側より光が入るように導電性フィルムを設置した。
【0088】
(5)耐摩耗性
導電層の耐磨耗性を評価するために、綿棒(ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)製、コットン100%)を用いて200g/mmの荷重で導電層の表面を50回擦過した。接着性・耐摩耗性の判定は目視により外観変化を観察することによって行った。
判定基準;
○:外観変化なし
×:塗膜の削れや白化、CNTの脱落(綿棒にCNTが付着)のいずれかが確認される
(6)濡れ張力
樹脂(D)、およびバインダー樹脂(C)の濡れ張力はホルムアミド、エチレングリコールモノエチルエーテル、メタノールおよび水を適宜混合せしめた液を用いて、JIS K6768(1999年)に規定された測定方法に基づいて測定した。測定する樹脂(D)またはバインダー樹脂(C)の試験片は、樹脂(D)またはバインダー樹脂(C)をそれぞれ固形分濃度が10.0重量%となるように適宜溶媒中へ溶解または分散させ、それぞれPETフィルム(東レ製、“ルミラー”T60、厚み100μm)上にワイヤーバー#6(公称wet塗布量:13.7μm)を用いて、塗布ムラやワイヤーバー跡が残らないよう均一且つ平滑に塗布し、60℃の環境下で溶媒を乾燥させ作製した。
なお、同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られた平均値を濡れ張力とした。
【0089】
(7)カーボンナノチューブ含有量W
カーボンナノチューブの含有量Wはまず導電性フィルムをミクロトームにより厚み方向に切断し、導電層厚み方向の断面が出ているサンプルを作製した。次にサンプル導電層断面の厚み高さ別に飛行時間型二次イオン質量分析装置(PHI社製、TFS−2000)により特定の官能基が側面に導入されていることが既知であるCNTを用いる場合にはCNT側面官能基由来のイオンから導電層厚み方向のCNTの存在量を定量し、導電層の表面から厚み方向25%までの領域におけるCNTの量を算出した。またCNT側面の官能基が不明である、または官能基が導入されていない場合には、樹脂(D)官能基由来のイオンとバインダー樹脂(C)官能基由来のイオンを定量し、導電層厚み方向の樹脂(D)、バインダー樹脂(C)の存在量をそれぞれ定量することで間接的に導電層表面から厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有重量を算出した。
【実施例】
【0090】
本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。尚、実施例・比較例にて用いたCNTのアスペクト比は全て100以上である。また実施例・比較例にて用いたCNT水分散体、熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体(バインダー樹脂(C))は全て固形分濃度を0.10重量%に調製し組成重量比に応じて調合し、CNT分散液を作製した。水系塗液は全て固形分濃度を1.0重量%に調製し、組成重量比に応じてCNT分散体と調合した。さらに最終的にCNT塗液として固形分濃度の調製が必要な場合は、適宜、溶媒(水)を添加することにより希釈し、調製した。
【0091】
(実施例1)
CNT分散液を下記のとおり調製した。
まず、2.5mgのCNT(直線2層CNT:サイエンスラボラトリー社製、直径5nm、)を水2497.5mgを50mLサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT水分散体(CNT固形分濃度0.10重量%)を得た。
【0092】
次いで、このCNT水分散体に、バインダー樹脂(C)として溶媒である水により希釈して固形分濃度0.1重量%とした熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体(互応化学(株)製、“プラスコート”Z−836、濡れ張力SC=60mN/m)を添加し、マグネチックスターラーによって500rpmで15分間混合、撹拌し、CNT分散液1を得た。該CNT分散液におけるCNT(A)、バインダー樹脂(C)の組成重量比率(CNT分散液中の(A)(C)の含有量の合計を100重量部とする)は下記のとおりである。
(A)90.0重量部
(C)10.0重量部
次に下記の共重合組成からなる長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂(D)(濡れ張力SD=35mN/m)を、水系溶媒(水が90重量%、イソプロピルアルコールが5重量%、n−ブチルセロソルブが5重量%)に溶解させた水性塗液1(固形分濃度1.0重量%)を調整した。
【0093】
<共重合成分>
・ベヘニルメタクリレート 65重量%
(長鎖アルキル鎖炭素数22)
・メタクリル酸 25重量%
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート 10重量%。
【0094】
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/8重量部となるよう混合し、CNT塗液1(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0095】
次いで、実質的に粒子を含有しないPETペレット(極限粘度0.63dl/g)を充分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.4倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。このフィルムに空気中でコロナ放電処理を施した。
【0096】
次にCNT塗液1を一軸延伸フィルムのコロナ放電処理面にバーコートを用いて塗布した。CNT塗液1を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持して予熱ゾーンに導き、雰囲気温度75℃とした後、引き続いてラジエーションヒーターを用いて雰囲気温度を110℃とし、次いで雰囲気温度を90℃として、CNT塗液を乾燥させた。引き続き連続的に120℃の加熱ゾーン(延伸ゾーン)で幅方向に3.5倍延伸し、続いて230℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)で20秒間熱処理を施し、結晶配向の完了した導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0097】
(実施例2)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/10重量部となるよう混合し、CNT塗液2(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0098】
該CNT塗液2を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0099】
(実施例3)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液3(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0100】
該CNT塗液3を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0101】
(実施例4)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/30重量部となるよう混合し、CNT塗液4(固形分濃度0.13重量%)とした。
【0102】
該CNT塗液4を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0103】
(実施例5)
CNTと熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体の組成重量比を変更した以外は実施例1と同様の方法により、CNT分散液2(固形分濃度0.10重量%)を得た。該CNT分散液2におけるCNT(A)、バインダー樹脂(C)の組成重量比率を表1に示す。
【0104】
次にCNT分散液2と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/8重量部となるよう混合し、CNT塗液5(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0105】
該CNT塗液5を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0106】
(実施例6)
前述したCNT分散液2と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/10重量部となるよう混合し、CNT塗液6(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0107】
該CNT塗液6を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0108】
(実施例7)
前述したCNT分散液2と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液7(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0109】
該CNT塗液7を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0110】
(実施例8)
前述したCNT分散液2と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/30重量部となるよう混合し、CNT塗液8(固形分濃度0.13重量%)とした。
【0111】
該CNT塗液8を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0112】
(実施例9)
CNTと熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体の組成重量比を変更した以外は実施例1と同様の方法により、CNT分散液3(固形分濃度0.10重量%)を得た。該CNT分散液におけるCNT(A)、バインダー樹脂(C)の組成重量比率を表1に示す。
【0113】
次にCNT分散液3と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/8重量部となるよう混合し、CNT塗液9(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0114】
該CNT塗液9を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0115】
(実施例10)
前述したCNT分散液3と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/10重量部となるよう混合し、CNT塗液10(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0116】
該CNT塗液10を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0117】
(実施例11)
前述したCNT分散液3と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液11(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0118】
該CNT塗液11を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0119】
(実施例12)
前述したCNT分散液3と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/30重量部となるよう混合し、CNT塗液12(固形分濃度0.13重量%)とした。
【0120】
該CNT塗液12を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0121】
(実施例13)
熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体の組成重量を0重量部とし、CNTのみを用いてを実施例1と同様の方法により、CNT分散液4(固形分濃度0.10重量%)を得た。該CNT分散液におけるCNT(A)、バインダー樹脂(C)の組成重量比率を表1に示す。
【0122】
次にCNT分散液4と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/8重量部となるよう混合し、CNT塗液13(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0123】
該CNT塗液13を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0124】
(実施例14)
前述したCNT分散液4と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/10重量部となるよう混合し、CNT塗液14(固形分濃度0.11重量%)とした。
【0125】
該CNT塗液6を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0126】
(実施例15)
前述したCNT分散液4と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液15(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0127】
該CNT塗液15を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0128】
(実施例16)
前述したCNT分散液4と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/30重量部となるよう混合し、CNT塗液16(固形分濃度0.13重量%)とした。
【0129】
該CNT塗液16を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0130】
(実施例17)
実施例1と同様に下記の共重合組成からなる長鎖アルキル基含有アクリル樹脂(D)(濡れ張力SD=40mN/m)を、イソプロピルアルコール5重量%とn−ブチルセロソルブ5重量%を含む水に溶解させた水性塗液2(固形分濃度1.0重量%)を調整した。
【0131】
<共重合成分>
・ラウリルメタクリレート 70重量%
(長鎖アルキル鎖炭素数12)
・メタクリル酸 20重量%
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート 10重量%。
【0132】
次に前述したCNT分散液1と水性塗液2を[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液17(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0133】
該CNT塗液17を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0134】
(実施例18)
ポリテトラフルオロエチレン水分散体(ダイキン工業(株)製、ポリフロン、濡れ張力SD=30mN/m)を樹脂(D)とした水性塗液3(固形分濃度1.0重量%)を調製した。前述したCNT分散液1と[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液18(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0135】
該CNT塗液18を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0136】
(実施例19)
ジメチルポリシロキサンエマルション水分散液(信越化学工業(株)製、KM−740T、濡れ張力SD=20mN/m)を樹脂(D)とした水性塗液4(固形分濃度1.0重量%)を調製した。前述したCNT分散液1と[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液19(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0137】
該CNT塗液19を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0138】
(実施例20)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合しCNT塗液3を得た。次に該CNT塗液3に分散体(B)であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を[(A)と(C)と(D)の合計重量]/[(B)の重量]=75重量部/25重量部となるよう撹拌混合しCNT塗液20(固形分濃度0.21重量%)とした。
【0139】
該CNT塗液20を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0140】
(実施例21)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/8重量部となるよう混合しCNT塗液9を得た。次に該CNT塗液3と分散体(B)であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を[(A)と(C)と(D)の合計重量]/[(B)の重量]=51.9重量部/48.1重量部となるよう撹拌混合しCNT塗液21(固形分濃度0.21重量%)とした。
【0141】
該CNT塗液21を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0142】
(実施例22)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/10重量部となるよう混合しCNT塗液3を得た。次に該CNT塗液3と分散剤(B)であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を[(A)と(C)と(D)の合計重量]/[(B)の重量]=50.0重量部/50.0重量部となるよう撹拌混合しCNT塗液22(固形分濃度0.24重量%)とした。
【0143】
該CNT塗液22を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。
【0144】
(比較例1)
前述したCNT分散液1(固形分濃度0.10重量%)を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。結果は表面比抵抗値が5.0×10Ω/□以上となり、また耐摩耗性に劣るものであった。
【0145】
(比較例2)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/5重量部となるよう混合し、CNT塗液23(固形分濃度0.10重量%)とした。
【0146】
該CNT塗液23を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。結果は表面比抵抗値が5.0×10Ω/□以上となり、また耐摩耗性に劣るものであった。
【0147】
(比較例3)
前述したCNT分散液1と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/33重量部となるよう混合し、CNT塗液24(固形分濃度0.13重量%)とした。
【0148】
該CNT塗液24を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。結果は表面比抵抗値が5.0×10Ω/□以上となった。
【0149】
(比較例4)
CNTを用いず実施例1で用いた熱硬化性ポリエステル樹脂水分散体を100重量部とし、実施例1と同様の方法により、バインダー樹脂液を得た。
【0150】
次にバインダー樹脂液と水性塗液1を[(A)と(C)の合計重量部]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、バインダー樹脂塗液(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0151】
該バインダー樹脂塗液を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。結果は表面比抵抗値が5.0×10Ω/□以上となった。
【0152】
(比較例5)
実施例1と同様に下記の共重合組成からなる長鎖アルキル基含有アクリル樹脂(D)(濡れ張力SD=42mN/m)を、イソプロピルアルコール5重量%とn−ブチルセロソルブ5重量%を含む水に溶解させた水性塗液5(固形分濃度0.10重量%)を調整した。
【0153】
<共重合成分>
・2−エチルヘキシルメタクリレート 70重量%
(長鎖アルキル鎖炭素数8)
・メタクリル酸 25重量%
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート 5重量%。
【0154】
次に前述したCNT分散液1と水性塗液5を[(A)と(C)の合計重量]/[(D)の重量]=100重量部/20重量部となるよう混合し、CNT塗液25(固形分濃度0.12重量%)とした。
【0155】
該CNT塗液25を用いて、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた導電性フィルムの特性等を表2に示す。結果は表面比抵抗値が5.0×10Ω/□以上となった。
【0156】
【表1】

【0157】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明はCNT塗液を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布することにより作製できる透明導電層を有する導電性フィルムであり、そのフィルムの電気的、光学的特性に応じて帯電防止フィルム、タッチパネル、ITO代替の透明電極等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0159】
1 熱可塑性樹脂フィルム(基板フィルム)
2 導電層
3 CNT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片側に、カーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)を含有する導電層が設けられた導電性フィルムであって、
該導電層の熱可塑性樹脂側とは反対側の表面から厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有量Wが2.5重量%以上20.0重量%未満を満たす導電性フィルム。
ただし、W(重量%)=100×W2/W1であり、W1は導電層全体に含まれるカーボンナノチューブの含有重量であり、W2は熱可塑性樹脂側とは反対側の導電層表面から該導電層の厚み方向25%までの領域におけるカーボンナノチューブの含有重量である。
【請求項2】
導電層がバインダー樹脂(C)を含有し、
該バインダー樹脂(C)の濡れ張力SCが、樹脂(D)の濡れ張力SDよりも20mN/m以上高い請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
導電層におけるカーボンナノチューブ(A)およびバインダー樹脂(C)の合計含有重量を100重量部としたとき、該導電層中のカーボンナノチューブ(A)、バインダー樹脂(C)および樹脂(D)の含有重量が下記を満足する請求項1または2に記載の導電性フィルム。
(A):50重量部以上100重量部以下
(C):0重量部以上50重量部以下
(D):8重量部以上30重量部以下
(但し、(A)+(C)を100重量部とする)
【請求項4】
樹脂(D)が、炭素数が12以上のアルキル鎖を有するアクリル樹脂、フッ素樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる1以上の樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の導電性フィルム。
【請求項5】
導電層の表面比抵抗値が5.0×10Ω/□以下である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の導電性フィルムの製造方法であって、
結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、カーボンナノチューブ(A)と樹脂(D)と溶媒(E)を含有したカーボンナノチューブ塗液を塗布し、
該塗布された熱可塑性樹脂フィルムを一軸または二軸延伸し、
溶媒(E)の沸点より高い温度で熱処理を施し、熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させるとともに導電層を設ける導電性フィルムの製造方法。
【請求項7】
カーボンナノチューブ塗液の固形分濃度が5重量%以下であり、
溶媒(E)が水系溶媒である請求項6に記載の導電性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−229288(P2010−229288A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78497(P2009−78497)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】