説明

導電性フリット材、透明面状ヒーター及び電磁波シールド体

【課題】本発明の目的は、RAS法によって透明導電膜及び/又は反射防止膜を形成しても、電極が劣化することがない導電性フリット材とそれを電極材料として用いた透明面状ヒーター並びに電磁波シールド体を提供することである。
【解決手段】本発明の導電性フリット材は、金属Agと、ガラスとを含有し、PbOを質量%で2.5〜20%含有することを特徴とする。また本発明の透明面状ヒーター又は電磁波シールド体は、ガラス基板と、ガラス基板表面に形成された透明導電膜と、透明導電膜に通電するための、少なくとも一対の電極とを備え、電極が、金属Agと、ガラスとを含有し、PbOを質量%で2.5〜20%含有する導電性フリット材からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フリット材、及びそれを電極材料として用いた透明面状ヒーター並びに電磁波シールド体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明面状ヒーターは、液晶表示素子の温度補償体、冷凍ショーケース、冷蔵ショーケース、自動車用デフロスター等の曇り止めに使用され、また電磁波シールド体は、液晶、CRT、PDP等のディスプレイの電磁波を遮蔽するために使用される。
【0003】
このような透明面状ヒーターや電磁波シールド体は、いずれも透明基板上にITO膜等の透明導電膜を形成し、その透明導電膜に通電するための、少なくとも一対の電極を備えた構造を有している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に記載の透明面状ヒーターや電磁波シールド体は、透明基板としてプラスチックを、電極として導電性樹脂を、それぞれ使用しているため、過酷な条件、例えば飛行機のコックピット等に使用される液晶表示装置には適していない。このような用途には、耐久性の高いガラスを透明基板としたものが使用される(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
このようなガラス基板に使用される導電性フリット材としては、導電性金属粉末と無機結合剤を含むものが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
特許文献2に記載のパネルヒーター(透明面状ヒーター)は、透明導電膜を、CVDやスパッタ法によって成膜することが記載されているが、RAS(Radical Assisted Sputtering)法(非特許文献1参照)を使用すると、透明導電膜の特性のばらつきを安定させることが可能となる。
【特許文献1】特開平9−306647号公報
【特許文献2】特開平3−172820号公報
【特許文献3】特開昭63−207001号公報
【非特許文献1】長江亦周、「高品質光学薄膜量産用の精密スパッタ装置−Radical Assisted Sputtering(RAS)−、月刊ディスプレイ」、テクノタイムズ社、2005年3月号、第11巻、第2号、p.63〜70
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の従来の導電性フリット材からなる電極をガラス基板に形成した後、RAS法によって透明導電膜及び/又は反射防止膜を形成すると、電極が劣化して黒化するため、電極が透明導電膜よりも抵抗が大きくなったり、最悪の場合通電しなくなるという問題を有していた。
【0008】
本発明の目的は、RAS法によって透明導電膜及び/又は反射防止膜を形成しても、電極が劣化することがない導電性フリット材とそれを電極材料として用いた透明面状ヒーター並びに電磁波シールド体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題について鋭意検討を行なった結果、導電性フリット材中にPbOを多く含有させることによって、RAS法によって透明導電膜及び/又は反射防止膜を形成しても、電極が劣化しないことを突き止め、本発明として提案するものである。
【0010】
すなわち、本発明の導電性フリット材は、金属Agと、ガラスとを含有し、PbOを質量%で2.5〜20%含有することを特徴とする。
【0011】
また本発明の透明面状ヒーターは、ガラス基板と、ガラス基板表面に形成された透明導電膜と、透明導電膜に通電するための、少なくとも一対の電極とを備え、電極が、金属Agと、ガラスとを含有し、PbOを質量%で2.5〜20%含有する導電性フリット材からなることを特徴とする。
【0012】
また本発明の電磁波シールド体は、ガラス基板と、ガラス基板表面に形成された透明導電膜と、透明導電膜に通電するための、少なくとも一対の電極とを備え、電極が、金属Agと、ガラスとを含有し、PbOを質量%で2.5〜20%含有する導電性フリット材からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電性フリット材は、RAS法によって透明導電膜及び/又は反射防止膜を形成しても、電極が劣化しないため、電極の抵抗が小さくなる。すなわち、導電性フリット材は、PbOが質量%で2.5%よりも少ないと、RAS法によって透明導電膜及び/又は反射防止膜を形成した際、電極が黒化して、電極が透明導電膜よりも抵抗が大きくなったり、最悪の場合通電しなくなる。PbOを20%よりも多くするためには、Ag以外の成分の割合を増やす必要があり、電極の抵抗が高くなるため好ましくない。PbOの好ましい範囲は3〜15%である。
【0014】
また本発明の透明面状ヒーターは、電極の抵抗が小さく、所望の電力を透明導電膜に安定して供給できるため、ヒーターの温度を一定に保つことが可能となる。
【0015】
また本発明の電磁波シールド体は、電極の抵抗が小さく、所望の電力を透明導電膜に安定して供給できるため、遮断可能な電磁波の波長が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の導電性フリット材は、ITO膜、SnO2膜等の透明導電膜の電極材料として使用され、導電性材料として、金属Agを主成分として含有し、ガラス基板に導電性材料を固定するためにガラスを含有している。
【0017】
ガラスは、質量%で、PbO 66〜90%、B23 10〜20%、ZnO 0〜10%、SiO2 0〜20%、Al23 0〜5%を含有する組成からなることが好ましい。このようにすれば、金属Agの導電性を確保しつつ、低温で電極を形成でき、ガラス基板に対する電極の固着強度を高めることが可能となる。尚、ガラスは、上記成分以外の成分を5%まで含有させることができる。
【0018】
また本発明の導電性フリット材は、導電性フリット材中に、質量%で、金属Agを80〜97%、ガラスを3〜20%含有することが好ましい。金属Agが80%よりも少ないと(あるいはガラスが20%よりも多いと)、所望の導電性(抵抗値)が得られなくなり、金属Agが97%よりも多いと、(あるいはガラスが3%よりも少ないと)、ガラス基板から電極が剥がれ易くなるため好ましくない。
【0019】
また本発明の導電性フリット材は、金属Agやガラス以外にその特性を損なわない範囲で、その他の無機材料を含有させることができる。ここでその他の無機材料とは、Ag以外の金属、合金、酸化物、窒化物等を指す。
【0020】
また本発明の導電性フリット材は、金属Ag粉末、ガラス粉末、有機ビークル、(必要に応じて無機材料粉末)とを混錬して導電性ペーストを作製し、それをガラス基板に塗布して焼成することによって得られる。
【0021】
PbOは、ガラス粉末及び/又は無機材料粉末(例えば、酸化鉛粉末)として含有させることが可能であるが、ガラス粉末単独で含有させると、導電性フリット材中にPbOを均一に分散させることができるため好ましい。
【0022】
従って、上記ガラス粉末は、質量%で、PbO 66〜90%、B23 10〜20%、ZnO 0〜10%、SiO2 0〜20%、Al23 0〜5%を含有する組成からなることが好ましい。
【0023】
また導電性ペーストは、金属Ag粉末、ガラス粉末及び無機材料粉末からなる無機成分を75〜95%、樹脂と溶剤とからなる有機ビークルを5〜25%含有することが好ましい。有機ビークルが5%よりも少ないと無機成分が有機ビークル中に均一に分散し難くなると共に、ガラス基板への印刷性も低下する。有機ビークルが25%よりも多いと、焼成時に有機成分(樹脂)が残存して電極の特性に悪影響を与える。
【0024】
本発明の透明面状ヒーター及び電磁波シールド体は、ガラス基板と、ガラス基板表面に形成された透明導電膜と、透明導電膜に通電するための、少なくとも一対の電極とを備えている。
【0025】
電極としては、本発明の導電性フリット材を使用するため、上述した効果を有する。
【0026】
ガラス基板としては、特に限定はないが、耐熱性及び耐候性に優れたホウケイ酸塩ガラスやアルミノ珪酸塩ガラスが好適である。
【0027】
また、透明導電膜としては、ITO膜、SnO2膜が、透明性、導電特性等に優れるため好ましい。
【0028】
また、透明導電膜の上には、反射防止膜を形成してなることが好ましい。このようにすれば、透明面状ヒーター及び電磁波シールド体を、液晶表示装置、CRT、PDP等のディスプレイ装置にした際、ディスプレイ画面が見易くなる。反射防止膜は、屈折率ndが2以上の少なくとも一層のTiO2、Nb25、Ta25及びZrO2からなる群から選択される1種又は2種以上の材料からなる高屈折率膜と、屈折率ndが1.5以下の少なくとも一層のSiO2、MgF2及びCaF2からなる群から選択される1種又は2種以上の材料からなる低屈折率膜とが交互に形成されていることが好ましい。
【0029】
また本発明の透明面状ヒーター及び電磁波シールド体は、透明導電膜及び/又は反射防止膜がRAS法によって形成されてなる場合に、特に上記した効果を有するものであるが、それ以外の真空蒸着、スパッタ法、イオンプレーティング法等の形成方法によって形成しても良い。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0031】
表1は実施例1〜6及び比較例の導電性フリット材(電極)の構成を示し、表2は実施例1〜6及び比較例の導電性ペーストの構成を示す。また表3は実施例及び比較例で用いたガラスの組成を示す。また図1は透明面状ヒーター(電磁波シールド体)の説明図である。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
図1に記載のように、実施例1〜6及び比較例の透明面状ヒーター1は、200×200×2.0mmのガラス基板2(日本電気硝子製 OA−10)と、表1に記載の導電性フリット材からなる、膜厚が8μmの一対の電極3と、ガラス基板2の表面に反応性スパッタ法によって形成された透明導電膜4と、透明導電膜4上にRAS法によって形成された反射防止膜5とを備えている。
【0036】
尚、電極3は、表2に記載の導電性ペーストをスクリーン印刷し、実施例1〜3では、430℃、実施例4〜6では530℃、比較例は600℃で10分間焼成して形成したものである。表1、2中のZn/Co固溶体とは、酸化亜鉛−酸化コバルト系固溶体であり、質量%で、酸化亜鉛84%、酸化コバルト6%、酸化マグネシウム10%を含有する。また透明導電膜4は、幾何学的膜厚が58nmのITO膜からなり、反射防止膜5は、透明導電膜4側から、第1層として幾何学的膜厚が77.8nmのSiO2膜と、第2層として幾何学的膜厚が12.7nmのTiO2膜と、第3層として幾何学的膜厚が41.4nmのSiO2膜と、第4層として幾何学的膜厚が92.1nmのNb25膜と、第5層として幾何学的膜厚が90.6nmのSiO2膜とからなる。また、電磁波シールド体は、透明導電膜4としてのITO膜の幾何学的膜厚が80nmである以外は、透明面状ヒーター1と同様に構成されているものである。
【0037】
電極の抵抗値は、テスターで測定した。
【0038】
表1から明らかなように、実施例1〜3は、RAS法によって反射防止膜を形成しても、電極の外観に変化が全くなく、電極の抵抗値は、0.2Ωと小さかった。実施例4〜6は、電極の色調がわずかにうすい茶色になったが、実施例1〜3と同様、電極の抵抗値が0.2Ωと小さかった。一方、比較例は、RAS法によって反射防止膜を形成すると、電極が黒化し、電極の抵抗値は、測定不能(∞)となった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように、本発明の導電性フリット材は、透明面状ヒーター及び電磁波シールド体の電極材料として好適である。また本発明の透明面状ヒーターは、液晶表示素子の温度補償に、及び冷凍ショーケース、冷蔵ショーケース、自動車用デフロスター等の曇り止めに、また電磁波シールド体は、液晶、CRT、PDP等のディスプレイの電磁波遮蔽に好適である。特に透明面状ヒーター及び電磁波シールド体は、船舶や飛行機の操縦室の液晶表示素子の温度補償、曇り止め又は電磁波遮蔽のために好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】透明面状ヒーター(電磁波シールド体)の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 透明面状ヒーター(電磁波シールド体)
2 ガラス基板
3 電極
4 透明導電膜
5 反射防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属Agと、ガラスとを含有し、PbOを質量%で2.5〜20%含有することを特徴とする導電性フリット材。
【請求項2】
透明導電膜の電極材料として使用されることを特徴とする請求項1に記載の導電性フリット材。
【請求項3】
ガラスが、質量%で、PbO 66〜90%、B23 10〜20%、ZnO 0〜10%、SiO2 0〜20%、Al23 0〜5%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性フリット材。
【請求項4】
導電性フリット材中に、質量%で、金属Agを80〜97%、ガラスを3〜20%含有する請求項1〜3の何れかに記載の導電性フリット材。
【請求項5】
ガラス基板と、ガラス基板表面に形成された透明導電膜と、透明導電膜に通電するための、少なくとも一対の電極とを備え、電極が、請求項1〜4の何れかに記載の導電性フリット材からなることを特徴とする透明面状ヒーター。
【請求項6】
透明導電膜の上に、反射防止膜を形成してなることを特徴とする請求項5に記載の透明面状ヒーター。
【請求項7】
透明導電膜及び/又は反射防止膜が、RAS(Radical Assisted Sputtering)法によって形成されてなることを特徴とする請求項5又は6に記載の透明面状ヒーター。
【請求項8】
ガラス基板と、ガラス基板表面に形成された透明導電膜と、透明導電膜に通電するための、少なくとも一対の電極とを備え、電極が、請求項1〜4の何れかに記載の導電性フリット材からなることを特徴とする電磁波シールド体。
【請求項9】
透明導電膜の上に、反射防止膜を形成してなることを特徴とする請求項8に記載の電磁波シールド体。
【請求項10】
透明導電膜及び/又は反射防止膜が、RAS(Radical Assisted Sputtering)法によって形成されてなることを特徴とする請求項8又は9に記載の電磁波シールド体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−159534(P2008−159534A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349961(P2006−349961)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】