説明

導電性ロール

【課題】 抵抗値のバラツキが少なく、環境条件の変化に対して安定な導電性ロールを提供することを目的とする。
【解決手段】 良導電性シャフト2の外周に無極性高分子をマトリクスとした弾性層3を形成し、更にその外周に、導電性粒子を含有し、極性高分子をマトリクスとした表面層4を形成された導電性ロール1であって、表面層の体積固有抵抗値が弾性層の体積固有抵抗値よりも高く、かつ、表面層の厚みが10〜25μmである。好ましくは、極性高分子がポリウレタン樹脂、無極性高分子がエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ロールに係り、詳しくは電気抵抗値のバラツキが少なく、環境条件の変化に対して安定な導電性ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター等の電子写真方式の画像形成装置において、現像ロール、帯電ロール、転写ロールなどの導電性ロールが用いられている。これらの導電性ロールは、金属などの良導電性シャフトの外周に、ゴム材料に導電剤としてグラファイトやカーボンブラック等の導電性粒子を配合したゴム組成物からなるゴム層を形成してなり、その体積固有抵抗値が中〜高抵抗、具体的には10〜1011Ω・cmとなるよう構成されている。また例えば、導電剤としてイオン導電剤をゴム材料に単独で、またはカーボンブラックと併用して導電性を付与させる試みもなされている。一方、ゴム材料としては、表面の耐摩耗性に優れ、電気的性質、特にポリマー自体の体積固有抵抗値が導電ロールとして必要とする抵抗値に近いゴム材料が好ましく用いられている。
【0003】
そしてゴム層は、単層或いは2層以上の多層構造にて構成され、例えばシャフトの外周に導電性を有するゴム発泡体からなる第1弾性層を形成し、更にその外周に導電性を非発泡ゴムからなる第2弾性層を形成した構成が知られている。(例えば特許文献1参照)
【特許文献1】特開平11−119542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ゴム材料として無極性高分子を用いた場合、導電性粒子が均一に分散し難く、ひいては該ゴム組成物を用いて製造された導電性ロールの抵抗値にばらつきが生じるという問題があった。またゴム材料として極性高分子を用いると、この問題は解消されるが、温度や湿度などの環境の変化によって抵抗値が大きく変動してしまう。
【0005】
また導電剤としてイオン導電剤を用いた場合は、ゴム中に均等に混ざるために抵抗値のバラツキは発生しにくいが、温湿度環境に影響されやすく、高温高湿になるほどイオン導電剤のイオン化やポリマー内でのイオン移動が促進され、伝導度が上昇する傾向にあった。更に、イオン導電剤がロール表面へ滲み出し、感光体を汚染してしまう恐れもあった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、抵抗値のバラツキが少なく、環境条件の変化に対して安定な導電性ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、無極性高分子を用いた弾性層と、導電性粒子を含有し、極性高分子を用いた表面層とを有し、表面層の体積固有抵抗値が弾性層の体積固有抵抗値よりも高く、かつ、表面層の厚みが10〜25μmであることを特徴とする導電性ロールである。
【0008】
更に本発明は、極性高分子がポリウレタン樹脂である;無極性高分子がエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体である 導電性ロールでもある。
【発明の効果】
【0009】
抵抗値のバラツキが少なく、温湿度などの環境条件の変化に対して安定な導電性ロールを提供できる。また弾性層にエチレンプロピレンジエン三元共重合体を選択することで耐候性や耐寒性に優れ、表面層にウレタン樹脂を選択することで高弾性で耐摩耗性に優れた構成とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の導電性ロールは、例えば図1に示すように、良導電性シャフト2の外周に無極性高分子を用いた弾性層3を形成し、更にその外周に、導電性粒子を含有し、極性高分子を用いた表面層4を形成された導電性ロール1である。
【0011】
弾性層3を構成する無極性高分子としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレン共重合体やエチレンプロピレンジエン三元共重合体などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーなどを単体もしくはブレンドして用いることができるが、より好ましくは耐候性や耐寒性に優れたエチレンプロピレンジエン三元共重合体である。
【0012】
表面層4を構成する極性高分子としては、分子中に極性基を有するものであって、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、エステル系ポリマー、アクリロニトリルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴムなどを単体もしくはブレンドして用いることができるが、より好ましくは高弾性で耐摩耗性に優れたウレタン樹脂である。
【0013】
表面層4に含有される導電性粒子としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、SRFカーボンブラック、HAFカーボンブラック、FEFカーボンブラック、GPFカーボンブラックなどが挙げられる。
【0014】
表面層4における導電性粒子の含有量は、使用する導電性粒子種や所望する抵抗値に応じて異なるが、高分子成分100重量部に対して5〜20重量部であることが望ましい。尚、導電性粒子を配合したポリマー組成物の電子伝導機構としては、導電性粒子がマトリックス中でネットワークを形成し、このネットワークを通じて電子が移動することによるものと、マトリックスゴムを挟んで隣接するカーボンブラック間を電子がジャンプして通電するトンネル効果によるものとがある。
【0015】
また、弾性層3にも上述の如き導電性粒子を含有させることができる。その含有量は使用する導電性粒子種や所望する抵抗値に応じて異なるが、高分子成分100重量部に対して10〜100重量部であることが望ましい。10重量部未満の場合は導電性が充分ではなく、また100重量部を超えると加工性に難がある。
【0016】
また、弾性層3や表面層4には、上記の導電剤以外にもゴムに通常用いられるようなシリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、オイル、ワックス、架橋剤、架橋促進剤、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、短繊維、粘着付与剤、スコーチ防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、難燃剤、耐油性向上剤、そして共架橋剤などの配合剤を添加することができる。
【0017】
可塑剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサンオイル、ジフェニルシランジオール、トリメチルシラノール、その他DOPなどのフタレート系、DOA、DIDAなどのアジペート系、DOS、DBSなどのセバケート系、TOP、TBPなどのフォスフェート系、ポリエーテル系などの可塑剤を挙げることができる。そして可塑剤の配合量は限定されるものではないが、好ましくは10〜50重量部である。
【0018】
短繊維は、例えば、綿、ポリエステル、ポリアミド、アラミドなどの繊維からなる長さが1〜10mmの短繊維を用いることができる。
【0019】
充填剤としては、例えば、珪藻土、亜鉛華、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、二酸化チタン、タルク、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、アスベスト、ガラス繊維、カーボンブラック、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、タルク、アルミナ、シリカなどの無機充填剤が挙げられる。ここで、シリカは各層の体積固有抵抗値を調整するために配合することができる。シリカはカーボンブラックと同様に補強効果が得られるが、配合することによって体積固有抵抗値を上げることができる。配合量としてはポリマー100重量部に対して20〜40重量部の範囲で配合することが望ましい。20重量部未満であると補強効果が不足し、40重量部を超えると作業性が悪化するとういった不具合がある。シリカを配合することによって高分子の加工性が悪くなるので、必要に応じてステアリン酸などの加工助剤を配合してもよい。
【0020】
共架橋剤としては、例えば、硫黄、ジペンタメチレン−チウラム−ペンタスルフィド、メルカプトベンゾチアゾール、GM、DGM、N−メチル−N’−4−ジニトロソアニリン、ジニトロソベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルアジペート、マレイカンハイドライド、N,N’−M−フェニレンビスマレイミド、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルメラミン、ジフェニルグアニジンなどから選ばれてなる少なくとも1種の共架橋剤を用いることが好ましい。
【0021】
ここで、表面層4の体積固有抵抗値は、弾性層3の体積固有抵抗値よりも高く設定される。好ましくは、表面層4の体積固有抵抗値をRA、弾性層3の体積固有抵抗値をRBとした時、1≦logRA−logRB≦3とすることが望ましい。logRA−logRB<1であると、弾性層3の影響が強くなり、ロール全体の抵抗値のバラツキ抑制効果が低い。一方、3<logRA−logRBであると、表面層4の環境変動につられて、ロール全体の抵抗値が変動してしまう恐れがある。また、導電層3、表面層4の体積固有抵抗値は夫々10〜1011Ω・cmに調整されることが望ましい。抵抗値は練り条件によっても調整されることから、使用する混練機種によって、適切なフィルファクター、回転数、練り時間等を設定することが好ましい。
【0022】
更に、表面層4の厚みは10〜25μmの範囲とする。表面層4の厚みが25μmを超えると、ロールの環境変動が大きくなり、厚みが10μm未満ではロールの抵抗値のバラツキ抑制効果に乏しい。
【0023】
一般に、表面層4のように極性高分子に導電性粒子を含有させる構成とした場合、所謂イオン導電的性質を示すため体積固有抵抗値のバラツキが小さくなるものの、温湿度など環境による体積固有抵抗値の変動が大きくなるという性質がある。一方で、弾性層3のように無極性高分子で構成した場合、温湿度などによる環境変動は小さいものの、体積固有抵抗値のバラツキが大きいといった性質がある。そして、体積固有抵抗値が異なる複数の層を有するロールにおいては、温湿度などの環境により体積固有抵抗値が高い層の体積固有抵抗値が変動すると、それに伴いロール全体の抵抗値がつられて変動する傾向がある。これは即ち、体積固有抵抗値の高い層の環境変動が大きいと、ロール全体の抵抗値の変動が大きくなるものである。
【0024】
しかし、本発明のように、環境変動が小さく体積固有抵抗値が低い層(弾性層3)の外周を、環境変動が大きく体積固有抵抗値が高い層(表面層4)をもって厚みが25μm以下となるよう被覆することで、環境変化があってもロール全体の抵抗値の変動が抑制される。また体積固有抵抗値のバラツキが大きい層(弾性層3)の外周を、体積固有抵抗値のバラツキが少ない層(表面層4)をもって厚みを10μm以上となるよう被覆することで、ロールの抵抗値のバラツキを抑制する効果が高くすることができる。
【0025】
即ち、本発明の導電性ロールは、温度や湿度などの環境の変化に伴う抵抗値の変動が小さく(環境依存性が1桁以下)、部位によるバラツキの少ない。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例及び比較例を挙げて試験を行い本発明の効果を確かめた。
まず、表1の配合に従って、弾性層、表面層の各配合を有するポリマー組成物を作製し、その体積固有抵抗値を測定した。
【0027】
【表1】

【0028】
弾性層の体積固有抵抗値は次のようにして求めた。JIS−K6911に従い、5mmの円盤状サンプルを作製し、30°C×85%の環境下で一昼夜放置後、超高抵抗微小電流計R8340A(Advantest社製)にて電圧100Vにおける体積固有抵抗値を測定した。
【0029】
表面層の体積固有抵抗値は次のようにして求めた。銅板上にポリマー組成物を厚みが均一(20μm)となるよう塗布したものを、30°C×85%の環境下で一昼夜放置後、超高抵抗微小電流計R8340A(Advantest社製)にて電圧100Vにおける体積固有抵抗値を測定した。
【0030】
次に、表1の配合に従って、弾性層の外周に表面層を被覆した導電性ロールを作製した。そして各導電性ロールの抵抗値、抵抗値のバラツキ、環境変動について評価した。
【0031】
抵抗値のバラツキは、図2に示す測定装置を用いて評価した。測定装置は、幅3mmの銅薄板5を等間隔で5本貼り付けた絶縁板8上に、シャフト2の両端に500gの分銅6を取り付けたロール1をセットしてなる。ここで、銅薄板5の端部は絶縁板8に貼り付けられず、浮いた状態となっている。これを端子として、順次、該シャフト2と各銅薄膜5との間に100V印加し、計5点の抵抗値を求めた。これら5点の平均値を求め、これを導電性ロールの抵抗値とした。また、これら5点の最大値、最小値それぞれの常用対数をとり、その差を抵抗値のバラツキとした。更に、本試験を低温低湿(15°C×10%)と高温高湿(30°C×85%)の条件で実施し、低温低湿における導電性ロールの抵抗値の常用対数から、高温高湿における導電性ロールの抵抗値の常用対数を引いたものを環境変動とした。
【0032】
表1の結果からわかるように、本発明の実施例は導電性ロールの抵抗値のバラツキ、環境変動が小さく、良好な数値を示しているが、比較例では環境依存性、バラツキのいずれかの項目において、範囲を外れる数値が見られることが判明した。具体的には、表面層を無極性高分子で構成した比較例1、表面層が薄い比較例2、弾性層の体積固有抵抗値が表面層のそれより高い比較例4では、抵抗値のバラツキが大きいことが判った。また表面層が厚い比較例3、弾性層を極性高分子で構成した比較例5では、環境依存性が高いことが知見された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
複写機、プリンター等の電子写真方式の画像形成装置において、現像ロール、帯電ロール、転写ロールなどの導電性ロールとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】導電性ロールの斜視図である。
【図2】導電性ロールの抵抗値のバラツキを測定する装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 導電性ロール
2 良導電性シャフト
3 弾性層
4 表面層
5 銅薄板
6 分銅
7 電流計
8 絶縁板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無極性高分子を用いた弾性層と、導電性粒子を含有し、極性高分子を用いた表面層とを有し、表面層の体積固有抵抗値が弾性層の体積固有抵抗値よりも高く、かつ、表面層の厚みが10〜25μmであることを特徴とする導電性ロール。
【請求項2】
極性高分子がポリウレタン樹脂である請求項1記載の導電性ロール。
【請求項3】
無極性高分子がエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体である請求項1または2記載の導電性ロール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−7634(P2006−7634A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189373(P2004−189373)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】