説明

導電性樹脂形成性組成物

【課題】 プラスチックやガラス基材の表面に対する密着性に優れ、該基材の透明性および機械強度を損なうことなく基材に導電性を付与する導電性樹脂膜を与える導電性樹脂形成性組成物を提供する。
【解決手段】 導電性ポリマー(A)、活性エネルギー線硬化型モノマー(B)および光酸発生剤(C)を含有してなることを特徴とする導電性樹脂形成性組成物、該組成物を硬化させてなる導電性樹脂膜、並びに、該導電性樹脂膜を基材の少なくとも片面の少なくとも一部に有する導電性樹脂膜被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂形成性組成物に関する。さらに詳しくは、プラスチックやガラスの表面に対する密着性に優れ、かつ光透過性、耐熱性および機械物性に優れる導電性樹脂膜を与える導電性樹脂形成性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性樹脂としては、共役系の有機高分子で構成される樹脂、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレン、およびこれらのアロイ樹脂等が挙げられる。これらの導電性樹脂は、導電性や帯電防止性が求められる基材、とくに透明性プラスチック基材用の帯電防止性コーティング剤や、該基材上の透明電極(例えば、特許文献1参照)等としての利用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−324143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、該導電性樹脂は、多くの有機溶媒に不溶であり、また、基材に対する被膜形成性が通常劣り、被膜が形成されても硬くて脆いという機械強度や基材に対する密着性の点で不十分であることから、その応用分野はこれまで限られたものとなっていた。
とくに、透明性プラスチック基材に対して、帯電防止性を付与したり、該基材上に透明電極を形成させる場合は、基材の透明性や機械強度が損なわれたりして満足できるものが得られなかった。
また従来、微細加工を必要とするエレクトロニクスの分野では導電性物質で形成された導体部の一部を除去することによって電気回路を形成するため、材料に無駄が生じたり、加工ステップが多くなるという欠点があり、簡単な加工ステップで高精度の微細加工が可能な電子回路形成方法の実用化が望まれている。
本発明の目的は、基材の透明性および機械強度を損なうことなく基材に導電性を付与する導電性樹脂を与える導電性樹脂形成性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に到達した。即ち、本発明は、導電性ポリマー(A)、活性エネルギー線硬化型モノマー(B)および光酸発生剤(C)を含有してなることを特徴とする導電性樹脂形成性組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性樹脂形成性組成物からなり、基材面に形成されてなる導電性樹脂膜、および該組成物を用いる電子回路形成方法は、下記の効果を奏する。
(1)該導電性樹脂膜は機械強度および基材への密着性に優れる。
(2)該導電性樹脂膜は基材の光透過性および機械強度を損なうことなく優れた導電性を基材に付与できる。
(3)該電子回路形成方法は、導電性と機械強度に優れた導電性樹脂を活性エネルギー線の照射部分に選択的かつ効率的に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[導電性ポリマー(A)]
本発明における導電性ポリマー(A)としては、アニリン、ピロール、チオフェン、アセチレンおよびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化重合性モノマーを構成単位とするポリマーが挙げられる。本発明の導電性樹脂形成性組成物においては、(A)は1種単独で用いても、2種以上を併用してもいずれでもよい。
上記(A)のうち、耐空気酸化性の観点から好ましいのは少なくともチオフェンを構成単位として含有するポリマーであり、該チオフェンの含有量は(A)の重量に基づいて耐空気酸化性、導電率および機械物性の観点から好ましくは40〜80%、さらに好ましくは45〜70%である。
【0008】
前記アニリンの誘導体としては、炭素数(以下Cと略記)7〜14、例えばアルキルアニリン(2−メチルアニリン、2−オクチルアニリン、2−イソブチルアニリン、3−イソブチルアニリン等)、スルホ基含有アニリン[アニリン−2−スルホン酸(オルタニル酸)、アニリン−3−スルホン酸(メタニル酸)、アニリン−4−スルホン酸(スルファニル酸)等];
ピロールの誘導体としては、C5〜13、例えばアルキルピロール(3−メチルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール等)、水酸基含有ピロール(3−ヒドロキシピロール、3−メチル−4−ヒドロキシピロール等)、アルコキシピロール(3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−オクトキシピロール等)、カルボキシル基含有ピロール(3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール等);
【0009】
チオフェンの誘導体としては、C5〜20、例えばアルキルチオフェン(3−メチルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン等)、アルコキシチオフェン(3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−オクトキシチオフェン等)、カルボキシル基含有チオフェン(3−カルボキシルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシルチオフェン等)、3,4−エチレンジオキシチオフェン;
アセチレンの誘導体としては、C2〜10、例えばp−3−メチルブトキシフェニルアセチレンが挙げられる。
【0010】
(A)は、構成単位となる上記化合物を公知の酸化重合法により重合させて製造できる。例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)は、塩化鉄(II)50重量部を乾燥クロロホルム30部に溶解した溶液を0℃に冷却し、これに3−ヘキシルチオフェン20重量部を乾燥クロロホルム20部に溶解した溶液を加え、0℃で約20時間撹拌し、空気の存在下常圧で重合させることにより製造できる。該重合方法はポリ(3−ヘキシルチオフェン)以外の他のポリアルキルチオフェン、並びにポリアルキルチオフェン以外の他の(A)の製造でも同様に行うことができる。
【0011】
(A)の数平均分子量[以下Mnと略記。測定はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は、機械物性および溶剤(クロロホルム等)に対する(A)の溶解度の観点から好ましくは10,000〜200,000、さらに好ましくは20,000〜150,000である。
【0012】
市販されている(A)の具体例としては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)[いずれもアルドリッチ(株)製]、ポリアニリン[商品名「オルメコン」、日産化学(株)製]等が挙げられる。
【0013】
(A)が導電性を有するようにするためには、通常(A)にドーパント(添加物)がドープ(添加)される。ドープには、電子を受容するアクセプタードープと電子を供与するドナードープが含まれる。これらのうち、空気中での安定性の観点から好ましいのはアクセプタードープであり、後述する光酸発生剤(C)は、該アクセプタードープにおけるドーパントとしての役割を果たすものである。
【0014】
[活性エネルギー線硬化型モノマー(B)]
本発明における活性エネルギー線硬化型モノマー(B)としては、光カチオン重合性を有するエポキシド、ビニルエーテルおよびオキセタンからなる群から選ばれる1種または2種以上のモノマーが挙げられる。
【0015】
エポキシドとしては、C15以上かつMn1,000以下のもの、例えばビスフェノールA型、−F型およびAF型、水添ビスフェノールA型およびフェノールノボラック型等の各種液状エポキシ樹脂およびその誘導体、多価アルコールとエピクロルヒドリンとから誘導される液状エポキシ樹脂およびその誘導体、グリシジルアミン型、ヒダントイン型、アミノフェノール型、アニリン型およびトルイジン型等の各種グリシジル型液状エポキシ樹脂およびその誘導体等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を併用することができる。
市販のエポキシドとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名「エピコート828」、ジャパンエポキシレジン(株)製]等が挙げられる。
【0016】
ビニルエーテルとしては、C3以上かつMn1,000以下のもの、例えば1価ビニルエーテル(n−プロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等)、2価ビニルエーテル(1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル等)、3価ビニルエーテル(トリメチロールプロパントリビニルエーテル等)およびこれらの誘導体等が挙げられる。
市販のビニルエーテルとしては、「NPVE」、「IPVE」、「NBVE」、「IBVE」、「EHVE」、「ODVE」、「CHVE」、「ALLVE」、「HEVE」、「HBVE」、「HNVE」、「HCHVE」、「CHMVE」、「TEGMVE」、「BDVE」、「NDVE」、「CHODVE」、「CHDVE」、「TEGVE」、「TMPVE」および「PEVE」[商品名、いずれも日本カーバイド工業(株)製]、「HEVE」、「HBVE」および「DEGV」[商品名、いずれも丸善石油化学(株)製]等が挙げられる。
【0017】
オキセタンとしては、C4以上かつMn1,000以下のもの、例えばオキセタン環を1個有するもの{3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−〔[(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル〕オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン}、オキセタン環を2個有するもの{1,4−ビス〔[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル〕ベンゼン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル}およびこれらの誘導体等が挙げられる。
市販のオキセタンとしては、「エタナコールEHO」、「エタナコールOXMA」、「エタナコールOXTP」および「エタナコールOXBP」[商品名、いずれも宇部興産(株)製]、「アロンオキセタンOXT−101」、「アロンオキセタンOXT−121」、「アロンオキセタンOXT−211」、「アロンオキセタンOXT−221」、「アロンオキセタンOXT−212」、「アロンオキセタンOXT−610」、「OX−SQ」、「PNOX−1009」および[商品名、いずれも東亞合成(株)製]等が挙げられる。
【0018】
[光酸発生剤(C)]
本発明における光酸発生剤(C)としては、オニウム塩(C1)、スルホン化合物(C2)、スルホン酸エステル(C3)等を挙げることができる。
【0019】
オニウム塩(C1)としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、フェロセン等を挙げることができる。
該塩を構成するアニオン部分としては、IIIA族およびVA族原子のフッ化物アニオン(BF5-、PF6-、SbF6-等)等が挙げられる。
【0020】
スルホニウム塩としては、多価(3〜6)アリールスルホニウム塩、例えばビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビステトラフルオロボレート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが挙げられる。
【0021】
ヨードニウム塩としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等;
【0022】
ホスホニウム塩としては、エチルトリフェニルホスホニウムテトラフルオロボレート、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート等;
【0023】
ジアゾニウム塩としては、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等;
【0024】
アンモニウム塩としては、テトラブチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩等;
【0025】
ピリジニウム塩としては、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム テトラフルオロボレート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等;
【0026】
フェロセンとしては、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロホスフェート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロアンチモネート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラフルオロボレート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0027】
これらのオニウム塩(C1)のうち、安定性、硬化速度および工業上の観点から好ましいのは、スルホニウム塩およびヨードニウム塩、(A)、(B)への溶解性の観点からさらに好ましいのは、スルホニウム塩、とくに好ましいのは多価アリールスルホニウムPF6塩、多価アリールスルホニウムSbF6塩である。
【0028】
(C1)の市販品としては、「CPI−110P」〔商品名、サンアプロ(株)製、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート〕、「CPI−111A」〔商品名、サンアプロ(株)製、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート〕;「SP−150」、「SP−170」、「CP−66」、「CP−77」[商品名、いずれも旭電化工業(株)製];「CYRACURE−UVI−6990」、「CYRACURE−UVI−6974」[商品名、いずれもユニオンカーバイド(株)製];「CI−2855」、「CI−2639」[商品名、いずれも日本曹達(株)製];「サンエイドSI−60」[商品名、三新化学工業(株)製];「イルガキュア261」〔商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、2,4−シクロペンタジエン−1−イル[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロホスフェート〕;「ロードシル(RHODORSIL)2074」[商品名、ローディア・ジャパン(株)製、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート]が挙げられる。
【0029】
スルホン化合物(C2)としては、β−ケトスルホン、β−スルホニルスルホンや、これらのα−ジアゾ化合物、例えばフェナシルフェニルスルホン、メシチルフェナシルスルホン、ビス(フェニルスルホニル)メタン、4−トリスフェナシルスルホン等が挙げられる。
【0030】
スルホン酸エステル化合物(C3)としては、アルキルスルホン酸エステル、ハロアルキルスルホン酸エステル、アリールスルホン酸エステル、イミノスルホネート等、例えばベンゾイントシレート、ピロガロール−トリス−トリフルオロメタンスルホネート、ピロガロール−トリス−ノナフルオロブタンスルホネート、ピロガロールメタンスルホン酸トリエステル、ニトロベンジル−9,10−ジエトキシアントラセン−2−スルホネート、α−メチロールベンゾイントシレート、α−メチロールベンゾインオクタンスルホネート、α−メチロールベンゾイントリフルオロメタンスルホネート、α−メチロールベンゾインドデシルスルホネート等を挙げることができる。
【0031】
(C)は、後述する本発明の導電性樹脂形成性組成物において、導電性ポリマーに対するドーパントとしての機能、および活性エネルギー線硬化型モノマー(B)に対する光カチオン重合開始剤としての機能の両方を果たすものである。
【0032】
[導電性樹脂形成性組成物]
本発明の導電性樹脂形成性組成物は、前記導電性ポリマー(A)、活性エネルギー線硬化型モノマー(B)および光酸発生剤(C)を含有してなる。
(A)、(B)、(C)の合計重量に基づくそれぞれの割合は、(A)は導電性の観点から好ましくは40〜80%、さらに好ましくは50〜70%;(B)は機械物性および導電性の観点から好ましくは40〜80%、さらに好ましくは50〜70%;(C)は光カチオン重合性、ドーパントとしての機能および形成される導電性樹脂膜の黄変防止、機械物性の観点から好ましくは0.5〜20%、さらに好ましくは1〜10%である。
【0033】
本発明の導電性樹脂形成性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で必要により、前記光酸発生剤(C)以外のその他のドーパント(D1)、酸化防止剤(D2)、耐熱安定剤(D3)および耐光安定剤(D4)からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤(D)を含有させることができる。
【0034】
光酸発生剤(C)以外のその他のドーパント(D1)のうち、アクセプタードープに用いられるものとしては、ハロゲン(F2、Cl2、Br2、I2等)、ルイス酸[ハロゲン化ホウ素(BF3、BCl3、BBr3等)]、VA族元素のフッ化物(PF5、SbF6、AsF5等)等]、プロトン酸〔無機酸[硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸、フッ化水素酸、ハロゲン化スルホン酸(FSO3H、ClSO3H、CF3SO3H等)等]、有機酸(ギ酸、酢酸、アミノ酸等)等〕、遷移金属のハロゲン化物(FeCl3、MoCl5、SnCl4、FeCl3、FeOCl、TiCl4、ZrCl4、HfCl4、NbF5、NbCl5、TaCl5、MoCl5、WF5、WCl6、UF6、LnCl3(Ln=La、Ce、Nd、Pr等のランタノイドおよびY)等のドーパントが挙げられる。
【0035】
上記のドープのうち、耐空気酸化性の観点から好ましいのはアクセプタードープであり、好ましいドーパントはルイス酸、プロトン酸、遷移金属のハロゲン化物である。
【0036】
上記ドープのうちアクセプタードープの方法には、次の(1)〜(3)が含まれる。これらのうちドープ状態の安定性の観点から好ましいのは(2)、(3)、さらに好ましいのは(3)である。
(1)(A)に、昇華させたドーパント(D1)を気相でドープする方法
(A)と、例えば固体ヨウ素を常温常圧下でガラス製容器に密閉し、昇華したヨウ素でドーピングを行う。
(2)(A)に、液状ドーパント(D1)を混合して液相でドープする方法
(A)と、液状のドーパント、例えば前記ルイス酸のうち液状のもの[PF5、SbF5、BC13、BBr3、プロトン酸(無機酸、ギ酸、酢酸等)等]を常温常圧下、一定の割合で混合してドーピングを行う。
(3)(A)と固体状ドーパント(D1)を溶剤に溶解した溶液相でドープする方法
(A)と、固体状ドーパント、例えば前記ルイス酸のうち固体状のもの[有機酸(アミノ酸等)、遷移金属のハロゲン化物等]を有機溶剤(クロロホルム等)に溶解した溶液とし、常温常圧下、混合撹拌してドーピングを行う。
【0037】
その他のドーパント(D1)の使用量は、(A)の重量に基づいて、通常50%以下、導電性および後述する導電性樹脂膜の機械強度の観点から好ましくは0.5〜30%、さらに好ましくは1〜20%である。
【0038】
酸化防止剤(D2)としては、アミン(N−フェニル−α−ナフチルアミン、N−フェニル−β−ナフチルアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン等)、アミンケトン(ジフェニルアミンとアセトンの反応物等)、前記ヒンダードフェノール化合物、ジチオカルバミン酸塩(ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等)等が挙げられる。
(D2)の使用量は、(A)と(B)の合計重量に基づいて、通常30%以下、導電性樹脂の黄変防止および基材との密着性の観点から好ましくは0.5〜15%、さらに好ましくは1〜10%である。
【0039】
耐熱安定剤(D3)としては、リン化合物、例えばトリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチル-ジフエニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(C12〜15の混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)ジホスファイト、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ホスファイト、トリス(モノ・ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、水素化−4,4’−イソプロピリデンジフェノールポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)・ビス[4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)]・1,6−ヘキサンジオールジホスファイト;イオウ化合物、例えばジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
(D3)の使用量は、(A)と(B)の合計重量に基づいて、通常30%以下、導電性樹脂の黄変防止および基材との密着性の観点から好ましくは0.5〜15%、さらに好ましくは1〜10%である。
【0040】
耐光安定剤(D4)としては、ヒンダードアミン、ベンゾエート、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、シアノアクリレート等、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4-ヒドロキシ−2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6−(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5-トリアジン−2−4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル) イミノ]ヘキサメチレン [(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ] ]、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、ビス−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,1’−(1,2−エタンジイル)ビス(3,3,5,5−テトラメチルピペラジノン)、(ミックスト2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、(ミックスト1,2,2,6,6-ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5) ウンデカン]ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト{1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5) ウンデカン]ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、N,N’−ビス(3−アミノプロピル) 等が挙げられる。
(D4)の使用量は、(A)と(B)の合計重量に基づいて、通常5%以下、導電性樹脂の黄変防止および基材との密着性の観点から好ましくは0.01〜2%、さらに好ましくは0.05〜1%である。
【0041】
本発明の導電性樹脂形成性組成物は、基材(プラスチック、ガラス等)面に塗布するに当たり、塗工性の観点から有機溶剤(E)で希釈することができる。
【0042】
(E)としては、炭化水素(C5〜15、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、トルエン、キシレン)、ハロゲン化炭化水素(C1〜4、例えばクロロホルム、四塩化炭素、二塩化メチレン)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
(E)の使用量は、有機溶剤を加える前の組成物の重量に基づいて、通常100%以下、塗工性および乾燥効率の観点から好ましくは5〜80%、さらに好ましくは10〜50%である。
【0043】
本発明の導電性樹脂形成性組成物は、前記(A)〜(C)、および必要により(D)、(E)を混合して製造することができる。混合条件についてはとくに限定されることはなく、通常の混合装置で常温常圧下で混合することができる。
【0044】
[導電性樹脂膜、導電性樹脂膜被覆材]
本発明の導電性樹脂膜は、前記導電性樹脂形成性組成物を基材面に塗工機を用いて塗布し、有機溶剤を乾燥させた後、後述する活性エネルギー線を照射して硬化させることにより得られる。また、本発明の導電性樹脂膜被覆材は、上記と同様に、基材の少なくとも片面の少なくとも一部に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより、該導電性樹脂膜を基材の少なくとも片面の少なくとも一部に有するものとして得られる。
該導電性樹脂膜の膜厚(μm)は、塗工性および乾燥効率の観点から好ましくは0.1〜100、さらに好ましくは0.5〜50、とくに好ましくは1〜20である。
【0045】
基材としては、とくに限定されることはなくプラスチック、ガラス、金属、コンクリート、石およびセラミック等が挙げられる。
塗工機としては、バーコーター、スピンコーター、ロールコーター、ブレードコーター、ダイコーター、グラビアコーター等が挙げられる。
塗工後、空気中にて乾燥後、乾燥塗膜に、活性エネルギー線を照射して該塗膜を硬化させることにより、導電性樹脂膜が形成される。
【0046】
活性エネルギー線としては、X線や紫外線、電子線等が挙げられる。これらの活性エネルギー線のうち、硬化性および安全性の観点から好ましいのは紫外線および電子線、さらに好ましいのは紫外線である。
紫外線の場合は、種々の紫外線照射装置〔例えば、型番「VPS/I600」、フュージョンUVシステムズ(株)製〕を用い、光源としては高圧水銀ランプ、フュージョンHランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を使用することができる。
紫外線の照射量(単位:mJ/cm2)は、通常10〜10,000、組成物の硬化性および降下物の劣化抑制の観点から好ましくは100〜5,000である。
【0047】
電子線の場合は、種々の電子線照射装置[例えばエレクトロンビーム、岩崎電気(株)製]を使用することができる。
電子線の照射量(単位:Mrad)は、通常0.5〜20、組成物の硬化性および硬化物の可撓性、硬化物および基材の損傷を避けるとの観点から好ましくは1〜15である。
【0048】
本発明の導電性樹脂膜の導電性は、表面固有抵抗値(単位:Ω)で評価することができ、該表面固有抵抗値は、導電性の観点から好ましくは1×104〜9×1012、さらに好ましくは1×106〜1011である。該導電性は、本発明の導電性樹脂形成性組成物中の光酸発生剤(C)の含有量を増すこと、および必要によりドーパント(D1)の含有量を増すことにより向上させることができる。
【実施例】
【0049】
以下実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の部は重量部、%は重量%を表す。
実施例および比較例に使用した原料の組成、記号等は次の通りである。
導電性ポリマー(A−1):ポリ−3−ドデシルチオフェン[アルドリッチ(株)製、
Mn25,000]
導電性ポリマー(A−2):ポリアニリン[日産化学(株)製、Mn 90,000]
エポキシド (B−1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名「エピコート82
8」、ジャパンエポキシレジン(株)製]
ビニルエーテル(B−2):n-プロピルビニルエーテル[商品名「NPVE」、日本カ
ーバイド工業(株)製]
光酸発生剤 (C−1):トリアリールスルホニウムPF6塩[商品名「CPI−11
0P」、サンアプロ(株)製]
酸化防止剤 (D−1):ヒンダードフェノール[商品名「スミライザーGA−80」
、住友化学(株)製]
有機溶剤 (E−1):クロロホルム
【0050】
実施例1〜7
導電性ポリマー(A)、活性エネルギー線硬化型モノマー(B)、および光酸発生剤(C)の各0.5%クロロホルム溶液を表1に記載の配合組成で配合した導電性樹脂形成性組成物を、プラスチック基材[PET製透明平板、タテ×ヨコ×厚さ=100×100×0.7mm、以下同じ。]の片側全面に塗布した後、室温で乾燥させた。該乾燥したことは、粘着テープを用いて粘着面に塗膜が付着しないことで確認した。乾燥後の膜厚は1μmであった。該塗膜面に紫外線を100mJ/cm2照射して、基材の片面が導電性樹脂膜で被覆された導電性樹脂膜被覆材を得た。該被覆材について、下記の方法で性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果から、本発明の導電性樹脂膜は、比較のものに比べ、耐熱性に優れるとともに、基材の透明性および機械強度を損なうことなく優れた導電性を基材に付与できることがわかる。
【0053】
<性能評価方法>
(1)密着性
JIS K5400に準拠して、被覆材の樹脂膜表面に、カッターを用い、タテ、ヨコ各1mm間隔で、基材面に到達する深さで切れ目を入れて100個の碁盤目を作成した。該100個の碁盤目の全体より広目に付着するように、粘着テープ「セロテープ」[登録商標、ニチバン(株)製]No.405を貼り付け、30秒後に該粘着テープを膜面に対し垂直方向に一気に剥がし、碁盤目の剥離状態を目視観察して、下記の基準で密着性を評価した。
評価基準
○ 剥がれた碁盤目がない
△ 剥がれた碁盤目が1個
× 剥がれた碁盤目が複数個以上
【0054】
(2)光透過性
被覆材について、分光光度計[機器名「U−3500」、日立製作所(株)製]を用い測定波長450nmで、基材と樹脂膜を含めた被覆材の光透過率(%)を測定して光透過性を評価した。基材のみの光透過率は87%であった。
【0055】
(3)耐熱性
80℃のオーブン中で1,000時間静置する前後の樹脂膜について、それぞれ後述の表面固有抵抗値を測定し、下記の基準で耐熱性を評価した。
評価基準
○ 抵抗値の変化量が1%以下
△ 抵抗値の変化量が1%超〜10%以下
× 抵抗値の変化量が10%超
【0056】
(4)機械物性(表面硬度)
被覆材(タテ×ヨコ=100×100mm)の樹脂膜面について、JIS−K−5400で規定される鉛筆硬度評価方法に従い、9.7Nの荷重で鉛筆硬度試験(鉛筆引っ掻き試験)を行い、膜面に傷が認められない鉛筆硬度の値で機械物性を評価した。該試験用鉛筆は、JIS−S−6006で規定されるものを用いた。
【0057】
(5)導電性
被覆材(タテ×ヨコ=100×100mm)の樹脂膜面について、JIS K7204に従い、「高抵抗率計 ハイレスターUP」または「低抵抗率計 ローレスターGP」[機器名、いずれも三菱化学(株)製]を用い、「ハイレスターUP」では印加電圧500V、 1分、「ローレスターGP」では印加電圧90V、15秒の条件で測定される表面固有抵抗値(単位:Ω)で導電性を評価した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の導電性樹脂形成性組成物は、プラスチックやガラス基材等の表面に対する密着性に優れ、形成される導電性樹脂は、透明性、耐熱性および機械強度に優れることから、導電性塗料、導電性接着材料、電磁波遮蔽材料、電池材料、コンデンサ材料、センサー材料、電子デバイス材料、静電式複写部材、プリンタ用感光部材、転写体、および電子写真材料等、導電性を必要とする各種材料分野で幅広く用いることができる。
とくに、本発明の導電性樹脂形成性組成物を基材の少なくとも片面の少なくとも一部に塗布した後、該塗膜面に活性エネルギー線を選択的に照射することにより、導電性と機械強度に優れた導電性樹脂を基材面上に選択的かつ効率的に形成できる。このため簡単な加工ステップにより高精度で微細な電子回路を形成することもでき、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマー(A)、活性エネルギー線硬化型モノマー(B)および光酸発生剤(C)を含有してなることを特徴とする導電性樹脂形成性組成物。
【請求項2】
(A)、(B)、(C)の合計重量に基づく割合が、(A)が40〜80%、(B)が19〜59%、(C)が1〜20%である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
さらに、ドーパント、酸化防止剤、耐熱安定剤、および耐光安定剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤(D)を含有させてなる請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の組成物を硬化させてなる導電性樹脂膜。
【請求項5】
請求項4記載の導電性樹脂膜を基材の少なくとも片面の少なくとも一部に有する導電性樹脂膜被覆材。
【請求項6】
請求項5記載の被覆材からなる電磁波遮蔽材料、電池材料、コンデンサ材料、センサー材料、電子デバイス材料または電子写真材料。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか記載の組成物を、基材の少なくとも片面の少なくとも一部に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることを特徴とする導電性樹脂膜被覆材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか記載の組成物を基材の少なくとも片面の少なくとも一部に塗布し、該塗膜面に活性エネルギー線を選択的に照射して導電性樹脂を形成することを特徴とする電子回路形成方法。

【公開番号】特開2010−202704(P2010−202704A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46892(P2009−46892)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】