説明

導電性酸化物付き基板の作製方法および導電性酸化物付き基板

【課題】熱処理(レーザ光照射による)とエッチング処理のみの簡便なプロセスにより、従来技術よりも低コストな方法で、導電性酸化物の薄膜が加工された基板を作製すること及びこのような基板を提供すること。
【解決手段】導電性酸化物付き基板の作製方法において、導電性酸化物の薄膜を基板上に積層する成膜工程と、レーザ光を集光させた状態で照射することにより前記基板面内の積層された導電性酸化物の薄膜の一部を熱変化させる熱処理工程と、熱処理工程により熱変化していない部分をエッチング処理により除去するエッチング処理工程とを含み、前記導電性酸化物の薄膜は、前記レーザ光を吸収し、該薄膜の少なくとも一部がアモルファス相であることを特徴とする導電性酸化物付き基板の作製方法及び得られた基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレー、イメージセンサー、太陽電池、固体光源による照明などの機能デバイスを作製するために用いられる導電性酸化物付き基板の作製方法および導電性酸化物付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディスプレーやイメージセンサーなどでは、配線形状に加工されたIn−SnO(ITO:Indium−Tin−Oxides)に代表される導電性酸化物付き基板が用いられている。太陽電池や固体光源による照明などを含む面機能デバイスにおいても、集電や光取り込みや光取出し効率を向上させることを目的として、導電性酸
化物を凹凸形状に加工した導電性酸化物付き基板が用いられている。導電性酸化物を加工する場合、一般的にはフォトマスクを用いたフォトリソグラフィーによって加工する方法が採用されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、ITO皮膜のパターン形成を行うステップが、パターン形成されたフォトレジスト層をITO皮膜上に形成するステップと、フォトレジスト層を用いることによりITO皮膜の一部を除去するステップと、フォトレジスト層を除去するステップよりなるITO皮膜の製造方法が開示されている。
特許文献2には、レーザ光により、ITO膜に対して光分解反応であるアブレーションを起し、ITO膜に対して前記レーザ光を選択的に照射し、照射領域において、ITO膜を除去し、抜きパターンをITO膜に形成することが開示されている。
特許文献3には、抵抗率が1×10-3Ω・cm以上のITO膜を製膜した後、前記ITO膜を所定のパターンにエッチング加工した後に加熱を必要とする被膜を形成し、その後に前記加熱を必要とする被膜及びITO膜を同時にクリーンオーブンで加熱処理し、ITO膜の抵抗率を1×10-3Ω・cm未満に低下させてITO電極を作製する方法が開示さ
れている。
なお本願出願人においても、特許文献4で、光吸収層と熱反応層の積層構成を有する媒体を用い、少なくとも、該媒体に対して光を照射する工程、該媒体をエッチング加工する工程により微細な構造体を形成する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−066362号公報
【特許文献2】特開2006−114428号公報
【特許文献3】特許第3229610号公報
【特許文献4】特開2006−004594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光を用いてパターン状に導電部を直接に加工してその部分を形成するという観点の発明は、上記特許文献1〜4には何等示されていない。
すなわち、本発明は、熱処理(レーザ光照射による)とエッチング処理のみの簡便なプロセスにより、従来技術よりも低コストな方法で、導電性酸化物の薄膜が加工された基板を作製することおよびこのような基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した実情を考慮してなされたものであって、より具体的には、以下のような解決手段を有している。
(1):導電性酸化物付き基板の作製方法において、導電性酸化物の薄膜を基板上に積層する成膜工程と、レーザ光を集光させた状態で照射することにより前記基板面内の積層された導電性酸化物の薄膜の一部を熱変化させる熱処理工程と、前記基板面内の積層された導電性酸化物の薄膜の中で前記熱処理工程により熱変化していない部分をエッチング処理により除去するエッチング処理工程とを含み、前記導電性酸化物の薄膜は、前記レーザ光を吸収し、該薄膜の少なくとも一部がアモルファス相であることを特徴とする導電性酸化物付き基板の作製方法である。
【0007】
上記(1)に記載の構成によれば、レーザ光の照射とエッチング処理を用いて簡便に導電性酸化物からなる構造体が形成でき、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィーの手法を用いることなく、低コストな導電性酸化物からなる構造体を形成した基板を提供できる。
【0008】
(2):上記(1)に記載の作製方法において、前記熱処理工程は、成膜工程で得られた基板と導電性酸化物の薄膜の積層体を回転させながらレーザ光を照射することを特徴とする導電性酸化物付き基板の作製方法である。
上記(2)に記載の構成によれば、基板回転機構を備えたレーザ照射装置を用いることによって、基板を高速回転した状態でレーザ照射することが可能になり、高速に広範囲に亘ってパターン形成することが可能になる。
【0009】
(3):さらに、前記エッチング処理工程後に第二の成膜工程を有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の導電性酸化物付き基板の作製方法である。
【0010】
上記(3)に記載の構成によれば、面で導通がとれ、かつ、積層膜の実効表面積が上げられる構造体が存在する面電極が簡便な方法で形成できる。
【0011】
(4):上記(1)〜(3)に記載の作製方法において、前記熱処理工程は、前記レーザ光の波長が360〜420nmの範囲にある半導体レーザを用いることを特徴とする導電性酸化物付き基板の作製方法である。
【0012】
上記(4)に記載の構成によれば、低コストな半導体レーザからなるレーザ照射装置を用いてパターン形成できる。特に、近年低コスト化、高出力化が進んでいる青の波長域の半導体レーザを用いること、また、パワーレベルを高速に変調できるといった半導体レーザの特徴を活かすことによって、微細な構造体を簡易に形成することができる。
【0013】
(5):上記(1)〜(4)に記載の作製方法で作製した導電性酸化物付き基板において、前記基板の少なくとも一つの面に、導電性酸化物からなる凸形状の構造体が形成されていることを特徴とする導電性酸化物付き基板である。
【0014】
(6):上記(5)に記載の導電性酸化物付き基板において、前記凸形状の構造体は、200〜500nmの周期で形成されていることを特徴とする導電性酸化物付き基板である。
【0015】
上記(5)、(6)に記載の構成によれば、上記(1)〜(4)に記載の作製方法で作製された導電性酸化物付き基板が好ましい形状となり、可視光を含む波長域での反射率低減もしくは表面積増加の効果があり、デバイスの効率向上となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱処理(レーザ光照射による)工程とエッチング処理工程のみの簡便なプロセスにより、導電性酸化物が形状加工された基板を作製することができる。また、本発明はレーザ光照射により照射部分をより高度に結晶化させることによりエッチング速度の差を設けることによって照射部分とそれ以外の部分とのエッチングスピードが変わることに着目してなされたものであるため、本発明によれば、エッチング処理によって、非照射部がエッチングされて除去された導電性酸化物の薄膜がパターン状に形成された基板を低コストで提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法を示す図であり、(a)は第一の作製方法を示し、(b)は第二の作製方法を示し、(c)請求項1の第三の導電性酸化物付き基板の作製方法を示す。
【図2】ITO薄膜の酸素流入比に対する透過率変化を示すグラフである。
【図3】ITO薄膜のX線回折パターンであり、成膜後の結晶状態を示すグラフである。
【図4】本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法において、熱処理工程の際に基板を回転させながら熱処理する工程について説明するための図である。
【図5】ITO薄膜のX線回折パターンであり、成膜後と構造体形成後の結晶状態を比較するグラフである。
【図6】本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法の結果得られた導電性酸化物付き基板の断面図である。
【図7】図6に示す導電性酸化物付き基板表面のSEM像である。
【図8】本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法の結果得られた導電性酸化物付き基板の他の例を示す断面図である。
【図9】図8に示す導電性酸化物付き基板表面のSEM像である。
【図10】本発明の導電性酸化物付き基板の第二の例を示す断面図である。
【図11】図10に示す第二の導電性酸化物付き基板表面形状を斜方から撮影したSEM像であり、構造体として、円または楕円形状の部分901と、面状あるいは線状に形成されたITO薄膜部分902の両方を有するSEM像である。
【図12】(a)は構造体の端部の形状がほぼ垂直形状である電性酸化物付き基板の断面SEM像であり、(b)は構造体の端部の形状が基板面から離間していく方向に拡径していく導電性酸化物付き基板の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の導電性酸化物付き基板の製造方法および得られた導電性酸化物付き基板を詳細に説明する。
【0019】
[実施形態]
図1に、本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法(第一の作製方法)を示す。
図1において、101は導電性酸化物の成膜工程を示す。102は基板(支持基板)を示し、103は基板の少なくとも1面(の少なくとも一部)に設けられる導電性酸化物の薄膜を示す。本発明で使用される基板はCD、DVDなどと同様に、両面あるいは片面が記録媒体などの機能を有する層を有する基板であり、少なくとも片面の少なくとも一部に(ただし本発明では記録媒体層ではなく)導電性酸化物の薄膜が設けられた基板である。基板102の材料としては、ガラス、石英、シリコンなどの無機基板あるいはプラスチック基板を用いることができる。
【0020】
プラスチック基板としては、ポリカーボネート、アクリル、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBT−PETなどの材料を用いることができる。図1において、103は導電性酸化物の薄膜を示す。この薄膜には導電性酸化物として、In、SnO、In−SnO(ITO)などを用いることができる。また、これら導電性酸化物材料にAl、Ga、Znなどの金属元素を添加した材料でも構わない。
【0021】
導電性酸化物の成膜には、たとえばスパッタリング法を用いることができる。一般に酸化物をスパッタリング法で成膜する場合、化学量論組成からの酸素の抜けを補うため、アルゴンガスに酸素ガスを添加した雰囲気中で成膜する反応性スパッタ法が用いられる。ところが、本実施形態では、化学量論組成に対して酸素量が少ない状態(酸素欠損の状態)の導電性酸化物を形成するため、好ましくは、酸素ガスを添加せずアルゴンガスのみの雰囲気で成膜する。酸素欠損がある状態の導電性酸化物とすることで、透過率が低下し光の吸収能が増加する。上記したIn、SnO、In−SnO(ITO)などは、スパッタ成膜における添加ガスの切り替えで、簡便に透過率が制御できる材料であり、本発明によるレーザ加熱を利用する加工法には適する材料である。以下では導電性酸化物としてIn−SnO(ITO)を例として、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
導電性酸化物の薄膜は、レーザ光を吸収し、薄膜の少なくとも一部がアモルファス相である。導電性酸化物の薄膜の好ましい透過率は測定波長400nmにおいて10〜30%の範囲にある。図2にはITO薄膜の成膜条件(O流入比)による透過率の変化を示す。透過率を測定したサンプルの構成は図1・101に示す。102は支持基板であるポリカーボネート基板である。103はITO薄膜である。ITO薄膜の成膜は、DCスパッタリング法を用い、スパッタリングターゲットとして、複合酸化物の状態であるIn−SnO(ITO)ターゲットを用い、基板温度を室温(基板加熱しない状態)にして成膜した。ターゲット材の組成比(重量比wt%)は、In(95wt%)−SnO(5wt%)である。ITO薄膜(103)の膜厚は150nmである。成膜圧力は0.8Pa(パスカル)に設定した。雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O)を用いて、ArとOの比率を変化させて、数種類のITO薄膜作製し透過率を測定した。測定には、紫外可視分光光度計(島津製作所社製 UV-2500(PC)SGLP)を用いた。図2において、横軸はArとOの混合比率を、酸素流量比(%)[O流量/(O+Ar流量)]で示している。縦軸は透過率(%)を示す。透過率は波長250〜800nmの範囲で測定し、そのうち、図2には波長400nmにおける透過率の値を示している。
【0023】
図2に示すように、波長400nmにおける透過率は、酸素流量比が小さくなると低下する。酸素流量比=0%、つまり、酸素ガスを添加せずArガスのみの雰囲気で成膜したITO薄膜の透過率は22%であった。酸素流量比を下げることによる透過率の低下は、導電性酸化物薄膜からの酸素のヌケ(酸素欠損)による。酸素欠損状態とは、ITO薄膜の場合、本来の組成比はIn−SnOであるが、実際の組成比をInOx−SnOyで表すと、組成中の酸素原子のそれぞれの価数x、yは、x<3、y<2となり、酸素が化学量論組成よりも少ない状態の部分が薄膜の少なくとも一部に存在している状態を示す。波長400nmにおける透過率を10〜30%にすることで、レーザ光の吸収能を上げて、後記するように、レーザ光照射によって薄膜が発熱し熱で変化する状態とする。酸素流量比の制御で簡便に透過率を下げられる限界が10%であるため、透過率の下限は10%に設定している。また、透過率が30%よりも高くなると、レーザ光照射によって導電性酸化物薄膜を熱変化させるために、非常に高いエネルギーが必要になり、高価なレーザ照射装置が必要になる。従って、後記する安価な半導体レーザが採用できなくなる。
【0024】
また、ITO薄膜の結晶状態は、少なくとも薄膜の一部がアモルファス相である。X線回折測定結果をもとに、ITO薄膜の結晶状態を説明する。測定には、X線回折装置(フィリップス社製X’Pert MRD)を用いた。X線源にはCukα線を用い、加速電圧は45keV、電流値は40mAに設定した。X線回折測定を行ったサンプルの構成は図1・101に示す。102は支持基板であるポリカーボネート基板である。103はITO薄膜である。ITO薄膜の成膜は、DCスパッタリング法を用い、スパッタリングターゲットとして、複合酸化物の状態であるIn−SnO(ITO)ターゲットを用い、基板温度を室温(基板加熱しない状態)にして成膜した。ターゲット材の組成比(重量比wt%)は、In(95wt%)−SnO(5wt%)である。ITO薄膜(103)の膜厚は150nmである。成膜圧力は0.8Pa(パスカル)に設定した。酸素流量比=0%、つまり、酸素ガスを添加せずArガスのみの雰囲気で成膜した。図2に示した透過率が22%のITO薄膜である。図3には、ITO薄膜のX線回折測定結果を示す。回折パターンには、結晶相からの回折による小さなピーク(1101)と、アモルファス相からのブロードなピーク(1102)が観測され、ITO薄膜は、結晶相とアモルファス相が混在した状態であることが分かる。
【0025】
次工程の熱処理工程では、レーザ光を用いて導電性酸化物を熱処理する。光吸収によって導電性酸化物は発熱し、熱変化する。詳細は後記するが、アモルファス相が混在した状態にあることで、レーザ光の照射によって照射部分と非照射部分との材質差を大きく変化させることができる。
【0026】
図1に示す本発明の導電性酸化物付き基板の第一の作製方法において、104は熱処理工程を示す。このような熱処理工程はレーザ光による光加熱で行う。すなわち本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法において、熱処理を光加熱による方法を採用することにより、照射部以外は加熱されない加熱処理を行うことが可能となる。105はレーザ光の照射方向を示す。106は光照射によって導電性酸化物が熱変化した熱変化部分を示す。熱変化としては、導電性酸化物の結晶化や組成の変化の形態を示す。
【0027】
本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法において、導電性酸化物が熱変化するように処理する熱処理工程は、半導体レーザを用いることが好ましい。半導体レーザは、駆動電流の外部制御によりパワーレベルを高速変調することができる。また、比較的安価な対物レンズであっても光の回折限界付近まで集光することができ、容易に微細なレーザ光スポットが形成できる。これにより、微細な領域(レーザ照射部位)において導電性酸化物を熱変化させることができ、熱処理工程を有効に実施することができる。レーザ光源としては、例えば波長360〜420nmの青色レーザ光を用いることができる。このときに対物レンズの開口数(NA)を、0.8〜0.95とすることが望ましい。またレーザ光を集光させることにより、レーザ照射部位をより限定できるため、上記した開口数のもとで、照射して熱処理工程を行うことができる。特にレーザ照射は、図1の照射方向105に示すように、導電性酸化物103を積層した面側から行うことが好ましい。逆方向である支持基板側から基板を透過させてレーザ光を照射する場合と比較して、大きな開口数(NA)のレンズが利用できるようになり、より微細な構造体を形成することができる。
【0028】
本実施形態では、たとえば図4に示すように、基板を回転させながら、集光したレーザ光を照射してもよい。基板を高速回転させた状態でレーザ光を照射することによって、より高速で広い領域の導電性酸化物を熱変化させることができる。図4において、201はサンプル(導電性酸化物がその上に薄膜状に設けられた基板)を示す。支持基板上には導電性酸化物が積層されている。202はレーザ光源であり、203は対物レンズを示す。204は対物レンズ203などの光学系により集光されたレーザ光を示す。図4に示すように、サンプル201をレーザ光に対して略垂直な面方向に高速回転させた状態で、レーザ光を照射する。この際に、半径方向にレーザ光源を直線移動させる、もしくは、レーザ光源を固定し回転状態にある基板を直線移動させる。このような操作によって、らせん状もしくは同心円状の配列にて、レーザ光をサンプル面全体に対して照射することができる。
【0029】
その熱処理工程を終了後に、エッチング処理工程を行う。図1に示す107のエッチング工程で使用されるエッチング方法としては、ドライエッチング法を用いることができる。エッチングガスとして、HCl、HBr、BCl、Clなどを用いた、反応性イオンエッチング法を用いることによって、導電性酸化物の薄膜を加工することができる。また、エッチング法として、湿式の方法を採用することがより好ましい。湿式エッチング法は、ドライエッチング法と比較して高価な真空装置を必要とせず、安価な薬品を用いて簡便に加工することができる。このような湿式のエッチング方法で使用されるエッチング手段としては、エッチング溶液(エッチング液)を用い、この溶液に前記した加熱処理工程を行った基板を浸漬させることによって、レーザ光非照射部分の導電性酸化物の薄膜を除去することができる。レーザ照射部分の導電性酸化物材料は、非照射部分に対して結晶化もしくは材料の組成が変化した状態となっており、エッチング液に対する耐性が向上している。したがって、レーザ照射された部分の導電性酸化物(以下、この部分を「導電性酸化物よりなる構造体」ということがある。)は、エッチング処理によって残留し、図1の108に示すように、エッチング処理工程により、導電性酸化物よりなる構造体が形成できる。
エッチング液としては、塩酸溶液(HCl+HO)、硝酸溶液(HNO+HO)、シュウ酸溶液((COOH)+HO)、フッ化水素酸相溶液(HF+HO)などの酸系水溶液を用いることができる。これらの酸溶液の混合溶液を用いても構わない。エッチング溶液は、導電性酸化物材料の種類や結晶状態によって選択する。
【0030】
構造体108は、導電性酸化物が熱変化した状態となっている。これは、前記した成膜工程により設けられた成膜状態で透過率が低下した状態にある導電性酸化物が、前記した熱処理工程におけるレーザ光照射によって熱変化している。熱変化した状態は、結晶構造がこの熱処理工程により、より結晶化した状態である。レーザ照射による結晶化について説明する。成膜状態およびレーザ照射した後にエッチング加工したサンプルについて、X線回折測定を行った。
【0031】
サンプルの構成は図1・101に示す。102は支持基板であるポリカーボネート基板である。103はITO薄膜である。ITO薄膜の成膜は、DCスパッタリング法を用い、スパッタリングターゲットとして、複合酸化物の状態であるIn−SnO(ITO)ターゲットを用い、基板温度を室温(基板加熱しない状態)にして成膜した。ターゲット材の組成比(重量比wt%)は、In(95wt%)−SnO(5wt%)である。ITO薄膜(103)の膜厚は150nmである。成膜圧力は0.8Pa(パスカル)に設定した。酸素流量比=0%、つまり、酸素ガスを添加せずArガスのみの雰囲気で成膜した。図2に示した透過率が22%のITO薄膜である。
【0032】
その後、図1・104に示す方法でレーザ光を照射した。レーザ光源には波長405nmのLD(レーザダイオード)を用いて、開口数(NA)0.85の対物レンズを用いてレーザ光をサンプル面に集光し、105に示すようにサンプルの膜面側(基板上に導電性酸化膜が設けられた面側)からを照射した。レーザ光の照射は、図4に示すようにサンプルを回転させながら行った。サンプルの回転速度は4.5m/secに設定した。レーザ照射の際のレーザパワーレベルは8mWと0.1mW間で変調し、パルス幅(パワーを8mWに保持する時間)は11(nsec)に設定した。図1・104において、106はITO薄膜においてレーザ光照射によって熱変化部分を示す。
【0033】
図1・107はエッチング工程を示す。レーザ照射後のサンプルを塩酸水溶液(HCl+HO)をエッチング液としてそれに浸漬した。エッチング温度は室温(基板加熱しない状態)であり、塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)である。レーザ照射された部分のITO薄膜は、成膜状態よりも、より結晶に近い状態となっている。この高い結晶質状態のエッチングレートは、その周辺部分よりも遅くなる。このような状態の導電性酸化物付き基板を上記した塩酸水溶液(エッチング液)に90秒間浸漬すると、ITO薄膜のレーザ非照射部分が完全にエッチング除去され、レーザ照射したITO薄膜の部分のみが残り、108に示すように、ITO薄膜を凸形状の構造体に加工できる。
【0034】
図5には、図1・103の状態(成膜後)および図1・108の状態(加工後)のX線回折測定結果を示す。図5において、1201は成膜状態のITO薄膜の回折パターンであり、1202は凸形状に加工した後のITOの回折パターンである。1202に示す加工後の回折パターンは、X線照射領域内に多数個の構造体が含まれる状態で測定した結果である。成膜後(1201)は、図3にも示したように、アモルファス相からのブロードなピークが観測され、ITO薄膜は、結晶相とアモルファス相が混在した状態である。一方、凸形状に加工した後のITOの回折パターン(1202)には、多結晶状態を示すシャープな回折ピークが観測されている。この結果は、アモルファス相の状態であるレーザ非照射部分のITO薄膜がエッチング除去され、エッチング耐性が向上した多結晶状態にあるレーザ光照射部分のITO薄膜は、エッチング処理後も凸形状の構造体として残留することを示す。
【0035】
以上のように、透過率が低下した状態の導電性酸化物薄膜を成膜する工程(図1・101)、集光したレーザ光を透過率が低下した状態の導電性酸化物薄膜に照射し結晶化させる工程(図1・104)、結晶化状態によるエッチング耐性差を利用してレーザ光非照部分の導電性酸化物薄膜を選択的に除去するエッチング工程(図1・107)によって、導電性酸化物材料を凸形状の構造体に加工することができる。
【0036】
図1(b)に、本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法(第二の作製方法)を示す。
101は導電性酸化物の第一の成膜工程を示し、104は光照射工程を示し、107はエッチング工程を示している。ここまでの工程は、図1(a)に示す第1の作製方法の101、104および107の各工程と同じである。また図1(b)に示す109は第二の成膜工程を示す。この第二の成膜工程は、導電性酸化物よりなる構造体108上にさらに導電性酸化物の薄膜を成膜して、下地の凸形状を薄膜110で被覆した構造体111とすることができる。第二の成膜工程で積層する導電性酸化物110には、In、SnO、ZnO、Gaからなる酸化物を含有する材料である各種導電性酸化物材料を用いることができる。例えば、In−SnO(ITO)、In−SnO−ZnO(IZO)、In-ZnO−Al(AZO)、ZnO−Ga(GZO)、In-ZnO−Ga(IGZO)などである。成膜にはスパッタリング法を用いる。スパッタリングターゲットには、上記酸化物を混合した状態のターゲットを用いる。ここでは、化学量論組成からの酸素の抜けを補うためアルゴンガスに酸素ガスを添加した雰囲気中で成膜することが好ましい。
【0037】
また、図1(c)に本発明の導電性酸化物付き基板の作製方法(第三の作製方法)を示す。101は導電性酸化物の成膜工程を示し、104は熱処理工程を示し、これらの工程は、図1(a)と同じである。112はエッチング工程を示す。このエッチング工程112では、溶液エッチング(湿式エッチング法)におけるエッチング時間などを調整することによって、基板102上において構造体114が形成された領域以外の領域であるレーザ非照射部分の導電性酸化物の薄膜の一部を除去し、より薄層化された導電性酸化物113である残りの一部を基板102上に残す。以上の方法で導電性酸化物の薄膜の上部のみを構造体114としても構わない。即ち、レーザ照射部分である構造体114の全てが露出する必要はなく、その上部のみが露出し、下部がレーザ非照射部分であるより薄層化された導電性酸化物113に覆われた状態のものであってもよい。
【0038】
図1(a)の工程107は、レーザ非照射部分の導電性酸化物の薄膜が基板102上から完全に除去されている状態を示し、図1(b)の工程109は、構造体上に導電性酸化物の薄膜を再び積層することによって構造体が薄膜でつながっている状態を示し、図1(c)の工程112は導電性酸化物のエッチングを途中で止めることによって構造体が薄膜でつながっている状態を示す。図1(b)および(c)の製法を採用することによって、薄膜状の導電性酸化物内に微細な構造体(111、114)を形成することができる。薄膜で接続された状態であるため、導通するので、面の電極として用いることができる。
【0039】
このような面の電極が必要なデバイスとしては、例えば、太陽電池や固体光源による照明デバイスがあり、これらのデバイスでは導電性酸化物からなる面電極上に機能層(太陽電池であれば光電変換層、照明デバイスであれば発光層)が積層された構造とすることができる。
微細な構造体が面電極内にあることで、その上に積層する機能層の実効表面積が増加する。この実効表面積の増加は、デバイスの効率を上げられるという効果がある。また、構造体の周期を200〜500nmに設定することによって、積層された機能層の実効表面積を増加させる効果に加え、光の反射防止の効果も現れる。発光、受光デバイスでは、光の波長以下周期の構造体を設けることによって、反射防止効果などの光の制御ができることが知られている。可視光の波長域において効果を得るための構造体周期は200〜500nmになる。これは本発明によって形成できる最適な構造体の周期範囲にあたるが、本発明はこれに限られるものではない。本発明によれば、発光、受光デバイスにおいて、透明電極として用いられる導電性酸化物に構造体を設けた基板が提供できる。
【実施例】
【0040】
次に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。実施例1〜4には、導電性酸化物つき基板の作製例を示す。実施例5には、各種導電性酸化物材料の加工方法を示す。
【0041】
[実施例1]
図6は、本発明の導電性酸化物付き基板の断面図を示す。301は支持基板を示し、302は導電性酸化物からなる構造体を示す。この構造体302は前記した成膜工程後、熱処理工程およびエッチング処理工程を経て、導電性酸化物が熱変化した構造体である。303はこの構造体の高さを示す。
図7は、図6の断面図で示した導電性酸化物付き基板の表面のSEM(走査型電子顕微鏡)観察像である。401は支持基板表面部であり、導電性酸化物がエッチングで除去され基板表面が露出した部分である。402は導電性酸化物よりなる構造体であり、およそ1μmのライン幅を有する導電部(構造体)である。
【0042】
図1(a)を基に、図6、図7に示す導電性酸化物付き基板の作製方法を示す。
図1(a)において、101は導電性酸化物の成膜工程を示す。102は支持基板として石英を用い、103は導電性酸化物の薄膜であるITO薄膜である。ITO薄膜の成膜は、スパッタリング法を用い、スパッタリングターゲットとして、In−SnO(ITO)を用い、圧力が0.8Pa(パスカル)のアルゴン(Ar)雰囲気で、基板温度を室温(基板加熱しない状態)にして成膜した。導電性酸化物の薄膜103の膜厚は100nmである。
本実施例では、このOを導入しないArガスのみの雰囲気条件で成膜した。この条件で成膜したITO薄膜の透過率を前記方法で測定した。測定波長400nmにおけるITO薄膜の透過率は28%であり、レーザ光を吸収する状態であることを確認した。
【0043】
このような条件に設定することによって、照射光を吸収し熱変化するITO薄膜を作製した。熱処理工程104は、波長405nmのLD(レーザダイオード)を用いて、105に示すようにサンプルの膜面側(基板上に導電性酸化膜が設けられた面側)からレーザ光を集光して照射した。この照射の際に、レーザパワーのレベルを一定レベルに保持し、サンプル(石英基板上にIn−SnO(ITO)が100nmの膜厚で設けられた導電性酸化物付き基板)を乗せたステージをX−Y軸方向に走査して、ITO薄膜103をライン形状に熱変化させた。エッチング工程107では、レーザ加熱後のサンプルを塩酸水溶液(HCl+HO)をエッチング液としてそれに浸漬して行った。エッチング温度は室温(基板加熱しない状態)であり、塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)である。レーザ照射された部分のITO薄膜は、成膜状態よりも、より結晶に近い状態となっている。この高い結晶質状態のエッチングレートは、その周辺部分よりも遅くなる。このような状態の導電性酸化物付き基板を上記した塩酸水溶液(エッチング液)に90秒間浸漬すると、ITO薄膜のレーザ非照射部分が完全にエッチング除去され、レーザ照射したITO薄膜の部分のみが残り、図7に示すようなITO薄膜によるラインパターンが形成できた。
【0044】
[実施例2]
図8は、本発明の導電性酸化物付き基板の断面を示す図である。601は支持基板であり、602は導電性酸化物よりなる構造体を示す。この構造体は導電性酸化物が熱変化した構造体である。603はその構造体の高さを示す。
図9は、図8の断面図で示した導電性酸化物付き基板の表面のSEM観察画像である。701は基板表面部分(導電性酸化物がエッチング除去されて基板が露出した部分)である。702は導電性酸化物よりなる構造体であり、構造体の直径は250nmであり、周期705は400nmであり、構造体の高さは150nmである。これらの形状(特定形
状)はレーザ光により形成する場合、円形もしくは楕円形になり、その特定形状は作製方法による。
構造体は円周状に配列されている。706は円周方向を示し、707は半径方向(円周方向と直交する方向)を示す。
【0045】
図1(a)を基に図8、図9に示す導電性酸化物付き基板の作製方法を説明する。
図1(a)において、101は導電性酸化物の成膜工程を示す。支持基板102としてポリカーボネートを用い、導電性酸化物の薄膜はITO薄膜である。ITO薄膜の成膜は、スパッタリング法で行い、スパッタリングターゲットとしてIn−SnO(ITO)を用い、0.8Paのアルゴン(Ar)雰囲気で基板温度を室温(基板加熱をしない状態)で成膜した。膜厚は150nmであった。
を導入しないArガスのみの条件で成膜し、レーザ照射光を吸収して熱変化するITO薄膜を作製した。この条件で成膜したITO薄膜の透過率を前記方法で測定した。測定波長400nmにおけるITO薄膜の透過率は22%であり、レーザ光を吸収する状態であることを確認した。
熱処理工程104は、波長405nmのLDを用い、開口数(NA)0.85の対物レンズを用いて基板に集光し、105に示すサンプル膜面側からレーザ光を照射した。レーザ光の照射は、図4に示すようにサンプルを回転させながら行った。回転速度は4.5m/secに設定した。レーザ照射の際のレーザパワーは8mWと0.1mW間で変調し、パルス幅(パワーを8mWに保持する時間)は11(nsec)に設定した。
【0046】
このような条件で照射レーザ光のパワーを変調することにより、レーザ光照射点におけるITO薄膜を円形状に熱変化させた。107はエッチング工程を示す。エッチング工程では、レーザ照射後のサンプルを塩酸水溶液(HCl+HO)に浸漬した。エッチング温度は室温(基板加熱しない状態)であり、塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)である。上記の塩酸水溶液に90秒間浸漬して、図9に示すように円周配列の円形状のITOパターン(構造体)を作成した。
【0047】
[実施例3]
図10は、図9に示すITOパターン(構造体)上にさらにITO薄膜を積層した状態を示す。801は支持基板であるポリカーボネート、802はITOによる構造体、803は構造体上に積層されたITO薄膜を示す。804はITO薄膜による構造体間の接続部を示す。
図11は、図10に断面図で示した導電性酸化物付き基板の斜め方向からのSEM観察像である。901はITOによる構造体、902はITO薄膜を示す。構造体の周期903は400nmであり、構造体の直径は370nmである。構造体の高さは150nmである。904は基板面内における構造体形成領域を示し、905はITO薄膜領域を示す。薄膜領域におけるITO膜厚は150nmである。
【0048】
図1(b)を基に図10、図11に示す導電性酸化物付き基板の作製方法を示す。
101に示す成膜工程、104は集光したレーザ光による熱処理工程、107に示すエッチング処理工程は、先に記載した通りである。109は第2の成膜工程を示す。第2の成膜工程におけるスパッタリングターゲットには、In−SnO(ITO)を用い、アルゴン(Ar)と酸素(O)混合ガス雰囲気(圧力0.8Pa)で、基板温度を前記室温下に成膜した。膜厚は150nmである。
流量は2sccmに設定し、高透過率のITO薄膜を成膜した。この条件で成膜したITO薄膜の透過率を前記方法で測定した。測定波長400nmにおけるITO薄膜の透過率は59%であり、Oガスを導入し成膜することで高透過率になっていることを確認した。
104に示す集光したレーザ光による熱処理工程において、レーザ光を照射しない領域では、107に示すエッチング工程においてITO薄膜が完全に除去され、109に示す第二の成膜工程で再びITO薄膜が積層される。以上の作製方法によって、図11に示すように、ITO構造体が存在する領域904と、ITO薄膜の領域905を基板面内において任意の位置、周期で形成することができる。機能デバイスに応じて、構造体領域と薄膜領域とを、簡便な方法で調整することができる。
【0049】
[実施例4]
図12は、本発明において、(a)導電性酸化物(構造体)の端部形状がほぼ垂直形状(例えば90°±5°程度)の例、及び、(b)導電性酸化物(構造体)の端部形状がいわゆる逆テーパー形状(基板面から離れるに従い、直径が大きくなっていく形状)の例を示す。即ち、図12(a)において、1001は構造体端部(導電部の端部)がほぼ垂直形状である導電性酸化物付き基板の断面SEM像である。1002はポリカーボネート基板であり、1003はITOよりなる構造体であり、1004は構造体端部である。図12(a)に示すように、構造体端部はほぼ垂直である。また、図12(b)において、1011は構造体端部(導電部の端部)が逆テーパー形状である導電性酸化物付き基板の断面SEM像である。1012は支持基板であるポリカーボネート、1013はITOよりなる構造体、1014は構造体端部を示す。図12(b)に示すように、構造体端部は逆テーパー形状である。本実施例に示すように、構造体の端部が前記基板からの離間方向に拡径するように形成されている。その広がる程度を、角度θで表せば、おおよそ、その範囲は、90°<θ<120°程度となる。
1001に示す垂直形状である構造体と、1011に示す逆テーパー形状の構造体とでは、レーザ照射条件が異なる。
【0050】
図1(a)をもとに図12(a)に示す導電性酸化物付き基板の作製方法を示す。
図1(a)において、101は導電性酸化物の成膜工程を示す。102は支持基板であるポリカーボネート、103は導電性酸化物の薄膜であるITO薄膜である。ITO薄膜の成膜は、スパッタリング法で行った。スパッタリングターゲットには、In−SnO(ITO)を用い、圧力が0.8Paであるアルゴン(Ar)雰囲気で、基板加熱を行わない状態で成膜した。膜厚は150nmである。
を導入しないArガスのみの条件で成膜し、照射光を吸収し熱変化するITO薄膜を作製した。104は熱処理工程を示す。熱処理工程では、波長405nmのLDを用い、開口数(NA)0.85の対物レンズにより集光し、105に示すようにサンプルの膜面側からレーザ光を照射した。レーザ光の照射は、図4に示すようにサンプルを回転させた状態で行った。回転速度は4.5m/secに設定した。ここで、図12(a)の1001に示す垂直形状の構造体を形成する場合には、レーザパワーを7mWと0.1mW間で変調し、パルス幅(パワーを7mWに保持する時間)は23(nsec)に設定した。
一方、図12(b)の1011に示す逆テーパー形状の構造体を形成する場合には、レーザパワーを9mWと0.1mW間で変調し、パルス幅(パワーを9mWに保持する時間)は23(nsec)に設定した。107はエッチング工程を示す。エッチング工程では、レーザ加熱後のサンプルを塩酸水溶液(HCl+HO)に浸漬した。
エッチング温度は室温であり、塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)である。この混合比率の塩酸水溶液に90秒間浸漬するで、図12(a)及び(b)に示すITOよりなる構造体を形成した。
上記のようにレーザ照射条件を調整することによって、1011に示すような逆テーパー形状の構造体によるITO付き基板が形成できる。
【0051】
[実施例5]
下記表1には、本発明により凸形状の構造体に加工できる導電性酸化物を示す。図1・101に示す成膜工程、図1・104に示すレーザ光照射による熱処理工程、図1・107に示すエッチング工程における条件を示す。表1では、上記した実施例に記載したIn-SnO [ITO]による構造体作製方法と、その他の導電性酸化物による構造体作製方法を比較する。
【0052】
【表1】

【0053】
Inによる構造体の作製方法を表1(b)に示す。図1・101に示す構成において、102はポリカーボネート基板、103はIn薄膜である。In薄膜の成膜はDCスパッタ法で行った。ターゲット材の組成比(重量比wt%)は、In(100wt%)である。In薄膜(図1・103)の膜厚は150nmである。成膜圧力は0.8Pa(パスカル)に設定した。酸素流量比=0%、つまり、酸素ガスを添加せずArガスのみの雰囲気で成膜した。この条件で成膜したIn薄膜の透過率を前記方法で測定した。測定波長400nmにおけるIn薄膜の透過率は24%であり、レーザ光を吸収する状態であることを確認した。成膜後のIn薄膜について、ITO薄膜と同様の方法でX線回折測定を行った。回折パターンには、結晶相からの回折によるピークと、アモルファス相からのブロードなピークが観測され、In薄膜は、結晶相とアモルファス相が混在した状態である。その後、図1・104に示す方法でレーザ光を照射した。レーザ光源には波長405nmのLD(レーザダイオード)を用いて、開口数(NA)0.85の対物レンズを用いてレーザ光をサンプル面に集光し、図1・105に示すようにサンプルの膜面側(基板上に導電性酸化膜が設けられた面側)からを照射した。図1・104におけるレーザ光の照射は、図4に示すようにサンプルを回転させながら行った。サンプルの回転速度は4.5m/secに設定した。レーザ照射の際のレーザパワーレベルは8mWと0.1mW間で変調し、パルス幅(パワーを8mWに保持する時間)は11(nsec)に設定し、400nmの周期でレーザパルスを照射した。レーザ照射後のサンプルを塩酸水溶液(HCl+HO)をエッチング液としてそれに浸漬した。エッチング温度は室温(基板加熱しない状態)であり、塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)である。以上の方法で図1・107に示すInからなる構造体(108)を形成した。
【0054】
SnOによる構造体の作製方法を表1(c)に示す。図1・101に示す構成において、102はポリカーボネート基板、103はSnO薄膜である。SnO薄膜の成膜はRF(高周波)スパッタ法で行った。ターゲット材の組成比(重量比wt%)は、SnO(100wt%)である。SnO薄膜(図1・103)の膜厚は200nmである。成膜圧力は0.8Pa(パスカル)に設定した。酸素流量比=0%、つまり、酸素ガスを添加せずArガスのみの雰囲気で成膜した。この条件で成膜したSnO薄膜の透過率を前記方法で測定した。測定波長400nmにおけるSnO薄膜の透過率は23%であり、レーザ光を吸収する状態であることを確認した。SnO薄膜について、ITO薄膜と同様の方法でX線回折測定を行った。回折パターンには、アモルファス相からのブロードなピークのみが観測され、成膜後のSnO薄膜は、結晶相を含まないアモルファス相であることが分かった。その後、図1・104に示す方法でレーザ光を照射した。レーザ光源には波長405nmのLD(レーザダイオード)を用いて、開口数(NA)0.85の対物レンズを用いてレーザ光をサンプル面に集光し、図1・105に示すようにサンプルの膜面側(基板上に導電性酸化膜が設けられた面側)からを照射した。図1・104におけるレーザ光の照射は、図4に示すようにサンプルを回転させながら行った。サンプルの回転速度は4.5m/secに設定した。レーザ照射の際のレーザパワーレベルは10mWと0.1mW間で変調し、パルス幅(パワーを8mWに保持する時間)は22(nsec)に設定し、800nmの周期でレーザパルスを照射した。レーザ照射後にサンプルのエッチング処理を行った。SnO薄膜の場合、ITOやIn薄膜のエッチング処理に用いる塩酸水溶液(HCl+HO)では、エッチングできないため、エッチング液としてはフッ化水素酸溶液(HF+HO)を用いた。フッ化水素酸溶液をエッチング液としてそれに浸漬した。エッチング温度は室温(基板加熱しない状態)であり、フッ化水素酸溶液の混合比率はHF(33wt%)である。以上の方法で図1・107に示すSnOからなる構造体(108)を形成した。
【0055】
以上、本発明のIn−SnO(ITO)などの導電性酸化物付き基板の作製方法によれば、熱処理とエッチング処理のみの簡便なプロセスにより、従来技術よりも低コストな方法により、導電性酸化物が形状加工された基板を作製することができる。
たとえば熱処理工程において導電性酸化物付き基板を回転させながらレーザ照射する熱処理工程を行うことによって、より高タクトなプロセスにより、導電性酸化物が微細に加工された基板を作製できる。
【0056】
本発明の導電性酸化物付き基板は、面の電極を有する基板として用いることができる。面の電極が必要なデバイスとして、例えば、太陽電池や固体光源による照明デバイスが挙げられ、これらのデバイスでは、導電性酸化物からなる面電極上に機能層(太陽電池であれば光電変換層、照明デバイスであれば発光層)が積層された構造を付加することができる。本発明で形成される微細な構造体が面電極内に密に存在することによって、その上に積層される機能層の実効表面積を増加させることができ、これによって、動作性能、動作速度など、デバイスの効率向上となる。
【符号の説明】
【0057】
101 成膜工程、102 支持基板、103 導電性酸化物の薄膜、
104 熱処理工程、105 光照射方向、106 熱変化部分、
107 エッチング工程、108 構造体、109 第二の成膜工程、
110 導電性酸化物の薄膜、111 構造体、112 エッチング工程、
113 より薄層化された導電性酸化物
201 サンプル、202 レーザ光源、203 対物レンズ、
204 集光されたレーザ光
301 支持基板、302 構造体、303 構造体の高さ
401 支持基板表面、402 構造体
601 支持基板、602 構造体、603 構造体の高さ
701 支持基板表面、702 構造体、705 構造体周期、706 円周方向
707 半径方向
801 支持基板、802 構造体、803 ITO薄膜、
804 構造体間の接続部
901 構造体、902 ITO薄膜、903 構造体周期
904 構造体形成領域、905 ITO薄膜領域
1001 構造体端部が垂直形状である導電性酸化物付き基板
1002 支持基板、1003 構造体、1004 構造体端部
1011 構造体端部が逆テーパー形状である導電性酸化物付き基板
1012 支持基板、1013 構造体、1014 構造体端部
1101 結晶相からの回折ピーク 1102 アモルファス相からのピーク
1201 成膜後の回折パターン 1202 構造体形成後の回折パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性酸化物付き基板の作製方法において、
導電性酸化物の薄膜を基板上に積層する成膜工程と、レーザ光を集光させた状態で照射することにより前記基板面内の積層された導電性酸化物の薄膜の一部を熱変化させる熱処理工程と、前記基板面内の積層された導電性酸化物の薄膜の中で前記熱処理工程により熱変化していない部分をエッチング処理により除去するエッチング処理工程とを含み、
前記導電性酸化物の薄膜は、前記レーザ光を吸収し、該薄膜の少なくとも一部がアモルファス相であることを特徴とする導電性酸化物付き基板の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の作製方法において、前記熱処理工程は、成膜工程で得られた基板と導電性酸化物の薄膜の積層体を回転させながらレーザ光を照射することを特徴とする導電性酸化物付き基板の作製方法。
【請求項3】
さらに、前記エッチング処理工程後に第二の成膜工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の導電性酸化物付き基板の作製方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の作製方法において、前記熱処理工程は、前記レーザ光の波長が360〜420nmの範囲にある半導体レーザを用いることを特徴とする導電性酸化物付き基板の作製方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の作製方法で作製した導電性酸化物付き基板において、
前記基板の少なくとも一つの面に、導電性酸化物からなる凸形状の構造体が形成されていることを特徴とする導電性酸化物付き基板。
【請求項6】
請求項5に記載の導電性酸化物付き基板において、
前記凸形状の構造体は、200〜500nmの周期で形成されていることを特徴とする導電性酸化物付き基板。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−206083(P2009−206083A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3126(P2009−3126)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】