説明

導電性高分子膜、電子デバイス、及びこれらの製造方法

【課題】導電性高分子膜、及び固体電解コンデンサなどの電子デバイスに用いられる導電性高分子膜の導電性の向上を目的とする。
【解決手段】本発明の導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、添加剤とを含む重合液を用いて形成される導電性高分子膜である。添加剤として、ドーパントと塩基性物質からなる塩を用いる。本発明の電子デバイスとしての固体電解コンデンサは、導電性高分子層3として、前記導電性高分子膜を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子膜とその製造方法、及び導電性高分子膜を用いた電子デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、金属的な電子伝導性または半導体性を有しながらも、柔軟性、軽量性などが優れているという特徴を有している。
【0003】
従来、導電性高分子は、その特徴を生かして、帯電防止材、固体電解コンデンサの陰極材料、電磁波遮蔽材料、透明電極材料、防錆材料などの分野において用いられており、固体電解コンデンサ、有機エレクトロルミネッセント素子、アクチュエータ、トランジスタ、太陽電池、タッチパネル、各種センサなどの電子デバイスに用いる導電性の膜材料への応用研究がなされている。
【0004】
たとえば、固体電解コンデンサの場合、陰極として用いる導電性高分子膜の導電率を向上させることによって、固体電解コンデンサにとって重要な特性評価の値である等価直列抵抗(以下、ESRと称する)を低減させることができることが知られている。このような電子デバイスにとって、導電性高分子膜の導電率は、電子デバイスの性能にとって重要な要因となるため、この導電性高分子膜の導電率の向上に向けた研究開発が進められている。
【0005】
近年、導電性高分子膜の導電率の向上を図る手法として、導電性高分子中に、種々の添加剤を導入することについての検討が行われている。具体的には、このような添加剤としては、第一に、「有機溶媒」、第二に、「塩基性化合物」、第三に、「酸性物質」を用いることが種々提案されており、以下に紹介する。
【0006】
前述の第一の「有機溶媒」に関しては、たとえば、ポリチオフェンとポリアニオンから成る導電性高分子にN−メチルピロリドンやエチレングリコールなどの有機溶媒を添加することが提案されている(特許文献1)。前述の第二の「塩基性化合物」に関しては、たとえば、導電性高分子とポリアニオンから成る導電性高分子に塩基性の導電向上剤を添加することが提案されている(特許文献2)。また、導電性高分子のモノマーに塩基性の導電向上剤を添加して酸化重合を行うことが提案されている(特許文献3、非特許文献1)。前述の第三の「酸性物質」に関しては、導電性高分子のモノマーに酸性の添加剤、例えばパラトルエンスルホン酸や芳香族ジカルボン酸を添加して酸化重合を行うことが提案されている(特許文献4、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2916098号公報
【特許文献2】特開2007−95506号公報
【特許文献3】特開2008−171761号公報
【特許文献4】特開2004−107552号公報
【特許文献5】特開2008−34440号公報
【非特許文献1】Advanced Functional Materials 2004, 14, P615
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性高分子の導電率σは、σ=enμの式で表される。なお、この式において、eは電荷素量、nはキャリア密度、μは移動度である。従って、この導電率σの式から分かるように、キャリア密度nと移動度μを上げることによって、導電率σの値を高めることができる。本願発明者らは、このキャリア密度nを上げるためには、ドーピング量を増やすこと、及び移動度μを上げるためには導電性高分子の配向性を高めることが重要であるとの知見を得た。
【0009】
斯かる知見に鑑みると、特許文献1と特許文献2においては、導電性高分子を形成後に添加剤による処理を行うため、導電性高分子の配向性を改善することができない不都合がある。また、特許文献4と特許文献5においては、一般に酸化重合液の水素イオン指数(以下、pHと称する)を小さくすると反応速度が速くなることから、導電性高分子のモノマーにpHの小さい添加剤、即ち、酸性の添加剤を添加した場合、得られる導電性高分子膜の配向性が低くなってしまう不都合がある。このように、導電性高分子の配向性が低くなると、導電性高分子内のキャリアが分子鎖内または分子鎖間を効率よく移動できないために、導電率の低下を招く不都合がある。特許文献3と非特許文献1においては、塩基性の添加剤を添加することで重合速度が抑制され、配向性の高い導電性高分子膜が得ることが期待できるが、塩基性の材料を添加すると、重合反応の反応速度が遅くなり、十分な膜厚の導電性高分子膜を得ることが困難になり、結局、導電性高分子膜の導電性の低下を招く不都合がある。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、導電性高分子膜の導電性の向上を図り、導電性の向上が図られた導電性高分子膜を用いた電子デバイスの性能の向上を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーと酸化剤と添加剤とが含有された重合液を用いて導電性高分子モノマーを重合してなるものであって、前記添加剤がドーパントと塩基性物質とからなる塩であることを特徴としている。
【0012】
前述の構成のように、重合液に添加剤を含有させることにより、導電性高分子の反応速度が抑制され、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。また、塩を用いることから酸化剤の酸化能力を低下させないため、十分な膜厚の導電性高分子膜を得ることができる。
【0013】
前記添加剤としては、以下の一般式(1)で示される塩を用いることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)中、Aは、導電性高分子に用いられるドーパント、Bは、塩基性物質であり、この式の塩は、ドーパントAと塩基性物質Bとがイオン結合したものである。
【0016】
この場合のドーパントA は、導電性高分子に用いられるドーパントとして機能する材料であり、酸性を示すものであることが好ましい。このような観点から、ドーパントAは、スルホン基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基を有することが好ましく、さらに好ましくは、これらの官能基が、ベンゼン、ナフタレンに結合している化合物である。
【0017】
この場合の塩基性物質Bとしては、塩基性を示すものであることが好ましい。塩基性を示す塩基性物質Bとしては、例えば、窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物が挙げられる。
【0018】
また、本発明の第2の導電性高分子膜は、スルホン酸を含有するポリチオフェン類の導電性高分子膜であって、導電性高分子膜のチオフェン環に対するスルホン酸のドープ率が0.55以上0.72以下であることを特徴としている。この場合のドープ率とは、導電性高分子膜中のチオフェン環当りにドーパントであるスルホン酸が含有される割合を表したものであり、ドープ率が高い方がスルホン酸を多く含有していることを示している。また、このドープ率は、X線光電子分光(XPS)測定器を用いてチオフェン環由来の硫黄原子ピークとドーパントであるスルホン酸由来のSOxピークの面積比から算出した。この面積比率の求め方の具体例は後述する。
【0019】
前述の構成のように、導電性高分子膜中のドープ率を0.55以上0.72以下とすることで、ドーパントであるスルホン酸の含有量を高め、キャリア密度を増加させて、導電率を上昇させることができる。
【0020】
本発明の電子デバイスは、上記本発明の第1または第2の導電性高分子膜が用いられていることを特徴としている。斯かる本発明の電子デバイスとしては、例えば、固体電解コンデンサ、有機太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機トランジスタ、タッチパネル、電池などが挙げられ、これらの電子デバイスにおいて、たとえば、各種の電極として機能する導電膜に前述の導電性高分子膜が用いることができる。このように、電子デバイスにおける導電膜として、前述のような本発明の導電性高分子膜を用いることにより、導電性に優れた導電性高分子膜を有する電子デバイスを得ることができる。
【0021】
本発明の電子デバイスは、固体電解コンデンサであってよい。固体電解コンデンサは、たとえば、陽極と、陽極の表面上に形成される誘電体層と、誘電体層の上に形成される導電性高分子層と、導電性高分子層の上に形成される陰極層とを備え、導電性高分子層に、前記の導電性高分子膜が用いられる。このような固体電解コンデンサの場合、導電性に優れた導電性高分子膜を導電性高分子層として用いることで、等価直列抵抗(ESR)の低減に寄与する。
【0022】
本発明の導電性高分子膜の製造方法は、導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、ドーパントに塩基性物質が結合した塩である添加剤とを含有した重合液を基板上に塗布し、該基板上で前記導電性高分子のモノマーを重合することを特徴としている。
【0023】
本発明によれば、たとえば、基板上に、前記重合液を用いて、前記導電性高分子のモノマーを重合することによって、基板上に前述の本発明の導電性高分子膜を得ることができる。
【0024】
本発明の電子デバイスの製造方法は、導電性高分子膜を形成するにあたり、導電性高分子のモノマー、酸化剤、およびドーパントと塩基性物質とからなる塩である添加剤を含有した重合液を基板上に塗布し、前記導電性高分子のモノマーを重合することを特徴としている。
【0025】
本発明によれば、たとえば、固体電解コンデンサの誘電体層の上に前記重合液を塗布して、前記導電性高分子のモノマーを重合することによって、導電率の高い導電性高分子膜を備えた固体電解コンデンサを得ることができる。
【0026】
なお、本発明においては、1種類の導電性高分子モノマーに限らず、複数種類の導電性高分子モノマーを用いることも可能であり、この場合には、共重合体からなる導電性高分子膜をえることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、導電性に優れた導電性高分子膜を得ることができ、また、導電性に優れた導電性高分子膜を備えた電子デバイスを得ることができる。本発明の電子デバイスが固体電解コンデンサである場合、固体電解コンデンサは、誘電体層の上に形成される導電性高分子層に、上記本発明の導電性高分子膜を用いているので、ESRを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の電子デバイスの一実施形態である固体電解コンデンサを示す模式的断面図である。
【図2】本発明の電子デバイスの他の実施形態である有機太陽電池を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の電子デバイスの他の実施形態であるシリコン系太陽電池を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の電子デバイスの他の実施形態である透明導電性基板を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の電子デバイスの他の実施形態であるタッチパネルを示す模式的断面図である。
【図6】X線光電子分光(XPS)測定器を用いた単位時間当りの光電子のカウント数分布を示す図である。
【図7】ガラス基板上に形成した導電性高分子膜のモノマーに対する添加剤の含有比率と導電率の関係を示す図である。
【図8】ガラス基板上に形成した導電性高分子膜のモノマーに対する添加剤の含有比率とドープ率の関係を示す図である。
【図9】ガラス基板上に形成した導電性高分子膜のドープ率と導電率の関係を示す図である。
【図10】ガラス基板上に形成した導電性高分子膜のドープ率と吸収係数(800nm)の関係を示す図である。
【図11】ガラス基板上に形成した導電性高分子膜のドープ率と透過率(800nm)の関係を示す図である。
【図12】ガラス基板上に形成した導電性高分子膜の波長に対する透過率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の導電性高分子膜の実施形態について詳細に説明する。
【0030】
本実施形態の導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーを重合させたものであり、その重合液中に、酸化剤と共に、ドーパントAと塩基性物質Bとがイオン結合した塩を添加剤として加えているところに特徴がある。前述のように重合液に、添加剤を含有させることにより、導電性高分子の反応速度が抑制され、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。
【0031】
上述の添加剤は、前述の一般式(1)で示される塩であって、より好ましくは、以下の式(2)で示される塩を用いることができる。
【0032】
【化2】

【0033】
上記の式(2)中のR1、R2としては、C(2n+1)で表されるアルキル基、C(2n+10)で表されるアルコキシ基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、アリル基、アリール基等が挙げられる。
R1、R2は、1置換体に限定されるものではなく、多置換体でも良い。R1、R2が多置換体の場合、各置換基は同一置換基でも、それぞれが異なる置換基でも良い。
【0034】
具体的には、本実施形態では、上述の添加剤としては、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムを用いた。
【0035】
また、本実施形態で用いた添加剤は、前述の一般式(1)で示される塩であるので、後述するような緩衝効果によって、重合液中のpHを安定化させる機能があると考えられるので、導電性高分子の反応速度が抑制された状態に一定に保つことができる。従って、導電性高分子のドープ率や配向性を改善することができ、導電性高分子膜の導電率を高めることができる。さらに、添加剤は、前述の一般式(1)で示される塩であるので、酸性の酸化剤とは反応しないため、酸化剤の酸化能力が維持されるので、電子デバイスに用いるのに実用的な膜厚の導電性高分子膜を得ることが容易となる。従って、添加剤は、反応速度を抑制する作用と共にその反応速度を安定化させる作用を有する。導電性高分子膜の導電性の向上は、添加剤の作用、即ち、上述のような導電性高分子膜の配向性の改善作用に起因したものである。斯かる配向性の改善作用によって、導電性高分子膜の結晶性や緻密性が改善されることになり、その結果、導電性高分子膜の導電性が向上するものと考えられる。
【0036】
次に、導電性高分子膜を得るための重合液中に含まれる酸化剤の影響について、説明を加える。
【0037】
たとえば、ポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと称する)等の重合性モノマーを化学重合により重合して導電性高分子膜を成膜する場合、重合液のpHが小さいほど重合速度が速くなり、その結果、PEDOTの膜質や配向性が低下して導電率が低下することになる。従って、重合液に加えられる酸化剤として、パラトルエンスルホン酸第二鉄を用いた場合、酸化剤とモノマーの反応により、酸化剤は還元され、パラトルエンスルホン酸鉄とパラトルエンスルホン酸になる。このとき、反応副生成物であるパラトルエンスルホン酸の一部が導電性高分子のドーパントとして取り込まれるが、それ以外は反応溶液中に残存し、重合反応が進むにつれて、酸性が高まり、重合液のpHは小さくなっていく。このため、重合速度が重合反応と共に速くなり、配向性の低い導電性高分子膜が生成されることになる。
【0038】
従来、導電性高分子の導電性を向上させるために、添加剤が用いられているが、ピリジンやイミダゾール等の塩基性物質を添加するため、酸性の酸化剤であるパラトルエンスルホン酸第二鉄と塩基性の添加剤であるピリジンやイミダゾールが反応し、酸化剤自体の酸化作用が低下すると共に塩基性物質の添加により重合液のpHが大きくなることで反応速度を抑制するといった不都合があった。従って、上述のように重合反応が進むにつれて、パラトルエンスルホン酸が生成し、重合液のpHが小さくなり、重合反応が進むにつれて導電性高分子膜の配向性の乱れが進行するものと考えられる。その結果、添加剤の添加量を増やすと酸化剤であるパラトルエンスルホン酸第二鉄の酸化能力が低下して重合反応が起こりにくくなり、十分な膜厚の導電性高分子膜を得ることができなくなる。
【0039】
前述のような酸化剤の影響に対する添加剤の効果について、以下に説明する。
本実施形態に用いる添加剤は、以下に説明するとおり、反応抑制効果、pHを一定に保つ緩衝効果、あるいはドーパントのドープ率を高める効果を有するものと考えることができる。
【0040】
添加剤の反応抑制効果とは、添加剤の添加によるモノマー濃度の減少量に対して、重合によって得られる導電性高分子膜の膜厚の減少量が大きくなるため、重合反応が抑制される効果があると理解することができる。このように重合反応の反応を抑制することによって、導電性高分子膜の配向性、すなわち、結晶性及び膜の緻密性が改善される。
【0041】
また、pHを一定に保つ効果については、緩衝作用と同様の効果として理解される。たとえば、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と酸化剤であるパラトルエンスルホン酸第二鉄の重合反応により、上述と同様にパラトルエンスルホン酸陰イオンと水素イオンが生成する。添加剤のパラトルエンスルホン酸ピリジニウムが、予め重合液中に添加されることで、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムはパラトルエンスルホン酸陰イオンとピリジン陽イオンに解離し、重合液中にパラトルエンスルホン酸陰イオンが多く存在する状態にある。この重合反応により生成したパラトルエンスルホン酸陰イオンと水素イオンは、平衡反応により、パラトルエンスルホン酸として存在する。そのため、重合液のpHの変動を抑制することができる。pHの変動を抑制することで反応速度を一定に保ち、重合反応に最適な条件を保つことができる。そのため、導電性高分子膜の配向性、結晶性及び膜の緻密性が膜全体に保たれ、導電性が向上する。
【0042】
さらに、ドープ率を向上させる効果は、添加剤が重合液中でドーパントと塩基物質に解離し、塩基性物質は酸化剤に作用して、重合速度を抑制する。他方のドーパントは、重合液中に、存在することで、ドーピングを促進し、ドープ率が向上する効果を奏する。この効果は、重合後に、ドーパントを含む塩を添加することによっては、得られない効果であり、前述のとおり重合反応中に塩に含まれたドーパントが存在することが重要である。
【0043】
これに対し、従来、添加剤としての用いられていたピリジンやイミダゾール等の塩基性物質を添加してモノマーを重合した場合、上述のように重合反応が抑制されるため、反応副生成物であるパラトルエンスルホン酸等のドーパントの生成も抑えられる。そのため、従来の添加剤を用いて重合した導電性高分子膜では、ドープ率を大幅に向上させることは困難であった。
【0044】
導電性高分子の重合液中における添加剤の含有量は、酸化剤1モルに対して、0.1モル〜3モルの範囲であることが好ましい。この場合、より優れた導電性が得られる。
【0045】
導電性高分子の重合液中における添加剤の含有量は、酸化剤1モルに対して、0.1モル〜1.5モルの範囲であることがより好ましい。添加剤の含有量が少なすぎると、優れた導電性が十分に得られない場合がある。また、添加剤の含有量が多すぎると、導電性が低下する場合がある。添加剤の含有量のより好ましい範囲は、0.2モル〜1.5モルであり、さらに好ましくは0.3モル〜1.4モルである。添加剤の含有量のなお好ましい範囲は、0.75モル〜1.2モルである。
【0046】
以下に、本実施形態における導電性高分子膜の各構成について、順次説明する。
【0047】
<導電性高分子のモノマー>
導電性高分子のモノマーとしては、ピロール、チオフェン、またはアニリン及びこれらの誘導体を挙げることができる。モノマーの重合により、モノマーの繰り返し単位を有するπ共役系導電性高分子を得ることができる。従って、上記モノマーを用いることにより、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、及びこれらの共重合体等からなる導電性高分子を得ることができる。π共役系導電性高分子は、無置換のままでも十分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるためには、アルキル基、カルボン酸基、スルホン酸基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0048】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3,4−エチレンジオキシピロール)等のポリピロール類、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブデンジオキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)等のポリチオフェン類、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等のポリアニリン類等が挙げられる。中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種又は2種からなる重合体または共重合体が導電率の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高くなる上に耐熱性が向上する点から、より好ましい。
【0049】
<酸化剤>
酸化剤は、導電性高分子モノマーの重合開始剤として用いられるものである。このような酸化剤としては、例えば、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等の遷移金属化合物、パラトルエンスルホン酸鉄などの有機スルホン酸の遷移金属塩等が挙げられる。
【0050】
<添加剤>
添加剤としては、前述の一般式(1)で示される塩、即ち、ドーパントAと塩基性物質Bとがイオン結合した塩は、塩基性物質である。この塩を構成するドーパントAとしては、酸性を示すものであることが好ましい。ドーパントAは、スルホン基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基を有することが好ましく、さらに好ましくは、これらの官能基が、ベンゼン、ナフタレンに結合している化合物である。
【0051】
また、塩基性物質Bとしては、塩基性を示すのであることが好ましい。塩基性物質Bは、窒素含有芳香族複素環式化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、あるいはアミノ基を有する化合物が挙げられる。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の種類を併用してもよい。窒素含有芳香族複素環式化合物である塩基性物質Bとしては、例えば、1つの窒素原子を含有するピリジン類及びその誘導体、2つの窒素原子を含有するイミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体、ピラジン類及びその誘導体、3つの窒素原子を含有するトリアジン類及びその誘導体等が挙げられる。溶媒溶解性の観点からは、塩基性物質Bは、ピリジン類及びその誘導体、イミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体であることが好ましい。
【0052】
ピリジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、4−エチルピリジン、3−ブチルピリジン、4−tert−ブチルピリジン、2−ブトキシピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2−フルオロピリジン、2,6−ジフルオロピリジン、2,3,5,6−テトラフルオロピリジン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−メチル−2−ビニルピリジン、4−ブテニルピリジン、4−ペンテニルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、3−シアノ−5−メチルピリジン、2−ピリジンカルボン酸、6−メチル−2−ピリジンカルボン酸、2,6−ピリジン−ジカルボン酸、4−ピリジンカルボキシアルデヒド、4−アミノピリジン、2,3−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、4−ヒドロキシピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、6−ヒドロキシニコチン酸メチル、2−ヒドロキシ−5−ピリジンメタノール、6−ヒドロキシニコチン酸エチル、4−ピリジンメタノール、4−ピリジンエタノール、2−フェニルピリジン、3−メチルキノリン、3−エチルキノリン、キノリノール、2,3−シクロペンテノピリジン、2,3−シクロヘキサノピリジン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、1,2−ジ(4−ピリジル)プロパン、2−ピリジンカルボキシアルデヒド、2−ピリジンカルボン酸、2−ピリジンカルボニトリル、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3−ピリジンスルホン酸等が挙げられる。
【0053】
イミダゾール類及びその誘導体の具体的な例としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−ウンデジルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、2−メチル−4−ビニルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、4,5−イミダゾ−ルジカルボン酸、4,5−イミダゾールジカルボン酸ジメチル、ベンズイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール−2−スルホン酸、2−アミノ−1−メチルベンズイミダゾール、2−ヒドロキシベンズイミダゾール、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、2−ノニルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0054】
ピリミジン類及びその誘導体の具体的な例としては、2−アミノ−4−クロロ−6−メチルピリミジン、2−アミノ−6−クロロ−4−メトキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメチルピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメトキシピリミジン、2−アミノピリミジン、2−アミノ−4−メチルピリミジン、4,6−ジヒドロキシピリミジン、2,4−ジヒドロキシピリミジン−5−カルボン酸、2,4,6−トリアミノピリミジン、2,4−ジメトキシピリミジン、2,4,5−トリヒドロキシピリミジン、2,4−ピリミジンジオール等が挙げられる。
【0055】
ピラジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピラジン、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、ピラジンカルボン酸、2,3−ピラジンカルボン酸、5−メチルピラジンカルボン酸、ピラジンアミド、5−メチルピラジンアミド、2−シアノピラジン、アミノピラジン、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、2−エチル−3−メチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,3−ジエチルピラジン等が挙げられる。
【0056】
トリアジン類及びその誘導体の具体的な例としては、1,3,5−トリアジン、2−アミノ−1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリ−2−ピリジン−1,3,5−トリアジン、3−(2−ピリジン)−5,6−ビス(4−フェニルスルホン酸)−1,2,4−トリアジンニナトリウム、3−(2−ピリジン)−5,6−ジフェニル−1,2,4−トリアジン、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0057】
その他の窒素含有芳香族複素環式化合物の具体的な例としては、インドール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール−1−メタノ−ルなどが挙げられる。
【0058】
更に、添加剤としての塩の具体的な例としては、パラトルエンスルホン酸ピリジニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ピリジニウム、メシチレンスルホン酸ピリジニウム、ナフタレンスルホン酸ピリジニウム、ブチルナフタレンスルホン酸ピリジニウム、アントラキノンスルホン酸ピリジニウム、2−アミノエタンチオール−パラトルエンスルホン酸塩、アミノマロノニトリル−パラトルエンスルホン酸塩、フェニルアラニンベンジル−パラトルエンスルホン酸塩、2,6−ジメチルピリジニウム−パラトルエンスルホナート、2,4,6−トリメチルピリジニウム−パラトルエンスルホナート、2−クロロ−1−メチルピリジン−パラトルエンスルホナート、2−フルオロ−1−メチルピリジン−パラトルエンスルホナート、ピリジニウム−3−ニトロベンセンスルホナート、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドメト−パラトルエンスルホナート、グリシンベンジル−パラトルエンスルホナート、6−アミノヘキサン酸ヘキシル−パラトルエンスルホナート、β−アラニンベンジル−パラトルエンスルホナート、D−アラニンベンジル−パラトルエンスルホナート、D−ロイシンベンジル−パラトルエンスルホナート、D−バリンベンジル−パラトルエンスルホナート、L−アラニンベンジル−パラトルエンスルホナート、L−ロイシンベンジル−パラトルエンスルホナート、L−チロシンベンジル−パラトルエンスルホナート、プロピオニル−パラトルエンスルホナート、テトラメチルアンモニウム−パラトルエンスルホナート、テトラエチルアンモニウム−パラトルエンスルホナート、トスフロキサンシン−パラトルエンスルホナート、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩などが挙げられる。
【0059】
上述のような添加剤の重合液中での含有量は、酸化剤1モルに対して、0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜2モルの範囲であり、さらに好ましくは0.5〜1モルの範囲である。導電性向上剤の含有量が少なすぎると、導電性向上剤の効果が低くなり、導電性が低くなる傾向にある。また、導電性向上剤の含有量が多すぎると、重合抑制効果が強くなることで、導電性高分子膜は薄くなり、十分な膜厚が得られ難くなる傾向にある。
【0060】
<基板と導電性高分子膜>
導電性高分子膜が形成される下地となる基体を基板と称しているので、例えば、導電性高分子膜を有する電子デバイスにおいて、導電性高分子膜が形成される下地の膜が基板に該当し、具体的には、後述するような固体電解コンデンサの場合は、誘電体層が基板に該当することになる。
【0061】
導電性高分子膜を基板上に形成する方法としては、基板上に、導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、添加剤とを含有する重合液を塗布し、重合液中の導電性高分子モノマーを重合する。即ち、導電性高分子膜は、導電性高分子のモノマーを基板上で重合したものであり、導電性高分子のモノマーを重合後に基板上に塗布した導電性高分子膜に比べて、基板との密着性が向上し、接触抵抗が低減して、ESRが向上する。基板上に重合液を塗布する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ディップ法、ドロップキャスト法、インクジェット法、スプレー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
【0062】
以下に、導電性高分子膜を用いた固体電解コンデンサの実施形態について説明する。
【0063】
<固体電解コンデンサ>
図1は、本発明に従う一実施形態の固体電解コンデンサを示す模式的断面図である。図1に示すように、陽極1には、陽極リード7の一端が埋設されている。陽極1は、弁金属又は弁金属を主成分とする合金からなる粉末を成形し、この成形体を焼結することにより作製されている。従って、陽極1は、多孔質体から形成されている。図1においては示されていないが、この多孔質体には、その内部から外部に連通する微細な孔が多数形成されている。このように作製された陽極1は、本実施形態において外形が略直方体となるように作製されている。
【0064】
弁金属としては、例えば、タンタル、ニオブ、チタン、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも、誘電体である酸化物が高温でも比較的安定であるタンタル、ニオブ、アルミニウム、チタンが特に好ましく用いられる。弁金属を主成分とする合金としては、タンタルとニオブ等の2種類以上からなる弁金属同士の合金が挙げられる。
【0065】
陽極1の表面には、陽極1を陽極酸化してなる酸化物からなる誘電体層2が形成されている。誘電体層2は、陽極1の孔の表面上にも形成されている。図1においては、陽極1の外周側に形成された誘電体層2を模式的に示しており、上述の多孔質体の孔の壁面に形成された誘電体層は図示を省略している。誘電体層2は、陽極1の表面を、陽極酸化することにより形成することができる。誘電体層2の表面を覆うように、導電性高分子層3が形成されている。
【0066】
導電性高分子層3は、誘電体層2を覆うように形成されており、前述した導電性高分子膜から構成できる。
【0067】
固体電解コンデンサ8において、導電性高分子層3に用いられる導電性高分子膜は、前述のとおりの導電性高分子のモノマーと前述のとおりの酸化剤と前述のとおりのドーパントと塩基性物質とからなる塩である添加剤とが含有された重合液を用いて導電性高分子モノマーを重合してなる導電性高分子膜である。なお、この導電性高分子層3を形成するための重合プロセスについては、後述する。
【0068】
なお、図1においては、導電性高分子層3は単層構造であるが、これを多層とする場合には、少なくともその一部において、即ち、その一層において、上述の導電性高分子層膜が形成されていればよい。たとえば、前述の陽極側より、後述の陰極側の方の導電率が高くなる様に、導電率の異なる導電性高分子膜を積層した導電性高分子層3を使用する場合には、陰極側の方の導電性高分子層に上述の導電性高分子膜を使用することができる。
【0069】
導電性高分子層3は、図1では図示が省略されているが、陽極1の孔の壁面上の誘電体層2の上にも形成されている。そして、さらに、陽極1の外周面上にも導電性高分子層3が形成されており、この部分の導電性高分子層3上には、カーボン層4が形成され、カーボン層4の上には、銀ペースト層5が形成されている。
【0070】
カーボン層4と銀ペースト層5の2層によって陰極層6が構成されている。カーボン層4は、カーボンペーストを塗布した後、これを乾燥することにより形成することができる。銀ペースト層5は、カーボン層4に銀ペーストを塗布した後、これを乾燥することにより形成することができる。以上のようにして、本実施形態の固体電解コンデンサ8が構成されている。
【0071】
固体電解コンデンサ8の周りは、モールド外装樹脂で覆われている。陽極リード7には陽極端子が接続されている。陰極層6には陰極端子が接続されている。それぞれの端子はモールド外装樹脂の外部に引き出されている。
【0072】
本実施形態の固体電解コンデンサ8においては、導電性高分子層3の少なくとも一部に前述の導電性高分子膜が用いられているので、導電性に優れた導電性高分子層3を形成することができる。従って、このような本実施形態の固体電解コンデンサにおいては、導電性高分子層3の少なくとも一部に上述の導電性高分子膜を用いているので、固体電解コンデンサ8のESRを低減することができる。
【0073】
<有機太陽電池>
図2は、本発明に従うデバイスの他の実施形態である有機太陽電池を示す模式的断面図である。図2に示すように、基板10の上には、透明電極11が形成されている。基板10としては、ガラス基板を用いることができる。透明電極11としては、インジウム錫酸化物(ITO)などからなる薄膜が用いられる。透明電極11の上には、ホール輸送層12が形成されている。このホール輸送層12として、前述のような導電性高分子膜を用いることができる。ホール輸送層12の上には、活性層13が形成されている。活性層13としては、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)膜を形成することができる。活性層13の上には、電子輸送層14が形成されている。電子輸送層14としては、例えば、C60フラーレン膜などを形成することができる。電子輸送層14の上には、上部電極15が形成されている。上部電極15としては、例えば、アルミニウム膜などの金属膜を形成することができる。以上のようにして、有機太陽電池16が構成されている。
【0074】
本実施形態の有機太陽電池16にお・BR>「ては、ホール輸送層12として、上述の導電性高分子膜が形成されているので、ホール輸送層12は導電性に優れている。このため、有機太陽電池において、界面抵抗及びバルク抵抗に起因するIRドロップを低減することができ、開放電圧を上昇させることができる。
【0075】
<シリコン系太陽電池>
図3は、本発明に従うデバイスの他の実施形態であるシリコン系太陽電池30を示す模式的断面図である。図3に示すように、表面にテクスチャ構造を有するn型単結晶シリコン基板20の裏面側に順にi型非晶質シリコン層21とn型非晶質シリコン層22とが形成され、受光面側に順にi型非晶質シリコン層23とp型非晶質シリコン層24とが形成されている。
【0076】
この受光面側のp型非晶質シリコン層24の上に、透明電極として、上述の導電性高分子膜25が形成されており、導電性高分子膜25の上に、バッファー層26が形成されている。バッファー層26は、インジウム錫酸化物(ITO)により形成することができる。また、裏面側のn型非晶質シリコン層22の上に、裏面電極層27が形成されている。裏面電極層27としては、インジウム錫酸化物(ITO)を用いることができる。受光面側のバッファー層26上に受光面側集電電極28が形成され、裏面電極層27の上に裏面側集電電極29が形成されている。以上のようにして、本発明の実施形態であるシリコン系太陽電池30が構成されている。
【0077】
本実施形態のシリコン系太陽電池30においては、受光面側の透明電極として、上述の導電性高分子膜が形成されているので、光の透過率が高く、導電性に優れた電極を形成することができる。このように受光面側の透明電極の導電性を向上させることができるので、シリコン系太陽電池において、透明電極の抵抗に起因するロスを低減することができ、変換効率を上昇させることができる。
【0078】
<透明導電性基板>
図4は、本発明に従うデバイスの他の実施形態である透明導電性基板42を示す模式的断面図である。図4に示すように、基板40の上には、透明導電膜として導電性高分子膜41が形成されている。基板40としてガラス基板やプラスチック基板を用いることができる。上述の導電性高分子を用いることで、導電性高分子膜41の導電性を向上させることができるので、薄い膜厚と高い導電性とを保ちながら、透過率を改善することができる。また、膜厚を薄くすることによる光の透過率向上に加えて、後述するように、吸収係数を小さくすることができるため、さらに光の透過率を高くすることができる。
【0079】
上記透明導電性基板42は、タッチパネルやディスプレイに用いることができる。例えば、抵抗膜方式のタッチパネルでは、図5に示すように、導電性高分子膜41が形成された2枚のフィルム基板40を、その導電性高分子膜41が一定の距離を空けた状態で対峙するように配置させている。2枚のフィルム基板は、貼り合わせ剤19により貼り合わされている。対峙する導電性高分子膜41間には、絶縁性のドットスペーサー43が一定間隔を空けて導電性高分子膜41の全面に一様に配置されている。これにより、フィルム基板40のたわみによる導電性高分子膜41同士の接触が防止されている。ペンや指などで上側のフィルム基板40が押し付けられると、その押圧力によりその位置のドットスペーサー43間で導電性高分子膜41同士が接触することで、上下の導電性高分子膜41が接触し、導通する。タッチパネルの端のから接触点までの導電性高分子膜41の抵抗値を検出することで、接触点の位置検出を行う。また、透明導電性基板42は、ディスプレイ用途では、有機エレクトロルミネッセンス、液晶、電子ペーパー用の電極として用いることができる。
【0080】
(実施例)
以下、本発明に従う具体的な実施例について詳述する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
<ガラス基板上に形成した導電性高分子膜>
(実施例1〜10及び比較例1)
導電性高分子のモノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンと、酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸第二鉄の40重量%ブタノール溶液と、ドーパントと塩基性物質とからなる塩である添加剤としてのパラトルエンスルホン酸ピリジニウムとを、表1に示す各種の所定のモル比で混合し、重合液を調製した。得られた重合液を、ガラス基板上にスピンコート法で塗布して成膜した。重合液の成膜後、これを50℃で1時間放置した。放置後、純水で膜を洗浄し、副生成物を除去し、ガラス基板上に導電性高分子膜を形成することで、実施例1〜10の導電性高分子膜を得た。
一方、重合液に添加剤を含有させないことを除いて、実施例1と同様にして、比較例1の導電性高分子膜を得た。
【0082】
(比較例2〜3)
重合液に、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムからなる添加剤に替えて、導電性向上剤として従来から知られているピリジン(ドーパントと塩基性物質とからなる塩に該当しない)を表1に示す割合で添加し、この重合液を用いて導電性高分子膜を形成する以外は、上記の実施例1〜10と同様にしてガラス基板上に導電性高分子膜を形成することで比較例2〜3の導電性高分子膜を得た。
【0083】
(比較例4〜6)
重合液に、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムからなる添加剤に替えて、導電性向上剤として従来から知られているイミダゾール(ドーパントと塩基性物質とからなる塩に該当しない)を表1に示す割合で添加し、この重合液を用いて導電性高分子膜を形成する以外は、上記の実施例1〜10と同様にしてガラス基板上に導電性高分子膜を形成することで比較例4〜6の導電性高分子膜を得た。
【0084】
得られた導電性高分子膜の膜厚は、触針式表面形状測定機Dektakで測定し、導電性高分子膜の導電率を、抵抗率計ロレスタMCパラT610(株式会社ダイヤインスツルメンツ社製)で測定した。
【0085】
また、実施例1、3、5、7、9、比較例1、2、4、5、6について導電性高分子膜のドープ率を算出した。ドープ率は、X線光電子分光(XPS)測定器を用いて単位時間当りの光電子のカウント数分布を測定し、チオフェン環由来の硫黄原子ピークとドーパントであるp−トルエンスルホン酸由来のSOxピークの面積比から算出したものであり、ドーパントであるp−トルエンスルホン酸の含有割合を表すものである。
【0086】
具体的には、図6に示すように、結合エネルギーを横軸に、単位時間当りの光電子のカウント数を縦軸にとり、測定から得られた分布(図の実線Lで表される分布)から、チオフェン環由来の硫黄原子ピークに対応する約163eVを頂点とする分布(図の破線L1で表される分布)とp−トルエンスルホン酸由来のSOxピークに対応する約165eVを頂点とする分布(図の2点鎖線L2で表される分布)に、電子計算機によるフィッティング処理によって分離する。次に、硫黄原子ピークに対応する分布についてバックグランドレベル(図の線B)以上の面積(S1)とSOxピークに対応する分布についてバックグランドレベル(図の線B)以上の面積(S2)とを計算し、硫黄原子ピークに対応する分布について面積(S1)に対するSOxピークに対応する分布についての面積(S2)の比率(S2/S1)を求め、ドープ率とした。
【0087】
さらに、実施例1〜10、比較例1、2、4、5、6について、800nmの光に対する導電性高分子膜の吸収係数を測定し、その吸収係数から膜厚1000Åの時の導電性高分子膜の透過率を算出した。具体的には、分光光度計U4100(日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、導電性高分子膜に光を照射し、反射した光の強度Rと透過した光の強度Tを測定し、照射した光の強度Mから反射した光の強度Rを差し引いたものと透過した光の強度Tとを比較して、導電性高分子膜の透過率(T/(M−R))を求め、以下の式(3)により、別途測定した導電性高分子膜の膜厚と合わせて、吸収係数を算出した。
【0088】
【数1】

【0089】
また、膜厚1000Åの時の導電性高分子膜の透過率は、膜厚を1000Åとして上述の式(3)を逆に計算して、求めた。
【0090】
これらの実施例1〜10及び比較例1〜6の評価結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、添加剤であるパラトルエンスルホン酸ピリジニウムを重合液に添加して形成した実施例1〜10の導電性高分子膜は、添加剤を添加していない比較例1に比べ、高い導電率を示している。パラトルエンスルホン酸ピリジニウムに替えて、従来技術で用いられているピリジンを重合液に添加した比較例2は、740S/cm程度の導電率が得られたが、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムを添加して得られる実施例の750S/cm以上の導電率は得られなかった。
【0093】
なお、比較例3のように、添加剤であるピリジンの添加量を比較例2より、増やしていくと、導電性高分子膜の膜厚が薄くなり、導電率の測定ができない状態となった。このことは、ピリジンなどの塩基性添加物が直接パラトルエンスルホン酸第二鉄などの酸化剤に作用する為に、添加剤が多くなると酸化剤の酸化能力が低下してしまい、重合反応が起こりにくくなったものと考えられる。
【0094】
また、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムに替えて、従来技術で用いられているイミダゾールを重合液に添加した比較例4〜6についても、パラトルエンスルホン酸ピリジニウムを添加して得られる実施例の750S/cm以上の導電率は得られなかった。
図7は、実施例1、3、5、7、9及び比較例1、2、4、5、6の導電性高分子膜について、モノマーに対する添加剤の含有比率とドープ率との関係を示した図である。ここで、モノマーに対する添加剤の含有比率とは、重合液に含まれるモノマーに対する添加剤の量のモル比を示す。図7に示すように、添加剤を用いない比較例1やピリジン及びイミダゾールの添加剤を用いた比較例2、4、5、6では、添加剤の含有比率を増加させても、導電率は上昇せず、最も高い導電率を示す比較例2でも740S/cm程度であり(表1参照)、実施例のような750S/cm以上の高い導電率の値は得られなかった。
また、図7より、実施例の添加剤を用いた場合、モノマーに対する添加剤の含有比率としては、2〜5の値で、特に高い導電率が得られた。さらに、モノマーに対する添加剤の含有比率としては、3〜5の値で、導電率が急激に上昇し、1000S/cm以上のより値が得られた。
【0095】
図8は、実施例1、3、5、7、9及び比較例1、2、4、5、6の導電性高分子膜について、モノマーに対する添加剤の含有比率とドープ率との関係を示した図である。図8に示すように、添加剤を用いない比較例1やピリジン及びイミダゾールの添加剤を用いた比較例2、4、5、6では、添加剤の含有比率を変化させても、実施例のような0.5を超える高いドープ率の値は得られなかった。これは、実施例の添加剤は、塩としてパラトルエンスルホン酸等のドーパントを含有しているのに対し、比較例のように添加剤を用いない場合やピリジン及びイミダゾール等の塩基性物質の添加剤を用いた場合には、ドーパントは、重合反応によって酸化剤から生成されることにより供給されるため、重合液中のドーパントは実施例よりも少なくなる。そのため、比較例では、導電性高分子膜に取り込まれるドーパントの量が少なく、ドープ率が実施例のように大きくならないものと考えられる。
その結果、図7において、モノマーに対する添加剤の含有比率を増加させても、比較例の導電率の値が大きくならなかったものと考えられる。
【0096】
また、図9は、実施例1、3、5、7、9及び比較例1、2、4、5、6の導電性高分子膜のドープ率と導電率との関係を示した図である。ドープ率が高い程、導電率が高い傾向が見られた。これは、ドープ率の増加によって、ドーパントであるp−トルエンスルホン酸の含有率が高まったことにより、キャリア密度が高まり、キャリア密度に比例する導電率(導電率σ=enμ:電荷量e、キャリア密度n、移動度μ)が高くなったものと考えられる。図9より、実施例の導電性高分子膜のドープ率は、比較例よりも高い0.55以上0.72以下の範囲であり、その結果、実施例の導電性高分子膜は、750S/cm以上の高い導電率が得らている。
【0097】
また、図10は、実施例1、3、5、7、9及び比較例1、2、4、5、6の導電性高分子膜のドープ率と波長800nmの光に対する吸収係数との関係を示した図であり、図11は、実施例1、3、5、7、9及び比較例1、2、4、5、6の導電性高分子膜のドープ率と波長800nmの光に対する透過率との関係を示した図である。図10、図11に示すように、比較例1及び実施例1、3、5、7、9では、ドープ率の上昇に伴って、吸収係数は低下し、透過率が増加している。特に、図10に示すように比較例1と実施例9の吸収係数を比較すると40%程度も低下している。また、図11に示すように、比較例1と実施例7、9の透過率を比較すると、添加剤の添加量4モル以上である実施例7、9では、比較例1に比べて10%以上、透過率が増加している。
【0098】
これは、添加剤を多く添加して重合することで、導電性高分子膜の結晶性又は配向性が低下し、一般に高分子材料において透過率が高くなる導電性高分子膜の非晶質化が進んだためと考えられる。
【0099】
このように、ドーパントと塩基性物質からなる塩を添加剤として用いた本実施例の場合には、ドープ率が高く、導電率の高い導電性高分子膜において、波長800nmの光に対する吸収係数として、38000cm−1以下の値が得られ、光の透過率も高くすることができる。
【0100】
一方、比較例2、4、5、6の塩基性物質を添加剤として用いた場合には、実施例とは逆の傾向を示し、ドープ率の上昇に伴って、吸収係数は増加し、透過率が低下し、高いドープ率において、光の透過率の高い導電性高分子膜は得られなかった。
【0101】
また、図12は、実施例9と比較例1の導電性高分子膜の波長に対する透過率の関係を示した図である。波長800nmだけでなく、広い波長範囲で実施例9の導電性高分子膜は、比較例1の導電性高分子膜に比べて高い透過率を示している。
【0102】
以上のように、塩からなる添加剤を使用することで、従来得ることができなかった高いドープ率を持つ導電性高分子膜を形成することができ、実施例1〜10に示すように、導電性に優れ、且つ透過率の高い導電性高分子膜を形成することができることが分かる。
【0103】
<固体電解コンデンサの作製と評価>
図1に示す構造を有する固体電解コンデンサを作製した。陽極1は、タンタル(Ta)の粉末の焼結体から形成した。陽極1は、2.3mm×1.8mm×1.0mmの直方体の形状を有していた。この直方体形状を有する陽極1の1端面から陽極リード7の一端が植立していた。陽極リード7は、タンタル(Ta)から形成されていた。陽極リード7の他端が埋設された陽極1を、リン酸水溶液中に浸漬して、所定の電圧を印加することによって陽極酸化した。この陽極酸化によって、陽極1の表面に酸化タンタルからなる誘電体層2を形成した。誘電体層2は、上述のように、陽極1の多孔質体の孔の表面上にも形成されていた。
【0104】
次に、誘電体層2で覆われた陽極1を、重合液中に浸漬した。重合液は、導電性高分子モノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンと、酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸第二鉄と、添加剤としてのパラトルエンスルホン酸ピリジニウムとを、モル比で1:4:4となるように混合したブタノール溶液を用いた。この重合液に、誘電体層2を形成した陽極1を浸漬し、浸漬後引き上げて乾燥することにより、誘電体層2の上に、導電性高分子膜を形成した。重合液中の浸漬及び乾燥を繰り返すことにより、導電性高分子膜の膜厚を増やして調整し、膜厚50μmの導電性高分子層3を形成した。
【0105】
その後、陽極1の外周面上の導電性高分子層3の上に、カーボン層4及び銀ペースト層5を順次形成し、陰極層6を設けた。以上のようにして作製した固体電解コンデンサ8の陽極リード7に陽極端子を溶接し、陰極層6に陰極端子を導電性接着剤により接続した後、固体電解コンデンサ8の外側を、エポキシ樹脂で外装し、被覆密閉して固体電解コンデンサを完成した。得られた固体電解コンデンサについて、ESRを測定した。ESRの測定は、前述したLCRメータを用いて周波数100KHzで行った。以上のようにして測定した結果、ESRは6.2mΩであった。
【0106】
これに対して、比較として、上記実施例において、添加剤としてのピリジンを重合液に添加した以外は、上記と同様にして導電性高分子膜を形成し、比較の固体電解コンデンサを作製した。この比較の固体電解コンデンサについて、上記と同様にして、ESRを測定した。その結果、ESRは6.7mΩであった。以上のように、本発明に従い、固体電解コンデンサにおける導電性高分子層を形成することにより、導電性高分子層3の導電率を向上させることができ、その結果、固体電解コンデンサのESRの低減を図ることができた。
【0107】
<有機太陽電池の作製と評価>
図2に示す構造を有する有機太陽電池を作製した。
【0108】
まず、ITOから形成された透明電極11の表面に、以下のプロセスによって、導電性高分子層からなるホール輸送層12を形成した。即ち、導電性高分子モノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンと、酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸第二鉄と、添加剤としてのパラトルエンスルホン酸ピリジニウムとを、モル比で1:4:4となるように混合したブタノール溶液からなる重合液を透明電極11にスピンコートによって塗布した。
【0109】
その後、塗布された重合液を50℃で1時間放置し、純水で洗浄し、乾燥することにより、ホール輸送層12を成膜した。これによって、膜厚50nmのポリエチレンジオキシチオフェンの薄膜からなるホール輸送層12が形成された。
【0110】
次に、ホール輸送層12の上に、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)のo−ジクロロベンゼン溶液をスピンコートし、膜厚50nmの活性層13を形成した。活性層13の上に、C60フラーレン膜を真空蒸着することにより、膜厚50nmの電子輸送層14を形成した。
【0111】
その後、電子輸送層14の上に、シャドーマスクを用いてアルミニウムからならる膜を真空蒸着することにより、上部電極15を形成した。次に、ガラスキャップで封止することにより、有機太陽電池16を完成した。
【0112】
このように作製した有機太陽電池について、エアマス(AM)が、1.5(100mW/cm)の疑似太陽光を照射したところ、開放電圧として、555mVの起電力を得ることができた。比較として、上記実施例において、添加剤としてピリジンを重合液に添加した以外は、上記と同様にして、ホール輸送層12を形成し、比較の有機太陽電池を作製した。
【0113】
この比較の有機太陽電池について、上記と同様にして、疑似太陽光を照射したところ、開放電圧として、520mVの起電力が得られた。以上の結果から、本発明による起電力の向上が確認できた。即ち、ホール輸送層12として、本発明に従う導電性高分子膜をホール輸送層12として用いることにより、ホール輸送層12の導電性が向上し、界面抵抗及びバルク抵抗に起因するIRドロップが低減し、開放電圧が上昇する作用効果によって、起電力が向上したことが確認できた。
【0114】
<シリコン系太陽電池の作製と評価>
図3に示す構造を有するシリコン系太陽電池を作製した。
【0115】
最初に、n型単結晶シリコン基板20の表面に、光の利用効率を高めるため、テクスチャ構造を形成した。テクスチャ構造は、シリコン基板20を、例えば約85℃の温度に保ったNaOH水溶液(約1.5重量%)に約30分間浸し、異方性エッチングを行うことにより形成した。このテクスチャ構造は、受光面に垂直な方向において、数μm〜数十μmの高さを有する構造である。
【0116】
次に、n型単結晶シリコン基板20の裏面に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いることにより、i型非晶質シリコン層21とn型非晶質シリコン層22とを順に形成した。続いて、n型単結晶シリコン基板20の受光面に、CVD法を用いることにより、i型非晶質シリコン層23とp型非晶質シリコン層24とを順に形成した。各非晶質シリコン層21〜24の膜厚は、それぞれ約5nmである。
【0117】
次に、受光面のp型非晶質シリコン層24の上に、透明電極として、本発明の導電性高分子膜25を形成した。具体的には、導電性高分子の前駆体モノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンと、酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸第二鉄の40重量%ブタノール溶液と、添加剤としてのp―トルエンスルホン酸ピリジニウムを、1:4:4のモル比で混合し、重合液を調製した。得られた重合液を、p型非晶質シリコン層24の上にスピンコート法で塗布して成膜した。成膜後、50℃で1時間ベークした。放置後、膜の洗浄、乾燥工程を行い、導電性高分子膜25を形成した。導電性高分子膜25の膜厚は、約60nmである。
【0118】
次に、導電性高分子膜25の上に、バッファー層26として、スパッタリング法により、インジウム錫酸化物の薄膜層を形成した。バッファー層26の膜厚は、約30nmであった。また、裏面側のn型非晶質シリコン層22の上に、裏面電極層27として、同じくスパッタリング法により、インジウム錫酸化物を約30nmの膜厚で形成した。
【0119】
次に、受光面側バッファー層26上に受光面側集電電極28を形成し、裏面電極層27の上に裏面側集電電極29を形成した。
【0120】
このようにして完成したシリコン系太陽電池30(図3)の光電変換特性を、ソーラーシミュレータを用いて測定した。その結果、開放電圧(Voc):0.68V、短絡電流(Isc):36mA/cm、変換効率:17.0%の太陽電池が得られ、太陽電池の透明導電膜として、本発明に従う導電性高分子膜が十分機能していることを確認した。
【0121】
<透明導電性基板の作製と評価>
図4に示す構造を有する透明導電性基板を作製した。
【0122】
導電性高分子の前駆体モノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェンと、酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸第二鉄の40重量%ブタノール溶液と、添加剤としてのp―トルエンスルホン酸ピリジニウムを、1:4:5のモル比で混合し、重合液を調製した。得られた重合液を、ポリエーテルサルホン(PES)基板上にスピンコート法で塗布して成膜した。成膜後、50℃で1時間放置した。放置後、純水で膜を洗浄し、副生成物を除去し、基板上に導電性高分子膜を形成した。
【0123】
得られた導電性高分子膜は、シート抵抗が200Ω/□で透過率は90%であった。透過率は、400nmから800nmまでの透過率を平均して算出した。比較として、上記実施例において、添加剤を用いないで成膜した。作製は、添加剤を用いない以外は同様にして行った。この比較の透明導電膜について、シート抵抗と透過率を測定した結果、シート抵抗が305Ω/□で透過率は77%であった。以上の結果から、本発明に従い、導電性高分子膜を形成することにより、シート抵抗が低く、透過率の高い透明導電膜を得ることができた。
【符号の説明】
【0124】
1…陽極
2…誘電体層
3…導電性高分子層
4…カーボン層
5…銀ペースト層
6…陰極層
7…陽極リード
8…固体電解コンデンサ
10…基板
11…透明電極
12…ホール輸送層
13…活性層
14…電子輸送層
15…上部電極
16…有機太陽電池
20…シリコン基板
21…i型非晶質シリコン層
22…n型非晶質シリコン層
23…i型非晶質シリコン層
24…p型非晶質シリコン層
25…導電性高分子膜
26…バッファー層
27…裏面電極層
28…受光面側集電電極
29…裏面側集電電極
30…シリコン系太陽電池
40…基板
41…導電性高分子膜
42…透明導電性基板
43…ドットスペーサー
44…貼り合わせ剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子のモノマーと酸化剤と添加剤とが含有された重合液を用いて導電性高分子モノマーを重合してなる導電性高分子膜であって、前記添加剤がドーパントと塩基性物質とからなる塩であることを特徴とした導電性高分子膜。
【請求項2】
スルホン酸を含有するポリチオフェン類の導電性高分子膜であって、
前記導電性高分子膜中のチオフェン環に対するスルホン酸のドープ率が0.55以上0.72以下であることを特徴とした導電性高分子膜。
【請求項3】
前記導電性高分子膜の光の波長800nmにおける吸収係数が38000cm−1以下であることを特徴とした請求項1または2に記載の導電性高分子膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記導電性高分子膜を備えることを特徴とした電子デバイス。
【請求項5】
前記電子デバイスは固体電解コンデンサであることを特徴とする請求項4に記載の電子デバイス。
【請求項6】
導電性高分子のモノマーと、酸化剤と、ドーパントに塩基性物質が結合した塩である添加剤とを含有した重合液を基板上に塗布し、該基板上で前記導電性高分子のモノマーを重合することを特徴とした導電性高分子膜の製造方法。
【請求項7】
導電性高分子膜を形成する電子デバイスの製造方法であって、導電性高分子のモノマー、酸化剤、およびドーパントと塩基性物質とからなる塩である添加剤を含有した重合液を基板上に塗布し、該基板上で前記導電性高分子のモノマーを重合することによって導電性高分子膜を成膜することを特徴とした電子デバイスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−71087(P2011−71087A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27110(P2010−27110)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】