説明

小型反応器の製造方法

【課題】接着力、観察性、無不純物、耐圧性の観点において実用性に優れた小型反応器を提供する。
【解決手段】
複数の無機透明基板11〜13を接着して小型反応器を製造する際に、各無機透明基板11〜13の互いに接触して接着される接着面16〜19を、先ず、研磨して平坦化した後、接着面16〜19の表面を部分的に加工する。次いで、接着面16〜19を親水化処理し、純水洗浄を行った後、遠心力によって純水膜を振り切って除去し、接着面同士を接着させた状態で加熱する。接着面間が酸素を介する化学結合によって接着され、複数の無機透明基板11〜13が強固に接着された小型反応器1、2が得られる。透明であるから反応が観察でき、強固であるから耐圧が高く、接着剤を使用しないから不純物の溶出がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型反応器の技術分野に係り、特に、実用上優れた小型反応器の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化学合成・反応等の研究開発はビーカーやフラスコ等の一般的な実験装置を用いて行われていたが、ビーカー等では試薬の混合ムラや温度ムラ等が起こり、副生成物が発生したり、爆発的な熱反応によって実験が制御できなくなる等の欠点がある。
そのような欠点はプラントレベルの化学合成においても同じであり、反応量が増加するに合わせて副生成物の発生も増加してしまう。
それに対し近年では、最小単位での反応を行うことができるマイクロリアクター(小型反応器)を用いて上記欠点を解消しようとする試みが開始されている。
マイクロリアクターとは、微小空間で化学反応を行う反応装置であり、高効率で安全性も高いことからも近年注目されており、マイクロリアクターを用いた化学合成は、コンピュータ制御によって自動化でき、条件を変更した多数の反応も容易に連続して行うことができるので、化学プロセスを大きく変化させる可能性がある。
【0003】
現在のところ、ステンレス製(SUS製)プレートが複数枚貼り合わされたマイクロリアクターが主流である。しかし、SUS製プレートは酸、アルカリに弱く、それらの試薬を用いる反応にはSUS製のマイクロリアクターは使用できないという欠点がある。
また、SUS製マイクロリアクターでは、内部を流れる薬液や進行する反応は目視できないため、反応プロセスの進行状態が確認ができない。しかも、薬液詰まり等の障碍が内部で発生したときも、内部を確認できないため対応できないという不都合がある。
従って、酸やアルカリに強いガラス製プレートや石英ガラス製プレートを用いたマイクロリアクターが求められている。
しかし、マイクロリアクターをガラス製プレートを接着剤で貼り合わせて積層して形成した場合は、接着剤から溶出した成分が、マイクロリアクター使用時に化学反応系に不純物として混入しやすく、微少量の反応系上無視することができない。
また、接着剤を用いてマイクロリアクターを構成させた場合は接着強度や使用上限温度が低いため、流路の内部圧力を高くできず、反応温度も高温にできないという問題もある。
従来技術のマイクロリアクターは、例えば下記文献に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−66382号公報
【特許文献2】特開2004−81949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、高接着強度、内部観察性、無不純物、高耐圧性の観点において実用性に優れた小型反応器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、接着面をそれぞれ有する複数の無機透明基板が、前記接着面同士を密着して貼り合わされ、内部に流体の流路が形成された小型反応器製造の製造方法であって、前記無機透明基板の前記接着面を、中心線平均粗さRaが2nm以下になるようにそれぞれ研磨した後、各前記無機透明基板の前記接着面の一部領域をそれぞれ加工して溝を形成し、前記無機透明基板の前記接触面をそれぞれ親水化処理した後、前記接触面に水をそれぞれ接触させ、前記無機透明基板の前記接触面同士をそれぞれ接触させた状態で、各前記無機透明基板を所定の接着温度に加熱して前記第一、第二の無機透明基板を互いに貼付する反応器製造方法である。
また、本発明は、各前記無機透明基板はガラスから成り、前記加熱温度は500℃以上1000℃以下の温度である反応器製造方法である。
また、本発明は、前記流路の内部は、前記小型反応器の外部に開放された状態で前記加熱温度に加熱される反応器製造方法である。
また、本発明は、前記親水化処理は、各前記接触面を過酸化水素水とアンモニアを含む親水化処理液にそれぞれ接触させる反応器製造方法である。
また、本発明は、前記親水化処理後、前記接触面に接触させた水は、各前記無機透明基板を回転させた遠心力で除去する反応器製造方法である。
また、本発明は、接着面をそれぞれ有する複数の無機透明基板が、前記接着面同士を密着して貼り合わされ、内部の流体の流路が形成された小型反応器の製造方法であって、前記無機透明基板の前記接着面をそれぞれ研磨した後、各前記無機透明基板の前記接着面の一部の領域をそれぞれ加工して溝を形成し、前記無機透明基板の前記接着面同士をそれぞれ接着させ、前記流路を前記小型反応器の外部に開放した状態で、各前記無機透明基板を所定の接着温度に加熱して前記第一、第二の無機透明基板を互いに接合する小型反応器製造方法である。
また、複数の無機透明基板が積層されてなる小型反応器であって、第一の無機透明基板の表面および隣接する第二の無機透明基板の表面に形成され、第一および第二の無機透明基板同士が接合されるための接着面と、第一の無機透明基板の表面に形成された溝と、隣接する第二の無機透明基板の表面と、複数の無機透明基板のいずれにも貫通的に形成された貫通孔とで構成された流路を備え、第一の無機透明基板と第二の無機透明基板とは、上記接着面同士が密着された後は、化学的に結合して一体化してなる小型反応器である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって製造した小型反応器には、
1)取り扱う薬品が少量で済み、温度制御が容易であるから安定した化学反応を行うことができる。
2)クローズシステムであり安全性が非常に高い。
3)生成物の収率が高い。
4)小スペースでのプラント設置が可能。
5)スケールアップが容易。
というメリットがある。
【0008】
また、本発明によって製造した小型反応器は内部を視認することができるので、化学合成等を進行させる際に、小型反応器内を流れる薬液の混合や反応を観察することができる。従って、反応プロセスが進行していることや、反応状態を確認することができる。また、小型反応器の流路に薬液詰まりが発生したときに、詰まった場所が確認できるので、容易に対応することができる。
また、本発明では接着剤を用いていないので、反応系に接着剤から発生する不純物が混入することはなく、また、反応を高温にして行うこともできる(300℃以上)。
また、接着強度が高いので、反応流路内の圧力を10気圧程度まで高くすることができる。
加熱して無機透明基板同士を接着させる際に、内部に存する気体を外部に放出させることができるので、内圧が高まることによる接着ミスや接着強度が弱くなることはない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)〜(f):本発明の反応器の製造工程の一例を示す図
【図2】複数の無機透明基板を積層するときの状態を説明するための図
【図3】(a)、(b):接着した反応器を説明するための図
【図4】(a)〜(e):積層する五枚の無機透明基板を説明するための平面図
【図5】(a)〜(e):同断面図
【図6】積層した状態を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1の実施例>
本発明の小型反応器(マイクロリアクター)の製造方法の第一例を説明する。
図1(a)〜(f)と、図2と、図3(a)を参照し、先ず、複数枚の無機透明基板を用意し、下記工程によって小型反応器を形成する。ここでは各透明基板には、SiO2から成り透明なガラス板を用いており、各無機透明基板が貼り合わされる接着面には、下記工程が行われる。本発明に用いられる「ガラス」には、SiO2から成る石英ガラスの他、SiO2とAl23を主成分とする一般的なガラスや、SiO2にB23を含有するホウケイ酸ガラスも含まれる。
ここでは、最下面に位置する第一の無機透明基板11を用いて各工程を説明する。
先ず、他の無機透明基板と接着する接着面16を研磨し、平坦化処理する(図1(a))。最下面なので、ここでは底面15は研磨してもしなくても良い。
接着面16の平滑化には、酸化セリウム等の研磨剤やバフと界面活性剤を用いる他、研磨対象の表面を変化させる薬液を研磨剤と一緒に用いても良い。
【0011】
次に、第一の無機透明基板11の平坦化された接着面16上にレジスト液を塗布し、フォトレジスト膜28を形成する(図1(b))。
次に、フォトレジスト膜28の上方位置に、透光部21と遮光部22とを有するフォトマスク23を配置し(図1(c))、露光光をフォトマスク23上に照射し、透光部21を透過した露光光をフォトレジスト膜28に到達させる。
フォトレジスト膜28は光反応性を有しており、露光光によってフォトレジスト膜28に潜像が形成され、第一の無機透明基板11上のフォトレジスト膜28に現像液を接触させてフォトレジスト膜28を現像し、加熱して第一の無機透明基板11の接着面16上にパターニングされたフォトレジスト膜28を形成する(図1(d))。
ここではフォトレジスト膜28は光溶解性を有しており、露光光が照射された部分が現像に溶解して除去され、除去された部分によって開口14が形成される。開口14の底面には、接着面16が露出している。
【0012】
次に、フォトレジスト膜28上、及び開口14上からエッチング液を噴霧し、又は、ドライエッチング装置内に搬入し、エッチングガスプラズマに曝し、開口14の底面に露出する第一の無機透明基板11をエッチングする(図1(e))。
底面15に保護膜を形成してパターニングされたフォトレジスト膜28と共に第一の無機透明基板11をエッチング液に浸漬してもよい。
ここではエッチングによって、所定の深さの溝や孔を形成するが、本発明の孔や溝等の形成には、エッチング液に浸漬するウェットエッチング加工の他、エッチングガスによるドライエッチング加工、掘削加工、研削加工等の種々の加工方法が含まれる。
【0013】
なお、本発明では、「溝」には有底の溝も無底の溝も含まれる。また、広義の「溝」には有底孔も無底孔も含まれる
第一の無機透明基板11では溝41は有底であるが、底がなく第一の無機透明基板11の表面と裏面が貫通した溝や貫通孔を設けることもできる。また、エッチングを2回以上行い、同じ無機透明基板に深さが異なる溝や孔を設けることもできる。
【0014】
次に、溶剤に浸漬してフォトレジスト膜28を除去した後、溶剤や化学薬品等によって接着面16の表面を洗浄し、次いで、純水流に浸漬して溶剤を除去した後、スピンコータ等の回転装置の台上に第一の無機透明基板11を乗せ、接着面16が位置する平面と平行な平面内で第一の無機透明基板11を回転させ、接着面16上に付着していた純水を除去する。
このときの第一の無機透明基板11は、溝41の外部である接着面16が露出しており(図1(f))、回転乾燥後、接着面16上に過酸化水素とアンモニアと水との混合液(1:1:5)の液滴を噴霧する。混合液に接触したガラスの表面は、親水化され、水に対する接触角が小さくなる。
【0015】
次に、親水処理を行った第一の無機透明基板11を純水流に浸漬する純水洗浄を行い、接着面16に残留している過酸化水素やアンモニアを除去する。
この状態では親水化処理がされた接着面16には、純水が膜を作って拡がっており、その状態の第一の無機透明基板11を純水の膜が拡がった状態で、スピンコータ等の回転装置の回転台上に配置し、接着面16が位置する平面と平行な平面内で第一の無機透明基板11を回転させると、接着面16上に付着していた純水膜に回転による遠心力が加えられ、第一の無機透明基板11は加熱されずに、純水膜が振り切って除去することができる。
ここでは、第一の無機透明基板11の回転は、接着面16の略中心位置を回転軸線として回転されたが、第一の無機透明基板11の外部に回転軸線が配置されていてもよい。
このような純水膜を有する第一の無機透明基板11に対し、回転による水分の除去処理がされた状態では、接着面16から純水膜は除去されるが、接着面16には吸着した水分子が残っている。
第一の無機透明基板11以外の小型反応器を構成させる無機透明基板も、第一の無機透明基板11の場合と同じように、同じ順序で平坦化〜純水膜の除去が行われている。
【0016】
図2は、第一の無機透明基板11の接着面16上に、他の無機透明基板である第二、第三の無機透明基板12、13が配置された状態を示している。
第二の無機透明基板12は、両面が接着面17、18であり、第三の無機透明基板13は片面が接着面19であり、第一〜第三の無機透明基板11の接着面16〜19には水分子が吸着した状態であり、接着面16と17、18と19同士が向き合っている。
この状態では、第一〜第三の無機透明基板11〜13の接着面16〜19が接触されると第一〜第三の無機透明基板11〜13は、接触面に存する水分子の水素結合によって接着さる。
そして、第一〜第三の無機透明基板11〜13を、接着面16〜19で水分子を介して互いに水素結合された状態で、500℃以上1000℃以下の範囲の加熱温度に加熱する熱処理を行うと、水素結合は酸素原子による化学結合に変化し、接着面同士16、17又は18、19のケイ素原子は、酸素原子を介して化学的に結合することにより一体化する。この変化により、水素結合によって接着されている場合よりも強度に接着した状態になり、図3(a)に示す反応器1が得られる。
回転による純水膜が除去された状態では、接着面16〜19上に水分子が単層程度に残っており、化学変化するが、純水膜が残った状態では純水膜が蒸発する際に無機透明基板11〜13の位置がずれてしまい、酸素結合も形成されなくなる。
【0017】
加熱する際に、第一の無機透明基板11に形成された溝41は第二の無機透明基板12の接着面17によって大部分が覆われており、同様に、第二の無機透明基板11に形成された溝42は第三の無機透明基板13の接着面19によって大部分が覆われている。その結果、溝41、42と接触面17、19とにより、図3(a)に示すように、薬液が流れる流路51、52が形成される。
これらの流路51、52は、各無機透明基板11〜13に形成された貫通孔44〜46によって、反応器1の外部に連絡される。
積層した第一〜第三の無機透明基板11〜13は、貫通孔44〜46によって、積層した第一〜第三の無機透明基板11〜13の外部に接続されて外部に開放された状態で加熱して接着させられる。従って、加熱の際には、第一〜第三の無機透明基板11〜13の間には閉塞した空間が発生せず、液体が流れる部分に存する気体(ここでは空気)が加熱されて膨張すると、その気体は、貫通孔44〜46を通って外部に放出される。
【0018】
なお、上記例では、流路51、52は有底の溝41、42と接触面17、19で形成したが、図3(b)の反応器2のように、広く形成した貫通孔の表面側と裏面側の全部又は一部を接触面16、19で覆って流路53を形成しても良い。
平坦化工程によって、接着面の中心線平均粗さRaが2nm以下になるように平坦にされていると、接着面同士を接触させるときに隙間を有する非接触部分が、2nmより大きいときよりも非常に少なくなることが分かっており、本発明の反応器に用いられる無機透明基板は、研磨によって接着面が中心線平均粗さRaが2nm以下になるように平坦化されている。
【0019】
<接合実験>
石英ガラスから成る6枚の無機透明基板の接着面を、研磨による平坦化処理と、過酸化水素とアンモニアと水との混合液(1:1:5)に接触させる親水化処理と、純水による洗浄処理と、回転による純水膜の除去処理とをこの順序で行い、接着面に水分子が吸着している状態で、各無機透明基板の接触面同士を接触させて積層させ、590℃に加熱して化学結合接着させた。
6枚の無機透明基板は、二個の接着面同士が結合された5層の接合面を有しており、各接合面を、6枚の無機透明基板の上方から観察することができる。
接着させた後、各接合面を見ると、化学結合していない部分と化学結合した部分とを区別することができる。5層の接合面の合計面積を「接合面積」とし、5層の接合面中で化学結合していないと認められる部分の面積を「未接合面積」とし、接合面毎に番号を付して、下記表の「実施例」の欄に測定した面積の値を示す。
また、上記実施例とは異なり、研磨による平坦化処理と、過酸化水素とアンモニアと水との混合液(1:1:5)による親水化処理を行った後、純水による洗浄と回転による処理を行わず、加熱して乾燥した後、接着面同士を接触させて積層し、上記実施例と同じ温度で加熱した。測定した接合面積と未接合面積の値を同表の「比較例」の欄に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
「実施例」の未接合面積合計値は、「比較例」の値の半分以下であり、接合が確実に行われていることが分かる。
「実施例」と「比較例」に用いた無機透明基板の表面平坦性を測定したところ、平坦化した接着面の中心線平均粗さRaは、0.5〜0.7nm(測定場所一カ所当たり測定長さL=10μmであり、複数の測定箇所で測定を行った平均値である)であり、中心線平均粗さRaが2nm以下であれば、無機透明基板を接着することができることが分かる。
【0022】
<他の実施例>
図6は、本発明の他の例の反応器3を示している。
この反応器3は、ホウケイ酸ガラスから成る5枚の無機透明基板101〜105の接着面(第二〜第四の無機透明基板は両面が接着面、第一、第五の無機透明基板は、片面が接着面)を、上記第一の実施例と同じ工程で加工しており、先ず、研磨による平坦化処理を行った後、エッチングによる有底・無底の溝、貫通孔等の形成によって無機透明基板に溝形成処理を行い、次いで、過酸化水素水による接着面の親水化処理と、純水による洗浄処理と、回転による純水膜の除去処理とをこの順序で行った。
そして、接着面に水分子が吸着している状態で、各無機透明基板101〜105の接触面同士を接触させて積層させ、570℃に加熱して化学結合接着させた。
【0023】
図4(a)〜(e)は無機透明基板101〜105の平面図であり、図5(a)〜(e)は無機透明基板101〜105の断面図である。
各透明基板101〜105に下側から順番に番号を付して説明すると、以下、上下方向と水平方向の相対的な位置関係は、第一〜第五の無機透明基板101〜105を積層して小型反応器を形成したときの位置関係である。
第一の無機透明基板101には、温度管理用であって有底で幅広の下部水槽溝111hと、下部水槽溝111hの底面に形成され、内部を外部に導出する熱媒体導入孔111cと、下部水槽溝111hとは別の位置に形成され、貫通孔から成る第一の薬液導出孔111bとを有している。
第一の無機透明基板101上に配置される第二の無機透明基板102は、下部水槽溝111hの上部に位置する有底の長い細溝112iを有しており、細溝112iの底部で下部水槽溝111hを覆い、図6の符号121に示した下部ジャケットを構成させる。
【0024】
また、第二の無機透明基板102は、第一の無機透明基板101の下部水槽溝111hの両端位置上に、貫通孔である通水用の連絡孔112a、112cがそれぞれ形成され、連絡孔112a、112cが下部ジャケット121の内部に接続されるようになっている。
細溝112iは合流地点112dを中心として三方向に分岐しており、分岐した部分の一つの端部は、積層されたときに第一の無機透明基板101の第一の薬液導出孔111bと連通する場所に位置し、その端部には、貫通孔から成る第二の導出孔112bが設けられている。
細溝112iの分岐した他の二つの端部には、細溝112iよりも幅の広い薬液導入部112e、112fが形成されている。
【0025】
第三の無機透明基板103は、積層されたときに細溝112iを覆い、図6の符号122で示す反応用の流路122を構成させる。
第三の無機透明基板103には、第二の無機透明基板102の二個の連絡孔112a、112cとそれぞれ連通する位置に、貫通孔から成る通水用の連絡孔113a、113cがそれぞれ設けられている。また第三の無機透明基板103には、第二の無機透明基板102の薬液導入部112e、112fの上部に位置し、薬液導入部112e、112fに接続される、貫通孔から成る薬液導出孔113e、113fが設けられている。
【0026】
第四の無機透明基板104には、温度管理用であって無底で幅広の上部水槽溝114jが形成されており、上部水槽溝114jの外部に、貫通孔からなる薬液導出孔114e、114fが形成されている。
上部水槽溝114jは、接続されたときに、熱媒体導入孔111c上に位置する連絡孔112c、113cに接続され、他端で、熱媒体導入孔111cとは反対側の、連絡孔112a、113aに接続される。
従って、下部水槽溝111hと上部水槽溝114jは、第二、第三の無機透明基板102、103に形成された連絡孔112a、112c、113a、113cによって両端で接続される。
積層されたときは、上部水槽溝114aは第五の無機透明基板105の接着面によって覆われており、図6の符号124で示す上部ジャケットが形成される。
【0027】
第五の無機透明基板105の第四の無機透明基板104と接着される接着面には、導出溝115aが設けられており、導出溝115aの底面には、貫通孔から成る熱媒体導出孔115gが設けられている。
この導出溝115aは、第四の無機透明基板104が有する上部水槽溝114jの端部のうち、第一の無機透明基板101が有する熱媒体導入孔111cとは反対側の端部上に位置し、上部水槽溝114jに接続され、上部ジャケット124は、導出溝115aと熱媒体導出孔115gとによって外部に接続される。
第五の無機透明基板105には、第四の無機透明基板104の二個の薬液導入孔114e、114fの上方位置に、薬液導入孔115e、115fがそれぞれ配置されており、第五、第四、第三の無機透明基板105、104、103に形成された薬液導入孔115e、115f、114e、114f、113e、113fは、積層方向に二個の流路を形成するように連通されている。
そして、その積層方向の二個の流路は、接続点112dで合流する流路の二本に、薬液導入部112e、112fにおいてそれぞれ接続されており、積層方向の流路から導入された薬液は、流路122内で合流地点112dの一点で合流して一本になって流れ、薬液導出孔111bから反応器3の外部に導出される。
従って、第五の無機透明基板105の二つの薬液導入孔115e、115fから小型反応器3内に互いに反応する薬液を導入すると、流路122の合流地点112dで合流し、混合されて反応が開始され、一本の流路122を流れる間に反応が進行し、反応生成物は、薬液導出孔111bから外部に取り出すことができる。
【0028】
このとき、熱媒体導入孔111cから温度管理された熱水や冷水等から成る温度管理媒体を導入して下部ジャケット121を温度管理媒体で満たした後、その温度管理熱媒体を、熱媒体導入孔111cとは反対側の端部に位置する連絡孔112a、113aと導出溝115とを介して熱媒体導出孔115gから外部に排出すると共に、熱媒体導入孔111cから導入した温度管理媒体を、熱媒体導入孔111c上に位置する連絡孔112c、113cを介して上部ジャケット124内に導入し、上部ジャケット124を満たした後、導出溝115aと熱媒体導出孔115gから外部に排出させると、流路122は、下部及び上部ジャケット121、124に充満した温度管理媒体で挟まれた状態になり、温度管理媒体の温度を管理することで、流路122内の薬液の温度を所望の温度に維持することができる。従って、流路122を流れる薬液の加熱や冷却を高効率で行うことができる。
【0029】
この小型反応器3を形成する際に、積層した無機透明基板101〜105を加熱して接着させたときには、内部の溝(孔を含む。)は、最下層又は最上層の無機透明基板101、105に形成された貫通孔111c、111b、115e、115f、115g(無底の溝を含む)を介して、小型反応器3の外部に開放されている。従って、この小型反応器3でも閉塞された空間が形成されないようになっており、流路51、52内部の気体など、薬液や熱媒体等の液体が流れる部分に存する気体(ここでは空気)が膨張すると、貫通孔111c、111b、115e、115f、115gから外部に放出される。
【0030】
なお、上記反応器3では、下方から上方に向けて温度管理媒体を流したが、上方から下方に向けて流しても良い。また、薬液についても、二カ所の流路を下方から上方に向けて流し、合流地点で合流させた後、上方に向けて流してもよい。
また、上記例では、全部の接着面が、その一部表面をエッチングされていたが、エッチングしない接着面があってもよい。
また、二種類の薬液を合流させて流路122内で化学反応をさせていたが、本発明の小型反応器1〜3はそれに限定されるものではなく、一種類の薬品を流路122内を流す際に加熱又は冷却して反応を制御する場合も含まれる。
【0031】
なお、本発明では、符号51、52、122で示した薬液が流れる「流路」の他、縦方向に形成されて薬液が流れる薬液導入孔115e、115fや、熱媒体が流れる下部、上部ジャケット121、124や熱媒体導入孔111c等、小型反応器1〜3内部で、外部から供給された流体が流れる部分が「流路」と呼べる。
【符号の説明】
【0032】
1〜3……小型反応器
11〜13、101〜105……無機透明基板
16〜19……接着面
51、52、122、(111b、112a、112c、113a、113c等)……流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着面をそれぞれ有する複数の無機透明基板が、前記接着面同士を密着して貼り合わされ、内部に流体の流路が形成された小型反応器製造の製造方法であって、
前記無機透明基板の前記接着面を、中心線平均粗さRaが2nm以下になるようにそれぞれ研磨した後、各前記無機透明基板の前記接着面の一部領域をそれぞれ加工して溝を形成し、
前記無機透明基板の前記接触面をそれぞれ親水化処理した後、前記接触面に水をそれぞれ接触させ、
前記無機透明基板の前記接触面同士をそれぞれ接触させた状態で、各前記無機透明基板を所定の接着温度に加熱して前記第一、第二の無機透明基板を互いに貼付する反応器製造方法。
【請求項2】
各前記無機透明基板はガラスから成り、前記加熱温度は500℃以上1000℃以下の温度である請求項1記載の反応器製造方法。
【請求項3】
前記流路の内部は、前記小型反応器の外部に開放された状態で前記加熱温度に加熱される請求項2記載の反応器製造方法。
【請求項4】
前記親水化処理は、各前記接触面を過酸化水素水とアンモニアを含む親水化処理液にそれぞれ接触させる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の反応器製造方法。
【請求項5】
前記親水化処理後、前記接触面に接触させた水は、各前記無機透明基板を回転させた遠心力で除去する請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の反応器製造方法。
【請求項6】
接着面をそれぞれ有する複数の無機透明基板が、前記接着面同士を密着して貼り合わされ、内部の流体の流路が形成された小型反応器の製造方法であって、
前記無機透明基板の前記接着面をそれぞれ研磨した後、各前記無機透明基板の前記接着面の一部の領域をそれぞれ加工して溝を形成し、
前記無機透明基板の前記接着面同士をそれぞれ接着させ、前記流路を前記小型反応器の外部に開放した状態で、各前記無機透明基板を所定の接着温度に加熱して前記第一、第二の無機透明基板を互いに接合する小型反応器製造方法。
【請求項7】
複数の無機透明基板が積層されてなる小型反応器であって、
第一の無機透明基板の表面および隣接する第二の無機透明基板の表面に形成され、第一および第二の無機透明基板同士が接合されるための接着面と、
第一の無機透明基板の表面に形成された溝と、隣接する第二の無機透明基板の表面と、複数の無機透明基板のいずれにも貫通的に形成された貫通孔とで構成された流路を備え、
第一の無機透明基板と第二の無機透明基板とは、上記接着面同士が密着された後は、化学的に結合して一体化してなる小型反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−557(P2011−557A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147078(P2009−147078)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】