説明

局間キャリア周波数同期方法および無線局

【課題】衛星から受信した信号を用いて無線局間でキャリア周波数の同期の確立が可能な局間キャリア周波数同期方法を得ること。
【解決手段】無線局2が、信号を受信可能な衛星である可視衛星の情報を無線局1に送信し、無線局1が、受信した可視衛星の情報に基づいて、当該可視衛星の中から自局が信号を受信可能な衛星を1つ選択し、選択した衛星の情報を無線局2へ送信し、無線局2が、無線局1から受信した衛星の情報に基づいて、当該衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立し、無線局1が、選択した衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線局間でキャリア周波数の同期を確立する局間キャリア周波数同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速無線通信では、伝送速度の向上に伴い、無線局に大きな送信電力が要求される。しかしながら、無線局の送信電力には限界がある。そのため、その解決策としてコヒーレント送信に期待が寄せられている。コヒーレント送信では、複数の無線局が、同じキャリア位相で受信されるように位相調整して同じ信号を送信する。その結果、複数の無線局からの信号が位相レベルで強めあい、受信側において高い電力で受信できる。このような技術が下記非特許文献1において開示されている。
【0003】
コヒーレント送信を実現するためには、複数の無線局が一定のキャリア位相関係を維持することが重要となる。しかしながら、無線局が備える発振器ごとに個別のキャリア周波数と位相雑音を持つため、複数の無線局で異なる位相回転が生じると、各無線局は互いのキャリア位相関係を維持することができない。そこで、キャリア位相関係を維持する方法として、従来から、有線専用網を通して同じキャリアを利用する方法が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献1では、コヒーレント送信を行うために、衛星を利用して複数の基地局間でキャリア周波数同期を確立する技術が開示されている。たとえば、GPSなどの周回衛星を利用して、4つ以上のGPS衛星が広角度で見える場合には、衛星の動きを長時間観測することにより、高精度な時刻およびキャリア周波数を獲得することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】P. Larsson and R. Hu, “Large−scale cooperative relaying network with optimal coherent combining under aggregate relay power constraints,” Proc. of FTC, 2003.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/146494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術において、衛星を利用して複数の基地局間でキャリア周波数同期を確立する場合、建物等の影響により可視衛星の数が十分でない場所や屋内無線局などでは、高精度な時刻およびキャリア周波数を獲得できない、という問題があった。
【0008】
また、GPSなどの周回衛星では、その移動に伴いドップラー周波数の影響を受ける。そのため、複数の無線局がそれぞれ異なる1つのGPS衛星からの信号の受信周波数にロックすると、局間キャリア周波数の差が大きくなる、という問題があった。
【0009】
また、複数の無線局が同じGPS衛星に対して周波数同期を行った場合は、局間が近い距離にある場合にはほぼ同じドップラー周波数の影響を受けるため同じキャリア周波数を維持できるが、局間距離が大きくなると受信位置に応じてドップラー周波数が異なる。そのため、受信するキャリア周波数に差が生じる、という問題があった。
【0010】
また、従来の衛星による局間キャリア周波数同期はいかなる衛星に対しても適用可能であるが、衛星には、周回衛星、静止衛星などさまざまな種類がある。その中で、良好な同期精度が得られやすい衛星の種類に関しては明示されていない、という問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、衛星から受信した信号を用いて無線局間でキャリア周波数の同期を確立可能な局間キャリア周波数同期方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、無線局間でキャリア周波数の同期を確立する場合の局間キャリア周波数同期方法であって、第1の無線局が、信号を受信可能な衛星である可視衛星の情報を第2の無線局に送信する可視衛星送信ステップと、前記第2の無線局が、受信した可視衛星の情報に基づいて、当該可視衛星の中から自局が信号を受信可能な衛星を1つ選択し、選択した衛星の情報を前記第1の無線局へ送信する可視衛星応答ステップと、前記第1の無線局が、前記第2の無線局から受信した衛星の情報に基づいて、当該衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立する第1の同期確立ステップと、前記第2の無線局が、選択した衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立する第2の同期確立ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衛星から受信した信号を用いて無線局間でキャリア周波数の同期を確立できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、無線局の構成例を示す図である。
【図2】図2は、無線局と衛星の配置および制御構成を示す図である。
【図3】図3は、無線局と衛星の配置および制御構成を示す図である。
【図4】図4は、衛星からの信号を無線局で受信する際の経路を示す図である。
【図5】図5は、無線局間距離dと局間周波数差Δfの関係を示す図である。
【図6】図6は、無線局の構成例を示す図である。
【図7】図7は、局間キャリア位相差の時間変化を示す図である。
【図8】図8は、局間キャリア位相差の時間変化を示す図である。
【図9】図9は、無線局と衛星の配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる局間キャリア周波数同期方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
実施の形態1.
本実施の形態では、1つの衛星からの信号のみを用いて局間のキャリア周波数同期を確立する場合について説明する。なお、衛星には、周回衛星(例えば、GPS衛星)、静止衛星などさまざまなタイプの衛星があるが、いかなる衛星に対しても適用可能である。
【0017】
図1は、本実施の形態の無線局の構成例を示す図である。無線局1、2は無線通信システムを構成し、また、衛星からの信号を受信することができる。無線局1は、制御部11を備える。制御部11は、無線局2との間で衛星に関する情報を送受信し、また、衛星から受信した信号を用いてキャリア周波数の同期を確立する。無線局2は、制御部21を備える。制御部21は、無線局1との間で衛星に関する情報を送受信し、また、衛星から受信した信号を用いてキャリア周波数の同期を確立する。
【0018】
図2は、無線局と衛星の配置および制御構成を示す図である。一例として、衛星として周回衛星を使用する場合について説明する。周回衛星からの信号には、衛星の移動に応じて異なるドップラー周波数が含まれ、周回衛星からの信号のドップラー周波数は、1kHz以上になることも多い。そのため、複数の無線局がそれぞれ異なる周回衛星からの信号の周波数に追従すると、局間のキャリア周波数の差が大きくなる。
【0019】
そこで、本実施の形態では、以下の方法に基づいて、局間のキャリア周波数の同期を確立する。まず、無線局2の制御部21は、特定の無線局1(ここでは、マスタ無線局とする)に可視衛星の識別番号を通知する(図2の(1)に相当)。可視衛星とは、自局で信号を受信することが可能な衛星である。つぎに、無線局1の制御部11は、無線局2から取得した可視衛星の識別番号の情報を参照し、共通に見える衛星の中から追従すべき衛星を1つ選択し、選択した衛星の識別番号を無線局2に通知する(図2の(2)に相当)。このとき、無線局1の制御部11では、選択した衛星から受信した信号のキャリア周波数に追従し、同期を確立する。無線局2の制御部21は、通知された識別番号の衛星から受信した信号のキャリア周波数に追従し、同期を確立する(図2の(3)に相当)。
【0020】
このように、無線局1、2が、それぞれ同一の衛星から受信した信号を用いて同期を確立することにより、無線局1、2の間でも、キャリア周波数の同期を確立することができる。
【0021】
以上説明したように、本実施の形態では、無線局1、2間で、可視衛星の情報に基づいて1つの衛星を選択し、選択した同じ衛星から受信した信号を用いて同期を確立することとした。これにより、無線局1、2が、同じ信号を用いて同期を確立することから、局間でのキャリア周波数の同期を確立が可能となる。
【0022】
なお、無線局1が追従すべき衛星を決定する方法はいかなる方法であっても構わない。例えば、高い仰角にある衛星を選定する方法が考えられる。衛星の仰角は衛星から送信される軌道情報を用いて知ることができる。
【0023】
実施の形態2.
本実施の形態では、1つの衛星を用いて局間のキャリア周波数同期を確立し、さらに、衛星から受信した信号のキャリア周波数を無線通信システムで使用するキャリア周波数に変換する。実施の形態1と異なる部分について説明する。なお、衛星には、周回衛星、静止衛星などさまざまなタイプの衛星があるが、いかなる衛星に対しても適用可能である。
【0024】
一般的に、衛星のキャリア周波数と無線通信システムで使用するキャリア周波数は異なるが、各無線局は、衛星から受信した信号のキャリア周波数(以下、受信キャリア周波数とする)をある値で逓倍することにより、無線通信システムのキャリア周波数として用いることができる。しかしながら、周回衛星からの信号のキャリア周波数に含まれるドップラー周波数は時間的に変化するため、無線局で受信されるキャリア周波数は時間的に変化する。そのため、無線局間では、逓倍数を時間的に適応的に制御し、同じ逓倍数を利用するメカニズムが必要となる。以下、逓倍数を時間的に適応的に制御し、利用する方法について説明する。なお、逓倍数を適応的に制御する時間単位としては1秒、1分、10分、1時間などさまざまな単位があり、そのいかなる値であっても構わないが、無線局間で可視衛星の情報を通知する時間間隔よりも短い時間単位とする。
【0025】
図3は、無線局と衛星の配置および制御構成を示す図である。なお、各無線局の構成は図1と同様とする。まず、無線局2の制御部21は、特定の無線局1に可視衛星の識別番号を通知する(図3の(1)に相当)。つぎに、無線局1の制御部11は、無線局2から取得した可視衛星の識別番号の情報を参照し、共通に見える衛星の中から追従すべき衛星を1つ選択し、選択した衛星の識別番号を無線局2に通知する(図3の(2)に相当)。このとき、無線局1の制御部11では、選択した衛星から受信した信号のキャリア周波数に追従し、同期を確立する。また、無線局1の制御部11は、無線通信システムに適した逓倍数を適応的に決定し、逓倍数の情報を無線局2に通知する(図3の(3)に相当)。このとき、無線局1の制御部11では、決定した逓倍数を用いて、受信キャリア周波数を、無線通信システムに使用するキャリア周波数に変換する。
【0026】
無線局2の制御部21は、通知された識別番号の衛星から受信した信号のキャリア周波数に追従し、同期を確立する(図3の(4)に相当)。また、無線局2の制御部21は、通知された逓倍数の情報を用いて、受信キャリア周波数を、無線通信システムに使用するキャリア周波数に変換する(図3の(5)に相当)。
【0027】
このように、無線局1、2が、それぞれ同一の衛星から受信した信号を用いて同期を確立することにより、無線局1、2の間でも、キャリア周波数の同期を確立することができる。また、無線局1、2は、逓倍数の情報を用いて、無線通信システムで使用するキャリア周波数を得ることができる。
【0028】
具体的に、無線局1の制御部11は、受信キャリア周波数と無線通信システムで使用するキャリア周波数との比較により適切な逓倍数を決定することができる。例えば、無線局1の制御部11は、無線通信システムでの利用の基準とする局所発振器の周波数を有しており、逓倍した後の受信キャリア周波数が無線局1の有する局所発振器の周波数と近くなるように逓倍数を決定する。また、無線局1から無線局2に逓倍数の情報を通知することにより、無線局1、2の間で適応的に変更される逓倍数の情報を共有することができる。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態では、さらに、受信キャリア周波数と無線通信システムで使用するキャリア周波数とを比較して逓倍数の情報を決定し、無線局1、2において、受信キャリア周波数を逓倍し、無線通信システムで使用するキャリア周波数に変換することとした。これにより、無線局1、2は、局間でのキャリア周波数の同期を確立しつつ、無線通信システムで使用するキャリア周波数を維持することができる。
【0030】
実施の形態3.
本実施の形態では、1つの衛星を用いて局間のキャリア周波数同期を確立し、さらに、獲得したキャリア周波数を用いて局間で双方向チャネル測定を行い、局間キャリア周波数同期精度を向上させる。実施の形態1、2と異なる部分について説明する。なお、衛星には、周回衛星(例えば、GPS衛星)、静止衛星などさまざまなタイプの衛星があるが、いかなる衛星に対しても適用可能である。
【0031】
無線局間の距離が小さい場合には、単一衛星からの信号を複数の無線局が受信することによって、各局はほぼ同じキャリア周波数を維持できる。しかし、無線局間の距離が大きくなるにつれ、地球の自転と衛星の周回の影響によって、各無線局において受信キャリア周波数にわずかな違いが発生する。この現象について説明する。図4は、衛星からの信号を無線局1、2で受信する際の経路を示す図である。ここで、無線局間距離をd(m)、衛星の仰角をθ(rad)、無線通信システムの波長をλ(m)とする。また、衛星から無線局1、無線局2、および無線局1、2の中間地点までの距離をそれぞれ、L1、L2、L0とする。なお、L1、L2、L0≫dとする。このとき、衛星からの信号の無線局1、2間での伝搬経路差は次式で表すことができる。
【0032】
【数1】

【0033】
よって、各無線局が衛星からの信号に同期した場合の局間キャリア周波数差Δfは次式で与えられる。
【0034】
【数2】

【0035】
なお、Δfはキャリア周波数に対する周波数差を、λは信号の波長を表す。ここで、周回衛星(一例として、GPS衛星)の周回速度を約3.87km/s、地球の最大自転速度を0.46km/s(赤道上)、GPS衛星の軌道半径を26562km、地球の半径を6378km、λ=0.2m(周波数1.5GHz)とすると、次式の関係が成り立つ。
【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

【0038】
図5は、無線局間距離dと局間周波数差Δfの関係を示す図である。式4をグラフ化したものであり、無線局間距離dにおける局間周波数差Δfの上限を示す。無線局間距離が3〜5kmでは、3〜5Hz程度の局間キャリア周波数差が発生しうる。
【0039】
そこで、本実施の形態では、さらに高精度な局間キャリア周波数を実現する方法について説明する。ここでは、獲得したキャリア周波数(衛星を用いて同期を確立させたキャリア周波数)を用いて、無線局間で相互にパイロット信号を送信し、双方向のチャネル測定を行う。複数回の双方向チャネル測定値を用いて一方の無線局が他方の無線局と同じキャリア周波数を持つようキャリア周波数およびキャリア位相を逐次更新することにより、高精度で局間キャリア周波数の同期を確立することができる。
【0040】
図6は、双方向でチャネル測定を行う無線局1aおよび無線局2aの構成例を示す図である。無線局1aは、制御部11の機能に加えてチャネル測定の制御が可能な制御部11aと、衛星および無線局2aから信号を受信する受信部12と、キャリア周波数およびキャリア位相に基づいてキャリア信号を発振する発振器13と、既知信号をキャリア信号でアップコンバートした信号を送信する送信部14と、を備える。無線局2aは、制御部21の機能に加えてチャネル測定の制御が可能な制御部21aと、衛星および無線局1aから信号を受信する受信部22と、キャリア周波数およびキャリア位相に基づいてキャリア信号を発振する発振器23と、既知信号をキャリア信号でアップコンバートした信号を送信する送信部24と、を備える。
【0041】
つづいて、双方向チャネル測定値に基づいて、一方の無線局(ここでは無線局1aとする)がキャリア周波数およびキャリア位相を逐次更新する動作について説明する。無線局1a、2aがそれぞれの発振器13、23でキャリア信号exp(jΦ1(t))、exp(jΦ2(t))を持つとすると、無線局2aのキャリア位相Φ2(t)は、次式で表すことができる。
【0042】
【数5】

【0043】
ここで、f2、φ2、およびω2(t)は、それぞれキャリア周波数、初期位相、無線局2aの位相雑音を表す。
【0044】
無線局1aの制御部11aでは、t=t0、t1、t2、…において無線局2aのキャリア位相と一定の位相差を保つようキャリア位相の調整を行う。このとき、キャリア位相Φ1(t)は次式で表すことができる。
【0045】
【数6】

【0046】
ここで、f1(n)とφ1(n)は、それぞれt=tn-1+δにおいて更新された無線局1aのキャリア周波数と初期位相、ω1(n)(t)は無線局1aにおけるtn-1+δ≦t≦tnでの位相雑音成分、δ(≪1)は微小時間パラメータを表す。
【0047】
時刻t=tnにおいて、無線局1aの送信部14が、既知信号s(p)をキャリア信号exp(jΦ1(t))でアップコンバートして送信し、無線局2aの受信部22が信号を受信し、キャリア信号exp(jΦ2(t))でダウンコンバートしたのち制御部21aで相関検出する。このとき、その伝搬路推定値a12(n)は次式で与えられる。
【0048】
【数7】

【0049】
ここで、g12(t)は、時刻tにおける経路12の実伝搬路利得、Dは経路12での伝搬遅延、T1は無線局1aの送信回路におけるアナログ利得、R2は無線局2aの受信回路におけるアナログ利得を表す。
【0050】
つぎに、時刻tn+δにおいて、無線局2aの送信部24が、既知信号d(p)(|d(p)|=1)をキャリアexp(jΦ2(t))でアップコンバートして送信し、無線局1aの受信部22が信号を受信し、キャリア信号exp(jΦ1(t))でダウンコンバートしたのち制御部11aで相関検出する。このとき、その伝搬路推定値a21(n)は次式で与えられる。
【0051】
【数8】

【0052】
ここで、g21(t)は時刻tにおける経路21の実伝搬路利得、T2は無線局2aの送信回路におけるアナログ利得、R1は無線局1aの受信回路におけるアナログ利得を表す。経路21は経路12と同じ伝搬遅延Dを持つ。
【0053】
電波伝搬理論によれば、実伝搬路では可逆性が成り立ちg21(t)=g12(t)となる。この関係は、アンテナのカップリングや種々の反射のある無線通信環境で成り立つ。十分小さい時間δ≪1を想定すると、
【0054】
【数9】

【0055】
【数10】

【0056】
【数11】

【0057】
となる。また、双方向チャネル測定値の比r(n)≡(α21(n)/α12(n))に関して次式が成り立つ。
【0058】
【数12】

【0059】
さらに、異なる時刻tn、tmにおけるr(n)、r(m)の比は次式で与えられる。
【0060】
【数13】

【0061】
この関係から(r(n)/r(m))を用いて局間キャリア位相差の時間変化を観測することができる。すなわち、ある時刻tnにおいて双方向のチャネル測定を行いその測定値比r(n)を算出し、別の時刻tmにおいて双方向のチャネル測定を行いその測定値比r(n)を算出すると、異なる2つの時刻における局間キャリア位相差の時間変化を観測できる。これにより、無線局1aの制御部11aが、その時間変化分の位相を補正することによって時間に応じた局間位相変化を補正することができる。この際、各無線局では同じ衛星の信号を受信するため、無線局間のキャリア周波数差は既に小さくなっている。従って、長い時間間隔での位相補正により、局間の位相関係を維持できる。
【0062】
図7は、無線局1aにおいてキャリア周波数f1(n)および初期位相φ1(n)を周期的な時刻ごとに補正した際の局間キャリア位相差の時間変化(Φ2(tn)−Φ1(tn))−(Φ2(t0)−Φ1(t0))を示す図である。本図において、時刻t1、t2、…では、それぞれ時刻t0、t1、…での局間位相差を維持するように無線局1aの制御部11aがキャリア周波数および初期位相を補正している。無線局1aの制御部11aは、前の時刻における局間位相差の変動を観測することにより、次の時刻では局間キャリア位相差が小さくなるようにキャリア周波数を更新することができる。その結果、図7に示すように周期的な時間でキャリア周波数および初期位相を補正することにより、局間位相差の変動を徐々に小さくすることができる。
【0063】
図8は、無線局1aにおいてキャリア周波数f1(n)および初期位相φ1(n)を周期的でない時刻ごとに補正した際の局間キャリア位相差の時間変化(Φ2(tn)−Φ1(tn))−(Φ2(t0)−Φ1(t0))を示す図である。本図において、無線局1aの制御部11aは、前の時刻における局間位相差の変動を観測することにより、次の時刻では局間キャリア位相差が小さくなるようにキャリア周波数を更新することができる。その結果、一定時間あたりでの局間位相差の変動を徐々に小さくすることができる。このように、図8では、時間間隔を徐々に広げながら双方向チャネル測定を行い、無線局1aの制御部11aがキャリア周波数および初期位相の補正を行うことで、さらに高精度な局間キャリア周波数同期を確立することもできる。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態では、さらに、無線局1a、2a間で双方向チャネル測定を併用することとした。これにより、衛星から受信した信号のみを用いて同期を確立した場合と比較して、高精度な局間キャリア周波数同期を確立することもできる。
【0065】
また、無線局1a、2a間で双方向チャネル測定のみで局間キャリア周波数同期を確立する場合と比較すると、キャリア周波数は位相雑音の影響を受けないため、双方向チャネル測定の回数を低減することができる。なお、実施の形態1、2のいずれにおいても適用可能である。
【0066】
実施の形態4.
本実施の形態では、静止衛星からの信号を用いることにより、局間でのキャリア周波数の同期の確立を高精度に行う。
【0067】
実施の形態1〜3では、具体例として周回衛星を用いる場合について説明したが、周回衛星は地球に対して相対速度を持つためドップラー周波数が発生する点が課題であった。そこで、本実施の形態では、地球に対する相対速度がない点に着目して、静止衛星を用いることによりドップラー周波数の影響を受けることなく無線局間でキャリア周波数の同期を確立する方法について説明する。
【0068】
図9は、無線局と衛星の配置を示す図である。静止衛星は地球に対して常に同じ位置にあるため、衛星の移動に伴うドップラー周波数が発生しない。従って、無線局1、2はそれぞれ特定の静止衛星から送信される信号の受信キャリア周波数にあわせることにより、ドップラー周波数の影響を受けることなく局間のキャリア周波数を合わせることができる。衛星にはさまざまな種類があるが、その中でも静止衛星を利用することにより局間キャリア周波数同期では簡易かつ高精度な局間同期が可能となる。
【0069】
静止衛星を用いることにより得られるこの効果は従来文献では開示されておらず、本発明によってはじめて得られる効果である。すなわち、さまざまな衛星の中でも静止衛星を用いることによって、高精度に局間キャリア周波数の同期を確立できることを示すものである。
【0070】
なお、衛星の移動に伴うドップラー周波数は発生しないが、衛星から地球に向かう経路(電離層など)の変化により、低速な位相変動が発生する可能性がある。この位相変動は十分低速であり、局間キャリア周波数を高精度で合わせることができる。
【0071】
具体的に、無線局1、2の間で局間キャリア周波数の同期を確立する動作については、実施の形態1〜3と同様にすることができる。
【0072】
例えば、実施の形態1の方法を用いることにより、2つの無線局が使用する静止衛星を相互に認識することができる。すなわち、静止衛星の識別番号を相手局に通知することにより、同じ静止衛星に対して同期を確立することができる。このように、無線局1、2間では追従する静止衛星の識別番号を共有して、同じ静止衛星に追従することにより、複数の静止衛星がそれぞれ異なるキャリア周波数を持つ場合でも高精度な局間キャリア周波数の同期の確立が可能となる。
【0073】
また、実施の形態2の方法を用いて、同じ逓倍数で周波数変換を行うことにより、局間でのキャリア周波数の同期を確立しつつ、無線通信システムで使用するキャリア周波数に変換することができる。
【0074】
また、実施の形態3の方法を用いて、衛星を用いてキャリア周波数を獲得した後に、局間で双方向チャネル測定を行ってキャリア周波数同期を行うことにより、電離層などで生じる位相変動の影響も除去することができ、さらに高精度な局間キャリア周波数の同期を確立することができる。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態では、キャリア周波数の同期の確立に使用する衛星として静止衛星を用いることとした。これにより、周回衛星と比較して、高精度に局間キャリア周波数の同期を確立することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明にかかる局間キャリア周波数同期方法は、他の無線局とキャリア周波数の同期を確立する無線局に有用であり、特に、複数の無線局間でキャリア周波数の同期を確立する場合に適している。
【符号の説明】
【0077】
1、1a 無線局
2、2a 無線局
11、11a 制御部
12 受信部
13 発振器
14 送信部
21、21a 制御部
22 受信部
23 発振器
24 送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線局間でキャリア周波数の同期を確立する場合の局間キャリア周波数同期方法であって、
第1の無線局が、信号を受信可能な衛星である可視衛星の情報を第2の無線局に送信する可視衛星送信ステップと、
前記第2の無線局が、受信した可視衛星の情報に基づいて、当該可視衛星の中から自局が信号を受信可能な衛星を1つ選択し、選択した衛星の情報を前記第1の無線局へ送信する可視衛星応答ステップと、
前記第1の無線局が、前記第2の無線局から受信した衛星の情報に基づいて、当該衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立する第1の同期確立ステップと、
前記第2の無線局が、選択した衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立する第2の同期確立ステップと、
を含むことを特徴とする局間キャリア周波数同期方法。
【請求項2】
さらに、
前記第2の無線局が、前記第1の無線局との間で使用するキャリア周波数と衛星から受信した信号のキャリア周波数とを比較して、その比較結果を当該第1の無線局に送信する比較ステップと、
前記第1の無線局が、前記比較結果を用いて、衛星から受信した信号のキャリア周波数を前記第2の無線局との間で使用するキャリア周波数に変換する第1の周波数変換ステップと、
前記第2の無線局が、前記比較結果を用いて、衛星から受信した信号のキャリア周波数を前記第1の無線局との間で使用するキャリア周波数に変換する第2の周波数変換ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の局間キャリア周波数同期方法。
【請求項3】
さらに、
前記第1の無線局が、所定の時間周期で、前記第2の無線局との間でチャネル測定を行い、チャネル測定の結果を前記第2の無線局へ通知する第1のチャネル測定ステップと、
前記第2の無線局が、前記所定の時間周期で、前記第1の無線局のチャネル測定時刻の所定の誤差範囲内の時刻において、前記第1の無線局との間でチャネル測定を行う第2のチャネル測定ステップと、
前記第1および第2のチャネル測定ステップにおけるチャネル測定の結果に基づいて、前記第2の無線局が、前記所定の時間周期で、前記第1の無線局のキャリア周波数に合わせるように自局のキャリア周波数を変更するキャリア周波数変更ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の局間キャリア周波数同期方法。
【請求項4】
前記所定の時間周期を等間隔とする、
ことを特徴とする請求項3に記載の局間キャリア周波数同期方法。
【請求項5】
前記所定の時間周期を異なる間隔とする、
ことを特徴とする請求項3に記載の局間キャリア周波数同期方法。
【請求項6】
前記衛星を周回衛星とする、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の局間キャリア周波数同期方法。
【請求項7】
前記衛星を静止衛星とする、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の局間キャリア周波数同期方法。
【請求項8】
他の無線局との間でキャリア周波数の同期を確立する制御手段、
を備え、
前記制御手段は、
マスタ無線局として動作していない場合に、信号を受信可能な衛星である可視衛星の情報をマスタ無線局に送信し、また、当該マスタ無線局において所定の処理で選択された衛星の情報を受信し、当該衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立し、
一方、マスタ無線局として動作している場合に、他の無線局から可視衛星の情報を受信し、前記所定の処理として当該可視衛星の中から自局が信号を受信可能な衛星を1つ選択し、選択した衛星の情報を前記他の無線局へ送信し、また、選択した衛星から受信した信号のキャリア周波数と同期を確立する、
ことを特徴とする無線局。
【請求項9】
前記制御手段は、
マスタ無線局として動作している場合に、他の無線局との間で使用するキャリア周波数と衛星から受信した信号のキャリア周波数とを比較して、その比較結果を他の無線局へ送信し、また、当該比較結果を用いて衛星から受信した信号のキャリア周波数を他の無線局との間で使用するキャリア周波数に変換し、
一方、マスタ無線局として動作していない場合に、マスタ無線局から受信した前記比較結果を用いて、衛星から受信した信号のキャリア周波数をマスタ無線局との間で使用するキャリア周波数に変換する、
ことを特徴とする請求項8に記載の無線局。
【請求項10】
前記制御手段は、
マスタ無線局として動作していない場合に、所定の時間周期で、マスタ無線局との間でチャネル測定を行い、チャネル測定の結果を前記マスタ無線局へ通知し、
一方、マスタ無線局として動作している場合に、前記所定の時間周期で、他の無線局のチャネル測定時刻の所定の誤差範囲内の時刻において、前記他の無線局との間でチャネル測定を行い、また、自局および前記他の無線局のチャネル測定の結果に基づいて、前記所定の時間周期で、前記他の無線局のキャリア周波数に合わせるように自局のキャリア周波数を変更する、
ことを特徴とする請求項8または9に記載の無線局。
【請求項11】
前記所定の時間周期を等間隔とする、
ことを特徴とする請求項10に記載の無線局。
【請求項12】
前記所定の時間周期を異なる間隔とする、
ことを特徴とする請求項10に記載の無線局。
【請求項13】
前記衛星を周回衛星とする、
ことを特徴とする請求項8〜12のいずれか1つに記載の無線局。
【請求項14】
前記衛星を静止衛星とする、
ことを特徴とする請求項8〜12のいずれか1つに記載の無線局。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−103600(P2011−103600A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258333(P2009−258333)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】