説明

工場排水処理の管理方法

【課題】処理水に残留する溶存有機物やCODの発生源となる工場排水を推定でき、また、COD濃度に関する情報が判明し、安定した工場排水処理が可能な工場排水処理の管理方法を提供する。
【解決手段】各工場で排水処理後に集約した個別排水処理の集約処理水、又は、各工場排水を集約して排水処理した集中排水処理水の蛍光スペクトルを、所定の波長間において励起波長を変更しながら連続的に測定し、前記処理水の蛍光スペクトル強度のピーク位置の励起波長を求めると共に、当該励起波長における蛍光波長を求め、且つ、事前に、前記各工場排水、又は、当該排水を排水処理後の処理水毎に、蛍光スペクトル強度のピーク位置の励起波長と蛍光波長を求めてデータベース化し、前記集約処理水、又は、前記集中排水処理水の励起波長および蛍光波長と、前記データベースとの照合により、処理水に残留する溶存有機物の原因となっている排水源の工場を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場から発生する排水を排水処理した後の処理水をモニタリングし、排水規制対象の溶存有機物又はCODの原因となっている排水を発生している工場を推定する工場排水処理の管理方法に関する。また、特に、前記処理水に含まれる溶存有機物起因のCOD濃度を推定する工場排水処理の管理方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
工場から発生する排水中の有機物は多種多様であるが、排水基準においては、排水中の有機物を海域に放流する場合、さまざまな指標で規制されている。
【0003】
有機物の代表的規制指標としてCOD(化学的酸素要求量)がある。CODは有機物が海域において、酸素と反応し、海水中の溶存酸素が消費され、海域での酸素欠乏状態を招くことを阻止するために設定された指標である。CODの他に、個別の有機物の規制指標としては、ノルマルヘキサン抽出物質含有量(鉱油類)、ノルマルヘキサン抽出物質含有量(動植物油脂類)が規定されている。このほか、フェノール類含有量が規定されている(表1参照)。
【0004】
フェノールは、COD の原因となる物質であり、CODとして検出されるばかりでなく、個別の有害物質としても規制されている。
【0005】
CODは、排水処理管理の上での最も基本的な指標として、最も重要視されており、「濃度レベルの管理」ばかりでなく、「総量レベル」でも規制されている。CODの濃度規制値は、表1に示すように一般的な国の濃度基準は許容限度160mg/L(日間平均120mg/L)であるが、実際には、各地域で地方自治体の上乗せ基準が適用されており、5〜20mg/Lレベルで規制されていることが多い。
【0006】
【表1】

【0007】
このような工場排水に含まれる有機物を除去する排水処理の方法としては、生物処理(生物学的酸化)、薬品を用いた化学酸化処理、沈殿処理、凝集沈殿処理、浮上分離処理、ろ過処理などがある。
【0008】
原理は、溶存有機物を生物学的、または、化学的に炭酸ガスまで酸化するか、または、有機物起因のSS(浮遊物質)成分を固液分離するかである。いずれの方法によるかは、工場排水の有機物の特性によって決定される。
【0009】
例えば、工場排水に含まれる溶存有機物がフェノールが中心の場合、活性汚泥による生物処理装置によって処理されていることが多い。製鐵所のコークス工場から発生する安水活性汚泥処理装置がその好例である。
【0010】
また、工場排水に含まれる溶存有機物が油分の場合は、凝集沈殿処理装置や浮上分離装置で油分を除去する場合が多い。生物分解が可能な油分の場合には、生物処理(活性汚泥処理装置)が油分処理に適用される場合もある。
【0011】
これらの排水処理場から排出される処理水は、河川や海域に放流されるため、各種のモニタリング装置によって、CODや有機物質濃度が排水規制以下に管理されていることが多い。
【0012】
例えば、COD測定装置としては、表2のような監視装置が広く排水処理の現場で使用されている(非特許文献1、p270〜p281)フェノール類含有量もCODと相関があるため、表2のようなCOD監視装置によって、管理されることが多い。
【0013】
しかし、これらの既存の管理装置は、以下のような課題を有している。
【0014】
まず、COD自動計(化学発光法)は、連続測定が不可能であり、薬品によるランニングコストも高い課題がある。TOC(有機炭素)計は連続測定が可能であるものの、高価であり、また、CODとの相関や維持管理上の課題がある。塩分濃度の高い排水などの場合は、TOC計の寿命が極端に短くなる。UV(紫外吸光度)計は安価であり、連続測定が可能である。しかし、CODとの相関や高精度な管理が要求される場合に課題がある。
【0015】
さらに、いずれの方法もCODの総量が求まるだけであり、処理水の水質測定結果から、排水源の推定につながる情報を何ら得られない。
【0016】
【表2】

【0017】
また、排水源の推定のためには、処理水中に残存する有機物の種類や濃度を推定できれば良いと考えられる。そのための手法として、GC−MS(ガスクロマト質量分析法)やLC−MS法(液体クロマト質量分析法)方法が考えられるが、操作も熟練を必要としており、排水処理の現場で容易に適用できるものではない。共存成分の存在により、同定が困難な場合も多い。さらに、排水処理の現場モニタリング装置として、無人化で連続的に使用できるものでもない。
【0018】
現場で広く用いられている表1のCOD監視装置やGC−MS法、LC−MS法に対して、排水中の溶存有機物の種類の推定につながる情報を得られる新たな手法として、蛍光強度測定法を用いた新たな事例が報告されている。例えば、特許文献1には、少なくとも2種類の特定の紫外線励起波長を用い、この特定励起波長での蛍光強度を測定し、河川水や湖沼水のBOD(生物学的酸素供給量)や洗剤起因のLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸濃度)を測定する方法が記載されている。
【0019】
しかし、河川水や湖沼水のBODの原因物質は、下水由来、生物由来、土壌由来など多種多様であり、多種混合の有機物を含むため、BODと蛍光強度を関連づけることは極めて難しいと思われる。例えば、河川水や湖沼水にしばしば含まれるフミン酸やフルボ酸にしても、単一の化合物として特定されているものではない。したがって、2種類の紫外線波長を用い、ある特定波長の蛍光強度を測定したとしても、この結果のみから、BODの原因となる有機物の種類を推定する事は極めて難しいと思われる。
【0020】
また、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸濃度)を特定するにしても、2種類の紫外線波長を用いたある特定励起波長の2種類の蛍光強度の測定結果を用いると規定されているが、2種類の紫外線波長をどのように決定するのかが必ずしも明確ではなく、更に、単一物質でも、蛍光スペクトル強度のピーク値がどの波長域に存在しているのか、ピーク位置が単一なのか複数存在しているのかなどは本情報から得られない。LAS化合物といっても、直鎖の炭素数がかなり異なるものが数多くあり、その区別ができるのか明確ではない。
【0021】
したがって、特許文献1の方法によっても、溶存有機物の種類や濃度を推定することは困難であると考えられるため、処理水に残存する溶存有機物の排水源を特定することは、難しいと思われる。
【0022】
【特許文献1】特開2003−75348号公報
【非特許文献1】水質汚濁防止機器、産業調査会、1995、p270−p281
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
処理水に残存する溶存有機物の排水源を特定する方法としては、処理水中に残存する有機物の種類や濃度を推定できる手法である、GC−MS(ガスクロマト質量分析法)やLC−MS法(液体クロマト質量分析法)方法が考えられるが、測定に手間や時間がかかり、排水処理の現場で容易に適用できるものではない。
【0024】
また、有機物の代表的規制指標としてCOD(化学的酸素要求量)があるが、上述したように現在までに排水処理の現場で広く用いられているCOD測定方法では、排水のCODの原因となる有機物の種類の推定は極めて困難である。すなわち、排水に含まれる有機物のどの成分が、処理水のCODとして残存しているのかは全く不明である。したがって、例えば、処理水の特定の有機物濃度やCOD濃度がCOD規制値を超過した場合、発生源である工場の特定や排水処理設備の運転方法最適化に関するCOD濃度に関する情報が既存の方法では全く得られない。
【0025】
そこで、本発明は、このような問題を解決して、処理水に残留する溶存有機物やCODの発生源となる工場排水を推定することができ、また、更にはCOD濃度に関する情報が判明し、従来法よりも安定した工場排水処理が可能な、工場排水処理の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、蛍光スペクトル解析に着目し、励起波長を変更しながら、溶存有機物が含有される処理水や試験水を測定したところ、溶存有機物の種類毎に、蛍光スペクトル強度のピーク位置が異なり、当該ピーク位置における励起波長と蛍光波長の値により、規制の対象となる溶存有機物やCODの発生源となる工場排水を迅速に特定できることを見出した。
【0027】
更に、複数の溶存有機物が1つの排水や処理水に存在していても、それぞれの溶存有機物のピーク位置における励起波長と蛍光波長は単独で存在しているときと変わらず、それぞれの溶存有機物毎に蛍光スペクトル強度のピーク位置が異なることを見出した(ピーク位置における励起波長と蛍光波長が近い有機物もあるが、全く同じではない)。
【0028】
そして、排水又はその処理水に存在する溶存有機物そのものが何かを特定できなくても、各工場の排水やその処理水毎に、蛍光スペクトルの検出パターン(単数又は複数のピーク位置における励起波長と蛍光波長のパターン)を見ることで、どの工場の排水又はその処理水であるかを推定できることを見出して、本発明を為すに至った。
【0029】
更にまた、処理水のピーク位置における励起波長と蛍光波長での排水源の工場の推定に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度も用いることで処理水に残留しているCOD濃度が推定できることを見出して、更に本発明を為すに至った。すなわち、上記蛍光強度は、溶存有機物の濃度と線形の相関があり、溶存有機物の濃度とCOD濃度はほぼ比例することから、上記蛍光強度は、COD濃度とも線形の相関があることを見出したことによるものである。
【0030】
すなわち、本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(9)である。
(1)複数の工場から発生し、且つ溶存有機物を含有する排水を排水処理する際の工場排水処理の管理方法であって、各工場で排水処理した後で集約した個別排水処理の集約処理水、又は、各工場の排水を集約して排水処理した集中排水処理水の蛍光スペクトルを、所定の波長間において励起波長を変更しながら連続的又は断続的に測定し、前記処理水の蛍光スペクトル強度のピーク位置となる励起波長を求めると共に、当該励起波長における蛍光波長を求め、且つ、事前に、前記各工場から発生する排水毎に、又は、当該排水を排水処理した後の処理水毎に、蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長および蛍光波長を求めてデータベース化し、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水の、前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長と、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水に残留する溶存有機物の原因となっている排水源の工場を推定することを特徴とする工場排水処理の管理方法。
(2)前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水のピーク位置における励起波長および蛍光波長に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度を更に求め、且つ、前記事前のデータベース化においても、前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度を更に求めておくと共に、当該蛍光強度とCOD濃度の相関関係式または検量線を事前に作成してデータベース化し、前記個別排水処理の処理水、又は、前記集中排水処理水の前記ピーク位置における励起波長、蛍光波長、及び蛍光強度と、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水に含まれる溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場と、COD濃度の少なくともいずれか一方を推定することを特徴とする(1)に記載の工場排水処理の管理方法。
(3)前記推定した溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場およびCOD濃度のデータを、前記個別排水処理または前記集中排水処理のプロセスへフィードバックして、前記個別排水処理または前記集中排水処理の処理条件を変更することを特徴とする(2)に記載の工場排水処理の管理方法。
(4)前記推定した溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場およびCOD濃度のデータから、前記CODの原因となっている排水源の工場排水の前記集中排水処理のプロセスへの受け入れ可否を決定することを特徴とする(2)又は(3)に記載の工場排水処理の管理方法。
(5)前記排水処理が、沈殿処理、凝集沈殿処理、浮上分離処理、薬品酸化処理、活性汚泥処理、ろか処理のいずれか1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の工場排水処理の管理方法。
(6)前記排水に含まれる溶存有機物がフェノール、フェノールスルホン酸、圧延油の少なくともいずれかであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の工場排水処理の管理方法。
(7)前記蛍光スペクトルを測定する際に、pHを6以上8以下に調整して、測定することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の工場排水処理の管理方法。
(8)前記COD濃度として、無機物起因および/または浮遊物起因のCOD濃度を除くことを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の工場排水処理の管理方法。
(9)前記工場から発生する排水が、製鉄プロセスの工場から発生する排水であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の工場排水処理の管理方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、複数の工場から発生し、且つ溶存有機物を含有する排水を、各工場で排水処理した後で集約した処理水、又は、各工場の排水を集約して排水処理した処理水に残留している溶存有機物やCODの原因となる、排水源の工場の迅速な推定が可能となる。すなわち、複数の工場排水の中でどの排水によって、処理水の溶存有機物やCODが上昇しているのかを迅速に推定できる。
【0032】
また、この推定結果を基に、上昇の原因となっている排水源の工場の排水処理の程度を調整したり、排出を止めたりすることで、排水処理工程を適正化することができる。
【0033】
更にまた、COD濃度も推定でき、この結果、処理水のCODが規制値を超過した場合、または超過しそうになった場合に、発生源の工場排水の排水処理設備の運転方法最適化を有効に図ることができ、従来法よりも工場排水のCOD管理が各段に容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0035】
本発明は、複数の工場から発生し、且つ溶存有機物を含有する排水を排水処理する際の工場排水処理の管理方法であって、各工場で排水処理した後で集約した個別排水処理の集約処理水、又は、各工場の排水を集約して排水処理した集中排水処理水の蛍光スペクトルを、所定の波長間において励起波長を変更しながら連続的又は断続的に測定し、前記処理水の蛍光スペクトル強度のピーク位置となる励起波長を求めると共に、当該励起波長(蛍光スペクトル強度のピーク位置となる励起波長)における蛍光波長を求め、且つ、事前に、前記各工場から発生する排水毎に、又は、当該排水を排水処理した後の処理水毎に、蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長および蛍光波長を求めてデータベース化し、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水の、前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長と、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水に残留する溶存有機物の原因となっている排水源の工場を推定することを特徴とする工場排水処理の管理方法である。
【0036】
また、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水のピーク位置における励起波長および蛍光波長に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度を更に求め、且つ、前記事前のデータベース化においても、前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度を更に求めておくと共に、当該蛍光強度とCOD濃度の相関関係式または検量線を事前に作成してデータベース化し、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水の前記ピーク位置における励起波長、蛍光波長、及び蛍光強度と、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水に含まれる溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場、COD濃度の少なくともいずれかを推定することを特徴とする工場排水処理の管理方法である。
【0037】
また、前記推定した溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場およびCOD濃度のデータを、前記個別排水処理のプロセスへフィードバックして、前記個別排水処理の運転条件を変更する、あるいは、前記推定した溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場およびCOD濃度のデータから、前記CODの原因となっている排水源の工場排水の前記集中排水処理のプロセスへの受け入れ可否を決定するCODの発生原因となっている排水を発生している工場を推定し、同工場排水の前記排水処理プロセスへの受け入れ可否を決定することを特徴とする工場排水処理の管理方法である。
【0038】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明に用いる蛍光スペクトルの測定原理を説明する。
【0039】
蛍光スペクトル測定装置の原理図を図1に示す。キセノンランプ1を光源として発生した光2(以下、励起光)はビームスプリッタ3によりモニタ側検知器4と測定の対象となる排水または処理水が入った試料セル5に分かれる。モニタ側検知器4へ入った励起光2は、比測光として用いられる。一方、排水または処理水が入った試料セル5に、ある励起波長の励起光2が照射されると、排水または処理水に含まれる有機物に対応した蛍光6が発生し、それを光電子倍増管7で検知し、蛍光強度(測光値)を読み取る。この場合、排水または処理水中に複数のCODの原因となる有機物が混在し、同じ励起波長で蛍光を発するとしても、蛍光波長が異なっていれば、蛍光波長を選択することにより、複数のCODの原因となる有機物を分離して測定することが可能となる(蛍光スペクトル測定)。
【0040】
励起光2の波長は200nmから800nmまで連続的に変更できる。蛍光を発生する波長も200nmから800nmまで連続的に測定できる。
【0041】
なお、励起波長および蛍光波長を200nm〜800nmとしたのは一例であり、対象とする溶存有機物の推定されるピーク波長に合せて、適宜範囲変更又は必要に応じて機器変更して対応すれば良い。但し、蛍光波長200nm〜800nmの領域を変更させれば、殆どの溶存有機物において蛍光スペクトル強度のピークは存在すると考えられることから、通常は、この波長域で変更して測定すれば十分である。
【0042】
一般に、製鉄所などでは所内複数の工場を有しており、それぞれの工場から排水が生じている。このような工場排水を海域に放流する場合、排水規制のCOD値を遵守する必要がある。工場排水は、各工場別に排水処理施設を有し、COD処理を行う場合(個別排水処理)もあるが、各工場の排水をそのまま集約して、あるいは、各工場で簡易処理をした後の排水を集約してCODなどの排水処理を行う場合が多い(集中排水処理、コスト的に有利)。後者の集中排水処理の場合、受け入れた工場排水のCOD濃度が想定以上の場合、集中排水処理水のCODが規制値を超える場合が生じるが、排水源の特定が極めて困難となる。現在、広く使用されている表1のCODモニタリング装置で、この発生源を特定することはできない。
【0043】
そこで、本発明では、まず、事前に、前記各工場から発生する排水毎に、又は、当該排水を排水処理した後の処理水毎に、蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長および蛍光波長を求めてデータベース化する。続いて、前記各工場で個別排水処理した後で集約した個別排水処理の集約処理水、又は、各工場の排水を集約して排水処理した集中排水処理水の前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長を測定し、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記、集中排水処理水に残留する溶存有機物の原因となっている排水源の工場を推定する。
【0044】
また、事前のデータベース化において、前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度を更に求めておくと共に、当該蛍光強度とCOD濃度の相関関係式または検量線を事前に作成してデータベース化し、前記個別排水処理の処理水、又は、前記集中排水処理水の前記ピーク位置における励起波長、蛍光波長、及び蛍光強度と、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水に含まれる溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場、COD濃度の少なくともいずれか一方を推定する。
【0045】
このように蛍光スペクトル測定法を工場排水処理のCOD管理方法として用いることができるが、当該蛍光強度とCOD濃度の相関関係式または検量線を事前に作成してデータベース化しておくことが重要である。CODとしては、硫酸酸性下での過マンガン酸カリウム法が排水規制値のCOD測定方法であるので、この方法で測定したCOD値と蛍光強度の相関関係式または検量線をとることとなる。
【0046】
蛍光スペクトルの分析は、排水または処理水試料中の固形分(SS:Suspended Solids)の影響が考えられるため、SSとして10mg/Lを超過する場合はろ過を行うことが望ましい。1μmの径のろ紙でろ過後、ろ液を試料セル5に2mL程度移し、励起光を照射し、表示された測光値を記録する。操作手順は、非常に簡易であり、試料セルをセットしてから分析結果が出るまで数分しかかからない。
【0047】
さらに、蛍光スペクトルの強度は、蛍光性分子の周囲の性質(溶液のpH、共存塩、SS濃度など)により影響を受ける可能性がある。特に、工場から発生する排水はpHが大幅に変動する場合などが想定される。一般的には、pHによる蛍光強度への影響を除去するため、pHが排水基準に適合することを考慮し、測定時に、稀塩酸や稀硫酸を用いて排水や処理水のpHを6以上8以下に調整するが望ましい。図13にCOD源となるフェノールスルホン酸を含有する実際の工場排水のpHを変動させ、蛍光スペクトル強度の変化を測定した事例を示す。このようにpHが8を超えると蛍光強度は極端に低下してしまう。このような場合、pHによる蛍光強度への影響を除去するため、事前に排水や処理水のpHを稀塩酸や稀硫酸を用いて8以下に調整して、蛍光スペクトルを測定することが望ましいと考えられる。このpH範囲であればほとんど蛍光スペクトルの強度変化は無視でき、しかも排水基準を遵守できる。
【0048】
従来のCOD計測法やGC−MS、LC−MS法と比較すると、蛍光スペクトル測定の利点をまとめると以下の通りである。
【0049】
まず、蛍光分析法は、前述したように、特定の励起光波長と特定の蛍光波長の蛍光強度の関係から、複数の有機物を選択的に短時間で検出することができる。すなわち、CODの原因となる有機物によって、蛍光強度のピーク位置(励起光波長と蛍光強度波長の組み合わせ位置)が異なるため、複数の工場排水の中からCODの原因となる工場排水を迅速に推定できる。
【0050】
また、排水・処理水の前処理は不要、もしくはろ過やpH調整といった簡易な前処理だけで分析可能である。薬品添加や加熱などの操作は必要ない。蛍光スペクトル測定そのものも数分で完了するため、極めて短時間で、現場での連続分析が容易に行える。
【0051】
さらに、蛍光光度法では蛍光の発生量を測定するため、CODの原因となる有機物濃度が低い試料に対しても高感度で測定できる。例えば、既存の紫外吸光度法によって感度が小さく、CODとの相関を得られない場合にも、測定感度が良好なことから適用できる。
なお、蛍光スペクトル測定法は、有機物濃度が高いと誤差が大きくなるため、各工場排水のCOD濃度を測定し、高濃度の場合、純水などで希釈し、COD濃度が100mg/L以下として蛍光スペクトルを測定することが望ましい。
【0052】
また、pH以外に排水や処理水の蛍光強度に影響を与える塩類の存在やその濃度が明らかな場合には、排水や処理水中の本塩類の存在や濃度を把握しておき、有機物の蛍光強度に与える影響を補正したデータベースを作成しておくことも望ましい。
【0053】
蛍光スペクトル測定法を工場排水処理の管理に用いる方法について、製鉄所排水を例にして、以下により具体的に説明する。
【0054】
まず、製鐵所内の複数の工場から発生する排水に対して、それぞれの工場排水毎に、蛍光スペクトルを励起波長が200 nmから800nmまで連続的、又は、断続的に変更して測定し、各工場排水の蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長および蛍光波長および蛍光強度をデータベース化する。蛍光強度は、高濃度で不正確となり、また、pHの影響を受けやすい。したがって、各工場排水のCOD濃度を測定し、各工場排水のCOD濃度が高い場合は、希釈操作によってCOD濃度を100mg/L以下とすることが望ましい。CODとしては、硫酸酸性下での過マンガン酸カリウム法が排水規制値のCOD測定方法であるので、この方法でCOD値を測定しておく。また、各工場排水のpHを測定しておくことが望ましい。pHが6未満、または、8超の場合は、前述したように、pHを6以上8以下に調整し、pHが一定値の場合のデータベース化を行うことが望ましい。
【0055】
続いて、各工場で排水処理した後で集約した個別排水処理の集約処理水、又は、各工場の排水を集約して排水処理した集中排水処理水の蛍光スペクトルを測定し、上記処理水の蛍光スペクトルのピーク位置(励起波長と蛍光波長の組み合わせ)とピーク位置における蛍光スペクトル強度を得る。この際も、処理水のpHを測定しておくことが望ましい。処理水のpHが6未満、または、8超の場合は、排水と同様、pHを6以上8以下に調整し、pHが一定値の場合のデータを採取することが望ましい。個別排水処理の集約処理水、又は、集中排水処理水の蛍光スペクトルの結果と前記データベースの各工場排水の蛍光スペクトル結果を照合することにより、処理水中に残留する溶存有機物の原因となっている排水源の工場を推定できる。
【0056】
次に、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水の蛍光スペクトルを測定し、蛍光スペクトルのピーク位置における蛍光強度を求め、蛍光強度とCOD濃度の相関関係あるいは検量線を事前に作成してデータベース化し、処理水のCOD濃度を推定する方法について説明する。
【0057】
まず、処理水の採取日時などを変更し、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水を複数採取する。処理水のCOD濃度と蛍光スペクトルを測定した後、処理水における蛍光スペクトルのピーク位置の蛍光強度とCOD濃度の相関関係を作成する。CODとしては、硫酸酸性下での過マンガン酸カリウム法が排水規制値のCOD測定方法であるので、この方法でCOD値を測定する。また、前述したように、処理水のpHが6未満、または、8超の場合は、排水と同様、pHを6以上8以下に調整しておく。その後は、この蛍光スペクトルから得られたCODと蛍光強度の相関関係式または検量線のデータベースと、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水処理水の蛍光強度のデータからCOD濃度を推定するのである。CODの原因となっている排水源の工場も推定できる。
【0058】
処理水の蛍光スペクトルから推定したCOD濃度のデータを、前記個別排水処理プロセスまたは集中排水処理プロセスへフィードバックして、前記排水処理の運転条件を変更することが可能となる。
【0059】
例えば、集中排水処理水に残存しているCOD濃度が排水規制値を上回っている場合には、集中排水処理プロセスの運転方法の変更や当該有機物を排出する工場排水の受け入れ可否が決定できる。例えば、集中排水処理水のCOD排水規制値が10mg/Lの場合、本蛍光スペクトル法によって、COD排水源が確認され、しかも、その排水源でのCOD濃度が所定の値以上(例えば、10mg/L以上)検出された場合、集中排水処理プロセスの運転方法の変更あるいは当該CODを排出する工場排水の個別排水処理プロセスの変更、さらには当該CODを排出する工場排水の受け入れを一時とりやめることなどを決定できる。
【0060】
排水処理プロセスは、沈殿処理、凝集沈殿処理、浮上分離処理、薬品酸化処理、活性汚泥処理、ろ過処理のいずれか、またはこれらの処理を組み合わせたプロセスである。例えば、蛍光スペクトル測定結果に基づき、排水処理プロセスが凝集沈殿装置であれば凝集剤の添加量を、排水処理プロセスが薬品酸化装置であれば過酸化水素などの酸化剤の反応槽への添加量を、排水処理プロセスが活性汚泥処理装置などの生物処理装置であれば反応槽への空気の吹き込み量を制御する方法などが想定される。
【0061】
排水または処理水の蛍光スペクトルのピーク値とCODとの相関関係式または検量線から、排水または処理水のCOD濃度を推定する時、排水または処理水の浮遊物(SS)濃度が大きく変動する場合には、CODとして溶存有機物起因のCOD(以下、D−CODと表示)との相関を得ることが望ましい。浮遊物(SS)起因のCOD濃度を除いたD−COD濃度を求める際には、粒径1μmのろ紙でろ過した排水あるいは処理水のCODを測定すればよい。
【0062】
さらに、排水または処理水の蛍光スペクトルのピーク値とCODとの相関関係式または検量線から、排水または処理水のCOD濃度を推定する時、無機物起因のCOD濃度が大きく変動する場合には、CODとして無機物起因のCODを除いたCODとの相関を得ることが望ましい。製鉄所の場合、無機物起因のCOD成分としては、例えば、2価鉄(Fe2+)、亜硫酸(SO)などがある。無機物起因のCODを除いたCODを求めるためには、2価鉄(Fe2+)濃度、亜硫酸(SO)濃度を測定し、これらを酸化するための酸素量(=COD)を計算で求め、無機物起因のCODを総COD濃度から減ずればよい。例えば、Fe2+は、以下の式からFe2+の0.14倍(質量として)がCOD濃度となる。
2Fe2++ 1/2O+2H 2Fe3++ H
【0063】
Fe2+は、pHを6以上8.5以下に調整しておけば、Fe3+に空気酸化しやすく、直ちに、水酸化第二鉄の浮遊物(SS)となるので、無機物起因のCODを除去しやすい利点もある。
【0064】
あわせて、浮遊物(SS)起因のCOD濃度を除く際には、粒径1μmのろ紙でろ過した処理水のCOD測定値から、無機物起因のCODを減じて測定すればよい。
【実施例】
【0065】
本発明の実施例について、以下に詳細に説明する。
【0066】
(実施例1) 集中排水処理水に残留するCODの排水源の工場の推定:各工場の排水を集約して排水処理した「集中排水処理水」への適用例
製鐵所で発生する工場排水は多種多様であり、CODの原因となる有機物も異なっている。例えば、鉄鋼製品の圧延時に用いられる圧延油やコークス製造時に発生する安水に含まれるフェノール、あるいは、メッキで用いられるフェノールスルホン酸(以下、PSAと表示)などは、いずれも異なる有機物であるが、すべてCOD成分である。
【0067】
製鐵所では、複数の工場排水を1箇所の集中排水処理場で集約して処理する場合が多々ある。集中排水処理場には、各工場排水が連続的に流入したり、あるいは、バッチ的に投入される。排水流入量が時間的に大きく変動する場合には、調整槽を設置し、この調整槽に一時的に流入させ、定量切り出しで排水処理プロセスに送られ処理される。変動が小さい場合には、直接、排水処理プロセスに送られる。このような集中排水処理の場合、想定以上のCODを含む排水が流入した場合など、COD処理状況が悪化する。しかし、現在広く行われているUVなどのCOD監視装置では、CODの原因となる排水源の工場を特定することは不可能である。
【0068】
そこで、複数の工場から発生する工場排水のCOD濃度を測定するとともに、排水の蛍光スペクトルを励起波長が200nmから800nmまで連続的に変更して測定(日立ハイテクノロジー製分光光度計、以下同様)し、各工場の排水のCOD濃度と蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長および蛍光波長および蛍光強度をデータベース化した(表3)。蛍光スペクトル測定時に、工場排水のpHはすべて8に調整した。また、1例として第5工場PSA排水の3次元励起・蛍光スペクトル図を図2に示す。第5工場PSA排水は、励起光波長が230nmに対して蛍光波長として300nm、および、励起光波長が270nmに対して蛍光波長として300nmの位置の2箇所に、それぞれ顕著なピークが生じていた(図2参照)。
【0069】
【表3】

【0070】
上記工場排水を受け入れる工場排水処理設備(集中排水処理設備)から排出される集中排水処理水について、蛍光スペクトル解析を実施した。集中排水処理水のpHは、排水と同様に8に調整した。この結果、集中排水処理水は、励起光波長が230nmに対して蛍光波長として300nm、および、励起光波長が270nmに対して蛍光波長として300nmの位置の2箇所に、それぞれ顕著なピークが生じていた(図3参照)。
【0071】
集中排水処理水のピーク蛍光強度の位置(励起光波長/蛍光波長)は、表3のデータベースの第5工場PSA廃液のピーク蛍光強度の位置とよく一致した。一方、他の工場排水の廃液とは一致しなかった。したがって、処理水に残留したCOD成分は、第5工場PSA廃液に起因していると推定することができた。
【0072】
(実施例2) 蛍光スペクトル測定による処理水COD濃度の推定と排水処理プロセス運転へのフィードバック:「個別排水処理の集約処理水」への適用例
製鐵所冷延工場の含油排水を対象とした、個別排水処理プロセスの運転管理に発明法の適用を検討した。含油排水処理プロセスは、鉄系凝集剤を排水に添加し、COD源となる油分を凝集沈殿によって除去する凝集沈殿プロセスである。排水は、COD濃度がT−CODとして23mg/L、D−CODとして16mg/L程度の排水である。含油排水(ろ過後)の蛍光スペクトルを複数測定した結果、230nmの励起光波長に対して340nmの蛍光波長の蛍光強度が、および、270〜280nmの励起光波長に対して、300〜340nmの蛍光波長の蛍光強度が比較的広い範囲で高いことが特徴的に認められた(図4参照)後者のピーク強度地点としては、最も強度が強い、270nmの励起光波長に対して340nmの蛍光波長を選択した。
【0073】
このような排水に対して、凝集沈殿を模擬した実験を実施し、排水処理プロセスの最適な凝集剤の添加量を検討した。
【0074】
実験方法を以下に示す。
1)排水1Lを6系列の1Lビーカーに投入(6系列)、水温測定。
2)鉄系凝集剤(塩化第二鉄水溶液、13.8%−Fe)10倍希釈液を所定量(0、0.2、0.4、0.6、0.8、1mM−Fe)となるようにをそれぞれ上記1Lビーカーに(0、0.3、0.6、0.9、1.2、1.5mL)添加。
3)以下の攪拌条件で上記1Lビーカーを攪拌。
急速攪拌 :120rpm*5分
緩速攪拌 :40rpm*10分
静置: 10分
4)10分静置後の上澄み液500mLを採取し、粒径1μmのろ紙でろ過したCOD(D−COD)および蛍光スペクトルを測定。pHを測定し、すべてのサンプルがpHが6以上8以下であることを確認。
【0075】
それぞれの処理水(ろ過後)の蛍光スペクトルを測定した。この結果、230nmの励起光波長に対して、340nmの蛍光波長の蛍光強度が、また、270nmの励起光波長に対して、300nm〜340nmの蛍光波長の蛍光強度が高いことが認められた。この1例を図5に示す。
【0076】
また、図6、図7に、励起光波長が270nm(図6)および230nm(図7)波長に対応する蛍光強度の変化例を示す。この結果から、排水への凝集剤の添加量の増大に伴い、これらの地点の蛍光強度が低下することが確認された。また、図8に示すように排水への凝集剤の添加量の増大に伴い、D−CODが低下することが確認された。
【0077】
さらに、図9に、処理水のD−CODと蛍光強度(励起/蛍光波長:230/340nmおよび270/300nm)の関係を示す。この結果から、排水中のD−COD濃度は、蛍光強度(励起/蛍光波長:230/340nmおよび270/300nm)とそれぞれ1次相関があることが認められた。
【0078】
これらの結果から、凝集沈殿プロセスにより処理された処理水のD−CODを10mg/L以下とする必要がある場合には、0.8mM−Fe以上の鉄系凝集剤(塩化第二鉄水溶液)を排水に添加すればよいことが明らかになった。
【0079】
このように処理水の蛍光スペクトル測定結果(蛍光強度位置:励起/蛍光波長230/340または270/300nm)から1次相関式を事前に作成し、蛍光スペクトルの連続測定から、排水処理場の処理水のD−COD濃度やD−CODの除去状況を測定できることから、本発明は個別排水処理プロセスの管理方法として有効であることが示唆された。
【0080】
(実施例3)蛍光スペクトル測定による、「集中排水処理水」のCOD監視適用例
D製鐵所は、複数の工場からなりたっているが、それぞれの工場排水は2種類の集中排水処理場に大別して分けられて処理されている。この2種類の集中排水処理場プロセス(以下、A系、B系と表示)から放流される集中排水処理水は、A系では紫外線吸光度(E260)を用いたCOD管理が有効であるが、B系では紫外線吸光度(E260)のCOD管理が困難であり、発明法の適用を検討した。
【0081】
B系の集中排水処理水を複数採取して1μmのろ紙でろ過後、D−CODおよび蛍光スペクトルを測定した。更にまた、既存のCOD測定装置との比較のために、D−TOCおよび紫外線吸光度(E260と表示)をあわせて測定した。特に、B系の集中処理水の結果を表4に示す。表4に示すように、B系の集中排水処理ラインから放流される処理水のD−CODは、1.5〜5.7mg/Lと良好であった。また、すべてのサンプルのpHは、7〜7.4程度であり、6以上8以下であることを確認した。また、B系処理水の蛍光スペクトル強度のピーク位置は、励起波長/蛍光波長=310nm/350nmの地点に生じた。
【0082】
図10に系列のD−CODとE260の関係を、図11にD−CODと蛍光強度の関係、図12に蛍光強度とD−TOCの関係を示す。この結果から以下のことが明らかになった。
【0083】
【表4】

【0084】
B系集中排水処理水のE260は、D−CODとの相関は全く見られなかった。D−TOCは、D−COD(1〜10mg/L)とある程度の相関が見られた。これらの結果から、B系集中排水処理水に残留しているCOD成分は、無機物起因ではなく、ベンゼン環を有しない(E260を示さない)直鎖系の有機物であることなどが推定される。
【0085】
一方、蛍光強度とD−CODは、強い相関関係が得られ、集中排水処理プロセスから発生する処理水のD−COD濃度と蛍光スペクトルを測定し、集中排水処理水の蛍光スペクトルのピーク位置における蛍光強度とD−COD濃度の図11に示すような1次相関関係式を作成できた。
【0086】
さらに、処理水の蛍光スペクトルを現場で連続測定し、上述した操作で得られた1次相関式を用いて、集中排水処理場の処理水のCOD濃度およびCOD処理状況をモニタリングすることができた。このように、本発明は、集中排水処理プロセスのCOD管理方法として極めて有効である。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】蛍光スペクトル測定の原理図である。
【図2】PSA排水の3次元励起・蛍光スペクトル図である。
【図3】処理水の3次元励起・蛍光スペクトル図である。
【図4】含油排水の3次元励起・蛍光スペクトル図である。
【図5】処理水の3次元励起・蛍光スペクトル図である。
【図6】含油排水および凝集沈殿処理水(ともにろ過後)の蛍光スペクトルの変化(励起光波長=270nm)を示す図である。
【図7】含油排水および凝集沈殿処理水(ともにろ過後)の蛍光スペクトルの変化(励起光波長=230nm)を示す図である。
【図8】凝集剤注入率と蛍光強度、溶解性COD(D−COD)の関係を示す図である。
【図9】蛍光強度と溶解性COD(D−COD)の関係を示す図である。
【図10】製鐵所B系集中排水処理水のD−CODと紫外吸光度(E260)の関係を示す図である。
【図11】製鐵所B系集中排水処理水のD−CODと蛍光強度の関係を示す図である。
【図12】製鐵所B系集中排水処理水の蛍光強度とD−TOCの関係を示す図である。
【図13】蛍光強度とpHの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 キセノンランプ
2 励起光
3 ビームスプリッタ
4 モニタ側検知器
5 試料セル
6 蛍光
7 光電子倍増管
8 プロセッサ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工場から発生し、且つ溶存有機物を含有する排水を排水処理する際の工場排水処理の管理方法であって、
各工場で排水処理した後で集約した個別排水処理の集約処理水、又は、各工場の排水を集約して排水処理した集中排水処理水の蛍光スペクトルを、所定の波長間において励起波長を変更しながら連続的又は断続的に測定し、前記処理水の蛍光スペクトル強度のピーク位置となる励起波長を求めると共に、当該励起波長における蛍光波長を求め、
且つ、事前に、前記各工場から発生する排水毎に、又は、当該排水を排水処理した後の処理水毎に、蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長および蛍光波長を求めてデータベース化し、
前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水の、前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長と、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水に残留する溶存有機物の原因となっている排水源の工場を推定することを特徴とする工場排水処理の管理方法。
【請求項2】
前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水のピーク位置における励起波長および蛍光波長に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度を更に求め、
且つ、前記事前のデータベース化においても、前記ピーク位置における励起波長および蛍光波長に加えて、当該蛍光波長における蛍光強度を更に求めておくと共に、当該蛍光強度とCOD濃度の相関関係式または検量線を事前に作成してデータベース化し、
前記個別排水処理の処理水、又は、前記集中排水処理水の前記ピーク位置における励起波長、蛍光波長、及び蛍光強度と、前記データベースとの照合により、前記個別排水処理の集約処理水、又は、前記集中排水処理水に含まれる溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場と、COD濃度の少なくともいずれか一方を推定することを特徴とする請求項1に記載の工場排水処理の管理方法。
【請求項3】
前記推定した溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場およびCOD濃度のデータを、前記個別排水処理または前記集中排水処理のプロセスへフィードバックして、前記個別排水処理または前記集中排水処理の処理条件を変更することを特徴とする請求項2に記載の工場排水処理の管理方法。
【請求項4】
前記推定した溶存有機物起因のCODの原因となっている排水源の工場およびCOD濃度のデータから、前記CODの原因となっている排水源の工場排水の前記集中排水処理のプロセスへの受け入れ可否を決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の工場排水処理の管理方法。
【請求項5】
前記排水処理が、沈殿処理、凝集沈殿処理、浮上分離処理、薬品酸化処理、活性汚泥処理、ろ過処理のいずれか1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の工場排水処理の管理方法。
【請求項6】
前記排水に含まれる溶存有機物がフェノール、フェノールスルホン酸、圧延油の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の工場排水処理の管理方法。
【請求項7】
前記蛍光スペクトルを測定する際に、pHを6以上8以下に調整して、測定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の工場排水処理の管理方法。
【請求項8】
前記COD濃度として、無機物起因および/または浮遊物起因のCOD濃度を除くことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の工場排水処理の管理方法。
【請求項9】
前記工場から発生する排水が、製鉄プロセスの工場から発生する排水であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の工場排水処理の管理方法。



【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−216524(P2009−216524A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60337(P2008−60337)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】