説明

差動増幅器

【課題】トランジスタの製造ばらつき等があっても、低電源電圧で動作し、広範囲の入力電圧に対してプッシュプル動作の出力電流が得られる差動増幅器を提供する。
【解決手段】差動増幅器1は、第1の導電型のトランジスタで構成され、入力信号を受けて第1の差動電流I11、I12を出力する第1の差動対10と、第1の差動電流I11、I12に基づき、第1の吐き出し側出力電流I18及び第1の吸い込み側出力電流I16をそれぞれ第1の出力端子OP及び第2の出力端子ONに対して出力する第1の電流増幅部11と、第2の導電型のトランジスタで構成され、入力信号を受けて第2の差動電流I1C、I1Dを出力する第2の差動対20と、第2の差動電流I1C、I1Dに基づき、第2の吐き出し側出力電流I1K及び第2の吸い込み側出力電流I1Iをそれぞれ第1の出力端子OP及び第2の出力端子ONに対して出力する第2の電流増幅部21と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は差動増幅器に関し、特に入力部に差動対を有する差動増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置では、LSI加工技術の進歩により、例えば回路構成要素として用いられるCMOSFET(Complementary Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の実現寸法がますます微細化されている。また、微細化に伴いMOSFETへ印加可能な電圧も低下している。一方、半導体装置が搭載される携帯可能な各種電子機器では、高性能化及び省電力化への要求が高まっている。
【0003】
このとき、省電力化に対応する一つの対策として、電源電圧を低く設定することが行われる。しかし、低電源電圧化が進むにつれて回路の動作や設計がより困難になっている。例えば、NchMOSFET、PchMOSFETのいずれにおいても、LSIにおいて多く用いられるエンハンスメント型と呼ばれる特性を持つFETは、有効な入力電圧範囲に限度がある。つまり、エンハンスメント型FETにおいては出力電流をオフ状態に保つ(これをノーマリーオフと呼ぶ。)ために有効な入力電圧として対応できない閾値電圧が存在し、NchMOSFETでは閾値電圧以上、PchMOSFETでは閾値電圧以下の入力電圧でなければ動作しない特性を有する。ところが、電源電圧が低下すると電源電圧範囲に対する素子としては非動作領域となる閾値電圧範囲の割合が増加する。即ち、有効な入力電圧範囲として利用できない電圧範囲の割合が増加することになる。若しくは、回路中の信号の電圧が閾値電圧以下となり、回路の一部が動作しない場合が発生することになる。
【0004】
こうした問題に対して、回路技術上の工夫により、電源電圧の低減化に対応する回路の実現方法が提案されている。例えば、MOSFETでは閾値電圧の存在を意識することなく、有効な入力電圧範囲を拡大する方法が提案されている。具体的には、NchMOSFETを入力部分とする差動増幅回路とPchMOSFETを入力部分とする差動増幅回路を組み合わせ、それぞれの出力信号を合成した上で最終的な出力信号を得る回路がある。このように極性の異なるトランジスタによって入力部の差動対を構成した差動増幅器の一例が特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の差動増幅器100の回路図を図3に示す。差動増幅器100は、バイポーラトランジスタを用いた増幅器である。差動増幅器100は、NPNトランジスタQ1、Q2で構成される第1の差動入力段と、PNPトランジスタQ3、Q4で構成される第2の差動入力段と、PNPトランジスタQC1及びNPNトランジスタQC5で構成される第1の出力段と、PNPトランジスタQC2及びNPNトランジスタQC6で構成される第2の出力段と、を有する。そして、差動増幅器100では、第1、第2の差動入力段に入力された信号を増幅して、第1、第2の出力段を介して出力する。
【0006】
ここで、差動増幅器100では、第1、第2の出力段を動作させるために電圧同相帰還回路を用いる。差動増幅器100の電圧同相帰還回路は、PNPトランジスタQC3、QC4、NPNトランジスタQC7、QC8、Q5〜Q6、定電流源ICMP、ICMN、により構成される。そして、電圧同相帰還回路では、出力電圧の同相電圧差を検出し、検出した同相電圧差に相当する同相電流を第1、第2の出力段に反映させる。
【0007】
つまり、差動増幅器100は、NPNトランジスタで構成される第1の差動入力段とPNPトランジスタで構成される第2の差動入力段とを組み合わせることで入力電圧範囲を拡大する。また、差動増幅器100は、電圧同相帰還回路による作用により出力電圧範囲を拡大する。
【特許文献1】特開平6−237128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、差動増幅器100において、電圧同相帰還回路を動作させるためには、定電流源ICMP、ICMNの接続ノード(図中のノードN1)に一定の電圧となる基準値を与えなければならない。これは、電圧同相帰還回路が、ノードN1の基準値と制御すべき出力を比較し、両者が意図した関係になる制御を行うためである。そのため、この基準値が不安定になると回路動作に不具合を生じる。基準値を一定に保つための条件は、トランジスタxに流れるコレクタ電流をIC(x)、定電流源ICMP、ICMNで生成される電流をICMP及びICMNとした場合、(1)式で表される。
ICMP+IC(QC3)+IC(QC4)
=ICMN+IC(QC7)+IC(QC8) ・・・ (1)
【0009】
ここで、電流ICMP及び電流ICMNは、バイアス電圧を与えられたトランジスタで生成することが一般的である。しかし、半導体装置に対して複数の素子のすべてに対して安定なバイアス電圧を与えることは困難である。また、トランジスタの製造時における特性のばらつきを避けることができない。このようなことから電流ICMP及び電流ICMNを安定的に生成することは非常に困難である。
【0010】
さらに、電流IC(QC3)、IC(QC4)、IC(QC7)、IC(QC8)の値は回路の動作状態に大きく依存する。例えば、差動増幅器100において、出力をプッシュプル動作させる場合、出力端子OUT2から吐き出し側出力電流を得て同時に出力端子OUT1から吸い込み側出力電流を得る。しかし、こうしたプシュプル動作において(1)式の関係を常に成立させることは非常に困難である。
【0011】
つまり、差動増幅器100において入力電圧範囲が広いRail to Rail入力に対してプッシュプル動作の出力電流を得る場合、回路を正常に動作させることが困難である問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる差動増幅器の一態様は、第1の導電型のトランジスタで構成され、入力信号を受けて第1の差動電流を出力する第1の差動対と、前記第1の差動電流に基づき、第1の吐き出し側出力電流及び第1の吸い込み側出力電流をそれぞれ第1の出力端子及び第2の出力端子に対して出力する第1の電流増幅部と、第2の導電型のトランジスタで構成され、前記入力信号を受けて第2の差動電流を出力する第2の差動対と、前記第2の差動電流に基づき、第2の吐き出し側出力電流及び第2の吸い込み側出力電流をそれぞれ前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子に対して出力する第2の電流増幅部と、を有する。
【0013】
また、本発明にかかる差動増幅器の別の態様は、第1の導電型のトランジスタで構成され、入力信号を受けて第1の差動電流を出力する第1の差動対と、第1の吐き出し側基準電流と第1の吸い込み側基準電流とを出力する第1の基準電流源と、前記第1の吐き出し側基準電流と前記第1の差動電流の一方の第1の差動電流との差分により生成される第1の吐き出し側出力電流を第1の出力端子に対して出力し、前記第1の吸い込み側基準電流と前記第1の差動電流の他方の第1の差動電流との差分により生成される第1の吸い込み側出力電流を第2の出力端子に対して出力する第1の電流増幅部と、第2の導電型のトランジスタで構成され、前記入力信号を受けて第2の差動電流を出力する第2の差動対と、第2の吐き出し側基準電流と第2の吸い込み側基準電流とを出力する第2の基準電流源と、前記第2の吐き出し側基準電流と前記第2の差動電流の一方の第2の差動電流との差分により生成される第2の吐き出し側出力電流を前記第1の出力端子に対して出力し、前記第2の吸い込み側基準電流と前記第2の差動電流の他方の第2の差動電流との差分により生成される第2の吸い込み側出力電流を前記第2の出力端子に対して出力する第2の電流増幅部と、を有する。
【0014】
本発明にかかる差動増幅器によれば、上側入力電圧範囲に対応した第1の差動対及び第1の電流増幅部と、下側入力電圧範囲に対応した第2の差動対及び第2の電流増幅部と、を有する。そして、第1の電流増幅部の出力と第2の電流出力部の出力を互いに接続して、2つの電流増幅部から出力される出力電流と合成して出力する。これにより、同相帰還回路を用いることなく広い入力電圧範囲と広い出力電圧範囲とを実現する。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる差動増幅器によれば、Rail to Rail入力に対応し、かつ、プッシュプル動作の出力電流を得ることが可能な増幅器を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1に実施の形態1にかかる差動増幅器1の回路図を示す。図1に示すように差動増幅器1は、第1の差動対10、第1の電流増幅部11、第1の基準電流源12、第2の差動対20、第2の電流増幅部21、第2の基準電流源22を有する。また、差動増幅器1は、トランジスタM10〜M18、M1A〜M1M、電圧源V11〜V16、第1の入力端子IP、第2の入力端子IM、第1の出力端子OP、第2の出力端子ONを有する。なお、本実施の形態では、MOSFETを用いて差動増幅器1を構成するが、バイポーラトランジスタを用いて回路を構成することも可能である。
【0017】
第1の差動対10は、第1の導電型のトランジスタで構成され、第1の入力端子IP及び第2の入力端子IMを介して入力される入力信号を受けて第1の差動電流(図中の電流I11、I12)を出力する。第2の差動対20は、第2の導電型のトランジスタで構成され、第1の入力端子IP及び第2の入力端子IMを介して入力される入力信号を受けて第2の差動電流(図中のI1C、I1D)を出力する。第1の電流増幅部11は、第1の差動電流I11、I12に基づき、第1の吐き出し側出力電流I18及び第1の吸い込み側出力電流I16をそれぞれ第1の出力端子OP及び第2の出力端子ONに対して出力する。第2の電流増幅部21は、第2の差動電流I1C、I1Dに基づき、第2の吐き出し側出力電流I1K及び第2の吸い込み側出力電流I1Iをそれぞれ第1の出力端子OP及び第2の出力端子ONに対して出力する。
【0018】
第1の基準電流源12は、第1の吐き出し側基準電流I1B及び第1の吸い込み側基準電流I1Aを出力する。そして、第1の吐き出し側基準電流I1B及び第1の吸い込み側基準電流I1Aは、それぞれ第1の電流増幅部11に供給される。第2の基準電流源22は、第2の吐き出し側基準電流I1F及び第2の吸い込み側基準電流I1Gを出力する。そして、第2の吐き出し側基準電流I1F及び第2の吸い込み側基準電流I1Gは、それぞれ第2の電流増幅部21に供給される。
【0019】
次に、差動増幅器1の回路について詳細に説明する。第1の差動対10は、第1の導電型(例えば、Nチャネル型)のトランジスタM11、M12を有する。トランジスタM11、M12は、差動対を構成する。トランジスタM11、M12は、ソースが共通接続され、共通接続点に、トランジスタM10のドレインが接続される。トランジスタM10は、ソースが接地端子GNDに接続され、ゲートに電圧源V11が接続される。そして、トランジスタM10は、電圧源V11の電圧値に応じた電流I10を生成し、電流I10を第1の差動対10に動作電流として供給する。トランジスタM11のゲートは、第1の入力端子IPに接続される。また、トランジスタM11は、第1の入力端子IPを介して入力される入力信号に応じて第1の差動電流の一方の差動電流I11を出力する。トランジスタM12のゲートは、第2の入力端子IMに接続される。また、トランジスタM12は、第2の入力端子IMを介して入力される入力信号に応じて第1の差動電流の他方の差動電流I12を出力する。
【0020】
第1の基準電流源12は、第2の導電型(例えば、Pチャネル型)のトランジスタM1A、M1Bを有する。トランジスタM1AのゲートとトランジスタM1Bのゲートは、共通接続される。そして、トランジスタM1AのゲートとトランジスタM1Bのゲートとには、電圧源V12の電圧が印加される。そして、トランジスタM1Aは、電圧源V12の電圧に応じて第1の吸い込み側基準電流I1Aを生成する。トランジスタM1Bは、電圧源V12の電圧に応じて第1の吐き出し側基準電流I1Bを生成する。なお、トランジスタM1Aのソースは電源端子VDDに接続され、ドレインはトランジスタM11のドレインとの接続点(例えば、ノードN12)に接続される。また、トランジスタM1Bのソースは電源端子VDDに接続され、ドレインはトランジスタM12のドレインとの接続点(例えば、ノードN13)に接続される。
【0021】
第1の電流増幅部11は、第2の導電型(例えば、Pチャネル型)のトランジスタM17、M18、Nチャネル型のトランジスタM13〜M16を有する。トランジスタM17、M18は、ゲートが共通に接続される。そして、トランジスタM17、M18のゲートには、電圧源V13の電圧が印加される。トランジスタM17のソースは、トランジスタM11のドレインとの接続点であるノードN12に接続される。トランジスタM18のソースは、トランジスタM12のドレインとの接続点であるノードN13に接続される。トランジスタM17、M18は、電圧源V13の電圧に応じた電圧をソース側に発生させる。電圧源V13は定電圧源であるため、トランジスタM17、M18のソース側電圧は、電圧源V13が生成する定電圧の値に応じて安定する。これにより、トランジスタM1A、M1Bのソースドレイン間の電圧が安定するため、第1の吸い込み側基準電流I1A及び第1の吐き出し側基準電流I1Bの値が安定する。
【0022】
トランジスタM15、M16は、ゲートが共通に接続される。そして、トランジスタM15、M17のゲートには、電圧源V14の電圧が印加される。トランジスタM15のソースは、トランジスタM13のドレインと接続される。トランジスタM16のソースは、トランジスタM14のドレインと接続される。トランジスタM15、M16は、電圧源V14の電圧に応じた電圧をソース側に発生させる。電圧源V14は定電圧源であるため、トランジスタM15、M16のソース側電圧は、電圧源V14が生成する定電圧の値に応じて安定する。これにより、トランジスタM13、M14のソースドレイン間の電圧が安定する。そして、トランジスタM13、M14により構成されるカレントミラー回路の電流ミラー比が安定する。トランジスタM13、M14は、ゲートが共通に接続され、この共通接続点はトランジスタM15のドレインに接続される。以下、この接続点をノードN11と称す。トランジスタM13のソースは、接地端子GNDに接続される。また、トランジスタM13のドレインは、トランジスタM15のソースと接続される。トランジスタM14のソースは、接地端子GNDに接続される。また、トランジスタM14のドレインは、トランジスタM16のソースと接続される。
【0023】
第1の電流増幅部11では、第1の吸い込み側基準電流I1Aと第1の差動電流の一方の差動電流I11との差分となる電流I17を生成する。そして、電流I17をトランジスタM13、M14により構成されるカレントミラー回路で折り返して第1の吸い込み側出力電流I16を生成する。また、第1の電流増幅部11では、第1の吐き出し側基準電流I1Bと第1の差動電流の他方の差動電流I12との差分に基づき第1の吐き出し側出力電流I18を生成する。
【0024】
第2の差動対20は、Pチャネル型のトランジスタM1C、M1Dを有する。トランジスタM1C、M1Dは、差動対を構成する。トランジスタM1C、M1Dは、ソースが共通接続され、共通接続点に、トランジスタM1Eのドレインが接続される。トランジスタM1Eは、ソースが電源端子VDDに接続され、ゲートに電圧源V15が接続される。そして、トランジスタM1Eは、電圧源V15の電圧値に応じた電流I1Eを生成し、電流I1Eを第2の差動対20に動作電流として供給する。トランジスタM1Cのゲートは、第1の入力端子IPに接続される。また、トランジスタM1Cは、第1の入力端子IPを介して入力される入力信号に応じて第2の差動電流の一方の差動電流I1Cを出力する。トランジスタM1Dのゲートは、第2の入力端子IMに接続される。また、トランジスタM1Dは、第2の入力端子IMを介して入力される入力信号に応じて第2の差動電流の他方の差動電流I1Dを出力する。
【0025】
第2の基準電流源22は、Nチャネル型のトランジスタM1F、M1Gを有する。トランジスタM1FのゲートとトランジスタM1Gのゲートは、共通接続される。そして、トランジスタM1FのゲートとトランジスタM1Gのゲートとには、電圧源V16の電圧が印加される。そして、トランジスタM1Fは、電圧源V16の電圧に応じて第2の吐き出し側基準電流I1Fを生成する。トランジスタM1Gは、電圧源V16の電圧に応じて第2の吸い込み側基準電流I1Gを生成する。なお、トランジスタM1Fのソースは接地端子GNDに接続され、ドレインはトランジスタM1Cのドレインとの接続点(例えば、ノードN14)に接続される。また、トランジスタM1Gのソースは接地端子GNDに接続され、ドレインはトランジスタM1Dのドレインとの接続点(例えば、ノードN15)に接続される。
【0026】
第2の電流増幅部21は、Nチャネル型のトランジスタM1H、M1I、Nチャネル型のトランジスタM1J〜M1Mを有する。トランジスタM1H、M1Iは、ゲートが共通に接続される。そして、トランジスタM1H、M1Iのゲートには、電圧源V14の電圧が印加される。トランジスタM1Hのソースは、トランジスタM1Cのドレインとの接続点であるノードN14に接続される。トランジスタM1Iのソースは、トランジスタM1Dのドレインとの接続点であるノードN15に接続される。トランジスタM1H、M1Iは、電圧源V14の電圧に応じた電圧をソース側に発生させる。電圧源V14は定電圧源であるため、トランジスタM1H、M1Iのソース側電圧は、電圧源V14が生成する定電圧の値に応じて安定する。これにより、トランジスタM1F、M1Gのソースドレイン間の電圧が安定するため、第2の吸い込み側基準電流I1G及び第2の吐き出し側基準電流I1Fの値が安定する。
【0027】
トランジスタM1J、M1Kは、ゲートが共通に接続される。そして、トランジスタM1J、M1Kのゲートには、電圧源V13の電圧が印加される。トランジスタM1Jのソースは、トランジスタM1Lのドレインと接続される。トランジスタM1Kのソースは、トランジスタM1Mのドレインと接続される。トランジスタM1J、M1Kは、電圧源V13の電圧に応じた電圧をソース側に発生させる。電圧源V13は定電圧源であるため、トランジスタM1J、M1Kのソース側電圧は、電圧源V13が生成する定電圧の値に応じて安定する。これにより、トランジスタM1L、M1Mのソースドレイン間の電圧が安定する。そして、トランジスタM1L、M1Mにより構成されるカレントミラー回路の電流ミラー比が安定する。トランジスタM1L、M1Mは、ゲートが共通に接続され、この共通接続点はトランジスタM1Jのドレインに接続される。以下、この接続点をノードN16と称す。トランジスタM1Lのソースは、接地端子GNDに接続される。また、トランジスタM1Lのドレインは、トランジスタM1Jのソースと接続される。トランジスタM1Mのソースは、接地端子GNDに接続される。また、トランジスタM1Mのドレインは、トランジスタM1Kのソースと接続される。
【0028】
第2の電流増幅部21では、第2の吐き出し側基準電流I1Fと第2の差動電流の一方の差動電流I1Cとの差分となる電流I1Hを生成する。そして、電流I1HをトランジスタM1L、M1Mにより構成されるカレントミラー回路で折り返して第2の吐き出し側出力電流I1Kを生成する。また、第2の電流増幅部21では、第2の吸い込み側基準電流I1Gと第2の差動電流の他方の差動電流I1Dとの差分に基づき第2の吸い込み側出力電流I1Iを生成する。
【0029】
差動増幅器1では、第1の電流増幅部11と第2の電流増幅部21の出力が、ともに出力端子に接続される。具体的には、第1の電流増幅部11において第1の吐き出し側出力電流I18を出力する第1の吐き出し出力端子と、第2の電流増幅部21において第2の吐き出し側出力電流I1Kを出力する第2の吐き出し出力端子と、が第1の出力端子OPに接続される。また、第1の電流増幅部11において第1の吸い込み側出力電流I16を出力する第1の吸い込み出力端子と、第2の電流増幅部21において第2の吸い込み側出力電流I1Iを出力する第2の吐き出し出力端子と、が第2の出力端子OPに接続される。このような構成に基づき差動増幅器1は、第1の吐き出し側出力電流I18と第2の吐き出し側出力電流I1Kとを合成した吐き出し側出力電流IOPを第1の出力端子OPから出力する。また、第2の吸い込み側出力電流I16と第2の吸い込み側出力電流I1Iとを合成した吸い込み側出力電流IOMを第2の出力端子ONから出力する。
【0030】
次に、本実施の形態にかかる差動増幅器1の動作について説明する。差動増幅器1では、入力信号の信号レベルにより動作が異なるため、入力信号の信号レベル毎にその動作を説明する。また、以下の説明では、入力端子IPを介して入力される信号の信号レベルをVIP、入力端子IMを介して入力される信号の信号レベルをVIM、Nチャネル型トランジスタの閾値電圧をVthn、Pチャネル型トランジスタの閾値電圧をVthpで示す。
【0031】
まず、VIP及びVIMが0V以上であって、Vthn以下である第1の動作条件(0≦VIP、VIM≦Vthn)の場合における動作について説明する。第1の動作条件では、第1の差動対10は、正常に動作しない。そのため、第1の差動電流I11、I12は無視できるほど小さくなる。一方、第2の差動対20は正常に動作する。
【0032】
この第1の動作条件では、差動入力電圧(VIP−VIM)が正(プラス)の方向へ拡大すると、トランジスタM1Cに流れる電流I1Cが小さくなる。これにより、電流I1Hが増加する。そして、この電流I1Hの増加に伴って、第2の吐き出し側出力電流I1Kが増加する。つまり、吐き出し側出力電流IOPが増加する。また、トランジスタM1Dに流れる電流I1Dが大きくなる。これにより、第2の吸い込み側電流I1Iが減少する。つまり、吸い込み側出力電流IOMが減少する。
【0033】
一方、第1の動作条件において、差動入力電圧(VIP−VIM)が負(マイナス)の方向へ拡大すると、トランジスタM1Cに流れる電流I1Cが大きくなる。これにより、電流I1Hが減少する。そして、この電流I1Hの減少に伴って、第2の吐き出し側出力電流I1Kが減少する。つまり、吐き出し側出力電流IOPが減少する。また、トランジスタM1Dに流れる電流I1Dが小さくなる。これにより、第2の吸い込み側電流I1Iが増加する。つまり、吸い込み側出力電流IOMが増加する。
【0034】
次に、VIP及びVIMがVDD(電源電圧)−Vthp以上であって、VDD以下である第2の動作条件((VDD−Vthp)≦VIP、VIM≦VDD)の場合における動作について説明する。第2の動作条件では、第1の差動対10は、正常に動作する。一方、第2の差動対20は正常に動作しない。そのため、第2の差動電流I1C、I1Dは無視できるほど小さくなる。
【0035】
この第2の動作条件では、差動入力電圧(VIP−VIM)が正(プラス)の方向へ拡大すると、トランジスタM12に流れる電流I12が小さくなる。これにより、第1の吐き出し側出力電流I18が増加する。つまり、吐き出し側出力電流IOPが増加する。また、トランジスタM11に流れる電流I11が大きくなる。これにより、電流I17が減少する。そして、この電流I17の減少に伴って、第1の吸い込み側出力電流I16が減少する。つまり、吸い込み側出力電流IOMが減少する。
【0036】
一方、第2の動作条件において、差動入力電圧(VIP−VIM)が負(マイナス)の方向へ拡大すると、トランジスタM12に流れる電流I12が大きくなる。これにより、第1の吐き出し側出力電流I18が減少する。つまり、吐き出し側出力電流IOPが減少する。また、トランジスタM11に流れる電流I11が小さくなる。これにより、電流I17が増加する。そして、この電流I17の増加に伴って、第1の吸い込み側出力電流I16が増加する。つまり、吸い込み側出力電流IOMが増加する。
【0037】
次に、VIP及びVIMがVthn以上であって、VDD−Vthp以下である第3の動作条件(Vthn≦VIP、VIM≦(VDD−Vthp))の場合における動作について説明する。第3の動作条件では、第1の差動対10及び第2の差動対20のいずれものが、正常に動作する。
【0038】
この第3の動作条件では、第1の動作条件における第2の差動対20に応じた動作と、第2の動作条件における第1の差動対10の動作に応じた動作と、を組み合わせた動作となる。つまり、差動入力電圧の変動に応じて、第1の吐き出し側出力電流I18及び第1の吸い込み側出力電流I16と、第2の吐き出し側出力電流I1K及び第2の吸い込み側出力電流I1Iとが出力される。そして、第1の出力端子OPにおいて、第1の吐き出し側出力電流I18と第2の吐き出し側出力電流I1Kとが合成され吐き出し側出力電流IOPが出力される。また、第2の出力端子ONにおいて、第1の吸い込み側出力電流I16と第2の吸い込み側出力電流I1Iとが合成され吸い込み側出力電流IOMが出力される。
【0039】
上記説明より、本実施の形態における差動増幅器1では、高電位側の同相入力電圧に対しては、第1の差動対10を主に動作させて出力電流IOP、IOMを生成し、低電位側の同相入力電圧に対しては、第2の差動対20を主に動作させて出力電流IOP、IOMを生成する。そして、第1の差動対10に対応した第1の電流増幅部11の出力と第2の差動対20に対応した第2の電流増幅部21の出力とを同じ出力端子に接続することで、2つの電流増幅部において生成された出力電流を合成する。
【0040】
これにより、本実施の形態にける差動増幅器1は、入力信号の信号レベルが接地電位から電源電位に至る広い範囲で変動する場合であっても、この入力信号の同相電圧にかかわらず入力信号を適切に扱うことが可能になる。また、差動増幅器1では、第1の電流増幅部11におけるトランジスタM13〜M16により第1の差動対10に対応した電流同相帰還回路を構成し、第2の電流増幅部21におけるトランジスタM1J〜M1Kにより第2の差動対に対応した電流同相帰還回路を構成する。電流同相帰還回路では、出力信号の同相電圧と所定の基準値とを比較することがないため、トランジスタの製造ばらつき等による回路の誤動作がない。
【0041】
実施の形態2
実施の形態2にかかる差動増幅器2の回路図を図2に示す。図2に示すように、差動増幅器2は、実施の形態1にかかる差動増幅器1に出力バッファ30を加えたものである。出力バッファ30は、定電流源31、32、出力トランジスタPD、NDを有する。定電流源31は、差動増幅器1において吸い込み側出力電流IOMが出力されるノード(以下ノードN18と称す)と電源端子VDDとの間に接続される。定電流源32は、差動増幅器1において吐き出し側出力電流IOPが出力されるノード(以下ノードN17と称す)と接地端子GNDとの間に接続される。出力トランジスタPDは、例えば、Pチャネル型トランジスタで構成される。出力トランジスタPDは、ソースが電源端子VDDに接続され、ゲートがノードN18に接続され、ドレインが第1の出力端子OP2に接続される。出力トランジスタNDは、例えば、Nチャネル型トランジスタで構成される。出力トランジスタNDは、ソースが接地端子GNDに接続され、ゲートがノードN17に接続され、ドレインが第2の出力端子ON2に接続される。
【0042】
そして、出力バッファ30では、ノードN18に定電流源31が出力する電流Is1と吸い込み側出力電流IOMとの差分に基づき第1の制御電圧が発生し、出力トランジスタPDが第1の制御電圧に基づき動作することで、吸い込み側出力電流IOMを増幅した吐き出し側出力電流を出力する。また、ノードN17に定電流源32が出力する電流Is2と吐き出し側出力電流IOPとの差分に基づき第2の制御電圧が発生し、出力トランジスタNDが第2の制御電圧に基づき動作することで、吐き出し側出力電流IOPを増幅した吸い込み側出力電流を出力する。
【0043】
差動増幅器2のように出力バッファ30を設けることで、後段回路の駆動に多くの電流が必要な場合に対応することができる。なお、実施の形態1、2のいずれにおいても、第1、第2の出力端子を互いに接続して一つの出力端子とすることが可能である。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本発明にかかる差動増幅器は、バイポーラトランジスタを用いても構成することが可能である。この場合、Nチャネル型トランジスタをNPNトランジスタで置き換え、Pチャネル型トランジスタをPNPトランジスタで置き換える。このとき、バイポーラトランジスタのエミッタはMOSFETのソースに相当し、バイポーラトランジスタのコレクタはMOSFETのドレインに相当し、バイポーラトランジスタのベースはMOSFETのベースに相当する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態1にかかる差動増幅器の回路図である。
【図2】実施の形態2にかかる差動増幅器の回路図である。
【図3】従来の差動増幅器の回路図である。
【符号の説明】
【0046】
1、2 差動増幅器
10、20 差動対
11、21 電流増幅部
12、22 基準電流源
30 出力バッファ
31、32 定電流源
ND、PD 出力トランジスタ
I10〜I12、I16〜I18 電流
I1C〜I1E、I1H、I1I、I1K 電流
I1A、I1B、I1F、I1G 基準電流
IOM、IOP 出力電流
Is1、Is2 電流
IM、IP 入力端子
ON、OP、ON2、OP2 出力端子
M10〜M18 トランジスタ
M1A〜M1M トランジスタ
N11〜N18 ノード
V11〜V16 電圧源
VDD 電源端子
GND 接地端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電型のトランジスタで構成され、入力信号を受けて第1の差動電流を出力する第1の差動対と、
前記第1の差動電流に基づき、第1の吐き出し側出力電流及び第1の吸い込み側出力電流をそれぞれ第1の出力端子及び第2の出力端子に対して出力する第1の電流増幅部と、
第2の導電型のトランジスタで構成され、前記入力信号を受けて第2の差動電流を出力する第2の差動対と、
前記第2の差動電流に基づき、第2の吐き出し側出力電流及び第2の吸い込み側出力電流をそれぞれ前記第1の出力端子及び前記第2の出力端子に対して出力する第2の電流増幅部と、
を有する差動増幅器。
【請求項2】
第1の吐き出し側基準電流と第1の吸い込み側基準電流とを出力する第1の基準電流源と、
第2の吐き出し側基準電流と第2の吸い込み側基準電流とを出力する第2の基準電流源と、を有し、
前記第1の吐き出し側出力電流は、前記第1の吐き出し側基準電流と前記第1の差動電流の一方の第1の差動電流との差分により生成され、
前記第1の吸い込み側出力電流は、前記第1の吸い込み側基準電流と前記第1の差動電流の他方の第1の差動電流との差分により生成され、
前記第2の吐き出し側出力電流は、前記第2の吐き出し側基準電流と前記第2の差動電流の一方の第2の差動電流との差分により生成され、
前記第2の吸い込み側出力電流は、前記第2の吸い込み側基準電流と前記第2の差動電流の他方の第2の差動電流との差分により生成される請求項1に記載の差動増幅器。
【請求項3】
前記第1の出力端子から出力される吐き出し側出力電流及び前記第2の出力端子から出力される吸い込み側出力電流をそれぞれ増幅して出力する出力バッファを有する請求項1又は2に記載の差動増幅器。
【請求項4】
第1の導電型のトランジスタで構成され、入力信号を受けて第1の差動電流を出力する第1の差動対と、
第1の吐き出し側基準電流と第1の吸い込み側基準電流とを出力する第1の基準電流源と、
前記第1の吐き出し側基準電流と前記第1の差動電流の一方の第1の差動電流との差分により生成される第1の吐き出し側出力電流を第1の出力端子に対して出力し、前記第1の吸い込み側基準電流と前記第1の差動電流の他方の第1の差動電流との差分により生成される第1の吸い込み側出力電流を第2の出力端子に対して出力する第1の電流増幅部と、
第2の導電型のトランジスタで構成され、前記入力信号を受けて第2の差動電流を出力する第2の差動対と、
第2の吐き出し側基準電流と第2の吸い込み側基準電流とを出力する第2の基準電流源と、
前記第2の吐き出し側基準電流と前記第2の差動電流の一方の第2の差動電流との差分により生成される第2の吐き出し側出力電流を前記第1の出力端子に対して出力し、前記第2の吸い込み側基準電流と前記第2の差動電流の他方の第2の差動電流との差分により生成される第2の吸い込み側出力電流を前記第2の出力端子に対して出力する第2の電流増幅部と、
を有する差動増幅器。
【請求項5】
前記第1の出力端子から出力される吐き出し側出力電流及び前記第2の出力端子から出力される吸い込み側出力電流をそれぞれ増幅して出力する出力バッファを有する請求項4に記載の差動増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−246934(P2009−246934A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220391(P2008−220391)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】