説明

巻上機用ブレーキ装置

【課題】ブレーキギャップの調整を容易にすること。
【解決手段】ブレーキディスク10と、ブレーキパッド20と、駆動部3と、制御部2と、間隔調整部材4と、緩衝部5Aと、を備える。ブレーキディスク10は、電動機101の駆動軸101aの回転と共に回転する。ブレーキパッド20は、ブレーキディスク10との平面部同士が当接状態のときにブレーキディスク10を停止させることが可能なものである。駆動部3は、ブレーキパッド20を平面部同士が当接するようブレーキディスク10に係合させる一方、ブレーキパッド20をブレーキディスク10から離間させる。制御部2は、駆動部3によるブレーキパッド20の動作を制御する。間隔調整部材4は、ブレーキパッド20の背面に先端部を当接させた状態でブレーキパッド20を前記係合方向及び前記離間方向へと移動させ、平面部同士の間隔を調整する。緩衝部5Aは、間隔調整部材4の先端部に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータの巻上機に対して制動力を発生させる巻上機用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの巻上機は、駆動源としての電動機や当該電動機の駆動軸に連結されたシーブ等を有しており、そのシーブに巻き掛けた巻き上げロープを介して電動機の駆動力を伝えることでかごを昇降させる。エレベータでは、その電動機の駆動力を減少させていくことでかごを所望の位置で停止させる。そして、従来、このエレベータには、その停止状態からの無用なかごの昇降(ずれ)を防ぐべく、電動機の駆動軸(つまりシーブ)を回転しないように係止させる巻上機用ブレーキ装置が設けられている。
【0003】
この巻上機用ブレーキ装置は、電動機の駆動軸と共に回転するブレーキディスクと、このブレーキディスクが回転しないように当該ブレーキディスクとの間で摩擦力を発生させるブレーキパッドと、を備えている。例えば、この種の巻上機用ブレーキ装置については、下記の特許文献1及び2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−540968号公報
【特許文献2】特許第3940102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、巻上機用ブレーキ装置においては、ブレーキディスクとブレーキパッドとの間に間隔(以下、「ブレーキギャップ」とも云う。)が設けられており、その間隔が無くなるようにブレーキパッドを動かすことで、ブレーキディスクが回転停止状態になる一方(ブレーキ作動状態)、この状態から間隔が拡がるようにブレーキパッドを動かすことで、ブレーキディスクが回転可能な状態になる(ブレーキ開放状態)。この巻上機用ブレーキ装置では、使用に伴うブレーキパッドの摩耗や経年変化等によってブレーキギャップに変化が生じることがある。また、そのブレーキギャップは、温度変化によって変化することもある。
【0006】
ここで、例えば、ブレーキギャップが基準設定値よりも大きい場合には、ブレーキパッドからブレーキディスクへの押圧力が低下し、ブレーキディスクの回転停止状態を維持できなくなる可能性がある。更に、この場合には、ブレーキディスクの移動量が多くなるので、動作音が大きくなる可能性もある。一方、ブレーキギャップが基準設定値よりも小さい場合には、温度上昇に伴いブレーキギャップが狭まり、ブレーキ開放時であるにも拘わらずブレーキディスクとブレーキパッドとが接触状態になる可能性があるので、摩耗に伴うブレーキディスク及びブレーキパッドの耐久性の低下等を引き起こす虞がある。また、この巻上機用ブレーキ装置においては、ブレーキのオン(ブレーキ作動状態)とオフ(ブレーキ開放状態)を検知する為に、ブレーキパッドの移動に伴い作動するブレーキスイッチが用意されていることもあるのだが、ブレーキギャップが基準設定値に対して外れている場合、そのブレーキスイッチの不作動によりブレーキ動作確認を行えない可能性がある。そして、このエレベータにおいては、その巻上機用ブレーキ装置の動作が適切に確認できなければ、制御部が異常と判断するので、運転を停止せざるを得なくなる。
【0007】
この様に、巻上機用ブレーキ装置においては、ブレーキギャップの基準設定値に対する厳密な管理が必要とされる。それにも拘わらず、従来の巻上機用ブレーキ装置は、ブレーキギャップの緻密な調整が容易ではなく、その調整作業に手間がかかってしまう。例えば、従来は、電磁コイル部におけるコイルフレームの取り合い寸法でブレーキギャップを調整するものがあり、コイルフレームと電動機とを繋ぐ固定ボルトの根本にシム等を挿入させることで行っている。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ブレーキギャップの調整が容易な巻上機用ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の巻上機用ブレーキ装置は、ブレーキディスクと、ブレーキパッドと、駆動部と、制御部と、間隔調整部材と、緩衝部と、を備える。ブレーキディスクは、エレベータのかごの昇降用の巻上機における電動機の駆動軸の回転と共に回転するものである。ブレーキパッドは、ブレーキディスクの平面部に対向させた平面部を有し、この平面部同士が当接状態のときに前記ブレーキディスクを停止させることが可能なものである。駆動部は、ブレーキパッドを前記平面部同士が当接するよう前記ブレーキディスクに係合させる一方、このブレーキパッドを当該ブレーキディスクから離間させるものである。制御部は、駆動部による前記ブレーキパッドの動作を制御するものである。間隔調整部材は、ブレーキパッドの背面に先端部を当接させた状態で当該ブレーキパッドを前記係合方向及び前記離間方向へと移動させ、前記平面部同士の間隔を調整するものである。緩衝部は、ブレーキパッドの背面又は前記間隔調整部材の先端部のうちの少なくとも一方に設けたものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施形態の巻上機用ブレーキ装置を示す図である。
【図2】図2は、実施形態の巻上機用ブレーキ装置を示す斜視図であって、ブレーキパッドと間隔調整ボルトとの関係を説明する部分断面図である。
【図3】図3は、実施形態のブレーキパッドと間隔調整ボルトとの位置関係を示す図である。
【図4】図4は、実施形態における変形例1のブレーキパッドと間隔調整ボルトとの位置関係を示す図である。
【図5】図5は、実施形態における変形例2のブレーキパッドと間隔調整ボルトとの位置関係を示す図である。
【図6】図6は、実施形態における変形例3の間隔調整ボルトを示す図である。
【図7】図7は、実施形態における変形例3の間隔調整ボルトの他の例を示す図である。
【図8】図8は、実施形態における変形例4の巻上機用ブレーキ装置を示す図である。
【図9】図9は、実施形態における変形例4のブレーキパッドと間隔調整ボルトと弾性部材との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、巻上機用ブレーキ装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
[実施形態]
巻上機用ブレーキ装置の実施形態を説明する。図1及び図2は、エレベータの巻上機100について電動機101の周りを中心に図示したものであり、この巻上機100を停止状態に保持する巻上機用ブレーキ装置を符号1で示している。この巻上機用ブレーキ装置1は、昇降路内のかごを緊急停止させる際に用いられるものであり、電動機101を停止させ為の制動力を発生させる。また、この巻上機用ブレーキ装置1は、通常時(緊急時以外)に電動機101を停止させ、昇降路内のかごが所定の位置(例えば所定の階数)で停止させられた際に、そのかごが上下方向にずれ動くことを防ぐ為にも使用される。従って、この巻上機用ブレーキ装置1は、その電動機101を停止状態のまま保持する為の制動力を発生させる。
【0013】
この巻上機用ブレーキ装置1は、その巻上機100が図示しない制御盤や調速器等と共に配置される機械室を有するエレベータ、例えば昇降路の上方に機械室が設けられたロープ式のエレベータに適用してもよく、その巻上機100や制御盤等を昇降路内に配置した機械室レスエレベータに適用してもよい。以下においては、ロープ式のエレベータを例に挙げて説明する。
【0014】
先ず、巻上機100について簡単に説明する。この巻上機100は、駆動源としての電動機101と、この電動機101の駆動軸101aに連結されたシーブ102と、を有している。そのシーブ102は、巻き上げロープ(図示略)が巻き掛けられており、この巻き上げロープが巻き掛けられた別のシーブを介して昇降路内のかご(図示略)等に繋がっている。巻上機100は、電動機101の駆動力によってかごを昇降路内で昇降させると共に、電動機101を停止させることでかごを所定の位置に停止させる。その電動機101の駆動力制御は、例えば各種センサの検出信号(かごの位置や昇降速度等)が入力される制御部(制御盤)2によって実行される。
【0015】
巻上機用ブレーキ装置1は、ブレーキディスクとブレーキパッドとを備える所謂ディスクブレーキである。この巻上機用ブレーキ装置1は、電動機101の背面側(駆動軸101aの軸線方向においてシーブ102とは反対側)に配設した回転部材10と、この回転部材10に押し付けられることで当該回転部材10を回転停止状態となるよう係止する係止部材20と、を備える。以下、軸線方向とは、その駆動軸101aや回転部材10の軸線方向のことを云う。また、単に中心軸と記すときには、その駆動軸101aや回転部材10の回転中心のことを中心軸と云う。更に、以下においては、その背面に対する電動機101のシーブ102側を正面と云う。その正面及び背面の軸線方向に対する位置的定義については、中心軸上に配置された回転部材10等、後述する各種部材についても、これと同様に適用する。
【0016】
その回転部材10は、自らの回転軌道上における係止部材20と対向する部分で且つ当該係止部材20と当接する部分が少なくとも平面部になっている。この回転部材10は、巻上機用ブレーキ装置1のブレーキディスクに相当するものである。これが為、ここでは、回転部材10が鉄等の金属材料や炭素繊維強化炭素複合材料などによって円板状に成形されている。以下においては、この回転部材10のことをブレーキディスク10と云う。
【0017】
この例示の電動機101においては、その背面側にまで駆動軸101aが延設されている。これが為、ブレーキディスク10は、その中心を駆動軸101aにおける背面側の突出部分に固定し、この駆動軸101aと共に一体になって回転させる。尚、ここでは電動機101の背面側にも駆動軸101aを突出させているが、その背面側には駆動軸101aと一体になって回転する別部材の回転軸を設けてもよく、この場合には、その回転軸にブレーキディスク10を固定する。
【0018】
一方、係止部材20は、ブレーキディスク10の平面部と対向する部分に少なくとも平面部が形成されており、この平面部をブレーキディスク10の平面部に押し付けられることで当該ブレーキディスク10を回転停止状態となるよう係止することができる。この係止部材20は、巻上機用ブレーキ装置1のブレーキパッドに相当するものである。これが為、以下においては、この係止部材20のことをブレーキパッド20と云う。
【0019】
このブレーキパッド20は、ブレーキディスク10の平面部と対向する部分に設けた摩擦材20aと、この摩擦材20aを保持する鉄等の金属材料からなる保持部20bと、を備える。その摩擦材20aは、ブレーキディスク10の平面部と対向する平面部を有しており、その平面部同士を当接させることでブレーキディスク10を回転停止状態に保持することができる。また、この摩擦材20aは、前述した緊急時にブレーキディスク10の回転を停止させることができる。この摩擦材20aは、その背面(平面部とは逆側)が保持部20bに貼付されている。この例示のブレーキパッド20は、ブレーキディスク10の形状に合わせて摩擦材20aと保持部20bを共に円板状に成形している(図3)。ここでは、ブレーキパッド20(摩擦材20a及び保持部20b)の直径をブレーキディスク10の直径と略同等の大きさにしている。
【0020】
更に、この巻上機用ブレーキ装置1には、ブレーキディスク10とブレーキパッド20の夫々の平面部同士が当接するようブレーキパッド20をブレーキディスク10に係合させる一方、このブレーキパッド20をブレーキディスク10から離間させる駆動部3が設けられている。この駆動部3は、ブレーキパッド20をブレーキディスク10に向けて軸線方向へと移動させる第1駆動機構と、ブレーキディスク10から離れるようにブレーキパッド20を軸線方向へと移動させる第2駆動機構と、を備える。この例示の第1駆動機構は、弾性部材30の弾発力を利用するものである。一方、第2駆動機構は、電磁コイル部40における通電時の吸引力を利用するものである。また、この駆動部3は、ブレーキパッド20の背面側に配置する。
【0021】
弾性部材30は、その一端をブレーキパッド20における保持部20bの背面に取り付けると共に、他端をブレーキディスク10に対する相対移動が行われない部材に取り付ける。この例示では、その部材として、保持部20bの背面側に配置した電磁コイル部40における下記のコイルフレーム41を利用する。このコイルフレーム41には、弾性部材30を軸線方向に伸縮自在な状態で保持する保持溝41aが形成されている。その保持溝41aの溝底には、弾性部材30の他端が配置される。
【0022】
この弾性部材30は、保持溝41aの溝深さよりも軸線方向の長さが長く、ブレーキパッド20の背面に向けてコイルフレーム41から突出させている。そして、この弾性部材30は、ブレーキパッド20がブレーキディスク10に当接している状態で弾発力が生じるように取り付ける。コイルフレーム41はブレーキディスク10に対して相対移動できないので、弾性部材30は、その弾発力によって保持部20bの背面側からブレーキパッド20をブレーキディスク10に押し付けることになる。これが為、ブレーキディスク10とブレーキパッド20とが当接状態のときの弾発力は、電動機101の停止に伴う回転停止中のブレーキディスク10が停止状態を維持できる大きさに設定する。尚、この巻上機用ブレーキ装置1を例えば緊急停止時にも使用する場合、そのときの弾発力は、回転中のブレーキディスク10を停止させることができる大きさに設定する。
【0023】
ここで、この例示の弾性部材30は、例えばコイルバネであり、中心軸に対して放射状に略等間隔で複数個が配置されている。各弾性部材30は、その中心軸を中心とする同心円上に配置する。従って、コイルフレーム41は、その弾性部材30の個数及び配置に応じた複数の保持溝41aを有している。
【0024】
電磁コイル部40は、ブレーキパッド20の背面側に配置したコイルフレーム41を有している。このコイルフレーム41は、制御部2から電力が供給される電磁コイル42を内包しており、ボルト等の複数本の連結部材43を介して電動機101に固定する。制御部2は、その電磁コイル42への通電と非通電とを制御する。
【0025】
また、この電磁コイル部40は、可動鉄心44を備える。この可動鉄心44は、ブレーキディスク10やブレーキパッド20と同心の柱状に成形する。この例示では、保持部20bの背面におけるコイルフレーム41側に向けた突出部を可動鉄心44とする。通電時には、ブレーキパッド20をコイルフレーム41側へと引き付ける軸線方向の吸引力が可動鉄心44に作用する。
【0026】
この電磁コイル部40は、通電時に所定の大きさの吸引力を発生させる一方、非通電時に吸引力が0になる。その吸引力は、弾性部材30の弾発力よりも大きく設定する。従って、ブレーキパッド20は、非通電時に弾性部材30の弾発力によってブレーキディスク10に押し付けられ、通電時に弾性部材30の弾発力に抗する吸引力によってブレーキディスク10から離れる。これにより、巻上機用ブレーキ装置1は、非通電時にブレーキ作動状態となり、通電時にブレーキ開放状態となる。
【0027】
コイルフレーム41には、そのブレーキパッド20の軸線方向の移動を円滑にする為、このブレーキパッド20を軸線方向へと案内するガイド部51が設けられている。このガイド部51は、例えばブレーキパッド20に向けて軸線方向に立設したガイド軸であり、中心軸に対して放射状に略等間隔で複数配置している。各ガイド部51は、コイルフレーム41の中心軸を中心とする同心円上に設ける。一方、保持部20bには、その夫々のガイド部51に対応する複数箇所に被ガイド部52が形成されている。この被ガイド部52は、保持部20bに形成した軸線方向のガイド孔であり、ガイド部51が挿入されている。また、そのブレーキパッド20は、巻上機のシャフトに設けた軸線方向の溝(又は突出部)に沿って案内させてもよい。この場合には、そのシャフトをブレーキパッド20に向けて延設し、また、そのシャフトの溝(又は突出部)に挿入する突出部(又は溝)をブレーキパッド20に形成する。
【0028】
ここで、この巻上機用ブレーキ装置1の搭載されたエレベータにおいては、例えばエレベータの設置時や点検時等の際に、ブレーキディスク10とブレーキパッド20の摩擦材20aの夫々の平面部同士(当接面同士)の間隔(ブレーキギャップ)を作業者が調整する。何故ならば、ブレーキギャップが大きすぎると、ブレーキディスク10とブレーキパッド20とが接した際の衝突音が大きくなるからである。一方、ブレーキギャップが小さすぎると、その衝突音を小さくできるが、温度変化等の影響によりブレーキギャップが狭まり、巻上機用ブレーキ装置1の正常な動作の妨げになる虞があるからである。従って、この巻上機用ブレーキ装置1には、そのブレーキギャップを基準設定値に調整する為の間隔調整部材4が設けられている。その基準設定値とは、例えば、衝突音が騒音の基準(法律上の基準やメーカー基準)を満足する範囲内でのブレーキギャップの最大値とする。従って、ブレーキギャップは、可能な限り大きく取れるようにする。
【0029】
この例示では、その間隔調整部材4としてネジ部材を利用する。以下、この間隔調整部材4のことを「間隔調整ボルト4」と云う。この間隔調整ボルト4は、ブレーキパッド20の保持部20bの背面側において、その雄ネジ部を固定部材の雌ネジ部に螺合させ、且つ、その一端である先端部が保持部20bの背面に当接できるように配置する。その固定部材とは、電動機101に対して相対移動を行わない部材のことである。ここでは、保持部20bの背面側に配置されているコイルフレーム41を利用する。
【0030】
この間隔調整ボルト4は、その一端である先端部をコイルフレーム41の正面側からブレーキパッド20側に突出させる一方、他端である頭部をコイルフレーム41の背面側に突出させる。この間隔調整ボルト4は、その頭部を作業者がレンチ等の工具で一方に回動させることによって電動機101側に向けて前進し、その頭部を他方に回動させることによって電動機101から離れるように後退する。また、この間隔調整ボルト4は、電磁コイル部40への通電時に、その先端部に保持部20bの背面が当接し、その背面が電磁コイル部40の吸引力(厳密には吸引力−弾性部材30の弾発力)によって先端部を押圧できるようブレーキパッド20側へと突出させておく。従って、電磁コイル部40への通電時には、間隔調整ボルト4を前進させることにより、ブレーキパッド20をブレーキディスク10側へと近づけることができ、また、間隔調整ボルト4を後退させることによって、ブレーキパッド20をブレーキディスク10から離すことができる。このように、この巻上機用ブレーキ装置1においては、間隔調整ボルト4によってブレーキギャップの調整が可能になる。尚、そのブレーキギャップの調整は、電磁コイル部40が非通電の状態で行う。そして、ブレーキギャップが正しく調整されたのか否かについては、その電磁コイル部40に通電させることで確認可能である。
【0031】
この例示の間隔調整ボルト4は、図3に示すように、先端部と保持部20bの背面との当接部分が中心軸(ブレーキパッド20の中心位置であって、摩擦材20aの中心位置とも云える。)を中心とする同心円上で等間隔になるよう複数個配置する。具体的に、夫々の間隔調整ボルト4は、中心軸に対して放射状に略等間隔でコイルフレーム41に対して配置する。そして、これらの間隔調整ボルト4は、その中心軸を中心とする同心円上に配置すると共に、軸線が軸線方向に対して平行になるよう配置する。これにより、先端部と保持部20bの背面との当接部分は、中心軸を中心とする同心円上で等間隔に位置することになる。ここでは、4本の間隔調整ボルト4について例示している。
【0032】
このような夫々の間隔調整ボルト4の配置によって、この巻上機用ブレーキ装置1では、夫々の間隔調整ボルト4でブレーキパッド20のバランスの良い軸線方向への移動が可能になるので、調整後のブレーキディスク10と保持部20bの夫々の平面部同士を平行に保つことができる。つまり、この巻上機用ブレーキ装置1は、ブレーキディスク10の平面部に対するブレーキパッド20の傾きの発生を抑えた高精度のブレーキギャップの調整が可能になる。従って、この巻上機用ブレーキ装置1では、非通電時にブレーキディスク10とブレーキパッド20の摩擦材20aとを面接触させることができ、ブレーキパッド20の片当たりを防止できる。そして、その片当たりの防止が実現できることにより、この巻上機用ブレーキ装置1は、ブレーキパッド20の部分的な衝突に伴い発生する局部的な発熱の回避が可能になるので、ブレーキトルクの安定性の向上、更にはブレーキディスク10とブレーキパッド20の耐摩耗性の向上を図ることができる。また、この巻上機用ブレーキ装置1は、このような夫々の間隔調整ボルト4の配置によって、ブレーキギャップの調整作業の際に、ブレーキディスク10と保持部20bの夫々の平面部同士を平行にする作業が容易になり、ブレーキギャップの調整作業の効率化を図ることができる。
【0033】
ここで、この例示では4本の間隔調整ボルト4を設けているが、間隔調整ボルト4は、かかる傾き抑制の効果を得るべく、少なくとも3本以上設けることが好ましい。また、この例示の間隔調整ボルト4は、その軸線が軸線方向に対して平行になるよう配置しているが、その軸線を軸線方向に対し傾斜させてコイルフレーム41に配置してもよい。
【0034】
以上示した実施の形態に依れば、間隔調整ボルト4によってブレーキギャップの基準設定値への調整が可能になる。これが為、本実施の形態に依れば、巻上機用ブレーキ装置1の各種構成部品の加工誤差や組立誤差等によるブレーキギャップの基準設定値からのずれに個別に対応可能である。従って、本実施の形態に依れば、個体差のある巻上機用ブレーキ装置1の設置時又は交換時のブレーキギャップのずれを微調整できるので、巻上機用ブレーキ装置1の信頼性とブレーキ性能を向上させることができる。更に、本実施の形態に依れば、ブレーキギャップの調整が可能なので、例えばブレーキパッド20の開放量が足りず、ブレーキディスク10と摩擦材20aとを接触させながらのかごの昇降を防ぐことができる。従って、本実施の形態に依れば、その接触部分からの発熱に伴う煙の発生を回避でき、また、ブレーキディスク10と摩擦材20aの摩耗に伴う制動力不足を回避できる。
【0035】
更に、その間隔調整ボルト4は、ブレーキギャップの基準設定値への調整作業を容易なものとする。ここで、ブレーキギャップは、使用に伴う摩耗等の経時変化、温度変化による部材(ブレーキディスク10やブレーキパッド20等)の伸縮の影響を受けて基準設定値からずれる可能性がある。本実施の形態に依れば、ブレーキギャップの基準設定値への調整作業が容易なので、その作業時間の短縮を図ることができる。従って、本実施の形態は、エレベータの点検時に有用であると云える。
【0036】
ところで、この巻上機用ブレーキ装置1において、非通電時には、弾性部材30の弾発力によってブレーキパッド20がブレーキディスク10に押し付けられており、間隔調整ボルト4の先端部が保持部20bの背面から離れている。そして、かごを昇降させる際に、制御部2は、電磁コイル部40に通電し、ブレーキパッド20をブレーキディスク10から引き離す。この際、ブレーキパッド20は、保持部20bの背面が間隔調整ボルト4の先端部に当たるまで(つまり間隔調整ボルト4で調整したブレーキギャップになるまで)移動する。これが為、この巻上機用ブレーキ装置1においては、保持部20bの背面が間隔調整ボルト4の先端部に当たったときに、騒音や振動を生じさせる虞があり、更に、ブレーキディスク10や間隔調整ボルト4の耐久性を低下させる虞もある。
【0037】
そこで、かかる不都合を改善すべく、この例示では、間隔調整ボルト4を樹脂や金属粉混合樹脂等の衝突音の緩衝が可能な材料で成形する。これにより、この巻上機用ブレーキ装置1は、保持部20bの背面と間隔調整ボルト4の先端部とが当たったときの衝突音を和らげることができ、且つ、その際の振動の発生を抑えることもできる。従って、この巻上機用ブレーキ装置1は、ブレーキディスク10や間隔調整ボルト4の耐久性を向上させることができる。更に、その衝突音や振動の緩和は、巻上機100の近くにいる居住者やエレベータ利用者等の不快感の解消に寄与する。何故ならば、居室が巻上機100の収納される機械室や昇降路に隣接している場合もあり、その居室内の居住者等は、通電の度に衝突音や振動が生じると不快感を覚えるからである。また、機械室レスエレベータでは、最上階又は最下階の昇降路内に巻上機100が設置されるので、乗り場ドア前のエレベータ利用者等は、通電の度に衝突音や振動が生じると不快感を覚えるからである。
【0038】
一方、エレベータの仕様や設置環境によっては、ブレーキディスク10が高温になったり、間隔調整ボルト4の雰囲気温が高温になったりする場合がある。そして、この場合には、樹脂材料からなる間隔調整ボルト4が熱によって変形してしまう虞がある。これが為、熱による変形を極力防ぐ為に、間隔調整ボルト4は、樹脂材料の中でも、プラスチック等の熱可塑性樹脂よりもエポキシ樹脂やウレタン樹脂の様な熱硬化性樹脂を用いて成形することが好ましい。この熱硬化性樹脂からなる間隔調整ボルト4に依れば、この間隔調整ボルト4の更なる耐久性の向上が可能になる。
【0039】
更に、この巻上機用ブレーキ装置1においては、ブレーキギャップの調整後に間隔調整ボルト4が回らないようにする為の係止部材(図示略)を設けてもよい。この係止部材としては、例えば、間隔調整ボルト4の雄ネジ部に螺合するナット等の雌ネジ部材が考えられる。この雌ネジ部材は、コイルフレーム41の正面若しくは背面又はその双方に向けて締め込むものである。従って、間隔調整ボルト4が例えば緩まないようにコイルフレーム41に固定されるので、調整後のブレーキギャップの基準設定値からの変化を抑えることができる。また、その係止部材としては、折座金を用いてもよい。
【0040】
[変形例1]
前述した実施の形態では、摩擦材20aと保持部20bとが共に円板状に成形されたブレーキパッド20を例示した。これが為、その実施の形態では、間隔調整ボルト4の先端部とブレーキパッド20の背面(保持部20bの背面)との当接部分が中心軸を中心とする同心円上で等間隔になるように、複数本の間隔調整ボルト4を配置している。一方、この実施の形態の巻上機用ブレーキ装置1において、ブレーキパッド20は、多種多様な形状のものに置き換えることができる。例えば、この巻上機用ブレーキ装置1においては、摩擦材21aが矩形の板状に成形されたブレーキパッド21(図4)を適用することが可能である。このブレーキパッド21においては、保持部21bも矩形の板状に成形されたものとする。
【0041】
この矩形のブレーキパッド21においても、複数本の間隔調整ボルト4は、その先端部とブレーキパッド21の背面(保持部21bの背面)との当接部分が中心軸(ブレーキパッド21や摩擦材21aの中心位置)を中心とする同心円上で等間隔になるように配置することが望ましい。この配置によってブレーキディスク10の平面部に対するブレーキパッド21の傾きの発生を抑えた高精度のブレーキギャップの調整が可能になり、前述した実施の形態と同様の効果を得られるからである。
【0042】
ここで、このブレーキパッド21は、摩擦材21aと保持部21bとを共に正方形の板状に成形している。これが為、4本の間隔調整ボルト4は、図4に示すように、当接部分が配置される同心円とブレーキパッド21(摩擦材21a及び保持部21b)の2本の対角線との夫々の交点に当該当接部分が位置するよう配置することもできる。つまり、この4本の間隔調整ボルト4は、その先端部とブレーキパッド21の背面(保持部21bの背面)との当接部分が中心軸(ブレーキパッド21や摩擦材21aの中心位置)を挟んだ当該摩擦材21aの2つの対角線上で且つ当該中心軸から等距離になるよう配置されている。そして、この配置によっても、当然のことながら前述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
この間隔調整ボルト4の対角線上の配置については、少なくとも摩擦材が正方形や長方形等の矩形の板状に成形されたブレーキパッドに適用可能である。また、この配置は、例えば正五角形や正六角形等の多角形の板状に摩擦材が成形されたブレーキパッドにも適用可能である。従って、複数本の間隔調整ボルト4は、その先端部とブレーキパッドの背面(保持部の背面)との当接部分が中心軸(ブレーキパッドや摩擦材の中心位置)を挟んだ当該ブレーキパッドの少なくとも2つの対角線上で且つ当該中心軸から等距離になるように配置すればよい。夫々の間隔調整ボルト4は、上記の同心円上の配置とするのか、それとも対角線上の配置とするのかについて、ブレーキパッド(特に摩擦材)の形状を考慮して決めればよい。
【0044】
[変形例2]
前述した実施の形態の巻上機用ブレーキ装置1において、ブレーキパッド20は、複数枚のブレーキパッドからなる分割構造のものに置き換えることもできる。例えば、図5には、2枚のブレーキパッド22,23で1枚のブレーキディスク10の回転を停止状態に保持する例を示している。そのブレーキパッド22,23は、摩擦材22a,23aと保持部22b,23bとを共に長方形の板状に成形したものであり、ブレーキディスク10の中心に対して均等に配置している。従って、ブレーキパッド22においては、間隔調整ボルト4の先端部とブレーキパッド22の背面(保持部22bの背面)との当接部分が中心軸(ブレーキパッド22や摩擦材22aの中心位置)を挟んだ当該摩擦材22aの2つの対角線上で且つ当該中心軸から等距離になるように、4本の間隔調整ボルト4を配置する。ブレーキパッド23においても、4本の間隔調整ボルト4は、同様の配置とする。これにより、夫々のブレーキパッド22,23においては、ブレーキディスク10の平面部に対するブレーキパッド22,23の傾きの発生を抑えた高精度のブレーキギャップの調整が可能になり、前述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0045】
[変形例3]
前述した実施の形態においては、通電時のブレーキパッド20と間隔調整ボルト4との間の衝突音や振動を緩和すべく、間隔調整ボルト4を樹脂で成形している。しかしながら、喩え熱硬化性樹脂を用いたとしても、間隔調整ボルト4は、温度変化に伴う熱の影響を完全に排除することは難しく、ブレーキギャップのずれや耐久性の低下を招く虞がある。これが為、間隔調整ボルト4は、金属製であることが望ましい。
【0046】
そこで、前述した実施の形態の巻上機用ブレーキ装置1において、保持部20bの背面又は金属製の間隔調整ボルト4の先端部のうちの少なくとも一方に緩衝部を設ける。図6は、金属製の間隔調整ボルト4の先端部に緩衝部5Aを設けた一例である。その緩衝部5Aは、熱可塑性樹脂、金属粉混合樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂材料で柱状に成形したものであり、間隔調整ボルト4の先端部に接着剤で接着固定する。また、この緩衝部5Aは、その先端部に圧着固定するものであってもよい。このように緩衝部5Aを設けることで、この巻上機用ブレーキ装置1は、温度変化によるブレーキギャップのずれの抑制や間隔調整ボルト4の耐久性向上を図りつつ、通電時のブレーキパッド20と間隔調整ボルト4との間の衝突音や振動を緩和することができるので、信頼性とブレーキ性能を向上させることができる。
【0047】
更に、その緩衝部は、例えば、間隔調整ボルト4の先端部に形成した溝部(図示略)に嵌合させるものであってもよく、その先端部に自身の溝部を嵌合させるものであってもよい。図7には、後者の一例を示している。後者の緩衝部5Bは、熱可塑性樹脂、金属粉混合樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂材料で柱状に成形したものであり、間隔調整ボルト4の先端部が挿入される溝部を有している。このように、緩衝部5Bを嵌め込み式にした場合には、この緩衝部5Bだけを摩耗時等に交換すればよく、間隔調整ボルト4まで交換する必要が無くなる。
【0048】
ここで、この緩衝部5A,5Bを有する間隔調整ボルト4については、前述した変形例1及び2の巻上機用ブレーキ装置1にも適用可能である。
【0049】
[変形例4]
前述した実施の形態においては、夫々の間隔調整ボルト4を弾性部材30に対してずらして配置している。この例示では、その実施の形態の巻上機用ブレーキ装置1において、図8及び図9に示すように、弾性部材30をコイルバネとし、このコイルバネの内方(軸中心)に間隔調整ボルト4を配置する。つまり、ここでは、間隔調整ボルト4と弾性部材30とを同心上に配置する。その為、コイルフレーム41には、弾性部材30の保持溝41aと同心の雌ネジ部を螺刻する。これにより、この巻上機用ブレーキ装置1は、間隔調整ボルト4、弾性部材30や電磁コイル42等の構成部品の配置の自由度が高くなり、その構成部品の効率の良い配置が可能になるので、電磁コイル42の配置スペースを広く取ることができる。更に、この巻上機用ブレーキ装置1では、コイルフレーム41の小型化が図れ、装置全体としての小型化も可能になる。これが為、この巻上機用ブレーキ装置1は、巻上機100の小型化にも繋がり、この巻上機100の機械室や昇降路への配置の自由度が増す。従って、この巻上機用ブレーキ装置1は、このエレベータが設置される建築物のレイアウトの設計自由度にも寄与することになる。
【0050】
ここで、この間隔調整ボルト4の配置については、前述した変形例1−3の巻上機用ブレーキ装置1にも適用可能である。
【0051】
[変形例5]
間隔調整ボルト4は、前述した実施の形態又は変形例1−4の巻上機用ブレーキ装置1において、その軸線方向の荷重を検出できる歪みゲージや圧電素子等の荷重検出部(図示略)を配設し、ロードセルとして利用してもよい。その荷重検出部は、ブレーキパッド20(21,22,23)から間隔調整ボルト4に対しての荷重を検出するものである。これ故、歪みゲージを適用する場合には、間隔調整ボルト4の軸上に配置し、圧電素子を適用する場合には、間隔調整ボルト4の先端部に配置する。制御部2は、その荷重検出部の検出信号を受信することで、通電時にブレーキパッド20(21,22,23)がブレーキディスク10から離れるときの力(開放力)を求めることができる。その開放力とは、電磁コイル部40の吸引力から弾性部材30の弾発力を減算した値と同じである。
【0052】
この変形例5において、制御部2には、開放力が不検知の場合や開放力が極端に小さい場合に、ブレーキの開放が不十分であると判断させ、エレベータのサービス(つまり運転)を停止させる。開放力が不検知の場合とは、ブレーキパッド20(21,22,23)が間隔調整ボルト4の先端部に接していない状態のことであり、例えば、ブレーキギャップが基準設定値よりも狭まっている状態等が考えられる。また、開放力が極端に小さい場合とは、ブレーキパッド20(21,22,23)が間隔調整ボルト4の先端部に接してはいるが、ブレーキギャップが基準設定値のときほどの荷重が間隔調整ボルト4に加わっていない状態のことであり、例えば、電磁コイル部40の吸引力低下によって、今後、ブレーキギャップが基準設定値よりも狭まる可能性がある状態等が考えられる。例えば、制御部2は、検出した開放力が所定の閾値を下回ったときに、エレベータを停止させる。その閾値としては、例えば、電磁コイル部40の吸引力低下が示唆される状態での開放力を設定しておけばよい。このような制御を実行することで、この巻上機用ブレーキ装置1は、基準設定値のブレーキギャップにまで正しくブレーキ開放が為されていることを制御部2に把握させることができるので、通電時であるにも拘わらずブレーキディスク10とブレーキパッド20(21,22,23)とが接しており、これらの引摺りに伴う発熱や摩耗が発生してしまうと云う事態を回避できる。従って、この巻上機用ブレーキ装置1は、信頼性やブレーキ性能の向上が可能になる。
【0053】
ここで、開放力が一度閾値を下回ったからといって、必ずしも電磁コイル部40の吸引力低下等が生じているとは限らない。例えば、ガイド部51とブレーキパッド20(21,22,23)の被ガイド部52の一部が偶発的に引っ掛かったりして、ブレーキパッド20(21,22,23)の動きが一時的に悪くなる等の事態が考えられるからである。これが為、制御部2には、検出した開放力と所定の閾値との比較判定について間隔を空けて繰り返させることが好ましい。例えば、制御部2は、検出した開放力が所定の閾値を下回った場合、一旦エレベータを停止させ、再度の比較判定の結果に基づいて最終的なエレベータの停止又は再起動を判断すればよい。また、制御部2は、検出した開放力が所定の閾値を下回った場合、エレベータを稼働させたまま再度の比較判定を待ち、その結果に基づいて最終的なエレベータの停止の要否を判断させてもよい。
【0054】
以上述べた実施の形態や変形例1−5に依れば、巻上機用ブレーキ装置1に間隔調整ボルト4を設けることで、ブレーキギャップの調整作業性並びに巻上機用ブレーキ装置1の保守作業性、性能及び信頼性を向上させることができる。そして、この実施の形態や変形例1−5に依れば、正しいブレーキギャップの調整によって巻上機用ブレーキ装置1を正常に動作させ続けることができるので、エレベータ利用者に対する安心、安全なサービスの継続的な提供が可能になる。
【0055】
ところで、この巻上機用ブレーキ装置1は、上記の実施の形態や変形例1−5において片押し式(つまりブレーキディスク10の片面のみにブレーキパッド20(21,22,23)を押し付ける方式)のものを例示しているが、ブレーキディスク10を両面からブレーキパッド20(21,22,23)で挟み込む方式のものにも適用することができる。そして、その場合においても、上述した各種の効果を同様に奏することが可能になる。
【0056】
以上、本発明に関する実施の形態と変形例を説明したが、この実施の形態と変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施の形態と変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態と変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 巻上機用ブレーキ装置
2 制御部
3 駆動部
4 間隔調整ボルト(間隔調整部材)
5A,5B 緩衝部
10 ブレーキディスク(回転部材)
20,21,22,23 ブレーキパッド(係止部材)
20a,21a,22a,23a 摩擦材
20b,21b,22b,23b 保持部
30 弾性部材
40 電磁コイル部
41 コイルフレーム
100 巻上機
101a 駆動軸
101 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのかごの昇降用の巻上機における電動機の駆動軸の回転と共に回転するブレーキディスクと、
該ブレーキディスクの平面部に対向させた平面部を有し、該平面部同士が当接状態のときに前記ブレーキディスクを停止させることが可能なブレーキパッドと、
該ブレーキパッドを前記平面部同士が当接するよう前記ブレーキディスクに係合させる一方、該ブレーキパッドを当該ブレーキディスクから離間させる駆動部と、
該駆動部による前記ブレーキパッドの動作を制御する制御部と、
前記ブレーキパッドの背面に先端部を当接させた状態で当該ブレーキパッドを前記係合方向及び前記離間方向へと移動させ、前記平面部同士の間隔を調整する間隔調整部材と、
前記ブレーキパッドの背面又は前記間隔調整部材の先端部のうちの少なくとも一方に設けた緩衝部と、
を備えたことを特徴とする巻上機用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記間隔調整部材は、前記ブレーキパッドの背面との当接部分が当該ブレーキパッドの中心位置を中心とする同心円上で等間隔に配置されるよう又は当該当接部分が前記ブレーキパッドの中心位置を挟んだ当該ブレーキパッドの少なくとも2つの対角線上で且つ当該中心位置から等距離に配置されるよう複数設けたことを特徴とする請求項1記載の巻上機用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記緩衝部は、前記間隔調整部材における前記ブレーキパッド側の端部に接着固定、圧着固定又は嵌合固定したことを特徴とする請求項1又は2に記載の巻上機用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記駆動部が前記ブレーキパッドの背面に対して前記係合方向への弾発力を作用させるコイルバネを備え、該コイルバネの軸中心に前記間隔調整部材を配置したことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の巻上機用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記ブレーキパッドから前記間隔調整部材に対しての荷重を検出する荷重検出部を設け、前記制御部は、前記ブレーキパッドと前記ブレーキディスクとを離間状態に制御した際に、前記荷重検出部の検出値が所定の閾値よりも小さければ、エレベータの運転を停止させることを特徴とした請求項1,2,3又は4に記載の巻上機用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−49534(P2013−49534A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189104(P2011−189104)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】