説明

希土類焼結磁石の製造方法

【課題】常温下でも成形体の作製が可能であり、優れた残留磁束密度を有する希土類焼結磁石を容易に製造することが可能な希土類焼結磁石の製造方法を提供すること。
【解決手段】希土類化合物を含む磁性粉末と、油及びゴムを含有する油展ゴムと、を含む混合物を成形して成形体を作製する成形工程と、成形体から油展ゴムを除去する脱溶媒工程と、油展ゴムを除去した成形体を焼成して希土類焼結磁石10を得る焼成工程と、を有する希土類焼結磁石10の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類焼結磁石は、通常、所定の組成を有する原料をプレス成形して、成形体を作製した後、当該成形体を焼成することによって製造される。希土類焼結磁石の製造方法としては、磁気特性の改善等を図るため、成形体を作製する前の原料として、スラリーを用いる湿式成形が提案されている。これは、乾式成形に比べて、磁性粉末の均一性を向上できることが主な要因である。このように、成形体の作製条件は、希土類焼結磁石の特性に大きく影響する。
【0003】
ところで、上述の湿式成形によって、異方性の希土類焼結磁石を製造する場合には、通常、加圧しながら磁場を印加する磁場中成形を行って、磁性粒子が所定の方向に磁場配向した成形体を作製する。この場合、磁性粉末同士の結着と磁場配向とが同時に行われることとなる。
【0004】
また、希土類焼結磁石用の成形体の別の作製方法として、熱可塑性バインダと磁性粉末とを混練した後、射出成形する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような製造方法では、通常、成形時に混練物を加熱することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−283358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにスラリーを用いて磁場中成形で成形体を作製する場合、磁場を印加しながら磁性粉末同士を結着させる必要があるため、磁性粉末の動きが制限されてしまい、十分に高い配向度が得ることは困難である。また、プレス方向に磁場配向させる場合、配向度を上げることは一層困難である。
【0007】
一方、上記特許文献1のような方法では、射出成形時に加熱することが必要であるため、製造プロセスや製造設備が複雑になるうえ、加熱に伴って磁性粉末が酸化して希土類焼結磁石の磁気特性が低下してしまうことが懸念される。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、常温下でも成形体の作製が可能であり、優れた残留磁束密度を有する希土類焼結磁石を容易に製造することが可能な希土類焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、希土類化合物を含む磁性粉末と、油及びゴムを含有する油展ゴムと、を含む混合物を成形して成形体を作製する成形工程と、成形体から油展ゴムを除去する脱溶媒工程と、油展ゴムを除去した成形体を焼成して希土類焼結磁石を得る焼成工程と、を有する希土類焼結磁石の製造方法を提供する。
【0010】
上記本発明の製造方法によれば、常温下でも成形体の作製が可能であり、優れた残留磁束密度を有する希土類焼結磁石を容易に製造することができる。このような効果が得られる理由としては次の要因が考えられる。すなわち、本発明の製造方法では、油展ゴムを含む混合物を用いて成形体を作製していることから、加熱しなくても所望の形状の成形体を容易に作製することができる。このため、製造設備を簡素化すること及び磁性粉末の酸化を十分に抑制することができる。また、加圧をせずに成形体を形成することができるため、磁場中成形時に、磁性粒子の配向が揃いやすく、配向度の高い希土類焼結磁石を得ることができる。このような要因によって、優れた残留磁束密度を有する希土類焼結磁石を容易に製造することが可能になる。ただし、本発明の効果が得られる要因は上述のものに限定されない。
【0011】
本発明の製造方法の成形工程では、混合物を押出成形して成形体を作製することが好ましい。これによって、優れた残留磁束密度を有する種々の形状の希土類焼結磁石を容易に大量生産することができる。また、希土類焼結磁石の製造における歩留まりを高くすることができる。
【0012】
また、本発明の製造方法におけるゴムは、構成元素として酸素を含まない高分子からなるものであることが好ましい。これによって、脱溶媒工程における希土類化合物の酸化を十分に抑制することが可能になり、一層磁気特性に優れる希土類焼結磁石を製造することができる。
【0013】
さらに、本発明の製造方法におけるゴムは、炭素間の結合が単結合のみである高分子からなるものであることが好ましい。これにより、希土類焼結磁石中に残留する炭素量を十分に低減することが可能になり、希土類焼結磁石の磁気特性をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法における混合物の磁性粉末の含有率は80〜95質量%であることが好ましい。このような範囲で磁性粉末を含有する混合物は、混練が容易であるとともに、適度な保形性を有する。このため、押出成形で一層容易に成形することができる。
【0015】
さらに、本発明の製造方法における上記脱溶媒工程は、成形体を加熱して成形体から主に油を除去する脱油工程と、成形体を加熱して成形体から主にゴムを除去する脱脂工程とを有していることが好ましい。脱溶媒工程を、このように2つの工程に分けて行うことによって、希土類焼結磁石に残存する炭素の含有率を一層低減することができる。これによって、一層優れた保磁力を有する希土類焼結磁石を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、常温下でも成形体の作製が可能であり、優れた残留磁束密度を有する希土類焼結磁石を容易に製造することが可能な希土類焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造方法によって得られる希土類焼結磁石の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
本実施形態の製造方法は、油及びゴムを含む油展ゴムと、希土類元素を含む化合物(希土類化合物)を含む磁性粉末と、をそれぞれ調製する準備工程と、磁性粉末と油展ゴムとを混練して粘土状の混練物を調製する混練工程と、当該混練物を成形して成形体を作製する成形工程と、成形体から油及びゴムを除去する脱溶媒工程と、油及びゴムを除去した成形体を焼成して希土類焼結磁石を得る焼成工程と、を有する。以下、各工程の詳細を説明する。
【0020】
準備工程では、油とゴムとを含む油展ゴムを調製する。この油展ゴムは、ゴムと油を配合して、ゴムに油を吸収させて得ることができる。油展ゴムは、ゴムが油で飽和された状態であることが好ましい。具体的には、ゴムに対する油の質量比は、好ましくは4以上であり、より好ましくは5〜7である。ゴムに対する油の質量比が大きくなり過ぎると、粘土状の混練物がべたついて取扱いが困難になる傾向にある。一方、ゴムに対する油の質量比が小さくなり過ぎると、混練物が粘土状にならず、混練物の保形性が損なわれて、押出成形が困難になる傾向にある。
【0021】
油とゴムとを配合する前に、ゴムをトルエンなどの有機溶媒中に溶解して溶液を調製することが好ましい。このようにゴムを有機溶媒に溶解させることによって、油展ゴムを容易に製造することができる。ゴムに対する有機溶媒の質量比率は、好ましくは5〜20であり、より好ましくは10〜20である。該質量比率が5未満であると、ゴムを十分に溶解し難くなる傾向にあり、該質量比率が20を超えると、溶媒を除去するのに長時間所要する傾向にある。なお、使用した有機溶媒は、ゴムと油を混合した後に、加熱及び/又は減圧して除去し、有機溶媒の含有量が十分に低減された油展ゴムを調製することが好ましい。
【0022】
油としては、鉱物油、合成油、植物油、動物油などの種々の潤滑油を用いることができる。好ましい油としては、ポリα−オレフィン等の炭化水素油、カルボン酸、脂肪酸等が挙げられ、具体的にはイソパラフィンが挙げられる。
【0023】
ゴムとしては、通常の合成ゴムを用いることができる。希土類化合物の酸化を抑制する観点から、化学構造に酸素を有しないゴム、すなわち、ゴムの高分子を構成する元素として酸素を含まないゴムが好ましい。また、ゴムとしては、希土類焼結磁石中に残留する炭素量を低減する観点から、好ましくは、二重結合及び/又は芳香族環を含有しない高分子で構成されるものであり、より好ましくは、炭素間の結合が単結合のみからなる高分子で構成されるものである。このような例として、主鎖中にポリメチレン鎖(メチレン基が例えば10個以上連結したもの)を有する高分子が挙げられる。なお、硫化による特性劣化を防止する観点から、ゴムの高分子を構成する元素として硫黄を含まないゴムが好ましい。
【0024】
ゴムの具体例としては、ポリイソブチレン(PIB)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、及びジエン含有エチレンプロピレンゴム(EPDM)等が挙げられる。これらの中でも、希土類焼結磁石中に残留する炭素量を低減する観点から、PIB及びEPMが好ましい。
【0025】
磁性粉末は、以下の手順で調製することができる。まず、希土類元素(R)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、及び任意元素を所定の比率で含む組成物を鋳造し、希土類化合物(R−Fe−B系金属間化合物)を含むインゴットを得る。得られたインゴットを、スタンプミル等を用いて粒径10〜100μm程度に粗粉砕し、続いて、ボールミル等を用いて粒径0.5〜5μm程度に微粉砕して希土類化合物を含む磁性粉末を得る。
【0026】
希土類元素は、長周期型周期表の3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む。ここで、ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)を含む。
【0027】
希土類元素は、上述したもののうち、Nd、Pr、Ho及びTbから選ばれる少なくとも1種の元素、又は、La、Sm、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb及びYから選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
【0028】
R−Fe−B系金属間化合物としては、NdFe14Bで表されるNd−Fe−B系の化合物が挙げられる。なお、磁性粉末に含まれる希土類化合物はR−Fe−B系金属間化合物に限定されるものではなく、例えば、SmCoやSmCo17で表されるSm−Co系の化合物、又はSm−Fe−N系の化合物であってもよい。
【0029】
混練工程では、磁性粉末と油展ゴムとを混練して粘土状の混練物(コンパウンド)を調製する。混練物における磁性粉末の含有率は、好ましくは80〜95質量%であり、より好ましくは88〜92質量%である。該含有率が大きくなりすぎると、配向度が低下する傾向及び十分な保形性を有する成形体が得られ難くなる傾向にあり、該含有率が小さくなりすぎると、混練物がべたついて取り扱い難くなる傾向にある。混練は、ニーダー等、市販の混練装置を用いて行うことができる。
【0030】
成形工程では、混練物を磁場中成形して成形体を作製する。成形方法は特に制限されず、押出成形、射出成形、加圧成形など、種々の成形方法を採用することができる。本実施形態の製造方法は、押出成形によって成形体を作製することができる。これによって、種々の形状の成形体を、容易に且つ高い歩留まりで大量生産することができる。
【0031】
押出成形は、通常の押出成形機を用いて行うことができる。この際、例えば押出成形機の押出口付近で磁場を印加すれば、押出成形を行いながら、磁場配向させることができる。このような方法では、成形体が加圧されていない状態で磁場を印加できるため、油の潤滑作用との相乗作用によって、磁性粒子(一次粒子)が動き易くなって配向が揃い易くなり、配向度が十分に高い異方性の希土類焼結磁石を製造することが可能になる。印加する磁場の強度は、例えば800〜1600kA/mとすることができる。また、押出成形に用いる成形機の押出口の形状を変えることによって、種々の形状、例えば、円柱形状の成形体やシート形状の成形体を作製することができる。
【0032】
脱溶媒工程では、成形体に含まれる油展ゴムを加熱及び/又は減圧することによって除去する。この脱溶媒工程を行うことによって、希土類焼結磁石に残存する炭素の含有率を低減することができる。脱溶媒工程は、主に油を除去する脱油工程と、主にゴムを除去する脱脂工程との2工程に分けて行ってもよい。通常、ゴムよりも油の方が容易に除去することができるため、脱油工程は脱脂工程よりも低い加熱温度で行うことができる。このような2段階の工程を行えば、油として、分子中に構成元素として酸素を有するものを用いても、磁性粉末が酸化することを十分に抑制することができる。
【0033】
脱油工程は、例えば圧力が10kPa以下である減圧下又は真空下において、80〜150℃で0.5〜5時間加熱することによって行うことができる。このような条件下で加熱することによって、成形体から油を除去することができる。また、油展ゴムが有機溶媒を含有する場合には、当該有機溶媒も除去することができる。なお、脱油工程において成形体に含まれる全ての油を除去する必要はなく、一部の油のみを除去してもよい。また、脱油工程で除去することができなかった油は、後述する脱脂工程で除去することができる。
【0034】
脱油工程で、一部のゴムの分解、及び分解によって生じた分解物の除去が進行してもよい。脱油工程における昇温速度は、好ましくは1〜30℃/分、より好ましくは5〜20℃/分とする。これによって、設備の制約を回避しつつ工程の長期化を抑制して効率よく成形体から油を除去することができる。なお、本明細書における昇温速度は、昇温前と昇温後の温度差を、昇温に所要した時間で割ることによって求めることができる。
【0035】
脱脂工程は、例えば、室温から400〜600℃にまで徐々に昇温した後、必要に応じて400〜600℃で0〜10時間保持することによって行うことができる。昇温後の保持は、必ずしも行わなくてもよい。このような条件で加熱することによって、ゴムはそのまま成形体から除去されるか、又は熱分解した後、成形体から除去される。
【0036】
脱脂工程における昇温速度は、好ましくは5℃/時以上、より好ましくは20〜200℃/時とする。昇温速度が速過ぎると、ゴムの分解、及び分解物の排除が円滑に進行し難くなる傾向にある。これによって、希土類焼結磁石における、ゴムの分解物に由来する炭素の含有率が増加する傾向にある。一方、昇温速度が遅過ぎると、工程に長時間所要してしまい、生産性が低下する傾向にある。
【0037】
脱脂工程は、大気圧と同程度の圧力下、水素ガス雰囲気又はアルゴンガス雰囲気中で行ってもよく、10kPa以下の減圧下又は真空下で行ってもよい。このような条件で脱脂工程を行うことによって、ゴムの分解、及び分解物の排除を円滑に行うことができる。脱脂工程を水素ガス雰囲気下で行えば、ゴムを構成する高分子の主鎖を一部分解して低分子化することができ、炭素含有量が一層低減された希土類焼結磁石を得ることができる。
【0038】
なお、脱溶媒工程は、上述のような2段階の工程に限定されるものではなく、例えば、脱油工程を行わずに、脱脂工程に相当する工程のみを行って、油の除去とゴムの除去とを同時に行ってもよい。
【0039】
焼成工程では、溶媒を除去した成形体を焼成して希土類焼結磁石を得る。焼成は、例えば、減圧、真空又は不活性ガス雰囲気の加熱炉の中で、成形体を1000〜1200℃で1〜10時間加熱し、その後、放冷することによって希土類焼結磁石を得ることができる。
【0040】
焼成工程で得られる希土類焼結磁石は、必要に応じて、所望の形状及びサイズに加工することができる。なお、希土類焼結磁石には、必要に応じて、後述する時効処理工程を施してもよい。
【0041】
時効処理工程では、焼成工程で得られた焼結体を焼成工程よりも低い加熱温度で加熱する。時効処理は、例えば、700〜900℃で1〜3時間加熱した後、400〜700℃で1〜3時間加熱する2段階加熱や、600℃付近で1〜3時間加熱する1段階加熱等の条件で行う。このような時効処理によって、希土類焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。
【0042】
図1は、上記実施形態の製造方法によって得られる希土類焼結磁石の一例を示す斜視図である。希土類焼結磁石10は、押出成形時に磁場を印加する磁場中成形を行って得られたものであるため、高い配向度を有する。希土類焼結磁石10は、例えば、95〜97%の配向度を有するため、高い残留磁束密度を有している。また、希土類焼結磁石10は、油展ゴムと磁性粉末との混練物から得られた成形体を用いて作製されているものの、脱溶媒工程によって成形体中に残留する炭素量が十分に低減されるため、優れた保磁力を有する。希土類焼結磁石10の保磁力を一層向上させる観点から、希土類焼結磁石10の炭素含有率は、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.5質量以下とする。
【0043】
希土類焼結磁石10が、希土類化合物としてNd−Fe−B系金属間化合物を含有する焼結磁石である場合、Nd−Fe−B系金属間化合物の含有割合は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。Nd−Fe−B系金属間化合物の含有割合が低くなると、優れた磁気特性が得られ難くなる傾向にある。
【0044】
希土類焼結磁石10中の希土類元素の含有割合は、好ましくは8〜40質量%であり、より好ましくは15〜35質量%である。希土類元素の含有割合が8質量%未満であると、高い保磁力を有する希土類焼結磁石10が得られ難くなる傾向にある。一方、希土類元素の含有割合が40質量%を超えると、Rリッチな非磁性相が多くなり、希土類焼結磁石10の残留磁束密度が低下する傾向にある。
【0045】
希土類焼結磁石10中のFeの含有割合は、好ましくは42〜90質量%であり、より好ましくは60〜80質量%である。Feの含有割合が42質量%未満であると希土類焼結磁石10のBrが低下する傾向にあり、90質量%を超えると希土類焼結磁石10の保磁力が低下する傾向にある。
【0046】
希土類焼結磁石10中のBの含有割合は、好ましくは0.5〜5質量%である。Bの含有割合が0.5質量%未満であると、希土類焼結磁石10の保磁力が低下する傾向にあり、5質量%を超えるとBリッチな非磁性相が多くなるため、希土類焼結磁石10の残留磁束密度が低下する傾向にある。
【0047】
なお、Feの一部をコバルト(Co)で置換してもよい。これによって、希土類焼結磁石10の磁気特性を損なうことなく温度特性を改善することができる。また、Bの一部を炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)及び銅(Cu)からなる群より選ばれる1種以上の元素で置換してもよい。これによって、希土類焼結磁石10の生産性が向上し、その生産コストを削減することができる。
【0048】
希土類焼結磁石10の保磁力の向上、生産性の向上及び低コスト化の観点から、任意元素として、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)及び/又はハフニウム(Hf)等のうちの1種以上の元素を含んでいてもよい。
【0049】
希土類焼結磁石10には、不可避的不純物として、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び/又はカルシウム(Ca)等が含まれていてもよい。このような希土類焼結磁石10は、例えば、電動機器の回転素子等に好適に用いることができる。
【0050】
本実施形態の製造方法によれば、成形工程までの工程を、常温で行うことができるうえに、成形方法として押出成形が採用できるため、種々の形状を有する配向度の高い希土類焼結磁石を容易に且つ高い歩留まりで量産することができる。また、加熱せずに成形体を作製することができるため、希土類化合物を含む磁性粉末の酸化を十分に抑制することが可能になり、一層磁気特性に優れた希土類焼結磁石を得ることができる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
本発明の内容を実施例及び比較例を参照してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
[準備工程]
<油展ゴムの調製>
【0054】
エチレンプロピレン(JSR株式会社製、商品名:EP11)70gと、トルエン1120gとを配合し、ホモジェッター(特殊機化工業製)を用いて、撹拌回転数:5000rpm、攪拌時間:75分間の条件で攪拌して、溶液1190gを得た。
【0055】
この溶液に、イソパラフィン(エクソン社製、商品名:アイソパーM)420gを添加し、上述のホモジェッターを用いて、撹拌回転数:5000rpm、攪拌時間:45分間の条件で攪拌して溶液を得た。当該溶液を、スリーワンモーター(新東科学株式会社製)を用い、撹拌回転数:300rpm、乾燥時間:6時間の条件で真空撹拌してトルエンを蒸発させ、油展ゴム490gを調製した。
【0056】
<Nd−Fe−B系粉末の調製>
ストリップキャスト法によって、希土類化合物として、下記の組成を有するNd−Fe−B系合金を調製した。
Nd:30質量%
Co:1.0質量%
Cu:0.1質量%
Al:0.2質量%
B :1.0質量%
Zr:0.2質量%
Fe:残部(但し、不可避不純物を含む)
【0057】
上述のNd−Fe−B系合金をロータリーキルンにて100kPaの水素ガス雰囲気下で粗粉砕した後、100kPaのアルゴンガス雰囲気下、温度600℃で脱水素処理を行って、粗粉砕粉末を得た。この粗粉砕粉末にステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、Nガス気流中でジェットミル粉砕を行って、平均粒径4μmのNd−Fe−B系合金粉末を得た。
【0058】
[混練工程]
得られたNd−Fe−B系合金粉末560gに、上述の手順で調製した油展ゴム70gを添加し、プラネタリーミキサー(特殊機化工業株式会社製、商品名:ハイビスミックス)を用い、回転数:50rpm、混練時間:30分間の条件で混練して、油展ゴム及びNd−Fe−B系合金粉末の混練物であるコンパウンド630gを得た。
【0059】
[成形工程]
押出成形機(東洋精機製作所製、商品名:ラボプラストミル、ノズル形状:縦18mm×横12mm)を用い、回転数:50rpm、シリンダ温度:25℃の条件で、ノズルの縦方向に1200kA/mの磁場を印加しながら、上記混練物の押出成形を行って、角柱形状の成形体を得た。この成形体をワイヤーカッターにて長さ20mmに切断し、長さ20mm×幅18mm×厚さ12mmの寸法を有する成形体を作製した。成形体における磁性粉末の含有率は、表1に示す通りであった。
【0060】
[脱溶媒工程]
縦150mm×横150mm×深さ150mmの寸法を有するトレーの上に、作製した成形体を15個載置し、以下に説明する脱油工程と脱脂工程を順次行った。
【0061】
<脱油工程>
第1電気炉を用いて、アルゴンガスを6L/分で流通させながら、100kPaのアルゴンガス雰囲気下、室温から100℃まで10℃/分で昇温した。そして、100℃で50分間保持した後、電気炉内の排気を行い、減圧(≦1kPa)下、100℃で1.5時間保持した。その後、室温まで放冷した。
【0062】
<脱脂工程>
第2電気炉を用いて、水素ガスを1L/分で流通させながら、100kPaの水素ガス雰囲気下、室温から500℃まで4時間かけて昇温した(昇温速度:120℃/時)。昇温後、室温まで放冷して、脱脂体を得た。
【0063】
[焼成工程]
得られた脱脂体を、第3電気炉を用いて、減圧(≦1kPa)下、10℃/分で1050℃まで昇温した。そして、1050℃で4時間保持した後、アルゴンガスを6L/分で流通させながら室温まで放冷し、焼結体を得た。
【0064】
[時効処理工程]
得られた焼結体を、第4電気炉を用いて、アルゴンガスを6L/分で流通させながら、10℃/分で800℃まで昇温した。そして、800℃で1時間保持した後、室温まで放冷した。その後、アルゴンガスを6L/分で流通させながら、10℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持した。その後、室温まで冷却して、実施例1の希土類焼結磁石を得た。
【0065】
[希土類焼結磁石の評価]
上述の通り製造した希土類焼結磁石の相対密度をアルキメデス法によって測定した。また、希土類焼結磁石の残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を、BHトレーサーを用いて測定した。また、希土類焼結磁石中の炭素の含有率を、高周波加熱燃焼−赤外線吸収法によって測定した。具体的には、希土類焼結磁石をスタンプミルで粉砕し、測定試料として粉砕粉0.1gを準備した。そして、炭素定量分析装置(堀場製作所製,EMIA−920)を用い、酸素気流中で、測定試料の炭素の含有率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2〜20)
ゴムの種類、磁性粉末の種類、原料配合比及び脱脂工程の昇温時間の少なくとも一つを、表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして希土類焼結磁石を作製し、実施例1と同様にして希土類焼結磁石の評価を行った。希土類焼結磁石の作製条件及び評価結果を、纏めて表1に示す。なお、実施例20において、Nd−Fe−B系粉末の代わりに用いたSm−Co系粉末は、以下のとおり調製した。
【0067】
<Sm−Co系粉末の調製>
ストリップキャスト法によって、希土類化合物として、下記の組成を有するSm−Co系合金を調製した。
Sm:26.4質量%
Fe:15.9質量%
Cu: 7.4質量%
Zr: 2.2質量%
Co:残部(但し、不可避不純物を含む)
【0068】
上述のSm−Co系合金をロータリーキルンにて100kPaの水素ガス雰囲気下で粗粉砕した後、100kPaのアルゴンガス雰囲気下、温度600℃で脱水素処理を行って、粗粉砕粉末を得た。この粗粉砕粉末にステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加し、Nガス気流中でジェットミル粉砕を行って、平均粒径4μmのSm−Co系合金粉末を得た。
【0069】
(比較例1〜3)
ゴムの種類、原料配合比及び脱脂工程の昇温時間の少なくとも一つを、表1に示す通りに変更した。なお、熱可塑性バインダとしてポリエチレン又はポリプロピレンを用いた比較例1及び2は、成形工程において加熱をしながら押出成形を行った。このこと以外は、実施例1と同様にして希土類焼結磁石を作製し、実施例1と同様にして希土類焼結磁石の評価を行った。希土類焼結磁石の作製条件及び評価結果を、纏めて表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示す結果によれば、ゴムとしてエチレンプロピレンゴム(EPM)を用いた場合の方が、スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた場合よりも、希土類焼結磁石の相対密度が高く且つ炭素含有率が低かった。これは、ゴムを構成する高分子の分子構造にベンゼン環を有するSBRよりも、ベンゼン環を有しないEPMの方が、高分子の分解及び分解によって生じる分解物の排除が円滑に進行するためであると考えられる。また、実施例1〜9の結果から、脱脂工程の昇温速度を遅くした方が、炭素の含有率を低減できることが確認された。昇温速度を遅くすることによって、成形体中のゴムの分解及び分解物の排除が円滑に進行するためであると考えられる。
【0072】
実施例1〜9の結果から、成形体における磁性粉末の含有率を高くした方が、炭素含有率が低くなり、高いHcJを有する希土類焼結磁石が得られた。また、実施例1,14〜16の結果から、ゴムに対する油の配合比率(質量比)を6〜7にすることによって、一層配向度の高い(Brの高い)希土類焼結磁石が得られることが確認された。なお、熱分解GC/MS分析により測定した比較例1及び2の希土類焼結磁石中の酸素含有量は、それぞれ11000ppm及び15000ppmであった。また、油展ゴムの調製においてイソパラフィンを用いなかった比較例3は、成形工程において成形体を作製することができず、希土類焼結磁石を作製することができなかった。
【符号の説明】
【0073】
10…希土類焼結磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類化合物を含む磁性粉末と、油及びゴムを含有する油展ゴムと、を含む混合物を成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体から前記油展ゴムを除去する脱溶媒工程と、
前記油展ゴムを除去した前記成形体を焼成して希土類焼結磁石を得る焼成工程と、を有する希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程において、前記混合物を押出成形して前記成形体を作製する、請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記ゴムは構成元素として酸素を含まない高分子からなる、請求項1又は2に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記ゴムは炭素間の結合が単結合のみである高分子からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記混合物における前記磁性粉末の含有率は80〜95質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記脱溶媒工程は、前記成形体を加熱して前記成形体から主に前記油を除去する脱油工程と、前記成形体を加熱して前記成形体から主に前記ゴムを除去する脱脂工程とを有している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−135041(P2011−135041A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217156(P2010−217156)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】