説明

干渉フィルター、光モジュール、及び分析装置

【課題】性能低下が抑制される干渉フィルターを提供すること。
【解決手段】干渉フィルター5は、ギャップGを介して対向する2つの反射膜56,57と、反射膜56,57を支持する基板51,52と、を備え、反射膜56,57は、純銀膜561,571と銀合金膜562,572とを含み、基板51,52には、基板51,52側から順に純銀膜561,571、及び銀合金膜562,572が設けられ、銀合金膜562,572は、銀(Ag)、サマリウム(Sm)、及び銅(Cu)を含有するAg−Sm−Cu合金膜、又は銀(Ag)、ビスマス(Bi)、及びネオジム(Nd)を含有するAg−Bi−Nd合金膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉フィルター、この干渉フィルターを備える光モジュール、及びこの光モジュールを備える分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の基板の互いに対向する面に、それぞれ反射膜としてのミラーを対向配置する干渉フィルターが知られている。このような干渉フィルターは、互いに平行に保持された一対の基板と、この一対の基板上に互いに対向すると共に一定間隔のギャップを有するように形成された一対のミラー(反射膜)とを備える。
このような干渉フィルターでは、一対のミラー間で光を反射させ、特定波長の光のみを透過させて、その他の波長の光を干渉により打ち消し合わせることで、入射光から特定波長の光のみを透過させる。
【0003】
ミラーには、誘電体膜や金属膜が使用される。ミラーに求められる機能としては、高い反射特性、及び透過性である。このような機能を考えると、金属膜では、銀(Ag)が有力な候補といえる。
しかし、Agで構成された膜(Ag膜。以下、純銀膜とも称する。)は、高温耐性やプロセス耐性が低い。プロセス耐性とは、例えば、成膜後のミラーを所望の形状にパターニングする際に行われるパターニングプロセス中の各工程条件に対する耐久性を指す。プロセス中の条件とは、例えば、高温ベークや、有機溶剤によるレジスト剥離等である。このプロセス加工後のAg膜の反射率の低下は大きく、ミラーに求められる機能を十分に発揮できず、干渉フィルターの性能低下が生じていた。また、Ag膜は、経時変化による反射率の低下も大きい。
このような背景から、ミラーに使用される材料について検討がなされた。
例えば、特許文献1には、純銀に炭素(C)を添加したAg−C合金をミラーに使用した干渉フィルターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−251105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたAg−C合金膜をミラーとして使用しても、干渉フィルターの性能低下が生じている。干渉フィルターのミラーにAg−C合金膜を使用した場合では、純銀膜を使用した場合よりも、高温耐性やプロセス耐性が向上するが、反射率の低下が生ずる。また、反射率を向上させるために、Ag−C合金膜の膜厚を厚くすると、透過率が低下し、フィルターとしての検出感度が低下してしまう。そのため、フィルター性能の低下が抑制された干渉フィルターが望まれている。
【0006】
本発明の目的は、性能低下が抑制される干渉フィルター、この干渉フィルターを備える光モジュール、及びこの光モジュールを備える分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の干渉フィルターは、ギャップを介して対向する2つの反射膜と、前記反射膜を支持する基板と、を備え、前記反射膜は、純銀膜、及び銀合金膜を含み、前記基板には、前記基板側から順に前記純銀膜、及び前記銀合金膜が設けられ、前記銀合金膜は、銀(Ag)、サマリウム(Sm)、及び銅(Cu)を含有するAg−Sm−Cu合金膜、又は銀(Ag)、ビスマス(Bi)、及びネオジム(Nd)を含有するAg−Bi−Nd合金膜であることを特徴とする。
【0008】
干渉フィルターにおける反射膜は光を透過する透過特性と光を反射する反射特性を有し、例えば外部より一方の反射膜を透過して2つ(一対)の反射膜の間に入射した光は、反射膜間で反射をし、特定の波長の光を一方あるいは他方の反射膜から通過させる。
本発明によれば、2つ(一対)の反射膜は、純銀膜と銀合金膜とを含む。そのため、反射膜を銀合金膜単層(銀合金膜だけで反射膜を構成したもの)とした場合のような反射率の低下を抑えて、純銀膜単層(純銀膜だけで反射膜を構成したもの)の反射率に近づけることができる。
さらに、基板に対して基板側から順に純銀膜、及び純銀よりも高温耐性やプロセス耐性に優れた銀合金膜が設けられている。そのため、純銀膜は、銀合金膜で覆われることになり、純銀膜単層の場合よりも、プロセス加工や経時変化による反射率低下が小さくなる。
このようにして、干渉フィルターの性能低下が抑制される。
【0009】
本発明の干渉フィルターは、ギャップを介して対向する2つの反射膜と、前記反射膜を支持する基板と、を備え、前記反射膜は、純銀膜と銀合金膜とを含み、前記基板には、前記基板側から順に前記純銀膜、及び前記銀合金膜が設けられ、前記銀合金膜は、
銀(Ag)、及び金(Au)を含有するAg−Au合金膜、
銀(Ag)、及び銅(Cu)を含有するAg−Cu合金膜、
銀(Ag)、金(Au)、及び銅(Cu)を含有するAg−Au−Cu合金膜、
銀(Ag)、ケイ素(Si)、及び銅(Cu)を含有するAg−Si−Cu合金膜、
銀(Ag)、リン(P)、及び銅(Cu)を含有するAg−P−Cu合金膜、
銀(Ag)、リン(P)、インジウム(In)、及び銅(Cu)を含有するAg−P−In−Cu合金膜、
銀(Ag)、テルル(Te)、及び銅(Cu)を含有するAg−Te−Cu合金膜、
銀(Ag)、ガリウム(Ga)、及び銅(Cu)を含有するAg−Ga−Cu合金膜、及び
銀(Ag)、インジウム(In)、及びスズ(Sn)を含有するAg−In−Sn合金膜、
のいずれかであることを特徴とする。
【0010】
この本発明によれば上記発明と同様に、2つ(一対)の反射膜は、純銀膜と銀合金膜とを含むため、反射膜の反射率を純銀膜単層の反射率に近づけることができる。
さらに、純銀膜に重なり銀合金膜が形成されていることからプロセス加工や経時変化による反射膜の反射率低下を抑制することができる。
このようにして、干渉フィルターの性能低下が抑制される。
【0011】
本発明において、前記反射膜の厚さは、30nm以上80nm以下であり、前記銀合金膜の厚さは、10nm以上であることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、干渉フィルターの反射膜の厚さが、30nm以上80nm以下、かつ、銀合金膜の厚さが10nm以上である。そのため、反射膜の膜厚が厚くなりすぎず、透過率の低下が抑えられ、干渉フィルターの性能低下が防止される。また、反射膜には、銀合金膜によって高温耐性やプロセス耐性が付与されるので、プロセス後や経時変化による透過率の変化も抑制される。その結果、干渉フィルターの反射膜に求められる、光の反射、及び透過という二つの特性の低下が抑制される。
【0013】
本発明において、前記銀合金膜が、Ag−Sm−Cu合金膜であり、前記Ag−Sm−Cu合金膜は、Sm含有量が0.1原子%以上0.5原子%以下であり、Cu含有量が0.1原子%以上0.5原子%以下であり、Sm及びCuの合計含有量が1原子%以下であることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、Ag−Sm−Cu合金膜が上記組成となっているので、プロセス加工や経時変化による反射率低下が、さらに小さくなり、干渉フィルターの性能低下がより確実に抑制される。なお、Sm及びCuの含有量が0.1原子%未満であると、プロセス加工や経時変化による反射率低下が大きくなる。Sm及びCuの含有量が0.5原子%を超えると、反射率が低くなる。さらに、Sm及びCuの含有量の合計が、1原子%を超えると、反射率が低くなる。
【0015】
また、本発明において、前記銀合金膜が、前記Ag−Bi−Nd合金膜であり、前記Ag−Bi−Nd合金膜は、Bi含有量が0.1原子%以上3原子%以下であり、Nd含有量が0.1原子%以上5原子%以下であることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、Ag−Bi−Nd合金膜が上記組成となっているので、プロセス加工や経時変化による反射率低下が、さらに小さくなり、干渉フィルターの性能低下がより確実に抑制される。なお、Bi及びNdの含有量が0.1原子%未満であると、プロセス加工や経時変化による反射率低下が大きくなる。Biの含有量が3原子%を超えると、又はNdの含有量が5原子%を超えると、反射率が低くなる。
【0017】
さらに、本発明において、前記銀合金膜が、
前記Ag−Au合金膜である場合は、Au含有量が0.1原子%以上10原子%以下であり、
前記Ag−Cu合金膜である場合は、Cu含有量が0.1原子%以上10原子%以下であり、
前記Ag−Au−Cu合金膜である場合は、Au含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Au及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−Si−Cu合金膜である場合は、Si含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Si及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−P−Cu合金膜である場合は、P含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、P及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−P−In−Cu合金膜である場合は、P含有量が0.1原子%以上であり、In含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、P、In及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−Te−Cu合金膜である場合は、Te含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Te及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−Ga−Cu合金膜である場合は、Ga含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Ga及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−In−Snである場合は、In含有量が0.1原子%以上であり、Sn含有量が0.1原子%以上であり、かつ、In及びSnの合計含有量が10原子%以下である、
ことが好ましい。
【0018】
この発明によれば、本発明に係る上記合金膜が上記組成となっているので、プロセス加工や経時変化による反射率低下が、さらに小さくなり、干渉フィルターの性能低下がより確実に抑制される。なお、本発明に係る上記合金膜に含まれる各元素(Au,Cu,Si,P,In,Te,Ga,Sn,)の含有量が0.1原子%未満であると、プロセス加工や経時変化による反射率低下が大きくなる。本発明に係る上記合金膜に含まれる各元素の合計含有量が10原子%を超えると、反射率が低くなる。
【0019】
本発明において、前記反射膜は、誘電体膜、前記純銀膜、及び前記銀合金膜を含み、前記基板には、前記基板側から順に前記誘電体膜、前記純銀膜、及び前記銀合金膜が設けられていることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、反射膜には、誘電体膜が設けられているので、誘電体膜が設けられていない場合に比べて、可視光波長範囲の内、短波長側の反射率を向上させることができる。なお、本発明において、可視光波長範囲は、400nm以上700nm以下の範囲とする。
【0021】
本発明において、前記誘電体膜は、酸化チタン(TiO)の単層膜、又は酸化チタン(TiO)もしくは五酸化タンタル(Ta)の層と酸化ケイ素(SiO)もしくはフッ化マグネシウム(MgF)の層とを積層させた多層膜であることが好ましい。
【0022】
この発明によれば、誘電体膜が、このような化合物で構成されるので、短波長側の反射率を向上させる効果が優れる。
【0023】
本発明において、前記反射膜は、前記誘電体膜、前記純銀膜、前記銀合金膜、及び保護膜を含み、前記基板には、前記基板側から順に前記誘電体膜、前記純銀膜、前記銀合金膜、及び前記保護膜が設けられていることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、純銀膜、及び銀合金膜が保護膜で覆われることになり、プロセス加工や経時変化による反射膜中の純銀膜、及び銀合金膜の反射率低下がさらに小さくなる。よって、干渉フィルターの性能低下がさらに確実に抑制される。
【0025】
本発明において、前記保護膜は、酸化ケイ素(SiO)、酸窒化ケイ素(SiON)、窒化ケイ素(SiN)、及びアルミナのいずれかを含むことが好ましい。
【0026】
この発明によれば、保護膜が、このような化合物で構成されるので、プロセス加工や経時変化による反射率低下を抑制する効果が優れる。
【0027】
本発明の光モジュールは、上記いずれかに記載の干渉フィルターと、この干渉フィルターにより取り出される光の光量を検出する検出部と、を備えたことが好ましい。
【0028】
この発明によれば、干渉フィルターは、純銀に近い反射率を有し、その性能低下が上述したように抑制される。したがって、このような干渉フィルターから取り出された光を検出部にて検出させることができる。そのため、光モジュールは、所望波長の光の光量を正確に検出できる。
【0029】
本発明の分析装置は、前記検出部により検出された光の光量に基づいて、光分析処理を実施する処理部と、を備えたことが好ましい。
【0030】
ここで、分析装置としては、上記のような光モジュールにより検出された光の光量に基づいて、干渉フィルターに入射した光の色度や明るさなどを分析する光測定器、ガスの吸収波長を検出してガスの種類を検査するガス検出装置、受光した光からその波長の光に含まれるデータを取得する光通信装置などを例示することができる。
この発明によれば、上述したように、光モジュールにより、所望波長の光の正確な光量を検出できる。そのため、分析装置では、このような正確な光量に基づいて、正確な分析処理を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る第一実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
【図2】第一実施形態の干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す平面図である。
【図3】図2において、干渉フィルターのIII−III線に沿う矢視断面図である。
【図4】本発明に係る第二実施形態の干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図5】本発明に係る第三実施形態の干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る実施形態について、図面に基づいて説明する。
<第一実施形態>
〔1.測色装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
この測色装置1は、本発明の分析装置であり、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、本発明の光モジュールである測色センサー3と、測色装置1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この測色装置1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサー3にて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定する装置である。
【0033】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。
なお、本実施形態では、光源装置2を備える測色装置1を例示するが、例えば被検査対象Aが液晶パネルなどの発光部材である場合、光源装置2が設けられない構成としてもよい。
【0034】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、図1に示すように、本発明の干渉フィルターを構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光する検出部31と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御手段6と、を備えている。また、測色センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。エタロン5は、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光のみを分光する。そして、測色センサー3は、エタロン5により分光された光を検出部31にて受光する。
検出部31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、検出部31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0035】
(3−1.エタロンの概略構成)
図2は、本発明の干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す平面図であり、図3は、エタロン5の概略構成を示す断面図である。なお、図1では、エタロン5に検査対象光が図中下側から入射しているが、図3では、検査対象光が図中上側から入射するものとする。なお、エタロン5は、外力により2つ(一対)のミラー間のギャップの大きさを変化させる、いわゆる、波長可変干渉フィルターである。
エタロン5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。そして、エタロン5は、図3に示すように、2つ(一対)の基板を備え、本実施形態では、それぞれ、第一基板51、及び第二基板52とする。
【0036】
第一基板51と、第二基板52との間には、一対の反射膜として固定ミラー56と可動ミラー57とが設けられる。
第一基板51には、一方の反射膜としての固定ミラー56が設けられ、第二基板52には、他方の反射膜としての可動ミラー57が設けられている。ここで、固定ミラー56は、第一基板51の第二基板52に対向する面に固定され、可動ミラー57は、第二基板52の第一基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定ミラー56及び可動ミラー57は、ミラー間ギャップGを介して対向配置されている。
さらに、第一基板51と第二基板52との間には、固定ミラー56および可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法を調整するための静電アクチュエーター54が設けられている。静電アクチュエーター54は、第一基板51側に設けられる第一変位用電極(固定電極)541、及び第二基板52側に設けられる第二変位用電極(可動電極)542を有し、これらの電極は対向して配置される。これらの第一変位用電極541及び第二変位用電極542に対して電圧を印加すると、第一変位用電極541及び第二変位用電極542間に静電引力が働き、第二基板52が変形して、ミラー間ギャップGの寸法が変化する。このミラー間ギャップGの寸法に応じて、エタロン5から出射される光の波長が変化する。
エタロン5の詳細な構成については、後述することとし、次に、一対の反射膜としての固定ミラー56と可動ミラー57について説明する。
【0037】
(3−1−1.一対の反射膜の構成)
本実施形態において、一対の反射膜の内、一方の固定ミラー56は、純銀膜561と銀合金膜562とを含み、他方の可動ミラー57は、純銀膜571と銀合金膜572とを含む。そして、図3に示すように、固定ミラー56は、第一基板51側から順に純銀膜561、及び銀合金膜562が積層されて構成される。同じく、可動ミラー57は、第二基板52側から順に純銀膜571、及び銀合金膜572が積層されて構成される。
【0038】
純銀膜561,571は、銀合金膜のような他の添加成分を含まず、実質的に銀(Ag)からなる膜である。但し、この純銀膜は、銀元素以外にも、本発明の作用効果を損なわない範囲で、微量な不純物元素(例えば、酸素、窒素等)を含んでもよい。
銀合金膜562,572は、銀と銀以外の添加成分とを含む。銀合金膜562,572としては、以下の合金膜が好ましい。
・Ag−Sm−Cu合金膜(銀(Ag)、サマリウム(Sm)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−Bi−Nd合金膜(銀(Ag)、ビスマス(Bi)、及びネオジム(Nd)を含有する)
・Ag−Au合金膜(銀(Ag)、及び金(Au)を含有する)
・Ag−Cu合金膜(銀(Ag)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−Au−Cu合金膜(銀(Ag)、金(Au)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−Si−Cu合金膜(銀(Ag)、ケイ素(Si)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−P−Cu合金膜(銀(Ag)、リン(P)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−P−In−Cu合金膜(銀(Ag)、リン(P)、インジウム(In)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−Te−Cu合金膜(銀(Ag)、テルル(Te)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−Ga−Cu合金膜(銀(Ag)、ガリウム(Ga)、及び銅(Cu)を含有する)
・Ag−In−Sn合金膜(銀(Ag)、インジウム(In)、及びスズ(Sn)を含有する)
【0039】
これらの合金膜は、いずれも、実質的に、Ag、及び各合金膜に含まれる各元素(Sm,Cu,Bi,Nd,Au,Si,P,In,Te,Ga,Sn,)で構成される。但し、これらの合金膜は、合金膜を構成する上記の各元素以外にも、本発明の作用効果を損なわない範囲で、微量な不純物元素(例えば、酸素、窒素等)を含んでもよい。
【0040】
このように、固定ミラー56、及び可動ミラー57は、いずれも純銀膜561,571と銀合金膜562,572とを含む。そのため、銀合金膜562,572だけで固定ミラー56、及び可動ミラー57を構成する場合のような反射率低下が抑えられ、純銀膜561,571単層とした場合の反射率に近づけることができる。
さらに、純銀よりも高温耐性やプロセス耐性に優れた銀合金膜562,572が、純銀膜561,571に対して積層されて設けられているので、純銀膜561,571の表面が銀合金膜562,572によって覆われる。故に、純銀膜561,571だけで固定ミラー56、及び可動ミラー57を構成する場合よりも、プロセス加工や経時変化による反射率低下が小さくなる。
このようにして、干渉フィルターの性能低下が抑制される。
【0041】
エタロン5において、固定ミラー56、及び可動ミラー57の反射率及び透過率のバランスが重要である。固定ミラー56、及び可動ミラー57を形成する上記合金膜の厚さを厚くすることで高い反射率を得ることはできるものの、透過率が低下するため干渉フィルターとしての検出感度の点で問題となる。一方、固定ミラー56、及び可動ミラー57を形成する上記合金膜の厚さを薄くすることで、透過率を上げることはできるものの、反射率が低下してしまうため、干渉フィルターとしての分光性能が低下してしまう。また、銀合金膜562,572の厚さが薄すぎると、高温耐性やプロセス耐性が十分でない。
このような観点から、固定ミラー56、及び可動ミラー57の厚さは、好ましくは、30nm以上80nm以下であり、かつ、銀合金膜562,572の厚さは、10nm以上であることが好ましい。
固定ミラー56、及び可動ミラー57の厚さが30nm未満であると、厚さが薄すぎて上記合金膜の反射率が低く、さらに、プロセス加工や経時変化による反射率低下も大きくなる。銀合金膜562,572の厚さが、10nm未満であると、高温耐性やプロセス耐性が十分でない。一方、固定ミラー56、及び可動ミラー57の厚さが80nmを超えると、光透過率が低下し、エタロン5の固定ミラー56及び可動ミラー57としての機能も低下する。
純銀膜561,571、及び銀合金膜562,572の厚さの割合は、特に制限されず、必要とされる特性に応じて適宜変更できる。そのため、純銀膜561,571の厚さの方が銀合金膜562,572の厚さよりも大きくなってもよいし、小さくなってもよいし、両者が等しくてもよい。例えば、反射率を高くしたい場合には、純銀膜561,571の厚さを、銀合金膜562,572の厚さよりも、大きくすればよい。また、例えば、高温耐性やプロセス耐性を高めたい場合には、銀合金膜562,572の厚さの方を大きくすればよい。
【0042】
銀合金膜562,572が、Ag−Sm−Cu合金膜の場合、Sm含有量が0.1原子%以上0.5原子%以下であり、Cu含有量が0.1原子%以上0.5原子%以下であり、Sm及びCuの合計含有量は、1原子%以下であることが好ましい。Sm及びCuの含有量が0.1原子%未満であると、プロセス加工や経時変化による反射率低下が大きくなる。Sm及びCuの含有量が0.5原子%を超えると、反射率が低くなる。Sm及びCuの合計含有量が、1原子%を超えると、反射率が低くなる。なお、残部は実質的にAgであるが、本発明の作用効果を損なわない範囲で、微量な不純物を含んでもよい。
【0043】
銀合金膜562,572が、Ag−Bi−Nd合金膜の場合、Bi含有量が0.1原子%以上3原子%以下であり、Nd含有量が0.1原子%以上5原子%以下であることが好ましい。より好ましくは、Bi含有量が0.1原子%以上2原子%以下、Nd含有量が0.1原子%以上3原子%以下である。Bi及びNdの含有量が0.1原子%未満であると、プロセス加工や経時変化による反射率低下が大きくなる。Biの含有量が3原子%を超えると、又はNdの含有量が5原子%を超えると、反射率が低くなる。なお、残部は実質的にAgであるが、本発明の作用効果を損なわない範囲で、微量な不純物を含んでもよい。
【0044】
銀合金膜562,572が、Ag−Au合金膜、Ag−Cu合金膜、Ag−Au−Cu合金膜、Ag−Si−Cu合金膜、Ag−P−Cu合金膜、Ag−P−In−Cu合金膜、Ag−Te−Cu合金膜、Ag−Ga−Cu合金膜、Ag−In−Sn合金膜、のいずれかである場合の合金膜の組成については、次に示す範囲であることが好ましい。
【0045】
・Ag−Au合金膜 :Au含有量が0.1原子%以上10原子%以下
・Ag−Cu合金膜 :Cu含有量が0.1原子%以上10原子%以下
・Ag−Au−Cu合金膜 :Au含有量が0.1原子%以上であり、
Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、
Au及びCuの合計含有量が10原子%以下
・Ag−Si−Cu合金膜 :Si含有量が0.1原子%以上であり、
Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、
Si及びCuの合計含有量が10原子%以下
・Ag−P−Cu合金膜 :P含有量が0.1原子%以上であり、
Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、
P及びCuの合計含有量が10原子%以下
・Ag−P−In−Cu合金膜:P含有量が0.1原子%以上であり、
In含有量が0.1原子%以上であり、
Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、
P、In及びCuの合計含有量が10原子%以下
・Ag−Te−Cu合金膜 :Te含有量が0.1原子%以上であり、
Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、
Te及びCuの合計含有量が10原子%以下
・Ag−Ga−Cu合金膜 :Ga含有量が0.1原子%以上であり、
Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、
Ga及びCuの合計含有量が10原子%以下
・Ag−In−Sn合金膜 :In含有量が0.1原子%以上であり、
Sn含有量が0.1原子%以上であり、かつ、
In及びSnの合計含有量が10原子%以下
【0046】
銀合金膜562,572が、Ag−Au合金膜、Ag−Cu合金膜、Ag−Au−Cu合金膜、Ag−Si−Cu合金膜、Ag−P−Cu合金膜、Ag−P−In−Cu合金膜、Ag−Te−Cu合金膜、Ag−Ga−Cu合金膜、Ag−In−Sn合金膜、のいずれかである場合、各元素(Au,Cu,Si,P,In,Te,Ga,Sn,)の含有量が0.1原子%未満であると、プロセス加工や経時変化による反射率低下が大きくなる。上記合金膜に含まれる各元素の合計含有量が10原子%を超えると、反射率が低くなる。上記合金膜において、各元素以外の残部は実質的にAgであるが、本発明の作用効果を損なわない範囲で、微量な不純物を含んでもよい。
【0047】
固定ミラー56、及び可動ミラー57は、上記合金膜の組成を有するターゲット材料を用い、スパッタリング法などの公知の方法により形成される。
固定ミラー56は、第一基板51側から順に純銀膜561、及び銀合金膜562が積層され、可動ミラー57は、第二基板52側から順に純銀膜571、及び銀合金膜572が積層される。そのため、固定ミラー56、及び可動ミラー57の形成に当たっては、純銀膜561,571の形成に引き続いて、銀合金膜562,572の形成を行うことができる。すなわち、純銀膜561,571を成膜した後に、大気中に露出させることなく、銀合金膜562,572の形成へ移行する連続成膜が可能である。このように、純銀膜561,571の大気中への露出が防止されるので、固定ミラー56、及び可動ミラー57の反射率の低下を抑制できる。
【0048】
(3−1−2.一対の基板の構成)
一対の基板としての第一基板51および第二基板52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。これらの中でも、一対の基板の構成材料としては、例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属を含有したガラスが好ましく、このようなガラスにより第一基板51および第二基板52を形成することで、後述する一対の反射膜である固定ミラー56および可動ミラー57や、各電極の密着性や、基板同士の接合強度を向上させることが可能となる。また、ガラスは、可視光の透過特性が良好であるため、本実施形態のように、被検査対象Aの色を測定する場合では、第一基板51および第二基板52での光の吸収を抑えることができ、測色処理に適している。そして、第一基板51および第二基板52は、外周縁に沿って形成される接合面514,524同士が接合膜53によって接合されることで、一体的に構成される。接合膜53としては、例えば、プラズマ重合膜が挙げられる。
【0049】
第一基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。具体的には、図3に示すように、第一基板51には、エッチングにより電極形成溝511及びミラー固定部512が形成される。
電極形成溝511は、エタロン5を基板厚み方向から見た平面視(以降、エタロン平面視と称する。)において、平面中心点を中心とした円形に形成されている。ミラー固定部512は、図3に示すように、電極形成溝511の中心部から第二基板52側に突出して形成される。
【0050】
電極形成溝511は、ミラー固定部512の外周縁から、電極形成溝511の内周壁面までの間に、リング状の電極固定面511Aが形成され、この電極固定面511Aに、前述の第一変位用電極541が形成される。この第一変位用電極541は、固定電極取り出し配線541A、及び図示しない外部配線を介して電圧制御手段6に接続される。この固定電極取り出し配線541Aは、接合面514と接合面524との間に形成された固定電極取り出し部541Bを通り、外部配線と接続される。
【0051】
ミラー固定部512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法となる円柱状に形成されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、ミラー固定部512の第二基板52に対向するミラー固定面512Aが、電極固定面511Aよりも第二基板52に近接して形成される。
【0052】
さらに、第一基板51は、第二基板52に対向する上面とは反対側の下面において、固定ミラー56に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜及び高屈折率膜を交互に積層することで形成され、第一基板51の
表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0053】
第二基板52は、例えば厚み寸法が200μmに形成されるガラス基板をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、第二基板52には、図2に示すような平面視において、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する連結保持部522と、を備えている。この連結保持部522の外周径寸法は、第一基板51の電極形成溝511の外周径寸法と同一寸法に形成されている。
【0054】
可動部521は、連結保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、第二基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。
また、可動部521は、第一基板51とは反対側の上面において、図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、第一基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0055】
連結保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイヤフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成されている。この連結保持部522の第一基板51に対向する面には、前述の第二変位用電極542がリング状に形成される。第二変位用電極542は、約1μmの電磁ギャップを介して第一変位用電極541と対向する。
この第二変位用電極542は、可動電極取り出し配線542A、及び図示しない外部配線を介して電圧制御手段6に接続される。この可動電極取り出し配線542Aは、接合面514と接合面524との間に形成された可動電極取り出し部542Bを通り、外部配線と接続される。
この第二変位用電極542、及び前述の第一変位用電極541により、静電アクチュエーター54が構成される。
【0056】
エタロン5では、静電アクチュエーター54に所定の電圧を印加することで、第一変位用電極541と第二変位用電極542との間に静電引力が発生する。この静電引力によって、可動部521が基板厚み方向に沿って移動して第二基板52が変形し、ミラー間ギャップGの寸法が変化する。このように、印加する電圧を調整して第一変位用電極および第二変位用電極541,542間に発生する静電引力を制御することで、ミラー間ギャップGの寸法変化が制御され、検査対象光から分光させる光を選択することが可能となる。
【0057】
〔4.制御装置の構成〕
次に図1に戻り、制御装置4の構成について説明する。
制御装置4は、測色装置1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、および測色処理部43(本発明の処理部)などを備えて構成されている。
【0058】
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
【0059】
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御手段6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター54への印加電圧を設定する。
【0060】
測色処理部43は、測色センサー制御部42を制御して、エタロン5の反射膜間ギャップを変動させて、エタロン5を透過する光の波長を変化させる。また、測色処理部43は、検出部31から入力される受光信号に基づいて、エタロン5を透過した光の光量を取得する。そして、測色処理部43は、上記により得られた各波長の光の受光量に基づいて、被検査対象Aにより反射された光の色度を算出する。
【0061】
〔5.エタロンの製造方法〕
第一基板51のミラー固定部512等、第二基板52の可動部521等は、製造素材であるガラス基板にエッチング加工を施すことで形成される。
エッチング加工後の第一基板51に対して、純銀膜561を成膜した後に大気中に露出させることなく、純銀膜561の上に銀合金膜562をスパッタリング法で形成する。同様にして、エッチング加工後の第二基板52に対して、純銀膜571を成膜した後に大気中に露出させることなく、銀合金膜562をスパッタリング法で形成する。このようにして、固定ミラー56、及び可動ミラー57を形成する。
スパッタリング成膜後の固定ミラー56、及び可動ミラー57を所望の形状にパターニングするターニングプロセスでは、ウェットエッチング法が用いられる。ウェットエッチング法では、例えば、次のような処理が施される。
(A)エッチングマスクとしてのレジスト膜を所望のパターンで銀合金膜562,572上に形成する。レジストを硬化する際に、合金膜は高温下に曝される。このとき、純銀膜561,571は、銀合金膜562,572で覆われているので、高温の気体に曝されない。
(B)レジスト膜を有機系レジスト剥離液で剥離する。このとき、銀合金膜562,572は有機溶剤に曝される。このとき、純銀膜561,571は、銀合金膜562,572で覆われているので、有機溶剤に曝されない。
【0062】
銀合金膜562,572は、このような状況に曝されるので、銀合金膜562,572には、高温耐性や有機溶剤耐性が求められる。加えて、高温高湿耐性、硫化耐性、ハロゲン耐性などの各種耐性が、銀合金膜562,572に求められる。以下、エタロンの製造工程における銀合金膜562,572に求められる耐性のことをまとめて、プロセス耐性と称する場合があり、特にパターニング工程における合金膜に求められる耐性のことをパターニングプロセス耐性と称する場合がある。
このようなウェットエッチング加工を経て、第一基板51、及び第二基板52に、それぞれ固定ミラー56、及び可動ミラー57が形成される。
この後、第一基板51、及び第二基板52を接合して、エタロン5が得られる。接合工程では、例えば、接合面514,524にそれぞれプラズマ重合膜を成膜し、このプラズマ重合膜を貼り合わせて、第一基板51と第二基板52とを接合する。
【0063】
〔6.第一実施形態の作用効果〕
エタロン5では、固定ミラー56、及び可動ミラー57は、いずれも純銀膜561,571と銀合金膜562,572とを含むため、銀合金膜だけで固定ミラー、及び可動ミラーを構成する場合よりも、反射率を高くすることができる。しかも、純銀よりも高温耐性やプロセス耐性に優れた銀合金膜562,572が、純銀膜561,571に対して積層されて設けられているので、純銀膜561,571の表面が銀合金膜562,572によって覆われる。故に、純銀膜だけで固定ミラー、及び可動ミラーを構成する場合よりも、プロセス加工や経時変化による反射率低下が小さくなり、エタロン5の性能低下が抑制される。
【0064】
また、エタロン5の固定ミラー56及び可動ミラー57の厚さが、30nm以上80nm以下、かつ、銀合金膜562,572の厚さが10nm以上である。そのため、固定ミラー56及び可動ミラー57は、膜厚が厚くなりすぎず、透過率の低下が抑えられ、干渉フィルターの性能低下が防止される。また、固定ミラー56及び可動ミラー57には、銀合金膜562,572によって高温耐性やプロセス耐性が付与されるので、プロセス後や経時変化による反射率、及び透過率の変化も抑制される。その結果、エタロン5の反射膜に求められる、光の反射、及び透過という二つの特性の低下が抑制される。
【0065】
さらに、エタロン5の銀合金膜562,572の組成が前述の範囲となっているので、プロセス加工や経時変化による反射率低下が、より小さくなり、エタロン5の性能低下がより確実に抑制される。
【0066】
<第二実施形態>
次に本発明に係る第二実施形態について説明する。
ここで、第二実施形態の説明において第一実施形態と同一の構成要素は同一符号を付す等して説明を省略もしくは簡略にする。
第二実施形態においては、エタロン5Aの固定ミラー56、及び可動ミラー57が、誘電体膜563,573、純銀膜561,571、及び銀合金膜562,572を含む点で、第一実施形態のエタロン5と相違する。銀合金膜562,572は、第一実施形態で示したAg−Sm−Cu合金膜、Ag−Bi−Nd合金膜、Ag−Au合金膜、Ag−Cu合金膜、Ag−Au−Cu合金膜、Ag−Si−Cu合金膜、Ag−P−Cu合金膜、Ag−P−In−Cu合金膜、Ag−Te−Cu合金膜、Ag−Ga−Cu合金膜、Ag−In−Sn合金膜、のいずれかである。
図4に示すように、第一基板51では、第一基板51から順に誘電体膜563、純銀膜561、及び銀合金膜562が設けられている。すなわち、誘電体膜563は、第一基板51と純銀膜561との間に設けられている。同様に、第二基板52では、第二基板52から順に誘電体膜573、純銀膜571、及び銀合金膜572が設けられている。すなわち、誘電体膜573は、第二基板52と純銀膜571との間に設けられている。
誘電体膜563,573は、酸化チタン(TiO)の単層膜、又は酸化チタン(TiO)もしくは五酸化タンタル(Ta)の層と酸化ケイ素(SiO)もしくはフッ化マグネシウム(MgF)の層とを積層させた多層膜である。後者の誘電体多層膜の場合は、高屈折率材料(TiO、Ta)の層と、低屈折率材料(SiO、MgF)の層が積層されることとなる。単層膜、又は多層膜の各層の厚さや層数は、必要とする光学特性に基づいて適宜に設定される。
【0067】
〔第二実施形態の作用効果〕
第二実施形態に係るエタロン5Aによれば、固定ミラー56、及び可動ミラー57が、上記のような誘電体膜563,573、純銀膜561,571,及び銀合金膜562,572が積層されて構成されているので、第一実施形態のように純銀膜561,571,及び銀合金膜562,572だけで構成される場合と比べて、可視光範囲の短波長側の反射率が向上する。その結果、高い反射率を示す波長域をさらに広げることができ、可視光範囲に渡って高い反射率を有する固定ミラー56、及び可動ミラー57を備えたエタロン5Aを得ることができる。
【0068】
また、誘電体膜563,573は、純銀膜561,571との密着性が良好であり、ガラス基板との密着性も純銀膜561,571より良好であるため、密着力不足によるエタロン5Aの性能低下が抑制される。
【0069】
<第三実施形態>
次に本発明に係る第三実施形態について説明する。
ここで、第三実施形態の説明において第一実施形態及び第二実施形態と同一の構成要素は同一符号を付す等して説明を省略もしくは簡略にする。
第三実施形態においては、エタロン5Bの固定ミラー56、及び可動ミラー57が、誘電体膜563,573、純銀膜561,571,及び銀合金膜562,572の他に、保護膜564,574を含む点で、第一実施形態のエタロン5及び第二実施形態のエタロン5Aと相違する。銀合金膜562,572は、第一実施形態で示したAg−Sm−Cu合金膜、Ag−Bi−Nd合金膜、Ag−Au合金膜、Ag−Cu合金膜、Ag−Au−Cu合金膜、Ag−Si−Cu合金膜、Ag−P−Cu合金膜、Ag−P−In−Cu合金膜、Ag−Te−Cu合金膜、Ag−Ga−Cu合金膜、Ag−In−Sn合金膜、のいずれかである。誘電体膜563,573は、第二実施形態で示したものと同様である。
図5に示すように、第一基板51では、第一基板51から順に誘電体膜563、純銀膜561、銀合金膜562、及び保護膜564が設けられている。すなわち、保護膜564は、銀合金膜562に対して純銀膜561とは反対側に設けられている。同様に、第二基板52では、第二基板52から順に誘電体膜573、純銀膜571、銀合金膜572、保護膜574が設けられている。保護膜574は、銀合金膜572に対して純銀膜571とは反対側に設けられている。
保護膜564,574は、酸化ケイ素(SiO)、酸窒化ケイ素(SiON)、窒化ケイ素(SiN)、ITO、もしくはアルミナを含む。保護膜564,574の厚さは、好ましくは、10nm以上20nm以下である。このような範囲に設定することで、反射率及び透過率を低下させることなく、固定ミラー56、及び可動ミラー57を保護できる。
なお、保護膜564,574の厚さをさらに厚くすれば、純銀膜561,571の各耐性を向上させることができるが、反射率及び透過率を低下させる要因となってしまう。よって、保護膜564,574を形成する場合であっても、反射率、及び透過率を低下させることなく各耐性を付与するために、保護膜を厚くし過ぎず、純銀膜561,571と銀合金膜562,572とを積層させることが望ましい。
【0070】
〔第三実施形態の作用効果〕
第三実施形態に係るエタロン5Bによれば、誘電体膜563,573、純銀膜561,571及び銀合金膜562,572が保護膜564,574によって保護されるので、プロセス加工や経時変化による純銀膜561,571、及び銀合金膜562,572の反射率低下が抑えられ、干渉フィルターの性能低下がさらに確実に防止される。
【0071】
<他の実施形態>
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
上記実施形態では、平面視正方形状のエタロンを例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、平面視円形状、平面視多角形状に形成されていてもよい。
【0072】
また、固定ミラー56、及び可動ミラー57を同じ銀合金膜で形成しなくてもよい。例えば、固定ミラー56側の銀合金膜562をAg−Sm−Cu合金膜とし、可動ミラー57側の銀合金膜572をAg−Bi−Nd合金膜としてもよい。
【0073】
さらに、上記実施形態では、エタロン5を波長可変干渉フィルターとして説明したが、これに限られない。ミラー間のギャップの大きさを変化させない干渉フィルターに対しても、上記合金膜で形成される一対のミラーを適用できる。
【0074】
その他、電極固定面511A及びミラー固定面512Aの高さ位置は、ミラー固定面512Aに固定される固定ミラー56、及び第二基板52に形成される可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法、第一変位用電極541及び第二変位用電極542の間の寸法、固定ミラー56や可動ミラー57の厚み寸法により適宜設定されるものであり、上記実施形態のような構成に限られない。例えば固定ミラー56,及び可動ミラー57に誘電体多層膜を含み、その厚み寸法が増大する場合、電極固定面511Aとミラー固定面512Aとが同一面に形成される構成や、電極固定面511Aの中心部に、円柱凹溝状のミラー固定溝が形成され、このミラー固定溝の底面にミラー固定面512Aが形成される構成などとしてもよい。
【0075】
上記実施形態では、第一変位用電極541に対して一つの取り出し電極が設けられた構成で示したが、これに限定されない。さらに取り出し電極を増やしてもよい。この場合、二つの取り出し電極のうち、一方を第一変位用電極541に電圧を印加するための電圧印加用端子として用い、他方を第一変位用電極541に保持される電荷を検出するための電荷検出用端子として用いてもよい。これは、第二変位用電極542に対しても同様である。
【0076】
また、上記実施形態では、静電アクチュエーター54により、ミラー間ギャップGを調整可能なエタロン5の構成を例示したが、その他の駆動部材によりミラー間ギャップGが調整可能な構成としてもよい。例えば、第二基板52の第一基板51とは反対側に、斥力により第二基板52を押圧する静電アクチュエーターや、圧電部材を設ける構成としてもよい。
【0077】
そして、上記第三実施形態で説明したような基板に対して誘電体膜、純銀膜、銀合金膜、及び保護膜を積層させたものに限られず、誘電体膜を設けずに基板に対して純銀膜、銀合金膜、及び保護膜を積層させた構成としてもよい。
【0078】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【実施例】
【0079】
次に、上記合金膜の高温耐性やプロセス耐性について例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例の記載内容に何ら制限されるものではない。
〔1.高温耐性〕
(1−1)
まず、純銀膜及び銀合金膜の高温耐性について評価した。実施例として、純銀膜と銀合金膜とを積層させた場合(実施例1,2)、並びに比較例として、純銀膜で形成される単層の場合(比較例1)、及び銀合金膜で形成される単層の場合(比較例2〜4)で比較した。
純銀膜及び銀合金膜は、純銀膜用のターゲット材料、及び次に示す合金組成を有する銀合金膜用のターゲット材料を用い、平滑なガラス基板上にスパッタリング法によって成膜した。
・Ag−C :Cを5.0原子%含有し、残部は実質的にAgである。
・Ag−Sm−Cu :Smを0.5原子%含有し、Cuを0.5原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
・Ag−Bi−Nd :Biを1.0原子%含有し、Ndを0.5原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
【0080】
単層の場合の膜の厚さは、40nmとした。積層の場合の膜の厚さは、純銀膜の厚さを30nmとし、銀合金膜の厚さを10nmとした。
高温耐性としては、純銀膜、上記合金膜、及び積層膜について、成膜後の初期の反射率と、大気環境下において、250℃、1時間の加熱処理を施した後(高温試験後)の反射率とを比較することで行った。分光測色計を用いて、可視光範囲である波長400nm以上700nm以下における反射率を測定した。
表1に、400nm、550nm、及び700nmにおける、純銀膜、上記合金膜、及び積層膜の初期反射率(単位:%)、及び加熱処理後の反射率(単位:%)を示す。さらに表1に、初期反射率から高温試験後の反射率を引いた値を反射率の変化量(減少量)(単位:%)として示す。なお、以下に記す表中の膜構成において、例えば、(純銀)/(Ag−Sm−Cu)と表示したものは、純銀膜とAg−Sm−Cu合金膜とを積層させていることを表すものとする。その他の表においても同様とする。
【0081】
【表1】

【0082】
表1が示すように、比較例1の純銀膜は、最も高い初期反射率を有しているが、高温試験によって反射率の著しい低下が認められた。これは、高温下に曝された純銀膜の粒塊が成長し、表面粗さが大きくなるため、反射率が大きく低下したと考えられる。
また、銀合金膜単層のうち、比較例2のAg−C合金膜は、初期の反射率が純銀膜と比べて非常に低い値となった。比較例3のAg−Sm−Cu合金膜、及び比較例4のAg−Bi−Nd合金膜は、Ag−C合金膜よりも純銀膜に近い反射率を示したが、400nmにおける初期反射率は低かった。なお、比較例3のAg−Sm−Cu合金膜、及び比較例4のAg−Bi−Nd合金膜は、高温試験後、純銀膜及びAg−C合金膜よりも高い反射率を示した。
一方、実施例1の純銀膜とAg−Sm−Cu合金膜とを積層させた場合、及び実施例2の純銀膜とAg−Bi−Nd合金膜とを積層させた場合は、比較例1〜4と比べて優れた特性を示した。すなわち、実施例1、及び実施例2の積層膜の初期反射率は、比較例3や比較例4の銀合金単層膜よりも高く、比較例1の純銀膜に近い値となった。さらに、実施例1、及び実施例2の積層膜の高温試験後の反射率も高く、初期反射率に対する変化量が小さくなった。そして、実施例1、及び実施例2の積層膜の高温試験後の反射率は、純銀膜と比べていずれの測定波長においても高く、合金膜単層と比べても特に短波長側(400nm)の反射率が高いことが認められた。
このように、実施例1、及び実施例2のような純銀膜と銀合金膜との積層膜とすることで、初期、及び高温試験後において高い反射率を得られることが分かった。これは、純銀膜を含んでいることによって高い反射率が得られ、高温耐性に優れる銀合金膜が純銀膜に対して積層されることによって、高温試験後の反射率低下が抑制されたためと考えられる。また、純銀膜の厚さを銀合金膜の厚さの3倍としたことで、高い反射率が得られたと考えられる。
【0083】
(1−2)
実施例1,2で用いた銀合金膜以外の、次に示す銀合金膜についても高温耐性を調べた。
・Ag−Au :Auを1.0原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
・Ag−Cu :Cuを1.0原子%含有し、残部は実質的にAgである。
・Ag−Au−Cu :Auを1.0原子%含有し、Cuを1.0原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
・Ag−Si−Cu :Siを1.0原子%含有し、Cuを1.0原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
・Ag−P−Cu :Pを1.0原子%含有し、Cuを1.0原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
・Ag−P−In−Cu :Pを0.5原子%含有し、Inを0.5原子%含有し、
Cuを1.0原子%含有し、残部は実質的にAgである。
・Ag−Te−Cu :Teを1.0原子%含有し、Cuを1.0原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
・Ag−Ga−Cu :Gaを1.0原子%含有し、Cuを1.0原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
・Ag−In−Sn :Inを1.0原子%含有し、Snを1.0原子%含有し、
残部は実質的にAgである。
【0084】
これらの銀合金膜単層をガラス基板上に、上記と同様にして形成し、高温耐性を上記と同様にして測定した。これらを参考例として表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2が示すように、Ag−Au合金膜、Ag−Cu合金膜、Ag−Au−Cu合金膜、Ag−Si−Cu合金膜、Ag−P−Cu合金膜、Ag−P−In−Cu合金膜、Ag−Te−Cu合金膜、Ag−Ga−Cu合金膜、Ag−In−Sn合金膜、(以下、これらの銀合金膜をまとめて、本参考例に係る銀合金膜と称する。)の反射率変化量は、比較例1の純銀膜単層の場合よりも小さい。故に、本参考例に係る銀合金膜を、純銀膜に対して積層させることで、高温試験後の反射率低下を抑制することができると推測される。中でも、参考例4の合金膜は、いずれの測定波長においても、比較例2のAg−C合金膜よりも高温試験後の反射率が高く、比較例3及び比較例4の銀合金膜と同等の反射率を示した。よって、参考例4の銀合金膜を純銀膜に積層することで、実施例1や実施例2と同等の高温試験後の反射率低下を抑制する効果が得られると推測される。
【0087】
〔2.プロセス耐性〕
(2−1)
次に、純銀膜及び銀合金膜のプロセス耐性について評価した。実施例として、純銀膜と銀合金膜とを積層させた場合(実施例3,4)、並びに比較例として、純銀膜で形成される単層の場合(比較例5)、及び銀合金膜で形成される単層の場合(比較例6〜8)で比較した。膜構成については、表3に示す。
上記高温耐性の評価と同様にして、純銀膜、銀合金膜、及び積層膜は、純銀膜、及び上記銀合金膜の組成を有するターゲット材料を用い、平滑なガラス基板上にスパッタリング法によって形成した。
そして、プロセス耐性として、ここでは、パターニングプロセス耐性を評価した。パターニングプロセスは、以下に示す通りとした。
(1) ガラス基板上に形成した純銀膜、銀合金膜、及び積層膜にポジレジストをスピンコーターにて塗布
(2) ポジレジスト塗布後、クリーンオーブンで、90℃、15分間のプレベーク
(3) コンタクトアライナーにてフォトマスクを通して露光
(4) 現像液に水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を使用し、現像
(5) クリーンオーブンにて120℃、20分間のポストベーク
(6) レジストをエッチングマスクとして、りん硝酢酸水溶液で純銀膜、銀合金膜、及び積層膜をエッチング
(7) 有機系レジスト剥離液でレジスト剥離
【0088】
そして、上記高温耐性の評価と同様にして、純銀膜、銀合金膜、及び積層膜の成膜後の初期反射率、及びパターニングプロセス後の反射率とを比較した。
表3に、400nm、550nm、及び700nmにおける、純銀膜及び上記合金膜の初期反射率(単位:%)及びパターニングプロセス後の反射率(単位:%)を示す。さらに表3に、初期反射率からパターニングプロセス後の反射率を引いた値を反射率の変化量(減少量)(単位:%)として示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3が示すように、比較例5の純銀膜は、最も高い初期反射率を有しているが、パターニングプロセスによって反射率の著しい低下が認められた。これは、パターニングプロセスにおいて、レジストのベーク工程で高温下に曝されたことや、レジスト剥離工程で有機溶剤に曝されたためと考えられる。
また、銀合金膜単層のうち、比較例6のAg−C合金膜は、初期の反射率が純銀膜と比べて非常に低い値となった。比較例7のAg−Sm−Cu合金膜、及び比較例8のAg−Bi−Nd合金膜は、Ag−C合金膜よりも純銀膜に近い反射率を示したが、400nmにおける初期反射率は低かった。なお、比較例7のAg−Sm−Cu合金膜、及び比較例8のAg−Bi−Nd合金膜は、パターニングプロセス後、純銀膜及びAg−C合金膜よりも高い反射率を示した。
一方、純銀膜とAg−Sm−Cu合金膜とを積層させた実施例3、及び純銀膜とAg−Bi−Nd合金膜とを積層させた実施例4は、比較例5〜8と比べて優れた特性を示した。すなわち、実施例3、及び実施例4の積層膜の初期反射率は、比較例7や比較例8の銀合金単層膜よりも高く、比較例5の純銀膜に近い値となった。さらに、実施例3、及び実施例4の積層膜のパターニングプロセス後の反射率も高く、初期反射率に対する変化量が小さくなった。そして、実施例3、及び実施例4の積層膜のパターニングプロセス後の反射率は、純銀膜と比べていずれの測定波長においても高く、合金膜単層と比べても特に短波長側(400nm)の反射率が高いことが認められた。
このように、実施例3、及び実施例4のような純銀膜と銀合金膜との積層膜とすることで、初期、及びパターニングプロセス後において高い反射率を得られることが分かった。これは、純銀膜を含んでいることによって高い反射率が得られ、パターニングプロセス耐性に優れる銀合金膜が純銀膜に対して積層されることによって、パターニングプロセス後の反射率低下が抑制されたためと考えられる。また、純銀膜の厚さを銀合金膜の厚さの3倍としたことで、高い反射率が得られたと考えられる。
【0091】
(2−2)
実施例3,4で用いた銀合金膜以外の、本参考例1〜9に係る銀合金膜についても、参考例10〜18としてパターニングプロセス耐性を調べた。膜構成については、表4に示す。
上記パターニングプロセス耐性の評価と同様にして、銀合金膜の組成を有するターゲット材料を用い、平滑なガラス基板上にスパッタリング法によって形成した。
そして、上記パターニングプロセス耐性の評価と同様にして、銀合金膜の成膜後の初期反射率、及びパターニングプロセス後の反射率とを比較して評価した。
【0092】
【表4】

【0093】
表4が示すように、本参考例10〜18に係る銀合金膜のパターニングプロセス後の反射率変化量は、比較例5の純銀膜単層の場合よりも小さい。故に、本参考例に係る合金膜を、純銀膜に対して積層させることで、高温試験後の反射率低下を抑制することができると推測される。中でも、参考例13のAg−Si−Cu合金膜は、いずれの測定波長においても、比較例6のAg−C合金膜よりもパターニングプロセス後の反射率が高く、比較例7及び比較例8の銀合金膜と同等の反射率を示した。よって、参考例13の銀合金膜を純銀膜に積層することで、実施例3や実施例4と同等のパターニングプロセス後の反射率低下を抑制する効果が得られると推測される。
【0094】
以上のように、純銀膜と銀合金膜とを積層させることで、初期反射率を純銀膜単層に近づけることができることが分かった。さらに、高温試験後、及びパターニングプロセス後の反射率低下を純銀膜単層に比べて大幅に抑制できることが分かった。そのため、純銀膜と銀合金膜とを積層させて一対の反射膜を構成し、この一対の反射膜を用いた波長可変干渉フィルター(エタロン)は、その性能の低下が抑制されることが分かった。そして、波長可変干渉フィルターを製品として出荷した後の経時変化による性能低下も抑制され、信頼性の高い波長可変干渉フィルターを得られることが分かった。
【符号の説明】
【0095】
1…測色装置(分析装置)、3…測色センサー(光モジュール)、5,5A,5B…エタロン(干渉フィルター)、31…検出部、43…測色処理部(処理部)、51…第一基板、52…第二基板、56…固定ミラー(反射膜)、57…可動ミラー(反射膜)、561,571…純銀膜、562,572…銀合金膜、563,573…誘電体膜、564,574…保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップを介して対向する2つの反射膜と、前記反射膜を支持する基板と、を備え、
前記反射膜は、純銀膜、及び銀合金膜を含み、
前記基板には、前記基板側から順に前記純銀膜、及び前記銀合金膜が設けられ、
前記銀合金膜は、
銀(Ag)、サマリウム(Sm)、及び銅(Cu)を含有するAg−Sm−Cu合金膜、又は
銀(Ag)、ビスマス(Bi)、及びネオジム(Nd)を含有するAg−Bi−Nd合金膜である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項2】
ギャップを介して対向する2つの反射膜と、前記反射膜を支持する基板と、を備え、
前記反射膜は、純銀膜と銀合金膜とを含み、
前記基板には、前記基板側から順に前記純銀膜、及び前記銀合金膜が設けられ、
前記銀合金膜は、
銀(Ag)、及び金(Au)を含有するAg−Au合金膜、
銀(Ag)、及び銅(Cu)を含有するAg−Cu合金膜、
銀(Ag)、金(Au)、及び銅(Cu)を含有するAg−Au−Cu合金膜、
銀(Ag)、ケイ素(Si)、及び銅(Cu)を含有するAg−Si−Cu合金膜、
銀(Ag)、リン(P)、及び銅(Cu)を含有するAg−P−Cu合金膜、
銀(Ag)、リン(P)、インジウム(In)、及び銅(Cu)を含有するAg−P−In−Cu合金膜、
銀(Ag)、テルル(Te)、及び銅(Cu)を含有するAg−Te−Cu合金膜、
銀(Ag)、ガリウム(Ga)、及び銅(Cu)を含有するAg−Ga−Cu合金膜、及び
銀(Ag)、インジウム(In)、及びスズ(Sn)を含有するAg−In−Sn合金膜、
のいずれかである
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の干渉フィルターにおいて、
前記反射膜の厚さは、30nm以上80nm以下であり、
前記銀合金膜の厚さは、10nm以上である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項4】
請求項1又は請求項3に記載の干渉フィルターにおいて、
前記銀合金膜が、Ag−Sm−Cu合金膜であり、
前記Ag−Sm−Cu合金膜は、
Sm含有量が0.1原子%以上0.5原子%以下であり、
Cu含有量が0.1原子%以上0.5原子%以下であり、
Sm及びCuの合計含有量が1原子%以下である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1又は請求項3に記載の干渉フィルターにおいて、
前記銀合金膜が、前記Ag−Bi−Nd合金膜であり、
前記Ag−Bi−Nd合金膜は、
Bi含有量が0.1原子%以上3原子%以下であり、
Nd含有量が0.1原子%以上5原子%以下である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項6】
請求項2又は請求項3に記載の干渉フィルターにおいて、
前記銀合金膜が、
前記Ag−Au合金膜である場合は、Au含有量が0.1原子%以上10原子%以下であり、
前記Ag−Cu合金膜である場合は、Cu含有量が0.1原子%以上10原子%以下であり、
前記Ag−Au−Cu合金膜である場合は、Au含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Au及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−Si−Cu合金膜である場合は、Si含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Si及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−P−Cu合金膜である場合は、P含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、P及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−P−In−Cu合金膜である場合は、P含有量が0.1原子%以上であり、In含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、P、In及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−Te−Cu合金膜である場合は、Te含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Te及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−Ga−Cu合金膜である場合は、Ga含有量が0.1原子%以上であり、Cu含有量が0.1原子%以上であり、かつ、Ga及びCuの合計含有量が10原子%以下であり、
前記Ag−In−Snである場合は、In含有量が0.1原子%以上であり、Sn含有量が0.1原子%以上であり、かつ、In及びSnの合計含有量が10原子%以下である、
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記反射膜は、誘電体膜、前記純銀膜、及び前記銀合金膜を含み、
前記基板には、前記基板側から順に前記誘電体膜、前記純銀膜、及び前記銀合金膜が設けられている
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項8】
請求項7に記載の干渉フィルターにおいて、
前記誘電体膜は、
酸化チタン(TiO)の単層膜、又は
酸化チタン(TiO)もしくは五酸化タンタル(Ta)の層と酸化ケイ素(SiO)もしくはフッ化マグネシウム(MgF)の層とを積層させた多層膜である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の干渉フィルターにおいて、
前記反射膜は、前記誘電体膜、前記純銀膜、前記銀合金膜、及び保護膜を含み、
前記基板には、前記基板側から順に前記誘電体膜、前記純銀膜、前記銀合金膜、及び前記保護膜が設けられている
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項10】
請求項9に記載の干渉フィルターにおいて、
前記保護膜は、酸化ケイ素(SiO)、酸窒化ケイ素(SiON)、窒化ケイ素(SiN)、及びアルミナのいずれかを含む
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれかに記載の干渉フィルターと、
この干渉フィルターにより取り出される光の光量を検出する検出部と、を備えた
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の光モジュールと、
前記検出部により検出された光の光量に基づいて、光分析処理を実施する処理部と、
を備えた
ことを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−42651(P2012−42651A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182939(P2010−182939)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】