説明

平版印刷版の製造方法

微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版の製造方法を提供する。無機化合物分散液からなる塗布液を、この塗布液にかかる圧力Pを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する。また、無機化合物分散液からなる塗布液を、この塗布液にかかるせん断応力τを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版の製造方法に係り、特に、微粒子分散液を薄い金属板、紙、フィルム等のシート状又はウェブ状の帯状可撓性支持体(以下、「ウェブ」という)の表面に塗布して塗布層を形成するのに好適な平版印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は、通常、帯状に連続するアルミニウムの薄板であるアルミニウムウェブの少なくとも一方の面を、常法にしたがって砂目立てした砂目立て面に、可視光露光型又はレーザ露光型の製版層を形成することにより製造される。
【0003】
この製版層は、感光性樹脂を含有する感光層形成液、又は熱重合性樹脂を含有する感熱層形成液等からなり、微粒子を分散させた製版層形成用の塗布液を、砂目立て面に塗布して乾燥させることにより形成されるのが一般的である。
【0004】
このような塗布液の塗布技術として、従来より各種の提案がなされている(たとえば、特許文献1、2参照)。このうち、特許文献1は、エクストルージョン型塗布装置において、せん断エネルギーにより塗布条件を評価して、この評価結果により塗布条件を決定する方法であり、良好な塗布面が得られるとされている。
【0005】
特許文献2は、感光性樹脂を含有する感光層形成液を塗布する際に、塗布液にかかる圧力を所定値以下に制御する方法であり、ポリマー粒子の凝集が防止できるとされている。
【特許文献1】特開2002−367158号公報
【特許文献2】特開2004−299264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、微粒子を分散させた塗布液をウェブに塗布、乾燥する際に以下の問題点(微粒子分散物の破壊)が生じている。
a)塗布液を塗布した際の塗布液中の微粒子分散物が破壊されること
b)微粒子分散液が乾燥した後に、ウェブ搬送中に微粒子分散物が破壊されること
c)ウェブの巻き取り時に微粒子分散物が破壊されること
d)裁断、積層時に微粒子分散物が破壊されること
しかしながら、従来は、このような微粒子を含有する塗布液を用いて、ウェブに塗布、乾燥し、これを搬送する際に、特許文献2のように、塗布液の液圧力のみを考えていた。
【0007】
ところが、乾燥後の工程においても、ウェブと搬送ローラとの接触やウェブに及ぼす搬送張力により、微粒子が変形・破壊され、性能面での劣化が問題となる。特に、平版印刷版においては、微粒子が変形・破壊された場合、現像性が劣化し、また、汚れの原因にもなる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するために、無機化合物分散液からなる塗布液を、該塗布液にかかる圧力Pを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する工程を備えることを特徴とする平版印刷版の製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、塗布液にかかる圧力Pを1.5×10Pa以下にしてウェブの表面に塗布して塗布層を形成するので、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版が製造できる。
【0011】
なお、無機化合物分散液とは、無機微粒子が分散された液であり、この無機微粒子としては、たとえば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、カオリン、シリカ、アルミナ、ホワイトカーボン、硅藻土、硅酸アルミニウム、ヘクトライト、アエロジル、ウオラストナイト、マイカ、ベントナイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、チタニア、鉄黒、酸化鉄、塩化鉄、カーボンブラック、炭酸ストロンチウム、亜鉛華、酸化亜鉛等の微粒子を挙げることができる。
【0012】
また、本発明は、無機化合物分散液からなる塗布液を、該塗布液にかかるせん断応力τを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する工程を備えることを特徴とする平版印刷版の製造方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、塗布液にかかるせん断応力τを1.5×10Pa以下にしてウェブの表面に塗布して塗布層を形成するので、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版が製造できる。
【0014】
また、本発明は、無機化合物分散液からなる塗布液を、該塗布液にかかる圧力Pとせん断応力τとの合計値P+τを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する工程を備えることを特徴とする平版印刷版の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、塗布液にかかる圧力Pとせん断応力τとの合計値P+τを1.5×10Pa以下にしてウェブの表面に塗布して塗布層を形成するので、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版が製造できる。
【0016】
本発明において、前記塗布層を乾燥する工程と、前記塗布層が乾燥した後の前記帯状可撓性支持体を、該帯状可撓性支持体に加わる面圧Qを1.5×10Pa以下にしてローラ部材に巻き掛けて搬送する工程と、を備えることが好ましい。このように、塗布時のみならず、乾燥後の搬送時までウェブに加わる面圧Qを所定値以下に制御すれば、更に一層、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版が製造できる。
【0017】
また、本発明において、前記塗布層を乾燥する工程と、前記塗布層が乾燥した後の前記帯状可撓性支持体を、該帯状可撓性支持体に加わる面圧Qを1.5×10Pa以下にしてロール状に巻き取る工程と、を備えることが好ましい。このように、塗布時のみならず、乾燥後のロール状巻き取り時までウェブに加わる面圧Qを所定値以下に制御すれば、更に一層、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版が製造できる。
【0018】
また、本発明において、前記塗布層を乾燥する工程と、前記塗布層が乾燥した後の前記帯状可撓性支持体の複数枚を、該帯状可撓性支持体に加わる面圧Qを1.5×10Pa以下にして積層する工程と、を備えることが好ましい。このように、塗布時のみならず、乾燥後の切断、積層時までウェブに加わる面圧Qを所定値以下に制御すれば、更に一層、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版が製造できる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、微粒子の変形、破壊による刷版性能劣化のない平版印刷版が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面に従って、本発明に係る平版印刷版の製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。勿論、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明に係る平版印刷版の製造方法を実施する製造ライン10の一例を示した構成図である。
【0022】
図1に示されるように、送出機12には、ロール状に巻回された長尺なウェブ14がセットされる。この送出機12から連続的に送り出されたウェブ14は、表面処理部16において表面処理が施される。表面処理が施されたウェブ14は、バックコート層塗布・乾燥部18においてウェブ14の裏面にバックコート層が形成された後、下塗り塗布・乾燥部20においてウェブ14の表面に下塗り層が形成される。
【0023】
次に、感光層塗布・乾燥部22において、下塗り層の上に感光層が形成された後、オーバーコート層塗布・乾燥部24において、オーバーコート層が形成される。次に、オーバーコート層は、オーバーコート層調湿ゾーン26において、オーバーコート層の含水率が所定範囲になるように制御される。オーバーコート層の含水率は、赤外線成分計31でオンライン測定され、その含水率データが一定になるようにオーバーコート層調湿ゾーンの空調ユニット32がオーバーコート層調湿ゾーンの温湿度を制御する。これにより、平板印刷版の原反14Aが製造され、原反14Aが巻取機28に巻き取られる。
【0024】
なお、図1の構成においては、原反14Aが巻取機28に巻き取られるようになっているが、平板印刷版の原反14Aが製造された後に、所定サイズに切断され、所定枚数毎に積層される態様も採用できる。
【0025】
次に、本発明において重要となる材料及び工程について、項目毎に説明する。
【0026】
[支持体(ウェブ)]
本発明に用いられるウェブ14は、寸度的に安定なアルミニウム又はその合金(たとえば珪素、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、鉛、ビスマス、ニッケルとの合金)を用いることができる。通常は、アルミニウムハンドブック第4版(1990、軽金属協会発行)に記載の従来公知の素材、たとえば、JIS A l050材、JIS A ll00材、JIS A 3103材、JIS A 3004材、JIS A 3005材又は引っ張り強度を増す目的でこれらに0.1wt%以上のマグネシウムを添加した合金を用いることができる。
【0027】
アルミニウム板は、通常の半連続鋳造法(DC法)によるアルミニウム板の他、連続鋳造圧延法により製造されたものでもよい。連続鋳造圧延の方法としては双ロール法、ベルトキャスター法、ブロックキャスター法などを用いることができる。合金中の異元素の含有量は10重量%以下である。アルミニウム板の厚さは、およそ0.1mm〜0.6mm程度が好ましい。また、アルミニウム、アルミニウム合金がラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルム又は紙を使用することもできる。
【0028】
[支持体の表面処理]
ウェブ14がアルミニウム板の場合、その表面を目的に応じて各種処理を施すのが通例である。一般的な処理方法としてはアルミニウム板を先ず脱脂又は電解研磨処理とデスマット処理によりアルミ表面の清浄化を行う。その後に機械的粗面化処理又は/及び電気化学的粗面化処理を施しアルミニウム板の表面に微細な凹凸を付与する。なお、この時に更に化学的エッチング処理とデスマット処理を加える場合もある。その後、アルミニウム板表面の耐摩耗を高める為に陽極酸化処理が施され、その後アルミニウム表面は必要に応じて親水化処理又は/及び封孔処理が行われる。
【0029】
なお、各処理の間には前処理での処理液を次処理に持ち込まない為にニップローラーによる液切りとスプレー等による水洗を行うことが好ましい。なお、電気化学的な粗面化処理で用いた電解液のオーバーフロー廃液をデスマット処理液として使用することができるが、この場合はデスマット処理後の水洗処理は省略してもよい。
【0030】
(脱脂・電解研磨処理)
アルミニウム板にある圧延油、自然酸化皮膜、汚れなどを除去し、電気化学的な粗面化が均一に行われる目的で酸性水溶液中でアルミニウム板の電解研磨処理、又は、酸又はアルカリ水溶液中でアルミニウム板の化学的なエッチング処理を行う。処理によるアルミニウム板の溶解量は1〜30g/mで溶解することが好ましく、1.5〜20g/mで溶解することがより好ましい。
【0031】
(1) 電解研磨処理
電解研磨処理の材質別による処方例は、間宮富士雄著;「洗浄設計」、No・21,65〜72頁(1984)に記載されている。
【0032】
公知の電解研磨に用いる水溶液が使用できる。好ましくは、硫酸又はリン酸を主体とする水溶液であり、特に好ましくは、リン酸を主体とする水溶液である。
【0033】
リン酸20〜90重量%(好ましくは40〜80重量%)、液温10〜90°C(好ましくは50〜80°C)、電流密度1〜100A/dm(好ましくは5〜80A/dm)、電解時間は1〜180秒の範囲から選択できる。リン酸水溶液中に、硫酸、クロム酸、過酸化水素、クエン酸、フッ化水素酸、無水フタール酸などを1〜50重量%添加してもよい。
【0034】
電流は、直流、パルス直流、又は交流を用いることが可能であるが、連続直流が好ましい。電解処理装置はフラット型槽、ラジアル型槽など公知の電解処理の用いられているものを使用することができる。流速はアルミニウム板に対して、パラレルフロー、カウンターフローのどちらでもよく、0.01〜10000cm/分の範囲から選定される。
【0035】
アルミニウム板と電極との距離は0.3〜10cmが好ましく、0.8〜2cmが特に好ましい。給電方法はコンダクタローラを用いた直接給電方式を用いてもよいし、コンダクタローラを用いない間接給電方式(液給電方式)を用いてもよい。使用する電極材質、構造は電解処理に使われている公知のものが使用可能であるが、陰極材質はカーボン、陽極材質はフェライト、酸化イリジウム又は白金が好ましい。
【0036】
(2) 酸又はアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理
酸又はアルカリ水溶液中でアルミニウム板の化学的なエッチング処理を行う詳細は米国特許第3、834398号に記載されており、これらの公知の手段を用いることができる。酸性又はアルカリ水溶液に用いることのできる酸又はアルカリとしては特開昭57−16918号公報などに記載されているものを単独又は組合せて用いることができる。液温は25〜90°Cで、1〜120秒間処理することが好ましい。酸性水溶液の濃度、は0.5〜25重量%が好ましく、更に酸性水溶液中に溶解しているアルミニウムは、0.5〜5重量%が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は、5〜30重量%が好ましく、更にアルカリ水溶液に溶解しているアルミニウムは、1〜30重量%が好ましい。
【0037】
(デスマット処理)
エッチング処理した後には化学的エッチングが塩基の水溶液を用いて行なった場合には、一般にアルミニウムの表面にスマットが生成するので、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸又はこれらの内の2以上の酸を含む混酸で処理(デスマット処理)を行う。
【0038】
使用する酸性水溶液は、アルミニウムが0〜5重量%溶解していてもよく、液温は常温〜70°Cで実施され、処理時間は1〜30秒が好ましい。なおこの酸性水溶液としては、電気化学的な粗面化処理等で使用した電解液の廃液を使用することができるが、アルミニウム板が乾いてデスマット液中の成分が析出しないように注意する必要がある。
【0039】
デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないために、ニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うことが好ましいが、次工程が同一水溶液の場合は水洗を省略することもできる。
【0040】
(機械的粗面化処理)
良好なアルミニウム支持体を得るためには、アルミニウム板の表面を砂目立てして微細な凹凸を付与するのが通例である。この砂目立てにはボールグレイニング、ブラシグレイニング、ワイヤーグレイニング、ブラストグレイニングなどの機械的粗面化処理が一般的に知られているが、ブラシグレイン処理が大量かつ連続的処理として優れている。
【0041】
ブラシグレイン処理で使用するブラシは、1本又は複数本のブラシを用いるのが通例であり、特公昭50−40047号公報に記載のように、ある決まった1種類のものを複数本使用する方法、特開平6−135175号公報に記載のように、毛の材質、毛径、毛の断面形状などが異なるものを使用する方法がある。具体的には、アルミニウム板表面に珪砂、水酸化アルミ等のスラリー液をスプレーし、ブラシ毛径が0.2〜0.9mmのナイロンブラシローラを50〜500rpmで回転させ、機械的に粗面化処理を行う。ブラシの押し込み力は回転駆動モーターの消費電力(駆動モーターのメカロスを除いた実質電力)が0.2〜15kw、更に0.5〜10kwが好ましい。
【0042】
(電気化学的粗面化処理)
(1) 直流を用いた電気化学的な粗面化処理は、塩酸又は硝酸を主体とする水溶液で行う。この水溶液は、通常の交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/リットルの塩酸又は硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸又は硝酸化合物の1つ以上を1g/リットル〜飽和まで添加して使用することができる。
【0043】
また、塩酸又は硝酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、塩酸又は硝酸0.5〜2重量%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/リットルとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いることが好ましい。
【0044】
温度は10〜60°Cが好ましく、25〜50°Cがより好ましい。直流を用いた電気化学的な粗面化に用いる処理装置は公知の直流を用いたものを使用することができるが、特開平1−141094号公報に記載されているように、一対又は2対以上の陽極と陰極を交互に並べた装置を用いることが好ましい。
【0045】
公知の装置の一例としては、特開平1−141094号公報、特開昭61−19115号公報、特公昭57−44760号公報等に記載されている。電気化学的な粗面化に使用する直流は、リップル率が20%以下の直流を用いることが好ましい。電流密度は、10〜200A/dmが好ましく、アルミニウム板が陽極時の電気量は10〜1000C/dm が好ましい。
【0046】
陽極はフェライト、酸化イリジウム、白金、白金をチタン、ニオブ、ジリコニウムなどのバルブ金属にクラッド又はメッキしたものなど公知の酸素発生用電極から選定して用いることができる。陰極は、カーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレスや燃料電池用陰極に用いる電極から選択して用いることができる。
【0047】
(2) 交流を用いた電気化学的な粗面化処理は塩酸又は硝酸を主体とする水溶液で行う。この水溶液は、通常の交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/リットルの塩酸又は硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオン、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸又は硝酸化合物の少なくとも1つを1/リットル〜飽和まで添加して使用することができる。
【0048】
また塩酸又は硝酸を主体とする水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、塩酸又は硝酸0.5〜2重量%水溶液にアルミニウムイオンが3〜50g/リットルとなるように、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等を添加した液を用いることが好ましい。温度は10〜60°Cが好ましく、20〜50°Cがより好ましい。
【0049】
(3) 電気化学的粗面化に用いる交流電源波は、サイン波、矩形波、台形波、三角波などが用いられるが、矩形波又は台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。電流が0〜ピークに達するまでの時間(TP)は1〜3msecが好ましい。1msecよりも小さいとアルミニウム板の進行方向と垂直に発生するチャタマークという処理ムラが発生しやすい。TPが3msecよりも大きいと電気化学的な粗面化に用いる電解液中のアンモニウムイオンなどに代表される硝酸液中での電解処理で、自然発生的に増加する微量成分の影響を受けやすくなり、均一な砂目立てが行われにくくなる。
【0050】
(4) 台形波交流のduty比は1:2〜2:1のものが使用可能であるが、特開平5−19300公報に記載のようにアルミニウムにコンダクタローラを用いない間接給電方式においてはduty比1:1のものが好ましい。台形波交流の周波数は0.1〜120Hzのものを用いることが可能であるが、50〜70Hzが設備上好ましい。50Hzよりも低いと主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、70Hzよりも大きいと電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。ただし、Cuが0.1wt%よりも多く含まれるアルミニウム合金を用いるときには、周波数0.1〜10Hzの交流を用いることが好ましい。電流密度は電流波形のピーク値で10〜200A/dmが好ましい。
【0051】
(5) 電気化学的な粗面化に用いる電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型など公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載のようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液はアルミニウムウェブの進行とパラレルでもカウンターでもよい。
【0052】
(6) 電解槽には1個以上の交流電源が接続することができる。主極に対向するアルミニウム板に加わる交流の陽極と陰極の電流比をコントロールし、主極のカーボンの溶解防止上補助陽極を設刑、交流電流の一部を分流させることが好ましい。整流素子又はスイッチング素子を介して電流値の一部を2つの主電極とは別の槽に設けた補助陽極に直流電流として分流させることにより、主極に対向するアルミニウム板上で作用するアノード反応にあずかる電流値と、カソード反応にあずかる電流値との比を制御できる。主極に対向するアルミニウム板上で、陽極反応と陰極反応にあずかる電気量の比(陰極時電気量/陽極時電気量)は0.3〜0.95が好ましい。
【0053】
(7) 電気化学的な粗面化工程で使用される交流電流波形はサイン波、台形波又は矩形波を用いることが特開平6−135175号公報に記載されている。電気化学的な粗面化方式で用いる電解槽はラジアル型を使用し、補助アノード電極を主電極と同一の槽に設けることが特開平5−195300号公報に記載されている。また、電流値の一部を2つの主電極とは別に設けた補助アノード電極に直流電流として分流させることは、特公平6−37716号公報に記載されている。
【0054】
(8) 硝酸又は塩酸を主成分とする水溶液中で交流又は直流を用いて10〜1000C/dm の電気量で該アルミニウム板を電気化学的な粗面化処理を行う場合には、酸性水溶液中で、電流がゼロ〜ピーク値に達する時間が1〜3msec、かつ周波数50〜70Hzの台形波交流を用いる。
【0055】
(化学的エッチング処理(酸・アルカリ性液による))
機械的粗面化処理や電気化学的粗面化処理で形成された微細な凹凸の砂目の整面やスマット等の除去を目的として化学的エッチング処理を行う。エッチング方法の詳細については米国特許第3、834、398号に記載されており、これらの公知の手段を用いることができる。酸性又はアルカリ水溶液に用いることのできる酸又はアルカリとしては特開昭57−16918号公報などに記載されているものを単独又は組合せて用いることができる。液温は25〜90°C、1〜120秒間処理することが好ましい。酸性水溶液の濃度は、0.5〜25重量%が好ましく、更に酸性水溶液中に溶解しているアルミニウムは、0.5〜5重量%が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は、5〜30重量%が好ましく、更にアルカリ水溶液に溶解しているアルミニウムは、1〜30重量%が好ましい。
【0056】
酸又はアルカリ水溶液中でアルミニウム板の溶解量が1g/m以上30g/m 以下となるよう(E処理:機械的粗面化処理後のエッチング処理)又アルミニウムの溶解量が0.1g/m以上3g/m 以下となるよう(F処理:電気化学的粗面化後のエッチング処理)にエッチング処理を行う。
【0057】
なお、化学的エッチングを、塩基の水溶液を用いて行なった場合には、一般にアルミニウムの表面にスマットが生成するので、この場合には、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸又はこれらの内の2以上の酸を含む混酸でエッチング処理(所要デスマット処理)する(上記のデスマット処理記載と同等)。
【0058】
(陽極酸化処理)
アルミニウム板の表面の保水性や耐磨耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成するものならば、いかなるものでも使用することができる。一般には硫酸、リン酸、シュウ酸、クロム酸、又はそれらの混合液が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。陽極酸化の処理条件は用いる電解質によって変わるので一概に特定し得ないが、一般的には電解質の濃度が1〜80wt%、液温は5〜70°C、電流密度1〜60A/dm、電気1〜100V、電解時間5秒〜300秒の範囲にあれば適当である。
【0059】
硫酸法は通常直流電流で処理が行われるが、交流を用いることも可能である。陽極酸化皮膜の量は0.5〜10g/mの範囲が適当である。硫酸の濃度は5〜30%で使用され、20〜60°Cの温度範囲で5〜250秒間電解処理される。この電解液には、アルミニウムイオンが含まれている方が好ましい。更にこのときの電流密度は1〜50A/dmが好ましい。リン酸法の場合には、5〜50%の濃度、30〜60°Cの温度で、10〜300秒間、1〜15A/dm の電流密度で処理される。陽極酸化皮膜の量は1.0g/m以上が好適であるが、より好ましくは2.0〜6.0g/m の範囲である。
【0060】
(親水化処理)
陽極酸化処理が施された後、アルミニウム表面は必要により親水化処理が施される。本発明に使用される親水化処理としては、米国特許第2714066号、第3181461号、第3280734号及び第3902734号各明細書に開示されているようなアルカリ金属シリケート(たとえば珪酸ナトリウム水溶液)法がある。この方法においては、ウェブが珪酸ナトリウム水溶液中で浸漬されるか、また電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム、及び、米国特許第3276868、第4153461号及び第4689272号各明細書に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0061】
(その他処理(水洗、封孔))
各処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行う。陽極酸化処理後に封孔処理を施したものも好ましい。かかる封孔処理は熱水及び無機塩又は有機塩を含む熱水溶液への浸漬ならびに水蒸気浴によって行われる。
【0062】
(塗布方法)
塗布液の塗布方法としては特公昭58−4589号、特開昭59−123568号等に記載されているコーティングロッドを用いる方法や特開平4−244265号等に記載されているエクストルージョン型コーターを用いる方法、又は特公平1−57629号、特開平10−128212号等に記載されているスライドビードコーターを用いる方法等を用いることができるが、これらには限定されない。他に、たとえば、カーテン塗布方式、ロール塗布方式、グラビア塗布方式等も採用できる。以下にいくつかの方法に関し詳しく説明した後、塗布条件について説明する。
【0063】
(1) ロッド塗布方式
コーティングロッドを用いる塗布方法は、コーティングロッドを走行するウェブ14に接触させ、所定の塗布量を得る方法である。このコーティングロッドを用いる塗布方法は、1本のコーティングロッドに塗布液をウェブ14に転移して塗布する機能と塗布液量を調節する機能の両方を兼有させたものと、事前にウェブ14上に過剰に塗布された塗布液をコーティングロッドで掻き取り塗布液量を調節するものがある。前者は、コーティングロッドとウェブ14の接触部の直前に液溜まりが形成されるように塗布液を供給し、コーティングロッドにより塗布液量を調節して所望の塗布量を得る方法である。
【0064】
これら、コーティングロッドを用いる塗布方法の場合、コーティングロッドは、静止又はウェブ14と順方向又は逆方向に任意の周速度で回転させる事ができる。この場合、外部駆動装置を用いる等の方法でコーティングロッドを強制的に回転させてもよいし、走行するウェブ14との接触によりコーティングロッドを従動回転させてもよい。
【0065】
また、コーティングロッドに対するウェブ14のラップ角度は、l°〜30°の範囲が好ましく、より好ましくは、2°〜20°の範囲に設定できる。
【0066】
塗布液の液物性としては、粘度は100cp以下、より好ましくは50cp以下、表面張力は20〜70dyne/cmの範囲が好ましい。
【0067】
この方式において、塗布量はコーティングロッド表面の溝の大きさ、また、ロッドにワイヤーを巻いてあるワイヤーロッドではワイヤーのサイズにより制御する。塗布量の制御範囲ははっきりした制約はないが、3〜100cc/mが通常用いられる。コーティングロッドの径も特に制約はないが6〜25mm、好ましくは6〜15mmである。ロッドの材質としては、耐蝕性、強度の面より金属が好ましく、特にステンレス鋼が適している。
【0068】
本発明において用いられるコーティングロッドとしては、たとえば、ロッド周面の周方向にワイヤーを密に巻き掛けて隣接するワイヤー同志の間に溝を形成したワイヤーロッドや、ロッド周面の周方向にロッドの幅全長に渡って、又は必要部分に溝を刻設した溝切りロッドが用いられる。
【0069】
ワイヤーロッドを使用する場合、適切なワイヤーの径は0.07〜1.0mm、好ましくは0.07〜0.6mmが適当であり、ワイヤーの材質としては金属が用いられるが、耐蝕性、耐摩耗性、強度等の視点からステンレス銅が最も適している。このワイヤーロッドには更に耐摩耗性を向上させるため、表面にメッキを施すこともできる。特に、ハードクロムメッキが適している。
【0070】
また本発明において溝切りロッドを使用する場合、溝のピッチは0.05〜1.0mm、好ましくは0.1〜0.6mmが適当であり、断面形状としては正弦曲線に近似したものや台形状のものが適している。しかしながら、必ずしもかような断面形状に限定されることなく、他の断面形状のものも使用することができる。この溝切りロッドにも更に耐摩耗性を向上させるため、表面にメッキを施すこともできる。特にハードクロムメッキが適している。
【0071】
ロッド支持部材はロッドが高速で回転するため、ロッド(ワイヤーロッドにあってはワイヤー)との間の摩擦抵抗が小さい材質のものが選択されなければならない。本発明に好ましく用いられるロッド支持部材及び堰部材の材質としては、たとえば、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、等を挙げることが出来、これらのうちでもテフロン(米国DuPont社品名)の名で知られるポリテトラフルオロエチレン、デルリン(米国DuPont社品名)の名で知られるポリアセタール樹脂が摩擦係数、強度の点で特に好適である。更に、これらのプラスチック材料にグラスファイバー、グラファイト、二硫化モリブデン等の充填材を添加したものも用いることができる。更には、ロッド支持部材を金属材料で製作した後、その表面に前述の如きプラスチック材料をコーティングしたり、貼りつけたりして、バーとの間の摩擦係数を小さくさせてもよい。又は、各種金属材料に前述の如きプラスチック材料を含浸させたもの、たとえば、アルミニウムにポリテトラフルオロエチレンを含浸させたものをロッド支持部材に用いることもできる。
【0072】
(2) エクストルージョン塗布方式
また別の方法としては、エクストルージョン型注液器より、塗布液を吐出させ、バックアップローラに券回されて、走行するウェブ14との間隙に塗布液ビードを形成させ、塗布液ビードの背部を減圧又は前部を加圧して塗布する方法を用いることができる。この方式では、ウェブ14と注液器先端のクリアランスに依存するが、10〜500cc/m程度の塗布量の液を塗布することができる。塗布液物性として、粘度0.7〜100cp、表面張力は20〜50dyne/cmの範囲が好ましい。また、ウェブ14と注液器のクリアランスは、0.1〜0.5mm程度が通常用いられる。
【0073】
(3) スライド塗布方式
更に別の方法として、スライド面を流下する液膜状の塗布液が、スライド面先端において、走行するウェブ14と出会う間隙部に塗布液ビードを形成するようにし、このビードを介して塗布液をウェブ14に塗布する方法を用いることができる。必要により、ビードの背部を減圧又は前部を加圧して塗布してもよい。この方式では、10〜100cc/m程度の塗布量の液を塗布することができる。塗布液物性として、粘度1〜200cp、表面張力は20〜60dyne/cmの範囲が好ましい。また、ウェブ14と注液器のクリアランスは、0.1〜0.6mm程度が通常用いられる。
【0074】
(4) 塗布条件
塗布液をウェブ14の表面に塗布するに際しては、以下の条件(a)〜(c)を満足させることが重要である。
【0075】
(a) 塗布液にかかる圧力P
塗布液にかかる圧力Pを1.5×10Pa以下にしてウェブ14の表面に塗布して塗布層を形成する。この圧力Pとは、塗布部のヘッド及びウェブ14に囲まれ、塗布液で満たされた空間の液圧を指す。
【0076】
たとえば、(1) のロッド塗布方式の場合、Tをウェブ14にかかる張力とし、Rをロッドの半径とすれば、P=2T/πRの式で表せる。
【0077】
(b) 塗布液にかかるせん断応力τ
塗布液にかかるせん断応力τを1.5×10Pa以下にしてウェブ14の表面に塗布して塗布層を形成する。このせん断応力τとは、塗布部のヘッド及びウェブ14に囲まれ、塗布液で満たされた空間の液にかかるせん断応力を指す。
【0078】
たとえば、塗布液の粘度をμとし、塗布液のせん断速度をγとすれば、τ=μγの式で表せる。
【0079】
(c) 塗布液にかかる圧力Pとせん断応力τとの合計値P+τ
塗布液にかかる圧力Pとせん断応力τとの合計値P+τを1.5×10Pa以下にしてウェブ14の表面に塗布して塗布層を形成する。
【0080】
上記の条件(a)〜(c)を満足させる具体的な方法としては、ウェブ14の搬送時の張力を下げたり、液の粘度を下げたり、ウェブ14の搬送速度を遅くしたりすることにより達成できる。
【0081】
また、上記の圧力P(液圧) が小さすぎると、高速薄層塗布適性がなくなる。ここでいう高速薄層塗布適性とは、ラインスピードが60m /分 以上で、かつ、25ml/m 以下の量の塗布液を塗布することである。このためには、具体的には、P >5×10Paが必要となる。上記の数値を外れる領域では、圧力Pの下限に特に制約はない。
【0082】
更に、バー塗布、ロール塗布、グラビア塗布のような接触塗布方式においては、上記方法以外にも、バー(ローラ、グラビアローラ)の径を大きくしたり、バー(ローラ、グラビアローラ)の回転をウェブ14の進行方法に大きくしたりすることにより、上記の圧力P(液圧)を達成できる。
【0083】
また、分散液の塗布乾燥後の搬送工程においては、分散液を塗布した面にかかる圧力(面圧)QをQ≦1.5×10Paにするとよい。この具体的な方法としては、ローラ搬送の場合は、ローラの径を大きくしたり、張力を小さくしたりすることにより、上記の圧力Qを達成する。また、非接触搬送方式を使用してもよい。
【0084】
また、塗布乾燥後の巻き取り工程を有する場合は、巻き取り部での分散液塗布面にかかる圧力(面圧)QをQ≦1.5×10Paにするとよい。この具体的な方法としては、巻き取り時の張力を小さくしたり、巻き取り時の巻き芯径を大きくしたりすることにより、上記の圧力Qを達成する。
【0085】
更に、ウェブ14を切断後、平板状(以下、「平板」という。)にして積み重ねて、保存する場合には、最下層の平板にかかる圧力(面圧)QをQ≦1.5×10Paにするとよい。この具体的な方法としては、積み重ねる平板の枚数を少なくしたり、傾斜させて積層したりすることにより、上記の圧力Qを達成する。
【0086】
[バックコート層の形成]
バック層塗布・乾燥部18において、ウェブ14の裏面には、重ねた場合の組成物層の傷付きを防ぐための有機高分子化合物からなる被覆層(以後この被覆層をバックコート層と称す。)が必要に応じて設けられる。
【0087】
このバックコート層の主成分としては、ガラス転移点20°C以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フエノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂及び塩化ビニリデン共重合樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が用いられる。飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットからなる。
【0088】
ポリエステルのジカルボン酸ユニットとしてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、蓚酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸などが上げられる。
【0089】
バックコート層には更に、着色のための染料や顔料、アルミニウム支持体との密着性向上のためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸及びカチオン性ポリマー等、更には滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンよりなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等が適宜加えられる。
【0090】
バックコート層の厚さは基本的には合紙がなくとも組成物層を傷つきにくくさせる厚さがあればよく、0.01〜8μmの範囲が好ましい。バックコート層をウェブ14の裏面に被覆するには種々の方法が適用できる。たとえば、適当な溶媒の溶液にして、又は乳酸分散液にして塗布、乾燥する方法、予めフイルム上に成形した物を接着剤や熱でウェブ14に貼り合わせる方法及び溶融押し出し機で溶融皮膜を形成し、ウェブ14に貼り合わせる方法等が挙げられるが、上記の塗布量を確保する上で最も好ましいのは溶液にして塗布、乾燥する方法である。
【0091】
[下塗り層の形成]
下塗り塗布・乾燥部20において、必要に応じてウェブ14の表面に下塗り層塗布液を塗布・乾燥して下塗り層を形成する。この下塗り塗布・乾燥部20においても塗布する方式や条件としては、既述の、コーティングロッドを用いる方法、エクストルージョン型コーターを用いる方法、スライドビードコーターを用いる方法が利用できる。
【0092】
[感光層の形成]
感光層塗布・乾燥部22において、下塗り層の上に光重合型感光性組成物の塗料を塗布・乾燥して感光層を形成する。
【0093】
光重合型感光性組成物を溶解する溶媒としては、特開昭62−251739号、特開昭6−242597号公報に記載されているような有機溶剤が用いられる。光重合型感光性組成物は、2〜50重量%の固形分濃度で溶解、分散され、ウェブ14上に塗布・乾燥される。
【0094】
ウェブ14上に塗設される光重合型感光性組成物の層(感光層)の塗布量は用途により異なるが、一般的には、乾燥後の重量にして0.3〜4.0g/mが好ましい。塗布量が小さくなるにつれて画像を得るための露光量は小さくて済むが、膜強度は低下する。塗布量が大きくなるにつれ、露光量を必要とするが感光膜は強くなり、たとえば、印刷版として用いた場合、印刷可能枚数の高い(高耐刷の)印刷版が得られる。感光性組成物の中には、塗布面質を向上するための界面活性剤、特に好ましくはフッ素系界面活性剤を添加することができる。
【0095】
感光性平版印刷版の感光層を構成する光重合型感光性組成物は、付加重合可能なエチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、高分子結合剤を必須成分とし、必要に応じ、着色剤、可塑剤、熱重合禁止剤等の種々の化合物を併用することができる。
【0096】
光重合開始剤(系)の使用量はエチレン性不飽和化合物100重量部に対し、0.05〜100重量部、好ましくは0.1〜70重量部、更に好ましくは0.2〜50重量部の範囲で用いられる。
【0097】
感光性平版印刷版の感光層に用いられる高分子結合剤としては、該組成物の皮膜形成剤としてだけでなく、アルカリ現像液に溶解する必要があるため、アルカリ水に可溶性又は膨潤性である有機高分子重合体が使用される。
【0098】
感光層組成物をウェブ14上に塗布する際には種々の有機溶剤に溶かして使用に供される。ここで使用する溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノプチルエーテルアセテート、3−メトキシプロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート−3−メトキシプロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどがある。これらの溶媒は、単独又は混合して使用することができる。そして、塗布溶液中の固形分の濃度は1〜50重量%が適当である。
【0099】
[オーバーコート層の形成]
平版印刷版原版におけるオーバーコート層に含有される無機質の層状化合物とは、薄い平板状の形状を有する粒子であり、たとえば、下記の一般式
A(B、C)2−5 D10(OH、F、O)
[ただし、AはK、Na、Caの何れか、B及びCはFe(II)、Fe(III)、Mn、Al、Mg、Vの何れかであり、DはSi又はAlである。]で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、式3MgO・4SiO・HOで表されるタルク、テニオライト、
モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、りん酸ジルコニウムなどが挙げられる。
【0100】
上記雲母群においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。また、合成雲母としては、フッ素金雲母KMg(AlSi10)F、カリ四ケイ素雲母KMg2.5Si10)F等の非膨潤性雲母、及びNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si10)F、Na又はLiテニオライト(Na、Li)MgLi(Si10)F、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na、Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si10)F等の膨潤性雲母等が挙げられる。更に合成スメクタイトも有用である。
【0101】
上記の無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。すなわち、この膨潤性合成雲母や、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ベントナイト等の膨潤性粘度鉱物類等は、1.0〜1.5nm程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘度鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にNa+ 、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。
【0102】
これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換する。特に層間の陽イオンがLi+ 、Na+ の場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。ベントナイト及び膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、有用であり、特に膨潤性合成雲母が好ましく用いられる。
【0103】
使用する無機質の層状化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きいほどよい。したがって、アスペクト比は20以上であり、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。なお、アスペクト比は粒子の長径に対する厚さの比であり、たとえば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0104】
使用する無機質の層状化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。また、粒子の平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。たとえば、無機質の層状化合物のうち、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは厚さが1〜50nm、面サイズが1〜20μm程度である。
【0105】
このようにアスペクト比が大きい無機質の層状化合物の粒子をオーバーコート層に含有させると、塗膜強度が向上し、また、酸素や水分の透過を効果的に防止しうるため、変形などによるオーバーコート層の劣化を防止し、高湿条件下において長期間保存しても、湿度の変化による平版印刷版原版における画像形成性の低下もなく保存安定性に優れる。
【0106】
オーバーコート層中の無機質層状化合物の含有量は、オーバーコート層に使用されるバインダーの量に対し、質量比で5/1〜1/100であることが好ましい。複数種の無機質の層状化合物を併用した場合でも、これら無機質の層状化合物の合計の量が上記の質量比であることが好ましい。
【0107】
通常、露光を大気中で行うが、オーバーコート層は、画像記録層中で露光により生じる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素、塩基性物質等の低分子化合物の画像記録層への混入を防止し、大気中での露光による画像形成反応の阻害を防止する。したがって、オーバーコート層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低いことであり、更に、露光に用いられる光の透過性が良好で、画像記録層との密着性に優れ、かつ、露光後の機上現像処理工程で容易に除去することができるものであるのが好ましい。このような特性を有するオーバーコート層については、以前より種々検討がなされており、たとえば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55−49729号公報に詳細に記載されている。
【0108】
オーバーコート層には、上記無機質の層状化合物とともにバインダーを用いることが好ましい。バインダーとしては、無機質の層状化合物の分散性が良好であり、画像記録層に密着する均一な皮膜を形成し得るものであれば、特に制限はなく、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができる。
【0109】
具体的には、たとえば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニルの部分鹸化物、エチレン−ビニルアルコール共重合体、水溶性セルロース誘導体、ゼラチン、デンプン誘導体、アラビアゴム等の水溶性ポリマーや、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリサルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、セロハン等のポリマー等が挙げられる。こ
れらは、必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。
【0110】
これらのうち、非画像部に残存する保護層の除去の容易性及び皮膜形成時のハンドリング性の観点から、水溶性ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリアクリル酸等の水溶性アクリル樹脂、ゼラチン、アラビアゴム等が好適であり、なかでも、水を溶媒として塗布可能であり、かつ、印刷時における湿し水により容易に除去されるという観点から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム等が更に好ましい。
【0111】
オーバーコート層に用い得るポリビニルアルコールは、必要な水溶性を有する実質的量の未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、及びアセタールで置換されていてもよい。また、同様に一部が他の共重合成分を含有していてもよい。ポリビニルアルコールの具体例としては、71〜100モル%加水分解され、重合度が300〜2400の範囲のものが挙げられる。
【0112】
具体的には、株式会社クラレ製のPVA-105、PVA-110、PVA-117、PVA-117H、PVA-120、PVA-124、PVA124H、PVA-CS、PVA-CST、PVA-HC、PVA-203、PVA-204、PVA-205、PVA-210、PVA-217、PVA-220、PVA-224、PVA-217EE、PVA-217E、PVA-220E、PVA-224E、PVA-405、PVA-420、PVA-613、L-8 等が挙げられる。
【0113】
上記の共重合体としては、88〜100モル%加水分解されたポリビニルアセテートクロロアセテート又はプロピオネート、ポリビニルホルマール及びポリビニルアセタール及びそれらの共重合体が挙げられる。
【0114】
次に、オーバーコート層に用いる無機質層状化合物の一般的な分散方法の例について述べる。まず、水100質量部に先に無機質層状化合物の好ましいものとして挙げた膨潤性の層状化合物を5〜10質量部添加し、充分水になじませ、膨潤させた後、分散機にかけて分散する。ここで用いる分散機としては、機械的に直接力を加えて分散する各種ミル、大きな剪断力を有する高速攪拌型分散機、高強度の超音波エネルギーを与える分散機等が挙げられる。
【0115】
具体的には、ボールミル、サンドグラインダーミル、ビスコミル、コロイドミル、ホモジナイザー、ティゾルバー、ポリトロン、ホモミキサー、ホモブレンダー、ケディミル、ジェットアジター、毛細管式乳化装置、液体サイレン、電磁歪式超音波発生機、ポールマン笛を有する乳化装置等が挙げられる。
【0116】
上記の方法で分散した無機質層状化合物の5〜10質量%の分散物は高粘度又はゲル状であり、保存安定性は極めて良好である。この分散物を用いてオーバーコート層塗布液を調製する際には、水で希釈し、充分攪拌した後、バインダー溶液と配合して調製するのが好ましい。
【0117】
このオーバーコート層塗布液には、塗布性を向上させための界面活性剤や皮膜の物性改良のための水溶性可塑剤などの公知の添加剤を加えることができる。水溶性の可塑剤としては、たとえば、プロピオンアミド、シクロヘキサンジオール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。また、水溶性の(メタ)アクリル系ポリマーを加えることもできる。更に、この塗布液には、画像記録層との密着性、塗布液の経時安定性を向上するための公知の添加剤を加えてもよい。
【0118】
このように調製されたオーバーコート層塗布液を、ウェブ上に備えられた画像記録層の上に塗布し、乾燥してオーバーコート層を形成する。塗布溶剤はバインダーとの関連において適宜選択することができるが、水溶性ポリマーを用いる場合には、蒸留水、精製水を用いることが好ましい。
【0119】
オーバーコート層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/mの範囲であることが好ましく、0.02〜3g/mの範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/mの範囲である。
【0120】
[乾燥方法]
乾燥方法としては、特開平6−63487号に記載がある乾煉装置内にパスローラを配置し、パスローラにウェブ14をラップさせて搬送しながら熱風を吹き付けて乾燥する方法、ウェブ14の上下面からノズルによりエアーを供給しウェブ14を浮上させながら乾燥する方法、特開昭60−149871号公報に記載の帯状物の上下に配設した加熱板からの放射熱により乾燥する方法、又は特開昭60−21334号公報に記載のあるローラ内部に熱媒体を導通し加熱しそのローラとウェブ14の接触による熱伝導により乾燥する方法等がある。
【0121】
いずれの方法においても、ウェブ14に塗布液が塗布された帯状物を均一に乾燥するために、その加熱制御は、ウェブ14や感光性組成物の種類、塗布量、溶剤の種類、走行速度等に応じて熱風又は熱媒体の流量、温度、流し方を適宜変えることにより行われる。また、2種類上の乾燥方法を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
[平板印刷版の原反の巻取り]
以上のように製造された平版印刷版の原反14Aは、巻取機28にロール状に一旦巻き取られる。平板印刷版の原反14Aを巻取機28に一旦巻き取ることにより、長尺状の原反14Aの製造から原反14Aを製品サイズに裁切断するシート加工工程までのコイル経時を長くとることができるので、製造からシート加工までを一貫して行う製造方法に比べてフレキシビリティーがあり、生産性を向上できる。
【0123】
[平板印刷版の原反のシート加工〜現像]
シート加工工程では、オーバーコート層の上に保護用シート(合紙)を張り合わせた後、裁断機及び切断機によりシート状の製品サイズに裁切断される。この場合、合紙の含水率を2〜10重量%、好ましくは4〜6.5重量%に調整するための温湿度調整可能な合紙含水率調整装置(図示せず)を設けることが好ましい。これは、平版印刷版に合紙を張り合わせたことにより、オーバーコート層の含水率が変化するのを防止するためである。
【0124】
シート加工された平版印刷版の製品は、感光層を、たとえば、カーボンアーク灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、ヘリウムカドミニウムレーザー、アルゴンイオンレーザー、FD・YAGレーザー、ヘリウムネオンレーザー、半導体レーザー(350nm〜600nm)、赤外線を放射する固体レーザ及び半導体レーザ(760nm〜1200nm)により画像露光される。これらの従来公知の活性光線で画像露光した後、現像処理することにより、アルミニウム板支持体表面に画像を形成することができる。
【0125】
平版印刷版の前記現像液による現像は、常法に従って、0〜60°C、好ましくは15〜40°C程度の温度で、たとえば、露光処理した平版印刷版を現像液に浸漬してブラシで擦る等により行う。
【0126】
このようにして現像処理された感光性平版印刷版は特開昭54−8002号、同55−115045号、同59−58431号等の各公報に記載されているように、水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体等を含む不感脂化液で後処理される。
【0127】
上記のような処理により得られた印刷版は特開2000−89478号に記載の方法による後露光処理やバーニングなどの加熱処理により、耐刷性を向上させることができる。このような処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に用いられる。
【0128】
以上、本発明に係る平版印刷版の製造方法の実施形態の例について説明したが、本発明は上記実施形態の例に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0129】
また、本発明は、平版印刷版の製造方法のみならず、変形破壊の懸念のある粒子の含まれた塗布液の塗布にも、同様に適応可能である。
【実施例】
【0130】
本発明に係る平版印刷版の製造方法により平版印刷版の製造を行い、平版印刷版の接着性、経時安定性等について評価を行った。以下、製造条件及び評価結果について述べる。
【0131】
1.平版印刷版原版の作製
(1)ウェブ(支持体)の作製
厚さ0.3mmのアルミニウム板(材質1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50°Cで30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm)を用いアルミ表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45°Cの25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、更に60°Cで20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/mであった。
【0132】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50°Cであった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8m秒、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dmであった。
【0133】
その後、スプレーによる水洗を行った。
【0134】
次に、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50°Cの電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dmの条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
【0135】
この板を15質量%硫酸(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化被膜を設けた後、水洗、乾燥し更に、珪酸ナトリウム2.5質量%水溶液にて30°Cで10秒処理した。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0136】
(2)画像記録層の形成
上記ウェブ上に、下記組成の画像記録層塗布液をバー塗布した後、70°C、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.8g/mの画像記録層を形成した。更にその上に下記組成のオーバーコート層塗布液(1)を膜厚が0.5g/mになるようワイヤーバーで塗布したのち、同様に70°C、60秒で乾燥し平版印刷版原版1を得た。
【0137】
画像記録層塗布液(1)
・水 100g
・下記のマイクロカプセル(1)(固形分換算で) 5g
・下記の重合開始剤(1) 0.5g
・下記のフッ素系界面活性剤(1) 0.2g
【0138】
【化1】

【0139】
【化2】

【0140】
(マイクロカプセル(1)の合成)
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(三井武田ケミカル(株)製、タケネートD−110N)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、下記の赤外線吸収剤(1)0.35g、3−(N、N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン(山本化成製ODB)1g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。
【0141】
水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、40°Cで3時間攪拌した。このようにして得られたマイクロカプセル液(1)の固形分濃度を、20質量%になるように蒸留水を用いて希釈した。平均粒径は0.3μmであった。
【0142】
オーバーコート層塗布液(1)
・下記雲母分散液(1) 8.0g
・ポリビニルアルコール(ケン化度98.5モル%)
((株)クラレ製、PVA110) 1.3g
・2−エチルヘキシルスルホコハク酸ソーダ 0.3g
・水 133g
(雲母分散液(1)の調製)
水368gに合成雲母(「ソマシフME−100」:コープケミカル社製、アスペクト比:1000以上)の32gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)0.5μmになる迄分散し、雲母分散液(1)を得た。
【0143】
上記のウェブ(支持体)上に、下記組成の画像記録層塗布液(2)をバー塗布した後、100°C、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成し
た。更にその上に上記のオーバーコート層塗布液(1)を膜厚が0.5g/mになるようワイヤーバーで塗布したのち、同様に70°C、60秒で乾燥し平版印刷版原版2を得た。
【0144】
画像記録層塗布液(2)
・下記の赤外線吸収剤(2) 0.05g
・上記の重合開始剤(1) 0.2g
・下記のバインダーポリマー(1)(平均分子量8万) 0.5g
・重合性化合物 1.0g
イソシアヌール酸EO変性トリアクリレート
(新中村化学工業(株)製、NKエステルM−315)
・ビクトリアピュアブルーのナフタレンスルホン酸塩 0.02g
・上記のフッ素系界面活性剤(1) 0.1g
・メチルエチルケトン 18.0g
雲母分散液(1)を下記雲母分散液(2)に変えた以外は、全く同様にして、平版印刷版原版3を得た。
【0145】
(雲母分散液(2)の調製)
ドデシル硫酸ソーダ2gを加えた水188gに合成雲母(スズライト40H:エムアールアイ(MRI)社製の商品名)12gを添加し、ホモジナイザーを用いて10,000rpmで30分間分散し、更に5.6質量%ゼラチン水溶液200gを加えて雲母分散液(2)を得た。
【0146】
雲母分散液(1)を下記雲母分散液(3)に変えた以外は、全く同様にして、平版印刷版原版4を得た。
【0147】
(雲母分散液(3)の調製)
合成雲母(ソマシフMEB−3、コープケミカル(株)製)を13部、水酸化アルミニウム分散液(ハイジライトH42S(昭和軽金属(株)製)100部、ヘキサメタリン酸ナトリウム1部、水150部を混合し、ボールミルなどの湿式分散機で、平均粒径0.7μmまで分散し、雲母分散液(3)を得た。
【0148】
2.他の製造条件
ウェブ(支持体)の搬送速度は、100m/分とした。乾燥機による乾燥は、上下垂直風を当てる方式とした。この乾燥機のノズルスリット隙間は、2mmであり、スリットのピッチは、150mmであり、ノズルからの風速は、10m /秒である。
【0149】
上記の塗布液、ウェブ、乾燥機を使用し、塗布方法、搬送方法を変更して製造した。
【0150】
3.評価方法
(接着性の評価)
得られた平版印刷版を、画像記録層塗布面と合紙が直接接触するようにして積層化し、平版印刷原版が50枚積層された積層体を作成した。用いた合紙は、坪量が48g /m、厚さが60μm 、密度が0.08g /cm 、平滑度が310 秒であった。この積層体を図2に示すように、アルミ箔を内面に貼り付けたクラフト紙によって包装した後、粘着テープ7、7…を貼ることにより固定し、梱包体6を作成した。
【0151】
この梱包体6を、流通及び保管条件が劣悪の場合を想定し、45°C、相対湿度75%の環境下に1週間放置した後開包し、画像記録層塗布面と合紙との接着性を評価した。平版印刷版と合紙が分離することができた場合は評価○とし、平版印刷版と合紙が接着したために分離が困難な場合は評価×とした。
【0152】
(経時安定性の評価)
一般にネガ型画像形成層の場合、経時で開始剤等が分解し反応性の低下、すなわち、低感化が観察される。上記のように45°C、相対湿度75%の環境下で保管した平版印刷原版を100枚印刷して非画像部にインキ汚れがない印刷物が得られたことを確認した後、続けて500枚の印刷を行った。合計600枚目の印刷物の細線チャート(10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、60、80、100及び200μmの細線を露光したチャート)を25倍のルーペで観察し、途切れることなくインキで再現された細線幅により、細線再現性を評価した。
【0153】
この細線再現性で記述したのと同様の方法で評価を行い、経時安定性の評価とした。経時安定性の劣る平版印刷原版は、45°C、相対湿度75%の保管によって細線再現性が劣化することにより判別できる。
【0154】
4.評価結果
(塗布条件による評価結果)
図3は、塗布条件を変更した各試料の評価結果を示す表である。このうち、試料No1〜5は、バー塗布方式であり、試料No6及び7は、エクストルージョン塗布方式であり、試料No8及び9は、スライドビード塗布方式であり、試料No10〜13は、ロール塗布方式であり、試料No14及び15は、バー塗布方式である。
【0155】
図3の表によれば、塗布方式にかかわらず(例外であるバー塗布方式を除いて)、塗布時に塗布液にかかる圧力Pとせん断応力τとの合計値P+τを1.5×10Pa以下にし、かつ、搬送時にウェブに加わる面圧Qを1.5×10Pa以下に設定することにより、接着性、及び経時安定性が良好になることが確認された。
【0156】
(保存条件による評価結果)
図4は、保存条件を変更した各試料の評価結果を示す表である。このうち、試料No1〜3は、ウェブをロール状に巻き取る方式であり、試料No4〜6は、ウェブを切断して積層する方式であり、試料No7〜9は、ウェブをロール状に巻き取った後にウェブを切断して積層する方式である。
【0157】
図4の表によれば、ロール状に巻き取り時にウェブに加わる面圧Qを1.5×10Pa以下に設定することにより、又は、積層時にウェブに加わる面圧Qを1.5×10Pa以下に設定することにより、接着性、及び経時安定性が良好になることが確認された。
【0158】
[その他の実施例]
図3の表のRunNo.1と同一の条件で、塗布・乾燥・搬送したウェブを、以下に示す条件で、巻き取り保存および切断・平板保存したものを印刷評価した(巻き取り方向は、外まき。)。以下に評価結果を示す。
【0159】
(a) ロール状にウェブを巻き取る際の、塗布面にかかる圧力Qを1.5×10Pa以下にすること。
【0160】
(b) ウェブを平板状で積層して保管する際に、最下層の平板にかかる圧力Qを1.5×10Pa以下にすること。
の両者の条件を満たすことにより、印刷評価は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】図1は、本発明に係る平版印刷版の製造方法を実施する製造ラインの一例を示した構成図であり;
【図2】図2は、平版印刷原版が積層された積層体の斜視図であり;
【図3】図3は、実施例の結果を示す表であり;
【図4】図4は、実施例の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0162】
10…製造ライン、12…送出機、14…ウェブ、16…表面処理部、18…バックコート層塗布・乾燥部、20…下塗り塗布・乾燥部、22…感光層塗布・乾燥部、24…オーバーコート層塗布・乾燥部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物分散液からなる塗布液を、該塗布液にかかる圧力Pを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する工程を備えることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項2】
無機化合物分散液からなる塗布液を、該塗布液にかかるせん断応力τを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する工程を備えることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項3】
無機化合物分散液からなる塗布液を、該塗布液にかかる圧力Pとせん断応力τとの合計値P+τを1.5×10Pa以下にして帯状可撓性支持体の表面に塗布して塗布層を形成する工程を備えることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項4】
前記塗布層を乾燥する工程と、
前記塗布層が乾燥した後の前記帯状可撓性支持体を、該帯状可撓性支持体に加わる面圧Qを1.5×10Pa以下にしてローラ部材に巻き掛けて搬送する工程と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
【請求項5】
前記塗布層を乾燥する工程と、
前記塗布層が乾燥した後の前記帯状可撓性支持体を、該帯状可撓性支持体に加わる面圧Qを1.5×10Pa以下にしてロール状に巻き取る工程と、
を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
【請求項6】
前記塗布層を乾燥する工程と、
前記塗布層が乾燥した後の前記帯状可撓性支持体の複数枚を、該帯状可撓性支持体に加わる面圧Qを1.5×10Pa以下にして積層する工程と、
を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−528179(P2009−528179A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540376(P2008−540376)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【国際出願番号】PCT/JP2007/053459
【国際公開番号】WO2007/099887
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】