説明

平版印刷版原版及びその製版方法

【課題】赤外線レーザーによる書き込みが可能であり、かつ、保護層を有する平版印刷版原版であって、製版作業における生産性を向上し、現像カスの発生を抑制する平版印刷版原版、及びその製版方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム支持体上に、赤外線吸収剤、重合開始剤、不飽和ポリウレタン化合物及びバインダーポリマーを含有する感光層並びに無機質の層状化合物を含有する保護層をこの順に有する平版印刷版原版であって、保護層とアルミニウム支持体裏面とが接触する状態でプレートセッター内にセットし、平版印刷版原版を1枚づつ自動搬送し、750nm〜1400nmの波長で露光処理した後、加熱処理及び/又は水洗処理を経ることなく現像処理を行う平版印刷版原版の製版方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線レーザー光での直接描画、高速製版可能なネガ型の平版印刷版原版、及びその製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平版印刷版原版としては親水性支持体上に親油性の感光性樹脂層を設けた構成を有するPS版が広く用いられ、その製版方法として、通常は、リスフイルムを介してマスク露光(面露光)後、非画像部を溶解除去することにより所望の印刷版を得ていた。近年、画像情報をコンピューターを用いて電子的に処理、蓄積、出力する、デジタル化技術が広く普及してきている。そして、そのようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきた。その結果レーザー光のような指向性の高い光をデジタル化された画像情報に従って走査し、リスフイルムを介すこと無く、直接印刷版を製造するコンピューター・トゥ・プレート(CTP)技術が切望されており、これに適応した平版印刷版原版を得ることが重要な技術課題となっている。
【0003】
製版工程における生産性の向上を目的として、親水性支持体上に、光重合型の感光層と無機質の層状化合物を添加した酸素遮断性の保護層とを設けたネガ型平版印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、製版作業において、保護層を有する平版印刷版原版を用いる場合には、保護層を除去するためのプレ水洗工程が生産性低下の要因となっていた。この工程を省略する手段として、保護層の膜重量を0.05g/m2以上1.0g/m2以下とし、更に、その保護層に酸変性ポリビニルアルコールを用いた平版印刷版原版が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
プレ水洗工程を省略すると、現像液によって保護層と感光層の両層を除去するために、現像液中の溶解成分が増加する。これにより、現像カスが出易くなるという新たな問題が生じる。特に、製版時における合紙除去工程を省略する目的で、合紙なしでも平版印刷版原版同士の接着を防止するために保護層に雲母化合物のような無機質の層状化合物を添加した場合、現像カスの発生が顕著となる。
【0005】
以上のことより、感光層の重合阻害が抑制され、感度及び耐刷性に優れた、合紙除去工程及びプレ水洗工程が必要なく、製版作業における生産性を向上しうる平版印刷版原版、及びその製版方法が望まれていた。
【特許文献1】特開平11−038632
【特許文献2】特開2004−118070
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
即ち、本発明の目的は、赤外線レーザーによる書き込みが可能であり、感度及び耐刷性に優れ、かつ、保護層を有する平版印刷版原版でありながら、合紙除去工程及びプレ水洗工程の必要がなく製版作業における生産性を向上しうる平版印刷版原版及びその製版方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、無機質の層状化合物を有する保護層及び下記一般式(1)で表される重合性化合物を有する感光層を用いることで、上記目的が達成されることを見出し、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
(1)アルミニウム支持体上に、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物及びバインダーポリマーを含有する感光層並びに無機質の層状化合物を含有する保護層とをこの順に有する平版印刷版原版であって、前記重合性化合物が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする平版印刷版原版。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式中、X,Yは各々2価の連結基を表し、Zは直鎖のアルキレンを表し、Aは水素原子又はメチル基を表す。n,mは各々1〜10の整数を表し、a,bは各々1〜3の整数を表す。但し、a+b=4〜6である。)
(2)前記無機質の層状化合物が雲母化合物であることを特徴とする前記(1)記載の平版印刷版原版。
(3)前記(1)又は(2)に記載の平版印刷版原版を、保護層とアルミニウム支持体裏面とが接触する状態でプレートセッター内にセットし、該平版印刷版原版を1枚づつ自動搬送し、750nm〜1400nmの波長で画像露光した後、加熱処理及び/又は水洗処理を経ることなく現像処理を行うことを特徴とする平版印刷版原版の製版方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、赤外線レーザーによる書き込みが可能であり、感度及び耐刷性に優れ、かつ、保護層を有する平版印刷版原版でありながら、合紙除去工程及びプレ水洗工程の必要がなく製版作業における生産性を向上しうる平版印刷版原版及びその製版方法を提供することができる。より具体的には、赤外線レーザーによる書き込みが可能である感光層上に、該感光層の重合阻害を抑制し、現像除去性に優れ、更に、平版印刷版原版を積層した場合にも、平版印刷版原版の保護層表面と接する平版印刷版原版の支持体裏面との接着を抑制し、また、保護層表面と支持体裏面との間で生じるこすりキズや外部環境から持ち込まれる砂粒やゴミにより生じるキズを防止しうる保護層を備え、且つ、プレ水洗工程を省略し現像を行う際に、現像カスの発生を抑制し得る平版印刷版原版を提供することができる。また、この平版印刷版原版を用いて、像露光後の加熱処理工程あるいはプレ水洗工程を必要としない製版方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の平版印刷版原版における保護層は、雲母化合物のような無機質の層状化合物を含有しているため、膜強度が向上すると共に、マット性が発現され、低接着性の表面を形成する。このことから、この保護層を有する平版印刷版原版を、合紙を挟み込むことなく重ね合わせて積層体とした場合に、保護層と支持体裏面との接着を防ぐことができる。それ故、合紙除去工程を必要としない製版作業が可能となる。ところが、保護層に雲母化合物を有している場合、特に、プレ水洗工程を省略して現像した際には、現像液中の溶解成分が増大するため、現像カスがさらに発生し易い傾向にある。本発明では、感光層に上記一般式(1)で表される重合性化合物を用いることで、プレ水洗工程を省略した場合でも現像カスの発生を抑制することができる。従って、本発明の平版印刷版原版をプレートセ
ッターを用いて製版する場合には、合紙を除去する工程が不要となり、更に、像露光後の加熱処理工程あるいはプレ水洗工程も不要となる。このような予想外の優れた効果が得られるのは、その機構は十分に明確ではないが、上記一般式(1)で表される重合性化合物の現像液中での加水分解速度が速いことに起因するものと考えられる。
【0013】
本発明の平版印刷版原版は、アルミニウム支持体上に、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物及びバインダーポリマーを含有する感光層並びに無機質の層状化合物を含有する保護層をこの順に有する平版印刷版原版であって、前記重合性化合物が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0014】
【化2】

【0015】
(一般式中、X,Yは各々2価の連結基を表し、Zはアルキレンを表し、Aは水素原子又はメチル基を表す。n,mは各々1〜10の整数を表し、a,bは各々1〜3の整数を表す。但し、a+b=4〜6となる整数を表す。)
ここで、「この順に有する」とは、支持体上に、感光層及び保護層がこの順に設けられることを指し、中間層(下塗り層)、バックコート層など、目的に応じて設けられる、これら以外の任意の層の存在を否定するものではない。
【0016】
以下、本発明の平版印刷版原版を構成する各構成要素について説明する。
<感光層>
まず、感光層について説明する。
本発明に係る平版印刷版原版の感光層は、必須成分として、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物、及びバインダーポリマーを含有し、更に必要に応じて、着色剤や他の任意成分を含む重合性ネガ型の感光層である。
以下に、本発明に係る感光層を構成する各成分について説明する。
【0017】
(重合性化合物)
本発明に用いられる重合性化合物は前記一般式(1)で表されることを特徴とする。以下、前記一般式(1)で表される重合性化合物(以下適宜、特定重合性化合物と称する)を詳細に説明する。
【0018】
まず、一般式(1)においてXで表される2価の連結基としては、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有しても良いアルキレンオキシ基、置換基を有してもよいアリーレン基などが挙げられる。これらが置換基を有する場合、可能ならば置換基同士が結合して環を形成していてもよい。また、これらの2価の連結基がアミド結合やエステル結合で複数連結された構造を有していてもよい。なかでも、アルキレン基が好ましく、炭素数が1〜10のアルキレン基がより好ましく、炭素数が4〜6のアルキレン基がさらに好ましい。
【0019】
一般式(1)においてYで表される2価の連結基としては、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有しても良いアルキレンオキシ基、置換基を有してもよいアリーレン
基などが挙げられる。これらが置換基を有する場合、可能ならば置換基同士が結合して環を形成していてもよい。また、これらの2価の連結基がアミド結合やエステル結合で複数連結された構造を有していてもよい。現像液中での加水分解速度を早くするという観点からは、親水性を有し、立体障害の少ない連結基が好ましい。なかでも、アルキレンオキシ基が好ましく、炭素数が1〜10の置換基を有さないアルキレンオキシ基がより好ましく、エチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基がさらに好ましい。
【0020】
一般式(1)において、Zは置換基を有してもよいアルキレン基を表す。これらが置換基を有する場合、可能ならば置換基同士が結合して環を形成していてもよい。なかでも、炭素数が1〜10のアルキレン基がより好ましく、エチレン基又はプロピレン基がさらに好ましい。
【0021】
一般式(1)において、n,mは各々1〜10の整数を表す。より好ましい範囲は1〜5である。
【0022】
一般式(1)において、a,bは各々1〜3の整数を表す。但し、a+b=4〜6である。中でも、a,b共に2又は3であることが好ましい。
【0023】
以下に特定重合性化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
また、本発明において、特定重合性化合物は、一種単独で用いられることが好ましいが、他の特定重合性化合物を併用してもよい。一種単独又は特定重合性化合物同士を併用する場合、全特定重合性化合物の使用量は、感光層組成物中の固形分に対して、好ましくは5〜80質量%、更に好ましくは20〜60質量%である。
【0027】
また、特定重合性化合物と、その他の重合性化合物(以下、適宜、併用重合性化合物と称す)を併用してもよい。以下に併用重合性化合物についての説明する。
【0028】
(併用重合性化合物)
併用重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。このような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、上記一般式(1)に表される重合性化合物以外であれば、本発明においてはこれらを特に限定無く用いることができる。これらは、例えば、モノマー、プレポリマー、即
ち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの共重合体並びにそれらの混合物などの化学的形態をもつ。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0029】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。
【0030】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。
クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。
イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等がある。
マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。
【0031】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭46−27926、特公昭51−47334、特開昭57−196231記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240、特開昭59−5241、特開平2−226149記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。更に、前述のエステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0032】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例とし
ては、メチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド等がある。その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0033】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0034】
CH2=C(Ra)COOCH2CH(Rb)OH
(ただし、Ra及びRbはH又はCH3を示す。)
【0035】
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417号、特公昭62−39418号記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。更に、特開昭63−277653号、特開昭63−260909号、特開平1−105238号に記載される、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有する付加重合性化合物類を用いることによっては、非常に感光スピードに優れた光重合性組成物を得ることができる。
【0036】
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号、各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。更に日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0037】
これらの併用重合性化合物について、その構造、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。感光スピードの点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部、即ち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、更に、異なる官能数・異なる重合性基(例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感光性と強度の両方を調節する方法も有効である。大きな分子量の化合物や疎水性の高い化合物は、感光スピードや膜強度に優れる反面、現像スピードや現像液中での析出といった点で好ましく無い場合がある。また、感光層組成物中の他の成分(例えば、バインダーポリマー、開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、付加重合化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させ得ることがある。
また、本発明の平版印刷版原版では、後述の支持体や保護層等との密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。その他、付加重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択できる。更に、本発明の平版印刷版原版では、下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施し得る。
【0038】
併用重合性化合物を用いる場合、併用重合性化合物は全重合性化合物に対して、好ましくは95質量%以下、更に好ましくは60質量%以下の範囲で使用される。
感光層組成物中の全重合性化合物の含有量に関しては、感度、相分離の発生、感光層の粘着性、更には、現像液中での析出性の観点から、感光層組成物中の固形分に対して、好ましくは5〜80質量%、更に好ましくは20〜60質量%の範囲で使用される。
【0039】
(バインダーポリマー)
本発明に係る感光層は、バインダーポリマーを含有する。バインダーポリマーとしては、膜性を向上させる機能を有していれば、種々のものを使用することができる。
【0040】
バインダーポリマーは、感光層の皮膜形成剤として機能するだけでなく、現像液、好ましくはアルカリ現像液に溶解する必要があるため、アルカリ水に可溶性又は膨潤性である有機高分子重合体であることが好ましい。そのため、本発明のバインダーポリマーとしては、側鎖にアルカリ可溶性基有することが好ましい。
【0041】
バインダーポリマーに含まれるアルカリ可溶性基としては、バインダーポリマーのアルカリ性現像液に対する溶解性の観点から、下記(1)〜(6)からなる群より選択されるアルカリ可溶性基が好ましく挙げられ、ここに挙げるアルカリ可溶性基の少なくとも1種を含む構造単位をもつバインダーポリマーが好ましい。
【0042】
(1)フェノール性水酸基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SONH−R)
(3)置換スルホンアミド系酸基(以下、「活性イミド基」という。)
〔−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R〕
(4)カルボン酸基(−CO2H)
(5)スルホン酸基(−SO3H)
(6)リン酸基(−OPO32
上記(1)〜(6)中、Arは置換基を有していてもよい2価のアリール連結基を表し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
【0043】
上記(1)〜(6)より選ばれるより選ばれるアルカリ可溶性基(酸性基)を有する構造単位は、1種のみである必要はなく、同一の酸性基を有し、互いに異なる2種以上の構造単位を共重合させたものであってもよく、互いに異なる酸性基を有する構造単位を2種以上共重合させたものであってもよい。
【0044】
本発明に用いられるバインダーポリマーとしては、下記一般式(i)で表される繰り返し単位を有するバインダーポリマーが特に好ましい。
【0045】
【化5】

【0046】
一般式(i)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成され、その総原子数が2〜82である連結基を表す。Aは酸素原子又は−NR3−を表し、R3は水素
原子又は炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。
【0047】
まず、一般式(i)におけるR1は、水素原子又はメチル基を表し、特にメチル基が好
ましい。
【0048】
一般式(i)におけるR2で表される連結基は、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選択される2以上の原子から構成され、その総原子数が2〜82であり、好ましくは2〜50であり、より好ましくは2〜30である。ここで示す総原子数は、当該連結基が置換基を有する場合には、その置換基を含めた原子数を指す。より具体的には、R2で表される連結基の主骨格を構成する原子数が、1〜30であることが好ましく、3〜25であることがより好ましく、4〜20であることが更に好ましく、5〜10であることが最も好ましい。なお、本発明における「連結基の主骨格」とは、一般式(i)におけるAと末端COOHとを連結するためのみに使用される原子又は原子団を指し、特に、連結経路が複数ある場合には、使用される原子数が最も少ない経路を構成する原子又は原子団を指す。したがって、連結基内に環構造を有する場合、その連結部位(例えば、o−、m−、p−など)により算入されるべき原子数が異なる。
【0049】
連結基としては、より具体的には、アルキレン、置換アルキレン、アリーレン、置換アリーレンなどが挙げられ、これらの2価の基がアミド結合やエステル結合で複数連結された構造を有していてもよい。
鎖状構造の連結基としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。また、これらのアルキレンがエステル結合を介して連結されている構造もまた好ましいものとして例示することができる。
【0050】
この中でも、一般式(i)におけるR2で表される連結基は、炭素原子数3から30までの脂肪族環状構造を有する(n+1)価の炭化水素基であることが好ましい。より具体的には、任意の置換基によって一個以上置換されていてもよいシクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、ジシクロヘキシル、ターシクロヘキシル、ノルボルナン等の脂肪族環状構造を有する化合物を構成する任意の炭素原子上の水素原子を(n+1)個除き、(n+1)価の炭化水素基としたものを挙げることができる。
【0051】
脂肪族環状構造を構成する化合物の任意の炭素原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子から選ばれるヘテロ原子で、一個以上置き換えられていてもよい。耐刷性の点で、R2は縮合多環脂肪族炭化水素、橋架け環脂肪族炭化水素、スピロ脂肪族炭化水素、脂肪族炭化水素環集合(複数の環が結合又は連結基でつながったもの)等、2個以上の環を含有してなる炭素原子数5から30までの置換基を有していてもよい脂肪族環状構造を有する(n+1)価の炭化水素基であることが好ましい。この場合も炭素数は置換基が有する炭素原子を含めてのものである。
【0052】
2で表される連結基としては、特に、連結基の主骨格を構成する原子数が5〜10のものが好ましく、構造的には、鎖状構造であって、その構造中にエステル結合を有するものや、前記の如き環状構造を有するものが好ましい。
【0053】
2で表される連結基に導入可能な置換基としては、水素を除く1価の非金属原子団を挙げることができ、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、N−アリールアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオ
キシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基及びその共役塩基基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SO3H)及びその共役塩基基、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、N−アシルスルファモイル基及びその共役塩基基、N−アルキルスルホニルスルファモイル基(−SO2NHSO2(alkyl))及びその共役塩基基、N−アリールスルホニルスルファモイル基(−SO2NHSO2(aryl))及びその共役塩基基、N−アルキルスルホニルカルバモイル基(−CONHSO2(alkyl))及びその共役塩基基、N−アリールスルホニルカルバモイル基(−CONHSO2(aryl))及びその共役塩基基、アルコキシシリル基(−Si(Oalkyl)3)、アリーロキシシリル基(−Si(Oaryl)3)、ヒドロキシシリル基(−Si(OH)3)及びその共役塩基基、ホスホノ基(−PO32)及びその共役塩基基、ジアルキルホスホノ基(−PO3(alkyl)2)、ジアリールホスホノ基(−PO3(aryl)2)、アルキルアリールホスホノ基(−PO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノ基(−PO3H(alkyl))及びその共役塩基基、モノアリールホスホノ基(−PO3H(aryl))及びその共役塩基基、ホスホノオキシ基(−OPO32)及びその共役塩基基、ジアルキルホスホノオキシ基(−OPO3(alkyl)2)、ジアリールホスホノオキシ基(−OPO3(aryl)2)、アルキルアリールホスホノオキシ基(−OPO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスホノオキシ基(−OPO3H(alkyl))及びその共役塩基基、モノアリールホスホノオキシ基(−OPO3H(aryl))及びその共役塩基基、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルボリル基(−B(alkyl)2)、ジアリールボリル基(−B(aryl)2)、アルキルアリールボリル基(−B(alkyl)(aryl))、ジヒドロキシボリル基(−B(OH)2)及びその共役塩基基、アルキルヒドロキシボリル基(−B(alkyl)(OH))及びその共役塩基基、アリールヒドロキシボリル基(−B(aryl)(OH))及びその共役塩基基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0054】
本発明の平版印刷版原版では、画像記録層の設計にもよるが、水素結合可能な水素原子
を有する置換基や、特に、カルボン酸よりも酸解離定数(pKa)が小さい酸性を有する置換基は、耐刷性を下げる傾向にあるので好ましくない。一方、ハロゲン原子や、炭化水素基(アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基)、アルコキシ基、アリーロキシ基などの疎水性置換基は、耐刷を向上する傾向にあるのでより好ましく、特に、環状構造がシクロペンタンやシクロヘキサン等の6員環以下の単環脂肪族炭化水素である場合には、このような疎水性の置換基を有していることが好ましい。これら置換基は可能であるならば、置換基同士、又は置換している炭化水素基と結合して環を形成してもよく、置換基は更に置換されていてもよい。
【0055】
一般式(i)におけるAがNR3−である場合のR3は、水素原子又は炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。このR3で表される炭素数1〜10の一価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−ノルボルニル基等の炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられる。
アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基等の炭素数10までのアリール基、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を1個以上含有する炭素数10までのヘテロアリール基、例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基等が挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基等の炭素数10までの直鎖状、分枝状、又は環状のアルケニル基が挙げられる。
アルキニル基の具体例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、1−オクチニル基等の炭素数10までのアルキニル基が挙げられる。R3が有してもよい置換基としては、R2が導入し得る置換基として挙げたものと同様である。但し、R3の炭素数は、置換基の炭素数を含めて1〜10である。
【0056】
一般式(i)におけるAは、合成が容易であることから、酸素原子又は−NH−であることが好ましい。
【0057】
一般式(i)におけるnは、1〜5の整数を表し、耐刷性の点で好ましくは1である。
【0058】
以下に、一般式(i)で表される繰り返し単位の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
【化6】

【0060】
【化7】

【0061】
【化8】

【0062】
【化9】

【0063】
【化10】

【0064】
【化11】

【0065】
【化12】

【0066】
【化13】

【0067】
【化14】

【0068】
【化15】

【0069】
【化16】

【0070】
【化17】

【0071】
【化18】

【0072】
一般式(i)で表される繰り返し単位は、バインダーポリマー中に1種類だけであってもよいし、2種類以上含有していてもよい。バインダーポリマーは、一般式(i)で表される繰り返し単位だけからなるポリマーであってもよいが、通常、他の共重合成分と組み合わされ、コポリマーとして使用される。コポリマーにおける一般式(i)で表される繰り返し単位の総含有量は、その構造や、感光層組成物の設計等によって適宜決められるが、好ましくはポリマー成分の総モル量に対し、1〜99モル%、より好ましくは5〜40モル%、更に好ましくは5〜20モル%の範囲で含有される。
【0073】
コポリマーとして用いる場合の共重合成分としては、ラジカル重合可能なモノマーであれば従来公知のものを制限なく使用できる。具体的には、「高分子データハンドブック−基礎編−(高分子学会編、培風館、1986)」記載のモノマー類が挙げられる。このよ
うな共重合成分は1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
本発明におけるバインダーポリマーは、更に、側鎖に架橋性基を有することが好ましい。このようなバインダーポリマーは、例えば、前記一般式(i)で表される成分に相当するモノマーと架橋性基を有するモノマーとを共重合することのより容易に得られる。
ここで架橋性基とは、平版印刷版原版を露光した際に、感光層中で起こるラジカル重合反応の過程でバインダーポリマーを架橋させる基のことである。架橋性基としては、このような機能を有する基であれば特に限定されないが、例えば、付加重合反応し得る官能基としてエチレン性不飽和結合基、アミノ基、エポキシ基、等が挙げられる。
また、光照射によりラジカルになり得る官能基であってもよく、そのような架橋性基としては、例えば、チオール基、ハロゲン基、オニウム塩構造等が挙げられる。中でも、エチレン性不飽和結合基が好ましく、下記一般式(A)〜(C)で表される官能基が特に好ましい。
【0075】
【化19】

【0076】
上記一般式(A)において、Rl〜R3は、それぞれ独立に、水素原子又は非金属原子からなる1価の置換基を表す。
1としては、好ましくは、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基などが挙げら
れ、中でも、水素原子、メチル基がラジカル反応性が高いことから好ましい。
2及びR3としては、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルアミノ基、置換基を有してもよいアリールアミノ基、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基、置換基を有してもよいアリールスルホニル基などが挙げられ、中でも、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基がラジカル反応性が高いことから好ましい。
【0077】
Xは、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R12)−を表し、R12は、水素原子、又は1価の有機基を表す。ここで、R12は、置換基を有してもよいアルキル基などが挙げられ、中でも、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基がラジカル反応性が高いことから好ましい。
【0078】
ここで、導入し得る置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等が挙げられる。
【0079】
【化20】

【0080】
上記一般式(B)において、R4〜R8は、それぞれ独立に、水素原子又は非金属原子からなる1価の置換基を表す。
4〜R8として、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルアミノ基、置換基を有してもよいアリールアミノ基、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基、置換基を有してもよいアリールスルホニル基などが挙げられ、中でも、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基が好ましい。
【0081】
ここで、導入し得る置換基としては、一般式(A)と同様のものが例示される。また、Yは、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R12)−を表す。R12は、一般式(A)におけるR12の場合と同義であり、好ましい例も同様である。
【0082】
【化21】

【0083】
上記一般式(C)において、R9〜R11は、それぞれ独立に、水素原子又は非金属原子
からなる1価の置換基を表す。
9としては、好ましくは、水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基などが挙げ
られ、中でも、水素原子、メチル基がラジカル反応性が高いことから好ましい。
10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルアミノ基、置換基を有してもよいアリールアミノ基、置換基を有してもよいアルキルスルホニル基、置換基を有してもよいアリールスルホニル基などが挙げられ、中でも、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基がラジカル反応性が高いことから好ましい。
【0084】
ここで、導入し得る置換基としては、一般式(A)と同様のものが例示される。また、Zは、酸素原子、硫黄原子、−N(R13)−又は置換基を有してもよいフェニレン基を表す。R13としては、置換基を有してもよいアルキル基などが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基、イソプロピル基がラジカル反応性が高いことから好ましい。
【0085】
バインダーポリマーの分子量は、画像形成性や耐刷性の観点から適宜決定される。好ま
しい分子量としては、2,000〜1,000,000、より好ましくは5,000〜500,000、更に好ましくは10,000〜200,000の範囲である。
【0086】
本発明において用いられるバインダーポリマーとしては、一般式(i)で表される繰り返し単位を有するバインダーポリマー単独であってもよいし、その他のバインダーポリマーを1種以上併用して、混合物として用いてもよい。併用されるバインダーポリマーは、バインダーポリマー成分の総量に対し1〜90質量%、好ましくは1〜60質量%、更に好ましくは1〜40質量%の範囲で用いられる。併用できるバインダーポリマーとしては、従来公知のものを制限なく使用でき、具体的には、本業界においてよく使用されるアクリル系バインダーや、ウレタン系バインダー等が好ましく用いられる。
【0087】
併用可能な他のバインダーポリマーは、ラジカル重合性基を有するバインダーポリマーであることが好ましい。
そのラジカル重合性基としては、ラジカルにより重合することが可能であれば特に限定されないが、α−置換メチルアクリル基[−OC(=O)−C(−CH2Z)=CH2、Z=ヘテロ原子から始まる炭化水素基]、アクリル基、メタクリル基、アリル基、スチリル基が挙げられ、この中でも、アクリル基、メタクリル基が好ましい。
かかるバインダーポリマー中のラジカル重合性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、感度や保存性の観点から、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。
【0088】
また、併用可能な他のバインダーポリマーは、更に、アルカリ可溶性基を有するものが好ましい。バインダーポリマー中のアルカリ可溶性基の含有量(中和滴定による酸価)は、現像カスの析出や耐刷性の観点から、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜3.0mmol、より好ましくは0.2〜2.0mmol、最も好ましくは0.45〜1.0mmolである。
【0089】
併用可能な他のバインダーポリマーの質量平均分子量は、皮膜性(耐刷性)や、塗布溶剤への溶解性の観点から、好ましくは2,000〜1,000,000、より好ましくは10,000〜300,000、最も好ましくは20,000〜200,000の範囲である。
【0090】
併用可能な他のバインダーポリマーのガラス転移点(Tg)は、保存安定性、耐刷性、及び感度の観点から、好ましくは70〜300℃、より好ましくは80〜250℃、最も好ましくは90〜200℃の範囲である。
バインダーポリマーのガラス転移点を高めるため手段としては、その分子中に、アミド基やイミド基を含有することが好ましく、特に、メタクリルアミドやメタクリルアミド誘導体を含有することが好ましい。
【0091】
感光層組成物中での一般式(i)で表される繰り返し単位を有するバインダーポリマー及び併用してもよいバインダーポリマーの合計量は、適宜決めることができるが、感光層組成物中の固形分の総量に対し、通常、10〜90質量%であり、好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%の範囲である。
また、感光層組成物中のバインダーポリマーの酸価(meg/g)の合計は、2.00〜3.60の範囲であることが好ましい。
【0092】
(重合開始剤)
本発明で用いられる重合開始剤は、上述した重合性化合物の硬化反応を開始、進行させる機能を有し、熱により分解してラジカルを発生する熱分解型のラジカル発生剤、赤外線
吸収剤の励起電子を受容してラジカルを発生する電子移動型のラジカル発生剤、又は、励起した赤外線吸収剤に電子移動してラジカルを発生する電子移動型のラジカル発生剤など、エネルギーを付与することでラジカルを生成させるものであればいかなる化合物を用いてもよい。例えば、オニウム塩、トリハロメチル基を有するトリアジン化合物、過酸化物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、キノンジアジド、活性ハロゲン化合物、オキシムエステル化合物、トリアリールモノアルキルボレート化合物などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
ここで使用する重合開始剤は、高感度化・保存安定性などの観点から、オニウム塩、活性ハロゲン化合物、オキシムエステル化合物、ボレート化合物などが好適であり、特に、スルホニウム塩、ヨードニウム塩及びジアゾニウム塩などのオニウム塩がより好適に用いられる。
【0093】
特に好適に用いられるスルホニウム塩としては、下記一般式(1)で表されるオニウム塩が挙げられる。
【0094】
【化22】

【0095】
一般式(1)中、R11、R12及びR13は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Z11-はハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、カルボキシレートイオン、及びスルホン酸イオンからなる群より選択される対イオンを表し、好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、カルボキシレートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0096】
以下に、一般式(1)で表されるオニウム塩の具体例([OS−1]〜[OS−12])を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
【化23】

【0098】
【化24】

【0099】
上記したものの他、特開2001−133696号公報、特開2002−148790公報、特開2002−148790公報、特開2002−350207公報、特開2002−6482公報に記載の特定の芳香族スルホニウム塩も好適に用いられる。
【0100】
また、特に好適に用いられるヨードニウム塩及びジアゾニウム塩としては、下記一般式(2)及び(3)で表されるものが挙げられる。
【0101】
【化25】

【0102】
一般式(2)中、Ar21とAr22は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。このアリール基が置換基を有する場合の好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Z21-は(Z11-と同義の対イオンを表す。
【0103】
一般式(3)中、Ar31は、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、炭素原子数12個以下のアリールオキシ基、炭素原子数12個以下のアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のジアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のアリールアミノ基又は、炭素原子数12個以下のジアリールアミノ基が挙げられる。(Z31-は(Z11-と同義の対イオンを表す。
【0104】
以下に、好適に用いることのできる一般式(2)で示されるオニウム塩([OI−1]〜[OI−10])、及び一般式(3)で示されるオニウム塩([ON−1]〜[ON−5])の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
【化26】

【0106】
【化27】

【0107】
【化28】

【0108】
平版印刷版原版を白灯下で取り扱う場合には、重合開始剤(ラジカル発生剤)は、極大吸収波長が400nm以下であるものが好ましく、更に360nm以下であるものが好ましい。
【0109】
重合開始剤の含有量は、感度及び印刷時の非画像部に汚れの発生の観点から、感光層を
構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%である。
【0110】
また、重合開始剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上の重合開始剤を併用する場合は、例えば、好適に用いられるオニウム塩重合開始剤のみを複数種用いてもよいし、オニウム塩重合開始剤と他の重合開始剤とを併用してもよい。オニウム塩重合開始剤と他の重合開始剤とを併用する場合、その含有比(質量比)としては、100/1〜100/50が好ましく、100/5〜100/25がより好ましい。
重合開始剤は、他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
【0111】
重合開始剤としてオニウム塩重合開始剤を用いる場合、高感度であるためにラジカル重合反応が効果的に進行し、形成された画像部の強度が非常に高いものとなる。従って、後述する保護層の高い酸素遮断機能とあいまって、高い画像部強度を有する平版印刷版を作製することができ、その結果、耐刷性が一層向上する。また、オニウム塩重合開始剤はそれ自体が経時安定性に優れていることから、作製された平版印刷版原版を保存した際にも、所望されない重合反応の発生が効果的に抑制されるという利点をも有することになる。
【0112】
(赤外線吸収剤)
本発明において好適に用いられる赤外線吸収剤について詳述する。
使用される赤外線吸収剤は、赤外線レーザの照射(露光)に対し高感度で電子励起状態となり、かかる電子励起状態に係る電子移動、エネルギー移動、発熱(光熱変換機能)などが、感光層中に併存する重合開始剤に作用して、該重合開始剤に化学変化を生起させてラジカルを生成させるものと推定されている。いずれせよ、赤外線吸収剤を添加することは、750nm〜1400nmの波長を有する赤外線レーザ光での直接描画される製版に特に好適であり、従来の平版印刷版原版に比べ、高い画像形成性を発現することができる。
【0113】
赤外線吸収剤は、750nm〜1400nmの波長に吸収極大を有する染料又は顔料であることが好ましい。
【0114】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0115】
また、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号
、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。また、染料として好ましい別の例として、米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0116】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0117】
【化29】

【0118】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。Xa-は後述するZa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0119】
【化30】

【0120】
1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、更に、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0121】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していても
よい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。尚、対イオンとして、ハロゲンイオンを含有してないものが特に好ましい。
【0122】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969公報の段落番号[0017]から[0019]に記載されたものを挙げることができる。
【0123】
さらに特に好ましい例としては、以下に例示するような特開2002−278057号公報に記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0124】
【化31】


【0125】
顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0126】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0127】
顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0128】
顔料の粒径は0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲にあることが更に好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。このような粒径の範囲において、感光層中における顔料の優れた分散安定性が得られ、均一な感光層が形成される。
【0129】
顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0130】
赤外線吸収剤は、他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
【0131】
赤外線吸収剤は、感光層中における均一性や感光層の耐久性の観点から、感光層を構成する全固形分に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜10質量%、染料の場合特に好ましくは0.5〜10質量%、顔料の場合特に好ましくは0.1〜10質量%の割合で添加することができる。
【0132】
(その他の成分)
感光層には、以上の成分の他に、更にその用途、製造方法等に適した当業界で公知のその他の成分を適宜添加することができる。以下、好ましい添加剤を例示する。
【0133】
−着色剤−
感光層の着色を目的として、染料若しくは顔料を添加してもよい。これにより、製版後の印刷版として、画像の視認性や、画像濃度測定機適性といったいわゆる検版性を向上させることができる。着色剤としては、具体例としては、例えば、フタロシアニン系顔料、
アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタンなどの顔料、エチルバイオレット、クリスタルバイオレット、アゾ系染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料などの染料があり、中でも、カチオン性染料が好ましい。
着色剤としての染料及び顔料の添加量は、全感光層組成物中の固形分に対して約0.5質量%〜約5質量%が好ましい。
【0134】
−重合禁止剤−
重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有する化合物、即ち、重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために、少量の熱重合禁止剤を添加することが望ましい。適当な熱重合禁止剤としてはハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソフェニルヒドロキシアミン第一セリウム塩等が挙げられる。
熱重合禁止剤の添加量は、感光層組成物中の固形分の質量に対して約0.01質量%〜約5質量%が好ましい。また必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するためにベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、感光層組成物中の固形分に対して約0.5質量%〜約10質量%が好ましい。
【0135】
−その他の添加剤−
更に、感光層には、硬化皮膜の物性を改良するための無機充填剤、可塑剤、感光層表面のインク着肉性を向上させ得る感脂化剤等の公知の添加剤を加えてもよい。可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート、トリエチレングリコールジカプリレート、ジメチルグリコールフタレート、トリクレジルホスフェート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、トリアセチルグリセリン等があり、バインダーポリマーと重合性化合物との合計質量に対し一般的に10質量%以下の範囲で添加することができる。
また、得られる平版印刷版の膜強度(耐刷性)向上を目的として、或いは、現像後の加熱・露光の効果を強化するために、UV重合開始剤や、熱架橋剤等の添加も行うことも可能である。
【0136】
<保護層>
次に、上記の感光層上に設けられる保護層について詳述する。
保護層は、露光に用いる光の透過は実質阻害せず、画像記録層との密着性に優れ、かつ、露光後の現像工程で容易に除去できることが望ましい。この様な、保護層に関する工夫が従来より為されており、米国特許第3,458,311号明細書および特開昭55−49729号公報に詳しく記載されている。
また、本実施の形態におけるネガ型平版印刷版原版は、重合型の感光層という設計を有していることから、露光時において大気中の酸素を遮断して重合阻害作用を呈する酸素遮断能を有することが望ましい。一方で、保存時の安定性或いはセーフライト適性の観点で暗重合防止作用を呈する程度の酸素透過能を有することも望ましく、両機能を有する程度において、低酸素遮断性を有する保護層とすることが望ましい。
【0137】
(水溶性高分子化合物)
保護層に主成分として用いられる材料としては、比較的、結晶性に優れた水溶性高分子化合物が好ましく、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸などのような水溶性ポリマーが当業界でよく知られている。これらの中で、ポリビニルアルコールを主成分として用いることが、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性に最も良好な結果を与える。保護層に使
用するポリビニルアルコールは、必要とされる酸素遮断性と水溶性を有するための、未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、およびアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の繰り返し単位を有している共重合体であっても良い。
具体的には、(株)クラレ製のPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8等が挙げられる。上記の共重合体としては、88〜100%加水分解されたポリビニルアセテートクロロアセテートまたはプロピオネート、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールおよびそれらの共重合体が挙げられる。その他有用な重合体としてはポリビニルピロリドン、ゼラチンおよびアラビアゴム等が挙げられ、これらは単独または併用して用いてもよい。
【0138】
本実施の形態にて好適に用いられるポリビニルアルコールとしては、ケン化度が71〜100%、分子量が200〜2400の範囲のものを挙げることができる。良好な酸素遮断性、優れた被膜形成性と低接着性表面を有するという観点で、ケン化度が91モル%以上のポリビニルアルコールを用いることが、より好ましい。
具体的には、株式会社クラレ製の、PVA−102、PVA−103、PVA−104、PVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−120、PVA−124、PVA−117H、PVA−135H、PVA−HC、PVA−617、PVA−624、PVA−706、PVA−613、PVA−CS、PVA−CST、日本合成化学工業株式会社製の、ゴーセノールNL−05、NM−11、NM−14、AL−06、P−610、C−500、A−300、AH−17、日本酢ビ・ポバール株式会社製の、JF−04、JF−05、JF−10、JF−17、JF−17L、JM−05、JM−10、JM−17、JM−17L、JT−05、JT−13、JT−15等が挙げられる。
【0139】
さらに、ポリビニルアルコールを酸変性したものも好適に用いられる。具体的には、イタコン酸やマレイン酸変性のカルボキシ変性ポリビニルアルコールやスルホン酸変性ポリビニルアルコールが好適なものとして挙げられる。これら酸変性ポリビニルアルコールもケン化度が91モル%以上のものが、より好ましく使用できる。
具体的な酸変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、株式会社クラレ製の、KL−118、KM−618、KM−118、SK−5102、MP−102、R−2105、日本合成化学工業株式会社製の、ゴーセナールCKS−50、T−HS−1、T−215、T−350、T−330、T−330H、日本酢ビ・ポバール株式会社製の、AF−17、AT−17等が挙げられる。
【0140】
上記の水溶性高分子化合物は、得られる平版印刷原版の感度や、積層した場合に平版印刷版原版同士の接着性などを考慮すると、保護層中の全固形分量に対して、45〜95質量%の範囲で含有されることが好ましく、50〜90質量%の範囲で含有されることがより好ましい。
上記水溶性高分子化合物は、少なくとも1種を用いればよく、複数種を併用してもよい。複数種の水溶性高分子化合物を併用した場合でも、その合計の量が上記の質量範囲であることが好ましい。
【0141】
一方で、保護層においては、感光層の画像部との密着性や、皮膜の均一性も版の取り扱い上極めて重要である。即ち、水溶性ポリマーからなる親水性の層を親油性の感光層に積層すると、接着力不足による膜剥離が発生しやすく、剥離部分が酸素の重合阻害により膜硬化不良などの欠陥を引き起こす。これに対し、これら2層間の接着性を改善すべく種々
の提案がなされている。例えば、米国特許出願番号第292,501号、米国特許出願番号第44,563号には、主にポリビニルアルコールからなる親水性ポリマー中に、アクリル系エマルジョン又は水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体などを20〜60質量%混合し、感光層の上に積層することにより、十分な接着性が得られることが記載されている。これらの公知の技術をいずれも適用することはもちろん可能である。
【0142】
なかでも、感光層との接着力、感度、不要なカブリの発生性の観点から、保護層にポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとを併用してもよい。また、添加量比(質量比)は、ケン化度が91モル%以上のポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドンが、3/1以下であることが好ましい。また、ポリビニルピロリドンの他にも、比較的結晶性に優れている、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸、及びこれらの共重合体なども、ポリビニルアルコールと併用することができる。
【0143】
(無機質の層状化合物)
本発明の保護層は、無機質の層状化合物とを含有することを特徴とする。無機質の層状化合物を併用することにより、酸素遮断性はさらに高まり、また、保護層の膜強度が一層向上して耐キズ性が向上する他、保護層にマット性を付与することができる。
その結果、保護層は、上記の酸素等の遮断性に加え、変形などによる劣化やキズの発生を抑制することが可能となる。さらに、保護層にマット性を付与することによって、平版印刷版原版を積層した場合に、平版印刷版原版の保護層表面と隣接する平版印刷版原版の支持体裏面との接着を抑制することが可能となる。
【0144】
無機質の層状化合物としては、例えば、一般式:A(B,C)2−5D410(OH,F,O)2〔ただし、Aは、K,Na,Caの何れか、B及びCは、Fe(II),Fe(III),Mn,Al,Mg,Vの何れかであり、Dは、Si又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母化合物などが挙げられる。
【0145】
上記雲母化合物においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。また、合成雲母としては、フッ素金雲母KMg3(AlSi310)F2、カリ四ケイ素雲母KMg2.5(Si410)F2等の非膨潤性雲母、及びNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si410)F2、Na又はLiテニオライト(Na,Li)Mg2Li(Si410)F2、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si410)F2等の膨潤性雲母等が挙げられる。更に、合成スメクタイトも有用である。
【0146】
上記の雲母化合物の中でも、フッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。即ち、この膨潤性合成雲母は、10〜15Å程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘度鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にNa+、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換する。特に、層間の陽イオンがLi+、Na+の場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、本実施の形態において有用であり、特に、膨潤性合成雲母が好ましく用いられる。
【0147】
雲母化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きいほどよい。従って、アスペクト比は20以上であり、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。なお、アスペクト比は粒子の長径に対する厚さの比であり、例えば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られ
る効果が大きい。
【0148】
雲母化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。また、該粒子の平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。具体的には、例えば、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは、厚さが1〜50nm、面サイズ(長径)が1〜20μm程度である。
【0149】
無機質の層状化合物の保護層に含有される量は、積層した場合の平版印刷版原版同士の接着の抑制やキズ発生の抑制、レーザ露光時の遮断による感度低下、低酸素透過性などの観点から、保護層の全固形分量に対し、5〜50質量%の範囲であることが好ましく、10〜40質量%の範囲が特に好ましい。複数種の無機質の層状化合物を併用した場合でも、これら無機質の層状物化合物の合計の量が上記の質量比であることが好ましい。
【0150】
保護層の成分(ポリビニルアルコールや無機質の層状化合物の選択、添加剤の使用)、塗布量等は、酸素遮断性・現像除去性の他、カブリ性や密着性・耐傷性を考慮して選択される。
本発明における保護層は、25℃−1気圧における酸素透過度が、0.5ml/m2・day以上100ml/m2・day以下であることが好ましく、このような酸素透過度を達成するように、塗布量を調整することが好ましい。
【0151】
尚、保護層には、感光層を露光する際に用いる光の透過性に優れ、かつ、露光に関わらない波長の光を効率よく吸収しうる、着色剤(水溶性染料)を添加してもよい。これにより、感度を低下させることなく、セーフライト適性を高めることができる。
【0152】
(保護層の形成)
保護層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、上記成分を含む水性保護層用塗布液を、感光層上に塗布することで実施される。例えば、米国特許第3,458,311号又は特開昭55−49729号に記載されている方法も適用することができる。
【0153】
以下、雲母化合物等の無機質の層状化合物とポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物とを含有する保護層の塗布方法について詳述する。雲母化合物等の無機質の層状化合物が分散する分散液を調製し、その分散液と、上記のポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物(又は、水溶性高分子化合物を溶解した水溶液)とを混合してなる保護層用塗布液を、感光層上に塗布することで保護層が形成される。
保護層に用いる雲母化合物等の無機質の層状化合物の分散方法の例について述べる。まず、水100質量部に先に雲母化合物の好ましいものとして挙げた膨潤性雲母化合物を5〜10質量部添加し、充分水になじませ、膨潤させた後、分散機にかけて分散する。ここで用いる分散機としては、機械的に直接力を加えて分散する各種ミル、大きな剪断力を有する高速攪拌型分散機、高強度の超音波エネルギーを与える分散機等が挙げられる。具体的には、ボールミル、サンドグラインダーミル、ビスコミル、コロイドミル、ホモジナイザー、ティゾルバー、ポリトロン、ホモミキサー、ホモブレンダー、ケディミル、ジェットアジター、毛細管式乳化装置、液体サイレン、電磁歪式超音波発生機、ポールマン笛を有する乳化装置等が挙げられる。一般には、上記の方法で分散した雲母化合物の2〜15質量%の分散物は高粘度或いはゲル状であり、保存安定性は極めて良好である。この分散物を用いて保護層用塗布液を調製する際には、水で希釈し、充分攪拌した後、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子化合物(又は、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子化合物を溶解した水溶液)と配合して調製するのが好ましい。
【0154】
この保護層用塗布液には、塗布性を向上させための界面活性剤や、得られる被膜の物性
改良のための水溶性可塑剤など、公知の添加剤を加えることができる。水溶性の可塑剤としては、例えば、プロピオンアミド、シクロヘキサンジオール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。また、水溶性の(メタ)アクリル系ポリマーを加えることもできる。更に、この塗布液には、感光層との密着性、塗布液の経時安定性を向上するための公知の添加剤を加えてもよい。
【0155】
保護層の塗布量は、得られる保護層の膜強度や耐キズ性、画質の維持、セーフライト適性を付与するための適切な酸素透過性を維持する観点で、0.1g/m2〜4.0g/m2が好ましく、0.3g/m2〜3.0g/m2がより好ましい。
【0156】
<支持体>
本発明で用いられる支持体はアルミニウム板である。ここでいうアルミニウム板とは、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属板であり、純アルミニウム板の他、アルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板、又はアルミニウム(合金)がラミネート若しくは蒸着されたプラスチックフィルム又は紙を含む意味である。以下の説明において、上記に挙げたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる支持体をアルミニウム支持体と総称して用いる。前記アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがあり、合金中の異元素の含有量は10質量%以下である。なかでも純アルミニウム板が好適であるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。このようにアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のもの、例えば、JISA 1050、JIS A 1100、JIS A 3103、JIS A 3005などを適宜利用することができる。
【0157】
また、アルミニウム支持体の厚みは、およそ0.1mm〜0.6mm程度である。この厚みは印刷機の大きさ、印刷版の大きさ及びユーザーの希望により適宜変更することができる。
このようなアルミニウム支持体には、下記のような表面処理が施され、親水化される。
【0158】
(粗面化処理)
粗面化処理方法は、特開昭56−28893号公報に開示されているような機械的粗面化、化学的エッチング、電解グレインなどがある。更に塩酸又は硝酸電解液中で電気化学的に粗面化する電気化学的粗面化方法、及びアルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立でするポールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を粗面化するブラシグレイン法のような機械的粗面化法を用いることができ、上記粗面化方法を単独或いは組み合わせて用いることもできる。その中でも粗面化に有用に使用される方法は塩酸又は硝酸電解液中で化学的に粗面化する電気化学的方法であり、適する陽極時電気量は50C/dm2〜400C/dm2の範囲である。更に具体的には、0.1〜50%の塩酸又は硝酸を含む電解液中、温度20〜80℃、時間1秒〜30分、電流密度100C/dm2〜400C/dm2の条件で交流及び/又は直流電解を行うことが好ましい。
【0159】
このように粗面化処理したアルミニウム支持体は、酸又はアルカリにより化学的にエッチングされてもよい。好適に用いられるエッチング剤は、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等であり、濃度と温度の好ましい範囲はそれぞれ1〜50%、20〜100℃である。エッチングのあと表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗いが行われる。用いられる酸は硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸等が用いられる。特に電気化学的粗面化処理後のスマット除去処理方法としては、好ましくは特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65質量%の硫酸と
接触させる方法及び特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法が挙げられる。以上のように処理された後、処理面の表面粗さRaが0.2〜0.5μm程度であれば、特に、方法、条件は限定しない。
【0160】
(陽極酸化処理)
以上のようにして処理され酸化物層を形成したアルミニウム支持体には、その後に陽極酸化処理がなされる。
陽極酸化処理は硫酸、燐酸、シュウ酸若しくは硼酸/硼酸ナトリウムの水溶液が単独若しくは複数種類組み合わせて電解浴の主成分として用いられる。この際、電解液中に少なくともAl合金板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分はもちろん含まれても構わない。更には第2、第3成分が添加されていても構わない。ここでいう第2、3成分とは、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオンやアンモニウムイオン等に陽イオンや、硝酸イオン、炭酸イオン、塩素イオン、リン酸イオン、フッ素イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、硼酸イオン等の陰イオンが挙げられ、その濃度としては0〜10000ppm程度含まれてもよい。陽極酸化処理の条件に特に限定はないが、好ましくは30〜500g/リットル、処理液温10〜70℃で、電流密度0.1〜40A/m2の範囲で直流又は交流電解によって処理される。形成される陽極酸化皮膜の厚さは0.5〜1.5μmの範囲である。好ましくは0.5〜1.0μmの範囲である。以上の処理によって作製された支持体が、陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアのポア径が5〜10nm、ポア密度が8×1015〜2×1016個/m2の範囲に入るように処理条件が選択されることが好ましい。
【0161】
支持体表面の親水化処理としては、広く公知の方法が適用できる。特に好ましい処理としては、シリケート又はポリビニルホスホン酸等による親水化処理が施される。皮膜はSi、又はP元素量として2〜40mg/m2、より好ましくは4〜30mg/m2で形成される。塗布量はケイ光X線分析法により測定できる。
【0162】
上記の親水化処理は、アルカリ金属ケイ酸塩、又はポリビニルホスホン酸が1〜30質量%、好ましくは2〜15質量%であり、25℃のpHが10〜13である水溶液に、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム支持体を、例えば、15〜80℃で0.5〜120秒浸漬することにより実施される。
【0163】
親水化処理に用いられるアルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなどが使用される。アルカリ金属ケイ酸塩水溶液のpHを高くするために使用される水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどがある。なお、上記の処理液にアルカリ土類金属塩若しくは第IVB族金属塩を配合してもよい。アルカリ土類金属塩としては、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウムのような硝酸塩や、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ホウ酸塩などの水溶性の塩が挙げられる。第IVB族金属塩としては、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムなどを挙げることができる。
【0164】
アルカリ土類金属塩若しくは、第IVB族金属塩は、単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらの金属塩の好ましい範囲は0.01〜10質量%であり、更に好ましい範囲は0.05〜5.0質量%である。また、米国特許第3,658,662号明細書に記載されているようなシリケート電着も有効である。特公昭46−27481号、特開昭52−58602号、特開昭52−30503号に開示されているような電解グレインを施した支持体と、上記陽極酸化処理及び親水化処理を組合せた表面処理も有用で
ある。
【0165】
〔平版印刷版原版の作製〕
本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、感光層と保護層とをこの順に設けたものであり、更に必要に応じて中間層(下塗り層)等を設けても構わない。かかる平版印刷版原版は、上述の各種成分を含む塗布液を、支持体上に順次塗布することにより製造することができる。
【0166】
感光層を塗設する際には、前記感光層成分を種々の有機溶剤に溶かして、感光層塗布液とし、支持体又は下塗り層上に塗布される。
ここで使用する溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシプロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどがある。これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして、感光層塗布液中の固形分の濃度は、2〜50質量%が適当である。
【0167】
感光層の被覆量は、主に、感光層の感度、露光膜の強度、現像性、得られる印刷版の耐刷性に影響し得るもので、用途に応じ適宜選択することが望ましい。走査露光用平版印刷版原版の場合には、その被覆量は乾燥後の質量で約0.1g/m2〜約10g/m2の範囲が好ましい。より好ましくは0.5〜5g/m2である。
【0168】
〔中間層(下塗り層)〕
上記の平版印刷版原版には、感光層と支持体との間の密着性や汚れ性を改善する目的で、中間層(下塗り層)を設けてもよい。このような中間層の具体例としては、特公昭50−7481号、特開昭54−72104号、特開昭59−101651号、特開昭60−149491号、特開昭60−232998号、特開平3−56177号、特開平4−282637号、特開平5−16558号、特開平5−246171号、特開平7−159983号、特開平7−314937号、特開平8−202025号、特開平8−320551号、特開平9−34104号、特開平9−236911号、特開平9−269593号、特開平10−69092号、特開平10−115931号、特開平10−161317号、特開平10−260536号、特開平10−282682号、特開平11−84674号、特開平10−69092号、特開平10−115931号、特開平11−38635号、特開平11−38629号、特開平10−282645号、特開平10−301262号、特開平11−24277号、特開平11−109641号、特開平10−319600号、特開平11−84674号、特開平11−327152号、特開2000−10292号、特開2000−235254号、特開2000−352854号、特開2001−209170号、特開2001−175001号等に記載のものを挙げることができる。
【0169】
<製版方法>
以下、本発明における平版印刷版原版の製版方法について説明する。
平版印刷版原版の製版方法は、上述の平版印刷版原版を、保護層とアルミニウム支持体裏面とを直接接触させた状態で複数枚重ね合わせて積層体とし、これをプレートセッター内にセットし、この平版印刷版原版を1枚づつ自動搬送し、750nm〜1400nmの波長で画像露光し、その後、現像処理に供されて非画像部が除去され製版処理が完了する。本発明の平版印刷版原版は、中間に合紙を挟み込むことなく積層しても、平版印刷版原版の間の接着や、保護層へのキズの発生が抑制されるため、上記のような製版方法に適用することができる。この製版方法によれば、平版印刷版原版を合紙を挟み込むことなく重ね合わせた積層体を用いることから、合紙の除去工程が不必要となり、製版工程における生産性が向上する。
勿論、本発明の平版印刷版原版を合紙と交互に積層して積層体としたものを用いて製版しても構わない。
【0170】
〔露光〕
露光処理に用いられる光源としては、750nm〜1400nmの波長で露光し得るものであれば、如何なるものでもよいが、赤外線レーザが好適なものとして挙げられる。中でも、750nm〜1400nmの波長の赤外線を放射する固体レーザ或は半導体レーザにより画像露光されることが好ましい。レーザの出力は100mW以上が好ましく、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザデバイスを用いることが好ましい。また、1画素あたりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましい。平版印刷版原版に照射される単位あたりのエネルギー量は10〜300mJ/cm2であることが好ましい。
【0171】
この露光処理では、光源の光ビームをオーバーラップさせて露光することができる。オーバーラップとは副走査ピッチ幅がビーム径より小さい条件下で露光が行われることをいう。オーバーラップは、例えば、ビーム径をビーム強度の半値幅(FWHM)で表わしたとき、FWHM/副走査ピッチ幅(オーバーラップ係数)で定量的に表現することができる。本発明では、このオーバーラップ係数が0.1以上であることが好ましい。
【0172】
露光装置の光源の走査方式は特に限定はなく、円筒外面走査方式、円筒内面走査方式、平面走査方式などを用いることができる。また、光源のチャンネルは単チャンネルでもマルチチャンネルでもよいが、円筒外面方式の場合にはマルチチャンネルが好ましく用いられる。
【0173】
本発明の平版印刷版原版の製版方法においては、露光処理された後に通常行われるような特段の加熱処理及び/又は水洗処理を行なうことなく、現像処理に供される。この加熱処理を行なわないことで、加熱処理に起因する画像の不均一性を防止することができる。また、加熱処理及び/又は水洗処理を行なわないことで、現像処理において安定な高速処理が可能となる。
【0174】
〔現像〕
以下、露光処理の後に行われる現像処理に用いられる現像液について説明する。
【0175】
<現像液>
用いられる現像液は、特に限定されるものではないが、通常、アルカリ剤を含むpH14以下のアルカリ水溶液が適用される。
【0176】
(アルカリ剤)
上記の現像液に用いられるアルカリ剤としては、例えば、第3リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、硼酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、水酸化ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、及び同リチウムなどの無機アルカリ剤及び、モノメ
チルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ剤等が挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、若しくは2種以上を組み合わせて混合して用いてもよい。
【0177】
また、上記以外のアルカリ剤として、アルカリ珪酸塩を挙げることができる。アルカリ珪酸塩は塩基と組み合わせて使用してもよい。使用するアルカリ珪酸塩としては、水に溶解したときにアルカリ性を示すものであって、例えば珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、珪酸アンモニウムなどがある。これらのアルカリ珪酸塩は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0178】
珪酸塩を用いる場合には、珪酸塩の成分である酸化ケイ素SiO2と、アルカリ成分としてのアルカリ酸化物M2O(Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を表す)との混合比率、及び濃度の調整により、現像液特性を最適な範囲に容易に調節することができる。酸化ケイ素SiO2とアルカリ酸化物M2Oとの混合比率(SiO2/M2Oのモル比)は、支持体の陽極酸化皮膜が過度に溶解(エッチング)されることに起因する放置汚れや、溶解アルミニウムと珪酸塩との錯体形成に起因する不溶性ガスの発生を抑制するといった観点から、好ましくは0.75〜4.0の範囲であり、より好ましくは0.75〜3.5の範囲で使用される。
【0179】
また、現像液中のアルカリ珪酸塩の濃度としては、支持体の陽極酸化皮膜の溶解(エッチング)抑制効果、現像性、沈殿や結晶生成の抑制効果、及び廃液処理時における中和の際のゲル化防止効果などの観点から、現像液の質量に対して、SiO2量として、0.01〜1mol/Lが好ましく、より好ましくは0.05〜0.8mol/Lの範囲で使用される。
【0180】
(芳香族アニオン界面活性剤)
現像液は、現像促進効果、ネガ型重合性感光層成分及び保護層成分の現像液中での分散安定化、現像処理安定化の観点から、芳香族アニオン界面活性剤を含有することが好ましい。
芳香族アニオン界面活性剤は、特に限定されるものではないが、下記一般式(A)又は一般式(B)で表される化合物であることが好ましい。
【0181】
【化32】

【0182】
上記一般式(A)又は一般式(B)において、R1、R3は、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜5のアルキレン基を表し、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられ、中でも、エチレン基、プロピレン基が特に好ましい。
m、nは、それぞれ独立に、1〜100から選択される整数を表し、中でも、1〜30が好ましく、2〜20がより好ましい。また、mが2以上の場合、複数存在するR1は同一でも異なっていてもよい。同じく、nが2以上の場合、複数存在するR3は同一でも異なっていてもよい。
t、uは、それぞれ独立に、0又は1を表す。
【0183】
2、R4は、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のアルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基が特に好ましい。
p、qはそれぞれ、0〜2から選択される整数を表す。Y1、Y2は、それぞれ単結合、又は炭素原子数1〜10のアルキレン基を表し、具体的には、単結合、メチレン基、エチレン基が好ましく、特に単結合が好ましい。
(Z1r+、(Z2s+は、それぞれ独立に、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、或いは、無置換又はアルキル基で置換されたアンモニウムイオンを表し、具体例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、炭素数20以下の、アルキル基、アリール基又はアラルキル基が置換した2級〜4級のアンモニウムイオンなどが挙げられ、特に、ナトリウムイオンが好ましい。r、sはそれぞれ、1又は2を表す。
以下に、芳香族アニオン界面活性剤の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0184】
【化33】

【0185】
【化34】

【0186】
芳香族アニオン界面活性剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。芳香族アニオン界面活性剤の添加量は、特に限定されるものではないが、現像性、感光層成分及び保護層成分の溶解性、得られる印刷版の耐刷性を考慮すると、現像液中における芳香族アニオン界面活性剤の濃度が1.0〜10質量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは2〜10質量%の範囲である。
【0187】
現像液には、前記芳香族アニオン界面活性剤以外に、その他の界面活性剤を併用してもよい。その他の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンステアレート等のポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンアルキルエステル類、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレート等のモノグリセリドアルキルエステル類等のノニオン界面活性剤が挙げられる。
これらその他の界面活性剤の現像液中における含有量は0.1から10質量%が好ましい。
【0188】
(キレート剤)
また、現像液には、例えば、硬水に含まれるカルシウムイオンなどによる影響を抑制する目的で、2価金属に対するキレート剤を含有させることが好ましい。2価金属に対するキレート剤としては、例えば、Na227、Na533、Na339、Na24P(NaO3P)PO3Na2、カルゴン(ポリメタリン酸ナトリウム)などのポリリン酸塩、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩、そのアミン塩;ジエチレントリアミンペンタ酢酸、そのカリウム塩、ナトリウム塩;トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ニトリロトリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そ
のナトリウム塩;1,3−ジアミノ−2−プロパノールテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのようなアミノポリカルボン酸類の他2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;2−ホスホノブタノントリカルボン酸−2,3,4、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ホスホノエタントリカルボン酸−1,2、2、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのような有機ホスホン酸類を挙げることができ、中でも、エチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩、そのアミン塩;エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、そのアンモニウム塩、そのカリウム塩、;ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、そのアンモニウム塩、そのカリウム塩が好ましい。
このようなキレート剤の最適量は使用される硬水の硬度及びその使用量に応じて変化するが、一般的には、使用時の現像液中に0.01〜5質量%、より好ましくは0.01〜0.5質量%の範囲で用いられる。
【0189】
加えて、現像液には、現像調整剤として有機酸のアルカリ金属塩類、無機酸のアルカリ金属塩類を加えてもよい。例えば、炭酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、クエン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウムなどを単独若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0190】
尚、上記の成分の他に、必要に応じて以下のような成分を現像液に併用することができる。例えば、安息香酸、フタル酸、p−エチル安息香酸、p−n−プロピル安息香酸、p−イソプロピル安息香酸、p−n−ブチル安息香酸、p−t−ブチル安息香酸、p−t−ブチル安息香酸、p−2−ヒドロキシエチル安息香酸、デカン酸、サリチル酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の有機カルボン酸;プロピレングリコール等の有機溶剤;この他、還元剤、染料、顔料、防腐剤等が挙げられる。
【0191】
現像液のpHは、現像時における非画像部への現像性および画像部へのダメージ軽減、さらには現像液の取扱い性の観点から、25℃におけるpHが10〜12.5の範囲であることが好ましく、pH11〜12.5の範囲であることがより好ましい。
【0192】
また、現像液の導電率xは、2<x<30mS/cmであることが好ましく、5〜25mS/cmであることがより好ましい。尚、導電率を調整するためには、有機酸のアルカリ金属塩類、無機酸のアルカリ金属塩類等を導電率調整剤として添加することが好ましい。
【0193】
上記の現像液は、露光された平版印刷版原版の現像液及び現像補充液として用いることができ、自動現像機に適用することが好ましい。自動現像機を用いて現像する場合、処理量に応じて現像液が疲労してくるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよい。本発明における製版方法においてもこの補充方式が好ましく適用される。
【0194】
更に、自動現像機を用いて、現像液の処理能力を回復させるために、米国特許第4,882,246号に記載されている方法で補充することも適用可能である。また、特開昭50−26601号、同58−54341号、特公昭56−39464号、同56−42860号、同57−7427号の各公報に記載されている現像液も適用可能である。
【0195】
このようにして現像処理された平版印刷版原版は、特開昭54−8002号、同55−115045号、同59−58431号等の各公報に記載されているように、水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体等を含む不感脂化液で後処理する方法も適用可能であり、これらの処理を種々組み合わせて用いることができる。
【0196】
さらに、画像強度・耐刷性の向上を目的として、現像後の画像に対し、全面後加熱若しくは、全面露光を行うことも適用可能である。この現像後の加熱には、非常に強い条件を利用することができ、通常は加熱温度が200〜500℃の範囲で実施される。
【0197】
このような処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に用いられる。
尚、印刷時、版上の汚れ除去のため使用するプレートクリーナーとしては、従来より知られているPS版用プレートクリーナーが使用され、例えば、マルチクリーナー、CL−1、CL−2、CP、CN−4、CN、CG−1、PC−1、SR、IC(富士写真フイルム株式会社製)等が挙げられる。
【実施例】
【0198】
以下、実施例によって本発明を説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。〔実施例1〕
(支持体の作製)
厚さ0.30mm、幅1030mmのJIS A 1050アルミニウム板を用いて、以下に示す表面処理を行った。
【0199】
<表面処理>
表面処理は、以下の(a)〜(f)の各種処理を連続的に行った。なお、各処理及び水洗の後にはニップローラで液切りを行った。
【0200】
(a)アルミニウム板を苛性ソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液でエッチング処理を行い、アルミニウム板を5g/m2溶解した。その後水洗を行った。
【0201】
(b)温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後水洗した。
【0202】
(c)60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。この時の電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%、アンモニウムイオン0.007質量%含む)、温度30℃であった。交流電源は電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが2msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で250C/cm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後水洗を行った。
【0203】
(d)アルミニウム板を苛性ソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液でスプレーによるエッチング処理を35℃で行い、アルミニウム板を0.2g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の除去と、生成したピットのエッジ部分を溶解し、エッジ部分を滑らかにした。その後水洗した。
【0204】
(e)温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後スプレーによる水洗を行った。
【0205】
(f)硫酸濃度170g/リットル(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)の水溶液中、温度33℃、電流密度が5(A/dm2)で、50秒間陽極酸化処理を行った。その
後水洗を行った。この時の陽極酸化皮膜重量が2.7g/m2であった。
このようにして得られたアルミニウム支持体の表面粗さRaは0.27(測定機器;東京精密(株)製サーフコム、蝕針先端径2ミクロンメーター)であった。
【0206】
<下塗り層>
次に、このアルミニウム支持体に下記下塗り層用塗布液をワイヤーバーにて塗布し、90℃30秒間乾燥した。塗布量は10mg/m2であった。
【0207】
(下塗り層用塗布液)
・下記構造の高分子化合物A 0.05g
・メタノール 27g
・イオン交換水 3g
【0208】
【化35】

【0209】
(感光層)
次に、下記感光層塗布液[P−1]を調製し、上記の支持体にワイヤーバーを用いて塗布した。乾燥は、温風式乾燥装置にて115℃で34秒間行った。乾燥後の感光層被覆量は1.4g/m2であった。
【0210】
<感光層塗布液[P−1]>
・赤外線吸収剤(IR−1) 0.074g
・重合開始剤(OS−12) 0.280g
・添加剤(PM−1) 0.151g
・重合性化合物(AM−1) 1.00g
・バインダーポリマー(BT−1) 1.00g
・エチルバイオレット(C−1) 0.04g
・フッ素系界面活性剤 0.015g
(メガファックF−780−F 大日本インキ化学工業(株)、
メチルイソブチルケトン(MIBK)30質量%溶液)
・メチルエチルケトン 10.4g
・メタノール 4.83g
・1−メトキシ−2−プロパノール 10.4g
【0211】
上記感光層塗布液に用いた重合開始剤(OS−12)は、前述の一般式(1)で表されるオニウム塩の化合物例として挙げられているものを指す。赤外線吸収剤(IR−1)、添加剤(PM−1)、重合性化合物(AM−1)、バインダーポリマー(BT−1)、及びエチルバイオレット(C−1)の構造を以下に示す。
【0212】
【化36】

【0213】
(保護層)
上記感光層表面に、合成雲母(ソマシフME−100、8%水分散液、コープケミカル(株)製)、ポリビニルアルコール(ゴーセランCKS−50:ケン化度99モル%、重合度300、スルホン酸変性ポリビニルアルコール日本合成化学工業株式会社製)及び界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710)の混合水溶液(保護層用塗布液)をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃で75秒間乾燥させた。
この混合水溶液(保護層用塗布液)中の、合成雲母(固形分)/ポリビニルアルコール/界面活性剤の含有量割合は、16/82/2(質量%)であり、塗布量(乾燥後の被覆量)は1.6g/m2であった。
これにより、実施例1の平版印刷版原版を得た。
【0214】
[比較例1]
実施例1の感光層塗布液中の重合性化合物(AM−1)を、下記(AM−2)に変えた他は、実施例1と同様にして、比較例1の平版印刷版原版を得た。
【0215】
【化37】

【0216】
[比較例2]
実施例1の保護層用塗布液から合成雲母を除いた他は、実施例1と同様にして、実施例2の平版印刷版原版を得た。保護層用塗布液は、ポリビニルアルコール/界面活性剤の含有量割合が98/2(質量%)である。
[比較例3]
比較例1の保護層用塗布液から合成雲母を除いた他は、比較例1と同様にして、実施例3の平版印刷版原版を得た。保護層用塗布液は、ポリビニルアルコール/界面活性剤の含有量割合が、98/2(質量%)である。
[比較例4]
実施例1の感光層塗布液中の重合性化合物(AM−1)を、下記(AM−3)に変えた他は、実施例1と同様にして、比較例4の平版印刷版原版を得た。
【0217】
【化38】

【0218】
〔評価〕
(1)感度の評価
得られた平版印刷版原版を、合紙を挟み込まない状態で積層し、NEC社製Amizsetterにセットし、1枚づつ自動搬送した後、解像度1200dpi、外面ドラム回転数160rpm、出力0〜19Wの範囲でlogEで0.15ずつ変化させて露光した。なお、露光は25℃50%RHの条件下で行った。露光後、加熱処理及び水洗処理は行わず、富士フイルム(株)社製自動現像機LP−1310Newsを用いて搬送速度(ライン速度)2m/分、現像温度30℃で現像処理した。なお、現像液は富士フイルム(株)社製DH−Nの1:4水希釈液、現像補充液は富士フイルム(株)社製FCT−421の1:1.4水希釈液、フィニッシャーは富士フイルム(株)社製GN−2Kの1:1水希釈液を用いた。
現像して得られた平版印刷版の画像部濃度を、マクベス反射濃度計RD−918を使用し、濃度計に装備されている赤フィルターを用いてシアン濃度を測定した。測定した濃度が0.9を得るのに必要な露光量の逆数を感度の指標とした。実施例1で得られた平版印刷版の感度を100とし、他の平版印刷版の感度はその相対評価とした。値が大きいほど
、感度が高いことになる。結果を表1に示す。
【0219】
(2)平版印刷版原版同士の耐接着性の評価
得られた平版印刷版原版(10×10cm)3枚を、25℃75%RHの環境下で2時間調湿後、3枚の原版を合紙の挟み込みのない状態で順次重ねて積層体を得た。この積層体をAlクラフト紙で密閉包装し、4kgの荷重をかけた状態で30℃で5日間放置した。その後、この積層体について、平版印刷版原版の感光層側表面(保護層表面)と隣接する平版印刷版原版の支持体裏面との接着状態を評価した。耐接着性の評価は、官能評価で行った。結果を表1に示す。○は実用レベル、×は実用不可レベルを表す。
【0220】
(3)現像カス発生の評価
得られた平版印刷版原版20mを上記現像液(1リットル)で現像後、現像液を1ヶ月放置し、現像カスの有無を調査した。結果を表1に示す。○は沈殿なし、× は沈殿ありを表す。
【0221】
【表1】

【0222】
表1から明らかなように、実施例1の平版印刷版原版、即ち、特定の重合性化合物を含有する感光層上に、無機質の層状化合物を含有する保護層を設けてなる平版印刷版原版は、高感度で、高湿下に置かれた後でも平版印刷版原版同士の接着が見られず、また、現像カスも発生しないことがわかった。
これに対し、他の重合性化合物を用いた比較例1の平版印刷版原版は、感度に優れ、耐接着性に優れるものの、多量の現像カスが発生し、実用上問題があることがわかった。さらに、無機質の層状化合物含を有しない保護層を用いた比較例2、3の平版印刷版原版では、感度に優れ、現像カスの発生も無いものの、耐接着性に問題があり、合紙なしでの製版に支障があることがわかった。比較例4の平版印刷版原版では、耐接着性、現像カスの発生については実用上問題無いが、感度が実施例1に比べ60%と低く、実用不可なレベルであることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム支持体上に、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物及びバインダーポリマーを含有する感光層並びに無機質の層状化合物を含有する保護層をこの順に有する平版印刷版原版であって、前記重合性化合物が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする平版印刷版原版。
一般式(1)
【化1】

(一般式中、X,Yは各々2価の連結基を表し、Zは直鎖のアルキレンを表し、Aは水素原子又はメチル基を表す。n,mは各々1〜10の整数を表し、a,bは各々1〜3の整数を表す。但し、a+b=4〜6である。)
【請求項2】
前記無機質の層状化合物が雲母化合物であることを特徴とする請求項1記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の平版印刷版原版を、保護層とアルミニウム支持体裏面とが接触する状態でプレートセッター内にセットし、該平版印刷版原版を1枚づつ自動搬送し、750nm〜1400nmの波長で画像露光した後、加熱処理及び/又は水洗処理を経ることなく現像処理を行うことを特徴とする平版印刷版原版の製版方法。

【公開番号】特開2007−94138(P2007−94138A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285021(P2005−285021)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】