説明

平面ガラスシートの製造方法およびガラス基板の分割方法

【課題】大きなガラスシートを小さく分割するガラス切断システムにおいて、切断速度を向上する。
【解決手段】30mm以上の最大寸法を有する細長いビームスポット形状を有するレーザビームを、部分的なクラック切り込みラインを生成するためガラスシートを横断して移送させ、そのガラスシートを、その後、部分的なクラックの領域に曲げモーメントを付加することにより、器切り込みラインに沿って分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスシートや他の脆弱性材料の切断方法に関するものであり、特にフラットパネルディスプレイ用ガラス基板作製のプロセスに用いる際に効果的なレーザカッティングプロセスの速度を増加させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板を分割する際にレーザが使用されてきた。Kondratenkoの引用文献1には、ガラスシートを2分割するために、いわゆるブラインドクラックをガラスシートにわたって広げる際にレーザ光を使用することが述べられている。この部分的なクラックは、ガラスシートの深さの途中まで広がっており、実質的には切り込みラインとして作用する。シートはその後、切り込みラインに沿って機械的に二分割される。
【0003】
一つの具体的形態としては、小さな切り目や切り込み目をガラスシートの片側につけ、その後レーザ光を使用して部分的なクラックを形成して、ガラスシートを通じてこの切り目や切り込み目を広げる。その後、レーザ光をガラスシートの切り目や切り込み目の領域に接触させて、レーザとガラスシートを相対的に動かし、切り込みラインの所望行路でレーザ光を伝搬させる。レーザより下流のガラスの加熱した表面部分に流体冷却剤の流れを向けることが望ましく、それによりレーザ光がガラスシートのある領域を加熱した後に、その加熱領域はすばやく冷却される。このようにレーザによるガラスシートの加熱と水性冷却剤によるガラスシートの冷却により、ガラスシートを歪ませ、レーザ光と冷却剤が通った方向にクラックを広げる。
【0004】
Kondratenkoによれば、ガラスシート上におけるビームの形状は楕円形であり、楕円形状の短軸および長軸は以下の関係を満たす。
【0005】
a=0.2 〜 2.0h
b=1.0 〜 10.0h
ここで、aとbはそれぞれ楕円形状スポットの短軸および長軸であり、hはレーザ光が切り込む材料の厚さである。Kondratenkoによれば、bが10.0hよりも大きいときは、カッティングの精度が低減する。よって、厚さ0.7mmのガラス基板では、Kondratenkoによれば、ビームスポットの長軸は7mm以上にはなり得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第93/20015号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなレーザ光による切り込みの技術の発達により、切断面の質においてはいくらかよい結果が得られており、その切断面の質が非常に高いものが望まれる液晶や他のフラットパネルディスプレイのパネル基板を製造するためには、それらは有効な手段ではある。しかしながら、そのプロセスの発達に過去数年間かなりの努力が払われたにもかかわらず、現在に至るまで、フラットパネルディスプレイ(LCDのような)基板の製造の際に使用するにあたって実用的に十分な切り込み速度は達成されていない。実際、Kondratenkoの特許の例で報告されている最高切り込み速度は120mm/secであり、また他の大半の例においても、この平凡な切り込み速度よりもずっと劣るものである。
【0008】
最近、1995年7月19−23日にドイツのミュンヘンで行われた貿易展においてJenoptikが発行した文献には、30−150mm/secの速度でレーザ切り込みをすることができたことが述べられている。Jenoptikは、Kondratenkoの特許に述べられているものと同じレーザ切り込みプロセスを用いている。
【0009】
フラットパネルディスプレイ基板の製造において、これらのプロセスを実用的にする速い切り込み速度、例えば少なくとも300mm/sec程度の、さらには少なくとも500mm/sec、さらには1000mm/secの速度を可能にするレーザ切り込みプロセスを実施することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ガラスシート(または他の脆弱性材料)の切断方法に関するものであり、レーザビームの行路に沿ってクラックを誘導するために、ガラスシートを横断する所望の行路で極度に細長いレーザビーム(および冷却剤は任意)を移動させる。これにより生じた熱勾配により、ガラスの表面層に引っ張り応力を発生させ、この応力がガラスの引っ張り強さを超えると、ガラスはブラインドクラックや切り込みラインが圧縮状態の領域へと下降して材料に入り込むようになる。その後レーザ光がガラスを横断すると、クラックがレーザ光に追従する。そのクラックの深さ、形状、方向は、応力の分布により決定され、ビームスポットのパワー密度、寸法、形状や、ビームスポットと材料の相対速度、加熱領域へ供給される冷却剤の性質や特性、クラックが入れられる材料の熱物理および機械的特性やその厚さなど、複数の要素に依存する。ガラス上において極度に細長いビームスポットを有するレーザビームを使用し、ガラスシート上の所望分割ラインの伝搬方向にこの細長いビームスポットを配置することにより、公知の技術による方法を使用するよりも速いレーザ切り込み速度が達成できることがわかった。
【0011】
このように本発明においては、レーザスポットは極度に細長い形状、例えば楕円形状を有する。この細長い形状の長軸は、20mm以上、より好ましくは30mm以上、さらには40mm以上であることが望ましい。
【0012】
そのビームの短軸は、直線切断面を形成する際に切断面の質を損なわない程度に狭いことが望ましいと思われる。
【0013】
本発明において、レーザ光は非ガウシアンの強度分布を有することが望ましい。一つの具体的形態において、レーザビームの強度は2ピークモード、すなわち一つ以上のレベルを含む、例えばTEM01*モードとTEM00モードの両方を含んで動作するレーザのようなものが望ましい。切断ラインに沿って表面層の非常に局所的な冷却を引き起こすために、ビームスポットの進行方向に沿って適当な冷却剤の流れを材料の領域に向けることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、約0.4mmから3.0mmの厚さのガラスにおいて、切断精度やガラスの切断面を損なうことなく、300−700mm/secもしくはそれ以上の切り込み速度が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明によるガラス切断方法工程の斜視図である。
【図2】図2は図1で示した工程におけるガラス表面上のレーザビームスポットの拡大図である。
【図3】図3は図1および図2に示したレーザの所望強度形状を示したグラフ図である。
【図4】図4は標準的なガウシアンレーザのパワー分布を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、レーザ切断技術を使用して所望切断ラインに沿ってガラスシートを切断するシステムに関するものである。図1に示すように、本発明のガラス切断システムにおいて、ガラスシート10は主上面および主下面11を有する。ガラスシート10はまず、ガラスシート10の一端にクラック開始点19を形成するため、ガラスシートの一端に沿って切り目や切り込み目がいれられる。このクラック開始点19はその後、所望切断ラインの行路でガラスシートを横切ってレーザビーム16を移動してクラック20を形成するために用いられる。レーザ光は、所望切断ラインに沿った局所領域においてガラスシートを効果的に熱する。その結果生じた温度勾配が材料の表面層に引っ張り応力を引き起こし、この応力が材料の引っ張り強さを超えると、その材料においてブラインドクラックが圧縮状態の領域へと下降して材料を貫通する。応力分布を高めそれによりクラックの伝搬を促進するため、水ジェット22により水冷却剤を施す。レーザビームがガラスを横切るにつれ、クラックはレーザビームが伝搬する行路に追従するようになる。
【0017】
ガラス10の表面温度はレーザビームにさらされる時間に直接依存するので、円形断面の代わりに楕円形状のビームを使用することにより、同じ相対速度においては、切断ラインに沿ったガラス表面の各点の加熱時間を延ばすことができる。このように、レーザビーム16の規定のパワー密度で、ガラス10を熱するために必要な深さを維持するために必要であるレーザビームスポットから冷却スポットの前縁部までの距離が同じであれば、レーザビームスポットが移動方向に広がるほど、レーザビームスポットと材料との相対移動速度の許容範囲が大きくなる。
【0018】
図2に図示するように、本発明においては、レーザスポットは極度に細長い、例えば楕円形状で、20mm以上の、より好ましくは30mm以上の、さらには40−100mm以上の長軸を有することが望ましい。レーザビームスポットの長軸は、ガラスシートを横切る所望切断ラインの伝搬方向にする。ガラスが薄いシート(1.1mmもしくはもっと薄い)に対しては、レーザビームスポットの長軸の最適長が所望伝搬速度に関係し、長軸bは所望レーザ切り込み速度で一秒あたり移動する長さの10%より大きいことが望ましい。このように、0.7mmの厚さのガラスで所望レーザ切り込み速度500mm/secでは、レーザの長軸は少なくとも50mmの長さであることが望ましい。
【0019】
クラック20はガラスシート10の深さ方向のみに拡がることが望ましく(距離d)、それにより切り込みラインとして作用する。ガラスシートをさらに小さいシートに最終的に分割するには、クラック20に曲げモーメントを付与することによりなされる。その曲げは、従来の機械的表面切り込み方法を使用する工程においてガラスを切断するために使用されるような従来の曲げ装置(図示していない)や技術により達成できる。クラック20は機械的切り込みではなくレーザによる切断技術を使用しているので、機械的切断工程中に生じるガラスのチップの形成を、従来の技術と比較して最小限にできる。
【0020】
ガラス切断工程に使用されるレーザビームはカットするガラス表面を熱することができるものでなければならない。結果的に、レーザの放射光はガラスが吸収する波長であることが望ましい。このことが生じるためには、放射光は2μm以上の波長の赤外線であることが望ましく、例えば波長9−11μmのCO2レーザ、波長5−6μmのCOレーザ、波長2.6−3.0μmのHFレーザ、波長約2.9μmのエルビウムYAGレーザなどのビームが望ましい。本実験の大半においては、150〜300ワットのパワーのCO2レーザを使用したが、より高いパワーのレーザを使用すればより成功したと思われる。
【0021】
クラック20は、最大熱勾配の領域である加熱および冷却領域の界面に向かってガラス中に形成される。クラックの深さ、形状、方向は、熱弾性応力の分布により決定され、主に以下の複数の要素に基づく。
【0022】
−ビームスポットのパワー密度、寸法、形状;
−ビームスポットと材料の相対移動速度;
−熱物理特性、加熱領域に対する冷却剤を供給する条件および質;
−クラックを入れる材料の熱物理的および機械的特性、その厚さ、表面状態
異なる材料に対して切断サイクルを最適化するためには、主なパラメータと切断工程の変数との間の適当な関係を確立することが必要である。国際公開第93/20015号パンフレットに説明されているように、図2を再び参照して、ビームスポット18の寸法と冷却水が流れる領域からビームスポットまでの間隔lに依存して、ガラス10を横切るビームスポット18の相対移動の速度Vとクラック20の深さdは次式で表される。
【0023】
V=ka(b+l)/d
ここで、Vはビームスポットと材料との相対移動速度で、kは材料の熱物理特性とビームのパワー密度に依存する比例係数であり、aはビームスポットの幅、bはビームスポットの長さ、lはビームスポットの近接端から冷却ゾーンの前端までの距離、dはブラインドクラック4の深さである。
【0024】
レーザは各端部のミラーにより規定される共振器内で生じるレーザ発振により動作する。安定な共振器の概念は、共振器を通る光線の光路を追跡することにより最も明確化することができる。安定性の閾値には、レーザ共振器の軸に平行な光線が二つのミラー間を前後に永久にその間を損失なく反射した場合に達する。
【0025】
安定基準に達しない共振器は光線が軸からそれるため不安定共振器と呼ばれる。不安定共振器には多くの種類がある。一つの簡単な例としては平面ミラーに対する凸面球面ミラーがある。異なる直径の凹面ミラー(大きなミラーからの反射光が小さなミラーの端部周辺から逃げてしまう)や、対の凸面ミラーなどが他に含まれる。
【0026】
共振器のその二つのタイプは異なる利点と異なるモードパターンを有する。安定な共振器はレーザ軸に沿って光を集中させ、その領域から効率よくエネルギーを抽出するが、軸から離れた外周領域からはエネルギーが効率よく抽出されない。それにより生じるビームは中心に強度ピークを有し、軸から離れるにつれ強度がガウシアン的に減衰する。これは低利得の持続波レーザとともに使用される標準的なタイプである。
【0027】
不安定共振器は、より大きな体積にわたってレーザ共振器の内部の光を広げようとする。例えば、出力ビームは、軸周りにリング状の強度ピークを有する環状の形状を有したりする。
【0028】
レーザの共振器には、横モードと縦モードの二つのタイプの異なるモードがある。ビームの断面形状すなわち強度パターンにおいて、横モードが存在する。縦モードは、レーザの利得帯域内の異なる周波数もしくは波長で生じるレーザ共振器長による異なる共振モードに相当する。単一縦モードで発振する単一横モードレーザは単一周波数で発振し、二つの縦モードで発振するものは二つの独立した波長で(通常近接した間隔で)同時に発振する。
【0029】
レーザ共振器内の電磁界「形状」は、ミラーの曲率、間隔、放電管の空洞直径に依存する。ミラーの配列や間隔および波長がわずかに変化しても、レーザビームの「形状」(電磁界)は大きく変化してしまう。その「形状」やビームの空間エネルギー分布を述べる際に特別な術語が展開されてきたが、ここでは横モードは二方向のビーム断面に表れる極小値の数に従って分類される。最も低次モードすなわち基本モードは中心に強度のピークがあり、TEM00モードとして知られる。これは図4に示されるようなガウシアン強度分布を有する従来使用されてきたレーザである。一軸に沿っては極小値が一つで、その垂直方向の軸に沿っては極小値のないモードは、TEM01*またはTEM10であり、それらはその向きによって決定される。TEM01*モードの強度分布の例が図3に図示されている(ビームを横切る距離dに対するビーム強度I)。ほとんどのレーザの用途では、TEM00モードが最も望ましいと考えられている。しかしながら非ガウシアンモード例えばTEM01*モードやTEM10モードのビームが、ガラス表面へより均一にレーザエネルギーを送り込むために使用できることがわかった。結果的に、レーザがガウシアン強度分布を有する場合よりも低いパワーでより高いレーザ切り込み速度が達成できることがわかった。さらに、レーザ切り込み工程が拡大されたその動作範囲によって、より広範囲のレーザパワーを使用することができる。これは非ガウシアンレーザビームにより、ビーム全体にわたってエネルギー分布の均一性をより向上することができるためだと思われる。
【0030】
図3に示されるレーザビームはリング状である。図3に示されるパワー分布はリング状のレーザビームのパワー分布の断面である。少なくとも一対の強度ピークが、それより低いパワー分布である中心領域の外周部に位置するような非ガウシアンビームが本発明において望ましい。このように、レーザビームの中心がレーザビームの少なくとも複数の外周領域のパワー強度よりも低いパワー強度を有することが望ましい。この低いパワー中心領域は、完全に0パワーレベルになってもよく、その場合レーザビームは100%のTEM01*パワー分布となる。しかしながら、レーザビームは2ピークモード、すなわち図3に示されるように、中心領域のパワー分布が単に外周領域のパワー分布以下に低下しているTEM01*モードとTEM00モードの組み合わせといった一つ以上のモードのレベルを組み合わせたものでもよい。ビームが2ピークモードの場合、そのビームは、50%以上がTEM01*モード、さらに好ましくは70%以上がTEM01*モードで、その残りがTEM00モードとする組み合わせが望ましい。
【0031】
本発明の好ましい具体的実施の形態として、デジタルコンピュータのようなシステム制御装置(図示していない)を、レーザやガラスシート、システム上の他の可動部品などの移動を制御するシステムに接続する。そのシステム制御装置はシステムの様々な部品の移動を制御するために従来の機械制御技術を用いている。システム制御装置はそのメモリ内に蓄積された様々な製造作動プログラムを使用し、各プログラムは、特定サイズのガラスシート用にレーザやガラスシート(さらには必要ならば他の可動部品)の移動を適切に制御するよう設計されることが望ましい。
【0032】
以下の例では、本発明による方法を実証している。
【0033】
例1
この例では、ガウシアンパワー分布を有するCO2レーザの動作を示している。
【0034】
レーザ16はPRCコーポレーションが製造したモデル1200の軸流2ビームCO2レーザであった。ビームはTEM00モードで動作し、約12mmのスポットサイズ(レーザの放出点でのレーザビームの直径)でガラス表面から約2メートルの場所に配置した。一対のシリンドリカルレンズを、レーザとガラス表面との間のレーザの光路内に配置し、レーザスポットを変形した。これにより、レーザがガラスに当たる箇所でのレーザスポットが、長さ約45−50mmで、その中間点で幅約0.1−0.15cmの細長く楕円形のものとなった。このレーザの共振器で基本モードはTEM00である。これが共振器で発振可能な唯一のモードであるとき、共振する00モードレーザは可能な最小発散で伝搬し、最も小さなスポットサイズに集光されるであろう。この例では、レーザのパワー分布は、小さな内部開口とともにレーザ前端面で「平面」光カップラを利用することでガウシアン(TEM00モードで動作する)となった。
【0035】
約500mm幅×500mm長×約1.1mm厚のアルミノ珪酸塩のガラスシート10に、クラックの開始点19を形成するため、ガラスシートの端部に手動で切り込みをいれた。これにより、ガラスの上面の一端に約8mm長で約0.1mmの深さの小さな切り込みラインを形成してクラック開始点19をつくった。ガラスシート10は、レーザ16がクラック開始点19に接触するように配置され、ガラスシート10を、以下の表1に記載されたパワーと速度で、レーザ16の行路がガラスシートを横切る直線行路に沿うように移動させた。
【0036】
表1
レーザ速度 ピークパワー(W) 成功率(%)
400mm/sec 120 100
420mm/sec 120−165 100
465mm/sec 165−175 100
475mm/sec 165−179 100
480mm/sec 168−179 66
500mm/sec 183−188 33
成功率の欄は、それに対応するパワー範囲において達成された最もよいパフォーマンスを表す。100%の成功率は、指定されたパワー範囲において、ガラスシートへのレーザ切り込みが、実質的に常に時間中100%成功した動作パラメータがあったことを示している。
【0037】
例2
例1に述べたものと同じ方法、装置およびレーザを使用し、共振器をより高次のモードパワー分布でレーザを動作するようにした。特に、レーザは2ピークモードで、複数のサブビームからなり、その各々が強度分布を有する。これらのビームは独立であるので、その正味の分布は個々の形状の代数和であり、各モードのパワーの率により重みづけされる。例として、TEM00モードの量は光カップラの曲率を変えたり開口部の直径を大きくすることにより低減できる。本例では、レーザのパワー分布を約60対40のTEM01*モードとTEM00モードとの混合比に変化させ(約14mmのスポットサイズになる)、約50−60mmのビーム長にした。これは、20メートルの曲率半径の凹面光カップラを「平面」光カップラに置き換え、より大きな開口部にすることにより達成された。そのレーザのパワーと速度は表2に記載されるように変化した。
【0038】
表2
レーザ速度 ピークパワー(W) 成功率(%)
300mm/sec 90−145W 100
500mm/sec 155−195W 100
600mm/sec 200W 100
650mm/sec 200−220W 100
700mm/sec 250W 50
例1に使用したレーザがTEM01*モードを有した非ガウシアンレーザへと変換されたとき、より低いレーザパワーでより高い切断速度が達成された。さらにより広い範囲のレーザパワーが、満足な切り込み端部をなすよう許容された。例1と例2の結果を比較するとわかるように、ガウシアンレーザは475mm/secまでの切断速度で100%の破断(ほぼ全てのサンプルを刻むことに成功した)が達成できた。これらの速度以上で、堅実に満足した結果を得ることは困難であった。しかしながら、1000または2000mm/secの速度が本発明のビーム長を長くする方法を用いて達成されることが期待できる。
【0039】
例3
この例では、レーザビームを生じるレーザは軸流CO2レーザで、PRCコーポレーションが製造した、一管あたり600Wの2ビームレーザのモデルSS/200/2である。そのビームはTEM00モードの約12mmのスポットサイズであった。このレーザをガラス表面から約2メートルの所に配置した。一対のシリンドリカルレンズをレーザとガラス表面との間のレーザビームの行路に配置し、レーザスポットを変えた。これによりレーザスポットは、ガラスにあてたとき約40−50mm長でその中間点において約1〜1.5mm幅の細長い楕円形になった。レーザのパワー分布はTEM01*モードおよびTEM00モードの60対40の混合で、それはレーザ前端面に20メートル曲率半径の凹面光カップラを使用することにより達成された。レーザパワーは160−200Wの間で変化させ、ガラスシートを横切るレーザ速度は約500mm/secであった。
【0040】
ガラスシート10は約500mm幅×500mm長×約1.1mm厚のアルミナ珪酸塩ガラスシートで、第1の方向にシートの片側上を3回、第1のレーザ切り込みラインの方向に直交する第2の方向にシートのもう片側上を3回の9回のレーザ切り込みをした。このタイプの切り込み方法により、LCD基板ガラスの作製において製造作業効率を2倍にでき、ここで最も外部の切り込みラインはガラスシートの外端部を除去し、シートの各側の中間の切り込みラインはガラスの残りを4つの使用部材に連係して分離するものである。ガラスシートの各側の3つの切り込みラインを使用することにより、シートの片側の切り込みラインの行路がシートのもう片側の切り込みラインと交差する9つの交点を生じた。
【0041】
これを達成するために、ガラスシート10は、レーザ切り込みラインが所望の位置に3つのクラック開始点19を形成するため、ガラスシートの端部に沿って各側に手動で切り込みをいれた。これにより、ガラスの上面の一端に、約1−8mm長で約0.1mmの深さの小さな切り込みラインの形で3つのクラック開始点19を形成した。クラックは4−8mmである必要はなく、むしろレーザにより広げられるようなクラックであれば、クラック開始点として作用するには十分である。ガラスシート10はレーザ16がクラック開始点19の一つに接するように配置され、図1のように、レーザ16の行路が、切り込みライン20を形成するガラスシートを横断する直線行路に沿うようにガラスシート10を動かした。ガラスシートの第1の片側の3つの切り込みライン20の各々を形成するためにこの工程を繰り返した。
【0042】
その後、ガラスシート10の逆側をさらすためにガラスシート10をひっくり返した。シート10は3つの他のクラック開始点10を形成するためガラスシートの端部に沿って手動で切り込みをいれ、再び、レーザ16の行路が3つの切り込みライン20を形成するためガラスシートを横断する直線行路に沿うようにガラスシート10を動かした。シートの第2の側に作られた3つの切り込みラインはガラスシート10の第1の側に形成した3つの切り込みラインの逆側で直交し、3つの各切り込みラインの行路と直交して形成した。
【0043】
その後、各切り込みライン20に沿ってガラスシート10を分離するため切り込みライン20に曲げモーメントを加えた。この結果生じたシートをその後ひっくり返し、これらのシートにそれぞれの切り込みライン20の領域に曲げモーメントを加え、それによりそれらをさらに小さなシートに分割した。この工程を100以上のガラスシートで繰り返し、それにより、切り込みライン20の行路がガラスシートの逆側に位置する切り込みライン20の行路と交わる交点を900点以上形成した。全ての場合、分割した端部は一貫して非常に高品質なものであった。
【0044】
例4
本例では、保護プラスチック層の部分を除去しガラスシート10を小さなシートに分割するために、単一CO2レーザ16を使用した。ガラスシートは約400mm幅×400mm長×1.1mm厚で、Main Tape Corporationが作製したLFC−3マスクフィルムの保護層をコーティングしたものであった。LFC−3はポリエチレンフィルム材料で、約0.002インチ厚(約0.05mm)であり、ロール状で保存され、アクリル接着剤が片側に施されている。そのフィルムを、接着剤がガラスシートに接するようにガラスに付加し、コートされたガラスをその後、ガラスとフィルムとの接着を促進するため一対のローラー間で圧迫した。
【0045】
この例においては、レーザ16はPRCコーポレーションが製造したモデル1200の軸流2ビームCO2レーザであった。レーザビームはレーザの出射端で約7mmの直径であり、したがってレーザから放出されるスポットサイズは約38.5mmであり、約70Wで動作し、ビームのパワー密度は約1.82W/mmとなった。レーザをガラス表面の保護層から約2メートルの位置に配置した。レーザスポットを形成するためレーザとガラス表面との間のレーザ光路に一対のシリンドリカルレンズを配置した。これにより、保護層上のレーザスポット形状は約33mm長でその中間で2mm幅の細長い楕円状の形状となり、約1.35W/mmのパワー密度となった。ガラスシートをレーザ16の下を約250mm/min.の速度で動かした。レーザ16はレーザが接する保護層を全て蒸発させ、それにより保護層が選択的に除去され、除去されたストライプ14の幅は約2mm幅であった。保護層を除去した領域には残留物はなく、完全に保護層の残留物が除去された。
【0046】
ガラスシートの端部にクラック開始点19を形成するため手動でガラスシート10に切り込みを入れた。保護層を選択的に除去した領域14においてガラスに切り込みをいれた。これにより、ガラスの上面の一端に、約8mm長で約0.1mm深さの小さな切り込みラインの形でクラック開始点19を形成した。ガラスシート10はレーザ16がクラック開始点19に接するように配置され、レーザ16の行路がレーザ16の第1の走査と同じ行路に沿うようにガラスシート10を動かした。結果的に、レーザ16は保護層の選択除去部14内を伝搬した。約250mm/min.の速度でガラスシート10を動かした。レーザにより、ガラス表面のレーザが当たった領域においてガラスを効果的に熱した。レーザにより局所的に熱することにより、クラック開始点19から始まり、レーザ16が進む行路に沿って延びるクラックがガラス表面を横切って伝搬した。このクラックは約0.1mmの深さであった。レーザにより生じたクラックに曲げモーメントを加えるためガラスシートに手動で圧力を加え、それによりガラスシートを二つのシートに分割した。
【符号の説明】
【0047】
10 ガラスシート
11 ガラスシート主面
16 レーザビーム
18 レーザスポット
19 クラック開始点
20 クラック
22 水ジェット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスシート上にクラック開始点を形成する工程、
前記クラック開始点を用いて前記ガラスシートを横断するクラックを形成するため、レーザビームを、前記ガラスシートを横断するように移動させる工程、および
前記クラックに曲げモーメントを加えることにより、前記クラックに沿って前記ガラスシートを小さいシートに分割する工程、
を有してなる平面ガラスシートの製造方法であって、
前記ガラスシートが1.1mm以下の厚さを有し、
該レーザビームが該ガラスシート上において細長いビームスポットを有し、該ビームスポットが30mm以上の最長寸法を有することを特徴とする平面ガラスシートの製造方法。
【請求項2】
前記クラック開始点を形成する工程が、ガラスシートの一端にクラック開始点を形成するため、該ガラスシートの一端に沿って切り目や切り込み目を入れる工程を含むことを特徴とする請求項1記載の平面ガラスシートの製造方法。
【請求項3】
前記移動させる工程が、前記レーザビームを、前記クラック開始点から前記ガラスシートを横断させる工程を含むことを特徴とする請求項1または2記載の平面ガラスシートの製造方法。
【請求項4】
前記させる移動工程中のレーザビームが、非ガウシアン成分を有してなることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の平面ガラスシートの製造方法。
【請求項5】
前記移動させる工程が、少なくとも300mm/secの速度で、最長軸が該速度で1秒間に移動する長さの10%以上の長さであるビームスポットを有する前記レーザビームを移動させる工程を含むことを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のガラス基板の分割方法。
【請求項6】
フラットパネルディスプレイに使用される、1.1mm以下の厚さを有するガラス基板の分割方法において、
該方法が、1.1mm以下の厚さの平面ガラスシートを提供する工程と、
前記ガラスシート上にクラック開始点を形成する工程と、
前記クラック開始点を用いて前記ガラスシートを横断するクラックを形成するため、少なくとも300mm/secの速度で前記ガラスシート上においてレーザビームを、前記ガラスシートを横断するように移動させる移動工程と、
前記クラックに曲げモーメントを加えることにより、前記クラックに沿って前記ガラスシートを小さいシートに分割する工程と、
を有してなり、
該レーザビームが該ガラスシート上において細長いビームスポットを有し、
該ビームスポットが30mm以上の最長寸法を有し、
前記移動工程により該ガラスシートを横断するクラックを十分に形成し、
前記移動工程が、最長軸が前記速度で1秒間に移動する長さの約10%以上の長さであるビームスポットを有する前記レーザビームを移動する工程を含むことを特徴とするガラス基板の分割方法。
【請求項7】
前記クラック開始点を形成する工程が、ガラスシートの一端にクラック開始点を形成するため、該ガラスシートの一端に沿って切り目や切り込み目を入れる工程を含むことを特徴とする請求項6記載のガラス基板の分割方法。
【請求項8】
前記移動工程が、前記レーザビームを、前記クラック開始点から前記ガラスシートを横断させる工程を含むことを特徴とする請求項6または7記載のガラス基板の分割方法。
【請求項9】
前記移動工程中のレーザビームが、非ガウシアン成分を有してなることを特徴とする請求項5から8いずれか1項記載のガラス基板の分割方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−126642(P2012−126642A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−61764(P2012−61764)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2008−184552(P2008−184552)の分割
【原出願日】平成8年6月26日(1996.6.26)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】