説明

平面光波回路及びその製造方法並びに光導波路デバイス

【課題】光素子を光導波路部に隙間無く結合することにより光結合効率を向上できるPLC等を提供する。
【解決手段】PLC11は、光導波路部20と光素子搭載部90とを備えている。光導波路部20は、基板としてのシリコン基板73上の一部に形成された下部クラッド層21、コア層24及び上部クラッド層22を有する。光素子搭載部90は、光導波路部20の端面である光導波路端面27で光学的に結合されるLD72を、シリコン基板73上に搭載する。そして、光導波路端面27では、下部クラッド層21の端面21aがコア層24の端面24a及び上部クラッド層22の端面22aよりもLD72から離れる方向に後退している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に光導波路部と光素子搭載部とを有する平面光波回路等に関する。以下、「平面光波回路」をPLC(Planar Lightwave Circuit)と略称する。
【背景技術】
【0002】
光アクセス市場で使用される光トランシーバは、LD(Laser Diode)、PD(Photo Diode)、薄膜フィルタ、レンズなどから構成されるマイクロオプティクス型モジュールと、シリコン基板上に石英導波路を作製し、LD、PDなどを表面実装して構成されるPLCモジュールとがある。両者とも一長一短を有するが、光出力をモニタしながらの光軸調整を必要としない後者の方がコスト及びデリバリーの点で有利と言える。後者のPLCモジュールにおける実装方法は、一般にパッシブアライメント実装を呼ばれている。パッシブアライメント実装では、導波路チップに対する平面方向は、アライメントマーカを赤外線で画像認識することで位置精度が確保される。垂直方向は、台座と呼ばれるブロックによって精度が確保される。この台座の高さは高精度に作製されるため、台座に光部品を搭載するだけで、光部品と光導波路との高さを高精度に合わせることが可能となる。最終的に両者は半田などを介して固着される。このような構造の一例が特許文献1に開示されている。以下、特許文献1に関連する技術を関連技術として説明する。
【0003】
図7は、関連技術に係る光導波路デバイスを示す実装前の分解斜視図である。以下、この図面に基づき説明する。
【0004】
本関連技術の光導波路デバイス70は、PLC71と、PLC71に実装されるLD72とを備えている。PLC71は、シリコン基板73上の一部に形成された下部クラッド層81、コア層84及び上部クラッド層82を有する光導波路部80と、光導波路端面87で光学的に結合されるLD72をシリコン基板73上に搭載する光素子搭載部90とを備えている。上部クラッド層82は、コア層84を被覆する埋め込み層85と、埋め込み層85の上に重なるクラッド層86とから成る。
【0005】
光導波路部80は、シリコン基板73上のシリカ膜によって形成されている。光素子搭載部90は、シリコン基板73上の一部のシリカ膜が除去され、LD72が搭載される台座91〜94と位置調整用のアライメントマーカ95,96が形成されている。台座91〜94の高さは、LD72が搭載された際にLD72の活性層74の高さと光導波路部80のコア層84の高さとが合致するように設計されている。一方、平面方向の調整はアライメントマーカ95,96を利用して行われる。これらのアライメントマーカ95,96は、円柱になっており、その上面は金属膜で覆われている。アライメントマーカ95,96の上面の円中心位置は、コア層84の位置を基準に精度よく調整されている。また、LD72の裏面(エピサイド表面)にも、円の抜き型となる金属パターンから成るアライメントマーカ75,76が形成されている。アライメントマーカ75,76の円中心位置は、活性層74の位置を基準に精度よく調整されている。アライメントマーカ95,96とアライメントマーカ75,76とを重ね合わせ、シリコン基板73の裏面側から赤外光を照射し、上方からCCD(Charge Coupled Device)で透過光をモニタする。すると、赤外光は金属部分のみで遮光されるため、LD72とPLC71との間のマーカ像を得ることができる。PLC71側のアライメントマーカ75,76の位置及びLD72側のアライメントマーカ95,96の位置は、それぞれコア層84の位置及び活性層74の位置に対して精度よく決められているため、両者の円中心が合致した位置にLD72を搭載することで、平面方向の光軸を合わせることができる。
【0006】
【特許文献1】特許第2823044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8は、図7の光導波路デバイスを示す実装後の断面図である。以下、図7及び図8に基づき、関連技術の問題点について説明する。
【0008】
通常、PLC71においてLD72が結合する光導波路端面87は、RIE(Reactive Ion Etching)によって形成する。その際、シリコン基板73に対して平行にエッチングされる面と、エッチングによって徐々に出現する光導波路端面87との交わる付近は、気圧が低くなる傾向があるため、エッチングガスが揮発せずに滞留しやすくなる。その結果、フロロカーボン重合膜などの反応生成膜が形成されやすくなり、下部クラッド層81の端面81aがスロープ状に形作られていく。このようにして形成される光導波路端面87は、最終的にはやや傾いた(下が突出する方向)形状を持つことになる。
【0009】
この傾向は、次のような理由により更に顕著になる。通常、下部クラッド層81は、あまりドーピングを施さないピュアな膜(例えばNSG:Non-doped Silicate Glass)が使用され、比較的高い温度(1000℃程度)で熱処理される。これは、その後のコア層84の成膜や上部クラッド層82の成膜などの熱処理の際に、形成されたコア層84などが下部クラッド層81に沈み込まないよう、十分に軟化点の高い膜にする必要があるためである。一方、上部クラッド層82は、形成されたコア層84をボイドを生ずること無く埋め込むために、比較的軟化点の低い膜でなくてはならないため、不純物をドーピングした膜(例えばBPSG:Borophospho Silicate Glass)が使用され、比較的低い温度(850℃程度)で熱処理される。
【0010】
一般的に、熱処理温度の関係は、RIEなどによるドライエッチングのエッチング速度の関係と一致する。つまり、より高い温度で熱処理された膜は、結晶構造が緻密になるため、ドライエッチングされにくい。すなわち、下部クラッド層81の方が上部クラッド層82及びコア層84よりも、RIEによるエッチング速度が遅くなる。その結果、下部クラッド層81の端面81aは、エッチング時間が長くなるため反応生成膜の影響を受けやすくなり、上部クラッド層82及びコア層84のエッチング面よりもスロープ形状が強くなる。
【0011】
このようにして形成された光導波路端面87は、シリコン基板73に対して完全に垂直ではない。正確には、光導波路端面87において、上部クラッド層82の部分がほぼ垂直であるのに対し、下部クラッド層81の部分がやや傾いた形となる。一方で、LD72の光出射端面77は平坦であり、シリコン基板73に対してほぼ垂直な形で光導波路端面77に結合される。つまり、光結合効率を上げるために、互いをできるだけ隙間無く突き合わせようとしても、下部クラッド層81の端面81aのスロープが先にLD72に接触してしまうために間隙Dが発生し、それ以上互いを近づけることができない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、光素子を光導波路部に隙間無く結合することにより光結合効率を向上できるPLC等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るPLCは、基板上の一部に形成された下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を有する光導波路部と、この光導波路部の端面で光学的に結合される光素子を前記基板上に搭載する光素子搭載部とを備えている。そして、前記光導波路部の端面では、前記下部クラッド層の端面が前記コア層の端面及び前記上部クラッド層の端面よりも前記光素子から離れる方向に後退している。
【0014】
本発明に係る光導波路デバイスは、本発明に係るPLCと、このPLCに実装された前記光素子と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明に係るPLCの製造方法は、基板上の一部に形成された下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を有する光導波路部と、前記光導波路部の端面で光学的に結合される光素子を前記基板上に搭載する光素子搭載部と、を備えたPLCを製造する方法である。そして、本発明に係るPLCの製造方法は、前記基板上に前記下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を積層する第一工程と、前記基板上の一部の前記下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を異方性エッチングを用いて除去することにより、前記光導波路部及び前記光素子搭載部を形成する第二工程と、前記コア層及び前記上部クラッド層のエッチングレートよりも前記下部クラッド層のエッチングレートが大きいエッチャントを用いて前記光導波路部の端面にウェットエッチングを施すことにより、前記下部クラッド層の端面を前記コア層の端面及び前記上部クラッド層の端面よりも前記光素子から離れる方向に後退させる第三工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光導波路部の端面において、下部クラッド層の端面がコア層の端面及び上部クラッド層の端面よりも光素子から離れる方向に後退している。そのため、光素子を光導波路部の端面に近づけて実装する場合に、光素子が最初に下部クラッド層の端面に接してしまうことがない。したがって、光素子を光導波路部に隙間無く結合できるので、光結合効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明に係る光導波路デバイスの第一実施形態を示す実装前の分解斜視図である。図2は、図1の光導波路デバイスを示す実装後の断面図である。以下、図1及び図2に基づき説明する。なお、図7及び図8と同じ部分は同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0018】
本実施形態の光導波路デバイス10は、本実施形態のPLC11と、PLC11に実装された光素子としてのLD72とを備えている。PLC11は、光導波路部20と光素子搭載部90とを備えている。光導波路部20は、基板としてのシリコン基板73上の一部に形成された下部クラッド層21、コア層24及び上部クラッド層22を有する。光素子搭載部90は、光導波路部20の端面である光導波路端面27で光学的に結合されるLD72を、シリコン基板73上に搭載する。そして、光導波路端面27では、下部クラッド層21の端面21aがコア層24の端面24a及び上部クラッド層22の端面22aよりもLD72から離れる方向に後退している。なお、上部クラッド層22は、コア層24を被覆する埋め込み層25と、埋め込み層25の上に重なるクラッド層26とから成る。
【0019】
次に、本実施形態のPLC11及び光導波路デバイス10の作用及び効果について説明する。光導波路端面27において、下部クラッド層21の端面21aがコア層24の端面24a及び上部クラッド層21の端面21aよりもLD72から離れる方向に後退している。そのため、LD72を光導波路端面27に近づけて実装する場合に、LD72が最初に下部クラッド層21の端面21aに接してしまうことがない。したがって、図2に示すように、LD72を光導波路部20に隙間無く結合できるので、光結合効率を向上できる。
【0020】
図3及び図4は、本発明に係るPLCの製造方法の第一実施形態を示す断面図である。本実施形態は、図1のPLCを製造する方法である。したがって、以下、図1乃至図4に基づき説明する。
【0021】
本実施形態は、図1のPLC11を製造する方法である。PLC11は、光導波路部20と光素子搭載部90とを備えている。光導波路部20は、シリコン基板73上の一部に形成された下部クラッド層21、コア層24及び上部クラッド層22を有する。光素子搭載部90は、光導波路端面27で光学的に結合されるLD72を、シリコン基板73上に搭載する。そして、光導波路端面27では、下部クラッド層21の端面21aがコア層24の端面24a及び上部クラッド層22の端面22aよりもLD72から離れる方向に後退している。
【0022】
本実施形態の製造方法は、次の第一工程、第二工程及び第三工程を含むことを特徴とする。第一工程では、シリコン73基板上に下部クラッド層21、コア層24及び上部クラッド層22を積層する(図3の工程(a)(b)(c))。第二工程では、シリコン基板73上の一部の下部クラッド層21、コア層24及び上部クラッド層22を、異方性ドライエッチングを用いて除去することにより、光導波路部20及び光素子搭載部90を形成する(図3の工程(d)及び図4の工程(e))。第三工程では、コア層24及び上部クラッド層22のエッチングレートよりも下部クラッド層21のエッチングレートが大きいエッチャントを用いて光導波路端面27にウェットエッチングを施すことにより、下部クラッド層21の端面21aをコア層24の端面24a及び上部クラッド層22の端面22aよりもLD72から離れる方向に後退させる(図4の工程(f))。
【0023】
第二工程において、下部クラッド層21、コア層24及び上部クラッド層22を、異方性ドライエッチングを用いて除去する際に、シリコン基板73に対して平行にエッチングされる面と、エッチングによって徐々に出現する光導波路端面27との交わる付近は、気圧が低くなる傾向があるため、エッチングガスが揮発せずに滞留しやすくなる。その結果、エッチングによって最後に出現する下部クラッド層21の端面21aは、反応生成膜が形成されやすくなるので、スロープ状に形作られていく。また、一般的に下部クラッド層21は、コア層24が沈み込まないように緻密な膜を使用するため、ドライエッチングレートが遅い。これは、下部クラッド層21の端面21aのスロープ形状の形成を助長する。つまり、下部クラッド層21の端面21aは、上部クラッド層22及びコア層24の端面よりも、LD72に近づく方向に突出してしまう。
【0024】
そこで、第三工程において、コア層24及び上部クラッド層22のエッチングレートよりも下部クラッド層21のエッチングレートが大きいエッチャントを用いて、光導波路端面27にウェットエッチングを施す。これにより、下部クラッド層21の端面21aは、コア層24の端面24a及び上部クラッド層21の端面21aよりも、LD72から離れる方向に後退する。したがって、LD72を光導波路端面27に近づけて実装する場合に、LD72が最初に下部クラッド層21の端面21aに接してしまうことがない(図4の工程(g))。したがって、LD72を光導波路部20に隙間無く結合できるので、光結合効率を向上できる。
【0025】
次に、本実施形態の作用について詳しく説明する。以下、フッ化水素酸系の水溶液を総じて「フッ酸」と略称する。
【0026】
光導波路部20を構成するシリカ膜は、フッ酸でエッチングすることができる。ボロンがドープされているシリカ膜は、フッ酸に対するエッチング耐性が高い、すなわちエッチングされにくい。BPSGとNSGを比較した場合、やはりNSGの方がBPSGよりも速くエッチングされる。このエッチング速度比(エッチング選択比)はボロンの含有率や、膜の熱処理温度によって異なるが、一般的にBPSGがNSGよりも速くエッチングされることはない。
【0027】
これは、光導波路端面27をフッ酸系のエッチャントに浸漬した場合にも、同様の現象として確認される。つまり、浸漬前は下部クラッド層21が上部クラッド層22よりも突き出た形であったのに対し、ある時間以上エッチャントに浸漬した後では、上部クラッド層22が下部クラッド層21よりも突き出た形となる。このようにすることで、LD72の光出射端面77と光導波路端面27とを突合せる際に、下部クラッド層21が邪魔になることはなく、隙間無く両者を結合させることが可能となる。
【0028】
図1及び図2は、パッシブアライメント実装よって作製された光導波路デバイス10の概略図である。図中のコア層24は、便宜上、単純な直線導波路で描かれているが、実際には様々な機能を有するように多様にレイアウトされている。図1はLD72がPLC11に実装される前の概略図であり、図2は実装された後のコア層24を通る断面図である。図4の工程(e)に示すように、光導波路端面27は、前述した通りシリコン基板73に対して完全に垂直ではなく、下部クラッド層21側が上部クラッド層22側よりも突き出るようなスロープ状になっている。そのため、このままではLD72の光出射端面77と光導波路端面27とを隙間なく完全に結合させることができない。
【0029】
そこで、上部クラッド層22として、フッ酸によるエッチングレートが下部クラッド層21よりも遅い膜を用い、光導波路端面27の露出後にフッ酸に浸漬することで、図4の工程(f)に示すように下部クラッド層21側を選択的にエッチングすることができる。その結果、LD72の光出射端面77と光導波路端面27との、少なくとも活性層74及びコア層24の露出した端面同士を、隙間無く結合させることが可能となる。
【0030】
次に、各工程(a)〜(f)について、更に詳しく説明する。以下、ウェットエッチングを行うエッチャントとしてバッファードフッ酸(BHF)、異方性ドライエッチングとして反応性イオンエッチング(RIE)が好適であるとして説明を行うが、同じ効果が得られる方法であればこれに限定されない。
【0031】
<工程(a)>まず、一般的な光導波路の製造方法と同様の手順で、シリコン基板73上に下部クラッド層21を成膜した後、重ねてコア層24を成膜し、フォトリソグラフィ及びRIEによってコア層24を所定の形状に加工する。その後、加工されたコア層24を埋め込むための埋め込み層25を堆積させ、アニール処理によってコア層24を埋め込む。ここで、このアニール処理の際、コア層24が沈み込まないように、下部クラッド層21には軟化点が比較的高いNSG膜を使用する。また、コア層24も同様に、このアニール処理で変形しないよう、軟化点が比較的高いSiON膜を利用する。一方、埋め込み層25はリフロー性が要求されるため、軟化点が低いBPSG膜を利用する。
【0032】
<工程(b)>続いて、フォトリソグラフィによってフォトレジスト膜28を形成し、LD72が搭載される部分の下部クラッド層21及び埋め込み層25をRIEによって除去する。このとき、コア層24は、除去によって露出した端面にまで至らないように、予め設計しておく。
【0033】
<工程(c)>続いて、上部クラッド層22のクラッド層26を成膜する。クラッド層26も、埋め込み層25と同じBPSG膜を利用する。このクラッド層26は、結果的に台座91〜94としての役割も担うことになるため、膜厚は一意的に決定される。つまり、その膜厚は、台座91〜94にLD72が搭載されたときに、LD72の活性層74の中心軸と光導波路部20のコア層24の中心軸とが一致するように決められる。もし、光導波路の特性上、埋め込み層25の膜厚とクラッド層26の膜厚との和を一定以上にしたい場合は、埋め込み層25の方を調整すればよい。つまり、台座91〜94を低くするため、クラッド層26を薄くしたい場合などは、埋め込み層25を厚くすればよい。クラッド層26の成膜後、必要に応じたアニール処理を施す。
【0034】
<工程(d)>続いて、フォトリソグラフィによってフォトレジスト膜29を形成し、<工程(e)>RIEによって、台座91〜94、アライメントマーカ95,96、及び光導波路端面27を形成する。このときも、コア層24は、エッチングによって露出した光導波路端面27にまで至らないように、予め設計しておく。
【0035】
<工程(f)>続いて、フォトレジスト膜29は除去せずに残したまま、BHFなどのエッチャントに浸漬させる。このとき、BPSG膜やSiON膜よりも、BHFに対するエッチングレートが速いNSG膜が、よりエッチングが進行する。その結果、光導波路端面27の下部クラッド層21の部分だけが更に引き込むように後退する。
【0036】
このときの浸漬時間は、次のように決定する。まず、下部クラッド層21、コア層24、埋め込み層25及びクラッド層26のエッチャントに対するエッチングレートを、実験的又は理論的に導き出す。そして、それらのエッチングレートに基づき、コア層24が光導波路端面27に露出し、かつ光導波路端面27における下部クラッド層21の部分が、上部クラッド層22の部分よりも所望の量だけ後退するのに、必要な時間を計算する。その時間が求める浸漬時間である。ここで工程(e)で露出する光導波路端面27からコア24の端面24aまでの引き込み量は、この浸漬時間を考慮して設計される。また、台座91〜94やアライメントマーカ95,96も、外周部がエッチングされることによりサイズが小さくなるため、これを考慮してサイズ設計される。
【0037】
<工程(g)>続いて、図示しないが、電極などの金属のパターニングや、電極とシリコン基板とを絶縁するための酸化膜パッシベーションなど、必要な工程を施し、PLC11のプラットフォームが完成する。最後に、PLC11にLD72をパッシブアライメント実装することで、光導波路デバイス10が完成する。
【0038】
図5は、本発明に係る光導波路デバイスの第二実施形態を示す実装前の分解斜視図である。以下、この図面に基づき説明する。なお、図1と同じ部分は同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0039】
本実施形態の光導波路デバイス30は、本実施形態のPLC31と、PLC31に実装されたLD72とを備えている。PLC31は、光導波路部40と光素子搭載部90とを備えている。光導波路部40は、シリコン基板73上の一部に形成された下部クラッド層41、コア層44及び上部クラッド層42を有する。光素子搭載部90は、光導波路端面47で光学的に結合されるLD72を、シリコン基板73上に搭載する。
【0040】
光導波路端面47において、上部クラッド層42の端面42aは、第一の端面42b,42cと第二の端面42dとを有する。端面42b,42cは、コア層44の端面44aと面一(同一平面)又はほぼ面一である。端面42dは、コア層44の端面44aの周囲にあって、コア層44の端面44aよりもLD72から離れる方向に後退している。つまり、上部クラッド層42の端面42aは、上方から見て凹状になっている。なお、上部クラッド層42は、コア層44を被覆する埋め込み層45と、埋め込み層45の上に重なるクラッド層46とから成る。
【0041】
図4の工程(f)で述べたようなウェットエッチング工程において、コア層44と上部クラッド層42とのエッチングレートの差が無視できなく場合がある。つまり、光導波路の材料及び製造条件、エッチャントの種類、エッチング条件(温度、時間等)などの組み合わせによっては、上部クラッド層42のエッチングレートがコア層44のエッチングレートよりも無視できない程に大きくなる。この場合、ウェットエッチングによってコア層44が上部クラッド層42よりも突出してしまう。そのため、LD72の実装時に、コア層44の端面44aにLD72の活性層74が直接突き当たることにより、LD72が損傷又は突出したコア層44が損傷するおそれがある。
【0042】
そこで、本実施形態のPLC31では、次のような構成を採っている。光導波路端面47では、LD72に近い方から、コア層44の端面44a及び上部クラッド層42の端面42b,42c、上部クラッド層42の端面42d、下部クラッド層41の端面41a、下部クラッド層41の端面41b、の順になる。そのため、LD72を光導波路端面47に近づけて実装する場合に、LD72が最初に下部クラッド層41の端面41aに接してしまうことがない。したがって、LD72を光導波路部40に隙間無く結合できるので、光結合効率を向上できる。このとき、LD72が最初にコア層44の端面44aだけでなく上部クラッド層42の端面42b,42cにも接することにより、LD72が光導波路端面47に接触したときの衝撃を分散できるので、LD72の光結合部分がコア層44の端面44aとの接触によって損傷を受けることを回避できる。これらの構造は、光導波路の材料及び製造条件、エッチャントの種類、エッチング条件(温度、時間等)などの組み合わせによって広く設計可能である。
【0043】
また、本実施形態では、上部クラッド層42の端面42b,42cは、光導波路端面47から見てコア層44の端面44aを挟んで二つ形成されている。そのため、LD72の光結合部分である光出射端面77が平面であり、かつその平面が光導波路端面47と非平行な状態でLD72を光導波路端面47に近づけた場合でも、LD72が最初にコア層44の端面44aではなく上部クラッド層42の二つの端面42b,42cのどちらかに接することになる。したがって、LD72の光結合部分がコア層44の端面44aとの接触によって損傷を受けることを、より確実に回避できる。言うまでもなく、このような損傷を回避する目的だけならば、上部クラッド層42の端面42b,42cよりもコア層44の端面44aを、LD72の光出射端面77から離れる方向に引き込んでいても構わない。
【0044】
なお、上部クラッド層42の端面42b,42cの形状及び個数は、その機能を果たす限りどのようにしてもよく、例えば一つでもよく、光導波路端面47から見てコア層44の端面44aを挟んで三つ以上形成してもよい。
【0045】
次に、PLC31の製造方法について、図3及び図4の製造方法と異なる点を中心に説明する。以下の第二工程及び第三工程は、図3及び図4の製造方法の第二工程及び第三工程に相当する。
【0046】
まず、第二工程において、シリコン基板73上の一部の下部クラッド層41、コア層44及び上部クラッド層42を、RIEを用いて除去する際に、光導波路端面47におけるコア層44を含む中央部をその周囲の周囲部よりLD72から離れる方向に後退させる。つまり、RIEで使用するフォトレジスト膜を上方から見て凹状にする。このフォトレジスト膜の形状(凹みの寸法)は、第三工程におけるエッチャントへの浸漬時間と密接な関係にあるので、予め適切に設計しておく。
【0047】
そして、第三工程において、エッチャントとしてコア層44のエッチングレートよりも上部クラッド層42のエッチングレートが大きいものを用いることにより、周辺部の上部クラッド層42の端面42b,42cをコア層44の端面44aに近づけ、中央部の上部クラッド層42の端面42dをコア層44の端面44aよりもLD72から離れる方向に後退させる。
【0048】
このときの浸漬時間は、次のように決定する。まず、下部クラッド層41、コア層44、埋め込み層45及びクラッド層46のエッチャントに対するエッチングレートを、実験的又は理論的に導き出す。そして、それらのエッチングレートに基づき、コア層44が光導波路端面47に露出し、かつ光導波路端面47における下部クラッド層41の部分が、上部クラッド層42の部分よりも所望の量だけ後退し、かつ、上部クラッド層42の端面42b,42cがコア層44の端面44aと面一又はほぼ面一になるのに、必要な時間を計算する。その時間が求める浸漬時間である。
【0049】
これにより、第三工程後の光導波路端面47では、LD72に近い方から、コア層44の端面44a及び上部クラッド層42の端面42b,42c、上部クラッド層42の端面42d、下部クラッド層41の端面41a、下部クラッド層41の端面41b、の順になる。
【0050】
図6は、本発明に係る光導波路デバイスの第三実施形態を示す実装前の分解斜視図である。以下、この図面に基づき説明する。なお、図1と同じ部分は同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0051】
本実施形態の光導波路デバイス50は、本実施形態のPLC51と、PLC51に実装されたLD72とを備えている。PLC51は、光導波路部60と光素子搭載部90とを備えている。光導波路部60は、シリコン基板73上の一部に形成された下部クラッド層61、コア層64,68,69及び上部クラッド層62を有する。光素子搭載部90は、光導波路端面67で光学的に結合されるLD72を、シリコン基板73上に搭載する。
【0052】
コア層64は、LD72に光学的に結合する第一のコア層である。コア層68,69は、LD72に光学的に結合しない第二のコア層である。光導波路端面67では、コア層64,68,69の各端面64a,68a,69aは、面一又はほぼ面一であり、かつ、各端面64a,68a,69aの周囲における上部クラッド層62の端面62aよりもLD72に近づく方向に突出している。つまり、コア層64,68,69の各端面64a,68a,69aは、上方から見て三本が光素子搭載部90へ突き出した形状になっている。なお、上部クラッド層62は、コア層64を被覆する埋め込み層65と、埋め込み層65の上に重なるクラッド層66とから成る。
【0053】
図4の工程(f)で述べたようなウェットエッチング工程において、コア層64と上部クラッド層62とのエッチングレートの差が無視できなく場合がある。つまり、光導波路の材料及び製造条件、エッチャントの種類、エッチング条件(温度、時間等)などの組み合わせによっては、上部クラッド層62のエッチングレートがコア層64のエッチングレートよりも無視できない程に大きくなる。この場合、ウェットエッチングによってコア層64が上部クラッド層62よりも突出してしまう。そのため、LD72の実装時に、コア層64の端面64aにLD72の活性層74が直接突き当たることにより、LD72が損傷又は突出したコア層64が損傷するおそれがある。
【0054】
そこで、本実施形態のPLC51では、次のような構成を採っている。光導波路端面67では、LD72に近い方から、コア層64,68,69の端面64a,68a,69a、上部クラッド層62の端面62a、下部クラッド層61の端面61a、の順になる。そのため、LD72を光導波路端面67に近づけて実装する場合に、LD72が最初に下部クラッド層61の端面61aに接してしまうことがない。したがって、LD72を光導波路部60に隙間無く結合できるので、光結合効率を向上できる。このとき、LD72が最初に第一のコア層であるコア層64の端面64aだけでなく第二のコア層であるコア層68,69の端面68a,69aにも接することにより、LD72が光導波路端面67に接触したときの衝撃を分散できるので、LD72の光結合部分がコア層64の端面64aとの接触によって損傷を受けることを回避できる。これらの構造は、光導波路の材料及び製造条件、エッチャントの種類、エッチング条件(温度、時間等)などの組み合わせによって広く設計可能である。
【0055】
また、本実施形態では、第二のコア層であるコア層68,69の端面68a,69aは、光導波路端面67から見てコア層64の端面64aを挟んで二つ形成されている。そのため、LD72の光結合部分である光出射端面77が平面であり、かつその平面が光導波路端面67と非平行な状態でLD72を光導波路端面67に近づけた場合でも、LD72が最初にコア層64の端面64aではなくコア層68,69の二つの端面68a,69aのどちらかに接することになる。したがって、LD72の光結合部分がコア層64の端面64aとの接触によって損傷を受けることを、より確実に回避できる。言うまでもなく、このような損傷を回避する目的だけならば、コア層68,69の二つの端面68a,69aよりもコア層64の端面64aを、LD72の光出射端面77から離れる方向に引き込んでいても構わない。
【0056】
なお、コア層68,69の端面68a,69aの形状及び個数は、その機能を果たす限りどのようにしてもよく、例えば一つでもよく、光導波路端面67から見てコア層64の端面64aを挟んで三つ以上形成してもよい。
【0057】
次に、PLC51の製造方法について、図3及び図4の製造方法と異なる点を中心に説明する。以下の第一工程及び第三工程は、図3及び図4の製造方法の第一工程及び第三工程に相当する。
【0058】
まず、第一工程において、第一のコア層としてのコア層64と第二のコア層としてのコア層68,69とを同一材料で同時に形成する。これは、第一工程においてフォトレジスト膜を露光するマスクを変更するだけでよい。このフォトレジスト膜は、コア層をエッチングするときに用いる。
【0059】
そして、第三工程において、エッチャントとしてコア層64,68,69のエッチングレートよりも上部クラッド層62のエッチングレートが大きいものを用いることにより、コア層64,68,69の端面64a,68a,69aを、面一又はほぼ面一とし、かつ、上部クラッド層62の端面62aよりもLD72に近づく方向に突出させる。第三工程におけるエッチングレートは、コア層64,68,69<上部クラッド層62<下部クラッド層61、となる。
【0060】
このときのエッチャントへの浸漬時間は、次のように決定する。まず、下部クラッド層61、コア層64,68,69、埋め込み層65及びクラッド層66のエッチャントに対するエッチングレートを、実験的又は理論的に導き出す。そして、それらのエッチングレートに基づき、コア層64,68,69が光導波路端面67に露出し、かつ光導波路端面67における下部クラッド層61の部分が、上部クラッド層62の部分よりも所望の量だけ後退するのに、必要な時間を計算する。その時間が求める浸漬時間である。
【0061】
これにより、第三工程後の光導波路端面67では、LD72に近い方から、コア層64,68,69の端面64a,68a,69a、上部クラッド層62の端面62a、下部クラッド層61の端面61aの順になる。
【0062】
以上、上記各実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細については、当業者が理解し得るさまざまな変更を加えることができる。また、本発明には、上記各実施形態の構成の一部又は全部を相互に適宜組み合わせたものも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る光導波路デバイスの第一実施形態を示す実装前の分解斜視図である。
【図2】図1の光導波路デバイスを示す実装後の断面図である。
【図3】本発明に係るPLCの製造方法の第一実施形態を示す断面図(その1)である。
【図4】本発明に係るPLCの製造方法の第一実施形態を示す断面図(その2)である。
【図5】本発明に係る光導波路デバイスの第二実施形態を示す実装前の分解斜視図である。
【図6】本発明に係る光導波路デバイスの第三実施形態を示す実装前の分解斜視図である。
【図7】関連技術に係る光導波路デバイスを示す実装前の分解斜視図である。
【図8】図7の光導波路デバイスを示す実装後の断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10,30,50 光導波路デバイス
11,31,51 PLC
20,40,60 光導波路部
21,41,61 下部クラッド層
22,42,62 上部クラッド層
24,44 コア層
27,47,67 光導波路端面(光導波路部の端面)
64 コア層(第一のコア層)
68,69 コア層(第二のコア層)
72 LD(光素子)
73 シリコン基板(基板)
90 光素子搭載部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の一部に形成された下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を有する光導波路部と、この光導波路部の端面で光学的に結合される光素子を前記基板上に搭載する光素子搭載部と、を備えた平面光波回路において、
前記光導波路部の端面では、前記下部クラッド層の端面が前記コア層の端面及び前記上部クラッド層の端面よりも前記光素子から離れる方向に後退している、
ことを特徴とする平面光波回路。
【請求項2】
前記コア層は、前記光素子に光学的に結合する第一のコア層と、前記光素子に光学的に結合しない第二のコア層とを有し、
前記光導波路部の端面では、前記第一のコア層及び前記第二のコア層の端面は、前記第一のコア層及び前記第二のコア層の端面の周囲における前記上部クラッド層の端面よりも前記光素子に近づく方向に突出している、
ことを特徴とする請求項1記載の平面光波回路。
【請求項3】
前記第二のコア層は、前記第一のコア層とともに前記下部クラッド層の上に形成され、かつ、前記光導波路部の端面から見て前記第一のコア層を挟んで少なくとも二つ形成された、
ことを特徴とする請求項2記載の平面光波回路。
【請求項4】
前記光導波路部の端面では、前記上部クラッド層の端面は、第一の端面と、前記コア層の端面の周囲にあって当該コア層の端面よりも前記光素子から離れる方向に後退している第二の端面とを有する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の平面光波回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の平面光波回路と、
この平面光波回路に実装された前記光素子と、
を備えたことを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項6】
基板上の一部に形成された下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を有する光導波路部と、前記光導波路部の端面で光学的に結合される光素子を前記基板上に搭載する光素子搭載部と、を備えた平面光波回路を製造する方法において、
前記基板上に前記下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を積層する第一工程と、
前記基板上の一部の前記下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を異方性エッチングを用いて除去することにより、前記光導波路部及び前記光素子搭載部を形成する第二工程と、
前記コア層及び前記上部クラッド層のエッチングレートよりも前記下部クラッド層のエッチングレートが大きいエッチャントを用いて前記光導波路部の端面にウェットエッチングを施すことにより、前記下部クラッド層の端面を前記コア層の端面及び前記上部クラッド層の端面よりも前記光素子から離れる方向に後退させる第三工程と、
を含むことを特徴とする平面光波回路の製造方法。
【請求項7】
前記第一工程において、前記コア層として、前記光素子に光学的に結合する第一のコア層と前記光素子に光学的に結合しない第二のコア層とを同一材料で同時に形成し、
前記第三工程において、前記エッチャントとして前記コア層のエッチングレートよりも前記上部クラッド層のエッチングレートが大きいものを用いることにより、前記第一のコア層及び前記第二のコア層の端面を、前記上部クラッド層の端面よりも前記光素子に近づく方向に突出させる、
ことを特徴とする請求項6記載の平面光波回路の製造方法。
【請求項8】
前記第一工程において、前記第二のコア層は、前記光導波路部の端面から見て前記第一のコア層を挟んで少なくとも二つ形成する、
ことを特徴とする請求項7記載の平面光波回路の製造方法。
【請求項9】
前記第二工程において、前記基板上の一部の前記下部クラッド層、コア層及び上部クラッド層を異方性エッチングを用いて除去する際に、前記光導波路部の端面における前記コア層を含む中央部をその周囲の周囲部より前記光素子から離れる方向に後退させ、
前記第三工程において、前記エッチャントとして前記コア層のエッチングレートよりも前記上部クラッド層のエッチングレートが大きいものを用いることにより、前記周辺部の前記上部クラッド層の端面を前記コア層の端面に近づけ、前記中央部の前記上部クラッド層の端面を前記コア層の端面よりも前記光素子から離れる方向に後退させる、
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の平面光波回路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−86238(P2009−86238A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255202(P2007−255202)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】