説明

廃プラスチックの処理方法及び処理装置

【課題】廃プラスチックから多くの軽質油分収率を低コストで得て、それを原料としてBTXを生成すると共に、溶剤のコールタール中の脱N、脱S、脱Cl(脱残渣)を行って、良質の水添燃料油も同時に得ることが可能な処理方法とその装置を提供する。
【解決手段】廃プラスチックと溶剤と触媒とを混合してスラリーを形成し、このスラリーを加熱し、水素で高温高圧下で水素化し、さらに水素化されたスラリーを、軽質油と中重質油と残渣とに分離蒸留する。前記蒸留工程で分留された中重質油に、水素を添加して高温高圧下で水素化させ、水添燃料油と燃料ガスと軽質油と水添循環溶剤とを生成させる。分離された残渣は水洗あるいは蒸気洗浄してその残渣中の塩化物を除去する。前記蒸留工程で分留した軽質油に燃料ガス中の炭化水素ガスとを供給して、環化させることによりベンゼン、トルエン、キシレン等を生成するBTX生成工程により、廃プラスチックを処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックにコールタール系溶剤を加えてスラリー化し、それを水素で水素化分解反応させて、ベンゼン、トルエン、キシレンなどと共に、水添燃料油を生成させる廃プラスチックの処理方法とその処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物や一般ゴミ廃棄物として、OA機器やカーシュレッダー、家電製品、飲料容器や食品包装容器などに使用されたプラスチックが大量に廃棄されている。この廃棄されたプラスチックは、沿岸部や山間部への埋立処分や、ゴミ焼却炉での焼却処分が行われていた。
【0003】
埋立処分は、廃プラスチックを含む種々の廃棄物が混合状態で埋め立てられており、土壌汚染や地下水汚染といった環境問題があり、焼却処分は、廃プラスチックが燃料として高カロリーであることから焼却炉内が高温となってしまい耐火煉瓦の劣化を早めてしまい、焼却炉の寿命が設計よりも大幅に短くなってしまうという問題があった。
【0004】
また、近年の原油の高騰や、地球環境保護の観点から、プラスチック製品を破砕してペレット状とし、これを原料として再利用するというマテリアルリサイクルが一般的に行われるようになってきた。
【0005】
ところが、前述のようなマテリアルリサイクルは、廃棄されたプラスチックは、使用される用途に応じて種々のプラスチックが用いられており、これらを回収後に、各種プラスチック毎に分別するのには人手がかかり、手間とコストがかかるという問題があった。
【0006】
また、回収された使用済みの廃プラスチックは、性状や種類の異なる樹脂が混入しており、純粋な原料と同様の製品(例えば、ペットボトルや精密・高強度製品などの高品質な成型品)としてリサイクルすることが困難であった。よって、安価な合成樹脂繊維としてリサイクルされることが多かった。
【0007】
このようなことから、窒素雰囲気下で廃プラスチックを熱分解したり、高温高圧下で水素を添加して水素化分解させたりして、軽質油などの化学原料に戻し、この化学原料からプラスチックなどを製造するというケミカルリサイクルが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0008】
それらの中で熱分解法は、得られる液体燃料の重質油分が多く、また不飽和成分を多く含んだ低品質のものであり、高品質の軽質油にするには、更に水素化等のアップグレーディングがある、また重質残渣分の生成も多くその処理コストがかかる等の多くの欠点がある。
【特許文献1】特開平05−186632号公報
【特許文献2】特開2003−321682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のケミカルリサイクルは、高温高圧下の水素雰囲気中において、触媒を用いて廃プラスチックを水素化分解して液化し、軽質油を製造するものである。
【0010】
この方法では熱分解法に比較して、より高品質の軽質油がより高い収率で得られるが、ガス生成率(低分子炭化水素ガス(C〜C)の生成率)が高く、その分、軽質油の収率が低くなって水素消費率が高くなる欠点があり、また経済性の面から割高になる欠点があった。
【0011】
特許文献2のケミカルリサイクルは、コールタール等の中で廃プラスチックを加熱して液化し、これに水素ガスを加えて高温高圧下で水素化分解反応させた後、反応生成物を環化触媒存在下で反応させて、ベンゼン、トルエン、キシレン(BTX)等を生成するものである。
【0012】
この方法では、得られた軽質油は、BTXの原料として用いられ付加価値の高い製品となるが、重質分は高濃度の塩素分(塩化アンモニウムや塩化鉄の形態で重質油中に混在)や硫黄分、固形分等を含んだ付加価値の低い製品となり、経済性の面から割高になる欠点があった。
【0013】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑み、廃プラスチックの処理方法において、廃プラスチックの水素化分解反応を促進すると共に、この水素化により生成した軽質油の水素化分解反応を抑制して、低分子量の炭化水素ガス(C〜C)の発生量を低減することのできる技術であって、廃プラスチックから多くの軽質油分収率を低コストで得て、それを原料としてBTXを生成すると共に、溶剤のコールタール中の脱N、脱S、脱Cl(脱残渣)を行って、良質の水添燃料油も同時に得ることが可能な処理方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る廃プラスチックの処理方法は、次のように構成されている。
1)廃プラスチックと溶剤と触媒とを混合して、スラリーを形成するスラリー調製工程と、このスラリー調製工程で生成したスラリーを加熱する予熱工程と、この予熱工程により加温されたスラリーを、水素で高温高圧下で水素化する第1水添工程と、前記第1水添工程で水素化されたスラリーを軽質油と中重質油と残渣とに分離する蒸留工程と、前記蒸留工程で分留された中重質油に、水素を添加して高温高圧下で水素化させ、水添燃料油と軽質油と燃料ガスと水添循環溶剤とを生成する、高活性触媒を用いた第2水添工程と、前記蒸留装置で分離された残渣を水洗あるいは蒸気洗浄して、その残渣中の塩化物を除去する水洗工程と、前記蒸留工程で分留した軽質油と、第2水添工程の軽質油と燃料ガス中の炭化水素ガスとを供給して、この軽質油及び炭化水素ガスを環化させて、ベンゼン、トルエン、キシレン等を生成するBTX生成工程とにより、廃プラスチックを処理することを特徴としている。
【0015】
2)前記第1水添工程における反応温度は440℃〜480℃、圧力は3〜20MPa、反応時間は30〜120分であり、第1水添工程に添加される触媒は、鉄系、塩化鉄系、ゼオライト系、コバルト−モリブデン系、ニッケル−モリブデン系の少なくとも1種であり、前記第2水添工程で使用される触媒は、ニッケル−モリブデン系、コバルト−モリブデン系の少なくとも1種であり、第1水添工程に供給される溶剤は、コールタール系溶剤、水添循環溶剤の少なくとも1種であり、第1水添工程に供給される廃プラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等からなる、一般都市ゴミからの混合廃プラスチックあることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る廃プラスチックの処理装置は、次のように構成されている。
3)廃プラスチックと溶剤と触媒とを混合して、スラリーを形成するスラリー調製槽と、このスラリー調製槽で生成したスラリーを加熱する予熱器と、この予熱器により加温されたスラリーを、水素で高温高圧下で水素化する第1水添反応器と、前記第1水添反応器で水素化されたスラリーを、軽質油と中重質油と残渣とに分離する蒸留装置と、前記蒸留装置で分留された中重質油に、水素を添加して高温高圧下で水素化させ、水添燃料油と燃料ガスと軽質油と水添循環溶剤とを生成する、高活性触媒を用いた第2水添反応器と、前記蒸留装置で分離された残渣を水洗あるいは蒸気洗浄して、その残渣中の塩化物を除去する脱塩洗浄装置と、前記蒸留装置で分留した軽質油と第2水添反応器での軽質油と燃料ガス中の炭化水素ガスとを供給して、この軽質油及び炭化水素ガスを環化させて、ベンゼン、トルエン、キシレン等を生成するBTX生成器とを備えていることを特徴としている。
【0017】
4)前記第1水添反応器における反応温度は440℃〜480℃、圧力は3〜20MPa、反応時間は30〜120分であり、第1水添反応器に添加される触媒は、鉄系、塩化鉄系、ゼオライト系、コバルト−モリブデン系、ニッケル−モリブデン系の少なくとも1種であり、前記第2水添反応器で使用される触媒は、ニッケル−モリブデン系、コバルト−モリブデン系の少なくとも1種であり、第1水添反応器に供給される溶剤は、コールタール系溶剤、水添循環溶剤の少なくとも1種であり、第1水添反応器に供給される廃プラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等からなる、一般都市ゴミからの混合廃プラスチックであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
1)コールタール系溶剤を廃プラスチックのスラリー化に用いることにより、廃プラスチックのハンドリング性(高圧容器への送入)、及び第1水添工程での水素化での効率を高める(ガス生成を抑制すると共に、水素化を促進する)と同時に、コールタール自体の脱N、脱Sを第2水添工程で行って、良質の水添燃料油として回収できる。
【0019】
2)結果、廃プラスチックの水素化反応に伴う水素の消費量増加の防止、及び軽質油収率の増加、軽質油がさらに水素化されて発生する低分子炭化水素ガス(C〜C)の生成量の低減がなされる。
【0020】
3)廃プラスチックスラリーの第1水添工程において、少ないガス生成率(低分子炭化水素ガスの生成率)、少ない水素消費量で、より高い軽質油収率が得られる最適反応条件(温度、圧力、反応時間)を選定することにより、低コストで最も効率よく軽質油収率を高められる。また安価な高活性触媒の添加により、軽質油収率向上、反応速度(処理量)向上、反応条件の緩和による設備費及び運転費の低減を図れる。
【0021】
4)2次水添工程で得られた水添燃料油のうち、比較的沸点の高い留分を水添循環溶剤として、スラリー調製工程に循環したことにより、廃プラスチックスラリーの第1水添反応工程での水素化性能が向上し、その結果として軽質油収率の向上、処理量向上、反応条件の緩和による設備費及び運転費の低減が図れる。
【0022】
5)2次水添工程で得られた水添燃料油のうち、比較的沸点の高い留分を水添循環溶剤としてスラリー調製工程に循環したことにより、廃プラスチックの溶解性及び分散性が向上して、均質なスラリーが形成されるようになり、配管などでの輸送などといったハンドリング性が向上すると共に、スラリー中の廃プラスチックの割合を向上させることで、第1水添反応工程での廃プラスチックの処理量が向上する。
【0023】
6)廃プラスチックからの塩化物及び固形分は、蒸留工程により残渣と共に分離され、残渣中の塩化物(塩化アンモニウム、塩化鉄等の水溶性の形態)は、水洗或いは蒸気洗浄によって除去されて、比較的処理の容易な低塩素濃度の残渣として回収される。
【0024】
7)蒸留工程で分離された中重質油は、第2水添工程で水素化されて脱N、脱Sされた良質な水添燃料油及び水添循環溶剤に、軽質油及びC〜Cの炭化水素ガスはBTX生成器で付加価値の高いBTXに変換される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る廃プラスチックの処理装置について説明する。
図1は、本発明に係る廃プラスチック処理装置Aの概略図である。この処理装置Aによる廃プラスチックのケミカルリサイクルについて、その概略を以下に説明する。
【0026】
(概略)
本発明に係る廃プラスチック処理装置Aは、廃プラスチックとコールタール油と触媒とを混合して、スラリーを形成するスラリー調製槽4と、このスラリー調製槽4で生成したスラリーを加熱する予熱器5と、この予熱器5により加温された廃プラスチックスラリーを水素で高温高圧下で水素化する第1水添反応器6と、前記第1水添反応器6で水素化されたスラリーを、軽質油と中重質油と残渣とに分離する蒸留装置7とを備えている。
【0027】
また、前記蒸留装置7で分留された中重質油に、水素を添加して高温高圧下で水素化させて、脱N、脱Sされた良好な水添燃料油と燃料ガスと軽質油と水添循環溶剤とを生成する、高活性触媒を用いた第2水添反応器9と、前記蒸留装置7で分離された残渣を水洗或いは蒸気洗浄して、その残渣中の塩化物を除去する脱塩洗浄装置16とを設けており、更に、前記蒸留装置7で分留した軽質油と前記第2水添反応器での軽質油と燃料ガス中の炭化水素(C〜C)とを供給して、この軽質油及び炭化水素ガスを環化させて、ベンゼン、トルエン、キシレン等を生成するBTX生成器18とを備えている。
【0028】
(反応機構)
上述のように構成された本発明に係る廃プラスチックの処理装置における反応機構は、以下の通りである。
廃プラスチックは、コールタール油(溶剤)と、廃プラスチックの水素化分解反応を促進させる触媒と共に、スラリー調製槽4に投入され、一定温度に加温されながらスラリー調製槽4の攪拌装置によって混合されて、コールタール油中に分散溶解してスラリー状となる。このスラリーをインダクションヒーター等を備えたスラリー予熱器5に、スラリーポンプpを介して送入し、この予熱器5によりスラリーが300℃〜400℃に昇温される。また、スラリーを加熱すると共に系内圧力は、水素により3〜20MPa程度に保持される。
【0029】
前記所定の温度になったスラリーは、気泡塔型反応器、懸濁床型反応器、もしくは攪拌槽型反応器6(第1水添反応器6)に導入されて、水素化反応による反応熱で温度が440℃〜480℃にまで昇温される。また、第1水添反応器内の圧力は3〜20MPaに保持される。ここで水素ガスは、第1水添反応器6及びスラリー予熱器5に供給される。第1水添反応器に供給された水素ガスは、高温高圧下で廃プラスチックスラリーと気液接触し、廃プラスチック及び溶剤のコールタール油が、触媒存在下で効率的に水素化される。
【0030】
第1水添反応器6における最適な水素化分解反応時間は30分〜120分であり、触媒存在下の水素化分解反応により廃プラスチックは水素化されて、軽質油や中重質油及び残渣、生成ガスなどが生成される。次いで、生成ガスを除くこれらのスラリー状の水添生成物は蒸留装置7へ移送され、軽質油と中重質油と塩素、固形分を含む残渣とに分留される。
【0031】
軽質油は配管L11を介して軽質油タンク8に貯留され、中重質油は配管L10を介して第2水添反応器9に導入され、残渣は配管L8を介して脱塩洗浄装置16に移送される。
【0032】
第2水添反応器9に導入された中重質油は、その反応器9に供給される水素ガスにより高度の水添触媒(Co−Mo系、Ni−Mo系等)の存在下で、高温高圧で水素化分解反応及び脱N、脱S等の脱硫・脱硝反応が進行し、良好な水添燃料油が生成される。第2水添反応器は通常、固定床の反応器が用いられる。水添燃料油は配管L20に設けた高温分離器10により、比較的分子量の大きい高沸点油と、比較的分子量の小さい高品質な低沸点油とに分離され、比較的分子量の大きい高沸点油を、配管L22を介してスラリー調製槽4へ水添循環溶剤として戻し、比較的分子量の小さい低沸点油を配管L21を介して水添燃料油タンク15へ移送している。
【0033】
前記脱塩洗浄装置16へ送られた残渣は、廃プラスチック中の塩化ビニール等に起因する高濃度の塩素分を含み、水洗或いは蒸気洗浄により残渣中の塩化物(塩化アンモニウム、塩化鉄などの水溶性のもの)が除去され、固液分離器20により脱塩残渣と廃液(HCl水溶液)とに分離されて、廃液(HCl水溶液)は配管L15を介して廃液タンク24へ廃棄され、脱塩残渣は配管L16を介してコークス炉23等へ炭素源として供給されている。
【0034】
そして、前記タンク8に貯留された軽質油(蒸留装置及び第2水添反応器からの軽質油)は、ガス分離器17より配管L39を介して供給されたC〜Cの炭化水素ガスと共に、BTX生成器18へ導入して、ベンゼン、トルエン、キシレンが製造される。
【0035】
第1水添反応器及び第2水添反応器からの、C〜Cの炭化ガス以外の生成ガス、及び未反応の水素ガスは、循環ガスコンプレッサー25を経由して第1水添反応器及び第2水添反応器に循環され、その一部はガス圧力調整弁22を経由して、燃料ガス管37より系外に排出される。
(詳細)
本発明に係る廃プラスチックの処理装置Aで処理されるプラスチックは、一般ゴミから排出される廃プラスチックであり、金属類や不純物を分別装置で取り除いたものが使用され、粉砕により数mm程度の大きさに粉砕したものを用いている。
【0036】
前記プラスチックとしては、加熱されて全量あるいは一部が液化し、かつ水添分解反応によって低分子量の炭化水素(燃料油やBTX)を生成するものであればよいので、熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化性樹脂も対象としている。主対象は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートなどからなる一般都市ゴミの混合された廃プラスチックである。
【0037】
廃プラスチックは、前述のように取り扱い性を考慮して、金属類や不純物を分別装置で除去したプラスチックであるのが望ましいが、一定量の添加物(無機物)などが混入したものや、加熱で容易に液化しないものであっても使用することができる。
【0038】
前記溶剤は、コールタール系溶剤、水添循環溶剤などが用いられ、具体的には、コールタール系溶剤は、コークス炉で生じた各種のコールタールを使用することができる。水添循環溶剤は、第二生成器で水素化されて生成された燃料油のうち、比較的分子量の大きい高沸点油を使用することができる。これにより比較的分子量の小さい低沸点の水添燃料油を高品質(低N含有量、低S含有量の油)で得ることができ、また第1水添反応器での水素化反応性能も高めることができる。
【0039】
前記の第1水添反応器の触媒としては、鉄系、塩化鉄系、鉄−硫黄系、ゼオライト系、コバルト−モリブデン系、ニッケル−モリブデン系のものが使用される。また、廃プラスチックの種類によっては、異性体の多い、より高品質な液体燃料を得るために、シリカ・アルミナ、硫化ニッケル、酸化ニッケル等の水素化異性化触媒を単独で、或いは、上記触媒と組み合わせて使用することもできる。
【0040】
触媒の使用量には特に制限はないが、本実施例においては、廃プラスチックに対して0.1〜10重量%の割合で添加している。
【0041】
また第2水添反応器の高度な高活性触媒としては、ニッケル−コバルト系、コバルト−モリブデン系等の貴金属触媒が通常固定床反応器で用いられ、その反応条件は、反応温度300〜450℃、反応圧力は1〜15MPaである。
【0042】
本発明では、コールタール系溶剤を廃プラスチックのスラリー化に用いることにより、廃プラスチックのハンドリング性(高圧容器への送入)、及び第1水添工程での水素化での効率を高める(ガス生成を抑制すると共に、水素化を促進する)と同時に、コールタール自体の脱N、脱Sを第2水添工程で行って、良質の水添燃料油として回収できる。
【0043】
その結果、廃プラスチックの水素化反応に伴う過剰な水素の消費量増加の防止、及び軽質油収率の増加、軽質油がさらに水素化されて発生する、低分子炭化水素ガス(C〜C)の生成量増加の防止がなされる。
【0044】
また廃プラスチックスラリーの第1水添工程において、少ないガス生成率(低分子炭化水素ガスの生成率)、少ない水素消費量で、高い軽質油収率が得られる最適反応条件(温度、圧力、反応時間)を選定することにより、低コストで最も効率よく軽質油収率を高められる。更に安価な高活性触媒の添加により、軽質油収率向上、反応速度(処理量)向上、反応条件の緩和による設備費及び運転費の低減が図れる。
【0045】
2次水添工程で得られた水添燃料油のうち、比較的沸点の高い留分を水添循環溶剤として、スラリー調製工程に添加したことにより、廃プラスチックスラリーの第1水添反応工程での水素化性能が向上し、その結果として軽質油収率向上、処理量向上、反応条件の緩和による設備費及び運転費の低減が図れる。
【0046】
2次水添工程で得られた水添燃料油のうち、比較的沸点の高い留分を水添循環溶剤としてスラリー調製工程に添加したことにより、廃プラスチックの溶解性及び分散性が向上して、均質なスラリーが形成されるようになり、配管などでの輸送などといったハンドリング性が向上すると共に、スラリー中の廃プラスチックの割合を向上させることで、第1水添反応工程での廃プラスチックの処理量が向上する。
【0047】
廃プラスチックからの塩化物は、蒸留工程により残渣と共に分離され、残渣中の塩化物(塩化アンモニウム、塩化鉄等の水溶性の形態)は、水洗あるいは蒸気洗浄によって除去されて、比較的処理の容易な低塩素濃度の残渣として回収される。
【0048】
そして蒸留工程で分離された中重質油は、第2水添工程で水素化されて脱N、脱Sされた良質な水添燃料油と水添循環溶剤に、軽質油はBTX生成器で付加価値の高いBTXに変換される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る廃プラスチックの処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0050】
A 廃プラスチック処理装置
1 廃プラスチック貯槽
2 コールタール油タンク
3 触媒供給装置
4 スラリー調製槽
5 スラリー予熱器
6 第1水添反応器
7 蒸留装置
8 軽質油タンク
9 第2水添反応器
10 高温分離器
15 水添燃料油タンク
16 脱塩洗浄装置
17 ガス分離器
18 BTX生成器
20 固液分離器
22 ガス圧力調整弁
23 コークス炉
24 廃液タンク
25 水素ガス循環コンプレッサー
L1 廃プラスチック供給管
L2 コールタール油供給管
L3 触媒供給管
L6 原料スラリー配管
L7 水素化反応後スラリー輸送管
L8 残渣管
L10 中重質油配管
L11軽質油配管
L15 塩酸廃液管
L16 脱塩残渣配管
L18 軽質油配管
L20 水添燃料油・水添循環溶剤輸送管
L21 水添燃料油配管
L22 水添循環溶剤配管
L31,L40 水素ガス供給管
L32 ガス配管
L33 水素ガス供給管
L34 ガス配管
L36 ガス配管
L37 燃料ガス管
L38 水素ガス循環配管
L39 炭化水素ガス(C〜C)供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックと溶剤と触媒とを混合して、スラリーを形成するスラリー調製工程と、このスラリー調製工程で生成したスラリーを加熱する予熱工程と、この予熱工程により加温されたスラリーを、水素で高温高圧下で水素化する第1水添工程と、前記第1水添工程で水素化されたスラリーを、軽質油と中重質油と残渣とに分離する蒸留工程と、
前記蒸留工程で分留された中重質油に、水素を添加して高温高圧下で水素化させ、水添燃料油と軽質油と燃料ガスと水添循環溶剤とを生成する、高活性触媒を用いた第2水添工程と、前記蒸留装置で分離された残渣を水洗あるいは蒸気洗浄して、その残渣中の塩化物を除去する水洗工程と、
前記蒸留工程で分留した軽質油と、第2水添工程の軽質油と燃料ガス中の炭化水素ガスとを供給して、この軽質油及び炭化水素ガスを環化させて、ベンゼン、トルエン、キシレン等を生成するBTX生成工程とにより、廃プラスチックを処理することを特徴とする廃プラスチックの処理方法。
【請求項2】
前記第1水添工程における反応温度は440℃〜480℃、圧力は3〜20MPa、反応時間は30〜120分であり、
第1水添工程に添加される触媒は、鉄系、塩化鉄系、ゼオライト系、コバルト−モリブデン系、ニッケル−モリブデン系の少なくとも1種であり、
前記第2水添工程で使用される触媒は、ニッケル−モリブデン系、コバルト−モリブデン系の少なくとも1種であり、
第1水添工程に供給される溶剤は、コールタール系溶剤、水添循環溶剤の少なくとも1種であり、
第1水添工程に供給される廃プラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等からなる、一般都市ゴミからの混合廃プラスチックあることを特徴とする、請求項1記載の廃プラスチックの処理方法。
【請求項3】
廃プラスチックと溶剤と触媒とを混合して、スラリーを形成するスラリー調製槽と、このスラリー調製槽で生成したスラリーを加熱する予熱器と、この予熱器により加温されたスラリーを、水素で高温高圧下で水素化する第1水添反応器と、前記第1水添反応器で水素化されたスラリーを、軽質油と中重質油と残渣とに分離する蒸留装置と、
前記蒸留装置で分留された中重質油に、水素を添加して高温高圧下で水素化させ、水添燃料油と燃料ガスと軽質油と水添循環溶剤とを生成する、高活性触媒を用いた第2水添反応器と、前記蒸留装置で分離された残渣を水洗あるいは蒸気洗浄して、その残渣中の塩化物を除去する脱塩洗浄装置と、
前記蒸留装置で分留した軽質油と、第2水添反応器での軽質油と燃料ガス中の炭化水素ガスとを供給して、この軽質油及び炭化水素ガスを環化させて、ベンゼン、トルエン、キシレン等を生成するBTX生成器とを備えていることを特徴とする、廃プラスチックの処理装置。
【請求項4】
前記第1水添反応器における反応温度は440℃〜480℃、圧力は3〜20MPa、反応時間は30〜120分であり、
第1水添反応器に添加される触媒は、鉄系、塩化鉄系、ゼオライト系、コバルト−モリブデン系、ニッケル−モリブデン系の少なくとも1種であり、
前記第2水添反応器で使用される触媒は、ニッケル−モリブデン系、コバルト−モリブデン系の少なくとも1種であり、
第1水添反応器に供給される溶剤は、コールタール系溶剤、水添循環溶剤の少なくとも1種であり、
第1水添反応器に供給される廃プラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等からなる、一般都市ゴミからの混合廃プラスチックであることを特徴とする、請求項3記載の廃プラスチックの処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242555(P2009−242555A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90409(P2008−90409)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】