説明

延伸フィルム

【課題】 光学用途で用いられるフィルムに要求されている透明性、光学等方性に優れ、実用的な耐熱性と機械強度を併せ持つ延伸フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー組成物を重合して得られ、かつ、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)が0.25〜4である共重合体の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性透明樹脂からなる延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明性、光学等方性などの光学性能に優れ、実用的な耐熱性と機械強度を併せ持つ延伸フィルムに関する。さらには偏光板の保護フィルムや光記録媒体の保護フィルム、透明導電性フィルムなどの光学用途に好適な延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学用途で用いられるフィルム(プレートまたはシートともいう。本発明においては面状成形体の総称をフィルムと呼ぶ)に対する要求は、ますます厳しくなっており、特に透明性が高く(高光線透過性)、光学等方性が高いこと(複屈折と厚みの積で表されるレターデーション値が小さいこと)などが強く要求されている。特に透明性と低複屈折性が強く求められる用途としては偏光板保護フィルムがある。液晶表示装置などで多用される偏光板は、一般に偏光膜と偏光板保護フィルムで構成されている。偏光膜はヨウ素または二色性染料にて染色されたポリビニルアルコール系フィルムを延伸した樹脂フィルムであり、偏光板保護フィルムは偏光膜の保護または支持を目的として片面あるいは両面に貼りあわせる透明な樹脂フィルムである。この偏光板保護フィルムには光線透過率が高いこと、厚みむらが小さく均質であること、光学等方性が高いこと、レターデーションのむらが小さく均質であること、耐熱性が高いこと、適度な透湿性を有していること、適度な剛性を有していることなどが要求され、現在はその物性バランスからセルローストリアセテート(以下、TACと略記する)の透明フィルムが最も広く使用されている。
【0003】
しかしながらTACのフィルムは透湿性が高いため、透過した水分により、偏光膜でのヨウ素イオンの解離、ヨウ素脱離などが起こり、偏光性能が低下する欠点がある。また、TACは吸水率が高く耐熱性が低いため、車載用途の液晶表示装置など、高温高湿下での過酷な条件で使用される用途では偏光板の変形を生じてしまうなど、改善の必要性がある。透湿性が低く、光学等方性に優れた透明フィルムとしては環状ポリオレフィン樹脂(以下、COP)のフィルムが知られているが、偏光膜の両面に偏光板保護フィルムを水系の接着剤を介して貼り合わされる際、水蒸気透過度が低すぎるために乾燥が不充分となり、接着不良を生じる欠点がある。
【0004】
透明性と低複屈折性が求められるフィルムの他の用途としては光情報記録媒体の保護フィルムがある。たとえば2002年に策定された次世代光情報記録媒体の統一規格(ブルーレイディスク)では、光情報記録媒体の高密度化に伴い、レーザー波長を405nmと短くし、レンズの開口数を0.85と大きく取ることで高密度化を達成している。開口数が大きいため、ピックアップレンズと情報記録再生層(以下、単に「記録層」ともいう。)との距離が現行のDVDディスクと比べて非常に近くなる。記録層を保護する保護層は、透明性接着剤層と光学等方性に優れたフィルム(光情報記録媒体保護フィルム)から成り、厚みは100μm程度を要求されている。光情報記録媒体保護フィルムには、情報の再生にレーザー光の偏光を使用するため、厚み100μm(±2μm)、波長405nmにおける面内レターデーションが5nm以下であることが求められていると言われている。現在、この光情報記録媒体保護フィルムには、ポリカーボネート(以下、PCと略記する)を流延法によってフィルム化したものが主に用いられているが、その生産性の問題からコスト高を引き起こすという課題があった。また、PCを溶融押出法により成膜する試みもあるが、光学等方性に優れたものを得ることが困難であり、ブルーレイディスク保護層を構成する光学等方性フィルムとしての性能は満たされていないのが現状である(非特許文献1参照)。一般的なブルーレイディスクの構成は、案内溝の形成された基材上に、反射層、有機色素を主成分とする記録層がこの順に成膜され、この記録層上に保護層が形成されたものである。(特許文献1参照。)
【0005】
透明性が求められるフィルムの他の用途として、タッチパネルやELバックライト、電磁干渉(EMI)シールド、ディスプレイ用電磁波シールドなどに用いられる透明導電性フィルムまたは透明導電シートがある。タッチパネルは、ワードプロセッサ、ノート型パソコン、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)、カーナビゲーションシステム等の製品に広く用いられており、液晶ディスプレイの前面に配置される。タッチパネルは、透明導電膜を形成した2枚の透明板を透明導電膜同士がスペーサーを介して対向するように配置させた構造となっており、スペーサーによって絶縁されていた両透明導電膜をパネル表面の一部を押圧することにより接触させて電気的に導通させ、座標情報などを入力できるようにしたものである。
【0006】
一般的な通常透明導電性フィルムとしてはポリエチレンテレフタレートが広く使用されているが、前述した液晶ディスプレイ用タッチパネルでは偏光を透過させて用いているために、基材となるフィルムの複屈折を制御する必要がある。このことから、これらの用途に関しては、光学等方性の高いCOPやPCのフィルムが使用されている。また、タッチパネルでの入力作業を蛍光灯などのある部屋や屋外において行うとき、透明導電膜面で外部からの光の反射があるため、表示画面のコントラストが著しく低下し、非常に見にくいという課題を解消するため、液晶ディスプレイ側から順に第1の1/4波長板、スペーサーを介して対向する2枚の透明導電膜、第2の1/4波長板、偏光板を少なくとも配置したタッチパネルが提案されている。第2の1/4波長板と偏光板とで円偏光タイプの反射防止フィルターを形成させると、外部から入射した光の透明導電膜での反射を効率よく抑制できる(例えば特許文献2参照)。このような構成の低反射タッチパネルでは、液晶ディスプレイ側の透明導電膜は、通常、ガラス板の上にインジウム−チン−オキサイド(以下、ITOと略記)などの透明導電膜が成膜されているのに対して、液晶ディスプレイ側でない方の透明導電膜は、光学等方性フィルムを基材として、その上にITOなどの透明導電膜を成膜したものが用いられていたり、第2の1/4波長板に直接成膜されているものを用いたりする。この1/4波長板はCOPやPCなどからなる光学等方性フィルムを、延伸などの方法により光学異方性を生じさせて位相差フィルムとしたものが使用されている。
【0007】
透明性や低複屈折性に優れた高分子素材としてはポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂が知られており、これらから得られるフィルムは透明性に優れ、光学等方性にも優れると考えられるが、機械強度が低いため、厚みの薄いフィルムでは割れやすく、厚みの厚いフィルムやシートであっても実装時の欠けなどが問題となり、実用性にかける場合がある。この機械強度は延伸によりある程度改良できることが一般的に知られている(非特許文献2参照)が、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂では、耐熱性が必ずしも十分でなく、使用環境によっては実用に耐えない場合があった。耐熱性の向上を目的に無水マレイン酸やマレイミド、芳香族ビニル化合物などを共重合したアクリル樹脂の延伸フィルムも開示されているが、光学物性や製造時の取り扱いなどの面で、使用が制限される場合があった(特許文献3、特許文献4参照)。
【0008】
一方、本発明者らは少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー組成物を重合して得られ、かつ、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)が1〜4である共重合体の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性透明樹脂を用いると、耐熱性に優れ、かつ光学等方性、耐光性を有する押出成形熱可塑性樹脂シートが製造できることをみいだしている(特許文献5参照)。しかし近年の部材の薄膜化の要求から、用途によっては要求される機械物性が満足できず、使用が制限される場合があった。
【非特許文献1】八幡一雄著、「光学用透明樹脂の特徴と成形加工技術および光学フィルムへの応用-ポリカーボネートフィルムの成型加工と光学用途展開-」、技術情報協会、2005年3月28日、p.1〜36
【非特許文献2】繊維学会誌Vol.50,No.3(1994)、P105−109
【特許文献1】特開2005−186607号公報
【特許文献2】特開平10−48625号公報
【特許文献3】特開平6−279546号公報
【特許文献4】特開平6−256537号公報
【特許文献5】特開2006−89713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上で述べた光学用途で用いられるフィルムに要求されている透明性、光学等方性に優れ、実用的な耐熱性と機械強度を併せ持つ延伸フィルムを提供することを目的とする。本発明の他の目的は、該延伸フィルムを用いてなる種々の光学用フィルム部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記事情に鑑み鋭意検討した結果、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー組成物を重合して得られる、特定の構成単位組成からなる共重合体の芳香族二重結合の70%以上を水素化することによって得られる熱可塑性樹脂からなるフィルムを、延伸することによって、良好な透明性と光学等方性を有し、機械強度にも優れたフィルムを得ることが出来ることを見出し、本発明に到った。
【0011】
すなわち本発明は、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー組成物を重合して得られ、かつ、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)が0.25〜4である共重合体の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性透明樹脂からなる延伸フィルムに関する。さらには該延伸フィルムを用いることを特徴とする偏光板保護フィルム、この偏光板保護フィルムを用いた偏光板、該延伸フィルムを用いることを特徴とした光記録媒体保護フィルム、光記録媒体保護フィルムを基板の記録層側表面に貼り合わせた光記録媒体、該延伸フィルムに無機導電薄膜を施した透明導電フィルム、さらに該延伸フィルムに無機導電薄膜を施した透明導電フィルムを用いることを特徴とするタッチパネルに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られる延伸フィルムは、透明性と光学等方性に優れ、実用的な耐熱性と機械強度を有しているため、高性能な光学用フィルム部材を製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の延伸フィルムは少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー組成物を重合して得られ、かつ、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)が0.25〜4である共重合体の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性透明樹脂から、原反フィルムと呼ばれる面状成形体を経由し、これを延伸することによって製造する。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキル類;(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)や(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)などの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類;(メタ)アクリル酸(2−メトキシエチル)、(メタ)アクリル酸(2−エトキシエチル)などの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル類;(メタ)アクリル酸ベンジルや(メタ)アクリル酸フェニルなどの芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル類;および2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどのリン脂質類似官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル類などをあげることができるが、物性のバランスから、メタクリル酸アルキルを単独で用いるか、あるいはメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルを併用することが好ましい。さらに、メタクリル酸メチル80〜100モル%およびアクリル酸アルキル0〜20モル%を用いることが好ましい。アクリル酸アルキルのうち、特に好ましいものはアクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルである。本発明において、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及び/またはアクリル酸を示す。
【0015】
芳香族ビニルモノマーとしては、具体的にスチレン、α―メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、およびクロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物があげられるが、スチレンが好適に用いられる。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーの重合には、公知の方法を用いることができるが、工業的にはラジカル重合による方法が簡便でよい。ラジカル重合は塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法など公知の方法を適宜選択することができる。例えば、塊状重合法や溶液重合は、モノマー、連鎖移動剤、及び重合開始剤を含むモノマー組成物を完全混合槽に連続的にフィードし、100〜180℃で重合する連続重合法などにより行われる。溶液重合法ではトルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などの溶媒を、モノマー組成物と共に重合槽にフィードする。重合後、反応液を重合槽から抜き出し、押出機や減圧槽で揮発分を除去して共重合体を得ることができる。
【0017】
メタクリル系共重合体の場合、共重合体の構成単位比は仕込みモノマー比とは必ずしも一致せず、重合反応によって実際に共重合体に取り込まれたモノマーの量によって決定される。共重合体の構成単位比は、モノマーの重合変換率が100%であれば仕込みモノマー比と一致するが、実際には50〜80%の重合変換率で製造する場合が多く、反応性の高いモノマーほどポリマーに取り込まれ易いため、モノマー仕込み比と共重合体の構成単位比に違いが生じる。このため、仕込みモノマー比を適宜調整して所望の構成単位比を得る。
【0018】
本発明で水素化反応に用いる共重合体の構成単位モル比((メタ)アクリル酸エステルモノマー単位/芳香族ビニルモノマー単位=A/B)は、0.25〜4である。0.25未満であると延伸により機械強度が向上しても実用的な強度が劣り実用に耐えない場合がある。4を超えると、水素化される芳香族二重結合が少ないため、水素化反応によるガラス転移温度の向上などの効果が不足する場合がある。よって構成単位モル比(A/B)は、物性バランスの面から、0.25〜4が好ましく、1〜4がより好ましい。最も好ましくは1〜2である。
【0019】
本発明で水素化反応に用いる共重合体の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPCまたはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)ともいう)によるポリスチレン換算で5万〜100万のものが望ましい。重量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が望ましく、成形加工性、流動性、水素化反応性の観点から100万以下が望ましい。さらに望ましくは7万〜50万、特に望ましい範囲は10万〜30万である。
【0020】
上記共重合体は、適当な溶媒に溶解して水素化反応を行う。水素化反応溶媒と重合溶媒は、同じでも良いし、異なっていても良い。水素化反応溶媒としては、水素化反応前後の共重合体及び水素に対する溶解能が高く、かつ、水素化反応に不活性な溶媒が好ましい。例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒が用いられる。
【0021】
水素化反応は、バッチ式反応や連続流通式反応などの公知の手法を用いて、3〜30MPaの水素圧、60〜250℃の反応温度で行うのが好ましい。反応温度が低すぎると反応が進行しにくく、反応温度が高すぎると分子鎖の切断による分子量の低下が起こったり、エステル部位も水素化されたりすることがある。分子鎖の切断による分子量低下を防ぎかつ円滑に反応を進行させるには、用いる触媒の種類および反応系中の濃度、共重合体の反応系中の濃度、分子量などに応じて、温度、水素圧を適宜選択することが好ましい。
【0022】
水素化反応には公知の水素化触媒を使用することができる。具体的にはニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウムなどの金属、または該金属の酸化物、塩、錯体などの化合物をカーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、珪藻土等の多孔性担体に担持した固体触媒が挙げられる。これらのなかでもニッケル、パラジウム、白金をカーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、珪藻土に担持した触媒が好ましく用いられる。担持量は、担体の0.1〜30wt%が好ましい。
【0023】
水素化率は、全芳香族二重結合の70%以上であり、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(100%を含む)である。70%未満の場合には、樹脂が白濁して透明性が低下する場合があり、ガラス転移温度の向上などの性能向上効果も小さい。また、ベンゼン環由来の固有複屈折から、フィルムの光学等方性が損なわれる場合がある。
【0024】
本発明で用いる熱可塑性透明樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以上が実用上好ましく、さらに好ましくは115℃以上である。110℃未満では、得られる延伸フィルムの耐熱性が十分でなく、用途が制限されるためである。ガラス転移温度はJIS−K7121に記載の方法で測定することができる。調湿した材料を一度ガラス転移温度よりも少なくとも30℃高い温度まで加熱し、10分間保った後、ガラス転移温度より50℃低い温度まで急冷したものを再び10℃/分で加熱し、中間点ガラス転移温度(Tmg)の値を採用する。
【0025】
本発明で用いる熱可塑性透明樹脂は、特に窒素雰囲気下での耐熱分解性に優れている。メタクリル系樹脂が押出成形などで実際に成形される260℃付近では、メタククリル系樹脂特有のジッパー分解が起こる。これは末端の二重結合が起点となり進行することが知られているが、この260℃付近での熱分解を抑えると、フィルムの外観不良や発泡などの成形不良を低減でき、また色調を悪化させることなく、安定したフィルムの製造が実現できる。耐熱分解性は熱重量分析装置を用いて評価でき、樹脂5mgを白金パン上に置き、300ml/min.の窒素気流中、260℃(±2.0℃)で3時間保持した際の重量減量変化を測定し、熱重量減少率を基準とすると、熱重量減少率が5wt%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3wt%以下、最も好ましくは2wt%以下(ゼロを含む)である。前述したとおり、本発明で用いる熱可塑性透明樹脂の水素化率は全芳香族二重結合の70%以上であるが、水素化率は耐熱分解性の発現に深く関与している。末端二重結合の水素化が芳香族二重結合の水素化よりも優先して進行するので、芳香族二重結合の水素化率が70%以上であれば、耐熱分解性が良好になる。
【0026】
本発明で用いる熱可塑性透明樹脂は、含有する異物粒子の数が極力少ないことが好ましい。異物とは、外部から混入した不純物のほか、重合体の製造工程で混入する触媒残渣、ゲル化物、副反応物など、樹脂に相溶しない物質である。光拡散剤などを添加して、あえて透過光を散乱させて使用する場合を除き、散乱光を利用しない用途においては、異物粒子の数が多いと透過光の損失が大きくなるため好ましくない。熱可塑性透明樹脂は、粒径1μm以上の異物粒子を実質上含まないことが好ましく、また、粒径が0.5μm以上で1μm未満の異物粒子の含有量が3×10個/g以下であることが好ましく、2×10個/g以下であることがより好ましい。粒径や個数は、光散乱式微粒子検出器を用いて測定される。特に高度の透明性を求められる場合は、粒径が0.5μm以上で1μm未満の異物粒子の含有量は5×10個/g以下であるのが好ましい。異物粒子の含有量を低減させる方法は特に限定されないが、熱可塑性透明樹脂の製造工程において、重合体を含有する溶液を、孔径が0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下のメンブランフィルターで、少なくとも1回以上濾過する方法や、電荷的補足機能を有する濾過フィルターで濾過する方法などを挙げることができる。また押出機から溶融吐出するストランドを冷却する工程、ペレタイジング工程、シート化(フィルム化)工程、延伸工程など、大気にさらされる工程を極力清浄な環境下で行うことにより異物粒子の含有量を低減させることができる。これらの工程の少なくとも一工程を、ISO14644−1で定めるクラス5以上の清浄度を持つ環境下で行うことが好ましい。
【0027】
本発明で用いる熱可塑性透明樹脂には、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。無機充填剤、酸化鉄等の顔料、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイルなどの軟化剤ないし可塑剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、蛍光増白剤、難燃剤、帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0028】
本発明で用いる熱可塑性透明樹脂は公知の射出成形法や溶融押出法、熱プレス法、溶液流延法などによって容易に面状成形体とすることができ、これを延伸フィルム用の原反フィルムとすることができる(以降、単に原反と呼ぶ)。生産性の観点から、特に溶融押出法が好適に用いられる。溶融押出法が用いられる場合には、中間体としての面状成形体として、原反を取り出さずに、連続的に延伸工程に供されることがある。この場合、本発明ではフィルムが実質的に延伸される直前の状態を原反と定義する。
【0029】
溶融押出法による原反の作製について更に詳述する。本発明に用いる熱可塑性透明樹脂の原反は公知の溶融押出法である、Tダイ押出法、インフレーション法などを用いることができるが、厚みむらの少ない光学等方性の原反を得るという点からはTダイ押出法を選択することが望ましい。樹脂を溶融させる装置としては一般的に用いられる押出機を使用すればよく、単軸押出機でも多軸押出機でもよい。押出機は一つ以上のベント有していても良く、ベントを減圧にして溶融している樹脂から水分や低分子物質などを除去してもよい。また、押出機の先端あるいは下流側には必要に応じて金網フィルターや焼結フィルター、ギヤポンプなどを設けても良い。Tダイには、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイ、スタックプレートダイなどの種類があり、いずれを選択することもできる。
【0030】
押出時の樹脂温度は200〜300℃である。200℃未満では樹脂の流動性が不足し、転写ロール表面の形状が転写されないため、平滑性が劣ったものとなってしまう。一方300℃を超えると、樹脂が分解し、外観不良、着色、耐熱変形性の低下、臭気による作業環境の悪化等の原因となるので好ましくない。押出時の樹脂温度は220〜280℃がさらに好ましい。押出温度が上記範囲にある場合、得られる原反の光学等方性、平滑性や透明性、色調、機械物性などが優れている。
【0031】
ダイから押出された溶融樹脂の冷却方法は従来公知の方法を用いることができるが、一般的には冷却ドラムにて冷却する。本発明に使用する熱可塑性透明樹脂は実質的に非晶性の樹脂であるため、冷却ドラムの温度は幅広く設定することが可能である。光学等方性の光学フィルムを得るには、冷却ドラムの温度は樹脂のガラス転移温度の上下30℃とするのが好ましく、さらに好ましくは樹脂のガラス転移温度の上下20℃、特に好ましくは樹脂のガラス転移温度の上下10℃とする。光学等方性の高い原反を得るには実質的に延伸されることが無いよう、装置に応じて吐出速度と引き取り速度と冷却ドラムの温度をコントロールすることが好ましい。
【0032】
延伸に供する原反の厚みは、要求性能と延伸後の厚みを勘案して自由に設定できるが、20μmから2mmの範囲であれば、均質に延伸することが出来る。また、このときの原反の波長550nmにおける面内レターデーションは10nm以下、更に好ましくは5nm以下である。厚みむらは膜厚の最大と最小の差が平均膜厚の5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0033】
本発明に用いる原反の全光線透過率は85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上である。また、ヘイズは3%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下である。
【0034】
次に、延伸法について詳述する。本発明の延伸フィルムは一軸または二軸に延伸されたフィルムであって、その製造法には特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。二軸延伸の場合は、縦横の延伸を同時もしくは逐次で実施する。例えば、溶融した樹脂をTダイまたはサーキュラーダイなどから押し出した後、テンター法やバブル法で延伸する方法が採用できる。このうち特に好ましくは、Tダイより押し出したシートをロール群の速度比により一方向に延伸した後、テンターで垂直方向延伸する逐次二軸法や、テンターで同時二軸延伸する方法である。延伸倍率は、少なくとも一方向において1.1〜5倍が好ましく、より好ましくは1.2〜3倍である。小さすぎると延伸による機械強度の向上の効果が小さいものしか得られず、大きすぎると破断しやすくなり、延伸ムラも大きくなる。延伸温度は、樹脂のガラス転移温度(Tg)より5℃高い温度からTgより40℃高い温度の範囲が適当であり、低すぎると延伸が困難となり、高すぎると樹脂の自重により均質に延伸できないため、延伸ムラの大きいものしか得られない。より好ましくはTgより10℃高い温度からTgより30℃高い温度である。延伸速度は、通常100〜5000%/分が使用される。一般に本発明で用いているような非晶性の熱可塑性樹脂の場合、延伸終了後、フィルムは速やかに冷却される。
【0035】
本発明の延伸フィルムの全光線透過率は90%以上であることが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上である。また、ヘイズは3%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下である。
【0036】
本発明の延伸フィルムに用いる熱可塑性樹脂材料は固有複屈折が小さいため、延伸により強く分子配向しても複屈折が発現しにくい。延伸後の波長550nmにおける面内レターデーションは、10nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以下である。
【0037】
<偏光板保護フィルムおよび偏光板>
本発明の偏光板保護フィルムは、延伸したフィルムから所望の大きさに切り出したものであり、偏光膜の片面または両面に必要に応じて適当な接着剤または粘着剤を介して積層して用いる。偏光膜は、自然光を入射させると直線偏光を透過する適宜なものを用いることができる。特に、光線透過率や偏光度に優れるものが好ましい。例えば、ポリビニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコールからなるフィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質をドープした後に延伸加工することにより得られる。接着剤または粘着剤は、好ましくは耐熱性および透明性の観点からアクリル系のものが望ましく、さらに好ましくは、アクリル酸エステル共重合体からなる接着剤または粘着剤が望ましい。接着剤または粘着剤としては、ポリビニルアルコール系ポリマー;シリコーン系ポリマー;ポリイソシアネート;ポリウレタン;エポキシ;ポリオレフィン;ポリエステル;ポリエーテル;塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー;合成ゴム;またはこれらのポリマーに極性基を導入した変性物などの適当なポリマーをベースポリマーとする接着剤または粘着剤が用いられる。接着剤または粘着剤には、耐久性や接着性等を向上するため、本発明の効果を損なわない範囲内でその他のポリマー、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、架橋剤、フィラー等の公知の添加剤を含有することができる。接着剤または粘着剤を偏光膜または偏光板保護フィルムに塗布する方法としては、コーターヘッドなどの従来公知の方法を用いることができ、均一な接着剤層が形成される方法であれば特に限定されるものではない。また、上記成分から成り、市販されている高透明接着剤転写テープ(フィルム状の接着剤層の両側に剥離フィルムが貼られたもの、例えば、ポラテクノ社製AD−20または、住友スリーエム社製基材なし高透明接着剤転写テープ8141)の一方の剥離フィルムを剥がして、偏光膜または偏光板保護フィルムにロールラミネーターを使って転写し、さらに片側の剥離フィルムを剥がすことで接着剤層を構成することも可能である。
【0038】
本発明の偏光板保護フィルムは、10〜200g/(m2・24hr)の水蒸気透過度を有することが好ましい。水蒸気透過度が10g/(m2・24hr)未満であると、偏光板を製造する際に偏光膜と偏光板保護フィルムとの接着不良を生じるおそれがあり、逆に200g/(m2・24hr)を越えると空気中の水分が偏光板保護フィルムを透過し、水分に弱い偏光膜が長期にわたり水分にさらされる事となり、偏光板保護の機能を発揮し難くなる。より好ましくは、水蒸気透過度は20〜120/(m2・24hr)であり、さらに好ましくは30〜100/(m2・24hr)である。
【0039】
また水蒸気透過度はフィルムの膜厚に依存し、概ね反比例するので、厚みによっても水蒸気透過度を好適な範囲に制御することも出来る。本発明の偏光板保護フィルムの厚みは、好ましくは20〜200μm、より好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは40〜100μmであり、この厚み範囲において、10〜200g/(m2・24hr)の水蒸気透過度が実現できる。
【0040】
<光情報記録媒体保護フィルムおよび光情報記録媒体>
本発明における光情報記録媒体の構成の一例について説明する。基板の材質は、特に限定はされないが、一般的にポリカーボネート樹脂が用いられ、厚みはおよそ1100μmである。本発明の延伸フィルムの原料となる熱可塑性樹脂と同じものを射出成形により成形し、基板として用いても良い。基材の上にイオンプレーティング法やスパッタリング法等の公知の薄膜形成技術により反射層および記録層を製膜する(特開2005−216365号公報、特開2005−158253号公報参照。)。一方、本発明の延伸フィルムに、透明性接着剤層を形成し、基板に製膜された記録層の上に貼り付けることによって、光情報記録媒体を作製する。
【0041】
透明性接着剤または粘着剤により構成される層を透明性接着剤層と称するが、透明性接着剤または粘着剤は、アクリル酸エステル共重合体からなる透明性接着剤または粘着剤が望ましい。その他の透明性接着剤または粘着剤としては、ポリビニルアルコール系ポリマー;シリコーン系ポリマー;ポリイソシアネート;ポリオレフィン;ポリエステル;ポリエーテル;塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー;合成ゴム;またはこれらのポリマーに極性基を導入した変性物などの適当なポリマーをベースポリマーとする透明性接着剤または粘着剤が用いられる。透明性接着剤または粘着剤には、耐久性や接着性等を向上するため、本発明の効果を損なわない範囲内でその他のポリマー、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、架橋剤、フィラー等の公知の添加剤を含有することができる。
【0042】
透明性接着剤または粘着剤を塗布する方法としては、スピンコート法や、バーコート法、フローコート法などの従来公知の方法を用いることができ、均一な透明性接着剤層が形成される方法であれば特に限定しない。また、市販されている基材なしの高透明接着剤転写テープ(フィルム状の透明性接着剤層の両側に剥離フィルムが貼られたもの)の一方の剥離フィルムを剥がして、光学等方性フィルムにロールラミネーターを使って転写し、さらに片側の剥離フィルムを剥がすことで透明性接着剤層を構成し、これを基板に貼りあわせることも可能である。このようにして製造された保護層は、光学等方性フィルムと透明性接着剤層からなり、その合計厚みが、98〜102μmとなることが望ましい。この厚み範囲内であれば、トラッキングサーボが問題なく働き、フォーカスエラーとならない。
【0043】
<透明導電性フィルムおよびタッチパネル>
本発明の透明導電性フィルムは、延伸フィルムの少なくとも片面に、透明導電膜を成膜し作製することができる。透明導電膜は、具体的には、インジウム−チン−オキサイド(ITO)やインジウム−ジンク−オキサイド、酸化錫、酸化亜鉛などを原料として、従来良く知られたスパッタリング法や蒸着法にてロールコーティング機などを用いて成膜することが出来る。均一な膜が得やすいことから、スパッタリング法がよく用いられる。基材である延伸フィルムには、あらかじめハードコートやアンダーコートを施しておいてもよい。また、スパッタにより成膜したのちにオーバーコートを施す場合もある。また、導電性ポリマーを塗布して成膜しても良い。導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン系やポリアニリン系、ポリアセチレン系のものが挙げられる。
【0044】
ハードコートないしアンダーコートはこの用途に用いられる公知のもので良い。例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を2個以上含んだ多官能重合性化合物を紫外線、電子線等の活性化エネルギー線によって重合硬化させる方法、およびシリコーン系、メラミン系、エポキシ系の架橋性樹脂原料を熱によって硬化させる方法などによって形成することができる。二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、一酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの無機酸化物の粒子を添加しても良い。ハードコートないしアンダーコートを形成するには、スピンコート法やロールコート法などの公知の方法によって基板に原料液を塗布したのち、紫外線、電子線、もしくは熱によって硬化させる。この際、塗膜を密着しやすくするために、あるいは塗膜の膜厚を調整するために原料液を種々の溶剤で希釈して用いても良い。
【0045】
本発明の透明導電性フィルムは、全光線透過率で80%以上であることが好ましく、さらに好ましくは82%以上である。比抵抗値は通常1〜8×10−4Ω・cm程度である。積層する導電膜の膜厚を変えることにより、用途に応じた表面抵抗値(Ω/□)となるよう調節することが出来るが、ITOなどの導電膜は可視光短波長域に吸収を持つため、極端に厚みを厚くすると色目が変化し、光線透過率が低くなる。このバランスをみながら導電膜の膜厚を調整すると良い。通常タッチパネルに使用される表面抵抗値は、50〜300Ω/□程度、全光線透過率は80%以上が要求されており、ITOのスパッタ蒸着では数十nm〜数百nm程度の厚みで達成できる。もちろん用途によってはこれよりも小さな表面抵抗値が求められる場合がある。
【0046】
図1に光学等方性を持ち合わせた透明導電性フィルムを用いたタッチパネルの構成の一例を示す。タッチパネルは、液晶パネル側から、第1の1/4波長板3とガラス板4とガラス板4上に成膜された第1の透明導電膜5と第1の透明導電膜5に対向配置している第2の透明導電膜8と第2の透明導電膜8が成膜された光学等方性フィルム9と第2の1/4波長板10と偏光板11からなり、第2の透明導電膜8が成膜された光学等方性フィルム9は、本発明の光学等方性を持ち合わせた透明導電性フィルムである。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例によりその範囲を限定されるものではない。なお、熱可塑性透明樹脂、原反、延伸フィルム、偏光板保護フィルム、光記録媒体保護フィルム、透明導電フィルムの評価方法は次の通りである。
【0048】
I 熱可塑性透明樹脂の評価方法
(1)共重合体中の構成単位のモル比
H―NMR(400MHz:CDCl)の測定値から計算した。
(2)水素化率
水素化反応前後のUVスペクトル測定における波長260nmの吸収の減少率により求めた。水素化反応前の樹脂の濃度Cにおける吸光度A、水素化反応後の樹脂の濃度Cにおける吸光度Aから、以下の式より算出した。
水素化率=100×[1−(A×C)/(A×C)]
(3)ガラス転移温度(Tg)
セイコー電子工業(株)製DSC220型示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、樹脂量10mg、10℃/min.の条件で測定し、中点法で算出した。
(4)全光線透過率の測定
日本電色工業製Z−SensorΣ80NDHを用いて、3.2mm厚の平板を透過法で測定した。
(5)微小異物量の測定
次に示す方法にて調整した試料を、パーティクルカウンタPacific Scientific Instruments社製HIAC ROYCO SYSTEM 8011で測定し、0.5μm以上1.0μm未満の微小異物の量をカウントした。測定試料は、得られた樹脂のペレットをあらかじめ濾過して異物を除去したイソプロピルアルコールで超音波洗浄して表面付着物を取り除き、得られた洗浄ペレットをあらかじめ異物を除去したトルエンに溶解させて5wt%の溶液を作製して測定に供した。
【0049】
II 原反、延伸フィルムの評価方法
(6)厚み
ソニーマグネスケール(株)製、デジタルマイクロメーターM−30を用いて測定し、10点の平均をフィルムの厚みとした。
(7)光学等方性(レターデーション)
日本分光(株)製分光エリプソメーター、商品名:M−220を用いて垂直入射時のレターデーション値を測定波長550nmで測定した。数値が小さいほど光学等方性が高いことを示す。
(8)引張強度および引張伸び率
引張試験機((株)東洋精機製作所製 ストログラフV1−C)を用い、チャック間隔50mm、試験速度5mm/min.で評価した。
(9)耐折強さ試験(MIT試験機法)
MIT型耐折疲労試験機((株)東洋精機製作所製)により、折り曲げ角度を中心から左右に135度、荷重9.8N、180回/分の速度で破断するまでの折曲げ回数を求めた。
【0050】
III 偏光板保護フィルムの評価方法
(10)透湿度
LYSSY AG ZLLIKON社製「L80−4005L」を用いて、JIS−K−7129に記載の方法に従い、温湿度条件40℃、90%RHで各サンプルの透湿度を測定した。
【0051】
(11)光漏れ試験
偏光板保護フィルムを接着した偏光板を10cm×10cmの大きさに2枚切り出し、温度80℃、相対湿度90%の環境に100時間放置する。その後、室内に取り出した試験片をクロスニコルに配置し、色温度5000Kのライトボックスに入れて目視により光漏れの有無を観察した。光漏れが観察されなかったものを○、光漏れがあったものを×とした。
【0052】
IV 光情報記録媒体保護フィルムの評価方法
(12)波長405nmにおけるレターデーション
日本分光(株)製分光エリプソメーター、商品名:M−220を用いて垂直入射時のレターデーション値を測定波長450nmで測定した。
(13)耐熱耐光性
所定の大きさに打ち抜いたフィルムに空気下80℃のオーブンの中で、ビーム径4.8mmφ、エネルギー密度500mW/cmとなるよう調整した波長405nm帯のレーザー光を2000時間照射した。2mmφ程度の部位に絞った測定が可能となるよう、光束絞り改造を施した紫外可視分光光度計で、レーザー光照射部分の光線透過率を測定し、波長405nmでの光線透過率を測定した。波長405nm光の透過率変化が0から0.5%未満のものを○、0.5から1.0未満のものを△、1.0%以上減少したものを×とした。
【0053】
V 透明導電フィルムの評価
(14)全光線透過率の測定
日本電色工業製Z−SensorΣ80NDHを用いて、フィルムを透過法で測定した。
(15)密着性
成膜したITO面にカッターナイフで1mm幅に碁盤目状の切り欠き(10×10)を入れ、セロハンテープを貼り付けた。セロハンテープをはがしたときに、剥離した碁盤目の個数を数えた。ゼロ個の場合をA、1〜10個の場合をB、11個以上の場合をCとした。Aであれば問題はないが、Bが実用上の限界であり、Cでは製造時に剥離が起こる場合があり、また長期使用時の品質の信頼性が欠けるため使用に耐えない。
(16)シート抵抗値
三菱化学(株)製 表面抵抗計LORESTA(MCP−T600)を用いて四端子四探針法によって測定した。
【0054】
製造例1 熱可塑性透明樹脂の製造
モノマー成分としてメタクリル酸メチル59.9モル%とスチレン39.9モル%、重合開始剤として2.1×10-3モル%のt−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノエートからなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10リットル完全混合槽に1kg/時間で連続的にフィードし、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽液面が一定となるように、底部から重合液をギヤポンプで抜き出し、150℃に維持しながら、ベント口を備えた押出機に導入して揮発分を脱揮し、ストランド状に押出し、切断してペレットとした(樹脂A)。このとき共重合体中の構成単位のモル比(A/B)は1.5であった。また、樹脂Aの16.4mgをクロロホルム15mLに溶解させ、測定した260nmの吸光度は1.093であった。
【0055】
上記、樹脂Aをジオキサンに溶解し、10wt%ジオキサン溶液を調製した。1000mLオートクレーブ装置に10wt%ジオキサン溶液を500重量部、10wt%Pd/C(NEケムキャット社製)を1重量部仕込み、水素圧10MPaで200℃、15時間保持して水素化反応した。水素を窒素で置換して約80℃まで冷却後、加圧濾過タンクに送液して循環させ、触媒の濾過を行った。さらに仕上げとして、直列に接続した2本のカートリッジ型フィルターハウジングへ送液して異物を除去した。1本目のプレフィルターとしてはPP製デプスフィルター(PTI社製ポリフロー孔径5μm)を用い、2本目の仕上げフィルターとしてPTFE製メンブランフィルター(PTI社製プロフローII孔径0.45μm)を用いた。フィルターにより触媒を除去した後、ジオキサンを加熱留去して反応液を50wt%まで濃縮した。トルエンで再び10wt%まで希釈することを繰り返して溶媒置換し、50wt%トルエン溶液を得た。これを再びベント口を備えた押出機に導入して揮発分を脱揮し、クリーンブース内でストランド状に押出し、切断して熱可塑性透明樹脂のペレットを得た(樹脂A1)。樹脂A1の62.5mgをクロロホルム5mLに溶解させ、測定した260nmの吸光度は0.521であった。前記樹脂Aの260nmの吸光度、測定試料の濃度から、水素化率は96%と計算された。
【0056】
樹脂A1の耐熱分解性を測定した。結果を第1表に示す。また、樹脂A1を用いて射出成形機(ファナック製AUTOSHOT100B)により、シリンダー温度260℃で種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第1表に示す。
【0057】
製造例2
樹脂Aの水素化反応時間を10時間に短縮した以外は製造例1と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性透明樹脂(水素化率72%、樹脂A2)を得た。樹脂A2の耐熱分解性を測定した。結果を第1表に示す。また、樹脂A2を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第1表に示す。
【0058】
製造例3
樹脂Aの水素化反応時間を3時間に短縮した以外は実施例1と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性樹脂(水素化率52%、樹脂A3)を得た。樹脂A3の耐熱分解性を測定した。結果を第1表に示す。また、樹脂A3を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第1表に示す。
【0059】
製造例4
モノマー成分としてメタクリル酸メチル80.0モル%とスチレン19.8モル%を用いた以外は製造例1と同様にして共重合体を合成した(樹脂B)。共重合体中の構成単位のモル比(A/B)は4.0であった。樹脂Bを用いた以外は実施例1と同様にして、水素化反応して熱可塑性透明樹脂を得た(樹脂B1)。水素化率は100%であった。樹脂B1の耐熱分解性を測定した。結果を第1表に示す。また、樹脂B1を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第1表に示す。
【0060】
製造例5
樹脂Bの水素化反応の時間を3時間に短縮した以外は製造例4と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性透明樹脂(水素化率76%、樹脂B2)を得た。樹脂B2の耐熱分解性を測定した。結果を第1表に示す。また、樹脂B2を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第1表に示す。
【0061】
製造例6
樹脂Bの水素化反応の時間を1.5時間に短縮した以外は製造例4と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性透明樹脂(水素化率45%、樹脂B3)を得た。樹脂B3の耐熱分解性を測定した。結果を第1表に示す。また、樹脂B3を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第1表に示す。
【0062】
製造例7
モノマー成分としてメタクリル酸メチル50.7モル%、アクリル酸メチル9.3モル%とスチレン39.8モル%を用いた以外は製造例1と同様にして共重合体を合成した(樹脂C)。共重合体中の構成単位のモル比(A/B)は1.6であった。樹脂Cを用いた以外は実施例1と同様にして、水素化反応して熱可塑性透明樹脂を得た(樹脂C1)。水素化率は97%であった。樹脂C1の耐熱分解性を測定した。結果を第2表に示す。また、樹脂C1を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第2表に示す。
【0063】
製造例8
樹脂Cの水素化反応時間を3時間に短縮した以外は製造例7と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性透明樹脂(水素化率72%、樹脂C2)を得た。樹脂C2の耐熱分解性を測定した。結果を第1表に示す。また、樹脂C2を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第1表に示す。
【0064】
製造例9
樹脂Cの水素化反応時間を1.5時間に短縮した以外は製造例7と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性透明樹脂(水素化率50%、樹脂C3)を得た。樹脂C3の耐熱分解性を測定した。結果を第2表に示す。また、樹脂C3を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第2表に示す。
【0065】
製造例10
モノマー成分としてメタクリル酸メチル20.4モル%とスチレン79.4モル%を用いた以外は製造例1と同様にして共重合体を合成した(樹脂D)。共重合体中の構成単位のモル比(A/B)は0.25であった。上記、樹脂Dを用いた以外は実施例1と同様にして、水素化反応して熱可塑性樹脂を得た(樹脂D1)。水素化率は95%であった。樹脂D1の耐熱分解性を測定した。結果を第2表に示す。また、樹脂D1を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第2表に示す。
【0066】
製造例11
樹脂Dの水素化反応時間を3時間に短縮した以外は製造例10と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性透明樹脂(水素化率70%、樹脂D2)を得た。樹脂D2の耐熱分解性を測定した。結果を第2表に示す。また、樹脂D2を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第2表に示す。
【0067】
製造例12
樹脂Dの水素化反応時間を1.5時間に短縮した以外は製造例10と同様にして、水素化率の異なる熱可塑性透明樹脂(水素化率56%、樹脂D3)を得た。樹脂D3の耐熱分解性を測定した。結果を第2表に示す。また、樹脂D3を用いて製造例1と同様にして種々の試験片を作製し、ガラス転移温度、全光線透過率、微小異物量を評価した。結果を第2表に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
製造例13
上の製造例で得られた樹脂A1を真空ベントと幅550mmコートハンガーダイの付いたスクリュー径50mmφの単軸押出機を用い、シリンダー温度を250℃、ダイ温度240℃、吐出速度30kg/hで溶融押出を行った。押出した溶融樹脂を110℃に設定した第一ロールと80℃に設定した第二ロールで冷却して3m/分で引き取り、原反フィルム(A1F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表3に示す。
【0071】
製造例14
上の製造例で得られた樹脂A2を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(A2F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表3に示す。
【0072】
製造例15
上の製造例で得られた樹脂A3を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(A3F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表3に示す。
【0073】
製造例16
上の製造例で得られた樹脂B1を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(B1F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表3に示す。
【0074】
製造例17
上の製造例で得られた樹脂B2を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(B2F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表3に示す。
【0075】
製造例18
上の製造例で得られた樹脂B3を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(B3F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表3に示す。
【0076】
製造例19
上の製造例で得られた樹脂C1を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(C1F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表4に示す。
【0077】
製造例20
上の製造例で得られた樹脂C2を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(C2F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表4に示す。
【0078】
製造例21
上の製造例で得られた樹脂C3を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(C3F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表4に示す。
【0079】
製造例22
上の製造例で得られた樹脂D1を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(D1F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表4に示す。
【0080】
製造例23
上の製造例で得られた樹脂D2を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(D2F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表4に示す。
【0081】
製造例24
上の製造例で得られた樹脂D3を用いる他は製造例13と同様にして原反フィルム(D3F)を製造した。得られた原反フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表4に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
実施例1
製造例13で得られた原反フィルム(A1F)を、東洋精機製二軸延伸機にて同時二軸延伸した。延伸温度は、樹脂のガラス転移温度より20℃高い140℃とし、余熱時間を十分に設けた。延伸速度を50cm/分、延伸倍率を縦2倍、横2倍として、延伸フィルム(A1O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表5に示す。
【0085】
実施例2
原反フィルムとしてA2Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(A2O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表5に示す。
【0086】
実施例3
原反フィルムとしてB1Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(B1O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表5に示す。
【0087】
実施例4
原反フィルムとしてB2Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(B2O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表5に示す。
【0088】
実施例5
原反フィルムとしてC1Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(C1O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表5に示す。
【0089】
実施例6
原反フィルムとしてC2Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(C2O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表5に示す。
【0090】
実施例7
原反フィルムとしてD1Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(D1O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表6に示す。
【0091】
実施例8
原反フィルムとしてD2Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(D2O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表6に示す。
【0092】
比較例1
原反フィルムとしてA3Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(A3O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表6に示す。
【0093】
比較例2
原反フィルムとしてB3Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(B3O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表6に示す。
【0094】
比較例3
原反フィルムとしてC3Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(C3O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表6に示す。
【0095】
比較例4
原反フィルムとしてD3Fを用いた以外は実施例と同様にして、延伸フィルム(D3O)を作製した。得られた延伸フィルムの厚み、レターデーション、引張強度、引張伸び率、MITの評価結果を表6に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
実施例9<偏光板保護フィルムおよび偏光板>
実施例1で作製した延伸フィルム(A1O)の中央部分から所定の大きさを切り出して、偏光板保護フィルムとした。透湿度の測定結果を表7に示す。一方、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ、クラレビニロン#7500)を用いて偏光膜を作製した。チャックにポリビニルアルコールフィルムを装着し、ヨウ素0.2g/Lとヨウ化カリウム60g/Lを含む30℃の水溶液に240秒浸漬し、次いでホウ酸70g/Lとヨウ化カリウム30g/Lを含む30℃の水溶液に浸漬した後に、6.0倍に一軸延伸しつつ5分間に渡ってホウ酸処理を行った。最後に、室温で24時間乾燥して偏光膜を作製した。次いでシリコーン系接着剤(コニシ(株)、サイレックスクリヤー)を介して、偏光膜と上記偏光板保護フィルムとを貼り合わせ偏光板を得た。得られた偏光板の光漏れ試験の結果を表7に示す。
【0099】
実施例10
実施例2で作製した延伸フィルム(A2O)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表7に示す。
【0100】
実施例11
実施例3で作製した延伸フィルム(B1O)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表7に示す。
【0101】
実施例12
実施例4で作製した延伸フィルム(B2O)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表7に示す。
【0102】
実施例13
実施例5で作製した延伸フィルム(C1O)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表7に示す。
【0103】
実施例14
実施例6で作製した延伸フィルム(C2O)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表7に示す。
【0104】
実施例15
実施例7で作製した延伸フィルム(D1O)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表8に示す。
【0105】
実施例16
実施例8で作製した延伸フィルム(D2O)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表8に示す。
【0106】
比較例5
トリアセチルセルロース製キャストフィルム(TAC)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表8に示す。
【0107】
比較例6
ポリカーボネート製押出フィルム(PC)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表8に示す。
【0108】
比較例7
ポリエチレンテレフタレート樹脂製押出フィルム(PET)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表8に示す。
【0109】
比較例8
環状ポリオレフィン樹脂製押出フィルム(COP)を用いた以外は実施例9と同様にして、偏光板保護フィルムおよび偏光板を作製した。透湿度の測定結果、偏光板の光漏れ試験の結果を表8に示す。サンプル中央部分に光漏れは生じていなかったものの、試験後のサンプルは端部が部分的に剥離していた。
【0110】
【表7】

【0111】
【表8】

【0112】
実施例17<光情報記録媒体用保護フィルム>
実施例1で作成した延伸フィルム(A1O)の波長405nmにおけるレターデーションを測定した。またフィルムに空気下80℃のオーブンの中で、ビーム径4.8mmφ、エネルギー密度500mW/cmとなるよう調整した波長405nm帯のレーザー光を2000時間照射した。紫外可視分光光度計で、レーザー光照射部分の光線透過率を測定し、波長405nmでの光線透過率変化量から耐熱耐光性を評価した。結果を第9表に示す。
【0113】
実施例18
実施例2で作成した延伸フィルム(A2O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第9表に示す。
【0114】
実施例19
実施例3で作成した延伸フィルム(B1O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第9表に示す。
【0115】
実施例20
実施例4で作成した延伸フィルム(B2O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第9表に示す。
【0116】
実施例21
実施例5で作成した延伸フィルム(C1O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第9表に示す。
【0117】
実施例22
実施例6で作成した延伸フィルム(C2O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第9表に示す。
【0118】
実施例23
実施例7で作成した延伸フィルム(D1O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第10表に示す。
【0119】
実施例24
実施例8で作成した延伸フィルム(D2O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第10表に示す。
【0120】
比較例9
実施例8で作成した延伸フィルム(D2O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第10表に示す。
【0121】
比較例9
比較例1で作成した延伸フィルム(A3O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第10表に示す。
【0122】
比較例10
比較例2で作成した延伸フィルム(B3O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第10表に示す。
【0123】
比較例11
比較例3で作成した延伸フィルム(C3O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第10表に示す。
【0124】
比較例12
比較例4で作成した延伸フィルム(D3O)を用いた以外は実施例17と同様にして波長405nmでのレターデーションおよび耐熱耐光性を評価した。結果を第10表に示す。
【0125】
【表9】

【0126】
【表10】

【0127】
実施例25<光情報記録媒体>
射出成形により形成された厚み1.1mmのポリカーボネート樹脂円形基板上にスパッタリング法により薄膜の反射層および記録層を製膜した。反射膜としてAgを、記録層として、ZiS−SiO2誘電体膜/Ge−Sb−Te記録膜/ZiS−SiO2誘電体膜の順番で成膜を行った。成膜後、レーザー光照射による熱処理で膜を全面結晶化し初期化を行った。次いで、実施例で作製した延伸フィルムに透明接着剤からなる高透明接着剤転写テープをロールラミネーターにより転写し、得られた積層体を外径119.4mmφ、内径22.5mmφの同心円ドーナツ状に打ち抜いた。透明性接着剤が付いた光学フィルムを基材上に製膜された記録層の上にロールラミネーターにより貼り付けし、光情報記録媒体を製造した。
【0128】
波長405nm、開口数0.65の青紫色レーザーヘッドを有する評価機器にて記録再生した結果、エラーなくピットを読み取ることができた。本発明の延伸フィルムは透明性に優れ、かつ、レターデーション値が小さい。特に、波長405nmにおける垂直入射に対してのレターデーション値は、いずれもブルーレイディスクの要請値である5nm以下が達成されているうえ、強い出力のレーザーを長時間照射しても光線透過率の変化が少ない。
【0129】
実施例26<透明導電フィルム>
実施例1で作製した延伸フィルム(A1O)にハードコートを施した後、インジウム酸化物95wt%とスズ酸化物5wt%からなるターゲットを用いて、アルゴン/酸素=98.5/1.5の体積比の混合ガスを導入、スパッタリング圧力0.3Paにて基板温度が80℃を超えないよう制御しながらスパッタリングを行なった。得られたITO薄膜の膜厚は80nmであり、表面抵抗値は48Ω/□であった。ITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表11に示す。
【0130】
実施例27
実施例2で作製した延伸フィルム(A2O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表11に示す。
【0131】
実施例28
実施例3で作製した延伸フィルム(B1O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表11に示す。
【0132】
実施例29
実施例4で作製した延伸フィルム(B2O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表11に示す。
【0133】
実施例30
実施例5で作製した延伸フィルム(C1O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表11に示す。
【0134】
実施例31
実施例6で作製した延伸フィルム(C2O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表11に示す。
【0135】
実施例32
実施例7で作製した延伸フィルム(D1O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表12に示す。
【0136】
実施例33
実施例8で作製した延伸フィルム(D2O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表12に示す。
【0137】
比較例13
比較例1で作製した延伸フィルム(A3O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表12に示す。
【0138】
比較例14
比較例2で作製した延伸フィルム(B3O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表12に示す。
【0139】
比較例15
比較例3で作製した延伸フィルム(C3O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表12に示す。
【0140】
比較例4
比較例11で作製した延伸フィルム(D3O)を用いた以外は実施例26と同様にしてスパッタリングを行なった。得られたITO付き透明導電フィルムの全光線透過率、密着性、および表面抵抗値の測定結果を表12に示す。
【0141】
【表11】

【0142】
【表12】

【0143】
上記実施例では、いずれも良好な導電性を有するフィルムが得られたが、比較例のフィルムを用いた場合では透明性が低いため、透明用途では使用が制限される結果となった。
【0144】
実施例34<タッチパネル>
実施例32で得られた透明導電フィルムの中央部分から所定の大きさのフィルムを切り出して、銀印刷を施し、図1に示すタッチパネルを構成した。本発明の透明導電性フィルムは、図1の8、第2の透明導電膜と図1の9、光学等方性フィルムの合わせものに相当する。液晶パネルに表示されるパターンは色むらなく観察され、視認性は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明のタッチパネルの構成例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー組成物を重合して得られ、かつ、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)が0.25〜4である共重合体の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性透明樹脂からなる延伸フィルム。
【請求項2】
溶融押出法により面状成形体に成形される工程と、少なくとも1軸の延伸工程を経て得られる請求項1に記載の延伸フィルムであって、全光線透過率が90%以上、波長550nmにおける面内レターデーションが10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
請求項1ないし2に記載の延伸フィルムを用いた偏光板保護フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の偏光板保護フィルムを用いることを特徴とした偏光板。
【請求項5】
請求項1ないし2に記載の延伸フィルムを用いた光情報記録媒体用保護フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の光情報記録媒体用保護フィルムを基板の記録層側表面に貼り合わせた光情報記録媒体。
【請求項7】
請求項1ないし2に記載の延伸フィルムを基材とし、少なくとも片側の面に無機導電薄膜を施した透明導電フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の透明導電フィルムを用いることを特徴とするタッチパネル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−115314(P2008−115314A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301392(P2006−301392)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】