説明

弁輪移植片を送達および固定するための膨張式最小侵襲システム

弁輪移植片用送達装置は、バルーン拡張機構および調整可能な寸法を有する弁輪移植片を備えている。バルーン拡張機構は、トロカールから半径方向に延在しているトラスによって支持された非閉塞バルーンカラーに取り付けられた膨張管を備えている。弁輪移植片は、柔軟なリングコアと、連続的コイルスペーサと、係留ブロックと、をさらに備えている。柔軟なリングコアは、締付け機構を介して調整されるようになっている。係留ブロックは、連続的コイルスペーサによって、リングコアに沿って互いに離間しており、これによって、リングコアの直径が装置ユーザによって操作されるとき、各対の係留ブロック間の距離が等距離に保たれることになる。弁輪移植片は、トロカール内に収容されたガンバレル要素を備えていてもよい。各ガンバレル要素は、取付け要素を弁輪移植片および弁輪組織内に押し込むガンバレルプッシャーを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2009年2月9日に出願された米国仮出願第61/151,061号の優先権を主張するものであり、この出願は、参照することによって、その全体がここに明示的に含まれるものとする。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、一般的に、移植可能な装置の送達に関し、さらに詳細には、弁輪の内周を制御する弁輪移植片を送達および固定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
哺乳類体内の解剖学的構造の多くは、組織の壁が弁輪を画定している中空通路であり、該中空通路は、血液、他の生理学的流体、栄養物、または構造内を通過する廃棄物用の導管として機能している。多くの生理学的環境において、大きすぎるかまたは小さすぎる構造的弁輪に起因して、機能障害が生じることがある。このような場合の殆どにおいて、弁輪の大きさを介入によって変化させることで、機能障害を軽減させることができる。
【0004】
従って、外科手術では、弁輪または孔の大きさを縮小して、所望の生理学的な効果を達成するために、該弁輪または他の開口した解剖学的構造の内周を縮小することがしばしば必要とされている。多くの場合、このような外科手術は、弁輪または解剖学的構造を通る血液、他の生理液、または他の構造的な内容物の正常な生理学的流れを中断させる必要がある。所望の効果を得るために必要とされる縮小の正確な量は、多くの場合、弁輪または解剖学的構造を通る生理学的な流れが再び開始されるまで、完全には知ることができない。従って、この縮小効果をもたらす調整可能な手段を有することによって、その移植後に正常な生理学的な流れが再び開始された後、縮小の程度をその場で変化させることができれば、有利となる。
【0005】
解剖学的管腔内の機能障害の一例として、心臓手術の領域、特に、心臓弁の修復の領域に見出されるものが挙げられる。現在、米国では、年間に約100万回の心臓切開手術が行われており、これらの手術の20%が心臓弁に関するものである。
【0006】
心臓外科手術の分野は、心臓切開手術を可能とする人工心肺の導入によって、すでに変遷されてきている。機械的なボール弁補綴物のさらなる導入によって、心臓弁膜症手術が可能になってきており、それ以来、補綴心臓弁の多くの修正および種々の形態が開発されてきている。しかし、本来の心臓弁の洗練された形態および機構と同等であることを裏付ける理想的な補綴弁が、さらに設計されねばならない。完全な補綴心臓弁を設計することが困難である結果として、自己弁の修復に関心が高まってきている。これらの成果として、機械的補綴物を用いた場合と同等の長期の耐久性が、弁下機構の保護および慢性抗凝固療法の排除に起因して良好な心室性能が得られるという追加的な利点と共に、報告されている。僧帽弁の修復は、今日、成人の心臓手術の最も急速に成長している分野の1つになってきている。
【0007】
僧帽弁の疾患は、僧帽弁に本質的に関連している弁障害と、僧帽弁に本質的に関連していないが、最終的に弁の機能に影響を及ぼす病変と、に分類することができる。しかし、これらの分類が存在しているにも関わらず、種々の病変に対する修復技術および全般的な手術アプローチの多くは、類似している。
【0008】
歴史的に、殆どの弁病変は、リウマチ性心臓疾患、連鎖球菌感染の結果によるものであり、通常、僧帽弁に影響を及ぼし、続いて、大動脈弁に影響を及ぼし、ごく稀に、肺動脈弁に影響を及ぼすことになる。感染作用の結果として、僧帽弁狭窄および大動脈狭窄が生じ、続いて、僧帽弁閉鎖不全および大動脈弁閉鎖不全が生じる。良好な抗生物質療法の出現によって、リウマチ性心臓疾患の発生は、減少しており、今日、先進国世界において、心臓弁膜疾患の発生率は、小さくなっている。リウマチ性僧帽弁狭窄症の交連切開術は、先天的心臓疾患の領域外において一般的に実施された僧帽弁修復の初期の例である。しかし、リウマチ性閉鎖不全弁の修復は、内在する弁病変および疾患が進展することによって、良好な結果が得られていない。
【0009】
リウマチ性以外の殆どの僧帽弁疾患によって、弁閉鎖不全が生じるが、この弁閉鎖不全は、一般的に修復に適している。腱索の破断は、僧帽弁閉鎖不全の一般的な原因であり、その結果として、逆流の集中域が生じる。古典的には、最初に成功例として認められた外科修復の1つが、僧帽弁後尖の破断した腱索のための修復であった。この修復の技術的な実現可能性、その再現性のある良好な結果、およびその長期の耐久性によって、僧帽弁修復の分野における先駆的な外科医が、他の弁病変の修復を試みるようになった。
【0010】
僧帽弁逸脱は、時間の経過と共に弁閉鎖不全をもたらす極めて一般的な疾患である。この疾患では、前尖および後尖の接合平面が、正常な弁に対して「心房化(atrialized)」されている。この問題は、接合平面を心室に戻すことによって、容易に修復することができる。
【0011】
左心室内の乳頭筋が、僧帽弁を支えており、その機能を補助している。乳頭筋の機能不全は、冠状動脈の疾患による梗塞または虚血のいずれによるかを問わず、多くの場合、(一般的に虚血性僧帽弁閉鎖不全と呼ばれている)僧帽弁閉鎖不全をもたらすことになる。僧帽弁疾患の範囲内において、これは、弁修復の最も急速に成長している領域である。歴史的には、過酷な僧帽弁閉鎖不全を患っている患者のみが修復または置換されてきているが、虚血性僧帽弁閉鎖不全に起因する中程度の機能不全を患っている患者の弁修復を支援する外科文献が増えてきている。この患者母集団における早期の悪性弁修復が、生存を高め、長期の心室機能を改良することが分かっている。
【0012】
さらに、拡張型心筋症の患者の場合、僧帽弁閉鎖不全の原因は、拡張した心室からの弁尖が互いに接合しないことである。弁尖がこのように互いに接合しないことによって、逆流が生じることになる。これらの弁を矯正し、これによって、弁閉鎖不全を修復し、心室形態を回復させ、その結果として、心室機能の全体を改良する傾向が高まってきている。
【0013】
僧帽弁修復の2つの本質的特徴は、(もし存在するなら)主要な弁病変を治療すること、および一般的にはリングまたはバンドの形態にある移植可能な装置を用いて、弁輪を支持するかまたは弁輪の寸法を縮小させることである。僧帽弁修復の問題は、心臓が完全に閉合され、患者が心肺バイパスから取り外されるまで、外科医が修復の効果を完全には評価することができないことである。いったんこの心肺バイパスの取外しが行われたなら、経食道エコー検査(TEE)を用いて、弁機能を手術室内において評価することができる。もし著しい弁閉鎖不全が残っていることが知らされたなら、外科医は、心臓を再び停止させ、心臓を再び切開し、次いで、弁を再修復または再置換しなければならない。これによって、手術用全身麻酔の時間およびバイパス時間が増すので、全般的な手術の危険性が高まることになる。
【0014】
もし弁輪を縮小させるために用いられる移植片が理想の大きさよりも大きい場合、僧帽弁閉鎖不全が存続する可能性がある。もし移植片が小さすぎる場合、僧帽弁狭窄が生じる可能性がある。従って、最適な弁の十分性および機能を達成するために、外科医が、TEEの案内または他の診断モダリティに基づいて、鼓動している心臓において弁輪寸法をその場で調整することを可能にする調整可能な移植片が必要とされている。
【0015】
心臓外科手術は、解剖学的開口の弁輪寸法をその場で調整することが望ましい処置の一例である。他の例は、胃腸外科手術の分野に見出される。この分野では、胃から食道への逆流の軽減を目的として胃−食道接合部を狭くするために、ニッセン噴門形成術が長い間用いられてきている。この処置では、外科医は、通常、逆流制御を達成するために十分に縮小化させることと、食道から胃への栄養分の通過を妨げる可能性のある過剰な縮小化を避けることと、の間の釣合に悩まされることになる。げっぷをできなくする「鼓腸(gas bloat)」も、胃−食道接合部の過剰な縮小化の一般的な合併症である。ここでも、食道と胃の接合部を狭くする程度をその場で調整し、これら2つの競合する関係間で最適なバランスを達成することのできる方法および装置を有することが望ましい。
【0016】
解剖学的空間を狭くする改良を必要とする外科手術の他の例は、肥満管理に用いられる胃バイパスに対するものである。このような手術では、その目標は、より少ない食料消費によってより早く飽食信号の生成を刺激するために、食道に隣接する有効な胃の大きさを縮小することである。先行技術は、上腹部に袋を形成するために、互いに向き合った胃壁の線を外から縫合するかまたはステープル留めすることを含んでいる。この外科手法は、袋の大きさの術後調整ができないことに加えて、胃の外部および(必要なアンビルによってステープル留めする場合には)胃の両側にアクセスするために、侵襲手術が必要であるという欠点を有している。代替的な先行技術による胃バイパスの試みは、胃をより小さい区画に圧縮するために、膨張可能なラップバンドまたはエンジェルチック(Angel Chick)補綴リングによって、胃を取り囲むことを含んでいる。これらの技術も、組織の締付けの結果として壊死が生じる傾向が高いことに加えて、バンドを外部から胃に施す侵襲外科手術を必要とするという欠点がある。
【0017】
体内通路の内周をその場で調整する課題とは別に、内科および外科において、移植可能な装置を所望の解剖学的受容部位に配置することが、必要とされることが多い。例えば、経皮的な僧帽弁修復のために提案されている既存の方法は、僧帽弁前尖を僧帽弁後尖に取り付けるために、冠状静脈洞処置または皮下的処置のいずれかを介するアプローチを含んでいる。これらの既存の技術は、いずれも、著しい臨床的問題および後方支援問題を有している。冠状静脈洞手術の場合、冠状静脈洞への経皮的なアクセスは、技術的に困難であり、達成するのに多くの時間が掛かる。実際、手術において、冠状静脈洞に適切にアクセスするのに数時間を必要とすることがある。さらに、これらの手術は、不完全な環状リングを用いているが、このような環状リングは、生理学的な効果を低下させることになる。さらに、冠状静脈アプローチは、僧帽弁の疾患した弁輪組織、特に、後方弁輪の矯正に対処することができない。このような手術は、通常、2以上の臨床的重症度分類の僧帽弁逆流を改善するのに、効果的ではない。最後に、冠状静脈洞手術は、冠状静脈洞の致命的な亀裂または壊滅的な血栓形成のいずれかを生じさせる悲惨なリスクをもたらす可能性がある。
【0018】
同様に、僧帽弁前尖を僧帽弁後尖に固定するために、縫合糸、クリップまたは他の装置を用いる経皮的手術も、修復能力に制限がある。また、このような手術は、通常、僧帽弁逆流を完全に修復させるのに、効果がない。また、これらの手術は、虚血性心臓疾患における拡張した僧帽弁輪の病態生理に対処することができない。解剖学的病状が残存する結果として、これらの手術によって、弁輪修復、心室が再造形される可能性、すなわち、心室機能が改善される可能性は、低いものとなる。
【0019】
従って、このような例示的な状況において切開外科手術を必要とすることなく、経皮的手術または他の最小侵襲手術によって、このような弁輪の直径を縮小させるための補綴移植片の送達、配置、および調整を可能にすると共に、これらの同じ課題を達成するための最善の切開外科手術の成果と少なくとも同等の臨床的かつ生理学的成果を達成することができる、送達システムおよびその使用方法が必要とされている。さらに、経皮的または他の最小侵襲手術によって、このような移植片を所望の解剖学的受容部位に遠隔的に取り付けることができるシステムが必要とされている。
【0020】
オペレータの視覚的および/または物理的知覚によって、正確な配置箇所を見つけ出す確実性を改良することができる移植片送達システムおよび方法が必要とされている。移植片の送達形状に適合するように弁輪組織を再形成し、適切な取付けが得られるように移植片に安定して接触することを確実にすることができる、改良された送達システムが必要とされている。さらに、目標組織に対して互いに向き合った力を必要とする縫合糸またはステープルの手動による配置を行うことなく、移植片を隣接する組織に取り付けるための最小侵襲送達システムを提供することが必要とされている。
【0021】
前述したように、先の心臓の適用例は、このような送達システムが望まれる単なる例示にすぎない。他の例示的な用途は、胃腸外科手術の分野に見られる。この分野では、胃から食道への逆流の軽減を目的として胃−食道接合部を狭くするために、前述のニッセン噴門形成術が長い間用いられてきている。病的な肥満を治療するための胃バイパス手術は、改良を必要とする他の分野である。内科および外科の広い分野において多くの他の有力な用途がある。見込まれている他の有力な用途の例として、とりわけ、尿失禁、吻合部狭窄、動脈狭窄、頸管無力症、管狭窄、および便失禁の治療に用いられる調整可能な移植片が挙げられる。
【発明の概要】
【0022】
弁輪の内周または形状を制御する弁輪移植片を送達および固定するための装置および方法が、本発明によって提供されている。また、本発明は、視覚的および/または物理的な情報をオペレータにもたらすことによって、装置の好ましい組織配置箇所を見つけ出す確実性を改良することができる装置および方法も提供している。本発明は、縫合糸を用いることなく、移植片を隣接する組織に取り付けるための最小侵襲送達システムをもたらす装置および方法を提供している。本発明のこれらおよび多くの他の利点および特徴は、好ましい実施形態の明細書を読めば、当業者には明らかになるだろう。
【0023】
一態様では、本発明の装置は、非閉塞膨張バルーン、バルーン拡張機構、バルーン拡張機構上に配置された調整可能な寸法を有する弁輪移植片を備えている、弁輪移植片用送達装置を提供している。バルーン拡張機構は、トロカールから半径方向に延在している複数のトラスによって支持された非閉塞バルーンカラーに取り付けられた膨張管を備えている。弁輪移植片は、非閉塞バルーンカラーの周囲に取外し可能に取り付けられた調整可能な寸法を有している。非閉塞バルーンカラーは、バルーンが膨張したときに血液が継続して弁輪内を流れるように、意図的に中空または管状になっている。
【0024】
バルーンカラーは、その萎縮姿勢で修復を必要とする弁輪内に挿入され、次いで、膨張されるとよい。代替的に、バルーンカラーは、弁輪の外側で部分的または完全に拡張される形状に予め膨張され、次いで、弁輪内に進入されてもよい。
【0025】
弁輪移植片は、その拡張および収縮がバルーンの拡張および収縮によって制御されるように、バルーンカラーの周囲に配置されるとよい。代替的に、弁輪移植片は、バルーンカラーが弁輪内に適切に位置決めされた後に独立して導入され、膨張したバルーンの形状を利用して送達されてもよい。弁輪移植片の適切な配置の視覚的な確認が、例えば、心エコー検査またはX線透視法および装置上の放射線不透過性マークによって、行われてもよい。
【0026】
弁輪が解剖学的弁、例えば、僧帽弁を備えている好ましい実施形態では、機械的な逆止弁が送達装置内に組み入れられていてもよい。逆止弁は、バルーンカラーが膨張し、生物学的弁が開いた状態で保持され、機能を果たしていない間、一時的に生物学的弁の機能を代わって果たすものである。逆止弁は、当技術分野において知られている僧帽弁補綴装置と同様の単弁尖設計、双弁尖設計、またはボール/ケージ設計とすることができる。
【0027】
他の好ましい態様では、柔軟なリングコア、連続的コイルスペーサ、および係留ブロックを備えている柔軟な弁輪移植片を送達および固定するための装置が提供されている。リングコアおよびコイルスペーサは、保護シース内に封入されていてもよい。係留ブロックは、連続的コイルスペーサによってリングコアに沿って互いに離間されており、これによって、リングコア直径が装置ユーザによって操作されるとき、各対の係留ブロック間の距離が所定の大きさに保たれることになる。係留ブロックは、装置操作中に、操作トロカールの先端から延在しているガンバレル要素の端に取り付けられている。これらのガンバレル要素は、以下に説明するように、移植片用の取付け要素を収容しており、トロカールの先端から延びるとき、半径方向外側に張り出すように予成形されていてもよい。
【0028】
好ましい実施形態では、リングコアは、装置の周囲に沿って延びており、締付け機構内を通っている。リングコアの両端は、締付け機構を通ると、締付けコードになり、装置のトロカール内を下から上に通っている。張り出したガンバレルおよび締付けコードによって、ユーザは、リングコアの大きさを制御することができる。張り出したガンバレル要素は、リングコア直径を拡げる傾向があり、締付け機構は、ユーザがリングコアの直径または形状を縮小させることを可能とする。装置ユーザは、トロカールの遠位端に配置された締付けコードの露出端を引っ張って、リングコアの直径を縮小することになる。装置ユーザが締付けコードへの張力を除いたとき、係止機構が、望まれない限り、リングコアが緩んで、その結果、リング直径が拡がるのを阻止するようになっている。トロカールからのガンバレル要素の拡張と締付けコードに加えられた張力の組合せによって、装置ユーザは、リングコアの大きさおよび形状を調整することができる。係止機構は、ユーザが係止を解除することができる手段を特徴として備えていてもよく、これによって、所望の結果を達成するために、リングを必要に応じて多数回再調整することが可能となる。
【0029】
いくつかの実施形態では、各ガンバレル要素は、リングコア上の係留ブロック内に固定されている。ガンバレル要素は、いったんガンバレル要素がトロカールから完全に押し出されたなら、リングを外方に拡げるように予成形されている。各ガンバレル要素は、ガンバレルプッシャーおよび中空インサートを含んでおり、これらのいずれもが、患者の体の外側に配置された制御インターフェイスを介して、装置ユーザによって作動されるようになっている。装置ユーザは、リングコアが弁輪上に正確に位置決めされていると判断したなら、各ガンバレルプッシャーを作動し、取付け要素を弁輪移植片および弁輪組織内に押し込むことになる。
【0030】
各取付け要素が展開すると、弁輪移植片は、弁輪にしっかりと取り付けられることになる。僧房弁の機能を評価するための種々のモダリティ、例えば、実時間の経食道心エコー検査、血管内心エコー検査、またはX線透視法、および心臓内心エコー検査を用いて、僧帽弁の機能に及ぼす移植片の生理学的影響を評価するとよい。装置のさらなる調整によって、弁輪移植片の位置、大きさ、および形状が変更されてもよい。いったん所望の結果が得られたなら、弁輪移植片送達装置は、後退されることになる。
【0031】
他の実施形態では、弁輪移植片を係留および/または調整するための装置が提供されている。この実施形態では、一連の保持棘が、弁輪移植片の内部と一体に形成されるかまたは固定して取り付けられており、弁輪移植片の配置、保持、および取外しを容易にするように配向されていてもよい。
【0032】
この可逆的取付け装置の例示的な実施形態は、一方向保持棘を用いている。これらの保持棘は、弁輪移植片に対して一定の接線位置に配向されている。保持棘は、端末フックをさらに備えていてもよい。このフックは、周囲弁輪内への弁輪移植片の安定した係留を可能にするものである。保持棘/端末フック装置は、拡張位置と後退位置との間で移動可能になっている。弁輪移植片に隣接して配置された移動可能なリテーナガイドは、例えば、ウォームギアを介して、保持棘の動作を制御している。後退位置では、保持棘/端末フック装置は、弁輪に係合していない。移動可能なリテーナガイドが係合すると、保持棘/端末フック装置は、弁輪移植片を介して弁輪内に延びる。端末フックが、錨のように作用し、弁輪移植片を弁輪に固定することになる。
【0033】
開示されている弁輪移植片用移送装置の他のシステム、装置、方法、特徴、および利点は、以下の図面および詳細な説明を検討すれば、当業者にとって明らかであるかまたは明らかになるだろう。このような追加的なシステム、装置、方法、特徴、および利点は、全て、明細書に含まれることが意図されており、また添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図されている。
【0034】
本発明の目的および利点は、以下の詳細な説明および好ましい実施形態を例示している添付の図面と併せて検討すれば、より好ましく理解され、さらに容易に明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A−1C】弁輪移植片送達装置の一連の概略図であって、図1Aは、ガンバレルが展開されており、バルーンカラーが萎縮している状態にある弁輪移植片送達装置の僧帽弁内への挿入を示す概略図であり、図1Bは、ガンバレルが展開されており、バルーンカラーが膨張している状態にある弁輪移植片送達装置の僧帽弁内への挿入を示す概略図であり、図1A,1Bは、リングを送達する前に、バルーンを僧帽弁輪内に位置決めし、拡張させる技術を示しており、図1Cは、予め膨張したバルーンの周囲に位置決めされたリングを示し、リングおよびバルーンを同時に僧帽弁輪内に挿入させる送達技術を説明する概略図である。
【図2】弁輪装置の移植の準備が整っている仰臥位の患者の概略図である。
【図3A−3E】図1の弁輪移植装置の非閉塞バルーンを示す一連の概略図であって、図3Aは、バルーンカラーが委縮している状態のバルーン拡張機構の三次元図であり、図3Bは、バルーンカラーが委縮している状態のバルーン拡張機構の端面図であり、図3Cは、バルーンカラーが膨張している状態のバルーン拡張機構の三次元図であり、図3Dは、バルーン拡張機構の近位−遠位図であり、図3Eは、バルーン拡張機構の他の近位−遠位図である。
【図4A−4D】柔軟なリングコアと、連続的コイルスペーサと、ガンバレル要素によって適切に位置決めされている係留ブロックと、から構成された柔軟な弁輪移植片を示す一連の概略図であって、図4Aは、柔軟な弁輪移植片の内側を示す図であり、図4Bは、柔軟な弁輪移植片の側面図であり、図4Cは、柔軟な弁輪移植片の近位−遠位図であり、図4Dは、柔軟な弁輪移植片のガンバレル/ブロックアセンブリの拡大図であり、図4Eは、ガンバレル/ブラックアセンブリの全体の拡大断面図である。
【図5A−5H】取付け要素の種々の実施形態の斜視図である。
【図6A−6E】図4A−4Cに示されている締付け機構の種々の実施形態を示す一連の図であって、図6Aは、調整中に柔軟なリングコアを適所に固定するためのベアトラップ(熊の罠)式締付け具を示す図であり、図6Bは、調整中に柔軟なリングコアを係止するためのラチェット機構を示す図であり、図6Cは、調整中に柔軟なリングコアを適所に係止するための楔−ピン締付け具を示す図であり、図6Dは、図6Cの楔−ピン締付け具の断面図であり、図6Eは、調整中に柔軟なリングコアを適所に係止するための単純なカムシステムを示す図である。
【図7A−7G】弁輪移植片の可逆性取付け装置を示す一連の図であって、図7Aは、可逆性取付け装置を含む柔軟な弁輪移植片の側面図であり、図7Bは、弁輪移植片の下側区画の内側に収容された1つの保持棘/端末フック装置を示す図であり、図7Cは、保持棘/端末フック装置が後退位置にある、可逆性取付け装置を含む柔軟な弁輪移植片の側面図であり、図7Dは、保持棘/端末フック装置が伸張位置にある、可逆性取付け装置を含む柔軟な弁輪移植片の側面図であり、図7E−7Gは、弁輪移植片の可逆性取付け装置の種々のモードを示す図であり、図7Eは、装置がカテーテル内に挿入されている位置にある、圧縮モードを示す図であり、図7Fは、弁輪移植片が弁輪の上に受動的に位置している、導入後モードを示す図であり、図7Gは、弁輪移植片が保持棘/端末フック装置を介して弁輪に取り付けられている、作動モードを示す図である。
【図8A−8D】弁輪移植片送達装置の制御インターフェイスを示す一連の図であって、図8Aは、制御インターフェイスの俯瞰図であり、図8Bは、制御インターフェイスの斜視図であり、図8Cは、制御インターフェイス、トロカール、および弁輪移植片の斜視図であり、図8Dは、制御インターフェイスの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
必要に応じて、本発明の詳細な実施形態をここに開示するが、開示される実施形態は、本発明の単なる例示にすぎず、本発明は種々の形態で実施されてもよいことを理解されたい。従って、ここに開示される特定の構造および機能的詳細は、制限的なものと解釈されるべきではなく、単に特許請求の範囲の根拠として、および本発明を事実上どのような適切な具体的構造に種々に用いてもよいことを当業者に示唆する代表的な根拠として、解釈されるべきである。
【0037】
弁輪移植片を患者の体内の弁輪に送達するのに用いられる改良された弁輪移植片送達装置が、開発されてきている。送達装置は、最小侵襲手術によって弁輪移植片を弁輪に送達するために、患者に挿入される内視鏡シース、トロカール、または他のカバー内に収容されてもよい。送達手術は、内視鏡的、経皮的、または体腔または器官内に配置された内視鏡を用いて、または経腹壁的または経胸腔的アプローチによって、行うことができる。従って、有利には、送達装置は、侵襲外科手術の必要性をなくすことに役立つものであるとよい。これによって、該送達装置は、麻酔および送達手術に必要な操作時間、ならびにこのような手術に伴う危険、患者の苦痛、手術後の回復時間を少なくするのに役立つことになる。
【0038】
弁輪の内周または形状を制御する弁輪移植片を送達および固定するための装置および方法が、本発明によって提供されている。本発明は、視覚的および/または物理的情報をオペレータにもたらすことによって、移植片の組織への配置の確実さを改良することができる装置および方法も提供している。本発明は、送達中に移植取付けの部位から意図されていない組織を除去する装置および方法を提供している。本発明は、移植片の送達形状に適合するように弁輪組織を再形成し、移植片への適切な取付けが得られるように移植片により安定して接触することを確実にすることができる、装置および方法を提供している。さらに、本発明は、追加的な遠隔手動アクセスを必要とする縫合糸または目標組織に対して互いに逆向きの力を必要とするステープルを用いることなく、移植片を隣接する組織に取り付けるための最小侵襲送達システムをもたらす装置および方法を提供している。
【0039】
従って、送達装置は、有利には、装置が弁輪に接近するにつれて、僧帽弁のような解剖学的構造を装置の経路の外に押し出し、弁輪の周囲の組織への損傷を回避するのに役立つ手段を備えている。
【0040】
装置は、有利には、移植中に弁輪の大きさおよび形状を改変する手段も備えている。送達装置は、移植片を組織に固定する前に、弁輪を弁輪移植片の形状および大きさに強制的に適合させ、これによって、正確な嵌合をもたらすための構造を備えている。装置は、所望の生理的効果を達成する手術の後、必要に応じて、弁輪の大きさおよび形状を調整かつ保持する構造をさらに備えている。
【0041】
送達装置は、有利には、心臓の拍動中または「オフポンプ」手術中、ならびに手術後、すなわち、正常な生理学的な流れが再開された時点において、弁輪移植片の形状または周囲をその場で追加的に調整する手段も備えている。これによって、送達装置は、所望の生理学的効果が達成されるまで、弁輪の形状または周囲を調整することが可能である。さらに、弁輪移植片の周囲または形状は、弁輪の大きさまたは形状の変化、または弁輪の生理学的な要求に適応するように、好ましくは経皮的に術後調整されてもよい。
【0042】
種々の実施形態では、疾患過程が弁輪の周囲または他の寸法を拡大させる傾向にある弁輪の周囲または他の寸法を内部的に調整可能に収縮または拡大する移植片を送達するために、送達装置が用いられてもよい。追加的な種々の実施形態では、疾患過程が弁輪の周囲または他の寸法を狭小または狭窄する傾向にある弁輪の周囲または他の寸法を内部的に調整可能に拡大または維持する移植片を送達するために、送達装置が用いられてもよい。本明細書において用いられる「弁輪(annulus)」という用語は、体内における任意の実質的にリング状の弁、括約筋、管腔、開口、または他の孔部を含んでいる。例示であって、制限されるものではないが、受容部位として、心臓弁、血管、胃−食道接合部近くの食道、胃袋、肛門、および頸部が挙げられる。
【0043】
一態様では、本発明の装置は、調整可能な寸法、例えば、弁輪移植片の周囲を有する弁輪移植片を備えている。本発明の送達装置の一実施形態は、バルーン拡張機構を備えている。このバルーン拡張機構によって、弁輪移植片は、非閉塞バルーンカラーに取り付けられ、カテーテルによって、弁輪に送達されるようになっている。バルーン拡張機構は、米国特許第6,872,223号、第6,619,291号、第6,217,610号、および第6,168,614号に開示されているような先行技術における他のバルーン膨張カテーテルと同様である。
【0044】
バルーンカラーは、その萎縮姿勢で挿入され、次いで、弁輪内で膨張され、弁輪移植片を拡張かつ展開させるようになっているとよく、この後、弁輪移植片は、取付け手段または係留棘によって弁輪に固定されることになる。代替的に、バルーンカラーは、所定の膨張姿勢で弁輪内に挿入されるようになっていてもよい。いったん所定の膨張姿勢のバルーンが正確に弁輪に配置されたなら、弁輪移植片が展開されることになる。弁輪移植片の適切な配置の視覚的な確認が、例えば、TEEによって行われてもよい。
【0045】
好ましい実施形態では、バルーン拡張機構は、膨張管に取り付けられた中空カテーテルを備えている。ガスまたは液体が、前記膨張管内に供給されるようになっており、非閉塞バルーンカラーが膨張管に取り付けられており、これによって、バルーンカラーを拡張させるようになっている。バルーンカラーは、バルーンカラーを支持するためにカテーテルから半径方向に延在している複数のホイール状トラスによって、支持されている。バルーンカラーは、バルーンが膨張したときに血液が継続して弁輪内に流れるように、意図的に中空または管状になっている。
【0046】
好ましい実施形態では、逆止弁が、バルーン拡張機構内に組み入れられている。逆止弁は、バルーンカラーが膨張し、僧帽弁が開き、機能を果たしていない間、一時的に僧帽弁の機能を代わって果たすものである。逆止弁は、当技術分野において知られている僧帽弁補綴装置と同様の単弁尖設計、双弁尖設計、またはボール/ケージ設計とすることができる。
【0047】
いったん弁輪移植片が弁輪内に適切に配置されたなら、バルーンカラーは、萎縮されて取り出される。このような操作は、バルーンを遠位方向に伸張させ、その半径方向寸法を短縮させることによって、例えば、捩じることによって、行われるとよい。バルーンカラーの後退中、弁尖を損傷させないように、注意を払う必要がある。
【0048】
バルーン拡張機構設計は、「アーム式(armed)」弁輪拡張機構を上回るいくつかの利点をもたらしている。まず、バルーン拡張機構は、流体圧によって操作可能であるが、これによって、この設計を蛇行状解剖学的構造および経皮的用途により適するものとすることができるのに加えて、アーム式設計に付随する幾何学的形状対負荷の問題の多くを排除することができる。第2に、バルーンは、「アーム式」機構と比較して、一般的に軟質の表面を有しているので、作動時に弁輪に対する外傷を最小限に抑えることができる。第3に、バルーン拡張機構は、拡張動作の繰返しに続いて新しい係留点を見出すために回転させることを必要とする「アーム式」設計と対照的に、弁輪の全体を一回の動作で押し拡げることができる。第4に、バルーン設計の遠位端は、弁下組織のいずれにおいても絡まることがない。
【0049】
好ましい実施形態では、柔軟なリングコア、連続的コイルスペーサ、および係留ブロックから構成された柔軟な弁輪移植片を送達および固定するための装置が提供されている。係留ブロックは、連続的コイルスペーサによって、リングコアに沿って互いに離間されており、これによって、リングコア直径が装置ユーザによって操作されるとき、各対の係留ブロック間の距離を等距離に保つことができる。この設計の結果、全周が対称的に調整されるリングが得られることになる。リングコアは、装置の周囲に沿って延びており、締付け機構内を通っている。リングコアの両端は、締付け機構内を通ると、締付けコードになり、装置のトロカール内を下から上に通っている。装置ユーザは、リングコアの直径を短縮させるために、トロカールの遠位端に配置された締付けコードの露出端を引っ張ることになる。装置ユーザが締付けコードへの張力を除いたとき、(以下、図6A〜図6Eで種々の実施形態を詳述する)締付け機構が、望まれない限り、リングコアが緩んで、その結果、リング直径が拡張することを阻止するようになっている。トロカールからのガンバレル要素の拡張および締付けコードに加えられた張力の組合せによって、装置ユーザは、リングコアの大きさを調整することができる。
【0050】
好ましい実施形態によって全周が対称的に調整されるリングが得られる一方、リングのいくつかの区域を選択的に他の区域よりも大きく縮小させる他の実施形態も可能であり、かつ使用可能である。例えば、リングの前区域および後区域のそれぞれに配置された取付けブロック間により剛性のコイルスペーサが配置されていると共に、リングの横側に沿った取付けブロック間により柔軟なコイルスペーサが配置されているリングが設計されてもよい。このリングが締付けによって閉じられると、前区域および後区域のそれぞれに沿った取付けブロック間の距離が、リングの横側に沿った互いに隣接する取付けブロック間の距離よりも緩慢に縮小することになる。この構成の効果は、開閉中、リングに対する中隔/横調整が優先されることである。
【0051】
いくつかの実施形態では、各ガンバレル要素は、リングコア上の係留ブロック内に固定されている。ガンバレル要素は、いったんトロカールから完全に押し出されたなら、リングを外方に拡げるように、予成形されている。各ガンバレル要素は、ガンバレルプッシャーおよび中空インサートを含んでおり、これらのいずれもが、(以下、図8Aおよび図8Bで詳述する)患者の体の外側に配置された制御インターフェイスを介して、装置ユーザによって作動されるようになっている。いったんリングコアが弁輪上に正確に位置決めされていると判断したなら、装置ユーザは、各ガンバレルプッシャーを作動させ、取付け要素を弁輪移植片および弁輪組織に押し込むことになる。
【0052】
ガンバレル要素、取付け要素、または弁輪移植片は、タッチダウンセンサを備えていてもよい。タッチダウンセンサは、弁輪に対する接触を検出し、各取付け点において移植片と弁輪との間に接触が生じていることを確認するものである。タッチダウンセンサは、当技術分野において知られているどのような機構、例えば、圧縮性ボタン、抵抗計、またはEKGセンサ(心電センサ)を含んでいてもよい。一実施形態では、タッチダウンセンサは、制御インターフェイスと連通するようになっている。
【0053】
各取付け要素が展開すると、弁輪移植片は、弁輪にしっかりと取り付けられることになる。僧房弁の機能を評価するための種々のモダリティ、例えば、実時間の経食道心エコー検査、血管内心エコー検査、および心臓内心エコー検査を用いて、僧帽弁の機能に及ぼす移植片の生理学的影響を評価するとよい。装置のさらなる調整によって、弁輪移植片の位置、大きさ、および形状が変更されてもよい。いったん所望の結果が得られたなら、弁輪移植片送達装置は、後退されることになる。
【0054】
調整後にリングコアを適所に係止する締付け機構の一実施形態は、中空円筒ハウジング内に位置するトラップ要素を特徴として備えている。プッシュロッドが、トラップ要素上に位置している。締付けコードが、トラップ要素の内側に位置している。静止時、トラップ要素は、トラップ要素の内側に配置されたテーパ特徴部間に挟まれた締付けコードによって、閉じられ、これによって、リングコア直径を調整することができないようになっている。しかし、もしプッシュロッドが係合すると、トラップ要素が、押し込まれ、撓んで開くことになる。トラップ要素が撓んで開くと、テーパ特徴部が上方に開き、これによって、締付けコードを自在に移動させることができる。プッシュロッドへの圧力を除くと、トラップ要素は、再閉鎖され、締付けコードを再び締め付けることになる。
【0055】
本発明による締付け機構の種々の他の実施形態では、調整手段として、ネジが切られていてもよいし、またはネジが切られていなくてもよく、ネジまたはウォームネジの作動によって係合する機構、歯付き機構、ラチェット機構、ラック・ピニオン機構、楔−ピン機構、カム状構造、またはいったん適切な大きさが決定されたなら、リングコアの所望の周囲を慎重に調整および保持することを可能にするこのような他の装置を備えていてもよい。
【0056】
他の実施形態では、弁輪移植片を係留および/または調整する装置が提供されている。この実施形態では、一連の保持棘は、弁輪移植片の内部に一体に形成されていてもよいし、または固定して取り付けられてもよく、弁輪移植片の配置、保持、および取外しを容易にするように配向されていてもよい。
【0057】
この可逆的取付け装置の例示的実施形態は、一方向保持棘を用いている。これらの保持棘は、弁輪移植片に対して、一定の接線位置に配向されている。保持棘は、端末フックをさらに備えている。このフックは、周囲弁輪内への弁輪移植片の安定した係留を可能にするものである。保持棘/端末フック装置は、拡張位置と後退位置との間で移動可能になっている。弁輪移植片に隣接して配置された移動可能なリテーナガイドが、例えば、ウォームギアを介して、保持棘の動作を制御している。後退位置では、保持棘/端末フック装置は、弁輪に係合していない。移動可能なリテーナガイドが係合すると、保持棘/端末フック装置は、弁輪移植片を通って弁輪内に延びる。端末フックは、錨のように作用し、弁輪移植片を弁輪に固定することになる。
【0058】
他の実施形態では、本発明において実施される各弁輪移植片送達装置の主制御装置として機能する装置が、提供されている。この装置、すなわち、制御インターフェイスは、患者の体の外側に配置されており、複数の取付け作動ボタンを含んでいる。取付け作動ボタンの各々は、単一の取付け要素の運動を遠隔制御することによって、単一の取付け要素を弁輪移植片および弁輪に押し込むようになっている。
【0059】
弁輪移植片送達装置は、図1〜図8に示されている例示的な非制限的実施形態を参照すれば、さらに理解されるだろう。
【0060】
弁輪移植片送達装置の一実施形態が、図1A〜図1Cに示されている。図示されている実施形態は、弁輪移植片を心臓の僧帽弁輪に送達するように設計されている。他の実施形態では、送達装置は、(部位の大きさおよび形状を変化させ、かつ外科手術後に所望の大きさおよび形状を維持することができる移植片によって軽減され得る)機能不全を生じている人体内の任意の他の弁輪用に設計されている。
【0061】
図2は、本発明の装置の一実施形態によってもたらされる僧帽弁修復のための最小侵襲手術を受ける準備が整っている仰臥位の患者50を示している。患者の胸52の右横面が、右腕54を持ち上げることによって、露出している。患者50は、外科手術に備えて、鎮痛状態にあり、麻酔されており、かつ挿管されている。右肺が委縮している。心膜を観察する内視鏡カメラを挿入するための最初の切開口が、肋骨間に作られる。心膜の一部を除去する鉗子および鋏を挿入するためのさらなる切開口が作られる。巾着縫合が左心房壁に作られ、ラメル(Ramel)によって巾着縫合部が引っ張られ、切開口が心臓の心房壁に作られる。次いで、ラメルが十分に緩められ、弁輪移植片送達装置(図示せず)が心房壁内の切開口内に進入され、次いで、ラメルが再び締め付けられることになる。
【0062】
図1A〜図1Cに示されている弁輪移植片送達装置100は、トロカール110、バルーン拡張機構112、バルーンカラー126、ガンバレル要素116、および係留ブロック118、ならびに弁輪移植片120を備えている。ガンバレル要素116および係留ブロック118の数は、変更可能である。簡単にするために、送達装置100は、10個の係留ブロック118内に係留された10本のガンバレル要素116を備えているものとして示されている。好ましい実施形態では、装置は、円形をなすように配置された2本から12本以上のガンバレル要素116を備えている。ガンバレル要素116は、受容弁輪の所望の形状に応じて、他の同様の形状、例えば、卵状、インゲン豆状、またはサドル状をなすように形付けられていてもよい。ガンバレル要素116は、金属材料、プラスチック材料、合成材料、任意の他の生体適合性材料、またはそれらの組合せであるとよい。一実施形態では、ガンバレル要素116は、チタンから作製されている。
【0063】
ガンバレル要素116のより近位側の部分は、トロカール110内に収容されている。装置の導入中、ガンバレル要素116が捩れて互いに絡まることがないように、トロカール110の内部に配置された整列ディスク142が、ガンバレル要素116を互いに隔離している。各ガンバレル要素116は、ガンバレルプッシャー(図示せず)および中空インサート(図示せず)を含んでおり、これらのいずれもが、(以下、図8Aおよび図8Bで詳述する)患者の体の外側に配置された制御インターフェイスを介して、装置ユーザによって作動されるようになっている。制御インターフェイスは、各中空インサートおよびガンバレルプッシャーの運動を遠隔制御し、取付け要素を弁輪組織内に押し込む手段をもたらすものである。
【0064】
弁輪移植片120に隣接するガンバレル要素116の部分は、移植片および組織に対する位置合せを可視化するためのエコー不透過性材料および/または放射線不透過性材料によって構成されていてもよいし、または標識化されていてもよい。代替的に、ガンバレル要素116の本体が、弁輪移植片120に隣接するガンバレル要素の部分に対して明暗を有するように、より厚いまたはより薄い材料によって構成されていてもよい。このような識別マークによって、外科医は、TEEまたは他の撮像モダリティを用いて、送達手順中に、ガンバレル要素116、従って、弁輪移植片120の位置を受容部位に対して可視化することが可能となる。
【0065】
弁輪移植片120の形状および大きさは、対象とする受容部位の解剖学的な要求に応じて選択されるべきである。ガンバレル要素116と同じように、移植片120は、丸くてもよいし、または受容弁輪の所望の形状に応じて、他の同様の形状、例えば、卵状、インゲン豆状、またはサドル状の形状を有していてもよい。「周囲」および「半径」という用語およびその修正の使用は、参照される構造、殆どの場合、移植片120が円形であることを意味していない。インゲン豆のような非円形形状の場合、「周囲」は、その形状の周囲の距離を意味するために用いられることになる。特に有用な移植片として、米国特許第7,297,150号明細書および米国特許出願第11/802,264号明細書に記載されているものが挙げられる。これらの特許は、参照することによって、その全体がここに含まれるものとする。
【0066】
弁輪移植片120の構成も、受容部位の要求に応じて選択されるべきである。移植片120は、蛇腹状であってもよいし、滑らかな表面を有していてもよい。種々の実施形態では、弁輪移植片120は、中実構造であってもよいし、管状またはそれ以外の中空構造であってもよいし、または外側部材および内側部材を有する構造であってもよい。後者の実施形態では、移植片本体の外側部材は、移植片120のカバーとして機能するようになっているとよく、また組織内成長および弁輪への生物学的な一体化を容易にし、かつ促進するように設計されているとよい。このような実施形態における外側部材は、生体適合性材料、例えば、ダクロン、PTFE、可鍛金属、他の生体適合性材料、または成形構造、織構造、または不織構造になっているこのような生体適合性材料の組合せから作製されているとよい。また、このような実施形態における外側部材は、内側部材を収容するように機能している。さらに、調整可能な内側部材または外側部材の少なくともいくつかの部分は、便疾患または膣脱の治療におけるように、変動性が機能的に有益である処置において、弁、括約筋、開口、または管腔に対して可変人工筋緊張の要素をもたらすために、弾力性を有していてもよい。
【0067】
弁輪移植片の送達中、弁輪移植片は、送達装置に固定されている。一実施形態では、弁輪移植片は、バルーンカラーに取り付けられ、(図3A〜図3Eに詳細に示されている)バルーン拡張機構を介して、弁輪に送達されるようになっている。弁輪移植片は、変形可能な材料から形成され、バルーンカラーが弁輪内で膨張され、弁輪移植片を拡張かつ展開するようになっているとよい。図3A〜図3Eに記載されているような実施形態では、バルーンカラーは、バルーン拡張機構を介して、徐々に拡張されるようになっているとよいことを理解されたい。
【0068】
図3A〜図3Eに示されているように、弁輪移植片送達装置100のバルーン拡張機構112は、液体または気体のいずれかによってバルーンカラー126を膨張させるようになっている。バルーン拡張機構112は、中空カテーテル122から構成されている。中空カテーテル122は、気体または(生理食塩水のような)液体を膨張管124内に供給し、バルーンカラー126を膨張させるようになっている。バルーンカラー126は、バルーン114が膨張したときに血液が継続して弁輪内を流れるように、意図的に中空または管状になっている。カテーテル122から半径方向に延在している複数のホイール状トラス128が、バルーン114を支持している。
【0069】
一実施形態(図3Dおよび図3E)では、逆止弁216が、バルーン拡張機構112内に組み込まれている。バルーン114が膨張し、弁尖が開いて保持され、機能を果たしていない間、逆止弁216が、一時的に僧帽弁のような解剖学的弁の機能を代わって果たすようになっている。逆止弁216は、当技術分野において知られている僧帽弁補綴装置と同じような単弁尖設計、双弁尖設計、またはボール/ケージ設計とすることができる。
【0070】
バルーンカラー126は、(図3Cに示されているように)気体または液体によって膨張すると、僧帽弁尖を圧迫する。弁尖は、心臓の側面にぴたりくっつくまで、押し広げられる。この時点で、バルーンカラー126の外面は、僧帽弁輪を押圧している。次いで、バルーンカラー126の周囲に配置された弁輪移植片120が、例えば、以下に述べる取付け手段または係留棘によって、弁輪に固定されることになる。弁輪移植片120の適切な配置の視覚的な確認が、例えば、TEEによって行われてもよい。
【0071】
好ましい実施形態では、バルーンカラー126は、円筒状または実質的に円筒状の形状を有している。他の実施形態では、バルーンカラー126は、管腔内での展開に適するどのような大きさおよび形状を有していてもよい。バルーン114は、好ましくは、柔軟な生体適合性材料から作製されている。一実施形態では、バルーン114は、極軟質から極剛性の範囲内にあるエラストマーである。好ましい実施形態では、バルーン114は、中程度の剛性のエラストマー材料から作製されている。他の実施形態では、バルーン114の膨張形状および膨張圧力は、予め定められている。本発明のバルーンを構成する材料の例として、好ましくは、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエステル、およびフルルオロポリマーが挙げられる。
【0072】
図4A〜図4Eは、ガンバレル要素116を有する柔軟な弁輪移植片120を示す一連の概略図である。弁輪移植片120のリングコア130は、ワイヤ、網組ワイヤ、または縫合糸材料から作製された柔軟材料である。リングコア130は、装置の周囲に延びており、締付け機構132内を通っている。リングコア130は、締付け機構132を通ると、個々のコード(以後、締付けコード138と呼ぶ)になり、トロカール内を下から上に通っている。
【0073】
装置ユーザは、リングコア130の直径を制御するために、トロカール110の遠位端に位置する締付けコード138の露出端を引っ張る。締付けコード138を引っ張ることによって、リングコア130の大きさが縮小する。装置ユーザが締付けコード138への張力を除いたとき、(以下、種々の実施形態を詳述する)締付け機構132によって、リングコア130が緩んで、その結果、リング直径が大きくなることが阻止されるようになっている。(以下に述べる)トロカール110からのガンバレル要素116の拡張および締付けコード138に加えられた張力の組合せによって、装置ユーザは、リングコア130の大きさを調整することができる。
【0074】
リングコア130は、ガンバレル要素116によって円形状に保持されている。ガンバレル要素116は、トロカール110内から完全に押し出されると、リングを外方に拡げるように、予成形されている。装置の導入中、ガンバレル要素116が捩れて互いに絡まることがないように、トロカール110の内部に配置された整列ディスク142が、ガンバレル要素116を互いに隔離している。各ガンバレル要素116は、ガンバレルプッシャー(図示せず)および中空インサート(図示せず)を含んでおり、これらのいずれもが、(以下、図8Aおよび図8Bで詳述する)患者の体の外側に配置された制御インターフェイスを介して、装置ユーザによって作動されるようになっている。ガンバレルプッシャーは、取付け要素144を弁輪移植片および弁輪組織内に押し込むものである。
【0075】
各ガンバレル要素116は、リングコア130上の係留ブロック118内に固定されている。各係留ブロック118は、個別のガンバレル要素116をリングコア130上の特定位置に係留している。これらの係留ブロック118は、連続的コイルスペーサ136によって互いに離間しており、これによって、リングコア130の直径が装置ユーザによって操作されたとき、各対の係留ブロック118間の距離が等距離または任意の所定距離に保たれることになる。
【0076】
各係留ブロック118は、開口を有している。この開口をリングコア130が貫通し、係留ブロック118は、リングコア130に固定され、これによって、弁輪移植片120の一部をなしている。リングコア130が弁輪上に正確に配置されると、装置ユーザは、制御インターフェイスのボタンを押し、(以下、図4Aおよび図4Bで詳述するように)弁輪移植片120を弁に取り付けることになる。特に有用なガンバレルおよびプッシャー構造は、米国特許出願第12/026,424号明細書に記載されている。この特許は、参照することによって、ここに含まれるものとする。いったん展開したなら、取付け要素144は、係留ブロック118の本体を貫通し、これによって、係留ブロック118を弁輪に固定することになる。ガンバレル要素116の中空インサート140は、取付け要素144が弁尖内に接続するのを阻止するために、またはバルーン拡張機構112と干渉するのを阻止するために、外方に傾斜している。
【0077】
外科医は、取付け要素を弁輪内に進入させる前に、ガンバレル要素116の位置を確認してもよい。弁輪移植片120の遠位側の各ガンバレル要素116の領域は、エコー不透過性材料または放射線不透過性材料によって標識化されていてもよく、これによって、外科医は、TEEまたは他の撮像モダリティを用いて、ガンバレル要素116および弁輪移植片120の位置を見ることが可能となる。
【0078】
取付け要素144は、多くの形態を有することができる。取付け要素144は、金属材料、プラスチック材料、合成材料、または任意の他の生体適合性材料、またはそれらの組合せであるとよい。一実施形態では、取付け要素144は、形状記憶合金から作製されている。好ましい実施形態では、形状記憶合金は、ニチノールである。取付け要素144の形態も、種々異なっていてもよい。取付け要素144の種々の実施形態の例が、図5A〜図5Hに示されている。緩和された位置にある取付け要素144は、図5Aに示されているように、曲線状であってもよいし、図5Bに示されているように、ループ状であってもよいし、図5Cに示されているように、コイル状であってもよいし、図5Dに示されているように、複数巻螺旋状であってもよいし、図5Eに示されているように、2巻螺旋状であってもよいし、図5Fに示されているように、棘付きロッド状であってもよいし、図5Gに示されているように、二股ロッド状であってもよいし、または図5Hに示されているように、錨状であってもよい。取付け要素144は、ピンまたはネジであってもよい。
【0079】
ガンバレル要素、取付け要素、または弁輪移植片120は、各取付け点において移植片と弁輪との間に接触が生じていることを確認するために、弁輪との接触を検出するタッチダウンセンサを備えていてもよい。タッチダウンセンサは、当技術分野において知られているどのような機構、例えば、圧縮性ボタン、抵抗計、またはEKGセンサなどを含むことができる。一実施形態では、タッチダウンセンサは、制御インターフェイスと連通している。
【0080】
図6A〜図6Eは、(図4A〜図4Cに示されている)締付け機構132の種々の実施形態を示す一連の図である。締付け機構132は、調整後、リングコア130を適所に係止するものである。(以下に詳述する)締付け機構132の種々の実施形態は、必要に応じて、ロッド/ワイヤシステムを介して、制御インターフェイス196によって制御されるようになっている。制御装置は、リングコア130の材料を一緒に引っ張るワイヤと、締付け機構132のロックを係合/解除する制御ボタンと、係止機構の近位側の箇所において余分の締付けワイヤを切断し、係止機構の近位側の箇所における余分のワイヤ、すなわち、過剰のワイヤを取り除くことができるツール(図示せず)と、から構成されている。
【0081】
(図6Aに示されている)締付け機構132の一実施形態は、中空円筒ハウジング150の内側に位置しているトラップ要素148を特徴として備えている。プッシュロッド152が、トラップ要素148上に位置している。取付け管154がプッシュロッド152を取り囲んでいる。締付けコード138が、トラップ要素148の内側に位置している。静止時では、トラップ要素148は、閉じられており、締付けコード138は、トラップ要素148の内側に配置されたテーパ付き特徴部156間に挟まれている。しかし、プッシュロッド152が係合すると、トラップ要素148は、押し下げられ、これによって、トラップ要素148が撓んで開くことになる。トラップ要素148が撓んで開くと、テーパ付き特徴部156が拡がり、締付けコード138が自在に移動可能となり、これによって、柔軟なリングコア(130)の調整が可能になる。プッシュロッド152への圧力を除くと、トラップ要素148が再閉鎖され、締付けコード138を再び締め付け、これによって、柔軟なリングコアの直径を係止することができる。リングの大きさがその所定の大きさで位置決めされた後、プッシュロッド152が上方に引っ張られ、取付け管154に配置された小片158が内方に撓み、プッシュロッド−取付け管アセンブリ152,154を自在に引っ張ることが可能である。トラップ要素148および中空円筒ハウジング150は、リングコア130を適所に係止して保持するために、締付けコード138に取り付けられて保持されている。
【0082】
締付け機構132の他の実施形態は、ラチェット状機構を含んでいる。図6Bは、ラチェット状構造を示している。この構造では、リングコア130は、2つのカラー206を貫通し、スプール208の周囲に巻き付けられている。スプール208の内部は、(図示されていない)歯付きギアホイールおよび歯に係合する爪から構成されており、これによって、リングコア130の張力を調整するようになっている。殆どのラチェット状構造と同じように、スプール208を回転させることによって、リングコア130を締付けることができ、いったんリングコア130が締め付けられると、リングコア130の回転による緩みが阻止されるようになっている。装置ユーザは、スプール208を回転させて、リングコア130を締め付けることになる。装置ユーザは、スプール208を(リングコア130を緩めるかまたは締め付けるために)いずれかの方向に回転させるために、爪を持ち上げて歯から離脱させることによって、ラチェット機構を手動によって解除することができる。この実施形態の他の変更例では、カラーは、スプールに固定して取り付けられており、リングコアを適所に係止するかまたはリングコアの周囲を調整するために、リングコアをスプールの周囲の適所に締め付けるかまたはスプールを自在に回転させるように、調整可能になっていてもよい。
【0083】
締付け機構132の他の実施形態は、楔−ピン締付けシステム(図6Cおよび図6D)を含んでいる。この実施形態は、交差配置されたピン164を有するカラー162の内側に配置されたバネ装架プッシュロッド160を特徴として備えている。締付けコード138は、バネ装荷プッシュロッド160の内部を貫通している。バネ装荷プッシュロッド160のバネ166が、締付けコード138を適所に引っ掛けかつ係止するように、交差配置されたピン164を押している、半ワッシャー168が交差取付けピン164に取り付けられている。半ワッシャーコードが半ワッシャー168に取り付けられている。装置ユーザが半ワッシャーコードを引っ張ると、半ワッシャー168が交差取付けピン164を解除し、これによって、締付けコード138の引っ掛かりが解除され、効果的にこれらの締付けコード138を解除することになる。装置ユーザが半ワッシャーコード(図示せず)を放すと、交差配置されたピン164は、その引っ掛かり位置に戻り、リングが所定寸法に係止されることになる。
【0084】
締付け機構132の他の実施形態は、単純なカムシステムを含んでいる。図6Eは、互いに向き合ったカム170の形態にある2つの移動可能な係合構造によって形成された締付け機構を示している。図6Eにおいて、カム170は、開位置、すなわち、解除位置に回転されており、締付けコード138は、自在に移動し、リングコア(図示せず)の周囲を調整することができる。カム170を係止位置、すなわち、係合位置に回転させることもでき、この場合、締付けコード138の長手方向運動が阻止され、リングコアが適所に係止されることになる。
【0085】
図7A〜図7Fは、本発明による弁輪移植片120の他の実施形態を示している。この実施形態では、弁輪移植片120の可逆性取付け装置172について詳細に説明する。一連の保持棘182が、可逆性取付け装置172の配置、保持、および取外しを容易にするように配向されている。可逆性取付け装置172は、弁輪移植片用の係留システムとして用いられてもよいし、または弁輪調整システムとして用いられてもよい。いずれの実施形態においても、保持棘182は、弁輪移植片120の内部に一体に形成されていてもよいし、または固定して取り付けられていてもよい。保持棘182は、生体適合性材料、例えば、ニチノール、ステンレス鋼、コバルト基合金、またはそれらの組合せから構成することができる。
【0086】
図7Aにさらに示されているように、弁輪移植片120の可逆性取付け装置172の例示的実施形態は、一方向性保持棘182を用いている。これらの保持棘182は、弁輪移植片120に対して一定の接線位置に配向されている。保持棘182は、その端に端末フック174をさらに備えていてもよく、これによって、弁輪移植片120を回転させることなく、周囲弁輪への弁輪移植片120の安定した係留が可能である。釣り針のような端末フック174によって、周囲組織への弁輪移植片120の着座が確実なものになる。
【0087】
弁輪移植片120は、上側区画176と、保持棘182および端末フック174を収容している下側区画178と、を含んでいる。これらの区画は、移動可能なリテーナガイド180によって互いに分割されている。移動可能なリテーナガイド180は、(以下に述べる)ウォームギアを介して保持棘182の動作を制御するものである。上側区画176は、リングコアから構成されていてもよい。下側区画178は、展開されるまで保持棘182を封入している発泡体または発泡体状材料、例えば、ポリウレタンフォーム、XPSフォーム、ストロイフォーム、またはいくつかの他の方法によって製造された発泡体から構成されているとよい。このような実施形態における(上側区画および下側区画を収容している)弁輪移植片120の外部は、生体適合性材料、例えば、ダクロン、PTFE、可鍛金属、他の生体適合性材料、または成形構造、織構造、または不織構造になっているこのような生体適合性材料の組合せから作製されているとよい。
【0088】
図7Bは、弁輪移植片120の下側区画178の内側に収容された1つの保持棘/端末フック装置182,174を示している。保持棘ハウジング184は、弁輪移植片120の下側区画178の内面の裂隙であり、展開前に保持棘182が弁輪188に係合することを阻止するものである。付加的に、保持棘ハウジング184は、弁輪188内への展開時に端末フック174のガイドとして作用するものである。端末フック制限具186が、適切な展開をもたらす位置に端末フック174を保持している。
【0089】
図7Cおよび図7Dは、弁輪移植片120の可逆性取付け装置172の実施形態を示している。この実施形態では、下側区画178は、伸長位置と後退位置との間で移動可能になっている、保持棘182および保持棘/端末フック装置182,174を備えている。図7Cに示されている後退位置では、保持棘182および保持棘/端末フック装置182,174は、弁輪に係合していない。移動可能なリテーナガイド180が図7Cの矢印の方向に引っ張られると、保持棘182および保持棘/端末フック装置182,174は、図7Dに示されているように、下側区画178を通って弁輪188内に延びる。端末フック174は、錨のように作用し、弁輪移植片120を弁輪188に固定することになる。
【0090】
図7Eおよび図7Gは、弁輪移植片の可逆性取付け装置の種々のモードを示している。図7Eは、圧縮モードを示している。このモードでは、装置は、カニューレトロカールまたはカテーテル内に挿入されている位置にある。図7Fは、挿入後展開モードを示している。このモードでは、弁輪移植片120は、弁輪188の上に受動的に位置しており、下側区画178が拡張している。図7Gは、作動モードを示している。このモードでは、弁輪移植片120は、保持棘/端末フック装置182,174を介して、弁輪188に取り付けられている。
【0091】
図7Eおよび図7Gに示されている駆動機構192は、取り付けられた第1のギアヘッド210が第2のギアヘッド212と噛み合っている機械的なウォームギアを含んでいる。第2のギアヘッド212は、スクリュードライバー状の調整要素を受け入れるように機械加工された調整ステム214に取り付けられている。本発明による種々の実施形態は、多くの形態にある調整要素を必要としている。この例では、調整要素は、調整ステム214の受入れ長孔(図示せず)に受け入れられるように機械加工された遠位先端を有する細かくコイル巻きされたワイヤとして設けられている。調整要素の遠位先端と調整ステム214との関係は、スクリュードライバービットとスクリューヘッドとの関係に機械的に類似しており、これによって、装置ユーザによって調整手段に加えられた捩れによって調整ステム214および第2のギアヘッド212の回転が生じることになる。調整ステム214および第2のギアヘッド212のこの回転によって、第1のギアヘッド210およびウォームが移動し、これによって、ウォームが一連の調整ストッパーと係合するとき、移動可能なリテーナガイド180の運動が生じることになる。調整ストッパーは、長孔、孔、戻り止め、窪み、突起、隆起した要素、または他の機械的特徴部であればよい。
【0092】
図8A〜図8Dは、弁輪移植片送達装置の主制御装置として作用する制御インターフェイス196を示している。制御インターフェイス196は、複数の取付け作動ボタン198を組み入れている。これらのボタン198の各々は、各ガンバレルプッシャーの移動を遠隔制御することによって、単一の取付け要素(図示せず)を弁輪移植片および弁輪内に押し込むものである。2ボタン式作動装置200を個別の取付け作動ボタン198に接続することによって、装置ユーザは、中空インサート(図示せず)および取付け要素(図示せず)の送達を制御することができる。装置ユーザが2ボタン式作動装置200の中空インサートボタン202を押すと、中空インサート(図示せず)が弁輪移植片を通って弁輪組織内に押し込まれるようになっている。装置ユーザが2ボタン式作動装置200のガンバレルプッシャーボタン204を押すと、ガンバレルプッシャー(図示せず)が作動され、これによって、取付け要素(図示せず)が、弁輪移植片および弁輪内に押し込まれるようになっている。もし2ボタン式作動装置200の中空インサートボタン202およびガンバレルプッシャーボタン204の両方が同時に押されると、中空インサート(図示せず)およびガンバレル要素(図示せず)が弁輪移植片および弁輪内に押し込まれることになる。
【0093】
好ましい実施形態では、中空インサートおよび取付け要素の展開は、以下の通りである。最初、ユーザは、2ボタン式作動装置200を押し、中空インサートおよびガンバレルプッシャー(図示せず)を同時に前進させる。中空インサートの先端が、弁輪組織内に進入する。この進入深さは、中空インサートの進入深さを制限するための機械的なストッパーをプッシュボタンシステム内に配置することによって、制御されるとよい。第2に、ユーザは、ボタンを押し、ガンバレルプッシャーを前進させる。ガンバレルプッシャーは、前進すると、取付け要素を中空インサートの遠位端から外に押出し、弁輪組織内に進入させる。この進入深さも、機械的ストッパーによって制御されるとよいが、おおよそ、取付け要素の長さの半分に等しい。第3に、ユーザは、ガンバレルプッシャーを取付け要素の近位端に接触させて保持しながら、中空インサートを引き出すことになる。この動作は、取付け要素を弁輪の意図されている進入深さに保持しながら、取付け要素を中空インサートから取り外すことになる。第4に、中空インサートの後退によって取付け要素の近位端が解放されると、取付け要素は、その湾曲形状に跳ね返り、係留ブロックを捕獲し、係留ブロックを弁輪に対して保持することになる。
【0094】
いったん弁輪移植片が前述した実施形態の任意の1つによって弁輪に良好に取り付けられたなら、弁輪移植片送達装置は、患者の体から取り出され、ラメル、すなわち、巾着縫合止血帯がさらに締め付けられ、縛られることになる。次いで、胸切開口が閉じられるとよい。種々の実施形態では、弁輪移植片送達装置は、弁輪移植片の調整のための再導入を可能にするように構成されているとよい。さらに、調整可能な移植片を用いる代替的方法によって、若年患者の部位の成長または他の生理学的変化および患者の要求に適応することを目的として、必要に応じて、弁輪に適合させるために、移植片の大きさの周期的な移植後調整が行われてもよい。
【0095】
本発明およびその使用方法は、内科および外科の広い分野における他の有力な用途における多くの代替的実施形態を見込んでいる。本発明によって見込まれている他の有力な用途として、とりわけ、病的肥満、尿失禁、吻合部狭窄、動脈狭窄、頸管無力症、管狭窄、および便失禁の治療に用いられる調整可能な移植片が挙げられる。先の説明は、本発明による例示的な実施形態であることを意図しており、本発明およびその使用方法をどのようにも制限するものではないと解釈されるべきである。本発明の他の特徴および実施形態は、本開示の観点から当業者には明らかであろう。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁輪移植片用送達装置において、
膨張管に接続された中空カテーテルであって、気体または液体が前記膨張管内に供給されるようになっている、中空カテーテルと、非閉塞バルーンカラーであって、前記バルーンカラーを拡張させるために前記膨張管に取り付けられており、トロカールから半径方向に延在している複数のトラスによって支持されている、非閉塞バルーンカラーと、を備えているバルーン拡張機構と、
前記非閉塞バルーンカラーの周囲に取外し可能に取り付けられた調整可能な寸法を有している弁輪移植片と、
を備えている送達装置。
【請求項2】
前記バルーンカラーは、円筒状または球状のいずれかの形状を有していることを特徴とする、請求項1に記載の送達装置。
【請求項3】
前記バルーンカラーは、管腔内で展開するのに適する任意の大きさまたは形状を有していることを特徴とする、請求項1に記載の送達装置。
【請求項4】
前記バルーンは、柔軟な生体適合性材料から作製されていることを特徴とする、請求項1に記載の送達装置。
【請求項5】
逆止弁が、前記バルーン拡張機構内に組み入れられていることを特徴とする、請求項1に記載の送達装置。
【請求項6】
前記弁輪移植片は、柔軟なリングコアを備えており、前記柔軟なリングコアは、2つの締付けコードによって調整可能になっており、
前記送達装置は、前記柔軟なリングコアに取り付けられた締付け機構を備えており、前記締付け機構は、前記締付けコードを介して、前記弁輪移植片を前記弁輪の大きさおよび形状に適合するように再形成するようになっている
ことを特徴とする、請求項1に記載の送達装置。
【請求項7】
複数のガンバレル要素であって、各ガンバレル要素が中空インサートおよびガンバレルプッシャーを含んでおり、前記ガンバレルプッシャーは、取付け要素を前記弁輪移植片および弁輪組織に押し込むようになっている、複数のガンバレル要素と、
前記弁輪移植片に取り付けられた複数の係留ブロックであって、各ガンバレル要素が対応する係留ブロックに係留されている、複数の係留ブロックと、
前記弁輪移植片に沿ってコイル状に巻かれた複数の連続的コイルスペーサであって、前記弁輪移植片の直径が操作されるときに、各コイルスペーサが各対の係留ブロックを等距離に保つようになっている、複数の連続コイルスペーサと、
前記ガンバレル要素を離脱可能に収容しているトロカールと、
前記バルーンカラーの膨張および前記取付け要素の展開のための制御機構を有している近位側制御インターフェイスと、
をさらに備えていることを特徴とする、請求項1に記載の送達装置。
【請求項8】
前記トロカールは、整列ディスクを収容しており、前記整列ディスクは、装置導入中、前記ガンバレル要素を互いに隔離させるようになっていることを特徴とする、請求項7に記載の送達装置。
【請求項9】
前記締付け機構は、
中空円筒ハウジングの内側のトラップ要素と、
前記トラップ要素に隣接するプッシュロッドであって、前記締付けコードの移動を制御するように前記トラップ要素に係合しており、これによって、前記柔軟なリングコアの調整を制御するようになっている、プッシュロッドと、
を備えていることを特徴とする、請求項6に記載の送達装置。
【請求項10】
前記締付け機構は、ラチェット機構を含んでいることを特徴とする、請求項6に記載の送達装置。
【請求項11】
前記締付け機構は、楔−ピン機構を含んでいることを特徴とする、請求項6に記載の送達装置。
【請求項12】
前記締付け機構は、カム構造を含んでいることを特徴とする、請求項6に記載の送達装置。
【請求項13】
前記弁輪移植片は、前記柔軟なリングコアを収容する上側区画と、前記弁輪移植片に一体に形成されているかまたは固定して取り付けられている一連の保持棘を含む下側区画と、を有しており、選択された保持棘が、前記弁輪組織内への前記弁輪移植片の安定した係留のための端末フックをさらに含んでおり、
前記弁輪移植片の前記下側区画と連動する移動可能なリテーナガイドが、前記一連の保持棘の拡張を制御するようになっている
ことを特徴とする、請求項6に記載の送達装置。
【請求項14】
前記下側区画は、展開前に、前記保持棘が前記弁輪に係合することを阻止する保持棘ハウジングを含んでいることを特徴とする、請求項13に記載の送達装置。
【請求項15】
前記弁輪移植片の外部は、ダクロン、PTFE、可鍛金属、他の生体適合性材料、または成形構造、織構造、または不織構造になっているこのような生体適合性材料の組合せのような生体適合性材料から作製されていることを特徴とする、請求項13に記載の送達装置。
【請求項16】
前記制御インターフェイスは、
複数の取付け作動ボタンであって、各々が、単一の取付け要素および中空インサートを前記弁輪移植片および弁輪内に押し込む能力を有している、複数の取付け作動ボタンと、
2ボタン式作動装置であって、各取付け作動ボタンに個別に接続しており、これによって、装置ユーザが前記弁輪移植片および弁輪への前記中空インサートおよび前記取付け要素の送達を制御することを可能にしている、二重ボタン作動装置と、
を備えていることを特徴とする、請求項7に記載の送達装置。
【請求項17】
可逆性取付け装置において、
弁輪移植片であって、柔軟なリングコアを収容する上側区画と、前記弁輪移植片に一体に形成されているかまたは固定して取り付けられている一連の保持棘を含む下側区画であって、選択された保持棘が、前記弁輪組織への前記弁輪移植片の安定した係留のための端末フックをさらに含んでいる、下側区画と、を有している弁輪移植片
を備えており、
前記弁輪移植片の前記下側区画と連動する移動可能なリテーナガイドが、前記一連の保持棘の拡張を制御するようになっていることを特徴とする可逆性取付け装置。
【請求項18】
前記下側区画は、展開前に、前記保持棘が前記弁輪に係合することを阻止する保持棘ハウジングを含んでいることを特徴とする、請求項17に記載の可逆性取付け装置。
【請求項19】
前記下側区画は、発泡体または発泡体状材料を含んでおり、前記保持棘は、前記リテーナガイドによって展開されるとき、前記発泡体または発泡体状材料を貫通して前記弁輪に接触するようになっていることを特徴とする、請求項17に記載の可逆性取付け装置。
【請求項20】
前記弁輪移植片の外部は、ダクロン、PTFE、可鍛金属、他の生体適合性材料、または成形構造、織構造、または不織構造になっているこのような生体適合性材料の組合せのような生体適合性材料から作製されていることを特徴とする、請求項17に記載の可逆性取付け装置。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C−7D】
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【図7E−7F−7G】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【公表番号】特表2012−517300(P2012−517300A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549319(P2011−549319)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/023546
【国際公開番号】WO2010/091383
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511177374)セント・ジュード・メディカル,カーディオロジー・ディヴィジョン,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】