説明

強化繊維基材用バインダー組成物、バインダー付き強化繊維基材、プリフォームおよび繊維強化複合材料の製造方法

【課題】
本発明は、環境調整を行うことなく長期間の貯蔵が可能であり、主剤および硬化剤の計量や混合といった事前作業が不要で作業性に優れた繊維強化複合材料のRTM成形に最適な材料システムを提供するものである。
【解決手段】
熱可塑性樹脂(A)および分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)を含むガラス転移温度が50〜120℃の組成物であって、該組成物自体には自己硬化性はないがエポキシ樹脂組成物(C)との接触により60℃以上温度で該エポキシ樹脂組成物(C)との硬化反応を開始し得る強化繊維基材用バインダー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材および船舶部材などに好適に用いられる繊維強化複合材料に関するものであり、より詳しくは、本発明は、作業性およびプロセス性に優れた繊維強化複合材料のレジン・トランスファー・モールディングによる製造方法、それに用いられるプリフォーム、該プリフォームの作製に用いられるバインダー付き強化繊維基材および強化繊維基材用バインダー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維、炭素繊維およびアラミド繊維などの強化繊維と、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂およびビスマレイミド樹脂などのマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度、剛性、耐衝撃性および耐疲労性などの機械物性に優れ、さらに耐食性に優れているため、航空機、宇宙機、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に高性能が要求される用途では、強化繊維として連続繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては炭素繊維が好適に用いられている。またマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特にエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
繊維強化複合材料は様々な方法で製造されるが、生産コスト低減のポテンシャルが高いことから、型内に配置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂組成物を注入し、加熱硬化して繊維強化複合材料を得るレジン・トランスファー・モールディング(Resin Transfer Molding、以下、RTMと略記することがある。)が、広く適用されている。
【0004】
RTMで繊維強化複合材料を製造する場合、強化繊維基材を目的とする製品と近い形状に加工したプリフォームを作製し、プリフォームを型内に設置して熱硬化性樹脂組成物を注入することが多い。
【0005】
使用する熱硬化性樹脂としては、使用直前に樹脂成分である主剤と該樹脂成分を架橋させる作用をもつ硬化剤を計量、混合して用いる、いわゆる「二液型」の熱硬化性樹脂組成物を用いることが多い(特許文献1と2参照)。この「二液型」熱硬化性樹脂組成物の利点は、主剤と硬化剤を個別に貯蔵することができるため、貯蔵環境の調整をすることなく長期間にわたって貯蔵できることであるが、計量、混合および混合時に発生した気泡の脱泡などRTMの事前作業が多く作業性が悪く、また、主剤および硬化剤の計量を間違えると硬化不良が起こり、得られた繊維強化複合材料の力学物性が著しく低下するという問題がある。
【0006】
「二液型」の熱硬化性樹脂組成物を用いる繊維強化複合材料の製造方法の作業性を改善する方法としては、主剤と硬化剤が予め混合されているいわゆる「一液型」の熱硬化性樹脂組成物を用いる方法がある(特許文献3と4参照)。しかしながら、「一液型」の熱硬化性樹脂組成物を用いる場合、常に硬化反応が進行するためにその熱硬化性樹脂組成物を貯蔵するためには、貯蔵環境を低温に調整する必要があるためコストがかかり、また、環境調整を行っても「二液型」の熱硬化性樹脂組成物のように長期間の貯蔵は困難である。
【0007】
従って、RTMにより繊維強化複合材料を成形する方法において、「二液型」の熱硬化性樹脂組成物のように貯蔵環境の調整を行うことなく長期間の貯蔵が可能で、かつ、「一液型」の熱硬化性樹脂組成物のように作業性に優れた材料システムの開発が望まれていた。
【0008】
このような材料システムを構築するためには、硬化剤成分を予め強化繊維基材に配置しておくことが有効であるが、硬化剤を基材表面に安定に配置する方法および強化繊維ストランド内まで均一に硬化させる方法がなく、実現には至っていなかった。
【特許文献1】米国特許第5688877号明細書
【特許文献2】特開平05−320480号公報
【特許文献3】米国特許第5369192号明細書
【特許文献4】米国特許第5942182号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、環境調整を行うことなく長期間の貯蔵が可能であり、主剤および硬化剤の計量や混合という事前作業が不要で作業性に優れた繊維強化複合材料のRTM成形に最適な材料システムを提供することにあり、具体的には、作業性およびプロセス性に優れた繊維強化複合材料のレジン・トランスファー・モールディングによる製造方法、それに用いられるプリフォーム、該プリフォームの作製に用いられるバインダー付き強化繊維基材および強化繊維基材用バインダー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物は、熱可塑性樹脂(A)および分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)を含むガラス転移温度が50〜120℃の樹脂組成物であって、該樹脂組成物自体には自己硬化性はないがエポキシ樹脂組成物(C)との接触により60℃以上の温度で該エポキシ樹脂組成物(C)との硬化反応を開始し得ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の好ましい態様によれば、前記の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度120〜260℃の非晶質熱可塑性樹脂であり、具体的にはポリエーテルイミドやポリエーテルスルホンが挙げられる。また、前記の熱可塑性樹脂(A)の配合量は全体の75〜95重量%である。
【0012】
また、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の好ましい態様によれば、前記の分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)としてはイミダゾール化合物が挙げられ、その複素環化合物(B)の配合量は全体の5〜25重量%である。
【0013】
更に、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の好ましい態様によれば、その強化繊維基材用バインダー組成物の形態は、平均粒子径が0.1〜200μmの範囲の粒子状形態である。
【0014】
本発明のバインダー付き強化繊維基材は、少なくとも強化繊維基材の片面に好ましくは1〜50g/mの目付で、前記の強化繊維基材用バインダー組成物を付与したシート状またはテープ状の強化繊維基材であり、好ましい態様によれば、強化繊維基材を構成する強化繊維として炭素繊維が用いられる。
【0015】
本発明のプリフォームは、前記のシート状またはテープ状のバインダー付き強化繊維基材が積層されてなり、層間に該強化繊維基材用バインダー組成物を存在させることによって形態を固定したプリフォームである。
【0016】
さらに、本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記のプリフォームに硬化剤を含まない液状エポキシ樹脂組成物を含浸させ、硬化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環境調整することなく長期間貯蔵可能であり、計量や混合という事前作業を行うことなくRTMにて繊維強化複合材料を成形することができる強化繊維基材用バインダー組成物、強化繊維基材およびプリフォームが得られ、また、得られた繊維強化複合材料は力学物性に優れるため、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材および船舶部材などの構造部材に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の繊維強化複合材料の強化繊維基材用バインダー組成物は、熱可塑性樹脂(A)および分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)を含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物自体には自己硬化性はないが後述するエポキシ樹脂組成物(C)との接触により60℃以上の温度で該エポキシ樹脂組成物(C)との硬化反応を開始することが可能な樹脂組成物であり、好ましくは60℃以上且つ100℃未満の温度で硬化反応を開始することが可能な樹脂組成物である。該樹脂組成物と該エポキシ樹脂組成物(C)との接触により開始する硬化反応を60℃未満の温度で開始する場合は反応性が高すぎるため、該エポキシ樹脂組成物(C)をプリフォームに注入するときの増粘速度が速すぎ、使用時間が短くなる。また、100℃以上の温度で硬化反応を開始する場合は反応性が低すぎるため硬化に要する時間が長くなり、コストが高くなるため好ましくない。
【0019】
硬化開始温度を測定する方法としては、JIS K 7123(1987)に従い、束示差走査熱量計(本発明においては、Pyris 1 DSC((株)パーキンエルマージャパン製、熱流束示差走査熱量測定装置)を使用)にて比熱容量を測定し、得られたDSC曲線からJIS K 0129(2005)に従って補外開始温度(発熱ピークよりも低温側のベースラインを高温側へ延長した直線と、ピークの低温側の曲線に勾配が最大となる点で引いた接線との交点の温度)を求める方法がある。
【0020】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物は、低温での加工を可能にするため、ガラス転移温度が50〜120℃であることが必要であり、好ましくはガラス転移温度は60〜100℃であり、更に好ましくは65〜90℃である。
【0021】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物のガラス転移温度が50℃より低い場合は保管中に粒子同士が融着するなどの不都合が起こる恐れがあり、また、本発明のバインダー組成物のガラス転移温度が120℃より高いと低温での加工性および繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度が低下する。
【0022】
強化繊維基材用バインダー組成物のガラス転移温度を好ましい値とするためには、熱可塑性樹脂(A)の配合量を好ましくは全体の75〜95重量%とし、より好ましくは80〜90重量%とし、分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)の配合量を好ましくは全体の5〜25重量%とし、より好ましくは10〜20重量%とすることが有効である。また、これらの熱可塑性樹脂(A)と複素環化合物(B)の配合量はエポキシ樹脂組成物の硬化性にも影響を及ぼすことがある。熱可塑性樹脂(A)の配合量が全体の75重量%未満で分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)の配合量が25重量%以上の場合、エポキシ樹脂組成物(C)と接触した場合の硬化反応速度が速すぎるため粘度の増加が早く、含浸に必要な時間低粘度を保持することができないことがある。また、熱可塑性樹脂(A)の配合量が全体の95重量%以上で分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)の配合量が5重量%未満の場合は、エポキシ樹脂組成物(C)と接触しても硬化反応を起こさず、硬化することができないことがある。
【0023】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)としては、ガラス転移温度が好ましくは120〜260℃であり、より好ましくは130〜250℃である非晶質熱可塑性樹脂を用いることができる。ガラス転移温度が120℃より低い場合は、得られた繊維強化複合材料のガラス転移温度が低くなり、構造部材として好適に用いることが難しくなることがある。また、ガラス転移温度が260℃を超える場合は、該樹脂組成物を製造するときに安価な製造方法である加熱混合を行う場合は300℃以上の温度が必要になり、分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)が熱分解する可能性がある。また、有機溶剤に熱可塑性樹脂(A)と分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)を溶解後、脱溶媒する方法もあるがコストが高くなる。
【0024】
本発明で用いられる非晶質熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレンオキシド、ポリエーテルケトンおよびポリエーテルエーテルスルホンなど、いわゆるエンジニアリング・プラスチックスに属する樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
また、かかる非晶質熱可塑性樹脂は、末端または側鎖にエポキシ樹脂と反応し得る官能基を有することが好ましく、例えば、ポリエーテルイミドや、末端水酸基のポリエーテルスルホンなどが好適に用いられる。
【0026】
本発明で用いられる分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)としては、例えば、ピペラジン誘導体、トリアゾール誘導体およびイミダゾール誘導体などを好ましく用いることができ、特にイミダゾール誘導体が耐熱性の優れた硬化物が得られるため好ましく用いられる。
【0027】
かかるイミダゾール誘導体としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリレート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリレート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジンおよびそれらのエポキシ樹脂付加反応物などが好ましく用いられ、特に2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールおよびそれらのエポキシ樹脂付加反応物などが好適である。
【0028】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物には、任意の成分として、さらに他の成分を含むことが可能である。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、非溶解性の有機粒子および無機粒子を挙げることができる。特に、有機粒子のうち、架橋ゴム粒子や非溶解性の熱可塑性樹脂粒子は、高靭性化効果を向上させるために有効である。
【0029】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の調製は、熱的に安定なため特に大きな制限がなく、様々な公知の方法が用いられる。最も経済的な方法は、強化繊維基材用バインダー組成物を構成する各成分を好適には150〜260℃程度の比較的高温で、押出機やニーダーなどを用いて混練する方法である。得られた強化繊維基材用バインダー組成物は、粉砕して粒子にしたり、口金から溶融押出することにより繊維状やフィルム状の形態に加工したりすることもできる。
【0030】
また、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の調製方法として、各成分を含む有機溶剤溶液を水中に分散させエマルジョンとし、そのエマルジョンを加熱して溶媒を揮発させ、ディスパーション(分散液、詳しくは固体粒子が液中に分散(Disperse)したもの)を調製する方法がある。ディスパーションは、そのままの状態で、該ディスパージョン中に強化繊維基材をディップさせた後に強化繊維基材から水を揮発除去する強化繊維の加工に用いることもでき、濾過して粒子を取り出し、その粒子を強化繊維基材に付与する方法にも用いることもできる。
【0031】
このように、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の形態としては、通孔を設けたフィルム、テープ、長繊維、短繊維、紡績糸、織物、ニット、不織布、網状体および粒子など各種の形態のものを採用することができる。
【0032】
例えば、強化繊維基材用バインダー組成物の形態が粒子状形態の場合、その平均粒子径はレーザー解析・散乱式粒度分布測定機((株)セイシン企業製LMS−24を用い、取り込み回数500回で測定)で測定した場合0.1〜200μmであることが好ましく、より好ましくは1〜150μmである。平均粒子径が0.1μmより小さい場合は製造が困難となり、また、平均粒子径が200μmより大きい場合はプリフォームとしたときに強化繊維にうねりが生じて繊維強化複合材料の機械物性が低下することがあり、また粒子がエポキシ樹脂組成物(C)に完全溶解あるいは膨潤しないため、系内で硬化反応が十分に進行せず、耐熱性や耐薬品性が低下するという問題が生じることがある。
【0033】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物は、強化繊維からなる強化繊維基材に付与して用いられる。
【0034】
本発明で用いられる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維および金属繊維などが挙げられ、特に計量かつ高性能な繊維強化複合材料が得られる点で、炭素繊維が好ましく用いられる。
【0035】
本発明で用いられる炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良いため、解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0036】
炭素繊維の弾性率は、成形された構造部材の特性と重量との観点から、200GPa〜400GPaの範囲であることが好ましい。弾性率がこの範囲より低いと、構造部材の剛性が不足し軽量化が不十分となる場合があり、逆に弾性率がこの範囲より高いと、一般に炭素繊維の強度が低下する傾向がある。より好ましい弾性率は、250GPa〜370GPaの範囲内であり、さらに好ましくは290GPa〜350GPaの範囲内である。
【0037】
本発明で用いられる強化繊維からなる強化繊維基材は、強化繊維単独または複数種、更には必要に応じ他の化学繊維などと組み合わせたものから成り、その形態としては、繊維方向がほぼ同方向に引き揃えられたものや、織物、編物、ブレイドおよびマット等を使用することができるが、特に、高力学物性および強化繊維の体積含有率が高い繊維強化複合材料が得られるという点で、強化繊維が実質的に一方向に配向されており、ガラス繊維または化学繊維で固定された、いわゆる一方向織物が好ましく用いられる。
【0038】
一方向織物としては、例えば、炭素繊維からなるストランドを経糸として一方向に互いに平行に配置し、それと直交するガラス繊維または化学繊維からなる緯糸とが、互いに交差して平織組織をなしたものや、炭素繊維のストランドからなる経糸とこれに平行に配列されたガラス繊維または化学繊維からなる繊維束の補助経糸と、これらと直交するように配列されたガラス繊維または化学繊維からなる緯糸からなり、該補助経糸と該緯糸が互いに交差することにより炭素繊維ストランドが一体に保持されて織物が形成されているノンクリンプ構造の織物等が挙げられる。
【0039】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物を強化繊維からなる強化繊維基材に付与する方法としては、強化繊維からなる強化繊維基材の表面に本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の粒子を付着させ、加熱により固定する方法、強化繊維からなる強化繊維基材の表面に本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の繊維を巻き付ける方法などが使用することができる。強化繊維からなる強化繊維基材に本発明の強化繊維基材用バインダー組成物を付与し、バインダー付き強化繊維基材を作製してから続いてプリフォームを作製することができる。
【0040】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物を強化繊維からなる強化繊維基材に付与する方法としては、強化繊維基材の製造時に付与することも可能であり、既存の強化繊維基材に後加工として付与することもできる。また、後述のプリフォーム作製時に強化繊維基材の積層と本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の付与を交互に行うこともできる。
【0041】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物を強化繊維からなる強化繊維基材の表面に付与する場合は、少なくとも強化繊維基材の片面に1〜50g/mの目付で付着させることが好ましい。目付が上記範囲より少ないと、形態固定や高靭性化の効果およびエポキシ樹脂組成物との反応性が少なく、目付が多いと、強化繊維ストランドあるいはバインダー付き強化繊維基材のみかけ体積が大きくなるため、強化繊維の体積含有率の大きい繊維強化複合材料の製造が困難になる、あるいはエポキシ樹脂組成物の含浸性が乏しくなるなどの不利が生じることがある。
【0042】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物を強化繊維からなる強化繊維基材に付与して得られたバインダー付き強化繊維基材は、所定の形状に切り出し、型の上で積層し、適切な熱と圧力を加えてプリフォームを作製するために用いることができる。加圧の手段はプレスを用いることもできるし、バギングして内部を−90kPa以下まで真空ポンプで吸引して大気圧により加圧する方法を用いることもできる。プリフォームを作製するときの加熱の温度は、60〜150℃であることが好ましい。
【0043】
プリフォームには、バインダー付き強化繊維基材の他にフォームコア、ハニカムコアおよび金属部品などを一体化させることも可能である。
【0044】
上記のようにして得られた本発明のプリフォームは、RTM成形に好適に用いられる。
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、型内に設置した本発明のプリフォームに硬化剤を含まないエポキシ樹脂組成物(C)を注入して含浸させ、加熱することにより本発明の強化繊維基材用バインダー組成物とエポキシ樹脂組成物が硬化反応を起こして繊維強化複合材料を得るものである。
【0045】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法において、プリフォームを設置する型としては剛体からなるクローズドモールドを用いてもよいし、剛体のオープンモールドと可撓性のフィルム(バッグ)を用いてもよい。後者の場合、プリフォームは剛体オープンモールドと可撓性フィルムの間に設置する。
【0046】
剛体型の材料としては、スチールやアルミニウムなどの金属、FRP、木材および石膏などを用いることができる。可撓性のフィルムの材料としては、ナイロン、フッ素樹脂およびシリコーン樹脂などを用いることができる。
【0047】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法における具体的な手順としては、剛体のクローズドモールドを用いる場合は、加圧して型締めし、エポキシ樹脂組成物(C)を加圧して注入することができる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することができる。あるいは、吸引を行いながら、加圧手段は特に用いず大気圧で液状のエポキシ樹脂組成物(C)を注入することができる。
【0048】
また、剛体のオープンモールドと可撓性フィルムを用いる場合は、通常は、吸引と大気圧による注入を採用することができる。大気圧による注入で、良好な含浸を実現するためには、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。また、プリフォームの設置に先立って、剛体型の表面にゲルコートを塗布することも好ましい。プリフォームを設置した後、型締めあるいはバギングを行い、続いてエポキシ樹脂組成物(C)の注入を行う。
【0049】
本発明において、エポキシ樹脂組成物(C)とは分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を含むものであり、エポキシ樹脂は単独あるいは複数種の混合物で使用することができる。
【0050】
かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールジグリシジルエーテル、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−4−アミノ−3−メチルフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンジアニリン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−2,2’−ジエチル−4,4’−メチレンジアニリン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エチレングリコールジグリジジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル、テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンのテトラグリシジルエーテル、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテル、フェノールとジシクロペンタジエンの縮合物のグリシジルエーテル、フェノールアラルキル樹脂のグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、N−グリシジルフタルイミド、5−エチル−1,3−ジグリシジル−5−メチルヒダントイン、1,3−ジグリシジル−5,5−ジメチルヒダントイン、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンイソシアネートの付加により得られるオキサゾリドン型エポキシ樹脂、およびフェノールアラルキル型エポキシ等を使用することができる。
【0051】
特に、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやビスフェノールFジグリシジルエーテルは、バランスのとれた力学物性と耐薬品性に優れた硬化物が得られる点で好適であり、また、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノールやN,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンジアニリンを用いることにより、得られる硬化物の耐熱性を向上させることができる。
【0052】
エポキシ樹脂組成物(C)にはその他の成分として、可塑剤、染料、有機顔料や無機充填剤、高分子化合物、カップリング剤および界面活性剤など適宜配合することができる。
【0053】
エポキシ樹脂組成物(C)の注入の際、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の溶解やその後の硬化が円滑に行われるように、30〜90℃程度の温度に型を加熱しながら注入を行うことができる。
【0054】
エポキシ樹脂組成物(C)の注入の後に、加熱硬化を行う。加熱硬化時の型の温度は、エポキシ樹脂組成物(C)の注入時における型の温度と同じでも良いが、低温での硬化の場合、脱型の際に繊維強化複合材料が変形しない程度の剛性が得られるまで硬化を進めるために時間がかかる場合があるため、注入時の型の温度より高い温度を選ぶことが好ましく、例えば、80〜180℃の範囲の温度が好ましい。また、加熱硬化の時間は1〜20時間の範囲が好ましい。
【0055】
加熱硬化の過程において、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物は一旦、エポキシ樹脂組成物(C)に溶解させるか、あるいはエポキシ樹脂組成物(C)により膨潤させることが好ましい。このようにすることで、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物の成分の一つである分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)とエポキシ樹脂組成物(C)が接触し、硬化反応を開始する。硬化反応は、アニオン重合で進行するためエポキシ樹脂組成物(C)中に分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)が均一分散していなくても、繊維強化複合材料の靭性等の機械物性や、耐熱性および耐薬品性等を良好なものとすることができる。
【0056】
このように、加熱硬化の前に一旦バインダー組成物を溶解あるいは膨潤させるという態様は、強化繊維基材用バインダー組成物の形状や、強化繊維基材用バインダー組成物とエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂との組み合わせや、強化繊維基材用バインダー組成物中の熱可塑性樹脂(A)、または加熱温度条件を適宜選択することにより達成される。
【0057】
加熱硬化の後、脱型して繊維強化複合材料を取り出す。
【0058】
本発明においては、その後、繊維強化複合材料を硬化温度よりも高い温度で加熱する、いわゆる後硬化を行ってもよい。後硬化の温度は90〜200℃が好ましく、時間は1〜4時間が好ましい。
【0059】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物はRTM法に特に適したものであるが、RTM法以外の成形法にも好適に用いることができる。例えば、本発明の強化繊維基材用バインダー組成物を付与した強化繊維基材の形状がストランドやテープ状の場合には、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法およびプリプレグ法等にも適しており、また、強化繊維基材の形状がシート状の場合にはハンドレイアップ法やプリプレグ法等にも適している。
【0060】
本発明の繊維強化複合材料を製造するための材料システムは、貯蔵安定性および作業性が従来の材料システムに比べ優れており、また本発明の強化繊維基材用バインダー組成物等を用いて製造した繊維強化複合材料は、靭性に優れており、胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、座席および内装材などの航空機部材、モーターケースおよび主翼などの宇宙機部材、構体およびアンテナなどの人工衛星部材、外板、シャシー、空力部材や座席などの自動車部材、構体や座席などの鉄道車両部材および船体や座席などの船舶部材など多くの構造材料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する
<炭素繊維からなる繊維基材の製造>
各実施例で用いた炭素繊維からなる強化繊維基材は、次のようにして作製した。無撚糸である炭素繊維T800S−24K−10C(東レ(株)製)を経糸に用い、ガラス繊維ECE225 1/0 1Z(日東紡(株)製)を緯糸に用いて、実質的に炭素繊維が一方向に配列された平織組織の織物を作製した。タテ糸密度は7.2本/25mmとし、ヨコ糸密度は7.5本/25mmとした。織物の炭素繊維目付は190g/mであった。
【0062】
<エポキシ樹脂組成物(C)の調合>
各実施例で用いたエポキシ樹脂組成物(C)は、次の成分を調合したものである。下記の組成は、混合液中の組成比であり、単位は重量部である。
・“アラルダイト”(登録商標)MY−721(ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ製、グリシジルアミン型エポキシ樹脂):40部
・“エピコート”(登録商標)630 (ジャパンエポキシレジン(株)製、アミノフェノール型エポキシ樹脂):15部
・“エピコート”(登録商標)825(ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂):30部
・“エピコート”(登録商標)1750(ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂):15部
<強化繊維基材用バインダー組成物およびその原料のガラス転移温度の測定>
各実施例で使用した強化繊維基材用バインダー組成物の原料である熱可塑性樹脂または各実施例で得られた強化繊維基材用バインダー組成物5〜10mgを採取し、JIS K7121(1987)に従い、中間点ガラス転移温度(Tmg)を測定した。測定にはPyris 1 DSC((株)パーキンエルマージャパン製、熱流束示差走査熱量測定装置)を用い、サンプル数は2とした。
【0063】
<硬化開始温度(補外開始温度)の測定>
各実施例で得られた強化繊維基材用バインダー組成物10部と上記方法で得られたエポキシ樹脂組成物(C)90部を混合し、得られた混合物から試料として5〜10mgを採取した後、JIS K 7123(1987)に従って比熱容量を測定し、得られたDSC曲線からJIS K 0129(2005)に従って補外開始温度(発熱ピークよりも低温側のベースラインを高温側へ延長した直線と、ピークの低温側の曲線に勾配が最大となる点で引いた接線との交点の温度)を求めた。測定にはPyris 1 DSC((株)パーキンエルマージャパン製、熱流束示差走査熱量測定装置)を用い、サンプル数は2とした。
【0064】
<繊維強化複合材料の試験体の製造>
各実施例で使用した繊維強化複合材料は、RTMで作製したものである。各実施例および比較例で作製した強化繊維基材用バインダー組成物を付与したバインダー付き強化繊維基材において、炭素繊維の長手方向を0°とした強化繊維基材を[+45°/0°/−45°/90°]を基本として3回繰り返したものを対称に積層し、プリフォームを作製する。得られたプリフォームに、70℃の温度で前記のエポキシ樹脂組成物(C)を注入含浸した後、1分間に1.5℃ずつ130℃の温度まで昇温して130℃の温度で2時間予備硬化する。予備硬化品をRTM型から取り出した後、熱風オーブン中で180℃の温度で2時間硬化して試験体の繊維強化複合材料とした。
【0065】
<繊維強化複合材料のガラス転移温度の測定>
前記の製造方法で得られた繊維強化複合材料から重量20mgの試料を切り出し、JIS k7121(1987)に従い、中間点ガラス転移温度(Tmg)を測定した。測定にはPyris 1 DSC((株)パーキンエルマージャパン製、熱流束示差走査熱量測定装置)を用い、サンプル数は2とした。
【0066】
<繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度の測定>
前記の製造方法で得られた繊維強化複合材料から、試験片の長手方向を炭素繊維配向角0°として縦150mm、横100mmの矩形試験片を切り出し、その矩形試験片の中心に、JIS K 7089(1996)に従って試験片の厚さ1mmあたり20Jの落錘衝撃を与えた後、JIS K 7089(1996)に従い残存圧縮強度(CAI)を測定した。サンプル数は5とした。
【0067】
<実施例1>
ポリエーテルイミド(“ウルテム”(登録商標)1000、GE Plastics社製、ガラス転移温度:213℃)80部と1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(“キュアゾール”(登録商標)1B2MZ、四国化成工業(株)製)20部を塩化メチレン400部に溶解して溶液を得た。この溶液を常温においてホモミキサーにて約5000rpmで攪拌しながら、高級アルコール硫酸エステルソーダ(“モノゲン”(登録商標)Y−100、第一工業製薬(株)製)1重量%溶解した水溶液600部を10分間かけて滴下しながら投入してエマルジョン溶液を得た。得られたエマルジョン溶液を50rpmで攪拌しながら1分間に5℃ずつ60℃の温度まで昇温して60℃の温度で2時間かけて塩化メチレンを蒸発させて、ディスパーション溶液を得た。得られたディスパーション溶液を25℃の温度まで放冷した後、濾過、水洗を3回繰り返して得られた粉末を50℃の温度で24時間かけて真空乾燥し、粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を得た。
【0068】
得られた粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物のガラス転移温度を、前記方法にて測定したところ、87℃であった。また、平均粒子径をレーザー回析・散乱式粒度分布測定器(LMS−24、(株)セイシン企業製)を用いて測定したところ、6μmであった。
【0069】
また、前記方法にて硬化開始温度を測定したところ、85℃であった。
【0070】
得られた粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を、前記の炭素繊維からなる繊維基材の片面に25g/mの目付で散布した後、表面温度が160℃の温度になるように遠赤ヒーターを用いて加熱して粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を融着させ、強化繊維基材用バインダー組成物を付与した強化繊維基材を得た。得られた強化繊維基材用バインダー組成物を付与した強化繊維基材を用い、前記の製造方法で、強化繊維(炭素繊維)の体積含有率が58.1%であり、厚さが4.43mmの繊維強化複合材料を得た。
【0071】
得られた繊維強化複合材料ガラス転移温度を前記方法にて測定したところ、185℃であり、正常に硬化していることが確認できた。また、得られた繊維強化複合材料に、前記方法に従い厚さ1mmあたり20Jの衝撃エネルギーを付与し、衝撃後圧縮強度(CAI)を測定した結果、220MPaと高い値であった。
<実施例2>
ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル”(登録商標)PES5003P、住友化学(株)製、ガラス転移温度:227℃)を凍結粉砕して得た粉末75部と1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(“キュアゾール”(登録商標)1B2PZ、四国化成工業(株)製)25部を二軸押出機により210℃の温度で混練して、強化繊維基材用バインダー組成物の粒子状ペレットを得た。得られた強化繊維基材用バインダー組成物のペレットのガラス転移温度を前記方法にて測定したところ、72℃であった。また、得られた粒子状ペレットの平均粒子径をレーザー回析・散乱式粒度分布測定器(LMS−24、(株)セイシン企業製)を用いて測定したところ、98μmであった。
【0072】
また、前記方法にて硬化開始温度を測定したところ、93℃であった。
【0073】
得られた粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を前記の炭素繊維からなる繊維基材の片面に27g/mの目付で散布した後、表面温度が160℃の温度になるように遠赤ヒーターを用いて加熱して粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を融着させ、強化繊維基材用バインダー組成物を付与した強化繊維基材を得た。
【0074】
得られた強化繊維基材用バインダー組成物を付与した強化繊維基材を用い、前記の製造方法で、強化繊維の体積含有率が58.6%であり、厚さが4.39mmの繊維強化複合材料を得た。
【0075】
得られた繊維強化複合材料ガラス転移温度を前記方法にて測定したところ、192℃であり、正常に硬化していることが確認できた。また、得られた繊維強化複合材料に、前記方法に従い厚さ1mmあたり20Jの衝撃エネルギーを付与し、衝撃後圧縮強度(CAI)を測定した結果、227MPaと高い値であった。
【0076】
<比較例1>
ポリエーテルイミド(“ウルテム”(登録商標)1000、GE Plastics社製、ガラス転移温度:213℃)98部と1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(“キュアゾール”(登録商標)1B2MZ、四国化成工業(株)製)2部を塩化メチレン400部に溶解して溶液を得た。この溶液を常温においてホモミキサーにて約5000rpmで攪拌しながら、高級アルコール硫酸エステルソーダ(“モノゲン”(登録商標)Y−100、第一工業製薬(株)製)1重量%溶解した水溶液600部を10分間かけて滴下しながら投入してエマルジョン溶液を得た。得られたエマルジョン溶液を50rpmで攪拌しながら1分間に5℃ずつ60℃の温度まで昇温して60℃の温度で2時間かけて塩化メチレンを蒸発させて、ディスパーション溶液を得た。得られたディスパーション溶液を25℃の温度まで放冷した後、濾過、水洗を3回繰り返して得られた粉末を50℃の温度で24時間かけて真空乾燥し、粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を得た。
【0077】
得られた粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物のガラス転移温度を前記方法にて測定したところ、206℃であった。また、平均粒子径をレーザー回析・散乱式粒度分布測定器(LMS−24、(株)セイシン企業製)を用いて測定したところ、7μmであった。
【0078】
また、前記方法にて硬化開始温度を測定したところ、明確な硬化開始温度は得られなかった。
【0079】
得られた粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を前記の炭素繊維からなる繊維基材の片面に25g/mの目付で散布した後、表面温度が160℃の温度になるように遠赤ヒーターを用いて加熱したが、粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を融着することはできなかった。得られた強化繊維基材用バインダー組成物を散布した強化繊維基材を用い、前記の製造方法で繊維強化複合材料の成形を試みたが、樹脂は硬化せず繊維強化複合材料は得られなかった。
<比較例2>
ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル”(登録商標)PES5003P、住友化学(株)製、ガラス転移温度:227℃)を凍結粉砕して得た粉末50部と1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(“キュアゾール”(登録商標)1B2PZ、四国化成工業(株)製)50部を二軸押出機により210℃の温度で混練して、強化繊維基材用バインダー組成物のペレットを得た。得られた強化繊維基材用バインダー組成物のペレットのガラス転移温度を前記方法にて測定したところ、53℃であった。また、得られた粒子状ペレットの平均粒子径をレーザー回析・散乱式粒度分布測定器(LMS−24、(株)セイシン企業製)を用いて測定したところ、86μmであった。
【0080】
また、前記方法にて硬化開始温度を測定したところ、50℃であった。
【0081】
得られた粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を前記の炭素繊維からなる繊維基材の片面に27g/mの目付で散布した後、表面温度が160℃の温度になるように遠赤ヒーターを用いて加熱して粒子状の強化繊維基材用バインダー組成物を融着させ、強化繊維基材用バインダー組成物を付与した強化繊維基材を得た。
【0082】
得られた強化繊維基材用バインダー組成物を付与した強化繊維基材を用い、前記の製造方法で繊維強化複合材料の成形を試みたが、エポキシ樹脂組成物(C)の注入途中で増粘して、完全に含浸することができず繊維強化複合材料は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の強化繊維基材用バインダー組成物は、RTMにて成形する繊維強化複合材料に適しており、得られた繊維強化複合材料は航空機、宇宙機、鉄道車両、自動車および船舶などの構造材料に好適に用いることができるが、その他テニスラケット、ゴルフシャフトおよび釣り竿などのレジャー産業や建築等の分野にも適用することができ有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)および分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)を含むガラス転移温度が50〜120℃の樹脂組成物であって、該樹脂組成物自体には自己硬化性はないがエポキシ樹脂組成物(C)との接触により60℃以上の温度で該エポキシ樹脂組成物(C)との硬化反応を開始し得ることを特徴とする強化繊維基材用バインダー組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)がガラス転移温度120〜260℃の非晶質熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1記載の強化繊維基材用バインダー組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)がポリエーテルイミドまたはポリエーテルスルホンであることを特徴とする請求項1または2記載の強化繊維基材用バインダー組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)の配合量が全体の75〜95重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維基材用バインダー組成物。
【請求項5】
分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)がイミダゾール化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強化繊維基材用バインダー組成物。
【請求項6】
分子内に窒素原子を含む複素環化合物(B)の配合量が全体の5〜25重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維基材用バインダー組成物。
【請求項7】
平均粒子径が0.1〜200μmの粒子状形態であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維基材用バインダー組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の強化繊維基材用バインダー組成物を強化繊維基材の表面に付与してなることを特徴とするバインダー付き強化繊維基材。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の強化繊維基材用バインダー組成物を、少なくとも強化繊維基材の片面に1〜50g/mの目付で付与してなることを特徴とするバインダー付き強化繊維基材。
【請求項10】
強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項8または9記載のバインダー付き強化繊維基材。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載のバインダー付き強化繊維基材を積層してなり、層間に請求項1〜7のいずれかに記載の強化繊維基材用バインダー組成物を存在させて形態を固定してなることを特徴とするプリフォーム。
【請求項12】
請求項10記載のプリフォームに、硬化剤を含まないエポキシ樹脂組成物を含浸させ、熱硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2007−269971(P2007−269971A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97174(P2006−97174)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】