弾性表面波素子及び通信装置
【課題】 挿入損失の劣化を低減し、かつ通過帯域の平衡度を向上できる優れた特性の弾性表面波素子及びそれを用いた通信装置を提供すること。
【解決手段】 3個以上の奇数個のIDT電極2〜7と、それらの両側に配置された反射器電極8〜11とからなる電極群が複数段縦続接続されて成り、初段の電極群は中央のIDT電極3が不平衡信号端子12に接続され、最終段の電極群は、中央のIDT電極6が櫛歯状電極の一方が2分割され、他方が浮き電極とされており、2分割された各櫛歯状電極は平衡信号端子13,14に接続され、それぞれの電極指がIDT電極6の中央部で隣り合っている。最終段の電極群は、IDT電極6の2分割された各櫛歯状電極の最外電極指が両側のIDT電極5,7の電極指と隣り合っており、IDT電極5,7の櫛歯状電極の内IDT電極6の最外電極指に隣り合った電極指を有する側が接地端子18に接続されている。
【解決手段】 3個以上の奇数個のIDT電極2〜7と、それらの両側に配置された反射器電極8〜11とからなる電極群が複数段縦続接続されて成り、初段の電極群は中央のIDT電極3が不平衡信号端子12に接続され、最終段の電極群は、中央のIDT電極6が櫛歯状電極の一方が2分割され、他方が浮き電極とされており、2分割された各櫛歯状電極は平衡信号端子13,14に接続され、それぞれの電極指がIDT電極6の中央部で隣り合っている。最終段の電極群は、IDT電極6の2分割された各櫛歯状電極の最外電極指が両側のIDT電極5,7の電極指と隣り合っており、IDT電極5,7の櫛歯状電極の内IDT電極6の最外電極指に隣り合った電極指を有する側が接地端子18に接続されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器等の弾性表面波素子及びこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタ(以下、フィルタともいう)として、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、通過帯域外での高減衰量等の諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。
【0003】
このような広帯域化、低損失化を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT電極(Inter Digital Transducer)を設け、縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0004】
特に、隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、共振モードの状態を制御することにより広帯域化及び低損失化が図られていた(例えば、特許文献4,5を参照。)。
【0005】
また、近年、移動体通信機器等の小型化、軽量化及び低コスト化のために、使用部品の削減が進められ、弾性表面波フィルタに新たな機能の付加が要求されてきている。その1つに、不平衡入力−平衡出力型または平衡入力−不平衡出力型に構成できるようにするといった要求がある。ここで、平衡入力または平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するものをいい、各信号線路の信号は振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力または不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の線路の電位として入力または出力するものをいう。
【0006】
従来の弾性表面波フィルタは、一般的に不平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、不平衡型弾性表面波フィルタという)であるため、弾性表面波フィルタの後段に接続される回路や電子部品が平衡入力型となっている場合は、弾性表面波フィルタと後段との間に、不平衡−平衡変換器(以下、バランともいう)を挿入した回路構成を採っていた。同様に弾性表面波フィルタの前段の回路や電子部品が平衡出力型となっている場合は、前段と弾性表面波フィルタとの間にバランを挿入した回路構成となっていた。
【0007】
現在、バランを削除するために、弾性表面波フィルタに不平衡−平衡変換機能または平衡−不平衡変換機能を持たせた、不平衡入力−平衡出力型弾性表面波フィルタまたは平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、平衡型弾性表面波フィルタという)の実用化が進められている。不平衡−平衡変換機能の要求を満たすため、縦結合二重モードフィルタが多く用いられている。また、RF用フィルタとしては、接続端子の一方を不平衡接続で入出力インピーダンスが50Ω、他方を平衡接続で入出力インピーダンスが100〜200Ωに整合させるという要求が多い。
【0008】
図7に従来までの平衡入出力に対応した共振器型弾性表面波フィルタを示す。圧電基板201上に配置させたIDT電極203は、一対の互いに対向させた櫛歯状電極に電界を加え、弾性表面波を励振させるものである。その原理により、IDT電極203に入力信号を加えることにより励振された弾性表面波が、IDT電極203の両側に位置するIDT電極202,204に伝搬される。IDT電極202,204の一方の櫛状電極から2段目のIDT電極205,207の一方の櫛状電極に縦続接続され、最終的に2段目の中央のIDT電極206の一方の櫛状電極から出力信号端子222、他方から出力信号端子223へ信号が伝わり平衡出力される。また、共振器型弾性表面波素子の電極パターンを2段縦続接続させることにより、フィルタ特性の通過帯域外減衰量の向上ができる構成となっている。
【0009】
上記のような共振器型弾性表面波フィルタでは、IDT電極202,204,205,206の対向する櫛歯状電極の電極本数、配置された位置、または、寄生容量を発生させる要因となる周辺の電極パターン等の構造が異なるために、出力信号端子222,223に伝わる信号が互いに振幅が異なり、また位相が逆相となるべきところ、位相が逆相からずれてしまう。その結果、平衡度の劣化した共振器型弾性表面波フィルタしか得られなかった。
【0010】
近年、弾性表面波フィルタは各種通信機器の小形化、無調整化に一役を担っている。通過帯域内の平衡度についても高性能化が要求されており、例えば、900MHz帯携帯電話用のフィルタとしては、振幅平衡度は0.5dB以下、位相平衡度は5度以下の高性能なバランスフィルタが要求されている。
【0011】
また、図8に示すように、両側を反射器210,211に挟まれた3個のIDT電極202,203,204を有する1段目の縦結合型2重モード弾性表面波フィルタのうち、中央のIDT電極203に不平衡端子221を接続し、その両側のIDT電極202,204がそれぞれ2段目のIDT電極205,207に縦続接続され、2段目の中央のIDT電極206を2分割して、逆位相の信号が出力されるようにして平衡信号端子222,223に接続している。これにより、50Ω不平衡入力−200Ω平衡出力の構成が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0012】
また、従来の2重モード共振器型弾性表面波フィルタでは、弾性表面波の伝搬方向に3個並んだIDT電極のうち中央に配置されたIDT電極を偶数対にすることにより、平衡度を改善する構造が提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【0013】
また、図9に示すように、1段目に弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT電極202,203,204を近接配置し、中央のIDT電極203に不平衡端子221を接続し、その両側のIDT電極202,204をそれぞれ2段目のIDT電極205,207に縦続接続した構成とし、2段目の中央のIDT電極206を2分割してそれぞれを平衡信号端子222,223に接続する。さらに無電界領域を形成する一方の平衡信号端子222に、圧電基板201上またはパッケージの内部または外部にリアクタンス成分224を形成することにより平衡度を改善させる構造が提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特表2002−528987号公報
【特許文献3】特開平11−97966号公報
【特許文献4】特開2002−84164号公報
【特許文献5】特開2004−96244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来、弾性表面波フィルタを高減衰量化させる手段として、図7に示すように、弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT電極を近接配置し、その両側に反射器を配設した縦結合弾性表面波素子を複数段縦続接続させて弾性表面波フィルタを構成する方法が広く用いられている。この構成を用いると、弾性表面波素子を複数段に縦続接続するため、通過帯域内の挿入損失が大きくなるが、通過帯域外を高減衰量化できる。しかし、この縦結合共振子型弾性表面波素子を複数段縦続接続させた構成により、通過帯域幅の広い弾性表面波フィルタを得ようとすると、要求される挿入損失を向上させるには不充分であった。
【0015】
また、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けると、弾性表面波が結合した状態で電極指ピッチが異なる部分が存在するため、通過帯域におけるフィルタ特性のリップルが大きくなり、肩特性が劣化して通過帯域の平坦な特性が得られない。また、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けるだけでは、弾性表面波の励振に利用できる基本的な共振モードの数が縦1次モードと縦3次モードに限定され、他の共振モードが利用できないので、設計の自由度が小さくなっていた。そのため、通過帯域におけるフィルタ特性の平坦性を向上させ、広帯域化しつつ、挿入損失を向上させるには不充分であった。
【0016】
また、複数個並設したIDT電極の弾性表面波の伝搬路の両端に、弾性表面波を効率よく共振させるための反射器電極が設けられた共振器型弾性表面波素子の電極パターンにおいて、通過帯域内での振幅と位相の平衡度の向上が求められている。ここで、振幅と位相の平衡度とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するもので、各信号線路の信号の振幅の大きさが等しいほど振幅の平衡度が優れており、また、各信号の位相の差が180°に等しいほど位相の平衡度が優れているといえる。
【0017】
しかしながら、前述した従来の2段構成で2段目の中央のIDT電極に平衡出(入)力端子を接続した弾性表面波素子であって、特許文献1に開示されている弾性表面波素子では、位相を逆相にするために中央のIDT電極の両側に位置するIDT電極の電極指ピッチ等の構造を変えた構造や、中央のIDT電極とその両側のIDT電極との間の隣接する距離を変えた構造を採用しているので、狭ピッチ部において、弾性表面波の伝搬特性の周波数依存性が他の部分と異なり、そのため平衡度に悪影響が出る問題があった。
【0018】
また、特許文献3に開示されている弾性表面波素子では、中央のIDT電極の最外側電極指の極性と、それに隣接するIDT電極の最外側電極指の極性とが左右で異なるので、各平衡信号端子に形成される寄生容量が異なるため、このような構造の平衡型弾性表面波フィルタは平衡度が悪いという問題点があった。
【0019】
また、特許文献4に開示されている弾性表面波素子では、例えば圧電基板としてLiTaO3単結晶からなる圧電基板を用いた場合、振幅平衡度は1.2dB程度、位相平衡度は11度程度しか得られず、要求を満足する充分な平衡度が得られていなかった。
【0020】
さらに、特許文献5に開示されている弾性表面波素子について、効果の検証を行った。図10に図9の弾性表面波素子における周波数特性を線図で示す。図10の線図において、横軸は周波数(単位:MHz)を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線がどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させたため、通過帯域内のリップルが増加している。
【0021】
また、図11は図9の弾性表面波素子におけるVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:反射信号の大きさを評価する比率)を線図で示す。図10と同様に実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線がどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させた場合、VSWRも劣化していることが分かる。
【0022】
また、図9の弾性表面波素子における通過帯域近傍の位相平衡度を図12(a)に、振幅平衡度を図12(b)に線図で示す。図10と同様に実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線がどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。図12から明らかなように、一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させても位相平衡度、振幅平衡度に大きな改善が見られなかった。
【0023】
従って、本発明は、上述した従来の諸問題に鑑み提案されたものであり、その目的は、弾性表面波フィルタの挿入損失を向上させ、かつ平衡度を改善させることができ、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能できる弾性表面波素子及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の弾性表面波共振器は、1)圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されて成り、初段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が不平衡信号端子に接続されており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が前記電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされており、2分割された前記櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央の前記IDT電極の中央部で隣り合っており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極における2分割された前記櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側の前記IDT電極の前記電極指と隣り合っているとともに、両側の前記IDT電極における櫛歯状電極のうち前記最外電極指に隣り合った前記電極指を有する側がそれぞれ接地端子に接続されていることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の弾性表面波装置は、2)上記1)の構成において、1)の弾性表面波素子を構成する前記IDT電極に対して、直列または並列に、IDT電極と該IDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる弾性表面波共振子を接続したことを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の通信装置は、3)上記1)または2)の各構成の弾性表面波素子を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の弾性表面波素子によれば、3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、反射器電極とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されて成り、初段の電極群は、中央のIDT電極が不平衡信号端子に接続されており、最終段の電極群は、中央のIDT電極が電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされており、これにより中央のIDT電極において平衡出力側の電極指に対向する電極指がアース電位に落ちていないことにより、接地端子から伝搬する弾性表面波のノイズ成分がカットできるため、平衡出力における振幅平衡度、位相平衡度ともに改善させることができる。
【0028】
さらに、本発明の弾性表面波素子によれば、2分割された櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央のIDT電極の中央部で隣り合っていることにより、中央のIDT電極の中央部においてアース電位の電極指同士が隣り合う場合は、電極指同士が反射器電極の作用を持ち、隣り合った電極指間で弾性表面波の多重反射が起こり、異なる共振モードが発生して平衡度が悪くなるが、本発明の弾性表面波素子の場合、中央部で隣り合う電極指が平衡出力信号となるので弾性表面波の多重反射が発生することがなく、そのため平衡度の劣化も生じない。
【0029】
また、さらに本発明の弾性表面波素子によれば、最終段の電極群は、中央のIDT電極における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側のIDT電極の電極指と隣り合っているとともに、両側のIDT電極における櫛歯状電極のうち最外電極指に隣り合った電極指を有する側がそれぞれ接地端子に接続されていることにより、弾性表面波フィルタの平衡度特性において、くぼみ状の平衡度の劣化した領域を通過帯域外に配置させることができ、通過帯域内における平衡度を向上させることができる。さらに、隣接する電極指間における弾性表面波の多重反射が起こりにくくなり、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。また、上記各構成によれば、不平衡−平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタを構成することができる。
【0030】
また、この構成とは逆に、両側のIDT電極における櫛歯状電極のうち最外電極指に隣り合った電極指を有する側がそれぞれ信号端子に接続され、中央のIDT電極における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側のIDT電極の電極指と隣り合っていない場合、通過帯域内に発生するくぼみ状の平衡度の劣化部の劣化の度合いが大きくなり、また通過帯域内における挿入損失が劣化してしまう。
【0031】
なお、最終段の電極群の互いに隣接するIDT電極において、隣接する電極指がお互いに信号電極であった場合または接地電極であった場合は、くぼみ状の平衡度の劣化した領域が通過帯域内に発生して、通過帯域内における平衡度が劣化する。
【0032】
また、上記各構成において、弾性表面波素子を構成するIDT電極に対して、直列または並列に、IDT電極とそのIDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる弾性表面波共振子を接続したことにより、インピーダンス整合がとれるようになり、弾性表面波共振子を接続することで減衰極を形成することが可能であり、帯域外減衰量が高減衰となり、要求される仕様を満たすように特性を制御できる。
【0033】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波素子を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、消費電力が低減されかつ感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波素子について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタとして構成した例を説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0035】
図1に本発明の弾性表面波素子の電極構造についての平面図を示す。図1に示すように、本発明の弾性表面波素子は、圧電基板1上に、この圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極2〜7と、奇数個のIDT電極2〜7の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極8〜11とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されている。また、初段の電極群は、中央のIDT電極3が不平衡信号端子12に接続されており、最終段の電極群は、中央のIDT電極6が電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされている。
【0036】
この構成により、中央のIDT電極6において櫛歯状電極の平衡出力側の電極指に対向する電極指がアース電位に落ちていないことにより、接地端子から伝搬する弾性表面波のノイズ成分がカットできるため、平衡出力における振幅平衡度、位相平衡度ともに改善することができる。
【0037】
また、2分割された櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子13,14に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央のIDT電極6の中央部15で隣り合っている。
【0038】
この構成により、中央のIDT電極6の中央部で隣り合う電極指が平衡出力信号となるので、弾性表面波の多重反射が発生することがなく、そのため平衡度の劣化も生じない。
【0039】
さらに、最終段の電極群は、中央のIDT電極6における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指16が両側のIDT電極5,7の電極指と隣り合っているとともに、両側のIDT電極5,7における櫛歯状電極のうち最外電極指16に隣り合った電極指17を有する側がそれぞれ接地端子18に接続されている。
【0040】
この構成により、弾性表面波フィルタの平衡度特性において、くぼみ状の平衡度の劣化した領域を通過帯域外に配置させることができ、通過帯域内における平衡度を向上させることができる。さらに、隣接する電極指間における弾性表面波の多重反射が起こりにくくなり、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。また、上記各構成によれば、不平衡−平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタを構成することができる。
【0041】
また、この構成とは逆に、両側のIDT電極5,7における櫛歯状電極のうち最外電極指に隣り合った電極指を有する側がそれぞれ信号端子に接続され、中央のIDT電極6における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側のIDT電極5,7の電極指と隣り合っていない場合、通過帯域外に発生するくぼみ状の平衡度の劣化部の劣化の度合いが大きくなり、また通過帯域内における挿入損失が劣化してしまう。
【0042】
なお、最終段の電極群の互いに隣接するIDT電極5,6及びIDT電極6,7において、隣接する電極指がお互いに信号電極であった場合または接地電極であった場合は、くぼみ状の平衡度の劣化した領域が通過帯域内に発生して、通過帯域内における平衡度が劣化する。
【0043】
さらに、図2に本発明の弾性表面波素子の電極構造についての平面図を示す。図2に示すように、上記本発明の構成の弾性表面波素子において、弾性表面波素子を構成するIDT電極3に対して、直列または並列に(図2の場合は直列に)、IDT電極とそのIDT電極を挟む反射器電極とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる共振子(弾性表面波共振子)19を接続したことにより、インピーダンス整合が良好にとれるようになり、弾性表面波共振子19を接続することで減衰極を形成することが可能となり、通過帯域外減衰量が高減衰となって要求される仕様を満たすように特性を制御できる弾性表面波素子を実現している。
【0044】
また、上記本発明の構成の電極群(弾性表面波共振器)を2段縦続接続したことにより、段間の縦続接続により、共振モード選択の自由度が大きくなり、そのため弾性表面波の振幅分布の制御の自由度が増し、フィルタ特性の制御に利用することが可能となる。共振モード選択の自由度が大きいと、ある程度以上の周波数の間隔をあけて共振周波数を配置することが可能となる。つまり、1段目から2段目につながる経路を増やすことができ、発生する弾性表面波の共振モードを重ね合わせて通過帯域の設計の自由度が増し、帯域外減衰量を高減衰にすることができ、より効果的に広い通過帯域幅を保ったまま平坦性及び挿入損失を向上させた弾性表面波素子を提供できる。
【0045】
なお、IDT電極2〜7,反射器電極8〜11,共振子19の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれら形状を簡略化して図示している。なお、12は入力端子であり、13,14は出力端子である。
【0046】
また、弾性表面波フィルタ用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶が、電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため圧電基板1として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた圧電基板1であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板1の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板1が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0047】
また、IDT電極及び反射器電極は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD法等の薄膜形成法により形成する。電極厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが弾性表面波フィルタとしての特性を得る上で好適である。
【0048】
さらに、本発明に係る弾性表面波フィルタの電極及び圧電基板上の弾性表面波の伝搬部に、SiO2,SiNx,Si,Al2O3を保護膜として形成して、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0049】
また、本発明の弾性表面波フィルタを通信装置に適用することができる。すなわち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。したがって、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、感度が格段に良好な優れた通信装置を提供できる。
【0050】
なお、上述した実施の形態の説明では、簡単のために圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する3つのIDT電極を配設した例を示したが、これに限定されるものではなく、IDT電極を5つ以上の奇数個配設するようにしてもよく、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【実施例】
【0051】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0052】
図1に示す弾性表面波素子を具体的に作製した実施例について説明する。38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO3単結晶の圧電基板(多数個取り用の母基板)1上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)からなる、弾性表面波素子を構成する微細電極パターンを形成した。
【0053】
また、各電極のパターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを施すことにより行った。
【0054】
まず、圧電基板1をアセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板1の乾燥を行った後、各電極となる金属層の成膜を行った。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。このときの金属層の膜みは約0.33μmとした。
【0055】
次に、金属層上にフォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させた。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行い、パターニングを終了し、弾性表面波素子を構成する各電極のパターンを得た。
【0056】
この後、電極の所定領域上に保護膜を形成した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極のパターン及び圧電基板1上にSiO2を約0.02μmの厚みで形成した。
【0057】
その後、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等でフリップチップ用窓開け部のエッチングを行った。その後、フリップチップ用窓開け部に、スパッタリング装置を使用してAlを主体とするパッド電極を成膜した。このときのパッド電極の膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジスト及び不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、弾性表面波素子を外部回路基板等にフリップチップするための導体バンプを形成するためのパッド電極を完成した。
【0058】
次に、上記パッド電極上にAuからなるフリップチップ用の導体バンプをバンプボンディング装置を使用して形成した。導体バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0059】
次に、圧電基板1に分割線に沿ってダイシング加工を施し、各弾性表面波素子(チップ)ごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極パッドの形成面を下面にしてパッケージ内に収容し接着した。その後、N2雰囲気中でベーキングを行い、パッケージ化された弾性表面波素子を完成した。パッケージは、セラミック層を多層積層して成る2.5×2.0mm角の積層構造のものを用いた。
【0060】
また、比較例のサンプルとして、図3に示すような最終段の電極群において、中央のIDT電極6に対して両側のIDT電極5,7における櫛歯状電極のうち、中央のIDT電極6の最外電極指に隣り合った電極指を有する側が、それぞれ信号電極に接続されている弾性表面波素子を上記と同様の工程で作製した。比較例のサンプルとして用いた弾性表面波素子の上記以外の構造は、本実施例である図1に示す弾性表面波素子の構造と同様である。
【0061】
次に、本実施例及び比較例の弾性表面波素子について、それぞれ特性測定を行った。0dBmの信号を入力し、周波数780〜960MHz、測定ポイントを800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)を用いた。
【0062】
通過帯域近傍の周波数特性のグラフを図4に示す。図4は、フィルタの伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。本実施例品のフィルタ特性は非常に良好であった。すなわち、図4の実線に示すように、本実施例品の挿入損失は1.30dB、比帯域幅は4.7%であった。
【0063】
一方、図4の破線に示すように、比較例品の挿入損失は1.45dB、比帯域幅は4.5%であった。
【0064】
また、通過帯域近傍の振幅平衡度と位相平衡度の線図を、それぞれ図5と図6に示す。本発明の平衡度は非常に良好であった。図5の実線に示すように、本実施例の振幅平衡度は0.1dBであり、また図6の実線に示すように、本実施例の位相平衡度は1.7°であった。一方、図5の破線に示すように、比較例の振幅平衡度は0.5dBであり、また図6の破線に示すように、比較例の位相平衡度は4.2°であった。このように本実施例では、通過帯域において平衡度を大きく改善することができた。
【0065】
このように本実施例では、通過帯域を広帯域に保ちながら挿入損失を向上させ、かつ平衡度を改善した弾性表面波素子を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の弾性表面波素子について実施の形態の1例を示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波素子について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】比較例の弾性表面波素子の電極構造を示す平面図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例の弾性表面波素子について、通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性をそれぞれ示す線図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例の弾性表面波素子について、通過帯域及びその近傍における平衡度の周波数依存性であって振幅平衡度を示す線図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例の弾性表面波素子について、通過帯域及びその近傍における平衡度の周波数依存性であって位相平衡度を示す線図である。
【図7】従来の弾性表面波素子の電極構造の1例を示す平面図である。
【図8】従来の弾性表面波素子の電極構造の他例を示す平面図である。
【図9】従来の弾性表面波素子の電極構造の他例を示す平面図である。
【図10】従来の弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図11】従来の弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍におけるVSWRの周波数特性を示す線図である。
【図12】従来の弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における平衡度の周波数依存性を示す線図であり、(a)は振幅平衡度を示す線図、(b)は位相平衡度を示す線図である。
【符号の説明】
【0067】
1,201:圧電基板
2〜7,202〜207:IDT電極
8〜11,210〜213:反射器電極
12,221:不平衡信号端子(不平衡入(出)力部)
13,14,222,223:平衡信号端子(平衡出(入)力部)
18:接地端子
19:共振子
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器等の弾性表面波素子及びこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタ(以下、フィルタともいう)として、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、通過帯域外での高減衰量等の諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。
【0003】
このような広帯域化、低損失化を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT電極(Inter Digital Transducer)を設け、縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0004】
特に、隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、共振モードの状態を制御することにより広帯域化及び低損失化が図られていた(例えば、特許文献4,5を参照。)。
【0005】
また、近年、移動体通信機器等の小型化、軽量化及び低コスト化のために、使用部品の削減が進められ、弾性表面波フィルタに新たな機能の付加が要求されてきている。その1つに、不平衡入力−平衡出力型または平衡入力−不平衡出力型に構成できるようにするといった要求がある。ここで、平衡入力または平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するものをいい、各信号線路の信号は振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力または不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の線路の電位として入力または出力するものをいう。
【0006】
従来の弾性表面波フィルタは、一般的に不平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、不平衡型弾性表面波フィルタという)であるため、弾性表面波フィルタの後段に接続される回路や電子部品が平衡入力型となっている場合は、弾性表面波フィルタと後段との間に、不平衡−平衡変換器(以下、バランともいう)を挿入した回路構成を採っていた。同様に弾性表面波フィルタの前段の回路や電子部品が平衡出力型となっている場合は、前段と弾性表面波フィルタとの間にバランを挿入した回路構成となっていた。
【0007】
現在、バランを削除するために、弾性表面波フィルタに不平衡−平衡変換機能または平衡−不平衡変換機能を持たせた、不平衡入力−平衡出力型弾性表面波フィルタまたは平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、平衡型弾性表面波フィルタという)の実用化が進められている。不平衡−平衡変換機能の要求を満たすため、縦結合二重モードフィルタが多く用いられている。また、RF用フィルタとしては、接続端子の一方を不平衡接続で入出力インピーダンスが50Ω、他方を平衡接続で入出力インピーダンスが100〜200Ωに整合させるという要求が多い。
【0008】
図7に従来までの平衡入出力に対応した共振器型弾性表面波フィルタを示す。圧電基板201上に配置させたIDT電極203は、一対の互いに対向させた櫛歯状電極に電界を加え、弾性表面波を励振させるものである。その原理により、IDT電極203に入力信号を加えることにより励振された弾性表面波が、IDT電極203の両側に位置するIDT電極202,204に伝搬される。IDT電極202,204の一方の櫛状電極から2段目のIDT電極205,207の一方の櫛状電極に縦続接続され、最終的に2段目の中央のIDT電極206の一方の櫛状電極から出力信号端子222、他方から出力信号端子223へ信号が伝わり平衡出力される。また、共振器型弾性表面波素子の電極パターンを2段縦続接続させることにより、フィルタ特性の通過帯域外減衰量の向上ができる構成となっている。
【0009】
上記のような共振器型弾性表面波フィルタでは、IDT電極202,204,205,206の対向する櫛歯状電極の電極本数、配置された位置、または、寄生容量を発生させる要因となる周辺の電極パターン等の構造が異なるために、出力信号端子222,223に伝わる信号が互いに振幅が異なり、また位相が逆相となるべきところ、位相が逆相からずれてしまう。その結果、平衡度の劣化した共振器型弾性表面波フィルタしか得られなかった。
【0010】
近年、弾性表面波フィルタは各種通信機器の小形化、無調整化に一役を担っている。通過帯域内の平衡度についても高性能化が要求されており、例えば、900MHz帯携帯電話用のフィルタとしては、振幅平衡度は0.5dB以下、位相平衡度は5度以下の高性能なバランスフィルタが要求されている。
【0011】
また、図8に示すように、両側を反射器210,211に挟まれた3個のIDT電極202,203,204を有する1段目の縦結合型2重モード弾性表面波フィルタのうち、中央のIDT電極203に不平衡端子221を接続し、その両側のIDT電極202,204がそれぞれ2段目のIDT電極205,207に縦続接続され、2段目の中央のIDT電極206を2分割して、逆位相の信号が出力されるようにして平衡信号端子222,223に接続している。これにより、50Ω不平衡入力−200Ω平衡出力の構成が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0012】
また、従来の2重モード共振器型弾性表面波フィルタでは、弾性表面波の伝搬方向に3個並んだIDT電極のうち中央に配置されたIDT電極を偶数対にすることにより、平衡度を改善する構造が提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【0013】
また、図9に示すように、1段目に弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT電極202,203,204を近接配置し、中央のIDT電極203に不平衡端子221を接続し、その両側のIDT電極202,204をそれぞれ2段目のIDT電極205,207に縦続接続した構成とし、2段目の中央のIDT電極206を2分割してそれぞれを平衡信号端子222,223に接続する。さらに無電界領域を形成する一方の平衡信号端子222に、圧電基板201上またはパッケージの内部または外部にリアクタンス成分224を形成することにより平衡度を改善させる構造が提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特表2002−528987号公報
【特許文献3】特開平11−97966号公報
【特許文献4】特開2002−84164号公報
【特許文献5】特開2004−96244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来、弾性表面波フィルタを高減衰量化させる手段として、図7に示すように、弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT電極を近接配置し、その両側に反射器を配設した縦結合弾性表面波素子を複数段縦続接続させて弾性表面波フィルタを構成する方法が広く用いられている。この構成を用いると、弾性表面波素子を複数段に縦続接続するため、通過帯域内の挿入損失が大きくなるが、通過帯域外を高減衰量化できる。しかし、この縦結合共振子型弾性表面波素子を複数段縦続接続させた構成により、通過帯域幅の広い弾性表面波フィルタを得ようとすると、要求される挿入損失を向上させるには不充分であった。
【0015】
また、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けると、弾性表面波が結合した状態で電極指ピッチが異なる部分が存在するため、通過帯域におけるフィルタ特性のリップルが大きくなり、肩特性が劣化して通過帯域の平坦な特性が得られない。また、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けるだけでは、弾性表面波の励振に利用できる基本的な共振モードの数が縦1次モードと縦3次モードに限定され、他の共振モードが利用できないので、設計の自由度が小さくなっていた。そのため、通過帯域におけるフィルタ特性の平坦性を向上させ、広帯域化しつつ、挿入損失を向上させるには不充分であった。
【0016】
また、複数個並設したIDT電極の弾性表面波の伝搬路の両端に、弾性表面波を効率よく共振させるための反射器電極が設けられた共振器型弾性表面波素子の電極パターンにおいて、通過帯域内での振幅と位相の平衡度の向上が求められている。ここで、振幅と位相の平衡度とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するもので、各信号線路の信号の振幅の大きさが等しいほど振幅の平衡度が優れており、また、各信号の位相の差が180°に等しいほど位相の平衡度が優れているといえる。
【0017】
しかしながら、前述した従来の2段構成で2段目の中央のIDT電極に平衡出(入)力端子を接続した弾性表面波素子であって、特許文献1に開示されている弾性表面波素子では、位相を逆相にするために中央のIDT電極の両側に位置するIDT電極の電極指ピッチ等の構造を変えた構造や、中央のIDT電極とその両側のIDT電極との間の隣接する距離を変えた構造を採用しているので、狭ピッチ部において、弾性表面波の伝搬特性の周波数依存性が他の部分と異なり、そのため平衡度に悪影響が出る問題があった。
【0018】
また、特許文献3に開示されている弾性表面波素子では、中央のIDT電極の最外側電極指の極性と、それに隣接するIDT電極の最外側電極指の極性とが左右で異なるので、各平衡信号端子に形成される寄生容量が異なるため、このような構造の平衡型弾性表面波フィルタは平衡度が悪いという問題点があった。
【0019】
また、特許文献4に開示されている弾性表面波素子では、例えば圧電基板としてLiTaO3単結晶からなる圧電基板を用いた場合、振幅平衡度は1.2dB程度、位相平衡度は11度程度しか得られず、要求を満足する充分な平衡度が得られていなかった。
【0020】
さらに、特許文献5に開示されている弾性表面波素子について、効果の検証を行った。図10に図9の弾性表面波素子における周波数特性を線図で示す。図10の線図において、横軸は周波数(単位:MHz)を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線がどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させたため、通過帯域内のリップルが増加している。
【0021】
また、図11は図9の弾性表面波素子におけるVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:反射信号の大きさを評価する比率)を線図で示す。図10と同様に実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線がどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させた場合、VSWRも劣化していることが分かる。
【0022】
また、図9の弾性表面波素子における通過帯域近傍の位相平衡度を図12(a)に、振幅平衡度を図12(b)に線図で示す。図10と同様に実線の特性曲線は平衡信号端子に何も付加しない場合の結果を示し、破線がどちらか一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続した場合の結果を示している。図12から明らかなように、一方の平衡信号端子にリアクタンス成分として容量成分を並列接続させても位相平衡度、振幅平衡度に大きな改善が見られなかった。
【0023】
従って、本発明は、上述した従来の諸問題に鑑み提案されたものであり、その目的は、弾性表面波フィルタの挿入損失を向上させ、かつ平衡度を改善させることができ、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能できる弾性表面波素子及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の弾性表面波共振器は、1)圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されて成り、初段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が不平衡信号端子に接続されており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が前記電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされており、2分割された前記櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央の前記IDT電極の中央部で隣り合っており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極における2分割された前記櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側の前記IDT電極の前記電極指と隣り合っているとともに、両側の前記IDT電極における櫛歯状電極のうち前記最外電極指に隣り合った前記電極指を有する側がそれぞれ接地端子に接続されていることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の弾性表面波装置は、2)上記1)の構成において、1)の弾性表面波素子を構成する前記IDT電極に対して、直列または並列に、IDT電極と該IDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる弾性表面波共振子を接続したことを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の通信装置は、3)上記1)または2)の各構成の弾性表面波素子を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の弾性表面波素子によれば、3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、反射器電極とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されて成り、初段の電極群は、中央のIDT電極が不平衡信号端子に接続されており、最終段の電極群は、中央のIDT電極が電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされており、これにより中央のIDT電極において平衡出力側の電極指に対向する電極指がアース電位に落ちていないことにより、接地端子から伝搬する弾性表面波のノイズ成分がカットできるため、平衡出力における振幅平衡度、位相平衡度ともに改善させることができる。
【0028】
さらに、本発明の弾性表面波素子によれば、2分割された櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央のIDT電極の中央部で隣り合っていることにより、中央のIDT電極の中央部においてアース電位の電極指同士が隣り合う場合は、電極指同士が反射器電極の作用を持ち、隣り合った電極指間で弾性表面波の多重反射が起こり、異なる共振モードが発生して平衡度が悪くなるが、本発明の弾性表面波素子の場合、中央部で隣り合う電極指が平衡出力信号となるので弾性表面波の多重反射が発生することがなく、そのため平衡度の劣化も生じない。
【0029】
また、さらに本発明の弾性表面波素子によれば、最終段の電極群は、中央のIDT電極における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側のIDT電極の電極指と隣り合っているとともに、両側のIDT電極における櫛歯状電極のうち最外電極指に隣り合った電極指を有する側がそれぞれ接地端子に接続されていることにより、弾性表面波フィルタの平衡度特性において、くぼみ状の平衡度の劣化した領域を通過帯域外に配置させることができ、通過帯域内における平衡度を向上させることができる。さらに、隣接する電極指間における弾性表面波の多重反射が起こりにくくなり、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。また、上記各構成によれば、不平衡−平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタを構成することができる。
【0030】
また、この構成とは逆に、両側のIDT電極における櫛歯状電極のうち最外電極指に隣り合った電極指を有する側がそれぞれ信号端子に接続され、中央のIDT電極における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側のIDT電極の電極指と隣り合っていない場合、通過帯域内に発生するくぼみ状の平衡度の劣化部の劣化の度合いが大きくなり、また通過帯域内における挿入損失が劣化してしまう。
【0031】
なお、最終段の電極群の互いに隣接するIDT電極において、隣接する電極指がお互いに信号電極であった場合または接地電極であった場合は、くぼみ状の平衡度の劣化した領域が通過帯域内に発生して、通過帯域内における平衡度が劣化する。
【0032】
また、上記各構成において、弾性表面波素子を構成するIDT電極に対して、直列または並列に、IDT電極とそのIDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる弾性表面波共振子を接続したことにより、インピーダンス整合がとれるようになり、弾性表面波共振子を接続することで減衰極を形成することが可能であり、帯域外減衰量が高減衰となり、要求される仕様を満たすように特性を制御できる。
【0033】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波素子を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、消費電力が低減されかつ感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波素子について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタとして構成した例を説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0035】
図1に本発明の弾性表面波素子の電極構造についての平面図を示す。図1に示すように、本発明の弾性表面波素子は、圧電基板1上に、この圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極2〜7と、奇数個のIDT電極2〜7の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極8〜11とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されている。また、初段の電極群は、中央のIDT電極3が不平衡信号端子12に接続されており、最終段の電極群は、中央のIDT電極6が電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされている。
【0036】
この構成により、中央のIDT電極6において櫛歯状電極の平衡出力側の電極指に対向する電極指がアース電位に落ちていないことにより、接地端子から伝搬する弾性表面波のノイズ成分がカットできるため、平衡出力における振幅平衡度、位相平衡度ともに改善することができる。
【0037】
また、2分割された櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子13,14に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央のIDT電極6の中央部15で隣り合っている。
【0038】
この構成により、中央のIDT電極6の中央部で隣り合う電極指が平衡出力信号となるので、弾性表面波の多重反射が発生することがなく、そのため平衡度の劣化も生じない。
【0039】
さらに、最終段の電極群は、中央のIDT電極6における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指16が両側のIDT電極5,7の電極指と隣り合っているとともに、両側のIDT電極5,7における櫛歯状電極のうち最外電極指16に隣り合った電極指17を有する側がそれぞれ接地端子18に接続されている。
【0040】
この構成により、弾性表面波フィルタの平衡度特性において、くぼみ状の平衡度の劣化した領域を通過帯域外に配置させることができ、通過帯域内における平衡度を向上させることができる。さらに、隣接する電極指間における弾性表面波の多重反射が起こりにくくなり、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。また、上記各構成によれば、不平衡−平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタを構成することができる。
【0041】
また、この構成とは逆に、両側のIDT電極5,7における櫛歯状電極のうち最外電極指に隣り合った電極指を有する側がそれぞれ信号端子に接続され、中央のIDT電極6における2分割された櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側のIDT電極5,7の電極指と隣り合っていない場合、通過帯域外に発生するくぼみ状の平衡度の劣化部の劣化の度合いが大きくなり、また通過帯域内における挿入損失が劣化してしまう。
【0042】
なお、最終段の電極群の互いに隣接するIDT電極5,6及びIDT電極6,7において、隣接する電極指がお互いに信号電極であった場合または接地電極であった場合は、くぼみ状の平衡度の劣化した領域が通過帯域内に発生して、通過帯域内における平衡度が劣化する。
【0043】
さらに、図2に本発明の弾性表面波素子の電極構造についての平面図を示す。図2に示すように、上記本発明の構成の弾性表面波素子において、弾性表面波素子を構成するIDT電極3に対して、直列または並列に(図2の場合は直列に)、IDT電極とそのIDT電極を挟む反射器電極とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる共振子(弾性表面波共振子)19を接続したことにより、インピーダンス整合が良好にとれるようになり、弾性表面波共振子19を接続することで減衰極を形成することが可能となり、通過帯域外減衰量が高減衰となって要求される仕様を満たすように特性を制御できる弾性表面波素子を実現している。
【0044】
また、上記本発明の構成の電極群(弾性表面波共振器)を2段縦続接続したことにより、段間の縦続接続により、共振モード選択の自由度が大きくなり、そのため弾性表面波の振幅分布の制御の自由度が増し、フィルタ特性の制御に利用することが可能となる。共振モード選択の自由度が大きいと、ある程度以上の周波数の間隔をあけて共振周波数を配置することが可能となる。つまり、1段目から2段目につながる経路を増やすことができ、発生する弾性表面波の共振モードを重ね合わせて通過帯域の設計の自由度が増し、帯域外減衰量を高減衰にすることができ、より効果的に広い通過帯域幅を保ったまま平坦性及び挿入損失を向上させた弾性表面波素子を提供できる。
【0045】
なお、IDT電極2〜7,反射器電極8〜11,共振子19の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれら形状を簡略化して図示している。なお、12は入力端子であり、13,14は出力端子である。
【0046】
また、弾性表面波フィルタ用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶が、電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため圧電基板1として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた圧電基板1であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板1の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板1が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0047】
また、IDT電極及び反射器電極は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD法等の薄膜形成法により形成する。電極厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが弾性表面波フィルタとしての特性を得る上で好適である。
【0048】
さらに、本発明に係る弾性表面波フィルタの電極及び圧電基板上の弾性表面波の伝搬部に、SiO2,SiNx,Si,Al2O3を保護膜として形成して、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0049】
また、本発明の弾性表面波フィルタを通信装置に適用することができる。すなわち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。したがって、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、感度が格段に良好な優れた通信装置を提供できる。
【0050】
なお、上述した実施の形態の説明では、簡単のために圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する3つのIDT電極を配設した例を示したが、これに限定されるものではなく、IDT電極を5つ以上の奇数個配設するようにしてもよく、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【実施例】
【0051】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0052】
図1に示す弾性表面波素子を具体的に作製した実施例について説明する。38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO3単結晶の圧電基板(多数個取り用の母基板)1上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)からなる、弾性表面波素子を構成する微細電極パターンを形成した。
【0053】
また、各電極のパターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを施すことにより行った。
【0054】
まず、圧電基板1をアセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板1の乾燥を行った後、各電極となる金属層の成膜を行った。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。このときの金属層の膜みは約0.33μmとした。
【0055】
次に、金属層上にフォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させた。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行い、パターニングを終了し、弾性表面波素子を構成する各電極のパターンを得た。
【0056】
この後、電極の所定領域上に保護膜を形成した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極のパターン及び圧電基板1上にSiO2を約0.02μmの厚みで形成した。
【0057】
その後、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等でフリップチップ用窓開け部のエッチングを行った。その後、フリップチップ用窓開け部に、スパッタリング装置を使用してAlを主体とするパッド電極を成膜した。このときのパッド電極の膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジスト及び不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、弾性表面波素子を外部回路基板等にフリップチップするための導体バンプを形成するためのパッド電極を完成した。
【0058】
次に、上記パッド電極上にAuからなるフリップチップ用の導体バンプをバンプボンディング装置を使用して形成した。導体バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0059】
次に、圧電基板1に分割線に沿ってダイシング加工を施し、各弾性表面波素子(チップ)ごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極パッドの形成面を下面にしてパッケージ内に収容し接着した。その後、N2雰囲気中でベーキングを行い、パッケージ化された弾性表面波素子を完成した。パッケージは、セラミック層を多層積層して成る2.5×2.0mm角の積層構造のものを用いた。
【0060】
また、比較例のサンプルとして、図3に示すような最終段の電極群において、中央のIDT電極6に対して両側のIDT電極5,7における櫛歯状電極のうち、中央のIDT電極6の最外電極指に隣り合った電極指を有する側が、それぞれ信号電極に接続されている弾性表面波素子を上記と同様の工程で作製した。比較例のサンプルとして用いた弾性表面波素子の上記以外の構造は、本実施例である図1に示す弾性表面波素子の構造と同様である。
【0061】
次に、本実施例及び比較例の弾性表面波素子について、それぞれ特性測定を行った。0dBmの信号を入力し、周波数780〜960MHz、測定ポイントを800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)を用いた。
【0062】
通過帯域近傍の周波数特性のグラフを図4に示す。図4は、フィルタの伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。本実施例品のフィルタ特性は非常に良好であった。すなわち、図4の実線に示すように、本実施例品の挿入損失は1.30dB、比帯域幅は4.7%であった。
【0063】
一方、図4の破線に示すように、比較例品の挿入損失は1.45dB、比帯域幅は4.5%であった。
【0064】
また、通過帯域近傍の振幅平衡度と位相平衡度の線図を、それぞれ図5と図6に示す。本発明の平衡度は非常に良好であった。図5の実線に示すように、本実施例の振幅平衡度は0.1dBであり、また図6の実線に示すように、本実施例の位相平衡度は1.7°であった。一方、図5の破線に示すように、比較例の振幅平衡度は0.5dBであり、また図6の破線に示すように、比較例の位相平衡度は4.2°であった。このように本実施例では、通過帯域において平衡度を大きく改善することができた。
【0065】
このように本実施例では、通過帯域を広帯域に保ちながら挿入損失を向上させ、かつ平衡度を改善した弾性表面波素子を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の弾性表面波素子について実施の形態の1例を示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波素子について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】比較例の弾性表面波素子の電極構造を示す平面図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例の弾性表面波素子について、通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性をそれぞれ示す線図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例の弾性表面波素子について、通過帯域及びその近傍における平衡度の周波数依存性であって振幅平衡度を示す線図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例の弾性表面波素子について、通過帯域及びその近傍における平衡度の周波数依存性であって位相平衡度を示す線図である。
【図7】従来の弾性表面波素子の電極構造の1例を示す平面図である。
【図8】従来の弾性表面波素子の電極構造の他例を示す平面図である。
【図9】従来の弾性表面波素子の電極構造の他例を示す平面図である。
【図10】従来の弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図11】従来の弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍におけるVSWRの周波数特性を示す線図である。
【図12】従来の弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における平衡度の周波数依存性を示す線図であり、(a)は振幅平衡度を示す線図、(b)は位相平衡度を示す線図である。
【符号の説明】
【0067】
1,201:圧電基板
2〜7,202〜207:IDT電極
8〜11,210〜213:反射器電極
12,221:不平衡信号端子(不平衡入(出)力部)
13,14,222,223:平衡信号端子(平衡出(入)力部)
18:接地端子
19:共振子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されて成り、初段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が不平衡信号端子に接続されており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が前記電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされており、2分割された前記櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央の前記IDT電極の中央部で隣り合っており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極における2分割された前記櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側の前記IDT電極の前記電極指と隣り合っているとともに、両側の前記IDT電極における櫛歯状電極のうち前記最外電極指に隣り合った前記電極指を有する側がそれぞれ接地端子に接続されていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
請求項1記載の弾性表面波素子を構成する前記IDT電極に対して、直列または並列に、IDT電極と該IDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる弾性表面波共振子を接続したことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の弾性表面波素子を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項1】
圧電基板上に、該圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、該伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、該奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とからなる電極群が複数段、縦続接続されて配設されて成り、初段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が不平衡信号端子に接続されており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極が前記電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されているとともに他方が電気的に浮いている浮き電極とされており、2分割された前記櫛歯状電極は、それぞれが平衡信号端子に接続されているとともに、それぞれの電極指が中央の前記IDT電極の中央部で隣り合っており、最終段の前記電極群は、中央の前記IDT電極における2分割された前記櫛歯状電極のそれぞれの最外電極指が両側の前記IDT電極の前記電極指と隣り合っているとともに、両側の前記IDT電極における櫛歯状電極のうち前記最外電極指に隣り合った前記電極指を有する側がそれぞれ接地端子に接続されていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
請求項1記載の弾性表面波素子を構成する前記IDT電極に対して、直列または並列に、IDT電極と該IDT電極を挟む反射器とから成り、1つ以上のモード共振を発生させる弾性表面波共振子を接続したことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の弾性表面波素子を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−123992(P2007−123992A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309484(P2005−309484)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]