説明

往復動式真空ポンプ及びその排気方法

【課題】排気速度を高めかつ高真空度の到達圧力に早く到達する排気手段であって、イニシャルコスト及び、必要動力の低減などランニングコストをも低減可能な低コストな手段を実現する。
【解決手段】複数のシリンダ3a、3b及び該シリンダ内を摺動する複数のピストン8a、8bを備え、該ピストンがピストンロッド10a、10bを介して単一のクランク室2に設けられた単一のクランク軸7に接続された往復動式真空ポンプ1において、複数のシリンダ3a、3bを排気室20に対して直列又は並列に切替え可能とする排気経路21、22a、22b、23a、23b、24及び切替弁30を備えると共に、該排気経路にクランク室2を介在させ、排気室20からの排気ガスgをクランク室2を通して排気させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のシリンダとピストンを備えた往復動式真空ポンプを用いて排気室を真空状態とする場合に、空気漏れ量及びピストン往復動力を低減可能とした低コストの排気設備及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空ポンプにより真空チャンバ内の空気を吸引して排出させる真空装置は周知である。例えば、真空蒸着装置において、半導体ウエーハの表面に金属蒸着膜を形成する場合、まず装置の蒸着室内の雰囲気を真空ポンプで排気して高真空にし、高真空状態で蒸着を行い、蒸着終了後には蒸着室内の圧力を大気圧に戻すことが行なわれている。
【0003】
無給油式真空ポンプは、圧縮室内に潤滑油が入り込むことなく、圧縮室から吐出される吐出空気中に潤滑油が含まれないので、圧縮空気中に油分が存在することを嫌う、例えば、医療用、酸素補給用などの領域に用いられる。また、潤滑油を供給する必要がないので、潤滑油の補給管理を行なうわずらわしさがないという利点がある。
【0004】
真空ポンプの代表的な性能値は、排気速度と到達圧力である。排気速度は、真空ポンプの吸入容積にピストンを駆動する電動モータの回転速度を乗じた値で決まる。排気速度を上げるためには、吸入容積を大きくするか、あるいはインバータ等により電動モータの回転速度を速くする必要があった。
【0005】
無給油式真空ポンプの場合、ピストンを樹脂で製作し、シリンダはアルミあるいはアルミ合金等で製作し、アルミの特性を生かしながら、シリンダの内表面の硬度を高めるため、シリンダの内表面摺動部には、硬質アルマイト処理が施されている。シリンダには自己潤滑性を有する樹脂ピストンが直接接触して往復摺動することになるため、かじりを起こすことなく、運転を継続できる。
【0006】
従来の真空ポンプにおいて、高真空度の到達圧力を可能とするためには、複数の真空ポンプを排気室に対して直列に配置することが行なわれていた。複数のポンプを直列に配置することにより、1個のポンプで駆動するよりも高圧縮比が得られるため、短時間で高真空度が得られる。一方、排気速度を高めるためには、複数の真空ポンプを排気室に対して並列に配置し、単位時間当たりの排気量を多くすることが行なわれていた。しかし、直列接続の真空ポンプでは、到達圧力が良くても排気速度が非常に遅い。また、並列接続の真空ポンプでは、排気速度が高まる一方で、到達圧力が悪くなるという問題があった。
【0007】
特許文献1(実開平4−119373号公報)には、この問題を解決するために、少なくとも2つの真空ポンプを排気室に対して直列配管及び並列配管可能に接続し、夫々の配管に少なくとも1つの切替弁を設け、さらに、排気室の圧力検知手段と、この圧力検知手段の検知データによって切替弁の開閉を行なう制御手段とを備えた真空排気装置が開示されている。
この装置では、配管中の切替弁の開閉によって、排気室が大気圧に近い圧力の際には、複数の真空ポンプを並列配管し、排気室の圧力が下がるに従って、順次直列配管するように切替え作動させるものである。
【0008】
また、特許文献2(特開平7−65128号公報)にも、排気室を真空にする時間を短縮することを目的として、複数のオイルレス真空ポンプを、排気室が低真空領域のときには並列に接続し、排気室が高真空領域のときには直列に接続する運転制御手段が開示されている。
【0009】
【特許文献1】実開平4−119373号公報
【特許文献2】特開平7−65128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された手段では、排気室と複数の真空ポンプとを直列又は並列に切替え可能に接続する配管を配設すると共に、該配管を流れる排気の流路を切り換えるために、多数の開閉弁、三方弁又は電磁弁等を該配管に介設する必要がある。また、これらの弁の開閉を制御するための制御装置を必要とし、イニシャルコストが増大するという問題がある。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、排気速度を高めかつ高真空度の到達圧力を可能にする排気手段であって、イニシャルコスト及び、必要動力の低減などランニングコストをも低減可能な低コストな排気手段を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明の往復動式真空ポンプは、
複数のシリンダ及び該シリンダ内を摺動する複数のピストンを備え、該ピストンが単一のクランク室に設けられた単一のクランク軸に接続された往復動式真空ポンプにおいて、
前記複数のシリンダの圧縮室を排気室に対して直列又は並列に切替え接続可能とする排気経路及び該排気経路に介設された切替弁を備えると共に、
該排気経路に前記クランク室を介在させ、排気室内のガスを該クランク室を通して排気させるように構成したものである。
【0013】
本発明では、複数のシリンダ及びピストンを有し、複数のピストンをピストンロッドを介して単一のクランク室に設けられた単一のクランク軸に接続する往復動式真空ポンプを使用し、該往復動式真空ポンプに、複数のシリンダの圧縮室を排気室に対して直列又は並列に切替え可能とする排気経路及び該排気経路に介設された切替弁を設けることによって、前記問題を解決したものである。このように、前記構成の単一のクランク室をもつ往復動式真空ポンプを用いることにより、排気経路を構成する配管設備及び弁機構を大幅に簡素化することができる。
【0014】
また、本発明では、排気経路にクランク室を介在させ、排気室内のガスを該クランク室を通して排気させるように構成したことにより、シリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減することができる。そのため、排気の漏れ量を低減できると共に、排気漏れ量の低減により、高真空圧を達成でき、かつシリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減することにより、ピストン往復動力を低減することができる。
【0015】
また、本発明の往復動式真空ポンプの排気方法は、
複数のシリンダ及び該シリンダ内を摺動する複数のピストンを備え、該ピストンが単一のクランク室に設けられた単一のクランク軸に接続された往復動式真空ポンプの排気方法において、
排気室が大気圧付近のときは、排気室に対して前記複数のシリンダの圧縮室を並列に接続して排気室内のガスを排気すると共に、
排気室が設定値以下に減圧されたときは、排気室に対して複数のシリンダの圧縮室を直列に接続して排気室内のガスを排気し、
排気経路にクランク室を介在させ、排気室内のガスをクランク室内を通すことによって、シリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減するようにしたものである。
【0016】
本発明方法によれば、排気経路にクランク室を介在させ、排気室内のガスを該クランク室を通して排気させるようにしたことにより、シリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減することができる。そのため、排気の漏れ量を低減できると共に、排気漏れ量の低減により、高真空圧を達成でき、かつシリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減することにより、ピストン往復動力を低減することができる。
【0017】
本発明の真空ポンプにおいて、前記排気経路が、排気室から少なくとも1つのシリンダに接続される第1排気経路と、第1排気経路から分岐してクランク室を経由して他のシリンダに接続される第2排気経路と、各シリンダから大気に開口する排気口に接続される第3排気経路と、前記1つのシリンダに接続された第3排気経路から分岐してクランク室に接続される第4排気経路とからなり、前記切替弁を操作して、第2排気経路を開放しかつ第4排気経路を閉鎖することにより各シリンダを排気室に対して並列に接続し、第2排気経路を閉鎖し、第4排気経路を開放することにより、各シリンダを排気室に対して直列に接続するようにするとよい。
【0018】
これによって、排気経路を簡素化することができ、かつ1個の切替弁を該排気経路に介設することで、排気室に対して排気経路を直列又は並列に切替え可能することができる。従って、排気装置のイニシャルコストを大幅に低減することができる。
【0019】
また、本発明の真空ポンプにおいて、前記切替弁が、第2排気経路、第3排気経路及び第4排気経路に跨って介設されたケーシングと、該ケーシング内に配置され軸方向に移動して両端部で第2排気経路及び第4排気経路を開閉する弁棒と、該弁棒を囲むように配設された差圧室と、該差圧室内を第1空間と第2空間に仕切ると共に該弁棒に一体に接続されたダイヤフラムと、弁棒に対して第4排気経路を閉鎖する方向にバネ力を付勢するバネ体と、前記弁棒の外周面に設けられ弁棒が第4排気経路を閉鎖した時に差圧室とケーシングの境界に位置して第3排気経路を排気口に連通させるくぼみ溝とを備え、第1空間を第2排気経路に連通させると共に、第2空間を第3排気経路を介して排気口に連通させてなり、該切替弁によって、クランク室が大気圧付近のときは第2排気経路を開放し、かつ第4排気経路を閉鎖すると共に第3排気経路を排気口に連通させ、クランク室が設定圧力以下になると、第2排気経路を閉鎖すると共に第4排気経路を開放するように構成するとよい。
【0020】
かかる構成により、簡単な構成で切替弁を大気圧と排気室又はクランク室内との圧力差により自動的に作動させることができるので、何らの駆動装置を必要とせず、また制御装置を必要としないので、装置構成を大幅に簡素化でき、低コストとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の真空ポンプによれば、複数のシリンダ及び該シリンダ内を摺動する複数のピストンを備え、該ピストンが単一のクランク室に設けられた単一のクランク軸に接続された往復動式真空ポンプにおいて、前記複数のシリンダの圧縮室を排気室に対して直列又は並列に切替え接続可能とする排気経路及び該排気経路に介設された切替弁を備えると共に、
該排気経路に前記クランク室を介在させ、排気室内のガスを該クランク室を通して排気させるように構成したことにより、排気経路を構成する配管設備及び弁機構を大幅に簡素化することができると共に、シリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減することができる。そのため、排気の漏れ量を低減できると共に、漏れ量を低減できるので、高真空圧を可能とし、かつシリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減することにより、ピストン往復動力を低減することができる。
【0022】
また、本発明方法によれば、複数のシリンダ及び該シリンダ内を摺動する複数のピストンを備え、該ピストンが単一のクランク室に設けられた単一のクランク軸に接続された往復動式真空ポンプの排気方法において、排気室が大気圧付近のときは、排気室に対して前記複数のシリンダの圧縮室を並列に接続して排気室内のガスを排気すると共に、
排気室が設定値以下に減圧されたときは、排気室に対して複数のシリンダの圧縮室を直列に接続して排気室内のガスを排気し、排気経路にクランク室を介在させ、排気室内のガスをクランク室内を通すことによって、シリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減するようにしたことにより、前記本発明装置と同様の作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る無給油式往復動式真空ポンプ1の縦断立面図、図2は同じく平面図である。図1及び図2において、内部にクランク室2及び左右に水平方向に配置された2組のシリンダ3a及び3bを内包するケーシング1aが配置されている。ケーシング1aの上部には電動モータ4が取り付けられ、電動モータ4の出力軸4aは、ケーシング1aに設けられたボールベアリング5に回転自在に支持されてクランク室2内に延設されている。6は、クランク室2内を密閉しながら出力軸4aを回転可能に支持する軸シール部材である。
【0025】
クランク室2の内部で出力軸4aはクランク軸7に連結されている。シリンダ3aの内部にはピストン8aが摺動自在に配置され、ピストン8aに設けられたピストンピン9aは、ピストンロッド10aの小端部11aと連結し、ピストンロッド10aの大端部12aはボールベアリング13を介してクランク軸7のクランクピン7aに回動自在に連結されている。
【0026】
一方、シリンダ3bの内部にはピストン8bが摺動自在に配置され、ピストン8bに設けられたピストンピン9bは、ピストンロッド10bの小端部11bと連結し、ピストンロッド10bの大端部12bはボールベアリング14を介してクランク軸7のクランクピン7bに回動自在に連結されている。
【0027】
シリンダ3a、3bの内面に摺接するピストン8a、8bの外周面には、リング溝が刻設され、該リング溝にピストンリング15a及び15bが嵌挿されている。本実施形態の往復動式真空ポンプ1は、無給油式であるため、ピストン8a、8b及びピストンリング15a、15bは、複合材熱硬化性縮合多環芳香族と、黒鉛その他の摺動性を高める耐熱材料とを含む自己潤滑性複合材(例えば、テフロン(登録商標)を主材とする混合樹脂部材)をもって形成されている。この材質以外に、ポリイミド樹脂、ニトリルゴム、フッ素ゴム等を使用できる。このため、ピストン8a、8b及びピストンリング、15a、15bの摩耗は少なく、かつ放熱も良好である。
【0028】
シリンダ3a、3bの先端側には吸入口16a、16bと吐出口17a、17bが設けられている。かかる構成において、電動モータ4を稼動させることにより、ピストン8a、8bをシリンダ3a、3b内で往復動させ、これによって、吸入口16a、16bから真空チャンバ内のガスaを吸入し、圧縮室18a、18bで吸入ガスを圧縮し、圧縮したガスgを吐出口17a、17bから吐出する。
【0029】
図3〜図5に本実施形態の排気経路を示す。図3〜図5において、真空チャンバ(排気室)20がシリンダ3aの吸入口16aに上流側排気経路21を介して接続されていると共に、上流側排気経路21から上流側分岐経路22aが分岐し、上流側分岐経路22aがクランク室2に接続している。また、クランク室2とシリンダ3bの吸入口16bとを接続する上流側分岐経路22bが設けられている。
【0030】
シリンダ8aの吐出口17aには下流側排気経路23aが接続され、下流側排気経路23aには排気口25aが設けられている。下流側排気経路23aの途中から下流側分岐経路24が分岐し、下流側分岐経路24の他端がクランク室2に接続されている。また、シリンダ3bの吐出口17bに排気口25bが設けられている。これら排気経路には図5に示す自動切替弁30が介設されている。以下、この自動切替弁30の構成を図5に基づいて説明する。
【0031】
図5において、自動切替弁30のケーシング31は、上流側分岐経路22aと、下流側排気経路23aと、下流側分岐経路24とに介設されている。ケーシング31の内部には棒状の弁棒32が配置されている。弁棒32の中央側周囲には、弁棒32を囲むように差圧室33がシール部材34を介して配置されている。差圧室33の内部は、弁棒32と一体に接続されたダイヤフラム35で2つの空間36及び37に仕切られている。第1空間36は上流側分岐経路22aと接続され、第2空間37は下流側排気経路23aを介して排気口25aと接続されている。
【0032】
弁棒32の外周面にはくぼみ溝32aが設けられている。くぼみ溝32aの矢印方向位置によって下流側排気経路23aを開放又は閉鎖することができる。また、第1空間36にはコイルバネ38が設けられ、コイルバネ38の弾性力がダイヤフラム35を介して弁棒32を図5中右側方向に付勢する。なお、図3〜図5中の符号A1、A2、B1、B2、B3は、夫々排気経路中の対応する位置を示す。
【0033】
かかる構成において、大気状態の真空チャンバ20と往復動式真空ポンプ1の一方のシリンダ3aが接続されており、始動時には、第1空間36と第2空間37は共に大気圧であるので、ダイヤフラム35にはコイルバネ38の弾性力のみが負荷されている。従って、コイルバネ38の付勢力により弁棒32が右側に押され、下流側分岐経路24を閉鎖していると共に、上流側分岐経路22aを開放している。
【0034】
従って、図3に示す状態となる。そのため、真空チャンバ20からの排気は、上流側排気経路21を経てシリンダ3aに吸入され、シリンダ3aの圧縮室18aで圧縮されて、下流側排気経路23aに吐出され、排気口25aから大気に排気される。同時に、真空チャンバ20からの排気は、上流側分岐経路22aからクランク室2に入り、クランク室2から上流側分岐経路22bを経て、シリンダ3bの圧縮室18bに吸入される。圧縮室18bで圧縮されて下流側排気経路23bに吐出され、排気口25bから大気に排気される。
【0035】
このように、真空チャンバ20に対して、2つのシリンダ3a及び3bが並列に接続されて排気運転される。従って、真空チャンバ20の排気速度を単一のシリンダの場合と比べて2倍にすることができる。
【0036】
真空チャンバ20内の圧力が下がってくると、クランク室2内の圧力が下がって、クランク室2と連通している自動切替弁30の第1空間36の圧力も下がる。そのため、第1空間36の圧力<第2空間37の圧力(大気圧)となり、真空チャンバ20内の圧力が設定値を下回ると、第2空間37の圧力がコイルバネ38の弾性力に打ち勝ってダイヤフラム35が左側に移動する。ダイヤフラム35と弁棒32とは一体に接続されているので、弁棒32も左側に移動して、下流側分岐経路24を開放すると共に、上流側分岐経路22aを閉鎖する。
【0037】
これによって、くぼみ溝32aが第2空間37側に移動することによって、第2空間37とケーシング31との連通が遮断され、下流側排気経路23aが閉鎖される。
【0038】
この動作で、排気経路は図4に示す状態となる。この状態では、真空チャンバ20からの排気は、上流側排気経路21を経てシリンダ3aの圧縮室18aに吸入され、圧縮室18aで圧縮されて下流側分岐経路24に吐出される。その後、排気ガスgはクランク室2に入り、上流側分岐経路22bを経由して、シリンダ3bの圧縮室18bに吸入される。その後、排気ガスgは、圧縮室18bから吐出されて下流側排気経路23bに到って排気口18bから大気に排気される。即ち、真空チャンバ20に対してシリンダ3aとシリンダ3aとが直列配置となる。従って、1個のポンプより高い圧縮比を得ることができるため、真空チャンバ20内の圧力を所望の到達圧力に早く到達させることができる。
【0039】
本実施形態によれば、単一のクランク室2をもつ往復動式真空ポンプ1を用いることにより、排気経路を構成する配管設備及び弁機構を大幅に簡素化することができる。さらに該排気経路に介設された1個の切替弁30で該排気経路を直列又は並列に切り替えることができるので、排気装置のイニシャルコストを大幅に低減することができる。
【0040】
また、排気経路にクランク室2を介在させ、クランク室2を通して排気させるように構成したことにより、シリンダ3a、3b内の圧縮室18a、18bとピストン背面側の圧力差を低減することができる。そのため、排気の漏れ量を低減できると共に、漏れ量を低減できるので、高真空圧を達成でき、かつシリンダ3a、3b内の圧縮室18a、18bとピストン背面側の圧力差を低減することにより、ピストン往復動力を低減することができる。
【0041】
また、往復動式真空ポンプ1のシリンダ3a、3bを水平方向に配置したので、バランスが良くなり、運転中に発生する振動を低減することができる。さらに、自動切替弁30を大気圧と真空チャンバ20内との圧力差により自動的に作動させることができるので、切替弁30に何らの駆動装置を必要とせず、また真空圧力計や時間計及び制御装置を必要としないので、装置構成を大幅に簡素化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、排気速度を速めかつ所望の到達圧力に早く到達可能で、イニシャルコスト及び、必要動力の低減などランニングコストをも低減可能な低コストな排気装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る往復動式真空ポンプ縦断立面図である。
【図2】前記真空ポンプの平面図である。
【図3】前記実施形態の排気経路を示す系統図(始動時)である。
【図4】前記実施形態の排気経路を示す系統図(切替後)である。
【図5】前記実施形態の自動切替弁30の断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 往復動式真空ポンプ
2 クランク室
3a、3b シリンダ
7 クランク軸
18a、18b 圧縮室
20 真空チャンバ(排気室)
21 上流側排気経路21(第1排気経路)
22a、22b 上流側分岐経路22(第2排気経路)
23a 下流側排気経路(第3排気経路)
24 下流側分岐経路(第4排気経路)
25a、25b 排気口
30 自動切替弁
31 ケーシング
32 弁棒
33 差圧室
35 ダイヤフラム
36 第1空間
37 第2空間
38 コイルバネ(バネ体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダ及び該シリンダ内を摺動する複数のピストンを備え、該ピストンが単一のクランク室に設けられた単一のクランク軸に接続された往復動式真空ポンプにおいて、
前記複数のシリンダの圧縮室を排気室に対して直列又は並列に切替え接続可能とする排気経路及び該排気経路に介設された切替弁を備えると共に、
該排気経路に前記クランク室を介在させ、排気室内のガスを該クランク室を通して排気させるように構成したことを特徴とする往復動式真空ポンプ。
【請求項2】
前記排気経路が、排気室から少なくとも1つのシリンダに接続される第1排気経路と、第1排気経路から分岐してクランク室を経由して他のシリンダに接続される第2排気経路と、各シリンダから大気に開口する排気口に接続される第3排気経路と、前記1つのシリンダに接続された第3排気経路から分岐してクランク室に接続される第4排気経路とからなり、
前記切替弁を操作して、第2排気経路を開放しかつ第4排気経路を閉鎖することにより各シリンダを排気室に対して並列に接続し、第2排気経路を閉鎖し、第4排気経路を開放することにより、各シリンダを排気室に対して直列に接続するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の往復動式真空ポンプ。
【請求項3】
前記切替弁が、第2排気経路、第3排気経路及び第4排気経路に跨って介設されたケーシングと、該ケーシング内に配置され軸方向に移動して両端部で第2排気経路及び第4排気経路を開閉する弁棒と、該弁棒を囲むように配設された差圧室と、該差圧室内を第1空間と第2空間に仕切ると共に該弁棒に一体に接続されたダイヤフラムと、弁棒に対して第4排気経路を閉鎖する方向にバネ力を付勢するバネ体と、前記弁棒の外周面に設けられ弁棒が第4排気経路を閉鎖した時に差圧室とケーシングの境界に位置して第3排気経路を排気口に連通させるくぼみ溝とを備え、第1空間を第2排気経路に連通させると共に、第2空間を第3排気経路を介して排気口に連通させてなり、
該切替弁によって、クランク室が大気圧付近のときは第2排気経路を開放し、かつ第4排気経路を閉鎖すると共に第3排気経路を排気口に連通させ、クランク室が設定圧力以下になると、第2排気経路を閉鎖すると共に第4排気経路を開放するように構成したことを特徴とする請求項2に記載の往復動式真空ポンプ。
【請求項4】
複数のシリンダ及び該シリンダ内を摺動する複数のピストンを備え、該ピストンが単一のクランク室に設けられた単一のクランク軸に接続された往復動式真空ポンプの排気方法において、
排気室が大気圧付近のときは、排気室に対して前記複数のシリンダの圧縮室を並列に接続して排気室内のガスを排気すると共に、
排気室が設定値以下に減圧されたときは、排気室に対して複数のシリンダの圧縮室を直列に接続して排気室内のガスを排気し、
排気経路にクランク室を介在させ、排気室内のガスをクランク室内を通すことによって、シリンダ内の圧縮室とピストン背面側の圧力差を低減するようにしたことを特徴とする往復動式真空ポンプの排気方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−133232(P2009−133232A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308786(P2007−308786)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】