説明

往復型内燃機関

【課題】
本発明は、往復型内燃機関において、シリンダ孔に対するピストンの摺動摩擦力を低減した往復型内燃機関に関するものである。
【解決手段】
ピストンが往復する往復型内燃機関1において、上死点および下死点のいずれか一方または両方の近傍に、シリンダ孔9に対するピストン10の摺動摩擦を低減する摺動摩擦低減手段15、16が設けられたことを特徴とする往復型内燃機関。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復型内燃機関において、シリンダ孔に対するピストンの摺動摩擦力を低減した往復型内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
往復型内燃機関においては、シリンダ孔内をピストンが往復摺動する際に発生する摩擦力により、出力および効率が低下する。
【0003】
前記ピストンの摺動摩擦力が摺動位置によって変化することに着眼して、摺動摩擦力の最も大きい状態における摺動摩擦力を低減した内燃機関が提案された(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−14046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この特許文献1においては、ピストンピンと、クランクピンとを連結するコネクティングロッドが、ピストンピンを中心としてピストンの往復方向に対して最も大きく揺動した状態、すなわち、上死点と下死点の間の略中央部にピストンが位置した状態において、コネクティングロッドのピストンピンからピストンを介してシリンダ孔に加えられる力の内、シリンダ孔半径方向成分が最も大きくなって、摺動摩擦力が最大となり、この状態の摺動摩擦力を低減するために、上死点と下死点の略中央部に位置してシリンダブロックに超音波振動装置が設置されていた。
【0006】
しかし、実際の往復型内燃機関においては、上死点と下死点の間の略中央部にピストンが位置したコネクティングロッド最大揺動角状態におけるシリンダ孔半径方向の側方押し付け力による摩擦力よりも下記の摩擦力の方が大きい。
すなわち、上死点および下死点にピストンが位置した状態における静摩擦係数が他の移動状態における動摩擦係数の約2倍の値となる。また、ピストン周面がシリンダ孔内周面に直接接触することによる前記摩擦力の外に、ピストン周面のピストンリング溝に遊嵌されたピストンリングが、拡張しようとする弾性復元力でシリンダ孔内周面に圧接することにより摩擦力が発生する。
この上死点および下死点における大きな静摩擦力と、ピストンリングによる摩擦力との和は、前述した上死点と下死点との間の略中央部にピストンが位置したコネクティングロッドの揺動に伴なうシリンダ孔半径方向の側方押し付け力による摩擦力よりも大きい。このため、前記特許文献1記載の発明では、往復型内燃機関の出力および効率の向上が充分に達成できなかった。
【0007】
本発明により解決しようとする課題は、このような難点を克服した往復型内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、シリンダ内をピストンが往復摺動する内燃機関において、上記シリンダ内周面のピストン上死点位置および下死点位置のいずれか一方または両方の近傍位置に、シリンダに対するピストンの摺動摩擦を低減する摺動摩擦低減手段が設けられたことを特徴とする往復型内燃機関である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記摺動摩擦低減手段は、超音波加振装置であることを特徴とする請求項1記載の往復型内燃機関である。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記超音波加振装置の加振方向がシリンダ中心線に指向し、かつシリンダ軸線方向に振幅することを特徴とする請求項2記載の往復型内燃機関である。
【0011】
請求項4記載の発明は、シリンダ孔内周面の前記上死点、下死点近傍位置に平均粒径20μm以上の粒子を圧縮空気流と共に投射する投射処理による微細ディンプルが形成されたことを特徴とする請求項1記載の往復型内燃機関である。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記摺動摩擦低減手段は、平均粒径1μm〜20μmの2硫化モリブデン粒子を圧縮空気と共に投射する投射処理でもって形成されたことを特徴とする請求項4記載の往復型内燃機関である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明では、動摩擦係数の略2倍に達する往復型内燃機関の上死点および下死点近傍位置の静摩擦係数が、前記摺動摩擦低減手段により、大幅に減少し、この静摩擦係数の減少により、往復型内燃機関の出力および効率が向上しうる。
【0014】
請求項2記載の発明では、摺動摩擦低減手段が超音波加振装置となるため、内燃機関本体には何等の加工を必要とせず、摺動摩擦力低下効果が得られる。
【0015】
請求項3記載の発明では、シリンダ孔内周面にこれと直角方向、すなわちシリンダ軸線方向に振幅する振動が加えられ、上死点および下死点位置においても、シリンダ孔内周面に対しピストン外周面が常に相対的に摺動する結果、摺動摩擦力が低下する。
【0016】
請求項4記載の発明では、シリンダ孔内周面の上死点、下死点近傍に形成された部分に微細ディンプルが形成されたため、内燃機関には、この微細ディンプルに潤滑油が保持されて、シリンダ孔内周面の上死点、下死点近傍とピストン外周面との摺動摩擦力が低下する。
【0017】
請求項5記載の発明では、自己潤滑性に富んだ2硫化モリブデンがシリンダ孔内周面の表面層内に接着剤等を必要とせずに打ち込まれて、この表面層と一体化されるため、シリンダ孔内周面の上、下死点近傍の部分とピストン外周面との摩擦力が一段と低下し、内燃機関の出力増大と効率向上が達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1ないし図2に図示された本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
図示されない自動車に搭載される内燃機関1は、図2に図示されるように、4気筒直列ストロークサイクル内燃機関で、内燃機関1の本体部分は、シリンダブロック2と、該シリンダブロック2の下部に螺着されるボルト6によって一体に結合されるロアブロック3と、前記シリンダブロック2の上部に一体に結合されるシリンダヘッド4と、該シリンダヘッド4の上部に着脱自在に結合される図示されないシリンダヘッドカバーと、前記ロアブロック3の下部外周に一体に結合される図示されないオイルパンとよりなり、ロアブロック3と一体のクランクシャフトホルダ5と前記シリンダブロック2のクランクシャフト軸受部2aとの間にクランクシャフト7が回転自在に挟持されて枢支されるようになっている。
【0020】
また、シリンダヘッド4には、図2にて、燃焼室8に通じる図示されない吸気ポートおよび排気ポートが左側および右側に形成され、この吸気ポートおよび排気ポートには、これを開閉する吸気弁および排気弁(図示されず)がそれぞれ配設されており、図示されない動弁装置により、これら吸気弁および排気弁は、適切なタイミングで開閉されるようになっている。
【0021】
さらに、シリンダブロック2のシリンダ孔9にはピストン10が上下に摺動自在に嵌装され、ピストン10のピストンピン11とクランクシャフト7のクランクピン(図示されず)とにコネクティングロッド12の上下端部がそれぞれ枢着されており、燃焼室8内に吸入された混合気の燃焼によりピストン10が下降されて、クランクシャフト7が回転駆動されるようになっている。
【0022】
さらにまた、ピストン10の外周面頂部には、3本のピストンリング溝13が上下方向に亘り所要間隔毎に形成され、このピストンリング溝13にピストンリング14が嵌装されており、拡張しようとするピストンリング14の弾性復元力によりピストンリング14がシリンダ孔9の内周面に圧接することでもって、燃焼室8の気密が保持されるようになっている。
【0023】
そして、図2の実線で図示されるように、各シリンダ孔9にそれぞれ嵌装されているピストン10が上死点に位置した状態において、ピストンリング14が位置する近傍のシリンダブロック2の左右両側部に、超音波加振装置15が一体に装着されるとともに、下死点の近傍にも同様に超音波加振装置16が一体に装着され、シリンダヘッド4には、燃焼室8に電極部17aが露出する点火プラグ17が設けられている。
【0024】
ピストン10が上死点または下死点に位置した時に、超音波加振装置15または超音波加振装置16がこれにタイミングを合わせて動作するように、制御装置が下記のように構成されている。
【0025】
制御装置は、点火プラグ17の点火動作を制御するイグニッションコイル駆動用トリガとクランクシャフト7の回転数を検出する回転数センサとからの信号を受けて、超音波加振装置15、16を動作させるタイミング信号を発信させるタイミング回路と、このタイミング回路からのタイミング信号を受信し、所要のタイミングでもってドライバ回路を介して超音波加振装置15、16に電力を供給し、超音波加振装置15、16において超音波を発振させるスイッチング回路とからなっている。
【0026】
図1ないし図2に図示の実施形態は、前述したように構成されているので、ピストン10がシリンダ孔9の上死点または下死点に位置した状態において、超音波加振装置15または超音波加振装置16が動作し、上死点または下死点に位置したピストン10のピストンリング14の近傍のシリンダ孔9の内周面がシリンダ中心線と平行な方向へ超音波加振されるので、たとえピストン10が上死点または下死点において瞬間的に停止しても、ピストン10のピストンリング14の近傍のシリンダ孔9の内周面が静止せず、図2において上下に振動し、シリンダ孔9の内周面とピストン10およびピストンリング14の外周面との摩擦係数が静止摩擦係数迄増大することがなく、その結果、摩擦力増大による出力低下や効率の低下が回避される。
【0027】
このような理由により、図1ないし図2に図示の実施形態では、シリンダ孔9の内周面と、ピストン10の外周面およびピストンリング14の外周面との間の摩擦力低下により、内燃機関1の出力と効率の向上が可能となる。
【0028】
前記実施形態では、超音波加振装置15、16の加振方向を、シリンダ孔9の中心線と平行する方向に指向させたが、超音波加振装置15、16の加振方向をシリンダ孔9の内周面の接線方向に指向させてもよく、この場合には、ピストン10およびピストンリング14の外周面に対し、ピストン10の内周面を接線方向に微細振動させて静摩擦力を消去することができる。
【0029】
図1ないし図2に図示の実施形態では、ピストン10が上死点および下死点に位置した状態において、ピストン10のピストンリング溝13に嵌装されたピストンリング14の近傍に超音波加振装置15および超音波加振装置16を配設したが、図3に図示するように、この状態におけるピストンリング14の近傍に位置し交叉した多数の直線で表示された範囲に亘りシリンダ孔9の内周面に微細なディンプルを形成してもよい。
【0030】
この微細なディンプルが多数分散した18、19を形成するには、平均粒径が20〜60μmのガラスビーズの如き微粒子を圧力1.5〜5.0kg/cmの空気と共にシリンダ孔9の内周面に投射させるとよい。
【0031】
このような方法により、上死点および下死点に位置したピストン10に対向したシリンダ孔9の内周面部分に形成された微細ディンプルには、潤滑油が常時滞溜するため、シリンダ孔9の内周面とピストン10およびピストンリング14の外周面との静摩擦力が著しく低下する結果、内燃機関1の出力および効率の向上が可能となる。
【0032】
また、この実施形態では、ロアブロック3のシリンダ孔9の加工時に、前述した工程を実施すれば、図1ないし図2に図示の実施形態のように、内燃機関1の稼動時に超音波加振装置15、16を動作させる必要がなく、しかも超音波加振装置15、16を必要としないため、構造が簡単となり、コストダウンが可能となる。
【0033】
前述した実施形態では、ガラスビーズの如き微粒子をシリンダ孔9の内周面に投射させたが、純度98.5%以上でかつ平均粒径が200μm以下好ましくは50μmの鱗片状2硫化モリブデンMoSを高圧空気でもって100m/secの速度で投射させてもよい。
【0034】
この実施形態では、自己潤滑性の2硫化モリブデンMoSがシリンダ孔9の内周面に深く打ち込まれるため、この部分の表面硬度が著しく増大するとともに、動摩擦係数および静摩擦係数が大幅に低下し、内燃機関1の出力と効率の向上を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態におけるシリンダブロックの斜視図である。
【図2】図1の縦断面図である。
【図3】他の実施形態におけるシリンダブロックの縦断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1…内燃機関、2…シリンダブロック、3…ロアブロック、4…シリンダヘッド、5…クランクシャフトホルダ、6…ボルト、7…クランクシャフト、8…燃焼室、9…シリンダ孔、10…ピストン、11…ピストンピン、12…コネクティングロッド、13…ピストンリング溝、14…ピストンリング、15、16…超音波加振装置、17…点火プラグ、18、19…ディンプル形成域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内をピストンが往復摺動する内燃機関において、上記シリンダ内周面のピストン上死点位置および下死点位置のいずれか一方または両方の近傍位置に、シリンダに対するピストンの摺動摩擦を低減する摺動摩擦低減手段が設けられたことを特徴とする内燃機関の摺動抵抗低減構造。
【請求項2】
前記摺動摩擦低減手段は、超音波加振装置であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関。
【請求項3】
前記超音波加振装置の加振方向がシリンダ中心線に指向し、かつシリンダ軸線方向に振幅することを特徴とする請求項2記載の往復型内燃機関。
【請求項4】
シリンダ孔内周面の前記上死点、下死点近傍位置に平均粒径20μm以上の粒子を圧縮空気流と共に投射する投射処理による微細ディンプルが形成されたことを特徴とする請求項1記載の往復型内燃機関。
【請求項5】
前記摺動摩擦低減手段は、平均粒径1μm〜20μmの2硫化モリブデン粒子を圧縮空気と共に投射する投射処理でもって形成されたことを特徴とする請求項1記載の往復型内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−29168(P2006−29168A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207538(P2004−207538)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】