説明

後端小旋回油圧ショベル

エンジンの整備性を向上し、運転席足元に広いスペースを確保できる後端小旋回油圧ショベルを提供する。このために、オペレータシート(21)の下方にエンジン(13)を配設した。また、オペレータシート(21)を支持するフロアフレーム(30)でエンジンの前面隔壁(33b)と上面隔壁(33a)を構成した。さらに、フロアフレーム(30)をチルトアップ可能とした。さらにまた、フロアフレーム(30)側の機器(41)等に接続する配管(42)及び配線(46)を、チルトアップ支点の軸線近傍を通過するように配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、後端小旋回油圧ショベルに関する。
【背景技術】
後端小旋回油圧ショベルは、周知のとおり、上部旋回体の後端部の旋回軌跡を、上方から見て下部走行体の左右外幅以内にする形状とし、それによって、市街地の建物側壁に沿った作業を可能にしており、またその場合に、作業機を下部走行体の左右外幅寄りにオフセットさせて、建物側壁に沿った側溝掘削を可能とした所謂スイング式作業機を装着しているものが一般的である。
その結果、上部旋回体は、上方から見てその面積が狭い略円形形状となり、その狭い略円形の上部旋回体の前部に前記スイング式作業機を取着し、残る面積の中にエンジン、カウンタウエイト、運転席及びその他の機器を配設して、コンパクトな上部旋回体を構成するように工夫がなされている。
なお上記において、説明を簡潔にするために、運転席と言うときは、座席と、該座席の前方で、オペレータの足を置く足元フロア部と、操作レバー等を有する操作装置との、オペレータの居住範囲を総称するものとし、座席のみを指す時にはオペレータシートと称して区別するものとし、以下においても同様とする。
図4〜図5により、従来技術に係る後端小旋回油圧ショベルの例を説明する。図4は従来技術に係る後端小旋回油圧ショベルの側面図、図5は油圧ショベルの要部上面図である。
図4〜図5において、後端小旋回油圧ショベル2は、下部走行体3の上部に上部旋回体50を旋回自在に搭載しており、上部旋回体50の後端部の旋回半径Rの軌跡は、下部走行体3の左右外幅B以内に収める構造としている。
上部旋回体50は、底部に旋回フレーム51を有しており、旋回フレーム51の前部には、スイングシリンダ4aによって左右スイング可能としたスイングブラケット4を介して、作業機5が上下揺動自在に取着されている。また、作業機5とバランスをとる目的で、旋回フレーム51の後部には、後端部にカウンタウエイト12が、該カウンタウエイト12の前近傍にエンジン13がそれぞれ配設されている。さらに、エンジン13の近傍で、旋回フレーム51の上部にはフレーム52が立設されており、フレーム52にエンジン13の側面隔壁53、上面隔壁54及び前面隔壁55がそれぞれ取着されている。
また、上記前面隔壁55の前方には、オペレータシート21と、該オペレータシート21を支持するフロアフレーム61と、フロアフレーム61の前部に配設された作業機用の操作レバー22とで構成した運転席60が設けられ、運転席60の右方に隣接して機器室17が配設され、機器室17内には燃料タンク、作動油タンク及びメイン操作弁等(いずれも図示せず。)が配設されている。また、フロアフレーム61に配設された操作レバー22に接続されたパイロット式比例操作弁41及び図示しない他の機器等がフロアフレーム61よりも下方の旋回フレーム51の空間に配設されている。
また、エンジン13の日常点検を可能とするために、カウンタウエイト12の高さHを抑制して、カウンタウエイト12の上方に点検カバー16が、図4中2点鎖線で示す如く上下方向に開閉自在に取着されている。さらに、パイロット式比例操作弁41等の点検を可能とするために、フロアフレーム61には開口孔を形成し、該開口孔を覆うように点検蓋61aが着脱可能に取着されている。
さらに、上部旋回体50の前面Qの前方への張出しが抑制され、かつ作業機5のスイング中心Pの前方への張出し位置が抑制されており、これによって、スイング中心Pから前方の作業機5の長さ(以下、リーチと言う。)を犠牲にすることなく、車両の安定性向上が図られている。
図4〜5における上記構成において、後端小旋回油圧ショベル2は、市街地の建物側壁に沿って作業を行う際に、上部旋回体50の後端部が建物側壁に干渉することがなく、またスイング式作業機5を所定角度スイングさせ、かつ上部旋回体50を所定角度旋回させることによって、建物側壁に沿った側溝掘削を行うことが可能であり、さらに、スイング中心Pの前方への張出し位置を抑制した配置によって、良好な車両安定性が確保されている。
なお、上記の後端小旋回油圧ショベル2の構成においては、操作レバー22に接続され、かつフロアフレーム61下方に配設されたパイロット式比例操作弁41等の点検のために点検蓋61aが設けられている。他の従来例として、例えば日本特開2000−72048号公報の第3〜4頁、第4図には、後端小旋回油圧ショベルに限定しない油圧ショベルにおいて、チルトアップ自在に設けられたキャブの運転席に配設された操作レバーとリンクを介して連結され、かつ運転席の底板(フロアプレートに相当する)下方の旋回フレームに配設された操作弁に係わり、操作レバーとリンクとの結合点を運転席底板のチルトアップの支点中心と一致させることによって、運転席底板をチルトアップした状態でも、操作レバーを操作しながら前記操作弁の機能確認が可能であるとする構造が記載されている。
しかしながら、上記図4、図5により示した従来技術に係る後端小旋回油圧ショベル2において、上部旋回体50をコンパクトに構成した結果として幾つかの問題がある。
第1の問題として、エンジン13へのアクセスは点検カバー16を開けた開口部からのみ可能であるため、エンジン13の予定された点検整備箇所以外の箇所で故障が発生した場合には、エンジン13周辺部材の取外し又はエンジン13の吊り上げが必要となる確率が高く、従って修理工場への搬入が必要となり、修理費用及び稼動休止損失の増大を招くという問題がある。
また第2の問題として、前述の車両安定性を確保する必要から上部旋回体50の前面Qの前方への張出しが抑制されており、このため、運転席60の足元S(図5参照)の床面積が狭いので、オペレータは足の置換えの自由度が少なくて疲労し易い。さらに同じ理由で、オペレータの体格差に合せてオペレータシート21の図示しない調整機構を調整しても、その効果が限定されている。これらの結果、運転席60の構成では良好な座り心地を実現することが困難であるいう問題がある。
【発明の開示】
本発明は、上記の問題点に着目してなされたものであり、エンジンの整備性を向上し、運転席足元に広いスペースを確保できる後端小旋回油圧ショベルを提供することを目的としている。
上記の目的を達成するために、第1構成は、後端小旋回油圧ショベルにおいて、オペレータシートの下方にエンジンを配設している。
第1構成によると、オペレータシートとエンジンを前後に並べて配置しないから、オペレータシートの設置位置を自由に設定することができる。これにより、運転席足元のスペース(床面積)を広く確保できる。
第2構成は、第1構成において、オペレータシートを支持するフロアフレームはエンジンの前面隔壁と上面隔壁を構成している。
第2構成によると、第1構成における効果に加えて、次の効果が得られる。
(1)フロアフレームを取外す(実施形態ではチルトアップさせている)だけでエンジンの略全体が露出するから、エンジンの整備性を大幅に向上できる。
(2)エンジンの前面隔壁と上面隔壁をフロアフレームとは別体で設ける必要が無いため、フロアフレーム、エンジン隔壁の取付等、上部旋回体構造が簡潔になり、その結果、組立工数の低減、および部品点数の低減ができる。
第3構成は、第1構成又は第2構成において、オペレータシートを支持するフロアフレームはチルトアップ可能である構成としている。
第3構成によると、第1構成又は第2構成における効果に加えて、次の効果が得られる。
(1)整備用のクレーン等を必要とすることなく、フロアフレームをチルトアップさせるだけでエンジンの略全体を露出させることが可能となり、これによって、修理工場へ搬入することなく稼動現場での修理、メンテナンスが可能となる。これにより、修理費用及び稼動停止損失を大幅に低減できる。
(2)フロアフレーム上に設けてある運転席も同時にチルトアップするから、運転席の足元部下方の旋回フレーム空間に配設された操作弁及びその他の機器の整備性も大幅に向上できる。
第4構成は、第3構成において、フロアフレーム側の機器等に接続する配管及び配線を、チルトアップ支点の軸線近傍を通過するように配設している。
第4構成によると、第3構成における効果に加えて、次の効果が得られる。
(1)フロアフレームのチルトアップによる配管及び配線の経路長の変化が少ないため、チルトアップによる配管及び配線の緊張又はたるみが発生しない。これにより、配管及び配線を接続したままでフロアフレームのチルトアップが可能であり、従って、フロアフレームがチルトアップ状態であっても、フロアフレーム側の機器等は機能を維持することができ、よって、エンジン及び機器類の故障診断が容易となって、整備性を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明に係る後端小旋回油圧ショベルの要部側面図である。
図2は図1の後端小旋回油圧ショベルの要部上面図である。
図3は図1の後端小旋回油圧ショベルの整備状態の要部側面図である。
図4は従来技術に係る後端小旋回油圧ショベルの側面図である。
図5は図4の後端小旋回油圧ショベルの要部上面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本願発明に係る後端小旋回油圧ショベルの実施形態について、図1〜図3を参照して詳述する。
図1は本発明に係る後端小旋回油圧ショベルの要部側面図、図2は同油圧ショベルの要部上面図、図3は同油圧ショベルの整備状態の要部側面図である。なお、図4、図5に記載の構成要素と略同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付して以下での説明を省略する。
図1〜図3において、後端小旋回油圧ショベル1は、下部走行体3の上部に、後端部の旋回半径Rの軌跡を下部走行体3の左右外幅B以内に収める構成とした上部旋回体10を旋回自在に搭載している。
上部旋回体10は、底部に旋回フレーム11を有しており、旋回フレーム11の前部には、左右スイング自在に取着されたスイングブラケット4を介して作業機5が上下揺動自在に取着されている。また、作業機5とバランスをとるために、旋回フレーム11の後部には、後端部にカウンタウエイト12を、該カウンタウエイト12の前方近傍にエンジン13をそれぞれ配設している。さらに、エンジン13の近傍で、旋回フレーム11の上部にはフレーム14が立設され、フレーム14にエンジン13の側面隔壁15と後部点検カバー16がそれぞれ取着されている。
また、エンジン13の上方で、前寄りの位置にはオペレータシート21が配置され、オペレータシート21をフロアフレーム30で支持しており、フロアフレーム30の前部には操作レバー22を配設している。これらのオペレータシート21、フロアフレーム30及び操作レバー22により運転席20を構成している。
また、フロアフレーム30は、左右の側板31,32と、これら両者間を結合するフロアプレート33とで構成しており、フロアプレート33は側面視(図1参照)で段付形状をなし、その後部33aでエンジン13の上面隔壁33aを、中央部33bでエンジン13の前面隔壁33bを、そして前部33cで運転席床板33cをそれぞれ構成している。
また、フロアフレーム30の前側下部左右にブラケット30a,30aを取着しており、ブラケット30a,30aを、旋回フレーム11の前部に設けたブラケット11a,11aにピン30b,30bで回動可能に結合している。さらに、フロアフレーム30の後端部に取着したフランジ部30cをフレーム14にボルト30dで着脱可能に締結している。これらによって、フロアフレーム30を、ボルト30dを取外してピン30b,30bを支点にしてチルトアップ(図3に示す状態)させることを可能にしている。
さらに、操作レバー22の下端部に接続されたパイロット式比例操作弁41がフロアフレーム30の下面部に取着されており、該パイロット式比例操作弁41に接続する配管(油圧ホース)42をチルトアップ支点即ちピン30bの軸線近傍を通過するように配設し、クランプ42aによって旋回フレーム11に固定している。また同様に、フロアフレーム30上に設置された図示しない操作パネル等の機器に接続する配線(ワイヤハーネス)46を上記チルトアップ支点の軸線近傍を通過するように配設し、クランプ46a,46bによってそれぞれフロアフレーム30、旋回フレーム11に固定している。これによって、フロアフレーム30のチルトアップによる配管42及び配線46の経路長の変化を少なくして、チルトアップによる配管及び配線の緊張又はたるみが発生しない(図3参照)ようにしている。
図1〜図3に示す実施形態の構成によると、次の作用及び効果が得られる。
(1)エンジン13の上方前寄りにオペレータシート21を配置したことによって、オペレータシート21はエンジン13に制約されることなくその前後方向位置が自由に設定される。その結果、図2に示す如く、運転席20の足元Sのスペース(床面積)が広く確保でき、オペレータシート21の図示しない調整機構と併用すると、オペレータの体格差に合せた良好な座り心地が得られる。
(2)フロアフレーム30を構成するフロアプレート33の、後部33aでエンジン13の上面隔壁33aを、中央部33bでエンジン13の前面隔壁33bを、それぞれ構成したことにより、フロアフレーム30を取外す(上記実施形態ではチルトアップさせる)だけでエンジン13の略全体を露出させることができ、これにより、エンジン13の整備性を大幅に向上できる。
また、エンジン13の上面隔壁33aと前面隔壁33bを、一体で設け、かつフロアフレーム30と別体で設けてはいないから、フロアフレーム30、エンジン隔壁の取付構造など、上部旋回体10の構造が簡潔になっており、その結果、組立工数および部品点数を低減できる。
(3)フロアフレーム30をチルトアップ可能としたことによって、図3に示す如く、整備用のクレーン等を用いることなく、フロアフレーム30をチルトアップさせるだけでエンジン13の略全体を外部に露出させることが可能となっており、これによって、修理工場へ搬入することなく稼動現場での修理やメンテナンスが可能となる。この結果、修理費用及び稼動停止損失の大幅な低減が図れる。また、運転席20の足元部よりも下方で、かつ旋回フレーム11の空間に配設されているパイロット式比例操作弁41、及びその他の図示しない機器の整備性も、上記と同様に大幅に向上できる。
(4)フロアフレーム30側に配設したパイロット式比例操作弁41及び他の図示しない機器等に接続する配管(油圧ホース)42及び配線(ワイヤハーネス)46を、チルトアップ支点の軸線近傍を通過するように配設したことによって、配管42及び配線46を接続したままでフロアフレーム30のチルトアップを可能としている。従って、フロアフレーム30のチルトアップ中であっても、フロアフレーム30側の機器等は機能を維持することが可能であるから、エンジン及び機器類の故障診断が容易となり、これにより整備性を大幅に向上できる。
なお、上記実施形態では、フロアフレーム30上の機器に接続する配管及び配線として油圧ホース42及びワイヤハーネス46の例で説明したが、これに限ることなく、例えばフロアフレーム30上にキャビンとオートエアコン(いずれも図示せず。)を搭載した時の冷媒配管、温水配管及び温度センサ用配線等も同様にしてよい。
また、フロアフレーム30をチルトアップさせる際に、ガス圧、油圧、バネ力、送りネジ、及びバランスウエイトのうちの少なくともいずれか一つを利用した省力手段(いずれも図示せず。)を用いてよい。
以上の結果、後端小旋回油圧ショベルにおいて、エンジンの整備性を大幅に向上し、運転席足元部の広いスペースを確保できる後端小旋回油圧ショベルをコンパクトに構成できる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、エンジンの整備性を向上し、運転席足元に広いスペースを確保できる後端小旋回油圧ショベルとして有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペレータシート(21)の下方にエンジン(13)を配置した後端小旋回油圧ショベルにおいて、
オペレータシート(21)を支持するフロアフレーム(30)は、エンジン前面隔壁(33b)と上面隔壁(33a)と運転席床板(33c)との段付形状で構成した
ことを特徴とする後端小旋回油圧ショベル。
【請求項2】
請求の範囲1記載の後端小旋回油圧ショベルにおいて、
オペレータを支持するフロアフレームは、前方に設けたチルトアップ支点を中心として、フロアフレーム後方が上昇する
ことを特徴とする後端小旋回油圧ショベル。
【請求項3】
請求の範囲1又は2記載の後端小旋回油圧ショベルにおいて、
フロアフレーム(30)側の機器(41)等に接続する配管(42)及び配線(46)を、チルトアップ支点の軸線近傍を通過するように配設した
ことを特徴とする後端小旋回油圧ショベル。

【国際公開番号】WO2004/076265
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502949(P2005−502949)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002368
【国際出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】