説明

復水脱塩器からのアンモニア含有再生廃液の処理方法及び処理装置

【課題】原子力発電プラントの脱塩器からの再生廃液の処理において、再生廃液中のアンモニアを効率的に除去して放射性廃棄物の発生量を低減することができる方法を提供する。
【解決手段】原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理方法であって、排出されたアンモニア含有再生廃液にアルカリを添加する工程と、加熱下に空気を通気してアンモニアを気相分離させる工程と、生じたアンモニアガスを触媒で分解する工程とを含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントの復水を浄化するために用いられる復水脱塩器の再生処理時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電は、原子炉圧力容器で水を蒸気に変換し、発生した蒸気でタービンを回転させることにより発電を行う。
【0003】
一般的な沸騰水型原子力プラントを図1に示す。沸騰水型原子力プラントは復水冷却器12と復水脱塩器3と給水ポンプ4と給水加熱器5と核燃料の装荷された原子炉圧力容器1を給水系配管6で接続し、原子炉圧力容器1とタービン2を主蒸気配管13で接続することにより閉ループを構成する。原子炉冷却剤として水を使い、原子炉圧力容器1で水を蒸気にして、蒸気を使ってタービンを回転させ、発電機(図示せず)を回転させて発電を行う。蒸気は復水冷却器12で水に戻されて復水ろ過脱塩器3で不純物が除去され、最終的に給水ポンプ4で給水過熱器5を通して原子炉圧力容器1に戻される。
【0004】
プラント運転中、原子炉冷却水は高温となり(本発明では100℃以上を高温とし、定格出力運転時の炉心出口温度は288℃)、炉心の強いガンマ線及び中性子線の作用により放射線分解して放射線分解生成物である酸素及び過酸化水素が数百ppb程度生成する。炉内構造物や圧力境界を構成する構造材料(ステンレス、ニッケル基合金)はこのような放射線分解生成物を含む高温の原子炉冷却水に曝されることになる。
【0005】
原子炉冷却水中の酸素及び過酸化水素等を低減するために、水素を注入して過酸化水素及び酸素等を低減する方法が知られている(特許第2865726号)。
【0006】
この他に、原子炉冷却水中の酸素及び過酸化水素等を低減する方法としては、炉水中に水素と還元性窒素化合物(例えば、ヒドラジン)を注入する方法が提案されている(特開2005−43051号)。この方法は、タービン系の線量上昇を抑制し、かつ原子炉水全体の酸化剤濃度を低減できることから、将来の炉水環境改善技術として注目されている。
【0007】
ヒドラジンは、原子炉に注入した場合、酸素及び過酸化水素と式1、式2のように反応し、pHや導電率に影響しない窒素分子及び水になるので原子炉水中の酸化剤濃度を低減することが可能となる。ヒドラジンは水素と比較すると酸素及び過酸化水素との反応速度が速く、速やかに反応して窒素と水になる。
+ O → N + 2HO ・・・・・式1
+ 2H → N + 4HO・・・式2
【0008】
ところで、ヒドラジンはγ線照射を受けると式3の反応を起こして窒素以外にアンモニア及び水素を放出する。
→ NH +(1/2)N + (1/2)H ・・・式3
【0009】
このようにヒドラジン等の還元性窒素化合物の注入を行った場合には、極微量のアンモニアが生成してプラント内に分布することになる。
【0010】
廃液からアンモニアを除去する方法としては、例えば、アンモニア含有廃液にアルカリ薬品を添加してpHを10以上にすることによりアンモニアガスを気相分離させる方法が知られている(例えば、特開平10−5947、特開平11−347535)。さらに、大気中にアンモニア含有廃液を噴霧して、廃液と空気との接触面積を増加させることにより廃液中のアンモニアを効果的に気相に移行させる方法も知られている(例えば、特開2001−104943、特開平10−5747)。そして、気相分離したアンモニアガスは、次亜臭素酸溶液に接触させ分解させる方法(例えば、特開平7−31966)、直接燃焼法(特開平7−11665)、及び触媒を用いた熱分解法(例えば、特開平11−347535)等により分解される。
【0011】
上述のように、原子力発電プラントにおいて還元性窒素化合物(ヒドラジン等)を注入した場合には、副生成物として微量のアンモニアが生成する。原子炉内で生成したアンモニアは蒸気とともにタービンへ移行し、復水器で再び凝縮水(以下復水と呼ぶ)に溶解する。
【0012】
復水に溶解したアンモニアは復水中の腐食性生物や不純物等を除去するために設けられている復水脱塩器のイオン交換樹脂に吸着されて復水から除去される。一般に、原子力発電プラントに使用される復水脱塩器のイオン交換容量は非常に大きく、イオン交換容量の点から見れば長期間の連続使用も可能であるが、復水中の低濃度の腐食生成物や不純物でも効率的に除去する必要があり、常に高いレベルのイオン交換能力を維持しておかなければならないので、定期的に復水脱塩器のイオン交換樹脂の再生処理を行なわなければならない。
【0013】
イオン交換樹脂の再生処理はイオン交換樹脂を化学洗浄液で化学洗浄することにより行われる。イオン交換樹脂に吸着したアンモニアは、イオン交換樹脂を化学洗浄することにより化学洗浄廃液(以下、「再生廃液」又は「再生水」とも言う)中に移行する。この再生廃液は水分を蒸発させることにより濃縮・減容され、濃縮廃液はセメント又はその他の固化材と混合されて安定化処理される。
【0014】
一方、再生廃液の蒸発留分には水やアンモニアが含まれており、これは凝縮器により再度液体に戻される。この凝縮水はアンモニアやその他の不純物等を除去するために最終的にイオン交換樹脂等でさらに処理される。
【0015】
再生廃液(凝縮水)中のアンモニア含量が多いとその除去に必要なイオン交換樹脂量も多くなる。この使用済みのイオン交換樹脂は放射性廃棄物として処理されるが、放射性廃棄物の処理には手間がかかり、またコストが高いため、放射性廃棄物の発生量を少なくすることが重要である。
【0016】
アンモニア含有廃液の処理方法としては、例えば、特開平7−100466号公報、特開平7−275896号公報、及び特開平08−39081号公報等に記載の方法が挙げられる。しかしながら、放射性廃棄物の発生量の低減を目的として、原子力発電プラントの脱塩装置の再生時に排出される再生廃液からアンモニアを効率的に除去する方法については知られていない。
【0017】
【特許文献1】特開平7−100466号公報
【特許文献2】特開平7−275896号公報
【特許文献3】特開平08−39081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述のように、原子力発電プラントの脱塩器からの再生廃液の処理において、再生廃液中のアンモニアの除去のために使用されるイオン交換樹脂が放射性廃棄物として多量に発生することが問題であった。
【0019】
本発明は、原子力発電プラントの脱塩器からの再生廃液の処理において、再生廃液中のアンモニアを効率的に除去して放射性廃棄物の発生量を低減することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、再生廃液をアルカリで処理するか、又は電気再生式純水装置で処理することにより、再生廃液中のアンモニアを気相分離させて安全に且つ簡便に処理することができ、処理に手間及びコストのかかる放射性廃棄物の発生量を大幅に低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理方法であって、排出されたアンモニア含有再生廃液にアルカリを添加する工程と、加熱下に空気を通気してアンモニアを気相分離させる工程と、生じたアンモニアガスを触媒で分解する工程とを含む前記方法。
(2)アルカリ添加工程において該再生廃液のpHを11〜12.5に調整することを特徴とする前記(1)記載の方法。
(3)再生廃液を60℃以上に加熱することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)再生廃液中のアンモニア濃度を1ppm以下とした後に、酸を添加して再生廃液のpHを5〜9に調整する工程をさらに含む前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)気相分離したアンモニアガスを触媒で分解する工程が、250〜300℃において、アンモニアガスの1時間あたりの供給速度を触媒体積の1/15000以下として行われることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理方法であって、排出されたアンモニア含有再生廃液を加熱して蒸発させる工程と、蒸発した蒸気を冷却して凝縮水とする工程と、凝縮水を電極と陽イオン交換膜とを備えた電気再生式純水装置に通して陰極側にアンモニア濃縮水を生成させる工程と、気相分離したアンモニアガスを触媒で分解する工程とを含む前記方法。
(7)電気再生式純水装置の陰極側に生成するアンモニア濃縮水を前記凝縮水に循環させることにより、凝縮水中のアンモニア濃度を高めてアンモニアを気相分離させることを含む前記(6)記載の方法。
(8)凝縮水に空気を通気する、及び/又は凝縮水を加熱することを含む前記(6)又は(7)に記載の方法。
(9)気相分離したアンモニアガスを触媒で分解する工程が、250〜300℃において、アンモニアガスの1時間あたりの供給速度を触媒体積の1/15000以下として行われることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理装置であって、排出されたアンモニア含有再生廃液を受け入れる回収タンクと、回収タンク中の再生廃液へ添加するアルカリを貯蔵するタンクと、回収タンク中の再生廃液を加熱するための加熱装置と、回収タンク中の再生廃液に空気を通気する装置と、再生廃液から気相分離したアンモニアガスを分解する触媒とを備えた前記装置。
(11)原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理装置であって、排出されたアンモニア含有再生廃液の加熱蒸発装置と、加熱蒸発装置からの蒸気を冷却する凝縮器と、凝縮器からの凝縮水を受け入れる凝縮水タンクと、凝縮水からアンモニア濃縮水を生成させるための電気再生式純水装置と、気相分離したアンモニアガスを分解する触媒とを備えた前記装置。
(12)電気再生式純水装置で生成するアンモニア濃縮水が凝縮水タンクに循環するように配管を備えた前記(11)記載の装置。
【発明の効果】
【0022】
原子力発電プラントの復水脱塩器のイオン交換樹脂の再生時に排出される再生廃液をアルカリ又は電気再生式純水装置で処理することにより、再生廃液中のアンモニアを気相分離させることにより、これまでアンモニアの除去のために大量に使用されていたイオン交換樹脂の量を減らすことができ、それにより放射性廃棄物の発生量や廃棄コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
一般的な原子力発電プラント(沸騰水型原子力プラント)の復水脱塩装置のイオン交換樹脂の再生設備及び再生廃液の処理設備(廃棄物処理系)、並びにイオン交換樹脂の再生方法について図5に図示する。
【0024】
復水は復水配管32を通って複数の脱塩塔で構成された復水脱塩器3へ流れ、復水脱塩器3に設けられたイオン交換樹脂等により復水中の腐食生成物等の不純物が除去される。腐食生成物吸着等により復水脱塩器中のイオン交換樹脂が劣化し、その浄化性能が低下したら、脱塩塔を復水系から切り離してイオン交換樹脂の再生操作を行う。復水脱塩器にはカチオン樹脂およびアニオン樹脂を混合して充填されているため、イオン交換樹脂の再生はカチオン樹脂とアニオン樹脂とに分離して行われる。まず、イオン交換樹脂を脱塩器3から配管33を通してイオン交換樹脂分離/カチオン樹脂洗浄塔21に移送する。イオン交換樹脂分離/カチオン樹脂洗浄塔21内で、比重が小さいアニオン樹脂が上層に、比重が大きいカチオン樹脂が下層に分離する。上層のアニオン樹脂は配管34を経由してアニオン樹脂再生塔22へ送られる。カチオン樹脂はイオン交換樹脂分離/カチオン樹脂洗浄塔21にそのまま残し、これに硫酸貯槽タンク24から再生薬品である硫酸が供給される。カチオン樹脂を洗浄した硫酸は配管40を経由して化学洗浄廃液(再生廃液)回収タンク26へ回収される。同様にアニオン樹脂には、苛性ソーダ貯槽タンク25より苛性ソーダがアニオン樹脂再生塔22へ送られる。アニオン樹脂の再生に使用された苛性ソーダは再生廃液回収タンク26へ回収される。硫酸及び苛性ソーダにより再生されたイオン交換樹脂は、水洗された後に配管35および36を経由して樹脂貯槽タンク23へ移送されて混合され、配管37を経由して復水脱塩器3へ戻り、イオン交換樹脂の再生操作が完了する。
【0025】
再生廃液回収タンクの再生廃液は蒸発濃縮器27に送られて沸騰加熱され、蒸気と化学洗浄薬品の濃縮液とに分離される。化学洗浄薬品の濃縮液は廃棄物固化設備(図示せず)に送られ、セメント等の固化材と混合されてドラム缶に充填する。再生廃液から蒸発した蒸気は凝縮器28で冷却されて凝縮水となり、凝縮水回収タンク29に回収される。次いで、凝縮水は低電導度廃液収集タンク30へ送られ、廃棄物処理系脱塩器31で再び浄化され、配管44より補給水貯槽(図示せず)に貯蔵される。
【0026】
本発明の処理方法は、原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されたアンモニア含有再生廃液にアルカリを添加し、これに加熱下に空気を通気してアンモニアを気相分離させて、生じたアンモニアガスを触媒で分解することを含む。
【0027】
再生廃液からアンモニアを気相分離させるためには、アンモニアよりも強いアルカリを添加することが好ましい。そのようなアルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。
【0028】
本発明者らはアルカリの添加量及び処理温度とアンモニアの気相分離量との関係について検討した。イオン交換樹脂の再生廃液を模したアンモニア含有試験溶液(硫酸:3.4%、NH:480ppmを含有する)にアルカリ(NaOH)を添加して試験溶液を所定のpH及び温度に調整し、試験溶液中のNH濃度を測定することによりアンモニアガスの気相分離量を調べた。その結果を図2に示す。
【0029】
図2の結果から、試験溶液の温度を40℃又は50℃とした場合は、試験溶液のpHを13まで上昇させると、試験溶液中のほとんどのアンモニア(NHイオン、NH)が気相分離してアンモニアガスとして分離されることがわかった。また、試験溶液の温度を60℃とした場合には、試験溶液のpHは12.5まで上昇させることにより試験溶液中のアンモニアを気相分離することが可能となる。さらに、再生廃液に空気を通気(バブリング)する操作を同時に行うとpH11以上で十分アンモニアを気相分離できることが分かった。しかしながら、25℃以下ではpHを上昇させてもアンモニアガスの気相分離量はそれほど増加しなかった。
【0030】
なお、アンモニアを分離した後の再生廃液は通常蒸発濃縮処理されるが、蒸発濃縮器のアルカリによる腐食を抑制するために、蒸発濃縮器に送る前の廃液を酸で中和しておく必要がある。このため、再生廃液にアルカリを添加してアンモニアを気相分離させた後、該廃液に硫酸等の酸を添加して廃液のpHを5〜9、好ましくは8〜9の範囲に中和する。
【0031】
ところで、添加されたアルカリ及び酸は後の蒸発濃縮工程により濃縮されて放射性廃棄物として廃棄されるが、添加されるアルカリの量が多いと、その中和に必要となる酸の添加量も多くなり、その結果放射性廃棄物量が増大することになるので、再生廃液へのアルカリの添加量はできるだけ少なくすることが好ましい。図2の結果からも分かるように、再生廃液の処理温度を60℃とし、空気をバブリングしながら行えば、再生溶液のpHが13以下、好ましくはpHが11〜12.5でも効果的にアンモニアガスを気相分離させることができ、アルカリの添加量を少なくすることができる。
【0032】
処理前の再生廃液中のアンモニア濃度は通常100〜500ppmであるが、上記のようにしてアルカリ処理することにより再生廃液中のアンモニア濃度は大幅に低減される。本発明では、再生廃液中のアンモニア濃度を1ppm以下とすることが好ましい。
【0033】
さらに本発明は、原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されたアンモニア含有再生廃液を蒸発濃縮器で加熱蒸発させ、蒸発した蒸気を冷却して凝縮水とし、この凝縮水を電極と陽イオン交換膜とを備えた電気再生式純水装置に通して陰極側にアンモニア濃縮水を生成させ、気相分離したアンモニアガスを触媒で分解することを含む再生廃液の処理方法を提供する。
【0034】
この方法では、まず復水脱塩器の再生時に排出されたアンモニア含有再生廃液は蒸発濃縮器により濃縮廃液と蒸発留分廃液とに分離される。アンモニアは水とともに蒸発して蒸発留分廃液へと移り、この蒸発した再生廃液は凝縮器により冷却されて凝縮水となり凝縮水タンクに受け入れられる。次いで、凝縮水を陽イオン交換膜を備えた電気再生式純水装置に通して通電することにより、陰極側にアンモニア成分(アンモニウムイオン)を濃縮させて凝縮水中のアンモニア濃度を高めることによりアンモニアを気相分離させる。
【0035】
電気再生式純水装置は図3に示すように、陽極16と陰極17との間に陽イオン交換膜18を配置した装置である。陽イオン交換膜は、陽イオンを容易に通過させるが陰イオンは通過させない性質を有している。電気再生式純水装置の陽極及び陰極に直流電圧を印加すると、電気再生式純水装置内の陽極側の脱塩室19に存在するアンモニウムイオンは陰極に引き寄せられて陽イオン交換膜を通り抜けて濃縮室20に移動し、濃縮室20内にはアンモニア(アンモニウムイオン)濃度が高められたアンモニア濃縮水が生成する。アンモニア濃縮水中のアンモニア濃度が高くなるとアンモニアが気相分離してくるので、これを捕捉して触媒等で分解する。
【0036】
好ましくは、濃縮室20内のアンモニア濃縮水を凝縮水タンクに戻し、再度電気再生式純粋装置に通すという循環運転を行う。これにより凝縮水タンク中のアンモニア濃度を効率的に高めることができる。
【0037】
さらには凝縮水タンクの凝縮水に空気を通気する及び/又は加熱することにより、凝縮水中のアンモニアの気相分離の効率を相乗的に向上することができる。
【0038】
電気再生式純水装置を用いる方法では、アルカリ等の化学薬品を添加する必要が無いので、廃棄物量が増大することを抑制できるという利点がある。
【0039】
上記のようにして気相分離したアンモニアガスは公知の方法により処理する。アンモニアガスの処理方法としては、例えば、触媒を用いる熱分解が挙げられる。本発明者らは、白金触媒を用いて触媒の温度又はアンモニアガス供給量とアンモニア分解能力との関係について検討したところ、白金触媒の温度が200℃の場合ではアンモニアはほとんど分解されないが、触媒温度を250℃に加熱して行った場合ではアンモニアガスが効率的に分解されることが分かった。特に、1時間当りのアンモニアガスの供給速度(cm/h)を触媒容積(cm)の1/15000以下として触媒に通気することにより、触媒塔出口アンモニア濃度を0.1%以下にまで低減できることを確認した。
【0040】
好適には、アンモニアガスの分解触媒として白金等の貴金属触媒を使用する場合は触媒を220〜350℃、好ましくは200〜300℃に加熱して行う。また、銅やクロム等の遷移金属触媒を用いて行う場合には、触媒の温度は300〜400℃とすることが好ましい。
【0041】
以上の方法により原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液を処理することにより、再生廃液中のアンモニアを安全且つ簡便に処理できるとともに、放射性廃棄物の発生量を大幅に低減することができる。
【実施例】
【0042】
実施例1:アルカリの添加による再生廃液の処理
第1の実施例として、再生廃液回収タンクにおいてpH調整することにより再生廃液中のアンモニアを気相分離する方法を説明する(図6)。
【0043】
炉水中に生成した酸素や過酸化水素等を還元するためにヒドラジン等の還元性窒素化合物を注入するプラントでは窒素や水の他に副生成物として微量のアンモニアも生成する。アンモニアは復水脱塩器のイオン交換樹脂に吸着されて炉水から除去される。アンモニア等が吸着したイオン交換樹脂は硫酸及び苛性ソーダを用いて洗浄・再生され、その廃液(再生廃液)は再生廃液回収タンク26に回収される。
【0044】
再生廃液中のアンモニアを気相分離させるために、苛性ソーダ貯槽タンク25から苛性ソーダを再生廃液回収タンク26中の再生廃液に添加する。再生廃液回収タンク26に設けたpH計51により再生廃液のpHを確認し、再生廃液のpHが11〜12.5の範囲になるまで苛性ソーダを添加する。
【0045】
次に、再生廃液回収タンクに設けたヒータ46により、再生廃液の温度を60℃まで昇温する。同時に、空気供給配管45より再生廃液回収タンクに空気を供給(バブリング)し、アンモニアの気相分離を促進させる。
【0046】
廃液回収タンク26上部の空間に気相分離したアンモニアはファン47で触媒分解塔48に送る。触媒分解塔48は触媒を加熱するためのヒータを有し、触媒は所定の温度に加熱される。触媒分解塔の温度は、白金等の貴金属が付着した触媒の場合は250℃から300℃の範囲に設定することが望ましく、銅およびクロム等の遷移金属が付着した触媒を用いる場合には300℃から400℃に設定することが望ましい。触媒分解塔出口ガスは、冷却器49により60℃以下まで冷却したのち、発電所の換気空調系に送る。
【0047】
再生廃液からのアンモニアの気相分離が終了したかどうかは、再生廃液回収タンク中の再生廃液をサンプリングしてアンモニア濃度を測定することにより確認することが望ましい。あるいは、より簡便には、触媒分解塔出口温度の変化を監視することでも確認できる。これは、アンモニアは触媒分解塔内で分解する際に発熱し、このためアンモニアが発生している間は触媒分解塔出口温度は高温となっているが、アンモニアの発生がなくなると触媒分解塔出口温度が低下するからである。
【0048】
再生廃液回収タンク内のアンモニアの分離が終了した後、再生廃液は蒸発濃縮器27に送られるが、このままでは再生廃液のpHが高く(アルカリ性が強く)、蒸発濃縮器を腐食させる恐れがあるので、蒸発濃縮器に送る前に再生廃液に酸を添加して中和する。本実施例では、酸として硫酸を硫酸貯槽タンク24から配管42を経由して再生廃液に添加する。この際、廃液回収タンクのpH計51の指示値を確認しながら、再生廃液のpHが8〜9の範囲になるように調整する。pHが調整された再生廃液は蒸発濃縮器27に移送されて蒸発濃縮処理が行われ、下流の廃液処理工程に送られる。
【0049】
実施例2:電気再生式純水装置による再生廃液の処理
第2の実施例として、再生廃液を蒸発濃縮処理した後の凝縮水からアンモニアを気相分離する方法を説明する(図7)。
【0050】
炉水中に生成した酸素や過酸化水素等を還元するためにヒドラジン等の還元性窒素化合物を注入するプラントでは窒素や水の他に副生成物として微量のアンモニアも生成する。アンモニアは復水脱塩器のイオン交換樹脂に吸着されて炉水から除去される。アンモニア等が吸着したイオン交換樹脂は硫酸及び苛性ソーダを用いて洗浄・再生され、その廃液(再生廃液)は再生廃液回収タンク26に回収される。
【0051】
再生廃液を再生廃液回収タンク26から蒸発濃縮器27に移送する。再生廃液は循環ポンプ52により加熱器53へ送られて加熱される。同時に、凝縮器55を介して設置された真空ポンプ57により濃縮器内が減圧される。蒸発濃縮器内が所定の温度及び圧力になると再生廃液が沸騰し、水が蒸発して廃液が濃縮される。アンモニアは揮発性なので蒸気とともに蒸発し、凝縮器55内で水とともに凝縮して再び凝縮水中に溶解する。アンモニアが溶解した凝縮水は凝縮水タンク29に回収される。
【0052】
凝縮水は配管59を経由して電気再生式純水装置60に移送される。電気再生式純水装置は陽極16と陰極17との間に陽イオン交換膜18を備えている。陽イオン交換膜は、陽イオンを容易に通過させるが陰イオンは通過させない性質を有している。電気再生式純水装置の陽極及び陰極に直流電流を直流電源61より供給すると、電気再生式純水装置の陽極側(脱塩室)のアンモニウムイオンは陰極側(濃縮室)に移動する。アンモニウムイオンを除去した脱塩室水は配管62を経由して低電導度廃液収集タンク(図示せず)に回収される。
【0053】
一方、アンモニアが濃縮した陰極側(濃縮室)の水は配管63を経由して再び凝縮水タンク29に移送される。このようにして、陰極側に生成したアンモニア濃縮水を凝縮水タンク29に戻すという循環操作を繰り返すと、凝縮水タンク中の再生廃液のアンモニウムイオン濃度が高められ、その結果pHが上昇して自然にアンモニアが気相分離する。
【0054】
凝縮水タンク29の上部の空間に気相分離したアンモニアはファン47で触媒分解塔48に送る。触媒分解塔48は触媒を加熱するためのヒータを有し、触媒を所定の温度に加熱する。触媒分解塔の温度は、白金等の貴金属が付着した触媒の場合は250℃から300℃の範囲に設定することが望ましく、銅及びクロム等の遷移金属が付着した触媒を用いる場合には300℃から400℃に設定することが望ましい。触媒分解塔出口ガスは、冷却器49により60℃以下まで冷却したのち、発電所の換気空調系に送る。
【0055】
実施例3:加熱又は空気ばっ気を併用した電気再生式純水装置による再生廃液の処理
第3の実施例は、実施例2で示した方法において、凝縮水タンク29で凝縮水を加熱するとともに空気を通気してアンモニアの気相分離を促進させる方法である(図8)。
【0056】
凝縮水タンク29には、凝縮水の加熱のための電気ヒータ46及び/又は凝縮水に空気を通気するための空気供給設備45が設置されており、その他は実施例2で使用した装置(図7)と同じである。電気ヒータ46及び/又は空気供給設備45を設置することにより、再生廃液中のアンモニアの気相分離効率を著しく向上することができる。その他、アンモニアの気相分離および触媒分解設備の運転方法は、実施例2と同じであるため省略する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】沸騰水型原子力プラントの模式図である。
【図2】アンモニアを含む模擬再生廃液におけるpH、温度及び空気ばっ気と再生廃液中のアンモニア残留濃度との関係を示す図である。
【図3】電気再生式純水装置の構成を示す図である。
【図4】触媒によるアンモニアガス分解試験結果を示す図である。
【図5】復水脱塩器イオン交換樹脂の薬品再生装置及び再生廃液の蒸発濃縮装置の構成を示す図である。
【図6】実施例1で使用した装置の構成を示す図である。
【図7】実施例2で使用した装置の構成を示す図である。
【図8】実施例3で使用した装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 原子炉圧力容器
2 タービン
3 復水脱塩器
4 給水ポンプ
5 給水加熱器
6 給水系配管
7 原子炉冷却水再循環ポンプ
8 原子炉冷却水浄化系ポンプ
9 原子炉冷却水浄化系配管
10 原子炉冷却水浄化系熱交換器
11 原子炉冷却水ろ過脱塩器
12 復水器
13 主蒸気配管
21 イオン交換樹脂分離およびカチオン樹脂洗浄塔
22 アニオン樹脂再生塔
23 樹脂貯槽タンク
24 硫酸貯槽タンク
25 苛性ソーダ貯槽タンク
26 再生廃液回収タンク
27 蒸発濃縮器
30 低電導度廃液収集タンク
45 空気供給設備
46 電気ヒータ
47 送気ファン
48 触媒分解塔
49 冷却器
51 pH計
53 蒸発式濃縮器用加熱器
55 蒸発式濃縮器用凝縮器
57 蒸発式濃縮器用真空ポンプ
60 電気再生式純水装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理方法であって、排出されたアンモニア含有再生廃液にアルカリを添加する工程と、加熱下に空気を通気してアンモニアを気相分離させる工程と、生じたアンモニアガスを触媒で分解する工程とを含む前記方法。
【請求項2】
アルカリ添加工程において該再生廃液のpHを11〜12.5に調整することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
再生廃液を60℃以上に加熱することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
再生廃液中のアンモニア濃度を1ppm以下とした後に、酸を添加して再生廃液のpHを5〜9に調整する工程をさらに含む請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
気相分離したアンモニアガスを触媒で分解する工程が、250〜300℃において、アンモニアガスの1時間あたりの供給速度を触媒体積の1/15000以下として行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理方法であって、排出されたアンモニア含有再生廃液を加熱して蒸発させる工程と、蒸発した蒸気を冷却して凝縮水とする工程と、凝縮水を電極と陽イオン交換膜とを備えた電気再生式純水装置に通して陰極側にアンモニア濃縮水を生成させる工程と、気相分離したアンモニアガスを触媒で分解する工程とを含む前記方法。
【請求項7】
電気再生式純水装置の陰極側に生成するアンモニア濃縮水を前記凝縮水に循環させることにより、凝縮水中のアンモニア濃度を高めてアンモニアを気相分離させることを含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
凝縮水に空気を通気する、及び/又は凝縮水を加熱することを含む請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
気相分離したアンモニアガスを触媒で分解する工程が、250〜300℃において、アンモニアガスの1時間あたりの供給速度を触媒体積の1/15000以下として行われることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理装置であって、排出されたアンモニア含有再生廃液を受け入れる回収タンクと、回収タンク中の再生廃液へ添加するアルカリを貯蔵するタンクと、回収タンク中の再生廃液を加熱するための加熱装置と、回収タンク中の再生廃液に空気を通気する装置と、再生廃液から気相分離したアンモニアガスを分解する触媒とを備えた前記装置。
【請求項11】
原子力発電プラントの復水脱塩器の再生時に排出されるアンモニア含有再生廃液の処理装置であって、排出されたアンモニア含有再生廃液の加熱蒸発装置と、加熱蒸発装置からの蒸気を冷却する凝縮器と、凝縮器からの凝縮水を受け入れる凝縮水タンクと、凝縮水からアンモニア濃縮水を生成させるための電気再生式純水装置と、気相分離したアンモニアガスを分解する触媒とを備えた前記装置。
【請求項12】
電気再生式純水装置で生成するアンモニア濃縮水が凝縮水タンクに循環するように配管を備えた請求項11記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−147453(P2007−147453A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342452(P2005−342452)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【Fターム(参考)】