説明

微細加工処理方法

【課題】微細加工処理剤の長寿命化と微細加工精度の向上を図ることが可能な微細加工処理方法を提供する。
【解決手段】微細加工処理方法は、フッ化水素酸、又はフッ化アンモニウムの少なくとも何れか一種を含む水溶液の微細加工処理剤を薬液温度5〜15℃の範囲で所定期間保管しつつ使用し、かつ、前記微細加工処理剤の使用の際には、前記薬液温度の範囲内で被加工物を微細加工することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工処理方法に関し、特に、例えば半導体装置及び液晶表示装置等の製造の際に、微細加工処理剤を用いてシリコン酸化物等を微細加工処理する微細加工処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体・FPD(フラットパネルディスプレイ)の製造プロセスに於いて、フッ化水素酸、又はフッ化水素酸及びフッ化アンモニウムの混合水溶液であるバッファードフッ酸は、絶縁膜であるシリコン酸化膜のエッチング加工や、基板表面の洗浄等の用途に幅広く用いられてきた。
【0003】
50重量%のフッ化水素酸と、40重量%のフッ化アンモニウム水溶液とが、一般的に入手可能な高純度の薬液原材料であり、当業者はこれらの薬液原材料を任意の比率で混合することにより、プロセスで所望されるエッチレートのエッチング液を調合し、使用していた。
【0004】
フッ化水素酸とフッ化アンモニウム水溶液の混合比率は、レジストマスクに対する攻撃性を考慮して、通常はフッ化アンモニウム水溶液の混合比率が高くなる様に設定されていた。即ち、濃度40重量%のフッ化アンモニウム水溶液:濃度50重量%のフッ化水素酸=X(Xは5〜500):1の比率で混合され、より詳細には、例えば10:1バッファードフッ酸、又は100:1 バッファードフッ酸等として使用されることが一般的であった。
【0005】
エッチング加工等の比較的速い加工速度が要求される場合、Xが小さくなる様にして混合し(相対的にフッ化水素酸の比率が高くなる)、逆に洗浄用途等の比較的遅い加工速度が要求される場合は、Xが大きくなる様に混合して(相対的にフッ化水素酸の比率が低くなる)用いられていた。
【0006】
近年では、こうした薬液の高機能化を目的とした微細加工処理方法が、下記非特許文献1及び非特許文献2等に開示されている。
【0007】
特に非特許文献2に開示の微細加工処理方法は、近年のデバイス構造の複雑化に伴い、多層膜構造体のエッチング加工や洗浄に於いて非常に重要な方法と考えられる。
【0008】
しかし、下記非特許文献3に開示されているように、この種の低選択比エッチング液は、その組成の特殊性から、組成の経時的変化が非常に顕著であり、非特許文献1に開示されている薬液組成のバッファードフッ酸に対して、極端にエッチレートの変化が大きくなるという問題点を有している。
【0009】
こうした「経時的な組成変化」及び「組成変化に伴うエッチレートの変動」の問題は、非特許文献2に開示された組成のエッチング液に限らず、従来技術として広く使用されている組成のバッファードフッ酸に於いても同様に懸念される。
【0010】
エッチレートの変動に関しては、エッチレートが遅い薬液ほど、その変動率は顕著である。特に、洗浄用途で使用されるエッチレートが100Å/min 以下程度のバッファードフッ酸に於いては、2〜3日の時間経過で初期のエッチレートの2倍を越える等、実際のデバイスプロセスでは使用困難な程の変化を生じる。
【0011】
非特許文献1に開示されている低フッ化アンモニウム組成の薬液の場合、こうした組成変化及びエッチレート変化に関しては非常に有利である。しかし、非特許文献2に開示されている通り、低フッ化アンモニウム組成の薬液は各種薄膜のエッチング選択比が大きくなる傾向があり、多層膜構造体の微細加工に於いては使用困難になる場合が多い。
【0012】
この為、多層膜加工など、エッチング選択性が重要視される工程に於いては、早い交換サイクルでエッチング液を交換せざるを得ず、コスト面及び環境面での負担要因となっている。
【0013】
また、工業製品であるフッ化水素酸及びバッファードフッ酸は、エッチング液の初期濃度のばらつき(製造上又は分析上の変動)により、使用初期段階で薬液ロット毎にエッチレートの変動を生じる。この変動はフッ化水素酸濃度が低く、エッチレートの遅いバッファードフッ酸ほど顕著に生じる。その為、精密なエッチング制御を必要とする微細加工に於いては、大きな問題となっている。
【0014】
同時に、工業製品であるバッファードフッ酸の場合、フッ化水素酸濃度として0.05重量%を下回る薬液組成は、量産ベースでの製造が非常に困難である。これにより、常温使用に於いては、シリコン熱酸化膜に対して15Å/分を下回る、極めて遅いエッチレートを利用する微細加工が困難になっている。
【0015】
【非特許文献1】H.Kikuyama et.al“Principle of wet chemical Processing in ULSI microfablication,”IEEE Trans.on.Semiconductor Manufacturing,Vol.4, No.1, pp.26−35,Feb. 1991
【非特許文献2】M.Miyashita et al. “Perfect Controlled etching for wall of conduct hole,” Extended Abstracts, 196th Meeting of electrochemical Society, Hawaii,Oct.1999
【非特許文献3】宮下他、「ウェットプロセス制御の為の薬液組成管理方法」、ウルトラクリーンテクノロジー、Vol.8、No.3、半導体基盤技術研究会、pp161−164、1996年6月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、微細加工処理剤の長寿命化と微細加工精度の向上を図ることが可能な微細加工処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、微細加工処理方法について検討した。その結果、微細加工処理剤の組成変化が薬液成分の分解及び/又は蒸発に起因していることに着目し、下記構成を採用することにより、そうした分解及び/又は蒸発を抑制して前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0018】
即ち、本発明に係る微細加工処理方法は、前記の課題を解決する為に、フッ化水素酸、又はフッ化アンモニウムの少なくとも何れか一種を含む水溶液の微細加工処理剤を薬液温度5〜15℃の範囲で所定期間保管しつつ使用し、かつ、前記微細加工処理剤の使用の際には、前記薬液温度の範囲内で被加工物を微細加工することを特徴とする。
【0019】
前記方法によれば、微細加工処理剤をその薬液温度5〜15℃の範囲内で保管しつつ使用するので、微細加工処理剤に含まれる所定成分の蒸発を抑制する。即ち、例えば微細加工処理剤にフッ化アンモニウムが含まれる場合、このフッ化アンモニウムの分解に伴うアンモニアの蒸発を抑制するので、保管中に微細加工処理剤が組成変化を起こすのを防止することができる。その結果、微細加工処理剤の長寿命化を図りつつ使用が可能になる。また、微細加工処理剤の使用時に於ける薬液温度も5〜15℃の範囲内にすることで、エッチレートの変動を、常温域で使用する場合と比較して極めて小さくすることができ、被加工物を微細加工する際の微細加工精度の向上も図れる。
【0020】
前記方法に於いては、前記被加工物がシリコン熱酸化膜である場合に、前記微細加工処理剤として該シリコン熱酸化膜に対するエッチレートが100Å/分以下のものを使用することが好ましい。本発明の微細加工処理方法は、微細加工処理剤の経時的な組成変化を抑制して微細加工を行う方法である。従って、前記方法の様に熱シリコン酸化膜に対するエッチレートが100Å/分以下となる低エッチレートの微細加工処理剤を使用することにより、本発明の方法を、例えば洗浄用途にも適用することができる。
【0021】
更に、前記方法に於いては、前記微細加工処理剤として前記フッ化水素酸を含むものを使用する場合に、フッ化水素酸濃度が0.1重量%以上であり、かつ、シリコン熱酸化膜に対する初期エッチレートの、前記フッ化水素酸濃度に対するバラつきが±10%以内であることが好ましい。微細加工処理剤としてフッ化水素酸濃度が0.1重量%以上のものを使用する場合に、初期エッチレートのバラつきを±10%以内にすることで、微細加工精度の変動幅を抑制することができる。
【0022】
また、前記方法に於いては、前記微細加工処理剤として前記フッ化水素酸を含むものを使用する場合に、そのフッ化水素酸濃度が0.05重量%以上、0.1重量%未満であり、かつ、シリコン熱酸化膜に対するエッチレートが10Å/分以下であることが好ましい。この様な微細加工処理剤を用いることにより、低速エッチレートでのエッチングが可能になる。その結果、微細加工処理剤が被加工物をエッチングし過ぎるのを防ぐので、例えば被加工物の洗浄等を好適に行うことができる。
【0023】
更に、前記の方法に於いては、前記微細加工処理剤として界面活性剤を0.001重量%〜1重量%を含有するものを使用することが好ましい。
【0024】
更に、前記の方法に於いては、前記微細加工処理剤として、空調用冷却水を用いて温度制御したものを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、微細加工処理剤をその薬液温度5〜15℃の範囲内で保管しておくことで、保管中に微細加工処理剤が組成変化を起こすのを防止することができる。その結果、微細加工処理剤の長寿命化を可能にする。また、微細加工処理剤の使用時に於ける薬液温度も5〜15℃の範囲内にすることで、エッチレートの変動を、常温域で使用する場合と比較して極めて小さくすることができ、被加工物を微細加工する際の微細加工精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。本実施の形態に係る微細加工処理方法は、薬液温度5〜15℃の範囲で保管された微細加工処理剤を用いて、当該薬液温度の範囲内で被加工物を微細加工する方法である。微細加工処理剤の保管とは、例えば前記薬液温度の範囲内で、雰囲気温度が15℃を超えて25℃以下、雰囲気相対湿度が40%〜60%の環境下に於いて、微細加工処理剤を空気に露出させた状態で所定期間放置することを意味する。薬液温度、雰囲気温度、及び雰囲気相対湿度は、保管時と使用時に於いてほぼ一致しているのが好ましい。微細加工精度の向上が図れるからである。尚、微細加工とは、被加工物のエッチング、及びその表面の洗浄を含む意味である。
【0027】
前記微細加工処理剤としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム及び一水素二フッ化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む水溶液からなるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、前記の各成分が任意の濃度で混合されたバッファードフッ酸等が例示できる。
【0028】
本発明は、微細加工処理剤の組成変化に着目しているが、分解又は蒸発を左右するパラメーターの最も大きな要因は、(1)微細加工処理剤の組成、(2)微細加工処理剤の薬液温度の2つである。(1)の微細加工処理剤の組成に関しては、微細加工処理の対象となる被加工物の種類等に応じて設定されるエッチレート及びエッチング選択性によって、ほぼ一義的に決定される。この為、何らかの解決策を微細加工処理剤の組成により講じることは現時点では事実上困難である。その為、本発明は(2)の薬液温度を従来の使用温度よりも低温度域側に制御することで、課題の解決を図っている。
【0029】
薬液温度に関しては、これを低下させるに従って、エッチング選択比に大きな変化を生じさせることなく、エッチレートを小さくすることができる。
【0030】
また、薬液温度を低下させるに従って、所定成分の蒸発を低減するので、組成の経時的変化を抑制し得る。例えば、フッ化アンモニウム濃度が比較的高いバッファードフッ酸の場合、薬液温度を低下させることで、フッ化アンモニウムの分解に伴うアンモニアの蒸発をかなり抑制することができる。これにより、フッ化水素酸濃度(HF濃度)が低く、かつフッ化アンモニウム濃度の高い微細加工処理剤に於いては、常温域で使用する場合と比較して、経時的な組成変化及びエッチレートの変動をかなり小さくすることができる。
【0031】
エッチレートが比較的速い微細加工処理剤に於いては、経時的な組成変化及びエッチレートの変動は緩やかである。これは、HF濃度が比較的高濃度であるため、(1)フッ化アンモニウムの分解が抑制される、(2)アンモニア蒸発に伴うHF濃度の変動率の影響が小さいことによる。
【0032】
本発明の微細加工処理方法は、例えば被加工物がシリコン熱酸化膜である場合に、該シリコン熱酸化膜に対するエッチレートが100Å/分以下の微細加工処理剤を使用すると、特に顕著な効果を奏する。また、当該エッチレートは、1Å/分を超えて、50Å/分以下の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
本発明の微細加工処理方法は、例えば薬液温度が常温(約25℃)とほぼ同じであり、当該薬液温度で5日間保管した後に、薬液温度25℃でシリコン酸化膜を微細加工した場合の、該シリコン酸化膜に対するエッチレートの変動率が30%以上の微細加工処理剤を使用することができる。この様な微細加工処理剤を用いた場合でも、薬液温度5〜15℃の範囲で保管し、かつ、当該薬液温度の範囲内で使用することにより、微細加工処理剤の初期組成のバラつきを抑制することができ、エッチレートの変動率を30%以下に抑制することが可能になる。尚、エッチレートの変動率は、下記式で表される。
【0034】
【数1】

【0035】
前記微細加工処理剤に前記フッ化水素酸を含む場合に、そのHF濃度が0.1重量%以上であるとき、初期エッチレートのバラつきは、例えばシリコン熱酸化膜に対し±10%以内であることが好ましい。初期エッチレートのバラつきを前記範囲内に抑制することにより、微細加工精度を一層向上させることができる。初期エッチレートのバラつきは、微細加工処理剤の製造の際、又は分析の際に生じる組成バラツキに起因する。
【0036】
また、HF濃度が0.05重量%以上、0.1重量%未満である場合、例えば、シリコン熱酸化膜に対するエッチレートが10Å/分以下であることが好ましい。従来、エッチング液として使用されてきた工業製品であるバッファードフッ酸は、製造工程上のHF濃度のバラつき、組成分析の誤差、又は定量下限により、量産ベースで製造可能なバッファードフッ酸のHF濃度の下限は0.05重量%程度であった。この様なバッファードフッ酸を常温域で使用した場合、10Å/分を下回るエッチレートでの微細加工は不可能であり、微細加工精度が低い、洗浄に用いた場合にも不必要に被加工物がエッチングされる等の問題があった。しかし、エッチレートを10Å/分以下にして低速化することにより、被加工物が不必要にエッチングされるのを防止することができる。その結果、被加工物をエッチングする場合には微細加工精度の一層の向上が図れると共に、被加工物の洗浄にも好適に適用することができる。HF濃度が0.05重量%以上、0.1重量%未満の微細加工処理剤としては、例えば洗浄用途等として市販されている量産品のバッファードフッ酸(商品名;LAL15、LAL30、LL400:1 ステラケミファ株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
前記微細加工処理剤に前記フッ化アンモニウムを含む場合、その濃度は15〜42重量%の範囲内であることが好ましく、35〜42重量%の範囲内であることがより好ましい。特にバッファードフッ酸の濃度を35〜42重量%の範囲内とすることにより、フッ化アンモニウムが分解し易くなり、換言すればエッチレートの変動が非常に大きくなり、温度を下げてエッチングした場合の改善効果がより大きくなる。
【0038】
前記微細加工処理剤には界面活性剤を添加するのが好ましい。前記界面活性剤としては、脂肪族アミン(C2n+1NH;n=7〜14)、脂肪族カルボン酸(C2n+1COOH;n=5〜11)、脂肪族アルコール(C2n+1OH;n=6〜12)が好適に例示される。これら3種の界面活性剤のうち少なくとも何れか2種を配合するのが好ましく、NHF濃度及びHF濃度に応じて選択して用いるのが好ましい。
【0039】
前記界面活性剤の添加量は、0.001〜0.1重量%の範囲内であることが好適であり、0.003〜0.05重量%の範囲内であることがより好適である。界面活性剤を添加することにより、エッチング処理を施したタングステン膜、シリコン酸化膜又は半導体基板等の被加工物の表面荒れを抑制することができる。更に、従来のエッチング液であると、超高集積化に伴い微細パターンが施された半導体基板表面に局部的に残留しやすく、レジスト間隔が0.5μm程度あるいはそれ以下になると均一的にエッチングすることがより困難となる。しかし、界面活性剤を添加した微細加工処理剤をエッチング液として使用した場合、半導体基板表面への濡れ性が改善され、エッチングの基板面内に於ける均一性が改善される。但し、前記添加量が0.001重量%未満であると、微細加工処理剤の表面張力が十分に低下しない為に、濡れ性の向上効果が不十分になる場合がある。また、前記添加量が0.1重量%を超えると、それに見合う効果が得られないだけでなく、消泡性が悪化してエッチング面に泡が付着し、エッチングむらが生じたり、微細間隙に泡が入り込んでエッチング不良を生じる場合がある。
【0040】
本実施の形態の微細加工処理剤は、その効果を阻害しない範囲内に於いて、界面活性剤以外の添加剤を混合することも可能である。前記添加剤としては、例えば、塩酸(水溶液を含む)、硫酸溶液、リン酸溶液等の酸性物質、過酸化水素、キレート剤等が例示できる。
【0041】
前記微細加工表面処理剤には重金属元素が含まれていてもよい。当該重金属元素としては、特に限定されるものではないが、例えば被加工物が半導体である場合に、その電気諸特性の損失を最小限に抑制することを目的として、1ppb以下であることが好適であり、0.1ppb以下であることがより好適である。微細加工表面処理剤に含まれる重金属元素は、誘導結合高周波数プラズマ質量分析装置等で評価することができる。
【0042】
前記微細加工処理方法が対象とする被加工物としては、例えばシリコン酸化膜、窒化膜、ポリシリコン、Al、Ta、Ti及び/又はそれらの酸化物等が例示できる。また、前記シリコン酸化膜としては、例えばシリコン熱酸化膜、自然酸化膜、ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS膜、フッ素含有シリコン酸化膜、炭素含有シリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜等が例示できる。エッチングを行う膜は1種のみが表面に露出していてもよく、複数種が表面に露出していてもよい。
【0043】
被加工物の厚さ(被加工物が積層体の場合は総厚)としては特に限定されず、例えば30〜10000Åの範囲内であることが好ましい。
【0044】
前記微細加工処理剤の薬液温度の制御方法として特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用することができる。具体的には、例えばクリーンルームに於ける空調用冷却水を用いて行う方法が例示できる。通常、半導体・FPD製造プロセスはクリーンルームで行われている。クリーンルームは、一般には20℃前後で常時空気調和がなされており、その為に、空気調和に供する大量の冷却水を常時循環させている。冷却水は通常室外にある冷凍機で5℃程度に冷却し、外気及び室内空気の空気調和に使用されている。この空調用冷却水を用いることにより、電子冷熱等を用いる冷却方法に比べて消費電力のデメリットを緩和することができる。また、電子冷熱を用いた場合、その装置からの廃熱によりクリーンル−ム内の室温に対する影響が懸念されるが、本発明では空調用冷却水で廃熱を冷却するので、空気調和への影響も一切生じない。
【0045】
図1は、クリーンルームに於ける空調用冷却水を用いて、微細加工処理剤2の薬液温度の制御を行う装置を概念的に示す説明図である。同図に示すように、当該装置は、槽1に貯蔵されている微細加工処理剤2をポンプ(図示しない)により循環させる。微細加工処理剤2が循環経路を循環する過程で、微細加工処理剤2は熱交換器3、4により、薬液温度が5〜15℃の範囲内になる様に温度制御される。即ち、先ず、微細加工処理剤2は熱交換器3を通過することにより、冷却水で所定温度以下に冷却される。次いで、熱交換器4を通過することにより、所定温度に再熱される。これにより、微細加工処理剤2の薬液温度は、5〜15℃の範囲内になる様に制御される。尚、熱交換器3で使用する冷却水としては特に限定されず、例えば前述の通り、クリーンルームの空調用冷却水等を用いることができる。当該冷却水の水温は、例えば約5℃であることが好ましい。また、熱交換器4で使用する熱源としては特に限定されず、クリーンルームの空調用スチーム又は電気加熱等の手段を用いることができる。熱交換器4を通過して温度調整された微細加工処理剤2は再び槽1に戻る。
【0046】
槽1内は、微細加工処理剤2の使用温度での水分蒸気分圧と、気相側の水分分圧との差が小さい程好ましい。これにより、水分蒸発による微細加工処理剤の組成変化を一層抑制することができる。また、図1に示す前記装置に於いては、必要に応じて微細加工処理剤のサブタンク、及び/又は微細加工処理剤2の供給用サブシステムを設けてもよい。また、微細加工処理剤2の循環経路に於ける任意の位置に、異物を除去する為のフィルターを設けてもよい。
【実施例】
【0047】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0048】
(供試液の作製)
微細加工処理剤としてのエッチング液は、次の原材料を用いて調合した。即ち、(1)50%高純度フッ化水素酸(ステラケミファ株式会社製)、(2)40%高純度フッ化アンモニウム(ステラケミファ株式会社製)、(3)超純水をそれぞれ、下記表1に示す混合比率で混合し、供試液A〜Eを作製した。
【0049】
(エッチレートの測定)
光学式膜厚測定装置(ナノメトリクス社製、NanoSpec 6100)を用いてエッチング前後のシリコン熱酸化膜及びBPSG膜の膜厚を測定し、それぞれエッチングによる膜厚の変化量を求めた。エッチレートの算出は、所定温度での3つ又はそれ以上の異なるエッチング時間に於ける膜厚を測定して算出した。また、エッチング選択比(BPSG膜/シリコン熱酸化膜)も求めた。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例1〜4)
前記供試液A〜Dについて、クリーンルームに於いて、薬液温度15℃、雰囲気温度21℃、雰囲気相対湿度50%の環境下で5日間放置した。放置後、前述の測定方法で、薬液温度15℃に於けるエッチレートを測定した。結果を下記表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
(実施例5〜9)
実施例5〜9は、薬液温度を10℃に設定したこと以外は、前記実施例1と同様にして各供試液に於けるエッチレートを測定した。結果を下記表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
(実施例10〜14)
実施例10〜14は、薬液温度を5℃に設定したこと以外は、前記実施例1と同様にして各供試液に於けるエッチレートを測定した。結果を下記表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
(比較例1〜5)
比較例1〜5は、薬液温度を25℃に設定したこと以外は、前記実施例1と同様にして各供試液に於けるエッチレートを測定した。結果を下記表5に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
(結果)
表2〜表5から分かるように、比較例1〜5については、5日間放置後のシリコン熱酸化膜及びBPSG膜に対するエッチレートの変化率が大きく、特に比較例1のシリコン熱酸化膜に対するエッチレートについては、2倍以上の変化率を示した。その一方、実施例1〜14については、何れも5日間放置後のシリコン熱酸化膜及びBPSG膜に対するエッチレートの変化率を低く抑えることができた。特に、薬液温度を10℃に設定した場合には、全ての供試液に於いてエッチレートの変化率を30%以下に抑制することができた。また、実施例10,11については薬液温度を5℃に設定した場合には、エッチレートの変化率を更に一層抑制することができた。以上から、薬液温度5℃、10℃、15℃でエッチング液を5日間放置し、各薬液温度を維持した状態でエッチングをした場合、エッチング液の性能が低減するのを抑制し、長寿命化が図れることが確認された。また、約100Å/分以下のエッチレートが遅い供試液に於いては、薬液温度5〜15℃での使用に於いて、エッチレートの安定化が可能であることが分かった。更に、エッチレートの変化率を抑制できたことから、5日間の放置後であっても加工精度を低下させることなく微細加工が可能であることが分かった。
【0060】
また、表5から明らかな様に、フッ化アンモニウム濃度の低い供試液D及びEでは、他の供試液A〜Cと比較して、シリコン熱酸化膜とBPSG膜とのエッチング選択比が大きいという結果となっている。この結果は、M.Miyashita et al. “Perfect Controlled etching for wall of conduct hole,” Extended Abstracts, 196th Meeting of electrochemical Society, Hawaii,Oct.1999に記載の結果と同様であった。その一方、選択比が小さく、多層膜構造体の洗浄に望ましい供試液A、Bにおいては、常温(25℃)では使用期間に応じて著しくエッチレートが変動するため、実用に耐えない。しかし、表2〜4に示すように、低温度で使用することで、「多層膜構造体の洗浄に必要な低選択比」を維持しつつ、長期間安定したエッチレートが維持できることが分かった。
【0061】
(実施例15)
本実施例に於いては、洗浄用途で使用されている低エッチレートのバッファードフッ酸(商品名;LAL50、ステラケミファ株式会社製)からなる微細加工処理剤を使用し、シリコン熱酸化膜に対するエッチレートを測定したこと以外は、前記実施例1と同様に薬液温度を15℃に設定して行った。尚、微細加工処理剤については、HF濃度が規格濃度である場合、規格濃度の下限値である場合、及び規格濃度の上限値である場合のそれぞれについてシリコン熱酸化膜に対するエッチレートを測定し、HF濃度が規格濃度であるときのエッチレートを中央値として、エッチレートの変動率を算出した。また、使用したバッファードフッ酸の規格範囲は、HF濃度0.170%に対して±0.01%である。結果を下記表6に示す。
【0062】
【表6】

【0063】
(実施例16)
微細加工処理剤として下記表7に示す組成のバッファードフッ酸(商品名;LAL100、ステラケミファ株式会社製)を使用し、かつ薬液温度を5℃に設定したこと以外は、前記実施例15と同様にして各供試液に於けるエッチレートを測定した。結果を下記表6に示す。尚、使用したバッファードフッ酸の規格範囲は、HF濃度0.320%に対して±0.02%である。
【0064】
【表7】

【0065】
(比較例6)
微細加工処理剤として下記表8に示す組成のバッファードフッ酸(商品名;LAL30、ステラケミファ株式会社製)を使用し、かつ薬液温度を25℃に設定したこと以外は、前記実施例15と同様にして各供試液に於けるエッチレートを測定した。結果を下記表8に示す。尚、使用したバッファードフッ酸の規格範囲は、HF濃度0.090%に対して±0.01%である。
【0066】
【表8】

【0067】
(結果)
表8から明らかな様に、薬液温度25℃で行った比較例6では、HF濃度が規格範囲内であっても、エッチレートが規格中心から約±12%(変動幅としては23%)のバラツキを生じていることが確認された。これに対し、薬液温度15℃で行った実施例15では、HF濃度0.170%でのエッチレートが、比較例6に於けるHF濃度0.090%でのエッチレートとほぼ同等であるが、HF濃度の規格範囲内に於けるエッチレートの変動を約1/2程度に抑制できている。また、薬液温度5℃で行った実施例16では、規格幅が広くなっているが、HF濃度が実施例15及び比較例6よりも大きい為、規格範囲内に於けるエッチレートの変動を±6%程度と低く抑制することができた。
【0068】
(実施例17)
本実施例に於いては、微細加工処理剤として下記表9に示す組成のバッファードフッ酸を薬液温度10℃で使用し、シリコン熱酸化膜に対するエッチレートを測定した。結果を下記表9に示す。
【0069】
(実施例18)
本実施例に於いては、HF濃度が0.09%のバッファードフッ酸を用い、かつ薬液温度を5℃に設定したこと以外は、実施例17と同様にして、シリコン熱酸化膜に対するエッチレートを測定した。結果を下記表9に示す。
【0070】
(比較例7)
本実施例に於いては、薬液温度を25℃に設定したこと以外は、実施例17と同様にして、シリコン熱酸化膜に対するエッチレートを測定した。結果を下記表9に示す。
【0071】
(結果)
下記表9から明らかな様に、比較例7で使用した、最も遅いエッチレートのバッファードフッ酸であっても、常温域(25℃)での使用では、10Å/分を超えるエッチレートであった。その一方、薬液温度5℃及び10℃で使用することにより、従来困難であった10Å/分を下回るエッチレートの実現が可能なことが確認された。
【0072】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の一形態に係る微細加工処理方法に用いる装置であって、微細加工処理剤の薬液温度の制御を行う装置を概念的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1 槽
2 微細加工処理剤
3、4 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素酸、又はフッ化アンモニウムの少なくとも何れか一種を含む水溶液の微細加工処理剤を薬液温度5〜15℃の範囲で所定期間保管しつつ使用し、
かつ、前記微細加工処理剤の使用の際には、前記薬液温度の範囲内で被加工物を微細加工することを特徴とする微細加工処理方法。
【請求項2】
前記被加工物がシリコン熱酸化膜である場合に、前記微細加工処理剤として該シリコン熱酸化膜に対するエッチレートが100Å/分以下のものを使用することを特徴とする請求項1に記載の微細加工処理方法。
【請求項3】
前記微細加工処理剤として前記フッ化水素酸を含むものを使用する場合に、フッ化水素酸濃度が0.1重量%以上であり、かつ、シリコン熱酸化膜に対する初期エッチレートの、前記フッ化水素酸濃度に対するバラつきが±10%以内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細加工処理方法。
【請求項4】
前記微細加工処理剤として前記フッ化水素酸を含むものを使用する場合に、そのフッ化水素酸濃度が0.05重量%以上、0.1重量%未満であり、かつ、シリコン熱酸化膜に対するエッチレートが10Å/分以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の微細加工処理方法。
【請求項5】
前記微細加工処理剤として界面活性剤を0.001重量%〜1重量%を含有するものを使用することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の微細加工処理方法。
【請求項6】
前記微細加工処理剤として、空調用冷却水を用いて温度制御したものを使用することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の微細加工処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−273798(P2007−273798A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98543(P2006−98543)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】