説明

微細構造体及びその製造方法

【課題】微細な可動構造体を備えた微細構造体が、装置の寸法の増大や実装の制約などを招くことなく、より高い信頼性を備えた状態で形成できるようにする。
【解決手段】基板101と、基板101の所定領域を囲うように配置された支持枠102と、支持枠102の内部の基板101の上に形成された可動部支持部103と、可動部支持部103に支持された梁104a及び可動電極104bを備える可動構造体104と、固定電極支持部105aと、一部(端部)が固定電極支持部105aに支持されて、可動電極104bの上に配置された固定電極105bとを備える。加えて、固定電極支持部105a及び固定電極105bからなる固定電極構造体105と支持枠102とにより支持され、支持枠102の内側の空間(可動部形成空間)を封止する封止膜106を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSなどを構成する可動部を備えた微細な構造体が封止された状態で基板の上に形成された微細構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜形成技術やフォトリソグラフィ技術を基本にしてエッチングすることなどで立体的に微細加工を行うマイクロマシン技術を利用することで、MEMS(Micro Electro Mechanical System)を構成する素子(MEMS素子)が開発されている。MEMS素子としては、微細な固定電極と可動する構造体とを備えたマイクロスイッチ,可変容量,共振子,及び加速度センサなどの微細構造体を備えたものがある(特許文献1,2参照)。このような構成の微細構造体の基本的な構成について図7に示す。
【0003】
従来よりある微細構造体は、基板701と、基板701の上に固定されて形成された固定電極702と、基板701の上に形成された支持構造体703と、支持構造体703の上に一部が支持されて基板701の上に離間して配置された可動電極704とを備えている。この微細構造体では、固定電極702と可動電極704との間に電圧を印加して静電引力により可動電極704を変位させることで、例えば、マイクロスイッチや可変容量などのMEMS素子を構成するアクチュエータとして用いることができる。また、外部から可動電極704に加えられた力による可動電極704の変位を、可動電極704と固定電極702との間の電気的な容量の変化として電気的に検出することで、加速度センサなどのセンサとして用いることもできる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−294104号公報
【特許文献2】特開平11−250792号公報
【非特許文献1】Harrie A. C. Tilmans, "RF-MEMS: Materials and technology, integration and packaging", Proc.MRS2003, vol.738, Fall Meeting, Boston, pp.B6.6.1-B6.6.12, Dec. 1-5, 2003.
【非特許文献2】N. Sato, H. Ishii, S. Shigematu, H. Morimura, T. Kamei, K. Kudiu, M. Yano, K. Machida, H. Kyuragi, "A sealing technique for stacking MEMS on LSI using spin-coating film transfer and hot pressing",Jpa.J.Appl.Phys., Vol.42, Part 1, No.4B, pp.2462-2467, Apr. 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような微細構造体では、可動構造体が破損しやすいという問題がある。例えば、ウェハをチップに切り分けるダイシングなどの工程においては、切削箇所の冷却や切削かすの飛散防止などのために高圧水流が供給されているが、この高圧水流によって、微細な可動構造体が容易に破損してしまう。このため、MEMS素子の実装工程や実使用時においては、破損を防止するための保護技術が必要となる。保護技術として、ガラスからなるキャップを基板の上に固定し、このキャップで金属配線などの微細構造体を封止することで、機械的に脆弱な構造を保護する技術が提案されている(非特許文献1参照)。ガラスは比較的高い剛性を備えた絶縁部材であるため、所定の領域(空間)をゆがめることなく封止するのに好適である。
【0006】
しかしながら、このような方法を用いた場合、特殊な実装工程が追加されるためMEMSのコスト増加を招き、また、キャップがMEMSを大型化させてしまうといった問題があった。また、ガラスからなるキャップを用いた場合、フリップチップ実装やSi貫通ビア配線技術などを用いたチップの積層実装が困難となるなど、実装に制約が生じるという問題があった。
【0007】
上述したように、従来技術においては、可動構造体を備えた高性能な微細構造体を実現しようとした場合、微細構造体の機械的,電気的信頼性の確保が困難であった。またこの問題を回避するために、可動構造体が配置された空間をガラスキャップなどで保護封止する技術を用いた場合、微細構造体が大型化し、また、実装に制約が生じるという問題があった。従って、従来技術では、可動構造体を備えた微細構造体を実用化することが困難であった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、微細な可動構造体を備えた微細構造体が、装置の寸法の増大や実装の制約などを招くことなく、より高い信頼性を備えた状態で形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る微細構造体は、基板と、この基板の上に形成されて所定の領域を囲う支持枠と基板より離間する可動電極を含み、基板の上の支持枠で囲われた領域に配置された可動構造体と、可動電極の上部に対向して配置された固定電極を含み、基板の上の支持枠で囲われた領域に配置された固定電極構造体と、固定電極構造体及び支持枠に支持されて支持枠に囲われた領域を封止する封止膜とを少なくとも備えるようにしたものである。
【0010】
上記微細構造体において、固定電極構造体は、支持枠と同じ高さに形成されているとよい。また、上記微細構造体において、基板の上の支持枠で囲われた領域に形成された配線支持部と、配線支持部に支持され、基板の上の支持枠で囲われた領域に基板の表面より離間して配置された配線とを備えるようにしても良い。配線は、例えば、インダクタ,トランスフォーマ,及び伝送線路の少なくとも1つを構成しているものである。このように配線を備える場合、可動構造体は、配線の一部に支持されているようにしてもよい。また、可動構造体及び固定電極構造体により、可変容量,スイッチ,共振子,及び加速度センサの少なくとも1つを構成している。また、基板は、能動素子及び多層配線を含む半導体集積回路を備え、可動電極及び固定電極は、半導体集積回路に電気的に接続されている。
【0011】
また、本発明に係る微細構造体の製造方法は、基板の上に犠牲膜を用いて金属膜を積層して積層した金属膜により基板の上に所定の領域を囲う支持枠,支持枠で囲われた領域に配置されて可動電極を備えた可動構造体,及び可動電極の上部に対向して配置された固定電極を備えた固定電極構造体が形成された状態とする工程と、犠牲膜を除去し、可動電極が基板の上部に離間して配置され、固定電極が可動電極の上に離間して対向配置された状態とする工程と、犠牲膜を除去した後、支持枠及び固定電極構造体の上面に接触する封止膜を貼り付け、支持枠及び固定電極構造体に支持されて支持枠に囲われた領域を封止する封止膜が形成された状態とする工程とを少なくとも備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、固定電極を可動電極の上部に配向して配置し、固定電極を含む固定電極構造体及び支持枠により封止膜を支持するようにしたので、微細な可動構造体を備えた微細構造体が、装置の寸法の増大や実装の制約などを招くことなく、より高い信頼性を備えた状態で形成できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0014】
[実施の形態1]
始めに、本発明に係る実施の形態1について、図1(a)及び図1(b)を用いて説明する。図1(a)は、本実施の形態における微細構造体の構成を示す斜視図、図1(b)は、断面図である。この微細構造体は、基板101と、基板101の所定領域(可動構造体形成領域)を囲うように配置された支持枠102と、支持枠102の内部の基板101の上に形成された可動部支持部103と、可動部支持部103に支持された梁104a及び可動電極104bを備える可動構造体104と、固定電極支持部105aと、一部(端部)が固定電極支持部105aに支持されて、可動電極104bの上に配置された固定電極105bとを備えている。固定電極支持部105aと固定電極105bとにより固定電極構造体105が構成されている。
【0015】
固定電極105bは、基板101の上において、可動電極104bの上方に離間して配置され、固定電極105bと可動電極104bとは対向して配置されている。このように構成された本実施の形態の微細構造体では、可動電極104bと固定電極105bとの間に電圧を印加することで静電引力が生じ、梁104aが変形して可動電極104bが変位することで、例えば、可変容量としての機能を発現する。
【0016】
ここで、可動電極104bと固定電極105bとは、各電極に対して静電引力や振動などの力が印加された際に生じる基板に対する変位のしやすさ、言い換えると、ばね定数により区別され、ばね定数が小さく変位しやすい方を可動電極(可動構造体)とし、ばね定数が大きく変位しにくい方を固定電極(固定電極構造体)とする。本実施の形態では、可撓性を備えた梁104aを備えることにより、可動構造体のばね定数を小さくしている。なお、可動構造体において、梁を設けずに、可動電極の部分に可撓性を備えさせることによって、ばね定数を小さくするようにしても良い。例えば、可動電極は、発生する静電引力に対して変形(可撓)可能となる厚さに形成され、固定電極はこれより厚く形成されていればよい。また、可動電極は、幅が狭く形成され、もしくはより長く形成されている状態とすることで、固定電極に比較してより容易に変形できるように形成されていればよい。
【0017】
加えて、本実施の形態における微細構造体は、固定電極支持部105a及び固定電極105bからなる固定電極構造体105と支持枠102とにより支持され、支持枠102の内側の空間(可動部形成空間)を封止する封止膜106を備えている。ここで、基板101の上において、固定電極105b(固定電極構造体105)は、支持枠102と同じ高さに形成されている。なお、固定電極構造体105と支持枠102とは、同じ高さに形成されている必要はなく、固定電極構造体105と支持枠102とで封止膜106が支持可能な範囲であれば、これらの高さが異なっていても良い。ただし、これらが同じ高さとなっている状態は、後述するように、より容易に製造することが可能な状態であり、製造上有利である。
【0018】
基板101は、例えば、表面にシリコン酸化膜などの絶縁層を備えたシリコン基板や、ガラスなどの絶縁基板、また、埋め込み絶縁層を備えたSOI(Silicon On Insulator)基板などであればよい。支持枠102で囲う領域(可動部形成領域)の表面が絶縁材料で構成されていればよい。基板101には、可動部支持部103を介して可動構造体104に接続し、また、固定電極支持部105aを介して固定電極105bに接続する集積回路が形成されていても良い。
【0019】
例えば、シリコン基板に能動素子や多層回線構造などより構成された半導体集積回路が形成され、この上に層間絶縁層を介して支持枠102,可動部支持部103,可動構造体104などが形成され、上記層間絶縁層に形成されたスルーホールを介し、可動部支持部103が上記半導体集積回路に接続していればよい。また、基板101の他の領域に、集積回路が設けられていても良い。また、可動部支持部103,可動構造体104,固定電極支持部105a,及び固定電極105bは、Au,Cu,Alなどの金属材料から構成されていればよい。
【0020】
封止膜106は、例えば有機樹脂などの絶縁材料により構成され、支持枠102が囲む領域と同様の形状を有し、固定電極支持部105a及び固定電極105bからなる固定電極構造体105と支持枠102によって支持されている。封止膜106の膜厚は、例えば1μm以上100μm以下であればよい。封止膜106の膜厚を1μm以上とすることで可動構造体104保護するための強度が得られ、100μm以下とすることで製造性が向上する。
【0021】
本実施の形態では、可動構造体104の形成領域(空間)を、支持枠102により囲むとともに、封止膜106によって封止しているため、可動構造体104が外部の環境から遮断されており、実装工程などにおける異物の付着及び外部からの機械的な衝撃による可動構造体の破損や、特性の変化を防ぐことができる。
【0022】
また、封止膜106は、この周辺部が支持枠102に支持されると共に、内部の領域も、梁104a及び可動電極104bを備える可動構造体104により支持されて補強されている。このため、封止膜106に要求される強度が低減し、封止膜106の薄膜化が可能となる。これにより、微細構造体をより薄型にすることが可能となり、例えば、より多くのチップの積層実装などが可能となる。
【0023】
加えて、固定電極105bの上面(一部)が封止膜106の内側面に接着して形成されていれば、固定電極105bが封止膜106により機械的に結合された状態となり、強度がより増強された状態となる。これにより、実装工程における水流や実使用時における振動などに対して、封止膜106などが十分な耐性を備えた微細構造体が得られるようになる。例えば、封止膜106は、樹脂より構成することが可能となる。封止膜106を樹脂膜より構成すれば、後述するように、STP法などにより容易に形成することが可能となる。また、樹脂膜より構成すれば、膜厚1μm程度の封止膜106が容易に形成可能であり、ガラスなどを用いる場合に比較して、より薄く形成することが可能となり、微細構造体の微細化がより容易となる。また、封止膜106の内側面が固定電極105bに接着していれば、封止膜106が可動構造体形成空間に対して外側に撓む(膨らむ)ことも抑制できるようになる。
【0024】
ところで、上述したような微細構造体を用いたアクチュエータの駆動力やセンサの検出感度をより大きくするためには、より大きな面積の固定電極及び可動電極を用いることになる。しかしながら、固定電極の面積を大きくすると、固定電極と基板との間の寄生容量も増大することになり、MEMSなどの微細構造体では問題となる。寄生容量の増大は、信号応答速度の低下や検出感度の劣化などを引き起こし、微細構造体を信号処理回路などを構成するLSIと集積する場合、特に問題となる。LSIでは、回路の安定動作のために低抵抗な基板を用い、加えて、基板の上には多数の配線が存在するため、固定電極との間に大きな寄生容量が生じやすい環境となっている。
【0025】
これに対し、本実施の形態の微細構造体によれば、基板101から離間して固定電極105bが形成されているため、固定電極105bと基板101との間の距離が増大し、かつ、固定電極105bと基板101との間には、比誘電率がほぼ1となる空間が形成されている状態となっている。このため、本実施の形態の微細構造体では、固定電極105bと基板101との間の寄生容量を大幅に低減させることができる。また、可動電極104bも基板101から離間した位置に配置されるため、可動電極104bと基板101との間の容量も低減することができる。例えば、可動電極104bと基板101との間の距離を、可動電極104bと固定電極105bとの間の距離よりも大きくすることで、寄生容量が可動構造体104の特性に与える影響をより小さくできるようになる。
【0026】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について、図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態における微細構造体の構成を模式的に示す断面図である。この微細構造体は、基板201と、基板201の所定領域(可動構造体形成領域)を囲うように配置された支持枠202と、支持枠202の内部の基板201の上に形成された配線支持部203と、配線支持部203に支持された配線204とを備えている。また、配線204の可動部接続部204aに接続する(支持された)梁205a及び可動電極205bを備える可動構造体205と、基板201の上に形成された固定電極支持部206aと、一部(端部)が固定電極支持部206aに支持されて、可動電極205bの上に配置された固定電極206bとを備えている。固定電極支持部206aと固定電極206bとにより固定電極構造体206が構成されている。
【0027】
可動構造体205は、配線204の可動部接続部204aに接続することで、基板201の上に離間して支持されている。可動構造体205は、配線204の一部に支持されていることになる。また、固定電極206bは、基板201の上において、可動電極205bの上方に離間して配置され、固定電極206bと可動電極205bとは対向して配置されている。このように構成された本実施の形態の微細構造体では、可動電極205bと固定電極206bとの間に電圧を印加することで静電引力が生じ、梁205aが変形して可動電極205bが変位することで、例えば、可変容量としての機能を発現する。
【0028】
また、本実施の形態では、配線204は、配線支持部203の上に支持されることにより、配線支持部203以外の領域で、基板101と離間して配置された状態となっている。言い換えると、配線204と基板201との間には、空間が形成された状態となっている。このように、本実施の形態では、支持枠202に囲われた領域に、可動電極及び固定電極に加え、例えばインダクタ,トランスフォーマ,及び伝送線路などを構成可能な配線204を、基板201と離間した状態で備えている。
【0029】
加えて、本実施の形態における微細構造体は、固定電極構造体206及び支持枠202に加えて配線支持部203と配線204からなる配線構造体に支持され、支持枠202の内側の空間(可動部形成空間)を封止する封止膜207を備えている。ここで、基板201の上において、固定電極構造体206及び上記配線構造体は、支持枠202と同じ高さに形成されている。なお、固定電極構造体206及び上記配線構造体と支持枠202とは、同じ高さに形成されている必要はなく、固定電極構造体206及び上記配線構造体と支持枠202とで封止膜207が支持可能な範囲であれば、これらの高さが異なっていても良い。ただし、これらが同じ高さとなっている状態は、後述するように、より容易に製造することが可能な状態であり、製造上有利である。
【0030】
なお、本実施の形態においても、前述同様であり、基板201は、例えば、表面にシリコン酸化膜などの絶縁層を備えたシリコン基板や、ガラスなどの絶縁基板、また、埋め込み絶縁層を備えたSOI(Silicon On Insulator)基板などであればよい。また、基板201には、集積回路が形成されていても良い。また、配線支持部203,配線204,可動構造体205,及び固定電極構造体206は、Au,Cu,Alなどの金属材料から構成されていればよい。
【0031】
また、封止膜207は、例えば有機樹脂などの絶縁材料により構成され、支持枠202が囲む領域と同様の形状を有している。封止膜207の膜厚は、例えば1μm以上100μm以下であればよい。封止膜207の膜厚を1μm以上とすることで配線204保護するための強度が得られ、100μm以下とすることで製造性が向上する。
【0032】
本実施の形態では、配線204の形成領域(空間)を、支持枠202により囲むとともに、封止膜106によって封止しているため、配線204,可動構造体205,及び固定電極構造体206が外部の環境から遮断されており、実装工程などにおける異物の付着及び外部からの機械的な衝撃による内部の構造体の破損や、特性の変化を防ぐことができる。
【0033】
また、封止膜207は、この周辺部が支持枠202に支持されると共に、内部の領域も、配線支持部203に支持された配線204及び固定電極構造体206により支持されて補強されている。このため、封止膜207に要求される強度が低減し、封止膜207の薄膜化が可能となる。これにより、微細構造体をより薄型にすることが可能となり、例えば、より多くのチップの積層実装などが可能となる。
【0034】
加えて、配線204及び固定電極206bの上面(一部)が封止膜207の内側面に接着して形成されていれば、配線204及び固定電極206bが封止膜207により機械的に結合された状態となり、強度がより増強された状態となる。これにより、実装工程における水流や実使用時における振動などに対して、封止膜207などが十分な耐性を備えた微細構造体が得られるようになる。例えば、封止膜207は、樹脂より構成することが可能となる。封止膜207を樹脂膜より構成すれば、後述するように、STP法などにより容易に形成することが可能となる。また、樹脂膜より構成すれば、膜厚1μm程度の封止膜207が容易に形成可能であり、ガラスなどを用いる場合に比較して、より薄く形成することが可能となり、微細構造体の微細化がより容易となる。また、封止膜207の内側面が固定電極206bに接着していれば、封止膜207が可動構造体形成空間に対して外側に撓む(膨らむ)ことも抑制できるようになる。
【0035】
また、前述した実施の形態と同様に、基板201から離間して固定電極206bが形成されているため、固定電極206bと基板201との間の寄生容量を大幅に低減させることができる。また、可動電極205bも基板201から離間した位置に配置されるため、前述した実施の形態と同様に、可動電極205bに対する寄生容量の問題も抑制された状態が得られる。
【0036】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について、図3を参照して説明する。図3は、本実施の形態における微細構造体の構成を示す斜視図である。この微細構造体は、基板301と、基板301の所定領域(可動構造体形成領域)を囲うように配置された支持枠302を備えている。また、この微細構造体は、支持枠302の内部の基板301の上に、スイッチ303,可変容量304,伝送線路305,及びインダクタ306を備えている。スイッチ303及び可変稜々304は、前述した実施の形態1又は実施の形態2に示した可動構造体及び固定電極構造体を素子である。
【0037】
加えて、本実施の形態では、支持枠302,スイッチ303を構成している固定電極構造体,可変容量303を構成している固定電極構造体,伝送線路305を構成している配線構造体,及びインダクタ306を構成している配線構造体により支持された封止膜310を備えている。また、スイッチ303,可変容量素子303,伝送線路305,及びインダクタ306などの、支持枠302に囲われた基板301の上の素子に電気的に接続する集積回路が、基板301には形成されている。なお、実施の形態1,2に例示した可動構造体よりなる素子として、例えば、可動部の変位による振動を利用した共振子や、可動部が加速度に対応して変位することによる加速度センサなどの素子が、スイッチ303及び可変容量303と同様に、支持枠302に囲われた領域内に配置されていても良いことは言うまでもない。
【0038】
次に、上述した本実施の形態における微細構造体の製造方法について、図4〜図6を参照して説明する。まず、図4(a)に示すように、例えばシリコンからなる基板401の上に、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁層401aが形成された状態とする。基板401は、複数のトランジスタ,抵抗,容量,配線などから構成された半導体集積回路を備えていてもよく、例えば、集積回路の配線と電気的に接続するためのコンタクトホールなどが、層間絶縁層401aの所定の箇所に形成されていてもよい。なお、図4〜図6では、基板401の最小単位の微細構造体の部分となる一部領域を示しており、基板401の図示していない領域にも、同様の構成の複数の微細構造体が形成される。
【0039】
このような基板401を用意したら、層間絶縁層401aの上に第1シード層402が形成された状態とする。第1シード層402は、スパッタ法や蒸着法などにより、例えば、まずチタンを堆積して、この上に金を堆積することで形成すればよい。チタンの膜厚は0.1μm程度とし、金の膜厚は0.1μm程度とすればよい。
【0040】
次に、第1シード層402の上に、支持枠の一部となる第1金属パターン403a,配線支持部となる第2金属パターン403b,固定電極支持部となる第3金属パターン403cが形成された状態とする。これら金属パターンの形成について簡単に説明すると、まず、第1シード層402の上に感光性レジスト材料を塗布して感光性レジスト膜が形成された状態とし、所望のパターンを備えるマスクを用いて露光することにより、所望箇所に開口部を備えたレジストパターンが形成された状態とする。感光性レジスト(レジストパターン)の膜厚は、15μm程度とすればよい。
【0041】
次に、このレジストパターンの開口部に露出する第1シード層402の上に、めっき法により金のパターンが形成された状態とし、この後、レジストパターンが除去された状態とする。めっき膜は、膜厚10μm程度に形成すればよい。これらのことにより、第1シード層402の上に、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cが形成された状態が得られる。
【0042】
次に、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cをマスクとして第1シード層402をエッチング除去し、図4(b)に示すように、第1シード層402が第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cに対応して各々電気的に分離した状態とする。例えば、第1シード層402の上層にある金は、ヨウ素、ヨウ化アンモニウム、水、エタノールからなるエッチング液によりウェットエッチングすればよい。このエッチングにより露出した第1シード層402の下層のチタンは、フッ化水素水溶液によりウェットエッチングすればよい。
【0043】
次に、図4(c)に示すように、分離した第1シード層402と、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cとを覆うように、下層犠牲層404が形成された状態とする。下層犠牲層404は、例えば、ポリアミド,ポリアミド酸,ポリベンゾオキサゾール(もしくはこの前駆体)などのベース樹脂にポジ型感光剤を付加したものを用いればよい。また、下層犠牲層404は、これら材料を回転塗布することで形成することができる。ポリベンゾオキサゾールをベース樹脂とするポジ型の感光性を有する樹脂としては、例えば、住友ベークライト株式会社製の「CRC8300」がある。
【0044】
次に、図4(d)に示すように、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cの上部の下層犠牲層404を除去し、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cの上面が露出した状態とする。感光性を有する下層犠牲層404を公知のリソグラフィ技術によりパターニングすることにより、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cの上面を露出した状態とすることができる。下層犠牲層404をパターニングする際には、前処理として120℃のプリベークを4分程度行い、パターニング後には310℃程度の加熱処理を行い、樹脂の膜が熱硬化された状態とする。
【0045】
次に、図4(e)に示すように、露出した第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cの上面と下層犠牲層404の上面とに第2シード層405が形成された状態とする。第2シード層405は、第1シード層402と同様に形成すればよく、チタンの膜厚は0.1μm程度とし、金の膜厚は0.1μm程度とすればよい。
【0046】
次に、図4(f)に示すように、第2シード層405の上に、可動構造体となる第4金属パターン406が形成された状態とする。これは、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cと同様に形成すればよく、レジストパターンの膜厚は、2μm程度とし、めっき膜は、膜厚1μm程度に形成すればよい。
【0047】
次に、第4金属パターン406をマスクとして第2シード層405をエッチング除去し、図5(g)に示すように、第4金属パターン406対応して電気的に分離した状態とする。この形成は、第1シード層402の分離と同様に行えばよい。
【0048】
次に、図5(h)に示すように、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cの上面が露出する開口部407a,開口部407b,及び開口部407c、また、第4金属パターン406の一部正面が露出する開口部407dを備えた上部犠牲層407が形成された状態とする。上部犠牲層407の形成では、分離した第2シード層405及び第4金属パターン406を覆うように、下層犠牲層404と同様の樹脂材料を塗布してパターニングすればよい。
【0049】
次に、図5(i)に示すように、各開口部の内部を含めた上部犠牲層407の上に、第3シード層408が形成された状態とする。第3シード層408は、第1シード層402及び第2シード層405と同様に形成すればよい。
【0050】
次に、図5(j)に示すように、支持枠の一部となる第5金属パターン409a,配線となる第6金属パターン409b,及び固定電極となる第7金属パターン409cが形成された状態とする。これらの形成は、第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cなどと同様であり、膜厚を30μmとしたレジストパターンを用い、めっき膜の膜厚は20μm程度として行えばよい。
【0051】
次に、図5(k)に示すように、第5金属パターン409a,第6金属パターン409b,及び第7金属パターン409cを形成した後、これらに対応して第3シード層408が電気的に分離した状態とする。この分離は、第1シード層402の場合と同様に行えばよい。
【0052】
次に、下層犠牲層404及び上層犠牲層407が除去された状態とし、図6(l)に示すように、層間絶縁層401aの上に、まず、第1シード層402,第1金属パターン403a,第3シード層408,第5金属パターン409aよりなる支持枠が形成された状態とする。この支持枠は、図2に示す支持枠202に相当する。
【0053】
また、層間絶縁層401aの上に、第1シード層402及び第2金属パターン403bよりなる配線支持部が形成された状態とする。この配線支持部は、図2に示す配線支持部203に相当する。また、層間絶縁層401aの上に、第1シード層402及び第3金属パターン403cよりなる固定電極支持部が形成された状態とする。この固定電極支持部は、図2に示す固定電極支持部206aに相当する。
【0054】
また、上記配線支持部の上に、第3シード層408及び第6金属パターン409bよりなる配線が形成された状態とする。この配線は、図2に示す配線204に相当する。また、上記配線の一部下面に接続した状態に、第4金属パターン406及び第2シード層405からなる可動構造体が形成された状態とする。この可動構造体は、図2に示す可動構造体205に相当する。また、上記固定電極支持部の上に、第3シード層408及び第7金属パターン409cよりなる固定電極が形成された状態とする。この固定電極は、図2に示す固定電極206bに相当する。
【0055】
ここで、同時に形成された第1金属パターン403a,第2金属パターン403b,及び第3金属パターン403cは、同じ高さ(膜厚)に形成され、同時に形成された第5金属パターン409a,第6金属パターン409b,及び第7金属パターン409cは、同じ高さに形成されている。また、分離された各シード層も、各々同じ膜厚である。従って、これらの積層により形成された支持枠,配線構造体及び固定電極構造体は、同じ高さに形成された状態となる。
【0056】
なお、下層犠牲層404及び上層犠牲層407の除去は、例えば、オゾン雰囲気中で250〜300℃に加熱することで行えばよい。このようなオゾンに上層犠牲層407及び下層犠牲層404を接触させることで、これらをアッシング除去することができる。
【0057】
次に、図6(m)に示すように、膜厚10μm程度の封止膜410が、第5金属パターン409a,第6金属パターン409b,及び第7金属パターン409cの上面に貼り付けられた状態とし、上記支持枠の内部空間が封止された状態とする。
【0058】
以下、封止膜410の形成例について簡単に説明する。封止膜410は、よく知られたSTP法により形成すればよい(非特許文献2参照)。まず、感光性有機樹脂材料からなる膜厚10μm程度の感光性樹脂膜が予め塗布形成されているシートフィルムを用意する。上記感光性樹脂膜が、封止膜となる。次に、シートフィルムの感光性樹脂膜形成面を第5金属パターン409a,第6金属パターン409b,及び第7金属パターン409cの上面に熱圧着する。次いで、シートフィルムを感光性樹脂膜から剥離し、感光性樹脂膜に100℃・1時間程度の熱処理を加える。
【0059】
このことにより、感光性樹脂膜が第5金属パターン409a,第6金属パターン409b,及び第7金属パターン409cの上面に貼り付けられた状態が得られる。なお、STP法に限らず、他の方法で感光性樹脂膜が形成された状態としても良いことは言うまでもない。次に、よく知られたフォトリソグラフィ技術により感光性樹脂膜をパターニングし、第5金属パターン409a(支持枠)の平面形状に感光性樹脂膜を加工し、これを300℃程度の温度条件で加熱硬化すればよい。
【0060】
以上のようにして封止膜410が形成された後、例えば、基板401を所定の寸法のチップ毎に切り出す(ダイシングする)ことで、上述したように封止膜410に封止された上記支持枠の中に可動構造体,固定電極構造体,及び配線構造体よりなる微細構造体を各々備えた複数のチップが形成される。このダイシングにおいては、よく知られているように高圧水流が供給されているが、支持枠と共に配線構造体により支持された状態で封止膜が形成されているため、配線構造体に対する異物の付着や配線構造体の破損などを防ぐことができる。
【0061】
ところで、上述では、支持枠となる第5金属パターン409a,配線(配線構造体)となる第6金属パターン409b,及び固定電極(固定電極構造体)となる第7金属パターン409cが、層間絶縁層401a(基板401)の上に同じ高さとなるように形成したが、これに限るものではない。これらが異なる高さに形成されていても良い。ただし、内部に配置される配線構造体となる部分を支持枠より高く形成する場合、この高さの差(段差)が固定電極の厚さより小さくなるようにした方がよい。
【0062】
上記段差が固定電極や配線の厚さより大きくなると、前述したようなSTP法などにより感光性樹脂膜(封止膜410)を貼り合わせるときに、固定電極及び配線の部分が樹脂膜に埋め込まれる状態となり、固定電極及び配線の側方の寄生容量の増加を招く。また、このような状態では、樹脂膜が配線の側部より基板側に進入する場合も発生し、進入した樹脂膜の部分により、配線構造体の一部が破損する場合も発生する。このような状態を抑制するためにも、上記段差は、固定電極及び配線の厚さより小さくした方がよい。
【0063】
また、支持枠を内部に配置される配線構造体となる部分より高く形成する場合、この高さの差(段差)が、貼り付ける樹脂膜の厚さより小さくなるようにした方がよい。この場合、前述したようなSTP法などにより感光性樹脂膜を貼り合わせるときに、支持枠の上端部が樹脂膜に埋め込まれる状態となるが、段差が樹脂膜より大きいと、支持枠の上端部が樹脂膜を貫通し、樹脂膜で封止が行えない場合が発生する。このような状態を抑制するためにも、上記段差は、封止膜の厚さより小さくした方がよい。
【0064】
なお、上述では、図2を用いて説明した微細構造体の製造方法について説明したが、同様の方法により、図1,図3を用いて説明した微細構造体も製造できることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1における微細構造体の構成を示す斜視図(a)及び断面図(b)である。
【図2】本発明の実施の形態2における微細構造体の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態3における微細構造体の構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態における微細構造体の製造方法例を示す工程図である。
【図5】本発明の実施の形態における微細構造体の製造方法例を示す工程図である。
【図6】本発明の実施の形態における微細構造体の製造方法例を示す工程図である。
【図7】従来よりある微細構造体の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
101…基板、102…支持枠、103…可動部支持部、104…可動構造体、104a…梁、104b…可動電極、105…固定電極構造体、105a…固定電極支持部、105b…固定電極、106…封止膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板の上に形成されて所定の領域を囲う支持枠と、
前記基板より離間する可動電極を含み、前記基板の上の前記支持枠で囲われた領域に配置された可動構造体と、
前記可動電極の上部に対向して配置された固定電極を含み、前記基板の上の前記支持枠で囲われた領域に配置された固定電極構造体と、
前記固定電極構造体及び前記支持枠に支持されて前記支持枠に囲われた領域を封止する封止膜と
を少なくとも備えることを特徴とする微細構造体。
【請求項2】
請求項1記載の微細構造体において、
前記固定電極構造体は、前記支持枠と同じ高さに形成されている
ことを特徴とする微細構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の微細構造体において、
前記基板の上の前記支持枠で囲われた領域に形成された配線支持部と、
前記配線支持部に支持され、前記基板の上の前記支持枠で囲われた領域に前記基板の表面より離間して配置された配線と
を備えることを特徴とする微細構造体。
【請求項4】
請求項3記載の微細構造体において、
前記配線は、インダクタ,トランスフォーマ,及び伝送線路の少なくとも1つを構成していることを特徴とする微細構造体。
【請求項5】
請求項3又は4記載の微細構造体において、
前記可動構造体は、前記配線の一部に支持されていることを特徴とする微細構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細構造体において、
前記可動構造体及び固定電極構造体により、可変容量,スイッチ,共振子,及び加速度センサの少なくとも1つを構成していることを特徴とする微細構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の微細構造体において、
前記基板は、能動素子及び多層配線を含む半導体集積回路を備え、前記可動電極及び固定電極は、前記半導体集積回路に電気的に接続されていることを特徴とする微細構造体。
【請求項8】
基板の上に犠牲膜を用いて金属膜を積層して積層した前記金属膜により前記基板の上に所定の領域を囲う支持枠,前記支持枠で囲われた領域に配置されて可動電極を備えた可動構造体,及び可動電極の上部に対向して配置された固定電極を備えた固定電極構造体が形成された状態とする工程と、
前記犠牲膜を除去し、前記可動電極が前記基板の上部に離間して配置され、前記固定電極が前記可動電極の上に離間して対向配置された状態とする工程と、
前記犠牲膜を除去した後、前記支持枠及び前記固定電極構造体の上面に接触する封止膜を貼り付け、前記支持枠及び前記固定電極構造体に支持されて前記支持枠に囲われた領域を封止する前記封止膜が形成された状態とする工程と
を少なくとも備えることを特徴とする微細構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−107041(P2009−107041A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280139(P2007−280139)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】