説明

感光性組成物

【課題】従来のカチオン系の持つ接着性が良好で硬化収縮も小さいといった性能を保持しながら、これまでにない優れた光硬化性かつ耐透湿性、耐腐食性という性能を有するカチオン系感光性組成物およびその硬化物を提供し、それを用いた光ディスク、フラットパネルディスプレイの製造法を提供する。
【解決手段】(a)カチオン重合性化合物 10〜95質量%、(b)少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する芳香族系化合物 0.1〜90質量%、(c)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%を含有することを特徴とする感光性組成物及びその硬化物を用いて、光ディスク及びフラットパネルディスプレイを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線の照射により、極めて高速に硬化塗膜を形成することができ、且つそれにより形成された塗膜は、耐透湿性に優れ、樹脂、金属、ガラスといった様々な基材に対し良好な密着性を有し、加工性にも優れ、また硬化時の収縮も少ない感光性組成物及びその硬化物に関する。
本発明の感光性組成物及びその硬化物は、接着剤、塗料、インキ、フィルムコーティング、特には光学部品用、電子部品用における接着剤、コート材、フォトレジスト、シール材、封止材、絶縁材などの用途として有用である。具体的には、本発明は、反射防止膜形成用コーティング材、ハードコーティング材、光ディスクの貼り合わせ用接着剤、液晶や有機EL等のディスプレイパネルのシール材として有用であり、特には次世代光ディスクであるBlu−ray Diskの表面保護層形成材、有機ELディスプレイのシール材として有用な感光性組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
画像、音楽、コンピューターデータ等の多様なデータを記録または再生するための光記録媒体として、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versataile Disk)などが実用化されている。現在では、記録密度を更に高くして、1枚のディスクに大容量のデータを記録することが望まれており、次世代光ディスクであるBlu−ray Diskの開発が進められている。
光ディスクの記録密度は、対物レンズの開口数(NA)と光源のレーザー波長という2つのパラメータによってほぼ決まり、光ディスクの高密度化の手法としては光学系の短波長化、高開口数化が一般的に行われている。短波長化、高開口数化を行うと、光透過層の厚さを薄くする必要性が生じてくる。これは、高開口数化に伴い、ディスクとレーザー光の光軸の傾きに許される角度誤差(チルト・マージン)が狭くなってしまい、光透過層が薄いほどこのチルト・マージンを広げることが可能だからである。
【0003】
このような光ディスクでは、記録層の上に例えばラジカル重合反応により硬化される(メタ)アクリレート系材料を使用した紫外線硬化型樹脂を塗工し、これを光硬化させて光透過層を形成するといった方法等をとっている。しかしながらラジカル硬化系には、硬化収縮が大きいという欠点があり、この収縮により光記録媒体全体が反ってしまうという不都合が発生する。また硬化後においても、高温高湿の条件等で光記録媒体全体が反るという問題も生じる。
この問題を解決する方法として、ラジカル硬化系ではなく、カチオン硬化系材料を使うことが挙げられる。エポキシやビニルエーテル、オキセタン等の材料を使用したカチオン硬化系材料は、(a)酸素による硬化阻害を受け難いため、表面および薄膜硬化性に優れる(b)硬化収縮が小さい(c)幅広い基材に対し良好な接着性を有する等、ラジカル硬化系に比べ優れた特長を有するものである。実際、カチオン硬化系の光硬化型樹脂を用いて光透過層を形成する試みがなされており(特許文献1参照)、硬化収縮を抑制することが可能となっている。
【0004】
ただし、カチオン硬化系においても欠点があり、光によってのみ硬化させようとした場合、硬化性が不十分であり重合性モノマーやオリゴマーの転化率が向上しないという問題があり、また金属や記録膜を腐食させ易いという欠点もある。こうした課題をも解決したカチオン硬化系材料は開発されていないのが現状であり、事実、特許文献1においても、光硬化後更に加熱等を行い硬化を促進させたり、カチオン硬化系材料の強い腐食性のために光透過層をラジカル系硬化膜とカチオン系硬化膜の2層構造にするなどの方法を模索している。
他に、光カチオン重合での光硬化性を向上させるため、オキセタニル基とエポキシ基を同一分子内に有する化合物を用いたり(特許文献2参照)、アルミニウムの腐食防止のために保護層を設けたり(特許文献3参照)、腐食を抑制するために防食剤成分を添加する試みがなされているが(特許文献4参照)、優れた光硬化性と低腐食性を兼ね備えたような、光ディスクの光透過層に最適な材料は未だ開発されていない。
【0005】
また近年、電子、電気業界において種々の表示素子を利用したフラットパネルディスプレイ(FPD)の開発、製造が行われている。これらのディスプレイの多くは、ガラスやプラスチックなどのフラットパネルから成るセルに表示素子を封止したものであり、その代表として、液晶ディスプレイ(LCD)、ELD、電子ペーパー等が挙げられる。
これらのうちELD、とりわけ有機ELDは自発光ならではの高視野角、高コントラスト性に加え、高輝度、高効率、高速応答性、多色化の点で優れており、薄型フルカラーディスプレイ用途として期待されている。また、電極および発光層が非常に薄膜であるため、プラスチック基材上に形成させることでフレキシブルなディスプレイや、大型平面照明用途としての可能性も検討されている。有機EL素子は、電子注入電極から直接または電子輸送層を介して発光層に注入された電子と、正孔注入電極から直接または正孔輸送層を介して発光層に注入された正孔との再結合により発光が生じる。
【0006】
このような発光機構に基づく有機EL素子の電極には、非常に活性で化学的に不安定な合金が用いられ、外部からの水分や酸素による腐食、酸化が起こりダークスポットと呼ばれる未発光部の形成とその著しい増加および経時での輝度の劣化が見られる。また、有機EL素子の発光層や電荷輸送層には有機材料が用いられているため、水分や酸素により劣化を受け易く、同様にダークスポットの形成や輝度低下を招くという問題がある。
そのため、実用的な有機EL素子とするには、有機材料や電極材料に水分や酸素が入らないように素子を効果的に封止(シール)する必要がある。FPDの封止方法としては、従来LCDの封止に用いられてきた熱硬化型エポキシ樹脂を用いる方法があるが、この場合150℃〜180℃という高温で2時間程度加熱硬化する必要があり、生産性が上がらないだけでなく、有機ELのような熱に弱い材料を用いた素子の場合、好ましい方法ではない。
【0007】
これに対し、低温速硬化が可能な方法として光硬化型シール剤の開発が試みられており、通常、光ラジカル硬化型シール剤と光カチオン型シール剤がある。光ラジカル硬化型シール剤の場合、アクリル系樹脂が主に用いられ、多様なアクリレート系モノマーやオリゴマーが利用できるという利点はあるが、一般に耐透湿性が不十分であり、また硬化収縮が大きく基材との接着性が不十分であるといった問題もあり、未だ満足できる性能の材料はない。
一方、光カチオン硬化型シール剤の場合、主にエポキシ系樹脂が用いられており、接着性に優れ、耐透湿性も比較的良好ではあるが、いまだ不十分であるのが実状である。また実質加熱プロセスを用いることなく光によってのみ硬化させようとした場合、硬化性が不十分であり重合性モノマーやオリゴマーの転化率が向上しないという問題があった。このため、光カチオン重合の重合性化合物の光硬化性を向上させるため、水酸基を有する化合物を併用する試みもなされているが(特許文献5参照)十分な光硬化性および耐透湿性は得られていない。
【0008】
他に、光カチオン重合系において水酸基を有する化合物を併用する試みとしては、ラジカル型・カチオン型のハイブリッド系において、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体やプロピレンオキサイド付加体等を併用する試みもなされているが(特許文献6参照)、光硬化性と耐透湿性はいまだ不十分であり、またラジカル型とのハイブリッド系であるために接着性も十分でない。
【特許文献1】特開平11−191240号公報
【特許文献2】特開2002−235066号公報
【特許文献3】特開平9−69239号公報
【特許文献4】特開2002−146331号公報
【特許文献5】特開平11−224771号公報
【特許文献6】特許第3564650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のカチオン系の持つ接着性が良好で硬化収縮も小さいといった性能を保持しながら、これまでにない優れた光硬化性かつ耐透湿性、耐腐食性という性能を有するカチオン系感光性組成物及びその硬化物を提供し、そしてこの感光性組成物及びその硬化物を用いて光ディスクの光透過層を形成し、またこの感光性組成物及びその硬化物をシール材とするLCD、有機ELD、電位ペーパー等のFPD、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特段の加熱プロセスを用いなくとも優れた光硬化性を有し、そして耐透湿性、耐腐食性に優れるカチオン重合性感光性組成物を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.(a)カチオン重合性化合物 10〜95質量%、(b)少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する芳香族系化合物 0.1〜90質量%、(c)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%を含有することを特徴とする感光性組成物。
2.成分(a)が、エポキシ基を有する化合物及び/又はオキセタン環を有する化合物であることを特徴とする上記1に記載の感光性組成物。
3.成分(b)が、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする上記1または2に記載の感光性組成物。
【0011】
【化1】

(式中Raは水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Raは互いに同一でも異なっていてもよい。mは1〜20の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。また、Xは芳香環を少なくとも1個含む有機基を示す。)
4.成分(b)が、式(1)におけるXとして、芳香環を少なくとも2個含んでいる化合物であることを特徴とする上記3に記載の感光性組成物。
5.成分(b)が、式(1)においてn=2となる化合物であることを特徴とする上記3または4に記載の感光性組成物。
6.成分(b)が、式(1)におけるXとして、下記一般式(2)で示される基を有する化合物であることを特徴とする上記5に記載の感光性組成物。
【0012】
【化2】

(式中Yは、単結合或いは2価の有機基を示す。)
7.成分(b)が、式(2)におけるYとして、単結合或いは下記一般式(3)で示される基を有する化合物であることを特徴とする上記6に記載の感光性組成物。
【0013】
【化3】

(式中Rbはハロゲン原子を表し、Rbは互いに同一でも異なっていてもよい。また、式中Rcは炭素数2〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基である。)
8.成分(b)が、式(1)におけるXとして、下記一般式(4)で示される基を有する化合物であることを特徴とする上記5に記載の感光性組成物。
【0014】
【化4】

(式中Rdは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Rdは互いに同一でも異なっていてもよい。また、pは1〜4の整数を表し、pは互いに同一でも異なってもよく、Zは単結合或いは2価の有機基を示す。)
9.成分(b)が、式(4)におけるZとして、単結合或いは下記一般式(5)で示される基を有する化合物であることを特徴とする上記8に記載の感光性組成物。
【0015】
【化5】

(式中Reはハロゲン原子を表し、Reは互いに同一でも異なっていてもよい。また、式中Rfは炭素数2〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基である。)
10.成分(b)として、少なくとも下記一般式(6)で示される化合物を含有することを特徴とする上記1〜9のいずれかに記載の感光性組成物。
【0016】
【化6】

(式中Rgは水素またはメチル基のいずれかであり、式中Rhは水素、メチル基またはエチル基のいずれかであり、Rg、Rhはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、qは1〜20の整数を表し、qは互いに同一でも異なっていてもよい。)
11.光透過層を通して光により記録又は再生を行う光ディスクの製造方法において、上記1〜10のいずれかに記載の感光性組成物を用いて塗工層を形成する工程と、該塗工層にエネルギー線照射して前記感光性組成物を硬化させて光透過層を形成する工程を有することを特徴とする光ディスクの製造方法。
12.光透過層を通して光により記録又は再生を行う光ディスクにおいて、光透過層が、上記1〜10のいずれかに記載の感光性組成物を硬化させることにより形成されたものであることを特徴とする光ディスク。
13.対向する基板をシール材により張り合わせる工程を含むフラットパネルディスプレイの製造方法において、上記1〜10のいずれかに記載の感光性組成物から成るシール材を用いることを特徴とするフラットパネルディスプレイの製造方法。
14.フラットパネルディスプレイが有機エレクトロルミネッセンスディスプレイであることを特徴とする請求項13に記載のフラットパネルディスプレイの製造方法。
15.上記1〜10のいずれかに記載の感光性組成物に、エネルギー線照射することにより得られることを特徴とする硬化物。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカチオン重合性感光性組成物及びその硬化物を用いて光ディスクの光透過層を形成することにより、生産性が大幅に向上するだけでなく、反りが発生せず腐食も抑制された良質な光透過層を持った光ディスクを提供することが可能となる。また本発明のカチオン重合性感光性組成物及びその硬化物から成るシール材を用いFPDを製造する場合、該シール材の優れた光硬化性から、生産性が大幅に向上するだけでなく、硬化物の接着性や耐透湿性が優れるため、得られるFPDの寿命を延ばすことができ、信頼性を向上させる等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明における成分(a)のカチオン重合性化合物としては、エポキシ基を有する化合物、オキセタン環を有する化合物、ビニルエーテル化合物、前記以外の環状エーテル化合物、環状ラクトン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物等を挙げることができる。これらの中では、光硬化性や透明性等の硬化膜特性の点で、エポキシ基を有する化合物及び/又はオキセタン環を有する化合物を用いることが好ましい。
エポキシ基を有する化合物としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物等が挙げられ、その中でも1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。
【0019】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、p−tert−ブチルフェノールノボラック型エポキシ化合物といったアルキルフェノールノボラック型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジ及び/又はトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリ及び/又はテトラグリシジルエーテル、ソルビトールヘプタ及び/又はヘキサグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン・フェノール付加型グリシジルエーテル、メチレンビス(2,7−ジヒドロキシナフタレン)テトラグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、1,5−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0020】
脂環式エポキシ化合物の具体例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,2,8,9−ジエポキシリモネン等が挙げられる。その他のエポキシ化合物の具体例としては、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0021】
更に具体的には、単官能脂環式エポキシ化合物としては、ETHB、セロキサイド2000(ダイセル化学工業社製)、2官能脂環式エポキシ化合物としてはセロキサイド2021、2080、3000(ダイセル化学工業社製)、サイラキュアUVR−6105、UVR−6128(ダウ・ケミカル日本社製)、多官能脂環式エポキシ化合物としては、エポリードGT300、GT400、EHPE3150(ダイセル化学工業社製)、その他としてはエポリードPB3600、エポブレンドAT501、CT310(ダイセル化学工業社製)等を用いることができる。このうち、脂環式エポキシ化合物がカチオン重合反応性に優れるため好ましい。これらのエポキシ基を有する化合物は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0022】
オキセタン環を有する化合物は、分子中にオキセタン環を少なくとも1個有する化合物であれば特に限定されるものではない。オキセタン環を1個有する化合物の具体例としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、3−エチル−3−(シクロヘキシロキシ)メチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、4−フルオロ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、4−メトキシ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)エチル〕フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−テトラブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−トリブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシプロピル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ブトキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が挙げられる。
【0023】
オキセタン環を2個以上有する化合物の具体例としては、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、3,3’−(1,3−(2−メチレニル)プロパンジイルビス(オキシメチレン))ビス−(3−エチルオキセタン)、ビス〔1−エチル(3−オキセタニル)〕メチルエーテル、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン、1,2−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕エタン、1,3−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールFビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、オキセタニルシルセスキオキサン、オキセタニルシリケート、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0024】
これらのオキセタン環を有する化合物は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。オキセタン環を有する化合物として例えば、アロンオキセタンOXT−101、OXT−221、OXT−121、OXT−212、OXT−211(東亞合成社製)等を用いることができる。これらの中でもOXT−101、OXT−221、OXT−121が硬化性、硬化膜性能の観点で好ましく、硬化性という観点ではOXT−101がより好ましく、耐透湿性という観点ではOXT−121がより好ましい。
本発明における成分(a)のカチオン重合性化合物としては、エポキシ基を有する化合物とオキセタン環を有する化合物を各々単独で用いても良く、或いは併用しても良い。光硬化性を向上させる、特にキセノンランプ等の長波長領域ランプでの硬化性を向上させるためには、エポキシ基を有する化合物とオキセタン環を有する化合物を併用するのが好ましい。
【0025】
本発明で用いられる成分(b)芳香族系化合物は、少なくとも2個の脂肪族水酸基を有しており、好ましくは下記一般式(1)で示される化合物である。
【0026】
【化7】

(式中Raは水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Raは互いに同一でも異なっていてもよい。mは1〜20の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。また、Xは芳香環を少なくとも1個含む有機基を示す。)
多価アルコールの併用技術は、カチオン重合反応速度の向上、柔軟性の付与等を目的として広く知られている。本発明の感光性組成物に用いられる成分(b)として、分子中に少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する化合物を用いることにより、硬化性、エポキシ基の反応性、硬化膜物性に優れた系を実現できる。成分(b)の骨格としては、芳香環を少なくとも1個含むことが重要であり、これにより優れた耐透湿性、耐吸湿性、熱膨張係数の低減を実現することができる。
【0027】
このような化合物としては、フェノール系化合物にエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドを反応させた化合物が好ましい。アルキレンオキシドの付加モル数により発現性能をコントロールすることが可能であり、またエーテル鎖の存在により基材との接着性が向上するからである。
一般式(1)で示される化合物のうち、式中nは1〜20の整数であり、nが2以上の整数であると光硬化性、硬化膜特性の点で好ましい。耐透湿性の点からn=2〜10がより好ましく、更に好ましくはn=2〜5、最も好ましくはn=2である。また式中mは1〜20の整数を表し、光硬化性、可とう性、硬度、接着性等の観点からm=1〜10が好ましい。
このような一般式(1)で示される化合物のうち、式中のXとしては、アルキレンオキサイドと反応可能なフェノール系化合物であれば特に限定されるものではない。フェノール系化合物としては、非特許文献(「新エポキシ樹脂」、垣内弘編、昭晃堂発行、1985年)(「総説エポキシ樹脂」、エポキシ樹脂技術協会編、エポキシ樹脂技術協会発行、2003年)に記載のフェノール系化合物、または同文献に記載のエポキシ樹脂の原料フェノール化合物を挙げることができる。
【0028】
式中のXとしては例えば、式中n=2となる化合物として下記一般式(2)や
【0029】
【化8】

(式中Yは、単結合或いは2価の有機基を示す。)、
下記一般式(4)
【0030】
【化9】

(式中Rdは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Rdは互いに同一でも異なっていてもよい。また、pは1〜4の整数を表し、pは互いに同一でも異なってもよく、Zは単結合或いは2価の有機基を示す。)、
式中n=2となるその他の化合物として下記一般式(7)
【0031】
【化10】

(式中Riは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Riは互いに同一でも異なっていてもよい。そしてaは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜2の整数、dは0〜8の整数を表し、a、b、c、及びdはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)、
式中n=3、4、または2以上となる化合物として下記一般式(8)等を挙げることができる。
【0032】
【化11】

(式中Rjは水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Rjは互いに同一でも異なっていてもよい。Rkは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Rkは互いに同一でも異なっていてもよい。eは0〜4の整数を表し、fは0〜3の整数を表し、gは0〜2の整数を表し、rは0以上の整数を表し、sは1以上の整数を表し、e、f、g、r、及びsはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)
これらのうち、本発明に用いられる成分(b)としては、式(1)におけるXとして芳香環を少なくとも2個含んでいる化合物であると、耐透湿性の点で好ましい。また一般式(1)で示される化合物のうち、(a)カチオン重合性化合物との相溶性及び反応性の点から、式中のXが一般式(2)及び一般式(4)で示される化合物が好ましい。更に式(2)におけるYとして単結合或いは一般式(3)で示される化合物、式(4)におけるZとして単結合或いは一般式(5)で示される化合物であると、光硬化性や耐透湿性等の硬化膜特性の点で好ましい。
【0033】
これらの中で、耐透湿性という点で、より好ましくは、下記一般式(9)
【0034】
【化12】

(式中Rlは水素、メチル基またはエチル基のいずれかであり、Rlは互いに同一でも異なっていてもよく、tは1〜20の整数を表し、tは互いに同一でも異なっていてもよい。)、
下記一般式(10)
【0035】
【化13】

(式中Rmは水素、メチル基またはエチル基のいずれかであり、Rmは互いに同一でも異なっていてもよく、uは1〜20の整数を表し、uは互いに同一でも異なっていてもよい。)、
下記一般式(11)で表される化合物である。
【0036】
【化14】

(式中Rnは水素、メチル基またはエチル基のいずれかであり、Rnは互いに同一でも異なっていてもよく、vは1〜20の整数を表し、vは互いに同一でも異なっていてもよい。)
本発明で用いられる成分(b)少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する芳香族系化合物は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
また、成分(b)として、少なくとも下記一般式(6)で示される化合物を含有すると好ましい。
【0037】
【化15】

(式中Rgは水素またはメチル基のいずれかであり、式中Rhは水素、メチル基またはエチル基のいずれかであり、Rg、Rhはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、qは1〜20の整数を表し、qは互いに同一でも異なっていてもよい。)
この一般式(6)で示される化合物は、成分(a)と成分(b)の相溶性を向上させることを主目的に用い、式中qは1〜20の整数であるが、相溶性や光硬化性、硬度の点で、複数のRhのうち少なくとも1個が水素以外の場合は、qが1〜10の整数であることが好ましく、複数のRhが全て水素である場合には、qは10以下の整数であり2個のqのうちの少なくとも1個は2以上の整数であることが好ましい。
本発明の(c)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤とは、エネルギー線照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能な化合物であり、特に好ましいものとしては照射によりルイス酸を放出するオニウム塩である。このようなものとしては、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩等が挙げられ、これらはカチオン部分がそれぞれ芳香属ジアゾニウム、芳香属ヨードニウム、芳香属スルホニウムであり、アニオン部分がBF、PF、SbF、[BX(ただし、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)等により構成されたオニウム塩である。
【0038】
具体的には、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素のジフェニルヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン−鉄錯体等を挙げることができる。更に具体的には、CD−1012(商品名:SARTOMER社製)、PCI−019、PCI−021(商品名:日本化薬社製)、オプトマーSP−150、オプトマーSP−170(商品名:旭電化社製)、UVI−6990(商品名:ダウケミカル社製)、CPI−100P、CPI−100A(商品名:サンアプロ社製)、TEPBI−S(商品名:日本触媒社製)等を用いることができ、これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のエネルギー線感受性カチオン重合開始剤には、ベンゾフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル、チオキサントン、アントラセン等の光増感剤を併用することもでき、具体的には4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4’−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン等が挙げられる。
【0039】
本発明の感光性組成物には、硬化性や硬化時の膜物性に悪影響を及ぼさない程度にカチオン重合性を示す他の化合物を添加することができる。これらの化合物としては、例えば水酸基を有するビニルエーテル化合物が挙げられる。ここで用いられる水酸基を有するビニルエーテル化合物としては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル、9−ヒドロキシノニルビニルエーテル、プロピレングリコールモノビニルエーテル、ネオペンチルグリコールモノビニルエーテル、グリセロールジビニルエーテル、グリセロールモノビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、トリメチロールプロパンモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、トリシクロデカンジオールモノビニルエーテル、トリシクロデカンジメタノールモノビニルエーテル等を挙げることができる。
【0040】
また、水酸基を含有しない多官能ビニルエーテルを併用することも可能である。これらのものとしては、例えばエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、グリセロールトリビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル等を挙げることができる。
また、カチオン重合性を示す他の化合物としては、例えば前記以外の低分子量のエポキシ化合物は希釈剤として用いることでき、また前記以外の環状エーテル化合物や環状ラクトン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物等が挙げられる。また従来用いられる、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールを、硬化性を損なわない範囲で用いることもできる。
【0041】
本発明の感光性組成物には、さらに必要に応じて(メタ)アクリレートモノマー類やオリゴマー類、および光ラジカル開始剤、消泡剤、レベリング剤、重合禁止剤、ワックス類、酸化防止剤、非反応性ポリマー、微粒子無機フィラー、シランカップリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤、腐食防止剤等を添加することもできる。腐食防止剤としては、例えば、イオン交換体、多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、有機錫化合物、スルフィド化合物等が挙げられる。
次に、本発明において用いられる感光性組成物中の各成分の組成割合について説明する。
【0042】
感光性組成物において、(b)少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する芳香族系化合物中の水酸基の官能基濃度(芳香族系化合物のモル数×1分子中の水酸基数と定義する)は、(a)カチオン重合性化合物中のカチオン重合性基の官能基濃度(カチオン重合性化合物のモル数×1分子中のカチオン重合性基数と定義する)以下であることが好ましい。これは、組成物中のカチオン重合性基に比べ水酸基が過剰に存在すると、光硬化性が不十分となったり、耐透湿性等の硬化膜特性が不十分となるためである。
実際の配合割合としては、成分(a)としてカチオン重合性化合物 10〜95質量%、成分(b)として少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する芳香族系化合物 0.1〜90質量%、成分(c)としてエネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%である。
【0043】
成分(a)としては、前述のように光硬化性を特に向上させるためには、エポキシ基を有する化合物とオキセタン環を有する化合物を併用するのが好ましい。その配合割合は、エポキシ基を有する化合物10重量部に対して、オキセタン環を有する化合物を0.1〜1000重量部含むのが好ましく、より好ましくは1〜500重量部、最も好ましくは1〜200重量部である。ただし、光硬化性よりも耐透湿性を重視する場合にはこの限りではない。
成分(b)の含有量は、0.1〜90質量%、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは1〜70質量%であると、前述のような理由により優れた光硬化性及び硬化膜特性が得られる。
【0044】
成分(c)の含有量は、0.1〜20質量%であり、好ましくは0.2〜15質量%である。生産性の観点から、開始剤を過剰に使用しない方が望ましく、開始剤を過剰に使用すると、光線透過率が低下し、膜底部の硬化が不足したり、腐食性が強くなる場合がある。また少な過ぎる場合、エネルギー線照射により発生する活性カチオン物質の量が不足し、十分な硬化性や硬化物が得られなくなる場合がある。
本発明に係わる光ディスクの光透過層は、前記カチオン重合性感光性組成物及びその硬化物から成っており、その優れた硬化性から重合転化率が高く、生産性に優れ、しかも接着性および耐透湿性に優れ腐食性も低いことから当該用途として好適である。
【0045】
本発明の光ディスクの製造方法としては、例えば以下のような方法を挙げることができる。本発明の感光性組成物を、スピンコート法やスクリーン印刷法等の方法により記録層上に塗工した後、エネルギー線照射により塗工層を硬化させて光透過層を形成し、光ディスクを得る方法。また、2枚の基材を用意して、本発明の感光性組成物を一方の基材上に滴下、或いは塗工し、もう1枚の基材を重ね合わせ、必要に応じてスピンコート法等により組成物を均一に延ばした後、エネルギー線照射により硬化させて光ディスクを得る方法。或いは、2枚の基材を用意して、本発明の感光性組成物を一方の基材上に滴下或いは塗工した後、エネルギー線を照射し、もう1枚の基材を貼り合わせてから必要に応じてスピンコート法等により組成物を均一に延ばして、光ディスクを得る方法等がある。
【0046】
本発明の感光性組成物を硬化させるのに使用できる光源としては、所定の作業時間内で硬化させることができるものであれば特に制限はなく、通常、紫外線、可視光線の波長の光を照射できるものであり、例えば低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライド灯、無電極放電ランプ等が挙げられる。
なお、硬化を促進するために、上記方法で得られたディスクを恒温槽、赤外線ヒーター等で加温しても良い。
光透過層の層厚は、所望とする光ディスクの特性や用途によって設定され、硬化処理前の塗工層の層厚は、所望とする光透過層の層厚に応じて設定すればよい。光透過層の層厚としては、例えば3〜200μmとすることができる。
【0047】
本発明に係わるシール材は、前記カチオン重合性感光性組成物及びその硬化物から成っており、その優れた硬化性から重合転化率が高く、生産性に優れ、しかも接着性および耐透湿性に優れることからLCD、ELD、電子ペーパー等のFPD用シール材として好適である。とりわけ有機ELD用シール材には、高い耐透湿性が求められることから、本発明に係わるシール材にとって最も好ましい適用例である。
本発明のフラットパネルディスプレイである有機ELDの製造方法としては、例えば以下のような方法を挙げることができる。一般的な有機ELDは、基板の上に正孔注入電極が形成され、その上部に正孔輸送層と発光層が形成され、さらにその上に電子注入電極が形成される。そして、これらの積層体の周囲には外部から素子を守るための封止材が形成され、この封止材は正孔注入電極と接着剤により張り合わされている。基板としては、透明または半透明なガラス、またはポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、環状オレフィン系ポリマー等の樹脂等が用いられるが、これらの材料を薄膜化したフレキシブルな基板を用いることもできる。封止材としては、通常ステンレスやガラス等の水蒸気バリア性に優れた材料が用いられ、これを本発明の特徴であるカチオン重合性感光性組成物及びその硬化物から成るシール材を用いて、対向の正孔注入電極が形成された基板と張り合わされる。その他の封止構造としては固体膜による全面封止があり、封止材としてフレキシブルな材質のものを用いる場合、特に有効な方法である。
【0048】
基板上に、上記正孔注入電極、正孔輸送層、発光層、電子注入電極を形成する方法としては、公知の方法である抵抗加熱蒸着法やイオンビームスパッタ法等を用いて行うことができる。また、本発明に係わるシール材を基板上に塗布する方法としては、シール剤が均一に塗布できる方法であれば特に制約はないが、例えばスクリーン印刷、フレキソ印刷等の印刷法によるものやディスペンサーを用いて塗布する方法等が挙げられる。
このように塗布されたシール材は、対向する基板と張り合わされた後、封止材側または基板面側から光を照射することにより硬化が行われる。ここで使用できる光源としては、所定の作業時間内で硬化させることができるものであれば特に制限はなく、通常、紫外線、可視光線の波長の光を照射できるものであり、例えば低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライド灯、無電極放電ランプ等が挙げられる。
【0049】
本発明では、光硬化性に優れ、且つ接着性および耐透湿性や耐腐食性にも優れた本発明に係わるカチオン重合性感光性組成物及びその硬化物から成るシール材を用いて、前記の方法により製造されるFPD、中でも特に有機ELDを提供するものであり、また本発明に係わるカチオン重合性感光性組成物及びその硬化物を光透過層として用いて、前記の方法により製造される光ディスクを提供するものである。
【実施例】
【0050】
本発明を実施例に基づいて説明する。なお、感光性組成物及びその硬化物を用いて光ディスクや有機ELDを形成する工程は、実施例においては、本発明のカチオン重合性感光性組成物の光硬化特性および硬化後の接着性、透湿性、腐食性を評価することで、製造される光ディスク及び有機ELDの評価に代えるものとする。
<硬化膜の特性評価>
(1)光硬化性:ベルトコンベア式露光装置を用いて露光してから被膜を指触観察し、硬化完了までに必要な露光回数を求めた。
(2)接着性:ガラス基板上に形成された硬化膜(厚さ約10μm)に対し碁盤目テープ剥離試験を行い、残存率の測定を行った。硬くて脆い膜はこの試験で容易に剥離するため、可とう性についても同時に評価している。
(3)透湿性:JIS K7129Aに準じて、光硬化させたシール材により得たフィルム(厚み100μm)の40℃×90%RH条件での透湿度を、水蒸気透過度テスター:L80−5000型(LYSSY社製)を用い測定した。
(4)腐食性:アルミニウム薄膜付きシリコンウェハー上で硬化した被膜(厚さ約10μm)を、温度90℃、湿度80%条件下にて100時間放置した後、アルミニウムの表面状態を目視にて観察した。
【0051】
なお、原材料として用いているZE−2(製品名:明成化学工業社製)は、下記一般式(12)で表される化合物である。
【0052】
【化16】

[実施例1]
成分(a)のカチオン重合性化合物に該当するものとして、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを25質量%、及び1,4−ビス{〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕メチル}ベンゼンを主成分とするアロンオキセタンOXT−121(製品名:東亞合成社製)を37質量%、成分(b)の少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する芳香族系化合物に該当するものとして、ビス(2−ヒドロキシエチル)テトラブロモビスフェノールAであるTBA−EO20(製品名:明成化学工業社製)を27質量%、更にポリオキシエチレンビスフェノールAエーテルとしてユニオールDA−400(製品名:日本油脂社製)を7質量%、成分(c)のエネルギー線感受性カチオン重合開始剤としてスルホニウムPF塩型のCPI−100P(製品名:サンアプロ社製)4質量%を十分混合することにより透明な感光性組成物を得た。
このようにして得られた感光性組成物の特性を評価するために、まずバーコーターを用い膜厚50μmになるように塗工した後、ベルトコンベア式UVランプシステム(Vバルブ、光源距離123mm、ベルトコンベアスピード16m/min:フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)を用いて光硬化性を評価した。また、バーコーターを用い膜厚10μmになるように塗工した後、400W高圧水銀灯露光機(セン特殊光源社製)で1000mJ/cm露光し、硬化膜の接着性及び腐食性の評価を行った。なお透湿度測定用フィルム作成は、剥離処理PETフィルム上で3000mJ/cm露光を行って感光性組成物を硬化させた後、剥離処理PETフィルムを剥がすことにより行った。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例2]
成分(a)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを80質量%、成分(b)としてTBA−EO20を16質量%、成分(c)としてCPI−100P(商品名:サンアプロ社製)4質量%を十分混合することにより透明な感光性組成物を得た。特性評価は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
成分(b)としてZE−2を16質量%用いる以外は、実施例2と同様にして感光性組成物を得、特性評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例4]
成分(a)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを21質量%、及びアロンオキセタンOXT−121を42質量%、成分(b)としてTBA−EO20を14質量%、ユニオールDA−400を21質量%、成分(c)としてCPI−100Pを2質量%の割合で配合し、十分混合することにより透明な感光性組成物を得た。特性評価は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
成分(a)として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを96質量%、及び成分(c)としてCPI−100Pを4質量%から成るエポキシ樹脂のみで構成される感光性組成物を得た。この組成物の性能評価結果を表1に示す。
[比較例2]
成分(a)として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを48質量%、及びアロンオキセタンOXT−121を48質量%、成分(c)としてCPI−100Pを4質量%の割合で配合し、十分混合することにより透明な感光性組成物を得た。特性評価は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
成分(a)として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを81質量%、成分(c)としてCPI−100Pを4質量%、一般的な脂肪族アルコールとしてジエチレングリコール15質量%を十分混合することにより透明な感光性組成物を得た。特性評価は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0055】
以上の結果から、本発明に係わるカチオン重合性感光性組成物は、比較例に示されるエポキシ樹脂単独系、エポキシ樹脂とオキセタン化合物の併用系、エポキシ樹脂と汎用の脂肪族アルコールの併用系等から成る従来のカチオン型感光性組成物に比べ、優れた光硬化性かつ十分な接着性を有しながら、優れた耐透湿性及び耐腐食性を示すことがわかる。このことから、本発明に係わるカチオン重合性感光性組成物及びその硬化物を用いて光透過層を形成される光ディスクや、本発明に係わるカチオン重合性感光性組成物をシール材とするLCD、有機ELD、電位ペーパー等のフラットパネルディスプレイは、本感光性組成物の優れた光硬化性から高い生産性が期待でき、且つ得られる硬化膜の耐透湿性と耐腐食性が従来に比べ優れていることから、製品寿命の大幅な改善が期待でき、これまで以上に信頼性の高い光ディスク及びFPDの提供を可能とするものである。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の感光性組成物及びその硬化物は、これまでのエポキシ化合物からなる感光性組成物同様、高い透明性及び硬化収縮も小さく接着性も高いといった性能を保持しながら、優れた光硬化性、耐透湿性及び耐腐食性というこれまでにない性質を持っていることから、光ディスク及びフラットパネルディスプレイの分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カチオン重合性化合物 10〜95質量%、(b)少なくとも2個の脂肪族水酸基を有する芳香族系化合物 0.1〜90質量%、(c)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%を含有することを特徴とする感光性組成物。
【請求項2】
成分(a)が、エポキシ基を有する化合物及び/又はオキセタン環を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項3】
成分(b)が、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の感光性組成物。
【化1】

(式中Raは水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Raは互いに同一でも異なっていてもよい。mは1〜20の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。また、Xは芳香環を少なくとも1個含む有機基を示す。)
【請求項4】
成分(b)が、式(1)におけるXとして、芳香環を少なくとも2個含んでいる化合物であることを特徴とする請求項3に記載の感光性組成物。
【請求項5】
成分(b)が、式(1)においてn=2となる化合物であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の感光性組成物。
【請求項6】
成分(b)が、式(1)におけるXとして、下記一般式(2)で示される基を有する化合物であることを特徴とする請求項5に記載の感光性組成物。
【化2】

(式中Yは、単結合或いは2価の有機基を示す。)
【請求項7】
成分(b)が、式(2)におけるYとして、単結合或いは下記一般式(3)で示される基を有する化合物であることを特徴とする請求項6に記載の感光性組成物。
【化3】

(式中Rbはハロゲン原子を表し、Rbは互いに同一でも異なっていてもよい。また、式中Rcは炭素数2〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基である。)
【請求項8】
成分(b)が、式(1)におけるXとして、下記一般式(4)で示される基を有する化合物であることを特徴とする請求項5に記載の感光性組成物。
【化4】

(式中Rdは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基であり、Rdは互いに同一でも異なっていてもよい。また、pは1〜4の整数を表し、pは互いに同一でも異なってもよく、Zは単結合或いは2価の有機基を示す。)
【請求項9】
成分(b)が、式(4)におけるZとして、単結合或いは下記一般式(5)で示される基を有する化合物であることを特徴とする請求項8に記載の感光性組成物。
【化5】

(式中Reはハロゲン原子を表し、Reは互いに同一でも異なっていてもよい。また、式中Rfは炭素数2〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6〜14のアリール基およびアラルキル基からなる群から選ばれた基である。)
【請求項10】
成分(b)として、少なくとも下記一般式(6)で示される化合物を含有することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の感光性組成物。
【化6】

(式中Rgは水素またはメチル基のいずれかであり、式中Rhは水素、メチル基またはエチル基のいずれかであり、Rg、Rhはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、qは1〜20の整数を表し、qは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項11】
光透過層を通して光により記録又は再生を行う光ディスクの製造方法において、請求項1〜請求項10のいずれかに記載の感光性組成物を用いて塗工層を形成する工程と、該塗工層にエネルギー線照射して前記感光性組成物を硬化させて光透過層を形成する工程を有することを特徴とする光ディスクの製造方法。
【請求項12】
光透過層を通して光により記録又は再生を行う光ディスクにおいて、光透過層が、請求項1〜請求項10のいずれかに記載の感光性組成物を硬化させることにより形成されたものであることを特徴とする光ディスク。
【請求項13】
対向する基板をシール材により張り合わせる工程を含むフラットパネルディスプレイの製造方法において、請求項1〜請求項10のいずれかに記載の感光性組成物から成るシール材を用いることを特徴とするフラットパネルディスプレイの製造方法。
【請求項14】
フラットパネルディスプレイが有機エレクトロルミネッセンスディスプレイであることを特徴とする請求項13に記載のフラットパネルディスプレイの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項10のいずれかに記載の感光性組成物に、エネルギー線照射することにより得られることを特徴とする硬化物。

【公開番号】特開2006−265351(P2006−265351A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84279(P2005−84279)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】