説明

成型用延伸ポリエステルフィルム

【課題】 生分解性を有し且つ易形成性及び耐熱性、ガスバリア性に優れたフィルム及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族グリコールから成る繰り返し単位を有するジカルボン酸が約0.2モル%〜約6モル%である共重合ポリエステル樹脂を含む二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記フィルムの破断伸度が縦方向及び横方向において160%以上であり、かつ破断伸度の縦方向と横方向の比率が0.8〜1.2の範囲であり、前記フィルムの融点が180℃以上であることを特徴とする成型用延伸ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有し且つ成型性及びガスバリア性、耐熱性に優れたフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、惣菜や弁当などの調理済みの食品が多種、多様に販売されており、このような調理済みの食品は、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート)などの合成樹脂シートを所望形状に熱成型してなる食品用容器内に収納された上で提供、販売されている。
【0003】
そして、上記調理済みの食品を購入した者は、購入した状態のままでは食品が冷たいことから、食品を食品用容器内に収納した状態のまま電子レンジを用いて加熱することが多く、加熱した後は、食品用容器を食器として利用し食することが多い。
【0004】
しかしながら、上記食品用容器のうち、特にポリスチレンを原材料に用いている場合には、電子レンジで食品用容器ごと温めると、食品用容器が加熱温度に耐えきれなくなって変形してしまうといった課題があった。
【0005】
また、地球環境保護の一環としてリサイクルが進められており、食べ残した食品を、微生物を用いて分解し、肥料として再利用を図ることが行われているが、上記食品用容器は、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂などの生分解性を有しない樹脂から形成されていることから、食べ残した食品と容器を分別した上で行わなければならないという問題があった。
【0006】
一方、ポリ乳酸系樹脂などの脂肪族ポリエステル系樹脂は、微生物により自然に分解する性質、即ち、生分解性を有しているので、近年、地球環境に優しい樹脂として注目されているものの、一般的に耐熱性が低いために広く利用されるには至っていない。
【0007】
かかる課題を解決する手段として、生分解生を有するポリ乳酸系樹脂と、所定範囲のガラス転移温度及び融点を有するポリエステルとを配合した樹脂組成物からなるシートを予備結晶化させてなる生分解性未延伸シート及びこの生分解性未延伸シートを用いた食品用容器が提案されている。(例えば、特許文献1等参照。)
【0008】
しかしながら、上記生分解性シートを用いて得られた食品用容器の耐熱性は80℃程度と低く、上述のように、電子レンジを用いて加熱すると、食品用容器が変形したり或いは溶融するという問題が発生していた。
【0009】
さらに、上記生分解性未延伸シートはガスバリア性や耐熱性を向上させるために予備結晶させていることから成型時の伸びが悪く成型性に劣り、所望形状を有する食品用容器を満足に得ることができないという問題点を有していた。
【0010】
また、半芳香族ポリエステルユニットと脂肪族ポリエステルユニットとからなり、スルホン酸のアルカリ金属塩の置換基を有し、Tg温度が40〜70℃の生分解性ポリエステル樹脂20〜80重量%と、半芳香族ポリエステルユニットと脂肪族ポリエステルユニットとからなるTg温度−10〜−50℃の生分解性ポリエステル樹脂40〜10重量%と、無機系成型性改質材10〜40重量%とが混合されてなる成型用生分解性樹脂組成物及びこの樹脂組成物からなる未延伸シートの熱成型方法が提案されている。(例えば、特許文献2等参照。)
【0011】
しかしながら、上記未延伸シートは、Tg温度40〜70℃の生分解性ポリエステル樹脂の結晶化温度よりも低い温度で予備加熱した後、常温の金型で熱成型されているので、ポリエステル樹脂の結晶化が不充分であって、得られる熱成型品の耐熱性は90℃程度であり、上述と同様に、電子レンジを用いて加熱すると、食品用容器が変形したり或いは溶融したりするという問題を生じていた。
【0012】
またさらに、耐熱性、成型性、耐衝撃性を解決する手段として、融点Tmが170〜240℃のスルホン酸のアルカリ金属塩の置換基を有する生解性芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂Aと、融点Tmが100〜130℃の生分解性芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂Bとを含む樹脂組成物からなる熱成型用未延伸シートを熱成型して得られる熱成型品であって、加熱変形開始温度が150℃を越える温度であることを特徴とする方法が提案されている。(例えば、特許文献3参照。)
【0013】
しかしながら、上記未延伸シートは、その製造の際に、融点の著しく異なる樹脂の混合押出しに於いては、2種類の融点の異なる樹脂を溶融押出しする際に、融点の高いほうの樹脂の押出し温度に合わせざるを得ず、融点の低いほうの樹脂の劣化や分散不良になりやすく、成型性に劣る。
【0014】
またさらに、芳香族ポリエステル延伸フィルムであって、前記フィルムは、テレフタル酸、スルホン酸金属塩、脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、およびジエチレングリコールから成る繰り返し単位を具える芳香族ポリエステル共重合体を含み、前記フィルムのインパルスシール強度および高周波シール強度の少なくとも一方が3N/15mm以上であることを特徴とする芳香族ポリエステル延伸フィルムが提案されている。
【0015】
しかしながら、上記延伸フィルムはヒートシール性を有する包装用を目的としている。
【0016】
【特許文献1】特開2003−147177号公報
【特許文献2】特開2004−131621号公報
【特許文献3】特開2006−169430号公報
【特許文献4】特開2001−114912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、生分解性を有し、且つ易成型性及び耐熱性、ガスバリア性に優れたフィルム及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決する為、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の構成よりなる。
(1)芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂肪族グリコールから成る繰り返し単位を有する共重合ポリエステル樹脂を含む二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記フィルムの破断伸度が縦方向及び横方向において160%以上であり、かつ破断伸度の縦方向と横方向の比率が0.8〜1.25の範囲であり、前記フィルムの120℃、15分加熱後の熱収縮率が縦方向及び横方向において5%以下であり、かつ熱収縮率の縦方向と横方向の比率が0.8〜1.2の範囲であり、前記フィルムの融点が180℃以上であることを特徴とする成型用延伸ポリエステルフィルム。
(2)共重合ポリエステル樹脂が、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、スルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸、及び脂肪族グリコールから成る繰り返し単位を有し、酸成分に対して、スルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸が約0.2〜6モル%である共重合ポリエステル樹脂であることを特徴とする(1)に記載の成型用延伸ポリエステルフィルム。
(3)前記フィルムの10点平均粗さが1.50μm以上であり、かつフィルム表面の表面張力が45mN/m以上であることを特徴とする(1)又は(2)記載の成型用延伸ポリエステルフィルム。
(4)(1)〜(3)いずれかに記載の成型用延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、二軸延伸した後のフィルムを融解開始温度以上、融点以下の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とする成型用延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
(5)でんぷん及び/又はとパルプの混合物をコア材とし、両側に(1)〜(3)いずれかに記載の成型用延伸ポリエステルフィルムをスキン層として積層した後、金型プレス成型を行った多層成型品。
【発明の効果】
【0019】
本発明による生分解性を有する成型用延伸ポリエステルフィルムは、易成型性、ガスバリア性、耐熱性に優れており、食品容器として用いた場合に電子レンジ加熱に用いることができる。特に、また、カップラーメンの容器としても好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の成型用延伸ポリエステルフィルムに含まれる共重合ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂肪族グリコールから成る繰り返し単位を有る共重合ポリエステル樹脂である。
好ましくは、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、スルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸、及び脂肪族グリコールから成る繰り返し単位を有し、酸成分に対して、スルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸が約0.2〜6モル%である共重合ポリエステル樹脂である。
【0022】
上記芳香族ジカルボン酸から成る繰り返し単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、又はそれらのエステル形成性誘導体が用いられる。特にテレフタル酸又はそれらのエステル形成性誘導体が好ましい。
また他の芳香族ジカルボン酸として、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、5−第3ブチルイソフタル酸、2,2,6,6−テトラメチルビフェニル−4,4−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,1,3−トリメチル−3−フェニルインデン−4,5−ジカルボン酸、及びそれらのエステル形成性誘導体などを用いても構わない。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸から成る繰り返し単位としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、イタコン酸、マレイン酸、及び、それらのエステル形成性誘導体などが挙げられ、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸が好ましい。
【0024】
上記スルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸から成る繰り返し単位としては、5−スルホイソフタル酸の金属塩、4−スルホイソフタル酸の金属塩、4−スルホフタル酸の金属塩などが用いられる。スルホン酸金属塩は、水分の吸着により分解性を促進する効果がある。5−スルホイソフタル酸の金属塩が特に好ましい。金属イオンは、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、およびマグネシウムなどのアルカリ土類金属が好ましい。最も好ましいスルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸は、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩である
【0025】
上記共重合ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸とをどのような割合で混在させるかによって、得られる生分解性が異なるものとなる。本発明に於いては芳香族ジカルボン酸の割合が50〜96mol%で、且つ脂肪族ジカルボン酸の割合が4〜50mol%であると生分解性に優れ、実用的であり好ましい。
【0026】
脂肪族アルコールから成る繰り返し単位としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられ、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましい。特にエチレングリコールが好ましい。
【0027】
本発明の成型用延伸ポリエステルフィルムの主成分である共重合ポリエステル樹脂は、具体的には、例えば、テレフタル酸あるいは/及びイソフタル酸−5−スルホイソフタル酸の金属塩−アジピン酸−エチレングリコール共重合体、或いはテレフタル酸あるいは/及びイソフタル酸−5−スルホイソフタル酸の金属塩−グルタル酸−エチレングリコール共重合体、あるいはこれらに、さらにジエチレングリコール単位を含むものが好ましい。
【0028】
上記共重合ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸が多いと、耐熱性や機械的強度が高くなるが生分解性が劣るものとなる。一方、脂肪族ジカルボン酸が多いと、生分解性が高くなるが、耐熱性、機械的強度が低下する傾向がある。
【0029】
本発明では、上記共重合ポリエステル樹脂としては、融点が180〜240℃の樹脂を用いることが好ましく、更に好ましくは180〜220℃である。
融点が180℃未満の場合、耐熱性、機械強度が不充分なものとなり、容器として用いた際の耐熱性、剛性が不足するだけでなく、加工する際に問題となったりする。
また、融点が240℃を超えるものは、芳香族ポリエステルとしての性質が強く、生分解性が不満足なものとなったり、容器への成型性が低下する。
【0030】
なお、上記共重合ポリエステル樹脂の固有粘度は、好ましくは0.40〜1.0dl/gであり、さらに好ましくは0.50〜0.70dl/gである。固有粘度が0.40dl/g未満の場合、フィルムの延伸工程で破れたりして生産性に劣り、また耐衝撃性に劣る。反対に固有粘度が1.0dl/gを超える場合、押出し成型が困難となる。
【0031】
上記共重合ポリエステル樹脂には、必要に応じて予め、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、つや消し剤、着色剤、芳香剤、劣化防止剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、滑り剤、フィラー、カーボンブラック、可塑剤、安定剤、粘度安定剤、難燃剤などの補助成分を含有させてもよい。
【0032】
本発明のフィルムは結晶性を有することが好ましい。フィルムが結晶性を有すると、成型後に結晶化させ耐熱性を付与することができ、電子レンジ加熱或いはカップラーメンの容器として用いた場合に変形が少なく好ましい。
【0033】
尚、フィルムの結晶性を知る方法として密度、屈折率、X線回折等上げられるが、DSCにより結晶化ピークを測定する方法が簡便で好ましい。
【0034】
本発明のフィルムは縦方向及び横方向の破断伸度がともに160%以上であることが重要である。さらに180%以上であることが好ましく、特に200%以上であることが好ましい。フィルムの縦方向と横方向の破断伸度いずれかが160%未満であると容器成型時にフィルムに破れが生じる。
【0035】
本発明のフィルムは縦方向と横方向の破断伸度の比が、MD/TD=0.8〜1.25模範囲であることが重要である。更に0.9〜1.1の範囲が好ましい。破断伸度の比が0.8〜1.25の範囲を超えると成型時に縦方向、或いは横方向へのゆがみが生じたりする為好ましくない。特に円形の容器の場合には重要である。
【0036】
本発明のフィルムは、120℃雰囲気にて5分間放置した際の熱収縮率が縦方向及び横方向共に5%以下であることが重要であり、更に好ましくは4%以下である。該熱収縮率が5%を超える場合、正方形のフィルムをクリップで四方を把持して、引っ張りながら成型する際に、加熱により収縮が生じ、フィルム厚みが不均一となったり、部分的な収縮によりシワが発生したりする為好ましくない。
また、熱収縮率が5%を超える場合、収縮率に応じて収縮応力も高くなる為、フィルムを把持しているクリップ等から外れる恐れがあり好ましくない。
【0037】
本発明のフィルムは縦方向と横方向の熱収縮率の比が、MD/TD=0.8〜1.2の範囲であることが重要であり、更に0.9〜1.1の範囲が好ましい。
熱収縮率の比が0.8〜1.2の範囲を超えると成型時に縦方向、或いは横方向への一方的な収縮が生じ、シワやタルミが発生したり、また成型後にゆがみが生じたりする為好ましくない。
【0038】
また本発明の成型用延伸ポリエステルフィルムは、その表面の10点平均粗さが1.50μm以上であり、かつフィルム表面の表面張力が45mN/m以上であることが好ましい。これは特に、でんぷんやパルプなどの生分解性を有する部材を本発明のフィルムで上下から挟み込んだものを金型で加熱しながら成型する方法の場合に有用である。
この方法の場合、フィルムで挟み込まれたでんぷんやパルプは焼成されているため容器に成型した直後でも、中間層のでんぷんやパルプは変形しないが、外層のフィルムはまだ十分に冷却されていない状態では、やわらかく変形しやすい状態にある。つまり、中間層のでんぷんやパルプとの密着性が小さいと、成型した直後では、フィルムは重力あるいはもとの形に戻ろうとする力により、中間層との間に空隙ができる問題が発生する。フィルムの表面の10点平均粗さを1.50μm以上、かつフィルム表面の表面張力を45mN/m以上とすることで、容器の開口部の外周縁の外側の凹部の浮きによる空気のかみ込みを防止でき、成型後の外観を向上させることができる。
【0039】
本発明に於いて、フィルム表面の10点平均粗さとは、断面曲面の平均面に対して高い方から5番目迄の山頂の平均高さと、深い方から5番目迄の谷底の平均深さの間隔を表し、この値は本発明に於けるフィルムと中間層の接着性の指標となる。特に10点平均粗さが1.8μm以上であるとフィルムと中間層の密着が大きくなり好ましい。
なお、10点平均粗さの上限は、5μm以下が好ましい。5μmを超えると上記容器の表面外観が劣る場合がある。
【0040】
上記密着性を得るために、フィルム表面の表面張力は45mN/m以上が好ましい。上限は特に無いが、フィルムの滑り性やブロッキング防止性の点から60mN/m以下が好ましい。
【0041】
次に本発明のフィルムの製造方法の具体例を説明するが、これらに限定するものではない。
まず、水分率を50ppm以下に乾燥させた上記の共重合ポリエステル樹脂を押出機に供給し、融点+30℃程度の温度で溶融押し出しし、Tダイより押し出し、回転冷却ドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを成型する。
このとき、冷却ドラムの温度は15℃以上、好ましくは25℃以上とし、あまり冷却しすぎないようにするのがフィルム表面の10点平均粗さが1.50μm以上とするのに良い。しかし、温度を上げすぎると結晶化がすすみ、後の工程の延伸がしにくくなるので冷却ドラムの温度は70℃以下が好ましい。
【0042】
このようにして得られた未延伸フィルムをガラス転移温度〜融解開始温度、好ましくは(ガラス転移温度+5℃)〜(ガラス転移温度+50℃)の温度で縦方向に2〜5倍延伸し縦方向一軸延伸フィルムを得る。この時、縦方向に延伸後にすぐに(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度−40℃)に冷却することが横方向の延伸性を確保し厚みが均一なフィルムを得られやすいので好ましい。
【0043】
次いで、得られた縦延伸フィルムをガラス転移温度〜融解開始温度、好ましくは(縦方向の延伸温度以上)〜(縦方向の延伸温度+40℃)の温度で横方向に2〜4倍延伸する。
このとき、縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率は、なるべく同程度の倍率にするのが、フィルムの破断伸度や熱収縮率の縦方向と横方向の比を同程度にするのに好ましい。
【0044】
また、縦方向の延伸時の温度、横方向の延伸前の予熱温度と延伸時の温度を低めにすることが、その縦方向と横方向の配向バランスの関係からフィルムの破断伸度や熱収縮率の縦方向と横方向の比を同程度になり、好ましい。ただし低すぎると破断伸度が低下するため注意が必要である
【0045】
本発明においては、上記の二軸延伸したフィルムを更に融解開始温度以上、融点以下の温度範囲で熱処理することが好ましい。融解開始温度以上、融点以下の温度で熱処理することにより、低分子量成分或いは、低結晶状態部位が融解することでフィルムの配向が緩和されるため、破断伸度を向上し、かつ熱収縮率を小さくすることができ、成型時の破断防止になると同時に、結晶部がさらに緻密になりガスバリア性が向上する。この熱処理では、必要に応じて弛緩処理を行うのがさらに好ましい。弛緩処理は、幅方向に2〜10%行うのが好ましい。
【0046】
二軸延伸したフィルムは、表面の表面張力を45mN/m以上とするために、更に表面処理することが重要である。本発明に於ける表面処理法としては、公知の方法であるプラズマ放電および/又はコロナ放電等の物理的手段、および/又は薬品によるケミカルエッチング等の化学的手段の一種以上を採用すればよく、コロナ放電処理が特に好ましい。
【0047】
このように延伸温度、延伸倍率、熱処理、表面処理を行うことにより、本発明の易成型性、ガスバリア性、耐熱性に優れた生分解性を有する成型用延伸ポリエステルフィルムが得られる。
【0048】
また、本発明のフィルムを成型するにあたっては、上記成型用延伸ポリエステルフィルムを加熱軟化させておくことが好ましく、成型用延伸ポリエステルフィルムを予めガラス転移温度以上に加熱軟化させておくことで、成型用延伸ポリエステルフィルムの成型性を向上させることができる。
【0049】
更に、本発明のフィルムは加熱軟化させた上で成形型の賦形面に接触させて熱成形することが好ましい。なお、成形型は、賦形面が平らな成形型であっても、雌型又は雄型の何れか一方からなるものであっても、雌型及び雄型からなるものであってもよい。
【0050】
そして、本発明の成型用延伸ポリエステルフィルムの成型方法としては、従来からのシートの成型方法を用いることができる。例えば、プラグアシスト式成型、プラグリング成型、エアークッション成型などの逆圧成型、直接真空成型、ドレープ成型、プラグアシスト成型、スナップバック成型、プラグリング成型、エアースリップリング成型などの真空成型、圧空成型、プレス成型などの成型方法が挙げられる。
【0051】
また、成型容器を結晶化させる方法としては、成型後に冷結晶化温度以上、融点未満の温度に加熱することが好ましく、更に好ましくは冷結晶化温度+20℃以上、融解温度の変極点−10℃以下で熱処理することである。該方法により熱処理することで成型容器の結晶化が進行し、寸法安定性、耐熱性に優れた容器が得られる。
【0052】
次に実施例、及び比較例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例および比較例における評価の方法については以下の方法で行った。
【0053】
(1)融点、融解開始温度
島津製作所社製DSC−60型示差走査熱量計を用いて測定した。得られたフィルム約5.0mgを、30〜280℃の温度範囲を20℃/minの昇温速度で測定した。得られたDSC曲線の融解ピークについて、ベースラインからの変極点温度を求め、ピーク温度を融点とした。
【0054】
(2)破断伸度
JIS−K7127に則り測定した。
【0055】
(3)10点平均粗さ
JIS−0601に準拠し、3次元接触式表面粗さ計(小坂製作所製:型式ET−30K)を用い、フィルムの長手方向に沿ってフィルム表面の凹凸曲線を求めるとともに、その動作をフィルムロールの幅方向に2.0μm間隔で100回繰り返すことによって、フィルム表面の所定範囲(長さ1.0mm×幅0.2mm)の「断面曲面」を求めた。また、データ解析装置(小坂製作所製:型式AT−30K)を用いて算出した。
【0056】
(4)フィルム表面の表面張力
JIS−K6768に準じて23℃、65%RHの雰囲気下で測定した。
【0057】
(5)熱収縮率
幅20mm、長さ300mmのサンプルを切り出し、200mm間隔で印をつけ、5gの一定張力で間隔Aを測る。続いて、120℃の雰囲気中のオーブンに無荷重で5分間放置した。オーブンから取り出し室温まで冷却後に、5gの一定張力で間隔Bを求め、以下の式により熱収縮率を求めた。測定はフィルムの幅方向を等間隔に5ヶ所からサンプルを切りだし測定し、その最大値およびバラツキ(最大値と最小値の差)をもとめた。 熱収縮率=(A−B)/A×100(%)
【0058】
(6)成型性−1
フィルムに10mm四方のマス目印刷を施した後、120℃に加熱した熱板で4秒間接触加熱後、金型温度50℃、保圧時間5秒にてプレス成型を行った。金型の形状はカップ型で、開口部は直径が50mmであり、底面部は直径が40mmで、深さが30mmであり、全てのコーナーは直径0.5mmの湾曲をつけたものを用いた。
【0059】
最適条件下で金型成型した成型品5個について成型性及び仕上がり性を評価し、下記基準にてランク付けをした。なお、◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
[◎の場合]
(a)成型品に破れがない
(b)角の曲率半径が1mm以下で、かつ印刷ずれが0.1mm以下
(c)×に該当する外観不良がない
[○の場合]
(a)成型品に破れがなく、
(b)角の曲率半径が1mmを超え1.5mm以下、または印刷ずれが0.1mmを超え
0.2mm以下
(c)外観不良がなく、実用上問題ないレベル
[×の場合]
成型品に破れがあるもの、または破れがなくとも以下の項目(i)〜(iv)のいず
れかに該当するもの
(a)角の曲率半径が1.5mmを超えるもの
(b)大きなシワが入り外観が悪いもの
(c)フィルムが白化し透明性が低下したもの
(d)印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0060】
(7)成型性−2
浮きの評価方法
上記の金型を用いて、でんぷんとパルプの混合物をコア材とし、両側に本発明のフィルムをスキン層として積層した後、120℃に加熱した熱板で4秒間接触加熱後、金型温度160℃、保圧時間5秒にてプレス成型を行った後200℃で焼成を行った。出来上がった成型品の凹部のスキン層のフィルムとコア層のデンプン/パルプとの界面の剥れ具合にて評価した。
○:剥れが無くフィルムとコア材が密着している
△:カップあたりの剥れが1個以下であり、且つその大きさが5mmΦ以下
×:カップあたりの剥れが2個以上又は1個でその大きさが5mmΦを超える
【0061】
(実施例1)
共重合ポリエステル樹脂として生分解性ポリエステル系樹脂であるデュポン社製ポリエチレン−テレフタレート/サクシネート系樹脂「バイオマックス4024」を用いた。該樹脂は結晶性を有し、融解開始温度158.8℃、融点199.8℃であった。
【0062】
「バイオマックス4024」は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸を主とするグルタル酸(Cメチレン基)及び微量のスルホニルイソフタル酸金属塩、脂肪族ジオール成分としてエチレングリコールを主とするジエチレングリコールを選び、両成分を本文中に例示する反応モル%以内で仕込み、重縮合反応することで得られた生分解性を有する共重合ポリエステル樹脂である。
【0063】
該樹脂を真空乾燥機を用いて水分率を50ppm以下に乾燥し、池貝鉄工社製PCM45押出機を用いて、225℃にて溶融した。次いでリップギャップ1.2mmとした380mm幅のダイスを用いて30℃に温調した冷却ロールの上にフィルム状に押出し、未延伸シートを得た。得られた未延伸フィルムの厚さは510μmであった。
【0064】
得られた未延伸フィルムをロール延伸機にて65℃に加熱しロールの周速差を用いて3.0倍に延伸した後直ちに30℃に冷却して縦延伸フィルムを得た。
【0065】
次いで縦延伸フィルムを、テンター式横延伸機を用いて、65℃に予熱後、70℃にて横方向に3.0倍延伸を行い、3.5%のリラックスを与えながら170℃(融解開始温度:158.8℃、融点:199.8℃)であった。
にて熱処理を行った。
【0066】
得られた二軸延伸フィルムにコロナ放電処理を行った後、600mm幅にトリミングして、厚さ50μm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0067】
(実施例2)
押出量を上げて。縦延伸倍率、横延伸倍率をそれぞれ3.2倍とした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
熱処理温度を160℃とした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0069】
(実施例4)
縦延伸温度を60℃にし、縦延伸倍率、横延伸倍率をそれぞれ3.2倍にし、熱処理温度を175℃とした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
縦延伸温度を60℃にし、押出量を上げて、縦延伸倍率、横延伸倍率をそれぞれ4.0倍とした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
縦延伸温度を60℃にし、熱処理温度を140℃とした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0072】
(比較例3)
縦延伸温度を60℃にし、縦延伸倍率、横延伸倍率をそれぞれ2.8倍、4.0倍にした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0073】
(比較例4)
縦延伸温度を60℃にし、押出量を上げて、縦延伸倍率、横延伸倍率をそれぞれ5.0倍とした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0074】
(比較例5)
冷却ロールの温度を10℃とし、縦延伸温度を60℃にし、コロナ処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0075】
(比較例6)
押出量を上げて。縦延伸倍率、横延伸倍率をそれぞれ3.0倍、4.5倍にし、熱処理温度を150℃とした以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、幅600mm、長さ50mのフィルムロールを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例1〜4、比較例1〜6より明らかなように、破断伸度が縦方向、横方向共に160%以上であることを特徴とする成型用延伸ポリエステルフィルムは優れた成型性を有することが解る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の成型用延伸ポリエステルフィルムは、生分解性を有し優れた易成型及び耐熱性やガスバリア性を有し、食品容器、カップラーメンの容器等として幅広い用途分野に利用する事ができ、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂肪族グリコールから成る繰り返し単位を有する共重合ポリエステル樹脂を含む二軸延伸ポリエステルフィルムであって、
前記フィルムの破断伸度が縦方向及び横方向において160%以上であり、かつ破断伸度の縦方向と横方向の比率が0.8〜1.25の範囲であり、
前記フィルムの120℃、15分加熱後の熱収縮率が縦方向及び横方向において5%以下であり、かつ熱収縮率の縦方向と横方向の比率が0.8〜1.2の範囲であり、
前記フィルムの融点が180℃以上であることを特徴とする成型用延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
共重合ポリエステル樹脂が、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、スルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸、及び脂肪族グリコールから成る繰り返し単位を有し、酸成分に対して、スルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸が約0.2〜6モル%である共重合ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の成型用延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記フィルムの10点平均粗さが1.50μm以上であり、かつフィルム表面の表面張力が45mN/m以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の成型用延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の成型用延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、二軸延伸した後のフィルムを融解開始温度以上、融点以下の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とする成型用延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
でんぷん及び/又はとパルプの混合物をコア材とし、両側に請求項1〜3いずれかに記載の成型用延伸ポリエステルフィルムをスキン層として積層した後、金型プレス成型を行った多層成型品。

【公開番号】特開2009−292949(P2009−292949A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148154(P2008−148154)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000226895)日世株式会社 (24)
【Fターム(参考)】