説明

成形体の製造方法

【課題】賦形性がよく、かつ、非発泡層への成形型キャビティ面の転写性が良好な成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】プロピレン樹脂からなる第一の発泡層11と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層12と、当該第二の発泡層に隣接し、その融点が150℃以上180℃以下であるポリマーからなる非発泡層13とを有する積層体1の第一の発泡層の表面温度、及び前記非発泡層の表面温度が、いずれも200℃以上、230℃以下となるように、加熱された積層体1を、夫々その内側にキャビティ面410Aを持つ一対の型部材を有する成形型4A内に配置し、次いで、前記積層体の少なくとも一方の面と該面に対向する成形型内のキャビティ面との間に空隙を生ずるように、成形型4Aを密閉し、次いで、キャビティ内を減圧状態とし、積層体を膨張させ、前記膨張させた積層体が固化した後、成形型を開いて成形体を取り出して、成形体3Aを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂からなる発泡層と、その表面に他の樹脂からなる非発泡層とを有する積層体は、真空成形等の成形方法によって所望の形状の成形体に賦形されている。これらの成形体は、自動車部品材料、建築材料等、種々の用途に用いられている。
積層体を賦形する方法としては、例えば所定の発泡倍率を有する発泡ポリプロピレンシートの両面に、熱可塑性樹脂フィルムが積層されている積層発泡シートを、160℃以上190℃以下の範囲の温度に加熱した一対の熱板にて加熱軟化させた後、真空成形可能な一対の金型を用いて積層体を膨張させながら真空成形する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−84729号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、積層体全体を厚み方向に均一に加熱して膨張させながら真空成形を行う方法によって、第一の発泡層と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層と、当該第二の発泡層に隣接する非発泡層とを有する積層体を成形して成形体を製造すると、成形型に対応した形状に賦形された成形体が得られない場合があった。また、非発泡層に成形型のキャビティ面を転写させる場合、その転写が不十分である場合があった。
以上の課題に鑑み、本発明は、第一の発泡層と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層と、当該第二の発泡層に隣接する非発泡層とを有する積層体を、膨張させてかつ真空成形して成形体を製造する方法において、賦形性がよく、かつ、非発泡層への成形型キャビティ面の転写性が良好な成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、プロピレン樹脂からなる第一の発泡層と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層と、当該第二の発泡層に隣接し、その融点が150℃以上180℃以下であるポリマーからなる非発泡層とを有する積層体の第一の発泡層の表面温度、及び前記非発泡層の表面温度が、いずれも200℃以上、230℃以下となるように積層体を加熱し(工程(1))、
加熱された積層体を、夫々その内側にキャビティ面を持つ一対の型部材を有する成形型内に配置し(工程(2))、
次いで、前記積層体の少なくとも一方の面と該面に対向する成形型内のキャビティ面との間に空隙を生ずるように、成形型を密閉し(工程(3))、
次いで、キャビティ内を減圧状態とし、積層体を膨張させ(工程(4))、
前記膨張させた積層体が固化した後、成形型を開いて成形体を取り出して(工程(5))、
成形体を製造する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第一の発泡層と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層と、当該第二の発泡層に隣接する非発泡層とを有する積層体を、真空成形して成形体を製造する方法において、賦形性がよく、かつ、非発泡層への成形型キャビティ面の転写性が良好な成形体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示した図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態を示した図である。
【図3】実施例で製造した成形体の断面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<成形型>
本発明では、夫々その内側にキャビティ面を持つ一対の型部材を有する成形型を用いる。前記成形型は、型開きかつ密閉可能であって、密閉された状態でキャビティ内を減圧可能なものである。
成形型は、密閉可能な型であればどのような形状の型であってもよい。例えば、一方が底面とこの底面の周囲を取り囲む壁面とからなる収納部であり、他方が平板状で前記収納部の蓋となる成形型や、この収納部同士が対となる成形型、所謂雌型と雄型等の組み合わせからなる成形型が挙げられる。このうち、キャビティ面に真空孔が設けられ、密閉された状態でキャビティ内を減圧可能な成形型を用いることが好ましい。
成形型の材質は、特に限定されるものではなく、耐久性、熱伝導性等の観点から金属製であることが好ましく、コストや軽量性等の観点からアルミであることがより好ましい。また、成形型の構造は、ヒーターや熱媒体等を内蔵した温度調整可能な構造であることが好ましい。
型部材のキャビティ面には、皮シボ模様や、各種幾何学模様、各種文字等の凹凸模様が設けられていてもよい。成形体を自動車内装材用途に用いる場合、意匠性や蝕感といった観点からキャビティ面に皮シボ模様が設けられた型部材を用いることが好ましい。
【0009】
本発明の方法に含まれる各工程について、以下に詳細に説明する。
<工程(1)>
本発明では、プロピレン樹脂からなる第一の発泡層と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層と、当該第二の発泡層に隣接し、その融点が150℃以上180℃以下であるポリマーからなる非発泡層とを有する積層体の第一の発泡層の表面温度、及び前記非発泡層の表面温度が、いずれも200℃以上、230℃以下となるように積層体を加熱する。この工程を工程(1)と記すこともある。第一の発泡層の表面温度と非発泡層の表面温度は、異なる温度であってもよい。
積層体の表面温度が前記のような温度となるように積層体を加熱することによって、第一の発泡層を高倍率で二次発泡させ、同時に型部材のキャビティ面に設けられた模様を、非発泡層表面へ精度よく転写することができる。また、成形型に対応した形状に精度よく積層体を賦形することができる。
積層体を加熱する方法としては、熱風、遠赤外線ヒーター、近赤外線ヒーター、接触式熱板等の加熱装置を用いて加熱する方法が挙げられる。積層体を加熱することによって、該積層体がドローダウンすることを防止するという観点から、積層体の非発泡層の面を支持部材によって支持しながら、熱風オーブン内で積層体を加熱することが好ましい。支持部材としては、テフロン(登録商標)処理されたシートやフィルム、金属板等、加熱しても形状保持が可能な材料から形成される支持台が挙げられる。
【0010】
発泡倍率の高い第一の発泡層を有する成形体を得るためには、工程(1)において、積層体の加熱を、第一の発泡層の表面の温度が、200℃以上、230℃以下となるまで積層体を加熱することが好ましく、200℃以上、215℃以下となるまで積層体を加熱することがより好ましい。また、非発泡層表面へ、型部材のキャビティ面に設けられたシボ模様等を正確に転写するためには、非発泡層の表面の温度が、200℃以上、230℃以下となるまで積層体を加熱することが好ましく、200℃以上、215℃以下となるまで積層体を加熱することがより好ましい。
なお、本発明における「表面温度」は、積層体の両表面に熱電対温度計を取り付けて積層体の表面温度を測定する方法や非接触式の温度センサーで積層体の表面温度を測定する方法により得られる値である。
【0011】
加熱時間は第一の発泡層および非発泡層を構成する樹脂の種類や、第一の発泡層の発泡倍率・厚み、非発泡層の厚み等によって異なるが、第一の発泡層および非発泡層の表面温度が所望の温度になるように適宜設定すればよい。第一の発泡層および非発泡層のそれぞれに相当する単層のシートの両表面に熱電対を取り付けて、シートの表面温度と加熱時間の関係を予め調べておき、その結果に基づき、積層体を加熱する温度と時間を設定することが好ましい。
【0012】
<工程(2)>
加熱された積層体を、夫々その内側にキャビティ面を持つ一対の型部材を有する成形型内に配置する。この工程を工程(2)と記すこともある。
キャビティ内に積層体を配置する際、積層体は両端を把持具により挟持して配置しても、支持台に乗せて配置しても、型部材のキャビティ面に直接配置しても構わない。成形型として、一方の型部材が底面とこの底面の周囲を取り囲む壁面とからなる収納部であり、他方の型部材が平板状で前記収納部の蓋となる成形型を使用する場合には、積層体を支持台上に設置し、収納部内に置く方法で配置することが好ましい。
積層体を一方の型部材のキャビティ面に直接配置する場合は、非発泡層がキャビティ面と接触するように配置することが好ましい。
【0013】
<工程(3)>
次いで、前記積層体の少なくとも一方の面と該面に対向する成形型内のキャビティ面との間に空隙を生ずるように、成形型を密閉する。この工程を工程(3)と記すこともある。図2に示すように、積層体の両方の面と、各面と対向する型部材のキャビティ面との間に、空隙を有する状態を作ってもよい。
このような状態を作ることによって、次の工程で、積層体が前記空隙を充填するように膨張させることができる。積層体の膨張を、二次発泡という。
なお閉鎖されたキャビティを形成したときに、向かい合う各型部材のキャビティ面の距離(h)は、成形体の厚みが所望の厚みとなるように適宜設定することができる。ここで距離(h)は、図1に示すように、積層体の厚み方向の距離である。距離(h)は、成形体の厚みが、積層体の厚みの1.1倍から5.0倍となるような距離であることが好ましく、1.1倍から2倍となるような距離であることがより好ましい。
【0014】
<工程(4)>
次いで、キャビティ内を減圧状態とし、積層体を膨張させる。この工程を工程(4)と記すこともある。工程(1)において、積層体は、第一の発泡層の表面温度が、非発泡層の表面温度よりも高い温度となるように加熱されている。そのため、この工程(4)では、第一の発泡層の膨張割合のほうが、第二の発泡層の膨張割合よりも大きくすることができる。ここで第一の発泡層の膨張割合とは、加熱する前の積層体における第一の発泡層の厚みで、成形体における第一の発泡層の厚みを割ったときの値である。第二の発泡層の膨張割合も、同様にして求めることができる。成形体における、第一の発泡層の発泡倍率が3.3倍以上15倍以下であり、かつ第二の発泡層の発泡倍率が10倍以上60倍以下となるように、積層体を膨張させることが好ましい。
工程(4)では、積層体の少なくとも一方の面が、該面に対向する成形型内のキャビティ面に接触するように積層体を膨張させることが好ましい。積層体の両面が、各面と対向する型部材のキャビティ面との間に空隙を有する状態である場合、積層体の両面が、それぞれ対向するキャビティ面に接触するように積層体を膨張させることが好ましい。
【0015】
キャビティ内を減圧状態とする方法としては、成形型に真空ポンプを接続し、成形型と真空ポンプの接合弁を開けて成形型内を真空吸引する方法が挙げられる。真空ポンプは、キャビティ内の空気を短時間で排気できる能力を有するものを用いることが好ましい。このような真空ポンプを用いることにより、発泡倍率の高い第一の発泡層を有する成形体を得ることができる。また、使用する成形型が大きい場合には、キャビティ内の減圧を速やかに行うために、真空ポンプによって減圧可能な大型の真空タンクを用いて成形型内を真空吸引することが好ましい。
真空吸引の程度は特に限定されるものではないが、キャビティ内の真空度が−0.05MPaから−0.1MPaになるように真空吸引することが好ましい。ここで真空度とは、大気圧に対するキャビティ内の圧である。すなわち「真空度が−0.05MPa」とは、キャビティ内の圧力が0.05MPaであることを示す。なお本発明において、キャビティの真空度は、キャビティ面に設けられている真空吸引孔を用いて測定する。
【0016】
型部材のキャビティ面に真空孔が設けられている一対の型部材であって、一方の型部材のキャビティ面に模様が設けられている型部材を用いる場合には、非発泡層側の表面にキャビティ面に設けられた模様を精度よく非発泡層表面に転写するために、積層体の非発泡層と対向する型部材のキャビティ面から第一の真空吸引を開始した後、0.1秒以上、6秒以下の時間が経過した後に、もう一方の型部材のキャビティ面から第二の真空吸引を開始することが好ましい。
得られる成形体の第一の発泡層の発泡倍率の大きい第一の発泡層を有する成形体を得るためには、密閉されたキャビティ内の空気を短時間で排気できる能力を有する真空ポンプを用いることが好ましい。
【0017】
<工程(5)>
前記膨張させた積層体が固化した後、成形型を開いて成形体を取り出す。この工程を工程(4)と記すこともある。
膨張させた積層体は、各層が固化状態となるまでキャビティ内で冷却される。膨張させた積層体が固化した後、キャビティ内を常圧にし、成形型を開いて、成形体を取り出す。
膨張した積層体を固化する方法は、自然に温度が低下するまで放置しておく方法や、成形型を冷却媒体によって冷却する方法が挙げられる。キャビティ内を常圧にする方法としては、成形型と真空ポンプとの接合弁を閉じて、成形型に設けられているパージ弁を開けて成形型内を常圧にする方法が挙げられる。
工程(5)において、膨張させた積層体の固化を、積層体を膨張させるときの減圧状態を維持しながら行うことが好ましい。即ち、前記工程(4)における減圧状態を継続しながら膨張させた積層体を固化することが好ましい。
【0018】
<積層体>
ここで、本発明で用いる積層体について説明する。
積層体はプロピレン樹脂からなる第一の発泡層と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層と、当該第二の発泡層に隣接し、その融点が150℃以上180℃以下であるポリマーからなる非発泡層とを有するものである。第一の発泡層と非発泡層は、それぞれ積層体の表面である。
積層体は、第一の発泡層、第二の発泡層および非発泡層を共押出して製造してもよいし、第一の発泡層、第二の発泡層、および非発泡層を、それぞれ単層のシートとして製造した後、これらを貼合して製造してもよい。
【0019】
第一の発泡層、第二の発泡層、及び非発泡層を、熱ロールによって貼合する方法や、熱風によって貼合する方法等により貼合して、積層体を製造することが好ましい。
【0020】
第一の発泡層は、プロピレン樹脂からなる層である。
プロピレン樹脂としては、プロピレンホモポリマーや、プロピレン由来のモノマー単位を50モル%以上含むプロピレン共重合体を挙げることができる。共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。好ましく用いられるプロピレン共重合体の例としては、エチレン又は炭素原子数4〜10のα−オレフィンとプロピレンとの共重合体を挙げることができる。炭素原子数4〜10のα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、4−メチルペンテン−1、1−ヘキセン及び1−オクテンが挙げられる。プロピレン共重合体中のプロピレン以外のモノマー単位の含有量は、エチレンについては15モル%以下、炭素原子数4〜10のα−オレフィンについては30モル%以下であることが好ましい。プロピレン樹脂は1種類を使用してもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、発泡層を構成する熱可塑性樹脂の50質量%以上の樹脂として、長鎖分岐プロピレン系樹脂や重量平均分子量が1×105以上の高分子量プロピレン樹脂を用いることにより、微細な気泡を有するプロピレン樹脂からなる発泡層を形成することができる。さらにこのようなプロピレン樹脂の中でも、発泡層をリサイクルするときにゲルを生じにくいことから非架橋のプロピレン樹脂が好ましく使用される。
【0021】
第二の発泡層は、結晶性樹脂、又は非晶性樹脂のどちらかの樹脂からなる。第二の発泡層は、プロピレン樹脂から形成されていてもよく、第一の発泡層と同じ樹脂から形成されていてもよい。
結晶性樹脂としては、例えばエチレン樹脂、プロピレン樹脂、アセタール樹脂、エチレンテレフタレート樹脂、ブチレンナフタレート樹脂、フェニレンサルファイド樹脂、エーテルエーテルケトン樹脂等が挙げられる。
非晶性樹脂としては、例えばメタクリル酸メチル樹脂や、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、スチレン樹脂、カーボネート樹脂、エーテルサルフォン樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂は単独で使用してもよく、複数の樹脂を併用してもよい。
第二の発泡層は、オレフィン樹脂から形成されることが好ましい。得られる成形体の剛性、耐熱性等の観点から、第二の発泡層は、プロピレン樹脂から形成されることがより好ましい。プロピレン樹脂としては、上記のプロピレン樹脂が挙げられる。
【0022】
第一の発泡層及び第二の発泡層は、押出発泡法、ビーズ型発泡法、電子線架橋や化学架橋発泡法等の方法を用いて製造することが可能であるが、生産性やリサイクル性の観点から押出発泡法を用いて製造することが好ましい。第一の発泡層の発泡倍率は、1.2倍から5.0倍であることが好ましく、第二の発泡層の発泡倍率は、10倍から30倍であることが好ましい。このような発泡倍率の発泡層を有する積層体は、第一の発泡層に起因する剛性と、第二の発泡層に起因するクッション性とを有する積層体である。第一の発泡層の発泡倍率に対する第二の発泡層の発泡倍率の比は、3.0〜12.0であることが好ましく、8.0〜10.0であることがより好ましい。
また、第一の発泡層の厚みは、1.1mmから6.0mmであることが好ましい。第二の発泡層の厚みは、1.1mmから3.0mmであることが好ましい。第二の発泡層の厚みに対する第一の発泡層の厚みの比は、0.3〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましい。
【0023】
また、第一の発泡層及び第二の発泡層を製造する際に使用される発泡剤は、いわゆる化学発泡剤及び物理発泡剤のいずれでもよく、これらを併用してもよい。化学発泡剤としては、例えば分解されて窒素ガスを発生する熱分解型発泡剤(アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシ−ビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等)、分解されて炭酸ガスを発生する熱分解型無機発泡剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等)等の熱分解型発泡性化合物が挙げられる。物理発泡剤としては、具体的にはプロパン、ブタン、水、炭酸ガス等が挙げられる。このうち水や炭酸ガスを用いることがより好ましい。
【0024】
発泡剤の添加量は、用いる発泡剤や樹脂の種類に応じて適宜選択すればよく、原料の樹脂100質量部に対して0.5質量部から20質量部であることが好ましい。
なお、第一の発泡層に用いられる樹脂及び第二の発泡層に用いられる樹脂は添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、フィラー、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、剥離剤、流動性付与剤、滑剤等が挙げられる。フィラーとしては、具体的にはガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、タルク、クレー、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の無機粒子等が挙げられる。
【0025】
非発泡層は、融点が150℃以上180℃以下である熱可塑性樹脂、または熱可塑性エラストマーを原料として用いる。熱可塑性樹脂としては、プロピレン樹脂等のオレフィン樹脂;スチレン樹脂等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。このうち質感等の観点から、非発泡層は熱可塑性エラストマーから形成されることが好ましく、オレフィン系熱可塑性エラストマーから形成されることがより好ましい。非発泡層にはシボなどの凹凸模様、印刷や染色が施されていてもよい。
非発泡層は、押出成形により得ることができる。非発泡層の厚みは0.1mmから1.0mmであることが好ましい。
【0026】
以下、本発明に係る成形体の製造方法の好適な実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
〔第一の実施形態〕
図1は、本発明に係る成形体の製造方法の第一の実施の形態を示した図である。
図1−(1)は、積層体を加熱する工程(1)を示した図である。本実施形態において積層体1は、プロピレン樹脂からなる第一の発泡層11と、当該第一の発泡層11に隣接しており、プロピレン樹脂からなる第二の発泡層12と、該第二の発泡層12に隣接しており、ポリプロピレンエラストマーからなる非発泡層13とを有する積層体である。積層体1は非発泡層13がアルミニウム製の支持台21と接するように配置して、熱風オーブン2A中で加熱する。熱風オーブン2Aでは、ヒーター22を熱源として、ファン23によって熱風がオーブン内を循環する。このとき、オーブン2A内の温度は、積層体の両表面の温度が200℃以上となるように積層体を加熱するために、200℃以上に設定することが好ましく、205℃以上、230℃以下に設定することがさらに好ましい。
【0027】
工程(1)で加熱された積層体1は、工程(2)において、開いた状態の成形型4Aのキャビティ41Aの底面に設けられた支持台44に非発泡層13が接するようにして配置される。
図1−(2)は、工程(3)を示した図である。キャビティ41A内に加熱された積層体1が配置された状態で成形型4Aを密閉して閉鎖されたキャビティ41Aを形成し、積層体Aとそれと対向する型部材のキャビティ面410Aとの間に、空隙を有する状態を作る。上部の型部材のキャビティ面410Aと下部の型部材のキャビティ面410Aとの距離hは、成形体の厚みが所望の厚みとなる距離に適宜設定する。
成形型4Aの蓋部である一方の型部材を閉じることによって、閉鎖されたキャビティ41Aを形成することができる。
【0028】
図1−(3)は、工程(4)を示した図である。キャビティ41A内の減圧は成形型4Aの両脇に設けられている真空ポンプ(図示せず)を用いて行う。減圧は型閉めと同時若しくは型閉め後10秒以内の任意の時点で開始する。キャビティ41A内が減圧されることにより、積層体の第一の発泡層及び第二の発泡層が膨張する。このとき第一の発泡層11は、工程(1)で200℃以上230℃以下となるまで加熱されているため、膨張割合が大きい。また、非発泡層13は、工程(1)で200℃以上230℃以下となるまで加熱されているため、該非発泡層と対向する型部材のキャビティ面に設けられている模様が正確に転写される。
膨張した積層体が冷却され、固化するまで、図1−(3)に示す状態を維持する。
【0029】
図1−(4)は、本発明の方法によって得られた成形体3Aを示した図である。図1−(3)において、真空ポンプとの接合弁42を閉め、パージ弁43を開くことで、キャビティ41A内を常圧にした後、成形型4Aを開いて成形体3Aを取り出す。このようにして得られた成形体3Aは自動車の内装材等に使用することができる。
【0030】
〔第二の実施形態〕
図2は、本発明に係る成形体の製造方法の第二の実施の形態を示した図である。本実施形態では、工程(1)で積層体を加熱する方法と、使用する成形型が第一の実施形態と異なる。
図2−(1)で示す工程(1)では、積層体1の両端を把持具5により固定し、積層体1を加熱手段2Bで加熱する。本実施形態において、加熱手段2Bは、積層体1を挟むようにして設けられたヒーター24である。ヒーター24の温度は、第一の発泡層11側のヒーターは、370℃に、非発泡層13側のヒーターは400℃に設定されている。なお、本実施形態ではヒーター24として遠赤外線ヒーターを用いる。
【0031】
第二の実施形態では、部の型部材と下部の型部材として、両方の型部材のキャビティ面410Bに吸引孔(図示せず)が設けられた一対の型部材からなる成形型4Bを用いる。工程(2)において、工程(1)で加熱された積層体1の両端を把持具5で挟持して、開いた状態の上部の型部材と下部の型部材との間に配置する。なお、両方の型部材のキャビティ面410Bに設けられる吸引孔の数や位置、孔径は特に限定されるものではなく、この吸引孔を通じて真空吸引することにより、型部材間に供給された積層体1を所望の形状に賦形できるものであればよい。
図2−(2)で示す工程(3)では、積層体1をキャビティ41B内に配置した状態で、成形型4Bの上下の型部材間の最短距離が、積層体1の厚み以下となるまで両方の型部材を閉じることによって、閉鎖されたキャビティ41Bを形成する。型閉めは一方の型部材を移動させてもよいし、両方の型部材を互いに接近させてもよい。図2−(2)は、積層体の両表面が、各々の面と対向する型部材のキャビティ面との間に、空隙を有する状態を示している。上部の型部材のキャビティ面410Bと下部の型部材のキャビティ面410Bとの距離hは、成形体の厚みが所望の厚みとなる距離に適宜設定する。
【0032】
図2−(3)は、工程(4)を示した図であり、密閉されたキャビティ内の空気を吸引孔から吸引して減圧し、積層体1を膨張させて、膨張した積層体を形成した状態を示す図である。吸引は成形型4Bの上下の型部材間の最短距離が、積層体1の厚み以下となった時点、又は所定の距離になった時点で開始する。例えば、対向する型部材のキャビティ面の外縁部間の距離が、加熱した積層体1の厚みと同じ厚みになった時点で吸引を開始し、吸引しながら積層体が所定の厚みとなるまでさらに型を閉じてもよい。また、積層体が所定の厚みになるまで型閉めすると同時、又は積層体が所定の厚みとなるまで型閉めした後に吸引を開始してもよい。積層体が所定の厚みとなるまで型閉めした後に吸引を開始する場合には、積層体1が冷却される前であって、積層体が所定の厚みとなるまで型閉めした時点から5秒以内に吸引を開始することが好ましい。
膨張した積層体が冷却され、固化するまで、図2−(3)に示す状態を維持する。
【0033】
図2−(4)は、本発明の方法によって得られた成形体3Bを示した図である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
なお本実施例および比較例では、熱電対を第一の発泡層の表面と、非発泡層の表面に設置して、事前に積層体を加熱する時間と積層体の表面温度を測定しておき、その結果に基づき工程(1)における加熱時間を調整して、積層体表面の温度を所望の温度とした。
〔実施例1〕
(積層体)
厚さ0.5mmのオレフィン系熱可塑性エラストマー製シートと、発泡倍率25倍、厚さ2.5mmのポリオレフィン製発泡シートとを熱ロールによって貼合したクッション材シート(東レ株式会社製 商品名トーレペフ)と、発泡倍率3倍、厚さ3mmのポリプロピレン製発泡シート(住化プラステック株式会社製 商品名スミセラー発泡ポリプロピレンシート)とを、前記クッション材シートのポリオレフィン製発泡シートとポリプロピレン製発泡シートとが接するように熱風によって貼合し、積層体を得た。オレフィン系熱可塑性エラストマー製シートが非発泡層であり、ポリオレフィン製発泡シートが第二の発泡層であり、ポリプロピレン製発泡シートが第一の発泡層である。
【0035】
(成形体の製造)
前記積層体を真空成形機(株式会社佐藤鉄工所製VAIM0301)、及びドアトリム形状に賦形可能な真空成形型を用いて真空成形を行った。一対の型部材はいずれもアルミ製であって、いずれの型部材も真空吸引可能な成形型を用いた。一方の型部材のキャビティ面には、シボ模様が設けられていた。積層体を成形する際には、シボ模様が設けられている型部材が、積層体の非発泡層と対向するように成形型を使用した。
【0036】
まず、遠赤外線ヒーターを用いて積層体の非発泡層の表面温度が205℃、第一の発泡層の表面温度が205℃となるように積層体を加熱した。
さらに、加熱した積層体をクランプで固定したまま型部材の間に供給し、成形型を密閉して閉鎖されたキャビティを形成し、積層体の両表面が、各々の面と対向する型部材のキャビティ面との間に、空隙を有する状態を作った。このとき型部材のキャビティ面間の距離は、8.8mmであった。閉鎖されたキャビティを形成した後、真空度が−0.09MPaとなるように、2つの型部材のキャビティ面から同時に真空吸引を開始した。
真空吸引開始から130秒経過した時点で真空吸引を停止して成形型を開き、成形体を取り出した。得られた成形体の評価結果を表1に示す。
【0037】
成形体の評価は以下のようにして行った。
(成形体各層の厚み評価)
得られた成形体の中央部を切断し、第一の発泡層、第二の発泡層及び非発泡層の各々の厚みをノギスで測定した。
(型形状賦形性評価)
評価は目視で行った。図3におけるドア形状の角部○の形状賦形が十分であれば○判定、形状賦形が不十分であれば×判定とした。
(非発泡層外観評価)
評価は目視で行った。成形体の非発泡層の全面に型部材に設けられていたシボ模様が転写されていれば、○判定、シボ模様が全面に転写はされているが、その転写されたシボ模様が薄い場合には△判定、シボ模様が部分的にしか転写されておらず、その転写されたシボ模様が薄い場合には、×判定とした。
【0038】
〔実施例2〕
閉鎖されたキャビティを形成した後、積層体の非発泡層と対向する型部材のキャビティ面からキャビティの真空度が−0.09MPaとなるように第一の真空吸引を開始し、第一の真空吸引開始から5秒経過時に第一の発泡層と対向する型部材のキャビティ面から第二の真空吸引を開始した以外は実施例と同様の方法で成形体を製造した。得られた成形体の評価結果を表1に示す。
【0039】
〔実施例3〕
積層体の非発泡層の表面温度が210℃、第一の発泡層の表面温度が210℃となるように積層体を加熱した以外は実施例2と同様の方法で成形体を製造した。得られた成形体の評価結果を表1に示す。
【0040】
〔比較例1〕
積層体の非発泡層の表面温度が202℃、第一の発泡層の表面温度が195℃となるように積層体を加熱した以外は実施例2と同様の方法で成形体を製造した。得られた成形体の評価結果を表1に示す。
【0041】
〔比較例2〕
積層体の非発泡層の表面温度が195℃、第一の発泡層の表面温度が205℃となるように積層体を加熱した以外は実施例2と同様の方法で成形体を製造した。得られた成形体の評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【符号の説明】
【0043】
1 積層体
11 第一の発泡層
12 第二の発泡層
13 非発泡層
2A 熱風オーブン
2B 加熱手段
21 支持台
22、24 ヒーター
23 ファン
3A、3B 成形体
4A、4B 成形型
41A、41B キャビティ
410A、410B キャビティ面
42 真空ポンプとの接合弁
43 パージ弁
44 支持台
5 把持具
、h 上部の型部材のキャビティ面と下部の型部材のキャビティ面との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン樹脂からなる第一の発泡層と、当該第一の発泡層に隣接する第二の発泡層と、当該第二の発泡層に隣接し、その融点が150℃以上180℃以下であるポリマーからなる非発泡層とを有する積層体の第一の発泡層の表面温度、及び前記非発泡層の表面温度が、いずれも200℃以上、230℃以下となるように積層体を加熱し(工程(1))、
加熱された積層体を、夫々その内側にキャビティ面を持つ一対の型部材を有する成形型内に配置し(工程(2))、
次いで、前記積層体の少なくとも一方の面と該面に対向する成形型内のキャビティ面との間に空隙を生ずるように、成形型を密閉し(工程(3))、
次いで、キャビティ内を減圧状態とし、積層体を膨張させ(工程(4))、
前記膨張させた積層体が固化した後、成形型を開いて成形体を取り出して(工程(5))、
成形体を製造する方法。
【請求項2】
前記積層体を膨張させるために減圧状態を形成するに際し、一方のキャビティ面から第一の真空吸引を開始した後、0.1秒以上、6秒以下の時間が経過した後に、他方のキャビティ面から第二の真空吸引を開始する請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記積層体の膨張を、積層体の少なくとも一方の面が、該面に対向する成形型内のキャビティ面に接触するように膨張させる請求項1または2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記膨張させた積層体の固化を、積層体を膨張させるときの減圧状態を維持しながら行う請求項1から3いずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記非発泡層が、熱可塑性エラストマーからなる請求項1から4いずれかに記載の成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148305(P2011−148305A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284211(P2010−284211)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(597075823)住化プラステック株式会社 (37)
【Fターム(参考)】