説明

成形方法と成形金型とそれにより形成された成形品及び情報記録媒体

【課題】成形品の取り出し工程で成形品の外周端に負荷を加えることなしに型開動作を行い、成形品の外周端に生じたバリを変形させずに成形品を取り出して良質な成形品を安定して量産する。
【解決手段】成形品の取り出し過程で、スタンパ4とでベントクリアランス12を形成する外周リング7を後退させてベントクリアランス12を拡大してから型開を開始し、ベントクリアランス12に流入した樹脂で形成されたバリ15に曲げ力を加えずに型開を行って、スタンパ4の表面に形成されたレリーフパターンを転写した成形品の表面に沿って形成されたバリ15を変形させることなしに成形品を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、射出成形法により光情報記録媒体の成形基板等を作製する成形方法と成形金型と成形品及び情報記録媒体、特に成形品端部に生じるバリの影響の低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度に記録し大容量化を図るため、ディスク基板を貼り合わせた構造の光ディスクが開発されている。このディスク基板を貼り合わせた光ディスクに対して媒体製造上の問題が顕在化してきた。この問題は、図7(a)に示すように、ディスク基板14を成形して製作したときに、外周端に垂直方向の突起であるバリ30が生じる。このバリ30が有るディスク基板14のバリがある面に、図7(b)に示すように保護膜16を形成し、保護膜16を有する2枚のディスク基板14の保護膜側を接着剤で貼り合わせた光ディスク31は、図7(c)に示すように、外周端部に反り32が生じたり、図7(d)に示すように、外周端部に未接着領域33が生じてしまう。このように光ディスク31の外周端部の反り32や接着状態が不十分な部分33があると、その領域で品質が悪くなってしまう。
【0003】
このディスク基板14の外周端に発生するバリ30は、ディスク基板14を作製する成形金型の構造に依存した現象である。現在一般に用いられている基板成形金型は、図8の外周部の部分断面図に示すように、固定金型2と可動金型3を有する、固定金型2には、ディスク基板14に転写するレリーフパターンが表面に形成されたスタンパ4を有し、可動金型3には、可動金型本体5に載置された鏡面ブロック6と、鏡面ブロック6の外周部に設けられた外周リング7を有する。外周リング7は可動金型本体5の外縁部に埋設されている弾性支持体34の弾性力により固定金型2側に押圧され、内周面は鏡面ブロック6の外周端面に対してベアリング10を介して摺動自在となっており、外周部に設けた外周リング支持部材9により前進限が規制されている。この外周リング7と係合する突き当て部材11が固定金型2の外周部に設けられている。
【0004】
通常、成形金型の可動金型3を固定金型2側に前進させて固定金型2と嵌合させた場合、図9(a)に示すように、スタンパ4と外周リング7間には、金型中心部からキャビティ内に注入されてくる溶融樹脂から排出されるガスや、溶融樹脂により排斥されたキャビティ内の空気を外部へと導出するベントクリアランス12が設けられている。ディスク基板14を外周端まで良好な品質を得るためには、溶融樹脂をキャビティの外周端まで完全に充填しなければならず、このため溶融樹脂がベントクリアランス12内に流入し、形成したディスク基板の外周端にバリが生じる。このベントクリアランス12は、射出あるいは射出圧縮成形法の金型では必須とされる部分であり、バリの発生を防止するためにスタンパ4と外周リング7を密着させることはできない。
【0005】
このバリの発生を防止するため、特許文献1に示すように、スタンパ4と外周リング7の間の稜角を90度以上にしてベントクリアランス12に対する溶融樹脂の押込み力を小さくするようにしているが、射出成形はキャビティ内の空気あるいは溶融樹脂から排出されるガスと溶融樹脂とを入れ換える加工法に他ならず、バリの発生は避けがたい現象であった。
【0006】
ディスク基板を貼り合わせたときに問題となるバリは成形したディスク基板の垂直方向に生じたバリである。このディスク基板の垂直方向に生じるバリが生じる過程について図9を参照して説明する。
【0007】
前述の通り可動金型3の外周リング7は可動金型本体5に摺動可能な状態で設置されている。これは溶融樹脂の充填中に、その溶融樹脂の充填により上昇したキャビティ内圧が型締圧力より大きくなって金型が開いても、ベントクリアランス12を一定に保たせるためである。図9(a)に示すように、可動金型3を固定金型2に嵌合させた状態で、図9(b)に示すように、キャビティ内に溶融樹脂23が充填されると、一時的ではあるがキャビティ内圧が型締圧力を上回り、可動金型本体5が若干後退する現象が起こる場合がある。仮に外周リング7が可動金型本体5に固定されていると、可動金型本体5の後退に伴い外周リング7も後退してしまう。この現象はベントクリアランス12の拡大を招き、充填された溶融樹脂23のキャビティ外への流出が生じる。この可動金型本体5の後退量は時として数百μmに達し、本来10〜20μmに設定されたベントクリアランス12に比べ明らかに問題を生じる後退量である。この時、相対的に離れる可動金型本体5の後退を補うため外周リング7が弾性支持体34の弾性力により可動金型本体5に対して相対的に前進し、突き当て部材11との接触を維持し、ベントクリアランス12を一定の間隔に保つ。その後、溶融樹脂23の充填過程後半から冷却過程にかけて、溶融樹脂23の固化収縮等によりキャビティ内圧が低下し、やがて型締圧力がキャビティ内圧を上回り、図9(c)に示すように、可動金型本体5は再び前進し、外周リング7は相対的に後退してベントクリアランス12の間隔を保ち、ベントクリアランス12に流入した溶融樹脂は、成形された基板14の表面に沿った水平方向のバリ15になる。このように成形された基板14の表面に沿ったバリ15は、基板14を貼り合わせても問題にはならないが、このバリ15は基板14の取り出し工程で基板14に対して垂直方向になってしまう。
【0008】
成形した基板14の取り出し工程で型開が始まり、図9(d)に示すように、可動金型本体5が後退を開始すると成形された基板14も後退する。一方、外周リング7は弾性支持体34の弾性力により突き当て部材11と接触した状態を維持する。このため基板14の外周端に形成されたバリ15は、可動金型本体5が後退するにしたがって外周リング7の内周面端部により力が加えられて方向が曲げられ基板14の表面に対して垂直方向に変化する。さらに型開が進行し、外周リング7が外周リング支持部材9と係合すると、外周リング7も可動金型本体5と共に後退して型開が終了する。このように成形した基板14の取り出し工程でバリ15は基板14の表面に対して垂直方向のバリ30に変化してしまう。このため、前述したように基板を貼り合わせた光ディスクの外周部に反り等が生じてしまう。
【特許文献1】特許第2582420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、成形品の取り出し工程で成形品の外周端に負荷を加えることなしに型開動作を行い、成形品の外周端に生じたバリを変形させずに成形品を取り出して良質な成形品を安定して量産することができる成形方法と成形金型とそれにより形成された成形品及び情報記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の成形方法は、固定金型に設けられ成形品に転写するレリーフパターンを有するスタンパと、可動金型に前記スタンパと対向して設けられた鏡面ブロック及び鏡面ブロックの外周部に摺動自在に設けられた外周リングとで形成するキャビティ内のガスをスタンパと外周リングとで形成するベントクリアランスで排気しながら溶融樹脂を注入して冷却・固化して成形品を作製する成形方法において、前記成形品の取り出し過程で、前記外周リングを後退させて前記ベントクリアランスを拡大してから型開を開始することを特徴とする。
【0011】
前記外周リングの後退量は成形品の板厚未満であることが望ましい。
【0012】
この発明の成形金型は、固定金型に設けられ成形品に転写するレリーフパターンを有するスタンパと、可動金型に前記スタンパと対向して設けられた鏡面ブロック及び鏡面ブロックの外周部に摺動自在に設けられた外周リングとで形成するキャビティ内のガスをスタンパと外周リングとで形成するベントクリアランスで排気しながら溶融樹脂を注入して冷却・固化して成形品を作製する成形金型において、前記外周リングを固定金型方向に前進・後退させる摺動駆動機構部を有し、摺動駆動機構部は、成形品の取り出し過程で前記外周リングを後退させて前記ベントクリアランスを拡大する事を特徴とする。
【0013】
この発明の第2の成形金型は、固定金型に設けられ成形品に転写するレリーフパターンを有するスタンパと、可動金型に前記スタンパと対向して設けられた鏡面ブロック及び鏡面ブロックの外周部に摺動自在に設けられた外周リングとで形成するキャビティ内のガスをスタンパと外周リングとで形成するベントクリアランスで排気しながら溶融樹脂を注入して冷却・固化して成形品を作製する成形金型において、前記外周リングは、半径方向に2分割され、互いに摺動自在な内周側の第1外周リングと、外周側の第2外周リングとを有し、該第1外周リングと第2外周リングの固定金型方向に対する前進・後退動作を、第1外周リングの外周端下面及び第2外周リングの内周端下面と可動金型本体の間に設けたアクチュエータにより互いに異なる方向に連動し、アクチュエータは、成形品の取り出し過程で第2外周リングを前進させ、第1外周リングを後退させて前記ベントクリアランスを拡大する事を特徴とする。
【0014】
また、前記アクチュエータは増粘剤を混入した作動油を内蔵した圧力伝達手段を有したり、増粘剤を混入した作動油を内蔵した弾性体を有する。
【0015】
この発明の成形品は、前記成形金型により作製されたことを特徴とする。
【0016】
この発明の情報記録媒体は、前記成形品により作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、成形品の取り出し過程で、スタンパとでベントクリアランスを形成する外周リングを後退させてベントクリアランスを拡大してから型開を開始することにより、ベントクリアランスに流入した樹脂で形成されたバリに曲げ力を加えずに型開を行うから、成形品のレリーフパターンを転写した面に沿って形成されたバリを変形させることなしに成形品を取り出すことができる。
【0018】
また、外周リングの後退量は成形品の板厚未満にすることにより、成形金型が完全に開いても成形品を外周リングで安定して保持することができ、連続成形において、成形品の取り出し不良等の問題を発生しないですむ。
【0019】
さらに、成形品の取り出し過程で外周リングを摺動駆動機構部により後退させるから、外周リングを安定して後退させることができると共に後退量を精度良く制御することができる。
【0020】
また、外周リングを半径方向に2分割した内周側の第1外周リングと外周側の第2外周リングとで構成し、第1外周リングと第2外周リングの固定金型方向に対する前進・後退動作を互いに異なる方向に連動し行うアクチュエータは、成形品の取り出し過程で第2外周リングを前進させ、第1外周リングを後退させてベントクリアランスを拡大するから、簡単な構成で、成形品の取り出し過程におけるベントクリアランスの拡大を行うことができる。
【0021】
このアクチュエータは増粘剤を混入した作動油を内蔵した圧力伝達手段を有したり、増粘剤を混入した作動油を内蔵した弾性体を有することにより、第1外周リングと第2外周リング前進・後退動作を互いに異なる方向に簡単に連動して行わせることができる。
【0022】
また、この成形金型で作製した成形品は、成形品のレリーフパターンを転写した面に沿って形成されたバリを変形させることなしに取り出すことができ、外周端に不必要な変形による応力が加えられず、外周端まで良質な品質を得ることができる。
【0023】
さらに、この成形品により作製された情報記録媒体は、すべての領域で均一な品質を有し、信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1はこの発明の成形金型の構成を示す部分断面図である。図に示す成形金型1は、例えばディスク基板を成形するものであり、固定金型2と可動金型3を有する、固定金型2には、ディスク基板に転写するレリーフパターンが表面に形成されたスタンパ4を有する。可動金型3には、可動金型本体5に載置された鏡面ブロック6と、鏡面ブロック6の外周部に設けられた外周リング7と、外周リング7を保持する摺動駆動機構部8と、外周リング7の外周部に設けられた外周リング支持部材9を有する。外周リング7は可動金型本体4の外縁部に埋設されている摺動駆動機構部8により固定金型2の方向に対して前後退自在に保持され、内周面は鏡面ブロック6の外周端面に対してベアリング10を介して摺動自在となっており、外周部に設けた外周リング支持部材9により前進限が規制されている。摺動駆動機構部8は、例えば油圧や空圧のシリンダ等を有し、成形工程のなかで型開動作が行われるとき以外は外周リング7を固定金型2方向に対する前進力を付与して前進させ、型開動作が行われるときに外周リング7を後退させる。この摺動駆動機構部8が外周リング7に付与する前進力は型締力より小さく設定されている。固定金型2の外周部には、可動リング7と係合する突き当て部材11を有する
【0025】
この成形金型1で、ディスク基板を成形するときの成形方法を、図2の工程図を参照して説明する。成形工程が開始して、可動金型3が前進すると、図2(a)に示すように、前進限が外周リング支持部材9に規制されている外周リング7の先端が固定金型2の突き当て部材11に接触する。さらに、可動金型3を前進すると、摺動駆動機構部8が外周リング7に付与する前進力は型締力より小さく設定されているため、図2(b)に示すように、外周リング7は前進する可動金型本体5に対して相対的に後退し、スタンパ4との間に所定のベントクリアランス12を形成する。この状態でキャビティ13に内に溶融樹脂が充填され、仮に可動金型本体5がキャビティ内圧により若干後退しても、外周リング7は摺動駆動機構部8から付与されている前進力により突き当て部材11に接触した状態を保って後退せず、ベントクリアランス12を一定の間隔に保つ。さらに溶融樹脂の充填が進行すると、溶融樹脂がベントクリアランス12に流入し、充填過程後半から冷却過程にかけてベントクリアランス12に流入した樹脂により、成形した基板14の外周端に、基板14の表面に沿った水平のバリ15が生じる。
【0026】
冷却工程が完了し型開動作に移行すると、図2(c)に示すように、摺動駆動機構部8は成形機の制御信号に基づき外周リング7を反キャビティ方向へ一定量だけ後退させる。具体的には、型開き動作開始の信号を基準とし、その時期からあらかじめ設定した一定時間前に摺動駆動機構部8の後退動作を開始させる。また、摺動駆動機構部8による外周リング7の後退量は、成形した基板14の板厚より少ない値に設定してある。外周リング7を後退させた後、可動金型本体5を後退させる。可動金型本体4を後退させると、外周リング7も成形した基板14と共に後退して型開が終了する。このように型開動作を開始するとき、外周リング7を一定量だけ後退させて、形成されたバリ15の下部から離し、その後、図2(d)に示すように、成形した基板14と共に外周リング7も後退させるから、成形した基板14の外周端に形成されたバリ15にはキャビティ方向への力は一切加えられることなく基板14を取り出すことができ、成形した基板14に対して垂直なバリを形成することを防止できる。また、外周リング7の後退量は成形した基板14の板厚より少ないから、図2(d)に示すように成形金型1が完全に開いても成形した基板14を外周リング7で安定して保持することができ、連続成形において、成形した基板14の取り出し不良等の問題を発生しないですむ。
【0027】
このようにして成形された基板1においては、図3(a)に示すように、バリ15は、スタンパ4のレリーフパターンが転写された基板14の表面に沿った水平方向に形成されているから、図3(b)に示すように、バリ15を有する基板14の表面に保護膜16を形成し、図3(c)に示すように、2枚の基板14の保護膜16側を接着剤17で貼り合わせても外周部に反り等がない良質な光ディスク18を作製することができる。したがって、この成形金型1で成形されたディスク基板を貼り合わせて作製した光ディスク18は、外周部分に不良が生じることはなく、すべての領域で良好な品質を有し、長期信頼性に優れた情報記録媒体を得ることができる。
【0028】
前記説明では可動金型3に外周リング7を前後退させる摺動駆動機構部8を設けた成形金型1について説明したが、次に、可動金型3に摺動駆動機構部8を有しない第2の成形金型について説明する。
【0029】
図4は第2の成形金型の構成を示す部分断面図である。第2の成形金型1aは、可動金型3の外周リング7が半径方向に2分割され、内周側の第1外周リング7aは内周面が鏡面ブロック6の外周端面に対してベアリング10を介して摺動自在となっており、下部に設けたフランジ部と鏡面ブロック6の外周端下部との間に設けられた圧縮バネやベローズ等の弾性支持体19により常に可動金型本体5側である反キャビティ方向(後退側)に摺動する力が付与されている。外周側の第2外周リング7bは内周面が第1外周リング7aの外周面に対してベアリング20を介して摺動自在となっており、可動金型本体5に埋設された圧縮バネやベローズ等の弾性支持体21を介して支持され、常にキャビティ方向(前進方向)に摺動する力が付与され、前進限が外周リング支持部材9により規制されている。第1外周リング7aの外周端下面及び第2外周リング7bの内周端下面と可動金型本体5の間には、耐圧性を有するゴム等の弾性材料で増粘剤を混入した作動油を被覆した弾性アクチュエータ22を有する。
【0030】
この成形金型1aで、ディスク基板を成形するときの成形方法を、図5の工程図を参照して説明する。成形工程が開始して、可動金型3が前進すると、図5(a)に示すように、前進限が外周リング支持部材9に規制されている第2外周リング7bの先端が固定金型2の突き当て部材11に接触する。さらに、可動金型3を前進すると、第2外周リング7bに摺動力を付与している弾性支持体21の付与力は型締力より小さく設定されているため、外周リング7は前進する可動金型本体5に対して相対的に後退する。この第2外周リング7bの後退動作により弾性アクチュエータ22の第2外周リング7bと接触している部分を圧縮して変形させる。弾性アクチュエータ22の第2外周リング7bと接触している部分が変形すると、内部に有する作動油の作用により第1外周リング7aに接触している部分が膨張し、この膨張力が第1外周リング7aと鏡面ブロック6間に設置された弾性支持体19の圧縮力より大きくなると第1外周リング7aをキャビティ側へ前進させる。可動金型3の前進が完了して固定金型2と嵌合すると、第1外周リング7aのキャビティ側端面が固定金型2のスタンパ4表面と所定のベントクリアランス12を形成する。この状態で図2(b)に示すようにキャビティ13に溶融樹脂23を充填する。
【0031】
溶融樹脂23がキャビティ13に充填されているとき、溶融樹脂23の内圧により可動金型3が微小距離だけ後退すると、第2外周リング7bは弾性支持体21により付与されている前進力により可動金型本体5に対して相対的に前進し、突き当て部材11との接触を維持する。このとき第2外周リング7bから弾性アクチュエータ22に加えている圧縮力が小さくなるが、弾性アクチュエータ22は内部の作動油に増粘剤が混入され、粘性が大きくなっているから安定した形状まで復元するまでに一定の遅れを有し、第1外周リング7aを押圧した状態を保持し、第1外周リング7aにより形成されたベントクリアランス12が拡大することを防ぐ。このように弾性アクチュエータ22により第1外周リング7aを押圧した状態を保持する時間は、通常の射出充填は1/10秒前後で完了するため、この程度の時間があれば問題はない。この弾性アクチュエータ22が形状を復元するのに要する時間は、内蔵する作動油に混入する増粘剤を適宜選択して作動油の粘度を可変することにより任意の応答時間に設定することができる。
【0032】
キャビティ13に充填された溶融樹脂23がベントクリアランス12に流入し、充填過程後半から冷却過程にかけてベントクリアランス12に流入した樹脂により、図5(c)に示すように、成形した基板14の外周端に、基板14の表面に沿った水平のバリ15が生じる。冷却工程が完了し型開動作に移行して可動金型3が後退を開始して固定金型2と可動金型3が離れ始めると、第2外周リング7bは弾性支持体21により付与されている前進力により可動金型本体5に対して相対的に前進し、第2外周リング7bから弾性アクチュエータ22に加えている圧縮力がなくなり、弾性アクチュエータ22は徐々に形状を復元し所定の応答時間で安定した形状に復元する。弾性アクチュエータ22の形状が徐々に復元すると第1外周リング7aに与えている押圧力が小さくなり、この押圧力が弾性支持体19の弾性力より小さくなると第1外周リング7aが反キャビティ方向に後退して形成されたバリ15の下部から離れる。さらに型開動作が進行し、図5(e)に示すように、固定金型2と可動金型3が完全に分離して第2外周リング7bの位置が外周リング支持部材9に規制されると、弾性アクチュエータ22と第1外周リング7aは成形工程開始前の状態に回復する。
【0033】
このように型開動作が開始すると、弾性アクチュエータ22の弾性変形を利用して第1外周リング7aを後退させて、第1外周リング7aを基板14の表面に沿った水平のバリ15から離すから、型開動作中にバリ15に変形力を加えないで型開を行って基板14を取り出すことができる。さらに、第1外周リング7aの後退量は成形した基板14の板厚より少ないから、成形金型1aが完全に開いても成形した基板14を成形金型1a内で安定して保持することができ、連続成形において、成形した基板14の取り出し不良等の問題を発生しないですむ。したがって成形金型1aで成形されたディスク基板を貼り合わせて作製した情報記録媒体は、外周部分に不良が生じることはなく、すべての領域で良好な品質を有し、長期信頼性に優れた情報記録媒体を得ることができる。
【0034】
前記説明では、弾性アクチュエータ22を、増粘剤を混入した作動油を内蔵した耐圧性を有するゴム等の弾性材料で形成した場合について説明したが、図6に示すように、増粘剤を混入した作動油を内蔵したシリンダ24と2組のピストン25からなる圧力伝達手段により弾性アクチュエータ22を形成しても良い。
【0035】
また、前記説明ではディスク基板を成形する場合について説明したが、光学レンズ等の光学素子や各種機構部品も同様にして成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の成形金型の構成を示す部分断面図である。
【図2】成形金型による成形方法を示す工程図である。
【図3】2枚の基板を貼り合わせた光ディスクを示す断面図である。
【図4】第2の成形金型の構成を示す部分断面図である。
【図5】第2の成形金型による成形方法を示す工程図である。
【図6】第2の弾性アクチュエータの構成図である。
【図7】従来の2枚の基板とそれを貼り合わせた光ディスクを示す断面図である。
【図8】従来の成形金型の構成を示す部分断面図である。
【図9】第2の成形金型による成形方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0037】
1;成形金型、2;固定金型、3;可動金型、4;スタンパ、5;可動金型本体、
6;鏡面ブロック、7;外周リング、7a;第1外周リング、
7b;第2外周リング、8;摺動駆動機構部、9;外周リング支持部材、
10;ベアリング、11;突き当て部材、12;ベントクリアランス、
13;キャビティ、14;基板、15;バリ、16;保護膜、17;接着剤、
18;光ディスク、19;弾性支持体、20;ベアリング、21;弾性支持体、
22;弾性アクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型に設けられ成形品に転写するレリーフパターンを有するスタンパと、可動金型に前記スタンパと対向して設けられた鏡面ブロック及び鏡面ブロックの外周部に摺動自在に設けられた外周リングとで形成するキャビティ内のガスをスタンパと外周リングとで形成するベントクリアランスで排気しながら溶融樹脂を注入して冷却・固化して成形品を作製する成形方法において、
前記成形品の取り出し過程で、前記外周リングを後退させて前記ベントクリアランスを拡大してから型開を開始することを特徴とする成形方法。
【請求項2】
前記外周リングの後退量は成形品の板厚未満である請求項1記載の成形方法。
【請求項3】
固定金型に設けられ成形品に転写するレリーフパターンを有するスタンパと、可動金型に前記スタンパと対向して設けられた鏡面ブロック及び鏡面ブロックの外周部に摺動自在に設けられた外周リングとで形成するキャビティ内のガスをスタンパと外周リングとで形成するベントクリアランスで排気しながら溶融樹脂を注入して冷却・固化して成形品を作製する成形金型において、
前記外周リングを固定金型方向に前進・後退させる摺動駆動機構部を有し、該摺動駆動機構部は、成形品の取り出し過程で前記外周リングを後退させて前記ベントクリアランスを拡大することを特徴とする成形金型。
【請求項4】
固定金型に設けられ成形品に転写するレリーフパターンを有するスタンパと、可動金型に前記スタンパと対向して設けられた鏡面ブロック及び鏡面ブロックの外周部に摺動自在に設けられた外周リングとで形成するキャビティ内のガスをスタンパと外周リングとで形成するベントクリアランスで排気しながら溶融樹脂を注入して冷却・固化して成形品を作製する成形金型において、
前記外周リングは、半径方向に2分割され、互いに摺動自在な内周側の第1外周リングと、外周側の第2外周リングとを有し、該第1外周リングと第2外周リングの固定金型方向に対する前進・後退動作を、第1外周リングの外周端下面及び第2外周リングの内周端下面と可動金型本体の間に設けたアクチュエータにより互いに異なる方向に連動して行わせ、前記アクチュエータは、成形品の取り出し過程で前記第2外周リングを前進させ、第1外周リングを後退させて前記ベントクリアランスを拡大する事を特徴とする成形金型。
【請求項5】
前記アクチュエータは増粘剤を混入した作動油を内蔵した圧力伝達手段を有する請求項4記載の成形金型。
【請求項6】
前記アクチュエータは増粘剤を混入した作動油を内蔵した弾性体を有する請求項4記載の成形金型。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれかに記載の成形金型により作製されたことを特徴とする成形品。
【請求項8】
請求項7に記載の成形品により作製されたことを特徴とする情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−231643(P2006−231643A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48135(P2005−48135)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】