説明

成膜方法及び成膜装置

【課題】十分な特性を備えたフッ化物材料の薄膜を効率的に基板上に形成することができる成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜装置1は、蒸着処理領域30A及びプラズマ処理領域60Aの各領域間で、基板Sを繰り返し移動させる回転ドラム4及び基板保持板4aと、フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を蒸着処理領域30Aに導入された基板Sに付着させる蒸着手段30と、反応性ガスのプラズマをプラズマ処理領域60Aに導入された基板Sに接触させることにより、基板Sに付着した蒸着原料の蒸発物を処理するプラズマ処理手段60とを真空チャンバ2内に少なくとも有する。この成膜装置1を用いて基板S上にフッ化物材料の薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化マグネシウムなどのフッ化物材料は反射防止膜として有用であることが知られている。また、スパッタリング法は、高速で成膜が可能であり、また、緻密な膜が容易に得られることから、産業上、好適な成膜方法であることも知られている。
【0003】
しかしながら、フッ化物材料のターゲットを用いてスパッタリング法でフッ化物材料の薄膜を成膜すると、成膜速度(厚み換算での堆積速度)が非常に低く(例えば0.01nm/秒程度以下)、しかも成膜後の薄膜中でフッ素原子が著しく欠損し、十分な特性を得ることができない。
【0004】
これに対し、金属ターゲットを用いてスパッタリング法でフッ化物材料の薄膜を成膜すると、プラズマ中に遊離したフッ素原子がスパッタリング装置の真空容器の内壁や真空排気用の配管を腐食させるとともに、真空容器の内部を大気開放するときに真空容器の内壁からフッ素原子が遊離し、人体に悪影響を与えるとの問題を生じうる。
【0005】
そこで、スパッタリング法では成膜が不適なフッ化物材料などの薄膜材料を、抵抗加熱や電子銃を用いて蒸着する方法が知られている。
【0006】
しかしながら、この方法では、成膜対象である基板を300℃近くにまで加熱しないと、実用に耐えられる硬度や密着性を持つ反射防止膜を基板上に形成することはできない。その結果、耐熱温度が低いプラスチック基板などには、この種の反射防止膜を成膜することは困難であった。
【0007】
このような問題を解決する技術として、基板を加熱せず、基板の表面に電子線照射を行いながら、フッ化マグネシウムなどのフッ化物材料の薄膜を基板上に成膜する手法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特開平6−102401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の技術では、成膜速度を高めることができるものの(例えば0.2nm/秒程度以上)、基板上に形成されるフッ化物材料の薄膜中でのフッ素原子の解離を十分に防止することができず、依然として十分な特性を得ることができなかった。
【0010】
発明が解決しようとする課題は、十分な特性を備えたフッ化物材料の薄膜を効率的に基板上に形成することができる成膜方法を提供することである。また、この方法を実現するのに適した成膜装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、以下の解決手段では、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0012】
第1の発明に係る成膜方法は、基板(S)上にフッ化物材料の薄膜を形成する成膜方法であって、真空を維持した状態で、第1の領域(30A)及び第1の領域とは異なる第2の領域(60A)の各領域間で、基板(S)を繰り返し移動させる第1の工程と、フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を第1の領域(30A)に導入された基板(S)に付着させる第2の工程と、反応性ガスのプラズマを第2の領域(60A)に導入された基板(S)に接触させることにより、基板(S)に付着した蒸着原料の蒸発物を処理する第3の工程と、第2の工程及び第3の工程を必要数繰り返し、基板(S)上にフッ化物材料の薄膜を形成する第4の工程とを、有する。
【0013】
第1の発明に係る成膜装置(1)は、基板(S)上にフッ化物材料の薄膜を形成する成膜装置であって、第1の領域(30A)及び第1の領域とは異なる第2の領域(60A)の各領域間で、基板(S)を繰り返し移動させる基板保持移動手段(4a)と、フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を第1の領域(30A)に導入された基板(S)に付着させる蒸着手段(30)と、反応性ガスのプラズマを第2の領域(60A)に導入された基板(S)に接触させることにより、基板(S)に付着した蒸着原料の蒸発物を処理するプラズマ処理手段(60)とを、真空容器(2)内に少なくとも有する。
【0014】
上記発明において、第1の領域(30A)及び第2の領域(60A)は、基板保持移動手段(4a)を挟んで、互いに空間的に分離された位置に配置されていてもよい。
【0015】
上記発明において、真空容器(2)内のプラズマ処理手段(60)が配置される近傍には、真空容器(2)内の差動排気を行う差動排気手段(15a,24)が設置してあってもよい。
【0016】
上記発明において、基板保持移動手段(4a)は、真空容器(2)の鉛直方向(X)に交差する方向(Z)に沿った軸線(Z1)を中心に回転可能な回転体(4)の外周に設けられており、蒸着手段(30)は、基板保持移動手段(4a)よりも真空容器(2)の鉛直方向(X)の下方に設けられており、プラズマ処理手段(60)は、基板保持移動手段(4a)よりも真空容器(2)の鉛直方向(X)の上方に設けられており、基板保持移動手段(4a)の上端からプラズマ処理手段(60)までの距離をD1とし、基板保持移動手段(4a)の下端から蒸着手段(30)までの距離をD2としたとき、D2はD1の4倍以上であってもよい。
【0017】
第2の発明に係る成膜方法は、基板(2)上に高屈折率材料の薄膜とフッ化物材料の薄膜を形成する成膜方法であって、真空を維持した状態で、第1の領域(30A)、第1の領域とは異なる第2の領域(60A)並びに第1の領域及び第2の領域の何れとも異なる第3の領域(80A)の各領域間で、基板(S)を繰り返し移動させる第1の工程と、高屈折率材料のターゲットをスパッタすることにより、第3の領域(80A)に導入された基板(S)に超薄膜を形成する第2の工程と、反応性ガスのプラズマを第2の領域(60A)に導入された基板(S)に接触させることにより、基板(S)に形成された超薄膜の膜組成を変換させる第3の工程と、第2の工程及び第3の工程を必要数繰り返し、基板(S)上に高屈折率材料の薄膜を形成する第4の工程と、フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を第1の領域(30A)に導入された基板(S)の高屈折材料の薄膜上に付着させる第5の工程と、反応性ガスのプラズマを第2の領域(60A)に導入された基板(S)に接触させることにより、基板(S)に付着した蒸着原料の蒸発物を処理する第6の工程と、第5の工程及び第6の工程を必要数繰り返し、基板(S)に形成された高屈折率材料の薄膜上にフッ化物材料の薄膜を形成する第7の工程とを、有する。
【0018】
第2の発明に係る成膜装置(1a)は、基板(S)上に高屈折率材料の薄膜とフッ化物材料の薄膜を形成する成膜装置であって、第1の領域(30A)、第1の領域とは異なる第2の領域(60A)並びに第1の領域及び第2の領域の何れとも異なる第3の領域(80A)の各領域間で、基板(S)を繰り返し移動させる基板保持移動手段(4a)と、高屈折率材料のターゲットをスパッタすることにより、第3の領域(80A)に導入された基板(S)に超薄膜を形成するスパッタ手段(80)と、フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を第1の領域(30A)に導入された基板(S)又は基板(S)に形成された膜組成変換後の高屈折率材料の薄膜上に付着させる蒸着手段(30)と、反応性ガスのプラズマを第2の領域(60A)に導入された基板(S)に接触させることにより、基板(S)に形成された超薄膜の反応処理と基板(S)に付着した蒸着原料の蒸発物の処理を行うプラズマ処理手段(60A)とを、真空容器(2)内に少なくとも有する。
【0019】
上記発明において、第1の領域(30A)、第2の領域(60A)及び第3の領域(80A)は、基板保持移動手段(4a)を挟んで、互いに空間的に分離された位置に配置されていてもよい。
【0020】
上記発明において、真空容器(2)内のプラズマ処理手段(60)が配置される近傍には、真空容器(2)内の差動排気を行う差動排気手段(15a,24)が設置してあってもよい。
【0021】
上記発明において、基板保持移動手段(4a)は、真空容器(2)の鉛直方向(X)に交差する方向(Z)に沿った軸線(Z1)を中心に回転可能な回転体(4)の外周に設けられており、スパッタ手段(80)は、基板保持移動手段(4a)よりも真空容器(2)の鉛直方向(X)の側方に設けられており、蒸着手段(80)は、基板保持移動手段(4a)よりも真空容器(2)の鉛直方向(X)の下方に設けられており、プラズマ処理手段(60)は、基板保持移動手段(4a)よりも鉛直方向(X)の上方に設けられており、基板保持移動手段(4a)の上端からプラズマ処理手段(60)までの距離をD1とし、基板保持移動手段(4a)の下端から蒸着手段(30)までの距離をD2としたとき、D2はD1の少なくとも4倍以上であってもよい。
【0022】
上記発明において、スパッタ手段(80)は、鉛直方向(X)の一側方に設けられた第1のスパッタ手段(20)と、鉛直方向(X)の他側方に設けられた第2のスパッタ手段(20)で構成されていてもよい。
【0023】
この発明でいう「超薄膜」とは、超薄膜が複数回堆積されて最終的な薄膜となることから、この「薄膜」との混同を防止するために用いた用語であり、最終的な「薄膜」より十分薄いという意味である。
【発明の効果】
【0024】
上記発明によれば、第1の領域と第2の領域の間で基板を繰り返し移動させながら、基板に対して蒸着原料の蒸発物の付着とプラズマ処理を繰り返すので、基板上に形成されるフッ化物材料の薄膜中でのフッ素原子の解離を十分に防止することができる。その結果、十分な特性(例えば硬度が高いなど)を備えたフッ化物材料の薄膜を効率的に基板上に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
《第1実施形態》
《成膜装置》
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は真空チャンバ2を有する。真空チャンバ2(真空容器)は、公知の成膜装置で通常用いられるようなステンレススチール製で、ほぼ直方体形状をした中空体である。真空チャンバ2には、扉を介して、ロードロック室が接続されていてもよい。ロードロック室を備えていると、真空チャンバ2内の真空状態を保持した状態で、後述する基板Sの搬入出を行うことが可能となる。なお、真空チャンバ2は、必ずしもロードロック室を備えるロードロック方式である必要はなく、ロードロック室を設けないシングルチャンバ方式を採用することも可能である。また、複数の真空室を備えたマルチチャンバ方式を採用することもできる。
【0027】
真空チャンバ2の内部には、回転ドラム4が設置してある。回転ドラム4(回転体)は、成膜対象である基板Sを真空チャンバ2の内部で保持するための筒状の部材である。
【0028】
図2に示すように、回転ドラム4は、複数の基板保持板4aと、フレーム4bと、基板保持板4a及びフレーム4bを締結する締結具4cとを備えている。基板保持板4a(基板保持移動手段)は、ステンレススチール製の平板状部材で、基板Sを保持するための複数の基板保持孔を基板保持板4aの長手方向に沿って板面中央部に一列に備えている。基板Sは、基板保持板4aの基板保持孔に収納され、脱落しないようにネジ部材等を用いて基板保持板4aに固定される。また、基板保持板4aの長手方向(Z方向)の両端部には、締結具4cを挿通可能なネジ穴が板面に設けられている。
【0029】
フレーム4bは、例えばステンレススチール製からなり、上下(X方向)に配設された2つの環状部材で構成されている。フレーム4bの各環状部材には、基板保持板4aのネジ穴と対応する位置にネジ穴が設けられている。基板保持板4aとフレーム4bは、例えばボルト及びナットからなる締結具4cを用いて固定される。
【0030】
なお、本実施形態では、回転ドラム4は、平板状の基板保持板4aを複数配置しているため横断面が多角形をした多角柱状をしているが、この多角柱状に限定されず、円筒状や円錐状であってもよい。
【0031】
本実施形態の回転ドラム4は、真空チャンバ2の内部と、扉を介して真空チャンバ2に接続されたロードロック室との間を移動できるように構成されている。すなわち、回転ドラム4は、真空チャンバ2の内部とロードロック室との間に設置されたレールに沿って、真空チャンバ2の内部とロードロック室との間を移動する。回転ドラム4は、円筒の筒方向(Z方向)の中心軸線Z1が真空チャンバ2の前後方向(Z方向)になるように真空チャンバ2の内部に配設される。
【0032】
本実施形態では、基板保持板4aをフレーム4bに取り付ける際やフレーム4bから取り外す際には、回転ドラム4はロードロック室に搬送されて、このロードロック室内で基板保持板4aがフレーム4bに着脱される。一方、成膜の際には、回転ドラム4は真空チャンバ2内部に搬送され、真空チャンバ2内で回転可能な状態とされる。
【0033】
回転ドラム4の後面中心部は、モータ回転軸40aの前面と係合する形状になっている。回転ドラム4とモータ回転軸40aとは、モータ回転軸40aの中心軸線と回転ドラム4の中心軸線Z1とが一致するよう位置決めされ、両者が係合することにより連結されている。回転ドラム4後面のモータ回転軸40aと係合する面は、絶縁部材で構成されている。これにより、基板Sの異常放電を防止することが可能となる。また、真空チャンバ2とモータ回転軸40aとの間は、Oリングで気密が保たれている。
【0034】
真空チャンバ2の内部の真空状態を維持した状態で、真空チャンバ2の後部に設けられたモータ40を駆動させることで、モータ回転軸40aが回転する。この回転に伴って、モータ回転軸40aに連結された回転ドラム4は軸線Z1を中心に回転する。各基板Sは回転ドラム4上に保持されているため、回転ドラム4が回転することで軸線Z1を公転軸として公転する。
【0035】
回転ドラム4の前面にはドラム回転軸42が設けられており、回転ドラム4の回転に伴ってドラム回転軸42も回転する。真空チャンバ2の前壁面(Z方向)には孔部が形成されており、ドラム回転軸42はこの孔部を貫通して真空チャンバ2の外部に通じている。孔部の内面には軸受が設けられており、回転ドラム4の回転をスムーズに行えるようにしている。真空チャンバ2とドラム回転軸42との間は、Oリングで気密が保たれている。
【0036】
《蒸着処理領域、蒸着手段》
図1に戻り、本実施形態では、真空チャンバ2の鉛直方向(X方向)の下方には、蒸着処理領域30Aが設けられている。蒸着処理領域30A(第1の領域)は、蒸着法により、基板Sの表面にフッ化物材料の薄膜を形成する領域である。フッ化物材料は、通常、酸化ケイ素(SiO)よりも屈折率の低い薄膜材料である。フッ化物材料としては、例えばフッ化マグネシウム(MgF)、CaF、LiF、Laなどが挙げられる。
【0037】
蒸着処理領域30Aの下方(真空チャンバ2の内底壁)には、蒸着手段30が設けられている。蒸着手段30は、本実施形態では電子ビーム蒸着源である場合を例示する。
【0038】
本実施形態の蒸着手段30は、フッ化物材料を含む蒸着原料を保持する坩堝32と、坩堝32に充填された蒸着原料に照射する電子ビームを発生させる電子銃34とを備えている。
【0039】
坩堝32には水冷可能に配管が施されている。坩堝32に充填された蒸着原料に電子ビームを照射することにより、蒸着原料を蒸発させることができるようになっている。
【0040】
電子銃34には電子銃電源35が接続されている。電子銃電源35によって電子銃34に電力を供給することで、電子銃34から電子ビームを発生させて、この電子ビームによって坩堝32に充填された蒸着原料が加熱される。
【0041】
本実施形態では、坩堝32の上方には、シャッタ36が移動可能に配置してあり、坩堝32内の蒸着原料が十分に加熱され、蒸着処理の準備が整った後に開放されるようになっている。
【0042】
蒸着処理領域30Aの下方には、排気用の配管23が接続されており、この配管23には蒸着処理領域30Aを排気するための真空ポンプ24(差動排気手段)が接続されている。真空ポンプ24とコントローラ(図示省略)によって蒸着処理領域30A内の真空度を調節することができるようになっている。
【0043】
蒸着処理領域30Aに相当する真空チャンバ2の測方(Z方向)には、扉3が設けられており、扉3はスライド又は回動することで開閉する。扉3の外側には、別途、ロードロック室が接続されていてもよい。
【0044】
本実施形態では、蒸着手段30として、抵抗過熱蒸発源や、高周波加熱蒸発源を用いたり、レーザービームを用いた蒸着源を用いることもできる。抵抗過熱蒸発源は、蒸着原料が充填されたヒータやボードに通電することで発生する電熱を利用して蒸着原料の蒸発を行う蒸着源である。高周波加熱蒸発源は、アルミナ等の坩堝に充填した蒸着原料を高周波コイルによる高周波誘導で加熱して蒸着原料の蒸発を行う蒸着源である。
【0045】
また、蒸着処理領域30A内にイオンビーム照射手段(図示省略)を設け、イオンビーム照射手段からイオンビームを、基板保持板4a(図2参照)に保持された基板Sに向けて照射しながら成膜を行うこともできる。イオンビーム照射手段としては、直流型、高周波型、マイクロ波型といった各種のイオン源を用いることができる。このようにイオンビーム照射手段を用いて成膜を行うことで、高いエネルギーをもつイオンの補助を行いながら蒸着を行うことができる。
【0046】
また、蒸着処理領域30Aの回転ドラム4手前付近に、膜厚補正板(図示省略)を配置してもよい。膜厚補正板は、板状の部材である。この膜厚補正板は、蒸着手段30から発生する原料蒸発物が、基板保持板4a(図2参照)に保持された基板Sに均一に、又は所望の分布で到達するようにするためのものであり、基板保持板4aと蒸着手段30との間に位置するように設置される。膜厚補正板の形状は、基板の配置や、基板保持板4aと蒸着手段30との相対的な位置や、形成させようとする薄膜の膜厚分布等に応じて種々の形状を採用することができる。
【0047】
《プラズマ処理領域、プラズマ発生手段》
本実施形態では、真空チャンバ2の鉛直方向(X方向)に配置される上内壁には、回転ドラム4へ面した位置に、仕切壁14が立設されている。仕切壁14は、例えば真空チャンバ2と同じ構成部材であるステンレススチールなどで構成される。仕切壁14は、上下左右に一つずつ配設された平板部材により構成されており、真空チャンバ2の上内壁面から回転ドラム4に向けて四方を囲んだ状態となっている。これにより、プラズマ処理領域60Aが真空チャンバ2の内部で区画される。すなわち、本実施形態では、回転ドラム4を挟んで、蒸着処理領域30Aとは反対の方向(真空チャンバ2の鉛直方向の上方。略180°の方向)に、蒸着処理領域30Aと空間的に分離された位置に、プラズマ処理領域60Aが設けられている。
【0048】
真空チャンバ2の上内壁は、外方(上方)に突出した横断面凸状をしており、突出した壁面には、プラズマ処理領域60Aに面するようにプラズマ発生手段60が設けられている。したがって、プラズマ処理領域60Aは、真空チャンバ2の内壁面と、仕切壁14と、回転ドラム4の外周面と、プラズマ発生手段60により囲繞された領域に形成されている。
【0049】
プラズマ処理領域60A(第2の領域)は、蒸着処理領域30Aでの蒸着手段30により基板Sに付着した蒸着原料の蒸発物をプラズマ処理し、緻密化させた薄膜を形成する領域である。これにより、基板S上に形成される蒸着膜の耐久性が向上する。具体的には、例えば膜硬度などを高めることができる。
【0050】
図3に示すように、プラズマ処理領域60Aに対応する真空チャンバ2の上壁面には、プラズマ発生手段60を設置するための開口2aが形成されている。また、プラズマ処理領域60Aには配管75aが接続されている。配管75aの一端にはマスフローコントローラ72が接続されており、このマスフローコントローラ72は更に酸素ガスボンベ71に接続されている。このため、プラズマ処理領域60A内に酸素ガスボンベ71から酸素ガスを供給することが可能となっている。
【0051】
本実施形態のプラズマ発生手段60(プラズマ処理手段)は、ケース体61と、誘電体板62と、アンテナ63と、マッチングボックス64と、高周波電源65とを備える。
【0052】
ケース体61は、真空チャンバ2の壁面に形成された開口2aを塞ぐ形状を備え、ボルトで真空チャンバ2の開口2aを塞ぐように固定されている。ケース体61が真空チャンバ2の壁面に固定されることで、プラズマ発生手段60は真空チャンバ2の壁面に取り付けられている。本実施形態において、ケース体61はステンレスで形成されている。
【0053】
誘電体板62は、板状の誘電体で形成されている。本実施形態において、誘電体板62は石英で形成されているが、誘電体板62の材質としてはこのような石英だけではなく、Al等のセラミックス材料で形成されたものでもよい。誘電体板62は、固定枠でケース体61に固定されている。誘電体板62がケース体61に固定されることで、ケース体61と誘電体板62によって囲繞された領域にアンテナ収容室61Aが形成される。
【0054】
ケース体61に固定された誘電体板62は、開口2aを介して真空チャンバ2の内部(プラズマ処理領域60A)に臨んで設けられている。このとき、アンテナ収容室61Aは、真空チャンバ2の内部と分離している。すなわち、アンテナ収容室61Aと真空チャンバ2の内部とは、誘電体板62で仕切られた状態で独立した空間を形成している。また、アンテナ収容室61Aと真空チャンバ2の外部は、ケース体61で仕切られた状態で独立の空間を形成している。本実施形態では、このように独立の空間として形成されたアンテナ収容室61Aの中に、アンテナ63が設置されている。なお、アンテナ収容室61Aと真空チャンバ2の内部、アンテナ収容室61Aと真空チャンバ2の外部との間は、それぞれOリングで気密が保たれている。
【0055】
本実施形態では、配管16a−1から配管16a−2が分岐している。この配管16a−2はアンテナ収容室61Aに接続されており、アンテナ収容室61Aの内部を排気して真空状態にする際の排気管としての役割を備えている。
【0056】
配管16a−1には、真空ポンプ15a(差動排気手段)から真空チャンバ2の内部に連通する位置にバルブV1、V2が設けられている。また、配管16a−2には、真空ポンプ15aからアンテナ収容室61Aの内部に連通する位置にバルブV3が設けられている。バルブV2,V3のいずれかを閉じることで、アンテナ収容室61Aの内部と真空チャンバ2の内部との間での気体の移動は阻止される。真空チャンバ2の内部の圧力や、アンテナ収容室61Aの内部の圧力は、真空計で測定される。
【0057】
本実施形態では、成膜装置1(図1参照)に制御装置を備えている。この制御装置には、真空計の出力が入力される。制御装置は、入力された真空計の測定値に基づいて、真空ポンプ15aによる排気を制御して、真空チャンバ2の内部やアンテナ収容室61Aの内部の真空度を調整する機能を備える。本実施形態では、制御装置がバルブV1,V2,V3の開閉を制御することで、真空チャンバ2の内部とアンテナ収容室61Aの内部を同時に、又は独立して排気できる。
【0058】
本実施形態では、真空ポンプ15aを適切に制御することで、成膜領域での成膜雰囲気を安定化することができる。
【0059】
アンテナ63は、高周波電源65から電力の供給を受けて真空チャンバ2の内部(プラズマ処理領域60A)に誘導電界を発生させ、プラズマ処理領域60Aにプラズマを発生させる手段である。アンテナ63は、銅で形成された円管状の本体部と、本体部の表面を被覆する銀で形成された被覆層を備えている。すなわち、アンテナ63の本体部を安価で加工が容易な、しかも電気抵抗も低い銅で円管状に形成し、アンテナ63の表面を銅よりも電気抵抗の低い銀で被覆している。これにより、高周波に対するアンテナ63のインピーダンスを低減して、アンテナ63に電流を効率よく流すことによりプラズマを発生させる効率を高めている。
【0060】
本実施形態の成膜装置1(図1参照)では、高周波電源65からアンテナ63に周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、プラズマ処理領域60Aに反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。
【0061】
アンテナ63は、マッチング回路を収容するマッチングボックス64を介して高周波電源65に接続されている。マッチングボックス64内には、図示しない可変コンデンサが設けられている。
【0062】
アンテナ63は、導線部を介してマッチングボックス64に接続されている。導線部はアンテナ63と同様の素材からなる。ケース体61には、導線部を挿通するための挿通孔が形成されており、アンテナ収容室61A内側のアンテナ63と、アンテナ収容室61A外側のマッチングボックス64とは、挿通孔に挿通される導線部を介して接続される。導線部と挿通孔との間にはシール部材が設けられ、アンテナ収容室61Aの内外で気密が保たれる。
【0063】
アンテナ63と回転ドラム4との間には、イオン消滅手段としてのグリッド66が設けられていてもよい。グリッド66は、アンテナ63で発生したイオンの一部や電子の一部を消滅させるためのものである。グリッド66は、導電体からなる中空部材であり、アースされている。中空部材からなるグリッド66の内部に冷却媒(例えば冷却水)を流すために、グリッド66の端部には冷却媒を供給するホースが接続されている。
【0064】
また、プラズマ処理領域60Aの内部及びその周辺には、反応性ガス供給手段70が設けられている。本実施形態の反応性ガス供給手段70は、反応性ガスとしての酸素ガスを貯蔵する酸素ガスボンベ71と、酸素ガスボンベ71より供給される酸素ガスの流量を調整するマスフローコントローラ72と、酸素ガスをプラズマ処理領域60Aに導入する配管75aとを備えている。なお、反応性ガスは、酸素ガスに限定されず、窒素ガス、フッ素ガス、オゾンガスなどであってもよい。
【0065】
図1及び図2に戻り、本実施形態では、モータ40によって回転ドラム4が回転すると、回転ドラム4の外周面に保持された基板Sが公転して、蒸着処理領域30Aに面する位置とプラズマ処理領域60Aに面する位置との間を繰り返し移動することになる。そして、このように基板Sが公転することで、蒸着処理領域30Aでの蒸着処理と、プラズマ処理領域60Aでのプラズマ処理とが順次繰り返し行われて、基板Sの表面に薄膜が形成される。
【0066】
特に、酸素ガスボンベ71から配管75aを通じて酸素ガスがプラズマ処理領域60Aに導入された状態で、アンテナ63に高周波電源65から電力が供給されると、プラズマ処理領域60A内のアンテナ63に面した領域にプラズマが発生し、基板Sの表面に形成された蒸着膜が緻密化されて十分な特性を持つ薄膜となる。
【0067】
本実施形態では、真空チャンバ2の鉛直方向(X方向)に沿った回転ドラム4の上端からプラズマ処理手段60までの距離をD1とし、真空チャンバ2の鉛直方向(X方向)に沿った回転ドラム4の下端から蒸着手段30までの距離をD2としたとき、D2はD1の4倍以上となるように、プラズマ処理手段60と蒸着手段30を配置することが好ましい。このように配置することにより、プラズマ処理手段60が蒸着物質により汚染されないようにすることができる。
【0068】
《成膜方法》
次に、成膜装置1を用いた本実施形態の成膜方法の一例を説明する。
【0069】
本実施形態では、基板Sの上に、MgFの薄膜を形成する場合を例示する。
【0070】
(1)図1〜図3に示すように、まず、真空チャンバ2の外で回転ドラム4に基板Sをセットし、真空チャンバ2のロードロック室内に収容する。その後、レールに沿って回転ドラム4を真空チャンバ2の内部に移動させる。これととともに、坩堝32に蒸着原料を充填して加熱する。そして、真空チャンバ2内を密閉し、真空ポンプ15aを用いて真空チャンバ2内を、例えば約1×10−3Pa以下程度にまで減圧する。このとき、基板Sを加熱することを要しない(室温)。ただし、例えば220℃以下程度、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下であって、好ましくは50℃以上程度の低温であれば、基板Sを加熱してもよい。
【0071】
基板Sとしては、耐熱温度が高いガラス材料を用いることができるが、本実施形態では耐熱温度が低いプラスチック材料も用いることができる。本実施形態では基板Sを加熱することを要しないからである。
【0072】
ガラス材料とは、酸化ケイ素(SiO)で形成された材料であり、具体的には、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。
【0073】
プラスチック材料としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート−ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリカーボネート−ポリブチレンテレフタレート共重合体、アクリル(PMMAも含む)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選択される樹脂材料、またはこれらの材料とガラス繊維及び/又はカーボン繊維との混合物などが挙げられる。
【0074】
基板Sの形状は、円板状に限らず、表面に薄膜を形成できる他の形状、例えばレンズ形状、円筒状、円環状といった形状であってもよい。
【0075】
本実施形態では、蒸着原料として、フッ化マグネシウム(MgF)を用いる。ただし、これに限定されないことは勿論である。
【0076】
(2)次に、真空チャンバ2の後部に設けられたモータ40を駆動させることにより回転ドラム4の回転を開始させる(第1の工程)。
【0077】
回転ドラム4の回転速度(RS)は、例えば25rpm以上、好ましくは30rpm以上、より好ましくは50rpm以上で選択される。RSの値を小さくしすぎると、1枚の基板Sに対する蒸着処理時間が長くなり、その結果、基板Sに形成される薄膜の膜厚が厚くなって、プラズマ処理領域60Aでのプラズマ処理を十分に行うことができない傾向がある。これに対し、RSの値を大きく過ぎると、1枚の基板Sに対する蒸着処理時間が短くなり、各基板S上に堆積する粒子数が少なくなって薄膜の膜厚が薄くなり過ぎ、作業効率に影響を与えるおそれもある。このため、RSの上限は、好ましくは250rpm、より好ましくは200rpm、さらに好ましくは100rpmである。
【0078】
(3)次に、電子銃電源35によって電子銃34に対する電力供給を開始する。このとき、シャッタ36が開放されると、加熱された蒸着原料の蒸発物は、蒸着処理領域30Aに拡散し、その一部が、回転中の基板保持板4aに保持された基板Sに付着し、所定厚みの膜形成が行われる(第2の工程)。本実施形態では、蒸着時の成膜レートは、例えば0.1nm/秒以上、好ましくは0.2〜0.4nm/秒である。
【0079】
(4)次に、蒸着処理を行った後には、回転ドラム4の回転駆動によって回転ドラム4の外周面に保持された基板Sを、蒸着処理領域30Aに面する領域からプラズマ処理領域60Aに面する領域に移動させる。プラズマ処理領域60Aに面する領域に基板を移動させるには、本実施形態では、回転ドラム4を軸線Z1の回りに回転させることにより行う。
【0080】
本実施形態では、プラズマ処理領域60Aで、蒸着処理されたフッ化マグネシウムの蒸発物の緻密化を行う。
【0081】
プラズマ処理領域60Aには、酸素ガスボンベ71から配管75aを通じて酸素ガスを導入するとともに、この状態でアンテナ63に高周波電源65から電力を供給し、プラズマ処理領域60A内のアンテナ63に面した領域にプラズマを発生させる。なお、プラズマ処理領域60Aの圧力は、0.07〜1Paに維持する。プラズマ中には、酸素ガスの活性種が存在し、この酸素ガスの活性種は、プラズマ処理領域60Aに導かれる。
【0082】
そして、回転ドラム4が回転して、フッ化マグネシウムの蒸着物が付着した基板Sが、プラズマ処理領域60Aに面する領域に導入されると、プラズマ処理領域60Aでは、蒸着処理されたフッ化マグネシウム蒸発物を緻密化させる工程を行う(第3の工程)。すなわち、フッ化マグネシウムの蒸着物を酸素ガスの活性種に接触させて、膜の緻密化を行う。
【0083】
(5)以上のように、基板Sが公転することで、蒸着処理領域30Aでの蒸着処理と、プラズマ処理領域60Aでのプラズマ処理とが順次繰り返されることにより、基板Sの表面にフッ化マグネシウム(MgF)からなる薄膜が所定厚みで形成される(第4の工程)。
【0084】
成膜装置1を用いた本実施形態の成膜方法によれば、蒸着処理領域30Aとプラズマ処理領域60Aの間で基板Sを繰り返し移動させながら、基板Sに対して蒸着原料の蒸発物であるフッ化マグネシウムの付着とプラズマ処理による緻密化を繰り返すので、基板S上に形成される膜中でのフッ素原子の解離を十分に防止することができる。その結果、十分な硬度(引いては耐久性)を備えたMgF薄膜を効率的に基板S上に形成することができる。
【0085】
《第2実施形態》
本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0086】
《成膜装置》
図4に示すように、本実施形態に係る成膜装置1aは、第1実施形態の成膜装置1(図1参照)の構成要素の他に、スパッタ手段80と、スパッタガス供給手段90とをさらに備えている。図中では、プラズマ発生手段60と同様にスパッタ手段80も破線で、反応性ガス供給手段70と同様にスパッタガス供給手段90も一点鎖線で表示している。
【0087】
《スパッタ領域、スパッタ手段》
本実施形態では、真空チャンバ2の鉛直方向(X方向)の測方には、回転ドラム4へ面した位置に仕切壁12が立設されている。仕切壁12は、真空チャンバ2と同じステンレススチール製の部材である。仕切壁12は、上下左右に一つずつ配設された平板部材により構成されており、真空チャンバ2の内壁面から回転ドラム4に向けて四方を囲んだ状態となっている。これにより、スパッタ領域80Aが真空チャンバ2の内部で区画される。
【0088】
真空チャンバ2の側壁は、外方に突出した横断面凸状をしており、突出した壁面にはスパッタ手段80(第1のスパッタ手段、第2のスパッタ手段)が設けられている。
【0089】
スパッタ領域80A(第3の領域)は、真空チャンバ2の内壁面と、仕切壁12と、回転ドラム4の外周面と、スパッタ手段80(第1のスパッタ手段)により囲繞された領域に形成されている。スパッタ領域80Aでは、基板Sの表面に膜原料物質を付着させるスパッタ処理が行われる。
【0090】
スパッタ領域80Bは、スパッタ領域80Aから回転ドラム4の回転軸を中心として180°離間した位置に、スパッタ領域80Aと同様の構成で配置されている。本実施形態では、回転ドラム4を挟んで、スパッタ領域80Aとは反対の方向(真空チャンバ2のY方向。略180°の方向)に、スパッタ領域80Aと空間的に分離された位置に、スパッタ領域80Bが設けられている。すなわち、本実施形態では、蒸着処理領域30A、プラズマ処理領域60A及びスパッタ領域80A,80Bは何れも、回転ドラム4を挟んで、互いに空間的に分離された位置に配置されている。
【0091】
モータ40(図2参照)によって回転ドラム4が回転すると、回転ドラム4の外周面に保持された基板Sが公転して、スパッタ領域80Aに面する位置とプラズマ処理領域60Aに面する位置との間を繰り返し移動することになる。そして、このように基板Sが公転することで、スパッタ領域80Aでのスパッタ処理と、プラズマ処理領域60Aでのプラズマ処理とが順次繰り返し行われて、基板Sの表面に薄膜が形成される。
【0092】
以下では、スパッタ領域80Aについて説明し、これと同様の構成のスパッタ領域20Bの説明を省略する。
【0093】
図5に示すように、スパッタ手段80(第1のスパッタ手段)は、一対のターゲット82a,82bと、ターゲット82a,82bを保持する一対のスパッタ電極81a,81bと、スパッタ電極81a,81bに電力を供給する交流電源84と、交流電源84からの電力量を調整する電力制御手段としてのトランス83により構成される。
【0094】
真空チャンバ2の壁面は外方に突出しており、この突出部の内壁にスパッタ電極81a,81bが側壁を貫通した状態で配設されている。このスパッタ電極81a,81bは、接地電位にある真空チャンバ2に絶縁部材を介して固定されている。
【0095】
本実施形態のターゲット82a,82bは、膜原料物質を平板状に形成したものであり、後述するように回転ドラム4の側面に対向するようにスパッタ電極81a,81bにそれぞれ保持される。本実施形態では、ターゲット82a,82bとして、低屈折率物質としてのケイ素(Si)、中屈折率物質としてのアルミニウム(Al)、高屈折率物質としてのチタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)などが用いられる。本実施形態では、Zrターゲットを用いる場合を例示する。
【0096】
スパッタ電極81a,81bは、複数の磁石が所定の方向に配置された構造を有している。スパッタ電極81a,81bは、トランス83を介して交流電源84に接続され、両電極に1k〜100kHzの交番電界が印加できるように構成されている。スパッタ電極81a,81bには、ターゲット82a,82bがそれぞれ保持されている。ターゲット82a,82bの形状は平板状であり、図2に示されるように、ターゲット82a,82bの長手方向が回転ドラム4の回転軸線Z1と平行になるように設置されている。
【0097】
スパッタ領域80Aの周辺にはアルゴン等のスパッタガスを供給するスパッタガス供給手段90が設けられている。スパッタガス供給手段90は、スパッタガス貯蔵手段としてのスパッタガスボンベ92と、スパッタガス供給路としての配管95a及び配管95cと、スパッタガスの流量を調整するスパッタガス流量調整手段としてのマスフローコントローラ91とを備えている。
【0098】
スパッタガスとしては、例えばアルゴンやヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。
【0099】
スパッタガスボンベ92とマスフローコントローラ91は、いずれも真空チャンバ2の外部に設けられている。マスフローコントローラ91は、スパッタガスを貯蔵する単一のスパッタガスボンベ92に配管95cを介して接続されている。マスフローコントローラ91は、配管95aに接続されており、配管95aの一端は真空チャンバ2の側壁を貫通してスパッタ領域80A内のターゲット82a,82bの近傍に延びている。
【0100】
配管95aの先端部は、ターゲット82a,82bの下部中心付近に配設され、その先端にはターゲット82a,82bの前面中心方向に向けて導入口95bが開口している。
【0101】
マスフローコントローラ91は、ガスの流量を調節する装置であり、スパッタガスボンベ92からのガスが流入する流入口と、スパッタガスを配管95aへ流出させる流出口と、ガスの質量流量を検出するセンサと、ガスの流量を調整するコントロールバルブと、流入口より流入したガスの質量流量を検出するセンサと、センサにより検出された流量に基づいてコントロールバルブの制御を行う電子回路とを備えている。電子回路には、外部から所望の流量を設定することが可能となっている。
【0102】
スパッタガスボンベ92からのスパッタガスは、マスフローコントローラ91により流量を調節されて配管95a内に導入される。配管95aに流入したスパッタガスは、導入口95bよりスパッタ領域80Aに配置されたターゲット82a,82bの前面に導入される。
【0103】
スパッタ領域80Aにスパッタガス供給手段90からスパッタガスが供給されて、ターゲット82a,82bの周辺が不活性ガス雰囲気になった状態で、スパッタ電極81a,81bに交流電源84から交番電極が印加されると、ターゲット82a,82b周辺のスパッタガスの一部は電子を放出してイオン化する。スパッタ電極81a,81bに配置された磁石によりターゲット82a,82bの表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子はターゲット82a,82bの表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマに向けてスパッタガスのイオンが加速され、ターゲット82a,82bに衝突することでターゲット82a,82bの表面の原子や粒子(ターゲット82a,82bがジルコニウムの場合はジルコニウム原子やジルコニウム粒子)が叩き出される。このジルコニウム原子やジルコニウム粒子は薄膜の原料である膜原料物質であり、基板Sの表面に付着して超薄膜が形成される。
【0104】
《プラズマ処理領域》
本実施形態のプラズマ処理領域60Aでは、上述した第1実施形態の機能に加えて、スパッタ領域80Aで基板Sの表面に付着した超薄膜を反応処理して、膜原料物質の化合物又は不完全化合物からなる薄膜の形成を行う。
【0105】
図3に示すように、酸素ガスボンベ71から配管75aを通じて酸素ガスがプラズマ処理領域60Aに導入された状態で、アンテナ63に高周波電源65から電力が供給されると、プラズマ処理領域60A内のアンテナ63に面した領域にプラズマが発生し、基板Sの表面に形成された膜原料物質からなる超薄膜が反応処理されて膜原料物質の酸化物又は不完全酸化物となる。具体的には、反応性ガス供給手段70から酸素ガスが導入され、膜原料物質であるジルコニウム(Zr)が酸化されてジルコニウムの完全酸化物である酸化ジルコニウム(ZrO)又は不完全酸化物(ZrOx(ここで、0<x<2))が生成する。
【0106】
《成膜方法》
次に、成膜装置1aを用いた本実施形態の成膜方法の一例を説明する。
【0107】
本実施形態では、2つのスパッタ領域80A,20Bのうち、一方のスパッタ領域80Aのみを作動させて、基板Sの上に酸化ジルコニウム(ZrO)の薄膜を形成し、次に、ZrOの薄膜の上に、フッ化マグネシウム(MgF)の薄膜を形成する場合を例示する。
【0108】
《スパッタリング》
(1)まず、第1実施形態の(1)と同様に、真空チャンバ2の外で回転ドラム4に基板Sをセットして真空チャンバ2のロードロック室内に収容した後、レールに沿って回転ドラム4を真空チャンバ2の内部に移動させる。これととともに、スパッタ領域80Aにおけるターゲット82a,82bを各スパッタ電極81a,81bに保持させる。そして、真空チャンバ2内を密閉し、真空ポンプ15aを用いて真空チャンバ2内を、例えば約5×10−4Pa以下程度にまで減圧する。
【0109】
基板Sとしては、ガラス材料やプラスチック材料が用いられる。ターゲット82a,82bを構成する材料としては、本実施形態ではジルコニウム(Zr)が用いられる。
【0110】
(2)次に、第1実施形態の(2)と同様に、真空チャンバ2の後部に設けられたモータ40を駆動させることにより回転ドラム4の回転を開始させる(第1の工程)。
【0111】
回転ドラム4の回転速度(RS)は、例えば25rpm以上、好ましくは30rpm以上、より好ましくは50rpm以上で選択される。RSの値を小さくしすぎると、1枚の基板Sに対するスパッタ時間が長くなり、その結果、基板Sに形成される薄膜の膜厚が厚くなって、プラズマ処理領域60Aでのプラズマ処理を十分に行うことができない傾向がある。これに対し、RSの値を大きく過ぎると、1枚の基板Sに対するスパッタ時間が短くなり、各基板S上に堆積する粒子数が少なくなって薄膜の膜厚が薄くなり過ぎ、作業効率に影響を与えるおそれもある。このため、RSの上限は、好ましくは250rpm、より好ましくは200rpm、さらに好ましくは100rpmである。
【0112】
(3)次に、スパッタ領域80A内にスパッタガス供給手段90からアルゴンガスを導入した状態で、交流電源84からスパッタ電極81a,81bに電力を供給して、ターゲット82a,82bをスパッタする。アルゴンガスの流量は、250〜1000sccm程度の範囲内で適切な流量を設定する。この状態で、回転ドラム4を回転させて基板Sをスパッタ領域80Aに搬送し、基板Sの表面に膜原料物質であるジルコニウム(Zr)の堆積物(超薄膜)を形成する(第2の工程)。このとき、基板Sを加熱することを要しない(室温)。ただし、例えば220℃以下程度、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下であって、好ましくは50℃以上程度の低温であれば、基板Sを加熱してもよい。
【0113】
なお、回転ドラム4とターゲット82a,82bとの間に移動式又は回転式の遮蔽板を設けて、第2の工程の開始及び停止を行ってもよい。この場合、第2の工程の開始前は、遮蔽板の位置を、ターゲット82a,82bから移動する膜原料物質が基板Sに到着しない遮断位置に配置し、第2の工程の開始時に、ターゲット82a,82bから移動する膜原料物質が基板Sに到着する非遮断位置に移動させる。
【0114】
(4)次に、プラズマ処理領域60Aの内部に反応性ガス供給手段70から酸素ガスを導入した状態で、高周波電源65からアンテナ63に交流電圧を印加して、プラズマ処理領域60Aの内部に酸素ガスのプラズマを発生させる。この状態で、回転ドラム4を回転させ、基板Sをプラズマ処理領域60Aに搬送する。プラズマ処理領域60Aの内部では、酸素ガスのプラズマが発生しているため、基板Sの表面に付着した膜原料物質のジルコニウム(Zr)は、この酸素ガスと反応して中間薄膜である酸化ジルコニウム(ZrO)となる(第3の工程)。第2の工程と同様に、第3の工程でも基板Sを加熱することを要しない(室温)。ただし、例えば220℃以下程度、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下であって、好ましくは50℃以上程度の低温であれば、基板Sを加熱してもよい。
【0115】
第3の工程の時間は、例えば1〜60分程度の範囲内で適切な時間とする。酸素ガスの流量についても同様に、70〜500sccm程度、高周波電源65から供給される電力も、1.0〜5.0kWの範囲内で適宜決定する。プラズマ処理領域60Aに導入される酸素ガスの圧力(成膜圧力)は、0.3〜0.6Pa程度が好ましい。酸素ガスの流量はマスフローコントローラ72で、高周波電源65から供給される電力はマッチングボックス64で、それぞれ調整することができる。なお、「sccm」は、0℃、101325Paにおける1分間あたりの流量を表すもので、cm/minに等しい。
【0116】
本実施形態では、回転ドラム4を連続して回転させて、第2の工程と第3の工程を順次繰り返すことで中間薄膜を複数積層し、所望の厚さのZrO薄膜を形成する(第4の工程)。
【0117】
《蒸着》
(5)次に、スパッタ領域80Aとプラズマ処理領域60Aの作動を停止した後、蒸着プロセス領域30Aを作動させる。具体的には、坩堝32に蒸着原料を充填して加熱する。そして、真空チャンバ2内を密閉し、真空ポンプ15aを用いて真空チャンバ2内を、例えば約5×10−4Pa以下程度にまで減圧する。
【0118】
本実施形態では、蒸着原料として、MgFを用いる。ただし、これに限定されないことは勿論である。
【0119】
(6)次に、上記(2)と同様に、真空チャンバ2の後部に設けられたモータ40を駆動させることにより回転ドラム4の回転を開始させる。
【0120】
回転ドラム4の回転速度(RS)は、上記(2)と同様の条件で回転させる。
【0121】
(7)次に、第1実施形態の(3)と同様に、真空チャンバ2の内部が所定圧力で安定したらマスフローコントローラ27を制御して、ガスボンベ26から所定流量で必要なガスを真空チャンバ2の内部(蒸着処理領域30A)に導入する。
【0122】
(8)次に、第1実施形態の(4)と同様に、電子銃電源35によって電子銃34に対する電力供給を開始し、シャッタ36が開放されると、加熱された蒸着原料の蒸発物は、蒸着プロセス領域30Aに拡散し、その一部が、回転中の基板保持板4aに保持された基板Sに形成されたZrO薄膜の上に付着し、所定厚みの膜形成が行われる(第5の工程)。本実施形態では、蒸着時の成膜レートは、例えば0.1nm/秒以上、好ましくは0.2〜0.4nm/秒である。
【0123】
(9)次に、第1実施形態の(5)と同様に、回転ドラム4の回転駆動によって回転ドラム4の外周面に保持された基板Sを、蒸着処理領域30Aに面する領域からプラズマ処理領域60Aに面する領域に移動させ、ここで蒸着処理されたフッ化マグネシウムの緻密化を行う(第6の工程)。
【0124】
本実施形態では、回転ドラム4を連続して回転させて、第5の工程と第6の工程を順次繰り返すことで、基板Sに形成されたZrO薄膜の上に所望厚さのMgF薄膜を形成する(第7の工程)。
【0125】
高屈折率物質としてのZrOは、約250℃を超えると柱状組織となって白濁し、光学特性が低下する傾向にある。このため、基板を300℃近くにまで加熱することがある抵抗加熱や電子銃を用いた蒸着法では、光学特性を低下させることなしに、基板上にZrO薄膜を形成することは困難である。従って、基板上にZrO薄膜を形成するには、基板温度を低温に保持しても成膜が可能なスパッタリング法が適していると考えられる。
【0126】
一方、MgF薄膜は、低屈折物質として知られており、上述したように反射防止膜として有用であるが、スパッタリング法を用いてMgF薄膜を成膜すると、成膜速度が厚み換算で非常に低く(例えば0.01nm/秒程度以下)、しかも成膜後のMgF薄膜中でFが著しく欠損し、十分な硬度を得ることができない。従って、基板上にMgF薄膜を形成するには、基板温度を300℃近くにまで加熱し、十分な特性(硬度)を得ることが可能な蒸着法が適していると考えられる。
【0127】
通常、反射防止材料は、基板上に高屈折率材料からなる薄膜を形成し、この上に低屈折率材料からなる薄膜を形成することにより構成される。従って、基板上にZrO薄膜とMgF薄膜を形成するには、基板上に、まずスパッタリング法で基板上にZrO薄膜を形成した後、基板に形成されたZrO薄膜の上に蒸着法でMgF薄膜を形成することになる。
【0128】
しかしながら、上述したように、高屈折率物質としてのZrOは約250℃を超えると柱状組織となって白濁し、光学特性が低下する傾向にあるので、基板上にスパッタリング法でZrO薄膜を形成した後、このZrO薄膜の上に、十分な特性を持つMgF薄膜を形成することは困難である。なぜならば、十分な特性を備えたMgF薄膜を形成するには、基板温度を300℃近くにまで加熱する必要があり、このように基板を加熱して基板温度が250℃を超えたところでZrO薄膜は柱状組織となって白濁し、光学特性(例えば透過率や反射率など)が低下するからである。
【0129】
すなわち、従来の手法では、十分な特性(光学特性も含む)を持つZrO薄膜とMgF薄膜を基板上に形成することはできなかった。
【0130】
これに対し、成膜装置1aを用いた本実施形態の成膜方法によれば、上述したように、スパッタ処理及びプラズマ処理(第2の工程〜第4の工程)と、蒸着処理及びプラズマ処理(第5の工程から第7の工程)とのいずれも、基板Sを加熱することを要しない。従って、単一の装置で、十分な特性(光学特性も含む)を持つZrO薄膜とMgF薄膜を基板S上に形成することができる。すなわち、基板S上にZrO薄膜とMgF薄膜とを共存させることが可能となる。
【0131】
なお、本実施形態では、基板S上に、ZrO薄膜とMgF薄膜の2層を形成する場合を例示しているが、ZrO薄膜とMgF薄膜の間に、酸化ケイ素(SiO)薄膜を形成させることもできる。この場合、スパッタ領域20Bに設置されるスパッタ手段80(第2のスパッタ手段)のターゲット82a,82bを構成する材料としてケイ素(Si)を用いればよい。さらにこの場合、基板S上に、ZrO薄膜とSiO薄膜を交互に各2層づつ形成し、3層目のZrO薄膜を形成した後、最後に、MgF薄膜を形成した6層構造、あるいはそれ以上の多層構造とすることもできる。
【0132】
なお、スパッタ領域80A,80Bにおけるターゲット82a,82bを構成する材料として、ジルコニウム(Zr)とケイ素(Si)に限定されず、それ以外に、例えばニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、テルル(Te)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、ニッケル・クロム(Ni−Cr)、インジウム・スズ(In−Sn)などの各種金属を用いることができる。また、単一種類の金属に限られるものではなく、複数種類の金属をターゲットとして使用してもよい。また、これらの金属の化合物、例えば、Al、TiO、ZrO、Ta、HfO等を用いることもできる。
【実施例】
【0133】
次に、発明の実施の形態をより具体化した実施例を挙げ、発明をさらに詳細に説明する。
【0134】
《実験例1》
(1)本例では、マグネトロンスパッタを行う構成の図4及び図5に示す成膜装置1aを準備した。回転ドラム4としては、断面が円形(直径=900mm)の中空円筒体を用い、この回転ドラム4の外周に基板Sを保持させ、ターゲット82a,82bを各スパッタ電極81a,81bに保持させた後、真空槽4内を0.1Paに減圧した。基板Sとしては、形状が凸状で、寸法がφ50で、材質がガラスのものを用いた。こうした基板Sを回転ドラム4の外周に、6個(鉛直方向)×6列(周方向)で配置した。スパッタ領域80Aにおけるターゲット82a,82bとしては、縦670mm×横150mm×厚み6mmの平板状で、材質がZrのターゲットを用い、スパッタ領域20Bにおけるターゲット82a,82bとしては、同じ寸法で同じ形状の、材質がSiのターゲットを用いた。蒸着原料としては、MgFを用いた。
【0135】
(2)次に、真空チャンバ2の後部に設けられたモータ40を駆動させることにより回転ドラム4の回転を開始させた。回転ドラム4の回転速度(RS)は、100rpmとした。
【0136】
(3)次に、真空チャンバ2内の圧力が安定した後に、スパッタ領域80A内の圧力を0.2Paに調整した。次に、スパッタ領域80A内にスパッタガス供給手段90からアルゴンガスを200sccm程度の流量で導入し、この状態で、交流電源84からスパッタ電極81a,81bに電力を供給して、ターゲット82a,82bをスパッタした(スパッタ条件は、投入電力:2kW、基板温度:室温)。この状態で、回転ドラム4を回転させて基板Sをスパッタ領域80Aに搬送し、基板Sの表面に膜原料物質であるジルコニウム(Zr)を堆積させた。スパッタ時の成膜レートは、0.35nm/秒であった。
【0137】
(4)次に、プラズマ処理領域60Aの内部に反応性ガス供給手段70から酸素ガスを100sccm程度の流量で導入し、この状態で、高周波電源65からアンテナ63に周波数13.56MHzの交流電圧を印加して、プラズマ処理領域60Aの内部に酸素ガスのプラズマを発生させた(投入電力:1.5kW)。この状態で、回転ドラム4を回転させ、基板Sをプラズマ処理領域60Aに搬送した。プラズマ処理領域60Aの内部では、酸素ガスのプラズマが発生しているため、基板Sの表面に付着した膜原料物質のジルコニウム(Zr)は、この酸素ガスと反応して中間薄膜である酸化ジルコニウム(ZrO)に変換させた。
【0138】
本例では、回転ドラム4を連続して回転させて、(3)と(4)を繰り返すことで基板S上に厚さ12nmのZrO薄膜を形成した。
【0139】
(5)次に、スパッタ領域80A内の作動を停止し、スパッタ領域20B内の圧力を0.2Paに調整した。次に、スパッタ領域20B内にスパッタガス供給手段90からアルゴンガスを200sccm程度の流量で導入し、この状態で、交流電源84からスパッタ電極81a,81bに電力を供給して、ターゲット82a,82bをスパッタした(スパッタ条件は、投入電力:3kW、基板温度:室温)。この状態で、回転ドラム4を回転させて基板Sをスパッタ領域20Bに搬送し、基板S→ZrO薄膜と形成されたZrO薄膜の表面に膜原料物質であるケイ素(Si)を堆積させた。スパッタ時の成膜レートは、0.37nm/秒であった。
【0140】
(6)次に、回転ドラム4を回転させ、基板Sをプラズマ処理領域60Aに搬送し、基板Sの表面に付着した膜原料物質のケイ素(Si)を酸素ガスと反応させて酸化ケイ素(SiO)に変換させた。
【0141】
本例では、回転ドラム4を連続して回転させて、(5)と(6)を繰り返すことで、基板S→ZrO薄膜と形成されたZrO薄膜の表面に、厚さ46nmのSiO薄膜を形成した。
【0142】
(7)次に、スパッタ領域20B内の作動を停止し、(3)と(4)を繰り返すことで、基板S→ZrO薄膜→SiO薄膜と形成されたSiO薄膜の表面に、厚さ38nmのZrO薄膜を形成した。
【0143】
(8)次に、(5)と(6)を繰り返すことで、基板S→ZrO薄膜→SiO薄膜→ZrO薄膜と形成されたZrO薄膜の表面に、厚さ35nmのSiO薄膜を形成した。
【0144】
(9)次に、スパッタ領域20B内の作動を停止し、(3)と(4)を繰り返すことで、基板S→ZrO薄膜→SiO薄膜→ZrO薄膜→SiO薄膜と形成されたSiO薄膜の表面に、厚さ34nmのZrO薄膜を形成した。
【0145】
(10)次に、スパッタ領域80Aとプラズマ処理領域60Aの作動を停止した後、蒸着プロセス領域30Aを作動させた。具体的には、坩堝32に蒸着原料としてのMgFを充填し、電子ビームにて加熱し、真空チャンバ2内を密閉し、真空ポンプ15aを用いて真空チャンバ2内を約1×10−3Pa程度にまで減圧した。
【0146】
(11)次に、上記(2)と同様に、モータ40を駆動させることにより回転ドラム4の回転を開始させた。回転ドラム4の回転速度(RS)は、上記(2)と同様の条件で回転させた。
【0147】
(12)次に、真空チャンバ2の内部が所定圧力で安定したらマスフローコントローラ27を制御して、ガスボンベ26から酸素を50sccm程度の流量で導入した。
【0148】
(13)次に、電子銃電源35によって電子銃34に対する電力供給を開始し、その後、シャッタ36を開放して、蒸着原料の蒸発物を蒸着プロセス領域30Aに拡散させ、その一部を、基板Sの最外に形成されたZrO薄膜の上に付着させた。蒸着時の成膜レートは、0.15nm/秒であった。
【0149】
(14)次に、回転ドラム4の回転駆動によって回転ドラム4の外周面に保持された基板Sを、蒸着処理領域30Aからプラズマ処理領域60Aに移動させ、ここで蒸着処理されたフッ化マグネシウムの緻密化を行った。
【0150】
本例では、回転ドラム4を連続して回転させて、(10)〜(13)と(14)を繰り返すことで、基板S→ZrO薄膜→SiO薄膜→ZrO薄膜→SiO薄膜→ZrO薄膜と形成されたZrO薄膜の表面に、厚さ108nmのMgF薄膜を形成し、本例の反射防止基材サンプルを得た。
【0151】
《実験例2》
本例では、回転ドラム4の回転速度(RS)を20rpmに減速し、ZrO薄膜、SiO薄膜及びMgF薄膜のいずれの薄膜も蒸着手段30のみを用いて(基板温度:80℃)、実験例1と同様の層構造となるように形成し、本例の反射防止基材サンプルを得た。各薄膜の厚さは次の通りであった。基板S→ZrO薄膜(16nm)→SiO薄膜(37nm)→ZrO薄膜(60nm)→SiO薄膜(16nm)→ZrO薄膜(49nm)→MgF薄膜(100nm)。
【0152】
《実験例3》
基板温度を300℃とした以外は、実験例2と同じ条件で本例の反射防止基材サンプルを得た。なお、各薄膜の厚さについては実験例2と同じであった。
【0153】
《評価》
まず、JIS−K5400(1990)に準拠した方法で、各サンプル表面の鉛筆引っかき値(鉛筆硬度)を測定した。その結果、実験例2のサンプルは測定値が4Hであり、十分な膜強度を有していないことが確認できた。その理由は、基板温度が低かったことによるものと推測される。これに対し、実験例1と実験例3のサンプルは測定値が9H以上であり、良好な鉛筆硬度を有することが確認できた。その理由は、MgF薄膜を形成する際の基板温度が十分に高かったからであると推測される。
【0154】
次に、煮沸させた純水に各サンプルを5時間、浸漬した後の各サンプルの状態(耐環境性)を目視により確認した。その結果、実験例2のサンプルはMgF薄膜が消失しており、耐環境性に劣っていることが確認できた。その理由は、基板温度が低かったことにより、膜強度が劣っていたため剥がれ落ちたものと推測される。これに対し、実験例1と実験例3のサンプルは特に変化はなかった。その理由は、MgF薄膜を形成する際の基板温度が十分に高く、十分な膜強度を有していたことによるものと推測される。
【0155】
次に、実験例1と実験例3の各サンプルの透過率と反射率を、日立分光器U−4100を用いて測定した。結果を図6及び図7に示す。これらの図に示すように、透過率も反射率も、実験例3のサンプルは、実験例1のサンプルと比較した劣っていることが確認できた。実験例3のサンプルが劣っている理由は、基板温度300℃でMgF薄膜を形成したので、ZrO薄膜が白濁してしまった結果、光学特性が低下したものと推測される。
【0156】
以上より、実験例1で得られた反射防止基材サンプルの有用性が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】図1は第1実施形態に係る成膜装置を正面から見た断面図である。
【図2】図2は図1の成膜装置を側面から見た要部断面図である。
【図3】図3は図1の成膜装置のプラズマ処理領域周辺を拡大した説明図である。
【図4】図4は第2実施形態に係る成膜装置を正面から見た断面図である。
【図5】図5は図4の成膜装置のスパッタ領域周辺を拡大した説明図である。
【図6】図6は実験例1と実験例3で得られた反射防止基材サンプルの透過率を示すグラフである。
【図7】図7は実験例1と実験例3で得られた反射防止基材サンプルの反射率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0158】
1,1a…成膜装置
12,14…仕切壁
15a,24…真空ポンプ(差動排気手段)
16a−1,16a−2,23,75a,95a,95c…配管
V1〜V3…バルブ
2…真空チャンバ(真空容器)
2a…開口
25…ガス導入管
26…ガスボンベ
27,72…マスフローコントローラ
30A…蒸着処理領域(第1の領域)
30…蒸着手段
32…坩堝
34…電子銃
35…電子銃電源
36…シャッタ
4…回転ドラム(回転体)
4a…基板保持板(基板保持移動手段)
4b…フレーム
4c…締結具
40…モータ
40a…モータ回転軸
42…ドラム回転軸
60A…プラズマ処理領域(第2の領域)
60…プラズマ発生手段(プラズマ処理手段)
61A…アンテナ収容室
61…ケース体
62…誘電体板
63…アンテナ
64…マッチングボックス
65…高周波電源
70…反応性ガス供給手段
71…酸素ガスボンベ
80A…スパッタ領域(第3の領域)
80…スパッタ手段
81a,81b…スパッタ電極
82a,82b…ターゲット
83…トランス
84…交流電源
90…スパッタガス供給手段
92…スパッタガスボンベ
95b…導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にフッ化物材料の薄膜を形成する成膜方法であって、
真空を維持した状態で、第1の領域及び前記第1の領域とは異なる第2の領域の各領域間で、前記基板を繰り返し移動させる第1の工程と、
前記フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を前記第1の領域に導入された前記基板に付着させる第2の工程と、
反応性ガスのプラズマを前記第2の領域に導入された前記基板に接触させることにより、前記基板に付着した前記蒸着原料の蒸発物を処理する第3の工程と、
前記第2の工程及び前記第3の工程を必要数繰り返し、前記基板上に前記フッ化物材料の薄膜を形成する第4の工程とを、有する成膜方法。
【請求項2】
基板上にフッ化物材料の薄膜を形成する成膜装置であって、
第1の領域及び前記第1の領域とは異なる第2の領域の各領域間で、前記基板を繰り返し移動させる基板保持移動手段と、
前記フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を前記第1の領域に導入された前記基板に付着させる蒸着手段と、
反応性ガスのプラズマを前記第2の領域に導入された前記基板に接触させることにより、前記基板に付着した前記蒸着原料の蒸発物を処理するプラズマ処理手段とを、真空容器内に少なくとも有する成膜装置。
【請求項3】
請求項2記載の成膜装置であって、
前記第1の領域及び前記第2の領域は、前記基板保持移動手段を挟んで、互いに空間的に分離された位置に配置されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の成膜装置であって、
前記真空容器内の前記プラズマ処理手段が配置される近傍には、前記真空容器内の差動排気を行う差動排気手段が設置してあることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項2〜4の何れか一項記載の成膜装置であって、
前記基板保持移動手段は、前記真空容器の鉛直方向に交差する方向に沿った軸線を中心に回転可能な回転体の外周に設けられており、
前記蒸着手段は、前記基板保持移動手段よりも前記真空容器の鉛直方向の下方に設けられており、
前記プラズマ処理手段は、前記基板保持移動手段よりも前記真空容器の前記鉛直方向の上方に設けられており、
前記基板保持移動手段の上端から前記プラズマ処理手段までの距離をD1とし、前記基板保持移動手段の下端から前記蒸着手段までの距離をD2としたとき、D2はD1の4倍以上であることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
基板上に高屈折率材料の薄膜とフッ化物材料の薄膜を形成する成膜方法であって、
真空を維持した状態で、第1の領域、前記第1の領域とは異なる第2の領域並びに前記第1の領域及び前記第2の領域の何れとも異なる第3の領域の各領域間で、前記基板を繰り返し移動させる第1の工程と、
前記高屈折率材料のターゲットをスパッタすることにより、前記第3の領域に導入された前記基板に超薄膜を形成する第2の工程と、
反応性ガスのプラズマを前記第2の領域に導入された前記基板に接触させることにより、前記基板に形成された前記超薄膜の膜組成を変換させる第3の工程と、
前記第2の工程及び前記第3の工程を必要数繰り返し、前記基板上に前記高屈折率材料の薄膜を形成する第4の工程と、
前記フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を前記第1の領域に導入された前記基板の前記高屈折材料の薄膜上に付着させる第5の工程と、
反応性ガスのプラズマを前記第2の領域に導入された前記基板に接触させることにより、前記基板に付着した前記蒸着原料の蒸発物を処理する第6の工程と、
前記第5の工程及び前記第6の工程を必要数繰り返し、前記基板に形成された前記高屈折材料の薄膜上に前記フッ化物材料の薄膜を形成する第7の工程とを、有する成膜方法。
【請求項7】
基板上に高屈折率材料の薄膜とフッ化物材料の薄膜を形成する成膜装置であって、
第1の領域、前記第1の領域とは異なる第2の領域並びに前記第1の領域及び前記第2の領域の何れとも異なる第3の領域の各領域間で、前記基板を繰り返し移動させる基板保持移動手段と、
前記高屈折率材料のターゲットをスパッタすることにより、前記第3の領域に導入された前記基板に超薄膜を形成するスパッタ手段と、
前記フッ化物材料を含む蒸着原料の蒸発物を前記第1の領域に導入された前記基板又は前記基板に形成された膜組成変換後の高屈折率材料の薄膜上に付着させる蒸着手段と、
反応性ガスのプラズマを前記第2の領域に導入された前記基板に接触させることにより、前記基板に形成された前記超薄膜の反応処理と前記基板に付着した前記蒸着原料の蒸発物の処理を行うプラズマ処理手段とを、真空容器内に少なくとも有する成膜装置。
【請求項8】
請求項7記載の成膜装置であって、
前記第1の領域、前記第2の領域及び前記第3の領域は、前記基板保持移動手段を挟んで、互いに空間的に分離された位置に配置されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載の成膜装置であって、
前記真空容器内の前記プラズマ処理手段が配置される近傍には、前記真空容器内の差動排気を行う差動排気手段が設置してあることを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項7〜9の何れか一項記載の成膜装置であって、
前記基板保持移動手段は、前記真空容器の鉛直方向に交差する方向に沿った軸線を中心に回転可能な回転体の外周に設けられており、
前記スパッタ手段は、前記基板保持移動手段よりも前記真空容器の前記鉛直方向の側方に設けられており、
前記蒸着手段は、前記基板保持移動手段よりも前記真空容器の前記鉛直方向の下方に設けられており、
前記プラズマ処理手段は、前記基板保持移動手段よりも前記鉛直方向の上方に設けられており、
前記基板保持移動手段の上端から前記プラズマ処理手段までの距離をD1とし、前記基板保持移動手段の下端から前記蒸着手段までの距離をD2としたとき、D2はD1の少なくとも4倍以上であることを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
請求項10記載の成膜装置であって、
前記スパッタ手段は、前記鉛直方向の一側方に設けられた第1のスパッタ手段と、前記鉛直方向の他側方に設けられた第2のスパッタ手段で構成されていることを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−7125(P2010−7125A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167364(P2008−167364)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】